解析力学は一般論・抽象論を組み上げる必要があって難しいという話

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Twitter で hisen_kei さんと ゆきみさんが解析力学のセミナーをするとかいう話があったので, 思ったことを書いておく.
物理が非専門の人が読むのにいい本を全く知らないので, ハイパー困るのだが,
とりあえず私が読んだ本は山本-中村だ.

解析力学1 (朝倉物理学大系)
解析力学2 (朝倉物理学大系)

物理として学ぶ段階ですでに一般性が必要になってつらいので,
特に非専門家が勉強するときには, まず自分の知っているところ・使うところに特化して勉強し,
そこを突破口にして学ぶのがいい.
力学系の議論は機械工学でも使うようだが, 数学的にそこに特化した本としては次のような本がある.
読んだことはないので, 質については保証できないが, (数学として) 何が問題かというところは把握できると思う.

常微分方程式と解析力学 (共立講座 21世紀の数学)
力学と微分方程式 (現代数学への入門)
微分方程式と力学系の理論入門―非線形現象の解析にむけて

ここではむしろ, 本を紹介するよりも, 解析力学の特徴を紹介することで学習の一助としたい.
ちなみに『力学と微分方程式』の書評に次のような記述があって面白かった.

力学系の本は本書の他にもいくつか出版されていますが,
これほど読みやすく, 分かりやすいものはないでしょう.
初学者がつまずきそうな点には, しっかりフォローが入っています. 練習問題の解答もついていますし, 入門書として適当だと思います.

ただし, 本書は数学者が書いていることもあって数学的で,
物理学的な色はあまり濃くありません.
ですから, 物理大好き☆物理命☆みたいな人にはあまり向かないかもしれません.
(この点は他の本もある程度共通していますが…).

しかし, 逆に言うと, 「ほとんど物理を勉強したことがないけども力学系の知識は必要.
困ったなぁ…」. と密かに悩んでいる経済学や生物学などを専攻する人には,
間違いなく最高の本です.
経済理論や生物学の本などにも,
巻末の付録に力学系の申し訳程度の解説が付いていたりしますが,
今後の動向を考えると,
やはり本書のようなものを読んでおいたほうが良いでしょう.
教養・アイデアの種として, 物理学の知識も得られますし.

数学の本は物理的な感覚が使いづらくハードルが高いという印象があった.
だが, 逆に物理をあまり知らなくても読める (自分の専門に引きつけて解釈をつける) と思えば,
かえっていい場合もあるのかと.
数学的にやばすぎると別のハードルが上がりまくるので, きちんと選ぶ必要はあるが.

タイトルで解析力学で一般性が大事だと言っているが, それを説明していこう.
例えば 3 次元の Laplacian を自然な直交座標系と極座標系で書いてみると次のようになる.

\begin{align} \triangle_{\mathrm{o}} &= \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2}, \\ \triangle_{\mathrm{p}} &= \frac{\partial^2}{\partial r^2} + \frac{2}{r} \frac{\partial^2}{\partial \theta^2} + \frac{\cos \theta}{r^2 \sin \theta} \frac{\partial}{\partial \theta} + \frac{1}{r^2 \sin^2 \theta} \frac{\partial^2}{\partial \phi^2}. \end{align}

何も知らずに見たとき, この 2 つが同じ演算子 (作用素) だと思うのはまず無理だろう.
こうした見た目に左右されずに本質的な部分を見抜く必要がある.
そのためには本質的な部分が何か, もっというなら本質とは何かということをきちんと意識する必要がある.
大事な部分を抜き出し一般化し, 議論をクリアにするために必要があれば抽象化までかける.
抽象化して議論自体はクリアになっても, 今度はクリア過ぎて何がなんだかさっぱり分からなくなる.
そこを埋めるために適切な具体例をいくつも知っている必要がある.
物理に使うにはこの具体と一般・抽象を両方きちんと知っておかねばならないため,
負担がどんどん大きくなる.

このあたりをもう少し具体的にしてみよう.
物理で大事な概念として保存量というのがある.
具体的に運動量を考える.
Lagrangian を 1 つ取ろう:\(L = – p^2/2m\) でも想像してくれればいい.
これに対して空間並進群 \(\mathrm{R}^3\) の作用を考えると, この作用に対して Lagrangian は不変になるとする.
このとき空間並進群に対する保存量が定義され, それが運動量になる.

次にこれが一般化される.
任意の Lagrangian \(L\) を取り, 任意の群 \(G\) を取る.
\(L\) が \(G\) の作用で不変なとき, 一般に \(G\) に対応する保存量が定義できる, となる.
ここで考えられる限り最大に一般な Lagrangian と群を取る必要がある.
なぜなら, 新たな理論を構築したりする場合, どんな Lagrangian, どんな群が出てくるか分からない.
そうした場合にも使えなければいけないからだ.
非相対論のときにしか使えないとかいうのでは話にならない.
群も非相対論の状況では Poincare 群や Lorenz 群は視野に入らないが,
こういう群作用がある場合にだって使えなければ意味がない.
まだ見ぬ場合も含めていつでも使えるようにするため, できる限りの一般性を担保する必要がある.

また結果は普通の力学だけでなく, 適当な場の理論にも使えると嬉しい.
実際電磁場の Lagrangian なども考えられる.
場に対しても使っていきたい.
特に場の量子論を場合を考えると電荷に由来する \(U (1)\) ゲージ不変性も出てくる.
既知の保存量であっても, それに対応する対称性は何か, という議論だってしたくなる.

逆にいうと, 解析力学にはここまでの射程距離があるのだが, この射程距離を持つにはそれだけの頑張りが必要になる.
それが解析力学がつらい理由だ.
当然一気に, 頭から本格的な本を読もうとするとつらい.
そこで冒頭に戻る:自分が使うところから徐々にやっていき, 突破口を作っておいて必要がある範囲をまずおさえる.
その後必要があるごとに勉強していく感じでやるのがいいだろう.
物理学科なら, カリキュラム的な都合もあるし,
学科の特性もあるのである程度はじめからきちんとやらなければいけないが, それは専門なので当然だ.

何に限らず (大学で) 学ぶ内容が簡単ということは全くないのでどこかしらで頑張る必要はある.
ただ, 特に非専門家が勉強するときに困る部分というのは専門でやる場合と違う可能性があるので,
そこはどうしたらいいか分からず惱むところ.
困るな, というところで歯切れ悪く記事を終える.


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