場の量子論と解析数論: p進大好きbotからの質問に答える方の市民

この記事は3分で読めます

このサイトは学部では早稲田で物理を, 修士では東大で数学を専攻し, 今も非アカデミックの立場で数学や物理と向き合っている一市民の奮闘の記録です. 運営者情報および運営理念についてはこちらをご覧ください.

中高の数学の復習から専門的な数学・物理までいろいろな情報を発信しています.
中高数学に関しては中高数学駆け込み寺,
大学数学に関しては現代数学観光ツアーという無料の通信講座があります.
ご興味のある方はぜひお気軽にご登録ください!


我らが p 進大好き bot から質問を受けた方の市民だ.
私は Fock 空間上, 非相対論的場の量子論や量子統計をやっているので物理として相対論が絡む話はあまりよく知らないし,
数論方面もさっぱりなのだが, 多少知っていることはあるのでまとめてみた.

@phasetr なるほど.
ボゾンとフェルミオンに対応する Fock 空間の有界作用素のスペクトルに強い離散性を課しているのは量子論からくる妥当な制約なのでしょうか?
固有値の整列性から総和的概念と相性がよくなって数論につながっているように見えるので少しその仮定の意味が気になりました.

まず強い離散性 (トレースクラスの仮定) だが,
物理的には不十分なことこの上ない.
「物理はともかく (今の数学の水準で) 数学的に面白い話ができるのはこの場合」という割り切りと思ってもいい.
物理としてスペクトルが離散的になるのは 2 つの場合がある.

  • $\mathbb{R}^d$ 上, 調和振動子などの特別な場合 (confined system).
  • 有界領域上での Hamiltonian.

前者だが, 調和振動子など大事な系はあるものの物理としては本当に特殊な場合だ.
場の理論でも調和振動子が一番の基本だし,
調和振動子は決定的に重要な系ではあるけれども.
若山先生の非可換調和振動子など,
「調和振動子」は数学的に数論との関係がかなり深いようなので面白い.
ただし, 物理的には散乱がないという決定的な欠点がある.
すごく大雑把にいって, 散乱は Hamiltonian の連続スペクトルの部分に対応する.
非破壊検査など散乱を基礎にした応用はたくさんあるし,
ミクロな系, 特に素粒子を実験で見るときは散乱で見るため,
散乱がないのは物理としては困ると言ってもいい.

ちなみに調和振動子のように (原点から) 距離が離れるとポテンシャルが大きくなる (ので粒子があまり遠くに行かない) 系を confined system と言う.
数学的な一般論として, 「 Laplacian + 最高次が偶数の多項式ポテンシャルが入った Hamiltonian 」のスペクトルは離散的になる.
(新井先生の『量子現象の数理』にも証明がある. )
Confined system を「 Hamiltonian のレゾルベントがコンパクト作用素になる」と定義している文献もある.

後者だが, 証明や条件を忘れたものの,
有限系ならそれなりに一般的に言えたはずだ.
コンパクトな Riemann 多様体の Laplacian は離散的という一般論があるが,
大体そういう感じ.

もちろん, 一般には Laplacian に適当な摂動を入れるので離散性が保たれるかは自明ではないが,
頑張るとそれなりに一般に言える.
量子統計や場の理論でも, いったん有界系でトレースを使いながら理論を作っておいて,
最後に物理として標準的な $\mathbb{R}^d$ への極限 (熱力学的極限) を取る, ということをする.

後者についてはもう 1 つ決定的な事実がある.
前者とも関係するが, 一般に無限系の Hamiltonian には連続スペクトルがあるのでトレースは取れない.
物理だと平衡状態は $\mathrm{Tr} (A e^{- \beta H}) / \mathrm{Tr} (e^{- \beta H})$ で定義するが,
これは無限系では意味をもたない.
つまり数理物理としては無限系の平衡状態を定義するところから始める必要があるが,
これがなかなか大変だった.
ここをきちんと議論するために Haag-Hugenholtz-Winnink の有名な仕事 が出たのであって,
量子統計の数理物理に対する冨田-竹崎理論の重要性が出てくる.
冨田-竹崎理論というか平衡状態周りでも数論における相転移とかいう Bost-Connes の結果 があるので,
それはそれで数論的にも大事なようだが,
こちらは難しくて読めなかった.
p 新大好き bot はセミナーで読んだらしい ので, 興味がある向きは p 進大好き bot に聞こう.

もう一個.

@phasetr ついでに 4 章で $L_S$ と $Q_{S,+}$ に対する指数定理のようなものが示されているのも興味深く感じました.
フレドホルム作用素 $S$ に対して $L_S$ や $Q_{S,+}$ (そして $d_S$) に何らかの物理的意味付けがあるのでしょうか?

こちらについてはあまり知らない.
$L_S$ は (自由場の) 超対称的 Hamiltonian, $Q_{S,+}$ は超対称荷 $Q_S$ の分解ということくらいは知っているが,
この辺の物理自体には詳しくない.
超対称荷自体何なのかあまりよく分かっていないが,
「荷」とつくのは大体保存量であって, 物理的には普通とても大事な量に対してその名前をつける.
だから大事なのだろう, くらいにしか分からない.
$d_S$ については, Proposition 4.1-4.2 にあるように「ボソンを消してフェルミオンを作る」というそのままの意味があるが,
これ以上の詳しいことは知らない.
超対称性はボソンとフェルミオンの対称性なので,
正に超対称性を司る作用素が $d_S$ という話ではある.
それが幾何学的にも大切な外微分になっているというのは確かに面白い.

これとかこれとかこれとかこれとか,
量子力学のレベルでは超対称性と指数定理というのは大きなテーマになっている.
その場の理論版としてこの辺の話があり,
さらに数論的な要素すら持っていたという感じなのだと思っている.
量子力学での話からすれば多様体上で何か議論したいところだが,
無限次元多様体の議論をいきなりやるのはつらいので,
まっすぐなところで下調べしよう, というのが新井先生のこの辺の研究の動機の 1 つでもある.
『 Fock 空間と量子場 上』の 6 章のまとめのところにその辺の話が書いてある.

物理としてはむしろ, この辺の兼ね合いから超対称的な理論が数学として幾何学的な拘束を受ける (はずな) ので,
数学 (幾何学) 的に意味が明快なところから逆に物理を見つけていくときの指針として使うのだろう.
とくに素粒子では数学的な制約からあるべき物理 (モデル) をしぼっていくというのはよくある.
例えば「理論は Lorenz 対称性を持たねばならない」とか「繰り込み可能でなければならない」とか「漸近的自由でなければならない」とか.
素粒子物理として数学的指針は決定的に重要らしいのだが,
数学的にはそこを逆に使って物理的な洞察から衝撃的な数学的関係を見つけてくるのが楽しいということで色々な交流があるという認識だ.
ミラー対称性とか何とかそのあたりもそう.

知っているのは大体このくらい.


中高の数学の復習から専門的な数学・物理までいろいろな情報を発信しています.
中高数学に関しては中高数学駆け込み寺,
大学数学に関しては現代数学観光ツアーという無料の通信講座があります.
ご興味のある方はぜひお気軽にご登録ください!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

このサイトについて

数学・物理の情報を中心にアカデミックな話題を発信しています。詳しいプロフィールはこちらから。通信講座を中心に数学や物理を独学しやすい環境づくりを目指して日々活動しています。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

YouTube チャンネル登録

講義など動画を使った形式の方が良いコンテンツは動画にしています。ぜひチャンネル登録を!

メルマガ登録

メルマガ登録ページからご登録ください。 数学・物理の専門的な情報と大学受験向けのメルマガの 2 種類があります。

役に立つ・面白い記事があればクリックを!

記事の編集ページから「おすすめ記事」を複数選択してください。