メルマガ転載: 2014-11-17 東大での田崎さん集中講義【大自由度系の物理と数理】第 1 回の感想・まとめなど: その 2

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田崎さんの集中講義メモについてメルマガから転載。

前回の続きで Heisenberg モデルの話に入る.
今度は有限温度ではなく絶対零度・基底状態での話だ.
次回の集中講義で触れるのかもしれないが, 有限温度での結果は
どの程度出揃っているのだろうか.
Bratteli-Robinson で触れられてはいるのでそこそこあるのだとは思うが,
問題は相転移周りでどれだけ厳密な結果があるのかというところ.
今度聞いてみよう.

線型代数の復習

量子系ということもあり, 最初は線型代数の復習からはじまった.
この辺, 物理のための数学講座でも参考にしたいというか盛り込みたい.
元からやる予定ではあったが, 具体的な項目として参考になる.
応用先に量子スピン系があるのが大事.

8 年前にもあった気がするがすっかり忘れていた話として,
Heisenberg モデルでの Perron-Frobenius があった.
これは Hubbard でも応用がある.

あと当日質問もしたのだが, 前の部分は作用素 (演算子) に
ハットがついていたが, 講義ノートの Perron-Frobenius の
ところでは行列にハットがついていない.
これは Perron-Frobenius は具体的に基底を取った
行列レベルでしか言えない話で, 線型作用素クラスの話ではない
というのを暗黙の内に仮定しているということだった.
実際, 正値性の話などは線型作用素レベルであって
基底の取り方によらない話だ.

Heisenberg モデル

そこから Heisenberg モデルの定義に入る.
あまり言うこともないのだが, 線型代数がフル活用されているので
「線型代数が何の役に立つ」とか言っている物理の学部低学年は
この辺で殴りつければよさそうだと改めて思う.

集中講義でも触れられたことだが,
スピン作用素の固有値の振舞い, 割と謎で恐ろしい.
\(\hat{S}_x \cdot \hat{S}_y\) の最小固有値は
\(- S(S+1)\) であり非縮退, 最大固有値は \(S^2\) で
\((4s+1)\) 重縮退しているのだが, 古典系と違って
最大・最小が非対称な振舞いをする.
この辺からして直観が効かないので
1 つ 1 つの議論を慎重に進めないといけないことがわかる.

あと \(\hat{\vec{S}}_x\) と書いた方がいいのだろうが,
ベクトルを表す太字は面倒なので省略した.

強磁性 Heisenberg モデル

まずは強磁性の話から.
基本はやはり外部磁場なしの Hamiltonian の議論.
反強磁性 Heisenberg をすぐ後で議論するので念のために
Hamiltonian を書いておくと次の通り.

\begin{align} H = – \sum_{x, y \in \mathcal{B}} S_x \cdot S_y. \end{align}少なくとも基底状態の場合, 強磁性は割と簡単.
スピンが最大で揃った状態をテンソル積しておけば実際に
Hamiltonian の構成要素である \(\hat{S}_x \cdot \hat{S}_y\) の
最大固有値の固有状態になり,
これらの和である Hamiltonian に関しても最初の準備で
説明された線型代数の基礎知識を使うことで基底状態になることもわかる.
自発的かはともかく, この基底状態では対称性の破れと
長距離秩序もあって, めでたしめでたし.

基底状態は他にもある.
全スピンに関する消滅作用素 \(S_{\mathrm{tot}}^{-}\) を上の基底状態に
作用させた状態も基底状態になる.
それだけで基底状態が尽くされることはレポート課題として出ている.

反強磁性 Heisenberg モデル

反強磁性, これが意外と面倒くさい.
大事な仮定として格子は連結で bipartite (日本語訳知らない) としている.
格子が \(A\) と \(B\) という 2 つの部分に分かれていて,
全ての edge に対する vertex が必ずこの 2 つに分かれて
のっかるという定義.
詳しくは講義ノート参照.

Hamiltonian は次の通りで, 全体の符号が反転しているのがポイント.

\begin{align} H = \sum_{x, y \in \mathcal{B}} S_x \cdot S_y. \end{align}これを最小化したいなら \(x\) と \(y\) の位置のスピンを反転させればいいと
考えるのが素直な発想で, 実際にそう思って定義するのが次の Néel 状態だ.

\begin{align} \Psi_{\text{Néel}} := (\otimes_{x \in A} \psi_x^{(S)}) \otimes (\otimes_{y \in B} \psi_{y}^{(-S)}) \end{align}計算は講義ノートを参照してほしいが, 実はこれは基底状態にならない.
強磁性は結構直観がそのままあてはまってくれたが,
反強磁性はそうはいかないということだ.

ここで有名な Marshall-Lieb-Mattis の定理が出てくる.
格子というかグラフが連結で bipartite だというのはもちろん仮定する.
このとき基底状態は一意でスピンシングレットであることが結論される.
Perron-Frobenius を使うことで基底状態の具体的な表現も
ある程度わかってしまうという強烈な定理だ.

(\(|A| = |B|\) の仮定のもと) 全スピン 0 はまあいいとして,
強磁性の場合, 基底状態はたくさんあった (縮退していた) ので
強烈な対比になっている.
基底状態の詳細な性質は格子 (グラフ) の性質に強く依存する.

あと \(|A| \neq |B|\) の場合への拡張はレポート課題として提出されている.

反強磁性 Heisenberg 模型の基底状態での長距離秩序

想定の範囲内といえば範囲内ではあるものの,
反強磁性だと秩序変数が次のようにかなり奇妙なことになる.

\begin{align} O^{(\alpha)} := \sum_{x \in \Lambda_{L}} (-1)^x S_x^{(\alpha)}. \end{align}ここで \((-1)^x\) は次のように定義する.

\begin{align} (-1)^x = \begin{cases} 1 & x \in A, \\ -1 & x \in B. \end{cases} \end{align}相変わらず格子は bipartite としている.
講義ノートだとここからは基礎の格子自体を
正方格子にして \(A\) と \(B\) も具体的に定義している.

ここで 3 次元以上での長距離秩序に関する定理が紹介される.
Dyson-Lieb-Simon という神々ですら, スピン鏡映正値性という
やや反則的な飛び道具を使った議論でしか証明できていない.
格子を正方格子にしているのも鏡映正値性を使うためだ.
数理物理でも多大な貢献をしていて, 物質の安定性でも
まさに Stability of matter という名前で
Dyson-Lenard の伝説的な 2 部作がある.

鏡映正値性も簡単に説明しておくと, これは相対論的な
場の量子論を虚時間経路積分の定式化で
数学的に記述するときに出てきた概念だ.
いわゆる (物理的) 真空状態での期待値の正値性に
対応する概念なのだが, 虚時間にしたことで
少しひねる必要が出てくる.
それを表現するのがこの鏡映正値性だ.

相対論的場の量子論から来ているので原理的には
スピン系とは全く関係ない概念だし,
虚時間の定式化から来ていることもあって
これを担ぎ出すのはかなり異常なことなのだ.

それでもスピン系の話で鏡映正値性が出てくる理由というのはあって,
それは \(\phi_4\) モデルとの関係だ.
\(\phi_4\) モデルで時空を離散化すると古典スピン系に
帰着させられることがわかっている.

\(\phi_4\) の大変なところが古典スピン系での
臨界現象の解析に対応していることがわかっていて,
そこでスピン系と相対論的場の量子論の難しいところ,
面白いところが直接関係してくる.
鏡映正値性が原則正方格子を対象にした議論というのも
相対論的場の量子論の時空の離散化に対応しているためだ.

最後に連続時空に持っていく必要があるが,
ここで (虚時間での) 時空並進対称性を復活させなければいけない.
離散のところで \(\varepsilon \mathbb{Z}^d\) の対称性と \(\pi / 2\) の
回転対称性もないところで議論するのは大変なので
正方格子で議論するのが筋という話もある.

この辺に関して詳しいことが知りたい方は
新井-江沢の『場の量子論と統計力学』あたりが一番読みやすいだろう.
頭から読もうと思うと即死するので,
5 章くらいからの関連する話だけ拾い読みするのがいい.
鏡映正値性についても 6 章で詳しく議論している.

念のため言っておくと頭からきちんと読みたいなら
Hilbert 空間論・超関数論・多変数複素解析を
ある程度突っ込んで使える必要がある.
構成的場の量子論パートにそこまでハードな話は
不要だが, 前半の一般論で超関数レベルでの
多変数の解析接続とか出てきてとてもつらい.
1 変数と多変数の複素解析はかなり趣が違うところがあり,
そしてまさにそこが一番の勘所なので激烈につらい.

話が超横道に逸れたが Dyson-Lieb-Simon あたりで
長距離秩序はわかる.
ただし自発的対称性の破れはない.

相変わらず長距離秩序があるのに自発的対称性の破れがないが,
これは Hamiltonian と秩序変数が交換しない場合に
普遍的な現象だとわかっている (らしい).

Koma-Tasaki 論文の主結果のだったはずで,
8 年前の記憶を辿ると Hamiltonian と秩序変数の反交換性から
無限系での基底状態が (3 次元の) 有限系では \(O (L^{-3})\) の
エネルギー励起状態になっているという話だった気がする.
次回で補足があるだろう.
あと, ギャップレスの励起は有限系だと \(O (L^{-2})\) の
エネルギー励起状態になっているという話もあった覚えがある.
記憶なので怪しいのだが,
次回で説明があるだろうと思っているのでそこで復習したい.

横磁場つき Ising モデル

Hamiltonian と秩序変数が交換しない場合の一番単純な
例として横磁場つき Ising モデルが議論された.
これは厳密な話ではなく気分の話だった.
厳密な議論はできているのだとは思うが,
きちんとやると大変というのはよくあることなので.

ここで横磁場は非常に小さいとしている.
磁場が小さく横磁場なので, 磁場なしの場合と
ほぼ変わらないはずだ, と推測して議論する
摂動的な議論っぽい.
私の専門からして, 摂動に関しては
こういろいろと嫌なことがあるので
慎重に議論したいのだが, ここでは省略する.

それはさておき, 【物理的に自然な基底状態】が
真の基底状態と第 1 励起状態の線型結合で
書けると思って, 低エネルギー励起の議論をしている.
詳しくは講義ノートを見てほしい.

Kaplan-Horsch-von der Linden: 長距離秩序からの自発的対称性の破れ

難しい話はしていないのだが, 変分原理をうまく使った
非常に巧妙でエレガントな議論だ.
証明をきちんと追う意義がある.
ぜひ講義ノートの P.36 からの議論を見てほしい.

外部磁場なしの長距離秩序から,
外部磁場つきにしてから無限系での自発的対称性の破れという流れが
ここでも再現される.

ただしこれで全てが尽きるわけではないという話で
次回に繋がるらしい.

終わったあとの雑談

Twitter で集中講義行こうと誘った人を田崎さんに
紹介すべく, 他の人の質問が終わるまで待っていたら
結局最後まで残ることになった.
直前まで質問をしていた人がメルマガの読者の方だったので爆笑した.

それはそれとして物質の安定性は大事だけど地味だし
日本ではやる人いないね, とかそういう話をした.
あと田崎さんが作用素環的な純粋状態の話をするのに
状態の空間に位相を入れる必要があると言っていたが,
その場にいた数名の人達向けに補足したい.

純粋状態の定義自体には位相の情報はいらない.
状態空間が凸になることは定義からわかるのだが,
その凸集合の端点として純粋状態を定義する.
ここで純粋状態の存在を保証するのに位相の話がいるのだ.

定義から線型空間も凸集合だが, 線型空間だと
広く広がってしまっていて端がないから, 端点がなく,
一般論として純粋状態の存在性がよくわからない.
ここで状態の空間に汎弱位相 (weak* topology) を入れておくと
状態の空間がこの位相でコンパクトになることがわかる.
凸でコンパクトだと Krein-Milman の定理から
端点があることが示せるので, 純粋状態の存在が保証できる.
有限次元だとあまり気にしなくていいのだが,
無限次元で一般論を展開しようと思うとこの辺の話を
詰める必要があって, そこで位相を使う必要が出てくる.

当然, 他にも収束関連で位相は大事だが,
それはまた別の話だ.

あと数理物理の苦しさ的な話をしたりもした.
先日 RIMS であった【量子場の数理とその周辺】で
宮尾さんが話していたところあたりの,
最近の構成的場の量子論近くの物性の話として
Holstein-Hubbard などの議論があることを言ったら,
桂さんが「(理論物理レベルでも) 2 体くらいで凄く大変」と言っていて
結構衝撃を受けた.
あの辺, 数学的に厳しいだけで物理では結構よくわかっているのだと
勝手に思っていたが意外とつらいらしい.

あと数学的にきちんと話をしようと思うと
基底状態なり平衡状態の存在から
言う必要があるが, 基底状態は赤外発散があってつらいとか
そういう話もした.
平衡状態も結構問題で, スピン系や Hubbard 単独なら
並進対称な Hamiltonian に対しては問題ないのでは,
という指摘を田崎さんから受けたのだが,
小さい系 (数学的には有限次元量子系) と量子場による
熱浴のカップルで平衡への回帰を議論するときは
並進自体うまく定義できないのでその辺の話は使えないという話をした.

無限系にしても (意味があるかはともかく) 格子系とカップルさせると
格子系での並進は \(\mathbb{Z}^d\) だし
量子場の方は \(\mathbb{R}^d\) だしで並進をどう定義したらいいかがわからなくてつらい.

基底状態・平衡状態に関しては摂動論とも関係するところで
研究で考えていることがあるのだが,
そのうちきちんとまとめたい.

今回の集中講義はここまでだった.
次回を楽しみにしている.


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