優れた勉強法: 数学界の Nobel 賞, Fields 賞を受賞した小平邦彦先生の勉強法に学ぶ

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前 2 つの記事で『新・数学の学び方』 での
小平邦彦先生の勉強法を引用しました.
その他の数学者も世界に名立たる方々で
どれも参考になるのでぜひ本を買って読んでほしいですが,
いくつか具体的に引用しつつ書評の形でご紹介します.

大学以降も使える勉強法と,
何故その勉強法が大学受験でも大事かについては
以下の 2 記事で説明しています.
まだご覧になっていない方は合わせてご覧ください.

では引用しながら書評をはじめましょう.
まず結論を引用してしまいます.

数学の学び方として挙げることができたのは,
結局, わからない証明は繰り返しノートに写してみること,
別証を考えること, 定理をいろいろな問題に応用してみること,
という誠に平凡なことばかりである.
幾何に王道なし (ユークリッド) というが,
数学に王道なしということであろう.

これは Fields 賞を受賞した世界的に
著名な数学者の発言であることに注目してください.
少なくとも受験というフィールドで,
私は「ノートに写す」という部分を「喋る」に変えてご紹介していますが,
それ以外は全く同じですし, むしろこれが原点です.
この平凡なことをどこまで貫き通せるかが勝負です.

この結論に向けて順を追っていきましょう.
P.1 にいきなり次のようにあります.

現在の算数では計算の意味を教える.
たとえば分数の割り算 (式略) について,
なぜ 4/5 で割るには分子と分母を入れ換えた 5/4 を掛ければよいのか,
そのわけを説明しようとする.
私が習った算術ではこういう説明はなく,
分数で割るときには分子と分母を入れ換えて掛ければよい,
という規則だけを習い, あとは計算練習を繰り返しているうちに
その意味は何となくわかってきたと記憶している.
意味がわかった, というのはなぜ分数で割るときには分子と分母を
入れ換えて掛ければよいかという理由を説明できるようになったということではなく,
分数の計算とその応用が自由自在にできるようになったという意味である.

次は P.4.

誰でも π が無理数であることは知っているが,
無理数であることの証明まで知っているというわけではない.
数学者でも π が無理数であることの証明を知らない人は稀ではないようである.
筆者もつい最近までその一人であった.
(中略)
それにも関わらず π は無理数であると信じて疑わなかったのは,
結局, 中学生の頃から π は無理数であると繰返し聞かされてきたからであろう.

時々「(高校の, または大学の数学科用の) 数学の教科書は
数学好きの数学の教官が書いたものだから,
証明ばかりで使い物にならない. 」とか
「数学の人は厳密で, 何でも証明しないと気が済まない」という人もいますが,
小中学生くらいでも知っている事実ですら,
数学科関係者でも意外と証明を知らないことはあります.
さらに, あまりにも有名な事実だと,
その定理の証明どころか関連する理論・分野の本を
読んだことすらないのに呼吸するように使うこともあります.

その定理の証明, つまりその定理が
成り立つ理由がよくわからなくても,
使い込む内にその定理が「理解」できることはよくあります.
数学科でもそういう「理解」はありますし,
数学科でなければ余計にそういう
「理解」が求められる機会も多くなります.

受験の場でも, あまり気にせず
「やっていればそのうちわかるだろう」くらいの
気持ちでいるのがいいでしょう.
実際, P.12 に次のような記述があります.

この反転法則の高木先生の証明は簡明で,
いま読めばよくわかるが, 中学生の筆者には難解であった.
証明を理解するためにノートに写したりして苦心し,
結局, 証明を暗記してしまった.
そうしたら何となくわかったような気がしたと記憶している.

中学生が学部 2-3 年程度の内容を勉強していたときの話なので
無茶といえば無茶ですが, 大事なのは理解に苦心して,
証明を暗記するくらいまでやりこんだことです.
そして, 暗記するくらいやったら何となくでも
わかった気がした, と Fields 賞受賞者が気負いなく書いていることです.

私がこの本を読んだのは大学 1 年のときでしたが,
これを素直にとって, 学部 1 年前期にやった実数論・集合論の
内容を繰り返し証明を反復して本当に暗記してしまうまでやりました.
試験のあと, 先生に「何か努力賞をあげようかと
思うくらいよくできていた」と言われた記憶があります.
暗記しろというのではなく自然に暗記してしまうくらい
量をこなすのは大事ということです.

P.13 では次のように書かれています.

『代数学』で苦心惨憺したお陰でその後
高校でも大学でも数学では苦労しないで済むようになった.
講義でも本でも克明にノートに書き写せば
それでわかるようになったのである.

小平先生はノートに書いたと言っていますが,
私が言っているのは喋ること, 特に脳内授業です.
喋りまくるのと書きまくるのとで違いはありますが,
書く方は書く過程で元の文章を嫌でもよく見ること,
喋るのと同じくアウトプットをしていることが
理解が深まる・よく定着する理由なので,
少なくとも受験, 特に勉強という段階では
1 つ 1 つが早くこなせて量を作りやすい喋る方をお勧めします.

次に同じく P.13.

大学の 1 年生のとき高木貞治先生の解析概論の講義を聴いた.
(中略)
この頃から定理の別証を考えたり問題を変えて見たりするようになった.

受験とは多少離れるところもありますが,
いわゆる別解を考える重要性です.
また問題を変えて見るというのは
私が DVD 『よくわからない数学』で
お伝えした勉強法です.

よくわからない数学 色々な反例で遊ぼう [DVD]

むしろこれが元ネタです.

小平先生も同じような話を手を変え品を変え,
伝えようとしてくれています.
どんどん引用していきます.

そして P.13-14 から.

以上, 筆者がどんな風にして数学を学んだか,
を述べたが, それを振り返ってみると, まず数学の理解の仕方が
まちまちであったことに気付く.
一般に数学はただ暗記したのではだめで,
そのわけを理解しなければならないとされ,
(中略)
‘理解’が’暗記’の対極のように考えられているが,
実際はそう単純ではないようである.

ここまでもそうですが,
理解と暗記を対立させていないことに注意してください.

再び P.14 から.

筆者は中学のときから π が無理数であることをよく’理解’していたが,
最近までその証明を知らなかった.
証明を知らなかったのであるから’理解’していたのではなく
‘暗記’していたに過ぎないと言われるかも知れないが,
不思議なことに, 最近, 上掲の I. ニーヴンによる証明を
はじめて読んだとき, それによって π が無理数であるという事実に
対する理解が一段と深くなったとは感じなかった.
証明はただ π が無理数であるという明白な事実を
確かめたに過ぎないと感じた.

もちろん, 人によっては証明を読んではじめて
無理数であることを深く納得できたという人もいるでしょう.
π の話自体はあくまで具体例です.
あとで Riemann-Roch を例にした文章が出てくるので,
そちらも読んでください.

全文引用という風情も出てきましたが, やはり大事なので.
また P.14 です.

しかし, 証明の論証を辿って行くのは定理が述べる数学的現象の
メカニズムを見るためで, 証明が正しいことを確かめるではないと思う.

試験会場ではどう解こうが受かりさえすればいいのですが,
受験でもやはりよい解法というのがあります.
先日も高校生に少し話したのですが,
その問題の本質をはっきり見せてくれる解法が
やはりよい解法で, よい本はそうした解法を紹介してくれます.

そもそも数学の歴史からすれば, 証明が現在のような形になったのは
それほど古くはありません.
例えば受験でも有名でもロピタルの定理の原証明は
定理が成立する具体例を 2 つくらい挙げただけという「証明」です.

P.15 です.

わからない証明を暗記するまで繰り返しノートに写す,
というのが数学の一つの学び方であると思う.
(中略)
それならば証明は暗記さえすればわかるか, というと,
必ずしもそうは行かないようである.
繰り返しノートに写しているうちに大脳の中で何かが起ってわかった!
ということになるらしい.
何も起らなければ暗記はしたけれどもやはりわからないということになるようである.

この大脳の中で何かを起こすための方法の 1 つとして,
私は脳内授業をして「学習する」から「教える」という
フェーズに強制移行させる方法を提案しています.

次は P.16 から.
これは上で紹介した Riemann-Roch の話です.
長いですが, 細かいところはいいので,
「証明は知らないけれどもよくわかっている定理であった」
という記述に着目してください.

広く応用される基本的な定理の場合,
はじめは証明の論証を一歩一歩辿ってよくわかっていても,
定理はしばしば使うからよく憶えているが,
証明の方はそのうちに忘れてしまうことがよくある.
しかし証明を忘れたために定理がわからなくなるということはなく,
むしろ繰り返し応用しているうちに
定理そのものはますますよくわかってくるようである.
(中略)
証明を知らないのによくわかっている定理は例外であろうといわれるかもしれないが,
実際には必ずしも例外ではないと思う.
1953 年に F.ヒルツェブルフ (Hirzebruch) は
リーマン-ロッホの定理を代数多様体の場合に証明した.
この定理は複素多様体の場合にもそのまま成り立つであろうと
予想されていたが, 1963 年になってアティヤ (Atiyah) と
シンガー (Singer) が複素多変数の
リーマン-ロッホの定理を証明したというニュースが入った.
リーマン-ロッホの定理を使えば複素解析局面の分類が
できることはわかっていたので, 筆者は直ぐに複素解析局面の分類の研究をはじめた.
そのとき, 筆者にとって, 複素多様体のリーマン-ロッホの定理は
証明は知らないけれどよくわかっている定理であった.
1952 年に W.L.チョウ (Chow) と筆者が共著の論文で
二つの代数的に独立な有理型関数をもつケーラー曲面は
非特異代数曲面であることを証明したとき,
証明に用いた代数曲面の特異点解消定理は筆者にとって証明は知らないけれども
よくわかっている定理であった.
特異点解消定理のような最も基本的で証明が非常に長い定理は,
実際には証明は知らないけれどもよくわかっている定理として
応用される場合が少なくないと思う.

念のため説明しておくと, リーマン-ロッホの定理は
元々リーマン面という数学的対象に対して成立する定理で,
数学的にいうと代数曲線 (特殊な代数多様体) であり
1 次元の複素多様体でもあります.
特殊なケースでしか知られていなかった定理ですが,
有名かつ大事な定理でよく使いこまれる定理でもあります.
そういう背景の元で上の話が出てきています.
つまり特殊なケースだけれどもよく使っていて
馴染みの定理なので, 「あ, ここでも成り立ってくれるのか.
何ていい定理なんだ」という感覚で接しているということです.

大学の話になりますが, 諸理工学では
数学の定理の証明などはほとんどやらず,
その応用ばかりやることも多いです.
きちんとやるには数学科の大学院生レベルでないといけないこと,
さらには数学的には未解決問題であることすらあるので
やむを得ないこともありますが,
ある意味でその行動に関して小平先生がお墨付きを与えているようなものです.

時々「別解なんて数学好きな人だけやればいい.
とにかく 1 つだけ解き方を教えて」という人がいるようです.
受験ということだけ考えて, 最終的に受かればそれでいいですが,
小平先生による大事な指摘を引用します.
P.17 からです.

このようにして一旦わかった定理の理解を深めるには
別証を考えて見るのが有効である.
別証は定理が述べる数学的現象のメカニズムの別の見方を示すからである.

大事なことは「それが何故成り立つか」を自分なりに深く考えることにあります.
京大数理解析研究所 (RIMS) の教官だった
荒木不二洋先生の言葉に「数学の人は 1 つの証明で満足するが,
物理の人はたくさんの証明がつかないと満足しない」というのがあります.

物理は数学程に厳密に議論を展開しきれない部分があり,
1 つの「証明」だけではなかなか納得できるものではないことがよくあります.
そのためいろいろな人が自分の納得がいくように
いろいろな導出を試します.
もちろん物理の場合, 最終的には実験が決める話です.
しかし実験についてもいろいろな話があります.
例えば原子の存在を「証明」した論文として
Einstein の 1905 年の Brown 運動の論文と
Jean Perrin による実験的検証がありますが,
実際に決定的だったのはいろいろな方法で Avogadro 数を
測定した結果が常に一致し, それが原子・分子の存在を仮定した
Brown 運動で説明できた, というところです.

1 つのことをいろいろな視点で分析でき,
理解できるということ, そしてそれを実践してみることは
数学, もっというなら理工学に限らず大事なことです.
それを身につけてほしいから別解を伝えているわけです.

まだ小平先生の文章では細々とした注意が続くのですが,
このくらいにしましょう.

今回は世界・人類トップレベルの人間が語る
「理解」の多様性と勉強法についてご紹介しました.
最後にはじめにも引用した小平先生自身のまとめを
もう一度紹介して終わりにします.

数学の学び方として挙げることができたのは,
結局, わからない証明は繰り返しノートに写してみること,
別証を考えること, 定理をいろいろな問題に応用してみること,
という誠に平凡なことばかりである.
幾何に王道なし (ユークリッド) というが,
数学に王道なしということであろう.

興味のある方はぜひ本を買って読んでみてください.

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