Moseley への数理物理的挽歌: 2015 の Nobel 賞とはあまり関係のない, 100 年前の Nobel 賞クラスの研究をした物理学者の仕事の簡単な紹介と KEK の個人的思い出

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今回, Nobel 賞は Nobel 賞だが
大分昔の Nobel 賞に関わる悲喜こもごもについて書いてみる.
自分でも気になったから調べてみたかったというのが
一番の理由だ.
はじめに書いておくと Moseley の話だ.

まずブログに 2015 年の Nobel 物理学賞に
ついての記事を書いた.
http://tinyurl.com/oakcdtt

ただし業績の紹介はせずに
その周辺で起こったこと,
特に科学コミュニケーション的な事件についての
所見を書いてみた.

量子力学・場の量子論 (の数学) と
そこそこ近そうなところを研究しておいて何だが,

素粒子・宇宙論は昔から
「皆がやっているから自分がやる必要ないだろうし,
何より世間一般が自動的に興味を持つようなことを
誰がやってやるか」と思っていた.

そんなわけで素粒子はほとんど知らない事情もあって,
今回はブログで紹介した記事中にあった
科学未来館の記事を紹介するだけにしておく.
http://tinyurl.com/od8dlce

それだけというのもあまりにもアレなので
多少記憶から素粒子, 特に KEK に関する記憶をさらっておく.

学部 2 年の頃に KEK に遊びに行ったことがある.
ちょっと変な縁があったのだ.

早稲田の物理の同学年の友人が
古美術研に入っていたのだが,
そこの先輩が KEK の教官の娘さんだったようで,
娘さんが「自分のサークルに物理の後輩がいる」と言ったら
連れてこいという話になったらしい.

それでせっかく行くなら皆で行こうぜ!
ということになった.
公開日に行った方がいろいろな施設が見られて
お得というので, 公開日に行ってきた.

思い出深かったのはその展示的なやつで
実験班の方々が作ったちょっとしたゲームみたいのがあり,
やってみた結果ズタボロだった.

それを見た KEK の方々に
「君に実験は無理だ. 理論に行きなさい」
と言われたのだ.
実験屋さん何て格好いいんだと明後日の感動とともに
今でも覚えている.

実際には理論どころかほぼ数学だが.

あと黒川さんに言われたこととして
次のことをよく覚えている.

「ニュートリノ振動は質量のうなりを背景にしている.
このうなりは調和振動だ.
調和振動は物理の全てを貫く基礎だ.
いま 2 年だと調和振動のありがたみは
わからないかもしれないが,
ぜひきちんと勉強しておいてほしい」

こう言われた.
印象深かったので今でも覚えているし,
KEK の最前線に立っていた方からの
アドバイスとしてここでも紹介しておきたい.

ちなみに進入禁止的な看板が立っていたところに
娘さん (である先輩) が堂々突っ込んでいて
止められたのだが, その先輩が
「私, 娘だから大丈夫です」的なことを言っていて
それでいいのかと思ったことがある.

あと 2 年で今どんな勉強をしてるの?
と黒川さんに聞かれ, 解析力学と答えたら
「2 年であんなに難しいことしてるの!」
と言われたのだが, もちろん講義で必修で入っているから
やらざるを得ない.

解析力学で苦戦している方,
解析力学は KEK の人ですらこう言っている程の
難易度を誇るのであまり気にせずのんびりやってほしい.

あと印象深かったのは娘さんの対応だ.
黒川さんが先陣を切って張り切って楽しそうに
施設の案内をしてくれたので,
後ろの方で娘さんは超つまらなそうにしていて,
サークルの後輩でもある友人が必死に対応していた.

一言どころか長文を費やしても
書ける気がしないのだが,
この親子の姿にこう色々なことを感じたことを
昨日のことのように思い出す.

2015 年時点ですでに 11 年前の話と思うと
時の流れに驚く.

ちょっと書くだけのつもりだった KEK トークが
大分長くなっているが,
一応 Nobel 賞の話を続ける.

はじめに書いたように Moseley の話だ.
今からすると高校で学ぶレベルの
「当たり前の話」なのだが,
それが決定的な, まさに世紀の大発見レベルだったというのを
改めて思い知ったのだった.

しょっぱい情報源だが,
とりあえず Wikipedia から引用する.
http://tinyurl.com/oewlxom

====引用
元素の特性X線の波長との原子核の電荷(原子番号)の関係を見出した。
この発見によって原子番号の物理的意味が明らかになり、
周期表の未発見の元素を予測するなどが可能となった。
==

原子番号, 高校の化学でやる程度の
常識になっているが,
これで Moseley に Nobel 賞が行くレベルの大発見だったのかと
改めて驚かざるを得ない.
今の常識がどれ程非常識だったのか.

別のブログからも引用しよう.
http://tinyurl.com/psyx25c

====引用
1910年、オックスフォードを卒業すると、
マンチェスター大学のラザフォード研究室の門を叩きます。
ラザフォードと言えば、放射性物質の研究からα線β線を発見し、
その功績から1908年にノーベル化学賞を受賞するなど、
当時この分野で最先端を行く研究室の一つと言えるでしょう。
更に、この2010年と(1910年と:8/11訂正)言えば、
ラザフォードの元でガイガー(あの測定器に名を残すその人です)と
マースデンによっていわゆる「ラザフォード散乱」の実験がなされていた時期に当たります。
==

上の引用部にもあるように,
指導教官の Rutherford も物理学史に名を刻む化け物だ.

====引用
しかし、1912年に大きな転機が訪れます。
モーズリーは、ドイツのラウエらによるX線の回折現象の発見を知るや、
これを新たなテーマにすることを決め、
ボスであるラザフォードを説き伏せ実験を始めます。
==

この記述がどこまで信憑性があるのかわからないが,
先見の明は間違いなくあるのだろう.

====引用
そもそも「原子番号」は、
このおよそ半世紀前の1869年に
ロシアのメンデレーエフによって周期表がまとめられた際に、
単に順番を示す量として登場しました。
メンデレーエフは周期表を
化学的性質に基づき作成したため、
所々原子量の大きさが逆になることが分かっていましたが、
半世紀を経てもその理由は不明でした
(それでも単純に原子量の順に並べなかったことが、
メンデレーエフの慧眼には違いないのですが)。
モーズリーは、
この実験結果から特性X線の振動数の平方根が
原子番号の一次関数で表せるという法則を見出だしました。
これは、現在ではモーズリーの法則と呼ばれています。
==

期せずして Mendelejev の偉業まで
確認してしまった.
化学という基盤を持っていたことが
原子量を押し切って適切な周期律を
作れたことに効いている (らしい) ことも
なかなか衝撃的ではある.

1 つのことを多角的な視点から見ることの重要性も感じるし,
自分の信じる化学に従う決断の重みも感じる.

====引用
この法則は、
ラザフォード並びにボーアによって築かれた原子モデルを説明する上でも、
重要な意味を持つこととなります。
まず、師ラザフォードはガイガー、
マースデンの実験から原子の中心には
正の電荷を帯びた核が存在するというモデルを示しました。
そして、モーズリーの法則の示す原子番号こそ、
この正の電荷の数すなわち陽子の数に他なりません。
この結果から、単なる並びの序数に過ぎなかった原子番号に、
はじめて物理的な実体が伴ったとも言えるでしょう。
またラザフォードのモデルに続いてこの1913年に提案されたボーアのモデルでは、
この正の電荷を持つ核の周囲を、
一定の軌道で電子が回っているとしています。
モーズリーの法則は、特性X線の振動数(すなわち波長の逆数)が、
電子の軌道間の遷移に依存することを強く示唆していました。
==

ちなみにここで出てくる Bohr も
Nobel 賞を取っている.
Geiger は放射線量を測る
ガイガーカウンターで一躍
嫌な方で有名になってしまった Geiger だ.
Moseley はそういう化け物の名前がポンポン出てくる
中で仕事をしていたわけだ.

====引用
モーズリーは更に実験を重ね、
より多くの元素から同様な結果を得ます。
この結果は、モーズリーの法則が普遍的法則であることを示す見事な直線を示しただけでなく、
当時未発見であった元素の存在をも示唆していました。
まさに、歴史に残る美しい成果だと言えるでしょう(グラフは次のリンクを)。
==

「実験を重ね」という記述,
それだけの資金力もあったということだろうし,
こう色々なことを考えざるを得ない.

当時 X 線分光学自体も先端装置だったと思うし,
実験, 本当に修羅の道という感じする.

素粒子だとカミオカンデのような馬鹿みたいに
でかい施設が必要だし,
実験データの処理にスパコン必要だったりするとかも
聞いた記憶ある.

少し話がずれるが, 梶田さんは重力波検出の
KAGRA にも関わっているそうで,
そこでも相当お金かかるだろうし,
眩暈がする.

うるさいことを言えばもちろん色々あるが,
博士進学を断念して 1 人で勝手気儘に
やっている今となっては,
気楽に勉強・研究できる数学または理論物理を
専攻していて良かったという感はある.

梶田さんの素粒子とは少し違うが,
ミクロ領域の謎に切り込んだ人達の話を
ちょろっと紹介してみた.

私の専門に少し近い感じでいうと,
原子の安定性がある.

原子の安定性の確立そのものは
量子力学の大きな目標だったが,
そこに上でも出てきた Bohr が大きな貢献をしている.

量子統計力学, 物性論にも関わるが,
ある意味次の話題として原子集団の安定性の話題がある.

Hamiltonian の単純なオーダー評価をすると
原子集団の安定性には怪しいところがある.

\(N\) 体系を考えよう.
正のエネルギーを持つ運動量項は当然粒子の数だけ,
つまり \(N\) 項ある.

一方で負にもなりうる
Coulomb ポテンシャルの項は \(\frac{1}{2} N(N-1)\) 項ある.

どういう風に考えるかは結構微妙だが,
原子集団全体としては中性だとしておこう.
各原子で見るなら当然正負の電荷がある.

そうするとオーダー評価で Coulomb ポテンシャルから
来るエネルギーを見るとどういう振る舞いをするかは
かなり非自明だ.

Coulomb ポテンシャルは \(N^2\) の寄与があるから,
これが負になると運動エネルギーだけでは相殺しきれない.

有限粒子系や原子核物理で考えていれば問題にはならないが,
統計力学や物性論では特に相転移の議論で熱力学的極限を取る.
そこで (平均) エネルギーが負になってしまって洒落にならない.

エネルギーがいくらでも低くなれるのでは
古典論の破綻と同じになるので,
原子集団に対する安定性は別の問題として立ち上るのだ.

そんなこんなでエネルギー評価問題が出るのだが,
とても困ったことに boson 単独の系だと
基底エネルギーが \(- N^{5/3}\) のオーダーになる.
平均エネルギーで見ると \(- N^{2/3}\) になるから,
熱力学的極限で平均エネルギーが負の無限大に発散してくれる.

正確な言明は専門書に譲るが,
系に fermion があるときちんと
\(-N^{1}\) のオーダーになることが示せる.

物性のレベルで言うなら系に電子があるという
自明の条件に落として考えていいので,
無事物理としての問題がなくなる,
とかそういう話が出てくる.

今回の内容, 大分長くなっているが
もう少し書く.
ここから一応素粒子に繋がるので.

実際には原子レベルでも確か鉄くらいになると
最内殻軌道の電子が相対論化してくるそうだし,
放射性同位体のような不安定な原子の議論もしなければいけない.

その辺の数学的に完全な精密な話はまだできていなかったはずだし,
レーザーあたりも視野に入れると量子電磁場との
カップルを考えたりしないといけなくて,
そうすると発散の困難の処理も入る.

この辺, いまのふつうの物理がどのくらい気にしているのかは
全くわからないが, 数学的にはまるでけりがついていない.
超弦ではけりがついているそうだが,
物理の階層性を考えるなら
非相対論的場の量子論のレベルで片をつけたい.

ここまで来ると私の研究目標と
素粒子の関係が出てくる.
関係というか,
むしろ物性レベル・非相対論的領域の問題は
素粒子と無関係に決まるべきという
無関係性の証明みたいなところだが.

まとまりは全くないが,
ブログに書いたことも含め,
そんなこんなを色々思った今回の
Nobel 物理学賞だった.


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