東大理学系研究科 佐野雅己教授, 玉井敬一さんによる「乱流発生の法則を発見:130年以上の未解決問題にブレークスルー」という話に関する記事とか批判とか私の感想とか

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全くわからないがとりあえず気になったので眺める.
まずは理学系研究科のサイトから引用しつつ.

『乱流発生の法則を発見:130年以上の未解決問題にブレークスルー — 東京大学 大学院理学系研究科・理学部』への感想

発表概要でまず「ちょっと待て」感のある記述を見つける.

流体の方程式が非線形性(注2)のため数学的に解けないこと

理学系研究科の広報でこれはどういうことだ,
と「数学警察」的に気になって仕方ない.
めっちゃ ill-defined 感溢れる「数学的に解けない」というこの文言,
工学系研究科とかならまだしも,
よりによって東大の理学系研究科から出るのかと眩暈がした.
実際, これどういう意味で使ったのかを本当に教えてほしい.

出鼻を挫かれまくったが先に進もう.

実験ではそれよりもはるかに小さな速度(レイノルズ数で1000以下)で乱流になることが以前から知られていました。

流体力学に対する感覚が全くないので,
レイノルズ数が 1000 以下というのがどんな感じなのかが全く掴めていない.

このことは他の形状の流れでも同様で、層流が乱流になるためには、一定以上の大きな振幅の外乱を加える必要があります。

振幅というのが何なのか,
そこからしてわかっていないので,
これ以上読んでも概要全くわからないな?
感に満ち満ちてきた.

でもとりあえず全部読もう.

現代のスーパーコンピューターをもってしても、乱流への遷移を調べるためには、大規模な計算を長時間行う必要があり、乱流遷移はシミュレーションが実験を凌駕できない現象の一つとなっています。

シミュレーションが実験を凌駕できる現象,
どんなのがあるのだろう.
宇宙関係とか割と綺麗そう (「ノイズ」が少なそう) なので,
うまくはまりそうな感じはある.
むしろ実験が本当につらい分野だ.

これまでで最大級のチャネル実験装置を製作し

最大というのの比較対象がよくわからない.
もう原論文読んだ方が早いのではないか感も出てきた.

上流で外乱を一様に与えて観測を行うとともに、統計的な法則を明らかにするための新たな解析方法を考案しました。

統計的な法則というのが何なのかよくわからない.
何か確率的な話なのこれ.

図1は、チャネル流の一部を可視化した図を示しており、一様な層流中に乱流スポットが見えます。

図をどう見ればいいのか全くわからない.

乱流スポットが空間を占める割合(乱流割合)を測定し、その空間依存性を調べること、さらには、測定場所を固定して乱流スポットが通過する時間間隔などを測定することで、相転移と類似した複数の現象を見いだしました。

これがさっきの統計的な法則というやつか?

注も読む.

注1 中略 しかし、その後、流体の運動を正しく記述しているはずの流体方程式(ナビエストークス方程式)は、外部から微小な摂動を加えても層流は層流のままで乱流にならず、乱流を発生させるためには、一定以上の大きさの外乱が必要なことが明らかとなりました。

この「しかし」が何にどうかかっているのかがわからない.
注入したインクのレイノルズ数が大きくても
Navier-Stokes では「外部からの微小な摂動」という扱いにしかならなくて,
Navier-Stokes がおかしいという話?

この辺の基本的っぽいところからして
流体を全く理解していないことがわかってしまいつらい.

任意の場合について解を得ることができ、一般的な解法が存在するが、方程式が非線形の場合には一般的な解法は存在しない。

これ, 最初の「数学的に解けない」というやつへの回答っぽい.
解法の定義自体がよくわからないが,
厳密解が出るか出ないかという話なのだろう.
厳密解の有無を「数学的に解ける」というのどうなのだろう.
「解析的に解く」という物理ジャーゴンがあるのは知っているし,
そちらの方がいいのでは感もある.

注3 チャネル流
2枚の平行な平板の間の流体の流れのこと。本実験では、長さ6メートル、幅90センチメートル、ギャップ幅5ミリメートルというこれまでで最大級のチャネル流装置を作成した。

これもさっきの疑問に対する回答だった.
でかいのどこなのだろう.
長さ 6 メートル, 幅 90 センチメートルというのが大きいのだろうか.

今までこの大きさでの研究がなかった理由とかも気になって仕方ない.

20世紀の後半から、非平衡状態の間の相転移が興味を持たれてきた。

非平衡相転移, 数学的にどういう定義なのだろう.

注6 レイノルズ数
流れを特徴付ける速度をU、長さをL,動粘性率をνとすると、レイノルズ数は、Re=UL/νで与えられる。流体の慣性力と粘性力の比を表す無次元のパラメーターである。

何というかこう,
レイノルズ数に関する感覚が全くない.

注9 有向浸透現象(Directed Percolation)
有向浸透現象(Directed Percolation)とは、疫病の伝播や森林火災、砂山のなだれ、細胞内でのカルシウムの伝播など一見確率的な伝播現象を表す数理モデルが示す振る舞いを指します。

いきなり敬体に戻った.

岡山理科大学教授, あらきけいすけさんによる批判記事『130年の放置プレイ?タイトル盛り過ぎでしょう、佐野先生』への感想

次, Perfect_Insider さん紹介の記事,
130年の放置プレイ?タイトル盛り過ぎでしょう、佐野先生について.

プレスリリースがかなりミスリーディングで「はでに盛った」解説の書き方になっているのだが*1、立場上センセーションを追いかけざるを得ない大学広報の意向を汲んでいるのではないかと邪推している。

タイトルだけ見るなら「130年以上の未解決問題」であり,
130 年放置プレイとか言っていないので,
この批判記事の記事タイトル自体に悪意を感じる.

ただこのプレスリリースの中身を理解するには流体の研究を始めた大学院生程度の知識は必要だし

これはそうだろう.

そうであればこそ大学院に入りそうなくらいの学生向けのカウンター情報は必要だろう。

というわけで読み進める.

流体の運動の研究をややこしくしているのは何も「非線形性」だけではなくて、流体の流れる場所の境界の形状や温度などの「境界条件」によってもコロコロ変わるからだ。流体の絡んでくる自然現象は多様であり、それだけに「境界条件」も「方程式の解」も多様である。

ふだん $\mathbb{R^n}$ でしか考えないので,
境界条件に関する感覚が著しく乏しいのがつらい.

今回の研究で「法則規則性」は見つかって理論物理学者は喜びそうだが、工学的には「予測」「制御」への応用は難しいと思う。

一足飛びの工学的応用, 誰も期待していないのでは感があって,
これはさすがにただの難癖では.

乱流の発生は130年間未解決だったか?というと、そうではない。例えば気象現象の基礎となる熱対流による乱流を例に取ると、線形安定性の解析は1960年代の Chandrasekhar の教科書3や、カオス研究の紹介ではおやくそくの題材の Lorenz アトラクタを出す Lorenz モデル4、倍周期分岐 (period-doubling bifurcation) による乱流への遷移5など、1980年代くらいのカオス研究や数値シミュレーション研究の勃興期くらいから、かなりの基礎的なことが実験的にもシミュレーション的にも分かっている(佐野先生も液晶を使って対流のパターンとかの実験をやってらしたはず)6。

「かなり基礎的なことが実験的にもシミュレーション的にもわかっている」というの,
少なくとも理論的にはわかっていないのだろうし,
とうぜん根本解決はできていないのだろうから,
未解決というのに間違いはないのでは.

その一方で、壁に挟まれた領域の流れやパイプの中の流れの不安定化の問題は亜臨界分岐 (subcritical bifurcation) であり、理論的にかなりハードであることが知られていた。

今は実験 (とシミュレーション) の話をしているのではなかったか.
話がごちゃごちゃ飛び過ぎていて何が言いたいのかわからない.

まずはじめに「揺さぶり」を記述する方程式が線形だけれども非エルミートになるし(量子力学の固有値問題がなんとうらやましいことか)、さらには分岐の後の解は(乱流まで含めて)数値計算で求めるしかない。

エルミートにするなら複素変数で考えないといけないはずだが,
「壁に挟まれた領域の流れやパイプの中の流れの不安定化」は
2 次元の系と思っていいのだろうか.
この辺は大学院レベルの流体力学の基本的なことだから
説明ないのだろうと思っているが,
何にせよ私はよくわからない.

あと量子力学の固有値問題を引き合いに出している理由は全くわからなかった.
ちょっとずれるが,
量子力学というか量子統計というか場の理論といえばいいか微妙だが,
学部 3 年でもやる共鳴の話をやるとき,
「準安定状態」の議論をするために非自己共役作用素のスペクトル解析に叩き落としたりする.

相互作用を入れたあとに入れる前の固有値が実数から虚数になるので,
その動きを追いかけるために解析接続的なことをするのだが,
そこでスペクトルを回転させる処理を入れて調べる.
そこで自己共役作用素が非自己共役作用素に変換される.

今回の研究の「研究者向けの目玉」は流れが速くなるにつれて乱流の振るまいがどのように変化するかを丁寧に整理していることなのだ。「乱流の変化」を整理したら「乱流の発生」の振る舞いに臨界現象との類似が見つかったということ。

いままではある意味で「何が問題なのかわからない」という出来の悪い学生のような状態であったところに、「directed percolation で記述できるダイナミクスは何か」という研究目標ができたのだ。もちろんこれが理解のすべてではないと思う。

ポイントポイントではまあそれなりに感じはわかるが,
全体的に何を言いたいのかいまひとつ判然としない批判記事だったという感じがある.


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