上野健爾『小平邦彦が拓いた数学』

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何か Amazon を巡回していたら見つけたので.

2015/12 に出たばかりなのに susumukuni さんが速攻レビューをつけているし,
これがまた面白そうで困る.

いろいろアレな気もするが,
引用しておこう.

今日の私たちは現代数学の整備された観点から小平先生の業績を教わることが多く、小平先生の論文集をもとにその研究の軌跡を学ぶことは、この分野の専門家である研究者を除いて殆ど無いのではなかろうか。本書はこのアプローチを採る非常に貴重で有益な書である。本書を通読して印象に残った事を以下に感想として述べてみたい。

先ず、小平先生の数学研究におけるH.ワイルの影響の大きさだろう。スツルム・リューヴィル作用素の一般展開定理の密度行列の計算や『リーマン面の概念』の高次元化の研究はワイルの先駆的な業績が研究の起点であり、かつてやり残した分野で素晴らしい業績を挙げている小平先生にワイルが注目したのも当然と頷けると思う。また、本書から小平先生のヒルベルト空間論への造詣の深さを認識できる。スツルム・リューヴィル作用素や多様体の微分形式に作用するラプラス作用素(およびラプラス・ベルトラミ作用素)はともにヒルベルト空間における自己共役作用素であり、そのスペクトル分解や直交分解を活用して新理論を構築する小平先生の数学に、創世期の量子力学に精通した数理物理学者の姿を垣間見るのは評者だけではないと思う。

次に、数学研究における共同研究者あるいは有能なライバルの存在の重要性であろう。本書から小平先生の数学研究における「調和積分論」と「層のコホモロジー理論」の重要性を理解できるが、層とそのコホモロジー理論を勉強しようと誘ったのは、プリンストン高等研究所での同僚であり複素構造の変形理論の共同研究者にもなったスペンサーであった。1952年頃から学び始め、1953年の春ごろにその有用性を認識し、瞬く間に複素射影空間に埋め込めるコンパクトケーラー多様体を特徴付ける「埋め込み定理」という大定理を確立する小平先生の数学の進展の素晴らしさを読み取れる処に本書の大きな魅力がある。「私が夢見ることも出来なかった高みに到達した」とワイルが称える偉業であり、この業績は今日でも最大級の称賛に価すると思う。

この辺りで注目したいのは、複素直線束に係数を持つ微分形式に対し、∂-(ディーバー)作用素とその随伴作用素、更にそれらからラプラス・ベルトラミ作用素が定義でき、この場合にも直交分解定理が成立するという事実だろう。これからコンパクトケーラー多様体上の複素直線束に係数を持つ正則微分形式(の芽の層)に対するコホモロジーの消滅が、そのコホモロジー類に属する調和形式がゼロである事を示す事に帰着する。秋月・中野両先生により考案されたこの方法で消滅定理を証明するのが、今日では標準的なものと認識されている。小平先生の当時の目標が高次元の複素多様体における「リーマン・ロッホの定理」の確立(定式化と証明)にあったという事実も非常に興味深い。この定式化を最初に考案し、いち早く複素ベクトル束の特性類の重要性を認識したのは、(今日コホモロジーの双対定理で名高い)セールであったという事実から、「小平とスペンサー、カルタンとセール、などの超一流の数学者はやはり眼の付け処(層のコホモロジーの重要性の認識レベル)が違う」という事を改めて認識させられる。

最後に、本書の終盤で扱われている「複素多様体の変形理論」と「解析曲面の分類理論」でも、層のコホモロジーが基本的で重要な役割を演じている事が読み取れる。変形理論の小平・スペンサー写像にH1(M,Θm)が現れ、変形族の存在条件にH2(M,Θm)の消滅が現れる事、また解析曲面の双有理型不変量の殆ど全てが層のコホモロジー群の次元から定義できる事からこれは納得できると思う。上野先生は「小平の数学研究では調和積分論が大きな役割をもっており、理論の進展に欠かせない基本的な道具であったことが分かって頂けるであろう」と指摘されているが、「層のコホモロジー理論」も同等の重要性をもつ不可欠な道具であったことを指摘したいと思う。連接層のコホモロジーでは、本書でも触れられている様に、多変数関数論での岡、カルタン・セール、グラウエルトなどの重要な業績は外せないが、双書「大数学者の数学」の中の大沢健夫『岡潔 多変数関数論の建設』と好一対をなす本書に、「小平邦彦 調和積分論と層のコホモロジー理論による複素多様体論の建設」という副題を付けてみたくなるのは評者だけではないだろう。

学部の頃から小平先生と深谷先生に憧れがあるというのもあり,
幾何はもっと勉強したいが,
全くできていない.

この本, 本当に読みたい.

時間がたくさんほしい.


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