名詞

先頭は大文字

ドイツ語の名詞は原則として先頭の文字が大文字です. その例外として有名なのは代名詞です. 文頭以外で先頭が大文字の単語は全て名詞なので判定に役立ててください.

人称代名詞

種類

人称 単数 複数
一人称 ich wir
二人称 du, Sie ihr, Sie
三人称 er, sie, es sie

二人称の親称と敬称

家族・親戚・友達などに対しては親称の du/ihr を使います. 若者同士や学生同士などは初対面でも du/ihr です. 敬称の Sie は特に親しくない相手, 言いかえれば, 社会的に一定の距離を置く相手に対する言い方です. ふつう親称と敬称の使い分けは原則として相互的です. つまり親が子に対して du と言えば子も親に対して du と言います.

三人称単数への注意

三人称単数には男性の er と女性の sie の他に中性の es もあります.

中性の es は常に事物を表すとはかぎりません. ドイツ語の名詞には男性名詞, 中性名詞, 女性名詞の区別があります. たとえば Kind (子供) は中性名詞なので, 「その子供」を代名詞で受ける場合はその子供の性別にこだわらず中性の人称代名詞 es で受けます. 一方, たとえば Tisch (テーブル) は男性名詞, Uhr (時計) は女性名詞なので, 前後関係によっては er や sie が「それ」になりえます.

意味 言語学での用語 ドイツ語 英語
1 格 ---が 主格 Nominativ nominative
2 格 ---の 属格 Genitiv genitive
3 格 ---に 与格 Dativ dative
4 格 ---を 対格 Akkusativ accusative

格変化

「---の」と言うときは所有冠詞を使い, 2 格は使いません. 2 格は少し特殊なのではじめは無視して構いません.

人称 1 格 2 格 3 格 4 格
単数 一人称 ich meiner mir mich
二人称 親称 du deiner dir dich
二人称 敬称 Sie Ihrer Ihnen Sie
三人称 男性 er seiner ihm ihn
三人称 女性 sie ihrer ihr sie
三人称 中性 es seiner ihm es
複数 一人称 wir unser uns uns
二人称 ihr euer euch euch
三人称 sie ihrer ihnen sie

全体で見るとばらばらなので適切にグルーピングして覚えましょう. 2 人称敬称 Sie は 3 人称複数の形を転用していて 3 格は Ihnen, 4 格は Sie です.

3 人称の人称代名詞は定冠詞とよく似ています.

男性単数 4 格も複数 3 格も定冠詞が den で同じである一方, 人称代名詞は ihn に対して ihnen, 複数 3 格の方には ihn にさらに –en が付いています. これは複数 3 格では名詞に語尾 –n がつくのと対応すると思ってください.

den に対応する語形 ihn に複数 3 格の目印の -n が付いて ihnen になっています.

モノ・コトを指すときと前置詞

代名詞が人以外のモノ・コトを指すとき, 前置詞との組は da(r)+前置詞で置き換えます. ここで dar になるのは前置詞が母音ではじまる場合です.

例を挙げましょう.

3格・4格の語順

次の一般原則があります.

名詞の性

基本

ドイツ語の名詞には男性・中性・女性と三通りの性別があります.

ドイツ語の名詞の性に関してすぐに見て取れる特徴を挙げておきます. 名詞に性がある言語によく見られる特徴でもあります.

究極的には理屈抜きに覚えるしかありません.

修飾語句の活用に影響を与えるのが名詞の性が大事な理由の一つです. 名詞の性や格に応じて冠詞とその形, 形容詞とその形が変わります.

職業・身分を表す名詞

多くの場合 -in をつけると女性形ができます. 例えば Lehrer と Lehrerin, Japaner と Japanerin があります.

アクセントを置く母音がウムラムトすることもあります.

規則

名詞の綴りを見て名詞の性を見分ける規則もあるにはあります. 細かい上に必ずしもそれで判別できるとも限りません. はじめのうちは諦めて一つ一つ地道に覚えましょう. 語学に限らず何事にもよくあるように, ずっと続けていればそのうちルールも見えてきます.

性の覚え方

定冠詞とセットで覚えてください. つまり der Tisch, das Buch, die Uhr と覚えましょう. もう一つついでに言えば複数形とセットで覚えるのが効率的で効果的です.

綴り (語尾) で性を判定

語尾で大まかな傾向があります.

男性名詞になる語尾

中性名詞になる語尾

女性名詞になる語尾

-in

男性名詞の語尾に -in がつくと女性形になります.

男性名詞 女性名詞 意味
der Japaner die Japanerin 日本人
der Franzose die Französin フランス人
der Arzt die Ärztin 医者

Franzose --> Französin, Arzt --> Ärztin のように母音が変わる単語もあります.

-chen

Mädchen (少女) が女性名詞ではなく中性名詞です. 実は -chen という綴りで終わる名詞はすべて中性です. さらに「小さな」や「可愛い」といった意味も追加されます. 例をいくつか確認しましょう.

-chen なし -chen あり
die Magt 女中 (古語) das Mädchen 少女
die Mär お話 (古語) das Märchen メルヒェン
die Blume 花 das Blümchen 小さな花
der Pack 包み das Päckchen 小包
der Baum 木 das Bäumchen 小木
der Hund 犬 das Hündchen 子犬

複数形

基本

まずは簡単に箇条書きでまとめます.

複数形の作り方は無語尾・E 型・ER 型・[E]N 型・S 型があります. 英語と同じく s がついて複数形を作る名詞もありますが少数派です. 単複で形が変わるのはゲルマン語の系統の特徴で, ドイツ語はこの特徴を強く持っています. ドイツ語の名詞を覚えるときは性だけではなく複数形と一緒に覚えましょう.

例・表

単数形 複数形
無語尾型 der Lehrer 教師 die Lehrer
der Vater 父 die Väter
E 型 der Freund 友達 die Freunde
die Hand 手 die Hände
ER 型 das Kind 子供 die Kinder
das Buch 本 die Bücher
[E]N 型 die Blume 花 die Blumen
S 型 das Auto 自動車 die Autos

注意

表を見るとわかるように複数形になると母音にウムラウトがつく複数形もあります.

無語尾型と E 型は母音が変音する (ウムラウトがつく) ことがあります. まずは地道に・機械的に覚えましょう.

一方 ER 型は変音できる母音 (a, o, u, au) があれば必ず変音します. それぞれの母音を持つ単語の例を挙げておきます.

[E]N 型と S 型は変音しません. [E]N 型は大半が女性名詞で, 単数形が -e で終わるとき複数形の語尾は -n, 単数形が子音で終わるときはいくつかの例外を除いて複数形の語尾が -en です.

S 型は外来語です.

特殊変化

いくつか例を挙げます. | | der Herr | der Name | das Herz | |-----------|------------|------------|-------------| | 単数 1 格 | der Herr | der Name | das Herz | | 単数 2 格 | des Herrn | des Namens | des Herzens | | 単数 3 格 | dem Herrn | dem Namen | dem Herzen | | 単数 4 格 | den Herrn | den Namen | das Herz | | 複数 1 格 | die Herren | die Namen | die Herzen | | 複数 2 格 | der Herren | der Namen | der Herzen | | 複数 3 格 | den Herren | den Namen | den Herzen | | 複数 4 格 | die Herren | die Namen | die Herzen |

基本

ドイツ語の名詞には 1-4 格までの 4 つの格があります. 単純な対比だけでは説明しきれないものの, まずは次のような対応で覚えましょう.

意味 言語学での用語 ドイツ語 英語
1 格 ---が 主格 Nominativ nominative
2 格 ---の 属格 Genitiv genitive
3 格 ---に 与格 Dativ dative
4 格 ---を 対格 Akkusativ accusative

参考までに書いておくと, ラテン語は主格・属格・与格・対格・奪格・呼格・地格の 7 つの格があります. 一般に昔の言葉は格の数が多く, 時代を追うごとに格が少なくなったり, そもそも言語の文法要素から消滅したりします.

属格は英語でいう "of sth" と思ってください. 例えば次の例文を考えましょう.

これはアインシュタインの特殊相対性理論の原論文のタイトルです. 英語の "of moving bodies" を表すドイツ語は前置詞なしの "bewegter Körper" です. これが上の表で『2 格が「---の」を表す』という意味です.

ポイントその 1: 動詞との対応

大事なのは動詞との対応・特性です. 例えば helfen の目的語である「手伝う相手」は 3 格, fragen の目的語である「尋ねる相手」は 4 格です. 単純に「---に」や「---を」としか覚えていないと対処できません. あくまでドイツ語はドイツ語の理屈, 日本語は日本語の理屈で文を組み立てます.

これ以外にも前置詞にも格支配があり, 前置詞ごとにしたがえる名詞の格が変わります. 3 格支配と 4 格支配で意味が変わる前置詞もあります.

ポイントその 2: 文構造との関係

格は 4 つしかなく, しかも 2 格は das Auto des Lehrers (先生の車) のように, 主に名詞と名詞を結び付ける役割しかありません. つまり名詞と述語 (動詞) の関係を示す格は 1 格・3 格・4 格の 3 通りです.

これを補足してくれるのが前置詞との関係です. 格と前置詞の用法が見えればドイツ語の色々な文の骨組が身に付きます. 英語での文型と同じく格で文の骨格を見抜くことで文全体の意味が把握できます. 合わせて前置詞も確認してください.

定冠詞+名詞の格変化

男性単数形 中性単数形 女性単数形 複数形 (各性共通)
1 格 der Vater das Kind die Mutter die Kinder
2 格 des Vaters des Kind[e]s der Mutter der Kinder
3 格 dem Vater dem Kind der Mutter den Kindern
4 格 den Vater das Kind die Mutter die Kinder

格はふつう定冠詞の変化で表します. 実際の文中では形容詞で判定することもあるでしょう. さらに名詞では男性名詞 (単数形) と中性名詞 (単数形) の 2 格で -s または -es という語尾が付き, 複数形 3 格で -n という語尾がつきます. 英語にはない現象です.

格によって名詞自体の形はほぼ変わらない以上, 格を判定するには冠詞か形容詞の変化で判定しなければいけません. 実際にドイツ語の文章を読むとわかるように読解するときに格の判定はとても大事です. 地道に覚えて使いこなせるようにするしかありません.

男性単数と中性単数の 2 格で名詞に付ける語尾は -s または -es のどちらでも良いことが多い一方, -s か -es の一方しか付けられない名詞もあります.

男性弱変化名詞

der Student (大学生), der Mensch (人間), der Junge (少年) のように, 単数 1 格以外のすべての語尾に -en または -n をつけなければいけない男性名詞があり, 男性弱変化名詞と言います.

1 格 2 格 3 格 4 格
der Student des Studenten dem Studenten den Studenten
der Mensch des Menschen dem Menschen den Menschen

不定冠詞+名詞の格変化

男性単数形 中性単数形 女性単数形
1 格 * ein Vater * ein Kind eine Mutter
2 格 eines Vaters eines Kind[e]s einer Mutter
3 格 einem Vater einem Kind einer Mutter
4 格 einen Vater * ein Kind eine Mutter

不定冠詞の語尾は定冠詞の語尾とほぼ同じです. 定冠詞をきちんと覚えておいて違う部分だけを抜き出して覚えましょう.

実際に違うのは次の点です.

表中では * をつけて強調しています. 不定冠詞は単数形しかありません.

注意: 一部の男性名詞と中性名詞の3格には語尾に-eがつく

タイトルの通りです. これは古風な言い方だそうで上の表にも書いていません. なぜあえて注意するかと言えば, アインシュタインの特殊相対性理論の論文で実際に出てくるからです.

再帰代名詞の格変化

1 人称 2 人称親称 3 人称・2 人称敬称
単数 3 格 mir dir sich
4 格 mich dich sich
------ ------ -------- ------------ --------------------
複数 3 格 uns euch sich
4 格 uns euch sich

指示代名詞derの格変化

男性 中性 女性 複数形
1 格 der das die die
2 格 dessen dessen deren deren
3 格 dem dem der denen
4 格 den das die die

不定代名詞einerの格変化

男性 中性 女性
1 格 einer eines eine
2 格 eines eines einer
3 格 einem einem einer
4 格 einen eines eine

再帰代名詞

基本・名前の由来

次のふたつのケースのうち, 後者の dich が再帰代名詞です.

前者の dich は「僕は君のことを考えている」というときの「君」で人称代名詞です. 一方後者の dich は「君は自分のことを考えている」というときの「自分」です. 「君が考える」という行為が「君」自身に再び帰ってきています.

再帰代名詞の格変化

再帰代名詞には 3 格と 4 格があり, 主語の人称と数に応じて下の表のようになります.

1 人称 2 人称親称 3 人称・2 人称敬称
単数 3 格 mir dir sich
4 格 mich dich sich
------ ------ -------- ------------ --------------------
複数 3 格 uns euch sich
4 格 uns euch sich

1 人称と 2 人称親称は人称代名詞と再帰代名詞が同じ形です. 一方 3 人称と 2 人称敬称には再帰代名詞専用の単語 sich です.

このとき次の文のように er (彼・ 1 格) と ihn (彼・ 4 格) が出てくるとき, 両者は別の人物です.

3 格の用法

3 格の再帰代名詞はよく次のように使います.

主語が複数形の場合

再帰代名詞は「お互いに」という意味になることもあります.

色々な代名詞

人称代名詞・再帰代名詞以外にもいろいろな代名詞があります.

指示代名詞 der・不定代名詞 einer

基本: 変化表

der

それぞれの 2 格と複数 3 格以外は定冠詞と同じ形です.

男性 中性 女性 複数形
1 格 der das die die
2 格 dessen dessen deren deren
3 格 dem dem der denen
4 格 den das die die
einer

男性 1 格に -er という語尾が, 中性 1・4 格に -es という語尾が付く以外は不定冠詞と同じです.

男性 中性 女性
1 格 einer eines eine
2 格 eines eines einer
3 格 einem einem einer
4 格 einen eines eine

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