2021-06-15 Twitter・note まとめ: 漢字の由来をきちんと調べる難しさ

前提

ツイートから

上記ツイートで引用されているのは次の note の記事です.

参考文献メモ

二つ目の記事にある中国語文献, 現状ではさすがに読めないのでとりあえず一つ目の記事にある日本語文献をメモ.

ここでは以下を推薦する。書店のリンクを貼ったので衝動買いしてほしい。2・3つめはもともと大学の講義で使われたものらしく、ネットで無料公開されている。

  • ■大島正二『唐代の人は漢詩をどう詠んだか:中国音韻学への誘い』,岩波書店,2009年。
  • ■中村雅之『音韻学入門~中古音篇~』(漢語音韻史の教室・入門講座),富山大学人文学部1998年。 http://chinese-phonology.com/pdf/oningaku.pdf
  • ■太田斎『韻書と等韻図』,神戸市外国語大学研究叢書第52号等。パートⅠ、パートⅡ、補説。
  • ■野原将揮『解説:音韻学?中古音と上古音』,『デジタル時代の中国学リファレンスマニュアル』,好文出版,2021年,第b.24-b.55頁。東方書店

大島・中村・太田は中古音のみについて解説している一方、野原は中古音~上古音すべてについて解説している。ただ、(おそらく筆者の専門分野の都合上)野原の中古音に対する解説は上古音への熱量に比べるとあっさりしているため、ほかと併用することをすすめる。

続いて以下を読めば、中古音・上古音についてはほとんどマスターしたといって良いだろう。

  • ■William H. Baxter『A Handbook of Old Chinese Phonology』,De Gruyter Mouton,1992年。

本題: きちんと勉強することの難しさ

いままさに専門外もいいところの言語学に関わるコンテンツを作っているわけですが, こういう記事を見かけると, そもそも非専門の分野をきちんと勉強すること自体の難しさを痛感します. 上記記事中にも次のような記述があります.

単純性

学問では単純性が好まれる。例えば、多くの事柄を説明する、広い範囲に対して同じように適用できる仮説のほうが優れていると判断する。

それは確かにそうで多くのことを統一的に説明できる, それもシンプルな議論は数学や物理でも本当に大事です. ただ何をもってシンプルとするかの議論そのものが恐ろしく専門的です. 例えば, 物理でいうならそれこそ数学を使うことです. 数学を使うことそれ自体, たいていの人にとってすさまじい苦行なわけで, 数学を使うこと自体が複雑ではないかと言われるとかなり困ります.

あと, 何というか, 人間にはどうしても「真理は深淵で難解」と思いたがる習性もあり, 「いろいろ考えたところ, 結局こんなシンプルにまとまりました」みたいな身も蓋もない話は「それは本当か?」と疑ってしまいがちなところもあります. そしてもちろん, その一方で, 「専門家は小難しく考えるせいで不必要に難解な話をしたがる. しかし専門家が無視または見落としている考え方をすればこんなに簡単に理解できる」という間違った言説も簡単に受け入れられます.

こういうとき数学の楽さを思います. 物理は究極的には実験科学なので常人ではやりきれない実験で決めないといけない部分があります. 言語学には言語学で過去・現在の多くの文献にあたる必要があります. そしてどちらも適当な意味で「昔の理解は間違っていた」事案があります. もちろんうるさいことを言えばいろいろあるにせよ, 他の分野に比べれば数学の検証は簡単です. 基本的には一度証明されれば正しさは変わらない事情もあります.

特にどうという話があるわけでもありませんが, 勉強するのは大変だ, 数学は楽でいいと思った話.