数学文化圏での記号の用法

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数 (数字) を見てどうこうというのはありませんが, 数学系の文脈込みでの数学記号に関してはいろいろな気分があります. 参考までに Twitter での話を雑にいくつか紹介します.

数学はノーテーションでその人の学問的出自や習熟度がある程度わかる。というか、本音を言えば、阪大の経済学の数式のノーテーションめっちゃ嫌い。気持ち悪い。 「もう記憶から封印したまであるけど、変なところで $\theta$ 使って気持ち悪かった。やめてほしかった。」 純な理系からすると $i = r + \pi$ てめっちゃ気持ち悪いと感じるんちゃいます?物価と利子率に関する等式ですけど。いや、 $\log (1+x) \sim x$ の近似使ってるから厳密には近似式ですけど。

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数学でも昔の本の記号体系を見るといまと全然違っていて記号運用の問題で昔の本が読めない (内容が頭に入らない) という話はいくらでもあります.

数学記号にも適当な意味で地域性があります. 例えば, 数学で体 (たい) という概念があります. 英語系だと F (英語で field というから) を使う一方, ドイツ系だと K (Körper から) を使います. ドイツ系の記号が今も生きている理由はこの辺の話が盛り上がってきた頃が 19-20 世紀前半で, この頃, ドイツの数学が世界最高峰だったからです. もちろんナチスの迫害でそれこそアインシュタインやフォン・ノイマン (こちらはこちらでハンガリー出身) などを筆頭に天才がアメリカに流れ, 理工学に関してアメリカが覇権を取った流れからの英語中心が出てきます.

ときどき数学を特別扱いする節が見られますが, 数学も人間のやることであって適当な意味で「言語」なので, 他の言語や人間の活動と区別して話されることにはかなり違和感を感じます.

あと, プログラミング言語というタイプの人工言語でも, 金になる言語とか, 複数言語に触れることでいろいろな世界の見方・切り取り方を学べる要素があるといわれていて, できる限りいろいろな言語に触れてみるべし, 毎年違う言語を新たにひとつ勉強するといい, みたいなことをよく言われます. この意味ではプログラマーは一般に多言語話者です. 純粋に 1 言語しか読み書きできない人はあまり見かけません.

一応, 数に対する数学からの WPE を Number-Picture-Emotion で NPE と呼ぶことにして, もう少しこの話もしておきます. 数学には数学の, 物理には物理の数に対する PE があり, その文化的断絶が講義で出てきた認識の断絶だと思うので.

例えば数学で整数を見た時, まず素数かどうかという判定基準と PE があります. 例えば 2 は唯一の偶素数です. 2 を標数とする体上では他の奇素数と違った, 2 を例外とする現象が起こることがあります. 他にもある整数が複素数まで行った時にガウス整数で因数分解できるかという視点もあり, 整数論専攻の人はそこで NPE を表現することがあります.

他には 4 次元ユークリッド空間は他の空間と微分位相幾何学的に全く違う性質を持っていることがわかっていて, 4 か, 4 より上か下かでもまた大きな違いがあり, そこでまた数に対する感覚・文化があります. 7 は初めて見つかったエキゾチック球面の次元で, 7 と聞くとそれが思い浮かんだりします. 4 と聞いて音の文化から日本では死を想起しますが, 他の国・文化・言語ではそうではない (はず) だとか, キリスト教系文化圏での 13 と聞いてユダを想起するとかいうのと同じと思っています.

他に数学でも各種数学定数に対する感覚はそれなりにあります. よく円周率とその神秘みたいなのは世間での話題に上がりますが, 数学だとそれ自体で特に何かというのはあまりないように思います. 円周率の近似計算とも関わる色々な等式・級数に対する文化的な価値やら面白さみたいなのはたくさんありますが, 日本語文化圏と数学文化圏での興味関心の断絶部分でしょう.

物理でも同じようにいろいろあります. 他にも医学は医学で NPE があるはずです. 例えば, 成人の永久歯の本数は 32 本だそうですし, 32 を目にするたび, 歯科医はこの NPE が発動するのでしょう. 親知らずなり何なりで実際には 28-32 の幅があるそうですし, 32 からの連想ゲームをすると歯科医はこの辺の話をするかもしれません.

32 を見て思い出したのが, 情報系での NPE です. 情報系では 2 のべき乗に対する感覚があります. 世間でギリギリ目にするのは, パソコンを買う時にメモリが 2GB か, 4GB か, 8GB か, 16GB か, 32GB か, 64GB か, みたいなところでこれらが全て 2 のべき乗です. 価格コムあたりでパソコンスペック見てみてください. これ以外にもハードディスクまたは SSD の容量もそうです. 32GB, 64GB, 128GB, 256GB, 512GB, 1TB (1024GB) あたりの 2 のべき乗が並んでいるはずです.

WPE が文化圏の問題であるのと同じで, NPE も文化圏の問題で, 数学以外の文化圏でもそれぞれの PE があります. よく教養の話になると人文・社会・芸術ばかりが取り沙汰されて, 理工系は教養の枠に入れられないという嘆きが理工系サイドにあるのですが, 言語学者であっても多言語・多文化という中に理工系諸文化の視点が入らないのはそれなりに衝撃的なことでした.

この辺, もはや当たり前すぎて今回のような問い掛けがないと自分の中から出てこないのが大きな問題と思っています. こういう話をすると喜びそうな人がいるだろうとは感じつつ, どこでどういう形で出せばいいかとも思いつつ, ここで断片的に出しています.