2021-05-29 多項式・指数関数・対数関数と持ち上げ, 特異点解消との類似

さて, 今週のリーマン面です. 少し被覆空間に入ります.

多項式・指数関数・対数関数が大事

改めて復習していてこの 3 つは大事だと痛感します. 多項式, もっと言えば単項式は前回の正規形定理でほぼ尽きます. こんな大事な定理はありません.

指数と対数に関しては, 累乗根関数と同じく, 極座標表示からの多価性問題は基本中の基本ですし, それをどう処理するかがことの発端だからでもあります.

そしてここがまさに被覆空間が直接出てくるところです.

指数関数の持ち上げと対数関数

整備中のノートの「分岐被覆・不分岐被覆の関数論」の節から記述を引いてきます.

リーマン面$X, Y$と非自明な正則写像$p \colon Y \to X$を取りましょう. 特に例として$Y = \mathbb{C}$, $X = \mathbb{C}times$として $p = \exp \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}times$とします.

このとき恒等写像$id \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}$は $\mathbb{C}^\times$上の多価の対数関数を誘導します. 何故かと言えば $b \in \mathbb{C}^\times$に対する集合$\exp^{-1} (b)$がまさに $b$の対数の値からなる集合だからです.

もっと具体的に $b = 1$としましょう. このとき $\exp^{-1} (1) = 2 \pi i \mathbb{Z}$であり, 複素数$1$は全ての整数$n$に対して極座標で $1 = e^{2 \pi i n}$と書けるので, 確かに$\log 1 = \log e^{2 \pi i n} = 2 \pi i n \in \exp^{-1}(1)$です.

上で書いた正則写像 $p = \exp$ は被覆写像で, $\mathbb{C}^{\times}$に対して$\mathbb{C}$は被覆空間です. これは $\mathbb{C}^{\times}$ を円周 $S^1$ に制限して, $\mathbb{C}$ には 3 次元的に円周の上下に巻き付く螺旋を割り当てれば, 円周に対する被覆空間としての螺旋が出てきます.

ここで被覆空間の持ち上げと解析接続的な意味での持ち上げの対応が出てきます. いろいろなところで言っているので, メルマガで書いたかあまり覚えていませんが, もしあなたが代数的な色彩が強くなる代数トポロジーや, 幾何的な色彩が強い被覆空間に馴染めないなら, この手の関数論・解析学に関わるところから勉強を進めるのもお勧めです.

理論を, コンテンツを作ろうと思うと, 代トポは代トポで整備してからとなりがちなので, 話の持って行き方は工夫しないといけませんが, モース理論も線型代数・微分積分からはじめて, ホモロジーに流せる道があります. もちろんコホモロジーならなおさら入口からダイレクトです.

関数論とホモトピーの場合, 複素平面上の議論が本当に本質的で, 絵にも描きやすいというか, 絵に描けるところだけいじっていてもかなり本質的という利点があります. 幾何がわかっていなさすぎるせいで, ここに切り込み切れずに 1 年くらい経っていますが, 何にせよ工夫のしがいがあるところです.

特異点解消への道

ここでふと特異点解消を思い出したので言及しておきます. はじめに書いておくと, 代数幾何は勉強していないと言い切った方が正確なくらいわかっていないので, おかしなことを言っている可能性の方が高いです. 識者がいらっしゃればぜひご指摘ください.

さて, 何で思い出したかというと, まさに被覆空間の構成, つまり円周の持ち上げとしての螺旋の構成です.

この持ち上げで面白いのは, 実一次元のコンパクト多様体である円周は二次元に埋め込まれていて, それの被覆空間である螺旋は実一次元の非コンパクト多様体で, 三次元に埋め込まれている点です.

前者の円周の二次元への埋め込みはともかく, 後者の螺旋の三次元の埋め込みとそこへの持ち上げがポイントです.

解析接続で問題だったのは, 極座標で複素数が$z = r e^{i n \theta + 2 \pi i n}$を持ち, $2 \pi i n$の分がいろいろな悪さをすること, その悪さを「解消」するために高次元に住む同じ次元の対象 (ここでは螺旋) に切り替えるところです.

この「次元は同じ実一次元で, 埋め込まれている空間の次元が上がっている」のが面白いと思っています. つまり二次元の円周は高次元空間である三次元空間からの射影で, 解析接続の視点からはそこから見たのが自然な姿, 真の姿なのだ, とも言えます.

特異点解消

私が知る限り, 特異点解消にも似たところがあります.

これは以前, 数論幾何の人から, 「特異点はこうぐわっと回すイメージ」といって, ジェスチャーとともにイメージ図が載っているページを教えてもらったところから来ています. そのページ自体は忘れてしまいましたが, 次のあたりがいまパッと探して出てきた私の想定です.

私の理解では, 高次元で滑らかが代数曲線を平面に射影すると特異性が出てしまっていて, それを平面側から見れば高次元に持ち上げて特異点解消した図です.

関数論では多価性という特異性を, 高次元空間に埋め込まれた複素一次元の連結な多様体であるリーマン面に持ち上げ, それで特異性を解消しているのではないか, そういう気分で眺めています.

この辺を調べていると改めて代数幾何も勉強したくなりますし, 関連する楕円関数などももっと突っ込んで勉強したくなります. 梅村本も買ってはあるものの積読状態です. 早く勉強したい.

それはそれとして, 代数幾何での特異点解消に関しておかしなところがあればぜひ教えてください. 本当に自信がありません.

あとこれまであまり書いてきませんでしたが, 間違いのご指摘含め, 感想はぜひ送ってください.

ではまたメールします.