2021-06-05 メルマガ原稿 分岐性, 局所銅像, 固有写像, シートの枚数¶
分岐点の定義¶
解析接続的な意味での特異点が分岐点だと思ってください. 正規形定理で出てきた $p_k(z) = z^k$ では $z = 0$ にあたります.
定義を正確に言うと, 非自明 (非定数) な正則写像 $p \colon Y \to X$ と $y \in Y$ に対して, 点 $y$ が $p|_V$ を単射にする開近傍 $V$ を持つとき, $y$ は不分岐と言い, 不分岐点でないとき分岐点です.
連結性のように, 否定形の方が肯定的に定義できる事例です. 念のため $p_k$ での $z = 0$ は, $k \neq 1$ に対して確かに分岐点であることを確認しておいてください.
これで解析接続での正規形定理の意義も見えてきたのではないかと思います.
不分岐な正則写像¶
前節の議論からすれば逆写像定理の系とも言えます. 正規形定理から不分岐なら局所的な逆が構成できるからです. 特に非自明な正則写像 $p \colon Y \to X$ に対して次の同値性が成り立ちます.
- 写像 $p$ は分岐点を持たない.
- 写像 $p$ は局所同相である.
大域的な (解析的) 同相にまでは持ち上がりません.
不分岐な正則写像の例¶
正規形定理があるので単項式は本質的です. もう一つ指数関数も挙げておきましょう.
- $p \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}$, $p(z) = z$.
- $\exp \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}$.
局所同相と複素構造¶
幾何弱者なのでいまだにすっきりせず, 手元にあるノートの証明も私としてはまだギャップを感じるので不安なところはあります. 妥当というかそうあってほしい定理ではあるので, 紹介しておきます.
- リーマン面 $X$ とハウスドルフ空間 $Y$ の間の局所同相 $p \colon Y \to X$ を取る. このとき $p$ を正則にする $Y$ の複素構造は存在すれば一意である. 特にリーマン面の被覆空間はリーマン面である.
被覆空間は純粋に位相的な存在なので複素解析性が入るかは非自明です. それがきちんと保証できることを示せます.
ちなみにこれは多変数でも成り立つのか, 私はまだわかっていません. 多変数の場合は変なはまりどころがあって条件がもっときついのではないか, といったことを考えています. これを即座に詰められないあたりが上で書いた「すっきり理解できていない」部分です.
今後大事な性質¶
今回分岐という概念が出てきて, これは正規形定理の $p_k(z) = z^k$ の $k$ と直接関わる概念であることがわかりました.
当然分岐があると面倒なので, まずは不分岐な状況で議論してから分岐がある場合の議論に持っていきます. この中で単連結性と写像の持ち上げ, 写像の固有性なども出てきます.
一変数に対する一致の定理によって, 非自明な一変数の正則写像は特徴的な強い形を持ちます. 特に固有で非自明な正則写像の分岐点の集合は離散的な閉集合です.
私が知る範囲の解析学, 特に関数解析では固有写像はあまり出てきません. 研究に近いところではむしろ見かけたことがありません. しかし幾何になると固有写像がよく出てきます. 固有写像に対する感覚も養うチャンスです.
最後に特に重要な定理を引用して終わります.
固有で非自明な正則写像とシートの枚数¶
- リーマン面の間の固有で非自明な正則写像 $f \colon X \to Y$ は, 任意の $c \in Y$ を重複を込めて $n$ 回取る整数 $n$ が存在する.
これまで多重度は正規形定理によって局所的な量でした. この定理は, 固有性を使うとコンパクト性の制約と一変数正則関数の制約によって, 大域的な量に化けると見立てられます. 特にこの $n$ がいわゆるリーマン面のシートのシート数です.
もう一つ大事なのは, 固有写像という制約がどのくらい強いかです. これについては自分で固有写像の例を作ってみてください. 特に大事なのは一変数関数論の文脈での固有写像で, 特に正則な固有写像です. 私のノート (または解析学編) には具体例が書いてあるので, 必要に応じて参照してください. もちろんネットを漁ってもいろいろ情報は出てきます.