2021-07-03 メルマガ原稿 コホモロジーへの道と関数論

コンパクトリーマン面に向けて

ここからコンパクトリーマン面の理論に向けていくつか準備をします. 特に大事なのはタイトルにある通り, 層とそのコホモロジーです.

コホモロジーの前にコンパクトリーマン面の話をしましょう. コンパクトリーマン面の何が大事かというと複素代数幾何と直結するからです. 大まかに言えば複素代数幾何は射影空間上で議論します. そして射影空間はコンパクトなので, 出てくる空間・多様体はだいたいコンパクトです.

体を取り替える必要があるとはいえ, 代数曲線は符号理論や暗号理論のように, 情報理論と絡んで現実への応用がある分野でもあれば, 楕円曲線のように数論との関係もあります. この例を見てもらうとわかるように, 複素一次元・複素曲線であってもいまだに研究が尽きない世界です.

リーマン面の (層の) コホモロジー

リーマン面は複素一次元・実二次元なので (実) 3 次以上のコホモロジーは自動的に消えてくれます. 高次まで残っているとそれを一般的に処理するのは記号処理だけでも大変です. リーマン面自体重要で, これまた重要なコホモロジー・ホモロジー代数的手法に慣れる上でも大事なので, リーマン面は解析学から数学全体の眺めを見る上で便利な分野であることがわかります.

コホモロジーと割り算

コホモロジーは割り算の一般化の一つであり, 小学生でもわかる数学だと言われることがあります. もちろん無茶にも程がある主張です. しかし大学の数学科の数学に踏み込んで上で, 「自分は数学がわかっている」と主張するつもりなら, コホモロジーの定義がさっとわからないのは罪深いです. 逆に言えば, コホモロジーの定義をさっと眺めて何をしているかわからなければ, あなたは代数を全くわかっていません. そういう判定基準として使える議論でもあります.

何にせよ代数入門としても使えるテーマなのでがんばって勉強する価値があります.

コホモロジーの勉強の仕方

一般的・抽象的にはホモロジー代数という代数的対象です. 圏論を生み出した分野でもあり, 代数として尋常ではない程洗練されている分野です. そして代数トポロジーとしてはやはり幾何として強く結実した分野です.

しかし代数トポロジー, 特にホモトピーはもともと常微分方程式の議論からはじまっていますし, 解析接続も被覆空間を生み出しています. 解析学との関係も深いのです. 特にコホモロジーに関してはボット-トゥーの本が有名なように, ベクトル解析やストークスの定理のような解析学から入るアプローチがあります.

ホモロジー代数というそのものずばりの分野なので, 代数から入りたい人はそうした本を読んでみるといいでしょう. 解析から入りたい人はボット-トゥーが有名です. 私は学部一年に読んではじめの方で挫折したきり, まともに読めていないのですが名著と評判なのでとりあえずアタックすべき本なのだろうと思っています.

もう一つ, 解析学からホモロジー代数・コホモロジーに迫る道が関数論なので, 実際に関数論から攻めているのがいまの私のアプローチです. 多変数関数論にいたっては層のコホモロジーを生み出した世界です.

次回からはのんびりコホモロジーの話をしましょう.