小学校高学年での分数の除法: 割り算を逆数の積とみなしつつ小中連携

はじめに: ツイート引用と文献紹介

万博さんから教えて頂いた.

リンク先の PDF のタイトルと URL を改めて張っておく.

以下, 上記論文を読んだメモを書いていく.

I. はじめに

中 1 ギャップが議論の中心という話がされている. 最近の状況は把握していないが, 私の頃の話では英語がはじまったり, 制服になったり, 算数が数学になって負の概念が出てきたり, 文字式が出てきたり, 部活が出てきたり, いろいろあるのは想像できる. もちろんここでの課題は算数と数学のカリキュラムの接続にある. P.2 の次の記述が気になった.

山形県では次のような取り組みを推進している。山形県教育庁義務教育課(2009)は「 3 義務教育 9 年間を「 4 - 3 - 2 」のまとまりで考える」において,「現在,義務教育は小学校 6 年間,中学校 3 年間の「 6 ・ 3制」であるが,認知科学や脳科学等の見地,心の成長や身体の成長等を総合的に見ると,概ね小学校では第 5 学年,中学校では第 2学年の時期に変化の起点があると言われている」とし, Fig.1 のような表を示している。

小 5-中 1 という組織をまたぐ部分の処理がまさに問題という話.

実際,認知心理学や脳科学等でも,小学校第 5 学年~中学校第 1 学年の段階が「抽象的思考」への移行段階という重要な時期であるという指摘がある。

抽象的思考への対処が問題で, 特に代数のカリキュラムに焦点を当てる. 具体的には「意味理解が困難であると指摘される分数の乗除に着目」という流れ.

Ⅱ.小学校高学年における教育内容の開発について

1.小中連携を意識したカリキュラム構築にむけて

こうした問題が起こる原因は,教育が不連続に行われているからだといえる。

学校制度(教科書の分離と教員の分離)の影響が大きく,なかなか根本的な解決に至っていないのが現状である。

小中をまたぐところをどうするか問題が引き続き問われる. 「こうした学校制度を意識するのではなく,やはり子どもの認識発展を重視すべきである」という, 言うは易く行うは難し事案だ.

生徒が具体に固執しないため,本質的な内容が理解しやすくなり,このことがさらに広がった視点で具体に還元できる数学的な思考を獲得できることが考えられる。

個人の差はもちろん大きいのだろうが, 小 5 くらいからこれがはじまるというの, なかなかすごい話で, 地道な研究が続いていることを思わせる.

「借金 × 借金がなぜ借金にならないの?」といったように具体的に考えるとより理解が困難になる場合もあり,また,ある数の場合だけで成り立つことを説明したとしても,一般性が無い場合もあり,具体的や帰納的な内容が決して適した内容とは言い難いことが分かる。

半端に具体性を持たせたときの問題が指摘される. ところでこの借金の積の問題, きちんと説明できる人はどのくらいいるのだろうか? 一応私の理解というか説明は書いておこう. 不適切なら教えてほしい.

個々の児童・生徒にとって適切な例・理解しやすい例は変わるだろう. その辺の個を見ること, 適切な例をゴリゴリ作れる高い構成力が教師に求められる場面だ. 全くもって楽な仕事ではない.

Ⅲ.子どもの「分数乗除」に関する理解力

1.最近の学力調査から

分数の除法の意味を十分に理解できていないことが分かる。

これ, 分数の除法の「意味」の理解の問題なのだろうか. 文科省の調査でどうするかはともかく, この辺, 問題の誘導不足があると思っている. 実際に私が小学校のときにやっていたことを書いておく: 私の観測範囲だと多くの「できる」人は実際にこう考えていたようだ.

この誘導の有無で答えがどうなるのか, そういう調査ないだろうか.

1-2, 1-3

この正答率から,分数の乗除計算にはあまり問題がないことが分かる。

これは,分数の除法導入部分に相当する問題である。この正答率が低いということは,分数の除法の意味が理解できていないことの表れと考えられる。

計算ルールを受け入れて運用する部分の問題ではなく, 問題を解けるように翻訳する部分の問題なのだという示唆がある. 意味というより運用・翻訳事案だと思うが, やはりここでいう「除法の意味」の意味がわからない.

Ⅳ.日本の分数「乗除」教育の実際と問題点

2.分数の学習の実際について

しかし,これらの説明は大人が聞いても分かりにくいことはよく指摘されている。

実際に抽象的な説明,すなわち演繹的に説明(証明)すると,中学生や高校生はその方が分かりやすい,ということはすでに示唆されている(山本他(2008))。このことから,具体的に扱った方がより分かりにくい場合もあることが分かる。

これが相当大事なのだと思う. 数学者, 吉田耕作が言ったとされる「具体的でよくわからないので抽象的に話してください」事案を思い出す. これが実際のエピソードなのかは疑問があるようだ. Paul 筋の情報を張っておく.

こんなのもあった.

数学と応用数学のもう1つの大きな違いは,"抽象性志向"と"具体性志向"である.東大工学部を代表する数理工学者森口繁一教授が,ある工学上の問題について東大数学科の看板教授吉田耕作氏に相談を持ちかけたときのことである.話を聞き終えた吉田教授は,「済みませんが,もう少しわかり易く抽象的に説明して頂けませんか」と曰ったという.「あれには驚いたよ」という森口教授の言葉が今も懐かしく思い出される. (pp.77-78)

次の本に書いてあるらしい.

Ⅴ.分数乗除の教育内容開発とその実践

特に,除法については,乗法の逆演算として定義することから,分数の除法の意味づけを代数的に行うものである。

・分数の乗法・除法では,代数的な導入は 6年生でその意味は十分に理解できる。

・この導入での教育では,分数の乗法・除法が理解できるにとどまらず,子どもたちが,分かりやすい,楽しいと考え,子どもの認識に見合っている。

社会的な諸々もあるから, 小学校高学年にもなるともはや「算数」に対する興味が壊滅的になっている児童もいるだろうし, ここまでに潰さない努力もかなり効いているのだとは思う.

何にせよ, 物理やら数学やら, それもゴリゴリの理論面に背景がある私には, 個々の人にもフォーカスをあてつつ, 統計性でうまく個々の特徴も消していくタイプのこうした研究はなかなか想像しづらい. 物理でも実験屋さんならきちんと作った試料とひどい試料的な意味で個体差をそれなりに体得しているのではないかという気もする.

今後の展望

この辺も気になるが, あとは最近新型コロナで問題にせざるを得なくなっている教育への IT 利用の問題がある. 教育工学では授業への利用よりも, 親とのやり取りや連絡帳などの生活に根差したところからはじめる方がいいのではないかという話もあるようだ.

状況が状況なので立ち消えになっているが, 具体的に私が住んでいる自治体の政治家に理工系教育という枠で話を持ちかけ, 自治体の教育担当の方にも話をつないでもらうところまでは行っている. 自分にできることを考えつつ, 情報収集しつつ, いろいろやっていくのだ.