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今回は「雑な理解」の効用についてお話しておきます.
ふだん「雑な理解はよくない」とけっこう言っています. あなたが私の発言を見たことがあるなら, 「いつもと言っていることが違う」と思うかもしれません.
「雑な理解」という言葉の使い方自体が雑なので, もう少しこの言葉の説明をします.
講座の紹介ページでも書いたように, 要は大きな姿を捉えてほしいということです.
何でもそうですが, 目の前のことばかりに集中していると, ふとした瞬間に「自分は何でこんなことをしているのだろう」, そう冷静になることがあります.
この手の冷静さは割と危険で, そう思った瞬間に緊張の糸が切れてしまって, 熱中できなくなることがあります.
特に心のどこかで「これやっていて意味あるのかな?」, こんなふうに思っていると一気に気持ちが傾きます.
そういうのを避けるためにも, こんな目標があってそのためにいまこれをやっている, そういうのをきちんと意識する時間を作ってみてください.
少し話がずれますが, 物理で粗視化 (coarse graining) という概念があります. これはいくつかのノーベル賞にも関わる話, 相転移や繰り込みで大事な概念です.
大雑把に見ることで細かい部分をあえて潰し, 全体的な様子を捉えるための手法です. ちゃんとした使い方をすれば, 学術的にも大事なことに昇華させられるのです.
むしろこの当たり前のこときちんと物理に取り込むと, それがノーベル賞になるのです. 基礎・基本を馬鹿にしてはいけません.
あとふつうの意味で「雑に理解」するのが大事なことはよくあります.
バリバリの専門的な内容を扱っている通信講座, 現代数学探険隊でも何度も強調していることとして, 「よくわからないことだけ把握して先に進む」という勉強法を紹介しています.
そのときにどうしても理解できないことがあります. 1 週間経っても 1 ヶ月経ってもわからない, そんなことは本当によくあります.
しかし勉強を続けていれば, 2 年くらいしたあと, ふとそれを考えてみたら何の苦労もなく理解できた, そういうこともよくあります.
このまま正しい方法で地道に続けていれば, 2 年も経てば何とかなるだろう, そう思って適当にやりすごしておくのも一手です.
私の事例も紹介しましょう. 私は学部が物理でしたが, 学部 2 年の夏休みに代数の勉強をしていたことがあります.
とりあえず一冊通して読み切りはしましたが, 細かい証明は終えても準同型定理が何なのか全くわからず, 「何なんだろうこれ」とずっと思っていました.
学部 4 年で数学科に進学することを決めたとき, 分野としては作用素環で多少の代数も必要だからと軽く代数も復習しました.
そのときは準同型定理が本当に自然で, 当たり前に成り立つ割に恐ろしく強力な定理なのだと自然と納得できて, あとで考えたとき「何だこの感覚の変化は」と不思議な気分になったことがあります.
他にもこんなことがありました. 論文を読んでいて 8 行程度の計算があり, 途中の 1 行でわからないところがありました.
3 時間くらい唸って「もういい, 諦める」と思って少し先を読んだところ, その計算のすぐあとに「4 行目の計算はこのように考えればいい」と, 短いコメントがありました.
そのコメントですんなり理解できたのですが, 「この無駄にした 3 時間は何だったんだ」とがっかりしたことがあります.
本のちょっと先に「答え」が書いてあることもよくあります. 何だかよくわからない定理の様子がよくわかる具体例が先のページに書いてある, そんなこともよくあります.
「よくわからないけどまあいいか」と適当にやり過ごすのが大事な局面は本当にあります. うまいこと使いわけてください.
「ここの理解は明らかに雑だから」とさえ思っておいて, それをきちんと理解しているなら, その状態のまま進めてもいいのです.
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