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2013

2013-12-30 「女性にしかわからない科学がある」らしく号泣した

何か山形大が地獄の底から湧き上がってきたような企画をやっているらしい.

「女性にしかわからない科学がある」 http://www.tus.ac.jp/madonna/kagu/event.html という標語は愚かで, かつ危険. この問題の歴史を学べ! 「男性にしか…」「若者にしか…」「日本人にしか…」「プロレタリアートにしか…」「マイノリティにしかわからない科学」等々は, 科学ではありません.

@hori_shigeki なので, 「そんなもん」なんですね. この国では.

@hori_shigeki 「女性にしかわからない科学がある」我の強い女性が好みそうな表題です. 単に女性の興味を引く為のキャッチコピーに過ぎないと思います. あまりいきり立つ程のことではないのでは?

いや, ちょっと…, やっぱり驚きました. RT @Mihoko_Nojiri なので, 「そんなもん」なんですね. この国では.

@hori_shigeki しかもこれだけじゃないんですよね. "カワイイ!! ステキ! 理系女子研究生活の魅力とは" http://unicon.kj.yamagata-u.ac.jp/modules/pico/index.php/content0385.html

@hori_shigeki 一つ一つクレームとか無理なんですよ.

センスの悪い中年男が, 若い女性にウケるのはこういう感じだろう! と勝手に想像して作り上げた惹き文句でしょうね. RT @Mihoko_Nojiri しかもこれだけじゃないんですよね. "カワイイ!! ステキ! 理系女子研究生活の魅力とは" http://unicon.kj.yamagata-u.ac.jp/modules/pico/index.php/content0385.html

@hori_shigeki これは背景のイラストもまずいんですよ. (なにこれスーツで実験するの) 工学部がやるとこういうことがおこる. 山形大学の男女共同参画室はごく普通なんですが.

@Mihoko_Nojiri @hori_shigeki 工学部…… orz

確かに. こういう傾向を正すのは科学者の仕事ではなく, 中高等教育や教養教育の関係者の仕事. ただ, こうした講座へ講演に行く科学者には, その度に厳しく言っていただきたいですね. RT @Mihoko_Nojiri 一つ一つクレームとか無理なんですよ.

@apj 先生のとこですね w これはねぇ, なんかやろうとして工学部だけで企画たてちゃったっぽい. あと, 院生がかんでる.

@Mihoko_Nojiri 女子高から受けてる相談だと, 手に職系の理系ということでみんなが医療系をめざしたがるけど医療系は接客業で向いてない人は向いてないから, 理工系でも将来食べていけるということを教えて欲しい, って話になってますね.

@hori_shigeki ただ, 続けてやってるとマシになるというか, リケジョとかいう講談社の始めた就職支援サイトも最初は「理系女子のおしゃれ」とはみたいなやつだったけど, 3 年たったらさすがにマシになった. http://www.rikejo.jp/

@Mihoko_Nojiri 大学や研究機関の人を連れてきてもそれは少数派なのであんまりロールモデルにならない気が. 企業に技術者として就職して活躍している人の話の方が理系進学の動機付けになりそうです. 今の高校生って, 卒業後の仕事がどうなるかかなり気にしてるようですし.

こういうコピーで女性の興味を惹こう, 惹けると思うのがそもそも, 女性なるものをナメていますよ. (続く) RT @ATOM929 「女性にしかわからない科学がある」我の強い女性が好みそうな表題…. 単に女性の興味を引く為のキャッチコピーに過ぎない…. あまりいきり立つ程のことではないのでは?

@apj そうなんですよ. それで, うちの理系女子キャンプ http://www.kek.jp/ja/NewsRoom/Highlights/20130412110000/ でも, 大学院生のセッションを作って, ほら修士の人のほうが, 就職状況に詳しいから.

(承前) 科学へのアクセスの普遍性の否定には暗澹たる歴史があります. 「女性にしかわからない科学がある」としたら, 真実を知る可能性に恵まれているのは人類のある特定のカテゴリに属する者だけだという結論になる. 重大な問題なのです. RT @ATOM929 いきり立つ程のことではないのでは?

@hori_shigeki タイトルを付けた人は残念ながらそこまでの深慮はないと思います. 注目を浴びればそれで良いとしか思っていないでしょう. 浅慮です. それは危険だと言われれば確かにそうなんですけどね. @hori_shigeki 重大な問題なのです.

インタラクティブにやると当事者の感覚が分かっていくのかと. RT @Mihoko_Nojiri 続けてやってるとマシになる…, リケジョとかいう講談社の始めた就職支援サイトも最初は「理系女子のおしゃれ」…, 3 年たったらさすがにマシになった. http://www.rikejo.jp

尚, リケジョは大学のサイトではないですね. (リケジョ作ったのは準「教え子」の一人で, 多分今も担当してると思います). RT @Mihoko_Nojiri リケジョとかいう講談社の始めた就職支援サイトも… 3 年たったらさすがにマシになった. http://www.rikejo.jp

@hori_shigeki これは講談社です.

はい. 逆に「男性にしかわからない科学がある」と言ってよいかどうかくらいは, 考えてほしいと思います. 責任は採用した大学にあります. RT @ATOM929 タイトルを付けた人は…注目を浴びればそれで良いとしか思っていないでしょう. 浅慮です. …危険だと言われれば確かにそうなんですけどね.

@Mihoko_Nojiri はい, 創設時にアイデアを聞いて, ちょい励ましたので講談社と存じています. その後の推移は知りません.

潰れたとはいうものの, 阪大の物理といいキモいおっさん達のセンスはいかにも地獄で社会性が高く大変に素晴らしかった (完). 私も適宜頑張ろう.

2013-12-29 「子どもに数学の習い事をさせよう」みたいな親を増やそうの会

記事が消えていた. そういうのは本当にやめてほしい.

それはそれとして面白いやりとりがあったので記録する.

最後の外交力が弱まるというところ, 人文・社会学系の素養がなさすぎてどういうことなのかよく理解できていない.

それはそれとして気になったのは次のやつ.

「数学を習わせようという親」というの, 発想としてあったしそれを目指してはいたが, こういう感じの比較対象を設定した上で言葉にできていなかった.

科学教室みたいなのがあるからそれに対になるというか, そういうのは想定していたが他の習い事との比較検討をしたことがなかった. 記録しておこう.

2013-12-27 みんな数学をやろう: 他の人文・社会学諸分野は日本語以外の複数言語で論文を書かなければいけないらしい

人文・社会学の話を聞くにつけ, 理工系は本当に気楽という感じしかしない. その中でも数学は他の学問分野を知らなくてもできることが極めて多い印象があるし, みんなも数学をやろう.

2013-12-27 大規模固有値問題を観測で解く

このツイートが回ってきた当時に物理系の人とこの話したらこの発想割と普通という話を聞いた. 実際のところどうなのだろう.

2013-12-26 Neumann級数のNeumannはC. Neumannでありvon Neumannではない

Buchholzの論文だったと思ったが, 以前作用素環関係者の論文でC. Neumann級数をvon Neumann級数と書いているのを見たことがある. C. Neumann級数はWikipediaを参照してほしい.

式だけ書いておくとこれ:

\begin{align} (1 - A)^{-1} = \sum_{n=0}^{\infty } A^{n}. \end{align}

2013-12-25 alg-dツイート集

【選択公理が証明できないこと】2013年数学徒アドベントカレンダー(26日目)

とりあえずブルブルエンジン兄貴のページの記述を引用.

元々は「選択公理の独立性」とするつもりでしたが、これをやろうとすると開始数ページでGödelのLを構成し終えるという誰も分からない記事になりそうだったので、半分諦めることにしました。最初に書いてあることを認めてもらえれば特に数学基礎論を知らなくても雰囲気は伝わるのではと思います。ZFCの定義くらいは知ってたほうが読みやすいとは思いますが。本当は強制法も入れようかと思ってたんですがわけが分からなくなりそうだったのでやめました。

ちなみに全部ちゃんと証明をつけたバージョンのPDFを書くプロジェクトも進行しています。そっちはトポスまで書くつもりですが…あれよくわかんないので #つらい

これは2013年の記事だがトポスまで書いたバージョンできているのだろうか.

『超準解析を代数的に』の Togetter

本文

古い Togetter だが, 「超準解析を代数的に」というのを久し振りにみかけた. 相変わらずあまりきちんと読んでいないが, 楽しい話ではあるのでここでも記録がてら書いておく. まず evinlatie さんの説明を引いておこう.

代数のみの知識で超準解析を理解してもらおうと, 実数体 $\mathbb{R}$ から超実数体 $\mathbb{R}^*$ を代数的に構成する方法をまとめました. 予備知識は代数学の可換環や体の基本的な性質のみです (少なくとも代数学の入門的な教科書には書いてある知識のみだと思います). ただ, だいぶコンパクトに記述してありますので, 読む際には Wikipedia も参考にしたほうがいいかと思います.

※@alg_d さんのご協力により, 補足に加えて直感的な説明も追加されました.

$m'$ が選択公理でしか作れない狂気の対象というの, これはなかなか楽しい.

ラベル

数学, 超準解析

ブルブルエンジン兄貴の「選択公理は直感に反さないだろいい加減にしろ! 」という記事の紹介:Banach-Tarski の定理

はじめに

Twitter でブルブルエンジン兄貴が次のようなツイートをしていた.

https://twitter.com/hounavi_tweet/status/333470628592107520 ツイッターのニュースってなんだよいい加減にしろ!

ブルブルエンジン兄貴のブログ記事, 選択公理は直感に反さないだろいい加減にしろ! へのリンクが張られている. コメント欄に社会の悲しみが現出しているが, それは置いておこう.

これはもちろん, ブルブルエンジン兄貴の真骨頂である選択公理の話だ. 選択公理と直観という意味不明な話が時々出てくるが, そこでよく, 選択公理から Banach-Tarski の逆理など変なのが出てきて嫌ね, という話がされる. そんなことはなく, 選択公理を認めないとひどい現象が起きる. 逆に選択公理から非常に自然でこれを認めないことには何もできない, という定理も色々あるので認めないでどうするの, という話をしている. ちなみに第 3 回の関西すうがく徒のつどいでのブルブルエンジン兄貴の話は関数の連続性まわりでそうした話をしていた.

バナッハ-タルスキの定理

そしてブログでは Banach-Tarski だ. 詳しくはブログを見てほしいが, Banach-Tarski でいう有限分割は現実には実行不可能な恐ろしい分割も含んでいる. そうした無茶な分割をした上で「直観に反する」結果が出てくる, という話なので, むしろ直観的に捉えきれない分割の方にこそ異常性を感じるべきで, 選択公理に責を押し付けるべきではない, という主張を展開している.

これもブログで触れられているが, 証明中, 選択公理はある一箇所で使われているだけだ. 証明中大事なのはむしろ自由群の性質であって, 選択公理ではない.

数学としてはむしろ, 図形の分割と体積の話をしているのにそれを制御しているのが自由群という群の性質である, という部分に思いを馳せるべきだ. これこそ直観を越えた緻密な論証のなせる技であり, 途方もなく豪快で自由な数学の姿と言える. とてもとても楽しい.

証明は本もあるし, ネット上に色々文献も落ちている. 色々探してみてほしい. そして証明をきちんと味わってほしい.

2013-12-25 「数学で卒業研究やらせても多くはセミナーで読んだ本のできの悪いまとめになりがちです」

今は(Twitter 上に亡き)kyon_mathさんのツイート. もはやPaulしかいない.

メモにあったのでとりあえず記録しておく.

そうでもないっす。私は今のとこに変わってからそれを発見しました。

もちろんマトメになっちゃう子もいる

RT @Paul_Painleve: @MRken_appmath ...数学で、卒業研究やらせても、多くはセミナーで読んだ本の、できの悪いまとめになりがちです。

できが悪くてもまとめるのはそれでそれで意味があることだと思わないでもない. 絶望的なくらいきちんと文章書けないことを知る機会でもあるだろうから.

2013-12-23 上野健爾『はじめよう数学①円周率πをめぐって』へのコメントを見てどう人と接すればいいのかふと考えた

数学の展開をしていこうというとき, 何をどうフックにしていけばいいのだろう.

無闇に数学にこだわり過ぎるのもよくないとは思うのだが, 結局数学以外でどう人と接すればいいのかがわかっていないのかもしれない.

困ったものだ.

2013-12-23 確率論と統計学の狭間で: 大数の法則とかベイズとか

前にでんまるPとやりとりした記録.

ベイズとかモンティホールはよくわかっていないので嘘を書いている可能性がある. この間黒木さんがその辺適当にまとめていた気がするので, 早くきちんと追いかけたい.

2013-12-20 Euler の公式と関数論: 1 変数関数論と多変数関数論の深い溝の狭間で

やりとり

こんな会話をしたのでメモ代わりも込めて記録しておく.

TL がおおかみこどもだけでなんかつまんね

@1112345678999 そんなときこそ数学

@phasetr あまり詳しくないので大きな声で言えませんが, オイラーの公式は三角指数が絶妙に組合わさっているこの世で一番綺麗な数式だと思ってます

@1112345678999 オイラーはむしろ, 指数関数を複素領域にまで拡張する時のキーである一致の定理の破壊力に思いを馳せます. また, 一変数での一致の定理は集積点を含む集合上の一致だけみればいいのですが, これは多変数では成立しないので一変数と多変数の差異も際立つ深い定理です

@phasetr (理系学院生なのにピンとこないヤバイ……)

@1112345678999 この間で早稲田で数学科学生向けに関数論セミナーをしたときからずっと書こうと思っていた話なので後でブログにまとめます. そして DVD にもする予定がある方の市民

コメント

一変数での一致の定理

まず 1 変数の一致の定理を書いておこう.

一致の定理 (1 変数)

$U \subset \mathbb{C}$ を領域とする. 関数 $f, g \colon U \to \mathbb{C}$ が正則で $C \subset U$ が $U$ の中に集積点を持つとする. このとき $C$ 上で $f = g$ なら $U$ 上で $f=g$ となる.

この定理は次の 1 変数関数の零点の振る舞いによっている.

一変数での零点の孤立性

定理 (1 変数での零点の孤立性)

関数 $f \colon U \to \mathbb{C}$ が正則で恒等的には 0 でないとする. このとき $f$ の零点は孤立している.

一致の定理の証明

1 変数での一致の定理の証明は次の通り.

$h = f - g$ を定義したとき, $h$ はもちろん正則だが $C$ 上 $h = 0$ となるが, $C$ は $U$ 内に集積点を持つため零点は孤立しない. したがって $U$ 上全体で $h = 0$ となる必要がある.

孤立性さえ認めるなら証明は簡単だが, 当然零点の孤立性に強く依存している.

多変数での零点集合

これが多変数でどうなるか. 次のように変わるのだ.

定理 (多変数. 零点集合の性質.)

$n \geq 2$ とし, $U \subset \mathbb{C}^n$ を領域とする. 関数 $f \colon U \to \mathbb{C}$ が正則なとき, $U$ のある開部分集合上 $C$ で $f$ が恒等的に 0 になるなら, $f$ は $U$ 内で恒等的に 0 になる.

1 変数のときは $C$ が閉集合でも良かったのだが, 多変数では開集合に限定される. これがポイントで, 一致の定理の $C$ の条件として決定的に効いてくる.

1 変数のとき, 閉集合でもいいというのは決定的に大事だ. 上にも書いたとおり, 閉集合上での一致さえ言えればいいのだが, 複素平面の中で実数全体は閉集合にはなるが開集合にはならないことに注意しよう. 実数上での一致から全体の一致が結論でき, これが指数関数の複素拡張の一意性を生み出す. これが Euler の公式に正当性を持たせる根拠になっている.

また, 多変数の場合は多変数の場合で開集合に限定した一致の定理というか, 零点の振る舞いが決定的だ. セミナーのとき, ヘイヘイにも問題を出し (て即答が得られ) たのだが, 閉集合上で $f=g$ になったとしても全体で $f \neq g$ という例が簡単に作れる. これは (1 変数のときの) 一致の定理の証明からも反例が作れるし, もっと大事なこととして代数幾何から反例が作れる. だからこそヘイヘイに問題を出したのだが.

もっと強くいうと, 代数幾何から反例が作れるというより, 代数幾何学の成立そのものが反例となっているといっていい. (Affine) 代数多様体は複数の多項式の共通零点として定義されるが, 多項式は連続で零点集合なので, 代数多様体は ($\mathbb{C}^n$ の Euclid 位相で) 閉になる. このとき, 多変数でも 1 変数のときと同じく閉集合上の一致で全体が一致を導いてしまったら, 上述の定義多項式は全て 0 にならねばならず, 代数多様体が $\mathbb{C}^n$ 全体にしかなりえない. 当然こんなことは起きない.

1 変数と多変数の関数論の決定的な違いになっているし, 1 変数の時の特殊事情はそれはそれで圧倒的な結果を生み出す. こうした背景があるからこその Euler であり, ただ式だけ見て美しいというのはそれはそれで構わないが, 私の興味関心はそこで終わらないしここまで詳しく喋らせろ, という話になるが, これはこれで鬱陶しいと思われるから Euler は原義マスハラである, という主張をしているという話だった.

2013-12-16 ブルブルエンジン兄貴の業績

ブルブルエンジン兄貴が偉大な仕事を成し遂げていた.

.@alg_d 氏が楽しそうに数学をやっている様子を高校生のとき Twitter を通してみて, 数学科に来たという若者に出会って, @alg_d さん偉大だと思った

私も泣いている場合ではない.

2013-12-05 自己共役2階楕円型微分作用素の固有値の発散オーダーをどう調べるか?

何ら役に立つ情報を出せた気はしないが, かつての自分がこんなことをさらっと言っていたことに割と衝撃を受けている. きちんと記録しておこう.

コメント1

ラプラシアンの固有値の振る舞いについてはWeyl’s lawが知られてます。 以下はwikipediaより

In mathematics, especially spectral teory, Weyl’s law describes the asymptotic behavior of eigenvalues of the Laplace–Beltrami operator. https://en.wikipedia.org/wiki/Weyl_law

コメント2

あとこんな記事が

コメント3

これの非可換幾何・共形場理論版が「量子現象の数理」の河東先生のところにも書いてあります。

非可換幾何版との比較のところでリーマン多様体版もちょろっと書いてあります。

2013-12-01 井草準一先生の訃報を知る方の市民

井草準一先生が亡くなられたとのこと.

井草準一先生が亡くなられたとの報 http://krieger.jhu.edu/blog/2013/11/27/jun-ichi-igusa-noted-mathematician-and-researcher-died-at-89/ だが, 真っ先に浮かんだのは岩澤健吉氏の思い出を綴られた文章での語り口. ご冥福をお祈りします.

井草先生と言えば, 『数学まなびはじめ』第 2 集が思い起こされる.

私も次世代の数学アイドルをプロデュースしていけるよう精進したい.

2013-12-01 マッチング理論関係の文献を教えて頂いたので

数学セミナーの書評というか感想を書いたが, それで言及したマッチング理論の本について教えてもらったので記録. 元ツイートは消えていたので, 教えて頂いたブログの情報を抜いておきたい.

【書評または感想: 数学セミナー 2014 年 01 月号 グラフ理論の新展開 】よく分からない数学

教えて頂いたブログ記事はこれ.

安定結婚問題が一部で話題になっていたみたいですが, 一昔前は安定結婚問題を勉強すると言ったらここら辺の本を読むこととほとんど等価だったような気がします. Tamas Fleiner が組合せ論的な不動点定理を駆使して安定結婚問題の構造を解きほぐしていったところも (個人的に) 懐かしいところです (当時は私も束や選択関数のことをよく考えていたので, Fleiner の論文を眺めることが多かったです).

日本語ではまとまった書籍はないような気がしますが, 次のハンドブックの 14.2 節に根本先生による詳しい解説があります. 応用数理計画ハンドブック

もちろん rotation poset や stable marriage polytope の話もでています.

挙げられていたのは次の本たち.

2013-11-26 フィナンシャルタイムズの記事: オンライン大学は米国の教育危機を救えない

『オンライン大学は米国の教育危機を救えない』という記事があった.

元スタンフォード大学教授のスラン氏が立ち上げた「ユダシティー」でオンライン講座を受講していた学生は, 生身の人間による講義を受講していた学生よりはるかに成績が悪く, ドロップアウトする数も大幅に多かった.

中略

そこでオンライン教育の出番, となったわけだ. MOOC を使えば, コストはほぼゼロになる. だが大きな注目を集めたユダシティーの実験のように, 受講者の 90%以上が学習に興味を失ってしまうのであれば, コスト問題への対処を迫られることになるだろう. 興味を失う学生の割合は, 一般の学生の 2 倍である.

中略

■大多数に意欲を持たせることが課題

ここから MOOC について何が言えるのか. テクノ楽観主義者が好んで指摘するように, 今では米議会図書館の蔵書や名門大学の講義を無料でダウンロードできるようになった. 時代に取り残されまいとする年配の従業員, 米軍の予備兵, インドのような国の野心あふれる若者など, いくつかの意欲の高い層ではオンライン講座を修了する割合が高い. だがスラン氏の受講生をはじめ, たいていの人は急速に興味を失ってしまう. 要するに, 米国の教育者が直面している本当の課題は, 熱意の乏しい大多数の人にいかに意欲を持たせるかなのだ. 言うは易く, 行うは難し. 馬を水辺に引いていくことはできても, 水を飲ませることはできない.

このような厳しい世界で成功するのは, MOOC を筆頭にインターネット全般がもたらす無限のリソースを活用する才覚を持ち合わせた者だろう. 残念ながらユダシティーの挫折は, そんな人材が間違いなく少数派であるという現実を突きつけている. 米国の教育危機について, コンピューターで解決できる部分はせいぜいごく一部だろう. コンピューターに比べてカネがかかるとはいえ, それ以外はわれわれ人間が引き受けるしかない.

あまり具体的な数値がないので突っ込んだ話はできないしするつもりもないが, 少なくとも現状, 人の影響力は絶対的で無視できない. 「良い教師」的なアレ, どうしても必要だというただそれだけのことだろう. 道具に遊ばれている感あって, ひどく間抜けという印象.

2013-11-22 自然言語処理は独習が難しいらしいが数学は気楽っぽい印象があるので皆も数学をしよう

人文系の方が計量言語学とか自然言語処理的なアレをやるのは結構大変らしいという情報を小耳に挟んだ. これとかこれとかこれとか.

む, 人文系の 4 年生の方から, うちの研究室を受けたいという相談. NAIST と違ってうちは基礎科目がなく, プログラミングができないとどれくらいきついかよく分かってきたので, ちょっと悩む. . . 来年は, 相当簡単なところからプログラミング勉強会をやり, 毎回提出してもらえばなんとかなるかなぁ

人文系でなくても, 情報科学の基礎知識がなく, 一から勉強したいと思っている人は, NAIST をお勧めしますよ. 他の大学は, 一から勉強するシステムになっていないので, 自分でなんとかできる人でないと, 正直厳しいと思います. NAIST は同じ境遇の人も多いので, 同期に助けられますし. . .

いわゆる文系出身で NAIST に進学した同期たちと, 軽々と宿題をこなす理工系出身の同期を横目に文字通り泣きながらみんなで徹夜して課題を解いたり, 励ましあってなんとかあの 1 年を乗り切ったので, 正直一人であれが乗り越えられるとは思えない. . . 吐き気がするくらい, 毎日勉強したし. . .

自然言語処理は独習が難しいということらしい. 何を以ってして「独習が難しい」とするかによると思うのだが, 数学は結構気楽な感あるので皆も数学をしよう.

2013-11-21 東大の本郷で 12/7 (土) に Science Front なるイベントというか講演会というか何かが数学・物理をテーマとして開かれるらしいので

本文

ymatz さんが Science Front の宣伝をしていたので.

Science Front の講演者 @sin_forest と打ち合わせをしてきた. 12 月 7 日, 現代の数学ってこんな世界なのかー! って体験ができますよ. あとの 2 人は物理の人で, そちらの内容については僕も当日のお楽しみ. https://sites.google.com/site/0to1sciencecommunication/science-front

発表概要

転載しておこう.

発表概要

「光電子分光法を通して観た"物性物理学"が見据える未来」

物質の性質を研究する分野である物性物理学は, 数 10 年~100 年後の応用 (=人類社会への貢献・還元) を念頭に研究を行っています. 実例を挙げると, 1989 年に論文発表された巨大磁気抵抗効果は, 10 年足らずでハードディスク (HDD) の再生ヘッドに実用化され, HDD の容量を飛躍的に増大させました.

現在の人類社会が解決すべき課題の 1 つに, エネルギー問題が挙げられます. 持続可能な社会を実現するためには, 省エネルギー化・クリーンエネルギー源を開発することが急務です. 物性物理学は, そのような革新的なエネルギーシステムを構築可能な材料・物質を探求することを目標とし, 熱電材料, 室温超伝導物質, スピントロニクスデバイス材料, 太陽電池などの開発・研究が日進月歩で進められています.

本発表では, 光電子分光法を主な実験手法とする登壇者の立場・研究内容から観た, 物性物理学が見え据える"未来"と"現状"について簡単に話そうと考えています. 未来を変えるかもしれない物質を"実際に手に取って実験できる"という物性実験の魅力を, 少しでもお伝えできれば, と思います.

「図形の大域不変量とその局所化ー Spinc 多様体上の Dirac 作用素について」

図形 (空間) について研究する一つの方法に, その大域的な位相不変量を計算する, という方法があります. 例えば球面の上に三角形を書いてその表面を埋め尽くしたとき, その (頂点の数)-(辺の数) + (面の数) という数を計算すると, その数は必ず 2 になります. この数は Euler 数と呼ばれる不変量の一種で, 球面を曲げたり潰したりしてもその値が変わらないことから, 位相 (トポロジー的な) 不変量と呼ばれています.

1960 年代に指数定理と呼ばれる大定理が証明されました. これは図形の上のある種の微分作用素から定まる数と, 上のようにトポロジー的に定まる数が一致する, というもので, Euler 数のような位相不変量の研究に (図形の研究に) 解析的な手法が有用であることがはっきりと示されました.

私は図形の上のある種の微分作用素を図形の一部に局所化する手法について研究しています. これによって図形の大域的な不変量の情報がその一部の情報に局所化されるため, 不変量の研究に新たな道が開かれることが期待されます. 今回は図形の不変量の研究について, 古典的な話題から現在行われている様々な研究まで, 私自身の研究も含めてお話しできればと考えています.

「新粒子探索ーヒッグス粒子のその先にー」

最近「ヒッグス粒子発見」「ノーベル章はヒッグス粒子」というニュースで話題になった「ヒッグス粒子」.

ヒッグス粒子とは, 物質の最小単位であると考えられている「素粒子」のうちの一つで, ヨーロッパで行われている LHC 実験で発見されました. では, そのヒッグス粒子はどのようにして発見されたのでしょうか? またヒッグス粒子を発見したら素粒子物理学は終わりでしょうか?

LHC 実験では陽子と陽子を加速して衝突させ, 衝突後に出てくる素粒子の種類やエネルギーを見ています. これにより, ヒッグス粒子が生成されたのか, 未知の粒子が生成されたのかなどを調べています.

また, ヒッグス粒子の発見で素粒子物理学の全てがわかった事にはなりません. 理論的な研究から, 未だ発見されていない「新粒子」が予言されています. LHC 実験では更なる新粒子の発見に向けた実験と, 多くの理論的な研究が行われています. 新粒子を発見するには闇雲に探すだけではダメで, 多くのゴミとなるような事象から, 新粒子に値する事象を選び抜かなければいけません.

これらの「新粒子探索」という素粒子物理学の最先端について, 理論的側面から最新の結果を交えつつお話したいと思います.

物理としては物性理論専攻に相当する研究をしているが, 上記のような殊勝なことなど一度も考えたことがない方の市民だった. 面白そうだし時間があったら行ってみよう.

2013-11-21 松崎拓也, 岩根秀直, 穴井宏和, 相澤彰子, 新井紀子諸氏による論文『深い言語理解と数式処理の接合による入試数学問題解答システム』

松崎拓也, 岩根秀直, 穴井宏和, 相澤彰子, 新井紀子諸氏による『深い言語理解と数式処理の接合による入試数学問題解答システム』という論文が出たとのこと. 冒頭部を引用してみよう.

あらゆる数学のオブジェクトは Zermelo-Fraenkel の公理的集合論 (ZF) の (保存拡大の) 項だと考えることだできるので, ここでいう「計算」とは ZF の項の書き換えだと見做せよう. では, その計算をどこえめるべきか. 即ち, 問題文の直訳である項を, それと同等であるような無数の項のうちから, どのようなものに書き換えれば問題が「解けた」ことになるのだろうか. それを考えるヒントは, 解答群の中に見いだすことができる. 大学入試を例にとると, 証明問題以外では, 解答に現れるのは, $y = 2ax - a2,(x < 0 \to a = 3) \wedge (x ≥ 0 \to a = 5)$, $a_1 + · · · + a_n >0$ のような限量記号をひとつも含まないような式である. しかも, その式は, 実閉体の理論に三角関数や指数関数などの超越関数をシンボリックにしか利用しないような拡張を行った実閉体の体系 (拡張 RCF) に弱いペアノ算術の体系を加えた体系 ($\mathrm{RCF}^{+ }+\mathrm{PA}$) で表現されるようなものにほぼ限られる. また, 模範解答に現れる式も, 実は $\mathrm{RCF}^{+ }+\mathrm{PA}$ で記述可能な式が圧倒的に多いことに気づく. となれば, 問題文を同等の $\mathrm{RCF}^{+ }+\mathrm{PA}$ の式に変換し, その式から限量記号を消去することが, 大学入試の数学問題を「解く」ことだと考えてもよいだろう.

この先の細かい部分はほぼ何を言っているのか分からないが, 試み自体がとても面白い. こんなこともやっている人がいるのか. 楽しい.

2013-11-21 LerayのBiographical Memories

Leray の Biographical Memories というのを見つけた. あとで読むのと適当に共有するため, とりあえず記事にする.

2013-11-17 GeoGebraで遊んでみたい

GeoGebra の話がまた出ていた. 前も紹介した覚えがあるが, こういうのは何度紹介してもいいだろう.

こういう使い方もあるんですね. 「GeoGebraがすばらしい」 http://kyane.net/2013/11/geogebra/

私も遊んでみたいとは思っているのだが.

2013-11-17 「科研費, まだ良く分からないけど, これが落とせるか落とせないかのボーダーだと考えている」

何かと思ったが爆笑した.

科研費, まだ良く分からないけど, これが落とせるか落とせないかのボーダーだと考えている http://p.tl/fTn1

@tsurunokaraage 無理じゃね…

@SO880 #はい

科研費で落ちる作品をプロデュースする方の P になれるよう, 粉骨砕身していきたい.

2013-11-17 研究室を選ぶ基準としての研究費問題とか学振とか

研究室を選ぶ基準としての研究費という問題が指摘されていた.

これから研究室を選ぶ学部生のみなさん. 知ってるかもだけど, 科研費データベースというのがあって, 教員の名前で検索かければ, 研究費がどれだけあるか, どのような研究で研究費を取得しているかがよくわかります. 参考にしてください. http://kaken.nii.ac.jp/

特にドクターに行く学生には学振も問題だろう. そうした所も見ると楽しそう.

今年うちで出していた学振特別研究員 DC1 三人, DC2 一人の申請は 全勝で通りました. (10/17/2013)

河東研, やばくて爆笑する.

2013-11-17 読み方が分からない外国人名の発音を検索できるウェブサービス「Pronounce Names」: まだ Nachtergaele の発音はない

読み方が分からない外国人名の発音を検索できる「Pronounce Names」というサービスが始まったらしい.

[ウェブサービスレビュー] 読み方が分からない外国人名の発音を検索できる「Pronounce Names」 http://japan.cnet.com/news/society/35040025/ @cnet_japan さんから

記事からも引用しておこう.

また, ユーザー自身が音声ファイルをアップしたり, マイクで録音するためのインターフェースも用意されており, これらの正誤についてユーザーから報告できる仕組みも整えられている. それゆえ人名によっては異なる発音が複数収録されている場合もあるが, 幅広い名前を考えうるだけのパターンで網羅し, なるべく正しい発音を収録しようとするコンセプトが伝わってくる.

対応しているのはおもに英語圏の人名だが, 掲載されているリクエストを見る限りではラテン系やアラブ系の人名も多く, 実際に検索してみてもきちんと対応しているケースが多い. リクエストがあった人名をユーザー同士で補った結果, ボリュームが膨らんで現在に至ったようだが, それゆえデータベースとしては価値が高い. プレゼンテーションやスピーチ, 商談, 会食など, 外国人の名前を発音する必要があるさまざまなシチュエーションにおいて, 強い味方となってくれるであろうサービスだ.

いつも発音を忘れてしまう Nachtergaele を検索してみたが, なかったので号泣している.

追記

dif_engine さんに別の方法を教えて頂いた.

2013-11-09 日本数学会による大学入試数学問題の解答例および採点基準の開示の是非に関する見解が面白い

日本数学会の声明が結構面白かったので共有する.

大学入試数学問題の解答例および採点基準の開示の是非については日本数学会が見解を公表しています. http://mathsoc.jp/publication/tushin/0402/21-23.pdf

特に面白かったのは次の箇所.

  • 記述式試験の採点は「主観的」なものである.

記述式解答の採点者は, 場合によっては下書きまでも参考にしながら, 受験生の意図を忖度し, その理解の程度を量って, 1) に挙げた能力の判定を行う. 従って, 判断は総合的かつ主観的にならざるを得ない.

数学の記述解答とその採点を「主観」と言い切っているのが凄い面白い. 論文や教科書に表れる著者の個性のようなものか. 採点やったことないから分からないのだが, 採点するの面白そうだと初めて思った. 入試のような面倒な場で経験するのは死んでも御免だが.

2013-11-08 Aizenmanらの論文, Random Currents and Continuity of Ising Model's Spontaneous Magnetization

田崎さんから 11/8 に Aizenman が Ising の磁化の連続性の証明を出したことを教えてもらった.

Random Currents and Continuity of Ising Model's Spontaneous Magnetization

Michael Aizenman, Hugo Duminil-Copin, Vladas Sidoravicius

The spontaneous magnetization is proved to vanish continuously at the critical temperature for a class of ferromagnetic Ising spin systems which includes the nearest neighbor ferromagnetic Ising spin model on $Z^d$ in $d=3$ dimensions. The analysis applies also to higher dimensions, for which the result is already known, and to systems with interactions of power law decay. It allows to conclude similar continuity results for one dimensional systems provided the decay is slower than $1/r^2$ (at which the transition is known to be discontinuous). The proof employs in an essential way an extension of Ising model's random current representation to the model's infinite volume limit. This extension enables one to reduce the continuity statement to a simple criterion on the decay of correlation in the Gibbs state with free boundary conditions. For reflection positive models, this criterion may be established through the related infrared bound.

今すぐには読めないが, 忘れないようメモしておこう.

2013-11-07 やたべさん筋の情報: 論理学を学ぶのに大事なこと

今日のやたべさん情報.

「論理学の一般向け本はカントールが発狂したとかゲーデルが餓死したとかそんな話ばかりだ. それでは肝心な話が書けなくなってしまう」 「『肝心な話』とは? 」 「タルスキがセクハラパワハラ大魔王であったこととか, モンタギューが浴室で絞殺死体で発見されたこととか, クリプキが超変人なこととかだ」

やたべさん情報, 本当に役に立つ.

2013-11-05 北大, 戸松玲治さんの安藤-Haagerup 理論入門の講演を聞きたかった

既に終わってしまっているが東大での戸松さんの作用素環の講演は面白そうなので行きたかった.

連続講演

講演者: 戸松玲治 (北海道大学)

題目: 安藤-Haagerup 理論入門

日時/ 部屋

2013 年 11 月 5 日 (火) 午後 3 時 30 分~5 時 30 分 数理科学研究棟 118 号室

2013 年 11 月 6 日 (水) 午前 10 時~12 時 数理科学研究棟 122 号室

2013 年 11 月 7 日 (木) 午後 3 時 30 分~5 時 30 分 数理科学研究棟 123 号室

2013 年 11 月 8 日 (金) 午前 10 時~12 時 数理科学研究棟 122 号室

アブストラクト: 作用素環の超積 ($M_{\omega}$ や $M^{\omega}$) は von Neumann 環の性質の特徴付けや 群作用の分類において重要な役割を果たします. 安藤浩志, Uffe Haagerup 両氏による仕事 (2012 年) は 超積 von Neumann 環についての理解をそれまでよりさらに深めるものです. とくに, 主定理 「超積状態の modular 自己同型群が, modular 自己同型群の超積と一致する」によって, III 型環の超積をようやく「正しく」扱えるようになった, といっても過言ではないでしょう.

講演では, 安藤-Haagerup の論文から, 以下の 3 つを含むいくつかのトピックスを抜粋して, なるべく self-contained に証明をつけます.

  1. Groh-Raynaud 型の超積と Ocneanu 型超積の関係.
  2. 超積状態の modular 自己同型群 = modular 自己同型群の超積
  3. 植田好道氏による問題 ($M$ が full 因子環ならば $M' \cap M^{\omega} = \mathbb{C}$ か?) の解決.

予備知識として, 冨田-竹崎理論, 標準型の理論をあげておきます.

確か作用素環に超積を持ちこんだのは Connes で, Connes 自体元々集合論というか, 超準解析的なことをしていたとか聞いたことがある. 冨田-竹崎理論は量子統計を作用素環的に扱う上での魂だし, 相対論的場の量子論を研究する上でも必須の道具だ. III 型環だし, 何かその辺を駆使する話ということで凄い楽しそう. 超積自体もよく知らないので, その辺も楽しそう.

聞きたかったので残念でならない.

2013-11-05 アンドレ・ヴェイユ 『ゼータ函数の育成について』

はじめに

素数の歌はとんからり bot が非常にアグレッシブな PDF を紹介していた.

私が, Riemann の $\zeta$ -函数と性質を共有する函数を "育成" するときに使って来た一つの特別なトリックをお話しよう.

── アンドレ・ヴェイユ 『ゼータ函数の育成について』 http://goo.gl/p1mR1

引用

まず衝撃的な冒頭の一文を引こう.

今日のような蒸暑い日には, 竪苦しい話より, 動物や植物' を `育成 でもするような話の方がよいであろう. $\zeta$-函数についていえば, 本質的な点は第一に $\zeta$ がギリシヤ語のアルファベットの一つであることで, 第二にその変数が普通 $s$ と書かれることである: $\zeta (s)$.

これが育成に関わることも衝撃的だし, $\zeta$ の本質がこんなところにあることも知らなかった. ただ, 先日の第 4 回関西すうがく徒のつどいで「数論は $\zeta$ が綺麗に書けるようになることからはじまる」という, 数論専攻の方の有り難い話も聞いたので要はそういうこと感ある. 「 Weierstrass の最大の仕事はペー関数に $\wp$ の字を当てたことだという説がある」などの貴重な話も聞いてきた.

ところでこの動物について, Euler の最も重要な発見は, $\zeta$-函 数の函数等式である.

$\zeta$, 動物だったのか.

次の step をなし遂げたのは Dedekind である. これが, bigger and better zeta-function の育成の始まりである. 私自身も近頃は, その育成に, 私の数学的な努力の一部を捧げているのである.

もう 1 つ引用.

Riemann の $\zeta$ とこの Dedekind の $\zeta$ の定義との主要なちがいは, ローマ字とドイツ文字とのちがいであることがわかるであろう. ここでドイツ文字が使われているのは, 長い間ドイツ人だけしか数論をやらなかつたので, 数論の記号にはドイツ文字を使うのが習慣になつているからである.

引用が面倒なので省略するが, Riemann の $\zeta$ の零点に対して, 確率論による大雑把な推測法を説明しているのが目を引く. 確率論と数論の接点, Weil は強く意識していたということか.

次の step は, 非常に面白いものであることがわかり, 現在, 数学的植物学者に対し, 非常に大きな研究分野を繰り拡げているものであるが, それは次のようなものである

数学的植物学者とか, 先程から衝撃的な言葉が連発されまくっているので Weil の偉大さを感じる.

それにしても, $\zeta$, 育成するものだとは知らなかった. $\zeta$ をアイドルと思ってプロデュースすることも考えなければいけない時代なのかもしれない.

2013-10-30 IT教育, 特にプログラミング教育と数学と物理の教育

俺達の Matz がこんなことを言っていた.

政府 CIO や文科省や経産省や総務省の偉い人がいる前で, 「必修のプログラミング教育なんかムダ」, 「教育のIT化もおおむねムダ」, 「IT人材は育成なんかできない」などと言って会議の空気を凍りつかせた人のアカウントがこちらです.

@yukihiro_matz プログラミングの必修化は, 今まで接点が無かった生徒でも興味を持つきっかけになるのではと思いますが, その程度で始めるようではやってもムダということでしょうか?

@awazuhours 必修だと興味がない子には苦痛だし, 興味がある子にはレベルが低くてつまらないので効果薄です. きっかけならプログラマーが主人公の漫画をジャンプで連載する方が 100 万倍効果的. バクマンの IT 版

数学 (と物理) だとどうなのだろう, ということを色々考える.

2013-10-27 量子力学と群の表現論: エネルギー固有状態と群のユニタリ表現の表現空間

はじめに

Twitter で石塚さんとこんなやりとりをしてきた.

まとめ

というわけで簡単にまとめる. 参考文献としてはいつも通り新井先生の本で, 『物理の中の対称性』だ.

7.8 節【物理量の時間発展と保存量】が大体それだ. 正確にいうとこの節ではちょっと違うことをしているが, 次に書くようにすぐ直せる.

Hamiltonian $H$ がある (連続) 群 $G$ で不変だというのは, $G$ のユニタリ表現 $(U_g){g \in G}$ を取って, $U_g H U_g^ = H$ が成立することとする. 書いていて私がやりづらいので, $G = \mathbb{R}$ としよう. ここで Stone の定理から無限小生成子 $T$ があって $U_x = e^{i x T}$ と書ける. (一般の場合は SNAG 定理 を使う.) ここで不変性の定義式を $x \in \mathbb{R}$ で微分した上で $x = 0$ とし, 生成子同士の関係式に変えてみよう. (念のため書いておくと, 定義から Hamiltonian $H$ は時間並進の生成子だ. ) \begin{align} \frac{d}{dx} U_x H U_x^ | = \left{i T U_x H U_x^ - U_x H U_x^ (-i T) \right} |_{x=0} = TH - HT = 0. \end{align} 元の不変性から「生成子同士が交換する」という条件が導かれた. ここで $H$ はもちろんのこと, Stone の定理から $T$ も自己共役であることに注意する. 自己共役というのは要は Hermite 行列ということであって, 交換する Hermite 行列は同時対角化可能という線型代数の定理によって $H$ の固有空間が $T$ の固有空間でもあることが分かる. 元の表現をここに制限すれば表現空間ができたことになる. 以上, 大雑把な説明だ.

線型代数と量子力学

これを見れば分かるように線型代数は量子力学の基本的な認識を形作る上で数学的に大事な役割を果たす. 学部 1 年で学ぶ線型代数で十分だが, その代わり学部 1 年を学ぶことは完璧に分かっていなければいけない. 数学科水準で理解するくらいでないと多分量子力学の理論にはついていけない. 少なくとも物理学科に来る人間なら量子力学を単なる計算の道具ではなく, きちんと学びたいと思っているだろう. そういう人は本当にきっちり線型代数を詰めておく必要がある.

大雑把と言った以上, 細かいこと, そして普通の Schr\"odinger を扱っているときに実際に数学的に起きる問題がある. それを簡単に書いて終わりにしよう. まず本の『注意 7.34 』に書いてあることだが, 普通の意味で可換 ($TH - HT = 0$) だからと言って $H$ が $T$ の保存量になる保証はない. これは大抵の場合 $H$ と $T$ の少なくともどちらかは非有界になるからだ. 非有界作用素については「強可換」という概念があり, 強可換なら問題ない. この辺は『量子力学の数学的構造』や『量子現象の数理』を読んでほしい. 興味があるという向きにはセミナーを開いてもいい. 関東近郊なら何とか出向けるのでご相談頂きたい.

赤外発散の困難

他の問題だが, 物理としては瑣末と言ってもいいのだけれども, 数学的に根本的な問題として $H$ が固有値を持っているかという問題がある. 期待としては「スペクトルの下限である基底エネルギーは固有値であってほしい」が, これが怪しくなる物理現象を (赤外) 発散という. ちなみに私の専門だ. $T$ も同じで, 固有値を持つかどうかが問題になる. 一応, 「固有空間」があることを前提にしているから.

上の問題と同じく物理というより数学の問題になるが, 非有界作用素の取り扱いが必要になるために色々数学的に面倒くさい.

ついでなので書いておこう. 「これは大抵の場合 $H$ と $T$ のどちらかが非有界になるからだ」と書いたが, では両方とも有界になることがあるか, という話がある. それはある意味で山程ある. 量子スピン系を考えるとき, 作用素環的に初めから無限系を考える場合もあるが有限系から熱力学的極限を取る場合もある. 有限系は有限次元なので, そもそも非有界作用素の出番はない.

2013-10-22 何でもランキング「これさえあれば数学を楽しく学べる 20 の娯楽作品」 (日本経済新聞社)

はじめに

数学会のこんなツイートがあった.

何でもランキング「これさえあれば数学を楽しく学べる 20 の娯楽作品」 (日本経済新聞社) http://s.nikkei.com/16s0Iad

実際のランキングで出てきた本などを引用しておこう.

普通の本

1 位 数の悪魔 -算数・数学が楽しくなる 12 夜 230 ポイント

2 位 素数の音楽 190 ポイント

3 位 フェルマーの最終定理 (文庫判) 181 ポイント

4 位 天地明察 (文庫判, 上下) 156 ポイント

5 位 浜村渚の計算ノート (1~5 巻, 以下続刊) 150 ポイント

6 位 シュプリンガー数学クラブ 21 数学が経済を動かす -ドイツ企業編

7 位 ガロアの生涯 神々の愛でし人 (新装版)

8 位 博士の愛した数式 (文庫判)

9 位 すうがく博物誌 (新装版)

10 位 aha!Insight ひらめき思考 (1~2)

漫画

1 位 数学ガール (上下) 470 ポイント

2 位 マンガおはなし数学史 240 ポイント

3 位 Q.E.D. 証明終了 (1~45 巻, 以下続刊) 180 ポイント

4 位 和算に恋した少女 (1 巻, 以下続刊) 170 ポイント

5 位 ニャロメのおもしろ数学教室 100 ポイント

『マンガおはなし数学史』, 凄いつまらなかった. 絵も異常なくらい古くさいし地獄のような「漫談」とかあってどの層に向けて書いているのだろうと不思議で仕方ない. 著者というか原案の 60 オーバーの教官と同年代にはいいのかもしれないが, 私には大変ひどいアレだった.

映画

1 位 博士の愛した数式 (日) 428 ポイント

2 位 ビューティフル・マインド (米) 410 ポイント

3 位 グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち (米) 210 ポイント

3 位 $\pi$ (米) 210 ポイント

5 位 天地明察 (日) 204 ポイント

天地明察は見てみたい. ビューティフルマインド, ナッシュが穀潰しのろくでなしだということだけ知っている.

2013-10-17 19世紀の代数幾何の定理とかUrysohnの補題とか

ytb_at_twt さんのツイートをメモしておきたい.

誰かが言ってたけど, ホントに謎なのは, 数学の定理は不死鳥のように蘇ることがあること. 19 世紀の計算で解いた代数幾何学の定理が, ヒルベルト時代に忘れられ, 計算機時代に復活したとか聞くと数学ってなんなのかわからなくなる.

@ytb_at_twt ありますね, 古い定理や手法などの復活. 数学に限らない気がします. アナログ電子回路でも, 昔に廃ってしまった回路方式が復活したのを見て驚いたことがあります.

@tadamago アナログ回路って職人芸的なイメージがあるんですが, そういう分野では復活とかがあるような気がします.

@ytb_at_twt Urysohn の万有距離空間を触っていた時は, 後のかっこいい存在証明よりも Urysohn 自身のごりごりとした構成法のほうが役に立ちました. おかげで, 仏語を読むはめになりましたが.

@kamo_hiroyasu ああ, それはすごく判ります. きたない証明の方が情報量は多いですよね. 「最大不動点が存在」とか言われて何が起こったか輪からにこととかよくありますね.

かもさんのコメントがかなり気になった. Urysohn の論文はどんなことをやっているのだろう.

そもそものやたべさんのコメントにある定理が何なのかも気になる.

2013-10-15 1文字の記号から展開される世界が見てみたい

瀬山士郎さんによる『数学記号を読む辞典 数学のキャラクターたち』というのが出るらしい.

[2F] 好評発売中 『数学記号を読む辞典 数学のキャラクターたち』瀬山士郎著 1580 円 (技術評論社) これで数学記号の意味・読み・使い方がわかる! 小学校からはじめて, 大学までの数式が読めるようになる, 読み通せる辞典風数学エッセイ. http://pic.twitter.com/K9Rqd807VR

数学やら物理やらをやっていて思うのだが, 文字を 1 文字見ただけでそこから色々な世界が想起される. 例えば, $E$ は次のような色々な意味で現われる.

  • エネルギー.
  • 電場.
  • ベクトル束.
  • 射影.
  • 射影値測度 (スペクトル測度).

これはぱっと思いついたものを挙げただけで, 実際にはもっとある. さらにここから関連する色々な数学や物理の話がある. エネルギーは物理全体で大事な概念だし, 電場というところから電磁気での諸々が想起される. ベクトル束からは幾何の色々の話が想起されるし, ベクトル束上の話として Chern 類やら接続やら, 指数定理やら K 理論やら. 射影とくると作用素論, スペクトル分解を想起するし, 私ならさらにそこから量子力学や場の量子論での色々な話が頭の中を駆け巡る.

記号 1 つ見て何を思うのか, という話, 何かどこかでやりたい. DVD 用の小ネタとしても面白いと思っている. 数学・物理以外でも専門的に学んだ人にとって 1 文字でもそれだけから色々な世界が展開できると思う. その辺を喚起するような作品も作ってみたい. したいこと, たくさんある.

2013-10-09 東大数理の教育事情と私の雑感

はじめに

一部界隈による東大数理の講義・演習に関しての話がまとまるなり何なりしていた. 話題になっている松尾先生からするとやめてほしいのかもしれないが, 東大での実際の教育内容というの, 高校生には参考になると思うし私も非常に興味があるところなので, 備忘録も込めて記録しておきたい.

引用

駒場は楽しそうでいいなあ~ そういえばここしばらく委員長に会ってない.

とある「集合と位相」に対する反応

@Paul_Painleve すごいですねw

@myfavoritescene やる以上は徹底してやる, ということなのでしょう. 学生を一度どこかでこういう形で鍛え上げるのも大切かもしれませんが, 私にはできません. こういう形式でやるなら「集合と位相」だろうとは思います.

@Paul_Painleve @myfavoritescene 厳しくするのは教員側も大変な労力がいりますからねえ....

@Paul_Painleve なかなかできませんよね. プリントを本にして欲しいです.

@ken_math @Paul_Painleve 必修でやると大変なことになりますし. . (などというと怒られそうですが)

@myfavoritescene @ken_math まあ, 昔永田さんは京大の代数が必修だった時代に 3 年生全員を落としたり, たいてい何度も何度も追試をやりましたから. 4 月まで追試やった年もあったんじゃないかな. そういう意味では, 永田 DNA が違う形で受け継がれているのかも.

@myfavoritescene 「集合と位相」は, 数学科でしか教えないこともあって, 日本語の本の種類も豊富とはいえませんし, 演習込みで本になると, 案外と一気に定番になるかもしれません.

永田さん, そんなに凶悪な人だったのかと衝撃を受ける. 私は学部が物理だったので数学の学部教育のスタイルはよく分かっていない. 人にも学校にもよるのだろうとは思う (東大やら京大やらいわゆる旧帝大以外でやったら阿鼻叫喚の様しか想像できない) が, やはりいい大学ではきちんとしたことをやっているのだな, という気はする. 講義に関しては, 東大だと斉藤 (確か恭二) 先生が学部 2 年の代数で「加群というのはベクトルバンドルみたいなものです」とかぶっぱなしたり, 川又先生が関数論で Riemann-Roch まで進むとか, 本質を突きすぎて一致の定理の言明の板書が $f=g$ だけだったとかいう逸話を仕入れている. さすがにここまで無茶をしてそれでまともに人が育つのは東大や京大くらいしかいないとは思うが, 逆にこんな無茶をしても人が育つというのが凄まじい. セミナーなり何なり, きちんと教育すべきところではしているのだとは思うが.

全くの別件だが, 何かの研究集会で川又先生と東北の小谷先生が次のような会話をしていたのを覚えている. 川又先生が「学生が (修論の) 発表をするときには黒板に書いて話すように指導している. 時間が足りないという声も聞くがそれは本質的なところをおさえきれていないからだ. きちんと勘所を押さえておけば板書をしても時間内に収まるはずだし, そこまできちんと準備すべきだ」とか何とか. 小谷先生は「学生は社会に出てからスライドを使った話をする機会は多いだろうし, 学生のうちにそういうのをきっちり練習する機会があった方がいいと思うから, 自分はスライドでもいいと思う」みたいなことを言っていたという記憶.

それはそれとして, スライドで講演されるとメモしきれないし量が多くなりすぎて消化不良にもなるから, できるならスライドやめてほしいとはよく思う. あとで配布する用途には便利だろうけれども. 物理で実験の話だったりすると図なりデータなりがあるからスライドの方が話しやすく聞きやすい面もあるのかもしれない, とか何とかどんどん話がずれてきたのでこの辺で終わろう.

2013-10-08 土屋昭博述, 中井洋史記, 近代ホモトピー論 (1940 年代から 1960 年代まで)

本文

立川さんのツイート越しに美少女でなる小泉さんによる土屋昭博先生のホモトピー論講義のアレがあったので共有しておく.

こんな講義録があったんですね: http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/publication/documents/2008tsuchiya.pdf RT @koizumi_fifty 土屋先生のご講演『近代ホモトピー論 (1940 年代から 1960 年代まで) 』の pdf が非常に面白いので, 某氏や某氏はぜひ一度読んでおくのがよいと思います.

どこだか忘れたが, 深谷賢治先生の何かの共形場に関する文章で「以前ホモトピー論を専門にしていた土屋と A (名前を忘れた) が, その後 20 年を経て共形場で再び出会ったことは偶然ではない」みたいなのがあった. ホモトピー論と共形場の結び付きが云々みたいな話があるのか, と思った覚えがある.

この深谷先生の発言 (文章) について何かご存知の方は是非教えてほしい.

追記

コメントで教えて頂いた.

初出:『数学のたのしみ』第 2 号 (1997 年 8 月), 上野健爾・砂田利一・志賀 浩二編 『現代数学の土壌-数学をささえる基本概念』に 収録の「ホモロジー」の論説の脚注 (22) でしょうか?

引用: かつてともに代数的位相幾何学を研究した, G. Segal と土屋昭博が, 20 年後の ICM 京都で 今度は, 共形場理論の専門家としてまみえたのは, 理由があることであろう.

有り難いことこの上ない.

2013-10-04 超準解析のプロである魔法少女に超準解析で超関数がどうなるかについて聞いてみた

超準解析のプロである魔法少女とのやりとりを記録していきたい.

大学入ってから運動量は酷使するものの力積使ったことないのだがアレはいったい何だったのだろう

@phasetr デルタ関数の近似ということにしておこう

@functional_yy ふと思ったのですが超準解析でδ関数はどういう扱いになるのでしょうか. 超準解析的には普通の関数と思えるのか的なアレです

@phasetr この辺り詳しくはないのでよく知りませんが, 例えば幅無限小高さ無限大で掛け合わすと 1 のパルスを考えれば望みの性質は得らます. http://planetmath.org/constructionofdiracdeltafunction

場の量子論で赤外発散という現象があるが, その数学的解決には「場の量子論版の超関数」が必要だと思っている. 作用素環上の状態の空間でとりあえず定義はできるのだが, それを確率論 (経路積分) でいうとどうなるか, 最近は特に表現論的にもう少し突っ込むとどうなるかというあたりをスピン-ボソンモデルで計算している. 代数解析的なアプローチではどうなるかというのは考えていたが, 超準解析的にどう見えるか考えてもいいかもしれない.

2013-10-04 mr_konn さんの PDF: 『 Measure Problem と可測基数』

こんさんが PDF 的なものを上げている.

Measure Problem と可測基数 http://konn-san.com/math/measurable-cardinals.html レポートで書いた可測基数とか連続体仮説のはなしを加筆修正して公開しました. PDF 版はこちら

時間をひねり出して読みたい.

2013-10-02 男性・理系が論理的とかいう妄言はどこから湧いて出てくるのだろう

何か時々男性理性的で女性は感情的であり, 理系は論理的文系は情緒的でありとかいう異常者を見かけるのだが, 私の感覚で言えば理学部, 特に物理学科・数学科の人間の方がよほど感性だけで生きている. その様子をまとめておいた.

理系が論理的とかいう妄言, どこから湧いて出てくるのだろう.

追記

感性の赴くままに生きていると思っていたので, 非常に衝撃的なコメントだった.

2013-10-02 無限次元トポロジーという魔界

はじめに

tri_iro さんの連続ツイートが面白かったので張っておく.

引用

van Mill の "Infinite-Dimensional Topology" http://www.amazon.co.jp/dp/0444871330/ 読んでたら強無限次元の完備な全不連結空間とか超限次元を持たないけど弱無限次元のコンパクト空間の例とか載ってたのでしっかり理解しとこう.

【疑問】アレクサンドロフの問題 (1951) の一般化:コンパクト可分距離空間が遺伝的弱無限次元ならば必ず零次元部分空間の可算和となるか? いや, どちらかといえば反例が欲しいんですが.

ってかヒルベルト・キューブを可算個の全不連結空間の和として分解するのって無理だと勝手に思ってたんですが可能なのかなー. いや, 零次元空間の可算和にするのが無理ってことは簡単に分かるんですが, 無限次元トポロジー本読んでたら, 無限次元の全不連結空間とか出て来るし自信なくなってきた.

アレクサンドロフの問題の Pol による反例は, 変な強無限次元空間のコンパクト化として作るから, 当然, 強無限次元空間を部分空間として含むわけで, 遺伝的弱無限次元にならないんですよねー

E. Pol "高次元遺伝的分解不可能連続体の比較不可能なフレシェ型を持つ族" http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166864104001695 遺伝的強無限次元カントール多様体の非可算族で, フレシェ次元型が反鎖になっているものの作り方がここに載ってた.

「ヒルベルト・キューブを埋め込めない非可算次元ポーランド空間ってどうやって作るんだよ! 」という疑問から始まり, 自力では構成を思いつかず, 「非可算次元ポーランド空間のフレシェ次元型は唯一なんじゃないか」という楽観的な予想をして色々調べていたけど, 無限次元トポロジーの闇は深かった.

無限次元トポロジー, 魔界.

2013-10-01 河東研の学部 4 年セミナーに使われる本の紹介ページが出ていたので

本文

勝手に例年楽しみにしている河東研の学部 4 年セミナーに使われている本の紹介ページが出ていた.

  • 書名: "A Short Course on Spectral Theory" (Graduate Texts in Mathematics 209)
  • 著者: W. Arveson
  • 出版社: Springer
  • 発行年: 2002 作用素のスペクトルの理論を扱いますが, 関数解析の基本的な内容は ある程度知っている必要があります. 作用素環的な雰囲気があちこちに 出ています.

  • 書名: "A Course in Functional Analysis" (Graduate Texts in Mathematics 96)

  • 著者: John B. Conway
  • 出版社: Springer
  • 発行年: 1990 普通の関数解析から始まります. いろいろなことが書いてあり, 最後の方では C*環の話も出てきます.

もっと専門的な本はこちら.

Currently Available Books on Operator Algebras - Mathematical Theory of Quantum Fields by H. Araki, Oxford University Press, 1999. - An Invitation to C*-Algebras by W. Arveson, Springer 1976. - K-theory for Operator Algebras by B. Blackadar, Cambridge University Press, 1998. - Operator Algebras by B. Blackadar, Springer, 2005. - Wavelets through a Looking Glass: The World of the Spectrum by O. Bratteli and P. E. T. Jorgensen, Birkhauser, 2002. - Operator Algebras and Quantum Statistical Mechanics, Volumes a pdf file supplied by the author - Noncommutative Geometry by A. Connes, Academic Press, 1995. - C*-Algebras by Example by K. Davidson, Amer. Math. Soc., 1996. - Quantum Symmerties on Operator Algebras by D. E. Evans and Y. Kawahigashi, Oxford University Press, 1998. - Local Quantum Physics by R. Haag, Springer, 1996. - Fundamentals of the Theory of Operator Algebras, Volumes IV by R. V. Kadison and J. R. Ringrose, Amer. Math. Soc., 1997. - An Introduction to K-Theory for C*-Algebras by M. Rordam, F. Larsen and N. Laustsen, Cambrige University Press, 2000. - Theory of Operator Algebras, Volumes III by M. Takesaki, Springer, 1979-2003.

コメント

Wavelet の本, あれは本当に作用素環の本だったのか. Bratteli のページにあったので名前だけは知っていたが, 分野を変えたという話で, 作用素環ではない話なのかと思っていた. あと, 以前河東先生から「 Local Quantum Physics は Haag の哲学を書いた本で勉強用に読む本ではありません」というのを直接聞いた. 実際ある程度読んでみようとしたことがあるが, さっぱり分からなかった. 多分今読んでも無理だろう. 荒木先生の本も省略が多くて読めたものではない. その分短いので, 大体どんな話があるかだけ知りたい場合に眺めるのにはいいだろう. 勉強に使える本ではない.

Davidson の本は例がたくさんあって比較的良いらしいが, 内容にムラがあってやたら適当なところややたら詳しいところがあったりすると, いま東北の助教をしている三村さんに伺ったことがある.

Bratteli-Robinson は作用素環の量子統計におけるバイブルなのでその方面の人は読まざるを得ない. ただ, 必要なことが大体全部書いてある分, 雑多と言ってもよく純粋に作用素環を学びたいという人が読む本ではないだろう. 私も全部は読んでいない.

Connes の本もあれで勉強するのはしんどそう. 色々書いてあるので眺めていると楽しいのは間違いない.

Kadison-Ringrose は私も多少読んだ. 普通の関数解析から始まり, Banach 環の話などをしたあと, 作用素環の話題に入る. 作用素環としては標準的だろう. もう少ししっかり読むべきだったとは思っているが, 早く論文読みたかったので適当に切り上げて Bratteli-Robinson に移った. 富山先生に「教育熱心な彼等が書いた良い本だ」と言われた覚えがある.

一番基礎から本格的なのはやはり我らが竹崎先生の書いた三部作だろう. 私は何かの参考で 1-2 度参照しただけで, 全く読んでいない. 以前九大の増田さんの書評で「良い本だが具体例の扱いがかなり後回しになってしまっているので, 詳しい人の指導を受けて適宜例を補いながら読むととてもとてもよい」というのがあった覚えがある. 同じく増田さんの書評で, 竹崎先生の「作用素環の構造」は滅法面白いというのがあった. こちらも読んでみたい. これは軽く眺めたとき, 零れ話的な話で竹崎先生が大発見を逃がして Connes に先にやられてしまった話などが書いてあったり, そういう部分が楽しかった. 何十年も前の話なのにやはり余程悔しかったようで, ちょっとしたスピーチでも良く話を取り上げるようだ. 同じ話を 3 回くらい聞いたことがある. ちなみに今になっても悔しくなるだろう, というくらい作用素環には決定的な話で, Connes コサイクルとか何かその辺の話.

2013-10-01 『古都がはぐくむ現代数学 京大数理研につどう人びと』なる本が出版されるらしいので出たら買う

『古都がはぐくむ現代数学 京大数理研につどう人びと』なる本が出版されるらしい.

「超函数の理論, abc 予想, ……京都の数学研究所を舞台に, 日本の数学者たちが新たな数学を生み出す現場を生き生きと描く」 →内村直之『古都がはぐくむ現代数学 京大数理研につどう人びと』日本評論社 http://www.hanmoto.com/jpokinkan/bd/9784535787445.html

何これ. 超ほしい. 出たら買う. まだ買っていなが, IHES のもほしい. アレ, 確か Frohlich がいるのだ.

2013-10-01 美少女であるところのひさこさんを確率的な意味で善導してきた

これは美少女であるところのひさこさんを善導したその記録である.

確率論とそれる方向に向かっている方のひさこさん.

@ml_hisako 何やってるんですか

@crobert_z フーリエ解析です.

@ml_hisako 測度のフーリエ変換とかあり, 分布周りの大事な話があり, ガウシアンとの関わりも強いのでそれていない説

@phasetr なるほど. ありがとうございます!

@ml_hisako http://ja.wikipedia.org/wiki/特性関数_(確率論) この辺見ると, 特性関数は定義そのものにフーリエ変換を使っているのが分かります. また確率論の基本的な対象, ガウシアンはフーリエ変換と相性がいいのですが, そういうところで陰に陽に使います

@ml_hisako さらに言えば, ブラウン運動を基礎にした確率積分でもやはりフーリエ変換は適宜使いますし, フーリエ変換発祥の地, 熱方程式を解析するときにも Feynman-Kac の公式という確率論の金字塔もあるので, フーリエはやっておいて全く損はない話です

@ml_hisako むしろ, 色々なものが色々に絡んでいくところこそ面白いところなので, あまり確率論に関係なさそう, という理由で他の数学を避けたりしないようにしてほしいくらいです. 確率論からの共形場理論でウェルナーにフィールズ賞が出ていますが共形場は他の数学との相互作用があります

@ml_hisako 前ブログにも少し書きましたが, 数論と関係ある部分もありますし, 確率論の射程も広く深いです

@phasetr なるほど…最近, 勉強してるうちに違う事もやりたいけれど確率論をやりたい気持ちが強いのでやっぱりそれに基軸を定めてやるなのかと疑問に感じました. でも市民さんからアドバイスをいただき, ほかの数学も避けずに学びたいと思いました. (続く)

@phasetr 伊藤清の確率論の 1 巻を調べてみたら特性関数の章でフーリエ変換を定義してました. Poisson 分布を考える際にも必要なんですね. この章をまだ勉強してませんでしたがフーリエ解析の大切さも理解できました. http://pic.twitter.com/0iobVWGWmf

@ml_hisako ついでなのでもう少し色々書いておくと, 例えばフーリエ解析は表現論と深い関係がありますが, 大雑把に表現論とフーリエの交点に調和解析という分野があります. この分野に確率解析を持ち込んで画期的な仕事をしたのが東大数理の新井仁之先生です

@ml_hisako また伊藤清自身がはじめた分野として確率微分幾何というのもあります. ささくれパイセンがこの辺に進もうとしているようですが, 20 世紀数学の金字塔の 1 つ, Atiyah-Singer の指数定理の確率論的証明という話題もあります

@ml_hisako これや量子力学・場の量子論と深い関係がある話ですが, (偏微分) 作用素を積分核を使って表示することで作用素を詳しく解析する手法としての経路積分 (Feynman-Kac 公式) というのがあり, 作用素論との関わりもあります

@ml_hisako 私が知っている範囲で考えるだけでもこれだけの広がりがある分野です. 元々応用から出てきた分野なので, 統計学まで含めて応用向きの話も数限りなくあります. 確率に限りませんが, 何をやっていてもそれる方が難しいでしょう

@phasetr 確率論がこんなに広がりがあると知り, 改めて学びたいなと思いました. 貴重なお話ありがとうございます! また色々教えてください!! 私も勉強して身につけたいです.

数年したら逆に色々教えてもらえるようになるはずだ. 楽しみに待っていたい.

2013-10-01 数学のできるイケメンエリートの育成は急務である

女性の望みと男性の対応, それに対するさらなる女性の対応というのが Twitter でネタになっていたので便乗した.

■女子の望み 数学のできるイケメンエリートを出せ ■男子の対応 数学が出来ないので曖昧な笑顔でごまかす ■女子の反応 人人人 人人人人

線型代数で殴打< YYYYYYYYYYYYY

数学のできるイケメンエリートの育成は急務である.

2013-10-01 小林銅蟲による裏サンデーの漫画「寿司 虚空編」と数学

【なんでずっと数学の話なんだよ! 裏サンデーの漫画「寿司 虚空編」がシュールすぎる】ということで話題になっている漫画があるようだ.

[ねとらぼ] なんでずっと数学の話なんだよ! 裏サンデーの漫画「寿司 虚空編」がシュールすぎる http://bit.ly/16c8zfr

元の記事も引用しておこう.

引用

寿司屋が延々と数学の話をし続けるというシュールすぎる漫画がネット上で話題になっています.

話題になっているのは, 小林銅蟲さんが裏サンデーで連載中の「寿司虚空編」. お寿司をテーマにした漫画かと思いきや, 板前たちが 2 ページ目から突然「グラハム数」という数学の話を始め, 以後ずっとその話が続きます. 中略.

小林銅蟲さんは Web 漫画「ねぎ姉さん」でもシュールさや難解な数学用語の導入が話題を呼んだ作者.

小林銅蟲, 名前を覚えておこう.

2013-09-30 愛情の表現論とは

しょうもない話だが, 愛情表現というツイートを見かけて次のようなことを想起した.

愛情表現, 何のというかどんな表現なのだろう

@phasetr ほしい物リストの中からプレゼント

@sulaymanhakiym すみません. 私が言っていたのはこの意味での表現です

@phasetr この手の文章は漢字の読みなどは問題なく読めるところから, 確実に素人を殺しにきます.

@sulaymanhakiym @phasetr 表現論は誰でもわかる!

もちろん群の表現とかの意味での表現を考えていた.

2013-09-29 コンパクトの訳語, 完閉やら緊密というのがあったようだが何故使われなくなってしまったのだろう

コンパクトの訳語は何かあるのだろうかというツイートをしたら色々教えて頂いた.

いまふと思ったのだが, コンパクト, 日本語に無理やり訳すとするとどうなるのだろう. 昔何か無理やり訳していたりしてそのときの訳語とか何かないの

@phasetr 完閉と読んでいたという話を何人かの先生から聞いたことが

@ysgr_sasakure !!!感謝感激雨霰!!!

@phasetr 緊密と言う訳もありますね

鍵アカウントなので直接の引用は控えるが, 「立花俊一, リーマン幾何学, 朝倉書店では実際に完閉と書かれている」という事も教えて頂いた. 何で使われなくなったのだろう, というのも気になる. どう調べればいいのかよく分からないが数学史でこういう言葉の定義や変遷とか調べるのも面白そう.

2013-09-29 本当は怖いBanach空間

引用

Banach 空間がやばい的なツイートを見かけてこう色々と感銘を受けた.

Banach 空間病的すぎるだろ…

@Lyirth あまりよく知らないのですが, バナッハ空間は多様な微分方程式を制御するために出てきた, 多様なものを許容する空間とかいう話を聞いたことがあります. 作用素環もバナッハ空間ですが, 環構造と対合と特殊なノルムをつけてすらどうにもならないヤバい空間で小粋という理解

@Lyirth 何に書いてあるか思い出したので調べたのですが, $\ell^2$ の原点にあった積分方程式とそのための関数空間, 線型作用素論を展開するためにバナッハが導入した, という話のようです. 志賀先生の「無限からの光芒」 p116-117 に書いてあります

@Lyirth この本, 竹崎先生も名著と呼ぶスーパーよい本で, 私も学部 1 年で細部が全く訳分からないのに読んで感銘を受け, 院で数学に行ったというところで深い影響を受けているスーパー面白い本なので, 未読なら是非読んで下さい

@Lyirth 昨日からやっているサマースクール数理物理でちょうど議論しているところですが, フラットな時空上での相対論的な方だと収束評価が死ぬほどつらくてどうにもなっていないというのが率直なところです. 非相対論ならある程度は制御できています. あくまである程度は

@phasetr 実をいうと覚えてないと思いますが $C^$ 環を始めたのは「ユニタリ化と局所コンパクト空間の一点コンパクト化」が対応しているということを 市民さんから一年以上前に聞いたのが Cに興味を持ったきっかけで C*の門を叩いたこのタイミングでもう一度お話を聞けるのは幸せです.

@Lyirth それ覚えています. 今日河東先生が AQFT の共形場周辺をやっているのは河東先生の他, Longo とその学生くらいしかいないのでもっと増えてほしい的なことを言っていました. 場の理論であるのはもちろん, 頂点代数作用素等色々な数学が絡む面白い所なので目指されては

@phasetr 読みます. ありがとうございます! (ところでもし面倒でなければ教えて頂きたいのですが (基本的な内容で申し訳ありせん) Banach 空間 A=B+C (直和) と書けるときに B が閉→ C は閉って反例あるのでしょうか?)

@Lyirth ちなみにこの本, 前半でカントル集合とか他にもこう色々一見関数解析と関係なさげで基礎的な話が出てきますが, 作用素環だと意外とその辺かなりクリティカルで, カントルに関しては千葉大の松井さんの研究対象にもなっている程度です http://www.math.s.chiba-u.ac.jp/~matui/

@phasetr 嬉しいです! 最近楽しいなと思っていたのですがますます心惹かれた気がします. とりあえず, Murphy の $C^*$ algebra を読んでみようと思います. もし読み終えることができたらオススメの本をお聞きするかもしれませんがそのときはお願いします.

@Lyirth まだ証明つけていないのですが, 日合-柳の「ヒルベルト空間と線型作用素」 P29, 演習問題 12 として【直和ノルム空間 X+Y がバナッハである必要十分条件が X,Y ともにバナッハである】とあるので, 反例ないのではないでしょうか

@phasetr 直和ノルムではなく, $X+Y$ にノルムを入れてそれを $X$ 上 $Y$ 上に制限するときに元のノルムと制限から作られた直和ノルムが同型ならそうだと思います. もしそうでないなら一般の場合にも言えるのでしょうか? (続け様にすみません汗

@Lyirth まだ同型になる場合の証明をつけていないのでアレですが, まずは同型になってしまう理由からきちんと調べたいところです. あとは一般の位相空間や位相群でも類似の問題を考えて様子見したいところです. ノルム空間だと半端に知っているところにひきづられてしまうので

@phasetr 昨日の問題, 否定的に解決されまして人から教えて頂いたのですが, 例えばまず稠密な基底を取ったあとにそれを延長して代数的な基底を作り延長した元から一元除くと, codim1 の閉でない空間と一次元 (すなわち閉) 部分空間の直和になり反例になるようです.

@Lyirth ありがとうございます. 代数的なきていというの, いまだに感覚が掴めないですね. そもそもバナッハで基底を使わないので

@phasetr たしかにまだゲルファント表現あたりまでしか読んでないのですが, 一度も基底を取ってないです笑 一応線形空間なのに基底を取らないというのは変わった感じがします (無限からの光芒買ってきました←

コメント

志賀先生の本はこれだ. ハイパー面白いのでとにかく買って読むべき.

上掲書にもあるが, Banach での基底を Schaudar 基底とか言ったりもするらしい. ただ, 使ったことはない. 作用素環だと, 各作用素の成分表示をするときがないわけでもなく, そのときは「行列単位」という形での基底を取ることはある. 少なくともイメージのレベルではよく行列形式の書き方はするし, von Neumann 環だと本当に必ず射影があるので, それに合わせて「コーナーを取る」とかいう形で作用素を行列表示することもある.

あと, 作用素環専攻だったにも関わらず, 物理への応用まわりと作用素論の勉強にかなり時間を割いたせいで, 本当に作用素環の基礎事項を知らない. GNS とか本当の基礎の基礎と, 物理で使う関係上, 冨田-竹崎理論を (私の物理に必要な範囲内の state レベルで) やった程度. (ただ, たまたま竹崎先生の集中講義があって, weight での定式化も一度やったことにはなっている. ) ICC とか II_1 factor とか, K-理論とか知らないのはかなりやばいのでどうにかしたいとは思うが, なかなか思うに任せない. 先日のつどいで関さんの 290 定理にも興味があったにも関わらず, パン耳パイセンの作用素環入門を聞きにいった理由もここにある. これはこれで十分に楽しかったのでいいのだが, 私の作用素環がズタズタなのは変わらない.

それはそれとして, 初めて邂逅したときは学部初年度でひいひい言っていた学生達が, あっという間に学部 3-4 年になり, 院に行き, とんでもないレベル, 世界最先端にアタックしていくようになるのを見るのはとても楽しい. るの人も 1 年くらいすれば当然私を凌駕するようになるだろう. 何か面白い話を聞かせてほしい.

その他

発端となった Banach 空間のアレの PDF の話とかもある. あとこんなマイコメントもつけておこう.

http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1100-12.pdf 近寄りたくないw

ちょっとるの人がバナッハ空間に関する, 感銘を受けざるを得ない PDF を張っているのであとできちんと読む

@phasetr 私の心はむしろヒルベルト空間と共にあるのだが, もう 1 つの心の故郷として作用素環があり, 一般にはノルム空間 (ノルム環) であってバナッハ空間なので要はバナッハ空間は祈りの対象

その他

あとこの辺も面白い.

@phasetr 読みます. ありがとうございます! (ところでもし面倒でなければ教えて頂きたいのですが (基本的な内容で申し訳ありせん) Banach 空間 A=B+C (直和) と書けるときに B が閉→ C は閉って反例あるのでしょうか?)

@Lyirth 横槍失礼, 直和が単に algebraic な直和の閉包になるというだけの意味なら, closed でない codim 1 subspace はたくさんあるが, dim 1 subspace は常に閉. これらを complementary に取ることは難しくないよね.

@Lyirth 閉包とったほうが安全だけど, この例は片方 dim 1 だし閉包とってないよ. Hilbert でもできるけど, ミソはあえて orthogonal じゃなくとるところさね.

@Lyirth 可算次元 dense subspace をはる基底をとってから, それを延長して代数的な基底を作り, 最後一個以外からはられる subspace は codim 1 だが dense だね. これでどんな Banach 空間でもできる.

@Ara_1729 お風呂で気づきました! 代数的な操作については"いつでも基底が取れる"んですもんね! そこで最初に可算 subspace を貼るのはなぜですか?

@Lyirth 適当に基底とって一個残して subspace 作る時に, closed にならないようにすれば他の方法でも大丈夫

@Ara_1729 なるほど, すっごく納得しました. ありがとうございます, 勉強になりました.

さらっと例が作れるの, 格好いい.

2013-09-29 るのひとによる Gowers の仕事紹介 PDF の発掘

るのひとが, この間 フィールズ賞を取った Gowers の業績紹介 PDF を発掘していた.

http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1100-12.pdf 近寄りたくないw

はじめて Gowers の話を聞いたとき, まず一般の Banach 空間論の研究をやっている人がまだいるということに衝撃を受けた. $C^*$ や von Neumann 環も Banach 空間ではあるが, 作用素環というまた別のラインの話であり, こう色々と衝撃を受ける.

フィールズのときの紹介で, 証明も組み合わせ論など純関数解析的な話以外も駆使したとか書いてあって, 何をやっているのだ的な感じがあり, 戦慄した. 関数解析怖い.

2013-09-28 九大の原隆さんとの初邂逅を果たした一方で論文投稿を勧められる方の市民

Summer School 数理物理で原さんとの初邂逅を果たしたことなどは先日まとめたが, 呟きの方をまとめておきたい. これとかこれ.

明日, 原さんの講義を録音したいくらい原さんの語り口が気に入った方の市民

腹さんについては田崎さんのようなパンチャーを想定していた

@phasetr 腹→原. 数理物理で育ったはずの相転移 P 氏が柔らかいと感じるとは意外

@tetshattori これはひどいタイポ. それはともかく, 何と言うかこう, 田崎さんがかなり攻撃的な感じなので, どういう人なのだろうと思っていて, 語り口が凄く柔らかくて穏やかなかんじだったという程度の意味です. 講義内容についてはきちんとやるなら激烈ハードな内容です

@phasetr 田崎氏と長くコンビを組んでいる時点でおわかりと思いますが. ところでもう投稿しましたか

@tetshattori 投稿まだです. 先週関西すうがく徒のつどいのトークの準備があったのと今の Summer School 数理物理でブラッシュアップされるであろう状勢を見てからきちんと序文を書き直そうと思っていたもので. 新井先生からも是非出版するようにというご意見を頂きました

@phasetr 新井先生にも推奨されましたか. それは心強い

@tetshattori @phasetr 「田崎氏と長くコンビを組んでいる時点でおわかり」というと, 何が? (a) 原氏は温厚な人に決まっている (b) 原氏は温厚そうでも中身は攻撃的だとわかる (c) 田崎も攻撃的に見えて実は温厚 ← これか!

@HalTasaki_Sdot ああ, 悪いけど, どれも違ってて, @phasetr へのリプなので, 原・田崎についての何かではなく, 相転移 P さんの感想についてのある statement を示唆したのです

@tetshattori @HalTasaki_Sdot 何はともあれ, 以前も直接言いましたが, できることはやるのでイジング本で何かあれば適当に声をかけてください. イジング周りはともかく, 現状の非相対論的構成的場の理論周りなら私の知見と能力はまだ使い物になるようだと分かったので

@phasetr その前に論文を投稿することを勧めます

@tetshattori 頑張ります

論文投稿を勧められる方の市民だった. 頑張ろう.

2013-09-27 相転移関連の論文「More is the Same; Phase Transitions and Mean Field Theories」

相転移関連の論文らしいので読みたい.

「More is the Same; Phase Transitions and Mean Field Theories」 初期の相転移の理論について注目した論文らしい

http://arxiv.org/pdf/0906.0653v2.pdf

平均場なので微妙な感もあるが, 初期の相転移の理論をあまりよく知らないので, 歴史的な興味もある.

2013-09-23 解析学とコンパクト性: 特に無限次元空間の単位球の(汎)弱コンパクト性

本文

ブルブルエンジン兄貴と解析学に関するやりとりをしてきた これとかこれ.

やりとりその 1

ヒルベルト空間は, 閉単位球体が点列コンパクトなら直交基底を持つらしいのですが, これ選択公理要るのってやばいんですか??

@alg_d 誰も気にしていないのでは. 作用素環だとちょっとした汎関数つくるのに選択公理つかうようですし, 使うものと割り切っているか気にしないか, という印象

@phasetr この命題が成り立たないとしたらやばいんですか??

@alg_d 応用上, 大体可分なところしか考えない (ただ, $L^{\infty}$ はよく出てくるのに非可分)(作用素環だと普通可分性を仮定)ので, そもそも現行人類が制御できる世界の外側なのでは, という感覚があります

@phasetr やばいと思った

やりとりその 2

そもそも関数解析で閉単位球体をコンパクトにしたいのってなんかあるんですか

@alg_d 「有界閉集合はコンパクト」の類似が使えてこう色々とはかどるからです. 幾何でよくコンパクト多様体ばかり出てくるのと似たような感じ

@phasetr なんかはかどるイメージがあまりわかないレベルで雑魚でした

@alg_d 解析学だと何かしら収束させないと話が進まないわけですが, 有界列であれば部分列くらいは収束してくれるのでうれしいわけです. そういう感じ

@phasetr はー, なるほど!!

2013-09-18 Ian G. Macdonald の Hypergeometric Functions I, II が arXiv に出た: II は q-analog

私は全く知らなかったが, その筋では有名だったらしい Ian G. Macdonald の Hypergeometric Functions I, II が arXiv に出たとのこと. これこれだ. II は q-analog でその筋にはとても貴重な文献らしい.

2013-09-13 多面体の折り紙--正多面体・準正多面体およびその双対

多面体の折紙-正多面体・準正多面体およびその双対という修羅のような本があるらしい.

多面体の折紙-正多面体・準正多面体およびその双対

折り紙というと兵庫教育大学院大学の和田宗士さんによる折り紙の作図可能性に関する論文も想起される. 折り紙, Origami とか言って世界的にも認知されつつあるとかいう話を聞くのであなどれない. 上記の本も読んでみたい.

2013-09-05 「プログラマのための圏論の基礎」なるページがあったのでとりあえず共有

まろやかな人ことホモト P が「プログラマのための圏論の基礎」なるものを発見していた.

たぶん読めない / "プログラマのための圏論の基礎 (仮題)" http://htn.to/ueTycU

該当記事を見ると次のような説明があった.

この記事は, プログラマに向けた圏論の入門記事です. 通常の圏論の教科書より解説を多く, プログラマにとって必要ない概念を削って書いています. 圏論とは何かから始まり, アルゴリズム設計, プログラム意味論および Haskell の free-operational パッケージと圏論との関連について解説していきます.

前提知識として必須ではありませんが, 何かしらの関数型言語に慣れ親しんでいると読みやすいと思います. 本記事では Haskell に特化した話題を出すこともありますが, 多くは Haskell の知識がなくても大丈夫です.

そもそもプログラマに圏論必要なの, というところからよく分からないが.

プログラミング Coq というのもあった. 一応メモしておきたい.

プログラミング Coq

〜絶対にバグのないプログラムの書き方 〜

はじめまして. 今回, Coq のチュートリアルを執筆させていただくことになった池渕未来 (いけぶちみらい) です. IIJ-II のアルバイトとして, 山本和彦先生のもとで, この連載を書きます.

私はこの春から女子大生になります. Coq のエライ人でもスゴイ人でもありません. そうであるからこそ, 読者の皆さんと同じ視線に立って一緒に楽しく Coq を学んでいけるのではないかな? と思います.

2013-09-03 tri_iroさん筋による情報: よく知らないがシータパン予想なる不可解な言葉をマスコミが生み出したらしい

本文

よく知らないがシータパン予想なる不可解な言葉をマスコミが生み出したらしい

1 年半前の記事だけど, これニュースになってたのか

史上最年少 22 歳の大学教授誕生! 難問「シータパンの予想」を解いた数学の天才-中国 http://www.excite.co.jp/News/chn_soc/20120322/Recordchina_20120322011.html

この辺から tri_iro さんのコメントがある.

「デヴィッド・シータパンは, 英国の論理学者, 投資銀行家, 漁師である」 http://en.wikipedia.org/wiki/David_Seetapun 論理学者 ⇒ ゴールドマン・サックスのトレーダー ⇒ 100 億円の損失 ⇒ ラスベガスのギャンブラー ⇒ マグロ漁船の乗組員 という経歴はなかなか斬新ですね.

14 年前の記事ですが, デヴィッド・シータパンに関する記事: 『幾億もの損失を出したポスドク』 http://www.timeshighereducation.co.uk/148896.article

僕は修士時代はシータパンと割に近い研究をやっていて, シータパン論文も引用していたりしたんですけど, なんか無事に生きてるのかどうかすら心配になる経歴を辿っててやばい.

なぜ急にシータパンの話をしたかというと, Woodin の tt-join 定理の論文をどっかで入手できないものかとググってたら, Wikipedia のシータパンの記事が検索に引っ掛かったので, シータパンの記事なんてあったのかーと懐かしんでいたのでした.

『「シータパンの予想」とは, 90 年代に数学者のデビッド・シータパンが作成した数理論上の難問で, これまでに世界中の数学者や研究者が挑戦したが誰も解くことができなかった』. 世界中の数学者…って世界でせいぜい 30 人くらいしか挑戦してないのでは. いや僕も修士の時に挑戦した人の一人ですが

あとこんなやりとりも.

"Seetapun Conjecture" でググっても劉路さんのことしか出てこなくて予想の内容が出てこないのでアレ.

@jun0inoue 研究者の間では「RT^2_2 → WKL?」という専門用語で呼ばれていて, シータパン予想というのは, 記事にするために作った用語かな, と思います. というか大して有名な問題でもないのに, こんなニュースになっていたというのが驚きです.

@tri_iro なるほど. まあでも学部生で未解決問題解けるのは十分凄いんでは…

@jun0inoue はい, マイナーとはいえ超難問を解決し, 劉路さんの論文も良いアイデアと難解なテクニックを組み合わせた素晴らしいものなんですが, 学部生から「修士」「博士」「ポスドク」「助教」「准教授」をすっ飛ばしていきなり「正教授」は, 少し飛び過ぎなのでは……と心配になってます

@tri_iro 昔からそういう人は時々いますし, それはそれでうまく行くんじゃないかと思います.

構成的場の量子論, 厳密統計力学ともにあまり名のついた有名な予想ないし, 竹崎先生いわく, 私の数学上の専門ということになっている作用素環にも名前のついた有名な予想は少ない. 何か名前がある問題, 紹介しやすくていいな, という印象を受けた.

追記

こんな情報も得た.

シータパン予想ってラムゼー関連なのでとりいろさんが詳しいのは予想がつきましたが RT^2_2 → WKL のことだったのですか.

Ramsey, 名前だけは知っているが何者なの, ということで Wikipedia 先生から引用する.

フランク・プランプトン・ラムゼイ (姓はラムジーとも, Frank Plumpton Ramsey, 1903 年 2 月 22 日 – 1930 年 1 月 19 日) はイギリスの数学者である. ケンブリッジ出身. その生涯は非常に短かったが数学・哲学・経済学に大きく貢献した. ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ (1920-23) にて学ぶ. 卒業後, 短期間ウィーンに留学した後, キングス・カレッジフェロー (1924) ・講師 (1926).

ベイズ確率

確率論の主観的解釈 (のちにベイズ主義と呼ばれる) は 1931 年にラムゼイによって提唱される. ラッセル・ホワイトヘッド理論の簡易化 ラムゼーの定理 ラムゼイ数 ラムゼイ・グラフ ラムゼイ問題

哲学

論理哲学論考の書評 ウィトゲンシュタインへの手紙 論理哲学論考の英訳者の 1 人. ウィトゲンシュタインの論文指導

想像以上に無茶苦茶な人材だった. やばい.

ラムゼー理論ということでこんな PDF も見つけた.

ラベル

数学, 数理論理

2013-08-23 加藤文元さんの Foundations of Rigid Geometry Vol.I が arXiv で出たので

加藤文元さんがご自身の Foundations of Rigid Geometry を宣伝していた.

『Foundations of Rigid Geometry』 (Vol. I) がついに arXiv からリリースされました. ここまで来るのに 10 年かかりました. http://arxiv.org/abs/1308.4734

今の代数幾何・数論界隈で 10 年もかかったら基礎の部分から大きく書き直しが発生したことも何度かあるだろうし, 凄まじい. さらに Vol. I というのがやばい. これ, あと何巻続く予定なのだろう.

2013-08-22 「いい数学書とは, 初等的な例が多く載っている本である」なんて聞いたことがない

Amazon 書評で衝撃の意見を見た.

http://www.amazon.co.jp/review/RN778JMC1RCXH/ref=cm_cr_dp_title?ie=UTF8&ASIN=4785314044&channel=detail-glance&nodeID=465392&store=books 【どこかの文献で, 「いい数学書とは, 初等的な例が多く載っている本である」と読んだことがあるが】聞いたことがない

特に初学者向けの本ということなら初等的な例もある程度載せた方がいいが, 大事なのは面白い例やきわどい反例を議論することだろう. 大事な例に関しては 1 章まるまる割いて議論してもいいくらいだし, 実際そういう本もよくある.

とにかくこんな話は聞いたことがないのだが, どの文献にどういった形で書いてあったのか非常に気になる.

2013-08-21 Twitterで辻元先生の複素多様体論講義の言及があったので

Twitterで辻元先生の複素多様体論講義の言及があったのでちょっと呟いてみた.

辻先生の複素多様体論講義, 進度自体もめちゃくちゃだが話題の豊富さもやばい. きちんと読んではいないが. 勉強する本ではなくこんな進展があるのか, という感じで概観するのにはよさそうなというかそれしかない感. 引用されているDemailyのPDFとか読んだ方がいいのでは説

@phasetr なんのシリーズですか…??

@waheyhey サイエンス社のやつです http://www.amazon.co.jp/dp/B009M8UX94 Demailyのはこれ

@eszett66 @phasetr 小林複素幾何とはまた別のことが書いてある感じですか?

@waheyhey @eszett66 アレよりももっと解析的です. たとえば調和積分の楕円型作用素の話が書いてあったり L^2 評価式とか書いてあります

@eszett66 なるほどー. 今度書店か図書館でみてみます!

@phasetr か, 解析…

@eszett66 よ, 読んでみます

この本は複素幾何のトピック集みたいな感じもある. 分量の割にトピックが豊富なのでその分 1 つ 1 つの記述は薄いのでこれで勉強するのはかなりつらそう.

2013-08-20 H. M. エンツェンスベルガー, 岡本和夫著『数学者は城の中?』

『数学者は城の中?』に関する書評があった.

H. M. エンツェンスベルガー, 岡本和夫著『数学者は城の中? 』読了. 1998 年の国際数学者会議で行われたエンツェンスベルガーの講演と, 岡本先生のエッセイ. 数学関係者はうなずく内容なのではないでしょうか. 数学嫌いの人にも面白いはず. なんて思っていたら, あれ, 岡本先生? (S)

Amazon を見てみると, オリジナルは独英対訳本らしい. ドイツ語の復習も兼ねてそちらも読んでみたいところだが, 和訳の方は岡本先生の文章もあるという. どちらを買おうか悩む方の市民だった. ちなみにこの岡本先生は以前 Paul が「月光仮面世代の和夫ちゃんは, その辺はわからないっす.」と言っていた岡本先生だ.

2013-08-19 加藤文元, 廣中クローン説

加藤文元さん, 廣中先生のクローン説があるらしい.

ブンゲン先生は広中先生のクローン説は良い思い出 http://www.chugoku-np.co.jp/kikaku/ikite/ik091215.html

@yagi2013 3 つ比べると モリキ~ヒロナカ~~~ブソゲソ という位置づけのような気がします

"@yagi2013: ブンゲン先生は広中先生のクローン説は良い思い出 http://www.chugoku-np.co.jp/kikaku/ikite/ik091215.html" 比較の対象がスゴい人過ぎる…森毅先生も…

写真が見当たらないのだが, 早稲田の小松啓一先生も廣中先生に似ている気がする. 特に私が把握している限りの廣中先生の昔の髪型と小松先生の髪型が.

全く関係ないが, 学生時代に廣中先生からサインをもらったことを想起した. ちょうど先日整理していたら発掘した.

2013-08-16 有限次元線型位相空間の位相の入れ方: $T_2$ なら一意的

やりとり

線型位相空間としての $\mathbb{R}^n$ に入る位相について次のようなやりとりをし, 文献を教わった.

@phasetr @ilovegalois R^n に対しては実位相線形空間としての位相の入れ方は一意的です. 無限次元の時のみ問題になります.

@hymathlogic 証明どこにあるでしょうか. 読んでみたい

@phasetr 帰ったら返信します. (一意というのは正確には間違いで T_0 なら一意です)

@phasetr http://www.math.ksu.edu/~nagy/func-an-2007-2008/top-vs-3.pdf これなんてどうでしょう

コメント

$T_0$ とはいえ分離公理が効いているというの, なかなか戦慄させてくれる. というわけで Gabriel Nagy による Topological Vector Spaces III: Finite Dimensional Spaces を読み進める.

$\mathbb{K}$ を $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とした線型空間での議論をしている. 線型写像を基礎にして位相を議論していく.

In this section we take a closer look at finite dimensional topological vector spaces, and we will learn that they are uninteresting from the topological point of view.

そうだったのか.

Exercise 1. Show that the only other linear (non-Hausdorff) topology on $\mathbb{K}$ is the trivial topology $\mathfrak{T} = \left{ \emptyset, \mathbb{K} \right}$.

何だと.

Theorem 2. For a topological vector space $\mathcal{X}$, the following are equivalent: (i) $\mathcal{X}$ is finite dimensional; (ii) $\mathcal{X}$ is locally compact.

Hilbert 空間ですら弱位相でないと単位球がコンパクトにならないのでその意味では関数解析を学んでいれば「自明」に近い事実だが, 改めて見ると衝撃的だ.

それはそうと, 山元さん, $T_0$ という風に書いているが, この文献では $T_2$ の枠内での議論だ. $T_0$ で言えるのだろうか. あと, 線型位相は必ず $T_2$ とかいう話だったろうか. 今すぐチェックする気力が出ないので, 今度確かめたいが, いつになることやらということで悲しみ.

$T_2$ というと我らが zena_mp さんに怒られそうな気もする.

2013-08-16 数学書は定理の証明や例・反例は追加パックで買う

Paul 的な何かと nolimbre さんの対話を見た.

先日の飲み会での話. DeNA やグリーがもし数学書を電子出版すれば, 「証明は自明」と書いてるところで「100 円課金で詳細を解説!」と出てくる. 演習問題の解答も全て課金システム. Web3.0 時代の数学書はこうなっちゃうな.

@nolimbre 課金のバランスをうまく考えれば, DeNA 数学シリーズ・全巻無料! (でも, すべて課金すれば一冊 20 万円) とかで大儲けできるかもしれません. 演習問題を試験に出すことにすれば, 7 月と 1 月にはサーバーが落ちる「バルス」本まで生まれることでしょう.

今鍵がかかっているのでアレだが, 以前 nolimbre さんが言っていたのは, 上記のようなタイプのような数学書について「定理の証明パック」とか「例や反例の追加パック」つけよう的なアレだった.

例と反例の追加パックは本当にほしいし, 自分でも何とかしたいと思っている. 単位元のない環に関する話を繰り返し書いているのもその辺を何とか埋めようと思ってのことだ. つどいでの講演もこの辺の話に端を発している.

前, Euclid の幾何アプリとかどうだろうというのを考えたことがある. 定理を武器というか鍵というか, とにかくその辺の何かに見立てて, はじめは公準しか使えないところに定理という鍵をどんどん見つけていって, 合う鍵を上手く見つけて定理という閉じた扉を開けていく, みたいなゲーム. 初等幾何で「直観的に明らかなことなのに何故使ってはいけないのか」というのを, 鍵とかで適当に表現してゲームとして身につけさせる感じ.

これの最大の問題は, 証明の自動採点部分だ. ゲームにするなら人力は無理だから. Euclid の原論の流れに沿った形にすれば多少は何とかなるか, とか思ったが, それを実装する腕, 少なくとも私にはない. 一般の数学でやると, 証明の経路が凄まじく多種多様になるため追いつかないので, 今の時点で本当にゲーム化するなら, 適当に制限を入れないと無理だろう.

IT が進歩したといっても, この程度も実現できていないし, 乙女回路などもいまだ開発されていないし, こういうのを少し考えただけでも科学万能主義とかいうのが異常者の戯言というのが分かる.

最後に これを引用して終わりとする.

.@wingcloud 各節末の演習問題を解くと, ビブンタンやコユーチタンなどの素敵な萌えキャラカードが集められるんです. 後半になると着てる服がしだいに (略

2013-08-13 大学によるオンライン無料講義が出たとしても大学含めしばらく「学校」の意味は失われない

本文

我らが Paul による教育に関するこんなツイートがあった. ちなみに 以前当人から Paul と呼ぶように言われたのでそうした.

オンラインの無料講義はどんどん公開すればよい. もっとも効率化できると思われる大学低学年教育を考えても, これだけ微積や線型代数のわかりやすい教科書・問題集が世にあふれているのに, 独習できてる学生が少ない. その現状を思えば, オンラインですべてが置き換わるはずがないのだ.

かなり前だが MIT かどこかが全講義をオンラインで動画配信しているとかいうニュースを見たことがある. 動画配信にしろ PDF などの配布にしろ, オンラインの教材がいくら充実しても, 少なくともしばらくは従来通りの学校での教育に完全に置き換わることはないだろう. 理由は簡単で, 一人での孤独な学習に耐え切れる人間はそうはいないからだ. また, 従来通りの対面の学習は時間・空間的な強制力が強い. この強制力に代わる何かがオンラインで実現できない限り, 怠惰な人は勉強が進まない. そしてほぼ全ての人間は怠惰なので要はどうにもならない.

後者とも関わるが, 「一人での孤独な学習に耐え切れる人間はそうはいない」という点がおそらく決定的に大事. 友人などと「やはりお前もここは分からないか. 自分も分からなくて困っている」などなど, 色々な形で具体的に共感しつつ共に学べる人が近くにいるのといないのでは精神衛生上大きな違いがある.

やり方にもよるが, オンライン教育だとやりたいところだけやるということにもなりがちな印象があるが, これはあまり良くない. 先々で何が役に立つかは分からない. 現状の専門家が将来に渡って役に立つだろうと思った内容を, とにかく強制で一通り学ぶというのは意味のあることだろう. 情報関係など移り変わりの激しい分野はあるだろうが, 基礎体力として身につけたことはそう無駄にはなるまい.

頭がおかしい人による相当にアレなものもネットには落ちているし, 玉石混交で結構怖いところはある. 大学教員にも時々アレな人はいる. 元はまともだったのに時とともにアレになってしまう人もいる. 大学から出ている教材だからといって無条件に信頼できるものでもない, とか言い出すとまた大変なことになるが, 要は自分の目も磨きつつ一所懸命勉強するしかないということでお茶を濁しつつ無責任に終わりたい.

ラベル

数学, 教育

2013-08-10 ドイツで数学したい

はじめに

8 月はドイツにいたいというアレを見つけたのでちょっとお話した.

引用

8 月はずっとドイツとかで過ごしていたいのだけど, そういう都合の良い研究会はないだろうか?

@AHD21 オーベルヴォルバッハとか. 何があるのか, やっているのか全く知りませんが

@phasetr 初めて聞きました. 調べみましたが, 滞在型研究施設という感じの所でしょうか. 自然に囲まれていて良いですね.

@AHD21 数学の方では有名です. 当然私は行った事無いですが, 環境的にお知り合いにそこに行った方をたくさん見つけられると思うので, そちらに相談してみるといいでしょう. 私も行ってみたかった

@phasetr ありがとうございます. 僕の興味に近い研究会も行われているようなので, 今後アンテナを張っておく事にします.

今ツイート見たら派手にタイポしていて泣いているが, Oberwolfachはこれだ. 一度は行ってみたかった.

2013-08-10 3ヶ月ごとに論文書かないと

号泣した.

論文の謝辞が, アニメキャラになる時代か. 3 か月ごとに論文書かないといけないなあ.

2013-08-09 論文: Garity-Repovš の Inequivalent Cantor Sets in $R^{3}$ Whose Complements Have the Same Fundamental Group

まだ読んでいないのだが Cantor 集合の補集合の基本群を計算してガチャガチャやる論文が出たそうだ. 相変わらずの kyon_math さん情報であった.

Inequivalent Cantor Sets in $R^{3}$ Whose Complements Have the Same Fundamental Group. http://arxiv.org/abs/1307.8111

えー? カントール集合の補集合の基本群だと? そんなの考えたこともなかった. すげー. http://bit.ly/15aQCyh

これを読む時間, いつ取れるだろうか.

2013-08-08 東大のTodai Researchなるページがあった

寡聞にして知らなかったのだが, Todai Research というページがあった. 未発見の素粒子がトポロジカル絶縁体で活躍, 強磁性を保ったまま金属から絶縁体に相転移するしくみを解明などはかなり気になる. 数学のネタもある, または上がってくるはずなので, 注視したい.

他の大学でもあるはずだし, 個人的に北大数学, さらに強く新井先生の動向は気になるのでこう色々とアレ.

2013-08-06 研究室で昼寝をしていたら幽体離脱してしまったので Hilbert 空間に行ってきた

この間 RT で次のような文章が書かれた写真が回ってきた.

いつもどおり, 研究室で心地よい昼寝を楽しんでいた数学者のぼくに驚愕すべきことが起こった. なんと, 無意識に幽体離脱をやってしまったのだ! 肉体を離れて意識だけになったぼくは, 一冊の案内書に導かれ, ヒルベルト空間を-. 数学の概念が文字どおり実体化した奇妙奇天烈な世界を目指した…. "無限"の実像を探求するため. 鬼才の名に値する真の鬼才が怒涛のアイデアで SF と数学の極北を探求する超絶マッド SF.

調べたところ, ルーディ・ラッカーの『ホワイト・ラッカー』というハヤカワ文庫 SF の作品らしい.

最近積読が多過ぎてつらいのだが, これはちょっと読んでみたい. 本当に Hilbert 空間に行けたのだろうか.

2013-08-02 チャーハニスト鈴木と tri_iro さんによるランダムネス対話の記録

チャーハニスト鈴木と tri_iro さんによる対話を記録しておく.

Schnorr ランダムとか Martin-L Ö F ランダムの話というかランダムネスの話, なんべんも聴いてるのに, 未だにぜんぜんわからない…

@mszk_p コーエン強制法とランダム強制法を recursive な世界に落とし込んだ位相と測度の対比からランダムネスを理解すると, 次数絡みのランダムネス研究が何をやりたいのかは分かりやすいと思います (超遠回りルート)

@tri_iro いやなんというか, もっと低いレベルの話でわかってないんですよね… たぶん一番の原因はちゃんと勉強していないからということなのだと思いますが…

@mszk_p 定義とかの話なら, 漠然と「ランダム=ある種の確率 1 の事象全て満たす点」くらいに思っておけばお k ですよ. Martin-L Ö F とか Schnorr とか weak-2 とかはこの「ある種」の部分, つまり「確率 1 事象の部分クラス」を規定する形容詞であって, 枝葉の部分なので.

@tri_iro あぁ, そういうことだったんですか. ランダムの概念をいろんなアプローチで定義することを試みているのだと勘違いしていました…

@mszk_p ある意味では, 「ランダムの概念」をいろんなアプローチで定義しようと試みているという一面もある, というのは正しいのですが, 結局は, 数学的には, それは「確率 1 事象の部分クラス」を色んなアプローチで定義するということに落ち着くという感じです.

@mszk_p たとえば, 「チューリング機械では圧縮不可能である」確率は 1 なので, 圧縮不可能性はある種の確率 1 の事象を表しますし, 「マルチンゲールで予測不可能である」確率は 1 なので, 予測不可能性はある種の確率 1 の事象を表しますし, などなど.

@tri_iro あぁ, そういうところでコルモゴロフ複雑性とかが出てくるのですね.

@mszk_p はい, 「構成的に確率 1 」「コルモゴロフ複雑性の意味で圧縮不可能」「構成的なマルチンゲールでは予測不可能」が全て同値条件であるというのが, いわばランダムネスの基本定理なわけです. 興味あれば去年の僕の講義ノートとかもどうぞ http://researchmap.jp/mu1ce3br9-12518/#_12518

@tri_iro ありがとうございます. 去年は勉強する余裕がなかったので今年の夏休みで再チャレンジしてみます.

基本的に何を言っているのか全く把握していないが, 興味を持つ向きもいるだろうし, 何かあったときにメモを残しておくと私にとって有用になる可能性があるので, こういったことは積極的にメモっておく所存.

2014-08-02 つむじとベクトル場と特異点と

いろいろ教えてもらったのでメモ.

毎度のことだが適当に投げておくといろいろ情報が入ってくる Twitter, 実に尊い.

2013-08-01 第4回関西すうがく徒のつどい

第 4 回関西すうがく徒のつどいに向けて逆問題の勉強を始めたので

はじめに

夏のつどいに向けてちびちび勉強を始めている. のーてぃさんの話を聞いて応用向けの話がもう少しあった方がよいのではないかと思ったので, 逆問題というところで話をしようと思い, 本も買ってみた.

元々「逆問題の数理と解法-偏微分方程式の逆解析」は持っていたのだが, 今回「熱方程式で学ぶ逆問題」を買ってみた. 前者は双曲型と楕円型が主で放物型があまりない感じだったので.

逆問題について

逆問題は講義を受けたことがあるので多少は知っているのだが, 改めて勉強という感じ. 講義の担当教官が実際に企業との共同研究をしている人だったので, 応用上の意味などの解説もあって楽しい講義だった. 物理として当然成り立ってほしいことが定理として出てくるとニヤニヤしてしまうので, 周りにいた人は実に気持ち悪かっただろう. 申し訳なかったと虚空に向けて祈りを捧げている.

ちなみに山本先生については web 記事などもあるのでそれを紹介して終わりたい. 新日本製鐵の溶鉱炉に関する記事 だ. 山本先生主催の逆問題のワークショップなどにも出たことがあるのだが, そこでは数学側とその他 (ととりあえず大雑把にくくっておく) でコミュニケーションが非常に難しく, 言葉遣いを合わせるだけでも 1 年くらいかかったという話も聞けた. 第 3 回のつどいでののーてぃさんの話はおそらく一番質疑応答が活発だったと思うが, 応用側はお金もかかっていて必死だろうから, さらに大変だったろう. 社会や工学に役に立つ話をしろと言われると途端に「何だとこの野郎」という感じになるが, この辺の数学は私が好きな感じの特異性のある話が出てくるので結構好き. 数学的な焦点はその辺に合わせつつ, つどいが対象にしている幅広い層に訴えるような内容にもしていきたい.

第 4 回関西すうがく徒のつどいのアブストが出揃った

第 4 回の関西すうがく徒のつどい の講演概要が出揃ったようだ. 1 日目がこれ, 2 日目がこれだ. 8/7 から一般参加者の募集がはじまるので, 興味がある向きは注視されたい.

まだ中身を見ていない. これからゆっくり見よう. 私は『偏微分方程式の逆問題–拡散方程式の数学と物理と工学』というタイトルで話す. 専門外の話なのに結構突っ込んだ話が必要なので, 準備がとても大変で戦慄している. 頑張ろう.

第 4 回の関西すうがく徒のつどいに参加してきた

9/21-9/22 と第 4 回関西すうがく徒のつどいに行ってきた. 端的にいうと「楽しかったです. 終わり」なのだが, どうしようもないのでもう少し書く. 基本的に普段自分が自覚的に触らないのを中心に聞いてきた.

『代数学における選択公理』

1 日目の 1 発目ではブルブルエンジン兄貴の『代数学における選択公理』を聞いてきた. まとめはこの辺. 代数弱者なので細部がさっぱりだし, 有限生成な (可換) 環なんて普段使わないのでそれ困るの? というところからこう色々とアレなのだが, まあそんなものなのだろうということで適当に脳内処理した. 3 つテーマがあって, 環これと変な $\mathbb{Q}$ の代数閉包と入射性・射影性の話. エンジン兄貴のホームページに PDF が出るそうなので, 興味がある向きは確認してみよう.

まずは話題の「環これ」から始まった. 選択公理なしで変な環 (の存在を許すモデル?) を作ることで, 選択公理ないとやばいという話. Noether と Artin が一致しないとか何とかそういう話. 少なくとも加群については Artin 性と Noether 性が一致しない例があるので, それが一致しないことはそんなに重大なのだろうかとか色々気になるところはあるが, もう少し代数をきちんとやらないと何ともいえない.

その 2 として変な代数閉包の話. 選択公理がないと代数閉包の (一意性) 存在が言えないらしいが, 何かその辺. ZF で変なサポートを持つ $\mathbb{Q}$ の代数閉包 $L$ が作れる (モデルがある?) らしく, そういう話. この $L$, 非自明な絶対値がないとか Galois 群が自明とか相当やばい. 議論の主軸は上記の変なサポートがあるということのようだ.

その 3 は入射性と射影性の話. 一番印象的だったのは, 入射と射影は双対的な概念なのに射影の方が同値条件など何か面倒なことになっているということ. 入射のときと射影のときで, 証明自体かなり違うようで, 単純に双対で写せば簡単に終わるというわけでもなく, 証明自体も射影の方が何か面倒だという話だった. 選択公理についても双対的な概念を導入すればひょっとしたら綺麗になるかもしれないがよく分からないね, ということでその場はまとまったのだが.

ブルブルエンジン兄貴が PDF をアップした. 興味がある向きは確認しておこう.

つどいの発表内容をアップロードしました. http://alg-d.com/math/tsudoi4.pdf

@alg_d 関連ページ

1 発目の裏番組でぞみさんが『外から数学を眺めてみよう』というテーマで話をしていた. もちろん聞けていないのだが, 1 年生なのに積極的に発表をしていて素晴らしい. 今度何か教えてもらおう.

『偏微分方程式の逆問題–拡散方程式の数学と物理と工学』

お昼を挟んで 2 つ目の話は市民講演枠と勝手に自称した市民トークだった. どなただったか失念したが, あとで直接コメントを伺ったところ「あまり逆問題の話はなかった」という実に真っ当なご指摘を頂いた. 申し訳なかった. これもあとで DVD にする予定だが, そのときにはもう少し突っ込んで内容を増やす予定.

数学として突っ込んだ話よりも, 物理や工学で数学を使っていく上で何が難しいかといった話や, 物理・工学的に考えてどうかという部分を中心にしてきた. 例えばシミュレーションに関わる問題として, 解の存在や一意性, 安定性が現実的に決定的に大事になる. 本当にお話だけだが, シミュレーションする上でまともな時間内で計算結果を出すことをも大事であって, プログラミングや計算効率・収束速度についても真剣に検討する必要がある, みたいなことにも触れておいた. あと拡散方程式自体, 本当に現象をきちんと表現しきれているのかという問題とか.

目的としては次のような感じ. つどいで物理・工学系の話題が少ないため, どういうリアクションが返ってくるかまで含めて試験的にやってみたい. 物理の学部生が当たり前と思っているくらいのことで, どこまでが本当に当たり前として通じるかというところを知りたい. 少なくとも超弦関係では物理と数学の交流が活発になっているので, そうした業界に足を踏み込もうという数学の人にとっては物理の人間の感覚を把握しておくと, 交流しやすくなるだろう. 必ずしも伝統的な数学の意識下にない話題でもあり, そうした数学に馴染めない人がこうした境界分野に活路を見出せるかもしれない. また, つどいに来る人の中で数は少ないだろうが, 物理や工学など非数学の人が数学の人と交流するとき, 自分の常識について自覚的に話せるようになれば交流がスムーズにいくようになるだろう, ということもある.

まずは逆問題というのが何かというのを具体例を挙げていくつか説明した. 数値計算を数学方面からやっているうださんが, 話は大雑把には知っているが具体例をあまり知らなかった, と言っていたので, いくつか挙げておいて良かったのだろうと思っている.

拡散に関する物理的な問題の説明とか, 「物理として」何が難しいのかとかそういう話を展開したあと, 解の存在・一意性・安定性が応用上どういう意味があるのかを数値計算を例に説明し, 最後に拡散方程式の解の非現実性とその解釈について話してきた. 物理の人にとっては当たり前なことしか言っていないが, 数学の人にとっては当たり前ではないのだろうと想定した話.

実際に全体的にどうなのかはまだ良く分からないが, 数学の人からも「面白かった」という反応を得られたのでとりあえずよしとする.

あまり突っ込んで感想聞かなかったので, アンケートの内容で反省しつつそれを活かして DVD でブラッシュアップする予定. あと, ばんぬさんとかに必要なら数学的に突っ込んだ話をセミナー的に何かやるので, 必要なら呼んで, という話とかしてきた. あと, ひさこさんに「今回はほとんど数学の話をしなかったが, もっと数学チックなアレについてはリクエストがあれば, できる範囲で答える」的な話もした.

ちょっと話はずれるが, 休憩のとき, 数理物理的なアレをやろうと思っているという学生さんと話した. 構成的場の量子論は基底状態の存在とか物理としてはどうしようもないことをやっていて, 赤外発散などを数学的にきちんとしていきたいという強い数学的モチベーションがあればいいかもしれないが, 「物理」をガンガンやっていきたいという人にはつらいということ, 物理, 特に研究がやりたいなら素直に物理学科に行った方が楽しいはずだということを話してきた. もちろん人が来てくれた方が嬉しいが, やりたいことが何かを考えてそれをきちんとやった方が精神衛生上もいいだろうから.

圏論における再帰的関数

3 限目はうださんの『圏論における再帰的関数』の話を聞いてきた. まとめはこれ. 始対象とか圏論の基本的な概念を全く把握していないので, その辺は結構つらかったが, プログラミング周りで何か理解のとっかかりは掴める的なところを把握してきた. fold と banana が同じものと聞いたのが一番の収穫だったと思う. つどい, 何故か圏の話多い印象を受けるので, もうちょっと勉強したい. 参考文献の本を買おうと思ったが 16,000 とかハイパー高いので泣いた.

何か普通の数学の圏の本を読もう.

懇親会とそのあと

コミュ力低いのであまり色々な人と話せなかった. 2 日目は参加しないというのを後で知った一ノ瀬さんとはもう少し話しておくべきだったと反省している. 講演中に受けたもの含め, いくつか質問も頂いたのだがあまりまともに答えられなかったのも猛省している. あと, 実際に企業で数値解析している方ともお話したのだが, やはり話に力がある. 専門でもなければ実際に数値計算したこともないので, そういう人間の話にはどうしても限界があるというのを思い知った. 次回話をしたらどうかと勧めてきた.

夜, こう講演について色々と反省したし早めに反省点をまとめておかないと忘れてしまう, と思いつつ早く寝ないと明日がつらいというので無理矢理寝たが, 0 時頃に起きたあとに反省をやってしまい, 2 時間くらい寝られなくなったのでつらい.

食パンの耳『作用素環論入門』

2 日目 1 つ目はパン耳パイセンのやつを聞きに行った. まがりなりにも作用素環専攻だったのに何も知らないのもまずいな, と思っていたので. 「入門詐欺だ」という話が Twitter で出ていたが, ぎりぎりまで配慮はできていたと思っている. AF 環だったし「1-2 年でも雰囲気が掴めるように」と思うと本質的にこのくらいのところしかやりようもない気はする. (本質的に) 行列環くらいでもかなり凄まじい話が展開できるということは分かるだろうし, 学部 1 年で学ぶ線型代数だがなめてはいけないということくらいはきちんと伝わっているだろうと思いたい. 幾何でも出てくる (はずの) $K$ 群とか Grothendieck 構成とか, 出てきたキーワードも覚えておいて損はない.

ちなみにこれの裏番組で関真一朗さんの『290 定理』というのがあったのだが, これが評判よかったので是非聞いてみたかった. 実際どちらに行こうか迷っていた. 後で PDF とか読んでも講演者の語り口や雰囲気というのは完全に再現できるものではないので, かなり残念. 休憩時間に少し話を聞いたのだが, とても面白い話をする人だったので, 余計に残念感が高まる. 証明もかなり泥臭く楽しい感じだったらしい. 楽しそう.

なゆた『有限オートマトンの基礎』

2 つ目は『有限オートマトンの基礎』の話を聞いてきた. この間川添愛さんの『白と黒のとびら オートマトンと形式言語をめぐる冒険』というのを読んだのだが, かなり面白かった. その抽象版に触れてみようということで聞いてみた.

正規表現との関係やらプログラミングとの関連が楽しい. その辺結構好きらしいということに気付いた.

eno『カウンターパーティ・リスクと CVA』

最後の話は eno さんの話を聞いてきた. 金融工学とかその辺の話. 一番心に殘ったのは数値計算に関する時間感覚の話だった. 1 分どころか 1 秒すら問題になる状況で, 計算が終わるのに数分かかるのはもはや死刑宣告に等しいとのことで, 実務に携わる人の言葉の重みを感じる. 数学を使う実務経験などは全くないので, その辺の味, 私には出せない.

次回何を話そうかというところを早速考えている. 一応, ニコニコで動画にもしたページランクの話を考えてはいる. 今回横田さんがグラフ理論の話をしていて一応その周りだし, これで使う Perron-Frobenius の物理への応用もある. 90 分講演にして最後, Hubbard の話につなげるという線で物理まで絡める線も検討している. あと, これまた関西だがぶつりがく徒のつどいでも何か話してみたい. DVD とかでこの交通費・宿泊費くらいは軽く賄えるようにしていきたい.

2013-08-01 Turing 次数理論の Martin 予想をめぐる対話

ゼルプスト殿下による Turing 次数理論の Martin 予想をめぐる対話という Togetter があった. さっぱり分からないが, 興味を持つ向きがいる可能性があるのでとりあえずリンクだけつけておきたい.

またまた, 集合論家 DIke さんと計算論家トリイロさんの対話です. 往年のヴィクトリア・デルフィノ問題について. S.Jackson による Projective Ordinals の計算の話題から, Turing Degrees のグローバルな構造に関する Martin 予想の話へと進みます.

集合論界隈, 本当に魔境という感ある.

2013-08-01 数学徒と物理アレルギー

チャーハニスト鈴木による次のような呟きがあった.

PDE の話が書かれた pdf を読んでいたのだけど, どうしても物理っぽい話が出てきてしまって, その辺りから急激に興味が薄れて読むのをやめてしまう. 物理アレルギーが今日も勉強をジャマしている.

数学の人, そもそも物理が嫌いという場合があるのだが, そういう人にどう話をすればいいかというのはいつも気になっている. 私の場合, やっていることの数学的意義の存在がかなり微妙なところにあり, 物理的なモチベーションを抜いたらほぼ何の意味もない話になったり, さらに各種定義の意味が全く分からなくなるということもあってかなり困ることがある.

あと, 物理絡みの話に興味はあるが読んでいる文献で仮定されている素養とのギャップがあってつらい, という状況もあるかと思うが, そういう場合はどう処理するのだろうか. 私は平衡統計・場の理論関連の話がメインだが, モデルが被っているために非平衡の人も参入していたり, 非平衡の論文が参照されていて, 実際に困ることがある. 今まで触った範囲では非平衡といえどもあまり大きく意識を変えずに済んではいるが, はじめは何を言っているか分からずつらかったことなどを想起した.

この辺も何か考えよう.

2013-08-01 Hahn-Banachを使ったMarkov-Kakutaniの不動点定理の簡単な証明

本文

チャーハニスト鈴木と次のようなやりとりをしたのでその記録をしておきたい.

あそうだ, セミナーのノート整理してて思い出した. 【ゆるぼ】 Markov-Kakutani の不動点定理の主張が書いてある pdf (和洋文問わず)

@mszk_p きちんと読んでおらずさっと見つけただけですが http://page.mi.fu-berlin.de/werner99/preprints/markkaku.pdf などはどうでしょうか. ちなみに filetype:pdf として検索すると pdf だけ引っかかるようになります

@phasetr そのオプション知りませんでした. どうもありがとうございます.

PDF は Dirk Werner による『A proof of the Markov-Kakutani fixed point theorem via the Hahn-Banach theorem』というタイトルの文章だ. 2 ページしかなく難しくもないので興味がある向きは読んでみてほしい. 定理も引用しておこう.

引用

Theorem

Let $K$ be a compact convex set in a locally convex Hausdorff space $E$. Then every commuting family $(T_i)_{i \in I}$ of continuous affine endomorphisms on $K$ has a common fixed point.

次の補題を挟んで証明する. この補題を Hahn-Banach を使って鮮やかに示すというのがポイントだ.

Lemma

Let $K$ be a compact convex set in a locally convex Hausdorff space $E$, and let $T \colon K \to K$ be a continuous affine transformation. Then $T$ has a fixed point.

不動点定理, 楽しい.

2013-07-31 小林昭七先生の『顔をなくした数学者』というエッセイが出るので積読を消化して読みたい

書泉グランデ MATH が小林昭七先生の随筆の宣伝をしていたので私も宣伝しておく.

[2F] 新刊入荷! 『顔をなくした数学者 数学つれづれ』小林昭七著 (岩波書店) 50 余年米国の大学で教鞭をとり, 世界的な業績を挙げた著者初エッセイ集♪

ちょうどこの間, 昭七先生の記事を書いたのをググって見つけたという昭七先生の弟君であるところの 久志先生からお問い合わせを受けて久し振りに昭七先生の文章を読んでみたいフェーズにあることもあり, 積読を消化したら買って読みたいと思っている.

2013-07-31 講談社が大栗博司さんの新刊『超弦理論入門』のモニターを募集しているのでここでも宣伝しておく

本文

時間的にかなり厳しくなっているが, 大栗さんがまた本を出すようでそのモニターを募集している.

8 月 20 日にブルーバックスから『超弦理論入門』を出版することになりました. これに先立ち, 講談社では読者モニターを募集しているそうです. 募集締め切りは日本時間で今週の 8 月 2 日正午で, 感想文の締め切りは 8 月 18 日だそうです. https://eq.kds.jp/bookclub/3526/

とりあえず私も応募してきた. 大栗さん, 村山さんが最近頑張っているので, 超弦周りは色々本があるが, 物性周りで何かこういう動きないだろうか. 数学でももっとやってほしい.

例えば秋月康夫の『輓近代数学の展望』などがある.

古い本だが, 一般向け書籍なのに付値論やら調和積分やらで全力で殴りかかってくる. こういう無茶をしてほしい.

無茶してもある程度売れることを示すべく, 私も動画などでどんどん実績作りしていきたい. 早く色々動かないと.

ラベル

物理, 数学, 超弦理論, 代数幾何

2013-07-23 Publications of MSJ 第 13 巻 Gaisi Takeuti, Two Applications of Logic to Mathematics の電子版が一般公開された

日本数学会の次のようなツイートがあった.

Publications of MSJ 第 13 巻 Gaisi Takeuti, Two Applications of Logic to Mathematics の電子版を一般公開しました http://bit.ly/12IITSs

竹内外史の本 (?) だが, 地雷だったりしないのだろうか. まだ目を通していないのだが, ご存知の方がいれば内容についてご教示頂きたい.

それはそうとして, Publications of MSJ のページを見るといくつか文献があるが, 次の 2 冊が気になる.

No.15 Shoshichi Kobayashi, Differential Geometry of Complex Vector Bundles, 1987, xii+305 pp. No.11 Goro Shimura, Introduction to the Arithmetic Theory of Automorphic Functions, 1971, xiv+267 pp.

これ読んでみたい. 数学会, 何とか頑張ってこれを公開してほしい.

2013-07-22 定常状態の熱伝導方程式と楕円型方程式の解の挙動について気になることがあったので

はじめに

ちょっと数学的・物理的に気になるやりとりをしたのでメモ.

やりとりその1

やりとりその 2

あとこれ.

コメント

時間定常の熱伝導方程式が単純に時間項を落とした式として紹介されているが, 物理的に実験と合うのだろうか. もちろん適切な境界条件などの設定も必要だが, 定常状態は方程式自体は放物型の解で, それの時間無限大の極言を取った状態だと思っていたので, 実際のところどうなのか凄い気になる. 境界条件などが同じだからといって, 放物型の解の極限と楕円型の解は一致するのだろうか.

根本的に私の認識がおかしいということももちろんありうる. 機械工学の人の文章らしいし, 実験的な裏付けはきちんとありそうだけれども.

追記

その筋の数学者にコメントを頂いた.

非線型の同じようなタイプのやつ (何といえばいいのかわからない) だとどうなのだろう. とりあえず安いし買ってみよう.

追記

あとで冷静に考えたらまさに指数定理などの熱核の方法だった.

2013-07-22 確率論的な $\zeta$ の特殊値の導出法

ツイート

不勉強と言われたら返す言葉はないのだが, 聞いたことない $\zeta (2)$ の導出の方法が言及されていたのでちょっと聞いてみた.

引用

先週は測度論による $\zeta (2) = \pi^2 / 6$ の証明 今週はガロア理論による角の三等分問題 完全に趣味の領域です.

@sesiru8 測度論によるゼータの特殊値の証明, どんなことをするのでしょうか. 測度論からというのは聞いたこと無いので気になります

@phasetr ルベーグ積分でやりました. 殆ど広義リーマン積分でしたが

@phasetr こんな問題です https://twitter.com/sesiru8/status/359443578470137856/photo/1

@sesiru8 ありがとうございます. このやり方, 知りませんでした. ただ, これを測度論とは言わないのでは, という感じはします

@phasetr 最後の方で無限級数を考え, 積分と極限の交換を利用するためにはルベーグの意味での積分が必要になるのでしょうか. (これを測度論というかは…分かりません. ご指摘ありがとうございます).

@sesiru8 ルベーグ積分なら級数も積分と思えるので単に積分でしょう. 測度論と言うともっと集合演算とか駆使するイメージです. 何か確率論的にぎろんするのか, と思ったのですがそうではないようで. あと, 積分と級数の交換はリーマンでもできます

@phasetr なるほどです.

@sesiru8 具体的なやり方をすぐには見つけられなかったのですが, 確率論的にζの特殊値を出す方法はあるようです http://gcoe.math.kyoto-u.ac.jp/cgi-bin/seminars/.ja.php?type=view&id=770&ca=seminar 挙げられた言葉を見た感じ, 測度論的色彩が強いのかはどうかは分かりませんが確率という感じはします

@phasetr ありがとうございます.

コメント

問題についてはこちらにも書き写しておこう.

函数 $f (t)$ を $f (t) = \left ( \frac{2}{\pi} \right)^2 \int_{0}^{\infty} \frac{1}{1 + x^2} \frac{1}{1 + (t/x)^2} \frac{1}{x} dx$ と定めるとき $\int_{0}^{\infty} f (t) dt = 1$ が成り立つことを示せ. 関係式 $\frac{1}{1 + x^2} \frac{1}{1 + (t/x)^2} \frac{1}{x} = \frac{1}{t^2 - 1} \left ( \frac{x}{1 + x^2} - \frac{x}{t^2 + x^2} \right)$ を用いて $f (t) = \left ( \frac{2}{\pi} \right)^2 \frac{\log t}{t^2 - 1}$ を示せ. 次を示せ. \begin{align} \int_{0}^{\infty} \frac{\log t}{t^2 - 1} dt = 2 \int_{0}^{1} \frac{\log t}{t^2 - 1} dt = 2 \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{(2n+1)^2}. \end{align} 以上の計算より \begin{align} \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{(2n+1)^2} = \frac{\pi^2}{8}. \end{align}

計算すればすぐ分かるのだろうが, 3 の左 2 つの式, 正の実軸上の積分が $[0,1]$ の積分に落ちているのでなかなか凄い.

あと確率論的に特殊値を出す方についても記述を引用しておこう.

リーマンゼータ関数の特殊値 (特にバーゼル問題 $\zeta (2) = \pi^2 / 6$) を初等確率論の手法で求める. 2 つの独立なコーシー分布の商, 逆正弦分布の商, 指数分布の商, ウィグナー半円分布の商のすべてでバーゼル問題, リーマンゼータ関数に関するオイラー公式が導き出せる. また, ルジャンドル展開の手法でもバーゼル問題が解けることや, チェビシェフ多項式との関連なども論じる.

追記

pekemath2 さんが A probabilistic approach to special values of the Riemann zeta functionという論文を引いていた.

@ftksr_sakamuke ちなみにこういうのもあります

http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1590-01.pdf

まだ詳細を追っていないが, これも面白そう.

2013-07-21 数学をテーマにした美術: 方程式のある風景

はじめに

「数学をテーマにした美術館展覧会」というネタが上がっていた.

「数学をテーマにした美術館展覧会」って非常に魅力的だが, 何をかざればいいんだろうか.

ここで「証明図はどうか」というリプライがある.

引用

@ytb_at_twt 数学記号満載の計算式を大量に書いていくライブペインティングが見たいです. 計算過程をとても美しいと思うので. 数学わかりませんが.

@noukoknows うーん…ある種の美ですが…結局はよくあるツリー状のデータ型の一つですからねぇ…

@ytb_at_twt はい, さすがに冗談です (笑) とはいえたまに証明図きれいだなと思うことはありますが・・・!

@dot_taigu 外見的には, Unix とか MacOSX のマシンでコンソール・ウィンドウを開きっぱなしにして 記号列がすごい勢いで進んでいくのを眺めるのと似た体験になりそうですね (もしかしたら数学と計算機の中の記号処理は本質的な違いはないのかもしれませんし).

@noukoknows それはたしかに. 大学祭で「数学者百人の選ぶ『美しい証明図展』」とかやれば人が…来ないか….

@ytb_at_twt 数学とアートに関してはこんな国際的なカンファレンス http://bridgesmathart.org/mission-statement/ があるんだそうですね.

コメント

まだ大量に書いていくライブペインティングとまでは行かないが, 数学用タイプライターアプリはここで作成途中のものを公開している. 最近別件で忙しくて開発に手をつけていないのだが. これ, ニコニコにも投下しておこうと思って忘れている程度にアレだ.

あと, 式自体を鑑賞する試みというと大袈裟だが, 次のような本もある.

物理, 特に量子力学関係の式を鑑賞しようという本だ. 上記タイプライターアプリを作った背景には以前これに目を通したことがあるということも大きい. 相変わらずしたいことは色々ある.

2013-07-21 Twitterまとめ: 単位元のない環

はじめに

Twitter だけだったかブログにもまとめたか既に記憶にないのだが, Twitter でまた単位元のない環に関する話が出ていた.

引用

単位元の存在しない環の例をパッと思いつかない

@supernova3024 なんか重要な例があるそうなのですがわたしは知りません

@primenumber 重要な例があるのか……

@supernova3024 作用素環とかの分野だと結構あるっぽい (あんまり知らない)

@Asabokujo そうだったのか……

@dingdongbell あっ…………

@dingdongbell ありがとう

@Asabokujo @supernova3024 $L^1 (\mathbb{R})$ が畳み込み積に関してなす可換環は単位元を持たないよ

@bean_paste そうなんですか…… (よく知らないです…)

@Asabokujo @bean_paste 0 に収束する数列全体 (演算は項別) という例もあります.

@LT_shu なるほど, lim の分配則 (っていうんでしたっけ) から環になるんですね で{1,1,1,…}はこの元ではないと

@Asabokujo はい. ちなみに, 単位元の存在を要求しなければ, 一般に環のイデアルは環になります. さっきの環は, 収束する数列全体の環 (これは単位元をもつ) のイデアル (lim が環準同型で, その核) ですね.

コメント

私が良く出す例は 2 つある. 1 つは局所コンパクト Hausdorff 空間 $\Omega$ 上, 無限遠で 0 になる連続関数のなす可換環だ. もう 1 つは無限次元 Hilbert 空間上のコンパクト作用素のなす非可換環だ. 両方とも $C^$ 環になっている. 作用素環 ($C^$ または von Neumann) は一般に単位元を持たなくてもいい. 私が実際に触るのはほぼ von Neumann 環 で, 大体単位元の存在を仮定しているし, 具体例だと本当に持っている.

$C^*$ だと単位元の存在を仮定しないことがよくあるようだがあまり触ったことはない. von Neumann 環の場合, 単位元がなくても中心極大射影が単位元の代わりになってくれるため, 単位元の存在を仮定しても一般性が失われないということはある. Kadison-Ringrose にその辺のことが書いてあるため, 興味がある向きは読んでみよう.

追記

コメントを頂いた. まずは dif_engine さんからのコメント.

コメント 1

@phasetr $C[0,\infty)$ 上の積 $f (*) g (x) := \int_{[0, x]} f (x - t) g (t) dt$ を入れたものも単位元のない環です. これが整域である (ティッチマーシュの定理) ことが Mikusinski の演算子法の基礎になっています.

コメント 2

魔法少女からのコメントはこの辺から.

@phasetr 関数 $t \to f (t)$ のことを ${f (t)}$ と書けば, $({1}*f) (t)=\int_{[0, t]}f (\tau) d\tau$. すなわち {1} は積分演算子になっているわけです. この逆元が微分演算子というわけですが, $C[0, \infty)$ にそのような元はありません.

@phasetr $C[0, \infty)$ には単位元がありません. ところが, デルタ関数 $\delta$ を導入し, 形式的に $f\delta$ を計算すると, $(f\delta) (t)=\int_{[0, t]}f (t-\tau) \delta (\tau) d\tau=f (t)$. すなわち $\delta$ は (形式的には) 単位元になるわけです.

@phasetr もちろん $C[0, \infty)$ の中に $\delta$ のような元は存在しません. ところで, 任意の可換整域 (単位元の存在は仮定しない) について, それを含む最小の可換体が存在します. 整数環の直積から有理数体を構成するのと同様にすればいいわけです.

@phasetr $C[0, \infty)$ を含む最小の可換体 $\mathrm{Frac}(C[0, \infty))$ を考えてみましょう. 今や微分演算子やデルタ関数はすべて $\mathrm{Frac}(C[0, \infty))$ の中に入っています. 所謂 D-法 (微分演算子法) を Fourier 変換などを用いずに実現したことになります.

微分作用素やデルタが本当に $\mathrm{Frac}(C[0, \infty))$ に入っているかの確認が必要だとは思うが, 演算子法の概略というレベルで把握した. 知らなかったので助かる. $\mathrm{Frac}(C[0, \infty))$, 定義域固定なのが微妙に気になるが, これはどこまで一般性があるのかというのは気になる.

何か書いておくと勝手に色々教えてくれるという実に楽しい Twitter ライフを堪能している.

ラベル

数学, 作用素環, 環論

2013-07-19 ある環が可換環になる十分条件: Jacobson's Commutativity Theorem

何かよく分からないが, 環が可換環になる十分条件的なアレで Jacobson's Commutativity Theorem という面白そうな話があるらしい. これだ.

x^4=x 以外にも 2,3 で似た様に示せて, 条件が付けば n でもいけるっぽい事示せて何これとか思ったらもっと強い結果が割と普通の証明付きで知られているようだ http://www.mateforum.ro/articole/jacobson.pdf

これは一般の環で言えるらしい. まず $n=2$ の場合の定理の言明を書いておこう.

Lemma 1.1

If $x^2 = x$ for all $x \in R$, then $R$ is commutative.

この 2 を $n$ に一般化できるか, という問題で, 流れとして division ring (和訳忘れた) で示してから一般に示すことになっている. 長くない上にそう難しくもないので, 興味がある向きは自分で PDF を追ってほしい.

ところでこんな記述があった.

We can think of this as a generalization of the well-known fact that every finite division ring is a field.

これを知らない程度に代数弱者の市民である.

2013-07-16 数学と計算機援用証明

はじめに

古田彩さんのこんな呟きがあり, そこに反応したら鴨さんからのリアクションまで返ってきて戦慄したのでメモしておく.

引用

Kepler 予想

Kepler 予想の本はこれだ.

鴨さんからご紹介頂いた文献も読みたいが, 積読がたまる一方でつらい.

2013-07-16 Thurston によるコンパクト・シンプレクティックだが Kaehler ではない多様体の例

本文

TL を見ていたら Thurston の論文が引用されていて, ちょっと「おお」と思ったのでとりあえず読んでみた. これだ. シンプレクティック多様体は解析力学でも出てくる多様体で, 最近は超弦とかその辺との兼ね合いもあって精力的に研究されているという話を聞いている. Kaehler ももちろん非常に筋のよい対象で, 複素幾何の中心的な対象だと聞いている.

シンプレクティックは実多様体, Kaehler は複素多様体だが, 両方とも実次元は偶数なのでこういう比較にはきちんと意味がある. またこれで始めて知った程度に幾何弱者なのだが, 「多様体 $M$ が閉でシンプレクティックなら概複素構造を持つ」ということなので, こう何となく複素構造とかも持ってくれる可能性はある. その辺から「全ての閉シンプレクティック多様体が Kaehler になるか」というのは結構大事な問題だったようだ. ちなみに逆はすぐ分かる. 例えば Wikipedia を見てみよう.

で, 結局反例があるということを Thurston が言った, というのがこの論文のようだ. 2 次元トーラスの微分同相群, $\mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}$ の表現からファイバーバンドルを作って, そのコホモロジーを見るとアウト, という話だった. もう滅茶苦茶に不勉強なためコホモロジーが大体さっぱりなのだが, 反例を作る前に Kaehler の奇次元 Betti 数が偶数になる, という事実が紹介されているので, そこから分かるという寸法.

1 つだけではなくもっとたくさん反例が作れることを注意した上で, 別の予想を立てて論文は終わっている.

この論文が面白いというか紹介したい理由の 1 つとして, Guggenheimer の論文が出たがそれが間違いだった, ということを反例を使って示したところがある. 教科書でも時々あるが, 論文 (研究) レベルになると当然間違いがある可能性があるということ. Fermat 予想が何度も「証明」されたとか「立方体倍積問題の証明」などそういう話を耳にすることはよくあるかもしれないが, 結構色々なところで実際にあるということはもっと注意してもいいかと思った的なアレだった.

あと, 関西のつどいでも話した反例が大事的な話だが, Thurston が反例を作ったのを論文にしているということで, 面白い反例を作ったらそれ自体論文にできるのだ, ということも言いたい.

追記

Kaehler の 奇次元 Betti 数の話は Wikipedia の Laplace 作用素のところから来ることを教えて頂いた. あと森の未知さんのツイートも引用しておこう.

引用

これは学部生や修士課程学生が読むには非常にいい文章だと思う. >RT

件の Thurston の論文, とにかく短くて, 私の記憶だとたったの 2 ページ. すごい結果なら 2 ページで済むというのも知っていていいだろう.

手法も胞体分割でコホモロジー (ホモロジーだったかも) を計算するという, かなりのローテクノロジー. それで 2 ページで本質的に重要な結果を導いたわけでやっぱり Thurston はすごい.

私も低次元トポロジーには疎い人間で Thurston の論文はあれくらいしか読んだことないのだが, あれだけ読んでも Thurston の偉大さは分かる.

Godbillon-Vey 類の連続変化の話も森田先生の本で少しフォローしたことがあるが, あれもローテクノロジーだったと思う. それでかなり本質的な例を構成したんだよなぁ….

三次元多様体論で Thurston の業績が決定的なのはよく聞くし実際そうなんだろうと思うけど, 具体的に何をしたかは結局今も理解できていないような.

ということで皆も読んでみよう. そして基礎知識から私にレクチャーしてほしい.

2013-07-15 九州大学のキャンパスが舞台と思しきゲームがあるという

Twitter で九大がゲームの舞台に使われているという情報を得た. こちらが実際の九大だ.

ゲーム自体はよく知らないし何とも言えないのだが, 九大キャンパス格好いい. 九大数理と言えば廣島先生と松井先生がいるし, 遊びに行ってみたい大学の筆頭に入る. 北大も行きたい.

2013-07-15 数学用タイプライターアプリを作ってみた

本文

typist-jqueryを元に, 理工学 M@ster 用の数学タイプライターアプリを作ってみた. ここに上げておいたので, 御興味のある方はご覧頂き, ご意見など頂きたい.

紙芝居クリエータもいいのだが, アレだと「黒板」と下の台詞を行き来しなければならず, 結構負担があるとかいうご意見を頂いたことがあり, ならば全部「黒板」内でやればいいのでは, という所から着想した.

Github の生態系が分かっていないが, fork とかきちんとした方がいいと思うので, これから色々調べてやってみる. そもそも Git 自体あまりよく分かっていない. バージョン管理というか, 自宅と会社の HOME ディレクトリの共有に使っている感じであって, まずはそこからもう少し何とかしないといけない感ある.

勉強しないといけないこといっぱい. 備忘録としてプログラミング関係の話も書いていこう. 数学関係の人の役に立つことも期待したい.

追記: 2021-06-13

いまとなっては jquery も厳しい. 大量生産できるように, かつ簡単に動画を作り直せるようなプログラムを作りたいが, どうするといいだろうか? 詳しい人に頼んだ方が早いとは思う. 依頼できるだけの資金がほしい.

2013-07-13 本文が 3 行, 5 行の論文があるという

本文

かもさんのファンキーなツイートを見た.

本文がたったの 5 行の論文. http://forumgeom.fau.edu/FG2011volume11/FG201105.pdf

本文がたった 3 行 (参考文献を除く) の論文. http://forumgeom.fau.edu/FG2011volume11/FG201106.pdf

それぞれ, Jo Niemeyer の A Simple Construction of the Golden Section, Michel Bataille の Another Simple Construction of the Golden Section だ. 大体からしてこんなのが論文になるの, という感じすらあって衝撃を受ける.

2013-07-12 『不完全性定理は, 一体, どんな成果をあげてきたのだろうか? と素朴な疑問が浮かんでしまう』

号泣した.

【しかしながら, 技術者である私には, 華々しい成果をあげた量子力学と相対性理論に比べてみると, 不完全性定理は, 一体, どんな成果をあげてきたのだろうか? と素朴な疑問が浮かんでしまう】 http://sakuraimac.exblog.jp/19237670

何で数学と物理比べているの, とか地獄の底から這い上がってきたような意見に目も眩む方の市民だった.

2013-07-11 江田bot

本文

patho_logicさんによる次のようなツイートがあった.

本人知ってると破壊力がすごい.

これは江田botのツイートを受けての呟きだ.

私は背理法は大好きですよ.

江田先生を良く知らないのでアレなのだが, どう面白いのかすごい興味ある.

2013-07-10 やっぱ特異点だべした!

感動した.

2013-07-10 『数とは何かそして何であるべきか』 リヒャルト・デデキント 著, 渕野 昌 翻訳, 渕野 昌 解説

本文

ちくまがまた面白そうな本を出したようだ.

数とは何かそして何であるべきか

リヒャルト・デデキント 著 , 渕野 昌 翻訳 , 渕野 昌 解説 待望の新訳 訳者による充実の解説付き!

「数とは何かそして何であるべきか? 」「連続性と無理数」の二論文を収録. 現代の視点から数学の基礎付けを試みた充実の訳者解説を付す. 新訳.

コメント 1

この辺からytb_at_twtさんが感想を書いている.

現代的視点から読み直すというのはまあ批判はあるじゃろな. でも, デデキンドの実数論を現代的視点から読み直して位置づけ直すというのでお値打ち (フチノさん曰く名古屋弁) な本だと思います. http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480095473/

コメント 2

patho_logic さん分.

「数とは何か, 何であるか」買って来た. フチノ節前回でゲラゲラ笑いながら読んでる. http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480095473/

でも, デデキンドの実数論を現代的視点から読み直して位置づけ直すというのでお値打ち (フチノさん曰く名古屋弁) な本だと思います. http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480095473/

現代的視点から読み直すというのはまあ批判はあるじゃろな.

コメント 3

ytb_at_twt さん分.

デデキント「数とは何かそして何であるべきか」買ってきたー. デデキントの 2 論文が計 110 ページ程度, ネーターやツェルメロの「関連」論文が 50 ページ程度, 訳者解説が 150 ページ程度, 岩波文庫のゲーデル本と同じく原著者ではなく訳者の本. こういうビジネスモデル流行っているのだろうか.

参考書の紹介で「江田 [ 10 ] と坪井 [ 54 ] はともに不完全性定理を中心とした個性的な教科書である. 両方とも著者を個人的に知っていると十倍楽しめる本である」と書いているが, このデデキント本も (以下略).

「ゲーデルの不完全性定理をなかったかのように振る舞う」ブルバキ派について「大震災での原発事故の起こる前の日本では, 原発事故は『起こらないものである』とされていて…訳者にはこれは『第一不完全性定理はなかったことにする』という一部の数学者の思考パターン…と同型」 (p238)

つーか原稿事前に読んだ誰か, こういうの止めろよ.

で, ところで, そもそも「数学の基礎」って何なのでしょうか. どこかに解説があるのかもしれないけれど見つけられない.

あと, この本, 対象とする読者はどういう人なんでしょうか. 50 ページで命題論理から ZF での選択公理とデデキント有限/ 無限の独立性まで書いてあって, すごい知識がないと読めないような気もします. 香りを楽しむ?

僕が独裁者になったら, 「数学の基礎」とは何かの定義を与えることなく, 「数学の基礎付け」について語ることを禁止したい.

私も読みたい.

2013-07-10 数学ができる女性が世界で一番かっこかわいいに決まっている

本文

「【女子学生必見】女性は偽名を使うと数学の点数がアップするという研究結果」というニュースを目にした.

昔から「女性は数学が苦手」だといわれている. 実際, 日本では大学の理系学部に女性が数人しかいないということもある. 「女性は数学が苦手」の原因は, 脳構造に多少の男女差があるためではないかという説もある.

だが, この考えを見直す新しい研究結果が発表された. なんでも「女性は偽名を使って数学のテストを受けると, 男性と同じくらい良い成績を出すことができる」というのである. そう, 女性はもともと男性と同じくらい数学の才能があったのだ!

どういうカウントの仕方をしているか知らないが, 「学部で女性数人」は確かに異常に少ない感ある. あと【女性はもともと男性と同じくらい数学の才能があったのだ】というのが地獄っぽい.

どこまで本当か知らないが, とある男性の教官が「男は若い頃に爆発的に業績を上げるような感じだが, 女性はコンスタントに良い業績を上げている, という感覚がある.」みたいなことを言っていた記憶がある. 性差はあるかもしれないし業績の評価をどうするかという問題はあるが, 一番不可解で頭に来るのは「頭のいい女性はかわいくない」とかいう風潮だ.

頭のいい女性, 特に数学が出来る女性は格好いいに決まっているので, 上記のようなことをいう異常者は全員問答無用で殴り倒していきたい. こういう馬鹿者共を殲滅していくことを 相転移プロダクションのミッションとしてかかげていきたい.

追記

次のようなコメントを頂いた.

オタクとリア充の壁なのかどうかは知らないが, 同じ感覚世界に生きていない感じはある.

2013-07-09 一ノ瀬さんからのご要望に応えて: 数理物理って何?

数学から見た数理物理

本文

一ノ瀬さんから次のようなご要望を頂いた.

@phasetr 最近少し数理物理に興味があります. 具体的にどんなことしてるのか知りたいです… あと解析力学と量子力学とか, 分野間にどんなつながりがあるのかとか知りたいです. と, 注文が多くてすみません (~_~;)

コメント

ということで色々書いてみる. まずは数理物理について適当に色々書いて, その後, 知る限りの物理の分野間の繋がりについて書いていきたい.

まず数理物理だが, あまりかっちりした意味があるわけではなく, 結構適当な使い方をされていることに注意してほしい. 人によって意味が大きく変わるので, まずをそこを説明する. 私が見た範囲での話であって, 人によって大きく意味が変わると言った以上他の使い方をしている人もいるかもしれないので, その辺も考えて読んでほしい. むしろ違う使い方などあれば教えてほしい.

大きく分けると次のような感じになる.

言っている人 実際の意味
数学者 (物理が元ネタの) 数学
-------------- ----------------------------------------------------
物理学者 (物理が元ネタの) 数学
当人は物理と思っているが傍から見ると数学
数学者も認めるレベルで数学的にきちんとした理論物理
数学色が強い理論物理 (数学的に厳密ではない)

数学者が「数理物理」と言っていたらそれはただの数学だ. いいとか悪いとかそういう話とは関係ない. 物理学者が考えている問題を数学的にきちんと考えてみたら数学的にも面白い, という程度. 神保道夫先生のソリトンの本に「専門は数理物理」と書いてあったが, こういう意味だと考えていい.

物理学者と興味がかぶる部分はもちろんあるが, かと言って完全に重なることは基本的にない. 数学者は数学者だからだ. 最近は超弦関係でこういう話が多いが, もう少し古い話では微分方程式関係がこの感じ強い気がする.

よく「現象が実際にあるから微分方程式に解があるのは当たり前で下らない」とかいう, 物理として考えて気が狂っている発言をする社会性溢れる者がいるが, 極端なことをいうとこの辺: 物理学者からしたらあまり興味のない話でも数理「物理」と言ったりするし, むしろ大抵これ, と印象. 興味の向きがあくまで数学なので, 基本的に数学者の言う数理物理は数学であって物理ではない. ちなみに, 以前河東先生が「物理の人に『数理物理と物理を名乗るなら何か意味のある数字出してみろ』と言われて凄く困りました」と言っていた.

念のために何故「現象が実際にあるから微分方程式に解があるのは当たり前で下らない」が物理として狂っているかを書いておく. 微分方程式を立てた (現象をモデル化した) からといって, そのモデルが本当に自然を適切に表現できている保証はない. 例えば現象として明らかに拡散なのに波動方程式が出てきたらそのモデル化はおかしい. 素粒子で適切な対称性を持つべきモデルなのにはじめから Lagrangian の対称性が壊れていてもいけない.

単に方程式を見ただけではそれが現象を記述できている保証がどこにもない. 数学的に解があるとかないとかいう以前の問題で, 特に研究フェーズなら物理として真剣に考えるべき問題だ. また, 仮に物理として適切なモデル化であったとしても, 解を持つかといった純粋に数学的な話とは何の関係もない. 少なくとも一時期, 場の理論で発散の困難などと言われていた話では, 解 (基底状態) の存在が本当に問題になっていたので, 物理として解の存在が非自明なことは実際にある.

こういうこと言う人, 自分の立てたモデルはいつも必ず現実を適切に説明できているという全幅の信頼を置いているのだろうか. 頭おかしいとしか思えないし, 実際おかしい. 「物理ではいちいち解の存在まで考えない」ということなら分かるが, それならそう適切な表現を使うべき.

別件だが, 以前宇宙論をやっていた友人が「論文読んで研究室のゼミで発表したら『そのモデル, 解がないこと分かっているからやっても意味ないよ』って言われて愕然とした」というようなことを言っていた. この辺の意味や真偽について久徳先生に聞こうと思っていてずっと忘れている.

脱線しまくっているが, 数学者のいう数理物理は数学ということだ. 一方で物理学者のいう数理物理はバリエーションがある. 次回はそれについて書こう.

ラベル

数学, 物理, 数理物理

物理から見た数理物理

本文

まずは分類を再掲しよう.

言っている人 実際の意味
数学者 (物理が元ネタの) 数学
-------------- ----------------------------------------------------
物理学者 (物理が元ネタの) 数学
当人は物理と思っているが傍から見ると数学
数学者も認めるレベルで数学的にきちんとした理論物理
数学色が強い理論物理 (数学的に厳密ではない)

今回は物理学者のいう数理物理について書いていきたい.

まず数学者と同じで「物理が元ネタになっている数学」という程度の意味で使う場合がある. 何となく超弦関係で「 (現時点で) ほとんど実験にかけられないような話で, 物理的な正当性を確かめづらいところで物理というのはどうなの」的な文脈で多少否定的な用法が多い印象. あと「物理ではないが (数学としては) 面白い問題ではある」という物理学者の意見表明にも使われることがある印象.

思い出したが, Gottingen の物理にいる Buchholz という代数的場の量子論という数理物理分野の有名人がいる. 河東先生が「彼は『お前のやっていることは物理ではないと言われて, 自分は物理学科ではいじめられている』と言っていましたが, それはそうでしょう. 彼がやっていることはスタイルから中身まで数学ですよ」と言っていたので爆笑した. そういうレベルで数学的にガチガチにやっていても物理を自称する人もいる. この辺は「当人は物理と思っているが傍から見ると数学」と言えそう. Buchholz と並べると即死レベルのアレだが, 私も多分この辺.

「数学者も認めるレベルで数学的にきちんとした理論物理」だが, Lieb や学習院の田崎さんあたりは比較的この辺ではないだろうか. 物理としても面白い結果をきちんと出している (であろう) ことを前提にしている. Lieb くらいでも数学の人で「彼は修士くらいの学生でも知っていることを知らなかったりする」という発言を聞いたことはある. 私は Lieb の興味は基本的に物理だとは思っているが. 物理としても意味があって数学的に制御できることというの, 私が近い分野では非常につらくて, 強磁性の Hubbard モデル関係くらいならぎりぎり何とかなるのでは, という感覚. 田崎さんを挙げたのもその辺の兼ね合いがある. スピン系だと物理の方が遥かに進んでいる印象はあるが, スピン系の連続極限からの共形場ということになると, むしろ数学的色彩が極めて強くなるという印象はあるもののその辺の物理自体をよく知らず数学からの話ばかり目にする方の市民だったので詳細不明.

数学的に厳密ではないが数学色が強い理論物理, 大体超弦を想定している. 他に何かあるだろうか. よく考えたら「数学的に厳密ではないが数学色が強い理論物理」という一文自体よく分からない.

前もつどいのときに少しお話したのだが, 物理を数学的にきちんとやるというのはもの凄く大変で, 分野によっては本当に何もできない. もちろん私が近いところしか知らないが, 何とかなるところはスピン系とか Hubbard など格子系での相転移くらいではなかろうか. 量子力学・量子統計力学からの物質の安定性は数理物理というか Lieb 周辺しかやっていないようで, その辺は私は物理的にも極めて大事な研究だと思っているが, 純粋な物理の人がどう思うかはよく分からない.

あまりろくな話を書いていない気がするがとりあえずこんなところで.

追記

次のようなご感想を頂いた.

数理物理って物理から逃避したくなった時にやる数学のことじゃないの? http://phasetr.blogspot.jp/2013/12/blog-post_19.html

いいとか悪いとかそういう話ではなく「数理物理」というのはこういう (否定的な?) 使い方もされることがある. 数学だからといっていつもいつでも厳密な言葉の使い分けをしているわけではない. 「可積分系」などもかなりふわっとした使い方をする. グレンラガンのカミナの兄貴のように「お前の信じる数理物理を信じろ」という感ある.

ラベル

数学, 物理, 数理物理

2013-07-08 Ruby に超準解析のライブラリがあって激しい衝撃を受けた

本題

HTML5+JavaScript で高校生向けの数学・物理の簡単なアニメーションが作れるので, その関係もあって最近プログラミングを本格的に勉強したいと思っている.

そして全く別件で今色々あって Ruby の勉強を迫られている. そしてまた色々あってるびきちさんに 何かいい本がないか伺ってみたら次の本をおすすめされた.

読んでいたら, 数値の章のラストに超準解析のライブラリがあるとかいう衝撃的な話が出てきたので早速検索した. それがこれだ.

今のところインストールしても使う用途がないので 何もしていないが, びっくりした. ライブラリなら複素数やら行列はいくらでもあるだろうが, 超準解析ライブラリがある言語, 他にあるだろうか. Haskell 勢とか頑張ってほしい.

追記

別記事にしてしまったが, dif_engine さんからご指摘を頂いている.

こちらも参考にしてほしい.

追記 2

上の指摘をこちらに追記しないままにしていたら, dif_engine さんから再度指摘を頂いた.

で, これ.

とりあえず, こちらにもきちんと記録・引用しておく.

追記 3

2021 年時点では数学+プログラミングは Julia を使うのがよさそう. Python ももちろん役に立つ.

追記 4

この間 Ruby に超準解析ライブラリがあるのを知って衝撃を受けた話をしたが, それについて dif_engine さんにちょっと教えてもらったことがある. 少なくとも今の私にはあまりよく分かる話ではないが, 面白いと思う人はいるだろうから転記しておこう.

この辺のツイートからはじまる.

Ruby に超準解析のライブラリがあって激しい衝撃を受けた http://goo.gl/fb/mReIe よく分からない数学

@phasetr tar.gz が落とせなかったのでソースを見ていませんが内部計算に RationalPoly を使ってるとあるので, 1+epsilon の処理のときには形式的に epsilon の有理式として計算してから epsilon=0 と代入してるのではないかと想像します.

@dif_engine ありがとうございます. 超準解析全く知らないのですが, 修羅っぽい印象を受けました

@phasetr 順序体 K の正の部分 P に対して, ∀ p ∈ P p < T として, それと整合するように多項式環 K[T] を順序環とみなし, その商体を考えると t := 1/T が無限小とみなせて…というような話が昔からあるようです. (超準解析の前から)

適当にネタを投下しておくと色々教えてくれる人がいる. いい時代だ.

追記 5

Twitter で詳しい方から次のような情報を頂いた. 鍵アカウントだったので許可を頂いた上で転載する.

実数体の任意の拡大順序体は無限大元と無限小元を持ちます. 既に説明されているように, このライブラリでは, 有理式体 R(X) が R の拡大順序体と見做せるので, それを利用しています.

これは超実数体(もう少し正確にいえば計算機で表現できるような実数体の部分環の超準化)とは全く異なるものです. ですから超準解析ライブラリやちょう実数のライブラリという説明は(開発者がそのように説明しているものの)不適切です.

定義をはっきりさせないといけないが, 【実数体の任意の拡大順序体は無限大元と無限小元を持ちます】というのがやばい. 他の (順序?) 体でも同じことは起きるのだろうか. 実数の魔界ぶりを改めて認識させられる.

追記 6

編集したらさらに情報を教えてもらったので.

なお無限大と無限小の定義は次の通り: 任意の正の実数よりも絶対値が大きい元を無限大元, 任意の正の実数よりも絶対値が小さい元を無限小元という.

あともう 1 つ.

あの日見た数体系の名前を僕達はまだ知らない。

追記 7

どんどん情報が集まってくる.

ラベル

数学, 数学教育, 物理, プログラミング

2013-07-04 『俺が一番気に入らない定理』とか見てみたい

本文

Twitter でこんなツイートを見かけた.

『世界で最も美しい 10 個の物理方程式』みたいなタイトルの本はよく見かけるので 『世界で最もきたない 10 個の物理方程式』みたいな本もバランスをとるためにも出してほしい

前, ブログだか何だかで早川尚男さんが「非平衡は魔境で, 到底美しいとは思えない変な話ばかりだ」みたいなことを書いていた覚えがある. 色々な人に聞いても分野ごとにとびきり綺麗なのが出てくるばかりだろうから, やはり汚い方で色々聞いてみたい.

あと, 『世界で最も美しい~』は正直食傷気味なので, 『俺が一番気に入っている方程式・定理』とか, そういう個人の感慨を前面に押し出す方向で何かやりたい. 前, 数学徒が愛した定理というのをまとめたが, 『俺が気に入らない定理』というのもいいかもしれない.

逆に, 一番お気に入りの 1 つの定理を延々と語り続けるというのも面白そう. こんな拡張があるとか, 数学の進むべき方向を示したとか何とかを 5 時間くらい話し続ける動画とか.

追記

早速このようなご意見を頂いた.

涙を禁じ得ない.

追記 2

数学書房から『この定理が美しい』という本が出ている.

2013-06-20 「順序数解析という魔境」について tri_iro さんに悪魔のような文献を教わったので共有したい

はじめに

最近忙しくて Twitter 上で応答できなかったのだが, いつも通り覚書としてこちらに書いて残しておこう.

tri_iro さんから次のような情報を頂いた. ありがたい限りだ. お願いしたわけでもないのに色々と教えてくれるというの, 最高に楽しい.

転載

宣伝:2013 年 8 月 5 日 (月)-7 日 (水) に慶応の三田キャンパスで数学基礎論サマースクール 2013 が開かれる http://goo.gl/fb/ZIxUB よく分からない数学

@phasetr 言及されていることに今更気づいたのですが, 順序数解析は, なんというかもはや順序数云々を越えたもっとやばい魔境ですね. https://en.wikipedia.org/wiki/Ordinal_analysis

@phasetr ゲンツェンによる「順序数 $\epsilon_0$ の下での」 ペアノ算術の無矛盾性証明は聞いたことがあるかもしれませんが, それをスタート地点とする話で, このあらい先生の解説 https://www.jstage.jst.go.jp/article/sugaku1947/57/2/57_2_113/_article/-char/ja/ を見ると, その魔境具合を体感できます.

メモ

ゲンツェンやばい. そして折角なので後者のを軽く眺めてみた.

事実, 後に Hilbert の 第 10 問 題 (Di0phantus 方程式の可解性の決定) の Matijasevic-Robinson-Davis-Putnam による否定的解決により, CON (T) は Diophantus 方程式が自然数解を持たない $\forall \vec{x} \in \mathbb{N} \left[ p (\vec{x}) \neq 0 \right]$ という命題と同値である.

P.2 の記述なのだが, Diophantus, そんなにやばい問題だとは知らなかったので, まずそこで驚いた.

同じく P.2 の無限降下法, 名前が格好いいので一度は使いたいと思いつつ使ったことがない学生生活だった.

ひとは詩しく思うかもしれない:ここで言う構成的とはいかなる謂か? 数学的に正確に定義されているか? 例えばある公理系 T で形式化できることが構成的てあるための必要十分条件となるような T があるのか? これに答えて曰く:Hi1bert'spr0gram のような grandprogram において, その開始以前にこのようなことを問うことは単なる怯儒というべきである. 何が構成的か, あるいは得られた証明が構成的か否かは, 証明が得られてから吟味すればよいし, その価値は得られた洞察から判断するほうが生産的である.

それはそうなのだろうが, (基礎論の) 素人の素朴な感覚としては, やはり真っ先に考える.

P.3 の次の記述がよく分からなかった. 明らかなのか.

この簡易化のステップが終了して $0=1$ の数学的帰納法なしの証明が得られたら, 矛盾. なぜなら数学的帰納法なしの矛盾に至る証明があり得ないことは明らかだから.

あと, 次の一文, かなり切れていると思う.

このステップの有限性を保証するのに超限順序数を導入する.

有限性を保証するのに超限何とかを担ぎ出すとか並大抵の発想ではない. もちろん, 言葉の上で有限の対として無限があるのだから当たり前といえば当たり前ではあるが, 改めて言われると衝撃を受ける.

P.6

直感を欠いたままで組合せ論的につくられたものが, 後に発見された集合論的直観を先取りしていたのは驚きである.

何かびびっと来るものを感じたので抜き出しておく.

P.7

ところで, このような集合の定義の仕方は, 数学では Borel 集合族 $\mathscr{B}$ の定義が典型的である.

戦慄した. あと. この辺からもう何を言っているのかほぼ完全に分からなくなっている.

P.9

竹内外史の (brutal な) テーゼに従おう

これ, 無駄に格好いい一文だ

P.12

6 結 語 しかしなにより謎なのは, 何故 Gentzen (そして竹内外史) は, 不完全性定理の後に無矛盾性証明に挑んだのか, ということだ. 不完全性定理のために, そのような証明がいかなるものであれ, その認識論的価値は大幅に減じたことが確かなのに.

胸に来る一文だ.

結論からいうと, 新井敏康先生は面白い文章を書く人だったということが分かった.

2013-06-18 何度も言っている線型代数と量子力学と関数解析と数理物理的なアレ

イケメンエリート野郎のオペのコン P が 次のようなことを言っていた. それに対していつも言っていることをまた言ってきた. オペのコン P にももう何度も言っている気がして申し訳無く感じてアレだった.

量子論を物理として理解するなら, 連続な場合は離散的な場合のアナロジーでいいので線形代数で十分では?

@kbl_30 大分前に Amazon の線型代数入門の書評にそれ書いておきました

@phasetr ねくちゃんが関数解析から攻めようとしていたので

@kbl_30 @phasetr アナロジーではなく関数解析でないとこまる, という場面はやはり出て来るのでしょうか.

@Yonus_Mendox @kbl_30 困るときは物理が悪い (物理的考察が甘い) と判断するべきです. むしろ関数解析をきちんと使って物理的に満足いく議論が出来る方が珍しいくらいなので, その意味でも数学的にどうこうというのはおすすめできることではありません

@Yonus_Mendox @kbl_30 ただ無限次元の線型代数として把握していれば色々なことを 統一的に理解できて楽な部分はあると思っているので, その辺について今度東大かどこかで話したい (そして動画化したい) とは思っています. 忙しくてそちらの話は全く進められていないのですが

@phasetr なるほど. 言い換えれば, 物理にとって関数解析は「無限次元の線型代数」に過ぎないので, 大抵はアナロジーで充分, ということになりますか.

物理を数学的に厳密に, とか息まく新入生などがいるかもしれないが, そういう人はとりあえず私を見よう. 物理も数学も中途半端な出来損ないの醜いキメラだ. こうなる覚悟がある者だけ数理物理に来よう. 来るなら歓迎はするが勧めることはできない.

2013-06-10 (おそらく) 数学教育に関する takey_y さんの発言を記録しておく

この辺からはじまる takey_y さんの発言を備忘録として記録しておく. ちなみにまとめるにしても Togetter の方が楽とか view も多いとか色々あるが, それでもブログに残しておくのはあとで自分で読み返すときに楽だからだ.

昨夜ちょっとだけ話題になってたことに参加すると, 今年の阪大数学の第一問. 僕は, あの感じの問題が増えるのは良いことだと思っています. この辺りの話は, だいぶ前にブログに書きました. → http://bit.ly/14NhoY0

承前) 昔の文章はこっぱずかしくて読み直すのが辛いのだけど (笑), 考え方はあまり変わってない. (というか同じ話をずっとしてるなあ・・・

承前) 昔の東大の加法定理の問題にせよ, 今年の阪大の第一問にせよ, 定義を聞いて証明させる問題というのは, 数学に携る人々の内部からも外部からも非難の声が上がる可能性が高い. 高校数学は所詮ニセモノなんだから, 論理体系のあり方に抵触するような出題はすべきでない, という声もあると思う.

承前) そういう非難の声を受けるリスクを背負ってでも出題してるわけで, どうしてそういう出題をするのか, という点が大事だと思う.

承前) 大学入試の数学の問題を「小論文」のようにする可能性はあるだろうかな, ということを少し前から考えていたのだけど, ちょうど「数学文化」の最新号では巻頭で宇野先生がこのことを論じられてた. http://bit.ly/14NjfMB

2013-06-07 楕円曲線暗号のサーバー証明書, 導入第 1 号とのことだが, 楕円曲線暗号のサーバ証明書が日本で出ていなかったことを知る無学な市民だった

楕円曲線暗号のサーバー証明書, 導入第 1 号は「小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記」という記事を見つけた. もちろん小悪魔女子大生とかはどうでもよく, 楕円曲線暗号というところが大事.

楕円曲線暗号のサーバー証明書, 導入第 1 号は「小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記」 (2013/6/7 14:48)

株式会社シマンテックは 6 日, 楕円曲線暗号 (ECC) 対応版 SSL サーバー証明書が, 株式会社ディレクターズの運営する商用 Web サイトとブログに導入されたと発表した. シマンテックは 2 月に商用の ECC 対応版 SSL サーバー証明書の提供を開始したが, 今回が導入第 1 号となる.

恥ずかしながら不勉強で知らなかったのだが, 楕円曲線暗号のサーバ証明書, (日本では) まだ稼動していなかったようだ. 楕円曲線暗号, 理論的には結構前だと思うのだが, どのくらい実装されているのだろう. ググれば Wikipedia とかに書いてありそうだが, そこをさぼる市民クオリティを発揮していきたい.

2013-06-04 茂木健一郎御大の衝撃的なほど下らない見解を見た

はじめに

本当にしょうもない見解があった.

ツイート

らぞ (6) ネットがあれば, 大学は要らないか. よっぴーとの間で, あっという間に「いらない」と結論が出ちゃった. OCW を見て, ネット上で議論し, google scholar で論文を読み, 動画で上がっている lecture を見れば, へぼ大学の授業よりもよほど密度の高い学びができる.

コメント

数学なら一応 arXiv があるとはいえ, 現実問題としてアクセスできない論文はたくさんある. それはそれとして, こういう意見がついていた.

@kenichiromogi (1) 知識はウェッブ上で充分得ることができると実感します. ですが, 学問・研究のトップアスリートの本気レクチャーを生で受け取る「質感」と 自分が揺り動かされる「衝撃」はウェッブで得られるのでしょうか? レクチャーの内容自体はウェッブ上でむろん視聴できる.

@kenichiromogi (2) 先日 6/13, 望月新ー教授 (ABC 予想を解決したと言う論文をウェッブ上に発表した数学者) の講演を生で聞き, 内容はほとんど理解できない (私は実験物理系の企業技術屋) にも関わらず, 「強烈な質感」を感じて, 私も自分の勉強をさらに深めようと決意.

@kenichiromogi (3) 望月先生の講演は, 訥々淡々としながらも「磁力」がありました. この体験の場となった東大 (駒場) と, 京大 (望月先生の所属) に感謝しています. 話し手の持つ「強い磁力」は, 現状の技術では, ウェッブより「生の出会い」がはるかに影響力を持つと実感.

正にこれで, 現状の技術では場の空気が共有できない. 何でもいいが, スポーツ観戦や音楽のライブがいいのだろうか. 確かにこれらは家でも見られるが, 会場で一体となる臨場感は違う. あと, 気持の上で「わざわざお金を払って見に行った」というのものめりこむのに大きく効くのだろう.

こういうしょうもない Web 万能論, 本当に下らない. 少なくとも現状の Web, 満足できるレベルの講演録とかあまり置いていない印象ある. 私が学生の頃, たまたま就職の面接がある日に Fields 賞を取った Yau が講演に来ることが分かり, 分野は全然関係ないが生で Yau を見てみたかったから, という理由で交渉して面接日ずらしてもらったことがある. この間, 理研で理論物理学者の展示をやったという話があったが, それと同じで現状, 生というのは気持の上でまるで違う.

茂木御大は「自分はそう思わない」というのならそれはそれでいいが, こういう部分に気が配れないというのでは web 上の学習に未来はない. 最近企業でも e ラーニングというのが浸透してきているが, ここでも 1 人で黙々と画面に向かった学習をするということで, モチベーション維持がかなり問題になっていると聞いている.

強烈なモチベーションが勝手に湧いてくるタイプの人間ならいいが, 一般ではそうもいかない. 数学は心でやるものだと何度だって言い返せる.

大学のいいところは個人で頑張らなくても, 専門家が本や人, 環境が揃えてくれるのがいい所. 金と時間をかけてでも整備する価値がある.

2013-06-04 論文紹介: Buchholz-Grundling の Quantum Systems and Resolvent Algebras

はじめに

Buchholz-Grundling による survey, Quantum Systems and Resolvent Algebrasが arXiv に出ていた. これだ. 以前から resolvent algebra の論文は出ていたが, それに関するまとめらしい. Resolvent algebra を使うと何となく計算がうまくいきそうな感がするので, 使ってみたいと思っている. また Araki-Woods algebra の代わりに resolvent algebra を使った場合の自由場の BEC を調べることで親しんでみようとか思っているのだが, 滞りまくっている.

Resolvent algebra というのは大雑把にいえば非有界作用素のレゾルベントを取ることで有界作用素にし, その有界作用素から作用素環を作るという話. Araki-Woods algebra は非有界 (自己共役) 作用素 $A$ からスペクトル理論を使って $e^{iA}$ (有界作用素) を作り, これから作用素環を作るという話. レゾルベントの方が色々振舞いがいいのに何故かほとんど研究されてこなかったが, 何か色々な性質がよくて嬉しいから皆もやろう, ということで論文になっている.

アブストを見るとすぐ出てくるが, 量子系の運動学的な構造をモデル化するのによいらしい. この辺まだあまりよく分かっていない.

Introduction

Introduction では Segal の場の作用紡の話からはじまる.

作用素 $\phi (f)$ から作る多項式代数は自己同型による意味のあるダイナミクスをあまり持っていない. 実際それを不変にするのは多項式 Hamiltonian だけだ.

ということらしい. 知らなかった.

非有界作用素だと扱いが面倒なので, 指数の肩に乗せて有界にする. これは良く知られた Weyl algebra だ.

実は有界作用素にして Weyl 環にすると, 表現論的に元の CCR algebra とは違う環になる. 新井先生の本, 『量子現象の数理』の 3 章では量子力学のときに Aharonov-Bohm に即してこれが議論される. 興味がある向きは見てほしい.

小嶋先生と岡村さんの本『無限量子系の物理と数理』についてちょっとした裏話をこの間の竹崎先生80歳記念ワークショップで聞いてきた. これは秘密だが大した話ではない. あと近いうちに小嶋-岡村本の簡単な紹介もしたい. むしろ緒方芳子や九大の松井先生や荒木先生がやっている量子統計の方が有名かもしれない. そちらはそちらで一応私の守備範囲だ. でも一応別件としておく. 後で少し触れはする. ### 作用素環と構成的場の量子論 それはそれとして作用素環と構成的場の量子論だ. 構成的場の量子論の初期では実際に作用素環を使った議論が中心だったようだ. ある時期から Ising モデルと $\phi^4$ モデルの関係を使い, 確率論と経路積分を駆使した議論が中心になっていったと聞いている. ここではその古い形を紹介する形になる. 古いとは言っても非常に基本的なフレームワークでしかも特に量子統計では現役で動いている. 構成的場の量子論の文脈で一時期あまり使われなくなったというだけの話. はじめに簡単に概要を言っておくと, 場の量子論で (Schwartz 流の) 超関数論をやろうという話だ. 簡単に超関数論を復習してそれから本題に入る. やや別件で佐藤超関数論の方が通常の超関数論としてはより自然という話がある. 佐藤超関数の場の量子論版みたいな話は今のところあまり想像できない. 何か面白く役に立つ話があれば面白いとは思ってはいる. (Schwartz の) 超関数論は適当な関数空間を作っておき, その位相的双対空間として超関数の空間を定義する. 具体的にはコンパクト台を持つ無限回微分可能な関数の空間 $C_{\mathrm{c}}^{\infty}$ や急減少関数の空間 $\mathcal{S}$ の双対空間とする. 特に $\mathcal{S}$ の双対となる超関数の空間の元は緩増加超関数と言われる. 場の量子論への応用という面で大事なのは適当な関数の極限が超関数になってしまう現象の理解だ. 熱核 $f_t (x) = e^{-x^2/2t} / \sqrt{2 \pi t}$ を取る. これは無限回微分可能どころか解析的な関数だ. しかし, $t \to 0$ の極限で Dirac の $\delta$ に収束する. この極限をつかまえるには考える集合を大きく取る必要がある. この大きな集合が双対空間になる, というのを発見したのが Schwartz の偉いところだ. ### 場の量子論 ここで場の量子論に戻ろう. 場の量子論は数学的な特異性が強いので, 生の形 (物理的にあるべき形) で数学的な議論をいきなり始めるのは難しい. そこで一旦適当に扱いやすくする処理をする. 非相対論的な文脈ではそれを赤外正則化とか赤外切断と呼ぶ. 切断つきで議論をしておいて最後に切断を外す極限を取って物理的にあるべき理論とする. ここでちょうど上の熱核の $t \to 0$ と同じ現象が起きる. 特に基底状態について考えよう. 赤外切断つきのモデルでの基底状態を $\Psi_{\kappa}$ とする. $\kappa \to 0$ の極限を取るとこれが元の Hilbert 空間からいなくなってしまう. 正確には任意の部分列を取っても $\Psi_{\kappa}$ が 0 に弱収束してしまう (ことがある). 熱核 $f_t$ の極限が $L^2$ では 0 になってしまうのと同じことだ. これを 0 にしないためにはどうするか, 大きな空間をどう準備するか. ここで作用素環を使う. 確率論 (経路積分, 汎関数積分) を使う議論は私の手に負えないのでここでは省略する. 大きな空間についてはこう考える. 場の量子論にしても Hilbert 空間を使っているからそこを基本にする. 基底状態の極限を考えることにしているのでまず Hilbert 空間のベクトル $\Psi$ を取る. ここから $\psi (A) := \langle \Psi, A \Psi \rangle$, $A \in \mathcal{B} (\mathfrak{H})$ として汎関数を取る. ここで $\mathfrak{H}$ は場の量子論の Hilbert 空間で, $\mathcal{B} (\mathfrak{H})$ は $\mathfrak{H}$ 上の有界線型作用素全体を指す. これはもちろん $C^*$ 環だ. 普通の超関数と違って元の Hilbert 空間を線型に含んでいるわけではない. しかし形式的に含んでいるとみなせるような線型空間が作用素環上の汎関数として構成できた. 実際にこの作用素環上の汎関数としての汎弱収束で意味のある極限を取り出すことが作用素環を使った議論の魂となる. 本当はここからの GNS 構成定理による表現論までセットにして考えることが大事で, しかも量子統計的にも決定的に大事なのだがそれは置いておこう. ちなみに私の修論もこれで書いたくらいで本当に大事. 今書いている修論の有限温度の発展版も GNS でさらに Araki-Woods 表現を持ち込むというところをやっている. ### 代数的場の量子論 代数的場の量子論だと作用素環的にもっと難しく, そして作用素環的にももっと意味のある議論をしている. 今の構成的場の量子論では作用素環に貢献することはあまりできなさそうだが, 議論の核としてなくてはならない存在ということはできる. 構成的場の量子論に作用素環を使うのは, 確率論を使った議論よりも数学的な予備知識がいらず, かなり速いタイミングで研究を始められるのがいい. 作用素論の基礎は当然必要だがそれは確率論を使った議論でも同じだ. 正直, 代数的場の量子論と違い人にお勧めできるような分野ではないし大勢で取り組むような分野でもなく, さらに地味で派手な結果が出るような分野でもないが, 細く長く続けていくべき分野であると思ってもいる. ## 2013-06-01 一文字一文字に万感の思いを込めて式を書こう:不等式の記号に思いを寄せて ### 本文 高校までは不等号というと $\leqq$ 一択だったが, 大学に入ると $\leq$ や $\leqslant$ という不等号が出てくる. 特に $\leqslant$ は大 2 病的な感じで使いはじめる者もいたことだろう. また書く量が減るから, ということで $\leq$ を使う人もいる. $\leqslant$ も斜めにシャシャッと書く感じで書きやすそうだし, そういう意味で $\leqslant$ を使う人もいそうだ. だからどうということも特にないのだが, 私は $\leqq$ を愛用している. ご多分に漏れず $\leqslant$ を使ってみようと思ったこともあるのだが, 癖でずっと $\leqq$ を使い続け, 結局そのままだ. 今になって思うと画数も多いこの不等号 $\leqq$ がとても気に入っている. 基本的に記号や式は万感の思いを込めて書くものだ. 苦闘の末得られた結果を綺麗にまとめているときにはなおさら. わざわざ下に棒を 2 本つける感じが, 私の心の底に深くたゆたう不等号への愛情を表現しているような気さえしてくる. あと, 少なくとも物理と数学では 1 つ 1 つの記号をとても大事にする. 記号 1 つとってもそこから読み取れるメッセージというのがある. 例えば物理で $E$ と出てきたらエネルギーなり電場なりに良く使うが, そこから一気に関連する諸概念, Hamiltonian や Lagrangian, 磁場や Maxwell 方程式やらが頭の中を駆け巡る. 数学でも同じ $E$ で射影なりベクトルバンドルなり, 色々ある. 関連性を意識させるべく, 何となく似ている概念には同じ (ような) 文字を使うことだってある. あまりいい例ではないが, 時間を表す変数 $t$ に対し, 量子力学では虚時間 $it$ に $\tau$ を使ったりする. 記号 1 つで簡単に聴衆を混乱させることだってできる. 1 文字 1 文字に万感の思いを込めて文章を書こう. 最後に解析学徒の心の故郷, 不等式の園への誘いとして我等が Hardy-Littlewood の『不等式』を紹介して終わろう. ### 追記 [黒木さんからコメントをもらった](https://twitter.com/genkuroki/status/341521802004164609). せっかくなのでこちらにも転記しておこう. > @phasetr http://phasetr.blogspot.jp/2013/06/1-1.html > ぼくも「≦」派 (「<」の下に「=」をしっかり書く派) です. > 手が勝手に書いてくれるのに無理して略す必要はない感じ. ## 2013-05-31 Longoの60歳記念コンファレンスのスピーカーが豪華だが参加できない悲しみを謳う方の市民 Twitter でも流れていたが, [河東セミナーニュース (2013 年)](http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/news.htm)でも富山のダークマターのポスターが話題になっていて笑った. > 3 つ下にコンファレンスポスターのことを書きましたが, > 富山での物理のコンファレンスポスターはこれであることを知りました. > なかなか強烈ですね. (5/31/2013) そのポスターは[これ](http://ppwww.phys.sci.kobe-u.ac.jp/~newage/cygnus2013/poster.pdf)だ. PDF で 50 MB 程度あるので閲覧には注意されたい. いわゆる実 2 次元美少女が前面に出ている. 最近の素粒子やら宇宙論では 3 次元複素多様体が出てくるので, 一応実 2 次元と断りを入れておいた. 河東先生のコメントで出ている 3 つ下の Longo の 60 歳記念コンファレンスのポスターは [これ](http://cmtp.uniroma2.it/13MQP/poster.pdf)なのだが, Invited speaters が豪華で羨ましい. 覚えているかどうか分からないが, 一応知人と一方的に思っている谷本さんが入っていてさらりとやばい. 博士でイタリアに行って多分 Longo についたのだと思うので, その縁だとは思うが. Haag が入っていて, まだ現役なの, という感じでスーパー怖い. 荒木先生や竹崎先生もまだ現役とはいえ, 一応 Haag は荒木先生の指導教官だ. 名前知らない人も何人かいて専門が何なのか分からないのだが, S. T. Yau が入っていてちょっと不思議な感覚がある. Longo はもう 60 なのか, とちょっとびっくりした. Longo が日本に来ているときにセミナーがあり, その後の食事会でご家族とも一緒に寿司か何か食べたことを想起した. Longo の奥方の隣の席だったのだが, 英語ができなかったので困ったこともよく覚えている. 英語やらないと, 思いつつ結局ずるずる来ている. ## 2013-05-22 YouTubeにある数学講義: 筑波の照井先生による線型代数の講義 筑波の照井章先生による化学類対象の講義が YouTube に上がっていた. [線形代数 I (2013) (9) 特殊な行列 (1) (Linear Algebra I (2013), Lecture 9)](http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=dmluQUZHs64)という動画だ. 軽く見た程度だが, 他にも慶應の統計学の講義はあった. Fields 賞受賞者である Connes の動画もあったりするし, 英語でも色々な動画がある. 興味がある人は色々探してみると面白いだろう. 私はとりあえず日本語での配信で, 普通の講義では触れないようなラインを狙っていくつもりだ. ## 2013-05-21 数学の院試での試問がどんな感じか知りたい向きへ: 阪大の架空口頭試問が公開されていたので ### はじめに 阪大の情報基礎数学専攻が架空口頭試問を公開していた. 試みが面白かったので紹介しておこう. PDF は[ここ](http://www.ist.osaka-u.ac.jp/japanese/admission/files/koutoushimon.pdf) (直接リンク) だ. Twitter で見つけたので, そちらも紹介しておく. 公開の背景が分かる. ### 院試の記憶 私も非数学科 (物理学科) だったが, 試問にはこう色々な思い出がある. 折角だから紹介しておこう. まず試問の始めに全微分の定義を聞かれた. 試験問題で全微分の問題があり, それの出来があまりにひどかったので, 教官陣が怒って全受験生に確認したらしいとかいう話を入学後に聞いた. 解析学専攻だったので関数解析で基本的な定理を挙げられるだけ挙げろ, というのもあったが, 思い出深いのはやはり Riemann-Lebesgue の定理の証明だ. 言明は一応言えたのだが「では証明できますか」と言われ, 少しやってぱっとは思いつかなかったので, 「すぐには分かりません」と正直に答えたところ 「もう少し頑張ってみてください」と言われたため, 頑張って最後まで示した. (実際には証明は難しくない. ) その最中, 証明を試行錯誤していて駄目かと思って 黒板を消したときに指導教官 (になる予定の教官, 河東泰之先生) から 「ああ……」みたいな声が出て, ああこれでいいのか, と思った. 大して時間は経っていないと思ったのだが, 終わったときに時計を見たら 1 時間経っていた. 証明以外の試問内容もあったとはいえ, おそらく証明に一番時間がかかっていたと思う. 体感的にはあっという間だったのだが. 終わったときには汗びっしょりだったので苦闘であったことが偲ばれる. よく試問は 5 分くらいで簡単に終わったという話があるが, 多分内部生で既に優秀であると分かっている学生はすぐ終わるのだろうと推測している. 試問で長時間かかったからと言って落ちるわけでもないので気にしすぎないでいい. どちらかというと, (外部受験で内部の事情がよく分からない場合) 入れてしまったた後に, レベルの違いに苦労することがあるかもしれないので, そちらを心配した方がいい. ### 他学科から数学に行くときに困ること 私の場合は基本的な数学, 特に代数と幾何をほぼ全く知らなかった (今でも駄目) だったので, その辺で非常に苦労した. 研究では使わないから問題ないが, 日常会話や講義で知らないことがぽんと出てきて困る感じ. 1 回教科書を通して読んだだけ, というのが多いので結構まずい所が色々ある. 例えば 1 変数多項式の代数や Galois 理論は 1 度やっただけで全く身についていない. Galois は学部の頃, 自分の大学の数学科の講義にもぐって勉強もしたが, 使わないので結局身につかなかった. 作用素環でも Jones の理論は非可換 Galois 理論と言われることがあり, やはり基礎教養だ. 幾何に関しても一応多様体論の教科書は松本先生の本を 1 冊読んだが, 身についている気はしない. 困ったものだ. ## 2013-05-15 作用素環と作用素論: スペクトル解析への応用 ### はじめに Evabow さんとちょっとしたやりとりをしたのでせっかくなので記録しておく. 私のツイートは [これ](https://twitter.com/phasetr/status/334647072487788545) だ. > @Evabow1 @bread_crust など, > Schrodingerのスペクトル解析に作用素環を使うというような話はあります. > 微分方程式でも調和解析でもなく作用素論の方面なので大分ずれはしますけれども ### 引用 はじまる部分はもっとあとの方だが, 面白い内容なので[元ツイート](https://twitter.com/Evabow1/status/334341927862431745)からはじめる. > 本ゼミの前提知識に作用素環も増えた. > > @Evabow1 ヤバいのでは・・・ > > @Evabow1 !?!? > > @Manaka0501 理解を深めるには必要になった. まだ初歩的なとこしか使わないが > > @bread_crust Banach*環のいい本教えてください!! > > @Evabow1 頑張ってください! > > @Evabow1 何が知りたいの? > > @bread_crust Banach*環, C*環と表現論つながりのことが知りたいです. > > @Evabow1 それは群 C*環の表現のことを言ってるの? > > @bread_crust そうです. > > @Evabow1 微分方程式でそんなん使うのか… > > @bread_crust 微分方程式←調和解析 $\leftrightarrow$ 表現論 $\leftrightarrow$ 作用素環 みたいな感じだと思っています. > > @Evabow1 ちなみに, それは一般論を知りたいの? 有限群を知りたいの?Lie 群を知りたいの? 無限次元 Lie 群を知りたいの? > > @Evabow1 えーっと他にもあるのかな… > > @Evabow1 なんつーか群 C*環で俺が知ってるのって, 今読んでる Davidson しかないんだけど (本当はもっとある), > それって本当に今必要なのかなって感じはある. > もちろん C*のことをある程度知ってるなら十分に読める. > > @Evabow1 そして非有界作用素のことを言ってるなら竹崎でも読めばいいんじゃないかと思うんだけど, それこそ本当に必要なの? > > @Evabow1 というわけで Davidson と竹崎を読んで俺に教えてください > > @bread_crust 3 時前に寝てしまって返信が遅れました. > C*環まわりの表現論の一般論と非有界作用素が知りたいです. > 作用素環が本当に必要なのかどうか現時点ではよく分かりませんが, > 微分方程式を別の角度から見ようと思ったときにどこかで使うと思うので > > @bread_crust 何かと忙しい院はなく学部のうちに手がつけられる所はやっておきたいなと思っています. > いろいろ助言をしてくださってありがとうございました. > > @Evabow1 ごめん, C*環のまわりの表現論の一般論ってなにを指してるのかがわからないんだけど, > 単に作用素解析とか GNS を指してるわけではなくて, 群の (ユニタリとかの) 表現のことでいいんだよね? > > @bread_crust 群の表現です, すみません. > > @Evabow1 @bread_crust など, Schrodinger のスペクトル解析に作用素環を使うというような話はあります. > 微分方程式でも調和解析でもなく作用素論の方面なので大分ずれはしますけれども > > @phasetr ありがとうございます! 数理物理方面も少し興味があるので, 挑戦してみたいと思います. ### コメント 作用素環専攻だったのに普通の作用素環の常識的なところも知らない自分, かなりまずいという意識だけはある. 最近だとどんな本で勉強するのだろう. 最近も何も, 数理物理に特化した本しか読んだことないので, 昔の本もろくに知らないが. ## 2013-05-12 竹崎先生の80歳記念のワークショップに行ってきて, 広義諸先輩方と久し振りに会ってきて楽しかった ### はじめに 先日[竹崎先生の 80 歳記念のワークショップ](http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/takesaki80.htm)があった. 時間があったので 2 日目だけ参加してきた. 河東先生をはじめ, 広義諸先輩方に久し振りにお会いしてきた. やはり数学者と話するの超楽しい. 下記動画でしているのと同じ格好をして行ったら小澤先生に「出家したの? 」と言われた他, 海老蔵に似ている, という心無い罵倒を受けてきて深い悲しみに包まれた. ### 二日目の話 2 日目の話を一応抜き出しておこう. 基本的に作用素論・作用素環の量子統計, 場の量子論への応用というところで勉強していたので, 作用素環の基礎知識がほとんど無く, 正直ほとんど全く分からなかったが, ハイパー楽しかった. | 講演者 | 演題 | |------------------|----------------------------------------------------------------------------------------------| | Yoshiko Ogata | Normal states of type III factors | | Reiji Tomatsu | On product type actions of Gq | | Toshihiko Masuda | Classification of group actions on von Neumann algebras | | Yoshimichi Ueda | Free product von Neumann algebras with emphasis on structure theory for type III factors | | Paul Muhly | Homogeneous C*-algebras and noncommutative function theory (abstract) | #### 緒方さん 緒方さんの話は非可換中心極限定理に関わる話で, 緒方さんとしてはやはり量子スピン系への応用を考えているとのことだった. 情けないことだが, 物理的背景の説明があったにも関わらずろくに分からず, 勉強不足を痛感した. 竹崎先生が「これはすごく面白い結果だ」と仰っていたのだが, 数学的な意義もよく分からず悲しい思いをした. #### 増田さん 増田さんの話は群作用があるときの分類だが, 大事な結果を引用するところで, Jones-Takesaki の結果を引用し忘れて, 竹崎先生から突っ込まれていて場が笑いに包まれた. 「その後の分類証明の方向性を決定づけた大事な仕事です」みたいなコメントをつけていて, 増田さんが講演中に「大失敗した」という感じで恐縮しきっていて笑った. #### 植田さん 植田さんも相変わらず楽しそうに講演していて, 聞いているこちらも楽しくなってくる. 楽しそうに話すのは大事だな, と改めて思う. 自分も気をつけたい. #### その後のパーティ その後パーティがあったのだが, 何の連絡もせずに当日突然参加したので, ご担当の山ノ内先生にはご迷惑をおかけしたようで申し訳ない限りだった. 色々と裏話的なアレも聞いた. もとは特に問題ない行動だったのに面白おかしく尾鰭をつけて話されて困る, という話のあと, 河東先生が「こうして伝説が作られていくのです」とか言っていて爆笑した. 他はどうだか知らないが, 数学では抽象的な説明をされないと分からないというタイプの人がいる. そういう人が指導する側に回ると学生が死ぬ程困る, という例を聞いて爆笑した. 写像をグラフで定義するという荒技を披露したせいで, 学生が有限集合間の写像の問題すら解けない, ということでその人の指導教官含め, 必死の説得に回ったが聞き入れず, 最近海外での講演などを重ねる中でようやく自覚を始めたらしい, とかいうひどい話を聞きしこたま笑ってきた. #### 竹崎先生の話 パーティの最後, 竹崎先生からの言葉があったが, [作用素環の入口](http://ci.nii.ac.jp/naid/10013701628)でも語られていた話をしていた. 簡単にいうと, 修士の学生の頃からたびたび「作用素環は終わった」と言われていたが, そのたびに面白い話題が, それも思わぬところから継続的に出てきて, 驚きの連続の数学人生だったこと, とてもいい分野に出会えて本当に幸せだったこと, 死んだと言われた分野で日本全国で専門家が 10 人くらいしかいない頃から頑張ってきて, 今となって日本中からこんなにもたくさんの専門家が継続的に育っていること, 自分もその育成に携われたなどなど, 実に楽しそうに話していた. 修士の頃の話として, 数学界の様子は全く分からない学生が指導教官からすら「作用素環は終わった」と言われ, どうしようか途方に暮れていたときに出た Kadison の既約性に関する論文の話をしていた. これは「$C^*$ 観の表現で代数的既約性と位相まで込めた既約性が同値である」という凄まじい結果だ. 作用素環の教科書では始めの方に出てくる基本定理で, ややもするとさらりと通り過ぎてしまう定理だが, もちろん恐ろしく非自明で強烈な定理だ. こんな深い結果が出る分野が死んでいるはずがない, 元気がないのはやっている人達の気持だけで, 分野自体は決して死んでいない, と確信し, 作用素環の研究に邁進しようと決意した, という話. 既に上記文献で読んで知っていた話だが, 当人の口から直接聞くとそれは感慨深いものがある. 数論幾何なども衝撃的な結果が 10 年くらいずつ出てきてとんでもない分野だが, こちらはどちらかと言えば有名な予想が解決された, という形での衝撃性という (非専門から見た私の勝手な) イメージがあるが, 竹崎先生いわく, 作用素環は予想もしないところからの衝撃的な結果が出てくる, という意味での驚きが強く, とても楽しいとのこと. 作用素環に進もうという向きは楽しみにしていていい, ということなのでここでも宣伝しておきたい. 不肖の竹崎先生の孫弟子であった. ## 2013-04-29 (楕円型) 非線型偏微分方程式という言葉が通じずに衝撃を覚えた記録 ### はじめに [ここ](https://twitter.com/phasetr/status/328836694713454593)で次のようなしょうもないことを呟いたら RT 経由で個人的に衝撃的なリアクションを頂いた. > 図解雑学 楕円型非線型偏微分方程式 ### リアクション リアクションというのは [これ](https://twitter.com/_handyfox/status/328844670685806594)だ. > 非線形楕円型偏微分方程式とは 語順が変えられている上に線型の字も変わっているが, とりあえず次のやり取りをした. ### やりとり > @_handyfox 楕円型の偏微分方程式と非線型偏微分方程式を両方調べて頂ければ良いのですが, > とりあえず[こんなサイト](http://www.encyclopediaofmath.org/.php/Non-linear_partial_differential_equation)とか > > @phasetr ありがとうございます. > 何だかとっても特殊なものかと思ってました > 組み合わせなのですね, こんなサイトがあるのも, 知りませんでした > > @_handyfox 楕円型はともかく, 非線型の「線型」は線型代数の線型なので, > 特に難しいことないと思ったのですがそれはともかく, 流体のナビエストークスだとか応用上大事な方程式がたくさんあります. > 学部くらいで出る方程式は, 非線型だと扱うのが大変なので線型化した物を扱うのが主です > > @phasetr はい, 私ら電気系学科の出身だと, 電磁気学で習うような代物だと思います. > 非線形は記憶にないだけかもしれませんが, やらなかったような気がいたします. > 「楕円形」がよくわかりませんでしたが, 式でわかりましたw > > @_handyfox 一応書いておくと, 楕円型 (楕円形だと意味が変わってしまいます. form ではなく type の意味なので) > というのはラプラシアンみたいなものです > > @phasetr メモメモ 気を付けます. > ラプラシアンですか, 感覚的になんとなくつかめます. ### コメント 正直, ありとあらゆる意味で分かってもらえていないと思っているのだが, それはともかく, 電気系の方に楕円型はともかく「非線型」が通じないというのは衝撃的だった. 楕円型も勝手に字を変えられていること, それはそれで衝撃なのだが. 非線型光学というのがあり, レーザー, 結晶や光ファイバーなども関係があるし, 非線型素子という言葉もあるくらいなので電気の人なら馴染みがあると勝手に思っていたのだが, そうでもないようだ. 別にリプライ先の方が不勉強だとか愚かだとか言いたいのではなく, 他学科における (非線型の裏にある) 線型性に関する認識, 想像以上に低いのでは, という危惧を抱いたからだ. 例えば機械工学周りの人なら流体などで非線型の方程式をがんがんぶん回すので, 同じ感じで線型・非線型という言葉はある範囲の工学系の人にはかなり自由に使ってよさそうと思っていたが, 結構まずそうだ. ある範囲には電気系も入っていると思っていたので想定外である. 電気系と言っても広いと言ってしまえばそれまで, とも言える. だからどう, というのもあまりないのだが, 何かどこかでやるときの参考になるかもしれないと思い, メモを残しておきたい. ## 2013-04-28 ymatzさんによる『ある数学者の弁明』の翻訳 ### はじめに [このツイート](https://twitter.com/ymatz/status/328509251079262208)だ. ### 翻訳のページ 今翻訳のページは[ここ](http://ymatz.net/hardy)になっている. ページ冒頭から引用. > 20 世紀前半のイギリスの数学者 G. H. ハーディ (1877 – 1947) がその晩年に書いた『ある数学者の弁明』という本があります. > すでに出版されている日本語訳もあるのですが, もう著作権保護期間が終わっているようなので, フリーの翻訳をつくりはじめてみました. 数学関係者なら多くの人がこの本を知っているだろう. もちろん, Hardy は数学者として非常に優秀なので, 実績方面で知っている人も多いはずだ. それ以外にも優れた著書があり, それを知っている人も多いだろう. Hardy-Littlewood-Polya の『不等式』などはときどき論文にも引用されているのを見る. Hardy は Ramanujan を見出した人としても有名だ. 詳しくは Wikipedia を見てみるといいだろう. 英語版は[これ](http://en.wikipedia.org/wiki/G._H._Hardy)で日本語版は[これ](http://ja.wikipedia.org/wiki/ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディ)だ. いい機会なので, 『ある数学者の弁明』を読んでみたいと思っている. 積読がたまっていく. ### 追記 翻訳終わったそうなので. あとRamanujan(とHardy)に関する映画, 「奇蹟がくれた数式」というのも2016-10-22に全国で公開されていて, そういう意味でもタイミングいい感がある. 私も頑張らねば. ## 2013-04-20 理研で理論物理学者の展示をしたらしいが, 私も何か似たようなことしたい [理研で理論物理学者の展示をしたらしい](https://twitter.com/hashimotostring/status/325554632292175872). 行っていないので詳細は不明だが, Twitter で見る限り評判は良かったようだ. こういう感じのこと, 前からやってみたかったのだが実際に評判が良かったとのことなので, 私の見立ては間違っていなかった. 前に少し先生に相談したこともあり, そのときは色々難しいと言われたのだが, こういう研究所単位でやってくれることがあるようなので, 私としては個人のレベルで何かできることをしよう. 基本的に (子供の頃の) 自分が見たい・触れたいと思ったことに対しては, そこに興味を持つ人が一定以上いるということを大学ではっきり分かったので, そこに向けたことをどんどんやっていきたい. ## 2013-04-20 Twitterまとめ: 解析力学, 電磁気学, 相対論と幾何学の関係などを簡単にまとめてみた ### はじめに ぼんてんぴょんさんと力学, 解析力学まわりで少し話をした. 参考になる向きもあろうかと思うのでまとめておく. [この辺](https://twitter.com/y_bonten/status/325498073965019136)からはじまる. ### 応答その1 > ふと思いついたが, 剛体を考えるとき, 質量のあるところだけに質点があるのでなく, > 剛体の外側にも質量ゼロの質点が (空間全体に) 分布していて, > これらが剛体との位置関係を保ちながら動くと考えれば, 「そこに質点があるか」を気にしたくないときに記述しやすくなるのではないだろうか. > > @y_bonten 状況良くわかっていないのですが, いわゆる場の理論はその感覚近い気がします. > 電荷がなくても電場なりが空間にきちんとあるみたいなそんな感じ > > @phasetr ありがとうございます. > 確かに, 電荷から解説が始まっても, いつの間にか電場のほうが主役に躍り出ていきますよね. ### 応答その 2 あと [この辺](https://twitter.com/y_bonten/status/325503376769036288). > 座標系にまつわる問題が古典力学の理解の大きな壁になっていることは間違いないと思う. > 「ある座標系で考えると煩雑になりすぎて実質無理」という状況はともかく, 同じ現象をどの座標系で考えたって, > 表現が異なるだけで辻褄が合わないといけない. それを確認するのが勉強だと思うのだが (以下略 > > @y_bonten それ, 正に解析力学です. > 相対論でも大事で, 多様体論の基礎にある思考でもあります > > @phasetr なるほど, では同じ心がけでそのあたりの分野も勉強してゆけば良いわけですね. > 意を強くしました. > > @y_bonten 多様体論自体が解析力学を起源にしています. > シンプレクティックのあたりです. > 相対論も座標変換による方程式の変換の問題という面があるので > > @phasetr そうなのですか! > こういうロードマップを示していただけるのは本当にありがたいです. > > @y_bonten その辺をもっと積極的にやろうと思ってブログ始めました. > Twitter でもときどきやっていましたが > > @phasetr よく読ませていただいています. > 今後も期待しております. ### 解析力学と多様体 こういうと嫌がる数学の人もいるのだが, 解析力学と電磁気学は数学に影響を与えている. 上で書いた通り, 解析力学は多様体論の母体になっている. 電磁気学は物理のゲージ理論の一番簡単な例だが, このゲージ理論は数学のゲージ理論につながっている. またベクトル解析は電磁気学を整備する中で発展した数学で, ベクトル解析は多変数の解析学で大事だが, より強く幾何学でも de Rham 関連でとても大事. あまりまともに物理の本を読んでいないのであまり詳しく参考書を挙げられないが, 一応知っているものは挙げておこう. 有名なだけで読んでいない本も挙げるので, ご注意頂きたい. ### 簡単なコメント 山本義隆の解析力学は物理の本だが, 物理の初学者が読むと間違いなくつらいので, もう少し物理として簡単な本を読んでからにした方がいい. 実際, 学部 2 年時の私にはつらかった. ただ内容が豊富なので面白いのは間違いない. また, 素粒子など幾何学が必要な人が手始めに読む本としてもいいのかもしれない. そちらはよく分からないので何とも言えないが. 深谷先生の本は読んだことがない. 評判はよいのでとりあえず挙げておいた. 太田浩一の電磁気学だけ読んだ. マクスウェルは読んでいない. 電磁気学の方は相対論や量子力学との関係についての話題があり, 色々なつながりが見えて読んでいて楽しい. ベクトル解析や Fourier なども適宜解説されている. 物理の中で数学を学ぶ, という点でもそれなりに使えるだろう. ただ, それなりにハードな本なので読みこなすのはしんどい. 理論電磁気学は計算が丁寧なのがいい. 特に電磁波や散乱周りは計算が物凄い面倒なのだが, そういうところで参考になる. 計算できないなんて軟弱な, と思う向きもあるだろうが, 専門というわけではなく速習が必要だったり, 久し振りに復習するときにさっと計算を確かめたい場合などには重宝するだろう. また, 物理を楽しみたい, という向きで計算も頑張りたいが一人はきつい, という向きもあろう. そういうところにとってもこういう本があるのはいいことだと思う. 実際に色々書いてみると分かるが, 細かいところは面倒なので飛ばしたくなるので, 結構こういうところは適当になりがちだ. 専門書だと計算をきちんと追い切らせることも大事な訓練なので, 余計に省かれる傾向にあるから. ### ラベル 数学, 物理, 数理物理, 力学, 幾何学, 電磁気学, 相対論 ## 2013-04-19 「色々な反例で遊ぼう」動画化の告知 ### はじめに 第 3 回の関西すうがく徒のつどいで話した内容を動画にすると言っていたが, 撮影したのを編集中だ. 一部をカットしただけで他に何もしていないが実際に動いているというのを示すため Youtube に上げてみた. 既に Fourier の話が聞いてみたいなどの要望を頂いているが, 何かご要望のある向きは適当にリプライなど飛ばして頂きたい. ### コメント 投稿したつどいの講演内容の動画だが, Twitter や Youtube でいくつかコメントを頂いた. 忘れる前にメモしておこう. #### lunatic_sonshi さんから lunatic_sonshi さんからは[この辺](https://twitter.com/lunatic_sonshi/status/325508926923739136)から. > 見せ方はあまり上手くないなとは思った > > @lunatic_sonshi そういうことまで気にしているといつまで経つても何もできないので, とりあえず何かやろうと. > もちろん改善はしていく予定ですが > > @phasetr 撮影はお一人でされてるんですか? > > @lunatic_sonshi そうです > > @phasetr なるほど, お疲れ様でした. できればカメラの向こうに一人おいて, その人に向けて喋るようにすると良くなると思います. > がんばって下さい. #### お前の敵さんから お前の敵さんは[この辺](https://twitter.com/omaenoteki/status/325303986716553217)から. > 黒板になんか書いてる暇あったら顔をこっちに向けろ > > 市川海老蔵ファンのつどいに潜入してパニックを起こしてほしい #### 侯爵 侯爵は[この辺](https://twitter.com/MValdegamas/status/325589229021327360)から. > 相転移 P の動画「よく分からない数学」, 拝見しましたが, 黒板にカツカツと叩きつけられるチョークの音を懐かしく感じました. > ただ声が聴きとれないので, その辺をもう少し改善していただけると, 内容が少しはわかるようになるのかもしれません. #### YouTube 動画への直接のコメント あと Youtube の動画への直接のコメントがこれ. > 声が反響し過ぎて聞き取り辛い. > 字幕が欲しい.  今回はもう録ってしまったからどうしようもないが, とりあえず声というか音とカメラに顔を向けることに気をつけるところからはじめよう. コメント頂けてありがたい限りだ. #### その他 [眼鏡萌え属性の人に眼鏡をかけて撮れと言われた](https://twitter.com/Hornet_B/status/325411518063730688). 頭がいいように見えるだろうから, 本当は眼鏡をつけて撮ろうと思っていたのだがすっかり忘れていた. 次は気をつけたい. > @phasetr わたくしは贅沢申しませんので, めがねだけで結構ですよ! 待機します! ### 動画の展開の仕方 あと, [動画の展開の仕方について少し書いた](https://twitter.com/phasetr/status/325406020442669056)のでそれも転記しておこう. > それはそうとこの動画, 編集したら Amazon に出す予定. > Youtube の方が無料で出せるという利点があって主対象の中高生, > 大学生が手に入れられやすいが, 検索で見つけないといけないので届けにくい > > @phasetr そこで Amazon の流通の力を借りて遠くまで届けられるようにすることを優先した. > 様子を見て他の方法も考えるが, どこかの大学でセミナーやるとかして学生向けにある程度無料的な感じで見せることはできるので. > あと親とかに買ってもらうとかないでもないと期待 > > @phasetr あと Amazon で (DVD だが) 出版している, とかいうと世間的に箔がつくというか「ハッタリ」が効くようにもなるらしいので, > その辺の効果も期待している. > 何にしろ今までとは違う層, 広い層に届けることを主目的にしている > > @phasetr とりあえず値段は 3000 円程度を予定している. > 色々聞いたらこれより下げると足が出かねないようなので. 何はともあれ流通させてみてもらうこと, > できれば (親に買ってもらえる値段という意味まで含め) 中高生にも手が届くように, というラインには乗せたい とにかくアクションを起こすことを最優先にしたい. ### イントロを YouTube で公開した #### 本文 関西すうがく徒のつどいでも話した「色々な反例で遊ぼう」について, 以前告知動画を YouTube に挙げたが, そのイントロ部分を公開した. 映像の選択をミスったようで, サムネが間抜けな顔になっていてつらい. 関西すうがく徒のつどいでも話したことだが, 何故この題材を選んだか, これで何をどうしたかったのかということを話した. あとで Amazon で DVD を出すので, 買うかどうかの判断に使ってほしい. 本編で紹介した問題 (反例) は次の通りだ. - 環から部分環を除いた集合が環になるか. - 絶対値を取ると関数の滑らかさは下がるか. - 連続だが至る所微分できない関数が存在するか. - 有界閉集合 $\Omega$ 上で連続な関数 $f$ は一様連続になるか. - 各点で関数列が収束するなら積分も収束するか. まだ全部作っていないが, 時間の関係で説明しなかった基本的な概念などを購入者特典の付録にして配る予定だ. 付録について, つどいに参加した方限定で購入しなくとも適当な手段で見られるように配慮したいと思うので, Twitter なりこのブログで公開しているメールアドレスなりにご連絡頂きたい. また, 今のところ DVD は 3,000 円程度で出す予定だが, 中高生だとちょっと高くて手が出ないかもしれない. 買うのはつらいがどうしても見てみたい, という向きも Twitter なりメールアドレスまでご連絡頂きたい. 人数が多いなら何か対処を考える. 適当な手段で動画を見られるようにしたり, またはどこかに場所を借りて, セミナーをするという手もある. 他にも何か手段があるかもしれないが, それは問い合わせ数と内容に応じて考える. 今やっているように YouTube で流すだけなら無料で配れるから上記の中高生向け問題は起きないが, それでもなお Amazon を使うのは, Amazon の流通網を使って今までアプローチできなかった層に アプローチしたいからだ. ただ動画サイトに出すだけなら今まで通りニコニコにでも出しておけばいい. 吉となるか凶となるか全く不明だが, やってみないと分からないのでとりあえずやってみようという所. #### ラベル 数学 ## 2013-04-18 経済や物理で必要な数学についてのやりとりまとめ: 微積分と線型代数をきちんとやろう ### はじめに Twitter で[これ](https://twitter.com/phasetr/status/324830632125534208)とか[これ](https://twitter.com/phasetr/status/324838051627032576)みたいな呟きしたら教官含めいくつか反応があったので, 折角だから記録しておく. まず上の元呟きを転記しておこう. ### ツイート > https://twitter.com/gametheory4/status/324829386643763200 > よく分からないのだが経済, 本当に数学必要なの > > 数学関係者, 経済の数学というと無駄に確率微分方程式を押してくるが, > そんなのを使っている経済の人, 実は経済学内部では異常者だったりしないの 適当にやりとりをまとめておこう. ### やりとり > https://twitter.com/gametheory4/status/324829386643763200 > よく分からないのだが経済, 本当に数学必要なの > > 【経済学部生間の数学力格差についてっていう論文かきたい】 > > @phasetr ゲーム理論とか必要では. > > @phasetr 勉強するのにも高校 + αの微積分と線形代数は必要なのでは? > 後, 確率微分方程式とかゲーム理論とか使う分野もありますし. > > @functional_yy ゲーム理論の難しさ, > 数学の難しさというより現実とすりあわせた仮定を設定する難しさという印象ですが素人なのでよく知らないというアレ. > あと皆が皆ゲーム理論必要なのでしょうか. > これもよく知らないので > > @hymathlogic 統計学ができる程度の能力を持たない大学生は一人残らず射殺すべきという見解です > > @hymathlogic 正確には統計学が必要な学部学科, という条件下で > > @phasetr 統計学ができる程度の数学力, と書いた方が良かった > > @phasetr 分野により使う数学も変わってきますね. > 統計, 確率, 微分方程式, ゲーム理論, 認識論理 (論理学) など. ### やりとりその 2 > @hymathlogic 統計学ができる程度の能力を持たない大学生は一人残らず射殺すべきという見解です > > @phasetr 統計学ができる程度の数学力 #とは > > @greengrimghost 教養程度の微分積分と線型代数が使える. 「理解」は問わない > > @phasetr なるほどその程度なら ### やりとりその 3: 教官陣と. > @phasetr > と と見比べると, > 相転移 P さんは, 物理学も経済学も異常な一部を除けば数学はいらん, という主張 (もしくはそういう数学の定義) という理解で良い? > > @tetshattori 経済の方は確率微分方程式とか無茶なのばかりよく出てきますがそこまで無茶なことしないと経済できないの, という話です. > 物理に関しては微分積分と線型代数の守備範囲なめてんのか, という話です. > この辺を極端な形で表現しました > > 数学以外の数学はとても難しいのです. > RT @phasetr: @tetshattori 経済の方は確率微分方程式とか無茶なのばかりよく出てきますが > そこまで無茶なことしないと経済できないの, という話です > > @tetshattori 社会学にとって最低限必要な範囲の統計学が処理できる程度の数学力を持っていない学生は > 問答無用で殴り倒すことを前提にしています > > @phasetr つまんないこといっちゃうけど, 「何が数学か」とか「どのように使ったら使ったと言えるか」とか, > その手の問いは (研究においては) してもしゃあない気がします @kyon_math > > @tetshattori @kyon_math 一応, 背景としては新入生が線型代数は何に使うの, > という感じで苦しんでいるのでとりあえず物理 (と物理を使う工学) では大事だし, > 教養の線型代数と微積分できれば相当範囲の物理できますよ, みたいなことを言っておこう, という感じです > > @tetshattori @kyon_math 細かいこといえばきりがないというのはいつもの話で, > 細かい話が気になる人たちから突っ込みが来るのは当然として, > そういう層に向けたメッセージではないので, 今回のような分かっている人からの突っ込みは別途処理ということで > > @tetshattori @phasetr 「数学をどのように使ったら」と言うのはとても大切で, そのような視点からの発言です. > 誤解のないように. > > @phasetr その文脈ならば経済学は, 微積線形に凸解析 (分離定理) を加えておけばかなり, かと > (それでゲームとファイナンスが少しやりやすくなる) ### 余談 余談として [これ](https://twitter.com/dif_engine/status/324885869251153920)とか[これ](https://twitter.com/phasetr/status/324881660988506113)も足しておこう. > 数学から工学に移ったときは都落ちしたような悲哀を少し感じていたものですが > 「工学の問題にどうやって数学を使うか」という問題はやってみると中々面白いです. > ノイズ, 精度, 計算コストの制約があるので単に数学的に解けば良いわけでもない. > そういう事がわからず, 最初はかなり空回りしました. > @各位 Twitter で極端な話をすると教官陣から突っ込みを受けるし現在進行形で私が突っ込みを受けているので, > それが怖い向きは十分に注意するように. > あと RT で回ることまで念頭に置くように ## 2013-04-18 数論と相転移に付随する自発的対称性の破れ:Connes 論文と新井論文の紹介 ### はじめに [この辺](https://twitter.com/mr_konn/status/324554142293057536)からの mr_konn さんとブルブルエンジン兄貴のやり取りで, 数論 (代数的整数論) での両側剰余類の話が出てきた. 私自身は使ったことないが, Connes の数論での相転移論文にも出てきたことを思い出した. [Hecke algebras, type III factors and phase transitions with spontaneous symmetry breaking in number theory](http://www.alainconnes.org/docs/bostconnesscan.pdf) という論文. 学生時代は学生時代できちんと読もうとして訳が分からず挫折した経緯があり, 結局あまり内容を把握していない. 時々 Twitter でネタにするので, この機会に軽く眺めてみようと思い, 自分用メモとして残しておく. ### 新井先生の論文の話 あと, 関係する話として新井先生の [Infinite dimensional analysis and analytic number theory](https://typeset.io/pdf/infinite-dimensional-analysis-and-analytic-number-theory-w8zuyom1ts.pdf)という話もある. 両方とも量子統計と数論の関係がテーマで, 分配関数が Riemann の $\zeta$ になる, という話. 新井先生の論文の方は直接的に Fock 空間と第 2 量子化作用素の話をしていて, 数学的にはこちらの方が簡単で読みやすい. ただ, 基本的には全く違う話だ. 両方読み比べた方が楽しいだろう. ### 論文のメモ では Bost-Connes 論文のメモに入る. 念のため先に書いておくと, (量子) 統計や相転移の物理については田崎さんの本がいいだろう. 作用素環で相転移を扱うという場合, とりあえず量子統計のセッティングで話をする. 特に $C^{*}$ 力学系, または $W^{*}$ 力学系の話になる. そこで分配関数が $\zeta$ になる, という方向に持っていく. イントロで相転移や自発的対称性の破れについても直観的な説明が書いてあるので, 興味がある向きはそれも参考にされたい. この論文では素数の分布と自発的対称性の破れの関係を論じている. $C^{*}$ 力学系は, $C^{*}$ 環 $A$ と $A$ 上の強連続な自己同型群 $(\sigma_t)$ の組のことをいう. (もちろん $W^{*}$ 力学系でもいい.) Hilbert 空間上の連続なユニタリ群は (半群理論からでもいい) Stone の定理 によって, 自己共役作用素 $H$ を使って $U_t = e^{itH}$ と書ける. GNS 表現にして考えてもいいが, $C^*$ 環上でも (半群理論から) 直接 $\sigma_t = \mathrm{Ad} \, e^{itH}$ のように書ける. この Hamiltonian $H$ のスペクトルが色々大事な情報を持っている. 新井論文では実際に適当な Hamiltonian を構成して, Riemann の $\zeta$ を作っている. von Neumann 環でいうと, KMS 状態が意味を持つのは III 型環だけだ, というのもメモしておこう. KMS 状態とその端点分解の一般論が出てくる. まず状態の空間が定義から凸集合になり, さらに KMS 状態の集合自体も凸集合になる. そうすると KMS 状態による端点分解ができてそれ自体が熱力学的な純粋相を表す, という話があるが, この論文ではそれが数論の数学としても大事なようだ. P413 あたりから今回のターゲットの $C^*$ 環が Hecke 環だという話になってくる. $\mathbb{C}$ の格子の Hecke 対応とか何とか出てくるがよく知らない. ここで double coset $GL (2, \mathbb{Z}) \setminus GL (2, \mathbb{Q}) / GL (2, \mathbb{Z})$ が出てくる. 適当な条件下で離散群 $\Gamma$ とその部分群 $\Gamma_0$ から convolution algebra として Hecke 環ができるらしく, $\ell^2 (\Gamma_0 \setminus \Gamma)$ への Hecke 環の正則表現の閉包として $C^*$ 環を作る. また脱線するが, 群のユニタリ表現から作用素環を作るというのは標準的な方法だ. 一般に $C^*$ 環内での functional calculus から $C^*$ 環の全ての元はユニタリ作用素で書ける. したがってユニタリを指定すれば作用素環が決まると言っていい. von Neumann 環だと射影でもいい. Prop 4. では自己同型群を作っている. 記号からしても KMS のモジュラー自己同型群だろう. P415 で力学系の相転移に付随する自発的対称性の破れの記述がはじまる. $\mathbb{Q} / \mathbb{Z}$ 上の関数 $\psi_{\beta}$ を適当な素因数分解を使いつつ定義する. 面倒なので $P$ の定義は論文を見てもらうことにして, $\Gamma = P_{\mathbb{Q}}^+$, $\Gamma_0 = P_{\mathbb{Z}}^+$ とすると, $\mathbb{Q} / \mathbb{Z} \subset \Gamma_0 \setminus \Gamma / \Gamma_0$ になり, ここから Hecke 環や $C^*$ 環の包含も出る. この辺をうまく解析すると主定理の Theorem 5. になって, Riemann の $\zeta$ が出てくる. $\mathbb{Q}^{\mathrm{cycl}}$ とか数論っぽいのが色々出てくる. また Galois 群 $G = \mathrm{Gal} (\mathbb{Q}^{\mathbb{cycl}} / \mathbb{Q})$ が自己同型群として作用して, しかも時間発展 (KMS のモジュラー自己同型) と可換になり, これが自発的対称性の破れを記述する, とのこと. Theorem 5. の証明の前に力学系と素数の分布の関係の説明をしよう, といって節が変わり 2 節になる. 2 節の冒頭で E. Nelson の「第二量子化は functor である」という言葉が引用される. この Nelson は 2011 年に [The Inconsistency of Arithmetic](http://golem.ph.utexas.edu/category/2011/09/the_inconsistency_of_arithmeti.html) で話題になった Nelson だ. 今は基礎論あたりにいるが, 元々構成的場の量子論にいた人だ, という小ネタをはさんでおこう. 第二量子化周辺の話が簡単に説明される. 今はじめて知ったのだが P417 の Lemma 6. がハイパー強烈だった. 冷静になって考えて見れば当然という感はあるのだが. $\mathcal{P}$ を素数の集合とし, $T$ が Hilbert 空間 $H$ 上の自己共役作用素として, $T$ の第 2 量子化作用素を $\mathbf{S} T$ としよう. このとき, $\sigma (T) = \mathcal{P}$ と $\sigma (\mathbf{S} T) = \mathbb{N}^*$ が同値という命題だ. ここで $\sigma (T)$ は $T$ のスペクトルを表す. 第 2 量子化作用素の定義を省いているのでアレだが, 単なる素因数分解だ. 証明は論文に書いてあるので, 興味がある向きは参考にされたい. というか, どこかで話してもいいかもしれない. それで上の $T$ を使って次のように Riemann の $\zeta$ が定義できる: \begin{align} \mathrm{Tr} \left[ (\mathbf{S} T)^s \right] = \frac{1}{ \det (1 - T^s)}. \end{align} ここまで来て分かったが, 上記の新井先生はこの命題を基礎にして Fock 空間上で直接色々やっている. 以前はここまですら読んでいなかったという個人的衝撃の事実が発覚した. もう少し読んでおけばよかった. 要はボソンの場の量子論と数論に関係があるという話だ. 一応書いておくと, 当然フェルミオンとも関係があって双対性だとか超対称性うんぬん, という話が新井先生の論文に書いてある. 2 節, 単独で読んでも面白そうだ. 今度どこかで話してみたい. 3 節では 2 節で作った $C^*$ 力学系と数論の概念を関係づけ, Theorem 5. の Hecke 力学系を作っている. 局所コンパクト群とか Haar 測度だとかも出てくるので, 色々な数学が交錯する姿を見てみたい学部生が読んでも面白いだろう. 当然ながら $p$ -進数や付値なども出てくる. アデールだとか, 学生時代, 非可換幾何をやっていた先輩の話で出てきたな, という程度の知識しかないので適当に読み飛ばした. 派手に飛ばして 6 節で $\beta > 1$ KMS の分類をし, 7 節で $\beta \in (0, 1]$ での KMS 状態の一意性を議論している. III 型環とかがちゃがちゃ出てくるので面白そうだが手に負えない. 最後, 参考文献に Araki-Woods や Connes-Takesaki, Bratteli-Robinson, Haag, Pedersen の有名な論文や教科書がある中, Dirac, Serre, Shimura, Tate, Weil があるのに爆笑した. 色々な数学が交錯する姿が見られる論文なので, 興味がある向きはアタックされたい. ### 追記 ご興味を持って頂けそうだったので, knyokoyama さんにこの記事を読むように強要した. その辺のやりとりが[ここ](https://twitter.com/phasetr/status/325211207994855424)からはじまる. > @knyokoyama あまり細かいところには触れていませんが, ご興味があるかと思ったので, > 自分で書いたものですが, ご興味があれば. > 数論と相転移に付随する自発的対称性の破れ:Connes 論文と新井論文の紹介 http://goo.gl/fb/XEsEh よく分からない数学 > > .@phasetr BostConnes と新井先生の論文を読み比べるに同意 > > @phasetr 読み比べようとするも, BostConnes と新井先生の論文は, 全く別の話です (phasetr さんのブログに別ものと記載あり). > ****比べられない.**** > > @knyokoyama もちろん全く違うのですが, ゼータと量子統計という大きなくくりで見て色々な展開が想像できるので, > それを考えると楽しいだろうという話です. > 解析数論と数論的関数, 超対称性や双対性の数論的反映と, 数論での相転移など, 量子統計・場の理論の多彩な展開がみられるので > > @phasetr おっしゃるとおりです. ご紹介, 感謝いたします. > > @knyokoyama 比べる, という言い方がまずかったか, という気はします > > @phasetr ありがとうございます. 結構, 楽しく読ませていただきました. > リーマンゼータの導出や, 驚きの lemma6, (素因数分解定理の言い換え)?!, 時間発展までは, > 共通, , , その後は, 全く別モン. かたや KMS 条件から円分体, かたや数論的函数と SUSY. 双方素晴らしい > > @knyokoyama 書こうと思って忘れていたのであとで追記しようと思いますが, > あの補題 (とそのあとの分配関数) がゼータの零点が自己共役作用素の固有値問題に結びつくという Hilbert-Polya の話なのでしょう. > 最近は若山先生の非可換調和振動子などもあるようですが Hilbert-Polya 予想については[ここ](http://en.wikipedia.org/wiki/Hilbert%E2%80%93P%C3%B3lya_conjecture)などを見てほしい: 英語版の Wikipedia だ. ## 2013-04-10 @教官陣 もう少し理工系教養の線型代数のイントロをきっちりやれ ### はじめに 線型代数で苦しむ工学徒を 1 人救ってきた. あとでも役に立ちそうだからまとめておきたい. きっかけはかわずさんの[これ](https://twitter.com/kawazu1147/status/321973409321988096)を見て, 線型代数で Twitter 検索したことにはじまる. > "要するに線形代数とは「連立一次方程式」についての学問なのである. "というのを見たのだけど, > 数学知らないしそんなに興味もないような人が言ってたら「う---ん, まあ, そうですね」で済ませる程度には正しいと思うのだけど, > うううううううってなっている そして[このようなツイート](https://twitter.com/puentu/status/321973615669161984)を見つけた. > 線形代数って将来何に使うんですか > 目的わからんから全然やる気起きない そして [この辺](https://twitter.com/phasetr/status/321975183244140545)からやり取りがはじまる. > @puentu http://phasetr.blogspot.jp/2013/04/hilbert_9.html 例えば (線型の) 微分方程式を解くときに使います. > 電気回路で出てくるフーリエ級数も線型代数として理解できます. > グーグルの検索アルゴリズムのページランクへの応用もあります http://www.nicovideo.jp/watch/sm7599426 > > @drizzt1233 @puentu 正確には土木とかなのかもしれませんが, 建築でも構造計算用の (大規模) 数値計算で線型代数を使います. > 数値計算でかなり線型代数を使うはずなので, 数値計算やる人には必須教養という印象です. > 私は物理への応用がメインなので, それ以外はあまり詳しくない > > !! 線型代数とかで検索してプロデュースしまくる Twitter 活用術というのを思いついた!! > > 線型代数はありとあらゆる対象を殴るための道具である > > @phasetr ほう難しそう...機械系に進むとしても結構使うものです? > > @puentu シミュレーションや機械制御で微分方程式を数値的に解く (コンピュータでシミュレーションする) ことになるかと思いますが, > そういうときに使うはずです. > http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_deail/q1316803553 > やはり大規模計算で出てくるようですね > > @phasetr 参考 URL までありがとうございます! 納得できました > > @puentu 理論面でも連続体の力学 (流体や弾性体) で大事な応力がテンソルとして出てくるのですが, これもやはり数学としては線型代数の範疇です. 理論の独学はつらいでしょうから, 専門課程の教官に数値計算あたりでどう使っているかを知るために参考書を紹介してもらってはどうでしょう > > … (笑) が割と真剣に泣ける > > 一人, 線型代数に苦しむ工学徒を救ってきた > > とりあえず理工系大学の教養の講義に限定しておくが, 微分積分はともかく, > 各学科用に線型代数がどこでどう使うのかくらいは初回の講義でフォローしてあげることをもう少し真剣に考えた方がいい. > あとそのくらい情報共有しろ @教官陣 ### コメント 言いたいことは上の引用の最後の部分に尽きるが, 単に物理や工学に迎合しろというのではない. むしろ数学としての線型代数, 線型空間論を全力でぶん回してほしいと思っているくらいだ. もちろん役に立つから, というのもあるがもっと強調したい理由がある. それは数学としての線型代数は数学科以外だと独習が難しいだろうからだ. 具体的な行列式の計算などは確かに直近で役に立つことで, 必要なことではあるが, むしろ必要だからこれは各専門で嫌でもやる. だが, 線型空間論は必修などの強制力がない限りなかなか出来るものではない. 一回, 何らかの形で触れておけば記憶にフックができる. 一生使わなければそれでいいが, 使うことがあったときに何もない状態から該当する数学を引っ張るのはかなりつらい. そこに対する救済策だ. だからこその必修であって教養の講義なのだと思っている. あと「よくわからないヒルベルト空間論」で何とかしようとしているのは, この辺を補うためであって, 逆にいうなら個人的にはその辺に活路があるという感じもする. また色々考えよう. ### 追記 記述不足で kururu_goedel さんから突っ込みを頂いてしまった. [この辺](https://twitter.com/kururu_goedel/status/326431217287311361)や[この辺](https://twitter.com/phasetr/status/325210215039504384)から辿れる. 当然のご指摘であり, 大変申し訳無い. #### ツイート収録 > @phasetr 相転移 P さんはなかなか厳しいなぁ, 今更だけど. > 応用の一覧表とかあればそれなりにフォローできるけれども, 一つ一つ調べていくのは時間的に辛いです. > それに, そういうテストにでないことって言ってもガンスルーされることが多い気が. > > @phasetr ガンスルーされた上で, 既に触れたことを「こういうことを言って欲しかった」とか言われるのはなかなか悲しい. > まあ時期が来ないとわからないことってあるのでしかたないんですけど. > > @phasetr それと, 「計算は各学科でやるから」は, 多分そういう方針でやると他学科の人たちに怒られるだろうなぁ. > もし本当に計算練習は自分でやってねってつもりでやっていいなら随分と楽なんですけど. > > @kururu_goedel 中で一応きちんと書いたつもりですが, 数学側での完全カバーは無理なのでその他も協力しろ, > というのと, 教官側に押し付けるのも無理があるので, それ以外も何か考えろ, という話です. > そして自分も何かしようと > > @kururu_goedel 教官でもないのでアレな学生まで対応していられませんし, 大勢へのアクションも難しいですが, > できる範囲でできることはします. > あとタイトルは色々考えて, 品がなくて嫌だなと思いつつも強い感じの釣りっぽくしました. > これについては人任せにばかりする気はないですし > > @phasetr ああ, そこ完全に読み落としてました. > 教官の情報交換が足りないのは確かでなんとかなって欲しいですね. > 自分の学科での使われ方をちょっとでも紹介してくれるとかなり違うかと. > > @kururu_goedel 勘違いしていました. > 別の記事か twitter で言ったことを今回の記事にも書いたつもりで, ろくに書いていませんでした. > ただ, 何にしろ数学の教官にだけ押し付けるのは無理に決まっているので, その辺は多少なりとも自分でやれることはするという話. > 追記します ### 応用の一覧表 応用の一覧表はあまりにも辛いが, 物理と物理を一定以上基礎にしている工学についてはちょろちょろまとめていきたい. 上で書いたように, 数学の教官に任せるには無理がありすぎるので, できることはこちらでも随時やっていく. 線型代数と量子力学は[Amazon のこれ](http://www.amazon.co.jp/review/R1KKQ5EX6N3T7T/ref=cm_cr_dp_title?ie=UTF8&ASIN=4130620010&channel=detail-glance&nodeID=465392&store=books)や[Togetter のこれ](http://togetter.com/li/108307)]などはまとめてある. そのうちまた統計学まわりでのまとめなどもしたいが, そのためには統計学を学び直す必要もありつらい. 時期が来ないと分からないことがスルーされる, というのは分かる. 今ちょうど, 大学 1 年に通じるかは不明だが, それでもやってみようと思って Hilbert 空間論のセミナーの内容を考えている. 私も講義で言われたことに全く気付かず, あとで独自に到達したことというのは多分たくさんある. 意識にすら登らないから全く覚えていないが, 私が受けてきた教育を思えば, その辺はきっちり伝えてくれていたはずだから. ### 最後には学生が気合を入れる必要がある 計算はある程度はやらないとそもそも身につかないから, 数学の講義でも触れる必要はあるだろうが, 最後は学生自身が頑張るしかない部分がある. やはり各専門への接続を意識した計算を出す工夫は必要だとは思うが. 大規模な計算や数値シミュレーションの話自体は手計算できる範囲を越えるので講義やレポートで触れられるレベルではないが, ただ実際に将来使うことは伝える必要がある. 大体の学科では実験の処理で統計学を使うだろうし, そこでの固有値の話などはきちんとする必要はあろう. 学部 4 年から修士くらいで, 実際に数学で困っていることについてアンケート取ったりしてほしい. それを学科内で学部生に伝えるくらいのこと, 各学科でやってもいいのではないかと思う. 問題は色々ある. 私にも手助けできることはある. ## 2013-04-09 確率論と数論: 数論の闇 ### はじめに mr_konn さんとブルブルエンジン兄貴が確率論, 特にエルゴード理論と数論について話していた. [この辺](https://twitter.com/mr_konn/status/321608987558699009)だ. Kac の有名な小冊子にその辺の話があるのを知っていたので簡単に紹介しておいたので, それをこちらにも転記しておきたい. ### ツイート引用 > 確率論の講義, エルゴード理論の「おはなし」をしていくらしいのでこれから楽しみにしている > > @mr_konn もしかして: 整数論 > > @alg_d #いいえ > > @mr_konn 俺の時整数論だったよ. > > @alg_d @mr_konn の最後にエルゴード理論と連分数の話が書いてあります. > 他にも確率論と数論の話として素数定理についても触れられていたりします > > @phasetr 情報ありがとうございます! > 素数定理とも関連してくるんですか……すごい…… ### コメント 別件だが, エルゴード理論は作用素環でも大事だし, 応用でもそれなりに出てくる. 確率論, 作用素環ともに統計力学との関係があるが, その辺で両方に現れる. 物理としてエルゴード理論はほとんど意味がないが, 数学では非常に面白いテーマとして独自に発展している. 数学としての面白さとも関係するところだが, 応用でも出てくる. 例えば前に作った動画, Google ページランクの数理の確か[この辺](http://www.nicovideo.jp/watch/sm8282178)で紹介したと思うが, 原始性というのが確率論でいうとエルゴード性に対応したはずだ. 舟木先生の本では「有限状態空間上のマルコフ連鎖」のところで議論されている. 定理 7.22 が Google のページランクでも大事になっていたという記憶がある. 調べ直して書いているわけではないので, 間違っているかもしれないが, Google のページランクは数学として確率論と線型代数にまたがる, しかもとても面白いところを使っている話なので, 興味がある向きはぜひ勉強してみてほしい. 私の動画含め, Web 上にも勉強の資料はあるが本があるのでそれを紹介して終わりにしたい. ## 2013-04-08 応用数学・数理工学と数学のギャップ ### 本文 経済とか物理について Twitter で[これ](https://twitter.com/phasetr/status/324830632125534208]や[これ](https://twitter.com/phasetr/status/324838051627032576)みたいな呟きしていたら, [こんなツイート](https://twitter.com/dif_engine/statuses/324885869251153920)を見つけた. >数学から工学に移ったときは都落ちしたような悲哀を少し感じていたものですが >「工学の問題にどうやって数学を使うか」という問題はやってみると中々面白いです. >ノイズ, 精度, 計算コストの制約があるので単に数学的に解けば良いわけでもない. >そういう事がわからず, 最初はかなり空回りしました. 前にも書いたが, 応用数学というべきか数理工学というべきか, 工学での数学というべきかよく分からないが, つどいあたりでこの辺, 紹介してみたいと思っている. 参考にしたいのはこの辺. あと Google のページランクや符号理論の話とかしてもいいのか, とふと思った. 興味がある向きはページランクは[この動画](http://www.nicovideo.jp/watch/sm7599426), 符号理論は[この動画](http://www.nicovideo.jp/watch/sm10684363)を参考にしてほしい. 次のような本もある. 折角だしこの辺もどこかで話そう. 動画も改めて作りたい. ### 追記 chibaf さんからコメントを頂いた. 楽しそう. 私もこういうのやりたい. ## 2013-04-03 アオイゼミなるネット塾を参考に何かしてみたい 2024-12-03追記:[2022-03-11にサービスを終了していたようだ](https://note.com/takaki_ishii/n/nb8d071106cef). [アオイゼミ](https://www.aoi-zemi.com/)なるネット塾があることを教えてもらった. 時間的余裕がなかったのであまり見られなかったが, ニコ生などもやっているようだ. 普通の中学生向けの塾らしい. 「ライバル」も多いし, 今のところ普通の中高生向けに何かするつもりはないが, 最近この手の大学生が中高生向けにネットで授業を配信するサービスとか増えているので, 参考にして何かしたい. この間, 理研が施設公開のときに理論物理学者の展示をしたというのもあって, それなりに反響があったようなので, そういうピーキーなところを狙っていきたい. 理研とかぶったら勝負にならないので, 理研もやらないようなところでニーズがあるマニアックなところで何かする必要がある. 理研で今後もやっていく, という話は[この辺](https://twitter.com/hashimotostring/status/325777292959813632)で言っていたのでそれも紹介しておこう. > 有難うございます. この手法はまだまだ改善の余地がありますが, 拡げたいです. > RT @TeraKen0510: 大盛況だったとのこと, おめでとうございます! > アウトリーチの新領域の開拓ですね! > >> 本日の理研の一般公開で「実験」してみた, 理論科学者「理論屋」そのものを展示 基本的に内容は今までやっていたのと同じ感じだが, 対象にする層を広くする感じでとりあえずやってみたい. ひとまず動画を仕上げよう. ## 2013-03-31 Twitter まとめ: プロデュースに関するかとうさんとの深刻な討論 医学部生プロデュースに関する深刻な討論をかとうさんと交わしたので, それについて記録しておきたい. [この辺](https://twitter.com/katot1970/status/318016505344303105)から始まる. > ってか, 元の話は法学部卒ったって, 政治学科じゃねーか. > 理学部出たつっても生物屋さんに, ワインバーグも知らないんですかあ, って言ったら逆切れされるよ > > @katot1970 教養の微分積分, 線型代数の話すら「理系」に通じない悲しみ > > 初回講義のεδを見て回れ右した医学部生が居た. > 世界には悲しみしかない RT @phasetr: 教養の微分積分, 線型代数の話すら「理系」に通じない悲しみ > > @katot1970 レクチャーする代わりに数学ができる女性を紹介してもらいましょう > > 数学が出来る女性は相手陣地 (医学部) には居ないと思ふ. > RT @phasetr: レクチャーする代わりに数学ができる女性を紹介してもらいましょう > > @katot1970 とりあえず受験的な意味でできればいいという方向で. > あとはこちらで教育すれば > > でも, ここの blog によると, 大学までの数学と大学の数学は違うらしいよ http://phasetr.blogspot.jp/2013/03/blog-post_14.html > RT @phasetr: とりあえず受験的な意味でできればいいという方向で. あとはこちらで教育すれば > > @katot1970 だからこそのプロデューサー > > この場合のプロデューサーがつんく♂的なものか, 秋元的なものかが重要 > RT @phasetr: だからこそのプロデューサー > > @katot1970 市民的なものです > > 小室哲也的なものだったか RT @phasetr: 市民的なものです 割と真剣にプロデュースについて検討しているので, ご興味のある方は是非御一報を. ## 2013-03-24 愛された単位元のない可換環$L^1(\mathbb{R}^d)$ 先日埼玉大の坊ゼミでブルブルエンジン兄貴が単位元がない環に対する極大イデアルの存在定理についてトークしていた. 単位元がない可換環で我らがBanach環, $L^1(\mathbb{R}^d)$でどうなるのか考えている. 時間がなくてサボりっぱなしなのだが, 書いておけば誰か教えてくれるかもしれないという甘い期待を抱いて記事を書く. ちなみに局所コンパクトHausdorff空間$X$上, 無限遠で消える連続関数がなす環$C_0(X)$も単位元がない可換環になる. つどいの話の動画化したやつの付録でも簡単に触れるが, $L^1(\mathbb{R}^d)$の積は畳み込みで入れる. これは例えばKadison-Ringroseの本の3章に書いてある. ここでちょっとした表現論をやってFourier変換を導出するという話もあって結構楽しい. それはそうと, 畳み込みで積を入れるという話だった. まず積がwell-definedになるかという話で, これはLebesgue積分では基本的な議論で確かめられる. 例えば巾等元, または射影があれば極大イデアルがあるのだが, まだこれが作れていない. 頑張ろう. 知っている・またはすぐ作れるという方は教えて頂けると有り難い. ## 2013-03-24 埼玉大で埋蔵固有値に関する摂動論のトークをしてきた ### 私のトークメモ 3/24 に埼玉大で「Friedrichs モデルの解析」と題して埋蔵固有値の摂動論について入門的な話をしてきた. Evabow1 さんのリクエストとしてのスペクトル解析と, ゆきみさんのリクエストとしての作用素論と摂動論として丁度いい話題だろうということで. 今回の議論の詳細はあまり作用素論っぽくないのだが, 数学としては簡単な線型代数と微積分, 複素解析を知っていれば十分で, 物理よりのスペクトル解析の話題の面白いところは見られる良いモデルだ. メインターゲットの一人, ゆきみさんが来ないという非常事態が勃発したが, とりあえず話してきた. 時間があまっているから, という理由でのんびり + 物理の話を予定以上に入れたとはいえ, 最初の講演予定時間の 90 分を 1 時間オーバーというのは極めてよくないことなので反省している. 数学上の色々な概念や言葉の定義に物理のモチベーションがあるので, そこをどううまく伝えるかが非常に悩ましい. そこの間隙こそが一番好きなところなのだが, 伝えるときにはむしろ一番苦労する. ゆきみさん向けにまたどこかで同じ話をしようという企画は持ち上がっているので, 次回はもう少し色々配慮したい. また今回の講演もつどい同様動画にしたい. ある意味で 1 つネタを使ってしまったので新たなネタを補充する必要もある. あと, 私に何か話をしてほしいという奇特な方がいらっしゃれば, 適当な手段でコンタクトを取って頂ければ前向きに検討していくので遠慮なくご連絡頂きたい. 数学, 物理, 数理物理で社会を善導するために粉骨砕身していく所存. 話せるネタには様々な制約があるので, そこにはご配慮頂きたい. ### Evabow1 さんとブルブルエンジン兄貴のトーク内容のまとめ 坊ゼミでの他の講演者のトーク内容も記録しておく. Evabow1 さんとブルブルエンジン兄貴がトークした. パン耳パイセンはまさかのスピーカーの欠席という非常事態であった. 何の話をするか楽しみだったのだが. #### Evabow1 さん分 それはそれとトークの内容である. Evabow1 さんは 1 階の偏微分方程式についての話だった. 前半で特性曲線による解法について話し, 後半でそれを非粘性 Burgers 方程式に応用するという構成だった. 1 階の偏微分不等式 (偏微分方程式ではない) に関する議論が原・田崎の Ising 本でも出てきたが, まともに学んだことがない話だったので実にためになった. 一般論は何がなんだかよく分からないが具体的な話だと何をやっているか分かりやすくなるといういつものアレだった. 自分が話すときにも気をつけたいと改めて思う. Burgers 方程式の話は最後に衝撃波の話が出てきて, これが面白かった. あまり流体の話をまともにやったことがなく, 衝撃波も名前だけでよく知らなかったので, 勉強になる. 具体的に解けてその解の様子がはっきり見られるというのはやはり面白い. このくらいの目に見えることについては, もっと数値計算やシミュレーションの話を数学科でもやっていいと思う. #### alg-d さん分 もう一つ, ブルブルエンジン兄貴のパン耳パイセン向けであったという, 非単位的非可換環に対する極大イデアルの存在条件に関する話だった. 選択公理と同値なことで高名な Krull の定理から始まり, 単位元の存在と可換性を落としつつ, 単位元的なものはある状況からどこまでそれを落とせるか, という感じで進んでいく. 最後, left semicentral idempotent (lsi) が存在するところでの極大両側イデアルの存在定理でしめくくられた. 「代数の話だが作用素環に使えるから解析と強弁する」という兄貴の話だったが, 結局, 非単位的で factor でない非可換 von Neumann 環なら中心の射影が lsi になるから確かに作用素環への応用を持つことが分かった. Factor (中心が自明な von Neumann 環. 歴史的な事情によって von Neumann 環論では factor, 因子と呼ぶ) のときにどうなるか, また一般に射影を持つとは限らない $C^*$ 環ではどうか, という問題が残る. 一般の環というわけではないのでどうにかなりそうだとは思っているのだが, 適当なことを言っていると足をすくわれるし, それ以前に関係各所から致死量の攻撃を受けるので気をつけていきたい. しゅそくさんいわく, パン耳パイセンは優秀な学生だと聞いているので, パン耳パイセンの調査を待ちたい. ## 2013-03-24 宣伝: 坊ゼミ@埼玉大 [Twipla](http://twipla.jp/events/33886)で参加募集がかけられている. 私も話す方で参加してくる予定だ. 関西すうがく徒のつどいもあるので, さらりと話せる内容ということで専門に近いこと, 特に量子力学関係の数学についてゆるりと話す予定. 今のところ線型作用素の摂動論あたりを考えている. ご興味ある向きはぜひ参加されたい. またできる範囲でなら「こんなこと話せ」という要望にもお答えするので, 何か Twitter ででもコメントされたい. ### ラベル 数学, 物理, 数理物理, イベント ## 2013-03-24 RIMSの岡本久先生による『流体力学と数学』 ### はじめに [RIMS の岡本久先生による『流体力学と数学』という文章を読んだ](http://mathsoc.jp/publication/tushin/1802/1802okamoto.pdf). 岡本先生自身にもお会いしたことはなく色々な意味であまり詳しくはないが, 専門は非圧縮性流体とのこと. ### 引用とコメント > 連続体であるという仮定のもとに, 温度, 質量密度, 圧力, 速度, といったマクロな量が定義可能になる. > そして, それらを支配する微分方程式が導かれる. こうした事実に最初に気づいたのはオイラーであろう. > ニュートンは流体力学を粒子の力学に還元できると信じきっており, 連続体を使うことはなかった. > かれのプリンキピアの Book II には流体現象の様々な理論が展開されているが, ほとんどすべてが間違いである. > 「流体の運動を極微の粒子の運動に厳密な意味で帰着させるということは諦めて, > 連続体であるという近似から出発する」と, いわゆる流体力学になる. > 言い換えれば, 本稿では「粒子の力学原理主義」は放棄するのである. > ニュートンが考えたように, 基本粒子に関する最小限の仮定のみから出発してすべての流れ現象を演繹する, > というプログラムは数学者には魅力的であろうし, 未完であるわけだから数学者にはひとつの重要な挑戦である. > 筆者はこれを重々承知しているけれども, 流体力学の具体的な問題を解くためには, > これはあまり生産的ではないので, 本稿では関知しない. > 逆に言えば, 連続体の仮定はそれだけで十分に実り多いものであり, 未解決問題は多いのである. ニュートンが連続体関連のことを議論していたというのはそうだろうが, プリンキピアで議論してしかもほぼ全て間違いというのは知らなかった. また, 後半部の「基本粒子に関する最小限の仮定のみから出発してすべての流れ現象を演繹する」は, 今でいうなら東大数理の舟木先生あたりがやっている流体力学極限のあたりだろうと思う. > さて, ナヴィエの理論はどのようなものであるのか? > ナヴィエはニュートンやラプラスと同じく, 最小単位の粒子を多数 (しかし離散的に) 考える. > そしてその相互作用を適当に仮定してナヴィエ-ストークス方程式を導く. > 分子動力学原理主義者にはたまらない論文であろうが, 読んでみても何も納得できないというのが筆者の感想である. > 実際, 彼の論法だと, 液体も固体も区別が付きそうにない. > 固体の弾性体に対するナヴィエの理論は問題なかろうが, > 全く同じ論法で流れの基礎方程式を出したとしても, 結果が正しいだけであって, そのプロセスは正当化できない. > > 4. ストークス > > ナヴィエの論文を読んだ後でストークスを読むと爽やかな気分になるのは筆者だけではあるまい. > ストークスは何を仮定し, 何を導くべきかがわかっている. ナヴィエと違って, > 連続体を使うことに何のためらいもないから, 論旨は極めて明快である. > こうして, 非圧縮粘性流体の基礎方程式が由緒あるものとして定まったのが 1849 年である. > というふうに考えるのは現代人である. > 実際にはナヴィエ-ストークス方程式がどの程度正確に物理現象を再現できるのか, 疑問に思う人は多かった. > ラムの流体力学の教科書である Hydrodynamics はこの道の定番ということになっているが, > この教科書の初版 (1879 年) では, ナヴィエ-ストークス方程式に全幅の信頼を置いているようには見えない. > 実験と比較できるようなデータがまだ出ていなかったのであろう. > 流れの安定性に関するレイノルズの有名な実験の報告が公表されたのは 1883 年である. このへんの経緯, 知らなかった. > ストークスは物理学者であるとみなされており, それはそれで間違いではないのだが, > 数学的な才能もふんだんに持っていた (文献 [9]). > 名だたる数学者に先駆けて関数列の一様収束の概念にほぼ到達していたのは有名な話であるし, > 水面波に 120 度の角がおき得ることを示した論文など, 実にエレガントである. Stokes, ベクトル解析というか多様体論の Stokes の定理の Stokes だろうか. そんなことまでやっていたのか感ある. 最後, 物理と数学の交錯するところに関する記述もある. あまり引用し過ぎると今度は全文引用という酷いことになるのでやめておくが, 興味がある向きは是非読んでみてほしい. ## 2013-03-20 Twitterまとめ:統計力学の数学 ### 本文 統計力学の数学と言っても色々な数学がある. 極端な例だが, 物理ではほぼ死んでいる (意味がない) エルゴード問題について, 数学ではむしろ非常に重要な概念として一部分野ではよく出てくる. もちろん, 元が物理と関係が深かったりする確率論や作用素環ではある意味当然といえば当然なのかもしれないが. [このツイート](https://twitter.com/forest8810/status/314350298418262016)や[このツイート](https://twitter.com/tetshattori/status/317473707675234305)を見て色々なことを思った. 作用素環だと centrally ergodic とか, 物理と関係ない状況でも出てくる, ということくらいは書いておきたい. ### 転載 以下 Twitter のまとめ. > Ergodic theory のゼミはやることになりそうだな. > 数学での発展でこんな感じだったんだと google books で軽く確認. > 田崎さんの本の注まで読んでいない人は「エルゴード仮説」と一緒にして軽視しそう. > > @forest8810 実は, 僕は, 君とエルゴード理論のゼミをする予定になっている者です. > 提案なのですが, 統計力学の数学的構造の本も一緒に読むと, エルゴード理論の本の理解が深まるようなのですが, 興味は有りますか? > また, 興味を持ちそうな人は周りにいますか? > > @koplpynwa そうなのですか. > 興味はあるのですが時間がないかもしれませんね. > 僕は来年度から物理系に進むものなのですが, ゼミの本も, 最終的に岩波の『力学系』に落ち着いたみたいなので今の段階では十分かなと思っています. > 確かに物理との対応はみていくつもりですが. > > @koplpynwa 統計力学の数学的構造の本とは具体的にどんな本なのですか? > 時間はとれそうにないですが, 興味があります. > > @forest8810 Ruelle という人の, statistical mechanics という本です. > あと, 僕は君をエルゴード理論のゼミに誘った張本人です. はい, 誰かわかりましたね. > > @koplpynwa そうなんですね (笑). > ちょっとびっくりしました. > 世間は狭いなあ. > 関心のある子はいますがゼミ死しそうなので時間がなさそうですね. > 本は google book で見ました. まとまってはいそうですが, おそらく量子統計ですね. > > @koplpynwa 作用素環論につながるにおいを感じますが. > 統計力学というよりは, 多体系 (多粒子) の量子力学というイメージがあります. > > @koplpynwa どちらにしても別に日をとってゼミをする時間はなさそうです. > 最適輸送も結局, 時間が多くは予習にとれないので今日断ったりした感じなので > > @forest8810 あと悪いんだけど, ゼミの連絡とか DM でやりたいから, フォローしてもらえますか? > > @koplpynwa 了解しました. > > @koplpynwa @forest8810 その本は滅茶苦茶読みにくいのでやめた方がよいです. > 目的によりますがあまり物理っぽくなくエルゴードも全くないですが, > 量子統計なら新井先生の量子統計力学の数理, > 古典統計なら場の量子論と統計力学 (のイジング周り) の方がもう少し読みやすいです > > @koplpynwa @forest8810 目的に応じて他の選択肢もありますし, 適当な本のこの部分を読むとこんなことは分かる, くらいのことは言えます. > で雰囲気を掴めるかもしれません > > @phasetr 和書で, 薄い本があるのを前にみたのですが, それはどうなんでしょう? > たしか樋口さんという方が書いていたと思います. > > @phasetr @koplpynwa ありがとうございます. > とりあえず, ゼミでは岩波の現代数学の基礎の『力学系』でやっていくもようなので関連でまた考えていきます. > > @koplpynwa でしょうか. > これは読んだことないので詳しくは分かりませんが, 古典統計の本です. > 何を持って統計力学の数学とするかによりますが, 話題としては多少の偏りはあるでしょう > > @phasetr それではなく, 「統計力学」 > というタイトルの本のことをいったのですが, 自分で調べてみます. > percolation や self-avoiding walk に興味があるのですが, 最近はどのような研究がされているのでしょうか? > > @koplpynwa 勘違いしていてすみません. > そちらもみていませんが, スピン系でやはり相転移周りの話です. > 確率周りは詳しくないのですが, tetshattori さんがその辺近い人なので聞いてみると早いかもしれません > > @koplpynwa @forest8810 横レスすみません (相転移 P さんの呟きを偶然見たので). > お探しの樋口さんの統計力学は の 3 冊目かと. > 樋口さんの和書はそれぞれ表題どおりの教科書で, 読みやすくかつ良書で, どれもお薦めです ### 服部さんとの対話 この辺から私と服部さんの対話に移る. > @tetshattori ふと思ったのですが, 古典連続系の統計力学だとどんな本があるのでしょうか. > 量子連続系だととりあえず Bratteli-Robinson と Stability of matter 関係の文献かと思うのですが, > 古典連続系はぱっと思い浮かばないもので > > @phasetr あ, もちろん昨日今日話題になっていた樋口さんの統計力学とかも基礎的なことを抑えてあったはずですが > (どういう水準のものを求めているかにも依ってきますが…) > > @tetshattori このくらいを知っていればある程度を論文を読めるようになる, という程度の感じです. > Bratteli-Robinson も Stability of matter も論文ある程度読めるようになる感じの本だと思うので, > 対応する古典系の本は何かあるのだろうか, という > > @phasetr それは難しい注文ですねえ, 原著論文遡って何とかした世代 (というか, > 出自が統計力学じゃ無いので, そうやって間に合わせた, というべきかもしれない) なので, > もうちょっと要領の良い方法があるはずですが…参考にならずですみません > > @tetshattori 私も勉強が偏っているので何とも言えませんが, > イジングや関連する確率幾何と相転移関係のものは充実しているのに, どんな文献があるかすら知らないのも情けないと思ったので, > せっかくの機会なので少し伺ってみようと思いまして. ありがとうございました 古典統計, 結局あまりよく知らない. 量子統計だからといって分かっているわけでもないのだが. 世界は広い. ### 追記 Ruelle の本は Statistical Mechanics ではなく Thermodynamic Formalism ではないかという, とある専門家のタレコミがあった. タレコミで教えてもらった[このレビュー](http://projecteuclid.org/DPubS?service=UI&version=1.0&verb=Display&handle=euclid.bams/1183544906)によると Thermodynamic Formalism はエルゴード理論の話が中心のようで, Statistical Mechanics 以上の地雷という可能性があるようだ. 少なくとも初学者が読む本ではない模様. 初学者というのは曖昧な言い方だが, 統計力学の数理物理のバリバリの専門家にしか読めないという程度の意味を想定してほしい. とりあえず私は Ruelle の Statistical Mechanics がほぼ全く読めなかったし, 今でも読める自信はないので, 数学・物理共に私を明白に越える力があると思えない人は読まない方がいい. エルゴード関係なら多分素直に数学で定評のある本を読んだ方がいいだろう. ある程度物理にも配慮しながら相転移方面の数学を学びたいという方は, 原・田崎の Ising 本を待とう. 今は査読状態なので[ここ](http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/IsingBookJ)からメールすれば草稿は読めるが, あの状態ではまだ非専門家が読めたものではないので, 査読ついでに勉強したい, という向きには勧められない. 関東近郊の方でサポートを受けつつ読みたいという方がいらっしゃれば, Twitter かプロフィールのところにあるメールアドレスまでご連絡を頂ければ, 私の方である程度はサポートすることはできる. より良い本にするためにも相転移の数理物理の非専門家からの意見は貴重だと思うので, できる限りのサポートはしたい. ### ラベル 数学, 物理, 数理物理, 統計力学 ## 2013-03-20 Twitterまとめ: 零空間 $N$ は (線型) 写像の核 ker だった悲しみ ### 本文 ささくれ先輩がセミナーで喋っていたようなのだが, それについてブルブルエンジン兄貴と梵さんが Twitter 上で会話していた. 困っている人がいるかもしれないし, 折角なのでメモしておきたい. [この辺](https://twitter.com/alg_d/status/314232149047930880)から始まる. ### 引用 ### 私は ker と書く 私自身は核を ker と書く. これは新井先生の本の影響だ. ### im は ran ついでにいうと, 像の方も Im や im ではなく ran と書く. ホモロジーあたりをやるとき時々こっそりと Im ではなく ran と書くのだが, これはこれで気持ち悪くて結局 Im とか書きつつ, 核だけは ker と先頭を小文字にしていたりする. ### 追記 Twitter で[次のようなコメント](https://twitter.com/unaoya/status/315079405301030912)を頂いた. よく分からないが確かにフランス語由来かもしれない. 実際, 整数の $\mathbb{Z}$ はドイツ語の Zahlen が由来だったはずだ. 何か文章にしておくと指摘をしてもらえるのは実にありがたい. ### 数学 数学, 関数解析, 線型代数 ## 2013-03-16 記事紹介: 【ドラクエから類体論】 ブルブルエンジン兄貴のツイートで紹介されていたのだが, [ドラクエから類体論](https://lemniscus.hatenablog.com/entry/20130316/1363455905)という際物の解説があった. 不勉強なところなので正直細かい所は把握しきれていないのだが, こう無駄な迫力があり無駄に読ませるという点で優れた解説だと思う. タイトルからしてドラクエということで読者を選んでしまうのだが, むしろ読者を限定することでその層に向けた強いメッセージを発することができている. この辺は私のニコマスの動画と同じコンセプトであると言える. 内容に関してははじめの目次のところを見てほしい. そこで大体分かる. - ドラクエ世界の形 - パラレルワールドと被覆 - 被覆変換と被覆空間の住人たち - 被覆のガロア対応 - 体のガロア理論 - 普遍被覆と基本群 - ヒルベルトの類体論 ドラクエ世界の形から始まり, なぜか唐突にパラレルワールドの話になり, そして唐突に被覆が出てくる. Galois被覆という大事なキーワードを出しつつ部分群と空間の対応を論じるのだが, 実はこんな話もある, といって体のGalois理論に入る. あれよあれよという間になぜか類体論の話になるという不思議な記事だった. 不勉強なせいで上手く説明できないので, 興味がある向きはとりあえず読んでみてほしい. 何か不思議な感覚を味わう不思議な文章だった. ところでこの記事書いた人, 何者なのだろう. ## 2013-03-06 Twitter まとめ: 絶対に座標を取ってはいけない幾何学 ### 本文 mr_konn さんとのハートフルなやり取りをまとめておく. [この辺](https://twitter.com/mr_konn/status/309299304676352000)から始まる. > 「絶対に元を取ってはいけない幾何学」だったかを思い出した > > @mr_konn 何かそういう文章あるのですか. 読んでみたい > > @phasetr いえ, ネタとして出てきたフレーズでした. > > @mr_konn 無念 > > @phasetr 相転移 P が書いてください! > > @mr_konn 幾何, 本当に知らない (分かるとかいう前にろくに勉強していない) ので何ともならないですね. 何とかしようとは思っていますが ### 雑感 「元を取ってはいけない」だと圏のあたりで代数のはずなのでブログタイトルは少し変えておいたが, 要は数学人には分かるネタだ. 幾何だとタイトル通り, 「絶対に座標を取ってはいけない幾何学」になるだろう. このあたり本当に不勉強で詳しくないのだが, 聞く限りではとても大事な考え方ではある. 「元を取ってはいけない」については, 圏や関手の話になる. 具体的な元を取らずに関係性だけで考えていくことで議論をクリアにしていけるのが御利益なので, 元を取らずに頑張ることが大事, とかいう話だ. 幾何に関してもそうで, 何でもかんでも座標を入れて計算していくのはよくない, とのことだ. こちらもやはり具体的な対象に目を奪われて本質的な部分が見えなくなるおそれがあり, それを避けるためにも常に意識しておくことが大事らしい. 聞くところによると, 本質的で難しいことをしているときこそ視界をクリアにするために座標を使うことを避けた方がよいようだ. 知らないこと, 聞きかじりでしかないことをぐだぐだと書いたのは, 言葉の響きがキャッチーなのでこういう感じで何かできたら面白いだろうなと思ったからだ. どちらかといえば数学は重々しい感じが付き纏うかと思うので, こういう言語感覚は大事にしたい. ## 2013-03-02 原始, 数学は人文学であった ### はじめに 我らが伊藤ベクさんが[次のようなツイート](https://twitter.com/ItoBek/status/308064154378461184)をしていた. > 数学系の人らの反応待ちみたいな所はありますね http://mojix.org/2013/03/02/suugaku-jinbun 一言でいうと「どうでもいい」というのに尽きるのだが, やはり折角なので何か書いておきたい. ### コメントその 1 > 学問はしばしば, 「自然科学 (natural science) 」, 「社会科学 (social science) 」, 「人文科学 (humanities) 」の 3 つに分けられる. > この 3 つのなかで, 数学はどこに属するだろうか. はじめに書いた通り, どうでもいい. 強いていうなら人文学と思ってはいるが, 引用している文章の著者とはまるで違う理由でそう思っている. ### コメントその 2 > 「もちろん自然科学でしょ」と答える人が, おそらく多いだろう. > しかし, これは間違いである. > 数学は, 自然科学には欠かせないものだが, 数学自体は自然科学ではない. > 自然科学は, 人間が作ったものではない「自然」というものについて, その性質や規則性をさぐるものである. 数学は自然科学に欠かせないというの, どういう意味なのだろうか. 詳しくないので実にアレだが, 特に古い時代の博物学には数学を 必要としない結果もあるような気がするが, そういうのはどう思っているのだろう. 自然科学という言葉自体が粗すぎるのと「数学は, 自然科学には欠かせないものだが, 数学自体は自然科学ではない.」という言葉が 陳腐過ぎるのとで大分アレな印象を受ける. 次の文で「その性質や規則性をさぐる」とあり, 規則性という部分では数学が役に立ちそうな気がしないでもないが, 性質の部分では数学いらないことたくさんあるのでは感があり, そこにも世界の悲しみを感じる. 人によっては, 数学の人でも 「数学は自然科学」という人がいることは付け足しておこう. あと第 4 文, 何となく 科学哲学の人達 (の一部) が怒りそうな気がするがいいのだろうか. そもそも自然科学自体が自然哲学の出来損ないという観点から 人文学と強弁したいのだがそれは駄目なのだろうか. 気になって仕方がない. ### コメントその 3 > いっぽう, 数学はすべて人間が作ったものであり, 一種の言語体系である. > 数学は自然に属してはいないのだ. よって, 数学は自然科学ではない. これは人によっては猛反発しそうな印象を受けた. この文章内では【自然科学は, 人間が作ったものではない「自然」というものについて, その性質や規則性をさぐるものである.】としか規定していない. 自然という言葉の使い方の問題になるが, 自然科学の対象としての自然より 数学の対象としての自然の方が自然に感じる人にとって, 「数学は自然に属していない」というのをどう取るだろうか. 「【よって】じゃねえ」感ある. 「一種の言語体系」というのはどういう意味で使っているのだろう. 私は数学に対して気持を表現するもの, という一面を感じているのでその意味では一種の言語という感覚はあるが, この感覚が共有できている気がしない. 他人の話しかしていないので 私の感想をいうなら「うるせえ」の一言に尽きる. 私にとって数学は『マリア様がみてる』の蓉子様のプティスール見解的な意味で心の支えなのであって, 自然かどうかなど知ったことではない. あと私にとって, 研究する上での「数学」は むしろ「数理物理学」であって自然科学の色彩が極めて強い一方, 上記「心の支え」としての「数学」は, 何というか「数学」で数学の世界, 数学的自然の中を旅しているような感覚がある. この辺, 自分でもよく分からないので正に「よく分からない数学」という感じ. さらによく分からないのだが, 『数学は自然に属してはいないのだ. よって, 数学は自然科学ではない.』の 2 文で, 前者では「数学」という言葉が研究対象を指す言葉として使われていて, 後者では『その性質や規則性をさぐるもの』という学問の内容として使われている. その辺の二義性みたいなのはどうなっているのだろう. せめてそのくらいははっきりさせてほしい. ### コメントその 4 > 数学が自然科学ではなく, また社会科学でもないとすれば, あとは人文科学しかない. 人文学ですらなく数学は数学と言うのは駄目なのか. 無理に既存の分類に入れる必要ないと思うのだが. 「自然」の定義がよく分からないので, 定義次第で私は数学を自然科学に入れていいとも思う. もっと言うなら自然科学は人文学に入れるよう強弁したいところだが. ### コメントその 5 > じっさい, 数学は一種の言語体系なのだから, 哲学や言語学といっしょに人文科学に含めても, それほどおかしくはない. > 数学と同じく, 論理学やコンピュータ科学なども, 自然科学ではない. > よって, これらも人文科学に入れるしかない. > しかし, こういうものを人文科学に入れるのはちょっと違う気がする, ということで, 「形式科学」という分類があるようだ. > 私はこの分類があまり好きではないが (関連:「「形式科学」なる概念があるそうだが, 数学は科学なのか? 」), > 人文科学のうち, 論理的整合性を重視するものをそう呼ぶのであれば, わりと納得できる. とりあえず, 数学が一種の言語体系という合意はどこで取ったのか. 論理学, もともと哲学の一分科だと思っていたので, 自然科学と言われた方が衝撃的だし, 人文学に入れるのは違う気がすると言われる方がもっと衝撃的だ. あと, 上記引用中の最終文を読んだときに世界の嘆きが聞こえたことをお伝えしておきたい. 疲れたので, いつも通り適当なところで切り上げよう. ぱっと読んでざっと書いたのでそこまで含めて 実に適当である, という予防線を張っていく社会人の態度で臨んでいきたい. ### ラベル 数学, 数理物理 ## 2013-03-01 小林昭七先生についての記事を書いていたら小林久志先生からお問い合わせを頂いたでござるよの巻. あと http://www.shoshichikobayashi.com ### はじめに 先日, 数学セミナーの小林昭七先生特集号を読んで, それに合わせて[書評:数学まなびはじめ 第 1 集 小林昭七](http://phasetr.blogspot.jp/2013/03/1.html)という記事を書いたが, これを検索で見つけたという小林先生の弟君であるところの小林久志先生からご連絡を頂き驚いた. 数学まなびはじめ〈第1集〉 数学まなびはじめ〈第2集〉 ### やりとりの記録 昭七先生の随筆などを探していて, このサイトを見つけたという. 該当記事のコピーを送ってほしいとのことだったのでお送りした. あと昭七先生の方のサイトがあることを教えて頂いた. [英語版がこれ](http://www.shoshichikobayashi.com), [日本語版がこれ](http://jp.shoshichikobayashi.com)だ. メルマガでニュースを配信してくれるとのことなので, 興味がある向きは是非登録しよう. サイト右上に登録リンクがある. 久志先生の方, 数学セミナーの昭七先生特集号にも寄稿していたし, その記事でだったか, 「大学生の頃の昭七先生が弟の勉強の面倒を見ていた」とかいう記述を見たことがあったので, こう中高生くらいのままのイメージだったのが 突如プリンストンの名誉教授として自分の目の前に現れた感があり, 何かこう色々なものを感じて楽しかった. こうアレだ, ブログやニコニコの動画は数学または物理で頭がどうにかしてしまった人向けに書いてはいるという名目ではあるものの, 「子供の頃の自分がこんなのがあったら喜んだ」というラインで作っているため, 広い意味では純粋に自分のためと言える. 今回このような面白い体験ができたのもブログを書くようにしたからなので, 皆も適当に自分が面白いと思ったことを世に出していくとこう色々と楽しくなるから皆もやって私を楽しませてほしい, というようなことを言いたい. 黒歴史にもなりうるので用法用量に気をつける必要はあるものの, 小さいことを気にしていると大きくなれないと社会が言っているので, それを真に受けていきたい. ## 2013-02-20 Twitter まとめ: 慶應SFCは社会のことなど気にせずもっと面白いことをしろ 大した話ではないが, 折角いくつか呟いたのでこちらにもまとめておこう. 一言で私の希望をいうと, 「社会をどれだけ傷だらけにしようが お前らが腹の底から面白いと思うことを貫き通せ」となる. まず[このようなニュース](http://www.j-cast.com/2013/02/20166185.html)があった. すごくどうでもいいのだが, 次の文章には驚いた. > 最近は入試問題の「マンネリ化」により, 受験勉強が問題パターンの暗記一辺倒になってしまっていると指摘されている. > そんな中で「目新しさを狙って暴走してしまったのでしょう」といい, 受験生の努力がむくわれる出題をしてほしいと話していた. 私は「お決まりの努力だけをしてきた受験生なんていらないよ. 触れたことがなかろうが瞬発力を見せろ」という SFC のメッセージだと素直に受け取っている. あとで『数学まなびはじめ (第 1 集)』の 小林昭七先生の分から淡中先生の記述を引用するが, 頭の回転速度 (だけ) で頭の良さを測ろうとするのは 愚の骨頂であると思っている. 無論私が頭の回転が遅いため死ぬ程頭に来るからだが, しかしそういうタイプの人でないと捌けない問題はあるはずで, SFC のそういう学生を最優先で仲間に入れたいという メッセージについては一切文句はない. 色々な人がいればいい. これを受けて [次のようなツイート](https://twitter.com/phasetr/status/304598862918733824) をした. そしてこれに y_bonten さんから [次のような反応 ](https://twitter.com/y_bonten/status/304867290460073984) があった. 私の返しは次の通り. > @y_bonten そんなに SFC に含むところがあるわけではないのですが, 思っているのは, SFC の理念です. > 問題解決のプロを育てるといっています. > 既存の枠にとらわれず入試における問題もきちんと解決していく様子を見せればそれだけでもかなりクールなことですが, そういう姿勢が見られない > @y_bonten 数独というのは確かに今までにないソリーションと言えないことはないですが, 流行り物という一面があります. > たとえスベってでも自分たちが理想とする入試, 自分たちが育てたい, 共に歩んで行きたい学生はこんな人たちだ, というのを打ち出せばすごくいいと思うのですが > @y_bonten そこで, そういう気概が感じられない, 気をてらったようにしか見えないものを出してくるのはどうなのかと. > ここで私が思いだしたのは東大の数学の入試です. > 以前三角関数の加法定理の証明が出たことがあります. > まさに教科書に書いてあるわけですが, これを東大が出すことに意味が > > @y_bonten あります. > 何を身につけていて欲しいのか, どういう姿勢で取り組む学生が欲しいのか (少なくとも数学関係者には) 明確に分かります. > また, 小学校での円周率の問題がでたとき, 東大で円周率が 3.05 より大きいことを示せという問題が出ました. > @y_bonten 既存の問題形式でもそれなりの意味や社会的影響を出せることはあるわけで, 円周率は実際ニュースにもなりました. > SFC も慶応の名を関するわけでそれだけでも社会的影響があるので, 何かもっと面白い社会実験すればいいのに腰砕け感溢れるのが情けないな, と y_bonten さんからまたもう少し反応があり, さらにそれに私が返す. > @y_bonten そこをむしろ色々実験やってほしいですね. > 既存の形態も織り交ぜつつ時々変なのも出すとか. > ある年は全ては健全で盤石な基礎の上に作られるという信念に基づき標準的なものばかりにしたり, > ある年は既存の道具は何も使えない, さあどうする? と言った趣向でやってみるとか > @y_bonten SFC の学生も当然大なり小なり失敗をしていくわけですが, > それをいい年した大人が試行錯誤の過程を見せながらより良いものを目指していく姿を見せられればそれだけで面白いと思うのですが, > 奇を衒っただけとしか思えないようなものを出すのに何の意味があるのと. > @y_bonten 究極的には半端でつまらないからもっと徹底的にやれという私の単なる願望というか一方的な期待です もっと大人が手本を見せろ, 恥ずかしくないのSFCの教官陣は, というところだ. 東大数学のように, 「うちの大学は加法定理の証明もできないようなへっぽこはいらない」くらいの強烈なメッセージを出してほしい. ## 2013-02-15 数学科および物理学科での数学教育についての雑感:数学者 Hans Freudenthal (1905 - 1990) の紹介文を見て ### Twitterで発見 Twitter を色々見ていたら[こんなの](https://twitter.com/paul_painleve/status/302347944500273152)を見つけた. Freudenthal, 名前だけは聞いたことがあるので [Wikipedia](http://en.wikipedia.org/wiki/Hans_Freudenthal) で少し調べてみたが何をやっていたのか正直なところよく分からなかった. 20 世紀前半の仕事だというのに今一つよく分からないというの, 何となく衝撃的だったが, 例えば量子力学も一応成立は 1925 年と 20 世紀前半の話なので, 20 世紀前半の話が既に破滅的に難しいというのを再認識した. 最近『数学まなびはじめ』を読んで時代的に数学者に落ちる戦争の影を見たので, 上記 URL にはその点からも感慨深い文がある. ### 教育に関わる話 面白かったのはむしろ教育に関わる部分だ. > As a teacher he acquired international fame and significance as the founder of realistic mathematics education, > which is based on problems taken from day-to-day experiences rather than on abstract math rules. > Single-handedly Freudenthal saved Dutch education from the American teaching method of New Math, > which was introduced in many countries from 1960 onwards. > This formal, logic-based method turned out to be unsuitable for most students. > > Freudenthal preferred to send his students on a tour of discovery. > His motto was that you learn mathematics best by re-inventing it. > His students were not given abstract bare problems to do but well chosen practical problems from daily life, > and in solving these they gradually developed mathematical understanding. > In addition, Freudenthal thought the recognizability of the problems would lead to the students automatically becoming more interested in mathematics. 独力でアメリカの New Math 運動からオランダの教育を救ったという猛烈に格好いい話に目が向く. 何の本だったか忘れたが, 小平先生は娘さんが New Math に巻き込まれて酷い目にあったとかで批判的な文章を書かれていた覚えがある. 学部は物理学科であって正規の数学教育 (?) を受けたのは修士からであり, 修士ではある程度具体的な問題を念頭に置いて勉強していたので, 学部レベルの数学科の数学についてはよく分からないこともあるが, 物理学科で数学を学ぶときの苦労ぐらいは書いておきたい. ### 物理学科 物理学科はあくまで物理をやるところなので, カリキュラムに組み込まれた数学も物理のための数学に集中する. (歴史的な経緯もあり私の大学の物理学科では実数論, 集合論, 位相空間が必修だったが, とりあえずこれは抜かす.) 物理のための数学とはいうが, 正直, 具体的にどういう数学をどこでどう使うという話はあまりされず, 結構雑だった気がする. 私が単純に聞き落としていた, 聞いてはいたが全く実感が持てなかった, 本当に話されていなかった, 物理で出てくる数学的問題を解決するための数学なのでその元の数学の話が分かっていないといけないためそもそも物理・数学ともにある程度まで進まないと話すのは不可能, などいくつか原因はあろうが, 今になって考えるとかなりつらい思いをした学生もいたのではないかと思う. 私に関していうなら, 数学を数学として楽しめたという理由以上に毎日訳が分からず目の前の勉強を必死になってやっていて, そんなことを考える余裕もなかった, というのが実情という感じがある. 通じづらいと思うので「物理で出てくる数学的問題を解決するための数学~」という部分について簡単に触れておこう. いくらでもあるのだが, 一つは私の専門でもある線型代数だ. 大雑把過ぎるので, さらに具体的なものとして線型空間論を挙げておこう. 少なくとも初等物理では線型の微分方程式がたくさん出てくる. 「線型の」と言っているくらいなのだから当然線型代数が関係しているのだが, これに気付いたのは学部 3 年くらいだった気がする. 量子力学でも重要なので講義でも多少触れたのではないかと思うが, 全く記憶にない. 量子力学は学部 3 年のとき本当にやばいくらいに何も分からず, 学部 4 年で新井先生の本で数学的に復習しつつ整理してやり直したという感じであって, 講義で何かを身に付けたという覚えすらない. ### 線型代数 話がずれたが, 線型代数だ. 力学の講義でも出てくる方程式 (運動方程式) は大体線型で重ね合わせが成り立つことを使っているので, その時点で死ぬ程線型代数を使っているのだが, これも気付いたのは大分あとのはずだ. 無論線型代数の講義で学んだ記憶はない. ちなみに多体系の安定性みたいな話をするときにポテンシャルを Taylor 展開して Jacobian の行列の正値性に帰着させる話も線型代数だが, これも学部 1 年当時に本当に線型代数だと認識できていた自信はない. 話がずれっぱなしなのでさらに戻して「物理で出てくる数学的問題を解決するための数学~」のところだ. 上記の例では (偏) 微分方程式の線型性という話をしている. 微分方程式自体あまり馴染みがないので, 微分方程式と言われてもあまりピンと来ない. 運動方程式は学部 1 年の力学でも嫌でも出てくるのでまだいいが, 偏微分方程式となるとつらい. 物理で偏微分方程式を使うというと当然色々あるが, 電磁気学を例に, と言ってもその電磁気 (の数学的取り扱い) が分からない. 電磁気となるとベクトル解析も必要だが, こうやって線型代数の必要性を感じるために他の数学, さらには物理 (の数学的取り扱い) まで知っていないといけない (ご利益が感じられない) ので, 結局学び始めの段階で具体的な応用の話がしづらくて困る, という話がしたかった. 他の大学は知らないが, 私の大学では学部 1 年次に物理学演習だか何か (講義名を忘れた) という名の数学の演習の講義が必修であり, そこで通年の (教養の) 線型代数や微分積分の講義とは別に必要な数学をトピックごとにやっていた. そこでも実際の応用はあまり話された覚えはない. ただ「とにかく使うことだけははっきりしているから, 泣こうが喚こうがやれ」という雰囲気はあった覚えがある. 色々書いていたら何が書きたかったのか分からなくなってきたのだが, 数学を学ぶことに具体的なモチベーションがあるはずの物理学科ですら, 「必要だからやりなさい」という感じで学習段階であまり具体的な応用の仕方を伝えられることはなく, 結構つらかったという感じのことが言いたかった. Twitter で言ったのだかブログにも書いたのか忘れたが, 物理ですら道具とする工学部だともっとつらいのだろうな, と思っている. ### 数学科での教育 そして更に元に戻ると, 学部の数学科ではどういう問題意識で進めていくのかよく分からないという話になる. Freudenthal は抽象的な問題よりも日々出くわす実際的な問題を出題し, それを解くことで数学に慣れ親しませたとあるが, これはどういうことなのだろう. この辺, 数学者は数学的自然の中に生きている感があって何となく羨しく感じた. もちろん今となっては「日々出くわす実際的な問題」みたいな感じはある程度分かる気はするのだが, 必ずしも大学の数学に親しんでいない, 特に学部 1 年生をどう励ましていくのかというところに興味がある. ある程度慣れた学部 3 年とか, 研究を目指す修士の学生にそういう感じで学ばせていくところにはイメージが湧くのだが. 数学科の修士を出たにも関わらず, (学部の) 数学科は不思議なところだという感覚がいまだにある. あとこれも前から思っているのだが, 微積分やベクトル解析に関し, 純粋な数学の人の物理抜きの理解の仕方というのがとても気になる. ベクトル解析だと多様体上の解析というか, Stokes の定理とそこからの展開というイメージの仕方はあると思うが, 私は 2-3 次元でのベクトル解析は物理というか電磁気のイメージなしには最早理解できない. 理解できないというか, 真っ先に電磁気的なイメージが広がってしまうので, 何というか「純粋な数学」として感知できない. こういうの, 数学の人はどう思っているのだろう. それはそうと, 3/16-17 の関西すうがく徒のつどいでは正にこの辺の「具体的な問題を通した数学学習」というイメージで, 色々な (反) 例を紹介する講演をする. それで Freudenthal の話が気になった次第であった. ついでにいえば, 数学科に限らず, 物理でも結構「具体的な数学」というのが結構穴になっている感じがあるので, その間隙を縫うことがしたいなとはずっと思っている. ニコニコでの動画での目的の一つはそこにあるのだが, 数学的に極端過ぎるので, もう少しクッションになれるのを作りたい. ## 2013-02-06 不等式, 代数的不等式 Twitter で[このような呟き](https://twitter.com/nmrmsaktdh/status/298826701796954113)を見つけた. > 不等式, 極めるためには Hölder やら Karamata やら Minkowski やら Shapiro やら Young やら, > 全部ある程度知っておいた方が良さそうだしそれでも変な問題は解けない感じがあるので死 彼 / 彼女 (以下では「彼」で統一) は高校生 (のはず) なのだがなかなかマニアックなことを知っている. Young, Holder, Minkowski は解析学を学んだ者なら誰でも知っているが, 少なくとも他の 2 つは私は本当につい最近知った. 上記不等式群は例えば次の本に書いてある. 最近「数学で遊ぶ」をコンセプトに, 不等式 (の証明) に関する動画を作ろうと思ったので参考のために買ったのだが, まだ一度ざっと目を通しただけだ. 彼は受験に関して言っているのだと思うが, 受験にはあまり関係ないだろう. 動画を作ろうといったことにも関係するが, 証明の技術的にも大事だし何より面白いので勉強しておいて損はない. 遠い受験の記憶を掘り起こすと, 東工大だかどこかで Minkowski の等号成立条件を調べる問題はあった気がするので, 受験的にも出てくることがないわけでもないはず. 念の為に書いておくと, Holder と Minkowski は $L^p$ (または $\ell^p$) に関する三角不等式を示すのに使う. Young も実解析的な方向で基本的な不等式だ. Karamata や Shapiro は代数的不等式 (あえて言えば有限集合上の $\ell^p$ に関する不等式) では基本的で大事な不等式のようだ. 彼のツイートを見てから上記の本が気になって仕方がない. ## 2013-01-30 線型代数と表現論・圏論 ### はじめに Twitterで[保型表現と Galois 表現](https://www.dpmms.cam.ac.uk/~ty245/Yoshida_2010_SummerSchool-1.pdf)というPDFを見かけた. 中身は数論なのだが, その中で表現論や圏論, 線型代数に関する部分が面白かったのでそこだけメモしておきたい. 数論部分については分からないので, 触れない. ### 引用 長くなるが, 個人的に面白いと思った部分を引用しておこう. 面倒になったので引用しないが, 3.2 節にも線型代数と表現論ということで大事な記述がある. 興味のある向きはそちらも参照されたい. #### 引用その 1 > より現代的な視点からは, 表現論の重要性は何と言っても理論の線形化にある. > ブルバキはかなり早くから線形代数の重要性を強調したが, もちろん, > 必ず体系的に解ける唯一の問題としての連立一次方程式, すなわち完全に信頼できる方法論としての > 線形代数の強みは周知の通りであろうから, ここでは圏論的な視点を強調しておく. > 線形代数 (体 $K$ 上の有限次元ベクトル空間の理論) は, 代数的構造の見通しのよい理解と操作のひな型となった. > 圏論の方法は, ここの数学的対象 (集合とその元) を直接分析するよりも, それらの間の相互関係, > つまり構造射の集合を理解しようとする. > 共通の構造を持った対象の全体 (圏) という文脈の中に置くことによって, > 個々の対象の役割, ひいては本質がよく見える, という考え方である. > 古典的な数学的結果も, それが対象の具体的な表示の仕方に依存しない結果であれば, > 圏の性質, あるいは圏と圏の間の関手の性質として表現することができる. #### 引用その 2 > 体 $K$ を固定し, $K$ 上のあらゆる有限次元ベクトル空間のなす圏を $(\mathrm{Vect}/K)$ で表すことにしよう. > 圏 $(\mathrm{Vect}/K)$ の対象は $K$ 上の有限次元ベクトル空間であり, それらの間の射 (構造射) は $K$ 線形写像である. > この圏の対象の同型類は, 次元という自然数の不変量で完全に決まる. > つまり, 同型類の集合から自然数の集合 $N$ (0 を含む) への全単射がある. > 各 $n \in N$ に対して $K^n$ (数ベクトル空間) という具体的な対象を構成でき, > これらの対象への同型を決める (基底を選ぶ) ことで任意の対象・射の具体的な表示が得られる. > 対象 $V$ から $W$ への集合は加法群の構造を持ち, > 部分対象・商対象・核・像・余核・余像・準同型定理・直和・完全系列が定式化できる Abel 圏になる. > さらに任意の短完全系列は分解し, 実際あらゆる対象は 1 次元の対象の有限個の直和に分解される (半単純性) . > $K$ が代数的閉体ならば, 自己準同型射も直和分解 (対角化) されたものと簡単なベキ零元の和に書ける (標準形) . > さらに内部テンソル積・内部 Hom ・双対対象が定義されるのでテンソル圏, とくに淡中圏になっている. > これらの操作 ($\otimes$, $\otimes$, Hom, *) の他に, 対称積 $\mathrm{Sym}^n$ ・外積 $\wedge$ など, > 対象から新しい対象を構成する標準的な操作がいくつか定義できる > (強いて言えば, 対称群 $S_n$ の各表現に対応するベキ等元に応じて作られる) . > 各対象 $V$ の自己同型群は一般線形群 $GL (V)$ であり, さらに各対象に最高次形式 $\wedge^{\mathrm{dim} V} V \cong K$ > (行列式) ・内積・交代形式・エルミート形式などの付加構造を定義した圏を定義することもでき, > それらの圏での自己同型群は特殊線形群・直交群・斜交群・ユニタリ群などの古典群になる. > だいたいこの程度が, 数学科で学ぶ線形代数の全体であり, これで l $(\mathrm{Vect}/K)$ は完全に理解されたと感じられる. > つまり, これ以上 $(\mathrm{Vect}/K)$ に関して解かれるべき問題はないようだ (これは驚くべきことかもしれない) . > この $(\mathrm{Vect}/K)$ の理論 (線形代数) の, 数学を記述する方法論としての威力は絶大であった. > 幾何学では位相空間や多様体の圏から $(\mathrm{Vect}/K)$ への関手 (コホモロジー理論) がいくつもの深い結果をもたらし, > 空間上の関数の貼り合わせ (局所・大域原理) やベクトルバンドルの理論は, > 開集合の圏から $(\mathrm{Vect}/K)$ への関手 (層) として記述され, > 微分形式や多様体上の調和解析 (Hodge 理論) などの理論が見通しよく理解された. #### 引用その 3 > さて, われわれのテーマの視点からは, $(\mathrm{Vect}/K)$ とは, 自明な群 $G = \{1\}$ の > 有限次元表現のなす圏に他ならない. > その意味では, 表現論とは線形代数の一般化である. > 表現論が, 数学的理論を記述し理解するための言語として機能する所以がここにある. > 一般に, 群 $G$ の, 体 $K$ 上の有限次元ベクトル空間への表現, すなわち $G$ の作用が定義された $( \mathrm{Vect} / K )$ の > 対象のなす圏を $(G-\mathrm{Rep}/K)$ と表そう. > この圏の射は, $G$ の作用と整合的な $K$ 線形写像 (表現の間の準同型写像) である. > 繰り返すが, 自明な群は自明にしか作用できないから, 自然に圏同値 > $({1}-\mathrm{Rep}/K) \cong \mathrm{Vect}/K)$ がある. > そして, $G$ が有限群で $K$ が標数 0 の代数的閉体の場合, 上に素描した > $\mathrm{Vect}/K$ の理論がほぼそのまま $(G - \mathrm{Rep}/K)$ の理論に一般化される, というのが, 有限群の表現論の基礎である. > とくに, 0 と自分自身以外に部分対象を持たない既約な対象 (既約表現) が > 既約指標 (共役類の集合の上の関数の空間の直交基底をなす) によって分類され, > 任意の対象は既約対象の直和に分解すること (半単純性, あるいは完全可約性) が基本定理になる. > 既約な対象はもはや 1 次元とは限らないが, その自己準同型は $\mathrm{Vect}/K)$ の既約対象 > (1 次元ベクトル空間) と同じく定数倍のみである (Schur の補題) . > しかし, この $\mathrm{Vect}/K)$ から $(G-\mathrm{Rep}/K)$ への一般化によって, 理論の構造的な操作に新たな自由度が加わる. > すなわち, 群 $G$ を変えるという自由度である. > 群準同型 $f : G \to H$ が与えられると, $H$ の表現は $f$ で引き戻すことで自然に $G$ の表現になるから, > Abel 圏の間の加法的関手 $f^* : (H-\mathrm{Rep}/K) \to (G-\mathrm{Rep}/K)$ ができる. > とくに $G$ が $H$ の部分群で $f$ が包含写像の場合は $f^*$ は表現の制限 $\mathrm{Res}^H_G$ であり, > その左随伴関手は表現の誘導 $\mathrm{Ind}^H_G$ である (Frobenius 相互律) . > 単に一つ一つの準同型 $f$ による引き戻しを考えるだけでなく, あらゆる準同型 $f$, さらには剰余群 $G/H$, > 直積群 $G \times H$ など群の圏におけるあらゆる操作に付随して, > 異なる圏$(G-\mathrm{Rep}/K)$ たちの間の関手を考えることができる. > このようにして, 群の理論が線形化される, すなわち線形代数の言語で記述される, > いや線形代数という理論そのものの一般化として理解される. > これが表現論の考え方である. > 理論のパースペクティブがより高次になっているという意味で, 表現論は群論に従属するものではなく, > 群論を発展させた理論であるという面がある. > これから, 表現論による理論の記述の強みを解説していきたいが, その前にわれわれの興味 (代数的整数論) に > 沿った具体的な対象を導入していくことにしよう. ### 追記: kyon_math からのご指摘 kyon_math さんから次のようなご指摘を頂いた. 触れたことがない正標数の話なので正直全く勘が働かなくて分からないが, 他の方には即参考になる可能性もあるのでメモしておく. ちなみに[これ](https://twitter.com/kyon_math/status/297325977971867649)と[これ](https://twitter.com/kyon_math/status/297326476884328448). > @phasetr K が代数閉体でない場合でも, 半単純元と冪零元は定義できてジョルダン分解が成り立ちますね. > > @kyon_math @phasetr 群の表現の既約分解については, 有限群であることを仮定した方がいいかも. > 有限群の場合, 表現の既約分解は代数閉よりも標数の制約の方が大きい (マシュケの定理). > 代数閉でも標数が正だとその表現論は難しい. (still in progress) あと Maschke の定理は[これ](http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%B1%E3%81%AE%E5%AE%9A%E7%90%86). 恐るべし正標数. ### 2013/02/02 追記: kyon_math さんからのさらなるご指摘 kyon_math さんから[さらに教えて頂いた](https://twitter.com/kyon_math/status/297368484013277184). あとで読もう. > @phasetr ああ, 吉田さんのだったんですね. > 吉田さん, かなりぶっ飛んでるからなぁ (もちろんいい意味で) > 駒場中高等部向けのガロア理論の講義録も見っけた. > あわせてガロア理論の基本定理について ### ラベル 数学,線型代数,表現論,圏論 ## 2013-01-20 今の時代の勉強の仕方 Twitter で[こんなつぶやき](https://twitter.com/char_cla/status/292990221002346496)を見つけた. >もっと数学したいけど, 一緒にする友達も居ないのでなかなかやる気が出なくて, >サークルに入り浸り, 後悔して死にたくなるんですよね… 実際に [Skype を使って数学の勉強をしている人達がいる](https://twitter.com/sms20120113)ようなので, そういうのもありなのかもしれない. [idroo](http://www.idroo.com/features) なるツールを併用しているとのことだった. 前, 高校生達が Skype で勉強会開いているのに参加したこともあれば, その他, 適当な院生や学部生達と pixiv のお絵描きチャットで勉強会という荒技も繰り出してみたことがある. (これは古い記事の移行なので, 2021 年時点では zoom など学校の授業でさえ使われているからまた事情は変わっているだろう.) 高校生 Skype のは使えるデバイスが iPhone くらいしかない, というので, 発表者はタイプだけで何とかせねばならず, かなりきつそうだった. pixiv チャットの方は大学生メインだったから, PC とペンタブレットを上手く使い回すことで何とかなった面があるが, ペンタブレットがないとほぼ発表ができない感じなので, それがきつい. ツールに左右されるのがかなりきつい. 中高生だと PC を前提にすることすらきつい. ジョブスは iPad を勉強に使う道を模索していたようだが, まだまだタブレット端末は普及していない. 問題がないこともないが, やはり現状, 数学や物理を勉強するには実際に物理的に集合する方法が一番楽という感じがあってつらい. 何かいいのないかなと思っていて, かつそこをどうにかしたいとは思っているが, 今のところいい案が浮かばない. そういうコミュニティをうまいこと組織したい. 子供の頃そういうのあったらいいなとずっと思っていたので, 子供の頃の自分が喜ぶような何かを追い求めたい. ## 2013-01 第三回関西すうがく徒のつどいに「色々な反例を作って遊ぼう」という講演で参加することになった ### 予告 [第 3 回関西すうがく徒のつどい](http://kansaimath.tenasaku.com) の [プログラム](http://kansaimath.tenasaku.com/wp/wp-content/uploads/2012/09/program_sankahshayou.pdf) が発表されたようだ. 私も講演者として参加する. 私のアブストは [これ](http://kansaimath.tenasaku.com/wp/wp-content/uploads/2013/01/abst_phasetr.pdf) :「色々な反例を作って遊ぼう」というタイトルで話す. リンク先の PDF に書いてあるが, 学部 1-2 年と非数学科の方をメインターゲットにしている. 他の講演との絡みも合わせて具体例を作っていく予定だ. 詳細は各講演に盛大にぶん投げていきたい. それ自体が面白い具体例と, 背後にある理論と絡めて面白い例をどういう塩梅で入れていこうかと思っている. どうでもいいが, アブストのタイポを見つけてげんなりした. 基本的に全部気になるのだが, みややさんの「数論幾何への誘い」, 宇宙賢者の「古典的ミラー対称性入門」, alg_d さんの「数学の諸定理と選択公理の関係」が特に気になる. 遊ぶということで思ったのだが, alg_d さんの話は証明中に選択公理を使うところを探すという「遊び方」の提案と言える. 今回の講演で一番キレた内容なので, とても楽しみだ. 今からとても楽しみ. ### 第 3 回関西すうがく徒のつどい 1 日目の個人的まとめ #### はじめに 3/16-17 の [関西すうがく徒のつどい](http://kansaimath.tenasaku.com)の第 3 回に参加してきた. 関西のつどいには初参加だが, 折角なので講演の方もしようということで講演もしてきた. つどいの Togetter は[これが一日目](http://togetter.com/li/472677)で[これが二日目](http://togetter.com/li/473280)だ. Twitter 上でのやりとりだけで会ったことがない人にも会ってきて, 非常に楽しく, その辺の記憶もあるが個人情報的なアレもあろうから講演の方の感想だけまとめておく. 今回は一日目の分の感想を書いておく. 聞いた講演, 基本的に全て面白かったのでその辺もうまく調節されているイベントだった. #### 聞いた講演 私が聞いた講演は次の通り. - 講演者:みややわぎょー (@nolimbre) Title:「数論幾何への誘い」 - (自分のトーク) 講演者:市民 (相転移 P) (@phasetr) Title:「色々な反例を作って遊ぼう」 - 講演者: 横田真秀 (@ark184) Title:「人はどうして協力するのか? 」 - 講演者: 宇宙賢者 (@the_TQFT) Title:「古典的ミラー対称性入門」 - 講演者: 田尻翔平 Title:「 meager set や null set を知ろう」 #### 数論幾何 まず nolimbre さんの数論幾何への誘いだ. Weil 予想の話で, 興味だけはあったが面倒くさそうなので全く触れていなかった Weil 予想の気分は何となく掴めた印象を受けた. もともと数学科 3-4 年向けの話なので数学科でない人にはつらい内容だろうが, 3-4 年なら把握できるレベルにまで上手く落としこんでいるあたりにみややさんの力量を感じる. 有限体上の多項式の根の個数が代数的整数と関係があって, さらに複素多様体のコホモロジーと関係があるだとか, Weil, 頭おかしい. 合同ゼータが何者なのか全く知らなかったが, これはやばい, ということは十分に分かった. それはゼータも数論で中心的な話題になるわ, と思わされる. 数論的コホモロジーだが, 「何となくこんなのがあったらいいな」というのを実際に作ってしまう Grothendieck やばい, という話も盛り上がった. 「予定通りの話はできないという」予定通りの話だったようで, $p$ 進の話はカットされた. あとになってどんどん興味が出てきたので, これが聞けなかったのは残念だったが, 面白かったのは間違いない. 宇宙賢者ともども, 数学科学生向けの話としてはかなり配慮された講演で圧巻. #### 自分のトーク 次は自分のトーク, 「色々な反例を作って遊ぼう」だ. 1-2 年と非専門家を対象として反例の作り方やその背景について説明した. 学生としてとりあえずは卒論, 修論, D 論を目指す必要があるが, そこでは自分で問題を作ってそれを解かねばならなくなる. それを今から少しずつやっていってほしいが, まずは手始めに問題作成として反例を作ってみてはどうか, という話だ. 下記の本にある例をいくつか紹介し, さらに背景説明をつけ足した講演をした. 何人か来ていることは分かっている高校生にも分かるようにと思ったのだが, ある程度目的は達成したようだ. 非数学の人にも感想を聞きたかったが, 聞きそびれたので私の話を聞いた人は感想を Twitter なりなんなりで伝えにくるように. あとで動画にするのでその参考にする. また, 2 日目の昼にみややさんに 4 番目の例について $\mathbb{C}_p$ の球は有界だが全有界ではないため, コンパクトではないということを教えてもらった. これを基礎にして例が考えられるはずだが, $\mathbb{C}_p$ が全く分からないのでまずはそこからだ. #### 横田さんの話 横田さんの話は素人向けにふんわりうまいことまとまっていた. 具体例に沿った話だったのも良かったのだろう. ただ一番印象的だったのは程良いジョークとやわらかな関西弁による語り口だ. アレはそう簡単に真似できるものではない. 講演側として何をどうやって取り込んでいこうかずっと考えている. 結局それが一番参考になったところと言える. 気楽に聞けて程良く息抜きもできる, よい講演だった. #### 宇宙賢者 みややさん同様, 宇宙賢者の「古典的ミラー対称性入門」は数学科の人間向けではあるが, 初学者への配慮に満ちたよい講演だった. 当人は「ゆとり向けトーク」と言っていたが, $\mathbb{C} \mathbb{P}^1$ に限って, 難しいところは避けつつ, おそらく大事なところには大体触れていたのだろうと思う. 何より当人が楽しそうに話していたので勉強意欲をそそる. いくつか参考文献も聞いたのでちょっとやってみたい. #### 田尻さん 1 日目最後は田尻さんの「meager set や null set を知ろう」だった. 両方とも知ってはいる話だが, そこまで突っ込んでやったことはなかったので復習にもなった. meager と null の双対性, かなりやばいのでは感ある. 講演後, ゼルプスト殿下が田尻さんに問題を出していたのもメモっておいた. ### 第 3 回関西すうがく徒のつどい 2 日目の個人的まとめ #### はじめに 3/16-17 の [関西すうがく徒のつどい](http://kansaimath.tenasaku.com)の第 3 回に参加してきた. 関西のつどいには初参加だが, 折角なので講演の方もしようということで講演もしてきた. つどいの Togetter は[これが一日目](http://togetter.com/li/472677)で[これが二日目](http://togetter.com/li/473280)だ. 今回は二日目の分の感想を書いておく. 私が聞いた講演は次の通り. 一日目もそうだが, 聞かなかった方の講演がどれも面白そうで全部聞きたかった. #### 二日目で聞いた講演 - アルゴドゥー (@alg_d) Title:「数学の諸定理と選択公理の関係」 - のうこ (@noukoknows) Title:「つくってあそぼう! うごく数学のもけい -A Very Natural Introduction to Gentzen's Natural Deduction-」 - 福本佳泰 @PillagedVillage) Title :「楕円型作用素のパラメトリックス」 - のーてぃ (@conoughty) Title:「産業のための数学」 #### alg_dさん まずブルブルエンジン兄貴の「数学の諸定理と選択公理の関係」だ. 相変わらず話が上手い. 今回は 1 点での連続性に関する重要な定理の同値を証明するのに選択公理を使っているという話で, 単に使っているというだけではなく, 選択公理なしでは「非常識」な結果を認めざるを得ないという話だった. ネタの選択も非常に上手い. いつも使っている $\mathbb{R} / \mathbb{Q}$ を上手く絡めてくるなど, 「またこれか」「こんなところにも出てくるのか」と一々新鮮な驚きを与えてくれる. 講演者自体, 講演が上手く聞かせる話し方をしてくる. 話し手としても参考になるよい講演だった. こればかりだが, 本当によい話だったので仕方がない. #### のうこさん のうこさんの「つくってあそぼう! うごく数学のもけい -A Very Natural Introduction to Gentzen's Natural Deduction-」だが, 入門者向けにどう話を組むか, 相当苦心したようだ. あとでゼルプスト殿下もロジックが数学科の正規の過程にない中, 入門的な話をどうするのかいつも悩ましいというようなことを言っていたので, 準備は大変だったのだろう. 自分で証明図を書いたことがなかったので, 何となく入門には入門したくらいの感覚でいる. 山元さんとみややさんのやりとりが面白かった. みややさん, 大体全部の講演でコメントなり質問をしている感じだったのでなかなか凄い. 適切にコメントできるというのは相手の話をきちんと理解した上で疑問を持ちながら講演を聞くことが必要になる. できないからといってどうというわけではないが, なかなか凄い能力だし, 何より講演側としては質問があると嬉しいので, そういう点からもありがたい聴講者だ. #### 福本さん 福本さんの「楕円型作用素のパラメトリックス」はものすごい面白かった. やろうと思ってずっとさぼっていた Sobolev の埋め込みとその応用がためになったが, それ以外にも議論のメインとなっていた擬微分作用素の基礎と応用もまた面白い. Fourier 級数の議論の一般化の話にもつながるなど, 最後にびっくりさせる展開もあったのが心憎い. 目的に向かって美しく一本道で進む構成も素晴らしい. また, Twitter でも少し書いたのだが, この講演は高校生に聞いてほしかったし, 何より高校の頃の私に聞かせたかった. 東大・京大をはじめとする国公立トップ校の学部 4 年, 修士, 博士の学生が超内輪のノリで専門的な議論をしている姿を見せたかった. 正に飾らない, 普段の数学をしている姿だった. 特に京大勢がおそらくいつもの感じでやりとりしていたのがとても面白い. 「あそこに $i$, $j$ いらんの」「どれやねん」「いや心眼で見れば分かるからいいんだけど」 「そういう時間だけ食う質問やめろっていうてるやろ! 」みたいな軽いやりとり, 知らない人がたくさんいる講演ではやりにくいので, そういう普段の姿を高校生にも見せてあげたかった. これを高校生に見せてあげられなかったことが今回一番の心残りといってもいい. #### のーてぃさん のーてぃさんの「産業のための数学」は発表者と聴衆で交わされたやりとりが何より貴重だった. 応用数学の話で, 知らない話だったので今後どこかでも紹介したくなるネタであり, 講演者が何とかして分野のことを伝えようと奮闘している姿が実に感動的だった. 発表者と聴衆で交わされたやりとりということでは, 一番感動的だったのは本当に工学系の参加者のばんぬさんが, 「この講演は自分の研究にも使えそうなので, 質疑応答後, もっと詳しく話を聞かせてほしい」といいだしたことだ. かなり本質的な形で (応用) 数学系の人と工学の人との交流ができたの, つどいにとって非常に貴重な機会だろう. ばんぬさんは流体系の人だということだったので, 講演後, 私ものーてぃさんとばんぬさんが話しているところに行って, 同じく産業数学として話を盛り上げようとしている東大の山本先生を紹介したりした. 山本先生は微分方程式, 逆問題の数理とシミュレーション関係の人なので, ばんぬさんとも近かろうと思ったので. また山本先生主催のワークショップに出たことがあるのだが, そこで動的メッシュによる衝撃波の数値シミュレーションという話があったことも思い出したので, それも紹介しておいた. 流体の人らしいので何かの役に立てばいいと思って. 参考になれば嬉しい. ちなみに動的メッシュのシミュレーションに関する話は [このページ](http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/video/conference/2009sangyo/.html) の "Convergence Analysis for Numerical Methods to Stochastic Hyperbolic Equations" の動画に講演のトークが収められている. 動画を見れば分かるが, 実際の講演のタイトルは上記のものとは違ってちゃんと動的メッシュの話になっている. 興味のある人は見てみてほしい. 前の 2 回も参加すればよかったと思うくらいに非常に楽しかった. 次回もできれば講演側で参加したい. ### 第 3 回関西すうがく徒のつどい かわずさんの感想を見て反例を作る重要性で伝え忘れていたことを思い出した #### 本文 かわずさんがブログに感想を書いていた. [これ](http://blog.goo.ne.jp/kawazu1147/e/d4e5af71c107f88f42eafc27cbfd4e9d)だ. 感想を読んで, 大事なことを言い忘れていたことを思い出したのでそのメモ. #### 引用 >市民 (@phasetr) 「色々な反例を作って遊ぼう」 >数学をするときの楽しみ方というか態度について, 自分で問題を見つけることが大切であって, >そのために有名な定理の反例を探すということが, >何か思いついた問題を正確に述べる練習にもなるし, 楽しいのではないかという話. >数学的な内容 (も当然ながら重要だけど, それ) だけにとどまらないことを伝えようとされていたようで, >自分自身そういう話ができるようになりたいと思った. >"Counterexamples in Analysis"という本が面白いらしい. #### コメント 反例を作るとその定理が成り立つのに何が必要なのかがはっきりしていくので, もとの定理自体の理解も深まる. 講演で本質的には伝えているが, 数学の中に定理が網の目のように走る中, それをかいくぐって反例を作る必要が出てくることもあり, 定理間の関係, 数学の中で占める位置なども朧げながら見えるようになってくる. 反例を作るなかで本に書いてある証明自体もブラッシュアップできることもあるだろう. 「この仮定はもう少し緩めてよさそうだが, そうすると本の証明ではうまくいかなくなる」ということを発見したとき, 自分で証明をつけ直したくなったらしめたものだ. さらには証明自体を深く検討することにもつながる. 証明の中で条件をうまく使って議論することになるが, その議論の仕方を逆に読んで反例構成に使うこともできるだろう. 人にもよると思うが, 本を単純に読んでいくだけだと途中で疲れてくる. 息抜きもかねてちょろっと反例を作って遊んでみるというのもいい. 反例作りに真剣になって本を読み進めるどころではなくなるかもしれないが, それはそれで別にいい. 勉強になれば何でもいいし, 反例作りは勉強というよりも本から発展させたいった自らの研究と思っていい. とりわけ学部初年時では何かをしても既知の結果ばかりだと思うが, 再発見という楽しみがある. 偉い人達が到達した世界に独力で到達したということでもあり, そういう場合は遠慮なく自分を褒めていい. #### ラベル 数学, イベント ### ようやっと第 3 回関西すうがく徒のつどいで講演した内容を DVD 化し, Amazon で出すところにまでこぎつけた. あと反例と反省 #### 本文 ようやっと第 3 回関西すうがく徒のつどいで講演した内容を DVD 化し, Amazon で出すところにまでこぎつけた. 画像がまだないが, 大きなサイズを用意しなければならないようで, 作って頂いた方に大きなサイズを頂けるように打診しているところだ. 色々あって東大数理の古田先生にお渡しする機会があったのでお渡ししてきた. 東大数理の世界的に著名な研究者に数学の DVD を渡すというのもなかなか肝っ玉あるな, と自分でも思う. 「これはひどい」とかいう話になるとこう色々な意味で大ダメージだが, 数学の啓蒙的なアレということで自分も色々やっていますという話はしても損はなかろう, ということで自分を震い立たせてお渡ししてきた方の市民だった. [最後に nolimbre さんにも Twitter 上 stab されてさめざめと泣いたのだが, 備忘録として古田先生から突っ込まれたことをメモしておきたい](https://twitter.com/phasetr/status/391537734738661376). > 今日古田先生にお会いする機会があったので DVD を渡してきたのだが, > 「環から部分環を除いた集合は環になるか」というところで「実際になる例はあるのですか」と速攻問い返されて本当に大丈夫か即答できなくて泣いた > > @phasetr 仮に環の定義から単位元の存在と零環を除いたとしても, > 環の非自明な包含 $S \subset R$ に対して $s \in S \setminus \left\{ 0 \right\}$ と > $r \in \setminus S$ とれば $r=(r-s) +s$ なので $r-s \in R \setminus S$ となり $r-(r-s)=s \in S$ だから $R \setminus S$ は環にならないですよね. > > @non_archimedean 本当だ. > ありがとうございます. > この程度の議論がすぐに想起できないことに涙を禁じ得ません 一度つどいで指摘を受けたのにきちんと消化しきらずにいたこと, 恥ずべき怠惰である. #### ラベル 数学, DVD, 反例, 代数学 ### Amazon での DVD 出版に関する雑感 #### 本文 [さわらさんと少し話した内容について折角だから少しまとめておきたい](https://twitter.com/sawara0804/status/392649968688709632). 先日もブログなり Twitter なりで報告したが, DVD というのはこれだ. 古田先生にお会いしたときにも「 YouTube やニコニコに上げて誰でも見られるような形にしないのか」と言われたのだが, 一応理由はある. 上でも少し書いたことだが, 1 つには Amazon の力を使うこと, 今までアプローチできなかった層にアプローチすることを意識している. Amazon を使う利点はいくつかあるが, 例えば SEO 効果がある. Amazon はページランクが高いし, 色々な導線も張りやすく実際にナチュラルなリンクも集まりやすいので検索時に上に来やすい. ひと目につく可能性が上がるのだ. また, YouTube などでも「動画のおすすめ」はあるが, Amazon の場合にも関連商品のお勧めがある. 正直 Youtube で数学の検索をする人間 (日本人?) はあまり多い気がしないのだが, Amazon で数学関係の検索をする人間ならもっと多いだろう. その方が引っかかる可能性が高いと踏んだ. 実際にそうなるかは分からないが人柱としてテストをするのは有意義だろう. そんな感じ. アプローチできる層も大きく変わる. 根本的なところとして, ニコニコに出すときにはアイドルマスター枠で出しているので, アイマスやら何やらのいわゆるオタクまわりの人間が基本的な対象になる. 興味があってもオタク関係のことはちょっと, という人はやはり見づらいだろう. 作る側としても視聴者層を絞り込んで作ってオタッキーな記述を増やして作るので, そういう意味でも非オタ, 特に非アイマス民が内容を理解するのには多少のハードルがあるといってもいい. 今回 Amazon で作ったが実写にした. アイマスの動画は見なくても Amazon で販売されている実写の DVD を見る (買う) 人ならいるだろう. その辺を狙った. うまくいくかは分からないのでとりあえず実験だ. 技術的に追いつかないということもあるが, 内容的にももっと簡単にするなりうねうねアニメーションを使うなりという「配慮」をすると, また違った層にもアプローチできるのだろうが, そういうことはしていない. (今回の話の内容に関しては) そういうのはむしろ邪魔であって淡々と数学と対面させろと思うような層に向けて作っている. ときどき言っているが, 私が究極的に唯一人意識するユーザは「子供の頃の自分」であって, 子供の頃の自分が喜ぶかどうかを考えて作っている. こういう作り方をしても 100 人くらいは興味を持つ内容になることも学生の頃の実体験とニコニコでの実験によって分かっている. 「子供の頃の自分」に向けて作ればこの 100 人の心には響く. ここで「 100 人」と書いたが, 文字通りの「 100 人」ではない. 大勢ではないが, 確実に一部マニアの心は捉える, という意味だ. 別のラインの今までにアプローチできなかったところの新たな「100 人」にアプローチできると思っている. 正確にはその推測が正しいかの実験をしている. またニコマス理工系の Skype でコミケには出さないのかという話もしたのだが, そのとき, ニコニコ・コミケのようなオタク以外の層に対して何かしてみたいという話をした. 大して変わらないというかコミケの方がむしろ響きがいいのではないの, と言うコメントをもらったのだが, その辺は実験であり人柱というやつだ. 一応, Amazon の方が多少なりとも広い層に訴えられると思っている. 広いところに出したいのも理由があって, 他にも何か作ってくれる人を増やしたいからだ. オタ界隈だと皆がやっているし自分も, というアレが結構あるが, 数学やら物理やらの話だとあまりいない気がする. ブログはそれなりにあるがあれだけだとやはり幅がない. かといって Web 上だときちんとアニメーションを, みたいな話になりそうだが, それはそれでプログラミングがどうの, という話になると思うしそれはそれでまたそれなりの手間がかかる. そこで別のやり方を提示したい, とか何かそんな感じ. 「自分だったらもっとうまく・面白くできる」という人にもっと乗り込んできてもらって無茶苦茶やってもらいたい. 色々書いている内にまとまりもなくなってきた気がするが, とりあえず自分用メモということもあるしいいだろう. [ちょくマガでやっているヤバ研](http://chokumaga.com/magazine/?mid=104&vol=16)などもあるが, とにかく色々な人が色々なことをやってどんどん失敗して血の池地獄を作り, 最後に池のほとりでひっそりと美しい花が咲けばいい. まずは血の池地獄を作ろう. 話はそれからだ. #### ラベル 数学, 物理, 数理物理, 数学教育 ### Amazon に出した DVD 【色々な反例で遊ぼう】に関する情報は随時出していきたい #### 本文 [ブルブルエンジン兄貴と次のようなやりとりをしてきた](https://twitter.com/alg_d/status/394824973627293696). > 相転移 P の DVD が何枚くらい売れてるのか, 私気になります! > > @alg_d 今の所 7 本は売れているようです. > そのうちブログにも書きますが, 他の人にも同じようなことをしてほしいと思っていて, > その参考と言う名の人柱になる予定なので, そういう情報は随時出したいと思っています > > @phasetr 全部で何枚くらいあるんですか > > @alg_d 先週木曜に 16 枚 Amazon に送って, 今日また Amazon から出荷要請があったので 14 枚送りました > > @phasetr すごい 先日も DVD を出す目的的な記事を上げたが, 上の通り, 人柱になるつもりなので適宜情報は出したい. この記事執筆時点ではさらに増えて, DVD は 13 枚売れたようだ. そのうち制作にかかった実費についてまとめたい. 動画の編集作業など, 実費がかかっていない時間相当の「経費」もあるが, それは今回きちんと測っていないので, 次回はその辺も気にしたい. DVD 制作にご興味がある向きは色々問い合わせられたい. ### 【よく分からない数学 色々な反例で遊ぼう】の DVD がどこかの大学の図書館に入ったとかいう凶報を聞きつけた #### 本文 衝撃のニュースが飛び込んできた. こんな無茶な決断をした大学の図書館の方, 是非名乗り出てほしい. ## 2013 Summer School 数理物理 2013 量子場の数理 ### アナウンス #### はじめに 今年の分の Summer School 数理物理のプログラムがアナウンスされた. [これ](https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/mp2013.htm)だ. メンバーが個人的に超豪華なので絶対に行く. むしろ速攻で参加申し込みしてきた. #### 講師・講演題目 | 講師 | 講演題目 | |---------------------|---------------------------------------| | 新井朝雄 (北大数学) | 相対論的量子電磁力学の数理 | | 河東泰之 (東大数理) | 共形場理論と作用素環 | | 原隆 (九大数理) | 構成的場の量子論---古典的な問題の紹介 | | 廣島文生 (九大数理) | 非相対論的量子場とギブス測度 | #### 概要 知り得る限りで大雑把な内容を書いておこう. まずは新井先生から. ##### 新井先生 河東先生以外の 3 人は構成的場の量子論の話だ. 最近の展開はあまり追えていないので良く分からないのだが, QED は少しずつ相対論的な方に流れてつつあるようだ. 今日も arXiv に佐々木さんの論文, [One Particle Binding of Many-Particle Semi-Relativistic Pauli-Fierz Model](https://arxiv.org/abs/1303.5025)が上がっていた. 個人的には物質の安定性含め, 非相対論的量子電気力学はまだまだ開拓の余地がたくさんあるし, 粒子系を電子場に拡張してさらにフォノンも足して物性をやるとか, 特にそういう方向に興味があるが, 最近の展開として相対論の方を出してこようということなのだろう. 新井先生は一度講演を聞いたことがあるだけだが, 修士のときに本や論文に関して色々と誤植訂正表を送ったり, メールで相談にのって頂いたりと非常にお世話になった. さぼりっぱなしの論文, 夏までに書き上げて新井先生とお話したいところだ. ##### 河東先生 共形場は代数幾何, 頂点作用素代数, 確率論など色々な数学が交錯する対象で, 場の量子論が記述できる作用素環にも当然対応する話がある. その辺を話すのだろう. ちなみに私が知る限り共形場理論は, 構成的場の量子論での (phi^4) 以外で存在証明がきちんとできた貴重な相互作用つきの理論だ. 作用素環専攻であったにも関わらずあまりまともに作用素環を勉強しておらず, 代数的場の量子論についても難しくて手が出せずに終わったので, あまり具体的なことを知らない. これも楽しみにしている. ##### 原さん 原さんは東大物理の人達と査読しているイジング本の著者だ. 何となく相対論的場の量子論での $\phi^4$ の話をするのではないかと思っている. 基本的な所は多少触れたのだが, 難しくて手に負えなかったところばかりだった. いい機会なのできちんと勉強しておきたいのでこれもまた楽しみ. あとイジング本の査読をしていて田崎さんには何度か会ったことがあるが, 原さんにはお会いしたことがないので挨拶したい. ##### 廣島先生 廣島先生はもともと北大での新井先生の学生だったと聞いている. 汎関数積分 (経路積分) を使った場の理論の研究では日本でほぼ唯一の人だ. 2 年くらい前に次のような本を書いていて, これが汎関数積分による結果をかなり包括的にまとめている (はず). 「はず」というのは, 確率論の知識不足でそもそも汎関数積分による結果が追い切れていないということと, 本自体も一部追い切れていないからだ. 量子統計方面も同時処理したいということもあって私のメインは作用素環だが, 汎関数積分も当然強力な武器としてずっと気になっている. 構成的場の量子論の結果自体も含め, 知識の整理にも役立ちそうで, これまた期待している. 今から楽しみで仕方ない. 最終日が平日なので, きちんと行けるよう万難を排して臨みたい. ### Summer School 数理物理 2013 のスピーカーの 1 人, 九大の廣島先生の Nelson モデルの紫外繰り込み論文を眺めてみた #### はじめに 何度か話題にしている Summer School 数理物理 2013 だが, そのスピーカーの 1 人, 廣島先生の論文が arXiv に出ていたので軽く眺めてみた. Gubinelli-Hiroshima-Lorinczi の [Ultraviolet Renormalization of the Nelson Hamiltonian through Functional Integration](http://arxiv.org/abs/1304.6662) だ. Lorinczi は汎関数積分による構成的場の量子論で有名な人だ. Gubinelli は知らない人だが, Lorinczi の学生だろうか. 何はともあれこの論文を軽く眺めよう, という話だ. 専門の話題とはいえ, 詳しく読み込んではいないので興味がある向きは自分で追ってみてほしい. 参考文献として Lorinczi-Hiroshima-Betz による本を挙げておこう. 当たった文献を全て細かいところまで読み切れていないので. 実際どうなのか分からないのだが, 時々 1 体だけしか扱わない論文もある中, $N$ 体系に正面から取り組むようだ. 前, QED の繰り込みでは $N$ 体を扱うの大変とか見た覚えがあるので, 場合によっては多体系にするのがまだ本質的に難しいこともあるとぼんやり思っている. #### ネルソンモデル 扱っている Nelson モデルだが, これはスカラー中性子とボソンの結合系をモデル化していることになっている. スカラー中性子って何だ, という向きがあろうが, とりあえずそういう人工物を扱っていると思ってほしい. こういう人工的な系を考える理由として 1 番は数学的な単純化のためだ, スピンが効かないところだけを見るのだ, と強弁する. もっと積極的には, 今回のように発散処理にだけ集中したいから. 余計な要素があるとそこの処理までしなければいけなくなって, ただでさえきつい話がさらにきつくなる. そして読む方の負担も飛躍的に増える. 実はこの Nelson モデルの Nelson は 2011 年に [The Inconsistency of Arithmetic](http://golem.ph.utexas.edu/category/2011/09/the_inconsistency_of_arithmeti.html)で話題になった Nelson だ. 今は基礎論あたりにいるが, 元々構成的場の量子論にいた人だ, という小ネタをはさんでおこう. #### ネルソンモデルの別の由来 またこのモデルの別の由来も挙げておこう. 例えば, QED でポテンシャルの 2 次を落としたモデルはこれになる. (もちろん正確には電子のスピンを無視している. ) QED の 2 次を落としたモデルは Lamb シフトを摂動ではじめて説明した論文で使われたので, QED からの意味もある. また, 電子-フォノン系と思ってもいい. この観点から Nelson モデルを見る, というのが私の主戦場だ. 正確には連続系は扱わないで格子系, Hubbard を扱っているのだが, それはもちろん相転移が見たいからだ. 念の為に言っておくと, この時点で上に書いた, 物理として QED の近似だというのがかなりつらい話になる. なぜかというと, 電子-フォノン系だと電子間に実効的な引力が発生する場合がある. QED ではこんなことは起きないので, 引力が発生しているとすると, 本来の QED では起きない現象が起きる可能性があって, モデル化がまずいという話になる. もちろん色々な系に適用するためには, 電子-フォノン系での結合定数はある程度一般にしておく必要がある一方で, QED なら結合定数は定数なのでその辺も色々あるが, その辺は純粋な物理の人の方が遥かに詳しいのでそちらに任せる. あと, 実は非平衡統計のモデルとしても使われる. 小さな系と熱浴の相互作用のモデル化に相当する. この線だとよく平衡への回帰 (return to equilibrium) という問題を議論する. 一部物理的にどうなのそれ, という話もあるが, 物理としては QED , 物性, 非平衡が, 数学としては作用素論, 作用素環, 確率論が交錯する面白い分野だ. 物理として問題を少し変えただけで対応する数学を変える必要があったり, 逆に全く違う物理に同じ数学が使えたり, さらには物理として同じ現象が違う数学ではどう見えるかを調べるなど, 数学, 物理, 数理物理としての見方, 研究ができて面白い. #### モデルの定義 脱線しまくったので本題に戻そう. 1 章ではモデルを定義している. Hamiltonian の定義などは, 比較的物理の人にも見やすい形式的な書き方も出している. 数学的に正確な書き方については新井先生の本の 12-13 章を参照してほしい. (1.3) で $\phi$ を実にするのを疑問に思う数学の人がいるかもしれないが, これは汎関数積分を使うときにはよく課す条件だ. こうすると Segal の場の作用素が可換になって色々と扱いやすくなる. 詳しくは上の本なり新井先生の本を読もう. 今回の論文の目玉は「電荷」分布の $\phi$ を $\delta$ 関数にする, つまり点電荷極限を扱うことにあるようだ. これは物理として自然な設定なのだが, 数学的に言うと死ぬ程扱いづらい設定になる. 物理として自然な設定が数学として死ぬ程扱いづらいというのはよくある話で, ここの戦いが数理物理本陣となる. 物理の人は当然数学としては適当に処理するが, かといって数学の人はやるモチベーションがない. そもそも数学的に本当に面白い保証もない. 面白い現象があることを示し数学者を巻き込むには数理物理の人間が実際にそれを示すしかなく, つまり我々の戦いはここからはじまる. P3 に主結果が (1), (2), (3) としてまとまっている. UV カット (女性用化粧品の話ではない) をどうつけて, それをどう外して紫外発散を制御するか, 繰り込み処理するか, また抽象的な存在問題で終わらせず具体的にどう書くか, というところが問題だ. そこで汎関数積分を使う, というのがこの論文. ちなみに, 赤外発散しかまだやっていないが, 私はここで数学として作用素環を使っている. 論文にあるように, 単なる紫外発散だけなら, 1964 年に既に Nelson が処理している. 紫外発散処理は一応できることが分かっていたので, 赤外発散に集中していた (そして恐しく難しかった) というのが歴史的経緯になる. ここでは数学としては作用素論的に処理している. Nelson は Gross 変換というのを使っているのだが, これは私も修論でお世話になった. そしてこの論文では Gross 変換を使わないらしい. 前, Nelson タイプのモデルの紫外発散に関する [HHS05] の論文では, 作用素論的な手法で Gross 変換を使っていたはずだが, 今回はかなり違うらしい. この論文も読むのつらくて途中で投げた. P4 (1.6) がこの論文でのキーになる (とはっきり書かれてている). 正確にはこの経路測度表示. 汎関数積分表示の何が大事かというと, 作用素の情報が具体的な関数で書けることにある. 作用素を直接扱うのは骨が折れる:ベクトル (関数) に対する作用しか見れず, その作用にしても作用前後で関数が大きく変わるからだ. 微分を考えると分かるが, 作用前に関数の大小関係が $f < g$ だったとしても, 微分した後にどうなるかは一切分からない:反転することもあるし, 各点ごとに振る舞いが変わることもある. そういう作用素の特性を調べるのに, 具体的な関数を使えるというのは非常に大きい. ここでは内積の積分表示だが, 作用素そのものを直接積分表示で書く場合もある. 例えば反磁性不等式などが強力になる. 反磁性不等式は単純な作用素論では期待値を取ったあとの関係式になるが, 汎関数積分表示を使うと積分核による各点の評価に持ち込むことができ, 強い評価ができる. 次の (2) に関しては技術的な話っぽいので省略. 確率積分がどうの, とかそんな話. ここで (3) が個人的に面白い. 弱結合の極限で湯川ポテンシャルが出てくるという話. 実効ポテンシャルの評価がきちんとできる. 論文全体で 3 次元を仮定しているが, 結果自体はどの次元でも成り立つとのこと. 時々, 3 次元に特化する代わりに最大限シャープな結果を出す, という論文もあるので, こういう部分は注意して読みたい. #### 2 章 2 章に進もう. はじめにポテンシャルに関する制限 (仮定) が出てくる. $V$ は有界連続とのことで, Coulomb ポテンシャルが含まれない. 特異性があるからやるとしんどいのだろうが, やはりこの拡張はほしい. 定理 2.2 で Hamiltonian を繰り込む. あとは定理の証明に向けてごりごり頑張る, という感じで章が終わる. さらっと書いたが論文の本体で P22 まで続くハードな解析だ. #### 3 章 3 章で実効ポテンシャルの話になる. ここでは分散関係を $\omega_{\nu} (k) = \sqrt{k^2 + \nu^2}$ と仮定している. ここは既存の結果も使いつつ, 比較的さらりと終わる. 途中で Euclid 場の話も出るが, 付録に簡単な解説がある. 興味がある向きは Lorinczi-Hiroshima-Betz の本か, 新井先生の本を読むといい. #### 論文の本体 論文の本体はハードアナリシスで私が知らない (そして勉強したいとずっと思っている) 確率解析なので, あまり何もコメントできない. よく分かっていないのだが, 電荷分布を点極限にしているから紫外だけでなく赤外切断も外していると思っていいのだろうか. それならかなり強力な結果と言える. ハードパートを追っていないのでどこで有界連続性が本質的に使われているのか分からないが, これを完全に加藤クラスに持ち上げられると嬉しい. 加藤クラスには当然 Coulomb が入っている. あと別件というか私がやるべきタスクだが, Hubbard-フォノン系で同じ結果を出したい. これは特に無限体積 Hubbard で確立したい. あとは温度を入れたときの振舞いか. Nelson でも平衡への回帰が大事だが, Hubbard では平衡統計というか物性としての意義がある. というか, 最近研究さっぱりやっていないし, Summer School 数理物理の前に 1 年以上放ったままの論文書き上げたい. 動画も作りたいし, したいことたくさんある. #### ラベル 数学, 物理, 数理物理, 構成的場の量子論, 確率論 ### Summer School 数理物理 2013 量子場の数理に参加してきたがスーパー楽しかった [Summer School 数理物理](http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/mp2013.htm)に参加してきた. とりあえずスーパー楽しかった. 河東先生のは微妙なところだが, 大体全ての講演の内容にピントが合いまくっているので, 大分景色が広がった. 入門的な話を議論するということで面倒なところに触れていないからということもあるが, 人の話が これだけクリアに分かった経験もなく, 楽しかった. 順に感想を書いていこう. #### 新井先生: 相対論的量子電気力学 新井先生の話は 2 日使って相対論的 QED の 発見法的な (数学的に厳密でない) 議論をした上で, 最終日にきちんと定義できる部分の話をした. Hamiltonian を定義してその詳しい性質を調べたいわけだが, 今のところ運動量・空間の切断をつけないとうまくいかないということで難しいが, それでも議論は進んできている, という夢のある話が展開された. 切断つきとはいえ, 思った以上に議論が進んでいたのでびっくりした. 最近の新井研は相対論の人が多いらしく, 会場内でも学生さん達がその辺の議論をしていて楽しそうだった. 最終日のお昼, たまたま新井先生と新井研の学生さん達と食事しながらお話したのだが, 散乱理論さえ構成できれば基底状態の存在などはとりあえず言えなくてもいい, とか「それはそうだ」という話を色々した. とにかく本当に物理的な, カットオフなしの理論は何も言えていないから, やるべきこと・知りたいことは色々ある. QCD やその格子正則化の議論もしたいが難しい, という話とか色々. 論文タイトルだけは QCD を示唆しているが, 実際にはヒッグスが起きたあとの massive theory であって, ある意味こけおどしのような論文もあるからそんなに難しいと思わずとりあえず目を通して比較してみたら, とかいうコメントもあったりして実に楽しそう. 活発に研究されているようで見ているだけでも楽しい. あと, 学生の頃からずっと新井先生にはメール上で本の誤植を送ったり論文をお送りしたりと交流があったのだが, 今回ようやく始めてお話する機会を得た. きちんと覚えて頂けていたようで, 何よりであった. 非同値表現など CAR ・ CCR の表現論周りで, 簡単過ぎるかもしれないがやらなければいけないことなどを考えていて, それについても少しお話したところ, Derezinski がきちんとやらないといけないと言い始めているようで, 実際に大事だろうから是非やるといい, 的な話もした. 考えていることが無意味ということはないようなので, 少し安心した. その方面も基礎的なところをきちんと固めていきたい. 「やろうと思っているがなかなか時間が取れないところをやってくれているので嬉しい」的なことも言われたので, 地味な研究だが粛々と議論を進めていきたい. 今回有限温度の話は全くなかったが, その辺も絡めてやっていく必要がある. #### 河東先生: 代数的場の量子論における各種共形場理論 作用素環専攻で比較的近い分野であったにも関わらず, 河東先生の話は一度も聞いたことがなかったが今回はじめて聞いた. 物理的に何かあるのかは全く分からないが, 単純に数学として非常に面白い内容だった. パン耳パイセンとか Twitter 上の作用素環の人, この辺やって私にレクチャーしてほしい. 冨田-竹崎理論とか多変数関数論とか, その辺のサポートならとりあえずある程度はできるのだが. 「この辺やっているのは私と Longo と Longo の学生くらいしかいないので人が増えてほしいのですが」的な話をしていた. 本当に面白いのでここも人が増えてほしいのだが, 冨田-竹崎理論やら多変数関数論が必要やらで参入障壁が高く感じられてしまうようで, 全然人が増えません, とのこと. その辺の詳細をうまいこと回避していたためとはいえ, かなり良く分野の様子が見えてこれも本当に楽しかった. むしろ, その辺をうまく回避しつつ面白いところを的確に時間内に盛り込んでいった河東先生の力量が凄まじいとも言える. Twitter でも河東先生のトークが凄かったという呟きを見かけたが, 確かに圧巻だった. 初日のトークで「私は数学者なので演算子ではなく作用素といいます」という話があったのだが, これを受けてその後, 原さんは「僕は物理屋なので, 演算子, といいます」といい, その後さらに廣島先生が「僕は数学者なので作用素といいます」と言っていた. 原さんが物理学者に物理学者と認識されているのか非常に気になるところだがそれはともかく, 原さんが自分を物理「屋」といい, 河東・廣島先生が自分を数学「者」と言っていたのが面白かった. 講演自体だが, 初日は場の量子論と Wightman 場, 作用素値超関数が必要というところから非有界で鬱陶しいので有界作用素に移るという話から始まった. 物理としては 4 次元 Minkowski 時空で Poincare 対称性を考えるが, これだと例が作れないしよく分からないので, - 数学としてきちんとできて面白い共形場に移ること, - フルの共形場ではなくカイラルに移って議論しよう, - 時空としては $x=t$ の直線上, しかもコンパクト化して $S^1$で対称性としては $\mathrm{Diff} (S^1)$ という巨大な群を考えよう, - そしてその公理系を簡単に説明した, というところで話が終わった. 設定に関する気持の部分なので特筆すべきことはない. 2 日目からが本番で, 数学的な話がはじまった. これが面白い. Haag duality やら Reeh-Schlieder やらあるが, 特に Haag duality は話の中で拡大の極大性や locality との兼ね合いで酷使されるととても大事なのだが, 結構難しいがそれは公理として認めてしまってとにかくやってしまえばいい, みたいな話をしていて笑った. さすがに自分の学生がこの辺したいと言い出したらきちんとやるようにはいうようだし, それはそうだと思うが, それも含めて笑った. Haag duality は単なる便利なコンベンションくらいに思っていたのだが, 実際の議論では本質的に効いてくるようだった. 例を作ることと合わせて, 共形場の定式化の 1 つである頂点作用素代数やそれが発展する契機になった Moonshine 予想の話を噛ませたあとに作用素環的な議論が進んだ. 頂点作用素代数の結果を使いつつ議論するのは 3 日目の最後までずっと出てきたので, 相当大事なようだ. 共形場の定式化として適当に対応があることを使って, 頂点作用素代数で議論されていることを作用素環でトレースすることやその逆についてもかなり活発に議論されている模様. 同じ理論を記述しているのだからお互いの対応があるはずだが, 頂点作用素代数も代数的場の量子論もそのままでは一般的過ぎるから, 適当に制限をしたところでないと完全対応はないだろうという話, そしてそれは作用素環では完全有理性という条件で良さそうだ, ということだった. 完全有理性は本質的に面白い結果を出すところでは大体仮定されるらしい. きちんと確認していないが, 完全有理性は河東先生達が定義した概念のようだ. この辺もかなり凄い. 頂点作用素代数というか, 物理的に同じ理論を研究しているのだから別の数学を使ってできたことは作用素環でもできるはずだしその逆だってできるはず, というのは構成的場の量子論でも同じで, 作用素論・作用素環でできたことは確率論 (汎関数積分) でもできるはず, というのは私も思っているし実際にやりたいことでもある. そういう意味でも河東トークはとても楽しかった. 頂点作用素代数と作用素環は一方は純代数, 一方は解析学と本当に本来の興味感心がかなり違うはずなのだが, そこに対応する議論が展開できるというのはひどく非自明で楽しい. 河東先生も「昔は考えることもできなかったような分野の数学者とも話が通じるようになってとても楽しい」的なことを言っていた. 何かの文章でもあったが「昔は operator algebra で検索すると vertex operator algebra も引っかかって鬱陶しいと思っていたが, 今ではきちんと関係があることが分かった」みたいな話をして笑いを誘っていた. 3 日目はカイラルから発展してフルの共形場, 境界共形場の話をして非可換幾何の話をして終わった. 公理の設定があること, 共形場を全く知らないのでどういう話が常識なのかも知らないこともあるが, カイラルから共形場が復元できるというのはなかなか凄い. 境界つき理論との関係もなかなか無茶で, 境界の追加・削除の議論というのも凄まじい. 最後, 非可換幾何の話をするときに非可換幾何の Dirac 作用素を見つけるのに, 頂点作用素代数の構成を媒介して見つけてくるというのがかなり心に響いた. 思いもしない異分野の相互作用として相当に格好いい. 何かさらっと話していたし発見者が誰なのか確認してこなかったが, 発見者, 相当興奮したのではなかろうか. やや別件だが, 非可換多様体は実際には非可換スピン多様体であるという話がされた. 前から普通の多様体の話をしているはずなのに何故 Dirac 作用素が出てくるのか不思議だったが, 実際, 非可換多様体の定義として今使われている spectral triple は非可換 Riemann 多様体, 特にスピン多様体であると直接確認できたので, その辺の胸のつかえが取れた感もある. 立川さん (後で名前を把握したというか顔と名前を一致させた) が色々面白げな質問をしていて, 超弦周りの話と何か絡んでいくのかもしれない. そもそも AdS/CFT とかある. 物理がどうなのかは全く分からないが, 数学としてはとても楽しいのでどんどんやっていってほしい. よい話だった. #### 原さん: 構成的場の量子論, $\phi^4$ の話 田崎さんからの影響で何となく「さん」づけで呼ぶのが自然な印象がある原さんであった. 田崎さんとの共著で出る予定の Ising 本の査読をしていることもあり, 一応構成的場の量子論にいる人間として先達でもあり, 名前はずっと前から認識していたが, 今回初観測に成功した. 何か凄いかわいいというか穏やかな感じの人だった. 3 日目, ホテルの隣の部屋の人が変なことをして鳴らして警報機で起こされるなど, 今回は散々だったらしい. 体調が万全であればもっと色々な話が聞けたかと思うと残念だ. これはこれで, 今までふんわりしたことを知っていただけでもう少しきちんと知りたいけれどもなかなか勉強の時間が取れず, 解析が死ぬ程つらい分野のため精神的負担も大きかった triviality に関してある程度具体的に状況を把握できたので, とても有意義で楽しかったのだが. Ising 本を読んでいたこともあり, スピン系に関する議論にピントがあっていたので滅茶苦茶面白かった. 「どんな汚い手を使ってでも OS の公理系を満たす例を作ればこちらの勝ち」という台詞, 非常に気に入っているというか, 私も基本的にこのスタンスというか, こういう風に言っている人達の背中を見て育った結果というか, こう色々なものを想起して感慨深く楽しい. Ising で古典スピン系の様子を一定以上把握できていたので, ハードアナリシス部分はともかく, 今まで以上に景色を見渡せるようになった感がある. もちろんハードアナリシスパートこそが命なので, 全然何も分かったことにはなっていないけれども. Ising 本を読んだとはいえ, あまり真面目に 13 章を読んでいなかったので相転移・臨界現象と $\phi^4$ がどう関係するのか全く理解していなかったのだが, スケール変換に関する繰り込みで使うこと, その使い方というのをようやく把握できたので, 胸のつかえが取れた感ある. あれは本当に格好いい. スペクトル表示や鏡映正値性の話をもっときちんと聞きたかったが, 仕方ない. Frohlich から Hubbard 強磁性の解析にも鏡映正値性が使える可能性があるからちょっとやっておけ的なことを言われているし, もう少し真面目に勉強したい. Ising 本の付録, あまりきちんと読んでいないので, もう一度読み直したい. $\phi^4$ の triviality について, 原さんは相当思い入れがあるようで, 小話をしていた. 学部から院にかけて素粒子をやろうとしていたから場の理論を頑張って勉強していて $\phi^4$ ももちろん頑張って計算したが, 院に入ったくらいだかに triviality 周辺の結果が出てきて, 自分の 2 年間は何だったのかと思った, みたいな話をしていた. 折角相関不等式のプロに会ったので, Hubbard でそういう話がないか聞いてみた. 凄い便利だからあったら誰かやっているだろうけれどもあまり聞かないなら難しいのではないか, とか実に真っ当なコメントを頂いた. あったらいいな, くらいだし, あろうがなかろうが無限系 Hubbard はやるしかないので粛々と進めるだけの市民だった. あと Ising 本を催促してきた. もう少しでできるとしか言えないとのことだったが. このブログなど見ているかはどうかというのは積極的に棚に上げ, とりあえずここでも催促していきたい. #### 廣島先生: 汎関数積分による Nelson モデルの話 廣島先生も一方的に名前だけ把握していたが今回初観測に成功した. ほぼ一環して経路積分と言っていたが, 要は確率論を使って場の理論を記述していこうという話だ. ずっと興味はあったがあまり真面目にやっておらず, というか粒子系の方で確率解析やら何やら色々必要でしんどくて全く手がついていない分野だったため, とても (おそらく一番) 楽しみにしていた. 先日ささくれパイセン向けセミナーとして場の方の経路積分は復習していたので, 大体はついていけた. もちろんありとあらゆる意味でハードアナリシスこそ本道でそこについては全くフォローできていないが, 以前よりも親しみは増したので大変に有意義であった. 赤外正則化の元での個数期待値の指数減衰や (confined potential の場合の) 位置の指数減衰に関する詳細な評価ができるというのは, やはり圧倒的に力強い. 非 Fock 表現での Nelson (正確には私が知りたいのは van Hove) の基底状態について, 汎関数積分で見るとどうなるかが知りたいのでちょっと時間を取って取り組みたい. 物理での赤外発散の位置づけを全く理解できていないのがつらいところだが, とりあえず数学というか数理物理として処理しきりたいと前から思っている. Pauli-Fierz は 3 日に 1 回夢に見ると言っていた. うらやましい. #### 小嶋先生との話 廣島先生の 2 日目, 基底状態の非存在に関する議論が出たときに「数学者である廣島先生に聞くのは筋違いかもしれないが」との前置きのあと, 基底状態の非存在に関する物理について質問されていた. 鹿野さんとのやり取りなどほとんどフォローできていないのだが, そもそも赤外発散とは何か, 赤外正則化と実際の物理とは何か, 赤外発散があるときの基底状態とは何か, といったところの物理, 私はよく把握できていないことを改めて認識した. 物性や有限温度への応用で冨田-竹崎理論を使えばいい, という話もあったのだが, それはそれでまず数学として色々難しくてあまり進んでいないというコメントをした. 一応 BEC の存在を言えている系はあるので, その辺の話なども少ししたら, 興味を持って頂けたようで, とりあえずプレプリントを見てみたいというお話になったので, プレプリントをお送りしておいた. 以前の Summer School 数理物理の BEC 回のとき, 小嶋先生もスピーカーとして話していて, 色々考えないといけないことはあるということなので, 多少なりとも参考になれば嬉しい. #### 総評 超楽しかった.