第4回関西すうがく徒のつどい

第 4 回関西すうがく徒のつどいに向けて逆問題の勉強を始めたので

勉強の記録

はじめに

夏のつどいに向けてちびちび勉強を始めている. のーてぃさんの話を聞いて応用向けの話がもう少しあった方がよいのではないかと思ったので, 逆問題というところで話をしようと思い, 本も買ってみた.

元々「逆問題の数理と解法-偏微分方程式の逆解析」は持っていたのだが, 今回「熱方程式で学ぶ逆問題」を買ってみた. 前者は双曲型と楕円型が主で放物型があまりない感じだったので.

逆問題について

逆問題は講義を受けたことがあるので多少は知っているのだが, 改めて勉強という感じ. 講義の担当教官が実際に企業との共同研究をしている人だったので, 応用上の意味などの解説もあって楽しい講義だった. 物理として当然成り立ってほしいことが定理として出てくるとニヤニヤしてしまうので, 周りにいた人は実に気持ち悪かっただろう. 申し訳なかったと虚空に向けて祈りを捧げている.

ちなみに山本先生については web 記事などもあるのでそれを紹介して終わりたい. 新日本製鐵の溶鉱炉に関する記事 だ. 山本先生主催の逆問題のワークショップなどにも出たことがあるのだが, そこでは数学側とその他 (ととりあえず大雑把にくくっておく) でコミュニケーションが非常に難しく, 言葉遣いを合わせるだけでも 1 年くらいかかったという話も聞けた. 第 3 回のつどいでののーてぃさんの話はおそらく一番質疑応答が活発だったと思うが, 応用側はお金もかかっていて必死だろうから, さらに大変だったろう. 社会や工学に役に立つ話をしろと言われると途端に「何だとこの野郎」という感じになるが, この辺の数学は私が好きな感じの特異性のある話が出てくるので結構好き. 数学的な焦点はその辺に合わせつつ, つどいが対象にしている幅広い層に訴えるような内容にもしていきたい.

ラベル

数学, 物理, 数理物理, 逆問題, イベント

第 4 回関西すうがく徒のつどいのアブストが出揃った

本文

第 4 回の関西すうがく徒のつどい の講演概要が出揃ったようだ. 1 日目がこれ, 2 日目がこれだ. 8/7 から一般参加者の募集がはじまるので, 興味がある向きは注視されたい.

まだ中身を見ていない. これからゆっくり見よう. 私は『偏微分方程式の逆問題–拡散方程式の数学と物理と工学』というタイトルで話す. 専門外の話なのに結構突っ込んだ話が必要なので, 準備がとても大変で戦慄している. 頑張ろう.

ラベル

数学, イベント

第 4 回の関西すうがく徒のつどいに参加してきた

本文

9/21-9/22 と第 4 回関西すうがく徒のつどいに行ってきた. 端的にいうと「楽しかったです. 終わり」なのだが, どうしようもないのでもう少し書く. 基本的に普段自分が自覚的に触らないのを中心に聞いてきた.

『代数学における選択公理』

1 日目の 1 発目ではブルブルエンジン兄貴の『代数学における選択公理』を聞いてきた. まとめはこの辺. 代数弱者なので細部がさっぱりだし, 有限生成な (可換) 環なんて普段使わないのでそれ困るの? というところからこう色々とアレなのだが, まあそんなものなのだろうということで適当に脳内処理した. 3 つテーマがあって, 環これと変な $\mathbb{Q}$ の代数閉包と入射性・射影性の話. エンジン兄貴のホームページに PDF が出るそうなので, 興味がある向きは確認してみよう.

まずは話題の「環これ」から始まった. 選択公理なしで変な環 (の存在を許すモデル?) を作ることで, 選択公理ないとやばいという話. Noether と Artin が一致しないとか何とかそういう話. 少なくとも加群については Artin 性と Noether 性が一致しない例があるので, それが一致しないことはそんなに重大なのだろうかとか色々気になるところはあるが, もう少し代数をきちんとやらないと何ともいえない.

その 2 として変な代数閉包の話. 選択公理がないと代数閉包の (一意性) 存在が言えないらしいが, 何かその辺. ZF で変なサポートを持つ $\mathbb{Q}$ の代数閉包 $L$ が作れる (モデルがある?) らしく, そういう話. この $L$, 非自明な絶対値がないとか Galois 群が自明とか相当やばい. 議論の主軸は上記の変なサポートがあるということのようだ.

その 3 は入射性と射影性の話. 一番印象的だったのは, 入射と射影は双対的な概念なのに射影の方が同値条件など何か面倒なことになっているということ. 入射のときと射影のときで, 証明自体かなり違うようで, 単純に双対で写せば簡単に終わるというわけでもなく, 証明自体も射影の方が何か面倒だという話だった. 選択公理についても双対的な概念を導入すればひょっとしたら綺麗になるかもしれないがよく分からないね, ということでその場はまとまったのだが.

ブルブルエンジン兄貴が PDF をアップした. 興味がある向きは確認しておこう.

つどいの発表内容をアップロードしました. http://alg-d.com/math/tsudoi4.pdf

@alg_d 関連ページ

1 発目の裏番組でぞみさんが『外から数学を眺めてみよう』というテーマで話をしていた. もちろん聞けていないのだが, 1 年生なのに積極的に発表をしていて素晴らしい. 今度何か教えてもらおう.

『偏微分方程式の逆問題–拡散方程式の数学と物理と工学』

お昼を挟んで 2 つ目の話は市民講演枠と勝手に自称した市民トークだった. どなただったか失念したが, あとで直接コメントを伺ったところ「あまり逆問題の話はなかった」という実に真っ当なご指摘を頂いた. 申し訳なかった. これもあとで DVD にする予定だが, そのときにはもう少し突っ込んで内容を増やす予定.

数学として突っ込んだ話よりも, 物理や工学で数学を使っていく上で何が難しいかといった話や, 物理・工学的に考えてどうかという部分を中心にしてきた. 例えばシミュレーションに関わる問題として, 解の存在や一意性, 安定性が現実的に決定的に大事になる. 本当にお話だけだが, シミュレーションする上でまともな時間内で計算結果を出すことをも大事であって, プログラミングや計算効率・収束速度についても真剣に検討する必要がある, みたいなことにも触れておいた. あと拡散方程式自体, 本当に現象をきちんと表現しきれているのかという問題とか.

目的としては次のような感じ. つどいで物理・工学系の話題が少ないため, どういうリアクションが返ってくるかまで含めて試験的にやってみたい. 物理の学部生が当たり前と思っているくらいのことで, どこまでが本当に当たり前として通じるかというところを知りたい. 少なくとも超弦関係では物理と数学の交流が活発になっているので, そうした業界に足を踏み込もうという数学の人にとっては物理の人間の感覚を把握しておくと, 交流しやすくなるだろう. 必ずしも伝統的な数学の意識下にない話題でもあり, そうした数学に馴染めない人がこうした境界分野に活路を見出せるかもしれない. また, つどいに来る人の中で数は少ないだろうが, 物理や工学など非数学の人が数学の人と交流するとき, 自分の常識について自覚的に話せるようになれば交流がスムーズにいくようになるだろう, ということもある.

まずは逆問題というのが何かというのを具体例を挙げていくつか説明した. 数値計算を数学方面からやっているうださんが, 話は大雑把には知っているが具体例をあまり知らなかった, と言っていたので, いくつか挙げておいて良かったのだろうと思っている.

拡散に関する物理的な問題の説明とか, 「物理として」何が難しいのかとかそういう話を展開したあと, 解の存在・一意性・安定性が応用上どういう意味があるのかを数値計算を例に説明し, 最後に拡散方程式の解の非現実性とその解釈について話してきた. 物理の人にとっては当たり前なことしか言っていないが, 数学の人にとっては当たり前ではないのだろうと想定した話.

実際に全体的にどうなのかはまだ良く分からないが, 数学の人からも「面白かった」という反応を得られたのでとりあえずよしとする.

あまり突っ込んで感想聞かなかったので, アンケートの内容で反省しつつそれを活かして DVD でブラッシュアップする予定. あと, ばんぬさんとかに必要なら数学的に突っ込んだ話をセミナー的に何かやるので, 必要なら呼んで, という話とかしてきた. あと, ひさこさんに「今回はほとんど数学の話をしなかったが, もっと数学チックなアレについてはリクエストがあれば, できる範囲で答える」的な話もした.

ちょっと話はずれるが, 休憩のとき, 数理物理的なアレをやろうと思っているという学生さんと話した. 構成的場の量子論は基底状態の存在とか物理としてはどうしようもないことをやっていて, 赤外発散などを数学的にきちんとしていきたいという強い数学的モチベーションがあればいいかもしれないが, 「物理」をガンガンやっていきたいという人にはつらいということ, 物理, 特に研究がやりたいなら素直に物理学科に行った方が楽しいはずだということを話してきた. もちろん人が来てくれた方が嬉しいが, やりたいことが何かを考えてそれをきちんとやった方が精神衛生上もいいだろうから.

圏論における再帰的関数

3 限目はうださんの『圏論における再帰的関数』の話を聞いてきた. まとめはこれ. 始対象とか圏論の基本的な概念を全く把握していないので, その辺は結構つらかったが, プログラミング周りで何か理解のとっかかりは掴める的なところを把握してきた. fold と banana が同じものと聞いたのが一番の収穫だったと思う. つどい, 何故か圏の話多い印象を受けるので, もうちょっと勉強したい. 参考文献の本を買おうと思ったが 16,000 とかハイパー高いので泣いた.

何か普通の数学の圏の本を読もう.

懇親会とそのあと

コミュ力低いのであまり色々な人と話せなかった. 2 日目は参加しないというのを後で知った一ノ瀬さんとはもう少し話しておくべきだったと反省している. 講演中に受けたもの含め, いくつか質問も頂いたのだがあまりまともに答えられなかったのも猛省している. あと, 実際に企業で数値解析している方ともお話したのだが, やはり話に力がある. 専門でもなければ実際に数値計算したこともないので, そういう人間の話にはどうしても限界があるというのを思い知った. 次回話をしたらどうかと勧めてきた.

夜, こう講演について色々と反省したし早めに反省点をまとめておかないと忘れてしまう, と思いつつ早く寝ないと明日がつらいというので無理矢理寝たが, 0 時頃に起きたあとに反省をやってしまい, 2 時間くらい寝られなくなったのでつらい.

食パンの耳『作用素環論入門』

2 日目 1 つ目はパン耳パイセンのやつを聞きに行った. まがりなりにも作用素環専攻だったのに何も知らないのもまずいな, と思っていたので. 「入門詐欺だ」という話が Twitter で出ていたが, ぎりぎりまで配慮はできていたと思っている. AF 環だったし「1-2 年でも雰囲気が掴めるように」と思うと本質的にこのくらいのところしかやりようもない気はする. (本質的に) 行列環くらいでもかなり凄まじい話が展開できるということは分かるだろうし, 学部 1 年で学ぶ線型代数だがなめてはいけないということくらいはきちんと伝わっているだろうと思いたい. 幾何でも出てくる (はずの) $K$ 群とか Grothendieck 構成とか, 出てきたキーワードも覚えておいて損はない.

ちなみにこれの裏番組で関真一朗さんの『290 定理』というのがあったのだが, これが評判よかったので是非聞いてみたかった. 実際どちらに行こうか迷っていた. 後で PDF とか読んでも講演者の語り口や雰囲気というのは完全に再現できるものではないので, かなり残念. 休憩時間に少し話を聞いたのだが, とても面白い話をする人だったので, 余計に残念感が高まる. 証明もかなり泥臭く楽しい感じだったらしい. 楽しそう.

なゆた『有限オートマトンの基礎』

2 つ目は『有限オートマトンの基礎』の話を聞いてきた. この間川添愛さんの『白と黒のとびら オートマトンと形式言語をめぐる冒険』というのを読んだのだが, かなり面白かった. その抽象版に触れてみようということで聞いてみた.

正規表現との関係やらプログラミングとの関連が楽しい. その辺結構好きらしいということに気付いた.

eno『カウンターパーティ・リスクと CVA』

最後の話は eno さんの話を聞いてきた. 金融工学とかその辺の話. 一番心に殘ったのは数値計算に関する時間感覚の話だった. 1 分どころか 1 秒すら問題になる状況で, 計算が終わるのに数分かかるのはもはや死刑宣告に等しいとのことで, 実務に携わる人の言葉の重みを感じる. 数学を使う実務経験などは全くないので, その辺の味, 私には出せない.

次回何を話そうかというところを早速考えている. 一応, ニコニコで動画にもしたページランクの話を考えてはいる. 今回横田さんがグラフ理論の話をしていて一応その周りだし, これで使う Perron-Frobenius の物理への応用もある. 90 分講演にして最後, Hubbard の話につなげるという線で物理まで絡める線も検討している. あと, これまた関西だがぶつりがく徒のつどいでも何か話してみたい. DVD とかでこの交通費・宿泊費くらいは軽く賄えるようにしていきたい.

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