統計学を学ぶのに Lebesgue 積分必要なのだろうか-leeswijzer さんの呟きを眺めて¶
はじめに¶
以前の記事「Lebesgue 積分がよくわからなくて困った話を思い出した」(2013 年 4 月 7 日) に言及があったので.
引用¶
[欹耳袋] よく分からない数学「Lebesgue 積分がよくわからなくて困った話を思い出した」 (2013 年 4 月 7 日) http://ow.ly/suF4k ※「分からなくてもずっとやっていると自然と疑問が解消される」「昨今の風潮を見ると数学でまで効率を求める雰囲気がある」
@leeswijzer (承前) 中塚利直『応用のための確率論入門』 (2010 年 6 月, 岩波書店 http://ow.ly/suFum) にはリーマン積分ではなくルベーグ積分に慣れよう (p. 67) と書かれていた. 測度論をきっちり勉強するのは, 確率論と統計学には必須かも.
@leeswijzer (承前) しかし, どこまで突き詰めるかは別問題. かつて輪読した『 Kendall's Advanced Theory of Statistics, Volume 1: Distribution Theory 』の数学的序論 (第 1 章) の積分論には別の指針あり.
@leeswijzer (承前) このバイブルでは通常のコーシー積分を一般化したリーマン-スチュルチュス積分が多用されている. 離散変量と連続変量の双方に同一の記法が使えるからとのこと. より一般的なルベーグ積分は時系列解析のようなかぎられた場合以外は数理統計学には必要ないと.
@leeswijzer (承前) 数理統計学の基礎の部分はもちろん「数学」であることは承知している. しかし, ユーザーがどこまでそれを (苦労して) 学ぶ必要があるのかについては明快な答えがあるとは思えない. 教えるときにはいつもそのことが気にかかる.
@leeswijzer (承前) もう一歩つっこんで解説した方がいい場合でも, それによって受講生側の "死亡率" が増えるかもという主観的確率が高まるときはあえて教えない. そういうトレードオフあるいは損得の計算をそのつどする必要あり
コメント¶
数理統計学というと東大数理にいる吉田朋広先生しか知らないので, 上記の「数理統計学」がどの程度のものを指しているのかよく分からないのだが, ガチガチの統計の専門家ならともかく, 普通の応用時に Lebesgue なんて必要なのだろうか. 私の元記事はあくまで数学科学生に対するコメントであって, それ以外については対象としていないので. 世間的に一番数学に近いことにされている印象を受ける物理学科ですら Lebesgue いらないと思う. Lebesgue が必要なんて余程のことだろう.
集合論と測度論のハードルが高過ぎるし, そもそも他学部・他学科での取り扱いが必要な場面が想像できない. むしろやらなければいけない状況を教えてほしいくらいだ. 時系列解析の応用上, 本当に必要なのだろうか. 必要だとしたら大変だな, と単純に思う.
3 月にくらいやる予定のセミナーでは少し話すつもりだが, Lebesgue, 議論はともかく結果は非常に簡明で覚えやすい. Riemann 積分の定理, 正直言明を正確に言える定理ほとんど何もないのだが Lebesgue なら色々言える. よく使っているからというのもあるが, それ以上に実数論に対応する定理があって記憶が楽というのがある.
その他¶
あと何か関係していそうな連続ツイートも折角なので引用しておく.
[欹耳袋]WC 「学びの面白さの伝え方」 (2014 年 1 月 11 日) http://tinyurl.com/kcb4msj ※「多くの人は, 何が面白いのかもわからず必死に山を登り続けるようなことはしない」
@leeswijzer (承前) 「授業でいうと, 最初の数時間がすべて. 学習者が少しは前向きに席に座っているあいだに, 新しい世界の片鱗を早くチラ見せしてあげる, 自分に関係のあることなんだと感じてもらう. それが理想」– この点はワタクシ自身もいつも気をつけている.
@leeswijzer (承前) 「教育者として果たすべき役割が, 世界の入り口に近い位置で演出に力を入れることなのか, それともプロの研究者仲間として切磋琢磨することなのか」– 評価されるのはいつも後者ばかりだしね.
@leeswijzer (承前) 「前者に必要な姿勢と能力を持った人が全体的に少なくて, それが良質な教育コンテンツを世に十分に輩出できていないこと, そのことに十分な危機感を持っていない人が多い」– 教えるワザがパーソナライズされていてうまく共有されない問題.
この辺はとても気になっているところで, 現状, DVD なりセミナーなりでやっていきたいことでもある. ゆるりゆるりとやっていきたい.
追記¶
前提をはっきりさせなかった私が完全に悪いので反省した.
.@phasetr 何を学ぶかにもよりますが、たとえば特性函数 (確率密度函数の Fourier 変換) を考えるときは Lebesgue 積分を使う方が楽ではないでしょうか。また、Gaussian 同士の畳み込みや中心極限定理を議論するとき、特性函数は避けて通れない気がします。
— H. Hosaka (@H_H) 2015, 10月 30 @H_H 私は応用どころか数理統計ですらほぼ触ったことないのでアレですが、収束とか面倒な議論をする場面の存在を想定できないというのが正直なところです
— 相転移P(市民) (@phasetr) 2015, 10月 30 @phasetr 例えば中心極限定理使う時って、独立同分布な多数の確率変数を持ってきて、それの平均の極限が従う分布を調べますよね。
— H. Hosaka (@H_H) 2015, 10月 30 @phasetr ああ、「基礎の構築は数学屋に任せることにして、自分は正しい統計の使い方のみに集中したい」という立場なら、Lebesgue 積分持ち出す必要は皆無でしょうね。
— H. Hosaka (@H_H) 2015, 10月 30 @H_H 東大数理でも吉田先生とかいるわけで、バリバリの数理統計ならそれは確率ゴリゴリでめっちゃいろいろ頑張るでしょうが、そうなるともはやルベーグどうこうというより解析学をフル装備しろという話になると思っています
— 相転移P(市民) (@phasetr) 2015, 10月 30 ラベル¶
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