物理の純粋状態と作用素環の純粋状態: $p$ 進大好き bot とのやり取り¶
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長くなりそうなので返答というか考えをブログにまとめる方の市民. 次の $p$ 進大好き bot とのやりとりなのだが.
純粋状態って言うと、「物理の純粋状態」と「物理の純粋状態2つのpairingで表される作用素環の純粋状態」のどっちのことか分からんな。両者は違うものだよね?
— p進大好きbot (@non_archimedean) 2014, 5月 4 @non_archimedeanよくわかっていないのですが後者、必ず作用素環的な純粋状態になるのでしょうか。「物理の純粋状態」の定義も気になるところですが
— 相転移P(市民) (@phasetr) 2014, 5月 4 @phasetr物理の方は物理量を表現する作用素が作用しているヒルベルト空間の正規ケットベクトルのつもりでした。それのコピーの(と書き忘れました)2つのブラケットで表される作用素環の純粋状態とどう対応するのか、という話ですが、冷静に考えてGNS構成がありましたね。
— p進大好きbot (@non_archimedean) 2014, 5月 4 @phasetr暗に「物理のヒルベルト空間は可分である」ことを課して書きました。非可分なときも純粋状態が正規ケットベクトルだと思っていいのかよく知りません。
— p進大好きbot (@non_archimedean) 2014, 5月 4 純粋状態って言うと, 「物理の純粋状態」と「物理の純粋状態 2 つの pairing で表される作用素環の純粋状態」のどっちのことか分からんな. 両者は違うものだよね?
@non_archimedean よくわかっていないのですが後者, 必ず作用素環的な純粋状態になるのでしょうか. 「物理の純粋状態」の定義も気になるところですが
@phasetr 物理の方は物理量を表現する作用素が作用しているヒルベルト空間の正規ケットベクトルのつもりでした. それのコピーの (と書き忘れました) 2 つのブラケットで表される作用素環の純粋状態とどう対応するのか, という話ですが, 冷静に考えて GNS 構成がありましたね.
@phasetr 暗に「物理のヒルベルト空間は可分である」ことを課して書きました. 非可分なときも純粋状態が正規ケットベクトルだと思っていいのかよく知りません.
私が知っている $\mathbb{C}$ 係数の作用素環では基礎となる Hilbert 空間に可分性を課すのでここでもそれを仮定しよう. むしろそこでしか考えたことがないので, 外れたときに起きる現象は全くわからない.
その上で, 一般的には両者は違うはずだが, ではどう違うのかというのが (私は) 全くわかっていないという話をこれからする. 特に後者は言明「物理の純粋状態 2 つの pairing で表される作用素環の純粋状態」自体が 正しいのかもよくわかっていない.
それでまず作用素環の純粋状態だが, 作用素環を指定した上でその状態空間の端点という定義なので, 作用素環自体を指定しないと始まらない. 物理の純粋状態, この意味だと数学的な定義は不明といっていい. ある Hilbert 空間でのケットが「純粋状態」 (線型結合でない 1 つのベクトルとして書ける) だからといって, それが別の Hilbert 空間で「純粋状態」になっているとは限らない.
有名な例がある. 何でもいいが, 可分な Hilbert 空間 $\mathcal{H}$ 上のトレース $\mathrm{Tr}$ を考える. (いわゆる「有限温度での平衡状態」を考えているといってもいい. ) これは Hilbert-Schmidt 作用素の空間 $C^2 (\mathcal{H})$ では「純粋状態」として書ける. もちろん GNS だといってもいい. そして $\mathrm{Tr}$ は正規直交系の線型結合になっているベクトルから作れるから, 物理の意味 (先程書いた通り数学的に正確な定義はよくわからない) では「純粋状態」ではない. ただ, GNS で移った先では物理の「純粋状態」から作れる. こういう場合の処理のため, 作用素環的な純粋状態は環 (正確には表現か?) をきちんと指定することになっている.
あまりきちんと考えたことがないので, 物理の「純粋状態」から作用素環の純粋状態を構成するためのきちんとした条件と, その具体例をあまりよく知らない. Bratteli-Robinson の定理 2.3.19 など, 状態が純粋であることとその GNS 表現の既約性が同値であることくらいは知っているが, 具体的な例できちんと調べたことがない. 物理の「純粋状態」は作用素環の指定なしでやっているので, その辺をどう思うのかがよくわからない.
これも具体的にきちんと調べたことがないのだが, 平衡状態 (正確には KMS 状態) に関する「端点分解」もよくわかっていない. 通常通り考えている von Neumann 環が単位元を持つことを仮定しておくが, そのとき KMS 状態全体も凸集合で weak*-compact になる. つまり KMS 状態内で端点分解できる. Haag の Local Quantum Physics ではこの端点への分解を pure phase decomposition と呼んでいるが, これの具体例での検証 (どういう現象が起きるか調べる) をやったことがない.
今更ながらだが, 問題としてどう正確に定式化したらいいのかという部分からして そもそも難しいのかもしれないし, 問題の立て方もどう立てるといいのかがよくわかっていない. 何というか, 「物理×数学」という非可換代数を想起した.
追記¶
基本的には別件だが, 最近 thermal pure quantum (TPQ) state という話が出ている.
- 清水さんの論文, Canonical Thermal Pure Quantum State, Sho Sugiura, Akira Shimizu
- 田崎さんの論文 論文メモ: Hal Tasaki, 2015, Typicality of thermal equilibrium and thermalization in isolated macroscopic quantum systems
この辺も結局きちんと勉強できていない. 時間が無限にほしい.
ラベル¶
数学, 物理, 数理物理, 作用素環, 統計力学, 場の量子論, 量子力学