Summer School 数理物理 2013 量子場の数理

アナウンス

はじめに

今年の分の Summer School 数理物理のプログラムがアナウンスされた. これだ.

メンバーが個人的に超豪華なので絶対に行く. むしろ速攻で参加申し込みしてきた.

講師・講演題目

講師 講演題目
新井朝雄 (北大数学) 相対論的量子電磁力学の数理
河東泰之 (東大数理) 共形場理論と作用素環
原隆 (九大数理) 構成的場の量子論---古典的な問題の紹介
廣島文生 (九大数理) 非相対論的量子場とギブス測度

概要

知り得る限りで大雑把な内容を書いておこう. まずは新井先生から.

新井先生

河東先生以外の 3 人は構成的場の量子論の話だ. 最近の展開はあまり追えていないので良く分からないのだが, QED は少しずつ相対論的な方に流れてつつあるようだ. 今日も arXiv に佐々木さんの論文, One Particle Binding of Many-Particle Semi-Relativistic Pauli-Fierz Modelが上がっていた.

個人的には物質の安定性含め, 非相対論的量子電気力学はまだまだ開拓の余地がたくさんあるし, 粒子系を電子場に拡張してさらにフォノンも足して物性をやるとか, 特にそういう方向に興味があるが, 最近の展開として相対論の方を出してこようということなのだろう. 新井先生は一度講演を聞いたことがあるだけだが, 修士のときに本や論文に関して色々と誤植訂正表を送ったり, メールで相談にのって頂いたりと非常にお世話になった.

さぼりっぱなしの論文, 夏までに書き上げて新井先生とお話したいところだ.

河東先生

共形場は代数幾何, 頂点作用素代数, 確率論など色々な数学が交錯する対象で, 場の量子論が記述できる作用素環にも当然対応する話がある. その辺を話すのだろう. ちなみに私が知る限り共形場理論は, 構成的場の量子論での (phi^4) 以外で存在証明がきちんとできた貴重な相互作用つきの理論だ. 作用素環専攻であったにも関わらずあまりまともに作用素環を勉強しておらず, 代数的場の量子論についても難しくて手が出せずに終わったので, あまり具体的なことを知らない. これも楽しみにしている.

原さん

原さんは東大物理の人達と査読しているイジング本の著者だ. 何となく相対論的場の量子論での $\phi^4$ の話をするのではないかと思っている. 基本的な所は多少触れたのだが, 難しくて手に負えなかったところばかりだった. いい機会なのできちんと勉強しておきたいのでこれもまた楽しみ. あとイジング本の査読をしていて田崎さんには何度か会ったことがあるが, 原さんにはお会いしたことがないので挨拶したい.

廣島先生

廣島先生はもともと北大での新井先生の学生だったと聞いている. 汎関数積分 (経路積分) を使った場の理論の研究では日本でほぼ唯一の人だ. 2 年くらい前に次のような本を書いていて, これが汎関数積分による結果をかなり包括的にまとめている (はず).

「はず」というのは, 確率論の知識不足でそもそも汎関数積分による結果が追い切れていないということと, 本自体も一部追い切れていないからだ. 量子統計方面も同時処理したいということもあって私のメインは作用素環だが, 汎関数積分も当然強力な武器としてずっと気になっている. 構成的場の量子論の結果自体も含め, 知識の整理にも役立ちそうで, これまた期待している.

今から楽しみで仕方ない. 最終日が平日なので, きちんと行けるよう万難を排して臨みたい.

Summer School 数理物理 2013 のスピーカーの 1 人, 九大の廣島先生の Nelson モデルの紫外繰り込み論文を眺めてみた

はじめに

何度か話題にしている Summer School 数理物理 2013 だが, そのスピーカーの 1 人, 廣島先生の論文が arXiv に出ていたので軽く眺めてみた. Gubinelli-Hiroshima-Lorinczi の Ultraviolet Renormalization of the Nelson Hamiltonian through Functional Integration だ. Lorinczi は汎関数積分による構成的場の量子論で有名な人だ. Gubinelli は知らない人だが, Lorinczi の学生だろうか. 何はともあれこの論文を軽く眺めよう, という話だ. 専門の話題とはいえ, 詳しく読み込んではいないので興味がある向きは自分で追ってみてほしい. 参考文献として Lorinczi-Hiroshima-Betz による本を挙げておこう.

当たった文献を全て細かいところまで読み切れていないので. 実際どうなのか分からないのだが, 時々 1 体だけしか扱わない論文もある中, $N$ 体系に正面から取り組むようだ. 前, QED の繰り込みでは $N$ 体を扱うの大変とか見た覚えがあるので, 場合によっては多体系にするのがまだ本質的に難しいこともあるとぼんやり思っている.

ネルソンモデル

扱っている Nelson モデルだが, これはスカラー中性子とボソンの結合系をモデル化していることになっている. スカラー中性子って何だ, という向きがあろうが, とりあえずそういう人工物を扱っていると思ってほしい. こういう人工的な系を考える理由として 1 番は数学的な単純化のためだ, スピンが効かないところだけを見るのだ, と強弁する. もっと積極的には, 今回のように発散処理にだけ集中したいから. 余計な要素があるとそこの処理までしなければいけなくなって, ただでさえきつい話がさらにきつくなる. そして読む方の負担も飛躍的に増える.

実はこの Nelson モデルの Nelson は 2011 年に The Inconsistency of Arithmeticで話題になった Nelson だ. 今は基礎論あたりにいるが, 元々構成的場の量子論にいた人だ, という小ネタをはさんでおこう.

ネルソンモデルの別の由来

またこのモデルの別の由来も挙げておこう. 例えば, QED でポテンシャルの 2 次を落としたモデルはこれになる. (もちろん正確には電子のスピンを無視している. ) QED の 2 次を落としたモデルは Lamb シフトを摂動ではじめて説明した論文で使われたので, QED からの意味もある. また, 電子-フォノン系と思ってもいい. この観点から Nelson モデルを見る, というのが私の主戦場だ. 正確には連続系は扱わないで格子系, Hubbard を扱っているのだが, それはもちろん相転移が見たいからだ. 念の為に言っておくと, この時点で上に書いた, 物理として QED の近似だというのがかなりつらい話になる. なぜかというと, 電子-フォノン系だと電子間に実効的な引力が発生する場合がある. QED ではこんなことは起きないので, 引力が発生しているとすると, 本来の QED では起きない現象が起きる可能性があって, モデル化がまずいという話になる. もちろん色々な系に適用するためには, 電子-フォノン系での結合定数はある程度一般にしておく必要がある一方で, QED なら結合定数は定数なのでその辺も色々あるが, その辺は純粋な物理の人の方が遥かに詳しいのでそちらに任せる. あと, 実は非平衡統計のモデルとしても使われる. 小さな系と熱浴の相互作用のモデル化に相当する. この線だとよく平衡への回帰 (return to equilibrium) という問題を議論する. 一部物理的にどうなのそれ, という話もあるが, 物理としては QED , 物性, 非平衡が, 数学としては作用素論, 作用素環, 確率論が交錯する面白い分野だ. 物理として問題を少し変えただけで対応する数学を変える必要があったり, 逆に全く違う物理に同じ数学が使えたり, さらには物理として同じ現象が違う数学ではどう見えるかを調べるなど, 数学, 物理, 数理物理としての見方, 研究ができて面白い.

モデルの定義

脱線しまくったので本題に戻そう. 1 章ではモデルを定義している. Hamiltonian の定義などは, 比較的物理の人にも見やすい形式的な書き方も出している. 数学的に正確な書き方については新井先生の本の 12-13 章を参照してほしい.

(1.3) で $\phi$ を実にするのを疑問に思う数学の人がいるかもしれないが, これは汎関数積分を使うときにはよく課す条件だ. こうすると Segal の場の作用素が可換になって色々と扱いやすくなる. 詳しくは上の本なり新井先生の本を読もう.

今回の論文の目玉は「電荷」分布の $\phi$ を $\delta$ 関数にする, つまり点電荷極限を扱うことにあるようだ. これは物理として自然な設定なのだが, 数学的に言うと死ぬ程扱いづらい設定になる. 物理として自然な設定が数学として死ぬ程扱いづらいというのはよくある話で, ここの戦いが数理物理本陣となる. 物理の人は当然数学としては適当に処理するが, かといって数学の人はやるモチベーションがない. そもそも数学的に本当に面白い保証もない. 面白い現象があることを示し数学者を巻き込むには数理物理の人間が実際にそれを示すしかなく, つまり我々の戦いはここからはじまる.

P3 に主結果が (1), (2), (3) としてまとまっている. UV カット (女性用化粧品の話ではない) をどうつけて, それをどう外して紫外発散を制御するか, 繰り込み処理するか, また抽象的な存在問題で終わらせず具体的にどう書くか, というところが問題だ. そこで汎関数積分を使う, というのがこの論文. ちなみに, 赤外発散しかまだやっていないが, 私はここで数学として作用素環を使っている.

論文にあるように, 単なる紫外発散だけなら, 1964 年に既に Nelson が処理している. 紫外発散処理は一応できることが分かっていたので, 赤外発散に集中していた (そして恐しく難しかった) というのが歴史的経緯になる. ここでは数学としては作用素論的に処理している. Nelson は Gross 変換というのを使っているのだが, これは私も修論でお世話になった. そしてこの論文では Gross 変換を使わないらしい. 前, Nelson タイプのモデルの紫外発散に関する [HHS05] の論文では, 作用素論的な手法で Gross 変換を使っていたはずだが, 今回はかなり違うらしい. この論文も読むのつらくて途中で投げた.

P4 (1.6) がこの論文でのキーになる (とはっきり書かれてている). 正確にはこの経路測度表示. 汎関数積分表示の何が大事かというと, 作用素の情報が具体的な関数で書けることにある. 作用素を直接扱うのは骨が折れる:ベクトル (関数) に対する作用しか見れず, その作用にしても作用前後で関数が大きく変わるからだ. 微分を考えると分かるが, 作用前に関数の大小関係が $f < g$ だったとしても, 微分した後にどうなるかは一切分からない:反転することもあるし, 各点ごとに振る舞いが変わることもある. そういう作用素の特性を調べるのに, 具体的な関数を使えるというのは非常に大きい. ここでは内積の積分表示だが, 作用素そのものを直接積分表示で書く場合もある. 例えば反磁性不等式などが強力になる. 反磁性不等式は単純な作用素論では期待値を取ったあとの関係式になるが, 汎関数積分表示を使うと積分核による各点の評価に持ち込むことができ, 強い評価ができる.

次の (2) に関しては技術的な話っぽいので省略. 確率積分がどうの, とかそんな話.

ここで (3) が個人的に面白い. 弱結合の極限で湯川ポテンシャルが出てくるという話. 実効ポテンシャルの評価がきちんとできる.

論文全体で 3 次元を仮定しているが, 結果自体はどの次元でも成り立つとのこと. 時々, 3 次元に特化する代わりに最大限シャープな結果を出す, という論文もあるので, こういう部分は注意して読みたい.

2 章

2 章に進もう. はじめにポテンシャルに関する制限 (仮定) が出てくる. $V$ は有界連続とのことで, Coulomb ポテンシャルが含まれない. 特異性があるからやるとしんどいのだろうが, やはりこの拡張はほしい. 定理 2.2 で Hamiltonian を繰り込む. あとは定理の証明に向けてごりごり頑張る, という感じで章が終わる. さらっと書いたが論文の本体で P22 まで続くハードな解析だ.

3 章

3 章で実効ポテンシャルの話になる. ここでは分散関係を $\omega_{\nu} (k) = \sqrt{k^2 + \nu^2}$ と仮定している. ここは既存の結果も使いつつ, 比較的さらりと終わる.

途中で Euclid 場の話も出るが, 付録に簡単な解説がある. 興味がある向きは Lorinczi-Hiroshima-Betz の本か, 新井先生の本を読むといい.

論文の本体

論文の本体はハードアナリシスで私が知らない (そして勉強したいとずっと思っている) 確率解析なので, あまり何もコメントできない. よく分かっていないのだが, 電荷分布を点極限にしているから紫外だけでなく赤外切断も外していると思っていいのだろうか. それならかなり強力な結果と言える. ハードパートを追っていないのでどこで有界連続性が本質的に使われているのか分からないが, これを完全に加藤クラスに持ち上げられると嬉しい. 加藤クラスには当然 Coulomb が入っている.

あと別件というか私がやるべきタスクだが, Hubbard-フォノン系で同じ結果を出したい. これは特に無限体積 Hubbard で確立したい. あとは温度を入れたときの振舞いか. Nelson でも平衡への回帰が大事だが, Hubbard では平衡統計というか物性としての意義がある. というか, 最近研究さっぱりやっていないし, Summer School 数理物理の前に 1 年以上放ったままの論文書き上げたい. 動画も作りたいし, したいことたくさんある.

ラベル

数学, 物理, 数理物理, 構成的場の量子論, 確率論

Summer School 数理物理 2013 量子場の数理に参加してきたがスーパー楽しかった

本文

Summer School 数理物理に参加してきた. とりあえずスーパー楽しかった. 河東先生のは微妙なところだが, 大体全ての講演の内容にピントが合いまくっているので, 大分景色が広がった. 入門的な話を議論するということで面倒なところに触れていないからということもあるが, 人の話が これだけクリアに分かった経験もなく, 楽しかった. 順に感想を書いていこう.

新井先生: 相対論的量子電気力学

新井先生の話は 2 日使って相対論的 QED の 発見法的な (数学的に厳密でない) 議論をした上で, 最終日にきちんと定義できる部分の話をした. Hamiltonian を定義してその詳しい性質を調べたいわけだが, 今のところ運動量・空間の切断をつけないとうまくいかないということで難しいが, それでも議論は進んできている, という夢のある話が展開された. 切断つきとはいえ, 思った以上に議論が進んでいたのでびっくりした. 最近の新井研は相対論の人が多いらしく, 会場内でも学生さん達がその辺の議論をしていて楽しそうだった.

最終日のお昼, たまたま新井先生と新井研の学生さん達と食事しながらお話したのだが, 散乱理論さえ構成できれば基底状態の存在などはとりあえず言えなくてもいい, とか「それはそうだ」という話を色々した. とにかく本当に物理的な, カットオフなしの理論は何も言えていないから, やるべきこと・知りたいことは色々ある. QCD やその格子正則化の議論もしたいが難しい, という話とか色々. 論文タイトルだけは QCD を示唆しているが, 実際にはヒッグスが起きたあとの massive theory であって, ある意味こけおどしのような論文もあるからそんなに難しいと思わずとりあえず目を通して比較してみたら, とかいうコメントもあったりして実に楽しそう. 活発に研究されているようで見ているだけでも楽しい.

あと, 学生の頃からずっと新井先生にはメール上で本の誤植を送ったり論文をお送りしたりと交流があったのだが, 今回ようやく始めてお話する機会を得た. きちんと覚えて頂けていたようで, 何よりであった. 非同値表現など CAR ・ CCR の表現論周りで, 簡単過ぎるかもしれないがやらなければいけないことなどを考えていて, それについても少しお話したところ, Derezinski がきちんとやらないといけないと言い始めているようで, 実際に大事だろうから是非やるといい, 的な話もした. 考えていることが無意味ということはないようなので, 少し安心した. その方面も基礎的なところをきちんと固めていきたい. 「やろうと思っているがなかなか時間が取れないところをやってくれているので嬉しい」的なことも言われたので, 地味な研究だが粛々と議論を進めていきたい. 今回有限温度の話は全くなかったが, その辺も絡めてやっていく必要がある.

河東先生: 代数的場の量子論における各種共形場理論

作用素環専攻で比較的近い分野であったにも関わらず, 河東先生の話は一度も聞いたことがなかったが今回はじめて聞いた. 物理的に何かあるのかは全く分からないが, 単純に数学として非常に面白い内容だった. パン耳パイセンとか Twitter 上の作用素環の人, この辺やって私にレクチャーしてほしい. 冨田-竹崎理論とか多変数関数論とか, その辺のサポートならとりあえずある程度はできるのだが.

「この辺やっているのは私と Longo と Longo の学生くらいしかいないので人が増えてほしいのですが」的な話をしていた. 本当に面白いのでここも人が増えてほしいのだが, 冨田-竹崎理論やら多変数関数論が必要やらで参入障壁が高く感じられてしまうようで, 全然人が増えません, とのこと. その辺の詳細をうまいこと回避していたためとはいえ, かなり良く分野の様子が見えてこれも本当に楽しかった. むしろ, その辺をうまく回避しつつ面白いところを的確に時間内に盛り込んでいった河東先生の力量が凄まじいとも言える. Twitter でも河東先生のトークが凄かったという呟きを見かけたが, 確かに圧巻だった.

初日のトークで「私は数学者なので演算子ではなく作用素といいます」という話があったのだが, これを受けてその後, 原さんは「僕は物理屋なので, 演算子, といいます」といい, その後さらに廣島先生が「僕は数学者なので作用素といいます」と言っていた. 原さんが物理学者に物理学者と認識されているのか非常に気になるところだがそれはともかく, 原さんが自分を物理「屋」といい, 河東・廣島先生が自分を数学「者」と言っていたのが面白かった.

講演自体だが, 初日は場の量子論と Wightman 場, 作用素値超関数が必要というところから非有界で鬱陶しいので有界作用素に移るという話から始まった. 物理としては 4 次元 Minkowski 時空で Poincare 対称性を考えるが, これだと例が作れないしよく分からないので, - 数学としてきちんとできて面白い共形場に移ること, - フルの共形場ではなくカイラルに移って議論しよう, - 時空としては $x=t$ の直線上, しかもコンパクト化して $S^1$で対称性としては $\mathrm{Diff} (S^1)$ という巨大な群を考えよう, - そしてその公理系を簡単に説明した, というところで話が終わった. 設定に関する気持の部分なので特筆すべきことはない.

2 日目からが本番で, 数学的な話がはじまった. これが面白い. Haag duality やら Reeh-Schlieder やらあるが, 特に Haag duality は話の中で拡大の極大性や locality との兼ね合いで酷使されるととても大事なのだが, 結構難しいがそれは公理として認めてしまってとにかくやってしまえばいい, みたいな話をしていて笑った. さすがに自分の学生がこの辺したいと言い出したらきちんとやるようにはいうようだし, それはそうだと思うが, それも含めて笑った. Haag duality は単なる便利なコンベンションくらいに思っていたのだが, 実際の議論では本質的に効いてくるようだった.

例を作ることと合わせて, 共形場の定式化の 1 つである頂点作用素代数やそれが発展する契機になった Moonshine 予想の話を噛ませたあとに作用素環的な議論が進んだ. 頂点作用素代数の結果を使いつつ議論するのは 3 日目の最後までずっと出てきたので, 相当大事なようだ. 共形場の定式化として適当に対応があることを使って, 頂点作用素代数で議論されていることを作用素環でトレースすることやその逆についてもかなり活発に議論されている模様. 同じ理論を記述しているのだからお互いの対応があるはずだが, 頂点作用素代数も代数的場の量子論もそのままでは一般的過ぎるから, 適当に制限をしたところでないと完全対応はないだろうという話, そしてそれは作用素環では完全有理性という条件で良さそうだ, ということだった. 完全有理性は本質的に面白い結果を出すところでは大体仮定されるらしい. きちんと確認していないが, 完全有理性は河東先生達が定義した概念のようだ. この辺もかなり凄い.

頂点作用素代数というか, 物理的に同じ理論を研究しているのだから別の数学を使ってできたことは作用素環でもできるはずだしその逆だってできるはず, というのは構成的場の量子論でも同じで, 作用素論・作用素環でできたことは確率論 (汎関数積分) でもできるはず, というのは私も思っているし実際にやりたいことでもある. そういう意味でも河東トークはとても楽しかった. 頂点作用素代数と作用素環は一方は純代数, 一方は解析学と本当に本来の興味感心がかなり違うはずなのだが, そこに対応する議論が展開できるというのはひどく非自明で楽しい. 河東先生も「昔は考えることもできなかったような分野の数学者とも話が通じるようになってとても楽しい」的なことを言っていた. 何かの文章でもあったが「昔は operator algebra で検索すると vertex operator algebra も引っかかって鬱陶しいと思っていたが, 今ではきちんと関係があることが分かった」みたいな話をして笑いを誘っていた.

3 日目はカイラルから発展してフルの共形場, 境界共形場の話をして非可換幾何の話をして終わった. 公理の設定があること, 共形場を全く知らないのでどういう話が常識なのかも知らないこともあるが, カイラルから共形場が復元できるというのはなかなか凄い. 境界つき理論との関係もなかなか無茶で, 境界の追加・削除の議論というのも凄まじい. 最後, 非可換幾何の話をするときに非可換幾何の Dirac 作用素を見つけるのに, 頂点作用素代数の構成を媒介して見つけてくるというのがかなり心に響いた. 思いもしない異分野の相互作用として相当に格好いい. 何かさらっと話していたし発見者が誰なのか確認してこなかったが, 発見者, 相当興奮したのではなかろうか.

やや別件だが, 非可換多様体は実際には非可換スピン多様体であるという話がされた. 前から普通の多様体の話をしているはずなのに何故 Dirac 作用素が出てくるのか不思議だったが, 実際, 非可換多様体の定義として今使われている spectral triple は非可換 Riemann 多様体, 特にスピン多様体であると直接確認できたので, その辺の胸のつかえが取れた感もある.

立川さん (後で名前を把握したというか顔と名前を一致させた) が色々面白げな質問をしていて, 超弦周りの話と何か絡んでいくのかもしれない. そもそも AdS/CFT とかある. 物理がどうなのかは全く分からないが, 数学としてはとても楽しいのでどんどんやっていってほしい. よい話だった.

原さん: 構成的場の量子論, $\phi^4$ の話

田崎さんからの影響で何となく「さん」づけで呼ぶのが自然な印象がある原さんであった. 田崎さんとの共著で出る予定の Ising 本の査読をしていることもあり, 一応構成的場の量子論にいる人間として先達でもあり, 名前はずっと前から認識していたが, 今回初観測に成功した. 何か凄いかわいいというか穏やかな感じの人だった. 3 日目, ホテルの隣の部屋の人が変なことをして鳴らして警報機で起こされるなど, 今回は散々だったらしい. 体調が万全であればもっと色々な話が聞けたかと思うと残念だ. これはこれで, 今までふんわりしたことを知っていただけでもう少しきちんと知りたいけれどもなかなか勉強の時間が取れず, 解析が死ぬ程つらい分野のため精神的負担も大きかった triviality に関してある程度具体的に状況を把握できたので, とても有意義で楽しかったのだが.

Ising 本を読んでいたこともあり, スピン系に関する議論にピントがあっていたので滅茶苦茶面白かった.

「どんな汚い手を使ってでも OS の公理系を満たす例を作ればこちらの勝ち」という台詞, 非常に気に入っているというか, 私も基本的にこのスタンスというか, こういう風に言っている人達の背中を見て育った結果というか, こう色々なものを想起して感慨深く楽しい.

Ising で古典スピン系の様子を一定以上把握できていたので, ハードアナリシス部分はともかく, 今まで以上に景色を見渡せるようになった感がある. もちろんハードアナリシスパートこそが命なので, 全然何も分かったことにはなっていないけれども.

Ising 本を読んだとはいえ, あまり真面目に 13 章を読んでいなかったので相転移・臨界現象と $\phi^4$ がどう関係するのか全く理解していなかったのだが, スケール変換に関する繰り込みで使うこと, その使い方というのをようやく把握できたので, 胸のつかえが取れた感ある. あれは本当に格好いい. スペクトル表示や鏡映正値性の話をもっときちんと聞きたかったが, 仕方ない. Frohlich から Hubbard 強磁性の解析にも鏡映正値性が使える可能性があるからちょっとやっておけ的なことを言われているし, もう少し真面目に勉強したい. Ising 本の付録, あまりきちんと読んでいないので, もう一度読み直したい.

$\phi^4$ の triviality について, 原さんは相当思い入れがあるようで, 小話をしていた. 学部から院にかけて素粒子をやろうとしていたから場の理論を頑張って勉強していて $\phi^4$ ももちろん頑張って計算したが, 院に入ったくらいだかに triviality 周辺の結果が出てきて, 自分の 2 年間は何だったのかと思った, みたいな話をしていた.

折角相関不等式のプロに会ったので, Hubbard でそういう話がないか聞いてみた. 凄い便利だからあったら誰かやっているだろうけれどもあまり聞かないなら難しいのではないか, とか実に真っ当なコメントを頂いた. あったらいいな, くらいだし, あろうがなかろうが無限系 Hubbard はやるしかないので粛々と進めるだけの市民だった.

あと Ising 本を催促してきた. もう少しでできるとしか言えないとのことだったが. このブログなど見ているかはどうかというのは積極的に棚に上げ, とりあえずここでも催促していきたい.

廣島先生: 汎関数積分による Nelson モデルの話

廣島先生も一方的に名前だけ把握していたが今回初観測に成功した. ほぼ一環して経路積分と言っていたが, 要は確率論を使って場の理論を記述していこうという話だ. ずっと興味はあったがあまり真面目にやっておらず, というか粒子系の方で確率解析やら何やら色々必要でしんどくて全く手がついていない分野だったため, とても (おそらく一番) 楽しみにしていた. 先日ささくれパイセン向けセミナーとして場の方の経路積分は復習していたので, 大体はついていけた. もちろんありとあらゆる意味でハードアナリシスこそ本道でそこについては全くフォローできていないが, 以前よりも親しみは増したので大変に有意義であった.

赤外正則化の元での個数期待値の指数減衰や (confined potential の場合の) 位置の指数減衰に関する詳細な評価ができるというのは, やはり圧倒的に力強い.

非 Fock 表現での Nelson (正確には私が知りたいのは van Hove) の基底状態について, 汎関数積分で見るとどうなるかが知りたいのでちょっと時間を取って取り組みたい. 物理での赤外発散の位置づけを全く理解できていないのがつらいところだが, とりあえず数学というか数理物理として処理しきりたいと前から思っている.

Pauli-Fierz は 3 日に 1 回夢に見ると言っていた. うらやましい.

小嶋先生との話

廣島先生の 2 日目, 基底状態の非存在に関する議論が出たときに「数学者である廣島先生に聞くのは筋違いかもしれないが」との前置きのあと, 基底状態の非存在に関する物理について質問されていた. 鹿野さんとのやり取りなどほとんどフォローできていないのだが, そもそも赤外発散とは何か, 赤外正則化と実際の物理とは何か, 赤外発散があるときの基底状態とは何か, といったところの物理, 私はよく把握できていないことを改めて認識した. 物性や有限温度への応用で冨田-竹崎理論を使えばいい, という話もあったのだが, それはそれでまず数学として色々難しくてあまり進んでいないというコメントをした.

一応 BEC の存在を言えている系はあるので, その辺の話なども少ししたら, 興味を持って頂けたようで, とりあえずプレプリントを見てみたいというお話になったので, プレプリントをお送りしておいた. 以前の Summer School 数理物理の BEC 回のとき, 小嶋先生もスピーカーとして話していて, 色々考えないといけないことはあるということなので, 多少なりとも参考になれば嬉しい.

総評

超楽しかった.

ラベル

数学, 物理, 数理物理, 作用素環, 作用素論, 確率論, 場の量子論, 統計力学, 物性論