Twitter まとめ: 数学の作用素論と数理物理の作用素論

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数学の人がいう作用素論と数理物理というか量子力学周辺の作用素論は少し違う. 知っていることについて少しまとめておこう. 私は数理物理というか量子力学, 場の量子論周辺の作用素論の人間であり, 数学側の動きを完全に知っているわけではない. 実際にはもっと色々あるだろうから, 参考程度に思ってほしい. このあたりからはじまる.

作用素論っておもしろそうなにおいするけどいまいちどんなのかわからんぽん

@yuki_migo 数学の人がいうところの作用素論は有界作用素の話のようですね. 正規作用素というのがありますが, それを一般化した hyponormal とかそんなのを議論したりする模様. 日合-柳の本に多少書いてあります. その他には行列不等式とかその辺も多分作用素論

@yuki_migo 物理系というか私の周辺の作用素論だと, 量子力学とかその辺の具体的なハミルトニアンの解析をします. 坊ゼミではその辺の話をします

日合-柳本

上に引用した日合-柳の本はこれだ.

4 章までしか真面目に読んでいないのだが, 非常にいい本でそこまででも十分に価値がある本だ. 証明も丁寧に書いてあり, とても良い本なので紹介しておきたい.

前書きにもある通り, 作用素環関係の話題はほとんどないがその方面にいくとしても役に立つことはあるだろう. 日合先生の方は実際に作用素環もやっている. Hilbert 空間中心なのだが, 1 章では Banach 空間のこともきちんと書いてある. 関数解析の基本的な定理は全ておさえてあるので, これで関数解析の勉強もできる. その場合は付録もきちんと読む必要があるけれども. あとで書くが, この付録がまた良くできているので付録も絶対に読んでほしい.

2 章から作用素の話に入る. ここからは特に『量子力学の数学的構造』の 1 と重なる部分が増える.

「量子力学の数学的構造」との比較

上掲書よりも議論がすっきりしているので, 読みやすいと感じる人もいるだろう. ただポイントとなるスペクトル定理が『量子力学の数学的構造』と『ヒルベルト空間と線型作用素』で違う証明になっている. どちらとも味があるが, 私は『ヒルベルト空間と線型作用素』の, Riesz-Markov-Kakutani の定理を使う証明方が気に入っている. 『量子力学の数学的構造』の方は余計な道具を持ち出さないストイックな感じで, それはそれで良い. 両方勉強しておくとなおいい. あと『ヒルベルト空間と線型作用素』の方は有界作用素の functional calculus に関する議論が役に立つ. これは作用素環でも非常に役に立つ議論なので, これで慣れておくと便利だ.

日合柳の 3 章

3 章はスペクトル定理だ. 作用素論の至宝であり, 量子力学への応用上も決定的に重要なのできちんとやってほしい. 『量子力学の数学的構造』では 2 巻にまわっている Stone の定理も一緒に証明されているところがまたいい.

日合柳の 4 章

4 章はコンパクト作用素の話だ. 量子統計などで形式的に使うことはあるが, 実際にはあまり使えない. ただ, 一度はきちんとやっておくべき内容ではある. Fredholm 理論は応用上色々なところで出てくるようだが, そういうところでも使える. 超対称性とかそういうところで出てくると聞いている.

日合柳の 5-6 章

5-6 章は作用素論の進んだ話になる. あまり真面目に読んでいないので書けることはない. ただ, 今, 作用素論で研究されていることの基礎的なところに触れているようなので, そこに興味がある人は学んでおくときっと役に立つのだろう.

日合柳本の付録: とてもいい

そして付録だが, これが恐ろしくいい. Hahn-Banach, Riesz-Markov-Kakutani, Krein-Milman, Stone-Weierstass, Gelfand-Naimark の定理という, 関数解析の至宝とも言える定理が非常に丁寧に議論されている. Riesz-Markov-Kakutani の定理は汎関数が積分で書けるという一連の定理の基礎となる話であり, 証明も込めてきちんと学んでおくべきだ. 「正値超関数は測度である」という超関数論の有名な定理もこれとほぼ同じ証明だ. 他にも確率論で Brown 運動を構成するときにも使える. Krein-Milman は端点集合に関する話で, 作用素環で純粋状態の議論をするときに魂となる.

話がずれまくって『ヒルベルト空間と線型作用素』の書評になってしまったが, よい本なので関数解析の初学者にも最適なので, 興味がある人は是非参考にしてほしい本だ.

作用素論

それで作用素論だが, 微分方程式関係でも多少「作用素論の結果」として出てくることがある話がある. Sobolev 空間の埋め込み関係で埋め込み写像がコンパクト作用素になるという話があるが, それは上でも少し書いたコンパクト作用素の話になる. 微分方程式で定評のある本, Brezis の本でも Fredholm の択一定理が載っていたので, 使うことはあるのだろう. 微分方程式は不勉強なのであまり言えることはないのだが.

行列不等式

数学の作用素論で行列不等式がある, と書いたが, これは専門書がいくつかある. 和書だと最近出た本で面白そうなのがあったので紹介したい. 買うだけ買ってまだきちんと読んでいないのだが.

行列不等式は量子統計, エントロピー関係でも時々出てくる. 作用素環レベルで無限次元版があったりするのであなどれない.

量子系の作用素論

数理物理というか量子力学の作用素論だが, こちらは具体的な非有界作用素の解析をするのが中心になる. これはやはり新井先生の本を勧めるしかない.

議論は恐ろしい程丁寧で内容もしっかりしているのだが, 正直, Hilbert 空間論や関数解析の数学としての入門には向かない. 少なくとも上記 3 冊全部読めば基礎はカバーできるのだが, 関数解析として体系だった紹介はされていないので, 要領が悪い. あくまで量子力学用に特化した内容で, 量子力学のために必要なことをある程度具体的な問題を通して学ぶ本と言った方がいい.

はじめに書こうと思っていたことと大分違ってしまったが, まあいいだろう. 量子力学関係の話については, 3/24 の埼玉大でのゼミで話す予定なので興味がある方は参加されたい.

ラベル

数学, 物理, 量子力学, 量子統計, 作用素論, 作用素環, 微分方程式, 関数解析, 書評