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時期不明もしくは忘れ

Hilbert空間から始めるよく分からない数学

2021年時点

拡充して現代数学観光ツアーにまとめている. これはこれで改めていろいろ書きたい気分もある.

導入

はじめに

Twitter なりなんなりで何かいうとき, 特に初学者相手に何かまとまっているのないかな, と思っていたが, 当然ながら完璧に自分の気に入る教材はない. なのでとりあえず文章でまとめていこう, ということでちょろちょろと気に入る教材的なものをまとめていきたい. 私の数学は Hilbert 空間にはじまるので, やはりここからはじめたい. 関数解析につながるし応用上も大事で, さらに線型代数と微分積分の融合というかほぼ直接の拡張でもある. ひとまず数学, 物理, 物理系の工学関係の人に響く感じにしていきたい. ニコマス P らしく動画でもいいのだが, 動画は作るのがちょっとしんどい. さらっと書ける文章にしておいて, 適当なときに動画にしたい.

いきなり Hilbert 空間に入ってもモチベーションがなくてつらいだろうから, 数回に渡って線型代数と微分積分の関係, 無限次元線型空間の導入と物理的なモチベーションについて書きたい. Togetter の「相転移P(@phase_tr)による「量子力学を理解するために斎藤正彦『線型代数入門』を読む人が注目すべき点」 にまとめられていることをもう少し物理上の応用もまじえながら書く感じで考えている. 量子力学でもいいのだが, もう少し読者対象に幅を持たせたいので電磁気と線型代数あたりでやっていく. (線型の) 偏微分方程式の解法からネタを取ってくるので, 関係する話なら何でもいい. 適当な微分方程式とその解法で考えてくれればいい.

何かこんなところは関係ないの, とかこんなところについて知りたいとかいうのがあれば, コメントなり Twitter でリプライとばしてくるなどされたい.

Togetter の転載

私の昔のツイートまとめでもあり, ついでにこちらにもまとめておこう.

齋藤正彦, 線型代数入門について見るべき所を挙げておきたい. まずp120からが決定的に重要. 例3で関数空間(多項式空間)に内積を叩き込んでいる. 量子力学で出てくる線型空間は原則関数空間なので, 正にここを使う. ヒルベルトとか鬱陶しいのはひとまずいい.

p122 例5:ルジャンドル多項式. 多項式空間での基底としてのルジャンドルを出してきている. 関数のノルム(ベクトルの「長さ」)も出している. ルジャンドルは電磁気でも出てくる. マクスウェルは電磁場の「線型」方程式なので上手くはまってくれる

p126例7,有限フーリエ級数. フーリエは知っていると仮定するが, 正にフーリエが線型代数の枠内で議論出来る(部分もある)事を明示している. 三角関数が(適当な内積空間での)「正規直交基底」になる. これは高校の教科書にも計算問題としては書いてある

問題7. これは量子統計で使う. (平衡)状態はオブザーバブルAに対して適当な複素数を返す関数だが, これは必ず(密度)行列を使ってトレースで書けることを言っている. ただしうるさいことを言うと原則有限次元でしか使えないので, 物理としては役に立たないと言い切ってもいいのだが

p128問題8:ある種の変分とか何とか. 問題10: 色々な内積とラゲール多項式:他にもこの系で電磁気・量子力学で出てくる「~多項式」が再現される. 問題12: 双対空間:初学者にとって直接どうというのが言いづらいが, 少し進んだ話をするとそれなりに使うはず. 数学としては大事

第5章:量子力学の魂. p137例8, 数列空間:数列も線型代数の枠内で議論できる(部分がある)ということ.

p138例9. 線型常微分方程式. 先程から電磁気などそれっぽいのを挙げているが, 微分方程式論を応用先に持つことがここではっきりと分かる.

p144:スペクトル分解. 要するに対角化だが, スペクトル分解は無限次元化出来て量子力学で直接使える. 射影の値域がその固有値の固有空間で, 縮退度が固有空間の次元に対応したりとか何とか.

定理2.10:行列の極分解. 量子力学的な解釈としては行列は大体複素数と思える. 複素数ならば極形式で表現出来るか考えたくなるのが人情らしいのでそれをやってみた. 定理2.11:変分原理. 量子力学で基底エネルギーを評価するときに使う.

第7章. 行列の関数を定義するという荒業. ハミルトニアンをHとすると, その系の時間発展はU_t=e^{itH}となる. ここで行列の指数関数が出てくる. あと量子光学でコヒーレンス扱うときもこの辺が出てくる.

量子力学ではより激しく微分作用素の指数関数も出てくる:運動量作用素をp=-id/dxとしてe^{itp}が出てくる. この場合, 数学的に正確な定義は面倒だが, とりあえず指数のテイラー展開に直接代入で「納得」されたい. ついでに言うとこれは本当にテイラー展開になる.

ペロン・フロベニウスの定理. 正確に言うと別のバージョンだが, 固体物性, 磁性のモデルで使うハバードモデルの「研究」で本当に使う. 例えば田崎さんの「数学:物理を学び楽しむために」を参考にされたい. Googleのページランクでも使う定理で応用は広い.

Hilbert 空間の定義

はじめに

とりあえず Hilbert 空間自体何か, というのをまず言わないといけない気がしたので, 天下りに定義だけしておこう. 次回以降で物理のどこでどういう風に出てくるか, これがあるとどう嬉しいかというのは説明するので, 今回は辛抱してほしい. 読み飛ばして必要になったら参照, というのでも構わない.

メインターゲットに据えるのは無限次元の Hilbert 空間なのだが, 有限次元も同じくらいに大事だ. 有限次元の Hilbert 空間は実数または複素数係数の Euclid 空間, $\mathbb{R}^d$ や $\mathbb{C}^d$ だ. これをもとに無限次元まで含めた定義をしているので, それを頭において次の定義を読んでほしい.

まず内積空間からはじめよう. と思ったが, 念の為に線型空間から定義しておこう.

定義: 線型空間.

$\mathbb{F}$ を (可換) 体とする. $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ と思っておけばいい. $\mathcal{H}$ が次の条件を満たすとき, $\mathcal{H}$ を $\mathbb{F}$ 上の線型空間であるという. 以下では $\Psi, \Phi, \Theta \in \mathcal{H}$, $\alpha, \beta \in \mathbb{F}$ とする.

  1. (交換則) $\Psi + \Phi = \Phi + \Psi$.
  2. (結合則) $\Psi + (\Phi + \Theta) = (\Psi + \Phi) + \Theta$.
  3. すべての $\Psi \in \mathcal{H}$ に対し, $\Psi + 0 = \Psi$ が成り立つベクトル 0 がただ一つ存在する.
  4. すべての $\Psi \in \mathcal{H}$ に対し, $\Psi + \Psi' = 0$ が成り立つベクトル $\Psi'$ がただ一つ存在する. この $\Psi'$ を $- \Psi$ と書く.
  5. $1\Psi = \Psi$.
  6. $\alpha (\beta \Psi) = (\alpha \beta )\Psi$.
  7. $\alpha (\Psi + \Phi) = \alpha \Psi + \alpha \Phi$.
  8. $(\alpha + \beta )\Psi = \alpha \Psi + \beta \Psi$. $\blacksquare$

ややこしく色々書いてあるが, いわゆる「足し算とスカラー倍ができる」と思っておけばいい. 私もすぐ忘れる.

では内積空間を定義しよう.

定義: 内積空間.

$\mathbb{F}$ を $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とし, $\mathcal{H}$ を $\mathbb{F}$ 上の線型空間とする. $\Psi$, $\Phi \in \mathcal{H}$ に対し, 次の 4 つの性質を持ち, $\mathbb{F}$ に値を持つ 2 変数関数 $\langle \cdot, \cdot \rangle$ を $\mathcal{H}$ の内積と呼び, $\mathcal{H}$ を $\mathbb{F}$ 上の内積空間または前 Hilbert 空間と呼ぶ.

  • (H.1) (線型性) 任意の $\Psi, \Phi_1, \Phi_2 \in \mathcal{H}$ と $\alpha, \beta \in \mathbb{F}$ に対して \begin{align} \langle \Psi, \alpha \Phi_1 + \beta \Phi_2 \rangle = \alpha \langle \Psi, \Phi_1 \rangle + \beta \langle \Psi, \Phi_2 \rangle. \end{align}
  • (H.2) (対称性) 任意の $\Psi, \Phi_\in \mathcal{H}$ に対して \begin{align} \langle \Psi, \Phi \rangle = \overline{\langle \Phi, \Psi \rangle}. \end{align} ここで複素数 $\alpha$ に対し $\overline{\alpha}$ は複素共役を表す. $\mathbb{F}$ が実数の場合は複素共役は不要.
  • (H.3) (正値性) 任意の $\Psi \in \mathcal{H}$ に対して $\langle \Psi, \Psi \rangle \geq 0$.
  • (H.4) (正定値性) $\langle \Psi, \Psi \rangle = 0$ ならば $\Psi = 0_{\mathcal{H}}$. ここで $0_{\mathcal{H}}$ は $\mathcal{H}$ の零ベクトルを表す. 以下, 面倒なので $0_{\mathcal{H}}$ も 0 と書く.

これもいちいち書くと鬱陶しいが, $\mathbb{C}^d$ の内積を考えて, それが満たす性質だと思えばいい. $\mathbb{R}^d$ だと複素共役がなくなるだけだ.

ようやくだが Hilbert 空間の定義をしよう.

定義: Hilbert 空間.

内積空間 $\mathcal{H}$ がその内積から決まる距離に関して完備となるとき, $\mathcal{H}$ を Hilbert 空間という.

完備というのが出てきたが, とりあえずどうでもいい. 数学的な性質の良さをつけただけだ. 気になる向きは調べてほしいが, 実数の完備性 (連続性) の完備と同じで「任意の Cauchy 列は収束する」ということだ. あと「内積から決まる距離」というのが出てきたが, 一応これも定義しよう. どんどん面倒になっていくが, まずはノルムを定義する.

定義: (内積から決まる) ノルム

$\Vert \Psi \Vert := \sqrt{\langle \Psi, \Psi \rangle} (\geq 0)$ で定義される関数 $\Vert \cdot \Vert$ を内積から定まるノルムという.

これは要はベクトルの長さに対応する. 同じ線型空間に対して色々な「長さ」を考えることができるし, またそれを考える必要もあるので, わざわざ長さと言わずノルムと呼ぶ. 当面はあまりご利益を感じられるような話をしない予定なので意味が分からないだろうが, とりあえず言葉自体はよく使うので覚えておいてほしい.

定義: 内積から決まる距離.

$d (\Psi, \Phi) := \Vert \Psi - \Phi \Vert$ で定義される 2 変数関数 $d (\cdot, \cdot)$ をノルムから定まる距離という. 特にノルムが内積から定まるとき, この距離は内積から定まる距離という.

これも距離空間というのがあって, そこの一般論がきちんと使えますよ, というポーズのために導入しておいた言葉なので, これも今は詳細はどうでもいい.

$\mathbb{R}^d$ と $\mathbb{C}^d$ がそれぞれ実または複素係数の Hilbert 空間というのは言ったが, それ以外の例を出さないといけないだろう. 量子力学以外でも Fourier 変換やら電磁気やらでも使うのだが, とりあえず数列空間 ($\ell^2$ と書く) と Lebesgue の意味で 2 乗可積分な関数の空間 ($L^2 (\mathbb{R}^d)$ と書く) を紹介したい. ただ, もう大分長くなってきたのでこれは次回に回そう.

無限次元Hilbert空間の例

はじめに

前回は Hilbert 空間の定義をした. 具体例として $\mathbb{R}^d$ や $\mathbb{C}^d$ があるという話をしたが, (工学的) 応用上, 無限次元の空間がどうしてもほしい. 次元の定義や実際にそれに則っているかは今はやらない. 次回, 実際どういうところに出てくるかを説明するので, もう少しだけ辛抱してほしい. 先に言葉だけ出しておくと, Legendre 多項式や Laguarre 多項式といった直交多項式, Fourier 解析で出てくる.

早速例を出そう. 2 つ覚えておけばよくて, 普通それで事足りる.

例 1: 数列空間 $\ell^2$.

これはほぼ直接的な無限次元化といっていい. $f = (f (n))$, $g = (g (n)) \in \ell^2$ とする. $f (n)$ は $f_n$ と書くと数列っぽくなるが, 次のことを考えて敢えてこう書いた. 和は $n$ 番目同士を足すことで定義する. 普通のベクトルと同じだ. 内積も有限次元と同じ:ただ和を無限級数にすればいい. 一応書いておこう. \begin{align} \langle f, g \rangle := \sum_{n=0}^{\infty} \overline{f (n)} g (n). \end{align}

最後になったが無限級数が収束しないと鬱陶しいので, 収束するための条件として $\ell^2$ の元は全てノルムが有限だとする. つまり次が成り立つ. \begin{align} \Vert f \Vert := \sqrt{\langle f, f \rangle} = \sqrt{\sum_{n=0}^{\infty} |f (n)|^2} < \infty. \end{align}

このとき内積も絶対収束する. それは Cauchy-Schwarz の不等式から分かる. 色々な意味で大事なので, Cauchy-Schwarz は次回証明までつけよう.

次の例を出そう.

例 2: Lebesgue の意味で 2 乗可積分な関数全体.

あとで実際に使うので, $\Omega \subset \mathbb{R}^d$ としておこう. 開集合くらいにした方がいいのだが, うるさいことはひとまずおいておく. 数列では添字を有限から無限に変えたわけだが, こちらは離散的にぽつぽつと足していたので連続的にべったり足したと思えばいい.

内積もきちんと書いておこう. \begin{align} \langle f, g \rangle := \int_{\Omega} \overline{f (x)} g (x) \, dx. \end{align}

こちらも $\ell^2$ と同じように積分の収束性は仮定する.

最後に, 念の為 $L^2$ を考えることに物理的な意味があることも言っておこう. 量子力学でもいいし一般に振動, 波動などでもいいが, 適当な関数の (微分の) 2 乗の積分にはエネルギーという意味がある. 物理としては, $L^2$ の中で議論しようというのはエネルギーが有限な関数だけ考えよう, というメッセージと思える. 量子力学では波動関数の 2 乗には確率という意味をつけている. この辺の物理については説明しない. 適当に物理を勉強してほしい.

次回は Cauchy-Schwarz の不等式を証明しよう.

Cauchy-Schwarzの不等式

はじめに

今回は Cauchy-Schwarz の不等式の証明をする. この段階でいきなり一般的にこの不等式の証明をつけるのはどうしようかと思ったのだが, それでもつけることに意味があると思ったのは次の理由による. これから Legendre 多項式や Laguarre 多項式といった直交多項式と Hilbert 空間の関係を紹介していくが, そのときに前回紹介したのとはまた少し違う内積を使う. 少し違う場合であっても, 内積の公理を満たすのであればいつでも成り立つということを伝えたいからだ. Cauchy-Schwarz の不等式は内積の公理から直接証明できることであって, 内積の具体的な取り方にはよらないということは, 証明を見ればはっきりするから.

あとで使うということもあって, Cauchy-Schwarz の不等式の証明の前にいくつか概念や予備定理を準備しよう. 有限次元と同じことだが, 念の為きちんと定義しておきたい.

以下, $\mathcal{H}$ を Hilbert 空間とする.

定義: 規格化

零でない任意のベクトル $\Psi \in \mathcal{H}$ に対して次の単位ベクトル $\tilde{\Psi}$ を作る手続きを規格化という. \begin{align} \tilde{\Psi} := \frac{\Psi}{\Vert \Psi \Vert}. \end{align}

定義: ベクトルの直交

ベクトル $\Psi$, $\Phi \in \mathcal{H}$ が $\langle \Psi, \Phi \rangle = 0$ を満たすとき, $\Psi$ と $\Phi$ は直交するといい, $\Psi \perp \Phi$ と書く.

定理. (Pythagoras の定理)

$\Psi$, $\Phi \in \mathcal{H}$ が直交するならば \begin{align} \Vert \Psi + \Phi \Vert^2 = \Vert \Psi \Vert^2 + \Vert \Phi \Vert^{2}. \end{align}

証明

定義に従って左辺を直接計算すればいい. \begin{align} \Vert \Psi + \Phi \Vert^2 = \Vert \Psi \Vert^2 + 2 \Re \langle \Psi, \Phi \rangle+ \Vert \Phi \Vert^2. = \Vert \Psi \Vert^2 + \Vert \Phi \Vert^{2}. \end{align} ここで $\Re z$ は複素数 $z$ の実部を表す. $\blacksquare$

もちろん, これはいわゆる「三平方の定理」だ. Pythagoras の定理も内積の公理から直接出てくることが分かる. こういう感じで Cauchy-Schwarz の不等式も証明できる.

定理. (Cauchy-Schwarz の不等式)

任意の $\Psi$, $\Phi \in \mathcal{H}$ に対して \begin{align} | \langle \Psi, \Phi \rangle | \leq \Vert \Psi \Vert \, \Vert \Phi \Vert. \end{align} 上式で等号が成り立つのは $\Psi$ と $\Phi$ が一次従属のときに限る.

証明

場合分けして考える. $\Phi = 0$ のとき, 成立は自明. $\Phi \neq 0$ のとき, $\Phi' := \Phi / \Vert \Phi \Vert$ とすると, \begin{align} 0 \leq \Vert \Psi - \langle \Psi, \Phi' \rangle \Phi' \Vert = \Vert \Psi \Vert^{2} - \left| \langle \Psi, \Phi' \rangle \right|^{2}. \end{align} したがって $\left| \langle \Psi, \Phi' \rangle \right|^{2} \leq \Vert \Psi \Vert^{2}$ となり, $\Phi'$ を $\Phi$ に戻して Cauchy-Schwarz の不等式が成り立つ.

等号成立時の条件について考えよう. 等号が成り立つとき, 上の導出から $\Psi - \langle \Psi, \Phi' \rangle \Phi' = 0$ だから一次従属性が分かる. 逆, つまり一次従属なら等号が成り立つことは明らか. $\blacksquare$

このとおり, Cauchy-Schwarz の不等式は内積の性質しか使っていない. ついでに Pythagoras の定理も内積の性質から導けることが分かった. 次回はこの認識に立って色々な $L^2$ 空間, 内積とそこから出てくる直交多項式を紹介したい. 具体的には色々な線型の偏微分方程式の解法で出てくることを紹介して, それらの背後に Hilbert 空間があること, Hilbert 空間で統一的に数学的な部分を把握できることを紹介する.

やや番外編 何で線型代数で連立一次方程式扱うの?

はじめに

先日, 数学科 (志望の) 大学新入生が線型代数で連立一次方程式扱うの, あれ何なの, 何の意味あるの, という風なことを呟いていた. 究極的には「数学を学んでいくうちに分かる. むしろある程度やらないとどうしても大事だ, という感覚は掴めない」と言わざるを得ない部分がある.

ただ, そう言って初学者が持つ当然の疑問に (できる範囲で) 答えないのも問題だ. それも数学科の学生ともなれば尚更. というわけでできる範囲の返答をしてみよう.

次の二本立てとしよう.

  • 連立一次方程式.
  • 線型性という視点の獲得.

まず私の知る範囲ということでだが, 前者は応用向き, 後者は数学としても大事だが, 数学以外にとっても決定的に大事だ. 少なくとも数学科としては 2 を学ぶために取っ付きがいい題材として連立一次方程式を選んでいるというのが一番ではないかという気がする. Hilbert 空間から始めるよく分からない数学に組み込んだのは, この 2 の部分の役割の説明にもなるからだ.

当初の疑問に対して

連立一次方程式についてだが, これについて私が直接知っているのは例えば微分方程式の数値解法との関係だ. コンピュータはダイレクトに連続量を扱えない (らしい) ので, 微分方程式という連続的な対象を適当に離散化して数値計算に落とし込むようだ. 全てかどうかまでは勉強不足で知らないのだが, 少なくとも線型の方程式なら連立一次方程式に帰着する. 応用上, シミュレーションなどは大事なので, そこで微分方程式を解く必要があり, そういうところで基本的な役割を担う.

あと数学的なところでいうなら, 取っ付きの良さが挙げられるだろうか. 連立一次方程式という「簡単な」対象を題材に線型代数の基本的なところを学ぶというのは, 1 つの見識と言えないことはない. 抽象論に行く前に具体的なところで感覚を掴むことは大事だから. 連立一次方程式を解く中で色々な代数的特徴の幾何的な解釈も交じえながらやると, またもう少し視野も広がる. ただ, これだとあまり何の意味があるの, というところに答えられている気はしない.

閑話

少し話は変わるが, この辺, 私が半端に物理から数学に行ったためにあまり数学科の教育事情を知らないので困るのだが, 実際のところ数学科での数値計算やシミュレーションの教育はどうなっているのだろうか. 組み合わせ論や計算代数などコンピュータ上でも厳密な計算ができる対象については, 実際に研究でも使われることはあるようだが, 微分方程式などの近似計算としての利用の場合はどうか. 元京大で早稲田に移った西田先生 (衝撃波の専門家と聞いている) は数値計算援用証明の開拓という部分もこめて, 数年前に解析学賞をもらっていたので, この辺の教育も充実しつつあるのかもしれない. ちなみに私はといえば, 学生時代全くプログラミングはやっていなかった.

線型性という視点の獲得

2 の線型性という視点の獲得というところについて考えよう.

上で「線型の」微分方程式という話をしたが, 微分方程式という「代数」とは一見全く関係ないところにその名前が出ているところからして既にやばい. 解析学の話題の中にも線型性という視点が自然に入り込んでいる. このように数学を学ぶ上で線型性というのは基本的な見方, 言葉として決定的に重要なのだ.

例えば私の数学上の専門だが, 微分作用素 (d/dx) は線型写像 (普通線型作用素という. 物理だと線型演算子という) だし, 積分も線型写像と思える. この辺を徹底的にやろうというのが作用素論だ. 量子力学との深い関係もあり, 正にそこが私の専門になっている.

他の例

色々あって簡単に話しきれることではないのだが, 他にもいくつか例を挙げておこう. 線型代数の対象は線型空間とその上の線型写像だが, 群の表現論では群を線型写像に写し取って研究する. 群という別の代数的対象を線型代数を使って調べるということがある. 線型代数をフックにしているので, 線型代数の理解は前提としてある. また, 群が特に Lie 群になっているとき, この Lie 群を線型化した対象としての Lie 環という対象がある. 「線型化」という手法があると言ってもいい.

触れていると大変なことになるが, 群の表現論も物理への応用がある. 無限次元ユニタリ表現論は量子力学の基本と言ってもいい. これ自体は知らなくても物理は余裕でできるが, 一応使ってはいるので言葉くらいは紹介しておこう. また, 線型代数の発展として加群というのもある. 加群も色々なところで出てくる. 大学 1 年には無茶な要求だが, 線型代数は係数が体になっているのだが, 加群は係数を環にしている. これのおかげで (数学内部での) 応用の幅が大きく広がる. 第 3 回の関西すうがく徒のつどいで聞いたが, ホモロジー代数への応用ということでいうなら, 最近は画像処理などへの工学的な応用もあるようだ.

加群

加群の話はありとあらゆる意味で全く知らないのだが, 聞いたところによると射影加群はベクトルバンドルと言った幾何の話とも深い関係があったり, (D) 加群という代数解析での大事な対象が正に加群だったりする.

うまく答えられている気は全くしないのだが, まとめると, 線型代数は線型性という視点の獲得が一番大事なことで, 連立一次方程式という慣れ親しんだ題材でそれを学ぶことができるということだ.

悩むこと

定義だらけで退屈になるということだ. それはこの間, 次の本を読んでいて強く思った.

この間つどいでも反例関係の話をしたし, その他 Twitter でも位相空間の反例本に関する話もしたので, 折角だからちょっと読んでみようと思って買ったのだが, はじめが定義ばかりで閉口した. そこで翻って Hilbert 空間から始めるよく分からない数学での展開を思って反省した.

普通の数学のようにすると, 目的の定理や定義に向かってきちんと議論するためにはこういう定義や定理が必要で, そう思うとまずここから始めないと, という構成になる. それがまずいと思ってああいうタイトルで話をしようと思ったのに, 同じことをしていたら世話はない.

何かもう少し考えないといけない. どうせ試しにやっていることなので, 色々やってみたい.

過去にセミナーをやろうと思っていたときのメモ書き

はじめに

この間 TL で新入生が線型代数何ぞ的なこと言っていたのもあるので, 新入生向けに線型代数の世界を見せたい. 私が話せるのは解析学周辺しかないが, ないよりはましだろう, ということで. 大体, Hilbert 空間と線型作用素を基本に話す予定. モチベーションを高めることを目的に概論的な話で 4-5 回くらいに収めたい.

(当時の) 予定

やる予定の内容を書いておきたい. 基本的には抽象論をやる. 作用素論方面の話に行ってスペクトル定理くらいまでやりたい. 作用素環などで大事になる方向だ. 非可換幾何への展開でまた $L^2$ などとの関係が返ってくる. あと, $L^2$ のような話は具体的な話はもちろん大事だが, これはイントロで少し触れるだけにする.

イントロ

線型代数・微分方程式との関係

まずイントロでする予定の話. 線型代数は (数学内部または少なくとも物理と物理に近い工学で) 役に立つという話はされるだろうが, あまり具体的な話はされない (時間がない) だろうから, その辺の話から入る. 新入生向けなので, まず Hilbert 空間は何ぞというところを話す. 高校でもやった三角関数の積分が実は Hilbert 空間で意味を持つというところ, 微分積分と線型代数の交点というか親玉みたいな話としての関数解析で大事な空間という話をする. また, 物理でそれなりに色々な数学が出てくるが, 線型代数という視点でクリアで統一的な理解ができるから大事だよ, 的な話をする. 微分作用素, 積分作用素の線型性とかも話す必要がある.

物理または工学上大事な数学的道具立てとして大事な微分方程式があるが, 初等的な方程式なら具体的に解ける. 「線型の微分方程式」という中で既に線型性が出ているので, そういうところで解析と線型代数の関わりみたいな話がしたい. これを解く中で現われる直交多項式の話の「直交」も線型代数由来の話で, これが Hilbert 空間の話という感じで. 量子力学の数学的構造 I の 1 章の演習問題にいくつか書いてあるので, 一応参考文献として挙げておこう.

テイラー展開と作用素論

また, Taylor 展開と作用素論ということで $e^{ipx}$ の話もしよう. 簡単に説明しておくとこんな感じ. $f (x)$ を原点周りで Taylor 展開するとこうなる: \begin{align} f (x) = \sum_{n=0}^{\infty} \left ( \frac{d}{dx} \right)^n f (0). \end{align} どうでもいいが, 量子力学っぽく $p = -i d/dx$ と書こう: \begin{align} f (x) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} \left ( i p \right)^n f (0). \end{align} ここで指数関数の Taylor 展開は \begin{align} e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} x^n \end{align} となる. ここで Taylor 展開の $\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} \left ( i p \right)^n$ は $x$ に $ip$ を代入したものと同じ形をしていることに注意して次のように書き換えてみる. \begin{align} f (x) = \left ( e^{ipx}f \right) (0). \end{align} 指数関数に微分作用素を叩き込むという荒技を披露したが, 作用素論を使ってこれが正当化できます, みたいなことも言いたい. また, 作用素の指数関数 $e^{ipx}$ は Taylor 展開で定義してしまうと解析関数に対してしか定義できないが, $x$ だけずらす作用素と思えば一般の関数に対して定義できる. ここでユニタリ作用素とかそういう話になる. あと $x$ だけずらす作用素 $e^{ipx}$ の無限小生成子としての運動量という所から, 解析力学と量子力学の関係がどうの, みたいな話もちょろっと触れたい.

2 回目からの内容

以上大体イントロで話す予定のこと. 2 回目から実際にもう少し踏み込んだ話をしていく. まずは Hilbert 空間自体の話をする. 「ヒルベルト空間と線型作用素」には Banach 空間の話もあるが, 時間的に多分カットだろう. 演習問題になっている定理にも少し触れたい. 完備性の話などもあるので, 証明もポイントをおさえて触れていきたい.

引き続き 2, 3 章を力づくでやっていく. 非有界作用素はゴツ過ぎて触れられないが, スペクトル定理はやりたい. スペクトル定理は無限次元版の対角化だ. スペクトル測度や解析関数カルキュラスとか出てきてやばいのだが, むしろ色々な数学との関係を話す機会として採り上げたい. Stone の定理と量子力学の話とかも一応入れる予定.

参考文献

参考文献をまとめておこう. 1 つの展開としての作用素環方面, 特に (非可換) 幾何方面ということで, 数学会で PDF が公開されている 夏目-森吉 の「作用素環と幾何学」も紹介しておこう.

触れる予定はないが, 微分方程式関係と共に関数解析をやろうという感じの本も紹介だけはしておこう. こういう具体的な方から学ぶのが好きな人は頑張ってアタックしてみてほしい. また, こちらに興味があるという人は声をかけてほしい. トークしろと言われると困る部分はあるが, 一緒に勉強しようというなら時間さえ合えば付き合いたい. そしてプロデュースしたい.

セミナー初回の内容をもう少し詳しくした

はじめに

なかなか時間が取れなくて非常にアレなのだが, 大体話したいことはピックアップした. Twitter でこの辺から適当に呟いたのは下にまとめる.

その他, あとで動画にもする予定で, そこではさらに詳しく話す予定なので, それに合わせて今から詳しい内容も作っておきたい. 特に特殊関数周りの具体例を色々あげておきたいと思っている. 今すぐに見たいという向きもあろうから, 参考文献を軽くあげておこう.

直交多項式

全体的な話として, まだ買っていないのだが「直交多項式入門」がかなり気になっている.

とりあえず触れようと思っているのは, Legendre 多項式, Legendre 陪関数, Hermite 多項式, Laguerre 多項式, Fourier 級数のあたりだ. ちなみに今はじめて知ったのだが, Chebyshev 多項式はこの PDFによると計算機の中での応用があるらしい.

Legendre や球 Bessel についてはこの PDFが参考になるかと思う. 自分が知っている話として物理への応用について話す予定で, 正にそういう話だ. Laguerre は例えばこの PDFを検討している. 上記多項式もそうだが, Hermite についても手元にある本含め, まだ資料をあさっている.

今すぐ参考文献を知りたい向きは, 基本的には偏微分方程式を解くところで使うので, その辺で探すといい. 「物理数学 Legendre 多項式」などで探せば色々出てくる.

フーリエ解析

Fourier は熱方程式, 波動方程式, 電磁気学あたりで探すといいだろう, 数学の本ではあるが, 逆問題を通じた応用的な色彩が強い本として, 波動方程式への応用については下記の本の前者を, 熱方程式への応用については後者を参考にすると楽しいだろう.

物理への応用に関してよい参考書は今探しているところだ. 波動の本でもいいが, 電磁気 (電磁波) からの話が個人的に気に入っているというか感覚が掴みやすかったので, その辺で探すといい. もちろん, 自分の専門に近いところ, 自分にとって分かりやすいところで探すのが一番いい. いいのがあったら教えてほしい.

変分

多項式から話題を変えるが, 例えば変分というのがある. 変分原理として物理の各所で現われるが, 量子力学で基底エネルギーを出すのに使うこともある. 実係数の微分方程式への数学的応用ということでは Brezis の本が定評がある. もちろんかっちりとした数学の本だ. Hilbert 空間を中心に議論されている. 最近演習問題も追加された英語版も出版されたので, 買うならそちらを買った方がいいかもしれない. 東大の微分方程式系の研究室での学部 4 年のセミナーでも使われることがあるようなので, そのくらいきちんとした本だ.

変分

また, 何度も紹介しているが, 解析力学というか幾何学での変分ということで次の本が比較的分かりやすく, しかも面白い.

読んだことはないのだが, 物理での変分原理については次のような本もある.

作用素論: 量子力学とスペクトル

これまでの微分方程式の話とは大分変わるが, 作用素論につなげるので, 量子力学とスペクトルの話もしたいと思っている. これについては日合-柳本はもちろんのこと, 数理物理としては新井先生の本がいい.

量子力学での変分に関する数学的に精密な話も書いてある. 他には, 作用素の関数やユニタリ表現に関する話も大事だ. 作用素の関数については先日ワヘイヘイオフで詳しい話を聞かせろ, という要望を受けたので, 別途早めにまとめようと思っている.

Twitter の引用

では以下, Twitter での発言を抜き出しておく.

Hilbert 空間から始めるよく分からない数学のセミナー的なアレの原稿, いい加減作ろう. イントロでずっと固まっているが, そろそろ具体化したい. イントロだけはもう少し線型代数全般について話をしたい

まず超大雑把に言って教養でやる線型代数らしい線型代数と, 微分方程式方面と関わる方面の話と, 関数解析または作用素論的な抽象論みたいな感じの話がある的な話をする

加群への展開とか, Lie 群への展開とか数学として取り逃すところは色々出てくるが, この辺は私の数学力的に手に負えないところが出てくるので色々ある, とだけ言って逃げる. ただ表現論と Fourier と, みたいなところと量子力学とかは少し触れたい

Hilbert 空間の抽象論と作用素論的な展開と量子力学との関係的なアレはあとで詳しくやるから, 軽くこなす. まずは有限次元の方か

有限次元と言ったところで専門に近い所で見ても色々あるし困る. とりあえずハバードだとか, 直接的に研究に結び付くくらいやばい, という話はしよう

あとは数値計算でも使う的な話は入れよう. 微積分との絡みで平衡点近傍の安定性とかそんな話もしよう

脱線するが, 平衡点近傍の話, 多分力学系とかそういうところでも使う. あまりきちんと勉強していないが, 山本義隆の解析力学にも解説あるし, ゆきみさんいわく常微分方程式と解析力学にも解説あるらしい

これは適当な線型化から系の性質を調べるとかいう話で, 微分積分や力学とも深い関係がある. 機械工学とかその辺でも確か出てくるはずとかそんな話をしたい

あと標準的なコースの重要性はきちんと言わないといけない. 行列式と固有値, 固有ベクトルあたりは何をネタにしよう. 物理の各所で出てくるが. 固体物理というか連成振動とかその辺か. あと統計学での主成分分析とかそういう話か. この辺, 具体例を仕入れる必要がある

固有値, 固有ベクトルは量子力学とかその他物理でも色々展開があるという話はしよう. 物理の話ばかりしているのもどうかという気はするが, 応用はそれしか知らない無学な市民だった

Google のページランクみたいな話もしよう. 確率との関係とかエルゴードとか言っておくと響く向きには響くだろう. これ, 数値計算とも関係するかなりクールな話なので盛り込みたい

とりあえず有限次元はこんなものか. 無限次元というか微分積分への接続として平衡点近傍の話をもってくる方がいいか. あとは微分作用素と積分作用素の線型性は必ず触れる. 我が魂

@aki_room 毎回 2 時間くらいのを 4 回くらいの予定です. ヒルベルト空間とその上の作用素論を 3 回でスペクトル分解までやろうという無茶な企画. まともに回るか分かりませんが, とにかく一度やってみようという無茶企画です

http://tinyurl.com/d6ggdkr 【phasetr【参考】 http://www.ulis.ac.jp/~hiraga.yuzurugf/LA/matlab/gallery.shtml

@JosephYoiko ありがとうございます. 例を作って図示まで自分でやるのは結構手間なので助かります

関数解析的な意味での無限次元の線型代数, 何を話そう. 時間があるから適当に抜粋するが, ネタとしては色々書いてためておこう. まずはブログの方にも書いた Taylor と微分作用素の関数と並進とかその辺か

あと微分作用素の固有値展開からの Fourier か. Fourier は高校でやった三角の積分が直交関係を表す的な話は入れないといけないだろう

今回, 個別の話をやっている余裕はなかろうが Legendre やら Bessel やら, 量子力学とか電磁気周りでの微分方程式を解くときにも出てくるという話も盛り込みたい

これは個別の関数の相手もそれはそれで大事なのだが, 理屈としては線型空間論で一括処理できるのだ, という認識を持つことで数学的, 精神的な負担を減らすことを目的に, 必ず触れるようにしたい

あとアレだ, モノによっては多重極展開とか応用上の意味があったりもするから, 単なる数学ではない部分もある的なアレ. 変分とか無限次元の微分とかいう話はすると楽しいかよくわからないが, ネタとして書いておこう

イントロはこんなものか. ネタ多すぎるので確実に削るが, 他にもどこかで話すなり, 最終的に動画にするときには盛り込むからいいか. あとスペクトルの話はきちんと触れ直そう

関係ないが, 今日の math-phys の arXiv に非可換調和振動子に関する廣島先生と佐々木さんの論文が出ていた. これはこの間の埼玉大のセミナーでも少し話したが, 若山先生が最近やっているやつで数論というかゼータと関係があるやつ

以前作った動画

考えてみれば, Hubbard や Google のページランクについては動画を作ったのだった. それも紹介しておこう.

ラベル

数学, 物理, 数理物理, Hilbert 空間から始めるよく分からない数学, 線型代数, 微分積分, 作用素論, 微分方程式

Hilbert 空間メインの関数解析の初学には日合・柳の『ヒルベルト空間と線型作用素』をお勧めしたい

はじめに

イケメンエリートのよぬすさんが線型代数のテキスト選定をしていたのでちょっと話してみた.

メモ

線形代数だとすると, テキストは何にすべきなのだろう......

@Yonus_Mendox ヒルベルト空間論とか読めばいいのでは

@phasetr いえ, 初めて学ぶひとと読むための本なので...... やっぱり一周して齋藤正彦でしょうかねえ. ──ところで, ヒルベルト空間論としては何を読めばよろしいのでしょうか.

@Yonus_Mendox 日合•柳のがすっきりしていて良い本です

@phasetr ありがとうございます. 作用素かあ......

@Yonus_Mendox ヒルベルト空間自体は簡単なので一般論としてはあまりやることないのです. 具体的なソボレフがどうの, とかいうことになると微分方程式などと絡めて色々やることありますが. 分かりやすい空間だからこそその上で作用素論などがうまく展開できます

コメント

日合・柳の本というのは『ヒルベルト空間と線型作用素』だ.

Hilbert 空間だけでなく Banach 空間の議論も少しある. 関数解析の基本定理が網羅されているので, 関数解析の本としても使える. 巻末の付録が尋常ではない程充実していて, Krein-Milman の端点定理や Riesz-Markov-Kakutani なども丁寧な証明つきで書いてある. Lebesgue が分かっていないとスペクトル定理の証明で少し詰まるかもしれない. 本のはしがきでも説明されているが, あえて作用素環には踏み込まずに基礎となる作用素論について説明している感じ. ただ, ところどころ, functional calculus や非可換 $\ell^p$ としてのコンパクト作用素・ Schatten クラスなど作用素環でも大事な話は書いてある. 3 章のスペクトル定理と 4 章のコンパクト作用素, 付録をきちんと読めば元が取れる. 作用素論を専門にしようという人は作用素論の話題に特化した 5 章以降も読むといいだろう. 私は 4 章までしか読んでいないが, すっきりとまとまっていて非常によい本といえる.

Hilbert 空間と言えば我らが新井先生の『量子力学の数学的構造』があるが, 一般にはあまりお勧めしない.

I では Hilbert 空間の基礎からはじめて非有界作用素, 自己共役作用素, スペクトル分解まで議論する. II ではある程度具体的な量子系の解析と場の理論・量子統計で必要な Fock 空間の話をする. 関数解析入門にも使えるが, Banach 空間論はほとんど触れられていないのでそこについては本当に入門の入門くらいにしか使えない. 量子力学への応用に特化しているので非有界作用素の話が中心になるが, 必ずしも一般の数学でその作用素論をよく使うわけではない. 非有界作用素の議論はがかなり面倒なので, その辺を使わない人にはあまりお勧めしない. 一般の数学向けには用途には日合-柳の『ヒルベルト空間と線型作用素』がよい.

Twitter ではよく言っているが, 線型代数なら私は齋藤正彦の本が好きだ.

Amazon の書評

Amazon のこの書評は以前私が書いたものだ. こちらにも引用しておこう.

数学や他の分野の方々には申し訳ないですが, 物理の人間として書きます. 経験に照らしてみても, (非数学の) 初学者が気楽に読めるような本とはいえませんが, 非常に良い本であることは間違いありません.

(初等) 物理の中で線型性は非常に重要な概念です. まず, 数々の物理法則は微分方程式の形で書かれますが, 大抵は線型の微分方程式です. 例えば, 大抵の電磁気学の本は, 静電場を記述するクーロンの法則からはじまると思いますが, 重ね合わせの原理を用いて, 多電荷の系へ拡張し, さらに電荷が連続分布した系へと拡張していきます. このとき用いる重ね合わせの原理を数学的に述べると, 微分方程式の線型性です. また線型空間の理論は座標による表示を離れる, という幾何学的な面もありますが, これは物理法則の共変性を定式化する際に大事になってきます.

もっと本質的に線型性が出てくるのは現代物理の要たる量子力学です. 正確には量子力学で用いるのは無限次元の線型代数 (関数解析) ではありますが, 基本的な思想を学ぶには有限次元の線型代数 (本書の程度!) で十分です. 応用上も大事な正規作用素のスペクトル分解 (対角化と同値) について触れてあるのも嬉しいところです.

最後に行列の解析的な取り扱いがありますが, これには, そもそも行列の関数 (指数関数や対数関数) を定義する, という応用上も大事な議論が含まれています. たとえば, 量子光学で現れるコヒーレンスを扱うときなどに, これを知っていると, 戸惑いがなくなると思います.

かなりマニアックな話 (数理物理的観点) で恐縮ですが, Perron-Frobenius の定理の前に「工学や経済学への応用上重要」という説明がありますが, この定理は厳密統計力学への多数の応用があります. この定理には正値性保存 (または改良) 作用素の理論という無限次元版がありますが, これはたとえば, 汎関数積分 (経路積分) 法の威力を高めてくれます.

学部の 4 年にもなれば, 物理で線型代数が重要なことは身にしみて分かります. 特に量子力学においては決定的です. ある程度線型代数に慣れたら, 物理の人にはぜひともアタックしてもらいたい本です.

ラベル

数学, 数理物理, 線型代数, Hilbert 空間, 関数解析

衝撃の彌永昌吉エピソード

彌永先生に関するウルトラ格好いいツイートがあった.

私の指導教官が駒場の学生だったとき, 教養の数学を彌永昌吉さんが担当していたそうな. 板書やプリントすべてフランス語であったため, 困った学生たちが抗議したところ, 「君たちフランス語を勉強したまえ」と一言日本語で答え, そのまま平然と講義を続けたそうな.

これ, 講義自体はフランス語だったのだろうか. それが気になる.

昔はこんな無茶を言っても教育になったのだろうし, 昔の大学凄まじい. その時代のエリートしか行かない所の教育, こんな感じだったのかと衝撃を受ける. これでも人が育つのだろうから.

RIMSの小嶋先生の論文 Derivation of Born Rule from Algebraic and Statistical Axioms を眺めてみた

本文

別冊数理科学で小嶋先生が「無限量子系の物理と数学」というのを出すようだが, その小嶋先生の共著論文である.

Ojima-Okamura-Saigo, 2013, Derivation of Born Rule from Algebraic and Statistical Axiomsだ. 小嶋先生の論文, モチベーション自体は強く物理に根ざしているが中身は完全に数学で, 読むのは死ぬ程つらい. 院で数学科に進学して, 数学上の専門は作用素環で同じはずの私ですらつらいので, 大抵の物理の人には読めたものではないだろう. 小嶋先生, たいがい滅茶苦茶に一般的な状況を扱うのが特徴だ. イントロで dually とかすぐに出てくるので, またそれか感ある. 12 ページと短かいので, 興味がある向きは直接読まれたい. ここでは私のメモとして残しておく:内容にあまり責任持てないので, 専門家はきちんと自分で読んでほしい.

概要

アブストを読むと, Bornルールが出てくるような新たな作業仮説(公理系)を提案したというのが主旨だ. いつも通り代数的場の量子論の枠で議論される. セクターと因子状態(factor state)が大事という話. 因子は中心が自明な(von Neumann)環を指し, 状態はその上の特殊な線型汎関数だ.

統計的な話を何とかしようというところで, Kolmogorov 流の定式化だと, 確率変数として関数を取らなければならないからうまくない, という話が出てくる. 量子力学ではこう色々と非可換な量を扱いたいから, ということだ.

2 節では代数的場の量子論の基礎となる数学を解説する. 3 節ではセクターが出てくる. セクターは一般化された相を表す概念で, ミクロな構造のマクロな特徴付けを表す量だ. 4 節で測定の話になり, 5 節で Born のルールを導出する.

2 節: 量子確率論

2 節の題名は量子確率論だ. 数学だと可換だったのを非可換にしたときによく「量子--」と呼んだりする. 相当の濫用だと思うが, 深く気にしてはいけない. 必ずしも物理と関係しているわけではない, ということも強調しておこう. ここでは単位つきの *-環を考える. Twitter ではよく「単位元は甘え」とか言っているが, von Neumann 環なら単位元がなくても中心極大射影を単位元と思ってよくなるので, von Neumann 環の場合は普通単位元の存在を仮定する.

あと状態 (state) の定義だとか代数的確率空間の定義などをする. 代数的確率空間というのは, 単に単位元つきの -環と状態の組を指している. Riesz-Markov-Kakutani の定理から, 可換な $C^$ 環上の状態は確率測度と思える. これの非可換版を考えているというだけだ.

代数的場の量子論でどうやって物理での普通のアプローチ, つまり Hilbert 空間を基礎にした定式化を復元するか, という話が GNS 構成定理・ GNS 表現という話になる. これが定理 2.1 だ. von Neumann 環上の正規状態 (normal state) というのが出てくるが, これは Lebesgue の単調収束定理が成り立つような状態だ. 可換な設定ではないので, 状態から本当に積分論が復元できるかが分からない. もちろん復元できた方が色々とアナロジーも使えて便利なので, 復元できるような設定として von Neumann 環では大体正規状態を考える.

3 節: セクター理論

3 節でセクターの解説が始まる. quasi-equivalence (準同値) という概念が定義され, これを使って表現が disjointness を定義する. そして因子状態の準同値類としてセクターが定義される. 因子状態は単純にその状態の GNS 表現 (から作る von Neumann 環) が因子であることだ. 因子状態は準同値でないなら disjoint という強烈な定理があるので, それも併用している.

準同値を考えるのは, 代数的場の量子論が表現論を主軸に据える理論だからだ. 普通量子力学だとユニタリ同値で議論するが, 場の理論はこれでは足りない. 表現を取り替えて議論する必要がある. そこで表現をまたぐような概念として準同値が必要になる.

興味がある向きには物理的な議論として高橋先生の本の第 5 章の fixed source model を読んでほしい. ちなみに新井先生の「フォック空間と量子場」の 12 章がこれの数学的な解析で, 物理的に期待されるのと同じ現象を示す. さらについでにいうと, 13 章で議論される Nelson モデルも同じような振舞いをする. これは赤外発散が原因だ.

状態 (またはその GNS 表現) の disjointness はマクロな識別可能性を表すことになっていて, そこでセクターはマクロな分類の指標となっている. 作用素環をフルに使った文脈で相転移を議論するとこの辺が良く分かるのだろうが, 私自身は不勉強で全然分かっていない.

Subcentral measure とか色々出てくるのだが, この辺はさっぱりだ. 慣れで何となく気分的に納得してしまっているのはよくない. 中心が古典的な話に対応しているという話をしたあと, 測定の話が出てくる.

4 節: 測定

4 節の測定の話は全く分からないのでお手上げという悲しみ.

6 節

6 節で上記の「無限量子系の物理と数学」が引用されていた. 日本人以外のアクセス, 死ぬ程悪いな, という印象を受けた. 汎関数積分 (経路積分) の方の構成的場の量子論の論文で, 時々ロシア人 (多分) がロシアの教科書を引用してきたりして悲しみに包まれることがあるが, それを想起した. 何かもうさっぱり分からないが, 先日話題になった小澤先生の測定の文献も参照されていたりしたことだけメモしておこう.

代数的場の量子論で (とりあえず) 有界作用素だけ扱っていればいいのか, とかそういう疑問もあろうが, それは別の機会にやろう. Summer School 数理物理 2013 量子場の数理の予備知識みたいな感じでやれば, タイムリーでいいかもしれない.

ImiraとLinaresによる Gelfand-Mazur の定理を使った代数学の基本定理の証明

本文

An Application of the Gelfand-Mazur Theorem: the Fundamental Theorem of Algebra Revisitedという論文を見つけたので紹介する. まず Gelfand-Mazur の定理の紹介をしよう. 次のような簡明な定理だ.

係数を複素とする単位元つき Banach 環 $A$ の全ての元が可逆だとする. このとき $A$ は複素数体に等距離同型である.

実係数のときは実数と等距離同型になるようだ. Gelfand-Mazur の証明自体は例えば次の本に書いてある.

代数学の基本定理は「代数学の」と銘打っておきながら代数というより むしろ 1 変数多項式の基本定理と言った方が正確だったり, 複素解析など 証明に解析学を援用するという特徴がある.

実数の完備性を使うようなので, どこかしらで解析学の結果を使う必要はあるようだ. kyon_math と Paul_Painleve さんのツイートを引用しておこう.

@Paul_Painleve 堀田先生の「可換環と体」の第 2 部§ 2.3 には中間値の定理を一回だけ使い, あとはガロア理論に訴えるという証明がありますね. 証明のあとの注意も味わい深い. http://bit.ly/WyxSj8

@kyon_math 今度見てみます. 結局は中間値の定理なり BW の定理なり, 実数の連続性を使わないといけない. 私個人は, Winding number を使う証明が本質をみせてるような気がして好きですが, 140 字以内では紹介できそうもない.

@Paul_Painleve 私も同意します. 堀田先生のは代数的手法で行けるとこまで行き, 最後の最後に中間値の定理を使う. それにより「代数学の基本定理」の解析性がどの部分に集約されるかを問うものです. 結局「実係数の奇数次方程式は実数解を持つ」に帰着する. これはラプラスも同じ.

証明

本題に戻ろう. 3 ページしかない論文なので直接読んだ方が速いだろうが, 証明のアイデアは $\mathbb{C}[z]$ の既約多項式が 1 次式しかないことを示すことだ. 既約多項式による商環を取ると, 既約性からこれが体になる. この商環に適切なノルムを入れることができ, ここから Gelfand-Mazur で証明が終わる.

大した話ではないと言ってしまえばそれまでだが, 18-19 世紀から知られている定理であっても, 特に大事な定理は証明の改良や新たな証明が提案されることがあるということはあまり知られていない気がしたので, 紹介した次第だ.

堀田さんの本も読んでみたい.

ytb_at_twt さんから Tarski 情報のタレコミがあったので

やたべさんからの Tarski 情報があったので.

Tarski についてのお気に入りの逸話はなんですか?

タルスキは, バークレーの木造校舎の教室で講義に熱中するあまり, 紙の詰まったくずかごにタバコを投げ捨て, その結果くずかごが燃えだし, タルスキが燃えるくずかごの上でジャンプして火を消し止めたそうですが, いかにもやりそうな話ですね. 魅力的な人だったのだろうと思います.

沈みいくタイタニックの中で最後まで演奏し続けていた人達のように, バークレーの校舎が全焼しつつも校舎の中で最後まで講義をし続け聴講生もろとも全員死んだとかいう話ならもっと良かった.

微分と積分は逆の演算という説明は (応用上) よろしくないし教育上不適切

はじめに

全く関係ない事を調べていて, 微分積分に関する地獄のような回答を見つけた. 質問については知恵袋に書くなら普通にググればいいのでは, と思うのだがそれはそれとして, 質問と回答 (ベストアンサー) は次の通り.

質問

微分積分の定義を教えて下さい! あとその内容が載っているサイトなどもありましたら教えて下さい! お願いします!

解答

微分の定義は, dy/dx=lim[Δ X → 0]{y (x+ Δ X)-y (x)}/ Δ X 積分の定義は, int (dy/dx) dx=y (微分の積分は元の関数) となっています. 微分と積分は互いに逆のことを行っているので, ここさえわかれば簡単になると思います.

コメント

「教科書を読もう」という他の方の回答があったが, 質問者がどういう背景を持っているか分からないので微妙なところとはいえ, 確かにまずはそこをおさえてほしいとは思う.

しかしそれ以上に回答者がやばすぎる.

一番の問題

専門的な問題はさておき, 「高校での数学」として一番の問題は, 「微分と積分が逆」と言ってしまうと「微分が分からないと積分が分からない」という誤解を招きかねない点だ.

よく数学は積み上げ型みたいなことが言われるので、 「微分が分からなくても積分は独立にカバーできる」と強調することは大事だろう.

また全くもって嬉しい話ではないが, 最近は放射線関連で積分を使った量が出てくることがある. 積分単体での意義がここで問われるし, そこと関係が深い積分と面積の結び付きが弱くなりかねないことも大きな問題だ.

高校での積分の導入は最初確かに微分の逆 (不定積分) で出てくるが, そのちょっとあとに面積との関係が出てくる.

それもあって, 標語的なところとしてよく「微分は接線を求めること」「積分は面積を求めること」という感じで出てくる. この 2 つが逆というのは (私には) 感覚的に受け入れがたい. 接線を求める方法と面積を求める方法が逆の手続き (?) だというの, 相当無茶なのではないか, よけいな混乱を招くのではないか, というところもある.

何を言いたいのか, あまり綺麗に書き表せなかったが, 何となく雰囲気は伝わると信じておく. これについてはいわゆる文系の方や数学で挫折した方などにご意見を伺いたい.

Twitterから

Twitter での関連する kyon_math さんのコメントも引用しておこう. これこれだ.

@phasetr 「微分と積分が (ある理想的な状態で) ほとんど逆」っていうのは「微積分学の基本定理」の内容なので, やっぱり, 微分と積分には独自路線を行っていただくのが正しいのでは?

積分の方が何となく primitive な概念であるような印象はある. 実際, 積分の方はギリシャ数学の時代から, 面積や体積というフレーズで論じられて来た. 微分は Newton & Leibniz で相当新しい.

突っ込んだ話

ここからは数学的にある程度専門的な部分について考える.

微分と積分は互いに逆のことを行っているので, ここさえわかれば簡単になると思います.

これは高次元に行くとかなり面倒になる問題なので, いい説明だと思えない. もちろん Stokes の定理という大事な高次元版があるから, 高次元でも適当な条件下ではこれ以上ないほど適切で大事な指摘ではある. だがまず上に書いた問題, つまり接線と面積といったときの気分的な問題がある.

微分の逆が積分か?

その他, $f \colon \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m$ の微分の逆が「積分」と思っていいか, それで理解できるかというと相当苦しい.

多変数の扱いは (物理的・工学的) 応用上決定的に大事だが, こういうところで変な尾を引く説明という気もする. むしろこのあたりの応用を見越した話ということでいえば, 微分と積分を別個に教えた方がいいくらい.

微分積分学の基本定理

また完全に数学的な話なので (高校水準の話としては) どうでもいいのだが, こういう形で微分と積分を学んだとき, 微積分学の基本定理の意義が全く感じられないのはどうしたらいいのだろう, ということも考えた. kyon_math さんの指摘と重なるところでもある.

とりあえずの参考文献

程よい初等解析学の本を知らないのでいつも苦慮するのだが, 私が良く参照するのは杉浦光夫の『解析入門』だ. 証明が尋常ではないほど丁寧なので困ったときにはとても助かる. 逆に詳しすぎるから通読には向かない. 辞書として分からないことがあったときにあたるととても便利なので, そういう用途には積極的に勧めている.

教科書として通読するのに良い本があれば是非教えてほしい.

ラベル

数学,解析学,数学教育

気持を伝える数学教材がほしい

他はどうか分からないので何ともいえないが, 今まで数学を学んできて数学関係の (専門) 教育に必要なのは, 厳密なことを敢えて言わずに気持ちの部分だけきっちり説明する解説なのでは, という気がしているので何かそういうことしたい. ここで私がやりたいのはあくまで大学の数学に関する話だ.

これをド専門の数学者が自分の分野に対してやるのがおそらく決定的に大事. そこで「気分的にはこうなのだが, 実際にはこういう問題や例があるので, こういう部分が上手くいかないので普通の本では迂回した面倒な議論が必要 (といって詳しい本を参照) 」みたいなのが, 凄く読みたい.

自分が知っている範囲の解析学だと評価を頑張ったり, 近似の精度を上げていく部分にこそ魂があったりするので 難しいところもあるのだが, あえてそこを流して全体の気分を感じるのが大事だと, ちょっと違うところの (解析学の) 分野を勉強するとよく思うので.

幾何は結構良くある気がするが, 代数や解析ではあまり見かけない. 何か良い本をご存知の方は教えて頂ければこれ幸い.

また JosephYoiko さんから次のようなコメントを頂いたのでそれも載せておきたい. これこれだ.

大事なことですね. 8 割方は手抜き議論で大丈夫なんだけど, こういう厄介なケースもあるよと分けて議論するのは大事. 統合は後からでも出来るわけですからね. RT @phasetr: @phasetr 「気分的にはこうなのだが, 実際にはこういう問題や例があるので…」

僕は応用数学者なので, 計算機に載せる時に「手を抜いていいところ」と「真面目に考えないといけないところ」を明確にしたいと常々考えています. RT @phasetr: @JosephYoiko そこを流して全体の気分を感じるのが大事だと…

patho_logic さんの悲しみと大阪府立大学の嘉田勝先生による『連続体仮説が実数の解析的性質に与える影響』に関する PDF

はじめに

大分前の話で既に周辺情報を辿るのを断念しているのだが, 何か連続体仮説の周辺で地獄の底から湧き上がってくるタイプの話が出たようで patho_logic さんが泣いていた.

引用

連続体仮説と数学のかかわりをまとまった情報を発信する必要があるんでないかい.

@patho_logic 連続体仮説に限らず, ロジック全般について普通の数学とは無関係と思われている感じある.

@patho_logic 関係者はみんな思ってるんですが藪から蛇が出るのを恐れて言えないでいるのです. 蛙さん蛇好きですか (キラリ

@tenapi 蟾蜍「ヤマカガシ以外なら撃退できそうですが…」まずは話題を集めるところから.

@functional_yy 「お前も普通じゃなくしてやろうか? 」とか喚きつつ他分野を荒らしたいです.

@patho_logic 全然「まとまった情報」でないですが微力ながらの貢献のつもり→ http://researchmap.jp/mumjksfma-1782995/#_1782995

とりあえず patho_logic さんの悲しみは御自分で処理して頂くことにし, とりあえず嘉田先生の PDF を読んでみた. 上記リンクから情報を抜き出しておこう. 4 ページしかないし, 興味がある向きは実際に PDF を読んでみよう.

PDF 情報

タイトル 連続体仮説が実数の解析的性質に与える影響

カテゴリ 講義資料

概要 大学院講義用に作った資料です. 連続体仮説を仮定すると累次積分順序交換で値が変わる関数を構成できるという Sierpinski の結果の紹介.

またポーランド学派か, というアレだ. ひとまず耐ショック体制を取っておく.

またもや冒頭部から抜き出そう.

PDF からの引用

ZFC は伝統的な数学諸分野をすべて包摂する公理系なので, 「ZFC で真偽を決定できない」とは, すなわち「伝統的な数学の証明能力を超越した問題である」ことを意味する.

それでは, CH の真偽はどれほど「伝統的な数学」に影響を及ぼしうるだろうか. 「 CH が真であろうが偽であろうが, 伝統的な数学では手が届かないところで起こっている現象なのだから, それが伝統的な数学に影響を及ぼすとは思えない」という考えは一理ある. 本稿では, この疑問へのひとつの答として, 連続体仮説の真偽が実数の解析的性質に影響を与えるひとつの例を紹介する.

当然だがのっけから殺傷力が高い.

引用その 2

P.2

すなわち, ルベーグ測度が定まらない実数集合 (ルベーグ不可測集合) が存在する.

「非可測」ではなく「不可測」と書かれている. 何かのこだわりを感じる方の市民だ.

引用その 3

P.3

実数直線の単位閉区間 $I = [0,1]$ は実数全体の集合 $R$ と対等なので, $|I| = 2^{\aleph_0}$ である. したがって, 連続体仮説 $2^{\aleph_0} = \aleph^{1}$ は, $I$ に属する実数全体を順序型 $\omega_1$ で整列順序に並べて $I = \left{ r_{\alpha} | \alpha < \omega_1 \right}$ と表せるという主張と同値である.

ということらしい. 書き写すのが面倒なので省略するが, 次の定理 3.1 から Sierpinski の結果になる. 定理 3.2 で件の関数の存在を示している.

最後の定理 3.3. (ラスコビッチ・フリードマン・フライリンク) がまた凄かった.

基礎研究を愉しむ方法

はじめに

メルマガで次のようなコメントが来たので, それへの返答です.

物理学での使う愉しみも愉しそうなのですが、応用研究ほど役に立ちそうにないことfを愉しむ方法というか、基礎研究を愉しむ動機づけの方法があれば知りたいです。

コメントその 1

究極的な結論だけ書けば, 議論されているテーマに広義オタクとして興味が持てるかどうかです. こちらの数学・物理メルマガに登録して語学メルマガに登録していない人はたくさんいると思いますが, 興味が持てないならどうにもなりません. きちんとテーマを分けた以上, このメルマガで語学の話をされても迷惑でしょう. これと同じです. 無理に興味を持つ必要もありません. もちろん興味が持つような語り口に触れられるかという話もありますが, その語り口に反応できるかどうかは自分次第です.

コメントその 2

この間来たアンケートの内容についてもう少し書いておきます. 理工系のためのリベラルアーツと称して企画を立ち上げていろいろ勉強もしているいまの私にとって他人事ではないからです. もしあなたがこのテーマに興味がないなら, 飛ばして一足飛びにリーマン面のところに行ってしまってください.

私の場合の事例

何かというと, 例えば比較的近いとされる化学, そして生物で基礎研究に興味を持てるかと言われると私は厳しいです. 応用研究だからといって興味を持てるわけでもありません. もっと言えば神学や宗教学の基礎に興味が持てるかと言われても厳しいです. ちなみに応用神学 (実践神学) というのもありますが, これも名目上応用だからといって興味が持てるかと言われると極度に人によるでしょう.

大事な二点

このとき大事なのは次の二点だと思っています.

  • 何かしらの形で興味を持つための糸口を見つける.
  • 自分自身の興味関心の持ち方を変える.

何かしらの形で興味を持つための糸口を見つける

前者はいわゆる面白く教えてもらう方向も含みます. 他には私がいままさに理系のための総合語学・リベラルアーツ, 大人の高校と称してやっている・やろうとしている方向です. 中高生向けの文系科目への導入としていろいろな形で理系科目を使う方向です.

自分自身の興味関心の持ち方を変える

もう一つの興味の持ち方を変える方は, どちらかというと長時間にわたる活動の中での自然な変化の趣があります. 例えば研究者が研究分野を変えるとき, 工学的に技術革新が起きて従来の自分の研究が廃れてしまう外圧にさらされて無理やり他の研究をしないといけなくなったというのもありますし, もとのテーマから派生したテーマが面白くなってきたというのもあるでしょう. 私自身に関していえば, プログラミングと語学を明示的に活動に盛り込むようになったのがまさに興味関心の持ち方の変更にあたります.

自分で作ろう

一応, 私もいろいろな人に興味を持ってもらえるように, 自分なりにいろいろな切り口を用意しますが, これだとやはり他人任せにしかなりません. 自分で調べてみるか自分を変えるか, これらも試してみてください. 何にせよ大の大人が口を開けて待っているだけではいけないでしょう.

Twitterまとめ: 微分積分と線型代数からの突然の幾何学と解析力学

本文

「自然な---」「自然に---が定義できる」というのは本などでよく見かける言葉だが, 初学の段階では何がどう自然なのか全く分からないこともよくあり, 大変腹立たしい. 今回, ここ で「自然な直交座標」というので悩む若人がいたので, 図々しくも老人が出しゃばった話をまとめたい. 今見たら流れを把握せずに変なことを言っている部分があったので猛省している.

ツイート引用

自然な直交座標っていうけど逆に不自然な直交座標ってなに? 私の発想力じゃ思いつかん

@dream_taro 正規じゃない場合とか?

@zomi1202 あー, なるほど. でもそれだったら正規直交座標って書いてくれればいいのにね

@dream_taro あるいは違うかも. どういう文脈?

@zomi1202 重積分するよー, 暗黙のうちに自然な直交座標が入ってるのを仮定してるよー. って感じ

@dream_taro んん?? 座標入ってるってベクトル空間に入れる, ということを想定してるのかな??

@zomi1202 文脈みたらやっぱり正規直交座標ってことっぽいと解決した

@dream_taro @zomi1202 微妙なところですが, 普通 (1,1)/ √ 2,(1,-1)/ √ 2 みたいなのが「自然でない直交座標」ですね. むしろ (1,0),(0,1) みたいなのを指して「自然な」というのであって, それ以外が全部「不自然」ですが, 微妙な点があってアレです

@phasetr @dream_taro んーと, よく理解できてないのですけど, その"不自然"という用語は既に別の座標 (基底) が定まってる事を前提としてるのでしょうか?

@zomi1202 そうです. 既に基底を取っているところに別のを取ってくるから不自然に見える, という感じ. 基底を取り替えれば不自然だった方が自然になるので「微妙なところ」と表現しました. はじめから座標を入れていなければ出てこない話です. きちんとやると幾何の話になって大変で面白い

@phasetr 幾何というと全然分からないのですが, 微分形式の周辺のお話ですか?

@zomi1202 座標に依存しないで議論を展開するという根本的なところです. 微分法に関しては, 直接的には微分形式というよりベクトル場かと思いますが

@phasetr ふむふむ. ベクトルって早々と座標導入しちゃう本多いですけど, あえて入れずに論じるの楽しいですね. (今読んでるベクトル解析の本がちょうどそういうのでした)

@zomi1202 座標に依存したくない, という気持ちが分からないとつらいので難しいところです. 物理でも大事な話ですが

コメント

自然な直交座標系については上で書いた通りだ. 線型代数の話になる. この辺で既に微分積分と線型代数の根本的な結び付きが出てきているのだが, その辺は適宜勉強されたい.

幾何の話

それはそれとして, 座標系に依存しないで解析学を展開しようと思うと幾何学が出てくる, という話だ. 初学者にとっては出てきた結果が取った座標系に依存するかどうか, という話そのものがよく分からないと思う. 具体的に考えてみるとこういう感じだ. 3 次元の Laplacian を自然な直交座標系と極座標系で書いてみると次のようになる. \begin{align} \triangle_{\mathrm{o}} &= \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2}, \ \triangle_{\mathrm{p}} &= \frac{\partial^2}{\partial r^2} + \frac{2}{r} \frac{\partial^2}{\partial \theta^2} + \frac{\cos \theta}{r^2 \sin \theta} \frac{\partial}{\partial \theta} + \frac{1}{r^2 \sin^2 \theta} \frac{\partial^2}{\partial \phi^2} . \end{align} 引用のために添字をつけたが, 当然同じ作用素だ. 何も知らずに $\triangle_{\mathrm{o}}$ と $\triangle_{\mathrm{p}}$ を見て同じ作用素と思えるか, という話. 化け物ならいざ知らず, 普通は無理だろう. 「見かけに騙されずに同じものは同じと思いたい」という欲求が「出てきた結果が取った座標系に依存するかどうか」という問題だと思ってほしい. Laplacian の定義については Riemann 多様体上での定義を参照されたい. Riemann 多様体自体の定義を把握するだけでも死ぬ程辛いだろうから初学者にはお勧めしないが.

微分方程式

上で微分作用素の話にしたが, 当然微分方程式も関係してくる. 物理でも同じような要求は出てきていて, それが解析力学の基本的な発想にもなっている. 「見かけに騙されずに大事なことを見抜く」というのも大事だが, もう 1 つ, 面倒くさそうな (見かけの) 方程式を上手く変換していって解きやすくする, という方向もある. 変換していった先と元の方程式が同じなら簡単な方で解けばいい, となって無事に話が終わるのだが, 本当にそうやっても大丈夫か, という保証を与えるのが解析力学の要点で幾何学的に大事なことでもある.

量子力学から

詳しくは解析力学で学んでほしいが, 量子力学で簡単な例を出そう. 水素原子の Schrodinger 方程式を考える. \begin{align} H = \triangle - \frac{e}{r}. \end{align} 詳しい部分は省くが, Coulomb ポテンシャルは球対称性を持っているし, Laplacian も球対称性を持っている. (本当は考えている空間の対称性も大事だが, 今は $\mathbb{R}^3$ 全体で考えていることにしてとりあえず不問にする.) したがって球対称性を重視した座標系で書いた方が記述がすっきりする (だろうと思える). そこで Laplacian は極座標系で書いた方がいいのではないの, という発想が出てくる. これをやっても大丈夫, という保証をつけるのが解析力学・幾何学的発想だ. 解析力学は機械工学などでも大事になると聞いているので, 関係各位は頑張って勉強されたい.

本のお勧め

リスト

工学の人でも読めるような本は知らないので, 関係各位はお勧めがあれば教えてほしいのだが, とりあえず物理の理論系や数学の人向けに読んで面白い本だけは紹介しておこう. どの本だったか忘れたし内容も忘れたのだが, 坪井先生の本のどれかに, 「現代的な幾何学ではベクトル場と微分形式を概念的に分離したことが画期的な成果だ」という一文があった記憶がある. どう大事なのかいまだに全く把握できていないので分かる人は教えてほしい.

本の紹介

新井先生の本は物理を元ネタに対称性の数学を議論している. 最後に超対称性まで出てきて無茶苦茶と言えば無茶苦茶だが, かなりアドバンストな所まで扱っているとも言えるので, 読んでいて楽しい本ではなかろうか.

山本義隆本は物理の人から見た解析力学の本だが, 数学的にもある程度のレベルまできちんと書いた本だ. 多様体論をきちんと使っているので, 物理の人の多様体論入門にもいいかもしれない. はじめて解析力学を学ぶのには死ぬ程きついと思うが, 私が幾何学できなさすぎるだけかもしれない.

読んだことはないが評判はいいので深谷先生のベクトル解析と解析力学の本を入れておいた. 読んだ人は感想教えてほしい.

上で少し書いた坪井先生の本, どれだか忘れてしまったので, それっぽいのを全部挙げておいた. 前書きに書いてあったはずなのだが, 本を持っていないし近くに置いてあるところもないので確認できていない.

多様体論自体でも丁寧な本として松本先生のも挙げておこう. まだるっこしいと言えばまだるっこしいと言える. 以前宇宙賢者とも少し話したが, 実多様体論は 1 の分割だとかで技術的なところがとても面倒くさい. 複素多様体をやった方がストレートに幾何幾何したところに行ける感じはあるが, よく分からない. ただ, 複素多様体だと多変数関数論がはじめに出てきて, そこでちょっとアレ感がないでもない. あと層係数のコホモロジーも微妙にアレ, という気もする. 結局何にしろつらかった.

Riemann 多様体のいい本, よく知らないのだが, 幾何学的変分問題はかなり読みやすい本なのでこれはお勧めしておこう. Riemann 多様体の勉強にもなるだろう, と前書き的なところにも書いてあったので, Riemann 多様体の基本的なところは多分おさえてあると思っている. 変分は解析力学でも出てくるし, 変分自体, 物理でとても大事な切り口なので, 数学的にきちんとやってみたいと思ってしまった人はやってみると面白いかもしれない.

塩崎勝彦さんの還暦記念本『数楽しませんか?』が公開されているとのことなので

本文

塩崎勝彦さんの還暦記念本『数楽しませんか? 』が公開されているという情報を得た.

引用

すばらしい. 公開して下さって有難い. ご意志を大事にしたい. RT @y_bonten: 塩崎勝彦先生の還暦記念本『数楽しませんか? 』が公開されている. http://www.fdiary.net/sugaku/

上記リンクにある文章も転記しておこう.

引用

電子書籍版刊行に寄せて

夫, 塩﨑勝彦が算数・数学教育研究 (山梨) 大会へ向かう途中に亡くなったことは, まだまだしたい事があるはずなのに志半ばで倒れて無念であったろうと思いますが, 「数学に永久に到達点はないので, いつまでも志半ばのはずだよ」という子供の言葉に救われました.

この度, 私にとっては懐かしい, 夫の還暦記念の書籍「数楽しませんか? 」を, 子供の助けを借りて電子書籍版として再刊することができました. これを機により多くの方々が手にとって, 夫の仕事や人となりを知り, また思い出してくださるきっかけになればと思います.

なお, この本の内容のうち夫の著作によるもの, つまり問題の選択とその解法については, 「常に他の人達と学びを共有したい」という夫の考えに沿って, クリエイティブ・コモンズ・ライセンス「 CC BY 2.1 JP 」 の下に提供します.

皆様が, 夫の志を継いで, それぞれの道でさらに豊かな実りをもたらしてくだされば, これに勝る喜びはありません.

平成 25 年 8 月 塩﨑慶子

コメント

この方自体はじめて知った. 中身を眺めたところ, 数学の大学受験の問題を楽しく解いていこうという感じの本らしい.

しばらく読む時間を取れそうにないが, ネタのストックがあるにこしたことはないので備忘録としておきたい.

軍事と数学: とりあえず衛生と統計学とナイチンゲール

こんな呟きを発見した.

戦時数学? という本が図書館にあったことを思い出しどんなものなのか気になった. 確か出版年が WW Ⅱ前だし, 統計学を言い換えた本のような気がする. そういえば, 戦争を数学的に表現し, モデル化してこのモデルの方程式を解いて予想される戦争の結果を計算で導き出す事ができる話があったような…

あとこれとか

これこれ!? 戦時数学じゃないわ. 軍事数学 https://twitter.com/ml_hisako/status/354501229268856832/photo/1

書いてあるのは距離と時間と速さについてのグラフや弧度法についてなどなど. 軍事というだけあって乗馬兵とか戦車が具体例として使われている.

@ meldine 確率統計の本を図書館で探したら偶然見つけた w 書いてある内容は距離と速さと時間の関係についてのグラフの読み取り方だったり, 弧度法だったり, 歯車や戦車の内部の動力の構造を数学的に書いてあるものだよ! 具体例とかで戦車や騎兵隊を挙げてるあたり戦時色が濃いな〜!

分類ミスの可能性もあり中身を読まないと分からないが, 軍事といっても色々ある中, 例えば衛生の話は統計学が色々出てくる. 看護師で有名なナイチンゲールは当時の女性としては本当に異例で, 王立統計学会の初の女性会員になっている. 他にもナイチンゲールがクリミア戦争後に成し遂げた色々な業績があり, 統計学に関する業績は特に抜きん出ている. 例えばグラフを駆使した資料とその説明はナイチンゲールが初めて組織的に展開したとされている. ナイチンゲールの統計学的業績については Wikipedia を調べると色々出てくるので, 興味があればぜひ調べてみよう.

統計学を学ぶのにLebesgue積分必要なのだろうか-leeswijzer さんの呟きを眺めて

はじめに

以前の記事「Lebesgue 積分がよくわからなくて困った話を思い出した」(2013 年 4 月 7 日) に言及があったので.

引用

[欹耳袋] よく分からない数学「Lebesgue 積分がよくわからなくて困った話を思い出した」 (2013 年 4 月 7 日) http://ow.ly/suF4k ※「分からなくてもずっとやっていると自然と疑問が解消される」「昨今の風潮を見ると数学でまで効率を求める雰囲気がある」

@leeswijzer (承前) 中塚利直『応用のための確率論入門』 (2010 年 6 月, 岩波書店 http://ow.ly/suFum) にはリーマン積分ではなくルベーグ積分に慣れよう (p. 67) と書かれていた. 測度論をきっちり勉強するのは, 確率論と統計学には必須かも.

@leeswijzer (承前) しかし, どこまで突き詰めるかは別問題. かつて輪読した『 Kendall's Advanced Theory of Statistics, Volume 1: Distribution Theory 』の数学的序論 (第 1 章) の積分論には別の指針あり.

@leeswijzer (承前) このバイブルでは通常のコーシー積分を一般化したリーマン-スチュルチュス積分が多用されている. 離散変量と連続変量の双方に同一の記法が使えるからとのこと. より一般的なルベーグ積分は時系列解析のようなかぎられた場合以外は数理統計学には必要ないと.

@leeswijzer (承前) 数理統計学の基礎の部分はもちろん「数学」であることは承知している. しかし, ユーザーがどこまでそれを (苦労して) 学ぶ必要があるのかについては明快な答えがあるとは思えない. 教えるときにはいつもそのことが気にかかる.

@leeswijzer (承前) もう一歩つっこんで解説した方がいい場合でも, それによって受講生側の "死亡率" が増えるかもという主観的確率が高まるときはあえて教えない. そういうトレードオフあるいは損得の計算をそのつどする必要あり

コメント

数理統計学というと東大数理にいる吉田朋広先生しか知らないので, 上記の「数理統計学」がどの程度のものを指しているのかよく分からないのだが, ガチガチの統計の専門家ならともかく, 普通の応用時に Lebesgue なんて必要なのだろうか. 私の元記事はあくまで数学科学生に対するコメントであって, それ以外については対象としていないので. 世間的に一番数学に近いことにされている印象を受ける物理学科ですら Lebesgue いらないと思う. Lebesgue が必要なんて余程のことだろう.

集合論と測度論のハードルが高過ぎるし, そもそも他学部・他学科での取り扱いが必要な場面が想像できない. むしろやらなければいけない状況を教えてほしいくらいだ. 時系列解析の応用上, 本当に必要なのだろうか. 必要だとしたら大変だな, と単純に思う.

3 月にくらいやる予定のセミナーでは少し話すつもりだが, Lebesgue, 議論はともかく結果は非常に簡明で覚えやすい. Riemann 積分の定理, 正直言明を正確に言える定理ほとんど何もないのだが Lebesgue なら色々言える. よく使っているからというのもあるが, それ以上に実数論に対応する定理があって記憶が楽というのがある.

その他

あと何か関係していそうな連続ツイートも折角なので引用しておく.

[欹耳袋]WC 「学びの面白さの伝え方」 (2014 年 1 月 11 日) http://tinyurl.com/kcb4msj ※「多くの人は, 何が面白いのかもわからず必死に山を登り続けるようなことはしない」

@leeswijzer (承前) 「授業でいうと, 最初の数時間がすべて. 学習者が少しは前向きに席に座っているあいだに, 新しい世界の片鱗を早くチラ見せしてあげる, 自分に関係のあることなんだと感じてもらう. それが理想」– この点はワタクシ自身もいつも気をつけている.

@leeswijzer (承前) 「教育者として果たすべき役割が, 世界の入り口に近い位置で演出に力を入れることなのか, それともプロの研究者仲間として切磋琢磨することなのか」– 評価されるのはいつも後者ばかりだしね.

@leeswijzer (承前) 「前者に必要な姿勢と能力を持った人が全体的に少なくて, それが良質な教育コンテンツを世に十分に輩出できていないこと, そのことに十分な危機感を持っていない人が多い」– 教えるワザがパーソナライズされていてうまく共有されない問題.

この辺はとても気になっているところで, 現状, DVD なりセミナーなりでやっていきたいことでもある. ゆるりゆるりとやっていきたい.

追記

前提をはっきりさせなかった私が完全に悪いので反省した.

線型系の数学的処理と非線型系の数学的処理: 複素数の利用

はじめに

議長さんが次のようなことを言っていた.

交流回路とかでよくあるけど, 物理量 (というか実数値しかとらないもの) に複素数値をとることを認めて 微分方程式を立式して求解した上で改めて実部をとる, みたいなのあるけど, あれの前提となる「微分方程式が関数の実部と虚部でそれぞれなりたってる」のって線形系だけだよね, たぶん…

あとこれ.

例えば安直な例ですが, $df/dx= \sqrt{1-f^2}$ みたいな非線形微分方程式, $f=\sin x+c$ なのはいいとして右辺が必ず実数値をとるであろうことを考えると f の虚部に関して恒等的にゼロ, 以外の解がなさそうに見えるけど $\sin (ix) = i \sinh (x)$ でもいいんじゃね, とか

そしてここからはじまるやりとりをした.

やりとり

@hisen_kei あまりきちんと覚えていませんが, 非線型光学では本当にはじめから実の解だけを考えてそこで処理をしないといけないとかいう話を聞いたことがあります. Maxwell は線型ですが, 確か境界条件で非線型性が入るとかいう話だったはず

@phasetr ていうか自分で例を出してなんですが, これ左右で i 倍の差が残るような…

@hisen_kei 元の方程式, 真面目に考えていないのですが右辺が複素数を取ってはいけない理由がない ($f^2$ であって $|f|^2$ とかではない) ので, それだとまだ変な解出せるような印象

例に挙がった方程式の方は別にいいのだが, 線型の方程式に非線型の境界条件を入れるというのは数学としても面白いらしい. Rayleigh-Jeans だかでも境界条件として非線型性が入ってきて, 非線型偏微分方程式の問題として面白くなりそうだ, という話を聞いたことがある.

特に何かを主張したいということはなく, ただそう聞いただけの話だった.

千葉大の渚勝先生のコンパクト作用素に関するPDF, 非可換幾何の香りがして面白い

千葉大の渚勝先生によるコンパクト作用素に関する PDF を見つけた. 標準的な説明の中にちょっと面白い説明があったので取り上げたい.

もう少し一般化して, 有界線形作用素 $T \colon H \to H$ がコンパクトであれば, 集合 \begin{align} \left{ x \in H \colon \Vert Tx \Vert \geq \alpha \Vert x \Vert \right} \quad (\alpha > 0) \end{align} に含まれる $H$ の部分空間は有限次元である. 実際, もし無限次元であるとすると正規直交列 $\left{ x_n \right}$ がとれて, $\Vert Tx_n \Vert \geq \alpha$ となる. $x_n$ は 0 に弱収束するから, $T x_n$ は 0 に強収束することになり矛盾する.

言われてみれば当たり前だが, この集合が有限次元にあるというのは知らなかった. この直後にコンパクト作用素の代数的な性質が議論されているが, これはコンパクト作用素のなす $$-代数が有界線型作用素全体が作る $C^$ 環の中で両側 **-イデアルになっていることを表している. ちなみにコンパクト作用素は非可換幾何の定式化の中で「無限小」に対応している.

書き写すのが面倒なので省略するが, P.2 後半からの極分解の話が面白い.

$|T|$ は $T^*T$ の平方根, つまり多項式近似

これを多項式近似とみなすのが面白い. $C^*$-環は非可換連続関数環とみなせるというのが非可換幾何の基本だが, それから考えれば確かにコンパクト作用素は多項式近似のような感じになる. これも非可換 Stone-Weisrstrass とかあるのだから当たり前のことではあったが, 改めて聞くととても新鮮で面白かった.

Twitterまとめ: 有限部分体を含まない無限体があることを知る冬

Twitterでのやり取り

先日 Twitter でやり取りしたことをこちらにまとめておこう. この辺から始まる.

有限体のなかに無限体が含まれるなんてのは無理なのかなあ

@HiroMessAround どういう定義を採用しているのか分かりませんが, 私の知っている定義からすると定義からあり得ません

@hiromessaround 元々どういう問題を考えていたのでしょうか. むしろそちらをきちんと意識することが大事です

@phasetr 有限のもののなかに無限のものが包まれるようなことってあるのかなあと思ったもので・・・ 特に具体的に考えてたわけではないのですが.

@HiroMessAround HiroMessAround さんの想定とは (大幅に) 違うかもしれませんが 問題の立て方次第では類似 (?) の問題が考えられます. 例えば, 有限部分体全体がいくつあるか, という問題です. 元の体が何かによりますが, 無限個ある場合はあります

@HiroMessAround 一般にある無限集合の有限部分集合がいくつあるか, という問題も立てられます. 有限生成の問題というのも考えられます. 有限集合から無限集合を適当な意味で復元できるか, という問題で, 有限次元線型空間は基底 (有限個) から無限集合が復元できます

@HiroMessAround また逆に無限体が必ず有限体を含むか, という形の定式化も考えられます. 例えば有理数体には部分体が自分自身しかないことが証明できるので, 有限部分体を含まない無限体が存在することが分かります.

@HiroMessAround となると有限部分体を持つ無限体自体がそれ程当たり前の存在でもなくなるので, 元の問題に別の光が当たります. 何を意図してそう思ったのか私には分かりませんが, 非自明な問いも作れる話題に転換することはできるので色々考えると楽しいかもしれないということで

この辺, この間の Freudenthal の話を思い出した. 日々の経験の中から出てくる数学というか, 例を元に問題を作っていき, それを解くことで数学的な理解を深めていくという 話の参考になるかと思い, ちょっと自分でもやってみたというところだ.

これを考えていて, 代数のことが全く分かっていないことが またも明らかになったので 思わず自らの理解に浅さに落涙した. 忘れる前にいくつかメモをしておきたい.

有限部分体を持つ (無限) 体の例

$F_p$ を含む体を適当に考えればいい. $F_p$ 係数の代数関数体とか?

有限生成関係

ベクトル空間の基底とか何とか. 加群だと色々面倒なことがあるということだけ知っている. 群の生成元というラインもある.

有理数は部分体が自分自身しかないことの略証

部分体 $K$ が空でないとすれば $a \in K \setminus {0}$ がある. 体なので $1 = a / a \in K$ となる. ここから $\mathbb{Z} \in K$ が分かるので, $\mathbb{Q} \subset K$ になる.

実数は有理数以外にも非自明な部分体を持つ

$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$ とか. Galois 関係で山程作れる.

その他

他にも調べていたら色々あった. 見つけたものはメモしておこう.

それぞれ適当に面白い部分を抜いておく.

<問題 A>実数体 $\mathbb{R}$ の真部分体で, $\mathbb{R}$ と体同型となるものは存在するや否や?

No proper subfield of $\mathbb{R}$ is isomorphic to $\mathbb{R}$. Suppose that $K$ is contained in $\mathbb{R}$ and $f \colon \mathbb{R} \to K$ is an isomorphism. As each positive number is a square in $\mathbb{R}$, the map $f$ is order preserving. Also $f$ is trivial on $\mathbb{Q}$. Hence $f$ is the identity map, and $K = \mathbb{R}$.

有理数体と実数体の間にそれらとは異なる群は無いと思うんですが, あるのでしょうか? 教えてください. いいえ, とても, 数え切れないほど, たくさんありますよ. $\mathbb{Q} (\sqrt{2})$ もそうですし, まだまだ, たくさんあります.

(問題) (1) 有理整数環 $\mathbbb{Z}$ の部分環の個数を求めよ. (2) 有理数体 $\mathbb{Q}$ の部分体の個数を求めよ. (3) 有理数体 $\mathbb{Q}$ の部分環の個数を求めよ.

(解答) (1) 1 個. (2) 1 個. (3) 無限個.

俵万智の息子さんが素晴らしい洞察を見せており深い感銘を受けたことを記録する

はじめに

RT でこのように感動的なツイートが回ってきた.

また算数の問題で息子が考えこんでいる. 「416 さつの本を, 同じ数ずつ 8 箱につめます. 1 箱に何さつずつつめればよいでしょう」… 「同じ数っていってもさあ, ぶ厚いのと薄いのがあるじゃん. オレの予想だと, 入りきらない箱も出てくるな」 だから, 悩むとこ, そこじゃないって!

コメント

悩むとこはそこだ. 算数の問題をただの計算と思わず, 現実の問題として正しく対峙し, 批判的に考えている. 世間ではこういう子を育てたいのだろう. 私なら一緒になって考え込んでしまうだろう.

問題では箱の大きさは全て同じとは言っていないし, むしろスカスカで場所ばかり取って仕方ないかもしれない. その辺をきちんと考えていけば自然とロジスクティスの問題になるし, 引越しするときには子供自身の身にもふりかかる現実的な問題だ. ただ学校でいちいちやっていたらきりがないので, こういうところこそ家でカバーしていきたい.

Twitter 上ではこのように反応したのだが, この息子さん, 実にしなやかな感性を持っているし, 俵万智さんは大事に育てられたい. 将来を期待せざるを得ない.

現実的で役に立つ算数を独力で展開するこの力, 実に尊く深い感銘を受けた

俵万智, むしろこの状況を短歌にしたらいいのに, というようなことも想起した.

『天才数学者がどうの』とかいう地獄のような記事を見た数学者の反応を記録する

はじめに

日経か何かの「天才数学者がどうの」とかいう地獄の底から這い上がってような記事があったが, それに対する数学者の反応を記録しておきたい. もちろん一部界隈の話だが. とりあえず見かけた反応を引用していく (リンクはわからなくなってしまった).

引用

まじで天才数学者のこと記事にするならテレンス・タオを取材すればいいのにな.

@ken_m123 タオでなくても, 堀川穎二さんの「俺は日本で一番頭がいいと思ったら上がいた. 柏原正樹だ」程度のネタで十分だと思います. が, 堀川さん早く亡くなられましたからね. #今回は実名にする

.@Paul_Painleve こっちのほうがどうみても 100 倍は凄い話なのですが, メディアの人は興味がない?

@ken_m123 柏原さんのどこがどう凄いか, メディアの人も分からないでしょう. うーん, エスプレッソの作り方かなあ??

@Paul_Painleve たしかに記事にしにくいかも....w

@ken_m123 即位の礼の時だったかな, 自宅から RIMS まで自転車で通勤してたら途中で何回も警官に呼び止められたとかなら・・・

@Paul_Painleve そういえば, 3 月に京大に行った時に, 僕はすれ違っていたらしいのですが, まったく気がつきませんでした.....

@ken_m123 警官でも一目でアヤシイとわかるのに, ご主人さまはもう勘が鈍いんだからぁ~

@Paul_Painleve 怪しいおっさんがいるなあとは思っておりましたが.....それがまさか大数学者だとは.....スミマセン....

コメント

柏原先生, 小平先生と飯高先生とか何かその辺の対談みたいなやつで, 「レポートで何か凄まじいの出してきた学生がいたが, その学生が柏原君だった. 」, 「あまりに凄いから柏原君に優を出すのは当然として, その他の学生を優にするわけにはいかないから他の学生の成績下げちゃった」みたいな話があったように記憶している.

柏原先生, その他にも修論がいまだに引用されるとか何とかで本当にやばい. 意味が分からない. あと, 始めて RIMS の柏原先生のページで写真を見たとき, 妖怪か何かかと思った. 今探したらあった. これだ. 怖い.

「お願いですから憲法の話の時にゲーデルの名前出すのやめてください」

myfavoritescene さんが世界の悲しみを歌っていた.

数学ですら自己完結できないのに穴がないわけはなくて (そんなことはゲーデルが一番分かっていたはず), その精神を発揮してみたんだろうけど, 周囲の大人の対応がすばらしいw まあ法の精神 (と言って良いのかしらないが) を根本から認めなければ, いろんなことが法に則って出来てしまうだろう.

お願いですから憲法の話の時にゲーデルの名前出すのやめてください. @myfavoritescene

@ytb_at_twt わかりました. もうしません.

あとこれこれ.

そういえばこんなエピソードを思い出した. アメリカ合衆国憲法には論理的矛盾・欠陥があってそれを突くと独裁者が現れる可能性があるということをゲーテルは発見したらしい.

「憲法自体が"憲法違反の存在"」し #BLOGOS http://blogos.com/outline/81238/

これか http://ytb-logic.blogspot.jp/2012/08/blog-post_4.html まあ, さもありなん.

やたべさんのブログは観測していきたい.

An Introduction to Smooth Infinitesimal Analysis

はじめに

魔法少女と次のような会話を交わし, 参考文献を教わってきた.

つどい, 一人で複数個発表してもいいの

@functional_yy 集合論とロジックで制圧説

@phasetr 楽園

@functional_yy 超準解析と物理学で殴られる

@phasetr 直観主義者として smooth infinitesimal analysis を推してゆきたい

@functional_yy 参考文献教えてください

@phasetr http://www.math.cornell.edu/~oconnor/sia.pdf

@functional_yy ありがとうございます. あとで読みます

というわけで参考文献を読んでみた.

コメント

Axiom 1. 略

Furthermore, we have that $\forall x ((x \neq 0) \Longrightarrow (\exists y xy=1))$, but I don't want to call $R$ a field for a reason I'll discuss in a moment.

$R$ を体と言わない (そもそも $F$ とか $K$ と書かない) らしい. 行方を注視しよう.

Axiom 2. 略

but I don't want to call $<$ total, for a reason I'll discuss in a moment.

無限小とか出てくると色々アレなのだろう, という話なのだろうが, 割と戦慄する.

Axiom 4. がやばい. 初見, 意味が分からなかったがその後の説明を読んで戦慄. 興味がある向きは実際に P.2 をご覧頂きたい. 無論, 直観主義の話であって, 排中律が使えない (採用しない) というその辺の話だ.

Fact.

There is a form of set theory (called a local set theory, or topos logic) which has its underlying logic restricted (to a logic called intuitionistic logic) under which Axioms 1 through 4 (and also the axioms to be presented later in this paper) taken together are consistent.

topos logic, 名前だけで修羅っぽい.

2 節ラストで Axiom 1, 2 での注意も明かされる. 引用が面倒なので各自確認されたい.

Proposition 1. は全ての $f \in R^R$ で成り立つの. やばいのでは.

Proposition 3. の curve というの, 何を言っているの. 「連続関数」とかいうのは入っているの. ただの関数と思っていいのこれ. Straight の意味が分からない. P.5 で積分が出てくるが, これ定義何なの.

$D$ が抽象的にしか与えられていないが, これ, そもそも具体的に書けるのだろうか.

参考文献, Sheaves in geometry and logic とかある.

何かよく分からないがやばそうだということだけ把握し, 一旦撤退する. 微分幾何やりたい. あと超準解析と物理学読みたい.

東大数理の儀我美一先生は中学の頃からアイドルだったという貴重なお話を伺った

はじめに

昨日, 現東大数理の儀我美一先生と 中学から同級生であったという女性にお会いしたのだが, 「儀我君は中学の頃から私達のアイドルだった」という 実に感動的なお話を伺ったので積極的に共有していきたい. 知らない人に向けて書いておくと, 儀我先生は紫綬褒章を受けているし, 実際に非常に優秀な研究者だ.

本題

まず前提知識として儀我先生の身長が低いことに注意しておこう. 儀我先生は (少なくとも) 中学の頃は教室の先頭に座っていて, 授業後, 自発的に黒板消しなどをかって出ていたという. そのとき, 背が低いため上の方の字は飛び上がって消していて, 「儀我君かわいい!」と女生徒の間で アイドルのようになっていたというのだ. これには深い感銘を受けざるを得ない.

ちなみに私も集中講義だか何かで 儀我先生の講義を受けたことがあるのだが, 黒板が上下 2 枚になっている教室で, 話に夢中になりながら上の黒板を降ろそうとして, 手が届かずひょいひょいと 3 回くらい空振り, はにかみながら「背が低いもので」みたいなことを 仰っていた光景を見たことはある. 「あっかわいい」と思った. それを説明した「あ, やっぱりそう思いますか!」みたいな感じで話が盛り上がった.

講義の体験

また, 上記黒板消しのエピソードのように 昔からホスピタリティ溢れる人格者である旨, 強調されていた. これまた自分の経験からいうと, 上記の講義のとき, 非常に丁寧に準備されていて講義自体も丁寧で熱心だった.

当然微分方程式の講義だったので Poincare の不等式の話などは当然でてくる. 解析系とはいえ作用素環だったので, あまりその方面の不等式に詳しくなく, 「Poincare の不等式は皆さん知っていますよね. 知らない人はいますか」という流れになったとき, 名前くらいしか知らないので素直に知らないと手を挙げたら, 「なら最良定数のは大変ですが, 簡単に証明をつけましょう」と 証明をつけてくれたことを覚えている. 証明後「これでいいですか?」と確認までして頂けた.

あと, その講義で褒めてもらえたというか覚えていることがある. Sobolev 空間が出てきたとき, Sobolev の集合的な特徴だけ紹介して, 内積やノルムの定義をしなかったことがあった. 学部 4 年から院くらいの学生向けの講義だったし, 出席者もそのくらいは知っているだろうというということで省いたのかと思うが, 入門的な講義だったし, 知ってはいたが一応「ノルムの定義は何か」と質問した. そうしたら「いい質問ですね. 大事なことです.」とお褒めの言葉を頂いた. 大したことでもないが, ちょっと嬉しかった.

『数学の証明というのは「なにをもって正しいと言えるか」って概念を身に着けるために死ぬほど役に立つ』らしいが実感としてよく分からなかった

実感としてよく分からないのだがこういうことらしい.

数学の証明というのは「なにをもって正しいと言えるか」って概念を身に着けるために死ぬほど役に立つ. というのを, そういうのを理解してない人を見ると思う. しかし, そこが不足してる人は「なにをもって正しいと言えるか」という概念がないため「数学なんて役に立たない」っていう.

@kanju そうなんですよ, ほんとに. 「数学が役立つか」じゃなくて「数学を役立たせられるか」なのに. 数学を専攻している身としては悲しいことです.

ytb_at_twt さんの涙なしには読めないツイートが続く.

【数学の証明というのは「なにをもって正しいと言えるか」って概念を身に着けるために死ぬほど役に立つ】はずなのだが, 肝心の数学者は「この命題は数学的直観により正しい」とか言い出しやがる. 深い悲しみを感じる.

とりあえず ytb_at_twt さんに, あまり社会的にお勧めできない私のツイートスタイルが伝染している印章を受けたので, 「それ以上, いけない」ということはお伝えしていきたいが, それはそれとして.

数学の証明というのは「なにをもって正しいと言えるか」って概念を身に着けるために死ぬほど役に立つ. というのを, そういうのを理解してない人を見ると思う. しかし, そこが不足してる人は「なにをもって正しいと言えるか」という概念がないため「数学なんて役に立たない」っていう.

全体として証明の話がいつの間にか数学の話になっていてよく分からないのだが, そうなのか, という感じで全然実感が湧かない. 後半 2 行は何を言っているのか本当に分からない. 個人的な感覚としては, 数学できちんと議論するのは適当にやっていると変なことが起きかねないから, その可能性を潰すためという感じ. 物理などではある程度実験でその可能性を潰すこともできるが, 数学だとそういうのは基本無理で, しかも本当にそういう例を作れたりする. 突っ込まれて戦慄することがあるので, その恐怖感に押されてきちんと考えざるを得ないという感じ. そこで細かいところまできちんとやるのを世間では「論理的」と呼んでいるだけであって, 私個人の感覚としては恐怖感に彩られた心の叫びだ.

あと, 時々「数学は論理的に厳密な学問で…」みたいなのを見るが, 同じ人が「数学は厳密にやれるのが好き」と言っていることも良くあるから, 結局好き嫌いという感覚でしか動いていないのではないの, と思っている.

@kanju そうなんですよ, ほんとに. 「数学が役立つか」じゃなくて「数学を役立たせられるか」なのに. 数学を専攻している身としては悲しいことです.

これ, 超クリティカルに自分に跳ね返ってくると思うのだが, 大丈夫なのだろうが. 私個人としては何度も言っているし何度でも言っていくが, 数学は役に立つこともあるが, それとは一切とは無関係に私は無能で役立たずだ. 学生の頃, 「数学は役に立たない」と物理学科で何度も言われて頭に来たので, 数学が役に立つ場面というのを色々調べたりしたが, そのたび「こういうのを自分で考えついて実現させていくことこそ大事であって, 調べないと思いつかない自分, 死ぬ程無能で役立たずだし, こんなことをしている暇があるなら普通に勉強したりした方がいいのでは」, と思って陰鬱な気分になった.

数学が何の役に立つか調べると精神衛生に極めて悪いのでお勧めできない. あと, 何かをしていく上では結構大事になる社会性とかそういう面まで含めて無能すぎて, 数学を役に立たせられる方面に進むことはできなかった. 数学を役立たせられない自分, 死ぬ程無能で役立たずといつも思っている.

時々, 上の記述をさらに過激にして「数学が役に立たないというお前が役に立たない」という人もいるが, これがまた自分にクリティカルに効いてくる. 世の中, 数学を役に立てられる優秀な人が多いのか, ということでまた陰鬱な気分になる.

最後に, 数学が役に立つどうかというの, 私は心の底からどうでもいい. 大事なのは自分が数学の役に立てるかどうかであって, 何の貢献もできていないのでただひたすらに無能だというところだ.

『伊藤清の数学』がほしい: 舟木先生による『伊藤清の数学』の書評

はじめに

この間ネットをさまよっていたら, 舟木先生による『伊藤清の数学』の書評があった. これだ. 今度買おうと思うが, とりあえず舟木先生の書評で期待値を高めておきたい.

個人的に特筆すべきは冒頭部の次の記述だ.

引用

ガウス賞は「数学の応用」を対象に ICM2006 において創設された賞であるが, 先生の受賞理由として「確率解析・確率微分方程式の理論の創始, その後の数理ファイナン スや数理生物学への応用」が挙げられている. その最後の部分を引用しておく: 『stochastic analysis is a rich, important and fruitful branch of mathematics with a formidable impact to "technology, business, or simply people's everyday lives"』 ただし, ここで言う応用は, 先生ご自身の研究という訳ではない. 先生は, むしろ「私が想像もしなかった「金融の世界」において「伊藤理論が使われることが常識化した」 という報せを受けたときには, 喜びより, むしろ大きな不安に捉えられました.」 ([1], p.135) あるいは「私はこれまでの人生において, 株やデリバティヴはおろか, 銀行預金も, 定期預金は面倒なので, 普通預金しか利用したことがない「非金融国民」なのです.」 ([1], p.137) と述べられ, 応用は必ずしも本意でなかったことを表明されている.

コメント

人伝に聞いたことはあったのだが, 実際の文章が殘っているとのことなので, これだけでも本がほしくなる. 私が聞いたのは「経済戦争の道具にされて悲しい」という言葉だが, その辺を確認してみたい.

また次のような記述もあるので, 今度その文献も読んでみよう. 楽しみだ.

先生は, 数理解析研究所講究録に 3 篇執筆されている. それらは本書には収録されていないが, 現在では同研究所のウェブから簡単にダウンロードできる. 特に [2] は若い 方々に一読を勧めたい. また, 先生の追悼号として, [3] をあげておく.

物理と関数解析:LSZやら物質の安定性やら

引用

時々話題にするが物理と数学, とくに関数解析というネタについてまたやりとりしたので, 記録しておく.

ある物理については関数解析の知見が本質的だったとかそういうシーンって何かないのかな

@wr_r LSZ は弱収束が大事で数理物理が先行した, 世にも珍しい例です

@phasetr どういうことでしょう.

@wr_r 場の理論の散乱をみるには演算子の収束ではなく行列要素の収束を見ないと駄目, という話です

@phasetr なるほど, それはおもしろいですね. ちょっと調べてみたら, 相転移 P のブログで今年の 2 月 7 日に取り上げていたんですね. 他に数理物理が先攻したような話ってどんなものがありますか.

@wr_r 最近というか現代的なところではそれ以外ないという理解です. 数理物理勢しかしていないこととしては物質の安定性があるでしょうが, あとはよく分かりません

@phasetr 少なそうとは思っていたのですが, そこまででしたか……. 数理物理は今研究されてる物理の手前の数学をやっているということなのでしょうか. それと, 質問ばかりになりますが, 物質の安定性というのは例えば基底状態がちゃんと存在するかとかそういう話でしょうか.

@wr_r 私が今やっているところだと, 学部三年の量子力学てやるような話をやっています. 物質の安定性は, 多体系のハミルトニアンの基底エネルギーが粒子数で下から抑えられるかという話で, 量子論のはじまり, 電子軌道の安定性の一般版です

@phasetr なるほど〜, それでは物理の人間は数学やる前に物理やってという話になるわけですね. 物質の安定性については, 確かにそういう問題は聞きませんでした. 面白い話をどうもありがとうございます.

@wr_r 物質の安定性はとりあえず http://arxiv.org/abs/1111.0170 である程度様子が掴めます. あと http://arxiv.org/abs/math-ph/0209034 とか

@phasetr リプライに今気付きました. ありがとうございます! 時間見つけて読んでみますね.

コメント

物質の安定性については物理的にもとても大事だと思っていて, 研究したいとも思っている. 物理的にはこれ以上ないほど簡潔明瞭な上に fundamental の方の意味で基本的で本当に気にいっている問題だが, 数学面でかなりきつい. 難しい数学を使うというわけではなく, 評価のための不等式の技巧が死ぬ程きついというタイプ. 微積分しか使わないと言い切ってもいい程度ではある. こういうと Lieb や周辺の人達がこう色々と言ってくる可能性はあるが, とりあえずいいだろう. 原さんなどは納得してくれると理解している. arXiv にもあるが, Buchholz の散乱に関するレビューで LSZ の経緯とか色々書いてあった記憶がある. 興味がある向きは探して読んでみよう.

数理論理での命題の定義

自分のツイート

数理論理(?)で命題はどう定義されているのだろうか. 命題論理というときの命題の定義. 手元にある菊池誠「不完全性定理」を見たら, 「真偽が確定し得る数学的な主張」とあるのだが, これだけだと「し得る」がよくわからないのと, 索引に命題変数だとか関連用語はあってもそのものずばりがないようで, 探し方さえよくわからない. きちんとした本一冊買った方がいいと思うのだが何を買うか.

コメント

それは命題という言葉の数学内での使われ方であって数学的定義ではない. 数学と物理の関係でいうところの物理現象の側であって数理モデルの側ではない. これからそのような「命題」というものを数理モデル化して数学的に研究していくということを言っているだけです. 数理モデル化されたものは大体次のような感じで定義される.

(命題論理の場合)記号からなる可算集合(多変数多項式環でいうところの不定元の集合)$P$を固定する. $P$の元を命題変数と呼ぶ. $P$の元から始めて$\phi \land \psi$, $\phi \lor \psi$, $\lnot \phi$などの構成を繰り返して得られる文字列を様相命題論理式と呼ぶ.

物体の位置や運動という物理的な対象を数理モデル化したものとして座標や微分方程式といった数学的概念が得られるように, 数学の命題や証明といったものを数理モデル化したものが論理式や証明図という概念です. その教科書の定義もどきは数理モデル化する前の対象について語っている.

お前の敵

メモ: お前の敵さんの家庭教師録

本文

お前の敵さんツイートが面白かったので. この辺から始まる.

引用

学研のドリルの出来がとても良い (中卒なので今知った).

ほとんどの参考書は解説に枚数を使いまくってるんだけど, 成績悪い中学生に解説を読んでわからない箇所を理解するとかいう高度な学習行動取れるはずがないので, 基本事項暗記させてモリモリ問題解かせる学研のシステムは大変助かる.

成績悪い中学生教えるのほぼ始めてなのでスタンダード教材が全くわからんしそもそもスタンダード教材があるのかすらわからん.

かけ算の順序の話とか昔流行ったけど, ああいうことする教員の気持ちは本当にわかる. 交換法則小学生に理解させるのクソ難しいし一連のプロトコルとして暗記させた方が脱落者が少ない. そしてそれをインテリが批判する. 教員が死ぬ.

インテリは「暗記ではない本当の理解」みたいな教育を望むけど, 我々の眼前にはかけ算や一桁の暗算ができない子供が大量に存在し, 我々は限られた時間で彼らをなんとかしないといけないんですよ.

難しいことは君たちが私塾でやってくれ. 公教育の現場は地獄なんだ.

2 時間かけてドリルの使い方を教えた (疲れた)

問題を解く, 丸付けをする, 間違った問題に印をつける, 解説を読み答えを覚える, 間違った問題をもう一度解く. このプロセスを叩き込むのだって骨が折れるのにいきなりエヴァに乗って戦えとか無茶にもほどがある (生徒も 14 歳です).

家庭教師地獄ツイート妙に RT 伸びるけど, そんなに勉強できない子供のエピソード珍しいんですか….

コメント

私が通っていた公立の小学校・中学校もあまり学力的にはよろしくなかったのだが, こういう話あったのだろうか. 周り (の学力) にあまり興味なかったのでよく分からない. 塾的なものに行ったのも浪人中の予備校だけだし, その辺のこともよく分からない. 単純にへー, ほーと思ったので記録.

あとかけ算の話があるがあれで問題になっているのは, 交換法則を小学生に理解させることではなく, 理解している (と思しき) 子が特に順番を気にせず書いた 計算式を不正解とするところが問題にされていると認識している.

話題にしている人がピンからキリまでいるし 全体を把握しているわけでもないのでアレだが, 私の知る限りのまともな人は交換法則が理解できるかどうかは議論していないと思う. もっというなら, 交換法則自体は既に学んでいるという前提 (カリキュラムがそうなっている) で, 文章題から式を立てて計算というフェーズでの変な話が問題になっているという認識.

誰か交換法則を小学生に理解させることを問題にしている人いるのだろうか.

あとやっているのは家庭教師なのだと思ったが, そこから一足飛びに公教育を語っているのがよく分からない. 指摘されている「インテリ」陣のうち, (大学の) 教官が携わっているのもかなりの程度公教育だろうし. 人によっては本当に「私塾」 (慶應なども含めている) でやっている人もいるだろう. 言論の守備範囲, よく分からない.

算数の伝道師 お前の敵

お前の敵さんのツイートに深い感銘を受けたので忘れる前に記録する. この辺から始まるいくつかのツイートだ.

【速報】一桁の暗算ができなかった生徒, 小 1 の算数ドリルをやらせたら普通にできるようになる

いや当たり前なんだけどさ…なんで誰もこれをやらせなかったのというかさ…

俺「 2 たす 2 は? 」生徒「よん! 」俺「 3 たす 7 は? 」生徒「じゅう! 」親 (預言者を仰ぎ見るような顔でこちらを見ている)

小 1 レベルの算数ができない子にはですね, 小 1 の参考書をやらせるんですよ. するとできるようになるんですよ. 僕はせんもんかなのでくわしい.

一桁の暗算ができない生徒, 方々の塾や家庭教師を練り歩いたあげく僕に当たったらしく, そいつらは今まで何をしていたのかマジで理解に苦しむ

関係するやり取りもまとめておこう. こちらは nekohaus さんとのやり取り.

【速報】一桁の暗算ができなかった生徒, 小 1 の算数ドリルをやらせたら普通にできるようになる

@omaenoteki 大きな一歩ですぅ.

@nekohaus 人間の可能性を垣間見ました

こちらは sulaymanhakiym さんとのやり取り.

【速報】一桁の暗算ができなかった生徒, 小 1 の算数ドリルをやらせたら普通にできるようになる

@omaenoteki その彼氏は何歳ですか?

@sulaymanhakiym 聞いてないしわかんないです…いるのかな…

@omaenoteki いや彼氏ってミスター・ヒーの意味であって恋人の義ではない. 分かり難い言葉を使って済みません.

@sulaymanhakiym あぁ, 生徒が女子だったもので. 15 歳です.

@omaenoteki 我が高校の世界史教師は東大を出ているくせに「中学の時たまたま学校を休んだせいで今でも漢和辞典が使えない」などと言っていたので, 頭の良し悪しとは無関係な所謂ボタンの掛け違いということはありますよね.

@sulaymanhakiym 所謂落ちこぼれの中にどれだけそういうのが混ざってるのかと思うと暗澹たる気持ちになりますね…

あと私とのやり取り.

俺「2 たす 2 は?」生徒「よん!」俺「3 たす 7 は?」生徒「じゅう!」親 (預言者を仰ぎ見るような顔でこちらを見ている)

@omaenoteki 深い感動

@phasetr 引き続き算数の伝道を続けて行きたい所存

@omaenoteki ちょっと本当に感動したので超注目しています

@phasetr ありがとうございます. 簡単な算数程度はどの子供にも身につけて欲しいと思ってるので, 自分の能力の許す限りがんばって教えて行きたいです.

これ, 感動しない人類存在するのだろうか.

乱数の数理

美少女のちょまどさんが何やら呟いていたので.

http://chomado.ciao.jp/blog/programming/randomseed/ 初学者丸出しで恥ずかしいけど日記を書きました

@chomado 線形合同法とか疑似乱数を生成する方法とかで関数とか作ってみると入れる値の必要性が良く分るのかにゃ?

@emaxser ! なんだか高度そうな話ですね

@chomado ぜんぜん, 普通に作れちゃうので作っちゃえば良いと思います!w

@emaxser 「擬似乱数を生成する方法で関数を作る」とは, つまり rand () のようなものを自作する, ということですか?

@chomado そうそう, 線形合同法って漸化式一個だけだから簡単に関数作くれるお

@emaxser 調べてみます…ありがとうございます!

@chomado 詳しい人に聞いてみてもらいたいのですが, 「熱雑音」を利用した現実的な乱数生成法とかいうのもあるようです http://ja.wikipedia.org/wiki/熱雑音

@chomado また疑似乱数生成アルゴリズムとしてメルセンヌツイスターというのがあります http://ja.wikipedia.org/wiki/メルセンヌ・ツイスタ これにはそこそこ大変な数学を使っていますがひさこさんに聞けばきっと教えてくれるはず

@phasetr !! さすが数学にお詳しい…! ありがとうございます!

@chomado 「数学が何の役に立つ」と言われるのが本当に頭に来るので色々な役に立つ場面を調べてきたと言うアレです. 以前受験生にページランクの話をしたら「私は Google のページなんて使わない」と恐ろしく愚かな返事をもらって「あっこんなの調べても意味なかったのか」と気づきました

@phasetr かなしみ

@ka9e これが社会です

@chomado 逆に, seed を保存しとけば, 何度も同じ乱数を得られますね. また, seed がバレたら, 乱数じゃんけん必勝プログラムを作られる可能性もあります.

@dempacat !! たしかに! それはとても興味深いです!! ありがとうございます!

ひさこさんにぶっこんでおいたので後でメルセンヌ・ツイスター教えてもらおう.

統計科学のための電子図書システム

こんなツイートを見つけた.

"統計科学のための電子図書システム" http://ebsa.ism.ac.jp/ 絶版になった統計関連の書籍を電子化し, 誰でも閲覧可能にしたもの. マジかよ…有り難すぎる…

以前動画を作るためもあって, 統計学の本はいくつか買ったし当面は必要にはならなさそうだが, そのうち何かのお世話になるかもしれないので, メモっておく.

また, ここ に前に作った統計動画へのリンクもあるので, 御興味のある方は参考にされたい.

$X,Y$がHausdorffで$f \colon X \to Y$が連続な全単射のとき$f$は同相

本文

「$X$, $Y$ を Hausdorff な位相空間とし, $f \colon X \to Y$ を連続な全単射とする. このとき $f$ が同相になる」という命題があるが, 証明を忘れてしまった. $X$ がコンパクトならすぐ分かるが, このコンパクト性は必要なのだろうか, というしょうもないところではまりまくっている方の市民だった. なさそうなら反例を自分で作れ, という話なのだが.

とりあえず, 備忘録としてコンパクトのときの証明はつけておこう: 逆写像が連続であることを言えばいい. $A \subset X$ を $X$ の閉集合とすると, $X$ がコンパクトなので $A$ もコンパクト. Hausdorff 空間では連続写像によるコンパクト集合の像はコンパクトなので, $(f^{-1})^{-1} (A) = f (A)$ はコンパクトになる. $Y$ は Hausdorff なので $f (A)$ も閉集合になる.

これ, $Y$ の方の Hausdorff 性もやはり必要なのだろうか. 位相空間論弱者な方の市民だったのでつらみ高まる.

追記

しゅそくさんから反例があることを教えて頂いた. 参考ページはここ. 転記しておこう.

$X$ を位相空間とし, $f \colon X \to X$ を連続全単射とします. また, 両方の $X$ には同じ位相が入っているものとします. このとき $f^{-1}$ は連続になるでしょうか? 何となく反例がありそうだ, との予想が立っていますが, どうでしょうか?

二元以上含む集合 $A$ の整数で添字付けられた可算個のコピー $A_n$ たちを考え, 負の $n$ に対しては $A_n$ に離散位相を, 非負の $n$ に対しては $A_n$ に密着位相を入れて, $X$ を $A_n$ たちの直和とする. $f \colon X \to X$ を $A_n$ から $A_{n+1}$ への恒等写像たちをつなぎあわせてできる写像とすれば, $f$ は全単射連続写像ですが $f^{-1}$ は連続ではありません.

これは上手い反例ですね ! 他の反例も見てみたいので引き続き回答を募集したいと思います.

K.George さんの例を少し変更すると Hausdorff 空間で反例が作れるようです. $g : A \rightarrow B$ を Hausdorff 空間間の全単射連続写像で $f^{-1}$ が連続でないものとします. (たとえば $g : [0,1) \rightarrow \Bbb{R}/\Bbb{Z}, g (x)=[x]$.) $A_n (n \in \Bbb{N})$ を \begin{align} A_n=\left{ \begin{array}{lr} A & (n \leq 0) \ B & (n \geq 1) \end{array} \right. \end{align} と定め K.George さんと同じように $X$ を $A_n$ たちの直和とし $f \colon X \rightarrow X$ を $f (A_n)=A_{n+1}$ で \begin{align} f|A_n= \left{ \begin{array}{cc} id_A & n \leq -1 \ g & n=0 \ id_B & n \geq 1 \end{array} \right. \end{align} となるものとして定めればいいです.

やはり K.George さんの例を少し変更すると compact 空間で反例が作れるようです. compact かつ Hausdorff なら同相になりますが, このどちらの条件もはずせないということのようです.

K.George さんの例で特に $A$ を有限集合と取ります. 今度は直和でなく直積 $Y=\prod_{n=-\infty}^{\infty}A_n$ を考え $h : Y \rightarrow Y$ を $h ({a_n}{n=-\infty}^\infty) = {a^\infty$ と定めます. すると $Y$ は compact で $h$ は全単射かつ連続ですが $h^{-1}$ は連続ではありません.}}_{n=-\infty

できるだけ簡単な平面集合ということで考えてみました. $X={(x,y)\,|\, y \geq 0 \,\, \mathrm{or}\,\,y<x}$ を考えると, 全単射となる連続な $f : X \rightarrow X$ で, $f^{-1}$ が連続でないものが, 以下のようにして作れるようです. $X$ は位相的には境界の一部を含む円板です. 基本的には, やはり K.George さんの例の焼き直しです. \begin{align} g (x)=\left{ \begin{array}{ll} 0 & (x \geq 0) \ x & (x<0) \end{array} \right. \end{align} として \begin{align} f (x,y)=\left{ \begin{array}{ll} (x+1,y) & (y \geq 0) \ (x+1,y+g (x+1)-g (x)) & (y<0) \end{array} \right. \end{align} と定めればいいです. $f$ は, $x$ 軸を境と見てファスナーを少し閉じる写像となっています.

位相空間の闇は深い.

さらに追記

Twitter で呟いたところ, 続々と反例とその作り方が集まりつつある. 「このくらいも自分で気付かないのか」という点で死ぬ程恥ずかしいが, それはそれとして有り難い限りだ.

こいずみさんからのご意見はこちら.

@phasetr 大体の Hausdorff 空間 $X$ に対して id:($X$ に離散位相を入れたもの) $\to X$ は同相でない連続全単射なのでは……

@koizumi_fifty !!! 死にたい!!!

@phasetr (ごめんなさい)

@koizumi_fifty 死ぬほど恥ずかしいですが, 下手に指導教官の前とかで無くてよかったと積極的に前向きに捉えて今後の人生を生きていこうと思います

山元さんからのご意見はこちら

@koizumi_fifty @phasetr ついでに (?) 大体の compact 空間 $X$ に対して id: $X \to$ ($X$ に密着位相を入れたもの) は compact 集合間の同相でない連続全単射

MarriageTheorem さんからのご意見はこちら.

@phasetr 既出かもしれないと思いますが, この手の命題については $X$ に離散位相を入れたり $Y$ に密着位相を入れたりする (後者は表題とは無関係ですが) と色々と捗ることが多いです.

さらに追記: 本サイトのコメント

普通の空間だと$[0,1)$の両側くっつけて$S^1$にするのが一番簡単ではないでしょうか

「はるか彼方からの光芒を信じ, 膨大な計算を遂行し尽したときに初めて地平が見えてくるようなハードな解析は解析学の真骨頂であろう」

本文

格好いい.

ここで高橋陽一郎氏によるクッソかっこいいメッセージをお読みください http://mathsoc.jp/publication/tushin/1204/takahashi12-4.pdf

遥かなるハードアナリシスに対する憧憬を謳っている. 皆, とにかく上記 PDF を読むように. いくつかウルトラ格好いい文章を引用しておこう.

はるか彼方からの光芒を信じ, 膨大な計算を遂行し尽したときに初めて地平が見えてくるようなハードな解析は解析学の真骨頂であろう. ハード・アナライザーたちの数ヶ月からときには数年に及び, 岩に穴を穿つような計算を続行するその強靱な精神力と体力には畏敬の念を覚える. 不幸にしてその途上で力尽き果てた人もいた. 畏敬とともに深い哀悼の念を表する.

しかし, 例えば, モーメントの評価や相関関数の評価などのようなわずかな手掛りを頼りに必ず道が拓けるとの信念のもと, 恐ろしいほどのハードな計算を遂行し切って, 数学に新たな地平を切り拓くハードな解析はやはり解析学の真骨頂である.

どれだけハードアナリシス格好いいの, という感じ.

ここで出てくる T. Hara は九大の腹隆さんで, 田崎さんの共同研究者というか知人というか大学時代の友人的なアレだ. 田崎さん, 原さんともに私が所属している分野, 厳密統計力学・構成的場の量子論の先達だ.

この間ブログにもまとめたが, 原さんは 2013 年の Summer School 数理物理で講師になっていて, そのときの話で提出した D 論は 500 ページ, 証明の細部まで書いた分は 2000 ページになったと言っていた.

今の私としては, ハードでもソフトでも何でもいいから, とにかくきちんと論文を書いていくことを目標にしたい.

「動く特異点を持たない方程式」がなぜ大事なのか

本文

Paul の『「動く特異点を持たない方程式」がなぜ大事なのか』に関するツイートを dif_engine さんがまとめていた. 遷移しなくても見られるよう, 引用しておく.

引用

そうか, 数式の意味は作者にあるわけではなく, 鑑賞者にまかされているのか.

.@kyon_math 私も, 動く分岐点を持たない方程式を分類したと思ったら, フックスの子倅が「モノドロミ保存変形だよー」と言い出してびっくりしました. リハルトが P6 見つけたときは, こっちは最初の 3 つしか見つけてなくて, 冷や汗かきました.

動く分岐点を持たない方程式を分類するモチベがわからなくて入り口に行かなかった人生だった.

動く分岐点を持たない方程式がなぜ重要か, パンルヴェ本人による連ツイをはじめます.

遡ると, Briot^Bouquet の楕円函数の特徴づけになるでしょう (1856). F を有理函数として, 加法公式 f (u+v)=F (f (u),f (v)) を持つ函数 f (u) は何か? (続く

続 2) BB の答えは「有理函数・指数函数・楕円函数に限る」です (竹内端三・楕円函数など参照) が, 加法公式があれば f'(u)=G (f (u)) という一階自励系の解でもあり, 加法公式を持てば, 動く分岐点がないことは自明です. (続く

続 3) BB の定理は「 G を有理函数として 1 階 ODE f'(u)=G (f (u)) が動く分岐点を持たないなら, 解は有理函数・指数函数・楕円函数に限る」という形にもなります. では, 自励系ではなく一般の ODE にしたらどうか? この問題は 1870 年頃に Fuchs と Poincare が考えた

続 4) F-P の定理「一階微分方程式 F (u,f (u),f'(u))=0 が動く分岐点を持たなければ, リッカチか楕円函数か初等函数で解ける」. 一般の点 u に対して F_u (f (u),f'(u))=F (u,f (u),f'(u)) とおくと, リーマン面 F_u (x,y)=0 の種数は一定.

続 5) F_u (x,y)=0 の種数が 0 ならリッカチ, 1 なら楕円函数, 種数 2 以上でも, 初等函数で解ける場合は, 動く特異点を持たない. この証明は易しくはないが, 古典的には Forsyth の 6 巻本に書いてある. なお, 一階方程式は動く真性特異点を持たないことを示したのが私の学位論文.

続 6) 1 階の次は 2 階だということになりますが, ピカールは 1889 年に今でいう第 6 パンルヴェ方程式の特殊な場合「ピカールの解」を楕円曲線の不完全周期の満たす微分方程式として導出しています. 同年, パンルヴェ性を可積分系に最初に適用した「コワレフスカヤのコマ」の論文も出た.

続 7) ということで, 1890 年ごろは「動く分岐点を持たない 2 階方程式の研究」をしようという動きは, 方程式論からも, 剛体の運動方程式の可積分性 (第一積分の発見) からも, まだ代数曲面の周期という観点からも起こっており, 自然な問題意識であった.

続 8) さらに三体問題で, 三体同時衝突の場合は衝突時間で代数的特異点になる (私の結果, のちに Sundman が拡張) ことからも, すでにパンルヴェ性と可積分性の関連は意識されており, そういう流れの中で 1898 年に私が最初の (間違った) 分類定理を出した. これは 1906 年には修正された.

続 8) というわけで, 現代の皆さんは忘れてしまったかもしれませんが, 「動く分岐点を持たない方程式」は 19 世紀後半には, 数学全体の中でも決して特殊な問題ではありませんでした. 1905 年の R.Fuchs のモノドロミ保存変形との関係ありますが, 可積分系や周期積分とも関係します (終)

「私」というのがどの「私」なのか時々判然とせず非常にややこしい方の Paul だった.

Twitterまとめ: 抽象的な内積の定義のモチベーション

Twitterでのやり取り

内積について少しやりとりをしたのでまとめておきたい. この辺からはじまる.

内積の定義で複素共役を取ったら順序が入れ替わる, みたいなやつなんで要請されるんですか

こーしーしゅわるつ, 三角不等式が成り立つために必要とか?

@wa_ta_si_ コーシー・シュワルツをどう思うかによりますが, ||のように絶対値をつけるなら コーシー・シュワルツも三角不等式も複素共役は必要ありません. 内積の片方に複素共役をつけるのは≧ 0 にしたいからです. 同じベクトルの内積をベクトルの長さにしたいので

@phasetr C^n の場合にベクトルの長さを定義できるように内積を考えると一方を複素共役にすることになる. そうすると R^n の内積で=なのが C^n では=*になる. それを一般の内積の定義に要請するということなんですね…. ありがとうございます

@wa_ta_si_ 変なこと書いた気がするので念のため言っておくと, 三角不等式と内積の複素共役は関係ありません. 内積から長さを定義したいと思えば確かに関係はあるのですが, 三角不等式自体は長さに関係する話であって, 一応内積とは別です

内積というやつがわからなくなってきて泣いてる

まず, 内積というのは距離とか直交とかを定義するために導入する. だから少なくとも正定値性は必要として, まあ線型性も必要だろう. 実数の場合なら対称性も必須か. 複素数ならそれがエルミート対称性になるのも自然?

コメント

内積はベクトルの長さと 2 つのベクトルがなす角度を定義するために使う. 係数体が複素数のときに長さを決めたい場合, $\langle a, a \rangle = \Vert a \Vert^2$ にしたいので, 実数では必要なかった複素共役をつける. こうすると一般に内積の値が複素数になる. 複素数でも $\cos \theta = \langle a, b \rangle / \Vert a \Vert \cdot \Vert b \Vert$ として角度は定義できるが, 三角関数の角度が複素数になってしまい, 実数のときと同じように「 2 つのベクトルがなす角度」というのを考えるのは難しくはなる. ただ直交というだけなら内積 0 と言えばいいので直交性だけはきちんと定義できるし, 意味がある.

正定値性と半正定値性

正定値性だが, 時々半正定値の内積を考えることはある. そういう場合でも半正定値内積の値が 0 になるベクトル全体で商空間を取ってしまえば 正定値内積を考えることはできるので, 普通はこの処理をするだろう. 作用素環での GNS 構成定理では実際にこういう処理をして内積空間を作る.

不定値内積

あともう少しいえば, 不定値の内積を使うこともある. 物理でいうと相対論が関係するところだ. 対応する数学としては Lorenz 多様体とかそんな話になる. 実のときの対称性, 複素のときのエルミート性については, 一番単純なユークリッド空間での内積がこの性質を持っていて そこをモデルにしているから, というのが答えだろう.

何にせよ, 具体的な話を抽象化したその先で得られた結論だけを学ぶ形になってしまうので, 初学者にとってはそう簡単な話ではない. 誰かの何かの参考になるかと思い, ここに記録しておく.

常微分方程式論の Picard-Lindelof の定理

はじめに

常微分方程式についてたんじぇさんとやりとりした内容を記録しておきたい.

引用

Picard-Lindelof の定理ってリプシッツ連続性を仮定してるけど, この条件外したときに解が一意に定まらない例とか解が存在しない例ってどんなかなーとゆるふわに考えてる

@f_tangent 教えてください !

@alg_d 分からないから考えてるんです

@f_tangent 早く考えろ

@alg_d 数学ビーム

@f_tangent ありがとうございます ! ありがとうございます !

@f_tangent 余計なお世話かもしんないけど, これに確か解がユニークでない例が載ってた◎ http://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/400006875X

@matsumoring ありがとうございます! 近日中に見てみます!

@f_tangent 今手元にないのでどのページか分からないのですが, http://www.amazon.co.jp/Introductory-Analysis-Dover-Books-Mathematics/dp/0486612260 の定理が証明されている所のそばに反例があったような記憶があります

@phasetr ありがとうございます! 近日中に確認します.

@f_tangent 今, ちょっと本を確認したら見当たりませんでした. 何かの本で見た覚えはあるのですが. 少し検索したら http://books.google.co.jp/books?id=Roncfs7mozAC&pg=PA11&lpg=PA11&dq=picard+theorem+counter+example&source=bl&ots=9UOg_GLB2D&sig=ZFz9Fyz6I4xpFpbu-iEtuJXRXHs&hl=ja&sa=X&ei=E4ZqUomOFqPiiwL7j4CoBQ&ved=0CFUQ6AEwBA#v=onepage&q=picard%20theorem%20counter%20example&f=false というので局所解はあっても大域解が無い例というのが書いてありました

@f_tangent あとついでにいうと, $C^1$ 級の関数は必ず局所リプシッツになるので, それについて局所解は必ずあることになります. どんな例を作りたいかによりますが, 自分で例を作るなら本当に微分出来ない関数から探してこないとあまり嬉しいことができない可能性があります

@phasetr 結構アレな反例になりそうですね...自分で考えてみます.

@f_tangent $x''(t)=x^{2/3}$ ですか?

@ano_KTOK_ 2 階だとまだ扱ってないのでよく分からないのですが, 右辺がリプシッツ連続でないので解の一意性は保証されなそうですね

@f_tangent ごめん, $x'(t)=x^{2/3},x (0)=0$ の間違えやw この時, $x (t)=t^3,x (t)=0$ が解になる w

@ano_KTOK_ 追記ですが, お身体は大丈夫なのですか...

@ano_KTOK_ あ, 本当ですね, ありがとうございます. 多分初めてこういうの見ました

@f_tangent いま w ちょうどご飯食い終わって, TL みたら面白そうなこと書いていたのでつぶやいてみた w マシにはなったが, 頭はクラクラしている w やることやったらもう寝る w

@ano_KTOK_ 善導はとてもありがたいです. お身体にもお気をつけください...

@phasetr @f_tangent $y'=2 \sqrt{y}$ は連続関数 $f (t,y)=2 \sqrt{y}$ に対する正規型一階常微分方程式ですが, $y_1 (t)=0$ は初期条件 $y (c)=0$ の解で, $t<c$ で $y_2 (t)=0, t \geq c$ で $y_2 (t)=(t-c)^2$ も同じ初期条件での解です.

@derived_kai @phasetr 意外とあるもんですね...参考にさせていただきます

確か上で「見た覚えがある」書いた例では, この辺のルートを使っていたような覚えがある. 自分で例が作れないというのも情けない限りだが.

記事紹介, みずほ情報総研: 見直される数学

はじめに

みずほ総研の【見直される数学】とかいうレポートがあるらしい.

みずほ情報総研:見直される数学 http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2014/0218.html?rt_bn=rss

最初を少しだけ引用しておく

引用

数学は美しい.

最近, 関数標本 (*1) なるものを購入し, 我が家に飾ってあるのだが, 見るほどに, なるほど美しいと思わせる. 標本にしたくなったのも頷ける. 江戸時代には, 美しい図形を扱った問題が神社に奉納されるなど, 数学が神への感謝のしるしとしても用いられていた. しかし, 役に立たない, つまらない, 嫌い, と思われる方もいるかもしれない. そこで, 本稿では, 数学に対する先入観を捨てていただくために, 今見直されつつある数学の面白い応用例を紹介する. そして, 少しでも興味を持っていただければと思う.

応用例だすと本当に面白いと思ってもらえるのだろうか. そう思う人がいるらしいというのは知っているが.

駒場幾何学的表現論と量子可積分系のセミナー

本文

駒場幾何学的表現論と量子可積分系のセミナーが定期的に開かれているらしい.

駒場幾何学的表現論と量子可積分系のセミナー

セミナーの目的, 対象者, 講演方法: 幾何学的表現論や可積分系の分野の周辺で現在活発に研究している方々をお招きし, 最先端の結果, というより問題意識からはじめて 3 時間ゆっくりと講演していただくセミナーです. 対象者としては, これらの方面の専門家のみならず, 表現論, 代数解析, 数理物理学, 幾何学, トポロジー等の専門家や専門家を目指している若い方々で, 幾何学的表現論や量子可積分系に興味を持っている方を対象としています. このため, 講演者には例と具体的計算, 問題設定, 動機付け, 基本的結果, 基本概念等についてゆっくり丁寧にお話ししていただけるようにお願いしています. このため, 証明には深入りする必要ないと考えております.

世話人:岩尾慎介 (青山学院大) 白石潤一 (東大・数理) 土屋昭博 (IPMU) 山田裕二 (立教大). 連絡先 (岩尾)

9/17-19 には国場敦夫さんの「転送行列, Yang-Baxter 方程式, Bethe 仮説」という話, 10/26 には河澄響矢先生の「(I) The Goldman-Turaev Lie bialgebra and the mapping class group. (II) Various infinitesimal approaches to the moduli space of Riemann surfaces.」があるそうなので, 興味がある向きは参加されてはどうか.

追記

関係筋から「不定期開催だ」という情報を得た.

@phasetr 関係者です. 不定期です. 申し訳ないです.

文系理系についてまだ下らない話があった

自称理系の厳しさ

「理系の人はお金持ちになれない?」というごみのような記事があった. これだ. 自称理工系の極めて粗雑な議論だったのでうんざりしている. 私の高校の頃の国語教員が「この新聞 (明治か大正の新聞) の記事を見てみなさい. (最後に『下らなかった』と書いてある. ) 下らないものは下らないと言いたいからこういう記事を書いている. これがジャーナリズムです.」みたいなことを言っていた. いまだに訳が分からないが, 書きたいことをきちんと書き抜け, ということだと勝手に解釈して私も書きたいことを書く.

コメントその 1

前回は右脳, 左脳の話題を取り上げたが, 今回は理科系と文科系の違いに関する話題である.

右脳, 左脳という時点で既にもの凄い地雷臭がする.

コメントその 2

文系であってもいわゆる「理系」の人は存在するし, 逆もある. ちなみに筆者も理工系の学部の卒業である.

いわゆる「理系」というのは何だ.

コメントその 3

理系の人は数字が苦手 まず「理系」の人の最大の欠点は「数字」が苦手なことである. 意外な感じがするかもしれないが, これは本当である. 理系の人は「数学」は得意だが, 「数字」には弱いのである.

理系の人に本当に「数学」が得意かどうか問い詰めてみるといい. 特に数学科の学生に聞いてみよう. あと私の知る限り, 理系の人間, 数字に強いというか, 基本的な物理定数とか大事な数値, オーダーの感覚はとても大事にしている. 友人は学部 3 年の研究室配属のイントロゼミのとき, いろいろな定数の値を聞かれて答えられず, 「いまはまだ仕方ないが, こういう数値が頭に入っていないの, 本当に論外ですよ.」みたいなことを言われたそうだ.

コメントその 4

小中学校の算数ならともかく, 高等数学以上になってくると, ほとんどが抽象的な「数式」を用いるため, 数字そのものを扱うことはほどんどなくなってしまう (数字を扱うのは数値演算などを行うごく一部の理科系の学問分野だけである). このため理系の人は数字に弱い人が多い.

ここが本当に一番ごみみたいなところ. 各専門に関する数値 (引用元の「数字」という言い方に闇を感じている) に弱いと何もできない. 何でもいいが, 例えば量子力学なら Planck 定数など大事な定数はその値まで, 関連する数値についてもそのオーダーくらいは色々把握しておかないと感覚が掴めない. 宇宙論なら宇宙論で, 関連する値についての感覚をきちんと把握しておくことが大事だ. 他の分野でもそう. 有機化学専門の MM2P の話を聞いていると良く思う. 極端に言うなら研究費の兼ね合いもあるので, 使っている試薬の値段などにも詳しい. 特に応用系の人は実際に工業などで使うときに値段が安い物質で作れないと困るので, そういった部分にもシビアだ.

コメントその 5

これに対して文系は数字に強い人が多い. 会社の売上げや利益, 利回りなどの数値をスラスラといえる人が結構いる. このような人は, 回転寿司のお店に入っても, その日の売上げがいくらくらいなのか, 数字でイメージすることができる. 売上げや利益の伸びがどのような微分方程式に沿って動くのかは分からなくも, 数字そのものは直接イメージできる.

売り上げや利益の伸びの微分方程式というのに失笑せざるを得ないが, それ以上に全体的にごみでしかない. 要は利益や売上に関する数値感覚があるかないかということだろう. この人が指す理系の人間, 研究開発まわりに多いはずで, 自分の守備範囲から遠い数字に弱くても当然だろう. その意味でいうなら, 「理系」とやらがそういう感覚に乏しいというのは分からないでもない.

これ以降も失笑せざるをえないようなろくでもない文章が並ぶ. この筆者はそういう馬鹿しかいないような環境にいたか, そう勘違いしてしまうほど不勉強なろくでもない学生だったのだろう. 見るだけでもうんざりするようなひどく粗雑な文章だったし, いつもの下らない文系理系評だった. 自称理系ならせめて「理系」についてもう少しまともな評をしてほしい.

東大数学科名誉教授, 藤田宏先生が送る言葉:加藤敏夫先生のお言葉「悩んだときは上野の動物園に行ってオランウータンを見るとよい. 彼等の哲学的な表情を見つめると気が休まる.」大学受験勉強法

はじめに

掃除をしていたら次の文章を発掘しました.

久し振りに読んだらあまりにも無茶苦茶で感動する一文がありました. ついでにあとで簡単に藤田宏先生の紹介もします.

受験生とも重なる部分が多いのは【3. 数学の研究をするのも生身の人間】の内容です.

お気に入りの部分がありますが, それだけでは味気ないのでいくつか引用します.

引用

数学の研究は怠けていてできることではありません. とくにその出発点である大学院での学びには精励・精進が必要です. 必要な知識の需要は勿論大切です. それにもまして深く考え抜く修行が大切です.

(中略)

ところが, 高校時代から数学に熱心であったはずの 皆さんがすでに経験しておられると思いますが, 勤勉に頑張るだけでは, 「ひらめく」と限りません. とくに焦りは禁物です. この切なさは独創性が問われる研究において極まります.

そこへ向けての心構えとして, 西洋格言を一つ呈しましょう. それは, 「ゆっくりいそげ」 (Festina Lente: ラテン語) です. 「いそげ, ゆったりと」と訳してもよいでしょうか.

(中略)

それにしても, 生身の人間ですから, 研究が停滞したり, 人に後れをとったりして, 気が落ち込むときがあるでしょう. そのようなときの元気回復に役立つかと 思われる言葉をいくつか付け加えておきましょう.

私自身は, 何故か, 旧制高校生の時にドイツ語のテキストの例文に出て来た, ツルゲネーフの次の言葉をよく思い出しました: 「疲れたときは休むがよい. 他人もそんなに遠くは行くまい.」 私の恩師の加藤敏夫先生が弟子たちにすすめられました: 「悩んだときは上野の動物園に行ってオランウータンを見るとよい. 彼等の哲学的な表情を見つめると気が休まる.」 角谷静夫先生は, 太平洋戦争後に早々に渡米して活躍された関数解析創始者のお一人ですが, 私が 1967 年頃にエール大学を訪ねたときに言われました. 「学位のための論文が停滞して学生が悩んでいるときは, 恐竜の骨格 (エール大学の学内博物館?に巨大なそれがある)を見に行くことをすすめます. 恐竜の雄大さ, また, それが生きた頃からの時間の長さを実感すると自分の抱えている悩みなどは小さい, 小さい……という思いが湧いて院生達は元気が出るのです」

コメント

東大の院生や教官も日々このくらい追い詰められながら教育や研究に励んでいます. もちろん, 世界・人類最高峰の知性を持った人達との戦いであり, 受験とは比較にならない厳しい世界でもあります.

そんな人達が心を静め, パフォーマンスを高めるために日々苦労しています.

全く同じことをする必要はありませんが, 心を休めて活力を取り戻すことは必要です. 自分の生活にも取り入れてみてください.

加藤敏夫先生のオランウータンの話などは, 疲れ過ぎて頭がどうにかしきってしまったのではと心配になるくらいの話ですが, そのくらい集中して長期間研究に取り組んでいます.

2008年度版もあります. あなたも興味があればぜひじっくりと読んでみてください.

簡単な教員紹介

最後に藤田宏先生, 加藤敏夫先生, 角谷静夫先生について簡単に紹介しておきます. 興味ない方は読み飛ばして構いません.

藤田宏先生

私が藤田宏先生をはじめて知ったのは, 数学の参考書, シグマベストの編者としてでした. 巻末に「東大物理学科卒」とあって「何で物理の人が数学の参考書書いているのだろう」と思っていました. 大学に入ってからそのあと数学に転向して数学者として世界的に有名な人なのだと知りました.

放物型の非線型偏微分方程式に対する爆発現象とそれに関する藤田の臨界べき (critical exponent)で世界的に有名な数学者です. (下の論文はFujita exponentで適当に調べて出て来た論文で, これが重要というわけではありません.)

自分の名前を冠する概念がある程度には優秀で有名な方です. 私も2008年度の修士の入学式の祝辞のときにはじめてお目にかかって, 「高校でお世話になったシグマベストの編者とこんなところで出会うとは」との感慨を今でも覚えています.

ちょっと話がずれますが, シグマベストは学校の指定参考書でした. 入学時, このくらいができれば, 中堅くらいの大学には入れますと言われて「こんなに難しいのに中堅レベルか」と驚いたことを今でも覚えています.

それでも馬鹿みたいにこれをくり返しやって, 普通の模試では偏差値60くらい, 東大を受験してみたいと思えるくらいの成績を叩き出せました.

この本がいいとお勧めしているわけではありません. これと決めた本を馬鹿みたいに徹底的にやり込むことが大事です.

加藤敏夫

次に加藤敏夫先生. 加藤先生は直接的に私の専門の先達です. 学部のときの指導教官の指導教官の指導教官です. (早稲田の応用物理の大谷光春先生の指導教官が黒田成俊先生で, その指導教官が加藤敏夫先生.)

量子力学の数学に関して世界的に有名な仕事があります. ノイマン型コンピュータなどでも有名なフォンノイマンの指摘を受けた仕事をしています. 水素原子のシュレディンガー作用素の自己共役性の証明, その証明に使った加藤-Rellichの定理があります.

その他にも掃いて捨てるほどいい仕事があります. 超関数微分にも関わる加藤の不等式, 解析的摂動論の創始・完成, 線型・非線型のシュレディンガー方程式の研究を自身の研究で世界的にリードし, さらに後に世界的なリーダーになる学生をたくさん育ててもいます.

角谷静夫先生

最後に角谷静夫先生の紹介です. 関数解析や確率論に著名な仕事があります. 特にリース・マルコフ・角谷の定理はバリエーションも多く, 私もお気に入りの定理です. 関数解析・測度論の基本定理で大定理であり, 各所で使われる応用性も広い強烈な定理です.

確率論の仕事に関しては経済学へのインパクトもあり, 畑違いの経済学で名前がよく知られていて非常に戸惑ったことがある, というエピソードもあるくらいです.

こういう世界で活躍した人達ですら日々苦しみながら仕事をしています. そうした人達がどうやって高いパフォーマンスを維持しているかは あなたの参考にもなるはずです.

心を静め, 軽くすることが大切とくり返し語られています. 自分にはどんな方法があっているのか, それを探して生活に取り入れていってください.

今まであまり触れたことない数学やりたい

どう言ったらいいのか分からないのだが, 何か新しい数学を勉強したい. 超我侭に適当にいうと, 代数と幾何と解析が渾然一体となった感じのお得感あふるるやつがやりたい. あと何となく微分方程式がやりたいお年頃なので, 何かその辺でやりたい. 1 つの目的は素人向けの数学で何か動画作りたいからだ. 素人と言ってもいつも通り, 一定以上の数学力を既に備えている層に向けている.

何となく東大の大島先生がやっているような感じの数学は素朴な割に尋常ではないくらいやばい雰囲気も感じるので, 面白そうだからその辺で適当にググったら曲面と超幾何関数という PDF を見つけた. 面白そうだったのでとりあえず共有しておきたい.

少し書いてあったが, 射影空間で何かやるの面白そう. あと一応関係がある話として, 直交多項式入門がほしくなった.

代数と幾何の知識があまりにもないので, 悲しい. こういうとき, 数学科を出ておらず中途半端にしか数学知らないのが悲しい.

『無限量子系の物理と数理』に続き, 小嶋先生が新たに『量子場とミクロ・マクロ双対性』なる本を出すらしい

このツイートによると小嶋先生がまた新しい本を出すらしい.

小嶋泉氏の『無限量子系の物理と数理』読むなら, 年内に丸善から出版予定の同著者の本命『量子場とミクロ・マクロ双対性』も要チェック. サイエンス社のサポートページ参考文献 108 http://www.saiensu.co.jp/?page=support_details&sup_id=348

今年は Summer School 数理物理のテーマが (構成的場の理論を中心に) 量子場の数理だし, 小嶋先生の本が 2 冊出るしと, 場の理論づいている. このタイミングに乗じて, ブログの方でもこの分野を宣伝していこう.

本当に悪いのは時空に魂を引かれた人間達だ

ステパノ大王が次のようなことを言っていた.

僕はそうでもなかったのですが, 大学で遊んでやる, と高校で言っている人がいたのですが, 何だったんでしょうか. 今遊べよ, と僕は思ってました.

それに対して悪質 RT するのが面倒だったので適当にエアリプで次にように応答した.

大学に入ってからは (理論) 物理および数学で時空に束縛されずに遊べるようになったので「遊びに行く」とかいう感覚, 本当に分からない. 私はいつでもどこでも遊べる

@phasetr 加藤先生など秩父の山奥までハイキングしながらのゼミという悪魔のような方法で斎藤秀司先生を鍛えたという. こういうのを遊びに行くというのなら納得もしよう

時空ごときに束縛されるの, 嫌ではないのだろうかと素朴に疑問. . 実験屋さん, 最終的に装置で遊ぶのだと思っているが, 各種装置を準備するのに結構お金かかるはずなので大変だろうな, といつも思っている. 理論物理は理論物理で最終的には実験というか現実との整合性ないと駄目で, そこでモノがいるし, 人文・社会学も人間とか社会とか適宜実物を見ないと駄目で面倒だし, やはり数学だな, といういつもの結論に逹した.

社会は実在か, といった議論は一旦封殺する.

Lebesgue積分がよくわからなくて困った話を思い出した

はじめに

どのツイートか忘れたが, Twitter で誰かが Lebesgue 積分の話をしていた. 学部 3 年くらいで独学で勉強したのだが (物理学科にも関わらず Lebesgue 積分の講義があったが, 結局身につけるためには自分できちんとフォローしなおさないといけない), そのときに困っていたことを思い出した. こんなところで困った人がいる, というのを記しておくのも意味があることだろうと思うので, 我が身の恥をさらしておきたい.

なぜルベーグ積分をやろうと思ったか

ちなみに何故 Lebesgue 積分をやろうと思ったかというと, 量子力学の数学をきちんとやろうと思って, 量子力学の数学的構造を読んだら Lebesgue 積分をきちんと勉強した方がよさそうな印象を受けたからだ. はっきりと言っておきたいが, Hilbert 空間論を学んだところで量子力学が分かるようになるということはない. 理論面をクリアに理解する上では確かに大事なのだが, それなら線型代数を勉強すれば十分だ.

はじめに読んだ本: Kolmogorov-Fomin

Lebesgue 積分というか関数解析全体として, はじめは Kolmogorov-Fomin を読んでいた. 安かったし, 洋書を読んでみたいというのがあったからだ. 詳しいことは覚えていないし, 他にも吉田耕作の Functional Analysis を読んで挫折したり色々な経緯を辿りながら, 結局一番きちんと読んだのは伊藤清三の本だった.

伊藤清三本の記憶

今になって思うとかなり間抜けな感じもあるが, この本を読んでいて, Lebesgue 測度以外での議論がどうなるのかよく分からなかった. 測度を取り替えたときどの議論がどう変わるのか, 本のメインの部分はきちんと使えるのかというのが分からなかった. こう書いてしまうと当時の自分の疑問をきちんと表現できていないので, 色々アレだが, 色々な測度に変えたときにどうなるのかという部分で色々ともにょっていたのは間違いない. そこで色々な測度を持ち出して議論するということなので丁度いいかと思って, 確率の本を読んでみた.

Williams

読んでいた本はこれだ.

(確率の本として) いい本なのかどうかは今でもよく分からないが, かなりすっきりした本であることは間違いない. 確率への応用が主眼なので, 位相と測度みたいな話はほとんどない. 単調収束定理に主眼を置いた積分論の構成・展開はなかなかいい. 正直なところ, この本を読んでみても結局のところ当時は疑問が解消されなかった. 実際に使いつつ慣れていくことで, いつの間にか疑問は解消されていた, という感じ. 解消された疑問について分からなかった当時のことを思い出すのはなかなか難しい. そもそも疑問自体を曖昧で感覚的なレベルに留めていて, はっきりとさせていなかったことが拍車をかける. 何がいいたいのかよく分からなくなってくるが, 要は分からなくてもずっとやっていると自然と疑問が解消されることがあるので, 「この辺が何かよく分からない」というレベルでもいいから, 分からないことがあるということだけきちんと意識して先に進んでしまうことも大事, というようなことがいいたい.

伊藤清三の本はよい

最後だが, 伊藤清三の本はとてもよい. Amazon の書評では古臭いとか書かれているが, その部分がよいのだ. 昭和の古い教官が「まあそんなあくせくせずに, お茶でも飲みながらのんびりやってみたらどうですか. ところで Lebesgue 積分にはこんな素敵な話があるのですよ. 焦って急ぐことはない. ゆったりやろうじゃありませんか」みたいな感じがある.

また議論自体は非常に丁寧で, これで Lebesgue 積分が分からないなら多分何を読んでも駄目なのではないか感ある. 問題はある意味でその丁寧さで, 上に書いたのんびり部分だ. そのせいで本題の Lebesgue 積分の定義に辿り着くまでが長い. ただ, 川又先生の代数多様体論も, 代数多様体の定義に辿り着くまでに 60 ページくらいかかっていた覚えがあるので, ある程度になると定義するだけでも大変になるのも仕方がないのだが.

伊藤清三本のよいところ

ただ, 測度と位相の絡みなど, 古典的な数学の綺麗なよくできた部分が書かれているのが, 正に Lebesgue 積分の定義までが長くなる原因で, そして私が思うよいところになる. 私としてはこの辺の話が好きなので, のんびりやってほしいと思うのだが, 昨今の風潮を見ると数学でまで効率を求める雰囲気があるようだ. 確かに無駄に非効率な勉強をさせるのは最悪でそれは断固として反対したいが, ここでの「非効率」はむしろそれが美点となるのだ. 逆に最近の本だとあまり触れられていない印象があるので, 余計にそう思う. 数学科の学生くらいはもっとのんびり数学やってほしい.

実数の実在とか何とかに見る悲しみ

darkjojonjon さんのツイートが面白かったので.

一昨日くらいの茂木健一郎の「無理数の実在性を大学受験の面接で議論すべき」というツイート, 前後のツイートから考えると「一辺 1 の正方形の対角線の長さは $\sqrt{2}$ だから無理数は存在する」 みたいな議論を想定しているっぽい.

でも現代の数学では長さの定義に平方根の関数使ってるから, 長さって言っている時点で「非負実数の平方根が実数に存在すること」はあらかじめ証明しておかないといけないこと.

「$x^2 = 2$」となる実数 $x$ の存在は, 実数体の公理を満たす順序体の存在を認めても公理から自明に出てくることではないし, 中間値の定理の応用として扱うような話.

だから茂木健一郎の主張は数学科の人が見ると「やばい」ってなると思うんだけど, 他の分野の人が見るとそうでもないのかもしれない.

例えば, 「線分の長さ」というものが無定義語として受け入れられて, 「これこれの性質を満たす何か」と認識している人にとっては, 「一辺の長さが 1 の正方形の対角線の長さは $\sqrt{2}$ だから $\sqrt{2}$ は存在する」 という議論は論理的に意味が通るかもしれない.

これについてあとでメルマガ書こう. あと, これに関係するやりとり.

一昨日くらいの茂木健一郎の「無理数の実在性を大学受験の面接で議論すべき」というツイート, 前後のツイートから考えると「一辺 1 の正方形の対角線の長さは√ 2 だから無理数は存在する」みたいな議論を想定しているっぽい.

@darkjojonjon 自分はよく分かりませんが, そこで言う実在性って, 数学で言う存在と違う意味だと思います.

@darkjojonjon 実際に tweet は見ていないので, よくわかりませんけども…

@Kuro_topo そうかもしれないんですが, そうなると「数の実在性」という問題は数学の人からはどうしようもない問題ですね. というか, そうなると哲学的な問題になってくるように感じます.

@darkjojonjon そうですね. そう思います.

物理の一般と数学の一般と, その狭間の数理物理と

はじめに

あまり見かけない話だが, 私にとっては大事なことなのでここに記録しておきたい. 一言でいうと, 物理として一般的な数学的設定は数学としては具体的または特殊な設定で, そこから出てくる変な数学的問題を適当な意味でどうにかするのが数理物理, とかいう感じの話をしたい. ここでは超弦理論と幾何みたいな方向の話は一旦おさえたい. あまりよく知らないから, という理由もある.

物理の一般

まず具体的にいうと, 物理として一般的な数学的設定というのはこういう感じ: 量子力学を考えよう. 電子と原子 (原子核) からなる系を考えると次のような Hamiltonian からなる系を考えることになる. 一応現実的に, 3 次元にしておこう.

\begin{align} H = -\sum_{i=1}^{N_{\mathrm{e}}} \triangle_i - \sum_{i < j} \frac{e^2} {\left| x_i - x_j \right|} -\sum_{i,j} \frac{e e_j} {\left| x_i - R_j \right|} -\sum_{i,j} \frac{e_i e_j} {\left| R_i - R_j \right|}. \end{align} ここで $x$ が電子で $R$ が原子核の方を表している. $e$ が素電荷で, $e_i$ が原子核の電荷だ. 細かい話は別にどうでもいいのだが.

ここで問題にしたいのは, 上の設定は物理としてはかなり一般的な設定ということだ. (もう少し一般にしたければ量子電磁場を入れるとかいう方向もあるし, それが最近の数理物理での話で, しかも Summer School 数理物理 2013 での特に廣島先生の話と関係が深いところだが, それは置いておく.) そして数学としては特殊な (具体的な) 作用素の作用素解析に対応する.

数学としては具体例

数学としては単なる具体例をやっているだけと言えるのだが, この例が数学的にかなり鬱陶しいことが問題だ. まず Coulomb ポテンシャルだが「原点まわり」での発散がある. 無限遠でも積分が発散する: $\int_{\mathbb{R}^3} \left| x \right|^{-1} dx$ を極座標で書くと分かる. 関数自体は簡単だがかなり鬱陶しい挙動をする. そのために起こる面倒くささの処理に面白さを感じて積極的にやっていくというのがとりあえず数理物理だ. 物理的なモチベーションや物理的な興味がない限り, そもそも面白さを感じることが難しく, 真っ当な数学の人がなかなかやろうとしないラインで数学をすること, と言ってもいいかもしれない.

ちなみに, こうした性質を持つという範囲でポテンシャルを一般化するという方向の研究はないでもない. 特に自己共役性に関する部分ではそれにも意味がある. だが, 私の趣味に関する部分でいうなら, あくまで Coulomb ポテンシャルに限定して議論することに意味がある. この関数に特化してぎりぎりまでシャープな結果を出すことが物理として大事だからだ. 物理として意味があるなら, 数学としては特殊で構わない. 大事なことは最後に物理としてシャープな結果を出すことにある.

物質の安定性

ここで物質の安定性を考えてみたい. 物質の安定性というのは量子力学の起源としてとても大事な話だ. 量子力学の起源にもいくつかあるが, ここでは電磁気学的なところを出そう. 加速運動をする荷電粒子は電磁波を出すという議論がある. 電子は原子核のまわりを円運動するという素朴な描像があるが, 等速円運動と思っても, 円運動である限り加速度がある. つまり電磁波を出すのだが, 電磁波を出すとその分荷電粒子のエネルギーが減る. エネルギーが減ると速度が減り, 軌道半径も小さくなる. 軌道半径が小さくなると電子が原子核に落ち込んでしまい, 原子が不安定になる, という話だ. これをおさえるために量子力学が登場した, という側面がある.

普通の理論物理の文献ではあまり出てこないようだが, これを基準に考えると, 量子多体系が安定に存在することも自明ではなくなる. ここにメスを入れようというのが物質の安定性の問題だ. 実際, ここを真面目にやっているのは Lieb を筆頭とする数理物理の人々しかいないらしい. 「物理的」な議論も, 数理物理的な証明ができたあとにその物理として大事な部分を抽出した形で出てくると聞いている. あまり数学を知らない人向けに一応言っておくと, 数学をしているときちんと穴のない議論をするために, 「技術的に面倒なこと」をする必要が出てくる. 何かごちゃごちゃと収束やら極限の順序交換ができるか, とかの話をしなければいけないとでも思っておいてくれればいい. その辺を抜いて「物理的な議論」を作る, という話なので, この分野は完全に数学というか数理物理先行の話題といえる.

話が飛んでしまったので, 物理としてシャープな結果と数学としての特殊性という話に戻そう. 何がいいたいかというと, ここでは電子がフェルミオンであるという性質を使わないといけないということだ. 詳しくは Lieb-Seiringer の本を読んでもらいたいが, 基底エネルギーが粒子数に比例する形で下からおさえられないといけない.

ここで系がボソンだけだと基底エネルギーが粒子数の 7/5 乗に比例してしまうことが分かっている. つまりボソンだけの系は不安定なのだ. 系がフェルミオンだけなら問題ないか, もしくはもっと強くフェルミオンを含めば問題ないか (系に電子があるか), というのは非自明な問題だが, 現実的な設定としては後者の設定下で証明をつける必要がある. そしてそれは実際できている. このときに系にフェルミオンがいるという設定は, Hilbert 空間にすると次のようになる. 現実に合わせて多成分系を考えると $L^2 (\mathbb{R}^{d_1}, \mathbb{R}^{d_2}, \cdots)$ という空間で考える必要がある. フェルミオンが電子だけで $\mathbb{R}^d_1$ 部分に対応しているとすると, ここの成分だけ座標について反可換, 他の座標については各粒子系の成分ごとに可換, という変な空間で作業する必要があるということだ. $L^2$ を使う分野はたくさんあるが, 少なくとも私が知る限りでの微分方程式論でこういう空間を扱っているのは見たことがない. 幾何では微分形式に合わせて反可換な関数を扱うというのは考えられるし, 一般のテンソル上で議論するときに形式的には現れるが, どこまで本格的に扱っているのかは知らないので分からない. ただ物理的な設定をそのまま素直にやろうと思うと, $\mathbb{R}^d$ 上での微分方程式論ではほぼ触らない空間上での議論が必要になる. そしてそういう空間上での議論が物理として本質的になるというのもまた大事.

数理物理

究極的にはやはり物理にも数学にもインパクトを与えられるようなことをしてみたい, というのはあるが, 今のところ私が関わっている部分の構成的場の量子論, 厳密統計力学は物理としては時代遅れ, 数学としては特殊で面白いかのかどうかよく分からず, 「数理物理として面白い」という話しかない印象がある. 物理でもなく数学でもない数理物理という分野があるのだ, と思えば, むしろここにこそ存在意義を見出すべきで, 最近は特にそう思っている. 市民であってプロの研究者ではないから, 物理も数学も最先端にはついていきづらいという状況下で, それでも自分が最先端にいられるところというと結局そういうあまり人がいないところでふんばるしかないというところもある.

ここで何であろうとも最先端にいなければならない, というのは大事にしたい. ニコマスなり何なりでいわゆる「プロデュース業」をしようと思っているわけだが, そこでのモチベーションの大きな部分は「子供の頃の自分が見たかった世界を見せる」ということだ. これは「天才達が見ている世界, 世界トップの人が見ている世界」といってもいい. どれだけマニアックであろうとも, 世界トップであることは (子供の頃の私にとって) 決定的に大事なので, そこは愚直に守りたい. これが一般的な感覚ではない (らしい) ことは承知しているが, 大学で自分と同じような趣味をしている人間に出会い, またニコニコで数百名であろうとも確実にそういう層が存在することも理解した. だからその層に向けて何かするのだ.

あとついでにいうと, 数学ができる人間が世界で一番格好いいと思っていて, また人並に格好よくなりたいという希望もあるので, そこの欲求を満たしたいというのもある. 世間と格好いいと思うことが決定的にずれているだけで, 気分の上では格好つけたいというのはほとんど変わらないと思っている. さらにこの間 Twitter でも言ったが, 女性一般はまあどうでもいいのだが, 数学ができる女性にはもてたいとは思うが, そもそも数学できる以前にしようと思う女性自体がいなくて困るので, そこを増やすべくプロデュース業に勤しまねば的なアレもある.

いつも通りよく分からない文章になった.

「分かってしまえば当たり前」のギャップを埋める努力は大事だった: 嘉田さん (kadamasaru) の「証明を理解するための考え方」というよい文章が回ってきたので

その1

嘉田さんのよい文章が回ってきたので.

http://www.mi.s.osakafu-u.ac.jp/~kada/susemi0905/index.html きょう高校生に双対空間教えたときに どうも証明が通じない気がしたが, こういうことだったのだろうか. さすが kada 先生.

リンク先も引用しよう.

証明を理解するための考え方

嘉田 勝 数学セミナー (日本評論社) 2009 年 5 月号 数学セミナー (日本評論社) 2009 年 5 月号の特集「大学で身につけたい数学リテラシー」の記事のひとつとして, 「証明を理解するための考え方」という題目で記事を掲載していただきました (20-23 ページ). 記事原稿の PDF ファイルを掲載します (数学セミナー編集部許可済み). ご高覧いただければ幸いです.

証明を理解するための考え方 (嘉田 勝) (数学セミナー 2009 年 5 月号掲載記事)

これはよい文章なので, 特に新入生の方々はぜひ読んでほしい. 私も学部 1 年のとき, $\varepsilon$ - $\delta$ の証明で 何か $1/2$ のような定数が出てきたときに「これはどこから出てきたの? 」と思った記憶がある. 今となっては当たり前だが, やはり一度はどこかで説明した方がいいとは思う.

「当たり前」のギャップを埋めるのは大変だが, だからこそやることに意義がある.

その2: 数理論理学の講義ノート情報

嘉田さんの講義ノート情報が回ってきたので.

嘉田さんの数理論理学講義ノート http://researchmap.jp/mu3y30bsf-1782995/ 適当に本買うくらいならこっち読んだ方が良い気もする

読む時間がいつ取れるだろうか.

数学会の『数学通信』の書評をまとめたページがある

数学会が出している『数学通信』という冊子があり, 学生時代は良く読んでいた. 今でも読みたいと思っているのだが, こう色々とアレで遠ざかっている. ただ, 書評の他いくつかは web 上で PDF で公開されているので, 自分用のメモも含めて記録しておきたい. これだ.

最近また数学をさぼっていてアレなので何とかしたい.

岩澤先生の業績紹介を読んで

本文

理学博士岩澤健吉君の「群論及び整数論における研究」に対する受賞審査要旨という PDF を Twitter で見かけたので読んでみた. 学士院の文章で大分古い文章だが, 面白いので読書メモとして残しておきたい.

岩澤先生とは

数学では知らない者はいないと思うが, 岩澤先生は数論の大家だ. 群論の方では岩澤分解がとても有名で, どんなものか具体的には知らないが名前だけは私でも知っている. Hilbert の第 5 問題の解決への大きな貢献がある.

初期の業績

少なくとも数論での初期の業績は位相群を上手く使った仕事らしい. Haar 測度や Fourier 解析など解析学も上手に使っているようで, かなりパンチの効いた研究をしている. 詳細は忘れたが, 高木貞治の類体論といい, 岩澤先生のこの辺の話といい, この二人は数論に 上手く解析学を絡めて議論する卓越した技術を持っていて凄い, という話をどこかで見かけた. それがこの話なのだと思う.

岩澤・高木貞治雑感

関係ないが, 高木貞治は呼び捨てにできるが, 岩澤先生が呼び捨てにできないというこの感覚, 非常に面白い. 一般に偉い人は呼び捨てにできるもので, 岩澤先生も十分に偉いのだが, 存命時の岩澤先生を知る人達がまだまだたくさんいて, その人達が先生づけしているので それが移っているのではあるけれども.

数論上の業績

円分体や岩澤主予想, 岩澤の $\mathbb{Z}_p$ 拡大など, 私は名前しか知らないが, 数論上の業績がたくさんあるのが岩澤先生である. 数学の楽しみか何かで岩澤先生の追悼記念号があった気がしたので, 今度それも読んでみたい.

あと代数函数論を買ったきりまともに読んでいなくて積読状態になっているからこれも消化したい.

YouTube 動画: Prof. Jean Dieudonné: "The Historical Development of Algebraic Geometry"

YouTube に次の動画が置いてあることを鍵アカウントの方のツイートで知った.

  • Prof. Jean Dieudonné: "The Historical Development of Algebraic Geometry"
  • UW-Milwaukee Department of Mathematical Sciences

チャンネル登録もしておいた.

動画紹介: 千早誕生祭 [貧乳はステータスだ! 希少価値だ!] の数学的解釈について

はじめに

以前作った動画の感想を呟いて下さった方がいたので, アピールを兼ねてその反応を紹介したい. 動画名は「千早誕生祭 [貧乳はステータスだ! 希少価値だ!] の数学的解釈について」で, 動画は これこれこれ だ.

タイトルと内容の一部がアレなので大半の女性には極めて受けが悪いだろうが, アイドルマスターで作っている時点で視聴者を絞り込んでいるわけで, 男性に視聴者層を絞り込む代わりにたくさんの男性に見てもらおうと思い, この内容, タイトルで作った.

とりあえず感想とその後の極めてハートフルないくつかのやり取りをここにもまとめておこう.

Twitterでのやりとり

該当ツイートは次の通り.

ふとニコニコ動画で彼の動画を探してみようと思い立ち検索してみたら『微分ヤクザ』というタグがついていて怖い.

怖すぎる動画を見終えた. 貧乳教の私は美香さん複素多様体説に感動したが『実連続函数は整函数で一様に近似できる 1D T.Carleman 1927, d ≧ 2 A.Sakai 1982 』を 思い出して絶望している.

自分の昔の専攻がまさか貧乳教の悦びを砕くとは思ってもみなかった.

どんな巨乳も少し熱方程式の時間変化を加えれば貧乳と同じクラスに入れるのかと思うと落涙するばかりである.

実際にやりとりをした部分は以下の通り.

@phasetr 斬新さに腹抱えて大笑いはしたのは事実ですが, 嘲笑はしてません. 気を悪くさせた事を謝罪します. 申し訳ありません.

@yan_tyabouzu こちらこそすみません. 普段嘲笑という言葉を「暖かく見守る」くらいの意味で使っていて, 今回もそういう使い方です. むしろ喜んで頂けたようで何よりです. そういうリアクションをしてもらうためにあれを作ったので

@phasetr とても楽しく見させて貰いました. 何故これほどの函数論の理解をこの方法で表現したのかと考えたら笑いが止まらず, 昔の専攻が函数論だった事もありネタに勝手に乗りました. 調子に乗り過ぎたかとびくびくしてたところです. 寛大さに感謝します.

@yan_tyabouzu あと近似定理の話ですが, あくまで exact だからこそ尊いので精度の良い近似はあくまでまがいものというスタンスです. 動画でも言いましたが, 解析関数では触れられない広い世界を生きる連続関数にもそれ自体の深い意味があると思っていますので, そこは死守したい

@phasetr なるほど. 道理ですね. 私は『稠密な部分空間で十分』の堕落にはまっていたようです. 精進します.

どうでもいいのだが, 上記の「美香さん」は「千早」だろうか. それとも「美香さんの複素多様体説」だろうか. 何はともあれ, 春香さんと美希の共同研究なので, 春香と美希が交じった説がある.

動画の解説

まずは動画自体の解説をしておこう. 3 つ合わせて 50 分近くと結構長いので視聴時は十分注意されたい. 第 1 部では講演の常道として研究のモチベーションの話から入る. 数学的には微分の復習から入り関数論への接続で終わる. 第 2 部は 1 変数関数論ショートコースであり, 貧乳と複素多様体の類似について議論がなされる. ちなみに動画投稿直後, 第 1 部から第 2 部で視聴者が 9 割減っていた (今も大体そのくらいだが). タイトルホイホイの意味を知る冬だった. 第 3 部は今回の研究としてはおまけの部分で, 資金的に研究を支えた伊織への感謝を込めた内容になっている. 数学的には多変数関数論で, 岡潔の業績に深く関わる正則領域の議論の魔解釈について論じている.

ここで少し (分かる範囲で) コメント, やり取りについて補足をしておこう.

補足 1

怖すぎる動画を見終えた.

貧乳教の私は美香さん複素多様体説に感動したが『実連続函数は整函数で一様に近似できる 1D T.Carleman 1927, d ≧ 2 A.Sakai 1982 』を 思い出して絶望している.

自分の昔の専攻がまさか貧乳教の悦びを砕くとは思ってもみなかった.

どんな巨乳も少し熱方程式の時間変化を加えれば貧乳と同じクラスに入れるのかと思うと落涙するばかりである.

この定理は知らなかったのだが, ものすごく大きく言えば類似の定理として「任意の連続関数は多項式はいくらでも精度良く近似できる」という, Weierstrass の多項式近似定理というのがある. 証明はいくつかあるのだが, 例えば伊藤清三『ルベーグ積分入門』に熱核を使った証明が書いてある.

また, Stone-Weierstrass の定理という抽象版もある. 関数環, または作用素環の文脈での証明がある. 関数環的な証明は吉田耕作『 Functional Analysis 』に, 作用素環的な証明は Kadison-Ringrose の『 Fundamentals of the Theory of Operator Algebras 』に書いてある.

熱方程式の時間変化云々という記述があるので, 『ルベーグ積分入門』の熱核を使った証明のように, 適当に熱核と畳み込みを考えるとか何とかするのだろうと勝手に思っている. 詳細については yantyabouzu さんに問い合わされたい.

補足 2

@phasetr とても楽しく見させて貰いました. 何故これほどの函数論の理解をこの方法で表現したのかと考えたら笑いが止まらず, 昔の専攻が函数論だった事もありネタに勝手に乗りました. 調子に乗り過ぎたかとびくびくしてたところです. 寛大さに感謝します.

1 変数もいまだに解析接続や Riemann 面を理解できていないし, 特に多変数の方はほとんど勉強すらしていないので, 何か申し訳ない気分になった.

@yan_tyabouzu あと近似定理の話ですが, あくまで exact だからこそ尊いので精度の良い近似はあくまでまがいものというスタンスです. 動画でも言いましたが, 解析関数では触れられない広い世界を生きる連続関数にもそれ自体の深い意味があると思っていますので, そこは死守したい

@phasetr なるほど. 道理ですね. 私は『稠密な部分空間で十分』の堕落にはまっていたようです. 精進します.

この辺は言葉通りだ. 動画でも言っているが, 連続関数の世界, 可微分関数の世界, 解析関数の世界それぞれに味があり, 意味があるので全てに遠く思いを馳せたい.

補足 3

最後に私の (多変数) 関数論との関係を書いておこう. 1 変数については, 物理学科で嫌でもやるのでそれはそれ. 全くの別件だが近々これについて東大でのイジングゼミで復習的にやった内容を Amazon で DVD にして販売する予定だ. 今まで通りニコニコや YouTube での無料配布の方がいいのではないだろうかとは今でも思っているが, Amazon の流通に載せて広めること, リーチできる範囲を増やすことを第一の目的としている. またアイマスのようにマニア向けのものとしての内容はそれはそれでいいのだが, やはり一般に何かしたいと思うと著作権的なアレもある. そこをうまく回避すべく自録りの DVD にしよう的なアレもある. 超話が脱線したが, 1 変数については物理学科必修というところ. 多変数について, 一番最初はやはり岡先生の話を聞いたときだ. 学部 2 年の頃かと思うが, 志賀浩二『複素数 30 講』の記述だ. この中で多変数関数論についての岡潔の業績についての小話があって, そんな凄い人がいたのか, と感心した記憶がある. 結局ろくに勉強できていないのだが, 多変数関数論への興味はこの時に湧いた.

その後, 学部 4 年になって修士課程で何をどうするか考え, 色々勉強なり調査なりしていたときに第 2 の出会いが出てくる. 場の量子論か量子統計をやろうとは思っていたのだが, とりあえず基本だろうと思って, (今ではほぼ廃れている) 公理的場の量子論の勉強をしていた. これは主力兵器が関数解析と多変数関数論になる. 他にも色々あるのだが, Edge of the wedge theorem (楔の刃の定理) という多変数関数論の定理があり, これが基本的な道具なので, 勉強しないといけないな, ということで少し勉強してみようとした. 実際には Streater-Wightman の『 Pct, Spin and Statistics, and All That (Landmarks in Physics) 』でまとめて出てきたのだが.

別件だが楔の刃の定理など, 格好いい名前の定理はそれだけで勉強する意欲をそそることは強く主張しておきたい.

本についてのコメント

あと上記の本は死ぬ程難しかったので誰にもお勧めしない. 私を遥かに越えるレベルで数学ができるなら問題ないだろうが, そもそもこんなイレギュラーな本は数学の人は読まないだろうし, 物理の人だって, わざわざ PCT やスピン-統計定理の厳密な証明など読まないだろう. 基本的に物理の人間として数理物理を志してしまった異常者だけが読む本だ. 少なくとも昔の人はこの本で勉強していたようだし, この本が読みこなせるとか想像を絶する. 時々「本書を読む上で予備知識は必要ない. 最低限の数学力があればいい」とかいう記述があって, そんなわけあるか, という突っ込みまでセットで言われることがある. この本では関数解析の予備知識は確かにいるが, おそらくそれ以外の予備知識は本当に仮定されていない. 本当に気でも狂ったかのように数学力に満ち溢れた物理の人間が読んでいたのだろうし, 実際にそういう人間が私の分野での重鎮として今も君臨しているので戦慄する. 一昔前の構成的場の量子論や厳密統計力学の本はふざけているのかと思う程読むのがつらいのだが, 昔の人はアレを読みこなせたのだろうし, そうした観点からすると「最近は学生の力が落ちた」と言われるのもむべなるかな感ある. どれくらいつらいかを具体的にいうと, 例えば Reed-Simon の本で証明が半ページくらいで終わっている定理が, 新井先生の本では 4 ページくらい使っていることがある. 新井先生の本が丁寧すぎるという話もあるが, 何にしても Reed-Simon はつらい. 私の分野では論文で引用される標準的な本 (多分代数幾何での Hartshorne みたいな感じ) なので実につらい.

折角なので Twitter でこういう感じの物理の人を挙げておくと, 大栗さんや村山さんがおそらくそういう感じ. 確か桂先生だったと思うが「大栗さんも村山さんも数学むちゃくちゃできる」と言っていた. 一流の数学者にこう言わせるとかリアルに戦慄する.

公理的場の量子論

話を元に戻そう. 公理的場の量子論で edge of the wedge がある, というところだったが, 面倒なので適当に済ますけれども, これは解析関数の解析接続に関する定理だ. 詳細は Wikipedia 先生にぶん投げておくが, 見てもらうと分かるように物理の人間が発見し証明した定理だ. 公理的場の量子論に限らないが, 物理的に意味がある特殊な状況に特化した定理というのが時々でてくる. Streater-Wightman の本などを参照してほしいが, 公理的場の量子論だと他には JLD domain の話などもある. ちなみにこの定理は量子統計でも出てくる. ハミルトニアンの摂動に対する安定性の議論をするところで使ったりする. 簡単にいうと, 物理的に言って (有限温度, 特に高温では) 少しゴミが入ったくらいで平衡状態が大きく変わることはないだろうと思える. 数学としては, ゴミを本来のハミルトニアンに対する (小さな) 摂動だと思って, その摂動論がうまいこと作れるかという話になる. ここでガチャガチャやっていると楔の刃の定理が出てくる. 折角なのでこれも言っておくと, ここでの議論での基本的な道具は何よりもまず冨田-竹崎理論だ. 「竹崎」は当然, 先日「数学まなびはじめ」の書評で言及した竹崎先生.

歴史的なところはあまり知らないのだが, 少なくとも関連する議論の中で RIMS にいた荒木先生の功績も大きいと聞いている. 荒木先生は直接話をしたことが 1-2 度はあるが, 竹崎先生ほど面白い話は紹介できない. 荒木先生がよくいうらしいジョークとして「物理学者は証明がたくさんないと理論 (?) を信頼しないが, 数学者はもちろん証明 1 つで十分」というものがある. 分かる人には分かるジョークなので良い子は身近な数学者か物理学者に聞いてみよう.

その他ネタ

あとこんな話も聞いたことがある. 学者はその専攻した学問と結婚しているので, 伴侶はその辺覚悟しておかないと色々とアレ, という話がある. 荒木先生の奥様が正にそうなようで, 旦那が研究ばかりしているのでその穴埋め的なアレで, 作用素環の若手で結婚していない人を見つけるとお見合いを持ちかけにいくと聞いた. これはどこまで本当なのかは確認していないため良く分からないので, 取り扱いには注意されたい.

あと楔の刃の定理は代数解析でも理解できるらしい. まだそこまで勉強できていないのだが, ほぼ自明なレベルでクリアな理解ができると聞いた. 例えば森本光生『佐藤超関数入門』の最終章で 1 節割かれている.

代数解析に興味を持った理由の 1 つでもある.

深谷先生の集中講義での一節: 上空移行の原理

もう楔の刃の定理の話はいいか, という気分になったので別の話をしたい. 全然別の話だが, 多変数関数論の話として, 深谷先生の集中講義がある. 深谷先生が近くの大学で集中講義をするというので, 専門が全く違うにも関わらず聞きにいったことがある. 分かったのは整係数のホモロジーが出てきた, とかそのくらいのどうしようもないアレだが, 講義中「これは上空移行の原理で示せます」という発言があった. 上空移行の原理は岡潔が発見した原理だ. 本が家にあるのだから調べればいいのだが, 面倒なのでさぼって記憶で書くと, 上空移行の原理は正則性を調べるべき問題を次元を上げることで連続性の問題に帰着させる手法だったと思う. 正則な世界でやった方が縛りがきつくなるので逆に考えやすくなることもあるので, (勉強していないだけだが) どういうことなのかいまだに分からないが, とにかく名前が異常なくらい格好いいので見たその瞬間に (名前を) 覚えた定理だ.

何の話かもはや分からなくなってきているが, 疲れたので今回はここで終わろう.

単連結と連結について間抜けなことを呟いていたらいろいろ教えて頂いたので

本文

間抜けなことを呟いていたらいろいろ教えて頂いた.

幾何弱者過ぎて連結だが単連結でない例がすぐ思いつけなかった

@phasetr 単連結なら連結とか言える? すぐに分からないとか弱者過ぎて死にたい

@phasetr ちょっと何か勉強すると基礎部分がザルなことが即分かり涙を禁じ得ない

@phasetr 単連結の定義ご存じですか?

@eszett66 「基本群が自明」

@phasetr http://en.wikipedia.org/wiki/Simply_connected_space 曲面だと単連結と「連結でかつ種数 0」が同値だから, やはり一般で反例つくれるはずだ

@phasetr 基本群っていうのは基点を決めないといけないんですけど, あなたの定義では基点はどこに取ってるんですか? もしかして「各弧状連結成分の $\pi_1$ が自明」の間違いですか?

@eszett66 その辺を雑に考えて混乱していますね. ありがとうございます. 今読んでいる本, はじめから空間が連結であることを仮定していて, その上での定義をしていてその辺も見落としていました

@phasetr だと思いました. 「基本群が自明」というのはフレーズとしては覚えやすいんですが, そればっかりだと危ないですね.

鍵アカウントからの情報

慣れない分野ほど, 定義はきちんと一句一語のレベルで確認しなければいけないという教訓を得た. ちなみに, 鍵アカウントの方から次のような情報を頂いた.

単連結であって連結でない例として $S^2$ を二つ並べた集合がある.

通常の幾何学の分野では単連結の定義に連結を仮定するが, Lie 群界隈では $O (n)$ のような非連結な対象にも普遍被覆を考えるので, 単連結の定義から連結を外すことが多い. どちらの場合でも 1-連結と言えば連結かつ単連結を指す.

非常に助かる.

数学の人に「わかりやすく数学教えろ」というアレはよく聞くが逆に社会も数学者にやさしいコンテンツを作れ

エソテリカさんにいろいろ教えてもらったので.

よくわかっていないのだが, 数学関係者が読める (理解しやすい) 形で, 物理 (なり色々な工学なり) の話がきちんと論じられている物理の本とかそれなりに需要あるのではないかと思うが, そもそもパイが尋常ではないくらいに小さいので, やはりゲリラ的にやらざるを得ない感ある

@phasetr 良著でした. (その趣旨かどうかは正確には判断はできかねますが).

@phasetr http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0925/high43.htm これの「ネットが人々の無知を促進する可能性がある」を読むと, 工学のひとが数学に興味を持たないひとつの事例を知ることができますけど, なんか壁をこえるべく興味もたせるのが先かなって感じしますね

@esotericaone 私個人としてはバイオインフォマティクスだとか その他色々な文脈で「生物の人間に数学をやらせるより数学の人間に生物を学ばせる方が余程早い」とかよく聞くので, 数学の人間に暴れさせるのがいいと適当に考えています. そういう方向の講演的な活動もやりはじめたので

@phasetr ソフトウェアだと, ものづくりやビジネス界隈の方々が「理論のためにやってるんじゃない」とか言いだすのでつらい. 理論計算機科学のひとたちが「理論という力を使え」みたいなこと言ってビジネス的に成功してたりもするので, ぜひとも前者を殴り殺して駆逐してほしいところです

@esotericaone 世界はどうか知りませんが, 日本のソフトウェアのものづくり・ビジネス界隈はどうせデスマーチで死ぬか他のことする余裕なくなるか, ゴミみたいなのしか作れずビジネス的に死ぬかなので放っておけば良くて, 撲殺する努力を彼らの教育と支援に充てるべきだと強弁しましょう

@phasetr このアカウントで詳細は書けませんが, 経営者にメリットを説いて理論寄りの方々 (コンパイラ作者など) の支援がある程度実現できているのが救いです. ソフトウェアはコピーが容易で人類からするとコスパが高い側面があり, 相対的に理論提供側の声が小さいだけかもしれません

コンパイラ作者とか格好いいのでどんどんやってほしい.

Ricci フローと Poincare 予想を議論した Tian と Morgan のプレプリント, Ricci Flow and the Poincare Conjecture

比較的新しめの Ricci フロー勉強用のアレとしてこんなのがあるらしい.

Ricci Flow and the Poincare Conjecture

John W. Morgan, Gang Tian

This manuscript contains a detailed proof of the Poincare Conjecture. The arguments we present here are expanded versions of the ones given by Perelman in his three preprints posted in 2002 and 2003. This is a revised version taking in account the comments of the referees and others. It has been reformatted in the AMS book style.

本来の話として Poincare 予想の証明の詳述ということらしいが, Ricci フローに関する革命的な洞察が含まれているので結果的に Ricci フローの勉強にもなるらしい.

幾何やりたい.

Wikipediaとしては超関数と超函数は別物らしい

Wikipedia で実にファンキーな項目があることをゆいしさんのこの呟きで知った.

超関数 - Wikipedia 超函数 - Wikipedia

前者は知っている人も多いだろう, Schwartz の超関数の話だ. 後者では佐藤超関数ともまた少し違うようで, むしろ超関数に環構造を持たせようという動機からの超関数論が展開されていた. 全く知らないのだが, ロシアとかその辺の人達だろうか. Colombeau による定式化については, 東大の片岡先生の, 自分の研究室を志望する学生に向けたメッセージのところで名前を見かけたことがあったので, 名前だけは知っていたが, もちろんそれ以上は何も知らない.

Schwartz の超関数の定式化だと, 確かに一般に積が定義できない. これはもちろん知っていたが, 逆に環にしたいというモチベーションでの定式化というのは言われてみればそうだが, とても面白い着眼点だった. 佐藤超関数の「自然さ」を求めた定式化とも, 少なくとも意識の上では違うのだろう. 世界は広い.

ささくれパイセンの確率的善導

はじめに

ひさこさんにささくれパイセンの善導が入ったので記録しておこう.

やり取り

もちろんその先も勉強し続けたいし知りたいけど今自分がもっとも勉強したい分野って確率微分方程式だけどはるか先‥‥

@ml_hisako ルベーグやったあと比較的すぐ突撃出来る感あります

@phasetr そうなんですか! 調べたら確率論の本は一冊読んでおかないと厳しいとも書いてあったんですが, "確率"微分方程式と言うとおり, 確率論はやってから進めるべきですよね??

@ml_hisako 最短, ブラウン運動を知っていればとりあえずはどうにかなって, ブラウン運動は連続関数の関数空間論とルベーグ知っていれば出来る感あります. もちろん確率論的に最大に一般的にきっちりやりたいならそれなりに準備いると思いますが. 確かセミマルチンゲールとかいるはずなので

@phasetr なるほど‥‥ワヘイヘイから誕生日プレゼントで probabity with martingales を貰ったのですが索引調べてみたら semimartingale は出てなかったのを見たりするとしっかりやるなら確率論の本や他の分野を勉強しないとならないなと思いました.

@phasetr セミマルチンゲールとか全然知らないです‥‥本当に奥が深いんですね‥‥詳しく色々聞きたいです!! セミナーの際に教えてくださいますか?

@ml_hisako probablity with martingales は和訳の方を持っていますが, あれはあれでブラウン運動とか確率微分方程式系のことにはあえて踏み込んでいない感じ印象です. 扱いやすいブラウン運動で色々遊んでおいてから一般論きっちりというのもあるはずなので

@ml_hisako ちょっと今研究的なアレが楽しくて時間を奪われていて 12 月にやる予定を勝手に立てていたルベーグのアレができず, 多分学生陣のテストを避けて 2-3 月くらいになる予定ですが, その辺りで個人的確率論の復習をかねたアレを何かやりましょう

@ml_hisako セミマルチンゲールとかは全く知らないです. 自分で使う所しか知らなくて, 確率論専攻の人からしたら本当にめちゃくちゃに虫食いです. ただブラウン運動と伊藤積分, Feynman-Kac は酷使するのでやる予定です

@phasetr 確率論のですか!? ありがとうございます!!! 今は貰った本をきちんと読み進めて行きたいとおもいます!! 少しでも確率論ができるように頑張ります.

@phasetr @ml_hisako 横から失礼します. (いちおう) 確率論専攻の者です. セミマルチンゲールの話は (要するにマルチンゲールを用いた確率積分の理論) 確かに綺麗ですが最初はブラウン運動を用いた確率積分の理論で感じを掴むのもいいと思います

@ysgr_sasakure @phasetr リプありがとうございます! 今はルベーグ積分入門という本と probabity with martingales という本を並行して読んでます (始めたばかりですが) 2 つの本を読み終えたら色々相談したいです! よろしくお願いします!

@ml_hisako @phasetr 伊藤清三とウィリアムズですか! 後者は代数の申し子ワヘイヘイからプレゼントされたそうで. あの本のマルチンゲールと一様可積分のところをしっかりとやっておけばセミマルチンゲール (というよりは局所マルチンゲール) についてやるときに非常に楽ですよ

@ysgr_sasakure @phasetr ブラウン運動の確率積分ということは確率過程の話もやらないとということですか? (知識がなくてごめんなさい) やるとなると本当にやること膨大ですが, 知りたい欲が掻き立てられます.

@ml_hisako @phasetr 多分ここで言っている確率過程の話は, マルコフ過程やレヴィ過程の知識は必要なのか, ということだと思うけど, 特にそんなことはないです. ブラウン運動を使う場合は正規分布や独立性が非常に大事ですが, その際特性関数が非常に役立ちます

@ysgr_sasakure @phasetr アドバイスありがとうございます! そこをやる際には注意したいと思います. 全然わからないことだらけですが, よろしくお願いします.

コメント

ふと思ったが, 確率微分方程式, そういうのが本当にあるのかと思っていたら実は確率積分方程式を印象的な記法で書いているだけのもの, というのではじめて聞いたときびっくりした. 確率偏微分方程式は何なのか全く知らないが. 確率積分方程式とはいうがそれならそもそも確率積分とは何ぞ? というところで確率積分, 伊藤の公式やらが出てくる.

確率積分は確率過程に関する積分論だが, ここで確率過程の特性としてマルチンゲールだの何だのと出てくる. セミマルチンゲールのレベルが (私が知る限り) 一番一般的だが, もっと簡単・具体的でかつ大事な例として Brown 運動がある. これと $P (\varphi_1)$ 過程や Ornstein-Uhlenbeck 過程, Gauss 超過程のあたりが私にとっての基本だ.

学生時代, 作用素論と作用素環で手一杯だったとはいえ, 少し講義に出たくらいで全く身についていなかったつけが今来ていて, 泣きながら確率論を勉強している. 確率論というか確率過程を基礎からきっちり勉強した方がいい気もしていて, 適宜何かいい本を探してもいる.

Twitterまとめ: 非可換確率論と自由確率論

非可換確率論

この世界には非可換確率論というよく分からない確率論がある. 代数的確率論という言い方もある. その昔「確率論は代数ではないのですか」という人もいた (数学まなびはじめにそういうエピソードがあった) ようなので, わざわざ「代数的」というのをつけるというのも隔世の感があるのかもしれない. (ちなみに代数的というのはいわゆる高校でやるような内容を想定してそういう発言になったようだ. 詳しくは数学まなびはじめ参照.)

Twitter でそれについて少し話をしたので簡単にまとめておきたい.

やり取り

確率論モチベを高める必要がある.

@ccccccccandy そこで非可換確率論

@alg_d @ccccccccandy 代数的確率論の地平

非可換確率論って, 確率変数のなす環を非可換にするやつ?

@LT_shu 私が知っているのは, 可換なフォンノイマン環は大体 $L^\infty$ になり, 可測集合の情報を持っているという所から非可換なフォンノイマン環あたりを基礎に議論する話です. 実際非可換ラドンニコディムとか非可換条件付き期待値というのがあります

@phasetr 自由確率論というやつですよね. お話として聞いたことはあります.

@LT_shu 自由確率論はまた少し違います. 自由もフォンノイマン環使いますが, 非可換確率論といった時には, 極端にいえばフォンノイマン環論そのものを指すことすらあります. 私が知っている範囲では結構大雑把な言葉です

@phasetr ああ, 違うのですか. 勘違いしていました. ありがとうございます. フォンノイマン環論全体を指すというのは確かに大雑把ですね. C*環論全体を非可換幾何学と呼ぶようなものでしょうか.

@LT_shu そんな感じです. 非可換な位相幾何学とか本当にいうことがあります http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/msj02.pdf

非可換確率論

まず非可換確率論だが, 基本的にはあまり厳密な意味付けはない. ひどい場合 von Neumann 環論全体を指すことすらある. ここで何故 von Neumann 環なのか, というところだ. 上にも簡単に書いてあるがもう少し説明しよう.

フォン・ノイマン環は$C^*$-環でもある

まず von Neumann 環は $C^$ 環になる. 可換な $C^$ 環は局所コンパクト Hausdorff 空間上の連続関数環と同型になる. $C^*$ 環はノルム位相を入れてあるが, von Neumann 環には弱位相 (可換なら気分的に各点収束) の位相が入っている. von Neumann 環は連続関数の各点極限になるので, 大体可測関数くらいになる.

本当に $L^{\infty}$ (と同型) と言いたいなら測度の選択も大事だが, Riesz-Markov-Kakutani の定理があり, 測度がたくさんあること自体は分かっているので, 頑張って適当に選んでくれば, めでたく可換な von Neumann 環が $L^{\infty}$ と言える.

自由確率論はVoiculescuが自由群因子環の分類をするために考えた理論だ. 自由群の生成子の数とその自由群から構成されるvon Neumann環の同型問題が昔からあるので, そこへのアタックのために考えられた.

適当な意味で非可換な確率論を考えてはいるのでこれも非可換確率論なのだが, 大雑把な言葉である非可換確率論よりは指す対象が遥かにはっきりしている. 今はどうなのか知らないが, 数年前に聞いた限りでは解析的にかなりえげつない議論をしていた. 名前などは忘れたが, 理論上重要な量が極限を使って定義される. その極限自体の存在はまだ分かっておらず, 暫定的に limsup を使って議論していた. 大偏差原理のレート関数としてエントロピーが出てくるとかいう話もある. 楽しそう.

「自由確率論を使った統計力学」というネタもあるらしい. あくまで数学としてそれっぽいことやってみよう, という話で物理の話ではないという認識.

Twitter まとめ: 物理的な見通しの良さと数学的な見通しの良さの狭間で儚く揺れる恋心

はじめに

Twitter では度々言っているし, 特に「数学をしたいなら数学科に行け」と言っているくらいだが, 数学的にきちんと物理をやるのは修羅の道と言える. その辺についてちょっとやりとりしたのでこちらにも転記しておきたい. この辺からはじまる.

引用

物理してないけど興味はある, でも誤魔化されてるの嫌いなので 数学でちゃんと厳密にやるために数学しかしてない私の進路を決める面談誰かしてほしみ

@t_iru ごまかしと思うからまずいのでは. 物理がやっているのは物理であって数学ではないので

@phasetr そうですね, 誤魔化しというのは少々語弊がありますね 例えば普通に物理やっているだけでは使わないような数学的な手法を用いると見通しが良くなったりすることがあるじゃないですか そういうのが非常に気になります

@t_iru 数学上の見通しと物理上の見通しというのもあるにはあり, また少し凝った数学使うとクリアになるとしてもその学習コストが高いなら手持ちの道具で処理できる方がいい, というのもあります. 何でもかんでもいい数学使えば綺麗になるというわけでもなく, 泥臭い計算厭うのも良くないので

@t_iru 結局程度問題というところではありますが

@phasetr そうですね, どこかで線引きしなくちゃいけない以上程度問題ではあるのでしょうが まだまだ勉強不足なために先が見えなくてやりたいことの焦点を定められないでいるという感じです

@t_iru いつも言っていますが, 少なくとも数学的に厳密に, といい出すと学部三年の時点ではもう確実に数学が物理に追いつかなくなります. 研究ベースの話になるので, 物理のためには数学にこだわっていられなくなります. 最後は趣味なので

@phasetr そうなりますか…今年中にはある程度進路を決めてしまいたいので, 一年間勉強してみて自分に合ったやり方をゆっくり考えることにします 貴重なお言葉ありがとうございました

@t_iru 物理的な明快さと数学的な明快さ, あまりいい例えではないですがこんな感じ: 数学でもすっきりした証明だが何をしているのか分かりづらいので, 意味がはっきりする別証明をつけてみよう, とかあるでしょう. 数学的にクリアでも物理として気分が分からない議論, 物理だとやはり嫌ですね

@phasetr 物理的な意味付けができないと困るというのはなんとなく分かります 確かにそういうところを大切にするスタンスは物理では重要になってきますね

加藤和也, 『$p$ 進 Hodge 理論とゼータの値』

はじめに

我らが加藤先生のPDFがあったので共有しておきたい. 『$p$ 進 Hodge 理論とゼータの値』と題された文章だ. 手書きで味わい深い.

1 章 城崎と宇宙

1 章がいきなり「城崎と宇宙」となっていて攻撃力高い.

P.1

仏教の法のことは全く理解していない筆者であるが, $p$ 進 Hodge 理論のような数学の深い法もまた, この温泉寺の大気の中に, 千年も億年もきらきらまじり入って, 人間や生物の生活とともにあったにちがいない.

このあとにも破壊力の高い文言が並ぶ. 是非読んでみてほしい.

P.1-2

筆者は [ 4 ] において, 鶴の恩返しの鶴の思いが, 宇宙の期限を考える鍵であることを書いた. そこには, 鶴女房のみならず, 蛇女房や雪女もあらわれたのであった. (その後こぶとりじいさんまであらわれた時は筆者もさすがにうろたえたが, こぶとりじいさんについてはまだ論ずるに至っていない. ) それらを書きながら, 当時の筆者は自分でもちょっとついてゆけないものを感じたが, 今はちゃんとついてゆけるし, 実に自然なことのように思える.

もうどうしたらいいのか分からない. 上記引用後も実に味わい深い一文があるのだが, 書き写すのが面倒なため省略する.

P.2

筆者は狂ってしまったのであろうか. いまだ狂い足らざることを恥ずるのみである.

15 ページある中の 2 ページ真ん中あたりなのだが, もう全文引用したい気分にかられる. Fontaine が「グルノーブルの狂人」と言われていたらしいことを知る夏だった.

最近, 息子とディズニー映画「美女と野獣」を見た. この漫画映画を「原作の味をそこなった」と嫌うかたもおられるけれども, 私はすばらしいと思う理由は, 主人公の娘さんもその父親もいかれていて, 映画はそれを力強く支持していることである.

城崎がどこにいったのかよく分からないし大宇宙を感じた.

2 章 $p$ 進 Hodge 理論とゼータの値

P.3

数論は, ある数が有理数か無理数か, ある素数で割り切れるかどうか, とか, 非常に微妙な話をとうとぶのであるが, $p$ 進 Hodge 理論の方は, 代数多様体なら何でも持ってこいという, 細かい所は気にしない性格である.

だそうだ.

3 章 宇宙は心?

タイトルからしてパンチ力が高すぎてすごい.

複素関数として定義されるゼータにとって, 大変苦手な, $p$ 進 Hodge の山道を, ゼータは与ひょうに会うために切ない思いをもって, 必ず越えてくる. (鶴が娘に姿を変えたように) $K_2$ の中の「ゼータの化身」に姿を変えて.

ゼータに心を感ずるのは, 単に我々の心を投影しているだけだという人もあるかもしれないが, 実は逆に我々の心が, ゼータの心の投影かもしれないことはいうまでもない.

いうまでもなかった.

上野健爾さんに, 「宇宙は物質だから…」と筆者が話しかけたとき, 「宇宙は物質ですか? 」と疑問を投げかけられてしまったことがあった. 上野さんのお考えは, 筆者ごときの推しはかれるところではないが, すると宇宙は「心」なのであろうか.

数学を学ぶとこんなに論理的になれるので, 論理力の涵養に役立つ.

P.5

宇宙 = 心 = ゼータ

なのであろうか.

中略

………… = モスラ

とさっきの等式は続くのであろうか.

ちょっともう全文引用になってしまって色々とアレなのだが, とにかく胸を打つ言葉, 文章が並び続ける.

4 章 ワープ航法の発見

各位は P.7 のワープ航法の図を見ておくように. もう記録しながら読むような精神状態にないゆえ.

P.7

この, 複素平面の中を通っていかない $s=0$ から $s=1$ への移動こそは, explicit reciprocity law によるワープ航法であり, 千年のうちには宇宙旅行に実用化されるように思える.

宇宙工学を学んでおくべきだったと悔やまれてならない.

引用文献にモスラの歌がある文献をはじめて見た.

最後に童話が引用されて終わる.

少し余白があるので, 小学校 1 年の息子の国語の教科書にある, 感銘を受けた童話のあらすじを紹介する. (松谷みよ子作. )

中略

(原文はとても美しい. 昔の国語の教科書には, こんな良い話はのってなかったような気がする. )

これが数学だった.

東大の古田幹雄先生による『大学院で幾何の勉強を目指す学部生の方たちへ』という PDF を発見したので共有しておきたい

東大の古田幹雄先生による『大学院で幾何の勉強を目指す学部生の方たちへ』という PDF を発見したので共有しておきたい. これだ. 色々なところで再三言っているように, 幾何がさっぱりなのは恥ずかしい限りなので, 私も参考にしたい.

他にもBernstein の定理, Zorn の補題, 濃度の演算, Tychonoff の定理の二つの直接証明, 正規, パラコンパクト Hausdorff, 1 の分割なども PDF があった. 興味がある向きは読んでみるといい.

ちなみに東大数理の教官というご多分に漏れず, 古田先生も (業績的な意味で) 凶悪な教官だ. 4 次元多様体での 11/8 予想というのがあるのだが, そこでも非常に顕著な仕事をしているようだ. ここで紹介されているが, 10/8不等式というのがある. 正直私は評価能力ないのだが, 『数学の50年』で松本先生が滑らかな 4 次元多様体での 3 大定理の 1 つと言っている.

11/8 予想は今の 4 次元トポロジーでの 2 大問題とのこと. そこに関して現在最強の結果を持つのが古田先生だ. その他にもゲージ理論に関していい仕事がたくさんあると聞いている.

田崎さんと原さんは早くIsingの本をまとめた方がいいのでは, と思った方の市民

はじめに

数学的な統計力学の本とかいうアレがあったので.

引用

数学的に書かれた統計力学の本読みたみ

@slip001 このツイートしばらくしたら相転移 P のリプライが来そうな気がする笑

@wr_r イケメン相転移 P さんからのリプレイとかうれしい

@slip001 @wr_r 学生のころ田崎さんに聞いたことがありますが, 最低限私よりも数学できないと読めないような本で, しかもめちゃくちゃ読みにくい本しかないです. 強いていうなら新井先生の本ですが, あれは「量子統計の数学」であって「数学的な色彩の強い物理の本」ではないので

@slip001 @wr_r 滅茶苦茶読みづらいといったのがhttp://www.amazon.co.jp/dp/9810238622です. 田崎さんが若い頃からある本ですが, 碌なものではないのでお勧めはしません.

@slip001 @wr_r http://phasetr.blogspot.jp/2013/11/4.htmlにある Bratteli-Robinson が量子統計の数学で一番有名でかつ読みやすい本です. ただ数学科レベルで関数解析できないとだめで, 量も膨大なので拾い読みできるだけのモノがないとつらいです

@slip001 @wr_r 近刊とうわさの田崎・原のイジングが一番読みやすい (読みやすくなる) はずです. もちろんイジングに特化した話になりますが, 相転移・臨界現象を学ぶにはいいはず (と信じている)

@slip001 @wr_r Bratteli-Robinson は私も必要なところしか読んでおらず, それも本当に適宜つまみ食いという感じが強いです. 必要なのである程度はまとめて読んだところとそうでないところの差が激しいので. 原・田崎の完成を待つのが一番無難という感

@slip001 @wr_r あとおそらく一番根本的な問題として, 基礎的な部分で色々な数学的困難を抱えていて数学的にきちんと議論できる統計力学の話題自体ほとんどないので, 最低限の勉強をした後はもうほぼ研究ベースの話になってしまうでしょう. それも物理としては無残なのに数学的に辛い話

新井先生の量子統計の本はこれ.

Ruelle のがこれ. ただ, 読むのはやめた方がいい.

以前関連する動画も作ったので, 興味がある向きはご覧頂きたい.

コメント

あとこの辺.

(量子) 統計がどれだけつらいかというと, 平衡状態の定義をするだけで作用素環の至宝, 冨田-竹崎理論が必要になるというところ. 今となってはそこまで絶望的に学習が困難という話ではないが, 物理的にあって当然の概念のために作用素環の基礎理論を 1 つ用意する必要がある程度に処理が面倒というアレ

@phasetr あと修士修了後しばらくやっていて全然できなくていったん止めた話だが, ハバードモデルの基底状態の存在とかもかなりきつい. 要は具体的なモデルを何か取ってそれを詳しく調べましょうみたいな話も格子模型のレベルでほぼ絶望. スピン系が扱えることが既に奇跡と言っていいのでは感

@phasetr 基底状態の存在という話では, 場の理論での【発散の困難】的な話題も絡んでくるし, 物質の安定性の観点からの基底エネルギーの評価 (エネルギーの示量性とも関係) とか, 基本的なところで問題山積みでどうにもならない

@phasetr 「基礎が分からなくても応用はできる」というアレがあるかもしれない, と思われても, 具体的なモデルの解析はもっと難しいので手がつけられる簡単なところから, というそこの段階で詰まっているのが現状なのでどうにもならない

@phasetr むしろ問題をいくつかあげるから研究してほしい

コメント

本当, 誰か研究に協力してほしい.

確率論と偏微分方程式論: Feynman-Kac, 流体力学極限, Stochastic Loewner equation

ちょっとひさこさんと話したのでせっかくだからメモしておこう. 確率論と PDE という感じのところの話をしたのだ.

Feynman-Kac という伝統的な話題もあるが, 最近は日本だと舟木先生が特に精力的に研究している内容として流体力学極限という話題がある. 慶應理工(当時)の佐々田さんによるPDFを張っておこう. これ自体はよく知らないので興味がある向きは色々調べてみてほしい. 舟木先生が本を書いてもいるので, それを見るのもいいだろう.

起源が流体にあるだけで放物型など色々な PDE との関係があるということくらいは調べた. ちなみに上記 PDF を書いている佐々田さんは博士を 1 年で終わらせて即ポストも取った優秀な研究者で確率論の若手のホープだ. PDE と確率という話では, SLE と共形場 (Werner の Fields 賞) など, 相対論的場の量子論や統計力学などの物理を絡めた展開もある. 立役者は Werner というよりも Schramm なのかもしれないが, Schramm はとりあえず Fields 時には年齢に引っかかっていたはずだ. Poincare 賞はもらっている. あと Schramm は山岳事故で亡くなっている.

全然関係ないが, 東大数理で Werner の講演会があったので聞きに行ったことがあり, そのときのエピソードを記録しておこう. 休憩時間にコーヒーを飲んでいたら, たまたま傍に現在京大でその当時東大に行た吉川謙一先生が, 「Werner の書くランダムっぽい曲線は正にランダムっぽくて, さすが確率論の人ですね」と言っていた.

売れているというので『語りかける中学数学』を買ってみたがちょっとまずそうなので対応を考えたい

ちょっとした地獄を発見してしまったので.

10 万部売れているからというので【語りかける中学数学】を買ってきた. この本というか著者, 「 0 は自然数ではない」と言い切っていたり, 高校数学版の本ではじめのページから素数の定義を間違えていたり循環小数と有理数を明らかに別物と認識しているようだ. 著者の数学理解, 相当やばいのでは

@phasetr いまもう少し進んだ箇所を読んだら一応「注:1 は素数ではない」と言う記述があった. 定義そのものにその旨書いておかないとまずいだろう. あと「小数点以下は無限小数ゆえ」みたいな「高校数学方言」どうにかならないのだろうか. この日本語本当に気持ち悪い.

@phasetr こういうのが求められているというのはとりあえず認識した. 折角買ったこともあるしきちんと読もう

@phasetr 高校数学界で暮らしていますが, その方言は聞いたことがありません (私が教科書をほぼ使わないからかも). いずれにせよ, その本はヤバそうですね.

@phasetr ただ「 0 は自然数ではない」の説明, 日本語主観の感覚 (「日本語で鉛筆が 0 本あると言いますか? 」というよくあるアレな説明) でしか説明しておらず, 明らかに認識不足. ここだけは本当に訂正を要求したい

@anbyk 「〜より」とか「〜ゆえ」と言う表現, 私が高校の頃にもよく見かけましたがずっと気持ち悪い言い回しでした. 「〜となることより」くらいなら分かりますが普通の日本語文章では (私は) 見たことがない表現, よく見ます. あと put や set の直訳の「〜とおく」, ずっと気に入らないです

@anbyk かなりやばいと思いますが, 10 万部売れているとのことで数学の本としては相当な売り上げではないでしょうか. これ, 結構怖いです. 10 万部売れているのだからマーケティングの勉強として読んでおけと言われたから買ってみたのですが

@phasetr 何か本当に怖くなってきた. 黒木さんの恐怖の片鱗を味わっていると思って本当に震えている

@phasetr スラムダンクの山王戦で晴子が「何だか怖くなってきた. 今までお兄ちゃんが積み上げてきたものが全部壊れちゃうんじゃないかって」と言いながら泣いている情景を思い出して思わず涙が頬をこぼれた

追加で少しやりとりしたのでそれも記録しておこう.

私, この参考書持ってるけどなんか読みたくなくなってきた. .

@anmitsu_0602 まだはじめの 10 ページ程度までしか読んでいませんが, 問題の解説自体は丁寧なようなので使いようでしょう. 適切に使うにはそれなりにしっかりした人に聞ける環境が必要などと言われたらそれまでなのですが

@phasetr 私もまだ全然読んでないんですよ! 売れてる参考書? だから買ってみたけど…ちょっと目を通してみますね

@anmitsu_0602 恋人の方がそれなりにカバーしてくれるかもしれないようなので, あまり心配しないでも良い環境だと思います. 分からなくても死ぬわけではないのでのんびり適当にやって頂ければ

あとこれ.

えっと, 数学苦手な私からしたらこの参考書は非常に丁寧で分かりやすくて面白くて重宝しています. 多分この参考書は数学が得意な人向けではなく苦手な人向けなのだと思うのです だから, 曖昧なところをはっきりとおっしゃっているのではと考えます

@sixyakutorimusi 書いた範囲でもおかしいポイントが違う事項がありますが「曖昧なところをはっきり」というのは違います. 特に素数の定義は「はっきりさせるべき所が曖昧」です. 循環小数と有理数は見かけだけが違うのを違うと言い切っている形なのではっきりと間違いです

@sixyakutorimusi 「 0 は自然数ではない」の説明にあった「日本語で鉛筆が 0 本とは言わない」は英語で「 There is a no pen.」と言う表現があり, これは正に 0 本と言う表現です. 英語では地上階 (日本語の 1 階) を 0 階 (ground floor) といいます

@sixyakutorimusi 何から何までまずいと言っているのではありません. 問題の解説は軽く見た限りでも非常に丁寧ですし, 誤答を中心に分析・解説するというのはかなり優れた方法で, 私も実際の講演や作成した教材で使っている手法です

@sixyakutorimusi 表面的な部分では恐らく非常に強力です. だからこそそれでしっかり勉強した人たちが変な部分まで身につけてしまうことを恐れています.

@sixyakutorimusi ついでなので書いておくと, 素数の定義に「 1 以外の自然数とする」というのはかなり本質的です. 「素因数分解の一意性定理」は陰に色々な所で使いますが, 1 を素数にしてしまうとそれが崩れます. もちろん工夫すればきちんと使えますが,

@phasetr さんへ 長文解説ありがとうございます! 私の理解力が足らず完全には理解できてはいないと思いますが, ひとつの参考書を鵜呑みにしたりしないよう心がけたいと思います

@sixyakutorimusi 結局それが凄く大変なので定義レベルで 1 を素数にしないのが普通です. その辺の面倒さを説明するといやがる人もいるだろうから初学者向けには適当に済ませた方がいいかもしれないというのは想像つきますが, 曖昧なので注のレベルではなくやはり明示的に書くべきです

@phasetr さんへ なるほど

@sixyakutorimusi 解説が丁寧な本が少ない (らしい) というのは間違いなく, それを埋める本当に非常に意欲的な本で素晴らしい取り組みだと心から思っています. 実際売れている分それだけ影響も強く, 明らかでしかも根本的な間違いの影響が強くなってしまうのを心配しています

@sixyakutorimusi 1 人でやる (数学は皆嫌いなようなのでおそらく 1 人でやらざるをえない) 状況ではかなり頼りになるはずです. 「それ大丈夫? 」みたいなことがあったときに本ばかり信用しないで自分の感覚の方にも信を置いて確認するようにしてください

@sixyakutorimusi 私も本を持っていますし, 何かあれば出来る範囲でお手伝い橋帯と思っています. そのときの状況によるのですぐに返せるかは分かりませんが, 質問なり何なりして頂いて構いませんので

@phasetr さんへ おかげさまでこの参考書の良い点悪い点が非常によく分かりました! これからはこの参考書をできるだけ自分のためになるように使っていきたいと思います

@phasetr さんへ わかりました!

@phasetr さんへ あ, ありがとうございます!

私も私で頑張ろう.

Gaussian superprocess and its application to Quantum Field Theory: Sasakure Seminar

先日, 東工大でささくれパイセンを主な対象として開催した小セミナーで, 「Gaussian superprocess and its application to Quantum Field Theory: Sasakure Seminar」というタイトルでお話してきた. Gauss 超過程は場の理論へ応用できるのだが, そこに関する話.

難しい話はせず, ボソン Fock 空間と緩増加超関数空間上の $L^2$ (確率空間) のユニタリ同値性について話してきた. 幾何や数論への応用へもあるのでそこまでどうしようもないほどマニアックで孤立した話題でもない, ということも説明. これから研究でも使う予定なので, それに合わせて復習にもなった.

証明は飛ばし飛ばしだが, (可換) von Neumann 環を援用する, 確率論ではあまり見ないであろう話や, Gauss 超過程の存在証明などポイントポイントはおさえた話をした. Gauss 超過程の存在証明は Tychonoff から Hahn-Banach, Stone-Weierstrass を介し, 最後 Riesz-Markov-Kakutani で締めるという関数解析の至宝を並べた証明で, 解析陣の心を掴んだ.

まだ一本目すら出ていないが, これも動画 (DVD) にしたい. やりたいことがたくさんある. ご興味があるという向きはご連絡頂ければ適当にお話に行くことはできる.

「数学的」という言葉を「格好いい」の意味で使っていこう

本文

「数学的」という言葉を「格好いい」の意味で使っていこうと提言したあとのくぼたさんの反応が面白かったのだが, くぼたさんがアレな人に絡まれていて号泣した. まずは自分の発言をメモしておこう.

@各位 何か「格好いい」的アレの表現として「ロック」「クール」みたいなのを良く使うのがこう色々気に食わなかったのでいい表現がないかと模索していたところ, 「数学的」と言う表現が良さそうだと思ったので, 今後「数学的」と言う言葉を上記の意味で濫用していく予定なのでそのつもりで

@phasetr もう少し正確に言うと, 数学的というのは普通の意味でも使うが, 「社会的」とか「公共的」のようにそれ以外の意味でも平行して使って行くのでこう色々と注意してほしい程度の意味だ

@phasetr どうしてかわいいにしなかったのか

@mitsuomi_miyata アレは本当にかわいい本来の意味で使いたいので

@phasetr 相転移 P のかわいいの範囲の広さに太平洋を感じますね.

@mitsuomi_miyata 所詮有限の広さ

@phasetr はい

@phasetr 数学的ジャパン

@MarriageTheorem それはあまり数学的ではないのでは

@phasetr すみません, 勢いだけでした

くぼたさんの発言

そしてくぼたさんの発言からのアレはこちら.

現代美術とか現代音楽で「数学的美」とか評されてるのを見ると「数学をすればいいのでは・・・」感はある

@kbtysk33 数学をする能力がないんです. かんべんしてください.

@toltaroppo でも別の言い方を探したほうがいいような気がしますけどね・・・

@kbtysk33 憧れなんだよ (〓〓;)

@kbtysk33 実際, ほかの言い方探せよって思いますけどね…

@toltaroppo それは僕もです・・・.

@kbtysk33 物理学やってる人間としても安易にその言葉を使いたくないので別の言い方探してますが, なかなか見つからないんですよね….

@kbtysk33 それは勘違いですよ. 分かり易いのが Bach の曲で, 数学的というより「数列」「漸化式」に変換できるのが特徴です. 高校数学の範囲でも十分にモデル化できますよ. 数学をする能力と言うけど, そんなの「高数」「大数」で復習すれば良いだけですよん♪♪

@howtodominate バッハの話ではないですよ

@kbtysk33 例えば liberal arts の語源は, かつて中世 (正確には古代ローマ) に作られた一般教養と専門教育なんです. 一般教養ではラテン語の文法・修辞 (作文) ・論理学が教えられ, それを通過した者だけが後期の算術・幾何学・天文学・音楽を教えられていたという歴史が

@howtodominate 現代の芸術の話ですからそれをいまシンプルにうつすのは素朴ではないかと

@kbtysk33 長く書けないのが Twitter の欠点だな (笑) 要するにラテン語 3 学科が「三科」と呼ばれ (実は院生つまり研修医にはこれを毎週叩き込んでいる), 後期の「四科」は全て数学の基礎と応用だったんですわ. septem artes liberales 「自由七科」という,

@kbtysk33 7 つの学問は「奴隷の技術」ではなく, 「自由人にふさわしい学問」ということです. そしてこの教養部で 7 科目を履修しないと, 神学部・法学部・医学部へ進学できなかったのよ. コペルニクスとか昔の偉い学者はこの 3 つの学部で博士号取ってたのが普通なんです.

@howtodominate さすがにその程度のことは知っていますが…

@kbtysk33 とりあえず, 基礎的な科学史や科学哲学について書かれた, ブルーバックスでも読まれたらどでしょうか. Ph.D を数学で取ったからじゃないけど, あんまり毛嫌いしないで欲しい. 実は患者にできる高 1 の女の子がいて, 今度数学オリンピック受験します. 特訓中.

@kbtysk33 でも, 現代芸術も「数学的直感」が必要なのは事実じゃないですか. 基本は同じです. 私もそれなりに音楽や美術やってた人間なんで. 一応, 一級構造建築士とか持ってますよ. これこそ, 数学・物理とアートのユーゴーです. 前のツリーを見ていて, 偏見多いなと思って.

@kbtysk33 その程度って, どの程度? 私, わざとラテン語で書いてないんですけど. つまり日本語で書いたこの用語は翻訳としては不適格だけど, しゃーないかなと思って書いてるだけです.

@howtodominate 芸術学には蓄積もそれなりにあるのでそんな単純なものではないです

@howtodominate いや歴史認識がです.

@kbtysk33 そんな単純なもの, と言い切れるのでしょうか. ずっとツリーを見ていて, 気になったんだけど. 何だか, 議論するだけ無駄のような気もしている. 知ったかぶりだから.

@kbtysk33 ところで, 芸術学とは何の事でしょうか (笑) 仏文だと例えば記号学とか美学・美術史のような哲学の一分野がありますよね. 例えば Umberto Eco とか読んだことある? イタリア語だから無理かも知れないけれど. 岩波から和訳が出てなかったかな. いくつか

@kbtysk33 じゃ, 聴くけど, あなたの「歴史認識」って, 具体的にどういうものなの? 仏文でいいから書いたものがあれば url 教えて欲しいな. 大ていの言語は読み書きできるので, ロシア語でもアラビア語でも構いません

そんな話していない感満載で社会性溢れるやり取りだった. あと【大ていの言語は読み書きできるので, ロシア語でもアラビア語でも構いません】はやばい. 文学やっている人間に対してここまで言えるの, 各言語が持つ文化や歴史に対して相当深い理解がないと言えないはずだが. 何なのこの人.

軍服イメージのワンピースとサーストンの幾何化予想とパリコレと

はじめに

軍服イメージのワンピースなるものがあるらしい.

軍服イメージのワンピースほんとに可愛いなぁ♡ 欲しい http://pic.twitter.com/ZxPlOj9GQ4

@felisi28 これは どこのブランドですか? とってもかわいいですね

@57mainichi 可愛いですよね

@felisi28 なぜ haco のものと仰っているかは分かりませんが, 全く別のブランドの商品です. 画像もこちらのものですよね? http://yaplog.jp/f_l_a_s_c_o/archive/687

@felisi28 まだ買えるもの なんですかね? 探してみます♪ ありがとうございました

@veck228 EXCENTRIQUE のものですね! ご指摘ありがとうございました

@felisi28 こちらこそきつい言い方をして申し訳ありませんでした. エクサントリークもハコも好きなので, ツイートを見て混乱してしまいました. 訂正いただきありがとうございました.

@veck228 ありがとうございます エクサントリークのファンの方にはとても失礼なことをしました… 私も haco.が好きで, 以前見たワンピースに似ていた物があったので勘違いしていたんです

幾何化予想とパリコレ

幾何化予想とパリコレというのもあるし, 何かこういうのほしい.

イッセイ・ミヤケの 2010 秋冬パリコレのこと その 2

さて, N スペのポアンカレ予想の番組は広く一般に好評を得たようですが, その中で「サーストンの提唱した 8 つの宇宙の形」という話があります.

数学のほうからざっくり言うと, 3 次元幾何学には 8 種類あって, 3 次元多様体はそれらの合体したものになっている・・・というのがサーストンの幾何化予想なわけです. 幾何化予想はペリルマンによって証明されました. ポアンカレ予想は幾何化予想の簡単な系として得られます.

こういう話をテーマとしてファッション (デザイン) に盛り込ませて, 次回のコレクションをやってみたい, という壮大な計画です.

藤原さんは, 僕のところに来る前に, サーストンに会いにアメリカまで行って, また小島定吉先生 (東工大) のワークショップをやっていたとのことでした. いうまでもなくお二人とも双曲幾何, 3 次元幾何の世界的数学者です. サーストンからはみかんを剥いた皮の形や銀杏の葉っぱの形から (2 次元の) 幾何学 (等質な曲面) が得られることを聞いてきたということでした. 小島先生からは双曲タイリングで作る閉曲面を布のパッチで作るスタディ (=ためしに造形してみること) をやったそうです.

Twitter まとめ: 数学の作用素論と数理物理の作用素論

Twitter

数学の人がいう作用素論と数理物理というか量子力学周辺の作用素論は少し違う. 知っていることについて少しまとめておこう. 私は数理物理というか量子力学, 場の量子論周辺の作用素論の人間であり, 数学側の動きを完全に知っているわけではない. 実際にはもっと色々あるだろうから, 参考程度に思ってほしい. このあたりからはじまる.

作用素論っておもしろそうなにおいするけどいまいちどんなのかわからんぽん

@yuki_migo 数学の人がいうところの作用素論は有界作用素の話のようですね. 正規作用素というのがありますが, それを一般化した hyponormal とかそんなのを議論したりする模様. 日合-柳の本に多少書いてあります. その他には行列不等式とかその辺も多分作用素論

@yuki_migo 物理系というか私の周辺の作用素論だと, 量子力学とかその辺の具体的なハミルトニアンの解析をします. 坊ゼミではその辺の話をします

日合-柳本

上に引用した日合-柳の本はこれだ.

4 章までしか真面目に読んでいないのだが, 非常にいい本でそこまででも十分に価値がある本だ. 証明も丁寧に書いてあり, とても良い本なので紹介しておきたい.

前書きにもある通り, 作用素環関係の話題はほとんどないがその方面にいくとしても役に立つことはあるだろう. 日合先生の方は実際に作用素環もやっている. Hilbert 空間中心なのだが, 1 章では Banach 空間のこともきちんと書いてある. 関数解析の基本的な定理は全ておさえてあるので, これで関数解析の勉強もできる. その場合は付録もきちんと読む必要があるけれども. あとで書くが, この付録がまた良くできているので付録も絶対に読んでほしい.

2 章から作用素の話に入る. ここからは特に『量子力学の数学的構造』の 1 と重なる部分が増える.

「量子力学の数学的構造」との比較

上掲書よりも議論がすっきりしているので, 読みやすいと感じる人もいるだろう. ただポイントとなるスペクトル定理が『量子力学の数学的構造』と『ヒルベルト空間と線型作用素』で違う証明になっている. どちらとも味があるが, 私は『ヒルベルト空間と線型作用素』の, Riesz-Markov-Kakutani の定理を使う証明方が気に入っている. 『量子力学の数学的構造』の方は余計な道具を持ち出さないストイックな感じで, それはそれで良い. 両方勉強しておくとなおいい. あと『ヒルベルト空間と線型作用素』の方は有界作用素の functional calculus に関する議論が役に立つ. これは作用素環でも非常に役に立つ議論なので, これで慣れておくと便利だ.

日合柳の 3 章

3 章はスペクトル定理だ. 作用素論の至宝であり, 量子力学への応用上も決定的に重要なのできちんとやってほしい. 『量子力学の数学的構造』では 2 巻にまわっている Stone の定理も一緒に証明されているところがまたいい.

日合柳の 4 章

4 章はコンパクト作用素の話だ. 量子統計などで形式的に使うことはあるが, 実際にはあまり使えない. ただ, 一度はきちんとやっておくべき内容ではある. Fredholm 理論は応用上色々なところで出てくるようだが, そういうところでも使える. 超対称性とかそういうところで出てくると聞いている.

日合柳の 5-6 章

5-6 章は作用素論の進んだ話になる. あまり真面目に読んでいないので書けることはない. ただ, 今, 作用素論で研究されていることの基礎的なところに触れているようなので, そこに興味がある人は学んでおくときっと役に立つのだろう.

日合柳本の付録: とてもいい

そして付録だが, これが恐ろしくいい. Hahn-Banach, Riesz-Markov-Kakutani, Krein-Milman, Stone-Weierstass, Gelfand-Naimark の定理という, 関数解析の至宝とも言える定理が非常に丁寧に議論されている. Riesz-Markov-Kakutani の定理は汎関数が積分で書けるという一連の定理の基礎となる話であり, 証明も込めてきちんと学んでおくべきだ. 「正値超関数は測度である」という超関数論の有名な定理もこれとほぼ同じ証明だ. 他にも確率論で Brown 運動を構成するときにも使える. Krein-Milman は端点集合に関する話で, 作用素環で純粋状態の議論をするときに魂となる.

話がずれまくって『ヒルベルト空間と線型作用素』の書評になってしまったが, よい本なので関数解析の初学者にも最適なので, 興味がある人は是非参考にしてほしい本だ.

作用素論

それで作用素論だが, 微分方程式関係でも多少「作用素論の結果」として出てくることがある話がある. Sobolev 空間の埋め込み関係で埋め込み写像がコンパクト作用素になるという話があるが, それは上でも少し書いたコンパクト作用素の話になる. 微分方程式で定評のある本, Brezis の本でも Fredholm の択一定理が載っていたので, 使うことはあるのだろう. 微分方程式は不勉強なのであまり言えることはないのだが.

行列不等式

数学の作用素論で行列不等式がある, と書いたが, これは専門書がいくつかある. 和書だと最近出た本で面白そうなのがあったので紹介したい. 買うだけ買ってまだきちんと読んでいないのだが.

行列不等式は量子統計, エントロピー関係でも時々出てくる. 作用素環レベルで無限次元版があったりするのであなどれない.

量子系の作用素論

数理物理というか量子力学の作用素論だが, こちらは具体的な非有界作用素の解析をするのが中心になる. これはやはり新井先生の本を勧めるしかない.

議論は恐ろしい程丁寧で内容もしっかりしているのだが, 正直, Hilbert 空間論や関数解析の数学としての入門には向かない. 少なくとも上記 3 冊全部読めば基礎はカバーできるのだが, 関数解析として体系だった紹介はされていないので, 要領が悪い. あくまで量子力学用に特化した内容で, 量子力学のために必要なことをある程度具体的な問題を通して学ぶ本と言った方がいい.

はじめに書こうと思っていたことと大分違ってしまったが, まあいいだろう. 量子力学関係の話については, 3/24 の埼玉大でのゼミで話す予定なので興味がある方は参加されたい.

場の量子論と解析数論: p 進大好き bot からの質問に答える方の市民

はじめに

我らが p 進大好き bot から質問を受けた方の市民だ. 私は Fock 空間上, 非相対論的場の量子論や量子統計をやっているので物理として相対論が絡む話はあまりよく知らないし, 数論方面もさっぱりなのだが, 多少知っていることはあるのでまとめてみた.

@phasetr なるほど. ボゾンとフェルミオンに対応する Fock 空間の有界作用素のスペクトルに強い離散性を課しているのは量子論からくる妥当な制約なのでしょうか? 固有値の整列性から総和的概念と相性がよくなって数論につながっているように見えるので少しその仮定の意味が気になりました.

コメント

まず強い離散性 (トレースクラスの仮定) だが, 物理的には不十分なことこの上ない. 「物理はともかく (今の数学の水準で) 数学的に面白い話ができるのはこの場合」という割り切りと思ってもいい. 物理としてスペクトルが離散的になるのは 2 つの場合がある.

  • $\mathbb{R}^d$ 上, 調和振動子などの特別な場合 (confined system).
  • 有界領域上での Hamiltonian.

$\mathbb{R}^d$ 上, 調和振動子などの特別な場合 (confined system)

調和振動子など大事な系はあるものの物理としては本当に特殊な場合だ. 場の理論でも調和振動子が一番の基本だし, 調和振動子は決定的に重要な系ではあるけれども. 若山先生の非可換調和振動子など, 「調和振動子」は数学的に数論との関係がかなり深いようなので面白い. ただし, 物理的には散乱がないという決定的な欠点がある. すごく大雑把にいって, 散乱は Hamiltonian の連続スペクトルの部分に対応する. 非破壊検査など散乱を基礎にした応用はたくさんあるし, ミクロな系, 特に素粒子を実験で見るときは散乱で見るため, 散乱がないのは物理としては困ると言ってもいい.

ちなみに調和振動子のように (原点から) 距離が離れるとポテンシャルが大きくなる (ので粒子があまり遠くに行かない) 系を confined system と言う. 数学的な一般論として, 「 Laplacian + 最高次が偶数の多項式ポテンシャルが入った Hamiltonian 」のスペクトルは離散的になる. (新井先生の『量子現象の数理』にも証明がある. ) Confined system を「Hamiltonian のレゾルベントがコンパクト作用素になる」と定義している文献もある.

有界領域上での Hamiltonian

証明や条件を忘れたものの, 有限系ならそれなりに一般的に言えたはずだ. コンパクトな Riemann 多様体の Laplacian は離散的という一般論があるが, 大体そういう感じ.

もちろん一般には Laplacian に適当な摂動を入れるので離散性が保たれるかは自明ではないが, 頑張るとそれなりに一般に言える. 量子統計や場の理論でも, いったん有界系でトレースを使いながら理論を作っておいて, 最後に物理として標準的な $\mathbb{R}^d$ への極限 (熱力学的極限) を取る.

後者についてはもう 1 つ決定的な事実がある. 前者とも関係するが, 一般に無限系の Hamiltonian には連続スペクトルがあるのでトレースは取れない. 物理だと平衡状態は $\mathrm{Tr} (A e^{- \beta H}) / \mathrm{Tr} (e^{- \beta H})$ で定義するが, これは無限系では意味をもたない. つまり数理物理としては無限系の平衡状態を定義するところから始める必要があるが, これがなかなか大変だった. ここをきちんと議論するために Haag-Hugenholtz-Winnink の有名な仕事が出たのであって, 量子統計の数理物理に対する冨田-竹崎理論の重要性が出てくる. 冨田-竹崎理論というか平衡状態周りでも数論における相転移とかいう Bost-Connes の結果 があるので, それはそれで数論的にも大事なようだが, こちらは難しくて読めなかった. p 新大好き bot はセミナーで読んだらしいので, 興味がある向きは p 進大好き bot に聞こう.

地下コメント

もう一個.

@phasetr ついでに 4 章で $L_S$ と $Q_{S,+}$ に対する指数定理のようなものが示されているのも興味深く感じました. フレドホルム作用素 $S$ に対して $L_S$ や $Q_{S,+}$ (そして $d_S$) に何らかの物理的意味付けがあるのでしょうか?

こちらについてはあまり知らない. $L_S$ は (自由場の) 超対称的 Hamiltonian, $Q_{S,+}$ は超対称荷 $Q_S$ の分解ということくらいは知っているが, この辺の物理自体には詳しくない. 超対称荷自体何なのかあまりよく分かっていないが, 「荷」とつくのは大体保存量であって, 物理的には普通とても大事な量に対してその名前をつける. だから大事なのだろう, くらいにしか分からない. $d_S$ については, Proposition 4.1-4.2 にあるように「ボソンを消してフェルミオンを作る」というそのままの意味があるが, これ以上の詳しいことは知らない. 超対称性はボソンとフェルミオンの対称性なので, 正に超対称性を司る作用素が $d_S$ という話ではある. それが幾何学的にも大切な外微分になっているというのは確かに面白い.

これとかこれとかこれとかこれとか, 量子力学のレベルでは超対称性と指数定理というのは大きなテーマになっている. その場の理論版としてこの辺の話があり, さらに数論的な要素すら持っていたという感じなのだと思っている. 量子力学での話からすれば多様体上で何か議論したいところだが, 無限次元多様体の議論をいきなりやるのはつらいので, まっすぐなところで下調べしよう, というのが新井先生のこの辺の研究の動機の 1 つでもある. 『Fock 空間と量子場 上』の 6 章のまとめのところにその辺の話が書いてある.

物理としてはむしろ, この辺の兼ね合いから超対称的な理論が数学として幾何学的な拘束を受ける (はずな) ので, 数学 (幾何学) 的に意味が明快なところから逆に物理を見つけていくときの指針として使うのだろう. とくに素粒子では数学的な制約からあるべき物理 (モデル) をしぼっていくというのはよくある. 例えば「理論は Lorenz 対称性を持たねばならない」とか「繰り込み可能でなければならない」とか「漸近的自由でなければならない」とか. 素粒子物理として数学的指針は決定的に重要らしいのだが, 数学的にはそこを逆に使って物理的な洞察から衝撃的な数学的関係を見つけてくるのが楽しいということで色々な交流があるという認識だ. ミラー対称性とか何とかそのあたりもそう.

知っているのは大体このくらい.

問題: 双対空間の塔が無限に生成できる空間の具体例の構成, $L^{\infty}$ の双対空間の双対空間は何か

本文

ふと思い立ってこんなツイートをしてみた.

【緩募】 (無限次元の非回帰的な空間で) 双対空間の双対空間, という系列が無限に続いていき, しかも具体的にそれが書き表せるような例

【緩募】$L^{\infty}$ の双対は Radon 測度の空間だが, この Radon 測度の空間自体の双対空間が何者か

この間床の中でこれらがふと気になって寝付けなくなって困った. 関数解析を学べば誰でも知ることだが, 具体例を作ったことがなくてこれはまずい, と思ったのだ. 前者については山元さんから次のようなコメントを頂いた.

やりとり

@phasetr 考えるのはノルム空間ですか?

@hymathlogic 何でもいいです. 単純に例がたくさん知りたいのでむしろノルム空間の例もそうでない例も知りたいです

@phasetr $\ell^1$ はその例になっているようです. ($\ell^\infty$ より先の双対空間が) 具体的か分かりませんが.

@hymathlogic 何かに証明書いてあり⁾すか?

@phasetr kunen の「set theory ‍の漕習問頌です (証明分かりません汗).

@hymathlogic 悲しみ. 何はともあれありがとうございます

自分で作れ, という話ではあるのだが, 何かご存知の方は教えて頂けると私がとても喜ぶ.

特異点解消についてちょっとやりとりしたので

特異点解消関係の話が出ていて廣中先生のことを思い出したので.

特異点解消とかってどういうモチベーションでやってんだろ. 全然知らないけど.

@Maleic1618 私が知る限りでは, 特異点には大事な情報がたくさんあるものの, 特異点はその名の通り特異性があって扱いづらいので扱いやすくするためにやる処理が特異点解消です. 例えば筆跡鑑定で大事になるのは尖った所だったりするようですが, そういう所をきちんと調べる的な

@Maleic1618 ちなみに筆跡鑑定の話は実際に廣中先生の話で例として出てきました

@phasetr なるほどです. その話は関数論の方とも関係があるのでしょうか? 多変数の関数論では極や不定点が孤立しなくて 1 変数と同じ議論が出来ないので, 特異点を扱う話とつながるのかなと勝手に想像しているのですが.

@Maleic1618 私も私で専門外もいいところなので専門の人にあとできちんと確認した方が良いとは思いますが, 関数論は複素係数の代数幾何は含むはずで, 解析空間関係の話で処理するのだとおもいます

@Maleic1618 廣中先生自身, 解析空間の本を書いていますし http://www.amazon.co.jp/dp/4254111347 大雑把に言って「特異点を含む複素多様体」が解析空間だったはずなので, 当然色々関係する話があるだろうと

@phasetr なるほどです. 近いうちに図書館でのぞいてみますね. ご丁寧にありがとうございます.

修士修了近くに廣中先生の話を聞く機会があって, そのときたまたまもう一人筑波かどこかの大学の方が, 「自分はこれから博士を出て数学とは関係ない仕事につく. それでも研究は続けたいのだが出来るだろうか」みたいなことを質問していた. そのときに「研究? 続けたらいいじゃないか」と廣中先生が超気楽に笑顔で言っていたので, それなら自分も続けてみるか, と私も超お気楽に思ったことを思い出した.

あとそのときに廣中先生からサインもらった.

「天書の証明」を集めた悪魔のような論文誌

はじめに

天書の証明を想起した.

引用

レフェリーから「この証明は長過ぎる」とか指摘されても, 10 行程度の証明って長いですか? と言いたくなる.

@kyon_math 証明もすべて 140 字以内でお願いします.

@Paul_Painleve どこの雑誌ですか, それ?

@kyon_math 最近できた, Journal of Mathematical Twitter です. 引用が 1 万超えるのもありますぜ, 旦那.

@Paul_Painleve まぁ 2 文字で証明せよと言われると「自明」ですね. 制約がきつくなればなるほど簡単に.

@kyon_math 「自明」をたくみに操って, 永田さんの域にまで達すれば・・・ #ただし講義中につまって自分の教科書を見ても自明としか書いてない

@Paul_Painleve むかしのノートに「自明」と書いてあっても, もはやなぜそれが自明なのか分からない #恍惚の人 ただノートに見とれてる

永田さん, そんなにやばいアレだったのか.

Twitterまとめ: 数論についての簡単な紹介

はじめに

先日, 次のようなあまりにもアレな RTが流れてきた.

数論って初心者がやるにしてはハードル高いと思うし, マイナーすぎると思う

最初「また頭がおかしい人か」と思って次のようなツイートをしたが, どうやらそこまでアレでもなかったようなので, 簡単にプロデュースしてきた. これはその記録である.

http://tinyurl.com/bz88vkr 【数論って初心者がやるにしてはハードル高いと思うし, マイナーすぎると思う】 前者については話題の選択で十分どうにでもなる (と思っている) し, 後者に至っては気が狂っているとしか思えない

リプライ

@KleinSurface 色々コメントがきているかもしれませんが, 数論は数学の中でも最高に有名な部類で, 研究者もファンも多いです. また応用に乏しいというのも致命的に間違いで, 例えば暗号理論で活躍しています. 暗号は通信の安全性にも深く関わるのでネットに触る人は日々使っています

@KleinSurface 念のため言っておきますが, 暗号に使う部分の数学は非常に専門的です

https://twitter.com/KleinSurface 数学科志望でこの ID の人でも数論がマイナーに見えているというの, 凄く面白い. 何というか内部から見ている世界と外部から見える世界は違うのか, と思ったが物理学科の頃から数論の地位みたいなものは知っていたことを想起した

何も見ないで脊髄反射で RT してしまったが, 何となくまともな人っぽいので反省している

@KleinSurface 鬱陶しいかと思いますが, 数論がどういうものかいくつか説明します. まずガウスの言葉で「数論は数学の女王」という言葉があります. とりあえずそういう感じだと思って下さい. あと東大数理は高木貞治の類体論以来, 基本的に数論が強いです

@KleinSurface ご存知か分かりませんが, 先日京大の望月さんの ABC 予想の話が Twitter でも話題になりましたが, ABC 予想も数論の話です. フェルマーの最終定理も見かけは数論関係なさそうですが, 数論との関わりが極めて深いです. また見かけ簡単でかつ未解決の問題も多いです

@KleinSurface あと関連する数学が極めて広いことも特徴です. 細かく言うとあまり関係ない分野もあるでしょうが, いわゆる代数, 幾何, 解析すべて関係あります. 名前からして解析数論, 数論幾何, 代数的整数論というのがあります.

@KleinSurface 最後のは「代数的 (整) 数」に関する理論であって代数的な整数論ではない, という話もありますが. 関連する分野まで少なくとも後一つ応用があります. 数論幾何は代数幾何という数学 (のある種の拡張) を使うのですが, 代数幾何は符号理論という応用があります

@KleinSurface 符号理論については前簡単な動画を作ったので, ご興味あればどうぞ http://www.nicovideo.jp/watch/sm10684363 この動画自体では線型代数しか使っていませんが, 代数幾何を使い始めると死ぬほどハードです

追記

「数論が初心者向きでない」という部分が弱いのでいくつか追記しておこう. 異論もあるだろうが, 非常に大雑把にいって「数論」といったとき, 本当に初等的な意味で「数」といった場合には 2 つの大きなテーマがある. それは素数の理論と超越数の理論だ. 「数論」というと大体素数の方の話になり, 超越数の理論は主に解析数論の話題になる. 解析数論は超越数の話ばかりしているわけではないのだが, 大事な分野だ.

代数的整数だとか $p$ 進数など色々な「数」があるので, あまり適当なことをいうと怒られてしまう.

素数の理論についていうと, 時々「今知られている中で最大の素数」と言った話題が出てくるが, 例えばこんなのは分かりやすかろう. ちなみに素数が無限個あること自体は古く Euclid の頃から知られている. ただ, 知られている中で最大の素数を見つける (記録を更新する) というところで, 永遠にアタックできる, 誰にでも分かる問題になる. また現代の暗号理論は適当に大きい素数をうまく使うという話なので, 大きな素数を見つけることは応用上も大事なのかもしれない. この辺は詳しくない.

他には有名な理論について具体的に計算しまくることができたりする. そういうのをひたすら計算するだけでもかなり楽しいという人もいる. 興味がある向きは次の本を読んでみると楽しいかもしれない.

超越数論

超越数論については, ある数が超越数であるかを調べる理論だ. 超越数というのは整係数代数方程式の根とならない数のことだ. ここで整数 (または有理数) 係数というのがとても大事.

超越数の例としては $\pi$, $e$, $2^{\sqrt{2}}$ などがあるが, 証明はどれも簡単ではない. $2^{\sqrt{2}}$ に至っては Fields 賞クラスの問題だ. いまだに $\pi + e$ や $\pi^{e}$ が超越数かどうかということも分かっていない.

もう少し単純な「ある数が有理数か無理数か」という問題もある. こちらは比較的簡単に証明できる数もいくつかある. 有名なのは「$\sqrt{2}$ は無理数になる」という話だろうか.

snufkin26さんから頂いたコメント

本文

@phasetr ええと, さしでがましいこと, ヘンテコなことを言うかもしれないので, 申し訳ないのですが,初等的な数論と言って, 「素数について」と「無理数・超越数論」を挙げていらっしゃるのに違和感があります. (続く)

@snufkin26 @phasetr というのは, 「現代の初等整数論」とも呼べる分野がいくつかある気がいたします. ひとつには, 整除性を扱う分野 (完全数について, 数論的関数について, 等). ふたつめには, 整数列論 (Schnirelman 密度に始まるような) (続く).

@snufkin26 @phasetr あと, 古典的でない新しい加法的数論や, 組み合わせ数論も初等的な気がします. これらは時に強力な (初等的とはいえないような) 武器を用いますが, 問題も手法も初等的であることが多いです. (続く)

@snufkin26 @phasetr 研究者としては, Carl Pomerance 先生, Paul Pollack 先生などがそうかと. えっと, 素数分布論・無理数論にも初等的に考えられる部分はあると思いますが, それを筆頭にあげてしまうと, (続く)

@snufkin26 @phasetr 初等的な数論について知りたい方が「これだけか」と幻滅してしまうかと思いました. まとまりがなく, 長ったらしいツイートで申し訳ございませんでした.

言い訳

Twitter にも書いた記憶があるが, 最初に記事を書いたとき, 私が念頭に置いたのは高校で学ぶ内容だ. 素数というか整数がらみの受験で出てくるタイプの問題や, $\sqrt{2}$ の無理性を想定した. 昔から皆がやっていることは死んでもやってやるか, といったところがあり, 意識的に勉強を避けてきたので, 例えば物理でいうなら宇宙や素粒子, 数学についても数論などは, 興味があって勉強している中高生以下の知識しかないと思う. 勉強不足のところを教えて頂いたので実にありがたい.

筑波の竹山美宏先生によるセミナーについての注意書きページ

本文

Twitterでの元つぶやきを見つけられなくなってしまったが, 筑波の竹山美宏先生によるセミナーについての注意書きページがあった. いつも通りというか, 河東先生のページへのリンクも張られている.

セミナーの進め方については各自飛んでいって読んでもらうことにして, ここではメモがてら参考文献とその説明に関する記述を転記しておきたい.

参考文献とその説明

卒業予備研究・卒業研究でのテキストの候補 (advanced なもの・竹山自身が読んでみたいものも含む) 以下に無いものでも, なるべく希望に沿うようにしますが, 竹山の専門と大きく離れたものについては対応できません. 以下には文献についての簡単な説明をしてありますが, 全部をきちんと読んだわけではないので, 鵜呑みにしないように. (内容の紹介として不適切なところがあったらご教示下さい)

ソリトン

ソリトンとはどのようなものかを感覚的に知りたければ, 高崎先生によるソリトン工房内の「ソリトンのさまざまな顔」にあるアニメを見るとよい.

  • 戸田盛和「波動と非線形問題 30 講」 (朝倉書店)
  • 三輪哲二・神保道夫・ 伊達悦朗「ソリトンの数理」 (岩波書店)
  • 広田良吾「直接法によるソリトンの数理」 (岩波書店)
  • 戸田盛和「非線形格子力学」 (岩波書店)
  • 高崎金久「可積分系の世界」 (共立出版)

戸田先生の「 30 講」の始めの方に, KdV/KP 方程式についての基本的な事項が解説されている. とりあえずこれを読んで, 広田先生の神業に酔いしれる (「直接法によるソリトンの数理」) か, 伊達-神保-柏原-三輪 (通称 DJKM) の一連の仕事をきちんと勉強する (「ソリトンの数理」). 「 30 講」の中盤は, いわゆる戸田格子の話になっていて, これについては「非線形格子力学」にもっと詳しく書いてある. 戸田格子について, DJKM の仕事を踏まえて, その後の進展などなども含めて幅広く解説されているのが高崎先生の本.

量子可積分系

竹山の専門分野. 「量子可積分系」の数学的な定義があるわけではないので, 感覚的に分かりやすく説明するのは難しいが, 以下に挙げる本をパラパラ眺めて雰囲気を感じてほしい.

  • 白石潤一「量子可積分系入門」 (サイエンス社)
  • 神保道夫「ホロノミック量子場」 (岩波講座・現代数学の展開) (もしくは佐藤・三輪・神保による原論文 I--V )
  • 土屋昭博 (述) ・桑原敏郎 (記) 「共形場理論入門」 (日本数学会メモアール)
  • 山田泰彦「共形場理論入門」 (培風館)
  • 鈴木淳史「現代物理数学への招待」 (サイエンス社)

白石さんの本は有限多体系 (Calogero-Sutherland model) を主たる対象として, 量子可積分系の研究に現われる様々な手法と考え方を紹介したもの. 解析力学のことから書いてあるから, とても親切で良い本 (のはず). 卒業研究ではこの本を読むことになるでしょう. 他のものは, その次に読むべき本として候補に挙げるもの. 神保先生の本は二次元の Ising 模型・ Ising 場の理論についての概説. 下に述べるパンルヴェ方程式の「復活」のきっかけともなったお仕事の話. せっかくだから, 時間と実力があれば, 原論文を読破してみたい. この話で構成される Ising 場の理論は有質量と呼ばれるクラスで, 共形場理論というのは質量ゼロの二次元の場の理論. 様々な無限次元リー代数の表現論や代数曲線なども関係してきて, 共形場理論から生まれ出た数学は, いまなお盛んに研究されている. 鈴木淳史さんの本は, ランダムウォークと量子可積分系の関係について解説したもの. まだきちんと勉強したことはないけど, 竹山が興味ある話の一つ.

超幾何関数

ガウスの超幾何関数, およびその多変数化.

  • 犬井鉄郎「特殊関数」 (岩波全書)
  • 原岡喜重「超幾何関数」 (朝倉書店)
  • 木村弘信「超幾何関数入門」 (サイエンス社)

「特殊関数」は, 直交多項式などの様々な特殊関数を, ガウスの超幾何微分方程式を軸に統一的に論じたもの. 二階に限定しても, これだけの話があるのだから超幾何というのは深いのだ. 原岡先生の本は, ガウスの超幾何から出発して, 超幾何関数という対象に対する現代数学の見方を, 各方面から紹介するもの. twisted cohomology/cycle, グラスマン多様体, GKZ も登場する. 木村先生の本では, グラスマン多様体を中心に据えて, 多変数超幾何関数を統一的に論じている. 面白そう.

楕円関数

関数論の続きとしての楕円関数論.

  • フルヴィッツ, クーラント「楕円関数論」 (シュプリンガー)
  • 梅村浩「楕円関数論-楕円曲線の解析学」 (東京大学出版会)

フルヴィッツ・クーラントは楕円関数についてコンパクトにまとめられた本. 楕円関数は他の様々な数学と関係していて, そこが非常に面白いのだけれども, この本では敢えてストイックに楕円関数の基本事項を一直線にまとめている (のだと思う). 梅村先生の本では, フルヴィッツ・クーラントではあまり述べられていない, 楕円関数論の背後にある幾何についても言及している.

梅村先生の本, 前から読んでみたいと思っている.

パンルヴェ方程式

竹山はパンルヴェ方程式に関しては素人なのだけれども, ここ十数年でその世界が随分と広がったような印象と持っている. パンルヴェ方程式については, その歴史を紐解くだけでも結構面白い. これについては, やはり岡本和夫先生の「パンルヴェ方程式序説」をパラパラと見てもらいたい, のだけれど, 筑波の数学の資料室にはあるのだろうか・・・? 最近絶版になってしまったので購入はできませんが, どうしても見たければ, 竹山の部屋に一冊あります. (貴重な本を譲ってくれた O 君に感謝)

  • 野海正俊「パンルヴェ方程式」 (朝倉書店)
  • K. Iwasaki, H. Kimura, S. Shimomura and M. Yoshida, "From Gauss to Painleve" (Viewig)

野海先生の本は, パンルヴェ方程式についてその対称性を軸に論じたもの. 計算はそれなりの重量があるが, 行列式の計算ができれば読めてしまう. 野海先生の本が出るまでは, パンルヴェについて書かれた本で入手可能なものとしては, 「序説」と "From Gauss to Painleve" しかなかった. その名の通り, ガウスの超幾何の話から始まって, モノドロミー保存の方程式としてパンルヴェ (を一般化した Garnier 系) が出てくるまでを解説したもの. パンルヴェの専門家になるためには, 野海先生の本の話だけではなく, こっちの方の話も知っていなければならない (はず). ちなみに, 阪大の大山先生の本が出たら, すぐにでもこのリストに加えたいのだけれども, まだ出版されてない.

Painleve というと Twitter の Paul_Painleve さんを想起する.

常微分方程式

常微分方程式について基礎理論からきちんと学ぶ. 偏微分方程式をやりたい人は, 偏微分方程式を研究されている先生に指導を受けて下さい.

  • 高橋陽一郎「力学と微分方程式」 (岩波書店)
  • 高橋陽一郎「微分方程式入門」 (東京大学出版会)
  • 高野恭一「常微分方程式」 (朝倉書店)
  • E. Coddington and N. Levinson, "Theory of Ordinary Differential Equations" (Krieger, 和訳は吉岡書店)

高橋先生の「力学と微分方程式」は, 前半で定数係数線形常微分方程式の解き方がきちんと解説してあって, 後半は力学系の安定性の問題や変分法の入門的な内容となっている. 大学初年級向けとして書かれた本だけど, 扱っている例などはもう少し高級なところから取ってきてるので, 4 年生で読んでも十分かも知れない. 易しすぎるようであれば「微分方程式入門」の方を問題も解きながら読みましょう. こちらの方が数学の教科書としては硬派な感じがする. 高野先生の本は, 微分方程式の基礎理論から始まって, ガウスの超幾何のモノドロミーの計算, フックス型方程式, 不確定特異点とストークス現象の解説まであって, とても内容が豊富. 複素領域上の常微分方程式を学ぶための入門書としては最適なものだと思う. Coddington-Levinson は少し古い本だが, 有名な教科書. 自己共役作用素の固有値問題についても詳しく論じてある. こういう古典的かつ本格的な教科書をじっくり読むのも面白いのではないかと.

表現論

表現論とは何か? については, 京大の西山先生による表現論 WEB を見てもらいたい.

  • 平井武「線形代数と群の表現 I ・ II 」 (朝倉書店)
  • 神保道夫「量子群とヤン・バクスター方程式」 (シュプリンガー)
  • 谷崎俊之「リー代数と量子群」 (共立出版)
  • 草場公邦「行列特論」 (裳華房)

表現論はいろんなアプローチの仕方があって, 抽象代数的な表現論を学ぶのであれば, そういう感じの本から入るのが良いと思う (セールの教科書とか). 表現論の入門書はいろいろあるので, ゼミで実際に何を読むのかは相談して決めます. ここでは, 解析っぽい表現論の入門書ということで, 平井先生の教科書を挙げておく. 易しいところから出発して, かつとても教養に溢れた楽しそうな本. ちなみに竹山は, 学生時代に平井先生の函数解析の講義に出ていたが, その試験の問題 1 は, 「数列空間 l^{2} は完備であることを示せ. ただし鶏肉を切るに牛刀を用いるが如き証明は不可」. だった. これ以上にカッコいい試験の問題文というのを見たことがない. 神保先生の本は量子群とその表現の入門書. 最後に Face 模型が出てくるところが嬉しい. 谷崎先生の本は無限次元のリー代数である Kac-Moody 代数の入門書. Kac-Moody の日本語の入門書としては, 他に脇本先生の岩波講座があるのだが, こっちはまだ (日本語では) 単行本化されていない. (追記:2008 年 7 月に単行本化されました) 「行列特論」を表現論の本だというのは少しズレてるような気がしないでもないけど, 第二部は quiver の表現論だ, ということで許して下さい. 線形代数だけを使って三つの面白い問題を論じている名著. ここで紹介するにあたって, パラパラと眺め直してみたのだけれども, やはりとても面白そうなので, 誰か読みませんか?

平井先生のこれ, 格好いい.

ちなみに竹山は, 学生時代に平井先生の函数解析の講義に出ていたが, その試験の問題 1 は, 「数列空間 l^{2} は完備であることを示せ. ただし鶏肉を切るに牛刀を用いるが如き証明は不可」.

母関数~組み合わせ論・整数論

もしくは「組み合わせ論や整数論と関係する q-解析」.

  • アンドリュース, エリクソン「整数の分割」 (数学書房)
  • G. Andrews, "The Theory of Partitions" (Cambridge Univ. Press)
  • D. M. Bressoud, "Proofs and Confirmations" (Cambridge Univ. Press)
  • B. Berndt, "Number Theory in the Spirit of Ramanujan" (AMS)

最初の二冊は整数の分割 (partition) についての本. partition というのは, 非負整数を非負整数の和で書くことで, 例えば 6 の分割は, 6=5+1=4+2=4+1+1=3+3=3+2+1=3+1+1+1=2+2+2=2+2+1+1=2+1+1+1+1=1+1+1+1+1+1 となる. このような分割が何通りあるか, というのが partition number と呼ばれるもので, その性質についていろいろと論じられているのが最初の二冊. "The Theory of Partitions" は関数論の続きとしても読める (たぶん). "Proofs and Confirmations" は, alternating sign matrix の数え上げという組合せ論の問題が, 二次元の可解格子模型の話 (物理の問題!) を使って解けてしまった, という話の解説. "Number Theory in the Spirit of Ramanujan" は, ラマヌジャンの数学の易しい入門書. ラマヌジャンはインドの天才数学者. 詳しいことはネットで調べればいくらでも出てくるだろう.

古典的な数理物理

大学院数理物質科学研究科数学専攻に進学希望の学生さんは対象外. 大学で学ぶ数学が, 物理でどのように使われているかを学ぶ. もしくは, 物理に出てくる数学を, きちんと扱うとどうなるかを学ぶ. 一年生の微積分の内容を仮定する.

  • アーノルド「古典力学における数学的方法」 (岩波書店)
  • 深谷賢治「電磁場とベクトル解析」 (岩波書店)
  • 深谷賢治「解析力学と微分形式」 (岩波書店)

こういう本を紹介するときにアーノルドの本は外せないのだけど, 学生さんにとっては本格的すぎで手が出しづらいかも知れない. 実は竹山は未読なのだけど, とても面白そうで, いつか時間をとって読んでみたいと思っている. ちなみにロシアの数学科の学生はみんなこの本を読んでいるという噂がある. (あくまでも噂) 最近の本では, 深谷先生の上の二冊が挙げられる. 深谷先生の「電磁場と電磁気学」では, 二次元・三次元のベクトル解析の話がまずあって, これを踏まえて最後の三分の一で電磁気学の理論が展開される. 「解析力学と微分形式」は, ハミルトン系の幾何学的な理論を紹介したもの. ここで紹介する文献は, 内容が古典力学と電磁気学に偏ってしまっているけど, 流体力学や量子力学の解析学的アプローチに興味がある人は, 偏微分方程式を研究している解析の先生に指導を受ける方が良いでしょう.

大学の解析をきちんと勉強して卒業する

大学院数理物質科学研究科数学専攻に進学希望の学生さんは対象外. 大学を卒業するまでに, 一度は本気で自力で数学と格闘するためのコース. 必要が生じたら面倒がらずに微積分の復習をする覚悟を持っていて, かつ自分が理解できるまでしつこく考える意欲があって, かつ十分たくさんの時間を卒業研究の勉強のために費す決意のあることが必要条件. テキストの練習問題もきちんと解きながら読み進める.

  • 斎藤正彦「微分積分学」 (東京図書)
  • ケッヒャー「数論的古典解析」 (シュプリンガー)
  • ポントリャーギン「常微分方程式 新版」 (共立出版)
  • スピヴァック「多変数の解析学」 (東京図書)
  • 原岡喜重「多変数の微分積分」 (日本評論社)

斎藤先生の本は微積の教科書. 一年生の微積の知識が不十分な場合には, このレベルから (相当のスパルタで) 勉強してもらう. 高校の微積の復習から出発して, ベクトル解析の概説まで. これはブルバキスタイルを身につける練習として使う. ただし, この本の内容で卒業研究発表をするわけにはいかないので, 発表用に何かしら古典的な題材について学んでもらうことになるでしょう. 「数論的古典解析」は, 一変数の微積分が, 解析数論に現われる問題にどのように応用されるのかを紹介したもの. ポントリャーギン「常微分方程式」は, 常微分方程式の有名な教科書. 工学の問題への応用など, ポントリャーギン先生の教育的配慮に満ちている本. それだけでも十分感動的である. 内容はそれなりに本格的. 頑張ってきちんと読んでみましょう. 「多変数の解析学」は, 竹山が学生時代に多変数の微積分を勉強した本. 最近復刊された. 多変数の微分の概念から始まって, 一般次元のストークスの定理の証明まで, 無駄なくスッキリと話が進んでいく. 薄い本ではあるが読みごたえがある. スピヴァックが難しすぎるようであれば, 微積分の復習をしながら原岡先生の本をきちんと読む.

数論的古典解析, 前から読んでみたいと思っているが手を出せていない.

不完全性定理という人間知性に深く埋めこまれた地雷除去に携わる方々に敬礼

はじめに

Twitter で何かあったらしく, 不完全性定理が話題になっていたので次のようなツイートをした. これこれだ.

専門家でもないのに不完全性定理という言葉を使っている人間は知性を放棄した人間ととらえてまず間違いない

不完全性定理, うかつに言及すると各方面の専門家からの苛烈なアタックを受けるので常に細心の注意を払っている. ネタでの利用すら危険だ

やりとりその1

関連して次のようなやりとりもした.

専門家でもないのに不完全性定理という言葉を使っている人間は知性を放棄した人間ととらえてまず間違いない

現代思想系全滅 ww "@phasetr: 専門家でもないのに不完全性定理という言葉を使っている人間は知性を放棄した人間ととらえてまず間違いない"

@gakeau 現代思想, 不完全性定理の話がなくても知性の敗北ではないでしょうか

やりとりその2

より困惑したのはこちらのやりとりだ.

不完全性定理, うかつに言及すると各方面の専門家からの苛烈なアタックを受けるので常に細心の注意を払っている. ネタでの利用すら危険だ

@phasetr 相転移さんですらそうなのか. アタックを蹴散らしてるもんだとばかり思ってたのだが...

ああ不完全性定理に言及してしまった.

自己減給だ.

@kyon_math どこにでもいる平凡な市民ですので

kyon_math さん, 発言を見る限りどう考えても数学者である一方私はただの市民なのだが, 私はどういう評価を得ているのか.

鴨さん (kamo_hiroyasu) ややたべさん (ytb_at_twt) さんに監視 (フォロー) されているので, 迂闊なことはいえない. 数学ガールの不完全性定理も, 現実には起こりえなかったラノベパートを楽しんだだけで数学部分はあまり真面目に追っていない.

もう少し勉強するか. でも多変数関数論とかやりたいし, その他にもこう色々と勉強したいこと, しなければいけないことが多くてつらい.

Milnor とか Bott-Tu でトポロジーのセミナーをしよう

また Ask.fm から. まず質問.

学部で物理を学んでいるのですが 近頃数学の特にトポロジーに興味を持ち始めて 自分で勉強しようと思いたったのですが何から始めれば良いでしょうか. 線形代数と解析学に関しては学部一年生程度のレベルで履修はしています.

とりあえず回答.

トポロジーというのは位相幾何でしょうか. アレも意外と魔界で, 東大の古田先生のように非線型偏微分方程式を使うような部分すらあり, 何とも言いづらい面があります.

Bott-Tu や Milnor のが有名です. 私はきちんと読んだこと無いのでアレですが, 非常に明快だと言う評判です. 関東圏の方なら, むしろ一緒にセミナーとかしましょう. 個人的にはまず Milnor を読んでみたいです.

Bott-Tu のがこれ.

Milnor のがこれ.

一緒にセミナーしたいので質問された方はぜひメールされたい.

第 2 外国語と数学と物理

はじめに

これのもとの文章は 2013 年に書いていて, 2021 年時点はむしろ数学・物理・プログラミング・語学を軸に, 「理系のためのリベラルアーツ・総合語学」という視点で活動している. 関連するコンテンツもいろいろ載せているのでぜひこのサイトを眺めてほしい. アインシュタインの原論文を多言語で読もうの会などもある.

本文

ロシア語という修羅の道を踏破せんとする若き鬼が跋扈しているようだが, 私の第 2 外国語はドイツ語だった. 理由は単純で, ヘルシングで出てきた Freulein という言葉が使いたかったからというその一点に尽きる. 今からすればフランス語にすれば良かったと思わなくもない.

何故フランス語かというと, 数学の文献 (論文・教科書) は時々フランス語のがあるからだ. 特に代数幾何・数論幾何だとフランス語読めないと話にならない面もあるとか何とか聞いている. Bourbaki 周辺の悪魔が暗躍しているせいなので, フランス人倒したい. 幸運なのかどうなのかよく分からないが, 私自身はフランス語の文献を読まなければならなくなったことはない.

ロシア語

ただ, 実際読んではいないが, 論文でロシア語の文献が引用されていて困ったことがある. 構成的場の量子論の論文だったが, 汎関数積分 (確率論) を使っていて, 関係する確率論の参考文献としてロシア語の文献が出ていた. せっかくだから少し基本的なところを勉強するか, と思って見たところ in Russia と出ていたので, ひどく憤慨した. 多分 Lorinczi が主犯だと思う. 倒したい. ドイツ人のはずの Spohn も共著者にいたと思うのだが, ロシア語読めるのだろうか.

ロシアは冷戦の時代に西側と学術のやりとりもかなり途絶えていた関係で, ときどき文献として挙がってきて怒りに震える諸氏もいると聞いている. ただ, 数学ならフランス語しておいた方がいいのではないか, という感覚はある.

2 外ではないが, 無駄にラテン語をやったりもしていた. こう何となく, QED 的なアレをきちんと勉強してみたかった, というのもある. そういえば, QED に関して, 物理も数学も全然関係ない知人が「 QED, QED 」と言っていて, 「何故急に量子電気力学 (Quantum Electrodynamics) と連呼しはじめたのか」と訝しんでいたところ, 実際には漫画の話だったというどうでもいい話がある.

物理だとドイツ語の方がいい, とかいう話を聞いたこともあるのだが, 理由は全く知らない.

量子力学の数学に関する文献など: あとセミナーもしよう

また Ask.fm. 質問はこれ.

量子力学の数学的な基礎を勉強したいのですが, どのような分野を勉強すれば良いのか教えてください. ご面倒でなければ参考になる本についても教えていただきたいです.

色々なところで言っていたりするのだから それ見てよ, という気もするが, 一応回答.

量子力学の数学的基礎も超大雑把に言って, 作用素論系と偏微分方程式系に別れるような感じがあります.

私がやっているのは作用素論・作用素環系ですが, それについては例えばニコ動に置いてある http://phasetr.com/services/niconico/ の 量子力学・量子統計周りの話を眺めてみて下さい.

参考文献ですが, 作用素論系では参考文献集にある新井朝雄先生の本がベストです.

微分方程式関係だと Lieb がリーダーです. Lieb-Loss の Analysis が基本的な文献と言っていいでしょう. 量子力学というより量子多体系, 量子統計の色彩が強いですが, The Stability of Matter in Quantum Mechanics もお勧めです. ちなみに両方とも新井先生の本ほど簡単ではありません. とくに Analysis は関数解析くらい知っている, と思って 読んでいると痛い目を見ます.

色々な不等式の最良定数評価がかなり早い段階から出てきて, 前から順番にきちんと読もうと思うと 3 章が 最良定数含め, とてもきついです. 面白い本ではあります.

あと, 作用素論との関係が強い (作用素論的性質の解析に使う) という イメージがあるのですが, 確率論からのアプローチもあります. これも新井先生の本をまず読むのがいいです. その次は Simon の本あたりでしょうか.

場の理論に行くなら Betz-Lorinczi-Hiroshima を読まねばなりませんが, これはかなりきついです. 確率弱者の私は読めません.

関東近郊の方なら適当にゼミやるのに誘って頂ければ, 話す方含め相談のります.

Twitter でもいいですが, 適当にメール・問い合わせからご連絡・ご相談頂ければ.

メルマガの方で時々触れることを考えているので, ご興味ある向きは ここから 登録されたい.

モデル理論での記号の読み方と Mathpedia の宣伝

とりあえず Mathpedia

バチバチと記事が追加されている. 私がやりたい方向とは必ずしも一致しない感じで進められている. この方面は Mathpedia に任せてよく, かえって私は私のやりたいことに集中して大丈夫そうな気がしていて, 応援しているサイトでもある. とりあえず見に行くといいだろう.

発端と結論

発端

結論

その他

あとは気になったことを備忘録としてまとめる.

嘉田さんのツイート

こういうのまで含めて知りたかった. 現代数学探険隊でも記号の (英語での) 読み方などは書いているが, コンテンツ置き場をいろいろ変えたくなることがあり, そして古い情報を残してよけいな混乱と失望を与えないためにもその辺はメルマガ登録特典的な方法で公開する方向にしている. その辺, 改めてきちんとやらないといけないな, という気分になっている. それこそ YouTube 動画で日々コンテンツを作る過程で整備すればいいのか, という気分になっている. 毎日の YouTube 投稿習慣を作ったのがいい方向に来ている気分がある.

それはそれとして, このサイトももっと整理したいと思いつつ時間が取れていない. できることと大事なことを考えていてやっていく方の市民

嘉田さんのツイートへの反応 その 1

嘉田さんのツイートへの反応 その 2

Twitterまとめ: 数学と共に潔くカッコ良く生きて行こう (It's a long long time)

何かよく分からないが, Twitter でまだ 2 年くらいなのに院試のことを話している人がいたので, 思ったことをまとめてみた. 要は潔くカッコ良く生きて行こう (It's a long long time) ということだ. この辺 からはじまる.

まともに勉強していれば院試なんて四年からでも十分間に合うはずなのに何でそんなに気にしているのか分からない

@phasetr まともに, といっても物理学科での数学, という程度にいい加減なアレでも大学生の学業という意味で真剣に取り組んでいれば大丈夫的なアレだ

アレだ, 大学に入ってまで試験のための勉強とかしたくない的なアレもある. 適当なタイミングでの強制的知見整理としてのテストやレポートは助かる, という側面はあるし, 有効活用したいが

まずアレだ, 数学できる人間が格好いい, なので, それが第一であって知識量とかどこまで知っているかとかどうでもいい. それ格好いいの? と言われて格好いいと言えるかどうかこそが問題だ

例えば先走ってやりつつも全く身についていないという状態でも, 何かよく分からないが私の心が震える, 意味が全く分からないが定理の名前がとにかく格好いいとかでもいいから, こう, 格好いいと言える状態なら健全な勉強をしていると思っている

@phasetr 本当に格好良くなるために, というか格好良さを理解するためには どこかで必ず真っ正面からの打ち合いになって滅多打ちにされて立ち上がるところがまた格好いいのだ. 男の戦い (別に数学女子の戦いとかでもいいが) という感じ. クールにかっこかわいく数学しよう感

ymatzさんも参加しているという Science Front に参加して適当に色々質問とかしてきて超楽しかった

ymatz さんも参加しているという Science Front に参加してきたが超楽しかった. ネタは次の 3 つだった.

  • 「光電子分光法を通して観た"物性物理学"が見据える未来」
  • 「図形の大域不変量とその局所化ー $\mathrm{Spin}^c$ 多様体上の Dirac 作用素について」
  • 「新粒子探索ーヒッグス粒子のその先にー」

光電子分光法の話, あまり光電子分光自体には触れなかったような感じがするが, 超楽しい. やはり何だかんだ言って物性が好きなことを再認識した. 熱電関係の話, ペルティエ効果と言ったと思ったが実際に装置を作ってきていて比較的すぐに効果が分かった. 「ペルティエ効果の実感が湧かないという人向けに昨日秋葉原で買い物してきました」とか言って装置を出してくるの, 超格好いい. あれ見習いたい.

幾何の話, Witten がやばい. タイトルから言っても分かる通り指数定理の話で, 指数を調べるのに Dirac 作用素を直接調べるという協力な方法についての話だった. Confined potential (ベクトル束上の section らしい) をうまく使って情報を potential が 0 のところに局所化して調べるとかいう豪快な方法を紹介していた. 格好よくて興奮した.

素粒子トーク, ヒッグスを実際に使って何かやろうという話だった. 標準模型でも説明できないダークマターなどがあるので, まだまだ未知の粒子があるはずだからそういうところにも Higgs をどんどん使っていこうということだったというように理解している. Higgs, 一旦あるというのは分かったが新規な実験に使っていける程度に扱いやすい粒子なのだろうか, というようなことを今さらながらに思った.

皆, ぎりぎり研究の話にも触れていて, 話を作るの大変だろうなと思う. 自分もまた何かやりたい. DVD もそろそろ第 2 弾作りたいし, 研究もしたい. したいことはたくさんある.

あと, 当日このブログを見ているという数学の人に出会った. 量子力学とか場の理論関係で参考にしているとかいうこと. 役に立っているなら嬉しい限りだ.

数学科内で話していると「物理で出てくる Hilbert 空間は必ず可分なのか」というような話もするらしい. そういえば「可分性とか使わない証明をつけたい」とか言っていた後輩がいたが, なかなかパンチ力ある. そもそも Hilbert 空間自体は可分なところしか触っていないので, 非可分だとどんな面倒事が起きるのかよく知らない. ただ, Hilbert 空間自体は可分でもその上の $C^*$ 環 (特に CCR algebra, Weyl algebra) は非可分だったりはする. 作用素環だと普通, 基礎となる Hilbert 空間自体には可分性を仮定するので, Hilbert 空間自体を非可分にするととにかく面倒そうでやりたくないという程度の理解しかない.

ちなみに私が知る範囲の相対論を含めた場の理論ですら可分な Hilbert 空間しか出てこないので, 非可分なところ, 魔界というイメージある.

数学メモアール電子版の光

はじめに

数学会が大変な英断を下しているので広めなければいけない. 「数学メモアール電子版の公開について」としてここで第 1-2 巻について出ている. リンク先では第 3-4 巻もダウンロードできる. それぞれ「3次元接触構造のトポロジー」「作用素環と幾何学」「リーマン多様体とその極限」「共形場理論入門」で, 専門的で比較的最近の内容だが, 学部生くらいが背伸びして読んでみると研究の雰囲気が感じられて面白いだろう.

作用素環と幾何学

「作用素環と幾何学」は専門が近いので目を通してみた. 夏目先生パートの作用素環はかなりよくまとまっているので, 作用素環の雰囲気を掴むのに良い. 第 3 巻は Riemann 幾何周辺の学生が勧めていたようなので, これもそれなりの内容なのだろうと思っている.

上記ページから各巻の内容を抜き出しておくので, 興味が湧いた向きは目を通してみよう.

各巻の内容の引用

第 1 巻 3 次元接触構造のトポロジー, 三松 佳彦 (付:Hamilton 系の周期 解の存在問題と J-正則曲線 小野 薫), 2001, 131p, 品切れ, [PDF] 本書は, 接触幾何学の 3 次元の場合を中心とした概説である. 力学系や葉層構造, 3 次元多様体論などの視点からの解説が三松氏によってなされ, 概複素曲線の方法が 小野氏によって解説されている. 接触幾何学, シンプレクティック幾何学, 低次元多様体論, 力学系, 数理物理学などに興味を持つ人に最適である.

第 2 巻 作用素環と幾何学, 夏目 利一; 森吉 仁志, 2001, 230p, 品切れ, [PDF] 作用素環の理論の基礎および指数定理との関わりについての優れた概説である. 一応幾何学者を念頭に置いてかかれているが, 作用素環の理論に興味を持つ広い範囲の読者に興味のもてる内容になっている.

第 3 巻 リーマン多様体とその極限, 大津 幸男; 山口 孝男; 塩谷 隆; 加須栄 篤; 深谷 賢治, 2004, 384p, 税込価格 4,900 円 (送料 340 円) [PDF] 本書は, 多様体論の基礎的な素養を持つ読者を対象に, 大域リーマン幾何学の最近 20 年くらいの発展の主要部分を専門家が解説したものである. 本書に収められた内容を解説した成書は欧文のものでも見あたらない. 本書は微分幾何学の主要な分野の一つであるリーマン幾何学を基本的な文献であるといえよう.

第 4 巻 共形場理論入門, 土屋 昭博 述; 桑原 敏郎 記, 2004, 117p, 税込価格 1,900 円 (送料 290 円) [PDF] 共形場理論に関心をもつ人のために, その手法と考え方を初歩から解説する入門書. 京都大学で行なった集中講義『共形場理論入門 --- 作用素積展開のしかた教えます』をもとに, 共形場理論における基本的手法, 考え方である作用素積展開, 共形場ブロック, N 点関数系とそれが従う確定特異点型微分方程式等について 丁寧に説明する. そのために Boson 場を扱い, Wick の定理を証明したあと, $sl_2 (C)$ 型 アフィンリー環の可積分表現に従う$P^1$上の共形場理論を展開する.

数学抜きで論理的思考を身につけるためのたった一つのポイント

自己紹介

よく「論理的思考を身につけるために数学を勉強しよう」と言われる. この記事はその言説に対するカウンターだ. もちろん適当に言っているのではなくきちんと理由がある. それを順に説明していく.

話に入る前に簡単に自己紹介しておこう. 私は学部では物理学科, 修士では数学科に進学している. 世間的にはバリバリの理系だし, 数学への耐性も極めて高い方だろう.

しかしそれでも社会に出てから 「論理的思考力が足りない」と 言われることがあった. 企画書をはじめとした文書を書くと 「ここに穴がある」とボロボロ指摘を受ける.

数学でも物理でも「論理的思考が大事」と言われる. 実際に社会に出たての私も論理的思考ができないわけではなかったはずだ. しかし現実には上のような指摘を受けた.

*それは何故なのか? それを追求する過程で得た結論をこの記事で解説する. 数学の細かな話が必要になるところは 1 つもないので安心して読み進めてほしい.

はじめに

まずは結論

まず端的に書こう. ポイントはツッこむ力を身につける, この一言に尽きる.

ツッこむ力とは何か, そもそもツッコミとは何なのか, あなたはそれが気になっているだろう.

しかしその話の前になぜ数学をやっていても論理的思考が身につかないのか, この点について明らかにしたい. ごくごく簡単で当たり前のことだ.

なぜ数学で論理的思考は身につかないのか?

理由はごく単純: 数学をやること自体苦行だからだ. 数学という果てしない苦行の先にあるものを身につけようというのは, はじめから無茶でしかない. つまり「数学で論理的思考は身につかない」ではなく, 「数学を勉強すること自体に論理的思考が身につける以上の高いハードルがあって, それを乗り越えられる人はまずいない」ということだ.

どうしてわざわざ苦行を勧めるのか. 新手の嫌がらせか. *そんなつらいことはもうやめよう.

他の突っ込み

そもそも数学と論理的思考にどんな関係があるのか? それ自体ろくに議論されているのを見たことがない.

そして何より論理的思考は 数学以外では身につけられないのか? そんなことがあるはずがない.

最初に書いたように, 物理であっても論理的思考は大事と言われる. 私が知る限り文学であっても学術的な状況では 論理性が重要視される. 文系や理系という区分にも意味はない.

無駄な苦行に時間を使うはもうやめよう. 私の立場からすると, 論理的思考を身につけるために数学をしようという言説は, よけいな数学嫌いを増やすだけで本当に迷惑な話だ.

そもそもおかしいこと

もう少し冷静になって考えてみてほしい. ふつう何かを身につけたいならそれと直接関係あることをやる. 例えばダイエットしたいのに数学やる馬鹿はいない.

論理 (的思考) の勉強したいならやるべきは論理学ではなかろうか. なぜ数学という回りくどいことをするのか. 謎以外にいいようがない.

ちなみにもっと適切なのは議論学だろう. この辺, もう少しきちんと書いた方がいいのかもしれない. しかし今回のキモは数学に限らず, 何か特殊な訓練をしなければならない, という思い込みを潰してもらうことにある. その目的からすると意味がない話なのでここではこれ以上触れない.

論理的思考とは何か

よくある話

論理的思考, または論理的思考力という言葉で よく出てくるのは次の 2 つだろう.

  • 物事を筋道立てて考える能力.
  • 一貫して筋が通っている考え方, あるいは説明の仕方.

こういうと小難しく聞こえるかもしれない. しかし次のように考えてもらえれば十分だ. 要はツッコミを受けない考え方が論理的思考である.

ツッコミを受けるのはわからないことがあってつまづくからだ. 相手がつまづかないようにコミュニケーション上の配慮をする, 論理的思考とはただそれだけのことなのだ.

どうしてツッコまれるのか

どちらも同じなので, 「物事を筋道立てて考える」について見てみよう.

先程説明したように穴があるとツッコミを受ける. 例えば知人に会ったときこう言われたとしよう.

「きょう傘を持ってきた」

このときあなたは次のように思うはずだ.

  • 「天気予報で雨の確率高かった?」
  • 「もう雨が降っている?」
  • 「室内にずっといたからわからなかったが, 今日は日射しが強くて日傘を持ってきたのか?」

こういうのを単純に「ツッコミ」と呼んでいる. 実際に上のようなことを言われたら, そのときに思ったことを口にするだろう.

「論理に飛躍がある」, こういう指摘を受けたことがある人は多いはずだ. それは単に上のようなツッコミポイントがあった, それだけのことなのだ.

「こういうツッコミを受けないようにしよう」, そういう守りの姿勢ではなく, 「相手がつまづかないようにきちんと配慮しよう」, そういう攻めの姿勢を論理的思考と呼んでいるだけだ.

こうやって勉強しよう

どこからどうはじめるの?

論理的思考が何なのか, とりあえずわかってもらえたと思うし, 当たり前のことに過ぎないこともわかってもらえたと思う.

問題はどうやってそれを鍛えればいいかだ. 単にいつものコミュニケーションだ, ツッコミを入れればいいだけだ, そう思ってうまく行くなら何の苦労もいらない.

答えは簡単だ: 日常のシーンの中で小さくツッコミを入れていけばいい.

ここで「ああそうか, それでいいのか」と思ってもらえたなら もうこの先を読む必要はない. 毎日少しずつツッコミの練習をしてくれればいい.

そうは言っても, というのが本音だろう. そこでここからはツッコミ方の学習法をお伝えしていく.

ポイントとしては他人のツッコミ方を学ぶことだ. そして数学などやらずに日常から取り込もう. 議論学とか堅苦しいのもやめよう: そんなものは続かない.

お勧め書籍

具体的に本をお勧めする. 次の 2 冊だ.

「論理トレーニング」の本編はいわば教科書で, 説明も多くて飽きてしまうかもしれない. 「論理トレーニング 101 題」で「問題演習」した方が 楽しく続けられると思う.

これを読め, というのだけでは明らかに不親切だ. どんな感じで読んでみればいいか, もう少し補足説明しよう.

例: 新聞の記事から

どれでもいいのだが, 「論理トレーニング 101 題」の問 1 を眺めてみよう. そこでは次のような「事実」が紹介されている.

  • 便器に座って小便する男性が増えた.
  • 立つと小便のしぶきが飛んで汚いから.

この「小便が汚いから」に対する専門家のコメントが記事になっていて, それに対してツッコめ, というのが 「論理トレーニング 101 題」の問 1 だ.

その専門家コメントを引用しておこう.

「清潔はビョーキだ」の著書がある東京医科歯科大の藤田紘一教授 (寄生虫学) も, 座り派の増加について「清潔思志向が生きすぎてアンバランスになってしまっている」と指摘する. 「出たばかりの小便は雑菌もほとんどいない. その意味では水を同じくらいきれいだ. なんで小便を毛嫌いするのか. ばい菌やにおいを退けすぎて, 逆に生物としての人間本来の力を失いかけている一つの表れでないといいのですが」

この専門家コメントにツッコミを入れよう.

ツッコミ その 1: 論理展開

まずは「論理トレーニング 101 題」から引用する.

藤田氏はまず「清潔志向が行きすぎてアンバランスになってしまっている」と, 「清潔志向の行きすぎ」を指摘する. そうだとすれば, 「多少不潔でも気にすべきじゃない」と議論が展開すべきである. ところが, 「小便は汚くない」と続けてしまう. 方向がばらばらである. 「小便は汚くない. だから, 立っておしっこしてもいいじゃないか」という議論は, あくまで清潔志向を認めた上で為されるものにほかならない.

要は「話の流れがおかしい」という指摘だ. 「非論理的」というほどでもないが「論理の欠如」がある. そういうツッコミだ.

ツッコミ その 2: ピント外れ

もう 1 つ説明を引用する.

もう一点. 「出たばかりの小便は雑菌もほとんどいない」と書いてある. この主張は, 便器に付着して放置された, 「出たばかり」でない小便が汚いのか汚くないのかについては何も述べていない. しかし, いま問題なっているのは出たてのおしっこではなくて, 飛び散ってそのままにされたおしっこなのである. ということは, 出たばかりの小便についてのこのコメントは方向違いどころか, 議論に無関係と言わざるを得ない.

ここでのポイントは「出たばかりの小便は綺麗なのは認めたとして, 放置した小便がどうなのか」だ. 今度は方向違いどころか無関係な話をしていると断じている. 大学教授であろうとも非論理的な指摘をしている, そういうわけだ.

ツッコミ その 3: マナー違反

私が先のコメントを読んだときに思ったことを書いておこう. どうやら本には書いていないポイントのようなので. 上の記述のあと「汚れは雑菌だけでなく見た目の汚れも含んでいる」という記述がある.

ここで私が思ったのは服に小便がかかったときの話だ. 汚い話だが小便をしていて, 小便が指についてしまうことがあった. 急いでいたので適当に手を洗って済ませてしまったことがあり, 何となく気になって指のにおいをかいでみたら, 小便のにおいが残っていたことがあった.

そこからすると飛び散ったのを放置したままにすると, においが悪化したりはしないのか? そういう疑問もある. そして小便のにおいがしているのはマナー違反ではないか? そういう観点から小便が飛び散らないように 気をつけているという場合もある.

本に書いてある以外にもツッコミポイントはあるのだ. もっというなら本の記述に対して さらにツッコミを入れていると言ってもいい.

小まとめ

ここまでのまとめをしておこう. 一番大事なことは小さくツッコミを入れていくことだ. そしてやりやすい日常のシーンにツッコミを入れるのがいい.

そうはいってもなかなか難しい, そういう場合は他の人のツッコミの仕方を参考にすればいい. とりあえず野矢茂樹『論理トレーニング 101 題』を読んでみよう.

この本の記述を鵜呑みにする必要はない. もっと言うなら本の記述にも「うん?」と疑問に思うところはある. そういう小さなツッコミを丁寧に積んでいくのが大事だ. 数学のような苦行を重ねてもこの手のツッコミができるようになる保証はない.

実社会で必要な「論理」

前提にツッコミを入れる

日常のシーンへのツッコミということで, もう 1 つ例を挙げておこう.

例えば 50-60 代の話は参考になるか?

すでに終身雇用制は崩れている. 大手の会社でも副業を勧めるところが出てきていたりもする. つまり前提じたいが大きく変わっているし, そしていまも変わり続けている. そのような状況で 50-60 代の話が参考になるか?

こういう話はよく目にするだろう. これもツッコミだ.

論理的志向でよく言われるのは次の 2 点だ, という話を先にした.

  • 物事を筋道立てて考える能力.
  • 一貫して筋が通っている考え方, あるいは説明の仕方.

これのチェックポイントとして 「前提をはっきりさせる」ということがある. 先程の話を思い出そう.

「きょう傘を持ってきた」

このときあなたは次のように思うはずだ.

  • 「天気予報で雨の確率高かった?」
  • 「もう雨が降っている?」
  • 「室内にずっといたからわからなかったが, 今日は日射しが強くて日傘を持ってきたのか?」

ここでのポイントは「傘を持ってきた」という行動の前提だ. 天気予報で雨の確率が高かったからなのか, いま既に雨が降っているのか, さらには傘と言っても日傘なのか, こういう前提を問うツッコミだ.

あなたはよく「何でそう思ったの?」という ツッコミを受けているかもしれない. それはまさにこれ.

数学にみる前提へのツッコミ

一応, 数学でこういう話をやってみることもできる. 詳しい話は全くしないが, 数学での感じだけはお伝えしておこう.

例えば次のようなツッコミができる.

  • $1+1$ はいつでも本当に $2$?
  • 方程式の答えは本当に $1$ つだけ? そもそも答えはいつでもあるの?

これはどちらも違う. $1+1$ が $2$ であるとは限らないし, 方程式の答えが 1 つとも限らなければ, いつでも答えがあるわけでもない.

これはいわゆる「役に立つ話」とも関係しているし, 中高の数学でも出てくることだ.

できることはできる. しかしこれで学ぶのはつらくないか? といつも思う. 無理に数学でやることもないだろう.

実地で前提を疑ってみよう

もう少しツッコミをしてみよう.

例えば「数学のやり直しで論理的思考を身につけられるか?」という話に対しては 「そもそも数学自体が続かない」というツッコミが返せる.

数学が何の役に立つ?」という話に対しては, 次のように返せる: これはパソコンや機械と同じなのだ. 詳しいメカニズムを知らなくても使えるように配慮されている. 役に立っていることを感じさせないようにしている. だから数学が役に立つことを見たければ裏の裏に見に行かなければいけないし, それは理工系の大学生が苦しみながら勉強していることだ.

数学の話がしたいわけではないからここでは省略するが, もし興味があるなら次の本を読んでみてほしい.

中高の数学が何の役に立つか何度となく言われるので, いい加減何か資料を作ろうと思ってまとめた本だ. 論理的思考とは全く関係ないが, 役に立つ数学に興味があるなら眺めてみてほしい.

ビジネスでの前提を疑う

今度は社会人向けの話としてビジネスでの例を挙げよう.

例えば「顧客への訴求力を上げるために映像コンテンツを 作りたいがプロに頼まないとダメか?」という話では スマホでもけっこうできるし, スマホアプリで簡単な編集もやれてそこそこのモノが作れるという ツッコミができる. 最近は「なんちゃってクリエーター」という流れもある.

他にも「プログラミングや IT に詳しくないと自分でサイト作れない?」という話に対しては, 初心者でも WordPress でサイトを簡単に作れるし, ほしい機能はだいたい無料のプラグインがあるとツッコミ返せる. 実際このサイトも WordPress で作っている. デザインについても出来合いのものを使っていて, 私が自分でデザインしたわけではない. 私は Web デザイナーでも何でもないが, このくらいのサイトなら自分だけで作れるのだ.

前提はどんどん変わる

ビジネスの観点から話をまとめよう.

最近のビジネスは流れの移り変わりが早い. 前提の正しさがどんどん変わる中での素早く意思決定していくことが大事になってきている. 前提を常に疑い続ける姿勢が大事だ. 今は無理なことでも近い将来できるようになっているかもしれない.

こういうビジネス思考にも論理的思考は活かせるし, それは何ということはなく, 単に丁寧にツッコミを入れていくだけなのだ.

いろいろな可能性を知る

うまくツッコミができる人の特徴もお伝えしておこう. それはいろいろな世界を知っていて, いろいろなモノの見方ができることだ.

だからツッコミが入れられる. 新人時代, 上司や先輩から何度となく仕事に関してツッコミを受けただろう. 何故かというとあなたが知らない世界や モノの見方を知っているからだ. その観点から見るとあなたの行動が穴だらけ, だからツッコミを受けたのだ.

例えばあなたが経理の人間だとして, 営業の人間に対して経理の観点から見てよくないことがあれば, そういう指摘をするだろう. そして指摘を受けた営業の人間はびっくりしたかもしれない. 「そんなことは考えたこともなかった」と. これもツッコミだ.

営業から見ると穴がなくても, 経理から見ると穴がある, そしてそれをツッコむ. こういうのも論理的思考なのだ.

  • 他人と話してみて他人の世界の見方を知る.
  • 他人のツッコミを受ける.

これを積み重ねるとツッコミ力が上がる. このツッコミ力が上がることが論理的思考力が上がることなのだ.

別に他人の意見を受け入れなくてもいい. ありうる可能性を知り, そして探ること. それがツッコミ力向上のポイントだ.

まとめ

最後に箇条書きでまとめよう.

  • 論理的とはツッコミを受けないこと.
  • ツッコミを受けるのは相手の理解がそこでつまづくから.
  • 論理的思考とは相手をつまづかせないようにする配慮の問題.
  • 日常生活の中でいくらでも磨ける.

これをいきなりやろうとしても難しいだろう. そういう場合は野矢茂樹「論理トレーニング 101 題」を読んでみてほしい.

他人のツッコミ方を学ぶのも勉強になるし, 自分なりのツッコミ方を考えてみるのもまた勉強になる. 無理に数学を勉強することはないのだ.

おまけ: どうしても数学を勉強したいあなたへ

最初に書いたように私は大学で物理と数学を学んだ. そしてページの先頭と最後にも載せているように, ふだんは物理や数学の情報発信をしている.

中高数学に関しても無料の通信講座を作っている. 興味があればぜひ登録してみてほしい. 特に論理的思考がどうの, という話はしていないが, 私なりの世界の見方を紹介している.

あなたが数学関係者がどう世界を見ているのか, どう世界とつき合っているのかに興味があるなら, 楽しんでもらえるだろう.

数学が役に立つ状況を真剣に検討したところ深い悲しみに包まれた

はじめに

数学が何の役に立つかとはよく言われるし, この間も記事にした. 社会とか世間の役に立つか, というのがよくある (下らない) 回答だが, 質問者にとって何の役に立つかという疑問であって的外れでは, という話もよくある. そうなると個々人の状況にもよるので一般には何ともいえないので, 個別に論じる必要がある. その辺を適当に書いてみた. この辺からはじまる.

引用

数学が何の役に立つかということについて真面目にいうなら, 状況によるとしか言えない. 例えば適当な恋愛対象にモテたいと思ったとしよう. 基本的には数学がモテるのに役に立つかと言われたら, むしろ悪影響しか与えないと思っていい. この辺は加藤先生などを参照してほしい

@phasetr ただし, 何かの間違いで福山雅治のようなアレな人が何かの間違いで物理学科に進学してしまい何かの間違いで真剣に物理を学んでしまい果ては准教授になってしまうなどの不幸が重なったとしよう. そしてさらなる悲劇としてそのような異常者に恋をしてしまったとしよう

@phasetr ガリレオを見ていないので湯川学御大の嗜好は分からないが, 物理とか数学に興味なさそうな人には何の興味も示さなそうな異常者の趣があるので, こういう場合には数学が役に立つ可能性があるが, 今のケースはむしろ物理をやった方がいい

@phasetr とはいえ, 色々な人がいるので物理学科や数学科の人間といえど全員が全員異常者というわけでもなく, 社会性に溢れる人間もいるし, 物理とかやってそうな人はちょっと, と言いそうなのもいる. したがって状況によるとしか言えない

@phasetr 他にも明日にも死にそうな母を助けたい, とかいう状況で Kasparov の KK theory が何の役に立つ, とか言われてもかなり困るし, 結局悲しみしか呼ばないことが分かる

今日も社会は悲しい.

Ask.fmで「作品作成の上でこれだけはゆずれないものってあります? あったとしたらそれを実現させるために何をしていますか? 」という質問が来たので

はじめに

Ask.fm で「作品作成の上でこれだけはゆずれないものってあります? あったとしたらそれを実現させるために何をしていますか? 」という質問が来た. せっかくなので転載しておく.

引用

作品作成の上でこれだけはゆずれないものってあります? あったとしたらそれを実現させるために何をしていますか?

子供の頃の自分がほしかった, 絶対に面白がって見たはずだ, と思える作品を作ります. 実現のために何をするか, ということなら話したいことを話し切るようにしています. 視聴者数, どんなにいいところでも 100 人いれば十二分と思うような, 物理・数学ともに学部卒程度を仮定する内容の動画でも (のべで) 数百人が見ていたりするので, 自分と同じような趣味を持った人, もっといるはずだと思っています. 実際にはこの 10 倍位はいるはずだと思っていて, 大人も子供ももっとたくさんの人に無茶を届けたいので露出を増やすべく色々考えています. アイマスとはほぼ関係ない形で DVD とか出し始めたのも露出を増やすためです.

子供のころの自分が「もっと面白い変なの見せて! 」と隣でずっと言っているので, もっと無茶をやってもっと子供のころの自分が喜ぶようにしたい. 中 2 どころか小 2 の気持ちくらいで. もっと世界が見たい

コメント

博士・ポスドクは知人にも多いが, やはり経済的な自立が非常に大きな問題になっている. その一助としても色々手を打つべく, 数学・物理のマネタイズについても真剣に考えるべきときが来たと思っている.

ビジネスプランを本当に真剣に考えているので, その辺も適宜公開し, そして実践していきたい. 研究と同じで大体上手くいくはずがない. 失敗例を山程積み上げていくので皆さんも是非参考にしてほしい. 屍の山と血の池地獄のほとりで一輪美しい花が咲けばよく, その屍を真っ先に積み上げていく所存.

相変わらず $\mathbb{R}$ と $\mathbb{R} / \mathbb{Q}$ が魔境だったので

よく分からないがゼルプスト殿下が魔境の入口のようなことを言っていたので, とりあえず記録しておく. これこれだ.

連続函数についての演習でたまに出てくる, 無理数にゼロ, 有理数に既約分母の逆数を対応させる函数を $g (x)$ とするなら, $f (x) = x + \sqrt{2} g (x)$ で決まる函数 $f (x)$ は $\mathbb{R}$ から $\mathbb{R} / \mathbb{Q}$ へのベール 1 級の全射の例になる. むろん全単射ではない.

$\mathbb{R}$ から $\mathbb{R} / \mathbb{Q}$ への単射を具体的に構成するのがひと苦労やね. 例えば 10 進展開を 16 進読みしてしかもところどころに (平方数ケタ目とか) に 16 進の $A$ とか $B$ を挿入して非循環少数にするとか. どのみち連続写像でないのできれいな閉じた式では書けない.

連続写像だからといって綺麗に書ける保証もないのでそこはアレだが, 比較的「分かりやすい」ところで地獄っぽく, こういうのはかなり気にいっている. 自分でも色々作れるようになりたい.

Twitterまとめ: 高校生との対話 物理に必要な数学的なアレ

はじめに

いつもの通り, 数学がどこで必要なのか分からないとなかなかつらいだろうから, まずは物理をやったら, という話をしてきた. あと, 自分の手持ちでどこまで戦えるか挑戦してみる機会でもある. 人によっては既存の数学で解決できないなら自分で数学を作る必要だってあるから. また, 大学に行くと嫌でも先に数学やらされる羽目になる (こともある) ので, 見られる部分は見ておいたら, というのもある. この辺からはじまる.

ツイート引用

テンソル解析って数学的にはどこに繋がっていくんだろう

@qpnv 多様体上の解析学, 微分方程式とかでは

@phasetr そうなのですか. 物理への応用みたいな本をパラパラ見ていただけなので数学的な繋がりがよく分かっていませんでした.

@qpnv 解析力学や一般相対論方面だと正に多様体上の解析学という感じになるでしょう. その辺あまり詳しくないのですが. 流体とか言う方なら単純に (非線型の) 偏微分方程式かと思いますけれども

@phasetr 一般相対性理論も興味があるのですが, 多様体も学ぶ必要があるのですね. 多様体についても調べてみます.

@qpnv いわゆる曲がった時空というのが擬リーマン多様体という多様体なのですが, 少なくとも入門段階ではその辺の数学的なことはいりません. あまり数学に気を取られずに, 必要になったらその都度やって行く方がいいです. 物理に興味があるならまずは物理からやりましょう

@phasetr 必要になったら学ぶ, というスタンスの方がいいのですね. 分かりました. バリバリ物理をやっていきます.

大数の法則の気分がいまだによく分からない方の市民だった

確率論がつらい.

大数の法則と中心極限定理のいわゆる「直観的な意味」というのがよく分からなくなってきた方の市民

@phasetr 真面目に言うと, 直感的な意味で「確率」が既に意味不明ではないかと思います

@omelette_philos wikipedia 見ていたら何か説明が循環論法っぽくてどんどん訳が分からなくなってきたと言う状態です. 数学的な言明は別にいいのですが

@phasetr 循環的に感じるというのであれば, 私は事象の独立性のとこで感じますね

@omelette_philos 確率論の基礎につまづいた先人の苦労とそれを克服してきた先人の偉大さを思う方の市民

数学的な言明と証明はとりあえず把握しているが, 確率論そのものにピントが合っていないという感じだろうか. 勉強しよう. あとささくれ先輩が何度か言っているが, 確率論は舟木直久先生の本がとてもよいのでお勧め.

あと最近はちょっと変わった確率論入門ということで, Mark Kac の本を読んでいる.

これは Kac のスパイスが滅茶苦茶に聞いていてとても面白い. Can one hear the shape of a drum? の Mark Kac で, Feynman-Kac の Kac だ. 教育に関しての一流の腕を見せてくれる. 面白いので是非読んでみてほしい.

あの人に対して恥ずかしくない力を身につけているだろうか: 代数的確率論に関する対話

はじめに

こんなやりとりをしてきた. 全く役に立てた気がしない.

ツイートまとめ

[ガチ募] お客様の中に非可換確率論に詳しい方はいらっしゃいませんか.

@tmaehara 非可換確率論を http://phasetr.blogspot.jp/2013/03/twitter_15.html 位の意味でつかっているなら, 詳しくはないですが関連する数学を多少知ってはいます

@phasetr だいたいこの意味です. 用語に自信が無いですが, 代数的確率空間 (A,φ) が与えられたとき, これに近い行列表現を求めたいと思ってます. 「近い」の意味はちゃんと決めていないですが, 「表現の前後で状態の値があまり変わらない」とかができるとハッピーです.

@tmaehara http://en.wikipedia.org/wiki/Gelfand%E2%80%93Naimark%E2%80%93Segal_construction GNS 構成定理というのがあって, 正確に (無限次の) 行列に落とすことはいつでも出来ます. 状態の値も完全に保てる構成法です

@tmaehara 次元については元のデータに依存します. 有限次元ならきちんと同じ次元の有限次元行列で書けます

@phasetr もともと無限次元のものを有限次元に丸めた場合, どの程度損するか, とかはありますか?

@tmaehara 私自身は数理物理でダイレクトに無限次元を触る方なので全くわかりません. ただ応用上は大事な話ですし量子情報など関連研究でその辺をやっている人はいるとは思っています. 数学的にも有限次元近似の話題はありますが, 情報的な損得という議論はなさそうです

@tmaehara 少しググっただけですが, 量子情報関係で何となくそれっぽい論文はありました http://www.mi.ras.ru/~msh/download/ppi-2-e.pdf この論文でお望みの感じの損得の議論までやっているかは分からないのですが

@tmaehara 必要な所しか読んだ事ないので, 有限次元近似の損得問題がどこまで描いてあるか分からないのですが, http://www.amazon.com/Quantum-Entropy-Theoretical-Mathematical-Physics/dp/3540208062 は量子情報で有名な本です

@phasetr 紹介ありがとうございます, 読んでみます.

@tmaehara たびたびすみません. 数学的な議論をしていそうな人しか知らないのですが, 電通大の小川さん http://www.quest.is.uec.ac.jp/ は一時期 JST の研究員として東大数理で勉強していた人です. あと本の著者の理科大の大矢先生のグループもあります.

@phasetr ありがとうございます. さすがにまとまってない段階でコンタクトをとるのはアレなので, とりあえず名前だけ覚えておきます.

こういうときに役に立てなくてどうするのか. 学部 1 年に対してさえ最大限の敬意を払って接してくれたあの人に恥ずかしくない力を持てているだろうか.

「杉浦光夫先生と表現論」という PDF を発見した方の市民

どうしようもない理由で表現論について検索していたら, 杉浦光夫先生と表現論という PDF を見つけた. 無論解析門前払いこと『解析入門』や山内先生との共著の『連続群論入門』で名高いあの杉浦先生だ. 1 ページの写真, 何となく『解析入門』から想像していたのとは違う, 何というか温和な感じでちょっと驚く.

いきなり本題からずれるが, 『解析入門』はとてもよい本だ. 通読するのは確かにしんどいが, 証明がきっちり書かれているので辞書として調べものに使う分には本当に役に立つ. まえがきによると『解析概論』の現代化を目指して書いたとのことだが, 中途半端に Lebesgue を盛り込まずに切って捨てたのはよかったのだと思う. そこまできちんとあればそれはそれで助かるが, over-kill だろう. ただ, 関数論パートはもっと膨らませてもいいのではないか, とは思う.

それはそれとして PDF では業績とか次世代の教育に果たした役割とかそんなことが書かれている. 群の表現論, 極一部とはいえハードユーザではあろうから, 私も恩恵を受けているのだろう. 多少は知っている大島利雄先生が, 表現論上の大きな仕事だけでなく, 後を継いで東大での表現論研究者育成に励んだというお話などは感銘を受けた. 一般的な表現論というかその研究者達はよく知らないが, 小林先生あたり化け物が生まれているのは間違いないので, こう色々なことを思う.

よく分からない数学「色々な反例で遊ぼう」のプレゼントページ

DVD を作って Amazon に出す, という話をしているが詳しい人に相談したところ, 適当なタイミングでプレゼントをあげるとよいという話を伺った. そのプレゼント用のページとしてこれから随時していく.

プレゼントでやるかはともかく, こんな内容の話をしてほしいとかいうのがあれば色々コメント頂きたい. 何も言われなくても自分が中高生の頃に聞いたら楽しいと思ったであろうことをどんどんやっていく. 目標はかっこかわいい女子数学徒を大量生産することだ.

Twitter まとめ: 病的な数学と美しく健全な数学と

はじめに

あとでご自身でまとめるようだが, ゼルプスト殿下が次のような呟きをしていた. この辺から始まる.

ツイート引用

昨日盛り上っていた「パソい位相空間」の話だけど, 公的見解としては「本当はパソろじい位相空間」という言葉を提案する. いっぽう,

私的には, 俺は「病的」という表現が好きになれないし, 例としての異常さを主眼とした研究プロジェクトには乗る気はない. いわゆる「メンヘラ」流行りも好きではない. 「心身の不健康」を売りにするのは, 「心身の健康」を売りにするのと同じくらいくだらない.

その一方で俺はカントール集合をはじめとするフラクタル図形が大好きだ. それらは最初はたしかに病的な異常な例として提案されたものだが, 俺はそういうものとして愛好しているのではなく, あくまで理論的に有意義でおまけに美しい対象として追求しているつもりだ.

「選択公理のない数学に含まれる意外な結果」や「選択公理から導かれる意外な結果」についても同様.

カントール集合がカントールとスミスによって独立に発見されるまで, いまの言葉でいう「至る所非稠密」と「外容量ゼロ」と「カントール・ベンディクソン階数が有限」という概念を デュボアレイモンやディリクレといった一流の数学者といえども区別できていなかった.

つまり「どんな小さな区間においても稠密ではない」けれども「孤立点がない」ような点の配置は, 1870 年代前半までは, 数学者の「健康な数学的直観」の射程にはなかったし, 論理的可能性としても検討されていなかった.

そして, 不連続点の配置が, これら曖昧に同一視された「点の小さい集まり」に含まれるような有界函数はリーマン積分可能と信じられていた. (以上は T.Hawkins の本「 Lebesgue's Theory of Integrals 」による)

そこへスミスとカントールがカントール集合すなわち「至る所非稠密な完全集合」をもって登場した. そういう背景を考えれば, 当時, カントール集合が「病的な例」とされただろうことは容易に想像がつく.

しかし, スミスはたしか「小数点下に 4 が出てこないように 10 進展開できる実数の全体」を考えたのだから, 後知恵で振り返ると, それに先立つ世代の「健康な数覚による実在する数学的現象の直観的把握」のほうが片手落ちだったと言わざるをえない.

まとめれば, カントールの「単位閉区間上の 1 が出てこないように三進展開できる実数の全体」が病的な例であったのは, それ以前の「健康な数学的直観」にとってのみであり, その後発展をみた測度論や位相空間論や力学系理論においては, カントール集合にはいたるところで出会うことになる.

これ, あとでまとめて「昨日のて日々」に書くだ.

「病的な例」のホームラン王たるバナッハ=タルスキの定理にしても, 測度問題の発展史という背景において見るべきだと思う. たしかに驚くべき例なのだが.

つどいで市民の話を聴けなかったのは残念だが, それにはやむを得ぬ事情があったのだ.

@phasetr そのファインマンの「経路積分」もその当時の数学の文脈ではトンデモあつかいだった. けどそれを言ったらニュートンやライプニッツだってそうだし, むしろそういうものこそ数学の発展をリードするわけですからね.

ニュートン vs バークリとかライプニッツ vs ニイエンティイト (と読むのか?) とか, あるいはカントール vs クローネッカーだってそうだけど, 批判者のほうが論理的に首尾一貫した堂々たる理論を展開できるのは, 新しい理論の創造性のいわば代償のようなものなんだろう.

私のツイート

これに対して私の方からも適当に呟いておいたのをまとめてきたい.

ツイートまとめ

私が好きなのは, 普通に数学をやっているとなかなか出くわさない, またはある種異常な振る舞いをしてくる (物理由来の) 対象, またはある時点での「美しい数学」では捉えることのできない物理由来の変な現象が好き. 病的な例というより適当な意味で特異性のある話が好き. つどいでも少し話したが

@phasetr つどいで少し触れたし, 多分そのうちどこかで詳しく話すが, 殿下の話, 物理関係だと時々出てくる. フォンノイマンはデルタ関数が嫌で関数ではないことの証明を本の中でわざわざ付けたらしいし, III 型フォンノイマン環の物理でも大雑把に言って似た話がある

@phasetr デルタ関数からは超関数論が花開いたし, 日本からはさらに代数解析という最高レベルに貴族的で美しい数学が生まれた. 三型環には冨田竹崎という作用素環の至宝が生まれ, 非可換幾何やそこと数論の関係でも使われる.

@phasetr その辺の「病的」なところを「綺麗」な数学にするみたいなことが私の数学的な部分のモチベーションの大きな部分になっている

@phasetr 三型環だと極端な話がある. 存在自体は分類がされた当初から分かっていたようだが, 具体例が作れなかった. 具体例は相対論的場の理論と量子統計への応用で出てくるほぼ全ての環が三型だ, という形ではじめて構成された. こういう話がすごい好き

@phasetr フォンノイマンの論文に本当に書いてあるが, 作用素環自体が量子力学への応用を念頭に見つけた理論だ. あと作用素環で重要な線型汎関数に状態 (状態空間というのもきちんとある) というのがあるが, この名前の由来も物理だ. 荒木先生だとか有名な人で物理出身の人も多い

コメント

超関数の話については Fourier との関係でこんな動画を作ったことがある. また冨田-竹崎理論についてもこんな動画を作った. そのうち何かのつどいで経路積分の話などもしたい.

追記

knyokoyama さんから次のような補足ツイートを頂いたので載せておく.

ご参考: http://bitly.com/11yeIBJ. 数学会誌に, 河東先生の「荒木不二洋先生のフンボルト研究賞受賞に寄せて」という作用素環の話が書かれてます. 引っ張り出しました.

実際に III 型環の具体例が相対論的場の理論を使ってはじめて作られたという話が書いてある.

ラベル

数学, 物理, 数理物理, 作用素環, 関数解析, 汎関数積分

読んでいて楽しい数学の本

本文

(数学科の学生が) 読んでいて楽しい本というのが紹介されているページがあった. 名前だけ知っているが読んだことない本やそもそも全く知らない本など色々あった. 和訳がある本もいくつかあるし, PDF の参照がある本もある. 興味がある向きもあろうから, とりあえず共有しておこう. 本だけ抜き出しておこう.

リスト

金城克哉さんによる論文, 「槇原敬之の歌詞の数量的分析 : 『君が笑うとき君の胸が痛まないように』から『 Heart to Heart 』まで」

はじめに・引用

金城克哉さんによる槇原敬之の歌詞の数量的分析 : 『君が笑うとき君の胸が痛まないように』から『 Heart to Heart 』まで という論文の話が出ていた.

なんという論文…‼ / 槇原敬之の歌詞の数量的分析 : 『君が笑うとき君の胸が痛まないように』から『 Heart to Heart 』まで http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/handle/20.500.12000/26375

掲載誌としては「琉球大学欧米文化論集」という紀要で, 分野としては計量言語学になるのだろうか. 論文の「はじめに」を引用しておこう.

論文の「はじめに」

近年ではインターネットで音楽が購入でき, 超小型音楽再生機器の登場によって, そのように購入した楽曲を文字通り「もって歩ける j 時代となった. これまでにないほど, 我々の生活の中には音楽が溶け込んでいる. それを反映するように, 我々が親しんでいる楽曲の歌詞が言語研究の対象として取り上げられことも少なくない (『日本語学』 (1996,15 号) 所収の諸論文参照). 一人のシンガーソングライターの歌詞を分析した代表的な研究として伊藤雅光による松任谷由美の歌詞の一連の分析がある. しかしながらそれ以降, 自ら作詞・作曲をし, なおかつ自分が作った歌を歌うシンガーソングライターの一連の歌詞を数量的に分析した研究は多くない (細谷・鈴木 2010). 本稿では 2012 年でデビュー 22 周年を迎える日本の代表的なシンガーソングライター棋原敬之のオリジナルアルバムの歌詞を数量的に分析することを目的とする.

雑感

研究の目的が今一つ分かっていない. 欧米文化という観点から見た比較なども気になる. 論文の最後に「評論家の評価・本人の発言が実際の歌詞研究からも裏付けられた」というような記述はあったが, そこからどう話を持っていくのだろう. 私から見て他分野もいいところなので, 研究のモチベーションが分からないというよくある話ではある.

時々見かける「数学は何の役に立つの」というアレに関して, 人によっては「文学部国際言語文化学科」という学部学科であっても統計学という形で数学を使わざるをえないというところの紹介だ. 経済を筆頭に社会学系統だけでなく, 文学部でさえも数学を使わざるをえないこともある. ただ「こともある」という程度だと思うので, 皆が皆無理にやることもないだろうとも思っている.

コンパクト性の諸相を探る対談を聞きたい方の市民

はじめに

我らが Dr 谷村のツイートを受けて次のようなツイートをした.

これ, 私だと全く他人への影響力がないので, 他力本願的に我らが数学市民に何かお願いしていきたい. どんな感じの話があると嬉しいか, 面白いか的な意図で関数解析系の解析学に関する私の趣味嗜好, そして Dr 谷村的な気分のツイートを記録しておく. Dr 谷村は鍵アカウントなのでツイート引用についてどうしようかという気分はあるが, 怒られないことを期待して適当にツイートを引くことにする. もとは一般位相空間に関わる話に端を発しているようなのでそこからのツイート引用もしよう.

私の趣味志向

最初に引用したように私の気分だととにかく収束に関わる話が一番で, それ以外は連続関数の可積分性などを思う. 実数論のボルツァノ-ワイエルシュトラスがアラオグルの定理として無限次元拡張を持つことへの拡張が全ての感覚の基礎にある. 物理学科所属としてはかなりのレアケースのようだが, 学部 1 年の必修で実数論・集合論・位相空間論があり, 実数論・解析学は私の数学認識の基礎基本になっている. 関数解析方面からは (局所) コンパクトハウスドルフ空間上のリース-マルコフ-角谷の定理など積分論・測度論とコンパクト性に関わる議論もある. 現代数学探険隊では可分なバナッハ空間上の汎弱点列コンパクト性やクレイン-ミルマンの端点定理, ストーン-ワイエルシュトラスの定理, ビショップの定理なども紹介している.

それぞれ簡単に言明を書いておこう.

  • クレイン-ミルマンの端点定理: $X$ を局所凸線型位相空間とし, $C$ を $X$ の空でないコンパクトな凸部分集合とする. このとき $\mathrm{ex} C \neq \emptyset$ であり, $C = \overline{\mathrm{conv}} (\mathrm{ex} C)$ である.
  • ストーン-ワイエルシュトラスの定理: 局所コンパクト空間 $X$ に対して $A$ を $C_c(X)$ の部分環とする. $A$ が $X$ の全ての点を分離し, 全ての点に対して $A$ の元であってそこで消えない元が存在するとき, およびその時に限り $A$ は 上限ノルムに関して稠密である.
  • ビショップの定理: コンパクトハウスドルフ空間 $X$ 上の関数環 $\mathcal{A}$ が単位元を含む閉部分環で $X$ の全ての 2 点を分離するし, $\mathcal{K}$ が $\mathcal{A}$ の反対称集合の全体だとする. このときいろいろなよい性質が成り立つ.

コンパクト集合または局所コンパクト集合の上でいろいろないい定理が成り立ち, 特に収束周りのいい定理 (閉集合性) が成り立つ気分が大事. あとは物理まわりで局所コンパクト群とハール測度の存在のような群上の積分論に関するよい性質もある.

既に言及があるように, やはりコンパクトハウスドルフ空間まわりの議論も基本中の基本で, 作用素環でのゲルファント-ナイマルクの定理は決定的だ. 単位元つきの作用素環上の状態の空間はコンパクトなので, そこで状態の列を考えればとにかく部分列が収束する. ヒルベルト空間の単位ベクトル列だと赤外発散が原因で 0 にしか収束しないのだが, 単位元つきの作用素環の状態空間上での収束なら $\omega(1) = 1$ だから 0 には収束しない. 赤外発散処理の基本定理だと思っていて, こういうところで常にお世話になる.

他に幾何でも, ベクトル場の完備性の十分条件として多様体のコンパクト性がいるあたり, やはり解析の趣を感じるし, リーマン幾何のホップ-リノウもリーマン多様体がユークリッド空間の拡張である気分を感じさせてくれていい気分.

解析系だとほぼハウスドルフ空間しか見ないので, ハウスドルフ空間ではコンパクト集合が閉集合という意識さえしなくなる定理がある一方, 非ハウスドルフなザリスキ位相などを扱う代数幾何だとコンパクト開集合が出てくる. 代数幾何の気分は全くわからないので前から気になっている. quasi-compact という用語を準備したくなるほど違うらしいのでどういう事情が出てくるのか聞いてみたい気分がある. あと $p$-進は超距離から来る連結性まわりの位相的な特徴の違いもあり, コンパクト性にどういう影響があるかは聞いてみたい.

他にも探せば出てくるが, とりあえずこんなところで. 以下, 数学市民と Dr 谷村のツイートをいくつか引用して終える.

数学市民のツイート引用

Dr 谷村のツイート引用

何冊もは知らないけどケリーはいいと思う。

まああとはブルバキ

アマチュア数学勢、「いや、自分にはまだ多様体は早いすから」って言いながらものすごく凶悪な位相空間論を繰り出してくるイメージ。 ぼくとしてはむしろ、多様体をやらずに位相空間論だけ直観に落とし込むってものすごいことだと思う。 多様体やるまでマジでコンパクト性ってなんなのか全くわからなかったし、普遍性やベクトル束に至ってはB4でセミナーやっててやっと理解出来た。

これはえなじーさんの言なのですが、ペットボトルを回してみると、ペットボトルは変な形になったりせずに有界なパターンで動きます。これはSO(3)がコンパクトだからです。コンパクトとは「遠くに逃げない」状態です。 「こういうのの証明ってちゃんと書いてる本知らない気がする」を網羅している同人誌。

最後に

何にせよいろいろなコンテンツ作りはしていきたい. 連携できるならいろいろな人とも連携しつつ.

量子力学での非線型何とかの扱いと自己共役性と原子核的なアレ

本文

元発言の人が鍵つきなのでこう引用が色々とアレだが, こんなやりとりをした. 問題ないと思われる範囲で引用する.

元は「量子力学でのオブザーバブルを非線型作用素で書くことがあるか」という話で次が続く.

引用

@sazanka_kamelie どうなんでしょう. 観測可能な物理量だったらスペクトル分解できて欲しいので, 線型作用素であることは要請しそうですが…

「量子力学での非線型 Schrodinger とかの扱いはどうなの」という話が来てこうなる.

@sazanka_kamelie あまり詳しくないですが一次元系の BEC が非線形シュレーディンガー方程式で近似できるという話はちらっと聞いたことがあります.

中略

@sazanka_kamelie 良く知らないですが, 多分解きたい方程式が非線形シュレーディンガー方程式で近似できるみたいな話だと想像してます. ちなみにですが相転移 P にも聞いてみたらどうでしょう.

ここで話を振られたので知っていることを答えてみた. 詳しくないのでつらいところだが.

@wr_r @sazanka_kamelie 詳しい人に聞いた方がいいですが, GPのことなら, アレは物理量というより基底状態を求めるための近似式のはずなので違うのではないか説

@wr_r @sazanka_kamelie 別件ですが, 原子核だと (近似として) 非エルミートの物理量 (ポテンシャル) を使うことがあるそうなので http://nucl.phys.s.u-tokyo.ac.jp/yakou/gensan.pdf, あまり杓子定規な扱いはよくないのではないか説

@sazanka_kamelie それはお役に立てて良かったです. 今日みたいにおもしろい話があればめた聞かせてください @phasetr ご丁寧にお教えいただきありがとうございます. GP というのですね. 僕ももっと守備範囲を広げていきたいものです.

@wr_r 私の守備範囲の狭さは危険水準なので涙を禁じ得ません

@phasetr たまにツイッターで物理 or 数学を教えて欲しいと話されてますよね. 僕も守備範囲狭いので涙を禁じ得ません.

本当に正確に理解できているのか不確かなのだが, 原子核で Schrodinger が Hermite (自己共役) にならない形のポテンシャルを使う, と聞いたときはびっくりした覚えがある. それ以来, 原子核の理論をちょっと見てみたいと思っているが手が出ない, という以前に何を読んだものかというレベルで止まっている.

構成的場の量子論とLevi過程とGauss超過程

はじめに

先日, Twitter でくるくるさんに読んでほしい本特集をしていたのだが, その中でささくれパイセン方面にぶっこもうという自然な流れができた. それを記録しておきたい. 他の人も何か言っていたと思うが, 追跡しきれないので自分の分だけまとめる. この辺からはじまる.

やりとり

ささくれ先輩には汎関数積分を教わりたい. Levi 過程とか微妙に確率的に多少突っ込んだ話が必要で, かなりつらくて読みこなせない

今書いている論文, さっさとまとめてちょっと違うことしてみたい気分になっている. 動画作る上で幅を広げたいという目的もあり

(作用素論・) 作用素環・確率論でそれぞれ同じ物理がどういう風に数学的に表されるか, とかそういうのも鑓田違法の市民だったが, 確率には挫折しっぱなしな方の市民だった

よく知らないのだが, ブラウン運動と大偏差原理, 何か関係あるの

ささくれ先輩にガウス超過程を教わるオフの開催が決まった

ささくれパイセンとパン耳パイセンに可換, 非可換確率論の集中講義をしてもらおう

構成的場の理論, 本当にレビとガウス超過程出てくるということだけは言っておきたい

学部一年の時, ブラウン運動の物理について調べて発表しろという講義があり, その時何も知らずに飛田ブラウンを手に取ったり, 初期値δ関数の拡散を考えるのにシュワルツの超関数とか手に取ってしまって絶望に叩き落とされた私の話はやめるんだ

コメント

Levi 過程にまで踏み込んだ本格的な汎関数積分の本は廣島先生達による次の本, 『 Feynman-Kac-Type Theorems and Gibbs Measures on Path Space: With Applications to Rigorous Quantum Field Theory 』がいいだろう. 場の理論で作用素論・作用素環で証明したことを汎関数積分で見てみたい, と思って汎関数積分を勉強しようと思って読んだところ, 確率弱者に読める本ではないことが判明して号泣した本だ.

Gauss 超過程は上記の本にもあるが, 新井先生の『量子数理物理学における汎関数積分法』が読みやすい.

場の理論だと, 基本的に Gauss 超過程は「敗北」を意味する. Gauss 超過程は自由場に対応するからだ. 物理として面白い (意味がある) のは相互作用場だが, 上記注意からこれは非 Gaussian である必要がある. これが実につらい. Gaussian だからといって超関数を変数とする関数の積分を考えないといけない時点で解析的にかなりハードだが, それをさらに越える制御の面倒さが出てくる. Curved spacetime でしようと思うと最早現行人類の手を離れるといってもいいだろう.

途中で非可換確率論の話が出てきているが, それについてはこれでも見てほしい. (このページの「Twitter まとめ: 非可換確率論と自由確率論」).

覚書: Cantor集合が連続体濃度である証明

色々あってこの間Cantor集合が話題になった. 連続体濃度を持つというのは知っていたし 三進展開を使うとうまくいく的なことも知ってはいたが, 証明をきちんと追ったことがなかった. いい機会なので証明を記録しておきたい. 参考PDFをもとに証明を書いておこう.

まずCantor集合を定義しておく. $I = [0, 1]$ としよう. ここから開区間 $I_n$ をがんがん抜いていって作る集合がCantor集合だ. この $I_n$ を定義していく.

$I_1$ は $I$ を 3 等分したときの真ん中の (開) 区間 $I_1 = (1/3, 2/3)$ だ. $I_2$ は $I \setminus I_1$ の 2 つの区間をそれぞれ 3 等分した集合の真ん中の区間の合併となる. つまり $I_2 = (1/3^2, 2/3^2) \cup (7/3^2, 8/3^2)$ だ. これを無限回繰り返すと Cantor 集合 $C$ になる. つまり $C = I \setminus \cup_n I_n$ だ.

性質のその 1: $C$ の Lebesgue 測度は $0$ になる

$[0, 1] \setminus C = \cup_n I_n$ の測度が 1 であることを示せばいい. $\left| I_n \right| = (1/3) (2/3)^n$ で $I_n$ が互いに素なので, これを素直に足し上げて $\left| I_n \right| = 1$ で終わり.

性質その 2: Cantor 集合は閉で nowhere dense.

nowhere dense の定義は $\mathrm{Int} \, \overline (C) = \emptyset$. では証明.

$C$ が閉なのは自明. $C$ が Lebesgue 測度 0 なので, $C$ は測度正の (開) 区間を含まない. したがって $C$ は nowhere dense.

性質その 3: Cantor 集合は非可算集合.

全射 $f \colon C \to [0, 1]$ を作る. $x \in [0, 1]$ を 3 進展開する. これに合わせて $1/3 = 0.1$, $2/3 = 0.2$ と書く. 最初に除いた集合 $I_1$ は $0.1$ と $0.2$ の間にある. これを繰り返すと $C$ に現れる数を 3 進展開したときに 1 は決して出てこないことが分かる.

全射を実際に構成しよう. $x \in C$ とし, これを 3 進展開したときの 2 を全て $1$ に変え, それを 2 進展開に読み替える写像を $f$ とすればいい. 全射性は自明.

数学書の読み方簡易版

質問

Ask.fm まとめ祭りだ. まず質問.

既出かもしれないのですが, 数学書の読み方というのが今ひとつつかめないのですが, なにか一般的な指針というものはないでしょうか.

回答

心から分かったと思えるまで頑張って読むだけです. 1 週間くらい考えても分からない所があったら, 分からないことをはっきり意識しながら飛ばしたりしても とりあえずは問題ないです. もちろんあまりにも飛ばす箇所が多すぎるとアレですが. 誠実なのが一番です.

物理抜きのベクトル解析, どういう感じなのだろう

はじめに

物理学科だったので私のベクトル解析は電磁気やら何やらで物理まみれだ. 悪いとも思わないし, 杉浦の解析入門でも物理での使い方の紹介みたいなのがあるので, 多分数学としてやる上でも参考になるのだろうとは思う.

私が気になるのは, そういう物理などの応用を全く見ないで数学として学んだ人たちが, ベクトル解析の諸定理に対してどういう感覚を持っているのだろう, というところ. 純粋な数学としての理解, もう私にはできないのでどういう感覚なのだろうかというの, とても気になる.

あとついでに思ったのだが, 多様体での Stokes の定理をダイレクトに学んだ人なら, 物理抜きの勉強になるような気がする. こういう人はどういう感覚を持っているのだろう. 多様体論で Stokes をやるとき物理がどうの, みたいなことは全くやらないから. もっというならここまで来ると解析というより多様体, 幾何の話になるので, そこも何か感覚違う気がする. むしろ, 物理で使うときも解析というより幾何的な見方をすることになるので, 本道という気もする.

関係ないが, 実多様体, 1 の分割とか関連する面倒な話が多過ぎて勉強するのつらい. つどいで宇宙賢者も言っていたが, 複素多様体から入った方が何となくすっきり幾何に入れる気がする. この辺, 学生時代ほとんど勉強していなかったのでもう少しきちんとやりたいとずっと思ってはいる.

追記

この間も少し書いたことだが, 私の数学は物理まみれで時々困る. 何が困るかというと, 純粋に数学に興味がある人に対して数学の話をしようというときであっても, ある程度物理の話をしないとモチベーションの話などがしづらいからだ. 純粋に数学的なモチベーションというのを上手く説明できないといった方がいいのかもしれない. 勉強する上では, 今の自分なら何であっても純粋に数学だけのモチベーションでも動ける.

最近人前で話をする機会を増やそうキャンペーン中なのだが, 時間があれば 1 から勉強してそれを話すとかいう風にするのもいいのだが, 悲しいことにあまりのんびり勉強している時間も取れないので, やはり人に話せる話は自分が勉強してきたことが中心になる. このとき, 何だかんだ言って物理学科卒というのがボディブローのように効いていて, そういう方向からしか数学の話を展開できない. 幾何なら最近物理と数学の交流が多いため人がたくさんいるので, 解析学方面, それも微分方程式でない部分で話ができるのはむしろ私のよい所といってもいいのだろうが, 前提としている物理が量子力学と統計力学というのが辛いところ.

興味関心のマイナーさこそをうまく良さに転換する方法が求められる.

Riemann 積分と Lebesgue 積分: 特に定義

やり取り

先日, Twitter で次のようなやり取りをした.

@kenkonD リーマン積分は定義は分かりやすく技術的にも簡単ですが, そのあとの議論が恐ろしく面倒です. ルベーグは定義からして面倒ですが, 定義したあとの議論がクリアです. 何かリーマン積分をやらなければいけない理由がない限り直接ルベーグでも良いと思っています

リーマン積分とルベーグ積分, 勉強について色々思うところはあるが, うまくまとまらない. 定義の簡明さと関連する定理の議論の簡明さが恐ろしいくらいに反転するので, どうするといいものかがとても悩ましい. 使うならルベーグがやはり楽で, 具体的な計算練習にはリーマンの「本」が参考になる

@crobert_z わたしもまさにそれを思っているのですが, 具体的な計算は別途関連する計算のところだけ読めば良くて, 理論はそんなに頑張ってやることないな, という感じ. 問題は初学者が自分でそこの切り分けができるかというところで, それが悩ましい

一応言っておくと広義積分に関するところでリーマン積分とルベーグ積分の違いがあるのでそこは注意する必要がある.

やはりあれだ, ルベーグの定義までの面倒くささが初学者に勧めるときのハードルになるので, そこを埋めるコンテンツを何か作るしかない. 厳密なのはいくらでもあるから, 気分だけきっちり感じられるものを

リーマン積分

色々と思うところもやりたいこともあるが, とりあえず今回は Riemann 積分と Lebesgue 積分の定義について考えたい. 一言でいうと, Riemann 積分は定義が簡単だが後の議論が煩雑で, Lebesgue 積分は定義が面倒だが後の議論がクリアになる. まず技術的にいえば, これは面倒な部分を定義に押しつけるかその後の議論に押しつけるかの差にあたる.

ルベーグ積分の定義

基本

Lebesgue 積分がすぐれているというか応用上便利なのは, 面倒な部分を事前に定義に押しつけているからだ. 具体的にどう便利かというと, 極限に関する議論, 特に関数列が扱いやすい. Lebesgue の単調収束定理と Lebesgue の優収束定理が魂といっていい. この 2 定理の簡明な定式化が許されることがとても大事. Riemann 積分で対応する定理を見てみると良く分かる.

モチベーション

Lebesgue 積分のモチベーションを考える上では応用から入るのがいい. そこで具体的な状況を考えよう. 一番シンプルで直接的な応用はおそらく微分方程式だろう. このとき定義とも合わせて鍵になるのは「真の解」を近似する関数列だ. さらに数値計算など実際問題としても大事だ.

折れ線近似でも何でもいいが, とにかく適当な手段で近似関数列を作り, その収束を議論する. つまり関数列の極限を扱いやすくしたい. 積分の定義自体もここに照準を合わせて改良すると Lebesgue 積分になると思えばいい.

適当な本で Lebesgue 積分の定義を確認してほしいが, 実際に積分したい関数を (単関数の) 関数列で近似し, それの極限として積分を定義している. つまり定義そのものから関数列を導入している. 分かりづらさもまずここからはじまる.

リーマン積分とルベーグ積分

Riemann 積分は関数それ自身とその値だけで定義できるので, 面倒がないが, Lebesgue 積分では関数列という余計な概念が出てくる.

また, Riemann 積分 (の定義) では本質的に区間しか出てこないが, Lebesgue 積分だと極限の取り方を柔軟にするため区間の極限を始めから考えておかないといけない. それが可測集合だ. ここで, 集合の演算は可算なところでおさえておかないとまた変なことが起きる, とかいう話もある. 技術面で面倒なことだけならまだいいのだが, 非可測集合など数学として本質的に問題になることも出てきてしまうため, 何となくきちんと勉強しなければいけない気にさせるあたりがまた鬱陶しい. もちろん数学科の学生ならきちんとやってほしいけれども.

まだあまり整理できていないが, そのうちもう少し膨らませて何か作ろう.

ラベル

数学, 解析学, 積分論

Twitter まとめ:汎関数と積分 Riesz-Markov-Kakutani の定理

はじめに

積分は汎関数と思えるか, みたいな話をした. 前にも何回か書いたような気はするが, これは面白い話なので何度書いてもいいだろう. この辺とかこの辺.

ツイート引用

「積分」を特定の関数空間に対する線型汎関数と定義するなら積分なんじゃないすかね (適当)

@crobert_z 作用素環, 特に von Neumann 環だと実際に汎関数を積分のように見ます. 可換だと本当に積分になりますし. 特に【単調収束定理が成立する汎関数 (正確には状態:作用素環の用語) 】を正規状態と呼びます

@phasetr やはりそうでしたか. 可換だと関数環 (でしたよね) になるから当然ですかね. ありがとうございます.

State=積分ってのは知らなかったな. 授業中聞いてなかっただけかも知れないけど ()

@crobert_z 状態は勝手に有界になってくれるのですが, (局所コンパクト) ハウスドルフ空間上の 連続関数環の正値有界線型汎関数は Riesz-Markov-Kakutani で積分と思えるというのを使います http://en.wikipedia.org/wiki/Riesz%E2%80%93Markov%E2%80%93Kakutani_representation_theorem

@crobert_z あと正規状態とか非可換確率論とかで http://kaken.nii.ac.jp/d/p/61540138.en.html あたりも多少参考になるかと思います

@phasetr Riesz-Markov 定理は知ってましたが Kakutani の名前も付いてたんですね

コメント

詳しい話は Wikipedia を見てもらうこととして, Riesz-Markov-Kakutani はハイパー格好いい定理で, 関数解析のハイライトの 1 つなので, 関数解析を学ぼうという人は必ず勉強してほしい. 証明は例えば「ヒルベルト空間と線型作用素」の付録に書いてある.

証明は長いのだが, ポイントは連続関数と開集合に対する議論を緻密な解析で可測関数と可測集合に持ち上げていくところにある. 測度と位相の絡み合いが織り成す美しい定理であり, 証明だ. 実は「正値 (Schwartz) 超関数は測度である」という定理も同じように証明できる. こちらは例えば Lieb-Loss の本がある.

引用

正規状態あたりの話も簡単に触れておこう. 上記 URL から引用しよう.

本研究は作用素環上の非可換確率論と非可換力学系を解明することを目的とした. 非可換の確率論・積分論は通常 Von Neumann 環 (以下, V.N.環) 上で定式化され, 確率測度または測度に相当するものとして正規な状態または荷重が用いられる. 状態または荷重がトレースとなる場合は従来より盛んに研究されている. 通常の古典的確率論は V.N.環が可換な場合として非可換確率論に包含される.

作用素環の話

これも何度か書いている気がするが, 可換 von Neumann 環は $L^{\infty}$ と同型になるので, 要は $L^{\infty}$ だ. $L^{\infty}$ は可測集合の情報を持っているので, そこから大体測度論やら確率論ができることになる. 一般の von Neumann 環は非可換なので, そこから単純に非可換確率論と言っている. 状態はノルム 1 の正値線型汎関数のことだが, 荷重は非負の元から $[0, \infty]$ への線型写像だ. むしろ状態はノルム 1 の荷重とも言える.

大体状態 (von Neumann 環の場合は正規状態) を考えていれば事足りるのだが, 冨田-竹崎理論などは荷重のレベルで議論できる. むしろ荷重での冨田-竹崎理論は, それで展開されていた竹崎先生の集中講義で聞いたきり使ったことがない. ただ, 比較的最近の代数的場の量子論では infraparticle の解析で荷重を使うらしい. 興味がある向きは Spectral Theory of Automorphism Groups and Particle Structures in Quantum Field Theory などを読んでほしい. 私はきちんと読んでいないので, 聞かれても困る. 教えてほしいくらいだ.

ラベル

数学, 数理物理, 作用素環, 関数解析, 確率論, 代数的場の量子論

Twitterまとめ: 百合数理についての雑感

百合漫画について先日少しツイートした分をまとめておこう.

そういえば百合キチババアから少女セクトの感想も書くように言われているが, GIRL FRIENDS, クローバーなどと比較しつつの少女セクトの感想は 「裸が頻出する本でなぜ女性は巨乳として描かれるのか」という部分に今のところ集約される. 全くとまでは言わないが, クローバーと最後の制服はほぼ裸体が出て来ず, 胸は何と言うかすとんとしている女性ばかりだが, ほぼそれ方向の少女セクトと時折裸体が登場する GIRL FRIENDS では女性陣, 胸が大きく描かれている.

りぼん, なかよし周辺しか知らないが, あの辺の少女漫画では, 登場人物が小学生の場合もあるが, あまり胸が大きく描かれている印象はない.

セーラームーンなど「お色気」シーンがあるものだと 何となく大きかったような気もするが, Google 画像検索で簡単に見た限りでは何となくそんな印象. 封印しているのですぐ取り出せないのだが, ふしぎ遊戯や妖しのセレスなど裸が時折出てくる漫画だとやはり女性の巨乳率高い印象がある. これは漫画家同じなのでアレだが, 今画像検索で確認したら天使禁猟区のアレクは胸大きい. 九雷とか沙羅はどうだったろうか. イラスト集も封印してしまったようですぐ出せないので確認できていないのだが.

無論ここで気にしているのは巨乳と貧乳の数理だ. 貧乳の数理解析については私の動画の他, 流体力学の観点からのてとろで P の動画もある. ここで裸が多い場合にはそれなりに胸を大きく描く傾向がある (これが真であることはとりあえず仮定) ということはこれを前提に議論を展開しなければいけない印象.

まず気になるのは裸を描くときになぜ胸を大きく描きたくなるのか, というところ. 著者の性別なり色々な問題があるが, (現代) 女性の願望なのか, (現代) 男性の願望 (ある意味現代社会の願望) なのか, という別の問題があるにせよ, 何となく胸は大きい方がいい的なアレを感じる.

さらに気になるのは, 裸そのものの意味だ. 数学としては余計な構造を取り除きぎりぎりまで研ぎすませた世界で生まれる美というのは一つの理想と言える. こうした観点から考えたとき, 裸体はやはり余計な構造を取り除いた美しい姿といっていいか. いいとした場合, 何故その美しい姿に巨乳を当てるのか. ぎりぎりまで研ぎすませた上でまだなお必要とされるものは豊かなものを含んでいると思えるだろうが, 何と言うかそういう話か. この辺がうまくまとまっていないのが少女セクトの感想が書けない理由の一つになっている. 最後の制服は数学的にはさらに難解な印象をうける. どう料理するべきか試されている.

百合の世界, 複素多様体のような選り抜きのエリートよりも可微分多様体や位相多様体のように, 色々あってそれぞれいい的な多様な世界を愛するということなのかと思っている.

Twitterまとめ: 高校生とのハートフルなやりとり 数学あるある 2000 年の恋編

本文

先日こんなネタを呟いた.

数学あるある 2000 年越しの恋

これが高校生に RT されていたため, 数学ガールの読者のようで, その辺を関係づけるときっと楽しいだろうと思い, 折角なのでちょっと話しかけてみた. 今回はそのハートフルなやり取りをまとめておきたい. 大体この辺から始まる.

やりとり

@lovemath0218 http://https://twitter.com/phasetr/status/307862438148206592 の元ネタが何だか分かりますか?

@phasetr ごめんなさい, 元ネタは分かんないです

@lovemath0218 http://http://ja.wikipedia.org/wiki/定規とコンパスによる作図#.E4.B8.8D.E5.8F.AF.E8.83.BD.E3.81.AA.E4.BD.9C.E5.9B.B3 数学ガールのガロア理論の巻に角の三等分問題がありましたが, その辺です. 古代ギリシャの頃からあった問題で解決が 1837 年なので, だいたい 2000 年です.

@lovemath0218 2000 年経って解決されたのをもって 2000 年越しの恋が成就, という感じで適当に呟きました. さらにいえば恋は実ったところからこそが始まりとも言えるわけで, その後のガロア理論の深い展開は色々あります. 専門ではないので私は詳しくないですが

@lovemath0218 あと, 純粋な数学ですぐには思いつかないのですが, 他に, 例えば物理で 2000 年かかってまだ解決されていない問題があったりもします

@phasetr 2000 年経っての解決を意味してるのは予想出来たんですが, さすがに角の三等分問題まではたどり着かなかったですね

@phasetr 色々教えてくださってありがとうございます ('▽`) 2000 年かけても解決されない問題, 何だかワクワクしますね (笑)

@lovemath0218 超我田引水ですが, 磁石が何故存在するか, というのも 2000 年レベルで未解決の問題です. 私はこれに関する数学を研究していました. そういう問題, 意外とその辺に散らばっています

@phasetr そうなんですか!? また色々調べてみます ((((゜▽゜))))

記録

Galois 関係というか代数をほとんど知らない (分かる分からない以前の問題) なので何ともいえないのだが, 微分 Galois 理論といった議論もあるし, 代数幾何などとも関連する方向での展開も色々あると聞いている. その辺は Twitter で代数または代数幾何系の人に聞くときっと色々教えてくれる.

物理での話

天文だの何だの色々あるだろうが, 物理関係でも 2000 年クラスの問題はある. 上にも書いた通り, 磁石の問題は 2000 年の時を経てもいまだに解決されていない. 興味がある向きは【シリ*MAD 支援】線型代数と多体電子系【アイマス教養講座】などをご覧頂きたい. Hubbard モデルという磁性体の簡単なモデルについて説明している.

また Bohr-van Leeuwen の定理というのがある. 古典論の範囲では磁性体が存在しないというように (適当に) まとめられる. どうでもいいが, 上記 Wikipedia の記事中, 次のような記述があったが相対論をどう思っているのかとても気になる. 普通, 相対論は古典論に入れる. 古典論というのは非量子論という意味で使うのが普通で, 相対論は量子論とは別枠だ. 相対論的量子力学とか相対論的場の量子論というのがあるので, マッチする部分があるけれども.

この定理の発見の重要な点は, 古典力学の範囲では反磁性, 常磁性, 強磁性などの磁性を説明できず, それらを説明するには量子力学と相対性理論が必要不可欠であるということである.

量子論の物理入門というのは明らかに私の能力を越えているが, 量子力学というか場の量子論と量子統計の数学なら私の専門だ. ここについてもいくつか動画を作ったので, 興味がある向きはご覧頂ければ幸いだ. まず量子統計だが 春香誕生祭 + 緑な P ・実解析 P ・パラ P リスペクト 1/5 量子統計の数学的基礎から続く 5 連作がある. 全部で 90 分程度あった気がする. 作りかけでアレだが 【理工学 M@ster 祭り 2nd 】量子力学の数学的基礎 1-1.概論というのもある.

また, 量子電気力学入門として 【シリ*MAD 】レーザー:電子がうたう歌というのも作った. レーザーという「身の回り」にあるものだが, 原理的には場の理論が必要になる. こちらは数学分はほとんどない (つもり). アイドルとレーザーの感じをうまく絡められた感があり, 個人的にはかなり気に入っている.

世界樹ポエム御大とのやりとりの私的まとめ

本文

先日 Twitter で次のツイートから一部で盛り上がりを見せた問題について, 私の雑感をまとめておきたい. 問題のツイートはこれだ.

物理が解らない人って理系のセンスないですよね. 数学が得意で物理が解らない人って, 実は数学が得意なのではなかったんですよね. 数学が得意だと思い込んでただけで, 実は算数が得意なだけだったんですよ. 算数に毛が生えた程度の中学レベルの数学しか触ってないってことじゃないのかな.

端的に言って「何だそれ」の一言に尽きるのだが, それで終わってはあまりにアレなのでもう少し書いておきたい. はじめにまとめておくと, 「やりたいなら自分でやればいい. お前の信じる数学を信じろ」という感じ. 突っ込みは勝手に入れたらいいと思うが, 自分の数学を他人に強制するものではない. いわゆる煽りではない.

Twitter を見ていた方は分かるだろうが, 私は主に出身大学と専攻についてしか質問していない. それは 次の私のリプライに対してこのようにに対して返ってきたからだ.

@Seka_iki 私は学部が物理で院が数学ですが, お話のようなことは私の実感とも, 聞いた限りの数学・物理の人達の感覚とも合いません. これまでどのように数学・物理を学んでこられてそういった印象にいたったのでしょうか. それぞれの学部の専門課程程度は学んだ上での感覚でしょうか

@phasetr @Seka_iki 失礼ですが, どちらの大学でしょうか? >>聞いた限りの数学・物理の人達の感覚とも合いません.

コメント

まず, 相手の発言意図が確認したかっただけなので出身大学に関する話はどうでもいい. 専攻についてはかなり気になっている. Twitter 上または実空間で付き合いがある (東大や京大関係者を含めた) 物理, 数学の人にこんなことを言う人を見たことがないが, 以前 Twitter で「本質を知る工学徒」として知られる方が似たような発言をしていたので, 物理や数学以外の人の方が無駄に「真の物理」とか「真の数学」とか言い出す可能性が高そうだという予想を立てているため, それを確認してみたいというところがある.

理系のセンス

あとついでに書いておくと, 「理系のセンス」とやらを物理だけで測っているあたりに色々なものが見える. 物理学科出身者としては, 彼または彼女が物理出身者がこんなことを言っているというのなら, 身内の恥は社会に出す前にきちんと内部で粛清しにいきたい. 化学や生物, その他のいわゆる理系の方で各専門はきちんと身につけていても, 物理や数学はそんなにできないという方はたくさんいるわけで, 理系のセンスとやらと物理への理解とやらは全く別の話だ. また数学と物理を無駄に強く結び付けたいようだが, このあたりにも色々なものが見え隠れして, 深い悲しみに包まれている.

適当なまとめ

で, 正直 Seka_iki 御大はどうでもいいのだが, 私のフォロワーには受験生もいるし, Seka_iki 御大がお望みであろう物理と数学の両方にまたがる数理物理を専門にしていることもあるし, 数理物理方面に興味自体はあるだろう数学や物理関係のフォロワー諸氏もいることだろうし, 私の雑感をまとめるときっと楽しんでもらえる向きもあろうかと思い, 色々書きたい.

コメント返し

せっかくだから御大の個別のツイートについてもここでコメントをつけておこう. まずは これ.

@phasetr @Seka_iki 数学が発展してきた歴史をご存知ですか? リーマン予想がなぜミレニアム懸賞問題で未だに証明されないと思いますか? あなたの周りにそんなことを考えてる人がいなければ, それはあなたの周りの人達の感覚とは合わないでしょうね.

とりあえず「なぜリーマン予想がミレニアム懸賞問題で未だに証明されないと思うか」と言われても「難しいから」以外に何があるのだろう. ここでどこかで聞きかじったのだろう物理と数学の関係とか言いたいのだろうが, 「私の周辺」にこの辺を研究している人や関係する論文はあるので興味がある向きのために紹介しておこう. あと別件だが, どうしてここで Riemann 予想なのかというのも気になる. Navier-Stokes と Yang-Mills だとそもそも問題の起源として物理でしかも数学的な意義もある問題なのだから, 物理の問題解決モチベーションは大事だろうというのが言いやすいと思うのだが. Navier-Stokes は物理の役に立たなさそうなので, そういう意味で挙げなかったのだろうか. また全然知らないのだが, BSD 予想の数理物理というのを聞いたことがないので, もしご存知の方がいたら是非教えてほしい.

「私の周辺」としてまずはフィールズ賞を取った Connes だ. これは私の学生時代の数学方面での専門が作用素環であることから「私の周囲」と強弁している. リーマン予想に関することを直接書いている文献もあるのだが, 具体的な論文は知らないので数論に関する論文, Hecke algebras, type III factors and phase transitions with spontaneous symmetry breaking in number theory (PDF) だけ紹介する. 難しくて全く分からなかったので, 内容には触れられない.

あとは新井先生の Infinite-Dimensional Analysis and Analytic Number Theory だ. ここ (PDF) でも読める. これは実際に読んだ. 簡単に内容を説明しておくと, 構成的場の量子論 (数学的には作用素論) を使って場の量子論を考えたとき, あるハミルトニアン (第 2 量子化作用素) を作るとそこから Riemann の $\zeta$ が出てくる. また, この論文ではボソンの分配関数とフェルミオンの分配関数の双対性もうまく使いつつ様々な数論的関数を構成したり, その (古典的な) 関係式を導出している.

Riemann の $\zeta$ の零点問題には「零点は適当な自己共役作用素のスペクトルで表わされる」みたいな予想というか方針があり, ヒルベルト・ポリア予想と呼ばれている. そうした話とも関係しているのではないかと思っているが, そこまで詳しいことは知らない.

次のコメント

次は これ.

数学の研究より, 物理も含め科学の発展の方が先なのではないですかね. たとえば物理が解らないのであれば, 何の為に数学を研究しているのでしょうか. 数学者とやり合うつもりはありませんが, その問題を解いて笑顔になるのは誰なんでしょうかね. あなた以外で

「数学の研究より, 物理も含め科学の発展の方が先なのではないですかね」とのことだが, 確かに歴史を紐解くならNewton や Leibniz の微分積分はある意味科学の発展が後についてきたことはあるといえる. 少なくとも Newton は物理のために微分積分を作ったのだろうし, 数学の後追いと言えるだろうが, この表現形式を得たことが契機になって様々な科学の研究が進展しただろう. ちなみに表現形式を整えるというのは大事なことで, ベクトル解析と電磁気学でも, 最早ベクトル解析抜きの電磁気学は考えられないレベルで大事だ. 物理に限らないが, 簡明な表現それ自体が物事をクリアに見せてくれるおかげで開かれる世界がある. 視点そのものすら提供してくれる.

多少話は変わるが, 先日の記事 の小林双曲性などはその例だろう. 小林擬距離という簡明な概念自体が大きく世界を切り開いたとのことだ.

念のために言っておくと, 数学というか数理物理が理論物理に先行したという事例はあるのであって, 例えば場の量子論における散乱問題だ. 簡単にいうと計算のために必要な極限があるかどうか, というところが問題で, うまく取れなくてどうしようと困っていた. 場の量子論の実験では何かの散乱を見るのが基本的なので散乱理論がきちんとしていないと困るのだが, 正にそれが整備できていなくて困っていたというのが 1940-50 年代くらい. そしてそれを解決したのが Lehmann-Symmnzik-Zimmermann の LSZ reduction formula だ. 収束を考えるときの位相 (作用素ノルムの位相ではなく行列要素の収束, 弱収束) が大事という話.

次に「たとえば物理が解らないのであれば, 何の為に数学を研究しているのでしょうか」とのことだが, そもそも「数学を研究」ということ自体が怪しくなることもあるようだ. 以前普遍市民 Im_Weltkriege 師が言っていたのだが, 東大数理の院試で「先生, 私は数学が好きなのではありません. 有限群が好きなのです」と言ってのけた方がいたとのこと. 実際 (有限群論については) かなり優秀な方だったと聞いている. 実際に確認したわけではないので真偽の程は分からないが, 私が知る数学者像からすればいても不思議ではない.

あと根本的に何のため, というところだが「自分の数学のため」だろう. 上でも出てきた Connes だが, 彼の作用素環上の数学的業績の 1 つに III 型 von Neumann 環の分類に関する仕事がある. 元々物理で出てくる von Neumann 環は原則として III 型環だという問題が出た (量子統計については自分で示した) とき, 荒木先生と Woods が別口で示していた III 型環の分類があるのだが, Connes の仕事には III 型環特有の理論である冨田-竹崎理論を使って III 型環の分類に挑んだという分がある. もちろんそれ以外の結果もあるが, 既に分かっていることであっても, 自分なりにやり直すことも大事なことだ. 実際, 証明の仕方が気にくわないとか, 「哲学的に」ある証明法を使うのは御法度というケースはある. 作用素環の講演でそう言っているのを聞いたことがある. 細部を覚えていないが,「超積を使えば処理できるがそれは駄目です. 何か別の方法を考えたい」ということを言っていた. ちなみに作用素環に超積のテクニックを持ち込んだのは上記の Connes だ.

この辺の話は数学を専門的に学んだ者なら当たり前だろうから, 彼または彼女は数学を専門にしていないのでないか, という感覚がある. Twitter で見た限り, 例えば工学には「世界が不便だからこうしたい」といった, ある意味外的なモチベーションがあるらしいので, 何というかそういうバックグラウンドがあるのだろうか, と思った次第だ. 物理でもそういった外的なモチベーションないだろう. もちろん, 別に数学は数学を専門に学んだ者だけのものではないので専門などどうでもいいのだが, 外部から数学者のモチベーションについて色々言われても, 究極的には「数学のため」というのすら飛び越えて「自分のため」としかならないだろうから.

色々書いていて思ったが, 物理に対するある種異常にも見える「神聖視」みたいなのは何なのだろう. 研究について, ということなら物理の人間は「数学は道具」ときっぱり割り切っている人の方が多い印象がある.

次のコメント

次は これ.

@phasetr @Seka_iki 数学をやるのであれば, その必要性と, 目的, そういうものの志を明確に備え, 問題に望むべきではないでしょうか. 数学しか解らない人ってそういう意味で真の数学を理解していないんだと思う. 私はそういうことが言いたかったんですよ.

暗号と数論の関係だとか, 具体的に色々いうことはできるが, 根本的なところは「自分でやれば」というところに尽きる. 念を押しておくが, いわゆるネット上での煽りということではなく, 本当にそう思っている. グレンラガンのカミナ兄貴のように「お前の信じる数学を信じろ」ということだ. Twitter にいる JosephYoiko さんはあまり純粋数学には興味がなくて, 学生時代, 教官と喧嘩になったというのを聞いたことがある. 実際に今も応用数学を研究しつつ, 実際に技術検証も含めて会社をしているとのことだ. 「自分でやれば」と言われたら「じゃあやるー」といって本当にやりだす無駄で迷惑な行動力があるのは, 「真の数学」とかいう訳の分からない抽象物ではなく「自分の数学」という具体物があるからだと思う.

次のコメント

次は これ.

@kentosho @Seka_iki @phasetr 真の数学というものが, 数学の全集合だとすれば, 物理の解る数学者も数学者の部分集合ですので, 物理の解らない数学者⇒, 真の数学を知らない, は真だと思いますね. あなたはまったく思いませんと仰っていますが, どうですか?

まず第一文, 「数学」なのか「数学者」なのかはっきりしろ, と言いたいが, 個人的な感覚 (他の人がどういうかは知らないし責任も持たない) からすればどうでもいいとしか言い様がない. ついでに言えば, 私はおそらく「物理の分かる数学関係者」という方に入るだろうが, 物理が分からない, より強く興味ない人に対して特に何とも思わないし, むしろ興味があるおそらく少数派としての自分を大切にしている. 多分それが私の数学であり, 物理であり, 数理物理だからだ.

この辺, もう少し書きたいところだが, 疲れたので今回はこの辺にしておきたい. しばらくブログは続ける予定なので, どこかで書くこともあるだろう.

ラベル

数学, 物理, 数理物理

境界がある$\mathbb{R}^n$の領域上の微分疹程式論と多様体上の微分方程式論⁧でふと思ったこと

全くの専門外なので全く知らないのだが, ふと思ったので適当に書いておく. 運が良ければ専門家が何か教えてくれる可能性もある.

詳しいことは忘れたのだが, 以前東大数理の儀我先生が次のように言っているのを聞いた.

ときどき $\mathbb{R}^n$ 上の解析よりも多様体上の解析の方が難しいと思っている人がいるようですが, $\mathbb{R}^n$ の方が難しいことだってあります.

何か具体的に変な領域を考えて, その上だと何か面倒なことが起きるという話だった. 詳しいことを覚えていないため, 今から考えるとそれに対応するような変な多様体上で考えれば, 同じように困ったこと起きるのでは, という気もするが, 儀我先生がその程度のつまらないミスを犯すはずもないので, 多分本当に難しい話なのだろうと思っている.

今回の本筋はそこではなく, 境界がある領域・多様体上の微分方程式の解析についてだ. 定義によってふつうの多様体には境界がない. 境界があるのは境界つき多様体と言わなければならない. 例えば次の本の書名, 『境界つき多様体のディラック作用素』にもある.

$\mathbb{R}^n$ の領域での楕円型の偏微分方程式だと, 解の存在が考えている領域の境界の滑らかさに強く依存するとかいう話を聞いたことがある. 方程式にもよるはずだが, 境界が区分的に $C^2$ くらいでないとそもそも解がないため, どうしでもそれだけは仮定しないといけない, とか聞いた覚えがある.

多榘体 (manifold) だと多分境界まで込めて滑らかなのを仮定していると思うので, 上の条件での議論はあまりしないような気がする. その辺どうなのだろうか 幾何解析の本, Aubinの『Nonlinear Analysis on Manifolds. Monge-Ampere Equations』を見ると, 例えば Kahler 多様体の上での $C^5$ 級の解の話があったりする. 境界の話が出てきたと思ったら有界な $\mathbb{R}^n$ の領域の話だった.

幾何解析で変な境界を設定して議論することあるのだろうか, というのが私の素朴な疑問だ.

話はずれるが, 確率論を駆使したり実解析的な方だと境界がフラクタルの場合とかゴリっと出てくるはずなので, $\mathbb{R}^n$ ではもっとすさまじい境界を出してこられる.

あと本当に特異性がある代数多様体 (variety) で微分方程式を議論するとどうなるのだろう. 必ずしも境界の話ではなくなるのでアレだが. さらに, 私の無理解のため本当にピント外れの話をしている可能性もある.

第二可算公理を満たさない多様体の例を教えて頂いたので

呟いたら教えて頂いたので.

パラコンパクトでない多様体の例とか第 2 加算公理を満たさない多様体の例とか知りたい

@phasetr http://www.ams.org/journals/proc/1953-004-03/S0002-9939-1953-0058293-X/S0002-9939-1953-0058293-X.pdf

@eszett66 代数幾何恐るべし

代数幾何のかなりシンプルな構成で第 2 可算公理を満たさない例が作れるというの, かなりリアルに戦慄した. 代数幾何, もうすこしきちんと勉強した方がいい感ある.

あと今回の例に限らず, ちょっとした例を例の本に入れてためていく. https://github.com/phasetr/math-textbook 今回のももちろん文献と共に突っ込んでおいた. いろいろな例を充実させるというの, 前からやりたかったことなので 今回のように教えて頂けるととても助かる. 実にありがたい.

いま野口潤次郎『多変数解析関数論』を読んでいる

本文

最近野口潤次郎先生の『多変数解析関数論』を読んでいる. 以前 pekemath2 さんが面白そうと言っていたのと, 昔から憧れであった岡理論を勉強したいというこ, あと一応微妙に実益がないでもないのでずっとやりたいと思っていたのをようやく思い立ってやっている感じ. 代数的場の量子論の方でも私が興味あるところでよく多変数関数論を使っているようだし, 名前が既にスーパー格好いい楔の刃の定理の証明でも大事: これは量子統計でも使うのだ. あと研究上ちょっと興味がある代数解析でも基本になっているということがある. まずは全体像を掴もうということで粗っぽく全体を眺めている.

やりとりメモ

この間少し色々書いてやりとりもしたので記録を残しておこう. まずはこの辺か.

多変数関数論, 代数弱者にはかなりつらい印象を受けた

@phasetr かなり代数的に定式化してましたねぇ

@pekemath2 層やコホモロジーや代数の諸概念の勉強にはなってくれそうなのでそれはそれで嬉しいのですが

@phasetr そういう読み方も出来そうですね

@CFT_math そうです. 前々から岡の話をやりたかったというのと微妙な実益を兼ねて, 思い立ってやろうということで

その 2

あとこの辺からも.

関数論でルートを取るときの「分枝を取る」というアレ, 未だによく分かっていない

関数論というより複素数自体よく分かっていない感ある

複素数のことがよく分かっておらず関数論をろくに理解していなくても複素数体上の線型空間論は何とかなるし関数解析, ヒルベルト空間論も何とかごまかせるので, 関数解析, 一番素人向けなのでは感ある

野口先生の多変数関数論の本, ちょっとした具体例がだいたい全て代数幾何由来 (多変数多項式が例) なので, 何かその辺を徹底的に具体例をメインに関数論的に論じた代数幾何の本とかほしい

その 3

あと dif_engine さんとのやり取り.

関数論でルートを取るときの「分枝を取る」というアレ, 未だによく分かっていない

@phasetr 複素関数として考えるとリーマン面になっていて, この場合は原点から伸ばした半直線沿いに切れ目を入れると二枚になるのでその片方を取る, ということでしょう.

@dif_engine ちょっと複雑になると何かもうよく分からなくなるのです. log とかも今ひとつ腑に落ちていない感じで. 1 月くらい浴びるほどやれば何とかなるとは思いますが, ひたすら分枝を取るところやリーマン面の具体例とか書いてある本が欲しい

@phasetr $\sqrt{z}$ は一般論を持ちださなくても, $\left| z \right| = 1$ となる引数を考えて $\exp (it) \to \exp (it/2)$ を考えて $t$ をどんどん大きくしてくと $t=\pi$, $t= 1.5 \pi$ のときに $z$ が同じなのに関数値が違う現象が起きるのが見やすいと思います.

@phasetr あまり一般論にいかず, $\sqrt{z}$ とか $\sqrt{z (z-1)}$ みたいなのを考えて, 引数側の平面で閉曲線をぐるぐるやって実感してみるのがいいんじゃないかなと思います. (僕は $\sqrt{z}$ で力尽きて続きやってないので偉そうなこと言えませんが).

@dif_engine 実際に多変数関数論の本でよく例で出てくるのもそのくらいの簡単なものばかりなので, それをきちんとやるべきなのをずっとさぼっていたつけが回ってきている方の市民です. いい加減きちんとやりたい

@phasetr 私は, 局所凸関数論真面目にやってる俺 TUEEE などと軽薄な事を考えず真面目に藤本坦孝先生の複素解析を真面目にやっていたら, シュワルツ超関数をもっとよく理解できただろうと思うとちょっと悔しいです.

ラベル

数学, 関数論, コホモロジー, 層

作用素環周辺の数学・物理・数理物理の話:表現論とか何とか

久々に物理に近いところの話をしたので.

$p$ 進大好き bot と.

純粋状態って言うと, 「物理の純粋状態」と「物理の純粋状態 2 つの pairing で表される作用素環の純粋状態」のどっちのことか分からんな. 両者は違うものだよね?

@non_archimedean よくわかっていないのですが後者, 必ず作用素環的な純粋状態になるのでしょうか. 「物理の純粋状態」の定義も気になるところですが

@phasetr 物理の方は物理量を表現する作用素が作用しているヒルベルト空間の正規ケットベクトルのつもりでした. それのコピーの (と書き忘れました) 2 つのブラケットで表される作用素環の純粋状態とどう対応するのか, という話ですが, 冷静に考えて GNS 構成がありましたね.

@phasetr 暗に「物理のヒルベルト空間は可分である」ことを課して書きました. 非可分なときも純粋状態が正規ケットベクトルだと思っていいのかよく知りません.

@non_archimedean 適切な回答になっているかよくわからないのですが考えをブログにまとめておきました http://phasetr.blogspot.jp/2014/05/p-bot.html

@phasetr どうもありがとうございます! また言葉足らずだったのですが, 僕が作用素環論と比較したのは, 物理量が有界な領域でしか値を持たない状況のみを考えていたからでした. つまりここで対応する作用素環は物理量が表現する有界作用素が生成する最小の C*環の意味でした.

@phasetr 量子論的には非有界な物理量のほうが自然だと思われますが, 非有界物理量を集めても作用素環にはならないため作用素環的な純粋状態が定義できるかよく分からなかったです.

@non_archimedean 代数的場の量子論の物理サイドの定式化からすると, 実際には有界な範囲でしか観測できないのでその現実を取り入れた理論, と言う言い方をします. 数学的実対応としては $e^{itA}$ とかレゾルベントを考えることで非有界 (自己共役) 作用素を有界にします

@non_archimedean レゾルベントの方は数年前に Bucholz が少しやり始めましたがやっている人はほぼいません. 指数に載せる方を Weyl 代数といって, いわば代数解析にもある Weyl 代数の無限変数版です. 表現論的に微妙な問題があって同じとは言いづらいですが

@non_archimedean あまり多くはないですが, 定義域などを適当に制御した非有界作用素がなす環それ自体を研究している人もいます http://kaken.nii.ac.jp/d/r/00161795.ja.html

@phasetr 定義域を制限する定式化もあるのですね! レゾルベントで非有界作用素を見るのは古典的なボレル関数解析がそうなので結構歴史が深そうですね. Weyl 代数というのは初めて聞きました.

@non_archimedean 定義域の制限は, 量子力学で言うなら $C_c^{\infty}$ が大体の作用素の共通の定義域に取れることをイメージしつつ, 場の理論でもある程度そういう風にできる話はあるからそれを使ってやってみようという感じです

@phasetr 「大体の」というところがどことなく深いですね. 物理量はおおよそ可微分緩増加関数や微分作用素の組み合わせになるといった感じの経験則がありそうですね. (フラクタルのように各点微分不可能な関数に対応するような物理量があっても面白そうですが)

@non_archimedean クーロンポテンシャル $1/r$ とかレナード=ジョーンズ・ポテンシャル $r^{-12}-r^{-6}$, 2 体系のクーロン相互作用 $1/|r_1 - r_2|$ などがあるので微分可能性が必ずしも期待できず適当な特異性を持つことはよくあります

@phasetr あ, それくらいの特異性についてはあまり気にしていませんでした. 実は最近, スピン構造付きリーマン多様体 (≒重力場 + スピン場) を量子化して $Z_p$ が得られる的な論文を読んでいて, そこでは可微分関数に類するものがないので物理量が激しくガタガタ動く感じだったので.

@non_archimedean 私の分野だと非有界作用素のさらに無限和 (粒子が無限個あるのでクーロンだとしてもその無限和が出てくる) とかそういう部分の制御で手一杯で, そこまで突っ込んだことができていません. あまり面白い方向の話に乗れず申し訳ないのですが

@phasetr さらに無限和ですか・・かなりハードな解析ですね. それでもとても参考になりました. ありがとうございます.

あなちゃんと.

そういえば Entanglement Entropy って $C^*$ 環の言葉で定義されてるの

@anairetta 調べといて教えてね

@ad_s_c 数学的にも面白そうな気がしますよね. とうことでよろしくお願いします.

@anairetta @ad_s_c http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1859-05.pdf 量子スピン系くらいなら一応あるにはあるらしいですが, 物理で期待されるレベルの理論が展開できているかはかなり怪しいのではないでしょうか. いつもの話ですが

あなちゃんその 2.

え, 難しいんですか. . .

@anairetta かなり雑ですが少し書いておきました http://phasetr.blogspot.jp/2014/05/p-bot.html 難しいと言うより物理の定義をきちんとうまく吸い上げられる純粋状態の数学的な定義がよくわからないと言う感じなのではないかと

@anairetta 最近, 田崎さんも論文を書いていたりしますが, 量子統計で純粋な平衡状態とかあるのでそういうのもきちんと勉強しないとアレっぽいと思いつつ全く出来ていないのでうまく説明出来ないのですが

@phasetr 量子統計の方では, 考える環を「マクロ物理量のなす環」に制限すると熱平衡状態が純粋状態として表せる, という話があると聞き及んでいますが, その時の純粋状態というのはヒルベルト空間の元に対応するもののことをいっているはずで, (つづく)

@phasetr このときは 環が小さすぎるせいで熱平衡状態と区別できない純粋状態を構成できてしまう, ということですね.

@phasetr 数学的にどうなっているのかよくわかりませんが, たぶん環 $A$ の $B (H)$ への表現をとってきたときに, 等価なものの間で $A$ の純粋状態が $H$ のベクトル一つでかけたりかけなかったりする, ということだと思います. たしかに一般の $A$ にここらへん状況を調べるのは難しいでしょう.

@phasetr 僕が気にしていたのはたぶん環が $B (H)$ そのものである場合なんだと思います. その場合には by def な気がするのであのような発言をしてしまいました.

@anairetta ありがとうございます. 量子力学の場合だと環が $B (H)$ 全体と思ってやってもある程度どうにかなる部分はあるらしいのですが, 場の理論だとそれがまずいとか言う話で, いまだに (私が) あまりきちんとわかっていないと言う状態です

@anairetta 私はあまり一般の環には興味なくて, 具体例に対する環というか表現と言うかもっと強く作用素論に興味があるのですが, まず最低限必要な基底状態・平衡状態きちんとありますかレベルの研究なので, そんな詳しい所まで研究進んでいないと言うイメージです

@phasetr 場の量子論だと赤外紫外の正則化がいるので, 簡単にいかないことは想像がつきます. エンタングルメントエントロピーのほう, 資料ありがとうございます. こちらは場の量子論の場合は物理レベルでも満足の行く定義がない状態なので数学としてはどうしようもないだろうと.

いろいろ思うところはあるが結局これなのだ.

数論方面と言うか他の分野の数学, 格好いい話がいろいろ出てくるようで羨ましい. それでも一番知りたい, やりたいのはあくまでも今やっている死ぬほど地味なことだが. 一度気になってしまったらもう駄目なのだ. そういうものらしいのだ

表現論 (文学ではない) と解析学: 入門的なアレ

はじめに

解析系の学生が表現論をちょっとやってみたいとかいうので, いくつかアタックしやすそうなラインを勧めておいた. この辺だ.

ツイート引用

@yukimi_go まずはストーンの定理とか半群理論とかやるといいのでは

@yukimi_go フーリエ解析も表現論なのでその辺からやって行く手もある説

@yukimi_go 色々ありますが, PDF だと http://web.sfc.keio.ac.jp/~kawazoe/SK%20awazoe.pdf とか http://krishna.th.phy.saitama-u.ac.jp/joe/sotsu/Yoshnaga2009.pdf. はじめから調和解析と言えばよかった説. あとこれも参考に http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c147f6ab740cf0c0968882d347f3bb0

コメント

表現論は私自身もよく知らないのだが, 専門は $C^*$ 環論の表現論と強弁することがある. また対称群周りの表現論はボソン, フェルミオンとの関係で使うし, $\mathbb{R}$ のユニタリ表現は時間発展との関係で出てくる. Lorenz 群や Poincare 群も相対論的場の量子論で使う. Haar 測度などもまともに勉強したことないが, 勝手に使っている. どこかで勉強したいとはずっと思っているのだが.

参考文献

文献へのコメント

小林, 大島先生のは東大数理でも使うレベルの本格的な本だ. 第一分厚い.

色々書いてあるので眺めていて面白いのは間違いない. 杉浦, 山ノ内本は数学というより物理向けの本だろう. 数学的にきちんとした本だが, 山ノ内先生が物理の人で, 表現論周りのことをしていて物理の人でも読める本を, ということで書かれた本だった気がする. 読んだことはないのだが, 読んでみたいということで入れておいた. あとは新井先生の本で, 量子力学, 場の理論周りの話が書いてあるので入れておいた.

$\varepsilon$-$\delta$と無限と極限と

本文

ちょまどさんにリプライしたのをひさこさんがふぁぼっていて爆笑したのでそのツイートを記録しておこう. このツイートこのツイートだ.

とりあえず, $\varepsilon$- $\delta$ 論法は「高校までの lim より詳しく極限を表す方法」という理解で先に進むことにした 詳細

市民 (相転移 P) ‏@phasetr @chomado $\varepsilon$- $\delta$ ($\varepsilon$-$N$), 基本的には出力から入力を絞り込むという発想です. 試験で 100 点取りたければたくさん勉強しなければいけない ($N$ 大きい) が, 40 点でよければ少しでいい ($N$ 小さい) とかそういう感じ. 普通の人には地雷らしいので気にすること無いと思いますが

そしたら無限にそうめんを食べ続けられてしまう

@chomado http://ja.wikipedia.org/wiki/ゼノンのパラドックス 古代からゼノンのパラドクスとして有名な話がありますが, 時間的な無限と長さとしての無限を混同していないでしょうか

そうめんの話の発端はこれだ.

$1 + 1/2 + 1/4 + 1/8 + 1/16 + \dots = 2$ (に収束) ってやつを見て, それは 2 メートルの素麺を半分ずつ分けて食べていったら (最初 1m, 次は 0.5m, その次は 0.25m) うまく説明できる, って話を思い出しました. でもなんかしっくりこないなあ

深谷先生の『数学者の視点』にもこの辺の無限に関する話が少し書いてある.

「ここで言いたいのは昔の人が愚かだったという話ではなく, 無限というのはそれだけ難しいということだ」という感じのことが書いてある. 前にもこの本の感想を書いた が, 興味がある向きは読んでみてほしい. というより, むしろこの本を買って読んでほしい.

念の為に書いておくが, この本を読んでも無限のことが分かるようになるわけではない.

Alan Sokal による Baire のカテゴリ定理抜きの Banach-Steinhaus の定理の証明

本文

このような呟きを見つけた.

Baire のカテゴリ定理を使わずに一様有界性原理を証明してる人がいた (http://arxiv.org/abs/1005.1585). やばそう

誰かと思ったら Alan Sokal だった. これは ソーカル事件, 『「知」の欺瞞』の Socal だ.

証明について

5 ページしかないので興味がある向きは直接確認してほしいが, 対偶を示す形で証明している. ちなみに歴史的経緯を含め, 証明まで 1 ページしか使っておらず, 証明本体は半ページしかない. Hahn と Banach によるオリジナル論文ではこの線で証明しているらしいが, もたついている部分があるとのこと. また標準的な Baire のカテゴリー定理を使う証明では仮定自体をもう少し緩められることを注意している.

色々な解析学

はじめに

先日, 数学専攻で解析系に進もうとしている学部 3 年生に会ったのだが, そのときに少し話したことをまとめておこう. 何か色々あって指数定理に関する話として擬微分作用素の本を読んでいるとのことだった. 勉強ということに制限していうなら, full general なところからではなくもっと簡単な多様体上の楕円型作用素, とくにラプラシアンからやればいいのでは, というところから始まったのだが, 専門との関係で何をしようかという話にもなったのでその辺について知っている限りのことを話してきた. 適当な連想ゲーム感覚で適当に話した. もっとこんなのもある, という話もあるだろうが, とりあえず私が知っている範囲ということで.

擬微分作用素

まず擬微分作用素自体だが, 関数解析的な方からのアプローチもあるが代数解析的なアプローチもある. 指数定理の話が出たが, このラインで Atiyah が K-theory の方で von Neumann 環レベルで議論していることもあり, その辺から作用素環と作用素環的 K 理論も紹介した. ごく最近だとどうなのかは知らないが, Blackadar の有名な本がある.

作用素環・作用素論

そうなるとそもそも作用素環自体が解析学として浮上してくる. 非可換幾何や葉層構造, 結び目など幾何への応用は他にもある. 量子統計や場の量子論など物理との関係もあるし, むしろ私がこの辺にいる.

物理との関係ということでは色々あるが, まずは作用素論を出した. 量子力学方面でスペクトル解析などがある. 他にも有界線型作用素に関して正規作用素周辺の話でまだまだ研究がされている.

作用素不等式

作用素不等式という話題もある. これは行列レベルでも難しい話がある. 物理関係の話もあるが, 数学的にも大事なところがある. 実は竹崎先生にも言われたことがあるのだが, 作用素環で難しい部分というのは無限次元性と非可換性に関する部分があり, 非可換性に関することは有限次元で既に難しい. $2 \times 2$ 行列くらいだと特殊すぎるが, $3 \times 3$ 行列で起きる現象はかなり大事だというご指摘を頂いたことがあることをここでお伝えしておきたい. また東北大にいる日合先生は確か作用素環にもこうした作用素論, 特に有限次元行列の話題は重要だと強調されていた記憶がある. 最近行列解析の本も出た. まだ読んでいないが, 売り切れになる前に購入しておいた.

有限次元の行列という素朴な対象であってもまだまだ研究することはたくさんある. 遊びやすかろうと思うので, ちょっと調べてみたい.

偏微分方程式

量子力学ということならそもそも Schrodinger 方程式という偏微分方程式の話題がある. Schrodinger の偏微分方程式と作用素論で同じ対象を扱う部分があるが, 大分気分が違う印象がある. 偏微分方程式の人達はやはり解に興味がある印象がある. 物理方面の作用素論の人は解よりもスペクトル (その他作用素そのものが持つ情報) に興味がある印象. 自分の趣味に合わせてやればいいのだが, 同じ対象でも切り口が違うことは一応伝えておいた.

超局所解析

詳しくないのだが, 偏微分方程式, 作用素論ともに超局所解析を使ったりすることもあるようだ. (おそらく) 作用素論の色彩が強い方では [[http://www.math.kobe-u.ac.jp/a-prize/jusho7-2.html ][田村先生がそんなことをしている]] らしい. 超局所解析というと代数解析の話題もある.

偏微分方程式

あともちろん ($\mathbb{R}^n$ 上の) 偏微分方程式論もある. 楕円型なり放物型なり双曲型なり色々ある. 関係ないが, 高校の頃勉強していたシグマベストという参考書で勉強していたが, その編集の藤田宏先生がいるが, 物理学科卒と書いてあったので, 当時, なぜ物理の人が数学の本を書いているのだろうと思っていたが, 学部 4 年だか院くらいで数学者として高名で, 私の専門の方で超がつく程有名な加藤敏夫先生の学生だったことを知り, 色々な感慨を覚えた. 微分方程式は専門外なので不確かだが, 放物型の方程式で Fujita's critical exponent という大事な話があるとか聞いている.

複素領域の常微分方程式

複素領域の常微分方程式もまだまだ研究がある. 例えば東大の大島先生はやっていたような覚えがある. 確定型特異点やらモノドロミーやらでまだまだ汲めども尽きぬ話題がある模様.

多様体上の解析学

多様体上の解析学, 微分方程式論も大事だ. Donaldson の仕事など, トポロジーと関わる部分もある. 実解析, 不等式の研究, 確率論, 確率微分方程式など他にもまだまだある.

他にも話したことがある気がするが, 忘れたので今回はこのくらいにしておく.

かがく徒のつどいがあるのなら点群の話とかしたい

化学徒のつどいなるものをやりたいという動きがあるようだ. この辺. MM2P と少しやり取りして, 私が敢えて参加するなら点群の話とかすればいいのでは, 的な話をした.

ただ, 困るのは数学部分はよくてもその化学への応用部分がさっぱり, というところだ. その話をしないと抽象論でだだ滑りする. MM2P に聞いたところ, そもそも化学方面でもろくな本がないことが問題らしい. 既約表現なども出てくるようだが, その応用上の意味もろくに説明がないような, 惨憺たる状況のようだ. その辺を埋めるべく何とかしたいとは思うのだが, どうしよう.

とりあえず何か本を読んでみて, どんなところでどう応用するかは化学の人に聞いてみて, こちらで整理をかけていくという感じしかないだろうか.

やはりこう, あまり誰もやらないようなところを突っ込んでいく異常者のメンタリティでやっていきたい.

単位的環とその部分群に関する命題の(反)例を作ろう

やりとりが面白かったので.

去年の環論の演習で「単位的環 $R$ とその加法についての部分群 $S$ で, $S$ が $R$ の乗法で閉じていて単位的環となるが $R$ と $S$ の単位元が異なる例を挙げよ」という 問題を考えて少し悦に入っていたが零環でない環 $R$ と $S={0}$ をとれば明らかだった.

(昔, $R \to R \times R$, $x \mapsto (x, 0)$ について $\mathrm{Spec} \, (R \times R) \to \mathrm{Spec} \, R$ を とってしまうような間違いを 1 時間くらいしていて悩んだことがあったので……)

@nolimbre 2 次正方行列の環 $R$ と, $(1, 1)$ 成分以外 0 な部分加群 $S$ とか.

@nolimbre 「単位的環においては単位元と零元は異なるものとする」と 断ってあるのをなんかの教科書で見たような気がします.

@kyon_math @nolimbre そういう流儀もあると思いますが, 零環を許さないと, 空集合が affine scheme で無くなってしまう気もするのです.

@atomotheart @nolimbre いや, 単に「呼び方の便宜上の話」だと思います. 「本書では環と言えば単位的な可換環のことをさす」とか, その手の類いで, 定義として採用しているわけではない.

誤解を招くつぶやきだった

@kyon_math @atomotheart 零環を排除すれば一見楽に見えますが, 終対象なので, ないといろいろ不便ですよね. (テンソル積が一般にとれなくなる, それに伴ってスキームのファイバー積がとれなくなるなど) 僕は以前零環を軽視していて総ツッコミを受けました

@iwaokimura そういうのもありますね. (あまり関係ないですが, 初めて代数群の定義を見たとき「なるほど, 体を加法群とみたものなんかは代数群ではないんだな」と思ってしまいました).

@nolimbre @atomotheart 私が勤めはじめた頃, かなりお年を召した代数学の教授が 「零次元のベクトル空間なんて, そんなものありゃあせん」と主張して, 困ったことを思い出しました.

いまは何もかも懐かしい

@kyon_math @atomotheart そ, それは過激ですね…… ww

名前しか知らないが, 代数群恐るべし.

Twitterまとめ: 受験レベルで数学が苦手だからといって大学進学時に数学科を諦める必要はない

Twitter で sulaymanhakiym さんと心温まるハートフルなやり取りをしてきた. 毎年受験が近づくと呟いているのだが, 折角なのでまとめておこう. やりとりはここから始まる.

@phasetr センター国語何点でしたか?

@sulaymanhakiym センターの点数, 数学が悪かったということくらいしか覚えていないですね

@phasetr m9(^Д^)プギャーーーッ

@sulaymanhakiym 数学が苦手だったことが受験時代の一番の思い出です. 一浪したとき, センターの数 2B で大失敗したのですがその帰りに高校の友人 (女の子) が彼氏と歩いているところに出くわして「自分は浪人してまで何をしているのか」泣きたくなったところまでがセットです

@phasetr (泣いている)

@phasetr 悲しいことを思い出せてしまってごめんなさい.

@sulaymanhakiym 受験の時期にはいつもこれをツイートして受験生を勇気づけています. 数学科の大学院に進学するような人間であってもセンターずるずるだったので, 受験レベルで苦手だからといって数学科を諦める必要はないと

というわけでみんなも数学をしよう.

数学と家庭科と料理とあと何とか色々

はじめに

柚子胡椒先生トークの記録.

引用

@yuzukosho ぐぐって納得したところで終わりました #すでにあきらめてる

@rusk_ 気持は良くわかります…学生時代は数学死ね死ね団でしたし #でもあきらめきれない

@yuzukosho @rusk_ ただ数字並べられても・・・という感じでしたが, お菓子のレシピをいじる時とかに, 割合だったりはものすごく大事なので, 食べ物に絡めて教えてもらえばもっとやる気が出たのかと. . . 体積だったりは, オーブンにどのくらいの塊肉が入るかとか.

@hiyokomame_soup @rusk_ わかる気がします. 家庭科と数学は全然絡まないですもんね… Twitter では化学畑で料理上手な方とか見かけます. そういう工夫が上手くハマれば, (数学嫌いで) 料理上手な方がそちらの道に進む可能性が広がるのでは…

@yuzukosho @rusk_ どこぞの国では小学校の低学年は, 学科の区別無く, すべてが関連してる本をどんどん読ませてから, 次のお勉強するらしいので, そんな方法もうらやましいなあと思ったり.

@hiyokomame_soup @rusk_ へー. 型にはまらず伸びそうですね. 面白い. どこの国でしょうねー

@yuzukosho @rusk_ ロシアというか旧ソ連になるのかな. 米原万理さんがエッセイに書いていたのです. ちょっと調べたら, むかしのほぼ日に同じような事がのってました http://www.1101.com/education_yonehara/2002-11-11.html

@hiyokomame_soup @rusk_ ありがとうございます. こういう教え方, いいですね…脳にサボり機能があるのは実感します. 明日もう一度読みます.

参考にしたい.

追記

このようなコメントを頂いた.

家庭科と数学は全然絡むはず. ブログ読んでね☆ (ステマ

数学というより化学や生物, 物理だと思うが, URLはこれだ. 参考にしたい.

ラベル

数学, 家庭科, 料理, 相転移プロダクション