一ノ瀬さんからのご要望に応えて: 数理物理って何?¶
数学から見た数理物理¶
本文¶
一ノ瀬さんから次のようなご要望を頂いた.
@phasetr 最近少し数理物理に興味があります. 具体的にどんなことしてるのか知りたいです… あと解析力学と量子力学とか, 分野間にどんなつながりがあるのかとか知りたいです. と, 注文が多くてすみません (~_~;)
コメント¶
ということで色々書いてみる. まずは数理物理について適当に色々書いて, その後, 知る限りの物理の分野間の繋がりについて書いていきたい.
まず数理物理だが, あまりかっちりした意味があるわけではなく, 結構適当な使い方をされていることに注意してほしい. 人によって意味が大きく変わるので, まずをそこを説明する. 私が見た範囲での話であって, 人によって大きく意味が変わると言った以上他の使い方をしている人もいるかもしれないので, その辺も考えて読んでほしい. むしろ違う使い方などあれば教えてほしい.
大きく分けると次のような感じになる.
| 言っている人 | 実際の意味 |
|---|---|
| 数学者 | (物理が元ネタの) 数学 |
| -------------- | ---------------------------------------------------- |
| 物理学者 | (物理が元ネタの) 数学 |
| 当人は物理と思っているが傍から見ると数学 | |
| 数学者も認めるレベルで数学的にきちんとした理論物理 | |
| 数学色が強い理論物理 (数学的に厳密ではない) |
数学者が「数理物理」と言っていたらそれはただの数学だ. いいとか悪いとかそういう話とは関係ない. 物理学者が考えている問題を数学的にきちんと考えてみたら数学的にも面白い, という程度. 神保道夫先生のソリトンの本に「専門は数理物理」と書いてあったが, こういう意味だと考えていい.
物理学者と興味がかぶる部分はもちろんあるが, かと言って完全に重なることは基本的にない. 数学者は数学者だからだ. 最近は超弦関係でこういう話が多いが, もう少し古い話では微分方程式関係がこの感じ強い気がする.
よく「現象が実際にあるから微分方程式に解があるのは当たり前で下らない」とかいう, 物理として考えて気が狂っている発言をする社会性溢れる者がいるが, 極端なことをいうとこの辺: 物理学者からしたらあまり興味のない話でも数理「物理」と言ったりするし, むしろ大抵これ, と印象. 興味の向きがあくまで数学なので, 基本的に数学者の言う数理物理は数学であって物理ではない. ちなみに, 以前河東先生が「物理の人に『数理物理と物理を名乗るなら何か意味のある数字出してみろ』と言われて凄く困りました」と言っていた.
念のために何故「現象が実際にあるから微分方程式に解があるのは当たり前で下らない」が物理として狂っているかを書いておく. 微分方程式を立てた (現象をモデル化した) からといって, そのモデルが本当に自然を適切に表現できている保証はない. 例えば現象として明らかに拡散なのに波動方程式が出てきたらそのモデル化はおかしい. 素粒子で適切な対称性を持つべきモデルなのにはじめから Lagrangian の対称性が壊れていてもいけない.
単に方程式を見ただけではそれが現象を記述できている保証がどこにもない. 数学的に解があるとかないとかいう以前の問題で, 特に研究フェーズなら物理として真剣に考えるべき問題だ. また, 仮に物理として適切なモデル化であったとしても, 解を持つかといった純粋に数学的な話とは何の関係もない. 少なくとも一時期, 場の理論で発散の困難などと言われていた話では, 解 (基底状態) の存在が本当に問題になっていたので, 物理として解の存在が非自明なことは実際にある.
こういうこと言う人, 自分の立てたモデルはいつも必ず現実を適切に説明できているという全幅の信頼を置いているのだろうか. 頭おかしいとしか思えないし, 実際おかしい. 「物理ではいちいち解の存在まで考えない」ということなら分かるが, それならそう適切な表現を使うべき.
別件だが, 以前宇宙論をやっていた友人が「論文読んで研究室のゼミで発表したら『そのモデル, 解がないこと分かっているからやっても意味ないよ』って言われて愕然とした」というようなことを言っていた. この辺の意味や真偽について久徳先生に聞こうと思っていてずっと忘れている.
脱線しまくっているが, 数学者のいう数理物理は数学ということだ. 一方で物理学者のいう数理物理はバリエーションがある. 次回はそれについて書こう.
ラベル¶
数学, 物理, 数理物理
物理から見た数理物理¶
本文¶
まずは分類を再掲しよう.
| 言っている人 | 実際の意味 |
|---|---|
| 数学者 | (物理が元ネタの) 数学 |
| -------------- | ---------------------------------------------------- |
| 物理学者 | (物理が元ネタの) 数学 |
| 当人は物理と思っているが傍から見ると数学 | |
| 数学者も認めるレベルで数学的にきちんとした理論物理 | |
| 数学色が強い理論物理 (数学的に厳密ではない) |
今回は物理学者のいう数理物理について書いていきたい.
まず数学者と同じで「物理が元ネタになっている数学」という程度の意味で使う場合がある. 何となく超弦関係で「 (現時点で) ほとんど実験にかけられないような話で, 物理的な正当性を確かめづらいところで物理というのはどうなの」的な文脈で多少否定的な用法が多い印象. あと「物理ではないが (数学としては) 面白い問題ではある」という物理学者の意見表明にも使われることがある印象.
思い出したが, Gottingen の物理にいる Buchholz という代数的場の量子論という数理物理分野の有名人がいる. 河東先生が「彼は『お前のやっていることは物理ではないと言われて, 自分は物理学科ではいじめられている』と言っていましたが, それはそうでしょう. 彼がやっていることはスタイルから中身まで数学ですよ」と言っていたので爆笑した. そういうレベルで数学的にガチガチにやっていても物理を自称する人もいる. この辺は「当人は物理と思っているが傍から見ると数学」と言えそう. Buchholz と並べると即死レベルのアレだが, 私も多分この辺.
「数学者も認めるレベルで数学的にきちんとした理論物理」だが, Lieb や学習院の田崎さんあたりは比較的この辺ではないだろうか. 物理としても面白い結果をきちんと出している (であろう) ことを前提にしている. Lieb くらいでも数学の人で「彼は修士くらいの学生でも知っていることを知らなかったりする」という発言を聞いたことはある. 私は Lieb の興味は基本的に物理だとは思っているが. 物理としても意味があって数学的に制御できることというの, 私が近い分野では非常につらくて, 強磁性の Hubbard モデル関係くらいならぎりぎり何とかなるのでは, という感覚. 田崎さんを挙げたのもその辺の兼ね合いがある. スピン系だと物理の方が遥かに進んでいる印象はあるが, スピン系の連続極限からの共形場ということになると, むしろ数学的色彩が極めて強くなるという印象はあるもののその辺の物理自体をよく知らず数学からの話ばかり目にする方の市民だったので詳細不明.
数学的に厳密ではないが数学色が強い理論物理, 大体超弦を想定している. 他に何かあるだろうか. よく考えたら「数学的に厳密ではないが数学色が強い理論物理」という一文自体よく分からない.
前もつどいのときに少しお話したのだが, 物理を数学的にきちんとやるというのはもの凄く大変で, 分野によっては本当に何もできない. もちろん私が近いところしか知らないが, 何とかなるところはスピン系とか Hubbard など格子系での相転移くらいではなかろうか. 量子力学・量子統計力学からの物質の安定性は数理物理というか Lieb 周辺しかやっていないようで, その辺は私は物理的にも極めて大事な研究だと思っているが, 純粋な物理の人がどう思うかはよく分からない.
あまりろくな話を書いていない気がするがとりあえずこんなところで.
追記¶
数理物理って物理から逃避したくなった時にやる数学のことじゃないの? http://phasetr.blogspot.jp/2013/12/blog-post_19.html
いいとか悪いとかそういう話ではなく「数理物理」というのはこういう (否定的な?) 使い方もされることがある. 数学だからといっていつもいつでも厳密な言葉の使い分けをしているわけではない. 「可積分系」などもかなりふわっとした使い方をする. グレンラガンのカミナの兄貴のように「お前の信じる数理物理を信じろ」という感ある.
ラベル¶
数学, 物理, 数理物理