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リーマン面

2021-05-08 復習, 概要, 層, 解析接続

復習: 留数定理までの流れ

前回, セミナーで作った英語の資料を共有したと思います. 流れだけまとめておきましょう.

  • 複素微分可能性を定義する.
  • コーシー-リーマンの方程式を導く.
  • ベクトル解析のグリーンの定理とセットでコーシーの積分定理を導く.
  • (特異点つきの状況にコーシーの積分定理を少し拡張する.)
  • コーシーの積分表示式を導く.
  • 正則関数の解析性を導く.
    • コーシーの積分表示式の被積分関数の分母を級数展開し, 級数と積分を交換すればいい.
  • 特異性を持つ関数として有理型関数を導入する.
  • 有理型関数に対してローラン級数展開を導く.
    • 特異点を囲む円環を考え, 最後に円環の内部の半径を0に持っていく.
  • これの線積分で$(z-a)^{-1}$だけが残ることから有理型関数に対する留数定理を導く.

収束証明や関連する定理の細かい部分は全て無視してよく, 括弧をつけた積分定理の拡張などもできることは前提にして, 大雑把な証明ごとこの流れを暗記してもいいくらい大事なところです. 実際, 今後はこのくらいのことはできると仮定してリーマン面・関数論の話を進めます.

リーマン面の議論の概要

よくも悪くも多変数・高次元と違う部分があるので, 私のいまの認識の限りで大まかに概要を議論します.

私が知る限り, コンパクトリーマン面と非コンパクトリーマン面でかなり趣が変わります. もちろん解析的な面もありますが, それ以上にコンパクトリーマン面だと代数幾何との対応が強くつく事情によるのでしょう.

少なくとも古典的な代数幾何は射影空間内の議論が基本です. そして実数体・複素数体に対する射影空間はユークリッド位相でコンパクトです. 素朴には代数多様体は複数の多項式の共通零点として定義され, 多項式は連続関数なので代数多様体は閉集合です. コンパクトハウスドルフ空間の閉集合はコンパクトなので, 古典的な代数幾何の基本的な対象は全てコンパクトです.

三位一体と呼ばれるもう少し強い事情があります.

定理 10.1.1 を引用しましょう.

定理 10.1.1. 次の 3 つの圏は同値である. (i) 非特異射影曲線の圏 (Curve). 対象は C 上の非特異完備代数曲線 C. 射は C 上のスキームの射 C → C′. (ii) 閉 Riemann 面の圏 (Riemann). 対象はコンパクト 1 次元複素多様体 R. 射は複素多様体の正則写像 R → R′. (iii) 1 変数代数函数体の圏 (Fuction). 対象は 1 変数有理函数体 C(x) の有限次元拡大体 K. 射は C 代数と しての準同型 K → K′.

この (ii) が特に直接的にコンパクトなリーマン面です. 高次元では完全な同値は成り立たないものの, 作用素環のゲルファント-ナイマルクの定理にはじまる代数-幾何対応があるため, 一定の意義があり, 現代幾何の強いモチベーションにもなる大定理です. ガチガチの圏論ベースの話にまで持っていくかはともかく, リーマン面を勉強するときの重要なテーマであることは間違いありません.

代数幾何の文脈を離れてもコンパクト多様体は幾何のごく基本的かつ重要な対象で, その議論に慣れる意味でもひとつとても大事です.

これまた私が知る限り, 非コンパクトなリーマン面は解析的な趣が強くなり, かえって非数学科出身の人には近付きやすい対象と思います. ポアソン積分や楕円型の偏微分方程式の解析など, 応用上も大事で身近な対象がよく出てきます.

数学を数学として味わいたいときは, まずはコンパクトリーマン面を目指して勉強するのがお勧めです. 学部レベルの数学科の数学を総動員してアタックするべき対象で, いろいろな数学が交差します. もちろん解析学も使えます. 実際, ここでもまずはコンパクトリーマン面に関わる基本的な数学を紹介することからはじめます.

この線については, 以前も紹介したように, 斎藤毅先生の数学原論を眺めてみるといいでしょう.

私もまだ読み切れておらず, そして必ずしも読みやすい本ではないようですが, 目次を見ているだけで楽しい本です. この本は確かコホモロジーだけでホモトピー論が書いていなかったと思いますが, 解析接続がらみでホモトピー論が必要なので, ここではホモトピー論の話もします.

層の理論

リーマン面だけに限らず代数幾何・関数論で根源的な理論です. これも追々紹介しますが, 大雑把に言えば局所的な情報を代数的に制御するための道具です. もう少し言えば関数のパッチワークで局所的な情報から大域的な情報を調べ, 取り出す方法です.

ここで多様体は開集合のパッチワークとして定義されること, ゲルファント-ナイマルクの定理をはじめとした代数-幾何対応を思い出してください. 多様体を開集合のパッチワークとして定式化するのは明確なのですが, 究極的には集合論しか道具がなく非常に扱いづらいです.

一方, 関数の議論に持ち込むと, 微分積分のような解析的な道具はもちろん, 関数環を考えることで代数も持ち込めます. これが層による議論のメリットです. 斎藤毅本でも多様体を関数環つきの位相空間として定義していたはずです.

層は単独の関数に対するパッチワークというより関数環のパッチワークですが, 単独の関数に対するパッチワークも解析接続として重要です. さらに正則関数はその性質から局所的な情報が大域的な情報を強く制約します. このうちの一つが層に対する解析接続の原理です. 名前から想像できるように関数論でも根源的な議論ですし, 解析接続の基礎になっています.

解析接続

私にとって解析接続は学部一年ではじめて関数論に触れて以来, ずっと謎として残っていた議論でした. 雰囲気レベルの話はいろいろなところに書いてありますが, きちんと書いてある本をほとんど見かけません. リーマン面に行ってしまうと逆にコンパクトリーマン面や代数幾何との話が出てきて, 「もう解析接続くらい知っているでしょう?」といった雰囲気の本ばかり目にします.

この辺を改めてきちんと調べて勉強することは私にとっての大きなモチベーションです. 証明込みで一通りは勉強していますが, やはり証明の丁寧な読み込み・個別の詳細にフォーカスをあてるばかりで, 大きな姿を改めて復習する機会がなかなかありませんでした. メルマガ作成・コンテンツ化を口実に, 解析接続の理論を整理し直すことも私個人の大きな目標になっています.

メルマガとしてはかなり長くなってしまいました. 今回はこの辺で終わりましょう. 次回からはもう少し具体的な話にうつります.

学部レベルの数学を大横断すると言ったように, いろいろな数学の予備知識が必要です. なかなかリーマン面それ自体の話にならない部分もありますが, のんびりお付き合いください.

ではまたメールします.

2021-05-15 リーマン面の定義, 解析接続, 被覆空間論, 物理との関係

いい加減本題に入ります. 改めて書いておきますが, 現代数学探険隊 解析学編, 最低でも現代数学観光ツアー程度の知識は仮定して進めます.

リーマン面は関数論でいわゆる多価関数を議論するために生まれた分野・理論・対象です. 関数論での多価関数はある正則関数を複数の経路に沿って解析接続するときに出てきます. リーマンはこのような領域を扱うために, 複素平面上にいくつかのシートを準備し, 各シートの上で一価関数にすることを考えました. これは位相幾何(トポロジー)の中で整備された概念である被覆空間に辿り着きます.

リーマン面の定義

一言で言えば連結な一次元の複素多様体です. 連結性を課すのが非常に重要です. 少なくとも私が見た範囲の初等的な本ではふつう連結性を課しています.

曲線に沿った解析接続

複数の経路に沿うことを考える以上, そもそも考察下の領域上で自由に任意の二点を結ぶ曲線を引きたくなります. つまり弧状連結性が必要です. 多様体くらいの適当にいい空間なら連結性と一致します. これがリーマン面に対する連結性の仮定につながります.

被覆空間論

トポロジーではホモトピーの理論で重要な空間です. 解析接続の議論の中では基本群に対するガロア理論またはその類似がとても大事です. ホモトピーは代数トポロジーの一分野と言われますし, ガロア理論またはその類似と書いたように, ある程度代数に慣れ親しんでいないと被覆空間論という空間論も理解しきれません. 逆に言えば, ここからガロア理論をはじめとした代数に慣れ親しめるとも言えますし, 幾何的な直観を使いながら抽象的な代数を勉強できるとも言えます.

何からどういう方向でアタックしても構いませんが, ある程度の代数と幾何, そして位相空間論の知見が必要です. 適当な手段でカバーしてください. ガロア理論は結城浩さんの数学ガールで専門の巻がありますし, 買うだけ買っていまだに読めていないのですがポアンカレ予想の巻もあるのでそこで多少は吸収できるでしょう.

もっとゴリっとやりたい人はそれぞれ適当な本を見繕ってください. 特に英語ならいくらでもネットに PDF が落ちています. ホモトピーについては私のノートもあるのですが, まだ公開できる精度にまで練り上がっていません.

リーマン面ではここにさらに関数論の解析学が絡んできます. この時点で代数・幾何・解析を総動員しなければならないことがわかります. ここではリーマン面それ自体の議論よりリーマン面の生まれに関わる解析接続の議論からはじめます. もしあなたがこれらの分野を未習なら, (解析学からの) モチベーションを保ちつつ勉強を進めるヒントにしてください.

物理との関係: 量子電気力学とレーザーの原理

本質的にコンパクト複素多様体が出てくる物理は超弦理論くらいしか知りませんし, 超弦理論も全く知らないのでそちら方面の話は何も書けません. ここでは解析接続がずっと気になっていた理由の一つとして, 私の専門である作用素論・作用素環論的な場の量子論の数理に関わる解析接続の応用を紹介します. 場の量子論・量子力学に関わる知見を多少仮定して進めます. これも必要なら現代数学探険隊を見てください. 多少は書いてあります.

ハミルトニアン $H$ と状態ベクトル $\Psi$, $\Phi$ に対して $f(z) = \langle \Psi, (H - z1)^{-1} \Phi \rangle$ を考えます. 面倒なのでハミルトニアンのスペクトルは実軸正の部分に一致するとすれば, $f$ の定義域は $D = \mathbb{C} \setminus [0, \infty)$ です. 定義によってこの $f$ は $D$ 上に特異点を持ちません. しかし適当な仮定のもとで, 実部が正の下半平面の領域から上半平面に向けて解析接続すると上半平面に特異点を持ちます. これがごく素朴なレーザーの原理と深く関係します.

物理的な設定をもう少し明確にしましょう. 特に非相対論的な水素原子と量子電磁場がカップルした系を考えます. 水素原子だけの系は実軸負の部分に固有値を持ちます. ふつうの量子力学では固有状態は安定な状態と言われています. つまり励起状態であるにも関わらず安定なのです. これは物理的にはあまり嬉しくありません. 励起状態が基底状態に落ちるにはエネルギーを吐き出す必要があります. 吐き出すべき先はもちろん量子電磁場で, 上で考えた系はこれをうまく取り込めているのです.

上半平面に解析接続したときに出てくる特異点の虚部は, 実軸負の部分にあった励起状態が準安定状態化したときの寿命の逆数です. 特異点の実部はもとの固有値を少しずれていて, このずれがラムシフトにあたります. 水素原子の挙動をもっと物理的に満足な形に持っていく努力の中で解析接続が出てきて, 実際に準安定状態の寿命やラムシフトともうまく整合しているのが面白いところです.

これを議論するとき, 準安定状態が出てくるところまで解析接続すればよく, 私が知る限りでは解析接続の最大領域を追いかけたりはしません. 物理的にはあまり意味がないとは思うのですが, それ以上に少し解析接続するだけでも論文レベルで 100 ページの激烈な難易度を誇るので数学的にはそこまでやり切れないことによります. 何にせよ解析接続が物理的に基本的な意味を持つ例ではあります.

ちなみに, 多変数の世界に行くとまた別の理由で多変数の解析接続が必要な局面は出てきます. 学部 4 年のときにアタックしたものの, あまりの難しさに挫折した議論でもあります. 挫折したままなので詳しく議論はできませんが, 少なくとも数理物理としては解析接続それ自体は基本的で重要な問題に連なることは改めて強調したいと思います.

大分長くなったので今日はこのくらいにしましょう. ではまたメールします.

2021-05-22 リーマン面の定義, 例, 重要な関数

被覆空間の話は追々進めることにして, 私のノートの順番で進めます.

リーマン面の定義

リーマン面は連結な一次元の複素多様体として定義します. 単なる一次元の複素多様体ではなく, 連結性を課すのがふつうなようです. 実際, 解析接続まわりでは大事な性質ではあります. さらにふつうの多様体論でも連結な多様体が基本です. ついでにいえば, リーマン多様体もふつうは連結性を仮定します. これは距離関数の定義に関わる問題なのでリーマン面とはまた別の理由ですが.

リーマン面の例

もちろん複素平面の領域 (連結な開集合) が一番基本的な例です. 他に関数論, 特に有理型関数の理論からは複素射影空間が重要で, 解析接続からは複素平面の原点を抜いた集合 Ccross や半平面が重要です. 特に Ccross は指数関数の値域としても出てきます.

解析接続の理論で重要な関数

被覆空間の例として指数関数・対数関数がかなり大事です. これはそのうちきちんと書く機会があるでしょう.

もう一つ大事なのは $k$ 次の単項式 $p_k(z) = z^k$ です. これが大事なのは正則関数の局所的な振る舞いと直結するからです. 本によっては正規形定理と呼ばれていて, 全ての正則関数は適切な座標系に対して局所的に $k$ 次の単項式で書けることがわかっています.

ふつうの関数論では単純なテイラー展開からしたがう定理で自明と言えば自明です. しかし実はこれが異様なくらい役に立ちます. 多重度のような概念の基礎でもあり, 正則写像に対する開写像定理や逆写像定理を直接の系に持ちます. 解析接続でもシートの枚数と直結していると言えば, 重要度はわかってもらえるでしょうか.

局所的にはそう書けると言いつつ, 実は連結性とも絡めて正則写像を大域的に制御する強烈な言明です. 証明も含め, 多様体論・多様体間の写像の理論としてもごく基本的な認識を育ててくれる定理なので, まずはこれをきちんと制圧するのが大事です. 解析接続を考える上では根源的な定理と言っていいでしょう.

最後に

関数論・リーマン面はまだまだ慣れていません. 大事だと思ったことを書いていますが, 何か変なことを言っていたらぜひ教えてください.

今回はこんなところで. ではまたメールします.

2021-05-29 多項式・指数関数・対数関数と持ち上げ, 特異点解消との類似

さて, 今週のリーマン面です. 少し被覆空間に入ります.

多項式・指数関数・対数関数が大事

改めて復習していてこの 3 つは大事だと痛感します. 多項式, もっと言えば単項式は前回の正規形定理でほぼ尽きます. こんな大事な定理はありません.

指数と対数に関しては, 累乗根関数と同じく, 極座標表示からの多価性問題は基本中の基本ですし, それをどう処理するかがことの発端だからでもあります.

そしてここがまさに被覆空間が直接出てくるところです.

指数関数の持ち上げと対数関数

整備中のノートの「分岐被覆・不分岐被覆の関数論」の節から記述を引いてきます.

リーマン面$X, Y$と非自明な正則写像$p \colon Y \to X$を取りましょう. 特に例として$Y = \mathbb{C}$, $X = \mathbb{C}times$として $p = \exp \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}times$とします.

このとき恒等写像$id \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}$は $\mathbb{C}^\times$上の多価の対数関数を誘導します. 何故かと言えば $b \in \mathbb{C}^\times$に対する集合$\exp^{-1} (b)$がまさに $b$の対数の値からなる集合だからです.

もっと具体的に $b = 1$としましょう. このとき $\exp^{-1} (1) = 2 \pi i \mathbb{Z}$であり, 複素数$1$は全ての整数$n$に対して極座標で $1 = e^{2 \pi i n}$と書けるので, 確かに$\log 1 = \log e^{2 \pi i n} = 2 \pi i n \in \exp^{-1}(1)$です.

上で書いた正則写像 $p = \exp$ は被覆写像で, $\mathbb{C}^{\times}$に対して$\mathbb{C}$は被覆空間です. これは $\mathbb{C}^{\times}$ を円周 $S^1$ に制限して, $\mathbb{C}$ には 3 次元的に円周の上下に巻き付く螺旋を割り当てれば, 円周に対する被覆空間としての螺旋が出てきます.

ここで被覆空間の持ち上げと解析接続的な意味での持ち上げの対応が出てきます. いろいろなところで言っているので, メルマガで書いたかあまり覚えていませんが, もしあなたが代数的な色彩が強くなる代数トポロジーや, 幾何的な色彩が強い被覆空間に馴染めないなら, この手の関数論・解析学に関わるところから勉強を進めるのもお勧めです.

理論を, コンテンツを作ろうと思うと, 代トポは代トポで整備してからとなりがちなので, 話の持って行き方は工夫しないといけませんが, モース理論も線型代数・微分積分からはじめて, ホモロジーに流せる道があります. もちろんコホモロジーならなおさら入口からダイレクトです.

関数論とホモトピーの場合, 複素平面上の議論が本当に本質的で, 絵にも描きやすいというか, 絵に描けるところだけいじっていてもかなり本質的という利点があります. 幾何がわかっていなさすぎるせいで, ここに切り込み切れずに 1 年くらい経っていますが, 何にせよ工夫のしがいがあるところです.

特異点解消への道

ここでふと特異点解消を思い出したので言及しておきます. はじめに書いておくと, 代数幾何は勉強していないと言い切った方が正確なくらいわかっていないので, おかしなことを言っている可能性の方が高いです. 識者がいらっしゃればぜひご指摘ください.

さて, 何で思い出したかというと, まさに被覆空間の構成, つまり円周の持ち上げとしての螺旋の構成です.

この持ち上げで面白いのは, 実一次元のコンパクト多様体である円周は二次元に埋め込まれていて, それの被覆空間である螺旋は実一次元の非コンパクト多様体で, 三次元に埋め込まれている点です.

前者の円周の二次元への埋め込みはともかく, 後者の螺旋の三次元の埋め込みとそこへの持ち上げがポイントです.

解析接続で問題だったのは, 極座標で複素数が$z = r e^{i n \theta + 2 \pi i n}$を持ち, $2 \pi i n$の分がいろいろな悪さをすること, その悪さを「解消」するために高次元に住む同じ次元の対象 (ここでは螺旋) に切り替えるところです.

この「次元は同じ実一次元で, 埋め込まれている空間の次元が上がっている」のが面白いと思っています. つまり二次元の円周は高次元空間である三次元空間からの射影で, 解析接続の視点からはそこから見たのが自然な姿, 真の姿なのだ, とも言えます.

特異点解消

私が知る限り, 特異点解消にも似たところがあります.

  • 低次元で考えていると尖ったところ (特異点) が出てきてしまう.
  • 高次元からの射影として捉えて特異点を滑らかにしてしまおう.

これは以前, 数論幾何の人から, 「特異点はこうぐわっと回すイメージ」といって, ジェスチャーとともにイメージ図が載っているページを教えてもらったところから来ています. そのページ自体は忘れてしまいましたが, 次のあたりがいまパッと探して出てきた私の想定です.

私の理解では, 高次元で滑らかが代数曲線を平面に射影すると特異性が出てしまっていて, それを平面側から見れば高次元に持ち上げて特異点解消した図です.

関数論では多価性という特異性を, 高次元空間に埋め込まれた複素一次元の連結な多様体であるリーマン面に持ち上げ, それで特異性を解消しているのではないか, そういう気分で眺めています.

この辺を調べていると改めて代数幾何も勉強したくなりますし, 関連する楕円関数などももっと突っ込んで勉強したくなります. 梅村本も買ってはあるものの積読状態です. 早く勉強したい.

それはそれとして, 代数幾何での特異点解消に関しておかしなところがあればぜひ教えてください. 本当に自信がありません.

あとこれまであまり書いてきませんでしたが, 間違いのご指摘含め, 感想はぜひ送ってください.

ではまたメールします.

2021-06-05 分岐性, 局所銅像, 固有写像, シートの枚数

分岐点の定義

解析接続的な意味での特異点が分岐点だと思ってください. 正規形定理で出てきた $p_k(z) = z^k$ では $z = 0$ にあたります.

定義を正確に言うと, 非自明 (非定数) な正則写像 $p \colon Y \to X$ と $y \in Y$ に対して, 点 $y$ が $p|_V$ を単射にする開近傍 $V$ を持つとき, $y$ は不分岐と言い, 不分岐点でないとき分岐点です.

連結性のように, 否定形の方が肯定的に定義できる事例です. 念のため $p_k$ での $z = 0$ は, $k \neq 1$ に対して確かに分岐点であることを確認しておいてください.

これで解析接続での正規形定理の意義も見えてきたのではないかと思います.

不分岐な正則写像

前節の議論からすれば逆写像定理の系とも言えます. 正規形定理から不分岐なら局所的な逆が構成できるからです. 特に非自明な正則写像 $p \colon Y \to X$ に対して次の同値性が成り立ちます.

  • 写像 $p$ は分岐点を持たない.
  • 写像 $p$ は局所同相である.

大域的な (解析的) 同相にまでは持ち上がりません.

不分岐な正則写像の例

正規形定理があるので単項式は本質的です. もう一つ指数関数も挙げておきましょう.

  • $p \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}$, $p(z) = z$.
  • $\exp \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}$.

局所同相と複素構造

幾何弱者なのでいまだにすっきりせず, 手元にあるノートの証明も私としてはまだギャップを感じるので不安なところはあります. 妥当というかそうあってほしい定理ではあるので, 紹介しておきます.

  • リーマン面 $X$ とハウスドルフ空間 $Y$ の間の局所同相 $p \colon Y \to X$ を取る. このとき $p$ を正則にする $Y$ の複素構造は存在すれば一意である. 特にリーマン面の被覆空間はリーマン面である.

被覆空間は純粋に位相的な存在なので複素解析性が入るかは非自明です. それがきちんと保証できることを示せます.

ちなみにこれは多変数でも成り立つのか, 私はまだわかっていません. 多変数の場合は変なはまりどころがあって条件がもっときついのではないか, といったことを考えています. これを即座に詰められないあたりが上で書いた「すっきり理解できていない」部分です.

今後大事な性質

今回分岐という概念が出てきて, これは正規形定理の $p_k(z) = z^k$ の $k$ と直接関わる概念であることがわかりました.

当然分岐があると面倒なので, まずは不分岐な状況で議論してから分岐がある場合の議論に持っていきます. この中で単連結性と写像の持ち上げ, 写像の固有性なども出てきます.

一変数に対する一致の定理によって, 非自明な一変数の正則写像は特徴的な強い形を持ちます. 特に固有で非自明な正則写像の分岐点の集合は離散的な閉集合です.

私が知る範囲の解析学, 特に関数解析では固有写像はあまり出てきません. 研究に近いところではむしろ見かけたことがありません. しかし幾何になると固有写像がよく出てきます. 固有写像に対する感覚も養うチャンスです.

最後に特に重要な定理を引用して終わります.

固有で非自明な正則写像とシートの枚数

  • リーマン面の間の固有で非自明な正則写像 $f \colon X \to Y$ は, 任意の $c \in Y$ を重複を込めて $n$ 回取る整数 $n$ が存在する.

これまで多重度は正規形定理によって局所的な量でした. この定理は, 固有性を使うとコンパクト性の制約と一変数正則関数の制約によって, 大域的な量に化けると見立てられます. 特にこの $n$ がいわゆるリーマン面のシートのシート数です.

もう一つ大事なのは, 固有写像という制約がどのくらい強いかです. これについては自分で固有写像の例を作ってみてください. 特に大事なのは一変数関数論の文脈での固有写像で, 特に正則な固有写像です. 私のノート (または解析学編) には具体例が書いてあるので, 必要に応じて参照してください. もちろんネットを漁ってもいろいろ情報は出てきます.

2021-06-12 リーマン面と被覆空間, ホモトピー

リーマン面の普遍被覆空間

全てのリーマン面に対して普遍被覆空間が存在します. ここでリーマン面は定義に連結性を含めていたことを思い出してください. 単なる一次元の複素多様体ではないのです.

これをきちんと議論するには, もちろんトポロジー, 特にホモトピーに関わる議論の準備が必要です. それは次回に回すことにしましょう.

普遍被覆の例

ただひたすらに多項式や指数関数が大事です.

複素平面 $\mathbb{C}$ は単連結なので, $\exp \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}^{\times}$ は $\mathbb{C}^{\times}$ の普遍被覆です. 被覆変換群と基本群が完全に決定できます.

被覆空間論としても基本的で, ホモトピー論, 特に代数トポロジーへの入門に一変数関数論が使えます. このためだけにも勉強する価値があると言えるほどの大事な例です.

左半平面 $H$ と原点を除いた単位円板 $D^\times$ も, 指数関数 $\exp \colon H \to D^{\times}$ として, $D^\times$ の普遍被覆を構成します.

原点を除いた単位円板の被覆空間の決定

結論だけ書くと, 被覆が無限枚の場合に指数関数が出てきて, 有限枚の場合に単項式 $p_k(z) = z^k$が出てきます.

前から言っている通り, 指数関数と多項式の重要性がこんなところにも出てきます. テイラー展開からもわかるように, 被覆空間の文脈で見ると指数関数は気分的には無限次の多項式 (単項式) です. 代数トポロジー修行中の身からすると, 解析学から直観を育てる上で常に頭に置いている例です.

一変数であろうとも, 多項式と指数関数をぎりぎりの限界で突き詰めれば, ここまでの世界を射程圏内におさめるのです. 関数論の威力とも言えます.

2021-06-19 解析接続

ワイエルシュトラス流の解析接続

基本はテイラー展開です. 有理型関数も特異点の外では正則であり, 正則関数は常にテイラー展開できるのでその意味でも自然な発想です.

テイラー展開はその公式を見ればわかるように, 同じ関数のテイラー展開であっても各点ごとの係数などは全く違います. そして常にその係数 $c_n$ が綺麗に書けているわけでもなく, テイラー展開だけ見て元の関数が常にはっきりわかるわけではありません. それでも一般論によってテイラー展開のべき級数が何か正則関数を定義するのはわかっています.

さて, テイラー展開はべき級数なので収束範囲があります. 点 $z = z_0$ のまわりでテイラー展開で得られて収束域が $U_0$ の関数を $f_0$, $z = z_1$ のまわりでテイラー展開で得られて収束域が $U_1$ の関数を $f_1$ とし, $U_0$ と $U_1$ は共通部分がありつつ互いに完全には含まれないとしましょう. ここで $f_0$ と $f_1$ が $U_0 \cap U_1$ では一致しているとし, $U_0$ 上で $f_0$, $U_1$ 上で $f_1$ である関数 $f$ が定義できます. この $f$ は $f_0$, $f_1$ のどちらよりも定義域が大きくなっています. これが解析接続の原形です.

特に上記の $z_k$ が複数あるとき, その点を適当に曲線でつないでいって関数の定義域を拡大することを曲線に沿った解析接続と呼びます.

曲線に沿った解析接続の難しさ

いわゆる多価性です. 平方根を取る関数 $f(z) = z^{1/2}$ を考えましょう. これを原点のまわりを単位円周に沿って回る解析接続を考えます. 特に極座標で $z = r e^{i \theta}$ とすると, $f(z) = r^{1/2} e^{i \theta / 2}$ です. 点 $z_0 = 1 = e^{i 0 / 2}$ から一周回ってまた $z_1 = 1 = e^{2 \pi i}$ に戻ってきたとすると, $f(z_0) = 1$, $f(z_1) = e^{i \pi} = -1$ という異様な結果が得られます.

結論から言えば $f$ の「特異点」 $z = 0$ のまわりを回ったからです. この不具合解消のためにホモトピーや被覆空間, ひいては連結性や複素多様体の概念が必要になったのです.

道の持ち上げと解析接続, そして層

層自体はここでは詳しく議論しません. リーマン面 $X$ 上の正則関数の層 $\mathfrak{O}$ からエタール空間の射影 $p \colon E (\mathfrak{O}) \to X$ が得られます. そして道に沿った解析接続はエタール空間の射影から解釈できます. これは関数論での層の有効性を表す命題でもあります.

層について少し

特に解析接続の基礎に直接関わる範囲の層の理論では, 特に何か概念的に難しい話をしているわけではありません. しかし層の議論はそれほど簡単ではありません. 少なくとも私にはかなり難しく鬱陶しい分野です.

理由は簡単です. 暴力的なまでに基礎を問われるからです. ここで言う基礎は位相空間論の本当に基礎の基礎であり, 位相空間に関わる集合計算の基礎の基礎であり, 群や環の基礎の基礎です. これらの定義に沿って愚直に計算ができれば特に困りません. しかし私はふだん純位相的な議論はほぼやらないため, 微妙なところで「これ, どうやればいいんだっけ?」とよくつまるのです. 細かく議論してくれているのを見れば「ああそうか」とすぐわかるのですが, 私の専門の関数解析では位相に関する議論は極限と収束の不等式処理がメインで, 割と集合論ベースの基礎の位相空間の少し凝った議論ができないことを痛感させられました. そして層に関する記述がある本はそうした純位相空間の話はさらっとしか書かれていません. 層を勉強しようと思う学生なら詳細は自力ですぐに埋められると思うからでしょう.

あと困るのは正則関数の層こそハウスドルフであるものの, 一般に層は非ハウスドルフの位相空間です. 関数空間をもとにした基本的で本質的な例はあるものの, 関数解析系の解析学ではたいていどんなに悪くてもハウスドルフ性は持つので, ここで位相空間に対する私の直観も限界を迎える部分があります. 特に私は学部は数学科ではなく物理学科で, 純血の数学科学生に比べれば数学の基礎への習熟度はどう考えても劣ります. そのギャップが惨いほどにまざまざと見せつけられる分野が層です.

情けない話ですが, 詳細を自力で埋めきれないためいろいろな本を参照しつつ層のノートを作りました. まだ記法が重たすぎて見づらい証明があったり, 一部気にくわない証明・何かピンと来ない (多分間違いがある) 証明があったり, これを書いた時点 2021-06 時点でリーマン面のコンテンツをフルオープンしづらい理由になっています. 世にあるさらりと書かれた本よりは細部が埋まっていて読みやすい部分もあるとは思うのですが.

このリーマン面の概要紹介講座を作って全体像を改めて固めつつ, 公開に向けてノートを整理していく予定です.

関数芽と大域的な正則関数

もとの話に戻りましょう.

関数芽ははじめに書いた各点でのテイラー展開が定義する関数である $f_0$ や $f_1$ で, 大域的な正則関数はそれらを束ねた $f$ です.

もちろん気分的にはそこの議論で尽きています. ここでの問題は層の理論の枠組みからはじめの直観的な議論をどうサポートするかで, これが関数芽と大域的な正則関数という言葉につまっています. 道に沿った解析接続が生む多価性についても, 関数芽で説明がつけられます.

一般的な解析接続

曲線に沿った解析接続は直観的ですし, ホモトピー・被覆空間との関係も見やすい意味では優れた定式化です. しかし曲線に依存する部分に鬱陶しさがあります.

曲線などの具体物に依存する部分を取り去った解析接続の定式化があり, 特に層や普遍性を使います. この定式化では圏論でよく出てくる可換図式や普遍性が直接的に顔を出すので, そうした意味でも発展性・応用性に溢れたよい定式化です.

この両者がきちんとつながるのが関数論の面白さであり, 教育的な分野である証拠です.

この一般の解析接続には極大性という概念があります. もしあなたにある程度の数学の基礎知識があるなら, ある空間に対する被覆空間のアーキタイプである普遍被覆空間, 被覆空間を統制する基本群, そして基本群に関わるガロア理論との関係が一気に頭の中にポップアップしてくるでしょう. よい概念とよい言葉を準備するのはそれだけでも大きな価値があります. その概念装置の一つがまさに層です.

有理型関数の解析接続へ

一番はじめに $f(z) = z^{1/2}$ を挙げました. それ以外にも関数論の文脈で多価性を持つ関数は, 数学科の数学らしい正体不明の異常な関数群ではなく, 高校以来おなじみの関数ばかりです.

特に適当な意味で多項式が生成する関数として代数関数と呼ばれるクラスがあります. 代数幾何とも直結する関数のクラスで, 具体的にいじり倒せる部分もあり非常に重要です.

ちなみにこの「具体的にいじり倒せる」のは「ありとあらゆる道具が使える」ことを意味する面もあり, それが代数幾何の面倒な部分を一手に引き受ける部分があります. なまじいじり倒せてしまうため, 使える道具は全て使いはじめてしまうのです. 一から研究する分にはよかったのでしょうが, あとで整理されきった形で勉強するときはそうしたいろいろな技術を知らないといたるところで詰まります. それも一つ一つの技術の知識があるかどうかという話ではなく, それらを使い倒して剛腕でねじ伏せる腕力が必要です. 層に関して腕力がなくて困ったのは先程伝えた通りです.

逆に代数関数まわりの議論がわからないのは基礎力がないからだとはっきりわかりますし, この議論・証明が読めるようにすることこそよい基礎訓練になります. 歯を食いしばって耐えましょう.

2021-07-03 コホモロジーへの道と関数論

コンパクトリーマン面に向けて

ここからコンパクトリーマン面の理論に向けていくつか準備をします. 特に大事なのはタイトルにある通り, 層とそのコホモロジーです.

コホモロジーの前にコンパクトリーマン面の話をしましょう. コンパクトリーマン面の何が大事かというと複素代数幾何と直結するからです. 大まかに言えば複素代数幾何は射影空間上で議論します. そして射影空間はコンパクトなので, 出てくる空間・多様体はだいたいコンパクトです.

体を取り替える必要があるとはいえ, 代数曲線は符号理論や暗号理論のように, 情報理論と絡んで現実への応用がある分野でもあれば, 楕円曲線のように数論との関係もあります. この例を見てもらうとわかるように, 複素一次元・複素曲線であってもいまだに研究が尽きない世界です.

リーマン面の (層の) コホモロジー

リーマン面は複素一次元・実二次元なので (実) 3 次以上のコホモロジーは自動的に消えてくれます. 高次まで残っているとそれを一般的に処理するのは記号処理だけでも大変です. リーマン面自体重要で, これまた重要なコホモロジー・ホモロジー代数的手法に慣れる上でも大事なので, リーマン面は解析学から数学全体の眺めを見る上で便利な分野であることがわかります.

コホモロジーと割り算

コホモロジーは割り算の一般化の一つであり, 小学生でもわかる数学だと言われることがあります. もちろん無茶にも程がある主張です. しかし大学の数学科の数学に踏み込んで上で, 「自分は数学がわかっている」と主張するつもりなら, コホモロジーの定義がさっとわからないのは罪深いです. 逆に言えば, コホモロジーの定義をさっと眺めて何をしているかわからなければ, あなたは代数を全くわかっていません. そういう判定基準として使える議論でもあります.

何にせよ代数入門としても使えるテーマなのでがんばって勉強する価値があります.

コホモロジーの勉強の仕方

一般的・抽象的にはホモロジー代数という代数的対象です. 圏論を生み出した分野でもあり, 代数として尋常ではない程洗練されている分野です. そして代数トポロジーとしてはやはり幾何として強く結実した分野です.

しかし代数トポロジー, 特にホモトピーはもともと常微分方程式の議論からはじまっていますし, 解析接続も被覆空間を生み出しています. 解析学との関係も深いのです. 特にコホモロジーに関してはボット-トゥーの本が有名なように, ベクトル解析やストークスの定理のような解析学から入るアプローチがあります.

ホモロジー代数というそのものずばりの分野なので, 代数から入りたい人はそうした本を読んでみるといいでしょう. 解析から入りたい人はボット-トゥーが有名です. 私は学部一年に読んではじめの方で挫折したきり, まともに読めていないのですが名著と評判なのでとりあえずアタックすべき本なのだろうと思っています.

もう一つ, 解析学からホモロジー代数・コホモロジーに迫る道が関数論なので, 実際に関数論から攻めているのがいまの私のアプローチです. 多変数関数論にいたっては層のコホモロジーを生み出した世界です.

次回からはのんびりコホモロジーの話をしましょう.

2021-07-10 層のコホモロジー

層係数コホロモジー

特にチェックコホモロジーと呼ばれる層が基本的です. 定義自体に難しいところはありません.

まずは位相空間に對して被覆を一つ取って固定します. その被覆をなす開集合達に対して共通部分を取り, 細かくすることで局所的な情報を吸い尽くそうとするのが基本です. 特に細かくする極限で得られる対象を茎 (stalk) と言います.

もう一つ, 被覆に関する細分の極限を取る方向性もあります. 被覆の極限で得られる対象が一番の目的であるコホモロジー群です. この二段構成があるため, 理論の構成としてややこしい部分があります. 層を勉強する上での第一関門です.

代数系で典型的なのですが, 一つ一つの議論は必ずしも難しくはありません. しかし小さな議論を積んでいくと, いつの間にか下を振り返るのが怖くなるほど高いところにまで連れていかれます. これは作用素環で有名な竹崎先生も言っていたことで, 不等式処理で一撃一撃が重たい解析に慣れ親しんでいる人からすると, 少しカルチャーギャップがあるところです.

リーマン-ロッホの定理

コンパクトリーマン面でも決定的な定理です. 代数曲線論でも重要なので, 代数幾何的・純代数的な証明もあります. 解析学を援用した証明もあるのが面白いところで, 関数論の懐の深さが出ています.

まずはリーマン-ロッホの定理が何故重要なのかを簡単に説明しましょう. これは幾何的な情報を持つ定理で, 特にリーマン面の種数が計算できます. 実はリーマン面の種数は, 正則関数の層を係数とした一次コホロモジーで定義できることが知られていて, ここで層とコホモロジーが関係してきます.

そもそも何故種数が大事かというと, 閉曲面を位相的に決定する要素だからです. トポロジーで閉曲面の分類定理が知られていて, 向きづけ可能な曲面と不可能な曲面があり, それぞれがきちんと分類されています. この分類のパラメーターが種数であり, 幾何学的にも「穴の数」という明快な解釈があります.

リーマン面は一次元の複素多様体であり, 実二次元の図形としては曲面です. 曲面論の影響下にあるため種数は支配的なパラメーターであり, それを計算する方法としてリーマン-ロッホの定理が強い意味を持つのです. もちろんリーマン-ロッホの定理自体を証明する道具として, 層係数コホモロジーが大きな役回りを演じる, そういう流れになっています.

正則関数・有理型関数がなす層のコホモロジーの計算

特に関数の構成と直結した, ミッタク-レフラー分布と関係した計算が面白いです. これはぜひ証明を見てほしいです.

何をしているか簡単に書きましょう. まずミッタク-レフラーの問題が何かというと, 与えられた主要部・零点・極を持つ有理型関数が存在するかという問題です. 特異性を持つ主要部は固定されているので, その上に住む有理型関数の族がうまく存在し, 多様体のパッチとしての被覆の上で局所的に定義され, 多様体上の全ての点でうまく貼り合わせられて一つの有理型関数が作れるかが問題です.

貼り合わせて全体をうまく作れるようにするには, 各被覆の開集合 $U_i$ で定義された有理型関数 $f_i$ を取ったとき, 被覆の共通部分 $U_{ij} = U_i \cap U_j$ で $f_i = f_j$ をみたす必要があります. これらは共通の主要部を持つので, $U_{ij}$ 上での $f_i - f_j$ は正則です. つまり作用素 $\overline{\partial}$ による微分は消えます. この正則性と消滅性をうまく使っていく議論が非常に面白いです.

そして面白いのですが, 非常にややこしいです. 一足飛びに議論できないので, 正則関数・有理型関数以外にも単に微分可能なだけの関数がなす層も間に挟んで議論します. さらにはヒルベルト空間論, 特に適切な $L^2$ の関数を使った議論も援用します.

もしかすると, あなたは直観主義論理との関係で, ワイルが小平先生にリーマン面に関して「直交射影の方法はよくない」と語ったという話をご存知かもしれません. この直交射影の方法はまさにヒルベルト空間論を援用した手法です. 小平先生のエッセイ本にこのやり取りに関する述懐があり, 「私にとってヒルベルト空間は具体的な手触りのある空間で, その理論の活躍を制限するような議論は受け入れられない」みたいなことが書いてあったように思います. どの本だったかさえ忘れてしまったので正確な文言は紹介できないのですが, それなりに歴史的にいろいろな経緯もある話です. 何にせよ現代数学探険隊の解析学編での議論が活きる議論でもあり, あの大変なコンテンツを整備しておいてよかったと改めて思います. 解析的・記号的に面倒も議論もたくさんあり, さすがに何度も同じことを書きたくないボリュームです.

代数的・解析的にいろいろな議論を駆使して幾何的な結論を導く様子はとても面白く, ここでもきちんと書こうと思っていたのですが, 私の手持ちの証明は解析的・記号的に面倒すぎて, そう何度も書きたくないので断念しました. 適当なタイミング・形式でノートを公開するので, それをお待ちください. もちろん適当な本を読んでもらうのも一手です.