書評: 数学は世界を変える

概要

詩的な文章とイメージあふれるイラストで, わたしたちが数学を学ぶ意味を説き明かす. 独創的な解説と数学への信頼にみちた入門書の古典, ついに刊行. 数学を学ぶ喜びがここにある.

との触れ込みだったので, 動画作成時の参考にもしようと思って買ってみた.

不思議というか, 本当に自分で困っているのだが, 私としても非数学の人に気にしてほしいと思っているあたりは話があってそういうのを世間に広めてくれていて, おそらく実際にそういう部分が賞賛されているのは助かるというか嬉しいのだが, だからこそ逆に個人的な感慨に反するような部分が気になってしようがないという感じだろうか.

ただ, イラっとするところは「世間一般の意見」という部分ということもいくつかあるので, その辺りは言い掛かりになってしまうので, これもまた色々とアレだった.

内容面はこれから書くこととして, フレーズごとに改行されている形式面がかなり面白かった. 参考にしたい.

賞賛のコメントについてはは他のところで色々あるので, 細かいところで気になった部分を記録しておこう.

P.37

全ての長方形の面積 $A$ を知るには 高さ $a$ と底辺 $b$ を掛け算しないといけない という場合には, それは代数学だ.

面積の公式, これ, 代数か?

P.39

数学を知れば知るほど生活は楽になる.

個人的な感慨としては, 世間との意識の乖離がどんどん激しくなって, 生活は苦しくなっていく. 実に辛い.

P.41

「でも戦争屋は, 数学をもとにした近代兵器を使っているじゃないか. ヒトラーが成功したのは科学のせいで, 科学が良い生活に導いてくれることはありえない」.

上でも書いた「世間一般の意見」という部分を一つ抜いてみる. これが猛烈に頭に来るが, それはそれとしてこの気が狂ったような文章, 見るだけでつらい.

P.49

そこには数学者がいる. 「純粋」数学者ではない. … 4 階の数学者は, 過去の古典数学を 3 階の「純粋」科学者の科学的発見に当てはめる. 彼らは 科学的データを採り上げ, 持っている数学的道具を使って それを整理して研究する.

この「純粋でない数学者」なる存在, 何なのか分からない. いわゆる理論物理学者みたいな人達を指しているような感じはするが, 何か違う. もやもやして気持ち悪い.

今感想を書きつつ本を読み返してもいるが, 段々つらくなってきた.

P.50

まさに彼らは, 屋根裏部屋をシェアしている現代芸術家とお似合いだ!

私の感覚だと芸術家とやらと数学者, あまり相性いいように思えない. 正確に言えば, 数学者が芸術関係の話を芸術家とすることはできるが, 芸術家と数学関係の話をすることはできそうにないとでもいう感じ. 一方通行というか何というか, 私の心に悲しみが去来する.

P.52

「結局のところ 科学は善悪の判断がつかず 非道徳的だ」

「世間一般の意見」の方だが, 涙を禁じ得ない.

つらい.

Twitter でも呟いたが, いわゆる啓蒙書の類, 参考にしようと読むたび心に深い傷を負うの, 実につらい. そもそも内容が酷い本が多いせいでもあるが, 上でも多少書いたように, 「世間一般の意見」を強制的に目にさせられる「言い掛かり」の部分もかなりあることを改めて意識した.

既に書評でも何でもなくなっているし酷く中途半端な記述にしかなっていないがつらいので一旦ここで打ち切る. 心が癒えたら, また追記しよう.

追記: 2013/1/27

Twitter で kyon_math さんから次のようなご教示を頂いた: これ. 一応文章も引用しておこう.

これ, 相当に訳がひどいのでは. 「当てはめる」は当然「応用する」だし, 「純粋でない数学者」は明らかに「応用数学者」だ. 「全ての長方形の...」の部分はすでに日本語として破綻している.

リリアン・リーパーさんは有名なガロアの評伝の作者ですね. そんなにひどいとは思えません (私は読んでませんが). 意味不明な箇所は翻訳の不手際によるものも多いのではと思います. ワイルの「古典群」フルトンの「代数的位相幾何学」も原文読んだ方が分かりやすい箇所が多い.

翻訳の本はいくつか持っているが, あまりまじめに読んだ本がない. Feynman の本など「調子がいい」本は原著を読まないと面白くないというし, 中高生ならともかく, 英語が原語の本はやはり原著を読むべきか.

全く関係ない話だが, フランス人はときどき重要な文献をフランス語で書くので 関連する分野の人は非常に困ると聞く. 私はフランス語で困ったことは無いが, 確率の論文を読んでいたときに 参考書にロシア語を引かれていて困ったことがある. 論文自体は結果さえ知っていれば良くて, とりあえずそこまで真剣に読まなくてもよかったので大きな問題にはならなかったが, 読む必要が出てきたら割と本気で困る.