応用からの中高数学再入門 中高数学駆け込み寺
そして内容は一番はじめにフーリエ解析と表現論から入る. 現代数学観光ツアー 物理のための解析学探訪のラストがまさに フーリエだったので, 直接的にこの本に繋げられる. メルマガでも宣伝しておこう. 講座では作用素環にも何度か触れているし, その意味でもばっちり感がある.
フーリエということは群の表現論はもちろんのこと, リー群が出てくる. Drinfeld–神保の量子群からすればリー環の量子化なのだから, リー群の話をせざるをえないので, その意味からも当然だ. リー群, 通信講座を作る体でもう一度きちんとやり直したい.
山下さんは作用素環サイドということもあるし, かなり早い段階から作用素環の匂いを感じさせる. 節の名前が「Fourier 変換と双対性」だし, 作用素環から見ると代数的場の量子論での DHR-DR 関係の圏論的な話もあるのだろうかと思うが, 後半を見ると書いてあるのだろうか. (読み進めながら書いているので後半の詳細はまだよくわかっていない.)
全体的にかなりすっきりとまとまっている感じがある. ノートとこの章に関する参考文献を読んで, 有名な辰馬『位相群の双対定理』が作用素環的なアプローチだということをはじめて知った. 読みたい.
小林-大島も引用されている. これも面白そうと思って 1 度さらっと眺めて終わりになっている. リー群の復習を兼ねてきちんとやり直したい.
前も記事を書いた記憶があるが, リー群は小林先生の講義を受けたことがある. 何も持たず颯爽と講義室に現われ, 質疑応答に対しても完璧な講義を展開し, 講義が終わって質問がないことを確認すると颯爽と去っていく姿に感銘を受けたことを覚えている.
ちなみにその前年に大島先生によるリー群の大学院の講義があったのだが, 何故か常微分方程式の講義になっていた. アクセサリーパラメータという概念が出てきたことだけ覚えている. とにかくほとんど何もわからなかった.
大島のお子さんも東大数理で, 何年か下にいらっしゃった記憶がる. 確か小林研に行ったのではなかったか.
お子さんの方は大島先生より遥かに明快な話ができるようで, 先輩が「彼にお父様の分の講義をやってほしい」と言っていたことを思い出す. 確か三村さんが言っていたと思う.
Yang-Baxter というと統計力学のイメージがある. 結局生まれたのはどこなのだろう. 冒頭部を見ると Yang は 1 次元量子系の散乱問題を扱っていたという話なので, ふつうに量子力学 (の物理) が発祥なのだろうか. 可積分系じたいもどこが発祥なのかあまりよくわかっていない.
(量子) Yang-Baxter 方程式を見ると結び目を想起する.
P.20 によれば, 数学者の間で Yang-Baxter が有名になったのは Fadddev による量子逆散乱理論であるとのこと. Fadddev, よく名前を聞くがいまだに物理の人なのか数学の人なのかよくわかっていない.
P.20 の下方, 時間発展の作用素半群を見るとそれだけで胸が高なる. P.21 ではバッチバチに解析力学の話なので, 解析力学もやりたくなる. これも復習する体で通信講座作りたい. この本楽しいな.
2.4 節で組紐群との関係が出てくる. これを見ると, 代数的場の量子論, 2 次元時空での DHR-DR で組紐が出てくることを真っ先に思い出す. Haag の Local Quantum Physics で眺めたくらいで, ほとんど全く理解できていないのだが.
ちなみに学部 4 年のとき, どんな本を読もうかと思って河東先生に相談したとき, 次のようなことを言われた.
Haag の本は Haag の哲学を語ったもので, 教科書ではありません.
戸松さんの話で何度か作用素環スタイルの話は聞いたことはあるけれども, Drinfeld–神保の量子群スタイルの量子群の議論は はじめてまともに読んだ気がする.
3.3 で「コンパクト量子群 $SU_q(2)$」というが, コンパクト量子群のコンパクトにはどの程度実効的な意味があるのだろう. 要は $SU_q(2)$ が本当に適当な位相でコンパクトなのかということが知りたい. そもそも位相空間なのかどうかすらよくわからない.
3.4 節で Templerley-Lieb 代数 (または圏) が出てきた. この Lieb は解析系数理物理の魔人, Elliot Lieb である. 物質の安定性あたりで著名な例の魔人. 可積分関係でも大きな仕事があって, Templerley-Lieb 代数はまさにそれという認識.
可積分系の話だと学習院の田崎さんも絡んだ Hubbard の 1 つ, AKLT 模型もある.
最後, ノートで Ocneanu の名前が出てきた. 河東先生が paragroup とかをやっていた頃にはよく名前を見かけた. まともに論文を書かないという話だった Ocneanu, 今は何をやっているのだろう.
このあたりはもう完全に私が知らない世界だ. 「そうにゃんか~」という感じでもうまともにコメントもできない.
P.48 注 3 で量子群で有名な Kac が 2 人いることをはじめて知った.
4.4 節の次の記述が衝撃的だった.
Drinfeld がこの概念に到達した動機は Knizhnik-Zamolodchikov 方程式と呼ばれる偏微分方程式から得られる組みひも群の表現と, 量子普遍包絡環の普遍 $R$ 行列により与えられる表現とを比較した河野の定理をよりよく理解することだったとされている.
偏微分方程式から得られる組みひも群の表現, すごいゲテモノという感じがある. ちなみにこれ. いわゆる KZ 方程式のことだった. 名前だけは知っている.
リンク先によれば頂点作用素代数関係の話らしいので, 代数的場の量子論からの共形場を介してまた作用素環にまわりまわる感がある.
これも名前だけは聞いたことがある. 冒頭部を見る限り, 幾何 origin で解析力学の数学が起源のようだ.
P.60 での話題. 古典的 Yang-Baxter 方程式の幾何的な意味づけとしての Poisson-Lie 群が出てくるらしく, そういう話はやはり面白い.
P.61 で Borel 部分群 $B$ という言葉が出てきた. ふと, 昔, 山下さんと会話した「僕がいる院生室で Borel っていうと, ルベーグ積分とかの Borel じゃなくて違う Borel の話になるよ」というのを思い出した. 旗多様体が出てくるので Borel-Weil とかの Borel でいいのだろうか. Borel-Weil も名前しか知らないのだが. Borel-Weil も前に挙げた小林-大島本に書いてあった気がする. もっとちゃんと読みたい.
どんどんコメントする余力がなくなってきた.
P.73, これも黒木さんのツイートで見かけて名前だけは知っている 柏原の結晶基底の話が出てきた. 結晶基底はなぜ結晶という名前がついているのだろう.
P.80 で推移的な作用を「作用素環論的な文脈ではエルゴード作用という」というコメントがあった. 本当に恥ずかしいのだが, 推移的な作用とエルゴード作用の関係を考えたことがなかった. ふだんろくに使わないのでいつまで経っても覚えられなかったが, これなら両方覚えられそうだ. 念のため定義を引いておこう.
群 $G$ の集合 $X$ への作用を考える. $X$ が空でなく $X$ の任意の元 $x$ に対して $Gx = X$ が成り立つとき, $G$ の作用を推移的と呼ぶ.
確かに (物理の気分で) エルゴードだ.
ノートで戸松さんの論文が引用されていた. ちょうど私が院にいた頃に出版された仕事のようだ. こんなことをやっていたのかと 10 年のときを経て知った.
知っている名前や概念が突如大量に出てきたのでテンションが上がる. やはり名前だけでも知っている話が出てくると一気に食いつきがよくなる. 自分のコンテンツにもこの知見を活かさねばならない.
P.87 の cancellative な半群構造を持つコンパクト位相空間の性質, 尋常ではない感じがある.
P.87, Haar 測度の存在と言われるとテンション上がる. やはりこの辺好きなのだなと実感する.
P.90, Woronowicz による淡中-Krein 双対性の話を見ると, やはり難しすぎて断念した DHR-DR の勉強をやり直したくなってくる. 確か荒木先生の本で勉強したような記憶があるが, あれ, 本当に何もわからなかった. 使われている数学に全くついていけなかった. 今もまだついていける気がしない. DHR-DR, いっそ原論文を読んだ方がいいのではないかという気もするが, 手元にあっても眺めたことすらない. その辺も検討した方がよさそう.
P.95 の $C^*$-環に affiliate する非有界自己共役作用素とか, いかにもゲテモノ感があるし, Woronowicz はよくそんなの頑張って解析したな感がある. 竹崎先生が「作用素環の人は非有界作用素を本当に嫌がる」みたいに言っていた記憶がある. Riefel-Van Daele の有界作用素による冨田-竹崎理論の定式化に対する 有名な論文があるくらいだし, 竹崎先生がそういうならそういうところもあるのだろう. 実際, 非有界作用素の作用素論が専門である私としても, 非有界作用素は面倒で鬱陶しいとは常々思う.
代数的場の量子論は学部 4 年のときに専門にしたいと思って, 一定以上の勉強もしたところだし思い入れがある. そことの絡みがあるからずっと気になってはいるところだ.
もはや内容とほぼ関係ないのだが, QED と絡むところで DHR-DR に対応するという BF analysis はどういう展開があるのだろうと学生の頃から気になっている.
脱線ついでに言えば, 亡くなってしまったのでもはや永遠に聞けないが, Borchers による自己同型群のスペクトル解析もずっと気になっている. 多変数関数論マターでもあるので, そちらもちゃんとやりたいとか, そんなことばかりが頭に去来する.
細部はばっさり切り落としていて, とにかく大きな姿をまず掴みたいという希望があるならかなりいいのではなかろうか. 本の中でもいくつか引用があったように, 雑誌「数学」の解説なども確かに参考になるだろうけれども, 短かすぎてなかなかまとまった姿は見出しにくいように思う.
それがこうした本の形にするのがいいかはともかく, 100 ページくらいですかっと (日本語で) まとまっているとやはり読みやすい. 私の既存の講座, 特に現代数学観光ツアー 物理のための解析学探訪は A5 サイズで 350 ページもあるのでさすがにやりすぎた感がある. 実際にいまもっと小さくしてトピックも絞ったものを試験的に展開してみようと思っている. いろいろ試してみよう. そういうモチベーションや参考にもなったので, 非常によかった.
何より先輩の仕事だし, 負けていられないと出来の極めて悪かった後輩のくせに 勝手に思っている.
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