書評または感想: 数学セミナー 2014 年 01 月号 グラフ理論の新展開

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数学セミナーを定期購読することにしたのだが, 時間が取れずにようやく 2014/1 月号を読んだ方の市民だった.

せっかくなので感想をまとめていきたい.

時枝正

まず冒頭, 時枝正さんの「無理な数のこしらえかた」が恐ろしく面白かった. 素数定理, $\pi (x) - \int_0^x \frac{d\xi}{\log \xi}$ は $x \to \infty$ で無限回符号を変えることを 1914 に Littlewood が示したらしいのだが, その証明が面白い. 次の 2 ステップで証明しているそうなのだ. - Riemann 予想を偽としてその仮定から結果を導く. - Riemann 予想を真としてその仮定から結果を導く. 結果として Riemann 予想の真偽に関係なく結果を導いているという. これと $\sqrt{2}^{\sqrt{2}}$ の無理性証明を比較してうんぬん, とやっていて面白いから是非読むべき. ここからさらに零知識証明と暗号理論への応用の話題になる.

グラフ理論

今回の特集はグラフ理論だ. 4 色問題が有名なアレだ. ネットワークの問題や, 最近だと Nobel 経済学賞になった Gale-Shapley のマッチング理論などの話題もある. 東大教養の垣村尚徳さんの記事によれば理論計算機科学, トポロジー, 数学基礎論への影響もあるらしい. トポロジーと言えば, 情報技術者とかその辺の資格試験にもネットワークのトポロジーという話題は出てくる. 私の近いところだと, 作用素環でもグラフから作る作用素環という話題がある. 研究していた先輩もいたし, 慶應の 勝良健史 さんもやっていたはずだ. (今やっているかは知らない. )

小関

国立情報学研究所の小関健太さんの記事によると, 4 色問題のバリエーションも色々あって, 特に 3 色問題というのもあったり, 最近弱 3-flow 予想というのが解決されたというニュースがある. Thomassen の話題がちょろっと紹介されているが, 非常にスマートな証明を与える優れた数学者とのこと. 格好いい. 数学セミナーの執筆者の所属に「国立情報学研究所」が出てくるあたり, グラフ理論の展開の広さを伺わせるようで面白い.

徳重

琉球大の徳重典英さんの【セメレディとその周辺】という記事, 数学者のエピソード系記事とも言えるのでそれだけで特記する価値がある. Szemeredi は 2012 年に Abel 賞を取ったとのことだがそんな有名人も知らない無知無学無教養な市民だった.

松井

東工大の松井知己さんの【安定マッチング問題の応用 嘘をつく人々】にはこう色々と興味がある. Nobel 経済学賞関連の 1962 年の Gale-Shapley 論文の安定結婚問題とかその辺の話. ところで次のような記述があった.

1962 年の Gale-Shapley 論文では, この話題が数学教育において優れた教材であると述べられている点でしょう. 複雑な数式や前提知識が不要なのに, 数学的に奥深い構造を持ち, 現実にも応用を持つ安定結婚問題は, 高校生にも初見から興味を持ってもらえそうです.

この観点はなかった. 今度きちんと勉強しよう. 何か良い本ないだろうか. この記事, 参考文献などは 2013/4 の安田さんの記事を参照しているが, 手元にないしすぐ見られる環境でもないので困る. 日本評論社に参考文献一覧みたいなのないだろうか. あと, (PDF で) 数学セミナーの電子書籍ないだろうか. 個人所有で本のままだと置くスペースとか困る. 日本評論社の方は是非検討されたい. 過去のものも是非電子書籍化してほしい.

Gale-Shapley はいわば【男性の選好を優先するアルゴリズム】を作ることで安定マッチングの存在とその具体的構成までやった. Gale-Shapley の問題では男女は対称なので, 【女性の選好を優先するアルゴリズム】と言ってもいい. ここで問題なのは, 男女が正しく自分の選好を申告することが肝要だった. 3 節の【安定マッチングの構造】で議論されている. ここでは「嘘の選好リスト」を出されたときの問題があり, Nobel 賞になったときに少し勉強したところによるとこれが現実への応用上とても大切になるという話が展開される. 何で嘘をつくかというと簡単で, 例えば受験で「本当の第一志望は東大だがそれは色々と無理なので第一志望は早稲田にした」みたいなケースを想定すればいい. 真の選好を出さない状況は色々あり, その中で安定マッチングを作るのが難しくかつ価値がある. 話のネタとしても面白いだろうから, やはりグラフ理論というかマッチングの話はきちんと勉強したい感ある.

伊藤

名大の伊藤由佳理さんの【第 16 回 ヨーロッパ女性数学会総会に参加して】は相転移プロダクションの活動的に非常に興味がある. 紋切り型に言えば「女性の就学・研究支援」のようなものだ. 詳しくは記事を参照されたいが, 来年の韓国での ICM の直前に 国際女性数学者会議 (ICWM) もあるとのこと. 「この記事を読まれた方は, ぜひ周りにいらっしゃる女性数学や女子学生にお知らせください」とのことなので, 私も宣伝協力していきたい.

小澤正直

名大の小澤正直先生の【量子測定の数理と不確定性原理 (10) 不確定性原理と相補性原理】, 不勉強なので知らなかったのだがびっくりした記述があった.

一般に二つの物理量の値に関する「同時測定可能性」と「同時定義可能性」, および二つの物理量の作用素としての「可換性」の三者の概念が互いに同値だと考えられてきたからである. ところが, 新しい不確定性関係の発見によって, 非可換な物理量の同時測定可能性が明らかにされ, 「二つの物理量の値の同時測定可能性」と「二つの物理量の作用素としての可換性」が同値な概念ではないことが明らかにされた.

ちょっと認識を改めないといけない. 勉強しないとまずそう. 量子集合論とか出てくるそうなのでつらい.

阿原

明治の阿原一志さんの【サーストンの描いた 8 つの宇宙の絵】冒頭部, とてもよい.

2010 年 3 月 5 日パリ, 三宅一生氏が立ち上げた世界的ブランドである ISSEY MIYAKE の 2010 年秋冬コレクションが, 当時クリエイティブディレクターだった藤原大さんの手によって華やかに行われました. コレクションのタイトルは「ポアンカレ・オデッセイ (Poincare Odyssey) 」. ポアンカレ予想とサーストンの 8 つの幾何学 (幾何化予想) をテーマとしてこのコレクションはファッションと高等数学の幸福な出会いとして, 欧米でとても評判になりました. このことについて, 本誌 2010 年 6 月号「パリコレで数学を」と 2010 年 8 月号「宇宙の形と質感をめぐる冒険」で紹介されましたので, ご存知のかたも多いと思います.

JosephYoiko さんに教えてもらったアレか. こういうの, 私も私なりのやり方でやっていきたい. あとこの過去記事読みたい.

この記事によると, ジオメトリーセンターによって作られた「not Knot」とかいうビデオが Youtube で公開されているとのこと. あとでじっくり見たい.

矢崎

インタビューの【実験を通して, 現象を数理的に考える】, 明治の矢崎成俊さんの話, 超面白い. 関西すうがく徒のつどいでも【偏微分方程式の逆問題–拡散方程式の数学と物理と工学】で関連する話題に触れたが, やはりこの辺結構好き. この記事では移動境界問題に触れている. ラーメンの汁の表面に浮いている油の玉がくっついて境界の形が変わる, というような現象を扱うのが移動境界問題だ. 以前【自分でつくる現象数理】という連載があったようだが, これ読みたい. 何かムック的なアレでまとまっていたりするのだろうか. 著作権も考えつつ出版社的にきちんとした形にまとめようとすると大変なのだろうというのは簡単に想像がつくが, 不完全な形でもいいから何かほしい.

【雪氷数学】というキーワードが出てきた. 是非頑張ってほしい. 話聞きたい.

本連載のインタビューの模様を, 2014 年 1 月より順次 web 配信する予定です. 放映日時など, 詳しくは『数学セミナー』 web ページ (http://www.nippyo.co.jp/blog_susemi) にあります『詳細情報』をご覧ください.

こういう取り組みすごい良い. 私もこの活動, 注視していこう.

山形大の脇克志さんの【数の拡大:直線の中の 3 次元空間】, SF チックで面白い. こういう発想大事にしたいし, 自分でもきちんとやっていきたい. あまりきちんと考えたことなかったが, $\mathbb{Q}$ 係数のベクトル空間, もっとちゃんと考えたら楽しそう.

梅田

梅田享先生の【森毅の主題による変奏曲】, これが滅茶苦茶面白い. 全文引用したいレベル. これだけでも買う価値があるレベル. 位相と実関数論, コンパクト性を基軸にした位相空間論とかないの, という無茶ぶりとか書きはじめるときりがない. 全国紙上数学談話会 のリンクのメモだけしておこう.

数セミメディアガイドのページ, 何か告知にも使えるのだろうか. 今後利用を検討したい.

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