谷村省吾, 量子力学10講

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あとで書く. 以下のツイートツリーに関する詳細なコメントもつける予定.

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読書メモ

私のツイートツリー

市民なので谷村さんの量子力学10講を得た。ざっと何度か目を通す予定の市民。

  • P13 力学構文概念、良さそう。
  • P14、力学構文概念と確率表記P(C=D|B)のマッチング
  • P45, 補足のところ、無限次元でも演算子の行列式は定義できることもあるので、「定義するには演算子に厳しい制限がつく」と書くべきでは。その十分条件の一つが有限次元性といえばいい気分。
  • P59、表現固定での等式のドットイコール表記、良さそう。
  • P68、良くも悪くも、有限次元系だと位置・運動量概念がほぼ消失してスピンの値的な概念が中心になる一方、無限次元だと真っ先に位置・運動量を考えたくなるし、そのギャップが教科書執筆に関する色々な苦しみを生むのではないかという天啓を得た。
  • P69、行列式の定義問題。リーマンのゼータとヒルベルト・ポリア予想など作用素の行列式とリーマンのゼータ絡める話もあって行列式が定義できることはあるからミスリーディングではないか感。
  • トレースが慎重に書いてあるのに何故行列式がこの書き方なのか。
  • P8、干渉と重ね合わせ。これ、改めて考えてみたら数学的に正式な定式化が何なのかよくわからなくなった。ここでの「経路」概念、かなり曖昧かつ難しいのでは?なんというか、古典的な経路を想定しつつ、いきなり量子または波動概念を叩き込まれている。後で聞いてみよう。
  • P81、測定の理論をきちんと定式化しないとこの辺きつそう。ちゃんとやろう。
  • 第7講前半、やはり測定理論気になる。まずはここを詰め直そう。有限次元の小澤論文を読む。
  • P.98、非可換物理量の話、私の市民感覚にあう書きっぷりという感じがあるので参考に使用。
  • 状態ベクトルの和で干渉を議論するのはよく見かけるが、密度行列の定式化で干渉をどう定式化するのかよくわかっていない。いわゆる「状態の和」から干渉が出るという部分がどう変わるのかが未だにわかっていない。この辺、私の量子力学基礎の理解の浅さが直接出ているところだと思っている。

谷村さんのコメントツリー

いくつかピックアップ.

無限次元空間上の演算子の行列式の定義は、言い出すとあまりにも微妙なので・・・

P45, 補足のところ、無限次元でも演算子の行列式は定義できることもあるので、「定義するには演算子に厳しい制限がつく」と書くべきでは。その十分条件の一つが有限次元性といえばいい気分。

トレースの方は素朴な定義のまま行けるときは行けるけれど、行列式は、写像前の体積と写像後の体積の比として定義すると、のっけから無限次元の体積がよくわからない概念になるので、「まず無理」扱いしてしまいました。

トレースが慎重に書いてあるのに何故行列式がこの書き方なのか。

本書では密度行列をまったく扱わなかったことは、私も不満ではあります。

状態ベクトルの和で干渉を議論するのはよく見かけるが、密度行列の定式化で干渉をどう定式化するのかよくわかっていない。いわゆる「状態の和」から干渉が出るという部分がどう変わるのかが未だにわかっていない。この辺、私の量子力学基礎の理解の浅さが直接出ているところだと思っている。 密度行列を使う場合は、密度行列とオブザーバブルとが非可換で同時対角不可能であるときに干渉効果が出る、という特徴付けになると思います。それはベクトル状態における干渉とほぼ同列の扱いになると思います。 難しさの程度問題ですが、私から見ると、無限次元空間上の演算子の行列式は「すごく難しい」ので・・・ 量子統計で大事なトレースに対するほどでなくても、大抵の非数学の人は「定義自体も面倒で気にしなくて良い」と言っておけば十分で、もう少しゆるい言明でも良かったのではないかという気分があります。 無限次元行列式は regularization を駆使して定義することが多いし、regularization が要らないケースはかなり運の良いケースですし。

無限次元空間上のトレースも非自明であり、Gibbs weight state を KMS condition で特徴づける代数的方法があったりするので、非自明な(素朴には発散する)トレースも重要であることは私も認めています。

大学院で量子統計まわりの数学をやっていて、竹崎先生は指導教員の指導教員というある種直系の人間からするとトレースの扱いの方がよほど深刻な問題なので、その辺の思い入れもあるのだろうとは思います。

干渉に関する疑問

状態ベクトルの和での干渉に関するこのツイートに対して次のようなコメントが返ってきた.

密度行列を使う場合は、密度行列とオブザーバブルとが非可換で同時対角不可能であるときに干渉効果が出る、という特徴付けになると思います。それはベクトル状態における干渉とほぼ同列の扱いになると思います。

これがよくわからないので質問をしたいのだが長くなりそうなので別途まとめることにした. この問題, 本当によくわかっていないため私の頭の整理をする目的もある.

元々気になっていたのはこの意味だった.

P8、干渉と重ね合わせ。これ、改めて考えてみたら数学的に正式な定式化が何なのかよくわからなくなった。ここでの「経路」概念、かなり曖昧かつ難しいのでは?なんというか、古典的な経路を想定しつつ、いきなり量子または波動概念を叩き込まれている。後で聞いてみよう。

いくつかの疑問がある. 今改めて見たら私が誤読したと思しき部分さえある.

直接的には有名な二重スリットに関わる疑問だが, 「状態」概念(ヒルベルト空間のベクトルで定義する状態と, 密度行列または作用素環上の「状態」で定式化される状態)とそこでの議論にまつわる話がある. これらは分けた方が良さそうなので切り分けて書こう.

二重スリットの具体的・数学的定式化に関する疑問

真面目にシュレディンガーを解くとどうなる?

この設定をあとで踏襲するので先に書いておく. 特に純粋に数学上の問題も関係する.

二重スリットの問題は導入で出てきて実験結果が示されるだけで, 数値計算含めてまともにシュレンディガーを解いて具体的に確認している文献を見たことがない. (あるのかもしれないが私が目にした数少ない文献では見たことがないか, 遥か前の記憶なので覚えていない. 多少なりとも目を通したのはディラック・清水本・シッフあたり.)

多少の調整はあるとして, 二重スリット問題に対して私が理解している数学的設定から書いておこう. まずはシュレディンガー方程式自体は自由粒子のシュレディンガーでよいと思っている. 数学系市民らしく係数を落として書くことにすれば, ハミルトニアンを自由ハミルトニアン$H_0 = - \triangle$とした系だろう.

考える領域も問題だ. ここでは三次元で考える. 点$S_{\pm} = (0, \pm 1, 0)$に二つのスリットがあり, 無限遠から電子が入射してきて平面$\{x=1\}$上のスクリーンで電子を検出する状況にする. スリットは平面$\{x=0\}$上にあるから, 基本的な領域を$\Omega_0 = \big( (-\infty, 1] \times \mathbb{R}^2 \big) \setminus \{ x=0 \}$とすれば, 二重スリットがある領域は $\Omega_{2} = \Omega_0 \cup \{S_{+}, S_{-}\}$で, スリットを一つ潰した空間は $\Omega_{\pm 1} = \Omega_0 \cup \{S_{\pm}\}$とすればよい. (スリットは一点ではなく$S_{\pm}$を通る直線の方がいいのかもしれない. これもよくわからない.)

微分方程式上の設定としてはスリットでの散乱を考える散乱問題だと思っている. 特に固有値問題ではない. (当初は固有値問題で解くべきなのかと思っていたが段々それだとまずいと思うようになった.) 初期条件は無限遠から入射してきた形で設定し, 適当な時刻でスクリーンに到達するとしよう.

まとめると三つの領域$\Omega_{2}$と $\Omega_{\pm 1}$上での自由ハミルトニアンが支配するシュレディンガー方程式の散乱問題の解が議論の対象になるはずだ. これをきちんと解いてP.6の結果は得られるのだろうか? 大昔の文献できちんと議論してありそうな気はするがわからない. そもそも最近ようやく量子力学の基本的な問題を考えられる程度に量子力学に慣れてきて頭が追いついてきたくらいなので, 学生時代はこんなことを考える余裕さえなかった.

そういえば上記の領域$\Omega_{k}$で波動方程式をきちんと解いたこともない. どう解いたらいいかもよくわからない. 数値解でもいいので, ふつうの波動方程式ではうまくいかないこと, シュレディンガーだと実験結果を再現できることも前から気になっている. つまりP.5の干渉縞は得られるのだろうか. 高校または大学受験だと幾何光学の範囲で何となく議論したことになっていると思うが, 波動方程式できちんと考えたことがない.

また固有値問題だと思ったとしても二重スリットの問題は純粋に数学的な問題としては相当非自明だろう. 例えば各領域$\Omega_{k}$上で自由ハミルトニアンは数学的に厳密な意味で基底状態を持つか? 三次元の全空間$\mathbb{R}^3$では当然固有値を持たない. 基底エネルギーが固有値かどうかもよくわからないが固有値を持つこと自体が非自明ではなかろうか. これもあって散乱での定式化なのかと思ったというのもある.

経路概念

これは直接P.8の記述と上で書いたコメント・疑問の話で, 1.3節での状態概念が何なのかわからない. シュレディンガー方程式で解くかはともかく, スリットなどの状況設定は前段を引き継ぐ.

はじめに書いておくと, 式の字面と日本語の表現が一致していないような気がして混乱している.

P.8: 確率振幅に関する規則2: 重ね合わせの原理. 始状態$A$から終状態$X$に到達する経路が二通りある場合を考える.

まずP.8上方で(常識的な, よく使われる意味での?)ブラケット記法であることを主張した上で, $\langle X | A \rangle_1$という記法がよろしくない. 「経路」の情報を右下の添字で表現するの, ブラケットの標準的な用法ではないのでは.

さて, この始状態と終状態は何なのだろうか. 抽象論でやっているのをシュレディンガー方程式での議論に叩き落とすのも品がないが, いったんいわゆる「波動関数」だとみなして議論する.

始状態・終状態の「状態」をヒルベルト空間の元(波動関数)と思うなら, 「$A$から$X$に向かう経路」という概念は一径数ユニタリ群$U(t)$が導くヒルベルト空間内の曲線と理解するべきではないかという気がする. しかしP.9の「経路1だけを開けた」という表現とP.6の「1番目の孔を開けた」といっ表現を考えると, 「どちらのスリットを通ったか」くらいの意味で使われている気もしてくる. 後で書くように後者の理解だと困るのではないかと思うのだが, どう理解したいいのだろうか. ちなみに「$A$と$X$は三次元空間内のある点で, どちらかのスリットを通った上で$A$と$X$を結ぶ曲線」の意味で「$A$から$X$に向かう経路」という解釈もありえそうだが, よくわからない.

まとめると「$A$から$X$に向かう経路」には次の三通りの理解がある. 考えている状態の空間(ヒルベルト空間)を$\mathcal{H}$としよう.

  1. 始状態$| A \rangle \in \mathcal{H}$と終状態$| X \rangle \in \mathcal{H}$を結ぶ$\mathcal{H}$内のある曲線.
  2. 始状態$| A \rangle \in \mathcal{H}$と終状態$| X \rangle \in \mathcal{H}$があり, どちらかのスリットを通った状態$|B \rangle \in \mathcal{H}$を通過する$\mathcal{H}$内のある曲線.
  3. 三次元空間$\mathbb{R}^3$の点$A$から$X$を結び, スリットの位置を通る三次元空間$\mathbb{R}^3$内の曲線.

これのうちどの意味なのだろうか?

二重スリットの問題を杓子定規にシュレディンガー方程式で二重スリット問題を定式化するなら, 「経路1を通って始状態Aから終状態X」という概念がシュレディンガー方程式に存在するのだろうか. 散乱理論では時間が過去・未来の無限大での時間発展の極限を取る意味で確かに始状態・終状態概念が出て来る. 時間発展に関する発展方程式を考え, 初期時刻・最終時刻を指定した意味での境界値問題で定式化しているのか? これは量子力学の修行として先々で解くことになるシュレディンガー方程式の固有値問題ではなく, 私はこの時点で議論に対する直観が効かない.

あと, ここでの状態概念として特に「経路1を通って」という概念が量子力学として意味を持つのかもわからない. 波動関数に対する過剰な(古典的)意味の読み込みではないかという気がする. (こういう読み取りは問題があると思っているのだが本当にわからない.) シュレディンガー方程式の解として, 考察下のハミルトニアンの適当な意味での解に「経路1を通って」という意味・情報は与えられるのだろうか. 古典的な装いが強い言葉で, むしろ(私が雑に認識している範囲での)経路積分的な定式化がよくはまる言明という印象がある. シュレディンガー方程式で捉えると難しいが経路積分ならうまく捉えられる状態概念, みたいな話なのだろうか. しかしこのくらいの基本的なところで使う数学的で具体的な問題の定式化・道具の詳細に依存するような議論になるのは気持ち悪い. あくまでメインは確率分布で, それをどう計算するかはモデル化の話, 物理の原理的な議論にモデル化の詳細を持ち込むのは違うのではないかというか.

上にコメントしたゴリゴリの杓子定規に数学的な議論では, 偏微分方程式は領域と初期条件・境界条件などに依存して解が決まる. 一方P.9では「経路1だけを開けたときの到達確率」と書いてある. これは領域$\Omega_{+1}$上で偏微分方程式を考えたことにあたる. 「経路2だけを開けたときの到達確率」は領域$\Omega_{-1}$上で偏微分方程式を考えたことにあたるだろう. この理解が正しいとして確率振幅の和は意味を持つのだろうか. もちろん単なる複素数の和として数学的な意味はある.

そしてこれまた杓子定規に言えば, 考察下のヒルベルト空間は前者はソボレフ空間$H^1(\Omega_{+1})$で, 後者は$H^1(\Omega_{-1})$, 両スリットが開いている空間は$H^1(\Omega_{2})$で属する空間自体が違うから状態の和は意味を持たない. もちろんP.8では状態の和は考えていないので今は関係ない.

全然関係ないが, $\phi$はあとでヒルベルト空間の元を指すためにも使う記号なので, 確率振幅に$\phi$を使うと紛らわしいのではないかという気もする.

干渉に関する谷村さんのコメントに関する疑問

次のようなコメントを頂いた.

密度行列を使う場合は、密度行列とオブザーバブルとが非可換で同時対角不可能であるときに干渉効果が出る、という特徴付けになると思います。それはベクトル状態における干渉とほぼ同列の扱いになると思います。

一方P.8での干渉は裏でハミルトニアンが決まっているものの, 単に確率振幅とその二乗に関する話でオブザーバブルは出てこない. だからこのコメントに対する「干渉効果」は何か違う話をしている. 密度行列で議論したときにP.8の議論に相当する干渉はどうなるのだろうか.

ちなみにP.96での干渉は波動関数(ケット)の和$|\psi \rangle = c_1 |\psi_1 \rangle + c_2 |\psi_2 \rangle$を考えて, これに対して$\langle \psi | A | \psi \rangle$を考えているから, 上記コメントに対応する干渉の話だろう. P.8での干渉では状態ベクトルの和ではなく, 確率振幅の和だから杓子定規には違う. ここの記号でいうなら$\langle \psi^{(1)} | A | \psi^{(1)} \rangle + \langle \psi^{(2)} | A | \psi^{(2)} \rangle$のような量がP.8での確率振幅の和になっているはず.

時々量子力学の本で$x \in \mathbb{R}^3$とケット$| \psi \rangle$に対して $\psi(x) = \langle x | \psi \rangle$で関数$\psi$の$x$での値を定義するのを見かける. P.8での$\phi$はこの意味か? この意味だとP.8の議論は数学的には大分話が変わってくると思うが, 何なのだろうか?