2021-06-27 英語 who とフランス語 que の類似/相転移プロダクション

今回のテーマ

2021-06-26 語学・言語学セミナーの記録

私が参加している語学・言語学コミュニティのセミナーがありました. そこでの話をいくつかシェアしておきます.

今回はラテン語・エスペラント語がメインでした. 一番面白かった・または私にとって大事だったのは, やはり物理との関係です.

最近, 発音含めて音に注目しています. 大分前から「音は国を越える」という話が出ています. 「すべて芸術は絶えず音楽の状態に憧れる」, 「すべての芸術家は音楽に嫉妬する」という話があります. 詳しいわけでもないのでこれに関する話は省略します.

問題はこれの語学版で, 文字・スペルは国・言語・文化をまたぐと大きく変わることがあります. キリル文字なのに文法はペルシャ語と言われるタジク語のような言語もあれば, キリル文字を使うかラテン文字を使うか程度の違いしかなく, 日本語で言えば東京方言と大阪方言程度の違いさえないと言われているクロアチア語とセルビア語のような言語もあります. 後者に関しては旧ユーゴスラビア時代は, セルビア・クロアチア語という一つの言語とされていたほどです.

特にセルビア・クロアチア語に顕著なように, 言語には政治の要素も強く入ります. 国・言語・文化の別の側面だからでもあるのでしょう.

音の話

それはともかく, 音の話です. 声・音声は人体という楽器が奏でる音楽です. そして発声器官である口周辺の構造は, 人種などによってほぼ変わらないはずです.

言語ごとに細かな音・発音の特徴はあるにせよ, 大まかな発音自体はいくらでも真似できます. つまり音は人体の物理によっていて, 人間の身体の構造が大まかに言えば同じだからであって, それは自然言語にも物理がきちんと効いている証拠なのです.

ここを追いかけて, 「理系のためのリベラルアーツ・総合語学」にうまく活かせないか考えるのが, 今のテーマです.

実例

英語での who はドイツ語では wer で, この類似は英語がゲルマン系の言語だからでもあります.

一方ロマンス系の言語であるフランス語は qui, スペイン語は quien で, ラテン語は quis です. ちなみに現代ラテン語でもあるイタリア語は che です. イタリア語だけ大分見た目が違いますが, 発音は「ケ」です. ちなみにフランス語は「キ」, ラテン語は「クイス」, スペイン語は「キエン」で, どれも k の系統の音です.

ここで who (wer) とラテン語は大きく違うように見えます. しかしこれは次のような見方をすると「同じ」言葉だと思えます.

よく what や why は「ホワット」「ホワイ」のように, 先に h の音を発音することがあります. この事情が関係しています.

音韻転換 (メタセシス) と呼ばれる現象があります. 「新しい」は「あたらしい」である一方, 「新たな」は「あらたな」と読みます. これが音韻転換です. 他にも秋葉原は「あきはばら」と読みますが, もともとは「あきばはら」です.

これをもとにすれば what・why は hwat・hwy だった可能性があります. 実際 Wiktionary いわく, 古英語では hwæt だったようです. もちろん who も hwo のような形があったようです.

英語の発音を勉強するとわかりますが, この h は空気が出る音・吐き出す音で, que・quis・quien・che の k も空気が出る音です. 実際に h と k はよく入れ替わります.

これは実例とともに『論理英語 ボキャビル編』にもいくつか書いてあるので, 興味があれば眺めてみてください.

入れ替わりその 2

さて h と k (q・c) の入れ替わりはわかりました. 次に w と u の都合を見てみましょう.

メルマガで紹介したような気もしますが, ラテン語の時代はそもそも v (ヴァ) の音がありません. それ以外にも歴史的に u, v, w はぐちゃぐちゃに入れ替わっています. 語源などを考えるときは同じようなものだと考えます. ちなみに w は「ダブルユー」なわけで音の上でもだいたい u です.

というわけで, who と quis は全然違うように見えますが, hwo と入れ替えた上で, 音とスペルに関していろいろな事情を考えれば同じ起源を持つ言葉だとは言えます.

他の例

長くなってきたので手短にします. 英語の over に対応するドイツ語として auf があります.

日本語では「フ」「ブ」と濁点の有無で極端に文字が似ているので, b・v, f がだいたい同じようなものだと思うのはそれほど抵抗がないはずです.

母音なので微妙なところではありますが, o と au について考えてみましょう. ちょっと強引ではありますがフランス語を引いてきます. フランス語での au は cafè au lait (カフェオレ) のオで有名なようにオと読みます. 英語でも audio のように au でオ (オー) と読むことがあります. こう思えば o と au の転換もそうおかしくはありません.

音, そして音も考えつつスペル・アルファベットの対応も考えれば, 少なくともヨーロッパ系の言語はこれでいろいろ辿って遊べます.

この辺, いま勉強会をやっているところでは, 理系の人にも楽しんでもらえているので, うまく料理すれば理系の人にも楽しんでもらえるはずですし, 「文系のための理系入門」として, いわゆる文系の人にもいい感じに提供できないかとも考えています.

念のため注意

これだけ見るとこじつけではないかと思う人がいるかもしれません. 私も自分自身で文献学・音韻学的な調査をして追いかけきったわけでもありません. それでも言語学者から聞いた話なので, いったん一定の信頼感を持って受け入れています.

コンテンツ作りのためにも, このあたりをきちんと勉強するのも今後の課題です.

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