2021-08-28 自然言語の多言語学習とプログラミング/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

今回も, 諸事情で勉強会は中止したので, 残念ながら動画はありません. 勉強会で言おうと思っていたネタがあるのですが, 忘れる前にメルマガで供養しておきます.

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数学・科学の英語記事を読もうの会の展開

何回か休みがあったものの, 二ヶ月のトライアルが終わりました. 当初は数学・物理に関わる文章を読もうと思っていました, むしろふだん読まないタイプの文章をサクサク読んでいくのが面白いことがわかったので, その視点でさらに教材研究の勉強会を続けます.

他の言語はともかく, 私の英語学習は本質的に大学受験で終わっているので, 数学・物理の専門用語以外の単語力が本当にありません. 次回からの文章はアメリカの小中学生向けという National Geographic kids でさえ知らない単語が出てきます. その意味では小中学生向けの文章さえ私には勉強になります.

そもそも英作文の視点から見ると, シンプルな文章にこそ勉強すべきポイントが凝縮されているので, その辺も地道に進めます.

こちらの雑誌を読む勉強会は今後いったんクローズドにするので, 参加したい方がいたら連絡をください.

単語で遊ぶ

まずは英単語です. 最近改めてラテン語文法を勉強しはじめ, 雑に眺めていると少なくともフランス語はゴリゴリにラテン語の娘であることがはっきり見えてきました. もちろんフランス語学習は英語学習にも役に立つので, まわりまわって英語学習です. ラテン語の本を眺めていて調べようと思ったことがあり, メルマガに書くでもしないとやらないので, メルマガを書く体で調べ勉強します.

hypo, hypothesis

数学の作用素論でも hyponormal operator, hypoelliptic operator という単語があります. おそらくわかる人には見てすぐわかるようにギリシャ語由来です.

hypo は before の意味で, thesis はラテン語だと命題 (proposition) の意味もあり, 命題の前に置く原論から仮説などの意味になるのでしょう.

region: rex, rajah

これもラテン語の本で rex を見てふと思ったことです. 以前, 少なくとも相対論の勉強会でもコメントしたように, マハラジャの maha は mega や摩訶不思議の摩訶と語源が同じで, ラジャ rajah は王の意味です. マハラジャはサンスクリット由来で, まさに印欧語というときの印です. 印欧語の欧の代表であるラテン語の rex もやはり王の意味があります.

ここで region は王の支配地の意味で領域といった意味を持つのではないかと思ったのです. 語源関係の調査法をきちんと理解しきれていないので何ともいいようがないのですが, 何となく調べた限りでは関係はあるようです. 興味があれば次のリンク先を眺めてみてください.

フランス語で遊ぶ: avoir

今回は英語の have に対応する avoir です. イタリア語では avere, ラテン語では habere が対応するようです. ちなみに英語の have とラテン語の habere の語源は同じではありません.

ここによると avoir と habere も語源は違います. フランス語の直説法現在の標準的な活用を知らないと何が変則なのかわからないと思いますが, avoir は次のような変則的な活用を持ちます.

人称 単数 複数
一人称 j'ai nous avons
二人称 tu as vous avez
三人称 il a ils ont

意味

英語でも同じように基本的な単語は異様に多義的で, 多彩な意味・用法を持ちます. 英語の have も日本語の「持つ」からは想像もできない対象を持てます. 例えば I have a headache. など頭痛が持てます. ちなみにフランス語でも頭痛は持てる対象で, J'ai mal à la tête. と書きます. この tête はラテン語の testa に由来する「頭」の意味を持つ単語です. ちなみに mal は英語で栄養失調などを malnutrition と表すように, 悪いことを表す単語です.

助動詞としての avoir

その前に時制や雑多な話

いきなり脱線しますがフランス語は英語よりも多彩な時制があり, その時制表現がフランス文学を豊かにしていると言われているようです. フランス語と文学と言えば, 英語と違って人に対する表現とモノに対する表現が同じように書ける点も文学性を高めると言われているようです.

例えば英語で「日が昇る」と言えば日本語と同じように The sun rises. と書きます. しかしフランス語では「太陽が起きる」を Le soleil se lève. と書きます. この se lever は代名動詞で「起きる」の意味で, 人が起きるときにもこの代名動詞を使います. この擬人表現がフランス語の面白いところだそうです.

ちなみに英語の三人称単数が he/she/it と人・モノを区別している一方で, フランス語は he/she にあたる il/elle だけで人・モノを区別する単語がありません. これは上の擬人表現・モノに対しても人と同じ表現を使うことと整合的だとか.

いくら近かったり関係が深くても, 言語ごとにその言語を彩る特性があります. それはその言語を操る人達の歴史的・文化的特性もあります. 例えば旧ユーゴスラビアのクロアチア語とセルビア語の言語的な違いの筆頭は使う文字で, あとは八割同じと言われています. クロアチアとセルビアは文字通り致命的に仲が悪く, 本質的な言語特徴はよく似ていてもそれを操る人達の文化的・歴史的特徴が決定的に違うのです.

外務省の次のページも参考になるでしょう.

時制

さて, フランス語には複合時制という概念があります. 実は英語には未来表現はあっても未来形という概念はありません. これは未来を表すにはあくまで助動詞 will や be going to を使わざるを得ず, 現在形・過去形とは違って動詞に未来形がないという意味です.

そしてフランス語には助動詞なしの単純時制として, 過去形と未来形が本当にあります. そして複合時制として助動詞をつけた過去・未来表現があります.

英語でも時制の助動詞として have を使います. そしてフランス語でも時制の助動詞として avoir と être (be 動詞) を使います. いわゆる往来発着系の動詞に être を使い, それ以外に avoir を使います. 実はドイツ語も同じように往来発着系の現在完了的な時制に sein (be 動詞)を, それ以外に haben を使います. (ドイツ語・フランス語と比較したとき) 英語だけこの特徴がつぶれて have しか使わなくなっているのです.

ちょっとしたコメント

このように他の言語と比較することで, 逆説的に英語とその特徴を見つめ直す形で英語を勉強しています. もっと言えば日本語にも他言語・他言語からの光を当てて見直しています.

何度も言っているつもりですが, これはプログラミングの勉強と同じです. ある言語でこう書くことを他の言語ではこう書く, またはこんな言語機能があるというのを学び, 自分の得意な言語にフィードバックするのはよくやられています. プログラミングでは毎年一つ新しい言語を勉強するといいと言われることさえあります.

しかし何故か自然言語ではこういう話を聞きません. そんな半端なことばかりして全部中途半端になるより役に立つ英語を勉強したら, みたいな知ったようなことを言う人もいますが, どうせ (私も含めて) 英語さえまともに使えていないのだから, 半端だろうが何だろうが知ったことではないのです.

英語のスペルと発音のずれは有名です. フランス語もよく発音とスペルのずれの面倒を言われますが, 英語と比べるから発音がわかりにくくなるだけで, フランス語のルールがきちんとあって慣れれば英語よりは遥かに厳格で明確です.

これと比べると日本語の発音ルールの方がよほど無茶苦茶です. これもよく例が挙がっています. 例えば「一」について「一つ」と書いたら「ひとつ」であって「いちつ」と読みません. 漢字の読み自体たくさんあり, 振仮名がつくことでまた変幻自在に変わります. おそらく中国人でさえ全部振仮名を振ってくれと思うのではないでしょうか.

いまいろいろあってアラビア語も軽く眺めていて, 文字からして苦労しています. 高々 30 文字程度しかないにも関わらず. しかし日本語を思うと平仮名だけで 50 文字あり, カタカナもあれば漢字もあります. 文字だけ考えるなら, それに比べればアラビア語も大したことはないと思って歯を食いしばって文字を勉強しています.

別にあなたにも同じように多言語学習しろというつもりはありませんが, もともと理工系的にも私は数学・物理・プログラミングの「三言語」を雑に使う種族の人間なので, もうそういうものと思って適当にやっています.

この辺もやはり人を巻き込んで勉強するのが一番捗るのはこの一年の勉強会でよくわかりました. もっと多くの人を巻き込むための準備を着々と進めています.