https://phasetr.com/archive/fc/misc/mm-mathphys/
「読んだよ」だけでもいいのでぜひ感想をください. メルマガを書く励みになります. 最近感想を頂く機会が増えてきたので素直に嬉しいです.
ではまたメールします.
Twitter の鍵つきアカウントの人と少し話をしたので記録しておきます. 参考になる人もいるでしょう. どちらかと言えば物理や応用系の人より, 数学の人が物理の人の気分を掴むのに役立つはずです.
何をやるかによります。 量子力学だとスピン関係で行列としてのSU(2)やSO(3)と、 そのヒルベルト空間上への無限次元ユニタリ表現で数学的詳細を一切気にしないバージョンなどをやります。 あとはボソン・フェルミオンに関連して置換群の無限次元表現をやります。 表現の意味で準同型は出てきますが、 準同型写像や準同型定理などはふつうの量子力学の本で見たことはありません。
言い方が難しいのですが、 数学から見ると表現論の範疇ではあるものの、 実際にやっているのは固有値・固有ベクトルに関する議論で、 しかも有限次元の線型代数です。 量子力学だとどれも https://mns.kyutech.ac.jp/~okamoto/education/quantum/spin-angl-mom-coupling-summary110713.pdf のノリです。
まじめにやったことがないので詳細は全く知らないのですが、 結晶学をやる人は点群の勉強をするそうで、 これは量子力学用のスピンや置換群とは全然気分が違います。 一方、素粒子系だとリー群・リー環の話が出てきます。
聞いたことはありません。 点群は有限群なので裏で使っている可能性はありますが、 そういう(物理から見れば)飛び道具を使うよりも、 目の前の具体的な群に対して腕力で強引に乗り切る方が尊ばれる文化的な素地があります。 テンソルに対して数学的な定義を知る人さえほぼいない状況と合わせるとイメージしやすいのではないかと思います。 おそらく数学関係の人が想像する以上に物理の人は数学ができない・知らない・興味がなく、 点群関係だと実験の人も関係してきて理論面への興味関心が一段と下がる事情もあります。
お久しぶりの方からメルマガで感想を頂きました. どんな形であっても数学を勉強しようという人には参考になるはずなので, いくつかコメントを引用します.
学部生等のセミナーや非常勤講師として面倒を見る機会が多く、 その際に多項式が基礎体上定義されるのか/拡大体上定義されるのかや、 根を閉体の中から取るのか/それより小さい拡大体の中から取るのか、等がよく問題になります。
この辺は写像の始域/終域と類似して、 癖がついてないと疎かにしがちかつ間違いやすい、 けれども、どこで自分が何を考えるのかという主体性に関わる重要な部分だよなあと痛感していた
三週間くらい大雑把に可換環を勉強していたのですが, そこで環・代数・体の拡大が何度か出てきました. まさに上でコメントされているような話が何度か出てきて, 本格的な議論になったら相当注意しないと確実にはまる危険な匂いを察知しました.
このあたりの危機予測に関して一つ大事なのは例, 特に反例を一定量知っておくことです. 現状, 私は幾何の十全な議論に必要なだけの代数の修行量がまだ足りておらず, そのうちの大きな部分が適切な例の把握です. そもそも何が把握しておくべき適切な例なのかさえ見えていません.
環ならとりあえず多項式環とそのいろいろなイデアルと商環ですが, 簡単に見た範囲でもまだ全く感覚が掴めていません. 多変数の多項式環は必ずしも難しくないにもかかわらず, 多種多彩な振る舞いをするのが面白い対象です. しかも代数幾何を通じて直接幾何的な性質も見られてかなり楽しいです. イデアルを加群とみなせば加群の理論も同時に守備範囲に入りますし, ふつうの群・環・体のノート作りをさっさと終わらせて, 早く本格的な可換環・加群の勉強に入りたいです.
最後, だいぶ話がずれましたが, 何にせよ面白い例を把握すること, そして何より面白い例を面白いと思える感性を磨くことが大事です. 他の分野よりも勉強したいと思うかどうかはともかく, 面白いモノをきちんと面白いと判定できる感性を育てるのは非常に重要です.
リーマン面でも出てきたのでこれからノート作りに精を出す予定で, かつ先の物理での代数といった話と関係するので少しまとめておきましょう.
まずリーマン面だと被覆空間・ホモトピーまわりで使います. まさにガロア被覆といった概念が出てきます. 直接的にゴリゴリにガロア理論を使うわけではありませんが, 群による統制・対称性の統率というガロア理論が生み出した群による統率が直接効いてくる重要な局面です. 特にガロア群の作用が被覆空間上の点の置換を引き起こす点は代数方程式に対するガロア理論と同じ構造です.
他には数学内部での実用性があります. ガロア理論自体, 微分方程式論で微分ガロア理論などがありますし, 代数的整数論での応用など直接的な応用もあります. しかしそれ以上に, 上にも書いた群による対象の統率という視点が決定的に大事です.
対象の統率という視点では幾何全体にも非常に強い影響があります. 例えばリーマン多様体でのホロノミー群はその種類でリーマン多様体の計量的な性質が決まります. もちろん対称性の群をできる限り小さくすることで, その多様体の構造を限定して多様体を研究しやすくするという視点も生まれます.
他にも相転移での対称性の破れは, その名の通りもともと持っていた対称性が破壞される現象で, 特に対称性を記述する群が小さくなる現象を表します.
素粒子ではふつう理論にいろいろな対称性を課します. 理論にはいろいろな自由度がある中, 物理的に自然な (高い) 対称性を持つ群の作用があることを仮定して, 理論の存在範囲を絞り込みます.
あまり単純な比較をするのもよくないのですが, 物性が雑多で綺麗な理論を作りにくい理由はここにもあります. 理想的な状況を考えてさえ理論によい対称性を仮定しづらいのです. 例えば結晶格子の構造を見ても, 一般に整数 $\mathbb{Z}^3$ の作用は仮定できません. 高校化学のレベルでさえ立方格子の他に面心立方格子や体心立方格子, 六方最密構造があります. 結晶を構成する原子やイオンの位置は $\mathbb{Z}^3$ の上になく, この可換群が結晶に作用できません.
もちろん理想的には適当な対称性は持っていますが, 数学的に扱いづらく理論を組みにくいのです. 普遍性などを根拠に, シンプルなところだけ見ていてもある程度は物理がわかるだろうと思って展開する議論以外, 現行人類には対処しようがない部分があります.
ガロア理論は一変数多項式環という, かなり触りやすい対象でこうした事情をある程度まで見せてくれるのがいいところです. ぜひ一度腰を据えて勉強してみてください. 多様体への群作用や群の表現論・調和解析と言われても余計な要素がたくさん入ってくるので, おそらくそれ程勉強しやすくはありません.
調和解析ならフーリエ解析から応用も含めた別の入口が作れますが, 解析のかなりややこしい議論も入ってきて, 必要に応じて余計な部分をショートカットしたり, 各人に合わせた具体例を的確に出せる人に師事を仰がない限り, フーリエ解析から群の射程距離を追いかけるのはとても大変です.
先日から堀田本をもとにした量子力学の有料指導をするという話をしています. Twitter を見ていると数学系の人でも興味はあるという人はいるようですし, 何がはまりどころになりうるのか, 私としてもできる限り把握しておきたいと思っています. そのために本編がはじまる前にちょっとしたオンラインセミナーをしようと思っています.
専用メルマガで案内するので, 興味がある方は登録しておいてください.
以前も言いましたが, 有料の勉強会開始前に最終的な参加者を募るので, とりあえず量子系の物理・数理に興味がある人は登録しておいてください. ちなみに今日は現代の量子力学でも重要な, 操作主義に関する資料を配布します. これは先日 Twitter で木村元さんからいくつかコメントをもらったところでもあり, 現代的な量子力学を理解する上でもかなり大事話だと思っています.
前半の有限自由度系が堀田本の一番の目玉だと思っているのですが, 非数学系の人にとってはこの目玉の部分こそが一番の鬼門で難関でしょう. そこまでほとんど鍛えてこなかったであろう, 線型代数の抽象論が乱舞しているからです. 特に実用的にも重要な多体系の構成では抽象的なテンソル積の処理が必要で, 「添字と適当な対称性があるベクトルの拡張のようなやつ」としか思っていない人の魂を効率よく刈り取る世界です.
以前松尾さんと勉強会をしたときの蓄積もあり, 物理系の人には響きそうな話の展開の仕方の案はあります. 興味がある方は登録して案内をお待ちください.
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