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微妙に反響があったので追加で少し書きます. リーマン面にも陰に陽に関係するため, 幾何のページにも参照をつけてあります.
代数系による統率の視点で言えば表現論が欠かせません. もちろんガロアの曖昧の理論よろしく, 表現論どころか群が生まれた母胎でさえあります.
何か数学的対象に群が作用して影響を与えているとき, 群の作用が綺麗にはまるために対象に制約を与えます. これは前回コメントした通りです. 書こうと思っていたことを一部忘れてしまったのですが, 思いつく限り私が知ることを書いておきましょう.
詳しくは次の資料を見てください. ここでは大まかな話をします.
ヒルベルトの第五問題が何かというと, 群と位相のマッチングで何が起きるかを調べる問題です. 特に連続群またはリー群をイメージしてください.
連続群は群という代数構造と位相の構造が入って, 群演算に連続性を要求するクラスです. この意味で代数と位相のマッチングを見ています. お互いに特殊な構造なので整合性を保つために何らかの制約が入ると思うのは自然な発想です. しかしそれがどのくらい強いのか, 具体的にどういう影響を与えるのかは全くわかりません.
もちろん実際には非常に強い制約を与えることがわかっています. 特に $C^0$-級構造と整合的な $C^{\omega}$-級微分構造が入ることまでわかっています.
ここでポアンカレ予想とも関連したドナルドソンの仕事, 「四次元ユークリッド空間において異種微分構造が存在する」を思い出してください. 四次元ユークリッド空間は内積空間であり, 特に線型位相空間でリー群 (連続群) でもあります. ユークリッド空間は微分論の母体でもあるので当然解析的な微分構造を持ちますが, 全然関係ない異種微分構造も持っています. 微分構造があることはわかっても, もとの位相と整合的かどうかは予断を許しません. それが起きないことを主張するのがヒルベルトの第五問題とその解答です.
ちなみに買ったままでいまだに読めていないのですが, ポアンカレ予想についてはこれまた結城浩さんが数学ガールで取り上げているので, もしあなたが興味があるなら読んでみるといいでしょう. 他のシリーズを読んだ限りではきちんとした内容のはずです.
ヒルベルトの第五問題にはいろいろなバリエーションがあります. もともとは群と位相ですが, 群を他の代数系に取り替えてもいいでしょう.
私が知る限り, 関数解析ではかなり早い時期からこのバージョンを考えていたそうで, 例えばバナッハ環は日本人数学者の南雲道夫が定義して議論しています.
バナッハ環と言っていることからもわかるように, 作用素環は特に境の定理など代数と位相に関する研究が早くからあります. 一つの究極形がゲルファント-ナイマルクの定理です. これは可換な $C^$-環は局所コンパクトハウスドルフ空間上の連続関数環であることを謳う定理で, ノルムと $$-環の代数のマッチングが強いとここまで強く構造が規定されてしまいます. これは現代幾何の基本中の基本, 代数-幾何対応にも強く影響を与えています. もちろん作用素環にも非可換幾何として跳ね返ってきて精力的な研究が続いています.
ふつうの微分多様体の定義だと見えづらくなっていますが, 斎藤毅『数学原論』では層で微分多様体の定義を与えています. 特に微分可能な関数からなる単位的可換環がなす層を考えています.
書けることはいろいろあります. ここでは改めてベクトル束を考えましょう. これは特殊なファイバー束でもあります. 特に各ファイバーに一般線型群が作用するファイバー束です.
特にリーマン多様体の接束を考えれば, 計量との整合性も考えたくなり, ファイバーである各接空間に特殊直交群の作用が考えられます. この作用をどこまで特殊化できるか考えるとホロノミー群の議論が出てきて, 小さい群であればある程強い制約が生まれ, 強い性質・制約を持つリーマン多様体が得られます.
ベクトル束をもう少し一般化したのが主束で, これはまさにリー群による統率を受けるファイバー束です. これも現代幾何の一つの基礎で, 例えば指数定理の舞台でもあります.
ここでリーマン面の話に戻ります. 被覆空間は離散的なファイバーを持つ特殊なファイバー束です. この辺の話の流れがあるので, 幾何の入口として被覆空間やリーマン面から入るのも悪くないと思って勉強を進めています.
群の作用と物理にもいろいろありますが, 典型的というか, 明らかに理論の中で強調されて出てくるのは相対性理論でしょう. もちろんローレンツ群またはポアンカレ群の作用のもとで不変な理論をはじめから目指しています.
ちなみに, 非相対論でも時間反転対称性などいろいろな対称性があり, そこには対応する群とその作用があります. そして非相対論・相対論的な量子論にもはねます.
もちろん量子力学にもいろいろな対称性があります. 典型的なのは時間発展に関わる $\mathbb{R}$ の作用・ユニタリ群です. スピンと関わるリー群 $SU(2)$ の作用と表現論も基本的です.
群以外にも代数の表現論の視点があります. 特に量子力学それ字体が正準交換関係がなす代数の表現論という視点があります. 物理的にどうかはともかく, 数学的にこの視点を追求しているのが作用素環を使った代数的量子論です.
先日 Twitter の少なくとも私のタイムラインでは, 東大数理の緒方芳子さんが数理物理最高の賞であるポアンカレ賞を受賞したニュースが話題になっていました. 緒方さんは量子統計の視点から作用素環を使って研究している人です. 緒方さん, ちょうど私が修士だった頃に東大数理にポスドクで来ていました. すごい人がいるものだと思ったものです. 我が身のしょうもなさも感じますが, できることをやるだけなのでやっていきます.
この間書き忘れたようなので木村太郎さんからもらったコメントを共有しておきます. 群と物理に関わる話です.
今週のメルマガで言及している有限群の話ですが, 例えば Dijgraaf-Witten 理論というのがありまして, 位相的場の理論の toy model としてその筋の人たちが色々と議論しています:https://ncatlab.org/nlab/show/Dijkgraaf-Witten+theory
他にも,離散群をゲージ対称性とするような (位相的) 場の理論の議論もいろいろと最近はあって, その主たる応用先が素粒子論というよりはトポロジカル絶縁体・超伝導などのいわゆるトポロジカル物性というのも面白いです.
すっかりモンスターのことを忘れていました。 かなり数学寄りではありますが、Mathieu Moonshine https://ncatlab.org/nlab/show/Mathieu+moonshine というのが少し前 (とはいっても 10 念年前くらい) に江口・大栗・立川の仕事で revival したとかそういう話があります。
有限群と言えばモンスターの話もあるのだろうとコメントしたら, すぐ返ってきました. 素人が思いつくことなどプロはそれはやり尽くしているはずだ, という思いを新たにしました.
トポロジカル物性と言えば, 最近堀田量子本を見ていてずっと気になっています. 私の Twitter を見ている方はご存知かもしれません.
私の物理は学部三年でほぼ完全に止まっています. どれだけよく言っても学部四年です. 学部三年の講義で出てきた問題を数学的に詰め切れずに終わった学生生活でした. 実際, 今でもまだ研究中のテーマでもあるので, 私が愚かなだけではないのですが.
非相対論的場の量子論・量子統計の話が前回の相転移まわりで, もう一つは量子力学の一体系の議論, 特にアハラノフ-ボーム効果です. これは新井朝雄先生の『量子現象の数理』, 自己共役性と正準交換関係の表現のところで議論されています.
私の意識としては表現や代数系による理論の統率とも直結しています. いわゆる非同値表現の問題で, 場の量子論では赤外発散と絡めてよく出てきますが, 有限自由度の量子系で現れます. 典型的なのが位相的に欠陥のある領域上での量子力学で, 外村さんらによるアハラノフ-ボーム効果の実験的検証, ゲージ理論の物理的意義とも関わる重要な議論だと思っています.
ここで空間領域の位相 (topology) 的な問題が波動関数の位相 (phase) にはねることが知られています. いまだに全くわかっていないのですが, 調べるとベリー位相が関係あるようです.
波動関数で状態を議論していると位相 (phase) の影響は見えやすいと思いますが, 密度行列に議論をうつすと位相の影響が見えなくなります. これも改めて調べたら量子計算と幾何的位相 (phase) のようなテーマの論文があり, 何かしら議論はあるようですが, 前提が全く共有できていないせいで何をどう論じているのか全くわかっていません. 堀田量子本を読もう・読みたいと思った理由も, この辺の問題にも何かしら回答が与えられているからではないかという期待があったからです. 堀田量子本の勉強会はあくまでこの本をきちんと読むという前提で考えていますが, 私の知りたいことを知るにはまだ道は長いようです.
ちなみに幾何的位相などの文献ではごく簡単な微分幾何の話はよく出てきます. ゴリゴリの関数解析系・量子系の数理の私がなぜ幾何を勉強しようと思っているかといえば, まさにこの辺の話題に興味があるからでもあります. 新井先生の『量子現象の数理』でも, アハラノフ-ボーム効果は平面に制限して関数論を使って議論しています. 私が知る限り田村英男さんのアハラノフ-ボーム効果に関わる散乱理論も, 平面上で関数論を駆使して議論しています. リーマン面がどこまで絡むかはともかく, 関数論はやはり便利な道具なのできちんと追い切りたいモチベーションがここにあります.
もっと言えば空間三次元でのアハラノフ-ボーム効果の数学的研究がどこまであるのか, そもそもあるのかどうかがずっと気になっています. 学生時代, 本道ではなかったとはいえ新井先生の本で勉強したので一時期追いかけていました. 三次元だと関数論が使えなくなっておそらく一気に難しくなるのでしょう. こんな感じで, 学部三年のときの宿題に延々向き合っています.
それはそうと, アハラノフ-ボーム効果に対するよい文献をご存知の方, ぜひ教えてください. 数学・数理物理ではなくふつうの物理の文献でも構いません. これから堀田量子の勉強のためにも大事だと思っています.
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