https://phasetr.com/archive/fc/misc/mm-mathphys/
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引き続き量子力学を再勉強しています. 私が Twitter で「訳が分からん」と呪詛を吐いているのをご覧になっている方はご存知かもしれませんが, 昔気になっていて放置したままだった問題も調べたり再考していて, 少しずつ頭の整理も進んでいます.
その中で谷村省吾さんの PDF が面白く参考になったので, こちらでも共有しておきます.
堀田量子では量子情報系の文脈から, 「有限次元量子系では全てのエルミート行列に対応する物理量が存在する」と書かれていますが, この PDF では場の量子論で全ての自己共役作用素に対応する物理量があるわけではないことを具体例と共に書いてくれています. こういうの, 一行でさっとコメントがあるだけで全く違うのですが, それがないのが堀田量子に対するいらつきでもあります.
あと, これらの PDF にも少し記載がある話として, DHR-DR のセクター理論は学生時代に眺めるだけ眺めて何もわかりませんでした. 物理も数学も何もわからず, 少なくとも数学は今見てもわからないと思いますが, ここで言いたかった物理的な気分を別の視点から説明してくれていたのも好印象です.
DHR-DR 理論を非常に大雑把に説明しておきましょう. フェルミオンの生成消滅作用素は空間的な領域間で反交換関係をみたしますが, 相対性理論と同時測定からすると反交換関係は異様です. 気分的にいうと, フェルミオン場のハミルトニアンが典型的なように, フェルミオンの生成消滅作用素は必ずペアで出てきて, このペアで見れば空間的な領域間で可換な作用素になります. つまり実際の理論の中で使うときには物理的に意味のある交換関係として出てきます.
細かいところを無視すると, 理論として設定した代数的な関係の中にどれだけ物理があるか, 特に (反) 交換関係の中にある情報から, 適切な物理がどれだけ引き出せるかという視点が出てきます. 特に前回・前々回と議論した, 適当なゲージ群による対称性で統率できないかという視点が出ます. これを議論するのが DHR-DR のセクター理論です.
私が勉強した時点では DHR-DR 自体は質量を持つ粒子しか対象にできておらず, その点で欠点はあれど一つの到達点ではありました. カバー範囲は QED だという話でしたが, BF (Buchholz-Fredenhagen) 理論では質量がない粒子もカバーしているようです. (難しくて全く読めなかった.)
これが谷村さんの (ふつうの?) 物理の視点では気に入らないという話, どう克服するかの一案も書いてあって面白いです. これがまわり回って堀田量子や有限次元線型空間しか出てこない量子情報的な記述の不備にもつながるようで, 学生の頃の問題意識に再び回収されてとても気分がいいです. 改めて量子力学・場の量子論・統計力学あたりを勉強し直したくなってきて, 物理へのモチベーションがあがっています. あとは改めて熱力学も勉強したいです.
あとアハロノフ-ボーム効果も改めて気になっています. 位相 (phase) が持つ情報がどういうメカニズムで観測にかかってくるのかがいまだに全くわかっていません. 堀田量子では「それらは多数回の観測結果の統計的効果として出てくる」, 「ワンショットの実験結果としてかからないので議論しない」と書かれていたはずで, 非常に気になっています.
アハロノフ-ボーム効果は自己共役性証明などの基礎知識涵養のため, 新井先生の『量子現象の数理』を勉強する中で第三章で出会い, 学部三年の講義でよくわからない内に終わった議論をもっと詰めたいと思いつつ, 場の理論・量子統計方面に進んだためやはり放置したままに終わったテーマです. これも以前, 谷村省吾さんが数理科学で「非単連結領域上の量子力学」として数理科学で記事を書いていて, 最近の幾何と物理・量子論のつながりでいろいろあるようでとても気になっています. もう少し基本的な勉強が済んだらいっそ谷村さんに問い合わせようかと思っているほど気になっています.
ここまで来るといろいろやりたいことも増えてきます. 改めて統計力学・量子統計もやりたいですね. 田崎さんの英語の本もあって, 結局査読になったときにほとんど読めませんでした. 修論では田崎さんのレビューを読んでハバードまわりの議論をしたこともあり, 広く言えば守備範囲ですがまだまだ基本的な認識が足りていません. 特にスピン系の基礎教養がないのでみっちり修行したいです. 田崎さんの熱力学と統計力学も改めて勉強したいです. 他のタスクにおされてなかなか進まないので, こういうのは勉強会で無理やり他人を巻き込んでやるのがいいのでしょう.
あと, どなたか幾何学的位相のいい本ご存知ではないでしょうか. アハラノフ-ボーム効果を調べていると, 現代的にはベリー位相などの話題に吸収され, 特に幾何学的位相や幾何学的量子力学といった話題に回収されるようです. ここ数年, 幾何を一所懸命勉強してきたわけですが, それがいい感じに量子系の数理につながってきたようですし, これも勉強の機運が高まってきています. もちろん英語でも構わないので, 何かいい本をご存知の方がいらっしゃたらぜひ教えてください.
量子力学の勉強会でも, もっと基本的なところからやりたいという話も出ているので, コンテンツ整備も兼ねてもっと基本的なところから議論するのも大事かと思っています. ここでいう「基本的」は, 上で書いた, どちらかといえば fundamental な話よりも, (素粒子ではない) elementary の意味です. 文系出身だが物理・数学をもっと勉強したいという方もいらっしゃるようなので. プログラミング利用, プログラミングで計算し倒すといった部分も合わせて改めて企画を考えています. プログラミングに関しては微分積分や簡単な常微分方程式・偏微分方程式を解くコンテンツも整備しているので, そちらで何かする手もあり, いい塩梅を検討しています.
量子力学の再勉強をしていて, 改めて量子系の数理がとにかく気に入っているのを再認識しました. よくも悪くも, いまの私の興味関心は学部で触れる物理を数学的にゴリゴリに詰め切る部分に触れ切っています. 例えば上で議論していない物質の安定性は, 電磁波の物理と原子の安定性にとって fundamental な問題で, まさに学部三年で把握できる問題ですが, 数理物理的にはいまだ最先端で, しかも事実上数理物理の人達しか議論していない問題です. 量子力学の基本的な部分の再勉強はこうした点の理解にも直結しますし, いい機会だからと積極的に再学習に励んでいます. とても楽しい. あなたもぜひ一緒にやっていきましょう. 引き続きいろいろな情報を出していきます.
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