2021-08-28 『ランダム行列の数理』が気になってきた方の市民/相転移プロダクション

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次のようなコメントが来ました.

無責任に書きますが、知識そのものもさることながら、本を読んでいるときの感覚(堀田量子本に対する感想のようなもの)を放談風に書いてくださると非常にありがたいです。結局ちゃんとやるには自分で読み込まなければならないのですが、そもそも「これ」は超難しいのか、コツさえつかめばやさしいのかという感覚がわからないので。

これはいろいろな意味でただでやれるレベルの内容ではないので, やってほしいと言われても困るのですが, 何かしらこれまでとは違うこと, または違う切り口でのコンテンツ・サービスを展開した方がいいのだろうなとは思っています.

考えていることはいろいろありますが, 「お金かかるならいいや」という人も多いようなので厳しいですね. そこまでの信頼が得られていないのでしょう. 不徳の致すところです.

凸関数に対する議論と簡単な計算とプログラミング

Twitter を見ていてちょっと気になることがあり, 凸関数に関するミニノートを作りました.

この中で非凸性の証明が面倒だったので (Julia で) 数値計算した結果とそのグラフを張ることで証明とした部分があります.

さっとプログラムを書いてお絵描きできると便利なのを改めて感じました. 統計の勉強会でも散々数学的・定性的に議論したことでも, 改めてプログラミングでお絵描きしてみるとまた違う感慨があって面白いというのを何人かで確認しました. Julia の勉強も兼ねてやはりこれもコンテンツ整備したいとは思っています.

プログラミングで数学を 中高数学虎の穴

量子力学の勉強会で「ちょっとレベル感が違う (難しすぎる)」からと言っていた方に, それならこれはどうか, と既存のプログラミングコンテンツを勧めてみたのですが, 楽しんでもらえているようです.

いま経路積分が楽しすぎて完全に停止していますが, リー環の勉強でプログラムを書いて行列計算させるのが非常に便利で, しかも楽しいです. ふつうの行列論・線型代数もさることながら, リー群・リー環のような具体的で役に立つ少しアドバンストなテーマについても, こういうノウハウを貯めています.

メルマガ送信前のたった今, 次のコメントが来たので返信しておきます.

グラフを活用して視覚的な理解を得ていますが、四変数以上の場合などで図示できない数式をどう直観的に把握すればよいだろうかと思いました。その点、プログラムを書いて理解するという学習法は視覚的側面もありつつ図示の限界がないのでよいかもしれないとも感じました。

まず結論から言えばそれはそうです. むしろ現代数学に関わる他の講座では「視覚に騙されることもあるので, 下手な図を描くのは勧められない」とまで言っています. あとでも考える量子力学からすると, そもそも「見る」ことの意味さえ自明ではなく, 視覚的な理解の定義からして問題です.

これは現代的な統計学・機械学習でも問題と言えば問題です. 数十から数百パラメーターがあり, 本当にグラフの書きようがありません. 一方で実用と直結するので広い意味での回避法も発展しているので, それを見て実践してみるのも一手です.

期待するコメントではないのは前提として, 例えば統計学では点の色・形・大きさに意味を持たせることで, 平面上のグラフで 3 どころか 4 以上の次元の情報を盛り込むことはできます. もちろん統計学などで実際に使われてもいます.

他には二次元の射影を大量に作る手法も統計学ではよく出てきます. これも全体像を一目で掴むのははじめから無理ですが, 無理と言って諦められる対象ばかりではないので, 統計学の実践の中で使い倒されてきた手法です. むしろこれこそコンピューターのおかげで簡単に大量に作れるようになった分野でもあり, ちょっとやった程度で簡単に諦めてもらっては困ります.

それ専用の数学的・物理的直観を育てるという (最終) 手段もあります. 私の場合, 主戦場は無限次元の線型空間です. 高次元の極致のような存在です. 目で見える対象ではありませんが, ギチギチにこれらを勉強した人間にしかない, 何かしらの直観を私は持っています.

いま話題のメンタリスト DaiGo も, 彼は彼なりに目に見えない他人の精神を見て制御する術を持ってはいるはずで, 目に見えない対象とのバトルは数学や物理に限ったことでもありません. 最後は勉強量・修行量と慣れであって小手先の話ではありません.

この辺, どうも大人であっても通じない人がいるようなのですが, 何でも同じです. 例えばファッションやデザインなどは私は何もわからないのですが, 明らかに私に見えていないモノが見えている人がいます. 具体的に何と言うこともできませんが, その人達がやること・作るモノは確かに明らかに違う・良いと感じることがよくあります. 逆に言えば数学・物理もその程度の話です. 目に見えることだけでどうにかなるはずがありません.

それでも見えるところは見る, 見えるようにできるところは見えるようにする, そうした努力の一つがプログラミング利用のコンテンツのポイントなので, 用法・容量を守って適切に使ってください. 銀の弾丸など存在しません.

竹崎正道先生の米寿記念研究会

知らない間にはじまって終わっていました.

80 歳のときは実際に東大に行って参加してきたのですが, 今年はさすがにオンラインだったようです.

80 歳記念の勉強会では「娘もなくなってしまったが, 学問上の知人・友人, 息子・孫がこんなにたくさんできて, こんなに嬉しいことはない」みたいなことを言っていたと思います. 竹崎先生のスライドは少なくとも当人とそのコメントを知っているとなかなか感動的です. 竹崎先生関係の話もいくつかサイトに載せています.

特に『数学まなびはじめ』の竹崎先生の記事が本当によいので, ぜひ買って読んでください.

超局所層理論

池祐一さんが PDF を公開しています.

超局所層理論はともかく, 層についてはリーマン面などでも重要です. 証明は意図的に省いているところも多いそうですが, かえって概要を掴むのには便利なのではないでしょうか. 私もまだきちんと読めていませんが, そのうち読んでみる予定です.

木村太郎さんの『ランダム行列の数理』

まだまだ私の中で量子力学祭りはフィーバー中です. ついでに経路積分も再勉強しようと思い, 関係する数学もやっています. 以前から気になっていた中村徹著『超準解析と物理学』も読もうと思っています.

量子測定で有名な小澤正直さんは超準解析も使っていて, そちらを勉強するときにも役に立つだろうという見込もあります. 買ってパラパラと眺めはじめています. ここで竹内外史本に格子ゲージ理論の超準解析は面白いのではないかというコメントがありました. それを見て俄然格子ゲージ理論に興味が出てきました.

現状全く知らないのですが, $\phi^4$ とイジングよろしく (有限) 格子上でがんばっていろいろやって, 場の理論の議論をするタイプの分野だと思っています. 有限格子ならゴリゴリの線型代数の話で, 最近機械学習の物理への応用などでも有名な, 橋本幸士さんや富谷さんあたりの話なのだろうとか適当に思っています.

P.10 に次の記述があります.

数理的フレームワークとしての超弦理論の有用性

等価だが別の物理系に問題を移し替えて(幾何学的に)解く 問題:強相関系、多自由度系、ソリトンなど

等価な系に問題をうつすのは量子情報も重視した堀田量子でも重要な視点ですし, 幾何も絡んでくるのは先日から主張しているアハロノフ-ボームにも通じる視点で, 広い意味でずっと気になっている視点でもあります.

上記橋本さんの文献にあるように, 物性の視点から超弦理論や格子ゲージやら何やらを見ているのが木村太郎さんで, 『ランダム行列の数理』がまさにこれか? と思っています. しばらく別件にかかりきりで読むのをさぼっていたのですが, ここ数日読み直しはじめています.

ここにメモを残しながら雑に一周しているところで, 興味があれば適当に眺めてみてください.

現時点での簡単な書評もメモ・シェアしておきましょう.

私の物理はほぼ学部レベル, または数理物理でしか議論されていない物質の安定性などのピーキーなテーマの固め打ちなので, なかなかこの本の物理的射程を捉え切れていないのですが, 物理の学部 1-2 年生が適切な指導者のもとで読むと数学・物理に対する大きな視野が得られてかなり楽しいのではないでしょうか. 少なくとも表に出ている計算はほぼ純粋な線型代数と微分積分の計算で, 難しい数学が出ているわけではありません. 特に行列式の計算が大事で, 線型代数の抽象論どころか具体的な計算をがんばっているいろいろ見えてくるという面白い話がたくさん書いてある印象です.

問題はここで議論している内容を物理・数学ともに射程範囲におさめている人がどこにいるか, どれだけいるかでしょう. 私が数学的な展開ならまだ多少見えますが, 物理にまで踏み込める素養がありません. 物性まわりにしても極端に守備範囲が狭いのでなかなか大変です.

有名な小林-大島の『リー群と表現論』でも, 「この本にはいろいろな分野の数学の記述があるが, それに臆さず読んでほしい. そうした予備知識が必要だと言いたいのではなく, 広く深く多彩な数学との関係があることが表現論の魅力だからだ」と書いてあります. まさにそういうタイプの本なので, 細かいところを気にせず読めるところだけ読んで, 気になるところは個別に突っ込んでみたり, 誰かに聞いてみるのがいいかもしれません.

この本については書くことはたくさんあり, 上記の書評メモページにもいろいろ書いていますし書いていきますが, 特殊関数論にも従来の偏微分方程式の具体的解法以外の光を当てているようです. 新しい物理数学の本としても楽しめるはずなので, ちょっと高いですがぜひ買って読んでみるといいでしょう.

堀田量子に関して適当に放談してほしいというコメントを紹介しましたが, これに関して木村太郎さんと適当に話したりしても楽しいのかもしれません. 本当にやるかどうかはともかく, 実際に話したときに面白い話が引き出せる程度にちゃんと勉強して理解するのが今の目標の一つです.