2021-09-11 幾何との連繋・経路積分の技術的面白ポイント/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

いま細かい内容は web に飛ばして, 興味があるところだけ読めるようにしているため, 個々の読者の方にはあまり関係ないとは思うのですが, 数物系と語学と二つわけるのが面倒になってきたので, 今後はメルマガで発信する口自体はわけつつ, web 上でのメルマガページは統合するかもしれません.

読みやすさと私の書きやすさ・管理のしやすさを考えつつ, web 上での載せ方はちょっと検討する予定です.

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幾何との連繋

プログラミング講座に参加されている方から「幾何をもっときちんと見てみたい」というコメントを頂いたのですが, 何をどうするといいかというのがいまだにあまりよく見えていません. 正確に言うと, 自分が制御できる範囲は日々拡充させていて, 見せたい切り口もあるのですが, まだ面白く語るに足る力量が備わっていない状態です. 興味がある人はいると思うのでプランというか概要は紹介しておきます.

現代数学探険隊では微分論の最後, 陰関数定理と逆写像定理の議論の中で円周から多様体への議論を詳しく議論しました. 多様体自体は高校数学からも直接攻められる世界ではありますが, 抽象化した瞬間に即死レベルのコンボを叩き込んでくる曲者です.

よくある曲線論・曲面論はいまだにどう導入すると面白くなるのか見えていません. 極小曲面論や変分と絡めた議論すればまた違うと思うのですが, そうなると関連する数学が難しくなってきますし, どうすると面白いでしょうか. 曲線論は常微分方程式と絡めると多彩な世界が描けるとは思うのですが, なかなか気に入る導入が見えていません.

ここまで書いて思い出したのですが, 以前献本してもらった井ノ口『曲面と可積分系』はかなり面白い本です.

中高数学から飛んでいくにはあまりに厳しい本ですが, 一つお勧めではあります.

それはそれとして微分積分の徒手空拳から幾何に行くアプローチ, 何かいいのを見つけたいとは前から思っているものの, 幾何への素養がいまだに育っていないため, 微分位相幾何や微分幾何のかなりハードなところしか思いつけていません.

あともう一つ気になっているのは最近の物理・機械工学・制御などへの幾何の応用です. 例えばロボットで関節などの位置・座標を制御パラメーターとすると, 腕の長さなどの座標の制約があり, 数学的には部分多様体の議論が自然に出てきます. 姿勢の安定性の判定の条件は関数の極値問題ですが, もちろん幾何的な解釈があり, そこからの幾何との関係もいろいろあると聞いています. 他にも猫の宙返りの微分幾何は有名な話で, それもそれほど簡単ではありません.

微分積分を一所懸命がんばった最果てで幾何が出てくる世界はとても気になっていて, もっときちんと勉強しようと思って, 基礎の勉強を進めるばかりで何も手についていません. これも勉強会形式で無理やり人を巻き込むのがいいのだろうとは思っています.

以前メルマガとしても切り分けた語学の話も, 勉強会で人を巻き込むようにするといろいろと捗ることがわかったので, やはり人を巻き込んで何かするのが勉強を進める近道だと最近痛感しています. 語学方面の知見を深めるために眺めたラテン語の本でも, 「ラテン語を勉強する一番簡単な方法は教えることだ」という話が紹介されていて, 「学習歴は関係ない. 教え, そして学び続ける意志とそれを実行にうつす力が大事だ」と書かれていました.

数学・物理だとかえっていい加減なことができなくなるのもわかっているので, 少し目先を変えて数学・科学関係の英語の記事を眺めることで英語・語学と科学を一緒に勉強しよう, みたいな企画を回しています. 変な話ですが, これは素人なりにいろいろ遊んで楽しいという姿勢を前に打ち出す形で楽しめています. 語学と数学・科学を絡めた方向から攻めるのも一手だと思っているので, まずはそちらでいろいろ遊ぶ算段を立てています.

木村太郎さんからのコメント: 素粒子と物性と幾何と解析と

この間メルマガで書いたことに関して, 文献をいくつか教えてもらったので紹介します.

カイラル対称性というのは詳細は省きますが,ディラック演算子の指数定理と深い関係にあります.それを格子上でどう定めるか,という問題は数学的にも面白くて,最近は古田先生なども興味を持たれている様です:

あとは関根さんの後輩たちもこういった論文を書いてます:

という感じで,素粒子論の業界的には,格子ゲージ理論 $\sim$ 数値シミュレーション,という研究が多いと思いますが,個人的には物理・数理的にも面白いトピックだと思います.日本語でも青木慎也, 格子上の場の理論という教科書があります.

双対性といってもいろいろあるのであれなのですが,橋本さんの想定していることの一つに,例えば全く別の文脈で同じ方程式が出る,というのがあると思われます.これを体現したものとしてKoji Hashimoto, Taro Kimura, 2015, Band spectrum is D-brane こういう論文があります.

あと格子QCD・ゲージ理論に関連して関連する文献もいくつか教えて頂きました.

Peierls (1933) Zur Theorie des Diamagnetismus von Leitungselektronenも参考になるようです. 格子ゲージ理論に対して作用素環と指数定理などの関係もいろいろあるようで, そんなところまでと思ってかなり驚いています.

現代数学探険隊 解析学編 PDF 販売のページにも指数定理の話を書いています. なぜ指数定理を盛り込んだかというと, ここにもあるように幾何と解析と (一部の) 物理との架け橋になっているからです.

大定理にもいくつかの種類があります.

指数定理はいろいろな定理を統合する定理であり, しかも結果それ自体がさらなる理論の基礎にもなるタイプの定理です. 作用素環の応用の一つである非可換幾何でも, 指数定理の展開が一つのポイントなようで, 夏目-森吉の有名な本にもコメントがあります. 私自身ますます幾何や指数定理への勉強意欲が湧いてきました.

前から数学関係者向け, または学部低学年からなるべく面白く多彩な物理に触れられるようなコンテンツ作りは目標で, その一つに線型代数だけで戦える格子模型がずっと想定にあります. 私自身修論で議論したハバード模型は, 線型代数の徒手空拳でいろいろなことがわかる教育的なモデルでもあると思っています. 修士の頃にも読んだ田崎さんのレビューが一つの方向性です. 最近スピン系まで含めた本も書かれたようなので, それもチェックしないと, と思いつつ読めていません.

数学的に少ない予備知識から物理に迫るラインナップとして, 格子ゲージ理論もいいのではないかという霊感があります. 何だかんだで量子力学に興味がある人は多く, 物理的な予備知識をおさえて量子力学に触れられることに越したことはないので. そんなに簡単ではないと思いますが, 数学としても物理としても, プログラミングとしても数値計算で遊ぶ方向は一つの核と捉えていて, 数値計算の蓄積がある分野としても注目しています.

基本的な線型代数・微分積分からの広い数学への展開として, ランダム行列もかなり使えそうなので, 引き続き時間を作ってランダム行列の本も詳しく読み進めていくつもりです.

経路積分の技術的な面白ポイント

いま物性の基礎の本を適当に眺めているのですが, 経路積分・汎関数積分を主軸に据えた本らしく, そこでも強調されていた話があります. 現状, 物理の経路積分に対してコメントできることはないものの, 雑に読んでいるので本に書いていなかったような気がする分まで含め, 最近確率論と絡めて勉強していると言っている経路積分に関して数学面からいくつかコメントします. 以下面倒なので経路積分を汎関数積分で通します.

汎関数積分のいいところは作用素 (演算子) を関数で評価できるところにあります. 特にハミルトニアンという「作用素」積分で書けるのが強烈です. 積分に関しては近似含めていろいろな評価技巧があるため, それが転用できるのがポイントです.

作用素は何が難しいかというと, 作用素はまさに作用で, その前後の結果しかわからず細かいことが何も見えません. 一方で積分作用素として積分で書けると, 各点ごとの細かい様子が見えるようになります. つまり作用素を作用素として見るとブラックボックスになっている部分が見えるご利益があります.

もう一つ大事なのは自由場のハミルトニアンがガウシアンと直結することです. 特に $e^{-x^2}$ の評価がポイントです. 強い収束性を持つ因子なので収束性の議論もしやすくなり, それがありとあらゆる良い評価法の基礎です. 鞍点法のような古典的な良く知られた評価も使えてとにかく便利です.

微分と積分についても簡単にコメントしましょう. まず数学から見た微分方程式論では一項一項の処理がとにかく大変です. ある項があるかないかで方程式の性質が激変します. 物理ではよく「いま考えている議論ではこの項は落とせる」というのがありますが, 数学でそれをやると方程式の性質が激変して, 使える手法が使えなくなることがあります. もちろんある手法が使えないことと方程式論としての難易度が直結するわけではありませんが, 解の定性的な振る舞いが変わるので数学的な細かい処理に影響が出てくる可能性は常にあります.

微分が面倒なのは差の処理の面倒さに由来します. 微分係数の定義はもちろん $\lim_{h \to 0} \frac{f(x+h) - f(x)}{h}$ ですが, 引き算の処理は面倒なのです. これは積分と比較した方がわかると思うので積分の話をしましょう.

積分は足し算の極限なのでとにかく足します. そしてある程度実数論などを勉強した方にはわかるように, 不等式処理をするときは三角不等式なり何なりで正・非負の数を足し上げる形に帰着させます. 正・非負の数を足したら値が正の方向に積み上がるだけなのでごくごく単純です. 微分の場合は差で正負が入り乱れるため, こういう単純な処理ができません. 変分法が便利なのもこの事情によります. この点でもとにかく積分に帰着させたいのです.

またできる限り全体の様子を使い倒したいのは統計学でも同じです. いわゆる最尤法は原理的に尤度関数の極値の情報しか拾えません. 一方, 昔のベイズ主義がどうかはともかく, 最近流行りのベイズ統計は尤度関数の情報をもっときちんと拾うのがポイントです. 今流行りの内容に関するベイズ統計がかつて難しかった理由の一つは, 関数全体の情報を拾うのが難しかったからで, 高次元積分の数値処理が難しかったからです. 最近はコンピューティングパワーが格段に上がったので計算機で高次元積分をぶん回せるようになり, 積分絡みの計算がやりやすくなった事情もあります.

計算機というかプログラミング関係の話を地道に勉強してコンテンツを作っているのも, やはりこの流れ, または勉強の結果によります. 数学・物理だけやっていたときよりもも別角度から数学の難しさが見えてきて, これはこれで面白い点があるからです. この意味で, 応用などは一切関係なく数学として統計学に触れてみるのも一興です. 数値計算・プログラミングも絡めて勉強できる・する価値のある分野で, 関数列の収束を数値的に追い可視化する手法さえ発達しているので, ふつうに解析学の教材としても使えます. この辺は統計学の勉強会をやって実感できた知見です. 統計学で育っている手法とそこから見える世界は, メルマガ読者のあなたにもぜひ体感してほしい世界です.

やりたいこと・紹介したいことは毎度毎度山程あります.