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2017

2017-12-31 中高数学の通信講座作ります/相転移プロダクション

時間ぎりぎりで 2018 年に 食い込んでしまうかもしれません.

今年は仕事はプロジェクトで炎上し, プライベートは現代数学探険隊で手一杯で, あまり何もできなかったという感覚があります.

かといって現代数学探険隊で 経験を積んできたわけで, 残ったものもきちんとあります.

今年やり残したことが そのまま来年の目標です. 具体的にはやろうやろうと言って 全くできていなかった,

中高数学向けの 有料の通信講座を本格的に展開します.

どうして有料にこだわるかは あとできちんと説明するとして, まずは現代数学探険隊の反省に立ち, 最初は無料のモニターを募集して 小さくはじめます.

ぜひ次のフォームから 登録しておいてください.

  • https://m.phasetr.com/p/r/DoXk594g

不定期になると思いますが, どんなに長くとも 1 週間に 一度はコンテンツを流していきます.

さて, 今年の反省と それを受けた来年の目標を 宣言しようと思います.

正確には今年というか去年からの 内容ですが, 2 年かけて次くらいのことをやってきました.

  • 作った無料ミニ講座の登録者数: 2 つ合わせて 1026.
  • 有料の通信講座の登録者数: 現在 15 名, 退会者含めるとここまでの参加者 25 名.
  • 作ったコンテンツ
    • 有料の通信講座: A5 で 1995 ページ分.
    • 無料のミニ講座: 作りかけ含めて 7 本, A5 で 722 ページ分.
    • Kindle: 4 冊 (ミニ講座のマルチユースで作成).

他にもメルマガ書いたり, チャットワークで試験的に コミュニティの運営をはじめたり, こまごまとしたことは他にもあります.

この 2 年で私が一番 進んだと思っていること, そして価値があったと思っていることは,

有料サービスを本格的に 展開しはじめられたこと, そして 1 年半近くで 15 名と なかなか寂しい状況ではあるものの, ゴリゴリの現代数学の通信講座という 極北の市場でも需要はあると具体的に示したことです.

これをはじめたおかげで, 逆に他の活動に回す時間も限られてきたので それは良し悪しですが, 強制的にコンテンツと実績を積み増せるという意味では 非常に強力な環境ができました. どマニアックな方向に関して, 確実に 1 つ, 人にも言える成果が出せたと思っています.

数学でやれるのだから, 他の人がいくらマイナーな分野でやっていても, これ以上の数字は必ず出せる基準が作れたはずだと.

私があえて有料の講座も作った理由は, 他の専門家にも同じようなことを やってほしいからです. 何より私が参加したいからです.

そのためには屍の山を 積み上げなければならず, それをやろうと決意しました.

もう 1 つは, 現代数学探険隊をはじめて思ったことで, お金が絡むと責任が発生するということです.

お金をもらっているから, さぼるわけにもいかないし, やめるわけにもいかないのです.

当たり前ですが, これは強制力がはたらきます. これのおかげであれだけの コンテンツを作れたわけで.

もちろん広告を打ってみたり, 他の実験や活動資金にもなりますし, お金があってはじめてできることも あるので, お金の重要性を 改めて感じています.

多分実験系の方だと, 試薬買ったり装置買ったりで, 嫌でもそういうシビアさが 身についているのだろうとは 思いますし,

金銭面の理由で博士進学を 断念したのだから, 私自身わかっていたであろうに, まだまだ何も見えていないのか, と反省しきりです.

逆にできなかったことは, 今までの殻を破り切れなかったことです. どうしてもマニアックな方, マニアックな方に行ってしまいます.

ターゲットを広げる方向が弱く, 当初の目標であった, 実際にもっと広い層に届けるという部分が 甘かったのが反省点です.

そして来年の目標はまさにここです. 今度こそ本格的に中高数学くらいの 広い層を狙った有料通信講座を立ち上げ, それだけでも食べられる程度に収益化することです.

あえて人数出しましたが, どマニアックな層狙いでも 15 人いるのだから, どう考えても有料講座にしても 10 倍は人いれられるだろう, それができなければどこかしらおかしい, そのくらいの感覚でいます.

いま実際にリンクをクリックしてくれて, 配信したコンテンツを見てくれる人, という意味で熱心に参加してくれている人は, どうやら 100 名程度のようです. まずはこれを 10 倍に増やしたいですね.

これができれば, それが私の声が届く人が増えるから.

やはり鍵は習慣化というか, 生活に組み込むことだと思っていて, それを具体的にはじめました.

これまで通勤時の時間や隙間時間を使って, 有料の講座を作っていたのですが, その時間を一部切り出して回すことにします. やはり日々ちょこちょこ作っていくのが強いことを この 1 年半で実感したので, その小さなステップを刻み続けます.

どこまでの需要があるかはわかりませんが, 自分で物販ビジネスをしている知人から, 大久保さんから数学マーケティングの勉強のために 数学がやってみたい, という相談も受けています.

そういう層もどう取り込むか, どうすれば取り込めるか, そのために何をどう見せていくかが課題です.

あとまた少し違う視点から耳目を集めるという点で, ちょっとした YouTuber 的なことをやってみようと 思っています.

これは社会の動き, 特に実際に市民の人目をひくという 芸能関係のネタをしっかり調べ, 勉強して,

そこから数学と物理に どう繋げるかという 動画をひたすらに作っていこうと思います.

数学ネタというよりも, 社会の動きを知ること, そこにどう数学・物理を当てこんでいくか, そして 1 数学徒として 私がそれらの情報を受け取っているかを 緩く発信していく形を考えています.

こちらはいわゆる数学の話はしません. あくまで一般層に向けて, 一般層による再生数を重視し, 見てもらえるものを作るのに こだわろうと思っています.

他にも語ろうと思えばまだありますが, いったんこのくらいにしておきます.

現代数学・物理系の話は あと 1 年くらい現代数学探険隊と, チャットワーク上での日々のやりとりに 限定されるでしょう.

それ以外に力づくで動かす話として, 中高数学の通信講座もやっていきます.

まずは無料のモニター募集中です. ぜひ次のフォームから 登録しておいてください.

  • https://m.phasetr.com/p/r/DoXk594g

ではまたメールします. よいお年を.

2017-12-30 数学×コンピュータの実験数学/相転移プロダクション

来年具体化したい動きと 多少は関係があるネタを紹介しておきます.

日本数学検定協会賞というのがあって, それを受賞した女子中学生の 業績がちょっと話題になったので.

  • https://twitter.com/groebner_basis/status/946207234303737858

RT 日本数学検定協会賞を受賞した女子中学生の受賞作品「フィボナッチ数列は2進数でも美しいのか」Python3 でプログラム書いて実験しててすごいぶな。 http://www.rimse.or.jp/research/pdf/5th/work10.pdf 自由研究っていうと物理や化学を連想しやすいぶなけど、数学×コンピュータの実験数学的なものもすごく面白いぶなよね。

やりたいと思いつつ, ミニ講座を 1 つは作りつつ, なかなかきちんとできていないので, ネタがあったら紹介するくらいはしようということで, 今回紹介しました.

プログラミングも絡めて, 物理や大学レベルも含めた理工系ネタと 中高数学の接続, というテーマで 作ったミニ講座があります.

  • https://phasetr.com/mrlp1/

他にも代数幾何で世界的に著名な 飯高茂先生が最近出している次のシリーズもあります.

  • https://www.amazon.co.jp/dp/4768704549
  • https://www.amazon.co.jp/dp/4768704581
  • https://www.amazon.co.jp/dp/4768704654
  • https://www.amazon.co.jp/dp/4768704794

基本的には数論で遊んでみよう, という話ですね. 第 1 巻しか読めていませんが, プログラムとまで明言はしていないし, ソースコードがあるわけではないものの, パソコン利用についてははっきりと書かれています.

プログラムと数論と言えば素数夜曲もあります.

  • https://www.amazon.co.jp/dp/4486019245

あとプログラミング+物理なら, 例えば次のような本もあります.

  • https://www.amazon.co.jp/dp/487783303X
  • https://www.amazon.co.jp/dp/4877833129

他にネット上の記事もいろいろありますし, 私が以前書いたコードもいくつかあります.

  • https://github.com/phasetr/mathcodes
  • https://github.com/phasetr/pymathphys

プログラムはメンテナンスが大変で, 何よりもっときちんと勉強が必要なので, まだ私の活動として本格展開はできませんが, 遊び道具として使ってみたいとは思っています.

もしあなたが興味あるなら, これらの本を眺めてみるなり, プログラム書いて遊んでみるなりしてみてください.

私の趣味ぶっ放しでよければ, 他にもいろいろな本やコンテンツを 紹介するだけはできます.

ではまたメールします.

2017-12-29 自然数と有理数の間の全単射/相転移プロダクション

私が展開している無料の通信講座, 現代数学観光ツアーに, 久し振りに明示的に高校生の参加者が現われました.

彼女または彼から第 1 回の内容に関して 質問を頂いたので回答をつけてみました. アンケートに回答を出してくれたタイミングから 遅れてしまいましたがないよりはましだと思ってもらえれば.

  • http://phasetr.com/members/myfiles/file/2017-12-29-230455.tmp.pdf

これでわかるのかどうか, 全くもって自信はないのですが, とりあえず 1 つ手を打ってみました.

議論用にチャットワークでのコミュニティも作っていますし, そちらの方が機動性と相互作用がよく コミュニケーションできるので, ぜひそちらにも来てください.

メールのフッタにも案内あるはずですが, 本文にも載せておきましょう.

  • 数学・物理マニアックス: https://chatwork.com/g/dhn4ku2tschdsa
  • 数学・物理駆け込み寺: https://chatwork.com/g/tb4y95olggbfmx

念のため書いておくと, アカウント名は本名である必要はありません.

質問も 3 つくらいは回答せずに溜まっています. いつかはきちんと回答したいと思いつつ, 時間が全く取れていません. すみません.

とりあえずそれはそれとして, 今年の総括というか来年の目標というか, 年内にその辺に関するメールをもう 1 つ出す予定です.

来年こそは中高向け数学講座をゆるくはじめます. もうそういうルーティンを生活に組み込ました. これも案内を正式に出すので, もうちょっと待っていてください.

ではまたメールします.

2017-12-18 いろいろな勉強の仕方/相転移プロダクション

現代数学観光ツアー 第 7 回のアンケートで勉強の仕方に 関する質問がありました.

具体的には次のような内容です.

文献が非常に多く紹介されていました. ある本を読むにも自分は数年かかってしまいそうなものばかりのように感じました. 数学がわかる人たちは, これらの文献を小説でも読むようにサクサク読めてしまう怪人なのでしょうか? または, 文献を読むコツみたいなものがあるのでしょうか? (「学問に王道はなし」といいますが, あれば知りたいです) 「数学の本の読み方もまだ全然身についてなくて, ひどい勉強の仕方をしてました・・・・」とありました. (P279 の下段.) 数学の本のよい読み方やよい勉強の方法があるということでしょうか? (脳内セミナーは, よい勉強方法にあたると考えておけばよいでしょうか?) 今までの人生の中で, 本を戦略的に読んだことなどありませんでした. 現在, 49 歳で人生の半分以上を過ぎており, この先できれば効率よく勉強していきたいと考えています. こんなこと聞くな, 自分で考えろと言われそうですが, 教えて頂けたら幸いです.

第 7 回で紹介した文献もありますし, 受験用をメインに私自身が書いた電子書籍などもあります. それは最後に紹介するとして, まずはいろいろな勉強法があるし, 使い分けなければいけないことに関して改めて説明します.

まず目的に応じていろいろな 勉強の仕方がありえます. 数学を勉強するというだけでも, いろいろなスタイルがありえます.

例えば, 学部から大学院にかけて 数学科で数学を勉強するという前提だと, 基本的な知識を身につけ, その運用力を 上げるというフェーズです.

この場合は, 本をはじめから 最後までみっちり読み込む 必要があるでしょう.

一方, 物理学科で数学を勉強するという状況なら, 物理にも力を割かなければいけないわけで, 物理に必要な数学を 要領よくおさえている必要があります.

理論よりもいろいろな計算を やりきるパワーが必要に なるときの方が多いです.

そもそも, 物理の学部 3 年程度で 勉強することになる流体力学では, 基礎方程式であるナビエ・ストークス方程式が, いまだ解の存在と一意性に関する満足な 状況になく, ミレニアム問題と呼ばれる 7 つの有名な未解決問題に リストアップされています.

数学科ベースの数学で言うなら, 最先端の研究レベルでまだなお, まるで足りないわけで, 勉強とかいうレベルではなく研究です.

数学科の数学でいってもいろいろありえます. 先程は学部から大学院で基礎知識を 身につけるフェーズに関して書きました.

研究, それも研究者として生きていくことを 意識すると大きく変わる部分があります.

一言で言えばのんびり勉強している暇はありません. あとで紹介する『数学まなびはじめ』その 2, 岡本清郷さんのところで書かれているように, 論文の主定理を探して自分に必要な結果だけを どんどん取り出していく, といったスタイルの勉強です.

というわけで, 数学を勉強するというだけでも, 状況に応じていろいろなやり方があります.

いつも言っているのですが, 数学や物理に限らず何でも同じで, 銀の弾丸などは存在しないことを 肝に命じる必要があります.

目的に応じて適切な勉強法を 使い分けてください.

実際, 具体的な勉強法については, 各通信講座のラストで, その講座の対象受講者に合わせて いくつか勉強法を提案しわけてもいます.

細かいところに関しては, 以下で紹介する参考文献を眺めてみてください.

数学に限らず, ゴリゴリに 学術的にド専門の勉強をする場合は 『新・数学の学び方』と 『志学数学 -研究の諸段階 発表の工夫』, 『独学のすゝめ 大学受験勉強法 あなたが大学受験で失敗・後悔しないために 私はなぜあなたにいい大学・難関大に入ってほしいのか』 が特に参考になるでしょう.

細く長く勉強を続けていくことが目的なら, 『たかが数学, されど数学』が参考になるはずです.

資格試験のような勉強が必要な場合には 『独学のすゝめ 大学受験勉強法』 が特に使えると思います.

最後, 勉強の仕方に関する本の案内です. 適当にコメントもつけておくので, 興味がある本を眺めてみてください.

  • 『新・数学の学び方』
  • Amazon へのリンク: http://tinyurl.com/poysx3d
  • コメント: 学部 1 年のとき, もとの『数学の学び方』を読んだ. 「こんな風にやるのか」と思って, 素直に実践していった. 今思うと全然書かれている風にできていなかったが, それでも小平スタイルの勉強法に学部 1 年で触れられたのはよかったと思っている. 願わくば中高生のときに知りたかった. そしてそんな気持ちがあったからこそ受験関係のプロジェクトをはじめた.

  • 『数学まなびはじめ』

  • Amazon へのリンク 1: http://tinyurl.com/z3cpsxd Amazon へのリンク 2: http://tinyurl.com/o4oj8rk Amazon へのリンク 3: http://tinyurl.com/jkknlo4
  • コメント: 問答無用で面白いので早く買って読むべき. ブログに何人かの人に関する書評というか感想を書いているので, 興味があればそちらを見てほしい. 特にその 2 の岡本清郷さんの研究者としての勉強法は, 研究ベースの勉強について参考になる.

  • 『志学数学 -研究の諸段階 発表の工夫』

  • Amazon へのリンク: http://tinyurl.com/juubntl
  • コメント: 数学会の会誌で河東先生が「とりあえず買って読むべき」と書いたほどいい本. 数学者の卵への思いやり溢れる穏やかな筆致で話が進んでいく. 一般の人が「数学者はこんなことを考えながらこんなことをしているのか」という感じで読んでいっても十二分に楽しめるだろう.

  • 『たかが数学, されど数学』

  • http://phasetr.com/members/myfiles/file/Univ.Yamagata.Kawamura.takagasuugaku_saredosuugaku04u.pdf
  • コメント: 山形大数学科の数学エッセイコンテストで入賞していた作品. 理学部や数学科の HP 改訂でどこにあるのかわからなくなってしまった. 数学エッセイの過去ページも見当たらない. 人類の損失レベルの素敵な文章なのでどうにかしてほしい. 仕方ないので手元にある分を自分のサーバーにアップした. 著作権的によろしくないのだろうが, 皆に読んでほしいのでこちらで公開している.

  • 『独学のすゝめ 大学受験勉強法 あなたが大学受験で失敗・後悔しないために 私はなぜあなたにいい大学・難関大に入ってほしいのか』

  • Amazon へのリンク: http://tinyurl.com/np3nttq 一時期, 大学受験関係でいろいろやっていたことがあり, そのときに勉強法についていろいろ書いたことをまとめた電子書籍. 書き方として大学受験に特化させただけで, 一般的に使えるように書いたつもり.

2017-12-11 量子論の数理とリーマンのゼータ関数/相転移プロダクション

以前連絡したような気がするのですが, Math Advent Calendar 2017 というのがあります.

  • https://adventar.org/calendars/2380

ここで記事を書いたのに その連絡をしていませんでした.

記事はメールタイトルの通り, 量子論の数理とリーマンのゼータです.

  • https://phasetr.com/blog/2017/12/04/math-advent-calendar-2017-12-4-quantum-mechanics-riemann-zeta/

時間がない中で強引に書いたので, 説明不足の点はありますが, 参考文献はいろいろつけてあります.

ぜひ, 興味があるところを つまんでみてください.

あと, 現代数学観光ツアー, 小旅行 2 のアンケートに来ていた質問に 簡単に回答しておきます.

具体的には次の質問です.

現代数学探検隊に参加すると位相を深く理解でき, 小旅行 2 の素数無限個の証明が理解できるようなレベルに達するのでしょうか?

細かい話はさておき, 素数無限個の証明の理解に関しては, 何ら問題ないレベルにまでは 問題なく到達します.

もちろん, きちんと継続的に, 地道に勉強を続けてもらえることは 前提ですが.

私のメルマガ, 何をどう考えても私より 数学できる人から中高の数学を勉強しようという 人までいろいろいて, なかなか「深い理解」の定義が難しいです.

それはそれとして, 現代数学探険隊の水準は 関数解析系の解析学に関する 位相空間論に関して, 基本的なところはきっちりおさえます.

いちおうちゃんと書いておくと, 上で「関数解析系の解析学に関する位相空間論」 と限定したのにはきちんと理由があります.

例えば幾何にとっての位相空間は, 微分幾何だともっと微分多様体論を 意識した構成にした方がいいでしょうし,

代数幾何を意識するなら, 必ずしもハウスドルフではない 位相空間, 特にザリスキ位相にも もっと強くフォーカス当てたくなります.

解析と言っても代数解析では, 代数幾何なみにピーキーな 位相空間が出てくるので, またちょっと趣が変わります.

以前, 数論幾何をやっている人に お酒を飲んでいるときに かなり真面目な顔をして 「位相空間は甘え」と言われたこともあり, 分野によって必要な位相空間は けっこう違います.

関数解析だと基本はノルム空間であり, 弱位相でも局所凸線型位相空間くらいには なってくれていて, 私が知る限り, ハウスドルフではない空間はあまり出てきません.

しかし代数幾何ではザリスキ位相が ハウスドルフではなく, さらに実用的な位相空間として有名だったりします.

この「実用的」というのが曲者で, 代数幾何は符号理論や暗号理論など 応用でも重要な分野で, 冗談抜きで社会でも使われる実用性があります.

与太話が長くなってきたので 改めてまとめると, 関数解析系, 特にハウスドルフな位相空間に 関しては完全に数学科の学生とも 張り合えるレベルの内容は網羅しています.

かなりじっくりやっているので, ちゃんとやれば必ず身になるはずです.

集合と位相をおさえておけば, 現代数学を独学するための 基礎体力は完全に身につくので, そのつもりで気合を入れてコンテンツを作っています.

一所懸命作っていますし, 何よりもともと物理学科で そこから数学科に進んだ身として, 「自分がほしかった」と思う内容を 作り込んでいます.

お試し期間などもつけているので, 興味があればとりあえず 気楽に参加してみてほしいです.

  • https://phasetr.com/mtex1/

安いとは言えないにせよ, 無茶な料金設定ではないと思っています.

この辺, 私がこうしたかなり 突っ込んだマニアックな内容の通信講座を 成功させることで, いろいろな分野のポスドクの人達の 収入源を作るための第一歩にも なると思っています.

成功させる義務がある, と勝手な使命感に燃えてさえいます.

というわけで何度でも しつこく宣伝しておきます.

ではまたメールします.

2017-11-21 質問は随時受付中:長くなりそうならぜひチャットワークで!/相転移プロダクション

今回はプログラミングも絡めた通信講座に 関して問い合わせを受けたので、 それに対する回答です。

質問があれば、メール含めて いくつか公開している適当な手段で 連絡してください。

で、メールなど私にしか通知が来ない手段だと、 私が動けないときに何も 応答できない問題があります。

交流できる場としてせっかく チャットワークを作ったので、 コードに対する質問含めて何かあれば、 チャットワークに登録して、 次のリンクからグループ参加申請して、 そこに質問投げてもらえると嬉しいです。

  • 数学・物理マニアックス: https://chatwork.com/g/dhn4ku2tschdsa
  • 数学・物理駆け込み寺: https://chatwork.com/g/tb4y95olggbfmx

他の方が回答してくれるかもしれないですし、 むしろそういうのを期待して作っています。

最近本業が燃えていて、 さらにプライベートの方でも いろいろな実験的な活動をしています。

返信が死ぬほど遅くなる可能性もありますが、 気長に待っていてください。

忙しい忙しいと言っていると何もできないので、 無理やりにもで何かやろうと思い、 次のアドベントカレンダーにも登録してみました。

  • https://adventar.org/calendars/2380

これ、Python x Math でネタ書く人もいるみたいですし、 ご興味ある方は自分でも記事書く方で参戦しても 楽しいのではないかと思います。

「中学・高校レベルでも実用的な話題でもなんでもいいです.」 とのことなので、別に気にせず書けばいいと思っています。

むしろ「中学・高校レベルのこんな勉強したいのだが、 いい情報が取れなくて困っている!」みたいな こと書いてもいいと思いますし、 堅苦しい企画ではないはずなので自由にやればいいのでは? ということで、 advent calendar の宣伝協力しておきます。

来年 5 月にプロジェクトが一段落するのですが、 ここからエンドに向けて本業が さらに燃え上がっていく予定です。

数学・物理関係の話で対応できるのは 極小におさえざるを得なくなってしまいますが、 ご意見や質問じたいは随時受け付けているので、 気楽にコメント投げてください。

やりたいことは山程あります。

ではまたメールします。

2017-10-16 オンラインコミュニティ 利用法/相転移プロダクション

だいたい 1 月前に チャットワークでオンラインコミュニティを 作ってみる, という案内をしました.

  • 数学・物理マニアックス: https://chatwork.com/g/dhn4ku2tschdsa
  • 数学・物理駆け込み寺: https://chatwork.com/g/tb4y95olggbfmx

こちら, 私の中で当面の 運用スタイルが見えつつあります.

それを連絡しつつ, 再度募集をかけてみようと思います.

まずは数学・物理マニアックスから.

実際にやってみて, メルマガに出すほどのボリュームではないものの, 何かちょっとやっていることを報告したい, という欲求がありました.

例えば, いま実際にこんな コンテンツを作っていて, こんな感じになっている, という報告だったり,

コンテンツのためにこんな視点で こんな本をこんなふうに勉強している, という話だったりです.

最近だと, 物理と幾何に関する本を 読んでいたりしたので, その様子をちょこちょこ報告したり,

読んでいる幾何の本の, その日読んだ分を簡単に まとめたり, といったところです.

実際に私がどんなふうに 勉強しているかをリアルタイムで 流しているので, それもけっこう参考になるのではないでしょうか.

今だと有料講座の現代数学探険隊の コンテンツ制作のために 関数論 (複素解析), 特にリーマン面 を 復習していて, その話もちょこちょこ書いています.

そしてこれまたメルマガで 出すほどではないちょっとした コンテンツを試験的に出してみたりもしています.

そのコンテンツはメルマガでは流さないので, あなたがそういうゆるい感じのコンテンツを 見てみたいなら, 気軽に参加してみてください.

数学・物理駆け込み寺に関しては, 具体的にどうしていこうかと 思いつつ, 参加者の方とも ちょっとやりとりしてみています.

こっちもそろそろメルマガで流すための ガッチリしたコンテンツのもとになる ミニコンテンツを作って配布していこうかな, と考えています.

有料講座を作るのに忙しく, こうした小さなアウトプットの機会がないと, 私自身, なかなか新たなコンテンツを 作っていけない状態なので, そういう感じで活用してみるのもいいかと思って.

そんな感じで私自身, 自分の勉強のためにも利用しつつ, ゆるく運用しています.

ご興味あれば気軽にどうぞ. 私もメルマガと違って, かなり気楽にコメントしています.

  • 数学・物理マニアックス: https://chatwork.com/g/dhn4ku2tschdsa
  • 数学・物理駆け込み寺: https://chatwork.com/g/tb4y95olggbfmx

ではまたメールします.

2017-09-23 オンラインコミュニティで集おう/相転移プロダクション

アンケートを見ていると, やはり 1 人で勉強するのが大変, という話をよく聞きます.

そこで, 試験的にちょっとした オンラインコミュニティを 作ってみます.

リアルの場には集まりづらい, だからこそオンラインでいろいろ 展開してきた経緯もあるので, ある程度オンラインにこだわります. 海外から参加されている方もいますからね.

あなたがもし興味があるなら, ぜひ参加してみてください. 参加方法は後半に書いてあります.

コミュニティの目的は, メルマガや通信講座参加者の交流です.

単純にいま自分が勉強していることで, わからないことがあったら 質問を投げてみてもいいです.

質問についてもちろん私も 時間があれば議論や回答に参加するつもりですが, 一定以上勉強されている方が 解答したりしてくれると面白いですね.

何より人に教えることこそが 一番の勉強です. 一時期受験関係でも 情報発信していましたが, そこでは人に教えるのが 難しいなら自分に対して授業しよう, ということで「脳内授業」という 方法をお勧めしていましたし.

他には, 人を募って オンライン勉強会を 開くための場として 使ってもらうのでもいいです.

以前 Skype+Pixiv 絵チャットでのセミナーを やったこともあるので, その辺のノウハウはお伝えできます.

教えること, もっと言えばアウトプットしてこそ 知識や経験が身につきます. そういう場に使ってもらえれば, と思います.

あまりこういうことは 言わないことがいいのでしょうが, それでもあえて書いておきます.

これははじめてやることであり, まさに研究です. その意味でうまくいかないことが前提です.

試験的な展開なので, 将来的にどうなるかもよくわかりません. 実際どんな人が集まるかもよくわからないので.

とりあえず, ぜひ気楽に 参加してみてください.

これも念のため. わざわざ大人になってまで 数学や物理をやろうという人に そんな人はいないとは思うのですが, マナーの悪い人には適切な対処を取ります.

ちなみに.

コミュニティは 2 つ作ります. 1 つは数学・物理で マニアックなところをメインにするやつです. こっちはもうぶっぱなしでやりましょう.

特に継続的に作り続けている有料講座の コンテンツを作っていて, ちょっとしたネタはいくらでも 湧いてくるのですが, メルマガに書くほどのボリュームでもないので, そういうのが結構眠ってしまっている 気がしています.

そういうネタを気楽に 流す場としても使えないかと考えています.

もう 1 つは中高数学や理科に関する コミュニティです.

マニアックなコンテンツや ミニ講座に参加される方は 割と好き勝手にやれる能力が 既にありそうなので,

単純にそれを伸ばすようにすれば いいだろうと思っています.

しかし中高数学や理科向けに関しては もっとサポートあった方がいいのかな, と.

「ここがわからないんですが...」 「私も実はよくわからなくて...」 「いや, 実はそこはすごく難しいところで...」

みたいな話ができるだけでも だいぶ違うのではなかろうかと思っています.

こちらは何か手頃な大学受験関係の 問題集などをもとに, 単なる解答だけではなく, 着眼点に関して説明するとか, ちょっと違ったことをしようと思っています.

以前, 大学受験生を指導したことがあって, 2 ヶ月くらいでその子達の 数学や物理の偏差値が 15 くらい上がったことがあります.

特別なことをしたわけでもなく, 筑波を目指していた子達で もともと優秀というのはあったにせよ, 私の言っていることや指導方針にも 一般性や一定の効果があるな, と改めて思ったので,

そのときに作ったコンテンツを もとに, ちょっと何かしてみようかと 思っています.

ツール・サービスに何を使うかというところで, 実名だと嫌な人もいるかと思うので, Facebook のような実名メインではなく, チャットワークでやってみます.

  • 数学・物理マニアックス https://chatwork.com/g/dhn4ku2tschdsa
  • 数学・物理駆け込み寺 https://chatwork.com/g/tb4y95olggbfmx

あなたがチャットワークのアカウントを 持っていないなら, 作成が必要です. 無料なので適当なメアドで 作ってみてください.

私自身, どうなるか全く予想がつきません. 実験的に気楽にやってみます. あなたがご興味あるなら, ぜひ参加してみてください.

そして単に参加するだけではなく, 積極的に行動してみてください. 「こんなのがわからない!」というのを出して, それに対して何か議論するとか, 有意義な場になればいいなと思っています.

ではまたメールします.

2017-09-06 リンク再送: 量子力学からの熱力学第二法則の導出/相転移プロダクション

先程お送りしたプレスリリースの URL, 直したつもりがリンクが壊れていたという指摘を頂いたので, 再送します.

プレスリリース http://www.t.u-tokyo.ac.jp/foe/press/setnws_201709061614152431248138.html 論文 https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.119.100601 arXiv https://arxiv.org/abs/1603.07857 https://arxiv.org/abs/1706.10112

1 本目の arXiv の論文の冒頭が読めないという指摘も頂きましたが, 私も Firefox で見ていると読めません. ダウンロードすれば読めるはずです.

それで読めなければもうわかりません. 環境ごとの問題という感じしかしないので, ご自分で調べてみてください.

ではまたメールします.

2017-09-06 量子力学からの熱力学第二法則の導出/相転移プロダクション

久し振りの純物理ネタです.

知人 (といってもいいはず) が, 論文出したというのを Facebook で言っていたので, 読もうという決意表明と宣伝がてら, シェアしておきます.

量子力学から熱力学第二法則を導出する論文が Physical Review Letters から出版されました。 プレスリリースと論文のURLは以下の通りです。

プレスリリース http://www.t.u-tokyo.ac.jp/foe/press/setnws_201709061614152431248138.html 論文 https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.119.100601 arXiv https://arxiv.org/abs/1603.07857

前もメルマガで純粋状態の統計力学的なネタを 紹介した記憶があります. 論文じたいは arXiv から取るのがいいでしょう. 無料です.

概要を知りたければプレスリリースで 日本語の文章をざっくりと読みましょう.

Facebook で「読む」とコメントしたら, 次のコメントを頂きました.

どうもどうも。 証明を読んで「これだと短時間領域だけじゃないか!」と思った場合には、こちらもどうぞ。 https://arxiv.org/abs/1706.10112

こちらは 10 ページ程度です. 合わせて 60 ページくらい.

適当に読んで, 余力があれば, コメント/感想を流す予定です.

これは本当に楽しみ.

ではまたメールします.

2017-08-28 数学は体力だ/相転移プロダクション

最近, 筋トレが面白くてはまっているので, その理由をお話しようと思っています.

数学かどうかはともかく, 物理や科学には確実に関わることなので, 「筋トレなんて興味ない」と言わず, ぜひ話に付き合ってください.

知っている人は知っている, 「数学は体力だ」という話があります.

  • http://nc.math.tsukuba.ac.jp/column/emeritus/Kimurata/

前々から言ってはいたものの, 私自身はほとんど実践できていませんでした. 方々で言っているのでご存知の方も多いと思うのですが, 私は中学 3 年で白血病になり, それ以来まともに運動していない期間が 20 年近くあったからです.

体力がなくて困っていたからこそ, その意義を痛感していたとも言えはします.

いい加減何とかしようと, 小学校の頃からお世話になっている道場で 3 年前に中学の頃にやっていた柔道を再開したのですが, やはりふつうの人よりも明らかに 体力もなければ力 (筋力) もありません.

中学 2 年生にすら乱取りで ボコボコに投げられる始末です. それが悔しいということもあり, 筋トレを始めました.

死ぬほどきつくて毎度嫌になるものの, それはそれとして筋トレが面白いです.

何というか, スポーツ科学とかその辺の科学からすれば もはや激烈自明なのでしょうが, ある種目で鍛えられる筋肉が 限定されているというのがひどく面白いです.

これの何が面白かったかというと, 例えばベンチプレスでダンベルを 持ち上げるのに腕を使うにも関わらず, ちゃんとやると腕はそれほど疲れず, ちゃんと胸の筋肉に来るところ.

もちろんやっている重量が軽いこともあるでしょう. しかし本当に腕よりも胸にくるのです.

ダンベルカールをやっていると二頭筋にしかきませんし, 他の種目でもかなり影響が限定できます.

ショルダープレスも形式的には腕で ダンベルを持ち上げているのに, 疲労が来るのは肩です. もちろん肩の筋肉を使って上げているからです.

腹筋をやっていて腹にくるとか そういう自明な話ではなかったのがすごく面白くて, それで続いている感じもあります.

他にもきちんと休まないと 筋肉が壊れたままでむしろ筋肉が痩せていくとか,

栄養を取らないと身体が回復せず, 筋肉がつかないとか, 激烈自明のことが本当にクリティカルに効いてきます.

つい毎日ハードに, と思ってしまっていました. しかしこうした子供でもわかるようなことが きちんとできていなかったことを知りました.

自分でやれる科学といった感じで筋トレやるのは, 実はめちゃくちゃいいのではないかと思いはじめています.

これは通っている道場で子供達の指導を しながら思うことでもあります. どうすれば生活に根差した形で 数学や物理を叩き込めるだろうかと.

いろいろ調べてはいたのですが, 筋トレの科学という観点から話をしてみるのは どうか, ということで自分自身を 実験台にして奮起してみたところでもあります.

半年くらい色々調べつつ, 実践しつついい本やコンテンツを探し, 実践もしてきました. プロテインとかサプリを買って試したり, といったことまではじめました

最近, 仕事が忙しく残業や休日出勤も増えている上, もともと健康ではないですし, そろそろいい年なので, ちゃんと身体に気をつけようと思い, 本腰を入れはじめた, という感じです.

近いうちミニ講座を作ったり, いいコンテンツを紹介したりしたいです. 自分が変にまとめるよりも, これを読んで, といった方がいいことも多いので, いいやつをお勧めようと思っています.

筋トレをしたいという方はもちろん, 筋肉をつけるためには何をすればいいか, 筋肉がなぜどうつくのか, そのためにはどうすればいいのか, というスポーツ科学的なことを知りたい方にも ぜひ読んでほしいコンテンツがあります.

筋肉を作りたいなら それはもちろんタンパク質もいるよね, という話もリアルに実感しています. ある程度ハードワークしなければ 筋肉つかないというのも改めて実感しました.

軽い筋トレをいくらやっても全く筋肉がつかなかったのが, ダンベルで毎回今までにはないレベルの きつさでやってみたら, 一週間で明らかに筋肉がついたりしましたし.

ちょっとの筋トレですぐに筋肉がついたのは, それだけ私がろくに運動をしていなかった, 筋肉/筋力がなかったという証拠でもあります.

しかし栄養まで考えてちゃんとトレーニングしたら 1 週間で結果を実感できたというのも 本当に面白い経験でした.

数学や物理のためにも, あなたもきちんと身体を動かしましょう.

身体を動かすということでいえば, 大学院のセミナーで高尾山ハイキングセミナーをする 人もいるくらいですし, 数学科秘奥義の散歩もあります.

それからすれば, 身体が動きはじめると 頭も動きはじめるという感じがあります. こもって勉強・研究もいいですが, ちょっとした運動も取り入れてみてください. 軽いところからはじめるための 方法もいろいろ考えて実践した結果もまとめます.

数学をやっていると心身ともに消耗するので, 心身の健康と体力は本当に大事なこと, 改めて実感しています.

最近, 筋トレを実験とみなして 色々遊ぶのが本当に楽しいです. しかしつらい.

ではまたメールします.

2017-08-16 お便りへの返信/相転移プロダクション

次のようなお便りを頂いたので, とりあえず思うことをつらつらと.

いつもメイル送信ありがとうございます。 当方も貴殿の様な講座を立ち上げたく 研究、調査に励んでいます。 それに関連して最近「12才が書いた量子力学」という本に はまっています。

入門と専門の中間部分について書いたとのことで 貴殿の講座で扱っていない部分と思いますが 貴殿の見解をお聞かせくだされば 幸いです。

最初に断わっておくと, 私はこの本を読んでいませんし, 読む気もないです. いかにも, といった感じの地雷臭しかしないので.

目次の記述が妙に気になるので, 後半で内容も読まずにそこだけ突っ込んでおきます.

まず次の部分, 指示が曖昧で 何を求められているのかわかりませんでした.

入門と専門の中間部分について書いたとのことで 貴殿の講座で扱っていない部分と思いますが 貴殿の見解をお聞かせくだされば 幸いです。

何に対する見解なんでしょうか? 「入門と専門の中間部分について書いた」という部分? それとも「貴殿の講座で扱っていない部分」という部分?

まずは前者, 「入門と専門の中間部分について書いた」という部分に 対するコメント要求と思って書きます. 結論から言うと, 上掲書の 入門と専門の定義がよくわからないので何とも言えません. ここでは適当に私が思うところを改めて書いておきます.

人の趣味は多種多様なので, いろいろな人がいろいろな思いを載せて いろいろ作ればいいんじゃないでしょうか.

Amazon のレビューを見ても, 彼の作った「12才が書いた量子力学」で喜ぶ人がいるのだし, それはそれできっと意味があったのでしょう.

ちなみに一番これは「しょっぱいな」と思ったのは 内容紹介の次の記述.

10歳の頃には物理学の他にも天文学、 歴史、哲学、医学、論理学、経済学、 法学などあらゆる学問分野の本を読み漁り (最盛期には年間3000冊)

「いや, 1 冊読むだけで 1 年かかるのでは?」 と思っています. ろくな読み方をしていないか, その程度の本しか読んでいないのでは? という感じしかしないですね.

これ, ペレ出版側の大人の事情的な, コピーライティングなのでしょうし, こういうところに惹かれる大人もいるのでしょうが, これが覿面に嫌ですね. これだけでこの本を読む気が失せるレベルの 嫌なコピーです.

この点については我らが伊原先生の 『志学 数学』を勧めておきます.

  • http://www.amazon.co.jp/gp/product/4621061593/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4621061593&linkCode=as2&tag=phasetr-22

特にこの P.17 の記述を引用しておきましょう.

「自分は一ヶ月に一冊読んでいる」などという先輩な仲間に惑わされないように. 本質的なところを感じとれない人の方が, すぐ数値的な評価をしたがる. 数学者になる, ということは, より深い価値がわかる人をめざす, ということでもあると思います.

もちろん, これはこれで「偉い先生のお小言」のように思い, 不快感を感じる方も多いのでしょう.

ペレ出版の人達はこの辺のことは「わかっている」でしょう. それよりもこの本のターゲット層に響く言葉として, 「年間 3000 冊」を挙げたのでしょう. それはそれでマーケティング, コピーライティングとして理解できます.

そしてこの辺, 決定的な認識のギャップというか, はっきり言えば嫌悪感というかある種の倫理観が出るところですね.

数学や物理などのアカデミックな人達が 踏み越えられない一線であり, マネタイズするときのハードルです.

実際, 私もこの手のコピーは受け入れられないですね. ならどんな文章をどんな人達に向けて書いて 届けるのか, それについては実際に募集ページを見てみてください. 理工系の知人に見せると「あれもうさんくさい」と よく言われるのですが, いまの私に書ける精一杯ギリギリのラインです.

あと言葉に対する書き手側の意識と受け手側の意識の問題もあります. 例えば, 私の認識では, 現代数学観光ツアー 物理のための解析学探訪 (http://phasetr.com/mtlp1/) は入門です.

「小学校の面積からはじめているし, 中学校の頃の自分が喜ぶと思って書いた. 紛うことなき入門用コンテンツである」 といまでも思っています.

ここでの「入門」はゴリゴリの数学・物理系の 志向を持つ人への入門という意味ですね. 「解析門前払い」と名高い 杉浦光夫の『解析入門』で言うところの, 入門もこの意味であろうと思います.

この認識からしてずれていそうな気がするので, コメントに苦慮しています.

ちなみに「中高数学に挫折したのでリベンジしたい」 とか「昔挫折した中高数学をじっくりとやり直したい」 という意味での「入門」を想定して 「応用からの中高数学再入門 中高数学駆け込み寺」 (http://phasetr.com/mrlp1/) を作りました.

ここでの入門は「役に立つ」という視点から 数学の世界に入ってみましょう, 特に興味関心がある人が多いっぽい 物理への応用を意識したところから, まずはどこに何を使うのかを知ることからはじめましょう, という意味での入門です.

懇切丁寧にわかりやすく, というタイプの入門ではありません.

これ, いまスウェーデンの理学部数学科に通ってらっしゃる方 2 人のお子さんを持つ方から, 「内容は結構腰を据えて読まなければいけないようなものが多かった」 というコメントを頂いたので, 「そんなに難しかったのか」とか 「もっと気楽に読み進めて大きな姿を 視界におさめることに意識を向けてほしい」とか 思ったりしました.

なかなかうまくいかないものです.

すでに大分長いですが, 「貴殿の講座で扱っていない部分」について.

私の認識だと, 私が作っているコンテンツやサービスは 「入門, または入門から専門への橋渡し」です.

数年前までは数学科や物理学科の学生向けに, 学部 1-2 年が大学院または研究最前線を見る, というスタンスの「橋渡し」セミナーをよくやっていました.

DVD にもした「よくわからない数学 色々な反例で遊ぼう」は 京大で開催された数学のイベント, 関西すうがく徒のつどい (通称つどい) で, 学部 1 年や高校生にもできる「研究」くらいのスタンスで 勉強から研究への「橋渡し」としたという認識でいます.

  • つどいのページ http://kansaimath.tenasaku.com/
  • DVD へのリンク http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00FYU9LQ0/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B00FYU9LQ0&linkCode=as2&tag=phasetr-22

こういう認識なので, やはりこのコメントを寄せてくれた方とは, きっと決定的に認識がずれているのでしょう.

一応言っておくと, その認識のずれはいいとは悪いとかいう話ではありません. 強いていうなら私の認識のずれは 多分大きな問題で, それで「マネタイズ」したいというのなら, むしろ致命的な問題でもあるのでしょう. 実際よく言われることでもありますから.

最後, ちょっとした目次へのツッコミを.

第3章 数学的定式化―量子論から量子力学へ

本読んでないので量子論という言葉と 量子力学という言葉を どう定義して使っているのかわからないものの,

私の感覚だと量子論の方が抽象性が高く, 「極微の世界の物理」くらいの意味で 使われている方が多い印象です.

一方, 量子力学は有限自由度かつ非相対論での 量子論, くらいのイメージがあります.

前期量子論とかその辺の言葉の上っ面を適当にかじって, 量子論から量子力学とかそういうイメージで 言葉を使っているんでしょうか? このメールを下さった方, コメント頂けると嬉しいです.

第4章 内在的矛盾と解釈問題―量子力学は正しいか?

地雷感高まる節タイトルで, やばそう. 内在的矛盾というの, 何を言っているのかは気になりますね. 「量子力学は正しいか?」という問いも, 量子力学がどう定義されているかにもよりますし.

相対論的量子論や, 必然的に出てくる (無限) 多体系の扱いを考えると, その時点で相当厳しい感. 水素原子も励起状態が固有状態になっていて, そのままだとレーザーも作れず, どうしたって量子電気力学, 場の理論が必要です.

有限自由度の量子力学では記述しきれない, というかなり限定された意味なら量子力学が 間違っているかどうかはともかく, 間違いなく限界はあります.

他にも気になることはあったのですが, とりあえず簡単にコメントできることと言えば このくらいでしょうか.

こんな人間がこう考えてこう活動している, というところを紹介できると思ったので, いろいろ書いてみました.

今回からメルマガにアンケートフォームもつけてみました.

  • https://goo.gl/forms/hn7bUP4sblqOkBcI3

他にもいろいろ連絡手段は出していますが, 匿名の方が送りやすそうな気がするので. 何か思うところがあれば気軽にコメントしてください.

2017-08-15 数学ソフトウェアの世界/相転移プロダクション

この間、日大生物資源の教官、 濱田龍義さんのお話を聞いて来ました。 内容はタイトル通り「数学ソフトウェアの世界」です。

知っている人は知っている、 DVD から起動できて数学系ソフトウェアが詰まっている MathLibre (旧 Knoppix/Math) を開発されている方です。

一言で言えば面白かった、という話をするわけですが、 まずはもっともっと宣伝すべきいいソフトがあるので、 きっちりその宣伝をしておきましょう。

MathLibre

MathLibre は DVD 起動で数学系ソフトウェアが 大量に使えるようになります。

  • http://www.mathlibre.org/index-ja.html

厳密には DVD で Debian ベースの Linux 系 OS を立ち上げ、その上でソフトウェアを使う、 という形です。

GeoGebra, SageMath

純粋なソフトウェアという観点からは、 GeoGebra や SageMath が特に話題に上がっています。 世界的なプロジェクトとしても動いているので。

SageMath は「応用からの中高数学再入門 中高数学駆け込み寺」でも使っている Python を基盤言語とするソフトです。

超大雑把に言えば、 Mathematica のような総合的なソフトウェアです。

ちなみに上記講座の申込ページはここ。

  • http://phasetr.com/mrlp1/

上記講座では特に numpy, matplotlib を使っていて、 これも SageMath に取り込まれています。

SageMath のページはここ。

  • http://www.sagemath.org/

確か Windows はインストールが 死ぬほど面倒だった気がします。 面倒なインストール抜きでオンラインで使いたいなら、 次の CoCalc にアクセスしてみてください。

  • https://cocalc.com/

一方 GeoGebra はもっとお絵描き的にも使える楽しいソフトです。 もちろんかなりのハードユースにも耐えます。

  • https://sites.google.com/site/geogebrajp/

こちらもオンラインで使うことができます。

  • https://www.geogebra.org/graphing

Geogebra と SageMath の開発、新講座作成への道

GeoGebra か SageMath は開発にも 参加してみたいと思っていて、 どちらに参加するか検討中です。

GeoGebra は JavaScript が基盤言語になったようです。 JavaScript はインストール不要で動かせるので、 プログラミング系の通信講座を作るうえで こちらの方がいいかな、と思って心が揺れています。

ただ、最近、JavaScript は動きが激しすぎて ついていけないですね。

数学のように、一度証明されたらそのままの形で ずっと使えるならいいのですが、 続々と新たなライブラリは出てくるわ、 実行環境のブラウザもどんどんバージョンアップして 古いコードのメンテナンスが大変だわ、 と数学と物理の片手間でやるにはハードすぎるのです。

どなたか、JavaScript シミュレーション的な方向で 一緒に講座作ってくれる方いないでしょうか? そういう本も出てはいて、 遊んでみたいと思いつつ、なかなか時間が取れていません。

講演内容

基本的な宣伝もすみました。 いいものはどんどん共有したいですね。 では講演本体の内容を簡単にお話していきます。

ちなみに講師である濱田さんの 今の所属は生物資源学科です。 しかし専門はバリバリの数学、微分幾何です。

この辺、あなたが大学院くらいまで行っているなら 多少は意味わかると思います。 「何でこの人、専門全然違うのにこんな学科に所属しているの?」 という例のアレです。

それはそれとして内容の話にうつります。 昔、TeX もない頃は大島利雄先生による 大島ワープロなどの数式入力ソフトもあったとか、 歴史的な話もいろいろあり、 昔から大島先生はすさまじいことやっていたのか、 と改めて衝撃を受けました。

灘の生徒だったころからプログラミングをやっていた、 とかいう話が出て、「大島先生、灘だったのか」という新知識。 確か元学生で現東大教授の小林俊行先生も灘だったような。

大島先生の謎エピソードとして、 東大の数理の学科長になったときの 有名なエピソードがあります。

ふつう学科長になると忙しくなるので、 研究も進みにくくなりますが、 大島先生は逆に論文増えたそうです。

理由がすごくて「時間がないので研究用の ソフトウェアを作る時間を削ったから」 という話でした。

この話は他の東大の先生から伺いました。 数学の研究をするにあたってまずライブラリを作るそうで、 もう何なの、と思わざるを得ません。

大島先生、城西大に移ってからは、 数学教育にもプログラムを積極的に取り入れているそうで、 行列を入れたら基本展開してくれるソフトを Risa/Asir で作って講義でも使っているという話をしていました。 こういうのも取り入れてみたいですね。 夢だけはどんどん膨らんでいきます。

数学者トークで言うと、森重文さんの話がありました。 濱田さんが大学院の頃にデファクトスタンダードだったという 久保ワープロに関して、森さんは開発に携わっていたそうです。 どうも森さんはアセンブラを書ける数学者として一部で有名らしく、 「100 ページの論文を書いていたら落ちた」から 何とかしようというので関わってきたそうです。

他の分野の様子はよく知りませんが、 数学で 100 ページの論文は滅多になく、 本当に大論文でそんなもんよく書くわ、という話がありました。

計算機科学の科学史

科学史にも関わる部分では、 ソフトウェアに関して記録が残っていないという話がありました。 古いコードは全く保存されていないし、 ある教官がやっていたとしても、 退官されるとそれが引き継がれずなくなってしまう、という話です。 コードなども残っていないそうです。 計算機関係の科学史を追う上でかなり面倒なことになっていますね。

ここで、ソースコードと実行環境の保存に関しては、 他にも問題があります。

実用的な話としては、昔書いたコードが動かない場合、 バージョンアップが必須です。 言語の改良でパフォーマンスやセキュリティも上がるので、 コスト (要はお金や人的資源) が合うなら、 素直に書き直します。

役に立つライブラリもどんどん出てきていて、 そうしたライブラリは古いバージョンに対応していないことも多いので、 新しくできるならそうした方がいいわけです。

これを科学史研究の観点から見ると大変なことになります。 ふつうに考えれば古いコードを持っていても仕方ないので、 削除してしまいます。 少なくとも積極的にメンテナンスしたり、 保持しておく理由がありません。 実際にそういう状況になっています。

こうすると、昔のコードやその実行環境が どんどんなくなっていきます。

一般に科学関係だと古い装置があっても、 それは実用にとってはほとんど意味がないので、 実用的には取っておく必要がありません。 歴史的な経緯からの意味はあるにしても。

例えば有名な話として、キュリー夫人のノートはいまだに 放射能を持っていて、ふだんは鉛の箱に入れて保管されていて、 閲覧するにも免責同意書にサインして防護服を着て閲覧しなければならないそうです。

  • http://gigazine.net/news/20150802-marie-curie-paper-still-radioactive/

そしてこの問題は他の文化遺産にもはねていきます。 観光資源としてお金になるとかいうならまだしも、 場所や保管代でむしろ出費の方が大きいなら、 廃棄する理由の方が大きいですから。

そういう問題があって、 こう、難しいと。

お金の話

とても世知辛い話ですし、 数学系の人は特に猛烈に嫌がるとは思うのですが、 お金の話をします。 実際、講演のときにも最後に大きな問題として 取り上げられていたのです。

先の科学史のための資料・史料保存は そのものずばりですね。 管理・維持に途方もないお金が必要です。

先のキュリー夫人の研究遺産の管理を考えてください。 記事にもあるように、 キュリー夫人の研究室をそのまま保持するなら除染が必要でした。 放射能を持つ物質を保管するなら当然厳重な保管が必要で、 人もお金も必要です。

キュリー夫人となるとノーベル賞受賞者であり、 世界的にも有名なので、取り壊したり廃棄するとなったら それなりに大きな反響が出るでしょう。 科学者団体からも抗議声明が出るのではないかと思います。

かといって、その保管の手間とお金をどこの誰がどう払うのか、 という大きな問題があります。 いつまでもどこまでもひたすらにお金がついて回ります。

一般にマネタイズ能力の弱い学者では、 解決しきれない問題です。 特に継続的に施設設備と 専門的な知識を持つ人材を雇い続けるための 大きな金額が必要です。

単に装置などの形を残しておくだけならまだしも、 それらを動かせるようなレベルにまで メンテしないといけないとなると、 さらにコストが跳ね上がります。

これを無駄といってしまうと、 科学館や博物館が死滅しかねません。 深刻な問題です。

他の分野を見てみよう

ただ、これがまた難しいです。 先日、ニュースで日本最古の ティンパニーの話題がありました。

  • https://jcc.jp/news/12541282/

東京芸術大学の前身の東京音楽学校の 教師・ドイツ人音楽家・アウグストユンケルから 1904年に贈られたことを示す JUNKERの文字が刻まれたティンパニーについて、 東京芸術大学・元特任教授・瀧井敬子は 「もっとも古いといって間違いないと思う。 オーケストラが日本に根付く過程をしめす貴重な物的証拠」と話す。

これ、あなたはどう思うでしょうか? 「貴重な資料だ。ぜひ保存しなければ」と思ったでしょうか?

小平邦彦先生のように、 数学、または数学者と音楽には 割と親和性があります。

しかし「いや、オーケストラが 日本に根付く過程と言われても 特に興味ない」という方もいらっしゃるでしょう。

もっとはっきりいえば、 単にティンパニーがあればいいだけではなく、 きちんと場所と時間と人、さらにお金を使ってこれを 保管しようというときに「そこまでやる意味はどこまであるのか?」 と言われて、きちんと答えられる人は まずいないのではないでしょうか?

先のキュリー夫人の研究遺産に関しても、 どの程度までその意義を見出せばいいでしょうか? 実際、音楽関係者と予算の取り合いになるわけで、 他人事ではありません。

役に立つ問題

よくある「何の役に立つ」問題とも強く関係します。 私の専門である数学や物理なら、 「いや、役に立つから」と言い切れるし、 何なら「あなたがそれを知らなくても、 理解できなくても一切関係ない」と まで言い切ることすらできるでしょう。

専門家を育てる必要はあって、 彼らに対する教育が第一で、 数学を知らなくてもほとんどの人は困らないし、

何なら日常生活を営む上で、 数学よりも勉強すべきことはたくさんあるとすら言えます。 学校の勉強にしても理科や法律、歴史などの方が よほど重要と判断できる 真っ当な判断基準も作れるでしょう。

しかし、科学史上の史料についてまで 「いや、これ役に立つから」と言い切るのはなかなか厳しいです。 明らかに有限な場所・人・お金をどう配分するか、 という問題まで絡んでくるときにどうするか、という問題です。

別に答えがあるわけでもなく、 ただただ厳しいです。

数学ソフトウェアの発展と資金調達問題

そしてこの問題は数学ソフトウェアにも同じ問題があります。 これも 1 つの大きな要素はお金です。 実際に講演の後半でマネタイズに苦労しているという話が出ました。 濱田さん自身「DVD を無料で頒布したら よけいマネタイズ厳しくなるのに何でそんなことやってるの?」 という指摘を受けている、という話もありました。

GeoGebra はイギリス政府だかの補助があり、 まだ何とかなっているそうですが、 SageMath は本当に資金が厳しいそうです。 教育用の用途だけでなく、研究用の用途もあり、 企業活動などの実用上の用途もあります。

企業からの寄付もあるとはいうものの、 まるで足りないそうで。 特にオープンなソフトウェアの開発ではよくあることですね。 開発者はボランティアでやっていることも多く、 家庭の事情など何かしらの理由で開発しなくなる、 できなくなることも多いので、 継続的に回したければやはりビジネスにするしかありません。

開発を進めるためには開発者が必要で、 それも場合によってはプログラミングだけでなく、 数学にも精通した高度な人材が必要です。 そんな人は引く手あまたなわけで、 そうした人に開発に集中してもらいたければ、 雇ってしまってそれで 生活できるようにしてしまうのが一番でしょう。

ポスドク問題と同じで、人には生活があるのです。

一方、多くの人が使うからといって、 それにお金を出すかはまた別の話です。 なくて困るかと言われると 必ずしもそんなことはないので。

GeoGebra, SageMath の広報や使いやすさを高めること

GeoGebra、SageMath ともにオンラインで ソフトを使える環境も整備されています。

  • https://www.geogebra.org/graphing
  • https://cocalc.com/

充実したハードウェアを持たない人や、 必ずしも身の回りにコンピュータに 詳しい人がいなくても使えるように、 という配慮もありますし、

使いやすい環境を用意して知名度をあげて、 寄付を募るといった目的もあります。

ただ、このオンライン環境も維持管理に人とお金が必要です。 「なら、やめれば?」と言われてもそういうわけにもいきません。 いわゆる「理念」というやつです。 そして理念だけでは食っていけない、 という世知辛い話でもあります。

私も、それこそ継続的に寄付したい、 と思いはしても、なかなかその余裕がありません。 こういうとき「稼ぐ」という意味での 自分の明らかな無力さを強く感じます。 本当に、きちんと稼げるようになって、 こういうところに少しでも寄付したり、 開発にも参加したりしたいです。

私の活動に関して

そういう話をしたので改めて言及しておくと、 私がやっている活動でも同じです。

細々としたことを抜かせば、 事実上、いまはほぼボランティア状態でやっています。 上記のソフトウェア開発や災害救助なども含め、 ボランティアの限界はまさにボランティアであることです。 ボランティアで活動できる余裕があることです。 余裕がなくなった瞬間にその活動は止まってしまいます。

私もある時期、一年程度、 ほとんど全く活動できなくなったことがありました。 そのときに改めて痛感したことでもあります。

「きちんと活動を続けるためには、 マネタイズすること、きちんと継続に回し続けられる ビジネスにすることが大事だ」と。

DVD を作って Amazon で販売してみたり、 直近では有料の通信講座を 運営してみたりしている理由の 1 つでもあります。

何度か言っているように、これはもちろん、 他の専門家にも、その人独自の色が強くでた、 有料の通信講座などをやってほしい、というメッセージでもあります。 特にポスドク問題が起きているので、 そうした人達が生きていく術としても確立したいと思っていて、 そのための「人体実験」としても実験・活動しています。

生きていなければ数学もできません。 もっときちんとこの社会で生きることも考えなければならない、 そんなことも改めて考えさせられた講演でした。

今後のメルマガ

今後、こうした世知辛い系統の話もしていく 機会が増えると思います。 1 つにはそうした状況を伝えないといけないと思うからです。 特に中高数学向けの通信講座には、 必ずしも現在の大学院の状況を ご存知の方ばかりではないからです。

上に書いたように、私が愛してやまない研究者達が 研究を続けながら生きていけるように、 私なりのポスドク問題への対処法の研究や、 その研究発表も兼ねています。

重たい話をしたいわけではなく、 私にとっては生きることも数学なのです。 生きていなければ数学できませんし、 そのための生計を立てることも数学です。 一数学徒の生き様を眺めてもらおうと思っています。

「また変なことやっとるわ」と気楽に眺めていてください。 その筋の方々も「これなら自分でもできる」と思ったら、 ぜひやってみてください。

私がやっているメルマガや通信講座は トータルでのべ 1000 人の読者がいるので、 面白い話があればどんどん共有します。

通信講座の「今後の勉強の指針」とか 参考文献紹介の中で、 他社サービスや大人向け数学塾なども 紹介していますし、その一環です。

現代数学観光ツアーのアンケート解答も滯っているし、 メルマガもネタはあるのでどんどん発刊したいですね。 試験的にポッドキャストもやってみたいと思っています。 引き続きいろいろがんばります。

ではまたメールします。

2017-05-29 個別質問タイム/相転移プロダクション

先日, ある読者の方から, 聞きたいことがあってもメールだと ハードルが高くてなかなか連絡しづらい というご相談を頂きました.

それはそれでよく聞くので アンケートを使ったりもしているのですが, それはそれで双方向の やりとりになりづらいからちょっと, という話もあるようで.

というわけで試験的に 連絡先としていくつかのサービスの アカウントを公開しておきます.

  • Twitter https://twitter.com/phasetr
  • Facebook https://www.facebook.com/yoshitsugu.sekine
  • LINE https://line.me/R/ti/p/@oxg2753d

Twitter が一番アクティブですが, どれもきちんとチェックしています. そして Twitter が一番 ろくでもないことばかり言ってもいますが, ふだんからたいがい数学と物理の ことしか考えていないのが一番伝わるのも Twitter でしょう.

ご興味あればぜひフォローしてみてください. あとアカウントを持っていらっしゃる方は Facebook ページにもいいね! しておいてもらえると嬉しいです.

  • https://www.facebook.com/phasetr

すべてに丁寧にお返事するのも なかなか難しいのですが, すぐに答えられることなら なるべくお答えしていこうと思います.

何かあればお気軽にどうぞ.

ではまたメールします.

2017-05-26 書評: 山下真『量子群点描』面白かったからあなたも読もう/相転移プロダクション

Amazon で予約していた本が今日届き, とりあえず 1 周さっと眺めて面白かったので, 興奮さめやらぬ状況でとりあえず感想をまとめました.

本は次のリンクから飛べます.

  • https://www.amazon.co.jp/gp/product/4320113136/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4320113136&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=b11a99e86cb888afac89d78994526aa0

ご興味ある方はぜひ次の URL から 記事に飛んで読んでみてください.

  • http://phasetr.com/blog/2017/05/26/書評-山下真『量子群点描』面白かったからあなた/

私の読書メモ程度ではありますが, ある程度物理寄りの視点というか, 代数的場の量子論, 量子統計力学の数理的な 視座からのコメントを載せています.

私のメルマガに登録したり, 通信講座を受講されている方なら, 本と合わせて記事を読むと 楽しみがさらに増えると思います.

中高数学駆け込み寺の方だと 大分参加されている方の趣が違うので, 微妙なところではありますが, 面白がる方もいるかと思ってご連絡しておきます.

記事にも書いたのですが, 山下さんは院のときの 1 つ上の先輩です.

研究室が同じだったので, それなりに似た方向性はあるわけで, 現代数学観光ツアーの続編のような内容とも言えます.

  • http://phasetr.com/mtlp1/

具体的にはフーリエ変換と双対性の議論, 群の表現論からはじまるので, まさに現代数学観光ツアーの 最後の部分を進めたところからはじまります.

あなたがもし現代数学観光ツアーが楽しめたなら, これもきっと楽しめるでしょう. ぜひ買って読んでみてください.

  • https://www.amazon.co.jp/gp/product/4320113136/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4320113136&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=b11a99e86cb888afac89d78994526aa0

詳しいことは記事に書いたので, この辺で.

ではまたメールします.

2017-05-20 Bernhard-Jablan unknotting conjecture の否定的解決 (?)/相転移プロダクション

Twitter で musubimeriron さんの ツイートを見かけたので, 備忘も兼ねて記事を書きました.

  • http://phasetr.com/?p=5538

いちいち記事に飛ぶのも面倒という方も いらっしゃると思うので, メルマガの最後に転載しておきます.

見やすい方で見てください.

一番言いたいことを簡単にまとめておくと, 予想の否定的解決のために反例構成をした, というところに注目してほしいです.

私が展開している通信講座, 現代数学観光ツアーや現代数学探険隊でも強調していますし, Amazon で販売している 「よくわからない数学 色々な反例で遊ぼう」 https://www.amazon.co.jp/dp/B00FYU9LQ0 ではそのもののメインテーマとしている反例,

これが実際に (まだプレプリントですが) 論文になっている具体例なのでぜひ紹介したい, というところです.

すごいレベルになると本当に反例を作ること それ自体が創造的な営みなわけなので.

久しぶりに Amazon の販売ページみたのですが, 私の DVD を国内正規版とか言って 中古で売っている人がいました.

しかも値段が新品とほとんど変わらない. やるならもっと安く売ってあげればいいのでは, という気しかしないですね.

何なのでしょう.

記事中でもコメントしていますが, 現代数学探険隊 http://phasetr.com/mtex1/ では, 実際に自分でも小さく反例を作っていくようにしてほしい, それを基軸に据えて講座を展開しています.

具体的に宿題として出していますし, 毎回解答もつけています. それ以外にも例・反例はをたくさん挙げていますし, その例が先々の数学や物理でどんな意味を持つか, どう面白いのか, どう重要なのかも たくさん解説をつけています.

ご興味ある方はぜひ参加してみてください. ちなみに上で紹介した DVD は, 参加者特典として無料で見られるようにしています.

2 週間のお試し期間があって, その間でも見られるようにしています.

何か意図に反して宣伝のようになってしまいましたが, そのくらい反例構成は大事ですよ, ということで.

以下, 記事の転載です.

またメールします.

私は真偽判定する能力を持たないが, ツイートを見かけたのでとりあえず張っておく.

これは衝撃的です。 A counterexample to the Bernhard-Jablan unknotting conjecture https://arxiv.org/abs/1705.05985

結び目理論の未解決問題10 https://matome.naver.jp/odai/2133489552895746501 の一つでしたが、否定的に解決されました。

Bernhard-Jablan解消予想がもし正しいとすると、原理的には、結び目解消数が帰納的に決定されることになるので、非常に都合が良過ぎる予想ではある。

2 つ目のツイートで「結び目理論の未解決問題10」 に関する Naver まとめが張られていて 「何でそんなに異常なまとめが Naver にあるのだろう」と思ったら, musubimeriron さん自身のまとめだった.

私の結び目理論への知識は, 学部 4 年のときにちょっと講義に もぐった程度でほとんど何も知らない.

Jones 多項式関係で 院のときの専門だった作用素環と こう割といろいろ関係があるとか, 3 次元時空での代数的場の量子論での DHR-DR 的な話でも組み紐群が出てくる (はず) だとか, その程度しかない.

ただツイートの中にある反例を挙げる形での 否定的解決というのがかなりツボ. 私が運営している通信講座,

現代数学探険隊 http://phasetr.com/mtex1/ は, 例や反例を自分で作っていくことを重視して 数学学習していこうという 趣旨で内容を構成しているので, 反例を作ることで本当に論文になる話として メルマガでも流そう.

あとプレプリントをパラっと眺めて 気になった点を挙げておこう.

The bulk of the work needed to reach these conclusions was carried out by computer.

ある意味 4 色定理とも似通っているのだろうか, プログラムで片をつけた部分も大きいとのこと. 最近中高数学駆け込み寺 http://phasetr.com/mrlp1/ という 中高数学復習のための無料のミニ講座で, 多少のプログラムもつけて講座を展開している.

数学とプログラムの遊び方みたいなところは 最近かなり気にしているので, その点でもとても気になる.

SnapPy https://www.math.uic.edu/t3m/SnapPy/ という Python によるソフトもあるようなので, やはり Python をもっときちんとやらねばならないか, という気になっている.

個人的には Haskell をやってみたいのだが, グラフを手軽に書く, 数値計算も手軽にやる, そういったところからすると資料が少なく (というか観測範囲でほぼない) Haskell で やるのは極めてハードルが高い. となるとやはり Python かという感じ. これも頑張らないといけない.

2017-04-19 魔方陣 C* 環/相転移プロダクション

2017年4月25日 16:30~18:00 の 慶應の微分幾何・トポロジーセミナーで 勝良健史さんが次のようなタイトルの 講演をするそうで.

  • Unitary representations of locally compact groups, and magic square C*-algebras
  • http://keiomath.jp/seminar/265

URL も張っておきました. 平日の夕方の早めの時間, 参加しようもないのですが, 中身がとにかく気になるので.

一応内容も転載しておきましょう. 上のページに行くと見られます.

本講演では, 局所コンパクト群の例から始め, ユニタリー表現やポントリャーギン双対などの話題を通して, C環という概念が自然と現れることを見たあとに, 群や空間の量子化の考え方などを例を通して説明する. 講演の後半では, 対称群の量子化として導入された魔法陣 C環に関して既に知られている事や最近分かったことを解説する. 特に魔法陣のサイズが 4 のときは, 魔法陣 C*環が 3 次元射影空間をクラインの四元群 2 つの直積群の作用で割った orbifold から 4 次正方行列への連続関数のなす環として表現できることを説明する. この結果は 16 年度の小川正瞳君による修士論文の結果に基いている.

魔方陣 C* 環とか名前の時点で 既に勉強したすぎる概念なので, 本当にずるいですね.

知人に聞いたところ, オリジナルは次の論文とのこと.

  • https://arxiv.org/pdf/math/9807091v1.pdf

リンク先は arXiv のプレプリントなので 誰でも読めます.

非可換幾何や量子群の話のようです. ぱらぱらと眺める限り, 何となく読めそうだし俄然興味が高まってきます.

悲しいことに今すぐ読める暇もありません. ただあなたは読みたいと思っているかもしれません. とりあえず講演概要に関して簡単にコメントしておきます.

まず勝良さんからですね. 勝良さんは大学院の研究室の先輩です. 何度かお会いしたこともあります.

いま何をやっているのか正確なところは全くわかりませんが, 私が大学院生だった頃はグラフ C* 環の あたりをやっていました.

グラフというのは情報理論, 離散数学とかそのへんでも出てくるグラフのことです. グラフから C* 環を系統的に構成する方法があって, 群の表現論あたりも絡めて何かごにょごにょやっていた という曖昧な記憶があります.

Kazhdan の property-T という言葉だけ よく覚えています.

群の表現, 特にユニタリ表現との関係については, 次の定理が重要です.

定理 C* 環の任意の元は ユニタリ作用素の有限個の和で書ける.

実際には 4 つの和で書けます. C* 環の functional calculus を使うと 適当にユニタリが定義できて, それで処理できます.

このあたりからユニタリ作用素さえ作っておけば いくらでも C* 環の元が作れてうんぬん, という話ができます.

functional calculus は 作用素の関数を作ろうという話で, Stone-Weierstrass の定理を基礎に 正規作用素の多項式を連続関数に持ち込んで, とか, Cauchy の積分定理を レゾルベントに適用したりとか,

はたまたスペクトル定理で 定義したりとかいろいろあります. スペクトル定理からは von Neumann 環の話も関係してきます. 両方とも射影が重要だからです.

内容を見る限り, 修論を見るとほどよくいろいろな 数学に触れられそうなので, 修論を読んでみたい欲求にかられています.

最悪勝良さんに問い合わせてみるまである.

何はともあれ, あなたがご興味あるならぜひアタックしてみてください. P.6 からの 3 節はじめを見ると, 有限集合上の話や, 有限次元の行列環の話をするようで, がんばれば読めるところもいろいろありそうです.

最後に. このメール, 私が作っているもろもろの講座なり メルマガなりに登録している人あてに送っているため, 知らない方もいらっしゃると思うので, 改めて宣伝しておきます.

現代数学, 特に解析学に関して, 非可換幾何とかのネタも盛り込んである, 無料の通信講座を作って運営しています. 興味があればぜひ次のページから登録してみてください.

  • http://phasetr.com/mtlp1/

あなたが既に登録していて, 今回の講演や論文に興味があって, 非可換幾何ってなんぞ, と思ったなら該当回を復習してみてください.

ではまたメールします.

2017-04-05 位相空間での収束理論: フィルタとチコノフの定理

平行稼働している現代数学探険隊に関連して, 調べたものの何か中途半端になってしまっていた ネットやフィルタの収束に関して資料をまとめました.

供養と思ってまとめたら 割とよさげな内容になったので, 現代数学探険隊にも適当な形で統合する予定です.

ただ一般向けにも公開する前提で作ったので, まあいいかということで公開します.

  • http://phasetr.com/blog/2017/04/05/convergence-in-topological-space-filter/

記事にも書いたのですが, フィルタのうち特に極大フィルタは 超フィルタとも呼ばれ, 超準解析でも出てくる概念です.

超準解析自体がマイナーですが, これはこれで興味がある人も多い話でしょう. その意味で役に立つこともあるだろうし, 必要な人もいるだろうということで.

現代数学探険隊の講座でやっていることも もう少し具体的に知りたいという要望も頂いています.

登録されている方の中にはどう考えても私より 数学できるだろうという方もいらっしゃいます.

その意味でも無理に参加させようという気は全くありませんが, 入った方がいい人・入るべき人に 二の足を踏ませてしまうのもよくありません.

これに限らずちょっとしたサンプルを 改めて公開してみようと思っているので, ご興味ある方はぜひ眺めてみてください.

ではまたメールします.

2017-03-23 数学は何故役に立つように見えないのか?/相転移プロダクション

先日撮影した動画の案内です.

  • http://phasetr.com/blog/2017/03/23/why-does-math-seem-useless/

数学を効果的に伝えていくために 私はある勉強会に参加しています.

そこで映像コンテンツを作る コンテンツ制作実践会があり, 表題の通り「数学は何故役に立つように見えないのか?」 というタイトルのミニセミナーをして, その映像を YouTube にアップしました.

次のページに動画をはりつけてあるので, ご興味ある方はぜひ見てみてください. 中高数学に関する通信講座を作った理由についても 改めて説明しています.

吃音 (いわゆるどもり) があって 聞きづらいと思うので, スライドの元原稿もセットで 貼ったページになっています.

吃音で聞きとりづらいのを よく動画で人に聞かせようと思ったな, と自分でも思います.

しかし吃音は吃音はなかなか 理解されないところがあるため, これはこれで, 吃音というのはこんな感じで うまく話したくても話せないのだ, というのもついでにお伝えできるかと 思ってやっています.

これさえなければもっと動画や 音声コンテンツも作れるのですが.

黒板やらホワイトボードやらに証明を 書いていくタイプの動画については 吃音で言葉が出なくても書けばいい という裏技があります.

一時期動画も作っていたので, それはそれでまた作りたいと考えています. 幾何をやるなら図を描きたいので, そういう場面では活用したいですね.

感想があればぜひ教えてください.

記事・動画へのリンクをもう一度張っておきます.

  • http://phasetr.com/blog/2017/03/23/why-does-math-seem-useless/

ではまたメールします.

2017-03-20 『関数解析的思考法のすすめ』/相転移プロダクション

関根 (相転移P) です.

先日, 40 代で 2 児の母, そして理学部数学科に 通ってらっしゃるという方が 現代数学観光ツアーに新たに参加されました. http://phasetr.com/mtlp1/ こんな人が本当にいてしかも参加してくるのか, と衝撃を受けました.

その方からのアンケート回答を読んでいて 改めて思ったのは, この講座はこの講座でいいと思っているのですが, いろいろな意味で重すぎるのは否めないことですね.

もうちょっとゆるいのも急ぎ整備していかないと, また新たな挫折を生んでしまいそうなので それが気がかりです.

で, 同じ感じの内容に関して もっとさらりとすっきりまとまったものが 数理科学 2017-04 号で 特集されていたので紹介しておきます. https://www.amazon.co.jp/gp/product/B01N37MED9/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B01N37MED9&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=25adb692d25c12421da5eb52312e98d4

関数解析的思考法のすすめとして, 線型代数, 微分積分からの流れ, 微分方程式論との関係, 量子力学との関係, 作用素環, 確率論と関数解析, リーマン幾何と関数解析, 工学と関数解析, こんなラインナップです.

数理科学の今回の特集に触れられた範囲の 確率論, リーマン幾何, 工学ネタは 現代数学観光ツアーでほぼ触れていませんが, それ以外はかなり近い範囲を扱っています.

これからはもっと軽めのトピックごとに特化した 「現代数学観光ツアー」を作っていこうと思っています.

そしてその第 1 弾で扱おうと思っていた ストルム-リウビル系の話題に 触れられている記事があって, 考えることはみな同じなようですね.

もちろんページ数の制限も全然違いますし, いまの私が勉強を進めながらカバーできる範囲も あるので, 視点は当然変わってきます.

ストルム-リウビルの後には もっと作用素論的な方向, 一般論の方向でもう 1 つミニ講座を作る予定なので, そこにもつながる形で内容を作ります. いま目次を作り込む形で大枠と 細かな部分の想定を詰めているところです.

近々具体的に募集ページを作るので, ご興味のある方はどうぞ.

ではまたメールします.

2017-02-20 関数解析の初学にいい本 その 4/相転移プロダクション

前回から今回にかけての内容で, 割と最近の成果がまとまった本として 次の本をおすすめしていきます.

  • https://www.amazon.co.jp/gp/product/4903342484/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4903342484&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=b15cbf059366a8ff28ab3f5e52017a06

私も参加していた Summer School 数理物理 2013 の 講演内容をまとめた本です.

内容の大雑把なところに関しては 当時レポートを書いたので参考にしてください.

  • http://phasetr.com/blog/2013/10/02/summer-school-数理物理-2013-量子場の数理に参加してきたがスー/

でははじめましょう.

作用素論・不等式処理に確率論を使っていく解析, 特に経路積分の解析

前回少し作用素論方面の話をしました. 関数解析系の量子系の数理の核の 1 つは ハミルトニアンの解析です.

ふつうハミルトニアンは線型作用素だから 作用素を調べることになり, そこで作用素を研究することに特化した 作用素論の出番になるわけです.

その作用素を詳しく調べるために確率論を使う手法があります. 物理としてはいわゆる「経路積分」の厳密解析にあたります. 場の理論では特に超関数を変数とする関数の積分論になるため, 汎関数積分と呼ばれることがあります.

  • http://www.amazon.co.jp/gp/product/4320019326/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4320019326&linkCode=as2&tag=phasetr-22
  • http://www.amazon.co.jp/gp/product/3110201488/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=3110201488&linkCode=as2&tag=phasetr-22

前者の新井先生の本は丁寧でいいんですが, 論文を読むには全く足りません. この方面の 1 冊目には最適だろうと思います. 量子力学だけでなく場の理論の話も書いてあります.

Simon の「Functional Integration And Quantum Physics」もありますが, これに限らず Simon の本は難しいです. 読むにしても新井先生の本で きっちり基礎を固めた後にしましょう.

  • http://www.amazon.co.jp/gp/product/0821835823/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=0821835823&linkCode=as2&tag=phasetr-22

後者の廣島先生の共著の本は 完全に場の理論の本です. 正確には粒子系と場のカップリングを考えているので, 粒子系, つまり量子力学の話ももちろん書かれてはいます.

ただこれ, 確率論に関するかなりの予備知識が必要です. いきなり Levi 過程の話が出てきます. その確率論や確率過程, そいて確率積分に関しても基本的なことが 新井先生の本にいくらか書いてあります.

この方面に進むにしてもまずは 新井先生の本を読むのをお勧めします.

量子電気力学に関する解析でも 汎関数積分を使った結果に決定的な成果があります. 対応する結果を確率抜きの純粋な作用素論で証明したり, 作用素環で見てみたりといった研究をするにも, ある程度は結果をフォローできないといけません.

研究フェーズの話ではありますが, 楽しいところなのでぜひトライしてみてください.

確率論じたいの参考書もいくつか紹介しておきましょう. まずは舟木先生の本をお勧めします.

  • http://www.amazon.co.jp/gp/product/4254116004/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4254116004&linkCode=as2&tag=phasetr-22

例えば分布の収束の定義について 「どうしてこういう定義なのか」という 「気分」についての説明もあり, 初学者が疑問に思うところを丁寧に潰しています. 舟木先生の教育力, 経験が光る本です.

Markov 鎖の場合に限ってはいますが エルゴード性に関する記述もあります. 確率積分は書いていないので, 別の本を読む必要があります.

確率論の基本的なところについては 西尾さんの確率論も証明が丁寧で 読みやすくていい本です.

  • https://www.amazon.co.jp/gp/product/4407021896/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4407021896&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=0e4eb70831e6bfd9b2517eec4bd3c869

    あとできちんと書く

確率積分に関しては初読は 新井先生の汎関数積分の本を勧めます.

    • http://www.amazon.co.jp/gp/product/4320019326/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4320019326&linkCode=as2&tag=phasetr-22

突っ込んだ内容に関しては, 例えば次の本が有名どころです. 読んだ本もあれば きちんと読み込んでいない本もあります. 順に舟木直久, 長井英生, 渡辺信三, エクセンダール, カラザス・シュレーブです.

  • https://www.amazon.co.jp/gp/product/4007302170/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4007302170&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=abeae27cb09f60ca03cd098cdd7bb49e
  • https://www.amazon.co.jp/gp/product/4320015797/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4320015797&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=7c751841cb0b94d03a58ef4d97159732
  • https://www.amazon.co.jp/gp/product/4782806094/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4782806094&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=25be2052534440c535807491f7ce8e96
  • https://www.amazon.co.jp/gp/product/4621061763/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4621061763&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=e0fd5b9601cf50fa3e92dab77643c9e3
  • https://www.amazon.co.jp/gp/product/4621062859/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4621062859&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=d3284893ab6807b8ce48a5437b5b8057

結論から言うと廣島先生の本が研究に直につながる本です. しかしここにいたるギャップが激しいです. 関数解析だけでは足りず, 確率論に関してもかなりカバーするべきことがあります.

作用素論の定理の確率的証明だとか 確率的解釈のようなことも面白いので, 数学としてもかなり面白いところです.

少なくとも作用素論と確率論という 2 つの分野の交点にあるわけで, 複数の分野をまたがる話に興味があるなら 挑戦するべき価値のある話です.

くり返しになりますが, 専門書と入門のギャップ, 特に関数解析だけではほとんど足りません. そこを埋めるのがかなり大変です.

私が知る限り, 直接量子系の話とはつながらない 部分も含めて確率論をふつうに相当かっちりやった上で 対応していかないといけません.

ダイレクトに絞っているのは 新井先生の本です.

  • http://www.amazon.co.jp/gp/product/4320019326/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4320019326&linkCode=as2&tag=phasetr-22

しかしこれでは明白に分量が足りません. そこを埋める, それもダイレクトに埋めてくれる 具体的な本はないと思います. 何かご存知でしたらぜひ教えてください.

特に場の理論・量子統計で作用素環を使う解析

一応, 厳密にはこれが私の専門です. 研究室は作用素環が専門の東大の河東研だったので, 本来はここです. 修士論文では作用素論しか使いませんでしたが, その後の展開では積極的に絡めています.

河東先生は相対論的な場の理論でしたが, 私は非相対論的な場の理論と量子統計方面です. 量子統計は, 河東先生の指導教官である 竹崎先生の巨大な仕事があるので, むしろその血を受け継いだ感じがあります.

学部の頃の指導教官筋で言えば, 私の指導教官のさらに指導教官は黒田成俊先生ですが, そのさらに指導教官が加藤敏夫先生です. 加藤敏夫先生は量子力学の作用素論の大家ですし, 実際に加藤-レリッヒの定理は修論でも使いました.

直接の指導教官よりも先祖返りして, 指導教官の指導教官とか そういう人達の強い影響下にある研究をしています.

ちょっと話がずれました. 具体的に作用素環の話をしましょう.

相対論的場の量子論, 非相対論的場の量子論, 量子統計でそれぞれ微妙に違う趣があります.

しかしどれも基本的なところは同じで, Bratteli-Robinson が聖典です.

  • http://www.amazon.co.jp/gp/product/3642057365/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=3642057365&linkCode=as2&tag=phasetr-22
  • http://www.amazon.co.jp/gp/product/3642082572/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=3642082572&linkCode=as2&tag=phasetr-22

全部読む必要はなく, 最低限おさえるべきは次の節です.

  • 2 章
  • ここは全部読む.
  • 2.7 は軽く眺めるだけでもよし.
  • 3 章
  • 3.1 は全部
  • 3.2 はある程度眺めて必要になったときに適宜見るくらいでも可.
  • 4 章
  • 飛ばしていい.
  • 必要になったら泣きながら読む (難しい).
  • 5 章
  • 5.2 は新井先生の「フォック空間と量子場」を読んでから読んだ方がいい.
    • http://www.amazon.co.jp/gp/product/4535783179/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4535783179&linkCode=as2&tag=phasetr-22
    • http://www.amazon.co.jp/gp/product/4535783187/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4535783187&linkCode=as2&tag=phasetr-22
  • 5.3 は 5.3.1 の KMS 条件のところは特に前半は必ず読み, あとはさっと眺めておく. 必要なところは必要なときに詳しく読めばいい.
  • 5.4 はさっと眺めておく. 概念的には全て重要. 証明の詳細よりもどんな事実が示されているか, 物理として対応することは何かに注目する.
  • 6 章
  • 6.2 は必要になったときに読めばいい. スピン系をやりたいなら必ず読むこと. 具体例で遊んでみたい人は別途読んでみても楽しい.
  • 6.3 は読まなくてもいい: 修羅の世界. 本当に難しい.

少なくとも作用素環の基礎である 2 章と, KMS の 5.3 は必ず読みましょう. KMS に関連して 3 章の半群理論が そこここに出てくるので, 必要なところをピンポイントでやるもよし, 必要だからと全部ガッとやってもいいです.

非相対論的場の量子論だと ほぼ作用素環の基礎だけで事足ります. むしろ作用素環の基本中の基本, GNS construction が魂です. 作用素環的な赤外発散処理のための道具です.

非相対論的場の量子論でも 有限温度との関係がありますし, 量子統計も自然と視野に入ってきます.

有限温度なら平衡状態を議論しないといけないし, そうなると KMS 状態の話になります. Bratteli-Robinson の 5.3 節ですね. KMS は冨田-竹崎理論との関係も極めて深いので, 冨田-竹崎理論は必ずやりましょう. これは 2.5 節です.

2.5 節の冨田-竹崎理論は weight に関する フルの理論ではありませんが, 場の理論への応用上は十分です. 必要になったら weight の場合の理論は 適宜結果だけ使えばいいでしょう.

相対論的場の量子論の散乱理論では weight を使おうという話もあるようで, そういうところでは関係してくるのでしょう. ド専門の話で完全に研究マターです.

Bratteli-Robinson を読んだら 論文がかなり読めます. 私が見ている範囲の作用素環を使う非平衡量子統計では 作用素論もある程度必要だったりはしますが, その辺は新井先生の本を読めば十分です.

論文になってしまいますが, Bratteli-Robinson の話の拡張でもある Derezinski-Jaksic-Pillet の PERTURBATION THEORY OF $W^*$-DYNAMICS, LIOUVILLEANS AND KMS-STATES は楽しいです. 作用素論との絡みもあるので, ぜひ読んでみてください.

あと相対論的場の量子論に関してもう少し補足しましょう. 河東先生がやっている方面の話です. 概要を把握するには最初にも引用した次の本がベストです.

  • https://www.amazon.co.jp/gp/product/4903342484/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4903342484&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=b15cbf059366a8ff28ab3f5e52017a06

これについて詳しく突っ込むには次の本を読みましょう.

  • http://www.amazon.co.jp/gp/product/3055016556/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=3055016556&linkCode=as2&tag=phasetr-22

Bratteli-Robinson 程度は知っていないと話になりません. 特に冨田-竹崎理論は全開で使っています. むしろ魂です.

この方面だと実際に河東先生がやっているように, 非可換幾何を介して幾何が絡んできたり, 低次元の話でジョーンズ多項式が出てきたり, それ以外にも共形場が絡むところでは 頂点作用素代数をはじめとして いろいろな数学が関係してきます.

明らかにいろいろな数学が交錯する分野です. あなたが数学に興味があるのならとても楽しい分野です.

あとは私の好みでいうなら $C^*$-力学系の話とスペクトル解析みたいなところですね. 数年前に亡くなってしまったのですが, Borchers がこのあたりをやっていた人です.

  • http://www.amazon.co.jp/gp/product/3662140780/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=3662140780&linkCode=as2&tag=phasetr-22

これは多変数関数論と超関数論を駆使しつつ, $\mathrm{R}^{d+1}$ の作用素環上への表現として $C^{*}$-力学系を考え, そのスペクトルを調べるという話です.

このスペクトルは粒子の情報も含んでいて, 相対論的場の量子論のやはり基本的な話を 数学的にがっちり議論するテーマです.

あなたが興味があるなら 「Quantum Field Theory as Dynamical System」という 論文を読んでみるのがいいでしょう. これを詳しく解説したのが上記の本です.

作用素論から見た私の専門はスペクトル解析ですし, やはりスペクトル解析好きなんですね. 多変数関数論や超関数論で, その分野じたいではあまり有名ではないし, 古い話を使うのですがそういうところがまたかなり好きで. どなたか興味がある方いれば一緒に勉強しましょう.

あと多変数関数論と超関数論が絡むところとして 楔の刃の定理 (edge of the wedge theorem) があります. これは代数解析への展開があります.

代数解析は全く手が出ていないのですが, 興味だけはずっとあります. これについては次の本に書いてあります.

  • http://www.amazon.co.jp/gp/product/4320016599/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4320016599&linkCode=as2&tag=phasetr-22

場の理論関係だと最近そんなに話を見かけません. しかし量子力学に関しては河合隆裕さんが 何かいろいろやっている感じがします. 例えば Borel 総和法だとか, 完全 WKB 解析とかですね.

本もあるのであなたがその辺に興味があるなら 読んでみてはどうでしょうか.

  • https://www.amazon.co.jp/gp/product/4000062913/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4000062913&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=3a75fd0dee4af25f13a8fa674dad5304

私はこの本はきちんと読んだことがありません. 以前眺めた限りでは 1 次元の話をいろいろやっていて, 代数解析勢は常微分方程式論をいろいろやっているので, その辺の話なのかと勝手に思ってはいます.

代数解析の話は全く追えていませんが, イジングやスピン系の厳密解など 代数解析は昔から量子力学, 場の量子論, 統計力学とある程度の関係があります.

もはや関数解析の初学どころか 関数解析の話ですらなくなっていますが, まあいいでしょう.

最後にまとめ

長くにわたってごちゃごちゃと書いてきました. 数学パートが死ぬほど長くなりましたが, バリバリド専門, お気に入りの話をしたので こんなものでしょう.

量子力学と関わる関数解析の全てとはさすがに言えません. しかしある程度の広さはおさえたとは思っています.

現代数学探険隊の募集ページ, http://phasetr.com/mtex1 でもいろいろ書いたように, 幾何や代数, 数論との関係もあります. (このページ, 相当長いので 必要なところだけ適当につまみ読みしてください.)

関数解析以外にも興味がある数学を いろいろやってみてほしいですね. 幾何については最近コンテンツ制作が滯っていますが, 微分幾何・幾何解析関係の話も少しずつやっていく予定です. そちらも楽しみにお待ちください.

物理の話もしたいんですが, 最低限の数学の話を準備できないことには なかなか話ができません.

それに合わせてミニ講座は いくつか準備しようと思っていますし, がっつりやりたい人には 現代数学探険隊 http://phasetr.com/mtex1 もあるので ご興味あればぜひどうぞ.

毎度こんなに長い返信はしきれませんが, 何か質問があれば時間がある限り答えますし, みなに共有する価値があることは積極的にシェアします.

こんな講座を開いてほしいというのもあれば, 要望を挙げてみてください. どこかに何かの形で反映させていきます.

ではまたメールします.

2017-02-17 関数解析の初学にいい本 その 3/相転移プロダクション

まずは復習.

前々回は物理をやりたいのか, それとも数学をやりたいのか はっきりさせようという話で, 物理を数学的にきちんとやろうと思うと 学部レベルの物理すら厳しいという話をしました.

前回は数学をやろうというなら, という方向で軽く新井先生の本や, 日合-柳の本の紹介をしました.

  • http://tinyurl.com/hccf47w
  • http://tinyurl.com/ksnfh69
  • http://tinyurl.com/gp8wzck

さらに大雑把に 5 種類の方向性を挙げ, そのうちの最初, ヒルベルト空間の一般論や抽象論が ほぼいらない物理に関する数学を 具体的な本とともに紹介しました.

その 5 種類は次の通りです.

  • 特に基底エネルギーを評価する不等式処理, 実解析的な処理.
  • シュレディンガー方程式などを微分方程式と見た上での微分方程式の解析.
  • ハミルトニアンを作用素と見た上で作用素論的な解析.
  • 作用素論・不等式処理に確率論を使っていく解析, 特に経路積分の解析.
  • 特に場の理論・量子統計で作用素環を使う解析.

今回は後半の 4 つを紹介します. 2 番目, 微分方程式の解析に関して話をしましょう.

シュレディンガー方程式などを微分方程式と見た上での微分方程式の解析

これは何をやるかによって 一般論・抽象論がかなり必要なところも出てきます. 例えば初回に説明した散乱理論は 作用素論に関する抽象論がかなり出てきます.

自己共役作用素の解析も必要になるので, そこで作用素論の一般論が必要になる局面があります.

当然ソボレフ空間論も必要なので, 前回の Lieb-Loss 程度のソボレフ空間論は カバーしておく必要があります.

数学としては非線型シュレディンガー方程式も 視野に入ってくるので, そちらに進んでもいいでしょうね.

非線型シュレディンガーは ソボレフや偏微分方程式の基礎を みっちりやった上での話なので, その基礎部分に関して参考文献を紹介していきます.

関係が深い話も多いですから, 前回紹介した Lieb-Loss の Analysis は 相変わらずお勧めの 1 冊に入れられます.

  • http://tinyurl.com/zr7fzex

散乱理論のような作用素論の趣も強いところは ヒルベルト空間の一般論・抽象論が必要です. これに関しては日合-柳は相変わらずお勧めですし, 新井-江沢の『量子力学の数学的構造』もお勧めです.

  • http://tinyurl.com/hccf47w
  • http://tinyurl.com/ksnfh69
  • http://tinyurl.com/gp8wzck

『量子力学の数学的構造』の II 巻の後半は 基本的に場の理論・量子統計をやるときに 必要な内容なので, 飛ばして構いません.

具体的な作用素の自己共役性や 散乱理論の一般論など, 量子力学の数学に関してもう一歩踏み込んだ本としては 同じく新井先生の『量子現象の数理』がお勧めです.

  • http://tinyurl.com/olnudbs

高いのでおいそれと買えとは言えませんが, 私は専門の関係で読むしかなかったので 買って全部読んでいます. 本質的なものでもないですが, 誤植はいろいろあったので それは新井先生にお送りしています.

研究会で会って自己紹介したとき 「丁寧な誤植訂正を送って頂いて ありがとうございました. とても助かりました」と言って頂いたこと, 今でも覚えています. その程度には新井先生の本や論文を 読み込んで育っています.

Hausdorff-Young の不等式など Lieb-Loss の Analysis レベルの 不等式処理力は前提とした上で, 『量子力学の数学的構造』や 『量子現象の数理』のネタも 1 章で ある程度証明までカバーしつつ 量子力学の散乱理論に深く踏み込んだ本として 磯崎洋先生の「多体系シュレディンガー方程式」は なかなか面白いです.

  • http://tinyurl.com/hhqgr97

一般論・抽象論が必要とは書いたものの, 全部 $L^{2}$ 上で考えておいて問題ありません. 基本は全部 $L^{2}$ ですからね.

数学として, 微分方程式としての取り扱いなら, 方程式の解の存在といった議論も視野に入ります. 時間発展を考えるときは発展方程式の議論で, Hille-吉田の定理などはふつう抽象論レベルでやるでしょう.

偏微分方程式も主戦場は $L^{p}$, $W^{k,p}$ だとはいえ, 関数解析の一般論・抽象論は必要です.

これについてはやはり 偏微分方程式関係の本がいいですね. 関数解析の抽象論からカバーしてくれる本としては, もともとフランス語でそれが和訳された ブレジスの本がいいバランスです.

  • http://tinyurl.com/z97b2pf

上の URL は日本語版へのリンクです. しかし最近改めて英語で出た バージョンの方をお勧めしておきます.

  • http://tinyurl.com/hex4zzs

ページ数が増えているので「ちょっときつい」と思うかもしれません. しかしこれはフランス語の英訳ではなく, 新たに書き直されたバージョンです.

各章末の発展的な話題にも最近の進展が反映されていますし, 実係数しか扱われていなかったのが, 付録で複素係数までカバーするようになりました.

複素係数まで含めた関数解析の本としての 完成度も高まっています. そして分厚くなった理由の 1 つとして, 演習問題の回答がついたことが挙げられます.

もともと関数解析からはじまり, $L^{p}$ の不等式やソボレフ, Hille-吉田など関連する重要な話題もカバーしつつ, 変分を基礎に具体的な線型方程式の解析も やっていて広い範囲をバランスよくおさえた本でした.

その完成度がさらに高まっているので これは本当にお勧めです. その後非線型解析に進むにしろ, 基礎としておさえておくべき内容です.

関数解析の基礎があるなら Evans の本もお勧めです.

  • http://tinyurl.com/h7bbvpt

この本は次の 3 本立てです.

  • 線型非線型問わず具体的に解ける方程式の解析.
  • 線型方程式の理論.
  • 非線型方程式の理論.

具体的に解けるところで偏微分方程式に親しみ, 線型の理論でソボレフ含め 偏微分方程式の本格的な理論への地ならしをし, 最後に非線型方程式の基礎を見るという, こちらもバランスのいい構成です.

半群理論も線型の Hille-吉田だけでなく 非線型半群も議論していますし, その辺もいたれりつくせり感があります.

非線型方程式を射程に入れているなら, 読んでみていい本でしょう. 東大の偏微分方程式の研究室の 学部 4 年セミナーでも使われている本なので, その意味でも確かな内容です.

ハミルトニアンを作用素と見た上で作用素論的な解析

これはばっちり私の専門です. もう少し広げて話すこともできるのでしょうが, 半端な話をするよりは特化させることにしました. 量子統計は微妙ですが, 場の量子論は射程距離に入れて話をします.

私は新井先生の本と論文を読んで育ち, その中で抽象論もバリバリやってきましたし, その方面が基礎です. どうしても $L^2$ の具体的なところを離れた議論, いわゆるヒルベルト空間論が必要不可欠です.

これに関しては新井先生の本が一番です. まずは『量子力学の数学的構造』を読んでから 『量子現象の数理』を読みましょう.

  • http://tinyurl.com/gp8wzck
  • http://tinyurl.com/ksnfh69
  • http://tinyurl.com/olnudbs

ここからさらに量子力学方面に進むなら Cycon, Froese, Kirsch, Simon の本でしょうか.

  • http://tinyurl.com/zhqs85h

新井先生の本は奇蹟のように読みやすいですが, これはそこまで読みやすくはありません. 気合を入れないと読めない部分も増えます.

場の理論に行くならこれもまた新井先生の 『フォック空間と量子場』ですね.

  • http://tinyurl.com/hykydmp
  • http://tinyurl.com/gltyprc

『量子力学の数学的構造』, 『量子現象の数理』と来て 『フォック空間と量子場』を読めば, 作用素論的な方面の場の理論の論文が読めます. 少なくとも新井先生の論文はかなり読めます.

I, II と上下全部合わせるとページとしては 1700 ページくらいあるのでしょうか.

こう思うとかなりのボリュームに 感じるかもしれません. しかし新井先生の本は本当に読みやすいので 体感はもっと軽いです.

他の昔の本で半ページくらいの証明を 3-4 ページ程度に渡って 懇切丁寧に書いてくれているのだと思ってください.

実際に Reed-Simon と新井先生の本で 何かの定理の証明を比較したとき, そういうことがありました.

新井先生の本が読めなければ おそらく他の本は全く読めません. 他の本や論文を読むのは本当につらかったですからね.

ここに来ると一冊一冊がもう専門書のレベルで 1 万円越えたりしますし, 学生で大学の図書館を自由に使えるならともかく, 大人なら事実上本を買うしかありません.

余計なことは考えず新井先生の本を 買った方がお金を無駄にしないですみます.

私の専門が近い話で 書けることが増えてきたせいで またかなりのボリュームになりました.

また残りは次回に回します. 確率論は勉強しきれていないのですが, 最後の作用素環に関しては修士の頃の 研究室レベルでの専門なので, また多少詳しい話になるでしょう.

数学的にもいろいろ関係することが増えるので, 数学をやりたい人には楽しい話になるはずです.

ではまたメールします.

2017-02-15 関数解析の初学にいい本 その 2/相転移プロダクション

最初に: 前回の記事を張り直し

前回, 「Hilbert 空間メインの関数解析の初学には 日合•柳の『ヒルベルト空間と線型作用素』をお勧めしたい」 という記事へのリンクを きちんと張っていませんでした.

いちいち検索するので面倒と思うので, 念のため張っておきます.

  • http://phasetr.com/blog/2013/09/27/hilbert-空間メインの関数解析の初学には日合•柳の『/

あと関連する記事ももう 1 つ.

  • http://phasetr.com/blog/2013/07/09/何度も言っている線型代数と量子力学と関数解析/

他にも関係する記事はいろいろあるのですが, 思い出せないのでまずはこの 2 つを.

前回の復習

それはさておき, 前回, 量子力学の勉強のために ヒルベルト空間論や関数解析を勉強したいと 思っている方から, 具体的に何をどう読もうか, という相談を受けたという話をしました.

それに対してまずは数学をやりたいのか, 物理をやりたいのかはっきりさせること, そして物理をやりたいなら, 現代数学観光ツアー以上の ヒルベルト空間論はやったところで無意味だから, さっさと物理を勉強しようと言いました.

数学的に厳密にやろうとすると, ちょっとしたことが既に研究最前線マターであることを, いくつか具体例を挙げて紹介しました.

厳しめのことを書きましたが, 私は実際にその方面, つまり数学的に厳密なスタイルで 物理をやる数理物理を専門にしていたので, どれほど大変なのかの実体験があります.

甘くはありません. しかし非常に楽しい分野ではあります. 少なくとも私にとっては.

というわけで書いていたら楽しくなってきて, とんでもないボリュームになりました. 1 回では長すぎるので何回かに分けて配信します.

今回からは数学よりの話をします. 量子系の数理といってもいろいろあります. それは扱いたい物理による話で, 質問された方がどの辺を意図しているのか, それがよくわかっていないので 何とも言えないところはあります.

先に質問者に聞けばいいじゃない, という話でもありますが, ある程度は網羅的に説明しようと思ったので, まあまずは情報を出そうという感じです.

新井先生の本の紹介

まず具体的に書名が挙がっていた 新井先生の『ヒルベルト空間と量子力学』と 『量子力学の数学的構造』に関して.

  • http://tinyurl.com/hccf47w
  • http://tinyurl.com/ksnfh69
  • http://tinyurl.com/gp8wzck

『ヒルベルト空間と量子力学』はきちんと 目を通していないし, 増補版は余計見切れていないものの, 少なくとも『ヒルベルト空間と量子力学』の旧版には スペクトル定理は使うだけであって, 証明が書かれていなかったはずです. その代わりに水素原子に関する議論が載っている, そういう認識です.

新井先生方面, つまり作用素論的な方面から言うなら, スペクトル定理抜きの議論には魂が入りません. 新井先生の本を読んで量子系の話をするなら, 最初から『量子力学の数学的構造』を読んだ方が早いですね.

水素原子の解析にしても, ハミルトニアンの自己共役性に関して, 続編の『量子現象の数理』で加藤-Rellich の定理からはじめて 1 章まるまる割いて議論されている程度には面倒ですし, 議論するべきこともたくさんあります.

『量子力学の数学的構造』を読む前提なら, 『ヒルベルト空間と量子力学』を読む理由をあまり感じません. 中途半端にやってもね, という感じ.

あともう 1 つ, 一般には『量子力学の数学的構造』を勧めないと書いた理由です. これは単純で, 記事ではヒルベルト空間メインとはいえ 「関数解析」に焦点を当てたからです.

新井先生の本, 特に『量子力学の数学的構造』と 続編にあたる『量子現象の数理』は, 極端なことを言えば, 新井先生の視点から量子力学に関わる数学にフォーカスしています.

関数解析の基本的で大事な定理でも, 本で扱っている範囲で使わないなら解説がありません. 『量子現象の数理』に ようやくハーン-バナッハが出てきますが, 証明がありません.

ハーン-バナッハの定理は ブレジスの本で一番最初に証明する定理ですし, 関数解析の魂となる基本定理の 1 つです.

ツォルンの補題を使うので, 集合論への耐性を必ずしも要求していない 『量子力学の数学的構造』からの流れでは 証明に触れられなかったのでしょう.

あとで触れる作用素環の話だと どうしてもハーン-バナッハがいるので, そういう方面に興味があるならやらざるを▼え

日合-柳の『ヒルベルト空間と線型作用素』

  • http://tinyurl.com/oxv8czy

しかし日合-柳の本は, 付録まで含めると関数解析の本として立派に使えます. リース-マルコフ-角谷の定理までありますし, こちらなら関数解析をやったと言える内容です. スペクトル定理の証明もあるし, 量子力学の数理でもときどき出てくる コンパクト作用素の議論もあります.

量子統計やるならある程度トレースクラスの議論も 必要ですし, その意味でも無駄ではありません. そういうわけで日合-柳をお勧めしています.

数学的にもリース-マルコフ-角谷の定理を使って スペクトル定理を証明していてなかなか気分がいいです. リース-マルコフ-角谷の定理も証明も載っていて, 至れり尽くせり感が素晴らしい良書です.

関数解析の基本定理は都度やると 割り切るなら新井先生の本だけでもいいでしょう. きちんと勉強していれば数学力もつきますし, その段階で改めて関数解析のふつうの本を読めば, 苦労なく読めるはずですから, それはそれで一手です.

テーマごとのお勧め

さて, ここからは物理のテーマごとに 合わせた数学という方向で話を進めます.

現代数学探険隊の募集ページで 量子力学がいろいろな数学と関係していることを お伝えしたので, そちらを見た方は何となくはご存知でしょう. 一応募集ページのリンクも張っておきます. 長いので, 読むにしても 必要なところだけ読んでもらえれば結構です.

  • http://phasetr.com/mtex1/

ここでは詳しい話に踏み込むので, 私が知っている分野・範囲の話しかできません. 幾何は一切抜きにしてゴリゴリの解析方面の話です.

数学から言うと大きくわけて次の通りです.

  • 特に基底エネルギーを評価する不等式処理, 実解析的な処理.
  • シュレディンガー方程式などを微分方程式と見た上での微分方程式の解析.
  • ハミルトニアンを作用素と見た上で作用素論的な解析.
  • 作用素論・不等式処理に確率論を使っていく解析, 特に経路積分の解析.
  • 特に場の理論・量子統計で作用素環を使う解析.

これらは全て独立しているわけではなく, お互いに深く関係しています. 全ての数学をきっちり勉強しきるのは難しいですし, 好き・嫌いまたは得意・不得意があるので, ふつうはどれかをメインにします. 私は作用素論・作用素環論を使う方面で, 量子力学というよりも場の理論・量子統計に重きを置いています.

下の 3 つに関してはヒルベルト空間論を こってりやる意味があるし, その必要もあります.

まずはヒルベルト空間の一般論が それほど必要ないところからやりましょう. 大雑把に言って先のリストで 上から順にヒルベルト空間の一般論や, 関数解析の抽象論が必要になっていきます.

特に基底エネルギーを評価する不等式処理, 実解析的な処理

これは $L^{2}$ やソボレフ空間 $H^{1}$ が主戦場で, 特にそこでの不等式評価がキモです.

本としては Lieb-Loss の Analysis が 突き抜けています.

  • http://tinyurl.com/zr7fzex

これはこの分野の世界的権威である Lieb (と Loss) が応用の現場を意識して, とっつきづらい関数解析の抽象論には 一切触れず $L^{p}$ の中で議論しきろうと書かれた本です.

ヒルベルト空間やバナッハ空間上での 基本定理は全て $L^{p}$ で議論されています. ルベーグ積分の定義からはじまってはいますが, 事実上ルベーグ積分は既習が前提です.

この本, Lieb-Loss の「現場の数学」を貫き通しすぎて, 抽象論がないからといっても 全く簡単ではありません.

それは不等式評価が苛烈だからです. 具体的な $L^{p}$ や $H^{k}$ での議論であり, 物質の安定性のように ハードな評価が必要な分野への応用も意図しているため,

ふつうの数学書で滅多に見かけない 最良定数評価もきっちりやっていて そういう部分は本当にきついです.

ただ量子力学への応用を意識して, ソボレフ空間の議論も過度に一般化せず, 詳しい議論はほぼ $H^{1}$ と $H^{1/2}$ に限定しています.

後半で量子力学, 特にシュレディンガー方程式の 解析にも関わる, クーロンポテンシャルの解析や ポアソン方程式などの議論があった上で, シュレディンガー方程式自体の議論もあります.

固有値評価に関する詳しい議論もあれば, 量子化学で重要な密度汎関数でもある トーマス-フェルミ汎関数の議論もあって, そこまで含めて参考になります. まさに量子系の数理という感じです.

ただトーマス-フェルミに関しては 引用されている原論文を読んで方が わかりやすいですね.

以前, 実際にこの辺を専門にしたいと 言っている院生から Lieb-Loss の Analysis のトーマス-フェルミパートが わけわからん! という相談を受けたので, トーマス-フェルミに関する セミナーをやってこともあります.

どうしてもわからないところがあったので, 原論文をあたってみたら その方が遥かにわかりやすかったという話です.

物理として何をやるかは難しいところですが, Lieb-Loss を読み終わったあと Lieb の方面としては物質の安定性や BEC がとっつきやすいでしょうか.

BEC でも議論される Gross-Pitaevski 方程式は 非線型シュレディンガー方程式と呼ばれるタイプの方程式で, 非線型の偏微分方程式論をやるという手もあります.

何はともあれ同じく Lieb が書いた本として, Stability of matter と The Mathematics of the Bose Gas and its Condensation (Oberwolfach Seminars) を勧めておきましょう.

  • http://tinyurl.com/oaujpaj
  • http://arxiv.org/abs/cond-mat/0610117

どちらもかなり難しいです. 基本的に使っている数学は $L^p$ や $H^1$ と そこでの不等式評価だけで, 一般論・抽象論の出番はほぼありません.

また長くなってきたのでまた切ります. 残りは次回に回します.

2017-02-14 関数解析の初学にいい本/相転移プロダクション

はじめに: 今回の背景

読者の方からメール頂いた話で, 多分他の方にも役に立つだろうから いったん全体への返信という形でお返事します.

量子力学を深く勉強するために ヒルベルト空間論, 関数解析をやろうとしていて, それに対する本の選択とかそういう相談です. たぶん.

Twitter というか私のサイト http://phasetr.com に 「Hilbert 空間メインの関数解析の初学には 日合•柳の『ヒルベルト空間と線型作用素』をお勧めしたい」 という記事を書いていて, その中に『新井先生の『量子力学の数学的構造』があるが, 一般にはあまりお勧めしない』と書いたりしました.

  • http://tinyurl.com/oxv8czy
  • http://tinyurl.com/ksnfh69
  • http://tinyurl.com/gp8wzck

その方がこれを読もうとしていたそうなので, それでどうしようか, という問い合わせです.

ちなみにこの人, 量子力学の数理, 特に量子測定などで知っている人は皆知っている 小澤正直先生に相談して von Neumann の 「量子力学の数学的基礎」を勧められたものの, 古いから新井朝雄先生の「ヒルベルト空間と量子力学」を読もう と思っている, とかいう訳のわからないことを言ってきました.

世界的な研究者に相談しておきながら, そこで勧められた本を無視して ど素人が勝手に自分の趣味で本を選ぶという行為が そもそも全く理解できなくて衝撃を受けました. 世界的な研究者の時間を奪っておいて, その話を聞かないとか何がしたかったのか全くわかりません.

率直に言って, すごいことするな, 何のために小澤先生に相談したんだ, こいつは何を考えているんだ, と.

確かこの人, もともと量子化学の研究者だと 言っていたと思うのですが, ふだんからこんな感じでやってたのでしょうか. 謎です.

小澤先生を無視しつつ, 何で私なんぞの意見あてにするんだ, 重鎮の意見を無視するのにこっちの意見は聞くのか, 何なんだと.

それはともかく, 参考になるところはあると思うので 私の見解をまとめます. いつも言っていることとはいえ, あなたははじめて聞くかもしれませんし, 改めていうことにも意味はあるはずですから.

あなたがしたいのは物理ですか? 数学ですか?

究極的なところからはじめます. 数学をやりたいのか, 物理をやりたいのかをはっきりさせてください.

あくまでも物理がやりたいというなら ルベーグ積分や関数解析をいくらやっても無意味です. 本当に無意味です. 数学はさっさと捨てて物理をやりましょう.

何故無意味かというと, 学部 3 年レベルの量子力学で出てくる話ですら, 数学的に追いきれないことが山程あるからです. これは私やあなたが愚かだから, とかそんなちゃちなレベルではありません. 現実問題として研究マターです.

あなたが研究者なら「そうは言っても 皆がやっていない穴とかあるんじゃないの? そういうところなら何とかなるのでは?」 と思うかもしれません. 残念ながらそんな都合のいい話はありません.

優秀な人が一所懸命やってできるところは たいがい潰されています. 残っているのは本質的な ブレークスルーが 5-10 個ないと進まない, そういう感じと思ってください.

数学的に厳密なスタイルの限界

レーザー, 量子電気力学, 散乱

具体例を挙げましょう. 物理の学部 3-4 年でレーザーに関する話, 量子光学的な話をやります. これを厳格にやろうと思うと 非相対論的量子電気力学が出てきます.

そしてこれは 2017 年現在でも 数理物理の研究最前線です.

もう 4 年も前の話ですが, これよりもう少し簡単な Nelson モデルの散乱理論に関して Dybalski さんからメールを頂いたことがあります. この人はもともと相対論的場の量子論の散乱理論を 研究している人で, 具体的なモデルの研究ということで, 非相対論的場の量子論にも踏み込んできたようです.

多体系の量子論, 量子統計に関するプレプリントを arXiv に上げたときに「自分も多体系に興味があって 研究しているからぜひ論文を読んでほしい」というメールでした.

そのときメールで教えて頂いたのは次の論文です.

  • http://arxiv.org/abs/1302.5001
  • http://arxiv.org/abs/1302.5012

これ, 電子と場の相互作用系なのですが, 扱う電子は 2 つですからね. 1 つでも厳しいというのが現状です.

この時点でまともな物理の人なら 「数学的に厳密な話なんて 全く使いものにならないな」と 思うでしょう.

もしかしたらあなたは「これは場の理論だから 厳しいのでは?」と思ったかもしれません. しかしその見込は甘いです.

量子力学の散乱

例えば数学的に厳密な量子力学の散乱理論ですら, 2 体はだいたい何とかなったものの, 3 体で既に研究の最前線のようです.

  • https://www.jstage.jst.go.jp/article/sugaku/59/2/59_2_171/_pdf
  • https://www.jstage.jst.go.jp/article/sugaku/59/2/59_2_172/_pdf
  • https://www.jstage.jst.go.jp/article/sugaku/62/2/62_0622278/_pdf

最後の PDF が一番状況がよくわかるでしょう. 9 年前の話ではありますが, 3 体問題が難しいという絶望的な話をしています. 数学ベースであっても散乱理論の研究は 50 年以上続いているので, 一般の N 体に関する知見が この 8 年程度で爆発的に広がったとは思えません.

数学に厳密な物理の厳しさ

数学的に厳密な話など いくらがんばったところでこの程度です. もちろん数学サイドなら別にいいのです. 数学として面白いならそれでいいし, 実際磯崎先生がそれで数学会の賞を取るほどに 面白い話が展開できているわけですから. もちろん世界的にも認められている業績です.

しかし物理としては 2 体, 3 体の散乱で いくらシャープな結果が出ても, ご利益は何も感じないでしょう.

こんなことしたいですか? という話です.

現代数学観光ツアーで十分

というわけで, 物理がしたいという人はヒルベルト空間論や 関数解析をやっている暇があるなら, さっさと物理にうつりましょう.

現代数学観光ツアーで紹介したレベルの 話がおさえられていれば十二分です. 関数解析というよりも線型代数の適用範囲を もっと積極的に広げたよ, 一度慣れておけばいろいろなことを 統一的に眺められて便利だよ, そのくらいの認識でほぼ完璧です.

あなたは現代数学観光ツアーを知らないかもしれないので, 一応改めて宣伝しておきましょう. 次の URL から登録ページに飛んでください. 講座の説明もしてあります. 無料ですし気に入らなければすぐ登録解除もできます.

  • http://phasetr.com/mtlp1/

長くなってきので, 残りは次に回します. 次回は数学をやると決めた場合の対応です.

ではまたメールします.

2017-02-05 モース理論をやろう/相転移プロダクション

久し振りのメルマガになってしまいました.

お金を頂いて通信講座を作っているわけで, 講座と直接関係のないことであっても 毎日いろいろ勉強しています.

現代数学探険隊の募集ページでは 幾何との接続についてもいろいろ 書いているので, 特に幾何はちょこちょこ勉強しています.

  • https://phasetr.com/mtex1/

で, 最近, ようやくモース理論を少し勉強したのですが, やはり面白そうだ, という感じでちょっと テンションが上がっています.

そのテンションのまま メールを書いています.

幾何の素人からして, モース理論と言えばミルナーなわけです.

  • http://www.amazon.co.jp/gp/product/0691080089/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=0691080089&linkCode=as2&tag=phasetr-22

ただ, ウィッテンの仕事でモース理論も 装いを新たにしたところがあったわけで, それを承けた展開はどうなっているのだろう, と思うわけです.

Twitter で適当に呟いたところ, 幾何の人から次の本を教えてもらいました.

  • https://www.amazon.co.jp/gp/product/3034896883/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=3034896883&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=1a69b47e4cfa2b6153f692bac956cc77

並行してこれ以外にもイントロ系の PDF を眺めていて, 何となく雰囲気は掴めてきたので, この本をまず 1 周させようと思っているところです.

これ, ゴリゴリの解析という趣があり, 解析の人が幾何に近づくには かなりいいのではないかと思っていて, それで今回紹介しようとメールを書いているところです.

これに関して情報探索中, 中高数学の講座向けの コンテンツも見つけたので, それを自分なりにアレンジした コンテンツを中高数学講座のモニターにも 流してあります.

モニターはまだ募集中なので, 興味があればぜひ登録してコメントください.

  • https://m.phasetr.com/p/r/DoXk594g

本題のゴリゴリの話に戻します.

一応書いておくと, ゴリゴリの解析というのは, 本当に数学科の解析学という意味でゴリゴリで, ソボレフ空間とか出てきます.

現代数学探険隊では ルベーグ積分パートでソボレフ空間を 扱っていますし, 偏微分方程式を議論するところでも 基礎は議論することになりつつあるので, 講座の続きで幾何を勉強したいという方に ちょうどよさそう, と思っています.

そもそもモース理論をほとんど知らないから, 関係を語れないから, と思っていま必死で勉強をはじめたところです.

ちなみにあなたがソボレフみたいな ゴリゴリの解析を知らなくても, ミルナーのモース理論は読めるはずです.

こっちの少なくとも最初の方は 学部教養レベルの数学しか使っていない (はず) なので.

n 次元空間に埋め込まれた多様体, とくにトーラスをイメージして 議論を進めていて, ミルナーの本は初学者で 取り組みやすい本です.

幾何と解析の交点という意味で, ちょうどいい感じでおすすめできますね.

何か今日はメールの内容が あっちこっちに飛んでいますね. まあいいか.

ウィッテンからの流れに関して ごく簡単に説明しておきましょう.

ウィッテンからの流れは 論文にもある通り, 超対称的量子論を使った議論が背景にあります.

モース関数を指数関数の肩に載せた 関数を外微分作用素に引っかけて 新たに外微分作用素を作ります.

そしてこの外微分作用素に関する (ド・ラーム) 複体を作って, ホッジ理論をやる, というのが大雑把な流れです.

ホッジ理論は楕円型作用素の ラプラシアンの解析なわけで, ゴリゴリの解析です. これは楽しそうなわけですよ.

モース理論自体, ポアンカレ双対性を高さ関数の 時間逆回転として理解するなど, 幾何的示唆に溢れた理論で, これ自体楽しい理論 (ということを今さら知った) なので, せっかくだしあなたもやりましょう.

そうは言っても読み切れるかもわからない 本を買うのはちょっと, とあなたは思っているかもしれません.

割と気楽にさらりと全体像を掴める PDF がネットに落ちています. 私もこれで大雑把なところを掴みました. ぜひこの辺を眺めてみてください.

  • https://math.berkeley.edu/~alanw/240papers03/chen.pdf
  • http://people.maths.ox.ac.uk/ritter/morse/ritter-book-introduction.pdf
  • http://math.bme.hu/~gabor/morse.pdf

ではまたメールします.

層の基本的な構成: 現代幾何編/相転移プロダクション

アンケートで希望が多かった幾何について, 第 2 回を作りました. 次の URL から PDF をダウンロードしてください.

記述が粗いところもありますが, あとで適宜詳しくしようとも思っています.

これまでの文は次の URL からも取得できるので, 参考にしてください.

最近のメルマガはサイトにも転載してあるので ご興味あればこちらもどうぞ.

中高数学を微分方程式の数値計算から見直し, プログラミングとも絡めて展開している 中高数学駆け込み寺という企画についても載せています.

次回から多様体の話に入ります. 数学科の数学の基本的なスキルセットを持っていないと きついと思いますが,

逆にどんな道具がどのくらい必要なのか 測る目安にもしてください.

またメールします.

層と前層: 現代幾何編その 1/相転移プロダクション

先日, 現代数学観光ツアーとこちらの本家の 数学と物理のぶっ放し系のメルマガで 登録されている方の現状アンケートを取りました.

その結果で割と要望が多かった現代幾何に関して, いったん初回分を次のようにまとめました.

次の URL から PDF をダウンロードしてください.

本編は 1 番最後の 01_01 からはじまります. 前 2 つはイントロです.

現代数学観光ツアーでやった話, 特に代数-幾何対応を前提に進めています. 代数パートがまさに層なので, 層の話からはじめています.

いまのところ証明はあまり詳しくしていません. 必要なら次のセールの論文を読みながら眺めてみてください.

こうなると, むしろもっと全面的にセールの論文から 議論を持ってくればよかった気がしないでもありません.

理工系の教養レベルは大丈夫, そんな方が多かったですが, 集合論や位相空間論は大丈夫なんでしょうか?

その辺はもう全開で使いまくってるんですが.

現代数学観光ツアーでその辺の参考文献は紹介してますし, いいかと思ってやってしまっています.

超弦理論にアタックしようとされている方で まだ学部生の方もいらっしゃるようですし, このくらいの数学がいるんだよ, というイメージにもなるかと思って.

ある程度進めてきたら少しずつだれてくるし, 飽きてもくると予想しています. 誰がだれるって私がだれる.

そうしたら量子系のネタで物質の安定性でも やろうかな, と考えています. こっちはバリバリルベーグを使う ハードアナリシスになる予定です.

超弦みたいなのじゃなくて量子力学やりたいんだ! って方はもうしばらく待ってください. 交互に適度に進めていく予定です.


最近忙しくてどこに何を流したのか 忘れつつあるんですが, 中高生または中高数学が復習したい大人向け講座として, 中高数学駆け込み寺という企画もやっています.

ご興味ある方は次の登録ページから登録してください.

次の URL からはこれまでに配信した分の情報が辿れます. 物理, 工学から見たいわゆる役に立つ方面の話をしています. プログラミングに関する話もしているので, そっちに興味がある方もぜひ参加してみてください.

ではまたメールします.

数物小ネタ: バナッハ空間と潮汐力と熱力学と

週末でようやく平日に情報収集して仕入れた小ネタを 多少なりとも消化できました.

その辺はふだんブログにメモとして残しているばかりで あまりメルマガにまで流していません. 久し振りにその辺も流してみようかと思います.

バナッハ空間

発端は次のツイート

  • https://twitter.com/__dingdongbell/status/795158590247956480

バナッハ空間で「有界閉集合はコンパクト」と「有限次元」って同値なの

これに対して p 進大好き bot 答えて曰く:

@__dingdongbell なんかnが大文字になってしまいました。 Q^nは全体が有開閉かつ非コンパクトなのに有限次元。

@non_archimedean なるほどありがとうございます・・・ (ちなみに逆は成り立つんですか…?)

@__dingdongbell 「有界閉集合がコンパクト」→ 「0次元または体が局所体か有限体」なので、 体が局所体または有限体の場合のみ考えればよく、 その場合はバナッハ空間が直交化可能(l^2空間と同型)なので 正規直交基底を持つ場合を考えればよく、

@__dingdongbell 正規直交基底は有界離散部分集合を定め、 離散集合がコンパクトであることは有限集合であることと同値なので、 有限次元であることが示されます。

@non_archimedean 知らない事実のオンパレードでしたorzありがとうございますm(__)m

@__dingdongbell 「有界閉がコンパクト」→ 「reductionが有限次元」は簡単に言えるので、 最初から正規直交基底を持つことが分かっている状況なら もっと簡単に示せますけどね。

そしてしばらくやりとりが続いて私が首を突っ込みます.

@non_archimedean @__dingdongbell これ、 体が実数か複素数なら元の同値は成り立つのでしょうか? wikipediaには局所体に実数、複素数を含めることもあるとか 書いてあって付値あたりの話をまるで知らないので判断つかない状態です

@phasetr @__dingdongbell 僕は非アルキメデスのみ考えていましたが、 RとCでも成立します。 正規直交化可能性は成り立ちませんが、 同値性を示したいだけならリースの補題から同様に無限離散集合を作れば良いです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Riesz%27s_lemma

@non_archimedean @phasetr なるほど、ありがとうございます

これはもとの命題が実数と複素数なら成り立つと思っていた (証明も読んだはずだがパッと思い出せなかった) ので, かなり驚いて「実数と複素数でも本当に成り立つんだったか」と 不安になって思わず聞いてしまったという経緯です.

超有名な事実ですが非アルキメデスだと反例が あると知って本当に驚きました.

ちなみに R や C 上の議論は次の PDF, 特に最終のページの命題に綺麗にまとまっています.

  • http://www.math.nagoya-u.ac.jp/~noby/pdf/fana/10/fana10_2.pdf

非アルキメデス体では本当に R や C 上の関数解析の 直観がまるで効かないことを改めて実感しました.

潮汐力

発端は次のツイートです.

  • https://twitter.com/hiroki_f/status/794530022354599936

PDF への直接リンクは次の通りです.

  • http://www.math.nagoya-u.ac.jp/~noby/pdf/fana/10/fana10_2.pdf

確かに面白いんですが, これ, 序盤で次のように出てきます.

地球物理・惑星物理の専門家にとっては完全に解決されている問題なのだが、 門外漢たちが何度も誤解を蒸し返しているのである。

この話が中心になるのかと思っていたら, 物理の人間からの考察がメインで, 「いや, 完全に解決された視点で話した方が速くて正確なのでは」 という気持ちになりました.

こういうコンテンツももっと出した方がいいのだろうな, とは思っています.

身近なネタというか何というか. あまり「遊び」のある話ができていないのは ずっと懸念点として持っています.

一般の熱エンジンの効率とスピードに関する原理的限界の発見: 要は熱力学

これも適当に Twitter で見かけた話です. いくつか関連リンクを張っておきましょう.

  • 慶應のプレスリリース: https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2016/10/31/28-18691/
  • 何故か PC watch のニュースになっていた記事: http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1027753.html
  • プレプリント: https://arxiv.org/abs/1605.00356

PC watch の記事が端的にまとまっています. 慶應のプレスリリースもかなり丁寧に書いてあります.

時間がなくて読み込めていないけれども原論文も張っておきました. アンケートの中に「論文が読めるようになりたい」と書く方もいたので, 一応論文もぺたっと張ってみた形です.

プレスリリースなどにもあるように, 正確には熱力学の枠ではなく (古典) 統計力学の枠でやっています.

少なくとも平衡系の熱力学には原則として 時間の概念はないのでそもそも効率の話をできるわけがありません.

確率過程論と統計力学との関係だとか, 不等式で限界評価する議論だとか, いろいろなポイントがある論文っぽいので読んで楽しそうな感じはします.

ちなみに不等式による評価を結論とする 議論は熱力学では大事です.

プレスリリースにもあるように 「何かができない」という形での明確な主張を持つ言明が多く, その不可能性が不等式で表現されるタイプの理論だからですね.

潮汐力に続き, 物理小ネタももっと紹介したいし 論文の紹介もやりたいですね. そしてこの辺が楽に通じるように 読者レベルの底上げ用コンテンツの整備も急がれます.

がんばろう.

またメールします.