2018¶
2018-12-17 トポロジーと幾何学入門/相転移プロダクション¶
現代数学観光ツアーのアンケートを見ていて, あまりきちんと紹介していない本を 紹介するタイミングだと思ったので, メール書きます. 半年くらいシコシコやっていた, 幾何に関する話の簡単なまとめでもあります.
最初に前提を書いておきます. 既に定年を迎えた方で, 『昔の夢「数学をしたい」をもう一度』ということでした. いまの予備知識・数学的能力については, 記述がなくてよくわからない状況です. これ, アンケートにきちんと 項目をつけておかなかったのが敗因でしょう.
今後アンケートフォームは一本化する予定なので, いったんふだんのメルマガ用の フォームには項目追加しておきました.
よく的確なアンケートを作るのはプロの仕事, というのを聞きますが, あれは本当だ, というのを アンケート取りはじめて痛感しています.
それはさておき, 本のお勧めです. まず「測度, トポロジー, 関数論への再挑戦ガイド」 というコメントがありました. 統一感がなく, なぜその 3 つなのか, というのもわからないのでなかなか困ります.
この論文を読んでみたい, とかもっと具体的な「こんな問題にアタックしてみたい」みたいなのがないので.
それはさておき.
質問された方がどのくらい数学の基礎学力を お持ちかよくわからないので, まずは一番予備知識と能力が少なくても 切り込んでいけるトポロジーに関して本を紹介します.
とりあえずトポロジーを基礎から概観する目的では, シンガー・ソープの「トポロジーと幾何学入門」 をお勧めしておきましょう.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/4563001503/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4563001503&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=1b9511aeb4d57274a51f96dcb23fe47c
東北大助教の黒木さんの推薦コメントの ツイート URL も紹介しておきます.
- https://twitter.com/genkuroki/status/972634449102843904
この本のいいところは集合と位相空間が 異様にすっきりまとまっていて, 代数トポロジーの基礎である ホモトピーとホモロジーも書いてあり, 多様体と微分幾何入門まで盛り込んである本です.
黒木さんのコメントにもあるように, 簡単に読める本というわけではありませんが, 200 ページそこそこにいろいろ書いてあるので, ある程度大きな姿を見通すのにとても便利です.
測度論が少し特異で, その他 2 つと どういう関係で書いているのかが掴みかねています. 食い合わせがあまりよくないと言ってもいいでしょう. ルベーグ積分論とどういう区別をつけているのか, という話もあります.
関数論も幾何の色彩が強くなっているので, 他 2 つを幾何と思うなら, 幾何的測度論を眺めてみると楽しいのかもしれません. ただ, 幾何的測度論の本は測度論をある程度知っている前提で 書いてある方が多いでしょうから, 入門や再挑戦にはあまり適切な方向性ではありません.
ルベーグ積分と関数論の絡みであとで少し書くことにして, 測度論についてはルベーグ積分論または確率論で 勉強してほしい, ということだけ書いておきましょう.
関数論の入門としては, 以前, 早稲田・東工大の学生に対してセミナーをしたときの 原稿を紹介しておきます.
- https://github.com/phasetr/math-textbook
A4 13 ページくらいで 1 変数関数論の大枠を紹介しています. 現代数学観光ツアーとスタンスが違うので, 証明が割ときちんと書いてあります.
その当時の活動のモチベーションなどいろいろな理由から, 英語の原稿だけしかありません. 和訳は作る時間が取れていないままです. アンケートを見る限り, 英語を苦にしなさそうな感じがあったので, 紹介することにしました.
最近の関数論は幾何との関連が強くなっています. そうでなくてもリーマン面は 数学として (複素) 多様体が出てきた地でもあり, ホモトピーやコホモロジーとの関係も深いので, トポロジーの実践の地として真っ先に目指すべき場所です. 以前紹介した Forster の本を改めて紹介しておきます.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/1461259630/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=1461259630&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=d4bbba505c768a851d7b6add548e6958
リーマン面に限らずトポロジーを含めても, 幾何で調和積分論は基礎教養です. これは楕円型の偏微分方程式論との関わりが深く, 必然的にルベーグ積分論との結びつきが強いので, その線から測度論, ひいてはルベーグ積分論の 動機づけをするといいのではないかと思います.
もう 1 つ, ヘルマンダー流の多変数関数論では, 関数解析を駆使したディーバー方程式の理論があります.
- http://www.amazon.co.jp/gp/product/0444884467/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=0444884467&linkCode=as2&tag=phasetr-22
これも全くもって簡単な本ではありません. 私にとっても, 多少の必要性があって学部 4 年でアタックしたとき, 非常にきつかった本でさえあります. 現代数学観光ツアーのメインである 関数解析と関数論の関係として 1 つ重要な要素があるので, 紹介しておきました.
最後, 簡単にまとめておきます. 急ぐことでもないと思うので, まずはシンガー・ソープをじっくり読むのがいいのではないでしょうか.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/4563001503/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4563001503&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=1b9511aeb4d57274a51f96dcb23fe47c
現状の現代数学観光ツアーは 一般の位相空間論をほとんど議論していないため, 測度論はともかく, トポロジーや関数論を勉強するには向いていません.
来年は現代数学観光ツアーの再編を予定しているので, そこで位相空間論のイントロもちゃんとやろうかとも思っています. 私が勉強した講義・本と, 解析的な志向性の強さから, 現代数学探険隊では実数論からの導入という流れにしていますが, これは幾何の人からすると必ずしもとっつきやすいわけではない, という話も聞いています.
どうやって導入するか悩むよりも, いろいろな導入を作ってしまう方が楽そうなので, まずは私の趣味で作り直して, あとはいろいろな導入の流れを考えていこうと思っています.
というわけで改めてシンガー・ソープへの Amazon リンクを貼っておきます.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/4563001503/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4563001503&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=1b9511aeb4d57274a51f96dcb23fe47c
日本語だと中古しかなく, しかも高いので, 英語の安い中古を買うのも一手です.
今回はとりあえずこんなところで. またメールします.
2018-12-16 物理の勉強会/相転移プロダクション¶
先日宣言した通り, いまは量子力学の観測理論を勉強しています. いつも通信講座などでも書いているように, まずは大雑把な全体把握のために 本を流し読みしていて半分を過ぎたくらいです.
思った以上に, というか, ほぼ完全に正作用素値測度の話でした. まだ観測理論の議論を正作用素値測度の 議論に帰着させる理由が見えていません.
最後の章で正作用素値測度を議論する 理由が議論されるようです. 本来は先に読んでしまうべきでしょう. 急ぐわけでもないので, 何となく本の順番通りに読もうと思い, 初読の順番としてとってあります.
実は 11 月からいろいろな目的があって 多言語学習塾というのに入り, そちらの勉強も進めています. かなりてんてこまいです.
平日は毎日 1 時間オンライン講義があります. やってもやってもいろいろなことを忘れるのですが, 毎回の授業でくどく復習してくれるので, 非常に助かっています.
特に雑に読んでいる関係上, 量子力学の観測理論の勉強をしていても, 細かな定義をすぐに忘れます.
こういうのを思うと, コンテンツまたは講義で細かく復習を入れていくのは 大事だなと改めて思います. こういう実感を掴むためにも, 純粋な学習サイドに回る機会を作るのも大事なことがわかりました.
いま中高数学のオンライン勉強会でも, いったん私の講義として概要を話しているところですが, そちらも丁寧に復習しないといけないと思っています.
ただでさえ忙しいのにさらに忙しくなってしまいますが, 来年の種蒔きがしたいので, 簡単なアンケートをします. 最近久し振りに多少なりとも物理らしいことを勉強しているので, その辺の絡みもあります.
タイトルに書いたように, 来年は物理の勉強会をしようかと思っています. これまで何年も数学の話ばかりしていたので, そろそろ物理をやろうと. ある程度数学・物理ができる人相手を想定していて, さらに東京近郊でのリアルの勉強会を考えています.
メルマガ読者の中には 恐ろしく広範囲の趣味・志向を持つ人がいるので ここでの「ある程度」はレベル設定が難しいのですが, どんなに低くても高校数学はクリアしているくらいを考えています. そうしないと大学レベルの物理ができないからです.
もしあなたが参加希望されるなら, 何を勉強してみたいかなどを教えてください. いつもの Google のアンケートだと誰だかわからないので, メールに返信する形で回答お願いします. リアルの勉強会のために会議室を借りる必要があるので,
大事な注意です. こちらは毎回会費として, 貸し会議室の利用料も含めて事前に一人二万円ほど頂く予定です. ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ちなみにこちらは私が一方的に講義するスタイルではなく, 参加者の皆さんが何かの本を輪読していくスタイルを考えています. 理由はこちらの方が絶対に定着するからです.
最初は 5 人くらいで, 様子を見て隔週から月一くらいでできたらいいな, と思っています. Facebook のグループあたりで 参加者用の交流の場というか, 日々の質疑応答の場も準備する予定です.
集まる人にもよるのでまだ何とも言えませんが, 次の本あたりを使って量子力学か相対論の入門的なところを かちっとやろうかと思っています.
- 「一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する」 https://www.amazon.co.jp/dp/4860644980
- 「原論文で学ぶアインシュタインの相対性理論」https://www.amazon.co.jp/dp/4480094423
- 「量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために」 https://www.amazon.co.jp/dp/4781910629
- 「ブラックホールと時空の方程式」 https://www.morikita.co.jp/books/book/3153
集まった人の要望にもよるため, あくまで本や内容は未定で, 上に挙げたのはいまの想定です. 自分でゴリゴリできる人よりも, 勉強の助けがほしい人が来るだろうという見込で, そうなるとこのあたりだろうか, という感じで選びました. 相対論の方は数学の解説も詳しいので.
あとは相対論と量子力学をやってみたいという人も多いので, そこを重視したというのもあります.
念のため. どうしても今すぐ高校レベルの物理をやってみたい, そして教えてほしい, という方は 大学受験の予備校利用を検討してみてください. 高校生に混じって講義に出るのが恥ずかしかったり, 身近にリアルの塾などがなくても, 最近はサテライトの映像授業もあります. もちろん月額 980 円で授業取り放題, というサービスなども出てきています.
今回の物理はリアルでみっちりやる想定ですし, いまの大人向け学び直し市場の相場感も見ながら 費用感を考えています. 安くしすぎると本業でやっている人達の首を締めることになり, それは絶対にやりたくないからです.
貸し会議室の費用などもあり, 有料にはなってしまうのですが, もし興味があればぜひご連絡ください. 現状の技術では, やはりオフラインでないと できないこともたくさんあるので.
ではまたメールします.
2018-12-01 量子と情報/相転移プロダクション¶
一時期, 量子力学で有名なハイゼンベルグの不等式が 破れているという話題がありました. その破れに関する小澤の不等式で有名な小澤正直さんの これまでの論考がまとまった本として, 『量子と情報』という本が出ました.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/4791771109/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4791771109&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=4715ba026270a8d54daf801224f3b78d
これ読んだら面白かったので紹介しておきます.
もともと青土社の『現代思想』という雑誌への寄稿なので, 数学的な記述はほぼありません. 話題が話題なので, 物理の言葉自体は乱舞していますし, 最低限の量子力学の知見がないとさすがに 内容をきちんと理解することは無理ではあります. それでも, 雰囲気は掴めるはずです.
もしあなたが量子力学の基礎理論に興味があるなら, ぜひ買ってみてください. お勧めです.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/4791771109/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4791771109&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=4715ba026270a8d54daf801224f3b78d
これで終わっても何なので, 多少は感想を書いておきましょう.
以前, 小澤の不等式が話題になったとき, それ程興味なくてあまりきちんと追いかけておらず, これでようやく状況が何となくわかりました. もともとハイゼンベルグは測定誤差の話をしていたのに, いつの間にかゆらぎの話に変わっていて, そのギャップを正確に追いかけることが話のキモでした.
この辺, あまりきちんと勉強していなくて, いわゆる射影仮説がいまや否定されていて, それも小澤の不等式が成り立つ理由の 1 つのようです. 射影仮説が否定されているのを知らなくて, さすがに驚きました.
私は観測理論について何もわかっていないことがわかったので, 大きな収穫です.
小澤正直さんは超準解析も使ったりしているようで, その辺は私の制御の及ぶところではないにせよ, フォン・ノイマン以来の作用素論/作用素環論による 量子論の数学的定式化を比較的に素直に継承しているはずで, 私は数学的バックグラウンドはかなり近い方です. そういう事情も手伝ってかなり興味が湧いてきました.
知識のブラッシュアップも含めて, いままで量子情報関係の話を勉強してみようと思いつつ, あまり手が出ていなかったのですが, この本を読んで, 私は量子情報というよりも 観測の理論あたりの基礎理論にこそ興味があることに気付けたのも収穫です.
何冊か文献を教えてもらったので, 何となく新しめの方がいいかと思い, 奮発して次の本を買いました.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/3319433873/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=3319433873&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=e067100c398e6859ca5d06be0e8aef8f
約 20,000 円です. 1 冊でこの値段とか信じられないくらい高いですが, 洋書の専門書だとだいたいこのくらいですね. かなりつらい.
せっかく買ったのだし頑張って勉強します. 幾何系の勉強やらコンテンツ制作などはいったんストップして, しばらくこれの勉強に集中しようと思っています.
小澤正直さんの本を読んだ感想ももう少し書きます.
最後のところで代数的場の量子論関係の話も出てきました. このあたりも小嶋泉先生の話で前から興味あったところなので, かなり面白かったです. これも勉強してみたい.
そこの記述で Halvorson という人が出てきます. 修士での専門を決めるべくいろいろな本や文献を流し読みしていた頃, この人の教科書 (? レビュー?) を読んだことがあります. ずっと数理物理の人だと思っていたのですが, 科学哲学の人だというのをはじめて知りました.
- https://arxiv.org/abs/math-ph/0602036
これの所属を見ると, 確かに Department of Philosophy, Princeton University とあります.
- https://philosophy.princeton.edu/content/hans-halvorson
これ見るとけっこう若い. しかも本来, (数学としては) 圏と数理論理の人っぽい.
Curriculum Vitae 見ると, 基本的にはガチガチの哲学畑の人のようです.
- https://philosophy.princeton.edu/sites/philosophy/files/person/cv/Halvorson_cv-18.pdf
この人, 何をどう考えても私より 数学も物理もできますね. 国内外問わず, 数学・物理系の数理哲学・科学哲学系の人は それぞれ数学なり物理なりかなり出来る人がいるのは知っていますが, そのタイプの人です.
こんな形で学部 4 年の頃に知った名前, Halvorson と出会うことになるとは思いませんでした. 純粋に数学としても面白いところだと思っているので, 改めて勉強意欲が湧いてきます.
改めて紹介し直しておきますが, 私が作った通信講座またはその PDF 版は, 小澤正直さんの仕事を追う上での数学的基礎はあらかたカバーしています. 興味あればぜひどうぞ.
- https://phasetr.com/mtexpdf1/
先程紹介したこれから読もうとしている本でも, 簡単なところは復習があるとはいえ, いま軽く眺めた限りでは私の講座で扱っているレベルの内容は 事実を紹介しているだけで証明はないようです.
私のコンテンツでなく, 何を使っても 勉強できる内容ではありますが, 数学の本だと物理的なところに関するコメントはまずありません. 多少なりとも物理に配慮された新井先生の教科書シリーズにしても, どこまで読むか・揃えるか考える部分はあります.
ここであえて『量子と情報』に関わる内容に触れている部分を 全ておさえようと思うと, 量子力学の数学的構造の I, II, 量子現象の数理, 量子統計力学の数理あたりが必要です. これでだいたい 25,000 円くらいします.
上で紹介した観測理論の本も約 20,000 円ですし, 専門書を揃えるとやはりこのくらいかかってしまいます. いまやある程度ネットで拾える コンテンツでも勉強自体はできます.
今度は勉強を続けるための環境整備, 具体的にはわからないことがあったときに 質問できる人々がいるかどうか問題もあります. このあたりも改善していきたいです.
ちなみに. 上で紹介した Halvorson による arXiv の文献で, 形式的には AQFT が勉強できます. ただ代数的場の量子論という分野自体, 私は修士の頃に数学力が足りずにアタックできず, まずは興味がありつつ出来るところからはじめようと思い, 新井朝雄先生方面の 構成的場の量子論に照準を合わせたという経緯があります. 半端ではないほど難しいので注意してください.
環境と言って思い出したのですが, 先日も案内した中高数学のオンライン勉強会, 5 人くらい集まって, 来週あたりからはじめる予定です.
主婦の方や高校生も参加しています. その辺の事情がいろいろあって, いったん連絡手段を LINE にしています. 興味ある方は連絡先を教えるので, 個別に連絡をください.
ではまたメールします.
2018-11-24 中高数学のオンラインセミナーの案内/相転移プロダクション¶
前のメールから一月空いてしまいました. 2 年間来る日も来る日も作り続けていた通信講座を 一通り作り終わり, 次に何をしたものかと考えつつ, この一月は幾何を雑に勉強していました.
その中で小さめの動きを 1 つ, そして新たなトライアルを 1 つやることになったので, その報告とお誘いです.
まず, 数学系 VTuber の人達と, コミケで合同誌を出すことになりました. 他にもいるのかもしれませんが, 次の 2 人が主催です.
- https://www.youtube.com/channel/UCermM-2n0vZM47b7g_U-Cqg
- https://www.youtube.com/channel/UC2lJYodMaAfFeFQrGUwhlaQ
数学ネタなら何でもいいらしいので, 最近いろいろ勉強もしている物理と幾何, そしてプログラミングみたいなところで書く予定です. 12/10 が締切なのであまり余裕がなく, 直近はこれにかかりきりになるでしょう.
で, もう 1 つ. これはメールタイトルの通りです. 中高数学に関して改めてちゃんとモノを整備しようということで.
何を作ったらいいのかわけがわからない, というのもあるので, もう実際に人集めてオンラインセミナーしつつ, 具体的に要望なり何なりを吸い上げていこうと思います. 一人, 具体的にやろうという人を見つけたので, こちらも開催決定です.
基本的には中高数学を復習したい大人向けを想定しています. 基本的には大人の復習向けにやりますが, 中高生ももちろんウェルカムです. ただし, メインの対象の大人はそれをモチベーションにできないので, 学校の試験対策みたいなことはやりません.
あと, 実際に運営している通信講座の 案内ページでいろいろ書いている方針, つまり, 大枠を掴むことを重視して, 細かい理解はあとから少しずつつけていくスタイルを 考えているので, 今すぐ, やっているところを 1 つ 1 つ丁寧に理解したい, みたいなところはあえて目指しません.
オンラインセミナーのノリに関しては, だいたい次のページ, 特に前者のような感じです.
- https://phasetr.com/mrlp1/
- https://phasetr.com/mrjhlp1/
いまの想定では, 中学数学を雑に眺めたあとに 関数と微分積分を中心にして雑に高校数学を眺め, そのあと少しずつ興味関心の高いところ, そして高校数学の大事なところを深掘りしていく形です.
もしあなたが興味あるなら, このメールに返信する形で参加表明してください. 無記名のアンケートに回答されてもこちらから個別に連絡取れないので, ご注意を.
最近流行っているので, zoom を使ってオンラインセミナーやろうと思っています.
- https://zoom.us/jp-jp/meetings.html
少なくとも iPhone にはアプリがあるので, それでも OK です. もちろんパソコンでも動きます.
今回はこのくらいで. ではまたメールします.
2018-10-06 Skype 相談およびリアルの勉強会/相転移プロダクション¶
新たな動きに関するお知らせです. 年のはじめだか切り替わりのタイミングで, 今年は中高数学系も強化したいと言いつつ, なかなか対応できていませんでした.
理由の 1 つが何をしたらいいか, どんなコンテンツを作ればいいかわからなかったことがあります. そこで, もう実際に会って聞こうと思います.
2 つ手段を考えました.
- (特に遠方の方向け) Skype 相談
- リアルの勉強会またはセミナー
今回, 勉強しようと思った経緯はともかく, 結果としてとにかくいまは中高数学をやってみたい, という方向けに話をする機会を作ります.
できればリアルで会う機会を作りたいので, リアルの勉強会・相談会またはセミナーも何度か開きたいと思っています. 場所は私が行きやすいところということで, 東京近郊 (山手沿線) です.
勉強会は適当な会議室をおさえるので, 事前に会場代の実費を頂こうと思っています. 開催時間と勉強会の内容によっては, 終わったあとの懇親会 (これも実費) も考えています.
Skype 相談に関しては, 実際, スウェーデンにお住まいの方さえいらっしゃいます. そこまですごくなくてもさすがに遠方で来られない, という方はいらっしゃると思うので.
念のため事前に書いておくと, 私は吃音があって話すのに難儀する部分があり, こちらの話が聞き取りづらいこともあると思います. それはご了承ください.
実際にどんなことを勉強しているのか, 勉強したいのか, 何で困っているのか, 座談会的に聞いてみたいですし, 必要なら軽く私が話してもいいかな, と思っています.
私がふだん散々情報を出していますし, あなたの話が聞いてみたいので, あまり私がゴリゴリと話すことは考えていません. むしろそこで聞いたことを元に, 新しく何か作ったり, 全体に情報を出すことを目的にします.
何というか, 参加資格は中高数学をやってみたい方です. それ以外に年齢や性別などは問いません.
参加希望の方は次の内容を書いて このメールに返信してください.
- 連絡先 (氏名・メールアドレス)
- 参加したいのはSkype 相談かリアル勉強会か (両方でも可)
- 何を相談したいか, どんなことを聞きたいか
- 勉強会をやるとしたらどんなことをしたいか・してほしいか
- Skype 相談の希望日時
- 勉強会をやってほしい曜日・時間 (土曜日のお昼にランチしつつとか, 平日午後とか, 休日に飲み会的にやるとか)
他にも聞きたいことができたら, やりとりの中でさらに追加で伺うことにします.
大学レベルの数学や物理に関しては, もうコンテンツがありますし, メルマガでもちょくちょく流しているので, 今回, そちらは考えていません. (要望がよほど多ければやろうとは思います.)
Skype 相談はともかく リアル勉強会に関しては, 続くメルマガで通達がなかったら, 希望者がいなくてお流れになったと思ってください.
ではまたメールします.
2018-09-29 『物理数学の直観的方法』へのコメント/相転移プロダクション¶
購読者アンケートで何か次のようなコメントが来ました.
「高校の力学くらいならまだしも, 「式や計算を抜きにして直観的に理解する」というのは, そもそもありえません. 何となく雰囲気を知ることと, 深く理解しようともがくのは全く別の営みです.」 この一節に強く共感するものです. 筆者には是非巷の物理, 数学の学習者に好評のある「物理数学の直感的方法」 「相対性理論の直感的方法」などについて御意見, 書評等お聞かせ願えれば有難いです.
何というか, 世間的な意味で「批判的」な文章を書くことを 期待されているように感じました. 書き方が曖昧なので何とでも取れるとはいえ, こうした本が出版されている状況そのものに対してさえ 批判的な感じもします.
ちなみに『物理数学の直観的方法』の著者, 早稲田の応物で数理物理系研究室に入ったそうなので, 応物か物理かという違いだけで基本的に私と同じ経歴です. 早稲田では大学院で 「先進理工学研究科 物理学及応用物理学専攻」 になるほど応物と物理は入ったあとの垣根がないので, 年次以外は本当にほぼ同じです.
『物理数学への直観的方法』は学生時代に読んだので, それに対するコメントを書くことにしましょう. 本へのリンクも張っておきます.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/4062577380/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4062577380&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=efb997cdcb4be43e6912d85979975c2d
最初に結論から言えば, 理解のために必要なことは全てやる必要があり, 直観的な理解も絶対に必要なので, 上掲書も使えるところは使い倒せという他ありません.
私もよくやってしまうのであまり人のことは言えませんが, 多分このコメント書いた方, 少なくとも『物理数学の直観的方法』は読んだことないのではないでしょうか.
序文を読むとわかるように, 表に出てきたコンテンツはともかく, 「既存のコンテンツと学習者のニーズのギャップを埋める」 という意味では私も全く同じことをしています.
そして, 基本的な対象は計算できるようになっても, その意味がうまく腑に落ちなくて困っている, というよくある具体的なニーズに応えている本です.
ここ何回かのメルマガで 「きちんと計算できるようになりましょう」と書きました. 次に来るステップは「計算はできたが何をやっているのかわからないし, 計算結果をどう理解すればいいかもわからない」です. 少なくとも『物理数学の直観的方法』は このステップに対する対策・回答です.
今回, 細々としたことまでは書きませんが, きちんと物理や数学を勉強しているなら乗り越えるべき壁です. 「この一節に強く共感する」とか書いていますが, 本当にその一節だけ切り取って, 勝手に共感されてしまっている気分です.
今回は数物ゴリゴリ型 (の非学生) と 数学・物理をさらに応用したい方, 特に学生さん向け両方に関してお話します. この本, 学生の頃に眺めたことがあり, そのときの記憶を元にしているので, 多少おかしなことがあるかもしれません. もちろん本当はきちんと読み直した方がいいのですが.
まずは『物理数学の直観的方法』の本自体に関する一般的なコメントを書き, 次に数学・物理が非専門の方に対するコメント, 最後にゴリゴリ型の方に向けたコメントを書きます.
本自体に関するコメント
まずは次の Amazon ページの中身検索で序文を見てみてください.
- https://www.amazon.co.jp/dp/4062577380/
「何よりも厳密さというものを絶対的に尊ぶべしという, 近代数学の掟」という, どう考えてもこの人, 数学がそうならざるを得なかった経緯や歴史を 全くわかっていないのでは? という地雷文が出ていますが, 非数学科の学生にはだいたい同じことを 思うであろう内容が書いてあります.
例えば次の 1 節.
大学の数学の講義というのはえてしてこのようなものであり, 一体何のためにそういうことを行うのかについて, あまり明確に語ってくれないのである.
不満はこれだけにとどまらない. 目的ばかりではなく, 概念自体のあら筋だけでも説明してくれれば, 学ぶ側としてずいぶん楽なのだが, 大部分の先生はそれもしようとしない.
年次はだいぶ違うとはいえ同じ大学の学部・学科所属であったこと, 大学という環境の使い方などあらゆるところで 突っ込みたいことはあるものの, たいていの学生の実感としてはそれなりに 共感するところがあるのではないでしょうか.
1 つだけ, 時間制限のある講義で教えてくれないと嘆くなら, 講義のあとに研究室に押しかけていくなり, 教官が忙しても院生に聞くなり, 取れる手段はいくらでもあるので, 講義だけで何とかしようというのが そもそもの知的怠惰だとは言っておきます.
昔は大学に進学する人間じたいが本当に ごく一部のエリートで言われなくてもそのくらいわかるし, そもそも研究者という生業を選ぶくらいなのだから, 教えてくれなくても自分で勝手に考えるという種族であり, それでも不明点があるなら質問や議論に行く種族でもあるので, そのギャップはあるのだろうという感じもあります.
それはそれとして, 本の話に入りましょう. 一言で言うなら, この本は既存のコンテンツやサービスのギャップを 埋めるために作られています.
そして語る対象と内容が違うだけで, 私も同じことをやっています. 私の場合は関数解析系の解析学に関して, 純粋に数学的な話と物理への応用両方をやっています.
この本, 復刻版も出ているくらいですし, 一般的に評判はいいはずで, きちんと市場のニーズはおさえられているはずです.
学生の頃の記憶を掘り起こすと, 例えばベクトル場の回転がなぜあの形になっているのか, もしくは何故あの形で回転が表現できているのか, といった, 誰でも一度はぶちあたるであろう問題を それなりにきちんと解答を与えています.
いまと昔で状況で違いますし, 私もチェックはしきれていないので, 他にもいい本は出ているかもしれません.
ただ, それでも歴史の審判をくぐり抜けつつ, 新書で 1,166 円と安いので, 私のメルマガの読者の方なら 手元に置いてもいいだろうとは思っています.
あと, 念のために書いておくと, 「何よりも厳密さというものを絶対的に尊ぶべしという, 近代数学の掟」というのが地雷だというところ, 例えば現代数学観光ツアーでは 第 1 回の面積に関する議論で何故厳密にやらないと いけなくなってしまったのかを紹介しています.
- https://phasetr.com/mtlp1/
実際に理論系の学生であるという程度に 基礎体力があるゴリゴリの物理・数学系の人向けに作っていて, 実際にコメント頂いているように, どう控えめに言っても簡単ではありませんが, 受講されていない方や改めてもう一度受講してみたい方はどうぞ.
厳密さを絶対的に尊ぶべきというのではなく, 一定の厳密さを保たないと矛盾だらけになってしまったから, ある意味, 仕方なく, できる限りの精度を保つようにしているのです. 厳密さを絶対的に尊ぶべきなら, 全員公理的集合論などまでやるべきでしょうが, そうなっているわけでもないので, 際限なく厳密さを要求しているわけでもありません.
非数学系の学生さん向け
次に非数学系の学生さん向けのコメントです. 例えば物理専攻の 2 年程度なら うまいこと使いこなせるでしょうし, 人によっては本当にぴったりはまるでしょう. それ以外でもある程度物理の素養があれば いい感じにはまる部分はあるだろうと思います.
上にも書いたように, 私はこの本を「計算はできるがその結果が腹に落ちない」 という人向けの本だと思っています. もう少しゆるめて「計算に苦労はするが, 式と現象をうまく対応づけて理解していこうという基本的な姿勢があり, 物理に対してある程度の直観がはたらくようになっていて, 多変数まで含めて微分積分にもある程度の親しみがある」程度は必要です.
後者の事情をもっとはっきり言えば, 「大学受験を突破した」程度ではかなり厳しいだろう, ということです.
これに関して, 私は苦い思い出があります. 早稲田の物理では 1 年のとき, 物理学研究ゼミナールというのがあります. 応物にも対応する科目があります.
- https://www.waseda.jp/student/weekly/contents/2005b/2005b3.html#081n
上のページで「研究」というコメントがあります. これは実際に研究室に行って, 実験してみたり, その考察をしたりもします.
もちろん研究といっても本当に論文が書けるような内容ではなく, どちらかといえば 1 年から研究室に遊びに行きやすくするような, 学科側からの配慮という感じがあります.
私はこれでブラウン運動をやりました. 実際に研究室の設備を借りて実験するところと, ブラウン運動, 特に拡散方程式の解析をするところが 発表のテーマになっていました.
私はここで拡散方程式の解析部分を担当しました. もちろんフーリエ解析です. これが本当につらかったのです.
最終的にまわりまわって, 広い意味ではフーリエ解析に関する数学の道に進む程度には 「3 つ子の魂百まで」事案になってしまいました.
何が困ったかというと, 数学と物理両面で困ったのです. 物理の学部生がふつう考えるなら, フーリエ解析の数学は微分方程式論の枠で見るでしょう. 数学の微分方程式論の本を読んでもさっぱりわかりません. 実際に私が眺めたのは関数解析系の本でした. 今読んでさえ厳しい本かもしれませんが, そういう判断能力がないのです.
発表時期は確か 12 月だったので, 勉強していたのは学部 1 年の夏から秋です. いわゆる応用数学, 物理数学系の本を読んでも, 数学の基礎体力がないので耐えられません.
偏微分の計算くらいはできても, 偏微分方程式を解き切る力があるかと言われると無理です. 後期にはベクトル解析の講義もはじまっていましたが, この発表用に勉強しているときには まだマクスウェルや波動方程式を扱えるだけの力はありません.
というわけで数学色が強いアプローチはどうにもなりません.
かと言って物理色が強いアプローチもつらいのです. 具体的には「物理現象のフーリエ解析」を読みました.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/4480098372/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4480098372&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=1e4afa688a964457e77d95b2aa1c7888
物理色が強くなると, 当然物理的なイメージも前に押し出してきます. 偏微分方程式の導出というテーマもあります. そして物理ができなさすぎて, これらに全く対応できません.
物理系の文献になってくると, 物理的な直観をうまく表現してくれる部分があるので, デルタ関数もゴリゴリ出てきます. これに関連した計算ができることも 物理的な直観も両方要求されます.
手元に文庫があるのでいま改めて眺めると, このテーマでコンテンツを作るなら, 多かれ少なかれ自分でもこんな感じで書くだろう, と思える内容です. しかし物理学科の学部 1 年でさえ, 「物理現象のフーリエ解析」はきついのです.
記憶ベースではありますが, 「物理数学の直観的方法」は 「物理現象のフーリエ解析」ほどハードではありません. しかしそれなりの物理的・数学的感覚は備えていないと読めません.
Amazon のレビューも見てみてください. 例えば次のようなレビューがありました.
親切な説明では無いと思う
高校生に勧めたい等のレビューを見て買ったが、知識がある人のための本だった。 線積分やら面積分なんて高校でやりましたっけ…?
「知識がある人」というコメントがいろいろな意味で目を引きます. 線積分や面積分を知っているだけではどうにもならないでしょう. やはり「計算はできるが, ただそれだけ」状態にある人が 基本的な対象だろうと思います.
せっかくなので物理学研究ゼミナールの思い出を もう少し書いておきます.
ブラウン運動の解析だから, ブラウン運動もきちんと勉強した方がいいだろうと思って, 大学の図書館で「ブラウン運動」と書かれた本を 読んだことがあります. わかる人にはわかる, 飛田武幸のブラウン運動です. 学部 4 年くらいでようやく知ったのですが, これはゴリゴリの数学の本です.
学部 1 年の頃, 当然高校の化学でやる ブラウン運動しか知らないので, 「これ, 何をどう考えても私が知っている ブラウン運動ではない」 と思って困惑した記憶があります.
これはこれでまわりまわって, 修士で場の量子論の数学に関連して 確率解析的なアプローチがあって, それ用の勉強をするところで 4 年がかりで 学部 1 年の頃の伏線を回収しました.
数物ゴリゴリ型
この数物ゴリゴリ型, 少なくともアンケートの回答というレベルでは, 例外なく「元文系」という方です. こうした方々には厳しい本だろうと思います.
「物理数学の直観的方法」は, 大学の正規の教育課程の中で「計算はできるが, イメージが湧かない」タイプの人向けの本です.
「とりあえず超弦理論を勉強してみた」といった タイプを読者に想定していません. 物理の例に挙がるのは古典的な電磁気学や熱力学, 解析力学であり, それなりに古い本なので最近の幾何との交点についても 深い言及はありません.
古典論の物理とそのための数学の計算的基礎があることが前提です. 自己申告を見る限り, とりあえず超弦理論を眺めてみて, やはりきちんとやるには必要そうだから量子力学を眺めてみて, そこからさらに解析力学に, というような, 大学のカリキュラムから見て非正規のルートを通っていると, この本を読むのに暗黙に仮定されている 物理的・数学的な素養が育っていないはずです.
物理数学系に関しては次の講座のテーマとして考えていて, まずはミニ講座を作るための計画を練りつつ, 幾何の視点を強化するべく再勉強しています.
他にもプログラミングも絡めた, 中高数学よりの展開も考えていて, うまいこと複数の流れを合わせて ミニ講座群を構成したいと思っています.
うまい構成が見つからなくて, 止まってしまっているプロジェクトもありますが, 裏で少しずつ進めているので, 期待していてください.
ではまたメールします.
2018-09-16 電磁気からの物理数学入門/相転移プロダクション¶
年単位で物理の話をろくにしていないような気がしたので, 少し物理よりの話もしておきましょう.
今回の話のメインターゲットも, 基本的には趣味で物理や数学をやりたい人の方で, 他の専門がある人には微妙にはまらない部分があります. それでも, これまでのゴリゴリの数学の話にくらべれば, 遥かに参考になることが多いと思うので, 気楽に眺めてみてください.
ずっと言っているように, 物理は計算ができてなんぼです. 物理は数学を使った議論をメインに据えられるほど, シンプルで簡単な分野です.
高校の力学くらいならまだしも, 「式や計算を抜きにして直観的に理解する」というのは, そもそもありえません. 何となく雰囲気を知ることと, 深く理解しようともがくことは全く別の営みです.
わざわざ私の情報を受け取ろうという人が, 単に何となく雰囲気を知りたいだけ, ということはありえないと思っているので, ここまで言い切って書いています.
前置きが長くなりましたが, まずは計算できるようになることが大事です. 細かいかどうかはともかく, 使う数学に関して厳密な証明を理解する必要はありません.
ベクトル解析や常微分方程式論など, 一部の議論では物理や応用上のハートに沿った証明もありうるので, そういうところでは証明つきで勉強した方が 理解しやすくなることすらあるでしょう. それはそれでうまい塩梅で勉強してください.
いきなり話が逸れましたが, 物理のための数学, さらには他の応用のための速習物理という観点からは, とにかく使い倒して感覚を掴むことが大事です.
そのとき, 1 つの軸になるのは電磁気です. なぜかというと, 物理数学で大事な次の数学が全て出てくるからです.
- ベクトル解析
- 偏微分方程式
- フーリエ解析
- 関数論
いまあなたがどういうステータスであるにしろ, 電磁気の本を眺めて, これらが現場でどう使われているかを確認して, 勉強のモチベーションにすることをお勧めします.
現代数学観光ツアーでもコメントしているように, 無限次元の線型代数という側面もあるので, 上の 4 つに線型代数は自動的に含まれています.
相対論まで入れれば, 有限次元の線型代数も完全に射程圏内です. 状況をまとめて知るには格好の材料です.
もちろん量子力学でもいいのですが, うまくやらない限り, 物理的にも数学的にもよけいな要素におされて, 注意が散漫になりかねません.
ぎりぎり物理としても直観的に理解できる範囲にありつつ, 物理数学の腕力を鍛えられる電磁気を軸に 物理数学の力を鍛えるのはお勧めです.
そのための具体的な本ですが, とりあえず一冊勧めるとしたら次の本です.
- http://www.amazon.co.jp/gp/product/4314008547/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4314008547&linkCode=as2&tag=phasetr-22
この本のいいところは計算が丁寧なところです. 付録でベクトル解析も載っていますし, しょっぱなにデルタ関数のフーリエ変換と, 留数定理による定積分計算が出てきて, 物理数学のフルコースが冒頭から味わえることもポイントです.
電磁波の理論は計算が本当にうっとうしいので, 計算が詳しい文献は助かります. 特に独学するときには.
他には次の本も割とこってり系です.
- http://www.amazon.co.jp/gp/product/462104804X/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=462104804X&linkCode=as2&tag=phasetr-22
- http://www.amazon.co.jp/gp/product/4621048058/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4621048058&linkCode=as2&tag=phasetr-22
私の電磁気は学部のときの知見がメインで, ここ最近の本や洋書の探索までは追いついていないので, 数学系のコンテンツ制作が落ち着いたら, きちんと再調査したいとは思っています.
一方, もしあなたがもっと物理に軸足を置きつつ, 数学にも触れたい, という方向性なら, そして特に物理自体も基礎からやらないと, と思っているなら, やはり力学をやるのが最善です.
常微分方程式の議論がメインなので, 数値計算で遊んでみるのもやりやすく, 数値シミュレーションの範囲で「目で見て遊ぶ」のもやりやすいです.
シミュレーションに関しては, 中高数学の復習という観点から, Python コードも紹介しつつ常微分方程式を議論した 無料の講座があるので, 必要なら受講してみてください.
- https://phasetr.com/mrlp1/
解析力学まで行くと, 物理としてもまた 1 つ深い地点に辿りつけますし, 量子力学や統計力学への準備もなります.
場の解析力学という観点からは, 流体力学への導入にもなります.
流体力学もいろいろな物理数学の導入に使えますが, 中心的な概念の 1 つ, 応力が割とややこしいのがつらいのではないかと思います.
テンソル解析が本当によくないので, その辺もつらく厳しいところ. 微分形式にすると今度はそちらの数学的基礎で苦しむので, 何をどうやっても厳しいとは思うのですが.
何にせよ, 物理数学の全体像を現場で見たければ, 電磁気の本を眺めるのをお勧めします.
電磁気も各種シミュレーションが発達しているはずなので, その辺を知見を教育にも盛り込めれば, と思っているのですが, 私にシミュレーション方面の知見がなさすぎて, あまり具体的な動きにできていません.
レンズの設計なども広い意味では電磁気ですし, いろいろ遊べる要素が多いとは思うのですが, 私が工学系応用に弱いため, そちらもあまり具体的な動きにできません.
読者のどなたか, 講座作ってくれませんかね? その筋の人, 絶対いると思うのですが.
今回はこんなところにしておきます. ではまたメールします.
2018-09-12 幾何入門のお勧め/相転移プロダクション¶
結論から言うと, リーマン面を勉強しようという話です. 参考文献含め, 順にコメントしていきます.
ここ 1-2 ヶ月, 新たな物理数学系ミニ講座への展開のためもあり, 本業の仕事のためもあり, 微分に関する諸々を再勉強しています.
となると, 幾何をきちんと考える必要があります. 微分法そのものが幾何の色彩にあふれているからです. そこで改めてふつうの多様体論も勉強し直しています. この基礎固めをきちんとしていないと, ミニ講座もぐたぐだになって, 再構成/再作成が必要になるので, 新講座はいったん作るのを止めています.
参考文献紹介のためもあり, 多様体論はいろいろな本を漁って, 見比べつつ勉強しているところです. このあたりの詳しいところは, そのうち (といっても数ヶ月は先) 情報を出します.
で, 幾何入門のお勧めです. 改めて書くと, リーマン面を勉強しようという話です.
私は背景として物理学科卒で, 修士は数学科, 特に解析学専攻なので, 数学としては感覚がある解析から アタックしたいと思っています.
そのあたり, 解析学に猛烈に特化していること以外, 数学的な背景はたいていの物理系統の 非数学科の人と同じです.
同じというのはだいたい次のような内容を 知っているということです.
- 微分積分
- ベクトル解析
- 微分方程式論
- フーリエ解析
- 関数論
フーリエを無理やり表現論やリー群論と絡めるなら, だいたい全て幾何とのつながりがあります. むしろ多様体論の基礎基本として, 知らないことには話が先に進みません.
一方で幾何の基礎教養もかなり広いです. 特に, 要望が多い超弦理論関係の数学となると, 幾何のほぼ全てと関係があるといってもいいくらいです. どこまできっちりやるかはともかく, まずはいろいろな分野の様子, そして関係をつかめるような形で勉強することも大事です.
いま自分がどこにいるのか, いま自分が勉強していることが数学の中でどう展開していくのか. 各種通信講座でも書いているように, これらを感じられるようにしつつ勉強するのが大事です.
その中で, リーマン面はやはり非常に優秀な分野です. 先日も書いたとおり, 次のような分野を, 1 変数関数論を軸にして一気に勉強できます.
- 複素多様体論
- ホモトピー, 被覆空間
- 層
- コホモロジー
- 偏微分方程式論
- 変分法
- ベクトル束
ガロア被覆に関連して当然代数の ガロア理論も関係してきますし, コホモロジーに関連して代数の基礎知識や 基本技術も仕入れられます.
解析としても, アプローチ次第では, 偏微分方程式論に首を突っ込むこともでき, これはこれで幾何解析というゲージ理論と関係する 分野の基礎体力を鍛えることにもつながります.
全体的に幾何, 特に微分幾何は, 代数・解析・幾何をバランスよく勉強しておく必要があり, 歯をくいしばって勉強するとそれだけご利益があります.
そこでいま読んでいるのは, 先日も宣伝しておいた Forster の Lectures on Riemannian Surfaces です.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/1461259630/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=1461259630&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=d4bbba505c768a851d7b6add548e6958
これはまさに上で書いたことが網羅されている文献です.
まだほとんど読めていませんが, 東北大助教の黒木玄さんは Gunning の Lectures on Riemann Surface を推薦していました.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/0691619255/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=0691619255&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=d208a459a3857b74753f7437d3a4f836
私の手元にあるのはタイプライターによる本で, その時点でかなり読みにくいのですが, 内容に関してはお勧めらしいので, ここでも名前を挙げておきます.
他にもリーマン面の本は和書でもいろいろあるので, 面白そうな本やアタックしやすそうな本があれば, それを読んでみてもいいでしょう.
ただし, 現状, 数学科のための数学というスタイルの本しかないはずで, 基礎知識として要求されていることが少ないとしても, 数学への耐性と覚悟が絶対的に要求されます.
いろいろなレビューを見ても, 数学科水準でのわかりやすさに関するコメントしかないはずなので, そういうつもりで見て, そういうつもりで挑まない限りはどうにもなりません.
リーマン面は共形場理論でも大事な理論です. 共形場理論は現代数学でも特別な位置を占める理論で, 幾何だけでなく, 作用素環や確率論とも関係があります.
ここ数十年, 共形場理論に関わる数学でフィールズ賞が 何回も出ているほどに活発に研究され続けています.
超弦理論としても, AdS/CFT の CFT が共形場理論 (Conformal Field Theory) なので, 基本的な意義があります.
というわけで, もしあなたがちょっと突っ込んで現代数学を勉強してみたいというなら, その一歩としてリーマン面を目標にするのは, なかなかいいと思います.
物理学科レベルでいいので, 1 変数関数論は知らないとさすがに厳しいでしょうし, 位相空間論もないと厳しいでしょう.
関数論はともかく, 位相空間論に関しては, どのくらいのことを知らないといけないか, 雰囲気を掴むために見ておくという使い方もありでしょう.
それで Forster の 10,000 円を出すのは きついとも思うので, そういう場合は適当にネットで PDF を探しましょう.
英語で探せば講義資料を含め, 100 ページオーバーの PDF もたくさん置いてあります.
調べきれませんし, 内容も精査しきれないのでここでは紹介しません. むしろ何かいいのがあれば教えてください.
ちなみにもしあなたが, 比較的軽めのノリで, 集合・位相から微分幾何を勉強したいというなら, シンガー・ソープの本がおすすめです.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/4563001503/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4563001503&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=1b9511aeb4d57274a51f96dcb23fe47c
もっと物理のノリでやりたければ, シュッツの本がいいでしょうか.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/4842702168/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4842702168&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=50a0fef38a03c486e77d068b31df24fd
中原の有名な本もあり, こちらの方が内容が現代的ではありますが, 数学色は強くなっています.
- http://www.amazon.co.jp/gp/product/0750306068/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=0750306068&linkCode=as2&tag=phasetr-22
全部和訳があるので, 英語が嫌なら和訳の方でもいいでしょう. 超弦理論を追うなら英語の情報を追えた方がいいので, 和訳にこだわるのはお勧めしない, ということくらいは言っておきましょう.
今回はこんなところで. もしあなたが物理数学ミニ講座をご所望なら, もうしばらくお待ちください. 物理で実用的な微分として, 流体力学の物質微分などもあり, これは幾何学的にはリー微分です.
物理からも数学からも, 改めてきっちりやっておかないとろくなことにならないので.
ではまたメールします.
2018-09-08 物理学におけるトポロジー/相転移プロダクション¶
読者の方から紹介して頂いたので.
- 2018/10/13 第23回久保記念シンポジウム「物理学におけるトポロジー」 https://sites.google.com/view/23rdkubosymposium
案内ページの内容を一部コピペしておきます.
日時: 2018 年 10 月 13 日 (土) 場所: 学士会館 320 号室 東京都千代田区神田錦町 3-28 tel:03-3292-5936 地下鉄都営三田線又は半蔵門線「神保町」下車
プログラム 13:00 ~ 13:10 開会の辞 13:10 ~ 14:00 永長直人 (理化学研究所創発物性科学研究センター・東京大学工学系研究科) 「固体電子系における量子位相の幾何学と物性」 14:10 ~ 15:00 向井哲哉 (NTT 物性科学基礎研究所) 「冷却原子実験の発展とその応用」 15:10 ~ 16:00 川口由紀 (名古屋大学工学研究科, 昨年度久保亮五記念賞) 「原子気体 BEC におけるトポロジー」
(講演時間の内訳は, 講演 40 分と質疑応答 10 分) 申し込みは不要です. ご興味のある方は是非ご参加ください. 会場の定員は 100 名です. シンポジウム終了後に, 第 22 回久保亮五記念賞贈呈式が行われます.
時間があるので私も参加する予定です. あなたも興味があるならぜひ参加してみてください.
今回は手短に. またメールします.
2018-09-07 多様体の勉強のために/相転移プロダクション¶
アンケートで質問が来て, 今後のためにもある程度まとめた方がいいだろうと思い, 回答します. 特に超弦理論を勉強したい系の方だったので, その前提で書きます.
割とこう日本語が崩壊した感じの文章が送られてきていて, 何を言いたいのかよくわからなかったので, 意図が汲めたところだけ回答します.
まずは多少具体的に多様体論に アタックするための最低限の武装の話をします. そのあと, 少し話を広げた話をしていきます。
まず私の基本的な認識とスタンスに関して改めて書いておきましょう. 私の各種講座に参加されている方は 主に次の 2 パターンです.
- 理工系で他に何か専門があり, そのために必要な範囲の数学を要領よく勉強したい.
- 物理や数学に目覚めたので, それ自体をガッツリと勉強したい.
アンケートなどの回答を見ている限りの話ですが, 実際, 後者には学生の頃は文系だったという方が割と多く, 特に超弦理論が勉強したいという方がよくいます. この 2 つで勉強のスタイルや方法, 読むべき本も全然違います.
今回は超弦理論をやってみたい という方からのコメントなので, 後者の物理・数学ガッツリ系の話をします.
まずやってみてほしいのは, 実際に多様体の本を眺めてみることです. 多様体に限らず, たいてい前書きに必要な知識に対するコメントがあり, 本によっては冒頭または巻末付録にまとめがあります. それを見て確認してください. このあたりはどんな分野を勉強するときにも必要な作業です.
その他役に立つのは数学科のカリキュラムを見ることです. 学年を経るごとに基礎知識からそれを前提した議論へと 進んでいくわけで, それを見てもある程度判断できます. 教官の講義用資料ページにもいろいろ書いてあることがあります.
これをやっているのかどうかわからなかったのですが, 最低限このくらいはやっておけば, 自力で何とかできることが増えます.
その上でもう少し具体的な話をしましょう. 多様体論でギリギリ最低限必要なのは線型代数と微分積分, 常微分方程式の理論です.
詳しい話は追々していくとして, 必要なのはいわゆる理工系教養の数学の 一番難しいところです. ~~~~~~~~~~~~~~~~
つまり抽象的な線型空間論, 陰関数定理と逆写像定理をはじめとした多変数の微分積分, 常微分方程式の解の存在と一意性, そして初期値への C^1-級依存性に関する議論などです.
多様体論を勉強していると, 自分がいかに線型代数と微分積分を理解していないかを 思い知らされます. 特にあなたが数学科で正規の数学教育を受けていないなら, 自分で「ある程度わかってきたかな」というレベルでは 全く足りません.
だから駄目だと言いたいわけではなく, むしろ多様体論を勉強することでそれらの理解を深めにいく, という覚悟で臨む必要があります.
これは本を執筆する前提が変わるからです. 同じ微分積分の話をするにしても, 工学への応用なのかゴリゴリの数学科向けかで, 著者が読者に期待することが全く変わります.
それと同じようにして, 多様体論に挑むという時点で一定の数学的耐性が仮定されています. これは知識だけの話ではありません. 極端に言えば, 集合論や位相空間論は, 予備知識はほとんど仮定していない本は多いですが, 尋常ではないレベルの数学的耐性を要求しています. 読み進めながらさらに鍛え上げることも要求しています. 上の「レベル」感はこの意味で捉えてください.
実戦を重ねてみて, いまの自分の力量では話にならないことを知り, どんな議論や定理がどう使われているか, それを自然に受け入れられるようになるまで 血反吐を吐きながら取り組む必要があります.
その辺の理工系の学生よりも遥かに 線型代数と微分積分の理論に 精通している必要があるのだと思ってください. その程度の根源的なパワーが要求されています.
特に質問された方は文系出身とのことですし, 数学科水準で要求される理解の水準もわからないでしょうから, 初学段階ではまず確実に多様体論に跳ね返されるでしょう.
そこで「まだ自分の力が足りないのか」と思うのではなく, 多様体論とのバトルで強制的にレベルを上げにいく, という気概や発想の転換が必要です.
陰関数定理と逆写像定理, そして常微分方程式の解の存在や一意性定理は, 証明を眺めることにも意義があるタイプの定理なので, 必要なら証明を見直すのもいいかもしれません. しかしこれは使い倒してその意義を体得すべき定理でもあります.
だから, とりあえず多様体論の本にアタックして, とにかく使い倒すことで強制的なレベル上げをはかってください.
一方, 陰に陽に必要な知識ではあるものの, 集合と位相は実際どの程度要求されているのか 正直あまりよくわかっていません.
私は物理学科の学部 1 年で, よくわからないうちに正規の講義で叩き込まれたので, 集合・位相の基礎知識なしで 現代数学にアタックしたときの感覚がわかりません.
多様体論の入門レベルだといわゆる集合・位相は そんなにいらないのではないかと勝手に思ってはいますが, 実際のところどうなのかはよくわかりません.
接ベクトルの定義では曲線の同値類を使います. それ以外でも具体的な多様体の構成でも同値類が出てきます. そして多様体の定義そのものに同相のような 位相空間論由来の概念が出てきます. これらはふつう集合と位相でカバーする内容です.
ただ, この辺はゴリゴリに勉強しなくても, 気分と常識で十分にカバーできるのではないか, という気はします.
「気分では無理だった」というのであれば, むしろそのテスト結果を教えてほしいくらいです. それならそれで「多様体をやろうというなら, もう諦めて集合・位相をやってください」と言えるようになるので.
当たり前ですが, 突っ込んだことをやろうと思うなら, 何をどう考えても位相空間論を きっちり仕上げる必要があります.
次は線型代数です. もしあなたが行列式や固有値・固有ベクトルの計算問題が 解ける程度で「線型代数ができる」と思っているようでは, まるで理解が足りず, 話になりません.
必要なのは抽象的な線型空間論です.
- 多様体の各点での曲線の同値類から線型空間を構成する.
- さらにその双対空間として余接空間を定義し, そのテンソル積を考える.
- 適当なイデアルで商代数を作って外積代数を構成する.
- 各点でのテンソル積を束ねていろいろなベクトル束を構成する.
こうした操作の全てで線型代数の抽象論が出てきます. これ以外にも線型代数ができないと, 幾何のありとあらゆる場面で何もできません. 早い段階で諦めてきっちり数学をやってください. いつまでもずるずる半端な状態でいるのは, 時間と労力の無駄です.
ベクトル束は指数定理の基本的な対象でもあり, これが理解できないのでは超弦理論に進む上で話になりません. もちろんすぐにわかるようになる必要はありません. しかし 1 つのステップとして決定的です.
そしてゲージ理論では族の指数定理がアイデアのレベルから 大事なようで, 指数定理の理解が甘いようでは ゲージ理論系の議論で困ると聞いています.
これ以外にもファイバー束, 特に主束の議論でリー群が出てきます. リー群も線型代数の理解が問われる分野なので, どれだけ自分が線型代数を理解していないかが 嫌というほど思い知らされるでしょう.
今回の話からは大分離れますが念のためコメントしておきます. ミラー対称性関係に進もうと思うと, 代数幾何に関わるハードな議論があり, 代数系ももっと勉強する必要があります.
これは微分多様体とはまた趣の違う 代数多様体の議論が必要です.
ミラー対称性に関しては有名な基本的な文献が ネットにあるので紹介しておきましょう.
- https://www.claymath.org/library/monographs/cmim01c.pdf
私はこの文献はほとんど全く読めません. 以前紹介されたことがあるので, 言及するだけにしておきます.
またもう少し違う方面からコメントします. 今度はむしろ物理の話: 最近の数学の展開もあり, 超弦理論に興味がある人が必ずしも 物理にも興味があるとは限りませんが, 私のメルマガの読者の方には超弦の物理に興味がある方も多いので.
まず私の基本的な認識や方針は, 現代数学探険隊, 特に通信講座の案内ページで書いたことにあります. 何度も基礎の振り返りをしないでいいように, 集合・実数・位相など基礎を叩き上げるのが, 結局一番早くて楽です.
- 現代数学探険隊 通信講座 https://phasetr.com/mtex1/
- 現代数学探険隊 PDF 販売 https://phasetr.com/mtexpdf1/
これ, 何度も有料コンテンツの宣伝をしているように思われるようで, それが鬱陶しいという方もいらっしゃるようです. しかしこちらとしては, 何度も聞かれることに対する返答としてまとめたものであり, さらにいろいろな情報やコメントをまとめて書いたページ, そしてコンテンツなので, 結局回答する内容はここに書いてあることなのです.
多様体論ではサードの定理で測度 0 が出てきますし, 微分形式からの代数的トポロジーで調和積分論 (楕円型の微分方程式論) が出てきたり, ベクトル場とフローでは常微分方程式の解の存在と一意性, 初期値への C^1-級依存性などなど, ちょこちょこと解析学の知見が出てきます.
幾何でもフレドホルム作用素はよく出てきます. そしてこれは話題としては作用素論なので, これもきちんとカバーしています.
超弦理論の数学といってもいろいろあります. その中で特に指数定理やゲージ理論のように, 多様体上の微分方程式論が大事な議論があります. そういうところでは直接的に 現代数学探険隊の内容が活きてきます.
そして何より, 超弦理論をやるなら最低限物理に対する理解も必要で, その中では各種解析学が絶対に必要です. そこもケアしないとどうしようもないので, 超弦に興味があるなら, とりあえず現代数学探険隊の内容を確認してください.
どうしても私の有料コンテンツを買いたくないというなら, それはそれで構わないので, 案内ページに書いてあるカリキュラムをもとに, 対応する本を買って勉強してください.
講座のラスト, 微分論とベクトル解析の章では, R^m 内に限定してはいるものの, 実際に多様体論を議論しています. 当初そこまでやる予定はなかったのですが, その方面に興味がある人が多いので, もう盛り込んでしまおうという判断です.
名著, ミルナーのモース理論のように, R^m 内の多様体に限定して議論を進めている本は 実際にありますし, それほど不当な扱いではありません.
今回は多様体に行き着くにはどんな数学が必要か, という話だったのでこのくらいにしておくことにします. 今回の内容を叩き台にして, 幾何系の勉強案内のコンテンツを整備する予定です. もっと参考文献もつけます.
ではまたメールします.
2018-09-03 新しい国際単位系の公開シンポジウムの紹介/相転移プロダクション¶
メルマガに書きたいことはたくさんあるものの, なかなか書く時間が取れていません. かなり面白そうなイベントなので, 忘れる前に優先して案内しておきます.
- http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf2/265-s-3-1.pdf 日本学術会議 公開シンポジウム 新しい国際単位系 (SI) 重さ、電気、温度、 そして時間の計測と私たちの暮らし
上の PDF の下の方に申込ページへのリンクがあります. 近日公開予定だそうなので, あなたも時間があうならぜひ参加してみてください.
私も参加してみようと思っています. そもそも申込を忘れないようにする必要があって, まずそれが一番の問題です.
野尻美保子さんと田崎晴明さんの宣伝ツイートも 紹介しておきます.
- https://twitter.com/Mihoko_Nojiri/status/1035152495541018625
キログラム原器を廃止して、 プランク定数から重さを定義する単位系の大改訂が予定されています。 学術会議ではこれを記念するシンポジウムを 12/2(日曜日)に行います。 特に学生、学校の先生などこに来ていただけるとうれしいです。 http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf2/265-s-3-1.pdf
- https://twitter.com/hal_tasaki/status/1035513095186071553?s=12
このシンポジウムは参加する価値があると思う。 単位は科学・技術の根本的な基盤だし、 単位の定義から原器がなくなるのは人類の文明にとって大きなイベント。 おまけに超高精度の時間測定を実現した (数年以内にノーベル賞を受ける可能性が高いとされる) 香取さんも登壇する。
申込を忘れないようにしないといけません.
今回はこんなところで. ではまたメールします.
2018-08-22 数学が弱くて先に進めない/相転移プロダクション¶
Twitter で大学教官のある呟きを見かけたので 共有しておきます.
トップツイートはこれ.
- https://twitter.com/paul_painleve/status/1032062702124916736?s=12
続くツイートも一緒に引用しておきます.
学生の中に社会人の方が工学部に再入学してきている。 やはり勉強し直さないといけないと思ったそうだ。 自分が仕事に使ってきたことと理論の繋がりが 専門の講義を聞いている最中に感じられて楽しいそうだ。 ただ、どうしても数学が弱く、 数学で躓いてなかなか先に進めないそうだ。
「今勉強していることが将来役に立つよ」と言っても、 若い普通の学生にはなかなか伝わらない。 その学生も周囲の若い人に言ってるそうだけど、 もどかしく感じているようだ。 「若いときに勉強してとにかく詰め込んでなかったら、 なかなか先に行けない」というのは確かだが、 若い時はわからない。
大学低学年での非数学科向け数学教育 (微積、線型、微分方程式・ラプラス展開、 ベクトル解析、複素解析、フーリエ解析、確率統計など) が将来必要であることくらいは 学生も感じ取ってはくれている。 が、ある程度理解して楽しくなるステージにまで なかなか到達できない。
特に注目してほしいのは次の部分です.
「若いときに勉強してとにかく詰め込んでなかったら、 なかなか先に行けない」
わかりやすいので何度も引き合いに出してしまうのですが, 先日紹介した超弦理論を勉強してみたいといっていた 文系出身の方,
けっきょく適当な時期, それも若くて湯水のように時間が使える頃に, 意味がわかるか, 理解できるかを棚に上げて, とにかく基本的なことをたくさん 詰め込み, 叩き込まなかったことが効いているわけです.
もちろん理工系というわけでもないのに, 数学の基礎など叩き込めるわけはありません.
ここで言いたいのは, 面白くないとか面白くないとか, いまの自分がやりたいかやりたくないとか関係なく, それを生業とし, その未来を自ら作り出そうとしている 教官陣が学生のこれから先の永い人生でもきっと役に立つはずだ, そう信じて組み上げたカリキュラムに沿って, とにかく徹底的にやっていくのが大事だということです.
細かな動きについては外れることなどいくらでもあるでしょう. それでもこれさえやっておけば, 後で新しいことにもいくらでも追従できるはずだ, そういう内容がカリキュラムとして組まれているわけです.
むしろ興味がないことであっても 強制的にやらせることがカリキュラムの意義です. 何といっても興味があることは言われてなくても 勝手にやる前提なので, 面白くないことこそカバーするべきだ, とさえ言えるでしょう.
興味にかまけてさぼっていると, 何十年ごしで痛い目を見るという話で, これは健康問題にも重なります. 若い頃の不摂生が, というやつです.
よく言われる話ではありますが, これを読んでいるあなたも, けっきょく今が一番若いのです. やりはじめるなら今ここからで, 以前どうだったかというのは全く関係がありません.
そして人は忘れる生き物なので, 最初の気合は即刻なくなります. 覚悟を決めてじっくり取り組んでいきましょう.
もしあなたが物理または物理の応用に興味があるなら, まずは古典力学からやるのが大事です. 何だかんだで一番大事ですし, 物理で必要な数学も一通り出揃います.
あなたが化学なりその他一般の理工系の方なら, 力学と電磁気をきっちりやれば, 数学の知識も計算用の基礎体力も両方身につくので, まずはこれを馬鹿みたいにやりましょう. 実際, 物理学科の学生は頭がおかしくなるほど これを叩き込まれるのです.
学部一年のころ, 私の友人で, 試験直前に「対角化される夢を見た」と言っていた男がいました. 悪夢にうなされるくらいやるのです.
あなたがある程度数学科の数学の水準まで 数学をやりたい・やらねばならないなら, 取り組むべきはやはり実数・集合・位相です. 参考文献集でも取り上げているので, あなたが適当な通信講座を受講されているなら 既にご存知かもしれませんが, 初学者へのお勧めは次の本です.
- http://www.amazon.co.jp/gp/product/4061539647/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4061539647&linkCode=as2&tag=phasetr-22
『集合と位相 そのまま使える答えの書き方』というタイトルで, よくあるしょっぱい本かと思いきや, 話題を絞って証明を丁寧に書いた本で, 非常にいい本です.
ページ数も少ないので読み切りやすく, 適切な図もたくさん入っているところもポイントです.
四の五の言わず, とにかく基本的な分野をやるのが, 結局一番楽です.
ここで強調したいのは, それが「楽だ」ということです. 特にあなたが社会人で数学や物理を勉強し直そうとされているなら, 先々の進んだ内容・勉強したい内容はそれとして 横目で見てニヤニヤしながら, 徹底的に基礎を叩き込むことからはじめましょう.
ではまたメールします.
2018-08-19 物理の勉強に関して心に刻んでおくべきこと/相転移プロダクション¶
最近は多少なりとも物理に意識が向いているので, ちょっと物理の話を.
もうリアクションなくなって, もしかしたらメルマガ講読解除されたのかもしれませんが, 先日超弦に関する勉強に関して多少のやりとりもありました.
物理の勉強に関して大事なことに関して, 簡潔にまとまった動画を Twitter で見かけたので共有しておきます.
- https://twitter.com/LTQDu71SDNqmRGn/status/1030456202222661632
・物理におけるイメージとは。 ・物理ができない人はどこでつまずくか。 (引用元:苑田尚之、ハイレベル物理、東進、2000年)
ちょっとアレですが, 私のサーバーにも動画を上げておきました.
- http://phasetr.com/members/myfiles/file/sonoda_physics_and_image.mp4
内容を簡単にまとめておきましょう.
- イメージが大事というのは, 基本法則がわかってそこから考察できるようになった人であれば, そこから見た物理的なイメージがわかっていれば役に立つ.
- 物理法則を知らない人はイメージも何もない.
- やっている計算が正しいことがわかっても, それが自分の感覚に馴染まないからわかるように説明してほしい, というのはその人の感覚が間違っているだけだから, そのイメージは早く捨てなければならない.
- 人間の素朴なイメージは自然に対してほぼ 100% 合わない.
- 計算もせずに感覚でわかることは絶対にない.
講義中の口頭ベースの話なので, 前半と後半でちょっと話が変わっている部分もあります.
ここで私が強調したいのは, 引用部での最後のところ, 「計算もせずに感覚でわかることは絶対にない」というところです.
プロですら直観が効かない世界は掃いて捨てるほどあります. ある分野の専門家であっても, 他の分野ではずぶの素人同然の判断しかできないことも 日常茶飯事です. これは物理の他の分野であってさえそうです.
自分の直観を修正してくれるのは, 何よりもまず実験事実であり, 実験が及ばない世界に関しては, 基本法則に則った計算結果しかありません.
超弦のようなちょっとやそっとで 実験の及ばない世界で頼れるのは もう計算しかありません. だから計算できないのは, 数学できないのはもうどうにもならないのです.
いあま私がメインで作っている 数学科レベルの数学のコンテンツの内容を 最大精度で理解しきる必要は全くありませんが, 式を読み書きして計算できないのは論外です.
うるさいことを言いはじめるといろいろあって, 勉強と研究はまた違う, 勉強は好きでもないし実際苦手でさえあるが, 研究は好き, という人ももちろんいますが, これは研究者を目指す人向けの話なので, また全然違う話です.
そして, 何度も書いているように, 物理の啓蒙書を読んで楽しみたい, という人ではなく, それでは満足できないからもっときちんと 物理やりたい, という人が集まっているのだと思うので, だったらきちんと計算できるようになりましょう, そのための数学的体力をつけましょう, という方針で情報を出しています.
ちゃんと計算できるようにしてください.
関係するようなしないような話ですが, ゴリゴリの現代数学の通信講座作成が 一段落したので, 大人向け数学復習的な内容に関して, 21 世紀の教養数学と勝手に題した方向性で コンテンツを検討しています.
イメージとしては理工系の学部教養レベルの 数学入門のためのコンテンツ, くらいの位置づけです.
試作品第一弾がこれ.
- http://phasetr.com/members/myfiles/file/math_expedition_002_014_002_ve2CU.pdf
最近はやりの統計学入門も 兼ねた内容として考えています. 基本的に非物理・数学系または統計に興味がある人, 他には物理に興味があって数学を勉強したい人向けで, 中高の数学はある程度親しみがある人くらいを想定しています.
どのくらいのどんな内容が需要ありそうか, 実際に試作品を作ってみて 検討しているところです.
前回の失敗があるので, レベル感がおかしくないか, といった点が大きなポイントです.
何かコメントや要望があれば教えてください.
ミニ講座への登録はこちらから.
- https://m.phasetr.com/p/r/bhTiMyu7
できあがってから「これじゃ使えない」と言われてもきついので, 細かくコメントもらえた方がありがたいです. 自分が作りたい, そして昔の自分がほしかった ごついコンテンツはもう作ったので, 今度はきちんとニーズにあったコンテンツにしたいです.
ごついやつはごついやつできちんと 一定のニーズは拾えているとは思っていますが, やはりマニア度が高くなりすぎてしまいます.
さらに, これと通信講座補足コンテンツとしての 計算練習章のために いろいろ文献やコンテンツをあさって勉強し直しています. 私としては知っている事実の詳しい確認の方が多いので, これまでと違って気楽に本が読めて 気持ちが楽です.
これまでは発展的な内容の紹介をするために, 専門とは遠い分野の本を読むことが多く, やはりかなり消耗していました.
いくつか面白いのがあったので, それもシェアしておきます.
まず微分方程式系統で面白かった概説書として, 『東京大学工学教程 基礎系 数学 非線形数学』があります.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/4621089927/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4621089927&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=bb9291ffda85d2db5f36eb7584224022
最初の 1 章に線型作用素の理論があり, 通信講座の作用素論と常微分方程式に書いたところが いい感じにすっきりまとまっています.
他のところも相転移関係, 力学系やソリトンの話が書いてあって, 概要を掴むのにはかなりよさそうです.
工学教程とはいえ, 数学分冊なので, 気分的に数学よりの印象です.
あと, 幾何の復習と知識定着のために, リーマン面の勉強をしています. その文献として Forster の本を読んでいます.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/1461259630/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=1461259630&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=d4bbba505c768a851d7b6add548e6958
1 万するので気軽に勧めにくいのですが, 被覆空間というトポロジーとの関連からはじまり, 層とコホモロジー, 接ベクトル抜きの微分形式の直接定義, 超関数を導入しつつの調和形式などの解析的な議論など, 話題がてんこもりです.
もちろんリーマン面抜きの 1 変数関数論は 知っている前提ではありますが, 代数・幾何・解析の基本的なところが さらえてお得感があります.
超弦理論でもよく出てくる AdS/CFT の CFT (共形場理論) でもリーマン面は大事なので, もしあなたがこの辺に興味があるなら, 1 つの基点になる分野でしょう.
他にも通信講座のベクトル解析の章で 強く参考にしたスピヴァックの本も勧めておきましょう.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/0805390219/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=0805390219&linkCode=as2&tag=phasetr-22
異様に簡素な記述で, 面倒になりがちな陰関数定理と逆写像定理の証明も読みやすく, やはりお勧めです.
和訳も昔からあり, 新版も出たのですが, 品切れのようでAmazonでは中古が 8,806 円とかいう 高値で出ています. 英語の方がまだ安いので, 英語で読んでしまいましょう.
ちなみに和訳は学生の頃昔の版で読んで, continuously differentiable を強可導とか 変な訳語で訳してあって閉口した記憶があります. 新版にしたときに訳語も見直したそうなので, この辺は改善されているのだろうとは思いますが.
何にせよ, 定価なら 3000 円くらいだったはずなのに, 馬鹿みたいな値段になっているのは頭来ますね.
3 冊合わせると 20,000 円突破するので, なかなか厳しいとは思うのですが, 面白そうと思った本はぜひ眺めてみてほしいです. 学生さんなら大学の図書館行きましょう.
ではまたメールします.
2018-08-12 !!!やっと終わった!!!/相転移プロダクション¶
苦節 2 年, ようやく有料の通信講座として 作り続けていた現代数学探険隊を 一通り作り終えました.
このページのコンテンツです.
- 通信講座 https://phasetr.com/mtex1/
- PDF コンテンツ https://phasetr.com/mtexpdf1/
値段や募集ページを改訂し, PDF を購入された方には更新案内済みです. もしあなたが PDF 購入済みなら, メールを確認しておいてください. 届いていない場合は念のため迷惑メールフォルダの確認もお願いします.
当初, 2 年で終わらせたいが 2 年半から 3 年になるかも, と思っていたところ, ほとんどぴったり 2 年で終わりました.
通信講座に関して教えてもらった人が 「何だかんだでこのくらい, と思って狙ったところに実際に落ち着くから, 最初の想定はきっちりやっておいた方がいいよ」 と言われて, どうかな, と思っていたら, 講座の期間設定に関してはぴったりそれではまりました.
参加者もだいぶ増えたのですが, もちろんもっと増やしたいです. そろそろ物理の話もしたいのですが, 数学的基礎のレベルが揃っていてくれないと なかなかそういう話もできないので.
無料のミニ講座も含めて, もっとコンテンツの布陣を充実させていくので, 楽しみにしていてください. 現代数学探険隊にしても, タイポの修正や索引を充実させるなどの課題が まだ残っています.
新たに追加した最後のベクトル解析の章, R^n 内の多様体とはいえ, けっきょくベクトル解析の中で 多様体を議論してしまいました.
当初の構想ではもっとあっさりすます 予定だったのですが, 曲面論があまりに面倒で, これなら多様体を導入しても大して変わらないか, という話になってしまいました.
それに合わせて外積代数や微分形式, 特異単体やある程度一般的なストークスの定理を議論しています. もしあなたがご興味あるならぜひどうぞ.
- 通信講座 https://phasetr.com/mtex1/
- PDF コンテンツ https://phasetr.com/mtexpdf1/
実際に通信講座としてコンテンツを作ってみて, いくつか反省点や実際にこれから修正していく点があります.
自分でもコンテンツを作ってみたい, という声はちょくちょく聞くので, その参考のため, そして何より自分用のまとめとして 情報をまとめておきます.
- 各回の記号については最初にまとめておく.
- 宿題には今回のまとめ, 適当な回やテーマの復習を入れる.
- 計算練習の章を作る
いまパッと思いつくのはこのくらいですが, 思いつき次第手元にまとめていこうと思います.
- 各回の記号については最初にまとめておく.
大人向け通信講座用コンテンツとして毎日空き時間にちびちび勉強する, PDF コンテンツとして必要なところを辞書的に調べるという コンテンツの特性上, あるところをパッと見たとき, できる限り記号や概念の意味がわかるようにした方がいいのです.
これは多様体の仮定に第 2 可算性を仮定する, といった本の最初に書いてあって, あとはもう言及しない, みたいなことはよくあります.
ここで参照用の定義や節を適宜入れた方がいいだろうと.
特に通信講座では各回はその回の分の PDF しか配布しないので, ある程度は各回の先頭にまとめておいて, 「どこに書いてあったっけ?」と探さなくていいようにした 方がいいだろうという感じです.
- 宿題には今回のまとめ, 適当な回やテーマの復習を入れる.
これは使っているシステムに宿題という機能があったから 入れてみた, という側面があり, あまり使い方を練り込めていなかった部分です.
いろいろな形で印象に残しやすくするため, そして講座の改善につなげていくため, その回の感想を書いてもらったりする「宿題」もあり, ふつうに問題を出していることもあります.
ここに今回のまとめをする課題を入れたり, 前にやった大事な事実の確認や, 次回触れる内容の復習を入れておくとか, そういう活用もあるべきですね.
他の講座の募集ページ含め, くり返し書いていることとして, 意味はよくわからなくても, 何となく言葉を知っているだけでも全然違う, というのを強調しています.
もちろん意味まで覚えていられればベストですが, まずは言葉だけでも心に刻みつけておいてほしくて, 宿題はそういう用途にも使えるなと改めて思っています.
- 計算練習の章を作る
これは実際にこれからやっていく課題です. 本当はこれも含めて 1 章にして最終的なコンテンツとして展開する予定でしたが, この間「物理やるなら計算できてなんぼ」と言ったのと絡めて, もう少し一般的に別枠で展開した方がいいな, と.
もちろん PDF を購入された方と 通信講座を最後まで受講された方には無償で提供します.
この方針転換と合わせて, 数学的に厳密な極限交換をきちんとやるようなタイプの計算はもちろん, 物理でやるような厳密ではない計算についても フォローしていくことにしました.
これはちょびちょび進めていきます. 計算については PDF でごりっと販売する方がよさそうな気はします.
同時並行で考えている中高数学だと, かえって計算だけ延々やっていく通信講座があってもいいような気はします.
このあたりは対象にもよる部分です.
- 次に作る通信講座
まずは読者のレベルの底上げをはかるための 無料の講座を整備します. がっちりした内容の講座はもう作ったので, 今度はもう少しゆるく, いわゆる物理数学的な内容とレベルにしていこうと思っています.
最近, 機械学習だの何だので統計のための数学, みたいなところもあるので, そういう層も折り込んだ講座内容を考えています.
何だかんだいって, やはり 2 年講座を続けられた秘訣は, 有料講座にしたことです.
数学じたいはやめろと言われてもやっていきますが, 通信講座を作るという骨の折れる作業は, さすがに有料講座を提供しているという責任感なしでは続けられませんでした.
終わったばかりでまたすぐに有料講座だとあまりにつらいので, それも込めてしばらく調査しつつの無料講座で, 次の構想を深く練り込んでいこうと思っています.
メルマガだとあまり感想メールなどの反応がなくて悲しいのですが, Twitter だと割と反応くれる人が多く, その手の話の内容に関して 具体的に相談できる人も何人かいるので, その手の人にはいろいろ協力をあおぎたいですね.
- 物理もやりたいが, まずは数学
先程も書いたように, 物理の講座も作りたいのですが, 物理の講座をやるなら物理に集中したくて, 途中で数学の話をしないですむようにしたいと思っています.
まだしばらくはそのための数学講座を整備していくつもりです.
ちなみに物理の講座を作り, 有料で提供してみたいという方がいらっしゃれば, ぜひやってください. 必要があれば適宜宣伝協力などもしますし, 募集ページの作成などのサポートもやります.
有料講座やるなら, いわゆるレベニューシェアのコンサルティング的な形で, 入ること前提ですが.
この辺はきちんとやらないと逆にあとで余計な責任問題が起きて, お互いに苦しくなるので, ちゃんとしておきたいですね.
適当な意味での責任が発生しないと, かえって長続きしないことをこの 2 年で学んだことが 一番の収穫かもしれません.
とりあえずは有料講座のブラッシュアップと, 無料講座の大量生産に勤しみます. ぜひそれを楽しみにしていてください.
ではまたメールします.
2018-08-03 物理のためにどこまで数学をやるのか?/相転移プロダクション¶
この間, 超弦理論に関する話を少ししました. 念のため, 私の考えをもう少し書いておこうと思います. 今回は数学それじたいよりも それを使って何か, 特に物理を勉強したいという人向けの話です.
あと物理の勉強という言葉で 私が意図する中身も説明します.
まず, 私のところにやってくる時点で, いわゆる啓蒙書レベルでは満足できず, がっちり勉強する意志があるのだと思っています.
物理に対する態度もいろいろあります. アンケートを見ていると 情報やら応用化学やら いろいろな専攻の学生さんがいますし, 物理それじたいが応用の対象で, そのための数学強化が目的の人もたくさんいます.
もともと私だって物理の学生なので, その辺の気分はよくわかります. 実際学部 2 年くらいまで物理よりも 数学を勉強する機会の方が多いくらいでした.
ひたすらに腕力を鍛えないといけなくて, スパルタでつらいのです.
話を元に戻しましょう.
ここで, 勉強したい物理が学部レベルの物理, 特にふつうの量子力学や統計力学にあるなら, この間書いたような無茶は言いません.
むしろ微分積分と線型代数をどこまで 強化できるかがキモで, 関数解析的な認識があると両方を鍛えられるから便利, というくらいの気分です.
書きっぷりはともかく, 現代数学観光ツアーはまさにその視点で書いています. プログラムによるシミュレーションまで含め, このくらい数学の視野があれば 学部レベルの物理を勉強するのに 十分な水準だろうと思います.
最近は物性系の理論物理であっても トポロジーが必要になっていたりする事情もあります.
しかし学部レベルの物理でいうなら, 現代数学観光ツアー以上にハードな数学は まずいらないでしょう.
集合・位相もヒルベルト空間に特化して勉強すれば十分ですし, それもほぼ線型代数で出てくる有限次元の内容を かっちりやれば十分です.
一般相対論も, 準リーマン幾何とかいったりはしますが, 微分積分と線型代数をきっちりやっておけば 困らないでしょう.
問題というか大変なのは, 超弦理論に興味がある人達です. この分野, そもそも基本的な語彙じたいが 尋常ではありません.
余剰次元の話で出てくるカラビ-ヤウ多様体は, 定義それじたいのために ケーラー多様体に対する基本的な語彙が必要です. 独学分を無視するなら, 数学科の学部 4 年で到達するような内容です.
一年中毎日数学をやっていて, 自他ともに数学への耐性があると思っている人々が 湯水のように数学の勉強に時間を使った上で 4 年かけてようやく辿り着く世界です. しかもそれでようやく入口くらいなわけで, もう尋常ではないのです.
そして半端に進んだことを勉強してしまうと, 基本的な勉強をするのが億劫になります. そこで億劫になる前に基礎をとにかく叩き込め, そういうコンセプトで現代数学探険隊を運営しています.
興味津々の状態で超弦理論の世界を覗いたあと, もっとちゃんと勉強しようと思って 古典力学やら電磁気学やらを勉強しようと思っても, 「多分知ってないと駄目なんだろうな」という程度の思いで やりきれるほど甘くないですし, 何より何がどう超弦理論の理解につながっていくかもわからなくては, 勉強が続かないでしょう.
スポーツでも派手な技を披露するためには, 基礎体力や筋力の向上, 地道な訓練が必要です.
スポーツだとこの辺の基礎がないと, 怪我という肉体的に痛い目を見るのでわかりやすいのですが, 勉強だとこういう痛い目を見ないので, やばい状態が見抜けません.
基礎の訓練なしでやるのは 精神的・知的に緩慢な自殺に向かっているとさえ言えます. これで逆に参っている人を何人も見かけたからこそ, もういい加減基礎からきっちりやりませんか? というストーリーを描いてサービスを展開しています.
そしてあくまでも物理は物理できっちりやることを考えています. ここでいう「きっちり」は物理で出てくる計算を 物理のレベルでやりきれることです.
とにかく計算が追えなくて困るというのは, わかりやすく痛い目を見るための方法でもあります. まだ基本的な力量が足りないのだと.
いつも困るのですが, 半端な人に限って 次のようなファインマンの有名なエピソードを持ってきます: 細部は怪しいですが, 大意は合っているはず.
ファインマンが学生と議論しようとしていた. 学生が黒板に向かって計算をはじめると, ファインマンがこう言った. 「計算はいい. その現象に対してどんなイメージを描いているのか, それを教えてほしい. その上で議論しよう.」
この話を適当に引用して, 「計算よりもイメージ作りの方が大事」みたいなことを言ったりします.
これ, 本当に本末転倒です. 直観ではどうにもならないからこそ, 数学に頼って方程式を立ててゴリゴリ計算して, その結果を一所懸命物理として解釈するという 戦略を取っているのが物理です.
計算はできて当然, その後にようやく物理がはじまるくらいの気分があり, 計算できない人はそもそもスタートラインにさえ 立てていないと思っています.
前回, 「計算は追えているのか」と書いたのには こういう背景があります.
ディラックの有名な言葉で 「この方程式 (ディラック方程式のこと) は私よりも賢い」 というのがあります.
これはディラック方程式を 一所懸命計算して出てきた結果を考えると 思いもよらない話がいろいろ出てきたという経緯によります.
計算自体が大事な思考様式なので, それが抜けていてはどうにもならないのです. 計算しないのはそもそも頭使っていない, 何も考えていないくらいに思っています.
ファインマンにしても, ファインマンダイアグラムは どんな認識のもとで何を計算しているか 理解しやすくするための方法という側面があります.
経路積分にしても新たな計算手段の提案という側面があります. ファインマンの有名な仕事は どう見通しよく計算するかに焦点があって, むしろファインマンは計算に 一家言ある人とさえ言えるでしょう.
だから計算は大事だし, そのための数学的な足腰から 作ってしまおうと言っています.
ちなみに数学でもこの手の事情はあります. 定理は証明したし例も作ったが, その論文の著者がその例の意義を理解しきれていないという事例があります.
次の河東先生の論文のコメント集を見てみてください.
- http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/bib.htm
該当箇所を引用します.
1998 年の春と秋にイギリスでやった. 私の論文中最長のもの. Ocneanu と Xu のやっていることは見掛けはまったく違うが, 同じもののはずだ, という Evans の洞察で始まった. 両方とも私の [18] の 例が元になっているのに, 私はまったく気づいていなかった. それは私は最初 DHR 理論が全然わかっていなかったからだ.
一通りの証明が終わったあと, それをどう理解してどう使っていくか, これがまた別の話で, 難しいことがたくさんあるのです.
それはそれとして, ここまで超弦までカバーできるような 厳格な数学的基礎に的を絞りすぎたので, いわゆる物理数学水準にまで厳格さを落とした 講座を作る必要があるな, というのを感じています.
やるべきことはまだまだたくさんあるので, 地道にがんばります. あなたも地道に数学なり物理なり, さらに自分の専門なりを地道に深めてください.
一所懸命宣伝したおかげか, 現代数学探険隊に参加してくださる方が ここ数日でけっこう増えました.
まだもっと増えてほしい, 物理の話ができるくらいの数学の基礎は早く身につけてほしいと思っているので, 改めて宣伝しておきます.
- 通信講座 https://phasetr.com/mtex1/
- PDF https://phasetr.com/mtexpdf1/
さっさと基本的な数学の足回りは固めてしまいましょう. 急がば回れで, 最初にゴリっとやってしまうのが結局早くて楽です.
ではまたメールします.
2018-08-01 続 アンケートへの回答/相転移プロダクション¶
昨日のメールでアンケートへの回答に さらに回答がありました. 他の方にも参考になると思うので, メルマガ上でさらに回答します. (購読者アンケートから回答されているので 直接やりとりしようにもできない事情もあります.)
きりがないのでやめておきますが, これでもレベルが足りてないのでしょうか? あと 10 年かかりますか?
いろいろ書いたのですが, 結局, 回答して頂いた方の状態が 全然わからないという一言に尽きます.
あと 10 年というのは 「少なくともあと 10 年は遊び続けられるネタがある」 という話で, むしろいい話だと思っています.
少しずつ突っ込んでいきましょう.
物理に関してどのくらいのレベルなのかは, 情報が少なくても何とも言えません. (解析力学や電磁気の復習がいるという自己認識の時点で 超弦まで数年レベルの距離があるだろうという感じはあります.)
数学としては次のコメントなどから判断する限り, 基礎の基礎から叩き直す必要があります.
そもそも有限の線分を, 点に細分化するという事は, 無限に分けるということですよね. しかし, 有限なものを無限に分ける事自体矛盾しているような気がします.
この誤解に関してはどこからどうコメントすればいいのか わからないレベルです.
そもそも集合の記号自体難しいし, 全単射などは, 知りませんでした.
全単射はともかく, 集合の記号が難しいと思ってしまうようでは, 先は本当に長いです.
誰でもここからはじまるので, いいとか悪いとかいう話ではありません. 単純な事実として 10 年を見た方がいいレベルで 先は長いです.
朝起きてから夜寝るまで物理や数学をやっている, 専門の学生がようやく 4-6 年で到達するレベルなので,
仕事のかたわら趣味でやる大人が 2 倍程度の期間で何とかなるなら むしろ異常なくらいの優秀さだろうと思います.
そんなに自分の物理や数学の理解力に自信があるのでしょうか. それはそれで感心しますが, そこまでできる人に差し延べられる手を 私はもっていません.
そんなにできるなら, 本当に勉強の記録をコンテンツ化してほしいです.
物理に関してはいろいろな意味で何とも言えないので, 数学サイドからの参考情報を出しておきます.
私の知る限り, 物理ベースで超弦理論に必要な数学として, とりあえず次の江口徹さんの文章があります.
- 江口徹さんの大学院志望者向け要望 http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/kyoumu/documents/02eguchi.pdf
これ, 東大数理の大学院の志望者向けに教官が書いたファイルです. 私が修士の頃にも見た文章なので もう 10 年以上前の文章で, 超弦の発展ぶりからすれば, もっと爆発的に必要な数学は増えているでしょう.
上の PDF には 表現論・複素多様体論・低次元トポロジーと 具体的に書いてあります.
数学サイドからのちょっとしたまとめ コンテンツも紹介しておきます.
- セシルさんの数学小まとめ http://kansaimath.tenasaku.com/wp/wp-content/uploads/2016/04/sst-1.pdf
7 ページなのでさっと眺めてみてください.
ここで「3 カラビヤウ多様体」とあります. これはいわゆるコンパクト化の 6 次元分にあたる空間で, 複素多様体です.
カラビ-ヤウ多様体はケーラー多様体であり, 第 1 チャーン類が消えることで特徴づけられます. チャーン類は複素多様体上のコホモロジー類として定義されていて, リッチ形式と書いてあるように曲率が重要です.
D ブレーンのところで導来圏が出てきます. これがまた抽象論の極みで, 集合論の記号で難しいというレベルでは あと何年かかるかわかりません.
導来圏周辺だけに特化すれば これ自体は 1-2 年もあれば何とかなるかもしれませんが, 導来圏を使っていろいろやることが目的なのであって, それだけ知っていても何にもなりません.
念のため言っておくと, 大学に入ってから何だかんだで数学を 15 年続けていて, 数学で修士は取っている私ですら, 専門外なので本当に気合を入れて, 腰を据えて挑まないと基本的な文献さえ読めません.
超弦の物理の様子をほとんど知らないので, 「本当にここまでいるのかな」という気はするのですが, どこまで深く理解しているかはともかく, 私が知っている超弦理論周辺の人は 導来圏を名前くらいは確実に知っている感じがあるので, たぶん常識的な数学なのだろうとも思っています.
このあたり, 「ああ, あのことね」とサクっとわかるでしょうか? 少なくともカラビ-ヤウくらいをさっと調べて 感じがつかめないようでは, 物理と並行して数学を勉強する前提だと 5-6 年平気でかかると思います.
他にも連接層の導来圏だとか, シンプレクティック多様体やら何やらいろいろあります. しかも 6-7 ページを見る限り, 物理とダイレクトに対応している部分があるようなので, たぶん知らないと駄目なのでしょう.
あと, ミラー対称性に関して数学者サイドが まとめた文献も紹介しておきます.
- https://www.claymath.org/library/monographs/cmim01c.pdf
952 ページあって, 物理の視点からの話もいろいろ書いてあるようです: 目次のレベルで言っているだけで, 中身は確認しきれていません.
ちなみに私はこれの P.25 からすでに厳しいです. 射影空間や層の基本の基本なら「知って」はいても, 超弦理論の幾何で要請されるレベルの「理解」は持ち合わせていません.
私が想定しているのはこれらをきちんと制御できるレベルです. 私は専門外なので, 理論物理レベルの理解であっても, あと 2-3 年は軽くかかるレベルの話です.
最後にもう一度. 10 年かかるというのは むしろ異常な猛スピードだと思ってください.
物理はおいておいて, 数学だけでも学部 4 年から修士レベルの内容がバンバン出てきます. 理論物理ベースなのでもっと雑な勉強でもよく, 純粋な数学にかかる程の時間はかけなくてもいいかもしれませんが, それでも物理と並行して勉強する前提で どう控え目に言っても 3-4 年はかかるでしょう.
別に研究者になろうというわけでもないなら, ゆっくりであっても何ら問題ないと思うので, 何でそんなに期間を気にするのかよくわからないのですが.
この間メルマガでも書いたように, 3 行の不等式処理に 4 週間かけ, 著者に何度か質問してようやく解決, というくらいの進捗もざらですし, 何でそんなに理解力に自信があるのかが不思議です.
「いつまで経っても進まない」と思って 挫折しないといいのですが.
何はともあれ今回はこのくらいで.
またメールします.
2018-08-01 メモ¶
昨日のメールでアンケートへの回答に さらに回答がありました. 他の方にも参考になると思うので, メルマガ上でさらに回答します. (購読者アンケートから回答されているので 直接やりとりしようにもできない事情もあります.)
きりがないのでやめておきますが, これでもレベルが足りてないのでしょうか? あと 10 年かかりますか?
頂いたコメント, 結論としてはこういう回答でした. で, 私の回答を結論から言いましょう. 頂いた文章を私のフィルターで解釈するなら, 十年かかるでしょう.
これ, 読者の皆さんがどう思うかよくわからないのですが, 私はむしろ「10 年は遊び続けられることが確定している」 という認識で, とてもいい話だと思っています.
ぜひやってほしいというか, もっと強く, 勉強の記録を コンテンツとしてまとめてほしいくらいです. それこそ売り物になるでしょう.
ここで私の想定 (要望と言ってもいいかもしれない) は, 物理はさておき, 「理論物理ベースで超弦理論のための 数学も理解しようと思っている」という状況です.
この点からすると, このコメントをされた方, 前回回答した集合論に対するコメントを見る限り, 数学的にはマイナスからのスタートくらいの気分です.
超弦ではなくてふつうに量子力学や相対論というなら 集合がどうのという話はしなくていいと思っていますが, 超弦はちょっとそれだと困るように思います.
少しずつ細かい話もしていきましょう. まずは物理, そして定義の確認から.
マクマホンの本に関する内容で 「こんな内容だった」という文章のまとめを頂いています. これはこれで役に立つ人もいそうなので, 転記しておきましょう.
===引用開始 マクマホーンさんの本は, 読んだことありますか? 僕的には, 簡単だと思って, 以前そう書きました. 第 2 章から本格的になりますが, そこも解析力学的に変分原理で, 相対論的点粒子と南部・後藤のひもの方程式を導出しています. 相対論的点粒子のラグランジアンから, 南部・後藤のひものラグランジアンを推測する部分は, 素晴らしい. 二種のひもを区別する為に, 境界条件の事がかいてある. 力学なら当たり前で特殊解にひつようだから. 天下り的にポリヤコフ作用を紹介. 量子化が, 南部・後藤のひものラグランジアンだと困難だから. 共形ゲージで固定して計算を進める. 光錐座標の導出 作用の書換え→ひもの方程式の書換え 共形ゲージで固定して, ひもの方程式が波動方程式に, 解の形がわかるので, それをモード展開, それぞれ開いてひも, 閉じたひもと. 第 3 章 EM テンソル, ポリヤコフ作用の対称性から連続の方程式が. ここは現代物理的に, ネーターの定理より, 対称性から出てくる保存量を紹介. ゲージ固定として, パラメータ付け替え不変性およびワイル不変性を採用. 第 4 章 ひもの量子化 弦座標 正準運動量 およびひものモード係数に第 1 量子化. モード係数が振動子である事が, 量子力学のハミルトニアンの式からわかる. ヴイラソロ演算子の紹介 後に世界面上の共形対称性から, 共形変換をつくる生成子, これこそヴイラソロ演算子である. 量子論においては, 中心拡大を含み, アノマリーがあるが, 共形場理論的にこのアノマリーが相殺されるのが, ちょうど 26 次元. また EM テンソルとヴイラソロ演算子の関係も重要で EM テンソルどうしの OPE からセントラルチャージの共形アノマリーを確認. →ゴーストの EM テンソルのどうしの OPE の第 1 項と相殺. 質量演算子→スペクトル解析→タキオン状態を確認. 両ひものスペクトル解析を簡単にやってる. 共形場理論の説明. ウィック回転から. 複素変数の導出. →ポリヤコフ作用の書換え→変分原理→ひもの方程式導出 共形変換の生成子, 2 次元共形群, など. ひもの方程式→モード展開 あと BRST 量子化を軽く説明. まず RNS 超弦から. ボソン項に, ディラック場のラグランジアンを追加などです. ===引用終了
超弦の物理, 私はよく知らないので 正しいのか私には判定できませんが, 知っておかないといけないキーワード集としては 役に立つのでしょう.
そういえば, マクマホンといわず, 私は超弦理論の物理の本を読んだことがありません. 大栗さんの啓蒙書をレビュアーとして 読んだことがある程度です. 超弦の数学方面はちょこちょこ眺めています.
それはそれとして.
まず確認したいのは, 上に書いた内容に関して, 計算は完全に追えているのでしょうか?
この計算が追えるレベルにある人が 前回の集合関連のコメントをするとは思えないので, 本当に謎です.
もっと言うと, 上の内容が「わかる」というなら, その時点で私よりも物理も数学もできるとしか思えないです.
そして物理, それも超弦理論のような 非直観の極みのような量子論の分野で 計算を追い切れない状態で 何かを「理解」できるというのが想像できません.
この辺, 「わかった」というのは どう定義されているのでしょうか?
ここからは数学の話.
私の知る限り, 物理ベースで超弦理論に必要な数学として, とりあえず次の江口徹さんの文章があります.
- 江口徹さんの大学院志望者向け要望 http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/kyoumu/documents/02eguchi.pdf
これ, 東大数理の大学院の志望者向けに教官が書いたファイルです. 表現論・複素多様体論・低次元トポロジーと 具体的に書いてあります.
こういうのがわかっていそうにないのに, 超弦のことが何かわかるのだろうかというのが疑問です.
数学サイドからのちょっとしたまとめ コンテンツも紹介しておきます.
- セシルさんの数学小まとめ http://kansaimath.tenasaku.com/wp/wp-content/uploads/2016/04/sst-1.pdf
7 ページなのでさっと眺めてみてください.
ここで「3 カラビヤウ多様体」とあります. これはいわゆるコンパクト化の 6 次元分にあたる空間で, 複素多様体です.
カラビ-ヤウ多様体はケーラー多様体であり, 第 1 チャーン類が消えることで特徴づけられます. チャーン類は複素多様体上のコホモロジー類として定義されていて, リッチ形式と書いてあるように曲率が重要です.
D ブレーンのところで導来圏が出てきます. これがまた抽象論の極みで, 集合論で挫折するようでは手も足も出ません.
「ここまでいるのかな」という気はするのですが, どこまで深く理解しているかはともかく, 私が知っている超弦理論周辺の人は 名前くらいは確実に知っている感じがあるので, たぶん常識的な数学なのだろうと思っています.
このあたり, 「ああ, あのことね」とサクっとわかるでしょうか? 少なくともカラビ-ヤウがわからないと 致命的なように思うのですが.
他にも連接層の導来圏だとか, シンプレクティック多様体やら何やらいろいろあります. しかも 6-7 ページを見る限り, 物理とダイレクトに対応している部分があるようなので, たぶん知らないと駄目なのでしょう.
あと, ミラー対称性に関して数学者サイドが まとめた文献も紹介しておきます.
- https://www.claymath.org/library/monographs/cmim01c.pdf
952 ページあって, 物理の視点からの話もいろいろ書いてあるようです: 目次のレベルで言っているだけで, 中身は確認しきれていません.
ちなみに私はこれの P.25 からすでに厳しいです. 射影空間や層の基本の基本なら「知って」はいても, 超弦理論の幾何で要請されるレベルの「理解」は持ち合わせていません.
で, 集合論が記号じたい難しいという人が, 数学や物理の知人が周囲におらず, 指導者も身近にいない状態で大人が勉強を進める前提だと, この内容は余裕で 10 年コースでしょう.
物理の勉強しながら平行して進めることになるのでしょうし, 理論物理レベルのパワー押しですら そのくらいかかっておかしくありません.
期間的な話について, もう 1 つの判定基準を出しておきます. 現代数学観光ツアーが軽く理解できるというなら, 数学としてはあとは幾何だけなので, 大分軽くなるでしょう: 半分にはなるはずです.
物理は物理でまた別なので何とも言えませんが, 数学としてはあと 3 年くらい頑張れば, 論文を読んで楽しめるレベルになるだろうと思います.
この 3 年というのは私が大学院進学レベルで 集中して幾何と代数の勉強をきっちりやれば, そのくらいはいくだろう, という見立ての上での数字です.
現時点の私の数学力と数学への耐性を見込んでこの数字なので, それを越えられる自信があるなら, もっと短期の計画を立ててもらっても構いません.
何でこう言っているかというと, ただでさえ数学の勉強なんてうまく進まないのに, 「想定より遅れている」なんて思ってしまうと, それだけで余計な挫折の原因になるからです.
もっと気長に気楽に構えた方がいいのでは? という感じで.
何というか, 超弦理論のレベルをボディビルダーの コンテスト優勝者レベルと思うなら, 現代数学観光ツアーの前半部分は 腕立 5 回できるくらいだと思ってください. まずは腕立 10 回くらいはできてもらわないと 何も話が通じません.
物理に関しては状況がよくわかりませんが, 数学に関してはこのくらいの状況だろうという認識です. 地道にがんばりましょう.
ではまたメールします.
2018-07-31 「購入通知メールが届いていない?」/相転移プロダクション¶
昨日メールで現代数学探険隊の PDF の連絡をしたら, 新たに何人か購入されている方が いらっしゃいました.
ありがたいですし, 身が引き締まる思いですが, それはそれとして,
クレジット購入された方で, メールがエラーになってしまっている方がいるようです.
販売ページはサイトで公開しているとはいえ, 昨日の今日での購入なので, メルマガ読者の方だろうと思います.
購入の申込なのでおそらく 名前は本名だろうと思うのですが, それをここで出すわけにもいかないし, メールアドレスも出すわけにいきません.
個別でもメールは送ったのですが, 念のためメルマガでもご連絡しておきます.
PayPal からの受領通知が来ているのに PDF のリンク通知が送られてきていない! という方がいらっしゃったら, ご連絡ください.
銀行振込は定期的にチェックしていますが, 振り込んだら連絡入れて頂けるとスムーズです.
一応, 改めて購入ページへのリンクを貼っておきます.
- https://phasetr.com/mtexpdf1/
くり返しですが, このページ, 見るだけでも あなたの勉強の参考になるように作っています.
買う買わないは別にして, ぜひ一読してみてください.
ではまたメールします.
2018-07-31 アンケートへの回答/相転移プロダクション¶
予告通り頂いたアンケートに回答します. 現代数学観光ツアーの第 1 回へのコメントでした.
- https://phasetr.com/mtlp1/
これ, オーバーキルすぎるというクレームを 多数頂いているので, あと一月くらいで現代数学探険隊を 一通り作り終わったら, 物理数学的な内容に特化しつつ, ばらしてミニ講座を作り直す予定です.
それはそれとしてアンケートで頂いたコメントに 回答していきます.
たまにいらっしゃる, 超弦理論に興味があるという方ですね. 超弦を明確に指定されるのには 文系だという方も多いようで, 毎度「そうなのか」と驚きます.
結論を先に言っておくと, 物理・数学を専門にする学生でさえ 4-6 年程度かかるので, 10 年計画で勉強を進めてください.
では具体的にコメントをつけていきます.
しかも極限, 積分ていう代数的演算が文字通り幾何学との繋がりがわかって,
あくまで数学をやっている立場からのコメントとして, 極限はともかく, ふつう積分を代数的演算とはいいません. 確かに足し算という代数的な演算の極限ではあるのですが.
そもそも有限の線分を, 点に細分化するという事は, 無限に分けるということですよね. しかし, 有限なものを無限に分ける事自体矛盾しているような気がします.
何か根本的な勘違いがあります. 確かに純粋な有限集合は無限個にわけようがありません. しかし, ここで言っているのはそういう話ではありません.
有限の長さの線分とか, 有限の大きさの長方形とかいう意味での有限性を議論しています.
少なくともこの中には無限個の有理数は入っているので, 無限個の点は入っていますし, それらを両端とする区間を考えれば, 区間も無限個あります.
僕は, 大学は文系でしたが, その時から独学で相対性理論を勉強したものです. それ以降, 量子力学から弦理論に至るまで, 色々本をあさって読みましたが, いまいちよくわかりませんが. 具体的な事を言うと, 英語のマクマホーンさんの弦理論は, 読めましたが, ポルチンスキーさんの邦訳の本は, よめませんでした.
マクマホーンの本というのは次の本でしょうか?
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/0071498702
「これは読めた」とのことですが, 「読めた」の定義は何でしょうか? 他のコメントを見る限り, この本を読みこなせるような物理・数学力は ないように思います.
むしろ, これを読めるなら 私よりも数学も物理もできるはずで, 私からコメントできることないくらいですね.
それから基礎物理や数学がたりないのではないか? と思い, 力学, 電磁気学, 熱力学, 解析力学, , 数学では, 複素関数, フーリエ解析, 群論ぐらいはやろうと順番ずつ計画してやっております.
物理はさておき, 超弦に必要な数学としては全く足りません.
あと経路積分がいまいち分かりません.
何をもって理解とするのかよくわかりませんが, 複素関数やフーリエ解析がわからない程度の 状態で理解できるものではありません.
あと共形場理論なんかも, 良さそうな本は, 絶版になっていて, アマゾンで数万円になっているのが現状です.
この辺, 詳しいことはあまり知りませんが, ネットを探すと英語の PDF がゴロゴロ転がっているので, そういうのを見繕うのも一手です.
超対称性理論にいたっては, そもそも本があるかどうかさえ, わかりません.
どういう認識なのかよくわからないのですが, ググればすぐにたくさん出てきます.
前提にしていることがたくさんあるので, どんなに低く見積もっても 学部 4 年の物理学科水準の力がないと 読めません.
関根さんには, これについて何か助けて頂ければと思っております.
超弦理論は数学としても物理としても研究最前線で, いわば長い下積みが必要な分野です.
物理また数学漬けの学生生活を送る 物理学科または数学科の学生ですら, 4 年以上かけて辿り着く地平なので, 10 年計画くらいで勉強を進めてください.
あとワークチャットなのですが, iphone アプリ入れたのですが, チャットには入れません. 何故でしょうか?
情報少なくてどうアドバイスすればいいのか よくわからないです.
ここでは簡潔に回答しましたが, まさにこの手の要望に応えるために作ったのが 現代数学探険隊です.
この講座を受講し終えたとしても, 超弦のために必要な物理は全くカバーできませんし, 何より超弦に必要な数学, 特に幾何もカバーしきれていません.
それでも, 10 年計画のうち, 数学の基礎を作る 2 年の内容としては 1 つきちんと方向を指し示す内容にはなっています.
実際に購入・受講されるかどうかはお好みですが, 勉強の方向性として確実に役に立つ内容になっているので, 下の 2 ページはぜひ読み込んでみてください.
- 通信講座 https://phasetr.com/mtex1/
- PDF 販売 https://phasetr.com/mtexpdf1/
この質問された方に対しては, お勧めは PDF よりも通信講座です. 基本的な集合論などの足腰から鍛える必要があり, 最初からきっちりやってほしいからです.
あと仕組みとして毎週メールで 強制的にコンテンツを送り続けるので, 長い目で見た勉強のペース作りのサポートもできるからです.
超弦理論は数学や物理学専攻であってさえ厳しいので, 啓蒙書を読んで楽しむというレベルではなく, 本気で勉強してみたいというなら, どうしてもそれ相応の覚悟が必要になってしまいます.
その覚悟に応えるための第一歩としての コンテンツは準備しているので, 必要なものはぜひ参考にしてください.
千里の道も一歩からです. めげずにやっていきましょう. 私も引き続きコンテンツを作り続けていきます.
ではまたメールします.
2018-07-30 あと少し!/相転移プロダクション¶
つい先程, 5 週間はまっていた 計 3 行の証明のギャップ埋めに成功し, 現代数学探険隊の偏微分方程式パート, 特にシュレディンガー方程式の解析に関する節を作り終えました. そのあまりの開放感にメルマガを書いてしまいます.
当たり前と言えば当たり前ではありますが, いくつか参考文献を見比べつつ, 講座を作っています.
基本的には以前読んだことがある文献を中心にしていて, 不明点やさらなる面白ポイントがないかを調べるために, 新たな文献も漁るスタイルで書き進めています.
以前読んで完全に詳細まで埋め切っていなかったが, 何とかなるだろうと思っていた文献のギャップが埋められず, 本当に苦労しました.
しかも著者にメールして確認したところ, やはり一部は本の記述が間違っていたこともわかり, そこにいたるまで 2 週間かけていました. あまり詳しく勉強したことがない 調和関数に関する議論がつらく, 非常に苦労しました.
私の専門は大きく言えば解析学ではありますが, 専門外の話題で学部 4 年から修士レベルの内容だと, 本当にこのくらい苦労するのもふつうです.
世間には
「数学がわかる人は わからない人の気持ちがわからない」
とかいうわけのわからないことを 言う人も多いようですが, ちょっと専門外のことを眺めるだけで, もうわけわかりません.
そういうのを伝えるのも大事だろうと思い, あえてメルマガを書いている部分もあります. たった 3 行で 5 週間ですが, よくあることです.
やっている間に微分パートもできたので, 追加コンテンツが入った PDF は, コンテンツ版を購入された方には連絡しています. 値上げもしたので, 新たに購入を検討されている方はご注意を.
- https://phasetr.com/mtexpdf1/
ちなみに, もしあなたがまだ このページを見たことないなら, ぜひ眺めてみてください.
買う買わない関係なく, 数学の勉強の仕方のノウハウも書いてありますし, PDF の目次も書いてあるので, それを参考にしてあなた自身の勉強の道筋を つけるのにも役立つはずです.
むしろ, そういうふうにも使ってもらえるようにも 書いていて, これ自身コンテンツになっていると 思っています.
通信講座もあと一月くらいで一通り作り終わるので, 新たな通信講座ネタを考えています. まずはちょびちょび作っている中高数学系の講座の 継続的な調査/開発と, 物理数学系の講座のための基礎知識を持ってもらうための 無料のミニ講座を作ることを考えています.
まずは集合位相ネタと, 微分積分の基礎ですね.
現代数学観光ツアーはハードすぎたので, もっとゆるく, 短いボリュームでいくつか作ってみて 反応・様子を見ていくつもりです.
人口的に言っても当然ですが, やはりゴリゴリの数学よりも, 応用向きというか, もう少し軽めの需要の方が 遥かに高いことも改めて感じたので, そういう方を少しずつ準備しようと思っています.
あと, 現代数学観光ツアーで 何か長めの感想+質問ももらったので, 近いうちに何かしら回答する予定です.
やはり超弦関係やりたい, という話でした. 超弦は辿りつくまでですらハードで, 一足飛びにどうにかなるものではありません.
じっくりやってもらうしかないのですが, その「じっくり」をどう進めるかが問題です.
何度か書いてはいることとはいえ, 私自身勉強を重ねていますし, 多少考えていることも変わっていれば, 知っている参考文献も増えています. その辺を改めてまとめるいい機会と思って回答つける予定です.
ではまたメールします.
2018-07-03 サッカーと数学/相転移プロダクション¶
ワールドカップ, ベルギーの試合で 盛り上がっていたようですが, 素人が見ても感動するモノが見せられる類の活動, 本当にすごいと思いますし, 数学でそういうことができないかだけを 考えていたい方の市民です.
さて, この間メールで質問が来ました.
いったん回答はしたのですが, 先日も答えるのが大変な質問が来ましたし, 改めて質問フォーマットを作らないといけないか, と思っています. 今回の質問に関して困った点をまとめる形で 注意点を書くことにします.
これ, 私が他の人に質問するときにも大事なことなので.
まず質問は次の通りです.
位相空間論について学びたいです。 位相空間論について分りやすく説明している教科書や参考書があれば教えてください。 マセマシリーズの純粋数学版みたいなのってありませんかね?
先日も質問に対するコメントで書いたように, 情報が全然ないので意味のあることは何も答えられません. ついでにいうとマセマシリーズは読んだことがないので, 「マセマシリーズみたいなの」と言われても 何もわからないという.
で, 回答です.
「わかりやすい」の定義もなければ 目的も何もかもわからないので、 何もコメント出来ません。
時々Twitterで数学関係者が話しているように、 抽象性の極みに行かないと見えない世界があって、 そこを得られない限り わざわざ位相空間論をやる意味もありません。
適当に制限されたところでやれば十分です。 目的に合ったレベルの抽象度の本を探して読んでください。 物理のための位相空間とか、 工学のための関数解析だとかモノはいくらでもあります。
ピュアな位相空間論に興味があるなら、 既存の本で良書とされる本を適当に選んでください。 人の趣味もあるので、いい本を適当に選ぶなり、 私が適当な講座の中で紹介している本なりから適当に選んでください。
あまりに雑な内容で, こちらも回答しきれず, 一次回答として簡潔に書いて返しました.
2 日経ってまだ返事はない状態です. 毎日メールを見る人ではないのかもしれませんが, 返信ないのは失礼ですね.
それはそれとして, 何がわかると適切にコメントが返せるかという観点で いろいろ考えてみましょう.
まずほしい情報として思いつく内容をいくつか列挙してみます.
- 数学はどのくらい知っているのか.
- 何を目的に位相空間論をやりたいのか.
- わかりやすいというのは何か.
- どんな本を持っているのか.
- どんな本を読んできたのか.
- 英語の本でも構わないか.
- どんな分野を専攻していた/しているのか.
- 純粋に数学としてやりたい気持ちはどの程度あるのか.
- どのくらいまでなら苦労を許容できるのか.
このくらいのことがわからないと, 意味のある回答は返せません.
それぞれコメントしておきます.
- 数学はどのくらい知っているのか.
位相空間を勉強しようというとき, 集合論を知らないならまずそこからです. 微分積分にしてもε-δの認識は前提にしたいし, 線型代数にしても抽象的な線型空間論のレベルで把握していないなら, 位相空間論のための予備知識や数学的体力は 0 と言い切れます.
特に ε-δ と開集合の抽象化への道は かなり強く関係があり, できる説明そのものが強く制限されます. 根本的な言葉そのものが通じない, がんじがらめの状態になってしまいます.
あと「初学者」とかいうのは本当にやめてほしいです. もっと具体的に算数からしてダメとか, 中学数学から怪しいとか, 理工系教養の微分積分や線型代数なら大丈夫だが ε-δや線型空間論はわからないとか, 物理で出てくる範囲のフーリエ変換, ベクトル解析, 関数論は問題ないがそこで打ち止め, だとか, 代数専攻で解析の不等式評価が本当にきつい, とか詳しく書いてほしいです.
- 何を目的に位相空間論をやりたいのか.
無目的にとにかく位相空間論をやってみたいというなら, とりあえず四の五のいわずに既存の本を読んでもらうしかありません. 私の主観で言うと議論が丁寧で, 議論のギャップが少なく内容を追いやすい本はたくさんあります. (あなたにとって「わかりやすい」かどうかは別です.)
関数解析方面に進むための位相空間論ということなら, 距離空間やノルム空間で十分に慣れてから 位相空間に進む道が考えられます.
点列を一般化したネットやフィルターの収束で 議論を押し切るスタイルさえありえます. 対応するいいコンテンツが思いつかないのが難点ですが.
幾何方面の勉強のための位相空間論なら, やはり開集合の話を素直にやらないと意味がありません.
- わかりやすいというのは何か.
これに共通認識があると思っているような 人間と話が合う気がしません. これほど ill-defined な言葉もないでしょう.
タイミングよく次のようなツイートを 見かけたので紹介しておきます.
- https://twitter.com/kuro_topo/status/1013303373544558593?s=12
分かりやすさは聞き手の属性・状況に依存するので、 普遍的な「分かりやすい説明」というものは無いと思います。 相手に合わせて説明内容を変えられる人が 「優秀」とは言えるでしょうが、 それはもう、 「頭の良さ」とは別の「スキル」とでも言うべきものでは。
これがあるので, 上で「わかりやすい」と書かずに 「議論が丁寧で, 議論のギャップが少なく内容を追いやすい本」と書きました. それも, あくまで (今の) 私にとっての話です.
わかりやすいかどうかというより, 私が「ほしい」説明は時と場合によって 次のようなケースがあります.
- 議論に関係する言葉とその使い方, どんなところでどう出てくるのかを大掴みにしたい.
- 細かい話よりも議論の大枠を知りたい.
- 議論のモチベーションになった具体例が知りたい.
- 定理の気持ちがわかる例・反例が知りたい.
- 状況を雑に表した図解.
- 大局的に何をしているかよりも, 不等式評価などをとにかく細かく徹底的に詳しく知りたい.
これ以外には次のようなこともあります.
- 定理の証明よりも計算ができるようになりたい.
物理のための数学, みたいなところだとまさにここでしょう.
ちなみに, 私が無料の講座で提供しているのは, 上のリストの前半, 大雑把な状況認識に関わる内容です. 俯瞰してくれるモノをあまり見かけないからです. そして細かく徹底的に, というのが有料でやっている講座です.
わかりやすさをどこに持ってくるかで 回答するべき本やコンテンツが変わります. ほしいモノがあるならそれに見合った精度の情報を 出してほしいですね.
マセマと言っている時点で 中高生とは思えないので, いい大人ならそのくらい言われなくてもやってほしいです. Twitter のような短文しか書けない 伝達手段を使っているわけでもないので.
- どんな本を持っているのか, どんな本を読んできたのか.
これは「マセマシリーズの純粋数学版」と 言ってきた部分とも関係します. 私はこのシリーズ, 一度も読んだことないので, 「みたいな」と言われてもわかりません.
他の知りたいことにもあるように, こういうのがあると, 私と違う世界で生きている人だ, というのがわかります. 私のゴリゴリの数学系の感覚で 回答してはいけないのがわかります.
あと持っている本で「これはこういう理由で いまほしい本ではない」みたいなことも言ってくれないと, 同じ本を勧めたときに「いやそれはちょっと」みたいに言われて, 「それならはじめからそう言え」という話になるので.
「これとこれを読んだが挫折したので, こういう視点で本を探している」というのを出してほしいです.
あと「難しい」とか言われても, 簡単にすぐわかることなど何もありません. それは大学レベルと言う必要すらありません.
どの程度までの苦労ならする気があるのかを はっきりさせてくれないと, 「がんばる気がないなら無理でしょ」と言うしかないので.
こういうの, ダイエットやら筋トレやら, いろいろなスポーツやら何やらと同じです. 最後にはどこかしらで気合とか覚悟が必要です.
- 英語の本でも構わないか.
これ, 割と真面目な話なのですが, 「英語はちょっと」と言ってくる人は その時点で敬遠します. 特に自称文系の人に言われたら 瞬間的に怒りのボルテージが高まります.
こういうときこそ, よく批判されている読み書きの英語が 死ぬほど役に立つからです.
それはそれとして, 英語なら本もたくさんあって, しかも世界中の人が本を書いているので, バリエーションが圧倒的に増えます.
例えば次のようなサイト, サービス, コンテンツがあります.
- https://betterexplained.com/
450k Monthly Readers と言っているので, この数字を信じるかはともかく, 一定の読者はいるはずです.
あと実際に本も出ていて Amazon のレビューもいいようなので, そこそこいい内容なのではないでしょうか.
- https://www.amazon.co.jp/dp/B006J5L3VU/
ちなみに私は次の ebook は買ってみました.
- https://betterexplained.com/ebook/math/
正直, いまひとつ私にはピンと来なかったのですが, 世でウケているコンテンツとして 研究する価値はあるのだろうとは 思っています.
- どんな分野を専攻していた/しているのか.
最近, かなり純度の高い位相空間関係の話が 割といろいろなところで使われています.
パーシステントホモロジーは かなりいろいろなところで聞きますし, 私が知る限り, 情報系 (?) で 「ネットワークのトポロジー」というときの トポロジーは位相幾何の意味なので.
既存の本やコンテンツがどこまであるかはともかく, そういうネタを紹介する手掛かりになります.
むしろこういう情報を出してこない人, まともに勉強する気があるのか疑わしいとさえ思っています. 正直, 貴重な時間をそんな人に使いたくないですね.
- 純粋に数学としてやる気持ちはどの程度あるのか.
応用が目的であっても, 諦めて数学は数学と割り切って数学スタイルで勉強するなら 選べるコンテンツ・紹介できるコンテンツが増えます.
数学分はほどほどに, と言われたら, その時点でほとんど私が知っているコンテンツがありません.
本当にたったいまちょろっと調べたところ, 次のようなページを見つけました: 「topology engineering applications」で調べた結果の 上の方のページです.
- https://math.stackexchange.com/questions/505670/references-for-topology-with-applications-in-engineering-computer-science-robo
- https://www.quora.com/What-are-some-applications-in-other-sciences-engineering-of-Differential-Topology-Differential-Geometry-Algebraic-Topology-and-Algebraic-Geometry
- https://www.ima.umn.edu/2013-2014
厳密にはさっきの話ですが, やはり日本語でいいのが見つからないなら 英語で探してほしいですね.
どうしたって興味関心と仮定できる能力や 時間配分が違うので, 数学者は数学関係者向けにしか書けません. それでもバリエーションは増えてきたと思いますが, 限界があります.
そういえば, 最近次のような本が出ました.
- 「集合と位相」をなぜ学ぶのか ― 数学の基礎として根づくまでの歴史
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/4774196126/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4774196126&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=a34e973eac03c2b2bf3300e089c3845c
数学者からするとこういう感じになるだろう, という例として挙げておきます. まだ読めていないのですが, 目次を見るだけでも何となく伝わる雰囲気があり, かなり良さそうです.
研究ベースだと「トポロジーうんぬん」というのが 工学系でも割といろいろあるようです.
例えば次のページ.
- http://www.gijutu.co.jp/doc/s_808207.htm
- トポロジー最適化の自動車分野への応用
- 優れた“かたち”の設計、効率の良い“レイアウト”の解析!
- ★ トポロジー最適化と3Dプリンターの連携!
この辺, どこまで各専門で 学生向けコンテンツに降りて来ているのでしょうか. 専門外なのでこのあたりは様子が見えていません.
いろいろ書きましたが, これ, どこにどうまとめるかを思案中です.
ではまたメールします.
2018-06-17 線型代数と量子力学のためのヒルベルト空間論/相転移プロダクション¶
現代数学観光ツアーの終了時アンケートの項目 「この講座に参加してどんな数学を身につけたかったですか?」に, 「数学よりの物理数学 (例えば, ブラケットよりヒルベルト空間論)」 という回答があったので, ちょっとコメントしてみました.
式も少しあるので, PDF にしてあります.
- http://phasetr.com/members/myfiles/file/math_expedition_sample_20180617.pdf
「数学よりの物理数学」という 言葉に対する認識が おそらく根本から噛み合っていないので, たぶんコメントされた方の ほしい情報ではないだろうと思います.
ただ, それでも他の方の役には立つだろうと思ったので. もちろんあなたの役に立つことを願って, メルマガに流してみました.
休日はじっくり仕事ができる日なので, 仕事に戻ります.
ではまたメールします.
2018-06-16 グリーン関数や関数解析に関するミニコンテンツ/相転移プロダクション¶
さっき Twitter で適当につぶやいたのをまとめたので, メルマガでもシェアしておきます.
- http://phasetr.com/members/myfiles/file/math_expedition_sample.pdf
この間, アンケートで関数解析のことを書いてほしい, というのが来ていたのにちょっと応えてみた形です.
前も書いたように, ここ 2 年くらい, 現代数学探険隊をずっと作っていて, 関数解析はそっちで嫌というほど議論しているので, メルマガでまでやる余裕がありません.
おかしなことを書くと速攻でツッコミが入ることもあって, Twitter はある程度無責任に書き飛ばせるので, そっちだと時々関数解析系の話もしています.
大半がろくでもないツイートばかりなので, フォローするのは必ずしもお勧めはしませんけれども.
今日, 宣言通り 若者のための現代幾何入門に行ってきました.
- https://sites.google.com/site/presentedbysmatsh/
メルマガ読者で参加された方はいたのでしょうか.
今回, 植田一石さんの初観測に成功した (隣に座った) ことも報告しておきます.
当たり前ですが, 専門外もはなはだしいので, 層の定義などのごく簡単な内容だった最初の 2 時間以後, 内容はほとんど全くわかりませんでした.
知識だけはある前半部分でも, 今までピンと来ていなかったことについて, 改めて指摘を受けることで少し理解が深まったところもあったので, 十二分な収穫がありました.
特に Mittag-Leffler の定理の (コホモロジー的な) 意義, 当の昔にわかっていてもおかしくなかったのに, 今日の話でようやく少し意義がわかりました.
よく「数学がわかる人は数学ができない人の気持ちがわからない」 とかいういい加減なことを言う人がいますが, 違う分野の話を聞くだけでちんぷんかんぷんなわけで, 上のようなことをいうひと, 本当にふだんよほど頭を使っていないのだろうと思います.
たった今気付いたのですが, 今日の話の概要はだいたい次のページにある PDF にまとまっているようです.
- https://sites.google.com/site/microlocaldustbox/home/micro_symp
あとで今日の講演の手書き原稿も スキャンしてアップする, みたいなことも言っていました.
久し振りに東大に行ったので生協の本屋にも行ってきました. 本屋, 本当に物欲が刺激されます.
いくつかほしい本はあったものの, 先日置く場所がないために大量に本を捨てたばかりなのもあり, 買いはしませんでしたが.
本を読んではミニコンテンツやミニ講座を作る, というフローをもっと回したいのですが, やはり本業のせいでなかなか時間が取れません.
数学を本業にできるよう, マネタイズをがんばらなければならないという思いが 日に日に強まります.
ではまたメールします.
2018-06-10 若者のための現代幾何入門/相転移プロダクション¶
Twitter を見ていたら講演会の情報が流れてきたので シェアしておきます.
- https://sites.google.com/site/presentedbysmatsh/home
ちなみにテーマや日時は次の通り.
- 講演者およびテーマ
- 池祐一「超局所層理論と幾何学」
- 桑垣樹「深谷圏と超局所層理論、およびその応用」
- 場所:東京大学大学院数理科学研究科
- 日程:2018年6月16日(土)~17日(日)
- 6月16日(土)数理科学研究科棟123教室 10:30-12:00 池祐一 13:30-15:00 池祐一 15:30-17:00 池祐一
- 6月17日(日)数理科学研究科棟123教室 10:30-12:00 桑垣樹 13:30-15:00 桑垣樹 15:30-17:00 桑垣樹
次のように書かれているので, それ相応の内容です.
講演者には、修論のネタを探している大学院生を念頭に置きつつ、 意欲的な学部生から研究者まで幅広い層に興味の持てるような 講演をして下さいという(やや無茶な)お願いをしています. どなたさまも奮ってご参加下さい.
関東の方限定にはなってしまうだろうと思いますが, 東大観光, そしてふつう滅多なことでは入らない 東大数理観光みたいな感じで 参加してみてもいいのではないでしょうか.
私も少なくとも 6/16 の方は参加する予定です.
話を大きく変えて. Twitter で前からの知り合いに, 中高数学の復習+Python のお勉強的な感じで, 前からやっている無料の通信講座を勧めてみて, ちょっと感想をもらいました.
- https://phasetr.com/mrlp1/
第3.5回の「ある程度の食べやすい分量で 毎日少しずつ進むのが大事なのではないか」というところです。 わたしは勢いに任せてやりがちなのですが、 すると復習の時間の確保は難しいわ寝食の時間を犠牲にするわで大変になるので。 ペースの管理難しいですよね。
目の前に大きな(関心の高い?)課題があると平行して 作業を進めるのが難しいこともありますね。 また主観で全然構わないので 方法論的なものを紹介してもらえると嬉しいです。
上の無料の通信講座, 各回の合間に勉強の仕方だとか, ちょっとした tips みたいなのを挟んでいます.
継続は力なり, という話に対して, 21 日継続できればそれはずっと続けられる, とかいう話もあるらしく, 21 日以上の講座にしようと思って, 1 日おきに小ネタをいろいろ紹介しています.
その 1 つがよかったようで.
せっかくなので, 最後にその内容を転載しておきます.
募集ページから登録すれば無料で読めるので, 役に立つかも, と思ったら登録してみてください.
- https://phasetr.com/mrlp1/
今回は募集ページでも説明した, 分厚い本を読むのはつらいという話をします. ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ふつう分厚い本はそれだけ説明が丁寧です. 数学はわかりづらい, わかりづらいとよく言われます.
それに合わせて懇切丁寧な本があり, 600 ページを越える本もあります. 参考までに何冊か買ってみましたし, 確かに本当に基本的な内容を こってり丁寧に説明しています.
高校受験用に中学 3 年生の子に 貸してあげたら, それを見た中学生 1 年の女の子が 「説明が丁寧でわかりやすい!」 とかなり気に入ったようです.
そのままその子に貸してあげました. 500 ページくらいあるのに鞄に入れて 学校にも持っていると聞きました.
ただ, そういう本を大人が読むのは つらいこともあるでしょう. 確かに読み進めやすいけど, 分厚いから「まだこんなにある...」 みたいな感じになるようなのです.
本だから厚さはわかりますし, 形式的には「いまこの辺にいる」というのはわかります. しかし数学的な理解の度合いが 読んだ量に比例するとは限りません.
特に微分積分はふつう本の後半に回ります. で, ここがリベンジのメイン, そんな方も多いです. 文系で経済や統計学でも良く使いますからね.
そこに来るまでに挫折してしまうと, 逆に絶望感が深まるのではないかと, そう思っていて, そこへの対策は立てておいてほしいです. この講座はその問題に対する私からの回答です.
ちょっと余計な話もしましたが, 大事なことは, 分厚いのを一所懸命最初から アタックしていくのではなく,
ある程度の食べやすい分量で 毎日少しずつ進むのが大事なのではないか, そういう狙いに基づいて通信講座にしています.
手元に分厚いのがあると, ついつい頑張ってしまう人がいます.
そして最初のペースが保てなくなってくると, 勉強じたいは続けているのに 「最初は頑張れていたのに」と 必要以上に自分を責めてしまって, やる気がなくなる, あなたにもそんな記憶がないでしょうか?
だからもう一定以上進めないように, そして一回の分量は少なめにして 配信していって, 強制的に私の方から ペースを作っていくことにしました.
ではまたメールします.
2018-06-07 統計学のための中高数学の復習コンテンツ/相転移プロダクション¶
メルマガはしっかりしたのを書かないと, という気持ちが強過ぎて, メルマガで全然共有していないので, 改めて軽く進捗をお見せしておきます.
- http://phasetr.com/members/myfiles/file/math_refuge_lecture_office_20180523_v2.pdf
- http://phasetr.com/members/myfiles/file/math_refuge_lecture_office_20180606.pdf
- http://phasetr.com/members/myfiles/file/math_refuge_lecture_office_20180606_v2.pdf
これは会社でプログラマ向けに, 統計学のための中高数学復習勉強会 というのをやりはじめて, そのために作ったコンテンツです.
マニアックなことを書きすぎてしまうのが本当によくなくて, もっとさらっとポイントおさえて書きたいです.
年始に今年は中高数学のやつをきちんとやる, といいつつ, ある程度見せられる形になるレベルでは 思うように進んでいなくて, メルマガとかモニターのやつには全然出せていません.
で, ちょこちょこ作っているのを頭の整理と コンテンツの整理を兼ねつつ, 会社で勉強会の講師をやっている状態です.
これに関係するコードの整理もやらないといけません. ちなみにコードは GitHub の次のところに置いてあります.
- https://github.com/phasetr/mathcodes
近々もっときちんと整理する予定です.
今回はこんなところで.
ではまたメールします.
2018-06-02 ウィッテン続報と量子系ネタ/相転移プロダクション¶
久し振りに量子系の話をしたら, その筋の人からいくつかコメントもらいました. 共有するのをサボっていたので, いい加減共有します. あと, 最後にいくつかコメントもらっていることがあるので, それに回答しておきます.
まずウィッテンがまた情報系のプレプリントを出しました. (という情報を 2 人から教えてもらいました.) (さらについでに言うと, Twitter でも話題でした.)
- Witten, A Mini-Introduction To Information Theory
- https://arxiv.org/abs/1805.11965
まだ全く読めていません. 古典系の話から量子系の話までありますし, 情報系の話は本当に何も知らないので, このくらいはおさえないとまずいのだろうとも思っています.
とりあえず, ふだんから 「雑な勉強法はそれはそれで大事」 「言葉だけでも知っておくと深く勉強するときにも役に立つ」 みたいなことを言っているので, 言葉だけでも改めて確認するために 流し読みしようとは思っています.
で, その他にいろいろ教えてもらったことがあるので, 共有しておきます.
原・田崎イジング本の謝辞に名前がある, という話をしましたが, 共立出版のイジング本のサイトに序文の PDF があって, それに名前きちんと書いてあることを教えてもらいました.
- http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/978432011108
これ, 確か前に Twitter で 田崎さんに直接コメントもらった記憶も思い出しました.
あと量子情報あたりの文献やコンテンツに関するいろいろな情報です.
私も数理科学の量子情報と物理学のフロンティアを買いました。 以前のメルマガで河東さんの講義の動画の情報が知らなくて有益だったので、 今回の数理科学の記事に関係しそうな動画の情報をおくります。
まず、吉田紅さんの講義がPerimeter研究所のVideo Libraryで見れます。 少なくともToric Code とColor Codeを扱っています。吉田紅さんの講義は7回目からです。 https://www.perimeterinstitute.ca/video-library https://www.perimeterinstitute.ca/video-library/collection/iqc-quantum-error-correction-gottesman-and-yoshida
他にペリメータのVideo LibraryにはMARTIN-MARTINEZさんの相対論的量子情報の講義などもあるようです。 https://www.perimeterinstitute.ca/video-library/collection/psi-2017/2018-relativistic-quantum-information-martin-martinez
Tensor Networkに興味をもった方には、 物性研の研究会の動画があるので、紹介した方がいいかもしれません。 http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/public/tnqmp2016/program.html
Twitterで流れていて未視聴ですが、youtubeに 大栗博司さんのEntanglement and Geometry 01-04があるようです。 https://www.youtube.com/watch?v=f_TmZZ9zBzc
無料で読める量子情報の文献情報です。こちらも共有します。 Preskill以外の文献は正式に出版されたもののドラフトです。 Preskillのものも出版予定だと思います。
John Watrous : The Tehory of Quantum Information https://cs.uwaterloo.ca/~watrous/TQI/
M M Wilde ; Quantum information theory のarXiv のDraft版 From Classical to Quantum Shannon Theory https://arxiv.org/abs/1106.1445
John Preskill http://www.theory.caltech.edu/~preskill/ph219/index.html
藤井啓祐 Quantum Computation with Topological Codes https://arxiv.org/abs/1504.01444
あとこんなのも.
私は既存の教科書だと、次の2冊がいいと思うのですがどうでしょうか? 2冊ともあまり和書には書いていない話題を扱っています。
Ballentine, Quantum Mechanics: A Modern Development http://amzn.asia/7ntZVhk
Peres, Quantum Theory: Concepts and Methods http://amzn.asia/5mRZqsE
紙面の関係でどうしても話題が少なくなるので、 量子情報は量子情報の教科書で学んだ方がいいと思いますがどうなんでしょう? 量子情報のための量子力学なら量子情報の教科書にブラケット記法の説明などとともに書かれています。量子情報の教科書で説明されている純粋状態と混合状態、密度行列、量子測定理論(POVM測定など)、量子エンタングルメントなどの量子力学版が欲しいのでしょうか? 量子力学基礎論はどのような内容が知りたいのでしょうか? Bellの不等式、Marminの魔法陣、Kochen Speckerの定理、量子測定理論、一般確率論とかでしょうか?
あと何か表現論関係の話.
SPT相関係で射影表現が出てくるのは、 確か前メールで送った物性研のテンソルネットワークの研究会の押川正毅さんの講義にも出てきたはず(うろ覚え) または、2015年の千葉大学での戸塚圭介さんの集中講義の資料の第4章 http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~keisuke.totsuka/lecture_notes.html
田崎さんと戸塚さんの両方で参考文献として挙げられているのは、 D. Perez-Garcia, M.M. Wolf, M. Sanz, F. Verstraete, and J.I. Cirac, String order and symmetries in quantum spin lattices https://arxiv.org/abs/0802.0447
ここら辺は以下の出版された教科書のドラフトで勉強をしようと 思っているのですが、時間がとれていないのが現状です。
Peter Woit Quantum Theory, Groups and Representations: An Introduction http://www.math.columbia.edu/~woit/QM/fall-course.pdf
表現論の件ですが、 杉浦・山内の「連続群論入門」 は図書館で借りてきました。 時間がある時に読みたいと思います。
林正人さんの「量子論のための表現論」は、 中古を持っていて読んでいなかったのですが、 今見ると射影的表現と書かれて射影表現の説明が書かれているようです。 こちらから、読んでみようと思います。
また、昨日か今日のarXivのWitten のA Mini-Introduction To Information Theory https://arxiv.org/abs/1805.11965
に林正人さんが謝辞に名前が出ています。
メルマガを読んでいる方, 時々ゴリゴリの研究畑の人もいるので, そういう人には多少なりとも役に立つでしょう.
あなたがもしそちらの畑でなくても, 研究者が見ている世界を垣間見る機会なので, 無料のやつはどんどん触れてみてください.
みながみな, 1 から 10 まで隅々まで 論文を理解したいというわけでもないですし, 何となく雰囲気がわかるだけで 楽しいし十分ということもあるでしょうから.
ちゃんと理解したいと思うのなら, ちゃんと数学または物理をやってもらうしかないので, がんばって勉強しましょう.
現代数学観光ツアーの最後に文献案内をつけているので, それでぽちぽちやってください. いま見たら物理の文献, 全く書いていないですね.
次のページにいくつか情報を載せているので, 必要なら適当に眺めてみてください.
- https://phasetr.com/blog/2015/08/06/数学・物理の参考文献紹介/
有名だからとりあえず突っ込んだだけの本も多く, 必ずしも全部は読んでいませんし, 読んだ本も隅々まで読み込んだわけではありません.
もちろん必要なら現代数学探険隊も使ってください. 通信講座と PDF コンテンツ販売両方あります.
「よくわからん」と言っておくと, 勝手にいろいろ教えてくれるこの状況, 本当に最高なので, あなたも積極的に情報発信して仲間を作りましょう.
知人 (と言っていいか微妙ですが) が次のように言っていました.
インターネットだと, 発言しない人は生きていないのと一緒.
この人, ネットを使ってビジネスを展開している人で, そういう文脈での発言でもあります. ただ, やはり存在を示さないとどうにもなりません.
ほしいものがあれば, きちんと手に入れようとがんばらないといけなくて, 奇蹟を待っていてもどうしようもないという, 身も蓋もない現実です.
ここからは頂いたコメントに対する返信です.
数学でも確率、ギャンブル学に興味があるのですが、 確率や統計について初心者が学びやすい本などはありますでしょうか?
ギャンブル学, ちょっと調べたのですが, これ, 「数学」ではないですね.
あと, 何でもかんでも知っているわけでもないので, こちらがギャンブル学について知っているような前提で 書かれるとすごい困ります.
あと初心者というのも, 小学校の算数も覚束ないと言う人から, 大学の数学はよく知らないという人までいて, どこを想定すればいいのかもよくわかりません.
ギャンブル学が何かもよくわからないし, 出ている情報も雑で, 詳しく聞き取るのもめんどいので, 回答は断念しました.
あまりにも厳しい.
そしてもう 1 つ.
関数解析の事も書いて貰えたらいいと思います。
何か継続的に似たタイプのコメントが来るので, 多分同じ人だと思います.
ここ 2 年, 現代数学探険隊で関数解析の話を延々書き連ねていて, メルマガでまで書きたくないという感じがあります. メルマガ, やはりまとまった情報を出すために使っていて, 書くのにかなりの気合と時間がいるので.
Twitter はちょこちょこ書き飛ばせるメディアなので, そちらを見てもらえば多少はカバーできるだろうと思います. 実際, この間も関数解析とか作用素論的な つぶやきを見てコメントしたりしていたので.
関数解析について言いたいことは 現状, ほぼ全て現代数学観光ツアーにまとめてありますし, 本質的にそれを越えることは言えないので, 受講していないならぜひそちらを見てください.
- https://phasetr.com/mtlp1/
これ, 私が知っていることは とにかく叩き込んであります. そのせいで挫折者が増えすぎたらしくて実にアレですが.
もっときちんと知りたければ, 先程と同じく, 参考文献を案内しているので, そちらを読んでみてください.
ネットに (多分ちょっとアレな感じで) 落ちている 本も紹介していますし, どうしてもお金が作れないという状況でも それでカバーできるはずです.
お金をつめるなら現代数学探険隊を受講してください. 集合論の時点から関数解析との関係を 延々と展開し続けています.
このへん, 「それならこれ読んで」 と言えるコンテンツを準備しておいたので, だいぶ楽になりました.
まだまだバリエーションが少なすぎるので, もっといろいろ作りたいですし, 早く現代数学探険隊のコンテンツは作りきりたいですね.
https://github.com/phasetr/math-textbook これも海外の人の watch もあったりしますし, 英語のコンテンツも作って世界展開もやってみたいですし.
夢と希望だけはいくらでもあるのですが, 時間と資金がないというアレです. 私もいい年なので, 本気で数学によるマネタイズをしっかりして, 数学をきっちりやれるような体制を作らないといけません. 引き続き地道にマネタイズを模索していきます.
ではまたメールします.
2018-06-02 他の無料の通信講座の紹介/相転移プロダクション¶
きちんと紹介しているところがあまりないので, 改めて簡単に案内しておきます.
あまり自分のコンテンツを体系立てて紹介していないのは よくないな, と思っていたところで, さっき現代数学観光ツアーのアンケートで 次のような回答が来ていました.
「数学や物理を勉強したいが, どこから始めれば良いのか分からないので, きっかけとして」
この間も Twitter で少し話をしたというのもあり, 簡単にいまある講座を紹介しておきます.
次のページにまとまっていて, 最後のごついやつ (現代数学探険隊) 以外は無料です.
- https://phasetr.com/blog/2014/06/09/トップ固定記事:メルマガ・数学カフェ・その他/
数学と物理の手始めということなら, 次の「応用からの中高数学再入門」がおすすめです.
- https://phasetr.com/mrlp1/
詳しいことは登録ページを見てください. 最近, 次のようなコメントも頂いています.
- https://twitter.com/eyecot/status/1001105656953253888
全く同じ内容のコンテンツを 次のページでひとまとまりの PDF にして出してみています.
- https://phasetr.booth.pm/items/881502
プログラミング言語 Python を使ったシミュレーションも つけているので, プログラミングで遊んでみたい方の 導入としてもいいだろうと思います.
あと, 中高の数学はこんなところでこんな役に立っています, というお話だけ (式は出てこない) 講座として 「中高数学駆け込み寺 役に立つ数学」というのも作っています.
- https://phasetr.com/mrjhlp1/
これは上のと逆に, 最初, 中高生またはその親向けに Kindle 用に作って, 今も有料で売っている電子書籍の内容を, そのまま無料の通信講座にしています.
現代数学観光ツアーは, 当初, 適当に要望も聞きながら作ったとはいうものの, 当時はゴリゴリの数学/物理系の人向けだけが集まっていたので, 内容と方向性もそうなってしまっています.
新しいのを作りたいと 2 年くらい言っていて, 有料の通信講座を作るので手一杯で, 新しいのが作れていません.
現代数学観光ツアーは, 本当に学部 4 年分の解析学を一気に眺める内容で, あれで何かが理解できるということはありません. 登録ページで書いているように, 大きな流れを掴んでもらうことだけを意図しています.
式をもっと入れてほしいという, 正直よくわからない要望もあったのですが, この講座の目的はそこではないので. やるなら新しいミニ講座をたくさん作って, そっちでやります.
ちなみに, きちんと理解してもらうことを目的にするなら, 現代数学観光ツアーみたいに雑にやらずにもっときっちりやりますし, その結果が現状 3000 ページ近くある「現代数学探険隊」の内容です.
これだけ書いてもまだ現代数学観光ツアーで書いたことを 5-6 割かそれ以下の内容でしかありません.
取り急ぎ, アンケートに対して簡単にコメントしておきました. 平日, 配信するべき内容をサボっていた分がいくつかあるので, またあとでいくつかメールします.
2018-05-26 量子情報と物理学のフロンティア/相転移プロダクション¶
Twitter で話題だったので, 数理科学 6 月号を買ってみました.
- https://www.amazon.co.jp/dp/B07BZC5KPP
この特集が今回のメルマガタイトルです.
執筆陣が Twitter にもいる人だったり, 実際に見たことあったり会ったこともある人だったり, 指導教官だったりでなかなか楽しいです.
今月から会社の勉強会で 「統計学のための中高数学復習」講座をやっていて, 記事によっては統計や情報系の様子を 見るのにも微妙に役立つようです.
河東先生が出てきていることからも, 物理的にも数学的にも専門と割と近く, その意味でも楽しいです.
本当に適当に, いくつか備忘録がてらの メモも兼ねてコメントしておきます.
まず, トップの上田先生の記事. ゲージが大事でその幾何構造が大事, というのがのっけからあり, 最近の動向にも合わせるなら, 量子系の議論にももっと幾何的な視点を 取り入れないと駄目っぽいです.
現代数学探険隊の探険パートにも もっと幾何のコメント増やすようにしましょう.
沙川さんの記事, P.20 の 注 19 で次のような記述がありました.
ただし定理 1 を連続変数 ($L^1$ 空間) に拡張するには, Hahn-Banach の分離定理など関数解析が必要である.
いまはやりの量子情報でも, 多少なりとも関数解析の話が出てくるので, 通信講座なりコンテンツなりで 量子系の数理といって関数解析やっているのにも 多少は意味を感じてもらえるのではないかと思います.
ちなみに沙川さん, 作用素環のノートだとかも公開しているので, もしあなたが興味あるなら覗いてみるといいでしょう.
- http://www.taksagawa.com/others.html
ただし英語です. ぽしゃるかもしれない検討中の企画の内容を ぼろぼろ出していいのかという気はしますが, 先日から言っている院生さんの勉強ノートは 日本語で作用素環の基礎もすっきりまとまっていて, この特集内でコメントがある冨田-竹崎理論などまで 書いてあります.
改めて眺めているのですが, 趣味が近いこともあり, 解析学特化のコンテンツとしては かなりお気に入りなので, 何とかして公開/販売したいですね.
この記事, いくつかスピン系に関する記述がありました. 特に吉田紅さんの記事ではトーリックコードのループ, みたいな記述があります.
これはイジング模型の中で, 確率幾何とか何とか言われているようで, いろいろな議論があります.
この点に関する解説として, 次の原・田崎の本を勧めておきます.
- http://www.amazon.co.jp/gp/product/4320111087/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4320111087&linkCode=as2&tag=phasetr-22
これはイジング系に特化させた, 数理物理的に徹底的な解説です. 以前にこの本の公開査読をやっていて, それに参加していまして, 謝辞のところに私の名前が載っています.
ただ, 出版されたときは絶望的にお金がなくて買えず, それ以来何か買うタイミングを逃したままになっていて, 自分できちんと確認していません. 田崎さんから載っていると Twitter で教えてもらったのでちゃんと載っているはず.
大栗さんの記事は, この間紹介したウィッテンの話とも関係あると 思っていいのでしょうか. タイトルとしてはそういう印象を受けます.
これのイントロ, かなり明快でよく書けている気がします. 私はごく単純な特殊相対論的な 場の量子論しか知らないので, 一般相対論と量子論ミックスで起きる現象の 困難の一端がちょっとわかりました.
具体的には P.47-48 の ブラックホールに関する記述です. ちょっと引用しておきましょう.
一方, 相対性理論では, エネルギー $E$ は 質量 $m$ と $E = mc^2$ と関係しているので, ある領域にエネルギーが集中していると, その領域は大きな質量を持つことになる. エネルギーを高くしていくと, その領域はブラックホールの事象の地平線に包まれ, 外部からは観測できなくなる. エネルギーが高いほど, 事象の地平線に包まれる部分は大きくなる. つまり, 高エネルギーの現象が, 事象の地平線の存在によって, 短距離の自由度を隠してしまう. これは高エネルギーにいくほど短波長の自由度が重要になる, 量子力学からの期待とは異なる.
イントロ最後の次の記述も, 物理の人から言われると不思議な感じがします.
この応用の例として, 重力を含む有効理論が数学的に整合性を持つ理論に 昇華されるための判定条件について最近の研究を紹介しよう.
あとこの記事, 専門外であることもあるのか, 物理的な概念に数学が強く絡んでいることにやたら目が向きます.
例えば P.48 右下方の 「その非自明な表現に属する物質」というところ. これは対称性を表す群があり, その群の表現に関連した概念で, これを「表現に属する物質」と書いているわけです.
3 節, AdS/CF 対応と量子誤り訂正符号の話, 作用素の表現論が出てきていて, これ, まさにどストレートに趣味のところで楽しいですね.
河東先生の記事, 以前メルマガだかどこかでも書いた, とても大事なことがあるので, それを引用しておきましょう.
有限次元んでも十分に難しく, また興味深い現象が起こるのである. 上述のチョイの言葉として, $2 \times 2$ 行列はかなり易しいが, $3 \times 3$ 行列は十分に難しく, 無限次元に近い, というものがある.
私は昔, 大学 1 年生のときの広義で, 微分積分学は底が深くずっと先までつながっているが, 線型代数学は底が浅い, と言われたこを覚えている. 今考えてみるとそのような見方は全く間違っていると思う.
P.63 で冨田-竹崎理論が出てくること, 相対エントロピーの話が出てきます. これは先日のウィッテンの論文でも出てきた話題です.
相対エントロピーというと, 私は修士の頃に読んで, 実際に修論の発展形でも少し使った 次のレビューの論文を思い出します.
- https://www.worldscientific.com/doi/abs/10.1142/S0129055X03001679
- http://www.ma.utexas.edu/mp_arc-bin/mpa?yn=03-94
- http://webdoc.sub.gwdg.de/ebook/e/2002/maphysto/publications/mps-rr/2001/45.pdf
1 つ目のリンクが何というか正式版で, 後 2 者がプレプリントです. 2 つ目は mp-arc というプレプリントサーバーにあるページです.
これは非平衡統計力学での平衡への回帰を扱った論文で, 数学的に重要な拡張が議論されています. いろいろなところで何度か紹介している論文です.
この論文, 実際にセミナーでも読んだ論文です. 最初は他の本のセミナーをやっている裏で 予習しながら読んでいたのですが, ある 1 行がどうしてもわからず, 1 ヶ月くらい悩んでいたことがあります.
ダイソン級数という, 物理の形式論でもよく出てくるタイプの級数が出てきます. これ, 以前京大 RIMS での量子場の数理に行ったとき, 新井研の臼井さんの講演でも出てきて, 有限温度版で似たのがあると言って紹介したことも思い出しました.
同じく新井研の臼井さんと二口さんの arxiv のプレプリントへのリンクも適当に紹介しておきましょう.
- https://arxiv.org/search/?searchtype=author&query=Usui%2C+K
プレプリントが 2015 年で止まっているの, もう研究やめてしまったのかと心配になりますが, どうなんでしょうか? 適当にしか探していないせいで 見つけられていないというだけならいいのですが. 下の 2017 年の研究会のやつを見る限り, 臼井さんは生存しているようです.
- http://math.shinshu-u.ac.jp/~mathphys/SSMS2017/program.pdf
記事に戻って. 4 節のコンヌの埋め込み問題の話, なかなかすごいことになっているようで.
作用素環専攻だったのに作用素論とか, 非相対論的な場の量子論や量子統計ばかりやっていて, ほとんど作用素環らしい作用素環を知らないのですが, 改めてもっときちんと数学としての作用素環やりたいですね.
あと, 番外編として, 表紙裏の SGC ライブラリーの近刊, 「物性物理のための場の理論, グリーン関数」がちょっと気になります. 結局, 大学院レベルの物理, 特に 1 番趣味の物性理論が いまだにほとんどわかっておらず, 勉強し直したいとずっと思っています.
早く通信講座の基本的な執筆を終わらせて, 新しいことやりたいですね. もうそろそろはじめて 2 年になりますし, 自分自身再勉強にもなるので 飽きることは全くないものの, 小さめの新しい企画をたくさん立てて回したいです.
最近, 通信講座の関係で, 解析学に関する基本的な足回りは固まりつつあり, 通信講座の探険パート執筆のための 幾何の概要に対する知見も増えていますが, やはり新しいことをもっと組織的にやらないと, そしてやり続けないと駄目な気がしています.
量子力学もきちんと勉強し直したいです. 以前 Twitter で東北大の堀田さんに, 量子情報や量子力学基礎論的な話題も盛り込んだ, 新しいタイプの教科書ないですかね? 的な話をしたことがあるのですが, そういう教科書がほしいです.
量子相転移と絡めた量子 1 次元系であっても circuit QED だとかいろいろな進展があり, 形式的には (行列係数の) 常微分方程式で済む事情もあり, 入門レベルの話題ももっといろいろ選べるように思います.
通信講座のコンテンツを一通り作り終わって, 時間をもっと使えるようになったら, 自分の勉強も兼ねつつ, 小さなコンテンツをたくさん作っていきたいです.
死ぬほど時間がほしいですし, 時間を自由に使えるようにするために, 金銭的な自由も大事だな, と最近本当に強く思っています. 数学徒にもできる副業的なところは もっと開拓していきましょう.
ではまたメールします.
2018-05-24 「私もついていけるでしょうか?」/相転移プロダクション¶
連投に連投で申し訳ないのですが, 質問が来ているので回答します.
「私にもついていけるでしょうか?」という質問を頂きました. ちょっと意図をつかみかねているのですが, まず今回案内した PDF 販売に関しては, 本を買うのと同じだと思ってください. 自分のペースで勉強してくだされば問題ありません.
これがもし「難しそうな内容の本についていけるだろうか?」 という話なら, 基本的に証明はこってりと書いているので, ある程度数学ができる人からすれば 回りくどくて鬱陶しい, もう少しすっきり書いてもらえないだろうか? と思われるようなレベルの丁寧さだとは思っています.
もちろん, それでもいくつか質問を頂くので, そのたびにちょこちょこと記述を修正しています. 記述が詳しくなる方向の修正です.
当然といえば当然なのですが, 質疑のやりとりをしていて, 私もかなり発見があります.
「ここは区別して書かないと, 慣れていない人は混乱するのか」 と言った知見も少しずつたまっています.
頂いた質問とそのやりとりそれ自体も PDF に収録しているので, それも参考になるだろうと思います.
何にせよ, 証明や議論は丁寧に書いているとはいえ, 現代数学観光ツアーのような適当に面白いところだけ 読んで楽しんでもらえれば十分なコンテンツと違い, 現代数学探険隊はゴリゴリの数学科の数学を厳格に展開しています.
それを本当にきちんと理解してもらうことを目的にしている以上, あなたに一定の決意と覚悟を要求せざるを得ない部分があります.
それについては, 究極的にはがんばってください, としか言えません. 「誰にでもわかる」なんていい加減なことはいえません. こちらから出せるものは絞り出しています.
そもそもとしてこってり系のコンテンツをほとんど作っていないので どのくらいの感じか, サンプルをお見せできなくて申し訳ないのですが, 費やしているページ数という形で丁寧さを表現しておきます.
ふつうの本, 例えば有名な松坂和夫「集合・位相入門」が 320 ページ程度で集合・実数・位相を 一通り議論しているところ, 現代数学探険隊では A5 の大きさで, 集合論で 400 ページ, 実数論で 140 ページ, 位相空間論で 590 ページという感じです.
ルベーグ積分も 656 ページあります. 関数解析も本によっては 100 ページ程度で さらっと終わらせる内容を, 量子系の具体例の解析も込めて やはり 400 ページ近く使って議論しています.
復習や探険パートで重複する話題を 何度もしている分も含めての長さですし, 何より長ければいいというものではありません. それだけ通読するのが大変ですから.
私としてお勧めの使い方はやはり辞書ですね. 頭から読んでいくのは大変と思いますが, 辞書として適当につまみ食いすると楽しいと思います.
何か質問があれば何らかの手段で連絡してください. ではまたメールします.
2018-05-23 質問への回答/相転移プロダクション¶
連続で申し訳ないのですが, 現代数学探険隊 PDF 販売に関して 質問が来たのでいくつかお返事しておきます.
- https://phasetr.com/mtexpdf1/
まず銀行振込に対応しました. 今回, 通信講座の方の現代数学探険隊と違う 決済系のテストをしていて, 銀行振込は自分で手動確認します.
ちょっとタイミングが遅れると思いますが, ご了承ください.
で, もう 1 つ. 次のような質問が来ました.
該当分野に関するメールでの質問は可能とのことでしたが, スカイプなどでの質問は受け付ける予定はないのでしょうか? メールでは, どうしても限界があると思いますので.
これは非常に際どい質問なので, 考えていることをきちんと書いておこうと思います.
まず, 最初のところにコメントしておくと, 「該当分野に関するメールでの質問は可能」 とは書いていないはずです.
「PDF コンテンツの内容に関する質問はもちろん可能」と書き, 次のように書きはしました.
PDF コンテンツ以外の学習相談をして頂いても構いませんが, 内容によってはお答えしない・できないことがあります. 例えば私が作った PDF コンテンツ以外のコンテンツ以外への質問は原則としてお受けできません. ただし, 「ある本にはこう書いてあり, それはこの PDF の記述とは矛盾するようだ. どう理解すればいいのか」といった質問にはきちんと回答します.
該当分野というのが何を指すか不明瞭です. そして危険です.
例えば線型代数と言われても, 正標数の世界の話や p 進の話は入門レベルでも 私は耐え切れないでしょう.
p 進については強三角不等式の世界は 実数/複素数の世界と本質的に大きく違っていて, 本当に私の直観が効きません.
p 進の人も「実数は異常で本当に気持ち悪い」と 良く言っていますし, 線型代数であってすら少し外れるだけで, もう私の制御圏外です.
あと, いまのところ Skype はやる予定がありません. 募集ページにはっきり書いていなかったかもしれませんが, 現代数学探険隊の通信講座の方では, 宿題提出でポイントがたまる仕組みになっていて, たくさん出した方にはポイント消費で Skype なりで直接質問できる機会を提供するようにしています.
Skype だと時間を合わせる必要があり, その時間調整も必要で, さらにどんな質問が来るかわからないので 答えきれないことも増えるだろう, という事情があります. その他, これから書くように, いろいろな負担があって厳しいです.
これ, 特に情報発信をやっていこうという方には 特に参考にしてもらいたいのですが, 常識的に考えて, 1 章 4000 円相当の 売り切りコンテンツのサポートで, そこまでやると, プライベート含めて 本当に生活に差し障りが出ます.
最近, 労働問題がいろいろ取り沙汰されているように, 「安売り」するとそのサービス維持で身体も心も壊します. 自分が壊れるだけでも問題ですが, 数学のサービスが完全に展開できなくなり, 多方面に影響が出てしまいます.
だから「安売り」はしません. 他の「お客さん」にとって明らかに不利益になるからです.
参考までに, 通信講座の方でも 比較対象に出している「和」のサービス内容と 金額を改めて紹介しておきます.
- https://wakara.co.jp/service/personal_sugaku/characteristics
受講チケット 50分チケット1枚あたりの料金 7,000円~
「和」はリアルの教室で, 場所による間接経費込みの値段であることもおさえつつ, 50 分で 7,000 円「から」という値段設定であることを 考えてみてください.
Skype 相談にしても, 本来このくらいの価値がある対応だろうと思います.
実は以前, 相談だけもらって 結局連絡が来なくなったためにぽしゃったのですが, 個人指導するという話がありました.
このとき「1 時間いくらでどんな質問でもしていい, というような指導は無理か?」との相談を受けました.
これ, 質問者側からすれば, その 1 時間を有効活用するために いろいろと質問をしたくなるでしょうが, 質問を受ける側からすると本当に大変です.
ぱっと答えられることばかりではないですし, 事前に準備しておいてそれに回答, とすると, 今度は準備で膨大な時間を使います.
1 時間の話をよどみなく効率的にやろうと思うと, 準備にかかる時間は 3 倍ではきかないでしょう. 実際, 文章にすれば 3 行の回答を作るのに ほぼ 1 日費したことがあります. この 1 日は休日の朝起きてから夜寝るまで, というレベルの「1 日」です.
1 時間 5,000 円にしても 準備 3 時間+1 時間の質問タイムで計算すると, 時給たったの 1,250 円です. これはどう考えても割に合いません.
私もそうなのでよくわかりますが, 数学・物理系の人達はお金の話を嫌います. 「そんなにお金が大事か」という方もいらっしゃるでしょう. あなたもそうかもしれません.
しかし私が潰れるといまやっているサービスも 全て潰さなければならなくなります.
本当にサービスを長く続け, 仲間を増やしていきたいなら, 自分を強く守る必要があり, それは譲ってはいけない線です.
だから, PDF コンテンツの内容に限定してしか 質問を受け付けない, という厳しい制限をつけてもいます.
そしておそらく, この値付けを私の知り合いに言うと, 「安売りしすぎだ」 「お客さんのこと, 本当に真剣に考えてる?」 と怒られるだろうと思っています. 「そのサービス回せる自信あるの? 無責任だよ」 とまで言われるかもしれません. そのくらいかなりギリギリの線でやっています.
自分でも何かをやってみたいという方, この辺に気をつけてサービスを組み立てるようにしてください.
「このくらいならいいだろう」という無理が つもりつもって心身を壊してしまって, そのサービスが続けられなくなっては あなたのサービスを楽しみにしている 他の「お客さん」にとっても不幸です.
私はこれで本当に数学や物理を専門にしている人が, その専門性を武器に食っていける道を 作ろうと思っています.
お金の話が苦手な, 本当に純粋な人達が, 罪悪感を感じないどころか, 喜んでお金をもらって, 相手も幸せにできるような道を作ろうと思っています.
そのためにも安売りにつながりかねないところは 譲れない一線です.
いま次の展開として, 先日お話した, 関数解析系, そして量子系の数理を専門とする 大学院生の勉強ノート販売について 案を練っています.
当人が私と方向性が一緒と言っているくらいなので, 内容じたいも本当に好みの方向で, あなたにもぜひ紹介したいですし, 何より, 上で書いたように学生さんの 学費の足しにもなるようにしたいですし, 考えることがたくさんあります.
近いうちにそちらも案内するので 楽しみにしていてください.
ではまたメールします.
2018-05-23 東大数理の河東泰之の名講義/相転移プロダクション¶
先日, ウィッテンの場の量子論と 量子情報理論の論文を紹介したとき, 紹介するのを忘れていた気がするので, 改めて紹介しておきます.
2018-04-9~13 に, 京大で河東先生が 代数的場の量子論に関する集中講義をしたそうです.
- https://twitter.com/paper3510mm/status/987697007048310784
- https://www.math.kyoto-u.ac.jp/ja/node/3355
- http://ktgu.math.kyoto-u.ac.jp/bizlatweb/contents-list.do
私は河東研の学生だったにも関わらず, 学生時代に河東先生の講義を受けたことがありませんでした.
講義がうまいというのは聞いていたのですが, 修士修了後, Summer School 数理物理で はじめた講義を聞いて, いや, これはすごいと感心したのを覚えています.
で, 今回紹介する講義も非常にクリアな講義で, さすがです.
時間が取れず, まだ 2 回目までしか 見られていないのですが, 専門がかなり近いという理由はあるにせよ, かなりの名講義です.
先日案内したウィッテンの論文ともども, ぜひ勉強してみてください.
- https://arxiv.org/abs/1803.04993 Edward Witten, Notes on Some Entanglement Properties of Quantum Field Theory
この論文も何かコメントなり 解説書こうと思ったのですが, これ以外のコンテンツ準備で時間が取れず, 頓挫したままです.
先日も「もう無料の通信講座は作らないんですか?」 という問い合わせも受けてしまって, 作りたい作りたいと口だけになってしまっているのが 悲しいです.
今年で有料の通信講座のコンテンツ作成に けりをつけて, 新しいことやりたいですね.
そして念のためもう 1 度. 昨日連絡した現代数学探険隊の PDF コンテンツ販売, まだ見ていないなら ぜひ次のページを見て内容を確認してください.
- https://phasetr.com/mtexpdf1/
数学や物理を勉強する上で 参考になることを書いているので, 必ず参考になるところがあるはずです.
ではまたメールします.
2018-05-22 数学学習をはかどらせる辞書/相転移プロダクション¶
大分時間がかかってしまいましたが, 現代数学探険隊の PDF コンテンツ販売の準備が整いました. 次のページを見てください.
- https://phasetr.com/mtexpdf1/
何度かご案内している現代数学探険隊ですが, いくつかのコメントを頂いています.
その中で特に次のようなコメントがありました.
自分のペースで勉強したいので 通信講座に対しては興味ないが, コンテンツ自体には興味がある,
知っている分野をいちいち再勉強したくはないが, 知らない分野のコンテンツはほしい.
そんなご要望にお応えして, 今回, 現代数学探険隊を PDF コンテンツとして 販売することにしました.
他の無料コンテンツや通信講座の募集ページと同じく, このページだけでも数学や物理を勉強する上で ヒントになることがたくさんあります.
ぜひこのページを読み込んで, あなたの数学ライフに活かしてください.
- https://phasetr.com/mtexpdf1/
ご自分でも通信講座やコンテンツ作成, 数学や物理の情報発信をしてみたいという方も 何人かいらっしゃいます. そうした方にとっても参考になるはずです.
言うべきことはこのページに盛り込んであるので, 今回はこのくらいにしておきます.
ではまたメールします.
2018-05-21 受講アンケートへのコメント/相転移プロダクション¶
最近, 無料講座へのアンケートに ほとんどコメント返せていないのですが, 全く返さないのもさみしいので, ピックアップしてコメントします.
何度でもくり返して言い続けるべき 大事なこともあるので.
最近, また 60 代, 70 代の方からのコメントあって, 私もここまで生きて数学と添い遂げたい, という気持ちを新たにしたこともあり.
第 1 回に関するコメントです.
此の文章に限らず学習者に理論物理の素養を要求しているのでしょうか?
実際に受講される方がどう思うかはともかく, 私の意図としては気楽な「観光ツアー」なので, 素養は特に何も仮定していません.
で, 何度でもくり返す大事な話なのですが, 私はこれを中高生の頃の自分に向けて書いています. そして中高生の頃の自分がこれを 理解できるなどとは全く思っていません.
むしろ細かな数学に関しては 何一つ理解できないでしょう.
ただ, それでも昔の自分は絶対にこれを 読んで喜ぶはずだ, と思っているから, 馬鹿みたいに何百ページもがんばって書いたのです.
これも良くいうのですが, 小学生が宇宙やら何やらの話を 真剣な眼差しで聞いているシーンは 時々テレビで流れたりします.
いまだに研究も活発な分野ですし, どれだけ簡単にしたとしても子供が 理解できるような内容であるわけもありません.
それでも子供が真剣な眼差しで憧れの目を向けるのは, 1 つにはそれを真剣に語る大人の心意気に胸を打たれているから, というのがあると信じています.
いい大人が全身全霊をかけて, 一所懸命がんばって追いかける価値のあることだと, 伝えているその心が大事なのだと思っています. 現代数学観光ツアーもそのつもりで書いています.
これもはっきり書いておくと, 現代数学観光ツアーの記述は 根本的に説明としては粒度も何もかも無茶苦茶で, 何かを理解できるような内容ではありません.
これをもとに数学を眺めてもらって, 興味があるところが出てきたら, 最後の参考文献集を使って 興味に合わせてゴリゴリ勉強してもらうための素材です.
その意味で, そもそも何かを理解してもらうことを 目的にしてさえいません.
問, 計算練習問題, 等の学習者への課題 (宿題と言うと人によっては拒絶反応を起こしてプレッシャーで高熱をだして卒倒する人がいるかも知れないので) が在っても良いのではと.
これも強いていうなら, 興味のある分野を自分で調べて, 自分で勝手に突っ走っていって, 面白いことを見つけたら私にも教えてください, という課題を出しているつもりです.
ふだん Twitter だと本当にいつも そういう感じでやっています.
そして実際, Twitter で知り合った頃は 学部 1 年くらいで, その頃は知識としては私の方が上だったから 私からいろいろコメントしていた人達が, いまや大学院生です.
わからないことがあって質問すると 逆にいろいろ教えてくれるようになってきました. 求めているのはこういうのです.
知らないことは山程あって, こっちが知っていることはいろいろな形で出すから, こっちが困っていることがあったら SOS を出すので助けてほしい, そういうのがやりたいので.
ではまたメールします.
2018-05-11 確率・統計の話/相転移プロダクション¶
前のメールで書くと言った確率の話です. 改めて書いてお願いしておかないといけないし, くり返し伝え続けないといけないこともあるので, そこまで含めて.
お願いの話はあとに回して, まずは質問に答えます.
数学でも確率, ギャンブル学に興味があるのですが, 確率や統計について初心者が学びやすい本などはありますでしょうか?
というのが来ました. まずギャンブル学ってなんだ, というところからはじまり, 知らないのでちょっと調べたらギャンブルの社会学とか ギャンブルの情報学とかいう話が出てきて, 何か大雑把に言って次の本の話っぽいです.
- http://sekaishisosha.jp/book/b354686.html
「本の内容」も引用しておきましょう.
人はなぜ賭けるのか? ― 人間の歴史あるところ賭博の歴史あり。 心理学、歴史学、社会学、文学、教育学、法学など、 多角的、複合的な知の動員によってギャンブルを吟味検証した異色の論集。 「ギャンブル学」事始め。
これ, 「数学」ではなく, 私の力ではどうにもならないので, とりあえずスルーしておきます. 少なくとも上でコメントがある分野, ぜんぶ人文か社会学で, ギャンブルの情報学という文脈で確率なり統計なりが 出てくる程度の話でしかないようです.
- https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=79924&item_no=1&attribute_id=1&file_no=1&page_id=13&block_id=8
読者の方で何か面白い文献とかご存知の方いらっしゃれば, ぜひ教えてください. 数学と物理以外の話をやらないわけではないですが, 知らなすぎて何もコメントできないのがつらいところです.
あと, 「初心者が学びやすい」というのは これまでの経験上, コミュニケーションの齟齬を 高確率で発生させる危険ワードで, 取り扱い注意な感じです.
何とも言いづらいのですが, とりあえず大学受験の参考書の「ハッとめざめる確率」あたりをお勧めしておきましょう.
- https://www.amazon.co.jp/gp/product/4887420447/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4887420447&linkCode=as2&tag=phasetr-22&linkId=0d51d5651046cf2213a19078c48a5228
これ, 極端なことを言えば 大学受験に関する確率問題が解けるようになるだけで, 必ずしも実用に役立つ確率や統計に対する 知見が深まるわけでもないのですが, 確率で遊び倒して慣れる方が優先だろうと思い, この本にしてみました.
最近人工知能やら何やらで統計学ブームが来ていて, その手の本は爆発的に増えています. ある程度プログラム書けるなら, そういう方面から攻めてみるのもいいでしょう. 次の本だとか.
- https://www.amazon.co.jp/dp/4798155063
で, 以下お願いに関する話です. きちんと継続的に整備しつつ, どこかにまとめておかないといけないですね.
質問して頂くのはいいのですが, その場合は次くらいの内容を書くようにしてください. 「初心者」を自認する方は特にお願いします.
- 初心者というのはどういう意味か? 例えば, どのくらいまでなら算数/数学に耐えられたと思っているか? 小学校? 中学校? 高校?
- いまどういう状態でどうなりたいと思っているか?
- 例えば数学も高校まではどうにかなったとは思っているものの, もう昔のことでほとんど何も覚えていないから 1 から勉強したいと思っているのか.
- 中学で早々に挫折して, 中学の数学くらいからやり直したいと思っているのか.
- 物理を勉強してみたくて, そのための数学を勉強してみたいと思っているのか.
- 最終目標は微分積分で, それに関わる話だけを最短経路で勉強できないか.
- 目標がたくさんある場合, 優先したいのはどれか?
- 狭義の数学/物理以外が関わる話の場合, それに対する参考文献や参考サイトはどれか? 例えばギャンブル学なら http://sekaishisosha.jp/book/b354686.html とか.
これまでのやりとりでのはまりポイントを きちんとまとめてこなかったので, あまり精度のいい書き方になっていないですね. これから整備していきます.
この辺の情報がないと, 適切な答えが返せず, 1 番困るのは適切な情報がほしいと思っているあなたです.
適切な質問を練り上げる力が育っていないとこういうときに困ります. 実際, 上に書いた質問事項も練り上げきれていないので, いま現在進行形で私が困っています.
こういう話, 研究フェーズで決定的に大事で, 博士課程だときちんと鍛えられることになっていて, 博士の価値はここにある, ということになっています.
問題を練り上げる訓練みたいな通信講座とか, ある種の問題集みたいなの, あったらよさそうだと今思いました.
いろいろな意味ですぐはできないので, 時間かけて考えてみることにします.
まとまりないですが, 今回はこのくらいにしておきましょう.
ではまたメールします.
2018-05-10 続 超弦理論/相転移プロダクション¶
朝起きたらちょっとした反響があったので, それをシェアしておきます. 確率の話についても問い合わせがあったのですが, これが長くなりすぎたので次回に回します.
専門が何なのかいまだによくわかっていないのですが, Twitter 経由で知り合った物理の人が メルマガに登録されていて, この間のメールへのコメントで 今年の 3 月に出たウィッテンの論文を教えてくれました.
- https://arxiv.org/abs/1803.04993 Edward Witten, Notes on Some Entanglement Properties of Quantum Field Theory
ウィッテンは歴史学科卒からの物理転身で, 数学最高の賞であるフィールズ賞を取った魔人です. 超弦理論に関する議論でいまもなお世界をリードしています.
で, そのウィッテンが冨田-竹崎理論にフィーチャーした プレプリントを出したので, 解説をしてほしい, とかいう凄まじい無茶ぶりが飛んできました.
冨田-竹崎理論は数学的に私の専門だった作用素環の大理論で, この竹崎は昨日のメールでも紹介した竹崎正道先生です.
いまプレプリントを読んでいますが, さすがウィッテンというべきか, 異様にまとまっています. かなりよさげなので, 興味があればぜひ読んでみてください. 私も読んで, あとで適当にコメントする予定です.
あと, プレプリントの内容とは関係なく, 「冨田-竹崎理論にはこんな方向からの近付き方もある」 という解説をちゃちゃっと書いたのを先の物理の人に送っておいたので, それをこのメルマガでも共有しておきます.
- http://phasetr.com/members/myfiles/file/2018-05-10-231220.tmp.pdf
相手が相手なので相対論的場の量子論と 量子統計は前提にした内容になっていて, そう簡単に読める内容ではないでしょう.
ただ, 現代数学観光ツアーのように, 数学・物理的に進んだ世界の様子を, 啓蒙書のレベルを越えて触れ, いろいろな分野を横断して世界を眺める, そういう点からするときっと役立つはずなので, こちらでも共有しておきます.
多少研究の話も入れているので, そういうのが好きな人はぜひ眺めてみてください.
現代数学探険隊のページで, 「超弦理論をやる上でもこの講座の内容は役に立ちます」 と書いておきました. これは超弦理論で出てくる幾何的な議論をやる上でも, 基本的な数学の知識はいるし, それをきちんとカバーしているということ,
微分幾何系の議論の中で非線型偏微分方程式なども出てくるし, そうした解析学の基礎はきっちりやるから, その意味でも役に立つという意味で考えてい, 超弦理論との関係という意味では 作用素環のことは考えていませんでした.
しかし, 実際には作用素環や代数的場の量子論の 基本的な成果に興味が持たれつつあるようです. 思った以上に本格的に意義のある内容になりそうで, むしろ驚いています. ここまでの展開はさすがに想像していなかったので.
現代数学探険隊で作用素環自体はかっちり議論しませんが, 現代数学観光ツアーでは散々紹介したように, 関係ある話はいたるところに散りばめています.
この冨田-竹崎理論フィーチャー, 実は別の意味でもタイムリーなのです. 昨日次のように書きました.
また別の新しい企画が立ち上がっています. 具体的な動きはまだ形になっていませんが, いったん, こんなことも企画しているよ, ということで近い内に案内だけは出します.
まだ金額など基本的なことも調整ついていなくて, ぽしゃるかもしれませんが, いろいろ考えていてやりたいことの 1 つでもあるので, 企画案を公開してみます.
実は Twitter で知り合った大学院生の 勉強ノートを販売してみよう, という企画を進めています. A4 で 1300 ページあるので相当の量です.
この学生さん, 当人が私と趣味が似ていると 言っているくらいなので, この勉強ノートで扱っている内容は 私の趣味関心ともよく合っています.
特に作用素環も議論していて, 冨田-竹崎理論も載っているのです. これ, この場で告知しろ, というどこかの誰かからの メッセージだろうと思ったので, 案内してしまいます.
参考までに, この PDF の目次を載せておきましょう.
- 選択公理, 位相空間, 実数
- 線型代数
- 位相線型空間
- ユークリッド空間上の関数の微分, 初等関数
- 測度と積分
- ユークリッド空間内の多様体上の微積分
- 複素解析
- 超関数, Fourier 変換, Sobolev 空間
- Banach 環 C^*-環のスペクトル
- Hilbert 空間上の線型作用素論
- 微分方程式
- 局所コンパクト群のユニタリ表現論
- 基本的な Schrodinger 作用素のスペクトル
- 確率論の基礎
- 作用素環論の基礎
- 付録.1 古典力学の基礎への数学的アプローチについて
- 付録.2 古典力学的視点からの統計力学の原理について
- 付録.3 特殊相対論的時空と電磁気学の基本法則について
これ, ここまでで A4 で 1300 ページ程度のボリュームです. まだ追記していくとのことでした.
これは元が自分向け勉強ノートですし, 完全に定義・定理・証明のスタイルで, 必ずしも定義や定理の解説などは入っていません.
しかし, この構成それ自体が 1 つのストーリーになっていますし, 関数解析系の解析学の王道と呼べる流れです.
ふつうの位相空間論さえありませんが, 関数解析系にフォーカスさせきって, ストレートに研究の現場までの道を描いている清々しい構成です.
現代数学探険隊はいろいろな意味で, その関数解析系数学の王道を崩しています. それは勉強しやすくするため, そして数学の基礎を固めるという意味でです. 完全に関数解析にだけフォーカスするなら 私もこれに近い構成にしただろう, という内容で, 本当に趣味が似ています.
まず真っ先に線型代数おさえるよね, 積分ははやめにやりたいけど, 微分もやっておかないとあとで困るから 微分は先行投入したくなるよね, とか.
現代数学探険隊とまた少し違う趣で, これ自身, 通信講座化させてもいいような 構成だと思っています.
むしろ, この学生さんとうまく連携できて, これをコンテンツ展開できれば, 作ろうと思っていたアドバンストコースも こちらのコンテンツを案内すればいいだけで済み, その時間を他のコンテンツ制作に使えるようになり, 私の活動としても凄まじいメリットです.
現代数学探険隊の PDF コンテンツとは 切り口が違いますし, 重なる部分があるにせよ, 平行して販売する事にも十分な意義があります.
現代数学探険隊だと, ある意味で関数解析系の数学から見て 「よけいなこと」もいろいろやっています. そしてある程度集合や位相の知識がある方からすると, 過剰に基本的すぎるでしょう.
そうした「よけいなこと」よりも, 関数解析系の実戦的な内容をストレートに突き進みたい, という方にはお勧めの内容です.
もしあなたがこれに興味があるなら, もう少し待っていてください.
ではまたメールします.
2018-05-09 超弦理論の読書案内/相転移プロダクション¶
お問い合わせを頂いた内容に いろいろ返信したのですが、 メルマガで共有した方がよさそうなこともあったので シェアします.
- 物理学者や数学者のブログやサイトの紹介
- 超弦理論に関する読書案内
まずは前者から.
数学物理学で生きておられる 先生のブログや生き方にふれられる ホームページがありましたら教是非えてほしいです。
サイトでも書評を書いていたりするのですが, 「数学まなびはじめ」はまさに数学者の生き様が書かれていて, 非常に面白いです.
- http://www.amazon.co.jp/gp/product/4535785155/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4535785155&linkCode=as2&tag=phasetr-22
- http://www.amazon.co.jp/gp/product/4535785163/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4535785163&linkCode=as2&tag=phasetr-22
- http://www.amazon.co.jp/gp/product/4535785929/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4535785929&linkCode=as2&tag=phasetr-22
竹崎先生は直接お会いしたこともあり, 特に印象深いので, その記事は引用しておきます.
- https://phasetr.com/blog/2013/02/16/書評:数学まなびはじめ-第-1-集-竹崎正道/
現代数学観光ツアーなどでも紹介していますが, 深谷先生のエッセイ「数学者の視点」も 激烈面白いのでこれは本当にみんな買って読んでほしいです.
- http://www.amazon.co.jp/gp/product/4000065351/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4000065351&linkCode=as2&tag=phasetr-22
これも書評を載せておきましょう. これと「数学まなびはじめ」はとにかくみんな買ってほしい.
- https://phasetr.com/blog/2013/02/01/書評:数学者の視点/
紹介したすぎて本題からずれてしまいました.
研究者のブログやサイトはいろいろあります. 日常を知りたいということなら, Twitter がお手軽です.
1 人研究者を見つけると, そのフォロー・被フォローから近い分野の研究者が大量に見つかるので, それでフォローを増やしていくといいでしょう.
Twitter にはたくさん研究者がいますが, ここでは日頃からゴリゴリ物理や数学の話をしている人の アカウントをいくつか紹介します.
- 京大の物理の教授, 佐々真一さん https://twitter.com/sasa3341
- 東工大の数学の教授, 加藤文元さん https://twitter.com/FumiharuKato
- 学習院の物理 (数理物理) の教授, 田崎晴明さん https://twitter.com/Hal_Tasaki
- 数学の教授 (当人が名前を出していないので名前なしで紹介) https://twitter.com/Paul_Painleve
- Caltech の物理の教授, 大栗さん https://twitter.com/planckscale
佐々さん, 田崎さん, 大栗さんは ホームページ (日記サイト) も持っています. 大栗さんは超弦理論の研究者として著名なので, ホームページ含め追いかけると楽しいと思います.
- 超弦理論に関する読書案内
ちょっとした読書案内です. ちょうど今日メールが飛んできたこともあり, サイエンス社の別冊 SGC ライブラリの電子版で, 超弦理論に関わる数学や物理の冊子が いくつか売られているのを紹介しておきます.
- http://www.saiensu.co.jp/?page=field_list&field_id=30&field_name=&offset=20
現代数学探険隊のページで 超弦理論に興味がある方も多い, と書いています. 実際, 今回問い合わせされた方も 超弦理論に興味があるとのことでした.
この辺, やはり需要があるんだな, と改めて感じています.
さて, 上のライブラリーの本ですが, それぞれの本はだいたい 200 ページです. それだけの薄さで高度な内容も議論しているので, 読むのに予備知識も必要ですし, 議論や説明も飛ばし飛ばしになっている部分があります.
しかしこれは欠点ではなくいいところです. ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
啓蒙書だと一般受けを狙って 式がほとんど書かれていませんし, 説明が断片的にならざるを得ません.
かといってもう少し勉強してみようと思っても, ゴリゴリの専門書しかありません.
上のページにある電子版の本も, 基本的にはゴリゴリの本ですが, その本は専門的になりすぎず, その分野への導入にはほどよいレベルになっています.
もちろん読者対象として一定以上の 専門能力を持つことを前提にしているので, 専門家向けの入門や概要ですが.
で, これをどう使うかが問題です. ある程度の予備知識からはじまり, 200 ページくらいでそこそこまとまっているので, どんな勉強をどうしていけば 超弦理論まで辿りつけるか, それを見通すために読むのです.
細かいところがわかるわけがない (私が読んでも細部は追い切れません) ので, 大きな雰囲気を掴んでください.
そして, 基礎的なことを勉強するときに, 「いまやっていることは将来こんなところにつながる」 というのを少しでもイメージしやすくし, 勉強のモチベーションアップに使ってください.
この使い方は現代数学観光ツアーの スタンスとも一致しています. 細かいところはさておき, 大きな姿を掴んでもらって, 勉強のモチベーションアップに 役立ててもらうことが大事にしています.
あとサイエンス社のこのライブラリを応援したい, そんな理由もあってあえてこれを紹介しています.
先日, Twitter でも愚痴ったのですが, ゴールデンウィークに衣替えがてら 大掃除したとき, もう家に本が置けないので 本を大量に処分しました.
最近あまり読んでいないというだけで, まだ時々読むだろうしずっと手元に置いておきたい本を, です.
紙の本, もう家に置く場所がないので, いわゆる電子書籍を売ってほしいのです. 漫画だとファイルの容量などまで含め, またいろいろな問題があると思いますが, 特に数学や (理論) 物理の学術出版は ほぼ字だけですし, PDF だと非常に容量も軽くおさえられます.
だから epub がうんぬんというよりも, TeX で原稿出てくるのだろうし, 素直に PDF 出してほしいのですが, なかなかそうなりません.
その中で PDF を出してくれているので, これは応援したいと思っています.
雑誌の数理科学なども PDF で出してほしいし, Web+DB が 10 年分の記事を DVD でまとめて 出しているような感じで, 過去何十年分を DVD で出してほしいとか もっとやってほしいことはいろいろありますが, そのためにも PDF 販売が盛り上がってほしいのです.
本来, 時代の先端をひた走る技術・学術出版は, それに合わせて革新的なスタンスを取ってほしいのですが, 現状, IT 化の動きが非常に遅いように感じています.
規模の問題もあるのでしょうが, プログラミング関連の書籍で有名な オライリーは PDF 販売していますし, 英語だと GitHub で公開しながら 本を執筆していることさえあります.
大学側も書籍や論文誌を置くスペース問題がありますし, けっこう大事だと思っています.
もう 7-8 年も前ですが, 獣医学の教官が「最近は本も論文も PDF で読んでいて, すっかり紙で文献に触れなくなった」 と言っていました. よくも悪くもそういう時代になりつつあるので, 学術出版もそういう動きをしてほしいです.
紙は紙でどう考えても保存の用途には強いですし, いろいろなビジネス上の都合や海賊版的な 問題もあるのは知っていますが, それを何とかすることこそ出版業界の仕事でしょう.
いい加減長くなりすぎてきたので, 今日はこの辺で切ります.
先月くらいから言っている PDF 販売について, また別の新しい企画が立ち上がっています. 具体的な動きはまだ形になっていませんが, いったん, こんなことも企画しているよ, ということで近い内に案内だけは出します.
ではまたメールします.
2018-04-13 無料でアクセスできる数学・物理系の文献とサイト/相転移プロダクション¶
ここ数日, Twitter で漫画村に関するネタが出ていて, 無料かつ合法的に読めるサイトがいくつか紹介されています.
昨日, これから有料コンテンツの準備中だよ! と言っておいたあとに「どういうこと?」 とあなたは思っているかもしれません.
何人かの方から, 自分でも数学や物理の情報発信をやってみたい, という声を頂いていますし, そうした方のことも考え, その辺の事情を簡単に説明しておきます.
まず第 1 にどう考えても食い合う サービスではないからです. 基本的に私の活動は既存のコンテンツを活かすために いろいろなギャップを埋めることが目的です.
ビジネスライクに言うなら, 既存のコンテンツを勉強してもらった上で, そこで大いに困ってもらう必要があるとも言えます.
あともう 1 つ. いろいろなところで言っているように, 私自身の活動の当初の目的は数学や物理の話が できる友達を増やすことです. そしてそれはいまも変わっていません.
お役立ち情報はきちんと共有しましょうね, ということです. で, そういう情報を出し続けると, 今度は「こんな情報があったから共有しますよ」 と逆に情報をくれる人も出てきます.
世間的に世知辛く言えばいわゆる give and take ですが, 逆に言うなら数学/物理界隈での give and take をもっと気楽にやろう, ということでもあります. もともとその気が強い文化も持っていますし.
さて, いい加減サイトを紹介していきましょう. 参考ツイートなどは次の通り.
- https://twitter.com/dc1394/status/984421487372152832
- http://2969.hatenablog.com/entry/2018/04/11/165555
- https://twitter.com/astrophys_tan/status/984099971161968640
- https://twitter.com/f_nisihara/status/984385563787649024
サイトの情報を簡単に抜粋していきましょう.
- 統計科学のための電子図書システム http://ebsa.ism.ac.jp/
- 漫画村閉鎖!?代わりの無料読み放題サイト4選!!
- OpenStax http://openstax.org 主に大学レベルの教科書を無料で提供しているサービス。 物理学、経済学、心理学など様々な科目の教科書が用意
- Google Scholar https://scholar.google.co.jp Googleが提供する、世界中の論文や学術誌が検索できるサービス。 海外のものだけでなく日本語論文も検索できます。
- Stanford Encyclopedia of Philosophy(スタンフォード哲学百科事典) https://plato.stanford.edu/index.html 無料で閲覧可能な哲学のオンライン百科事典です。
- Biography.com http://www.biography.com 歴史上の人物から現在活躍中の俳優まで、さまざまな人物の伝記を取り扱ったサイトです。
- 宇宙物理たんbot
- 超ド定番!!数物系論文プレプリント無料読み放題サイト https://arxiv.org
- 天文系に大人気!!パブリッシュされた論文まで結構出てくる激ヤバ無料読み放題サイト http://adsabs.harvard.edu/
- 岩波書店憤死!?ファインマン物理学の原書全巻の無料読み放題サイト http://www.feynmanlectures.caltech.edu
- アインシュタインさんの個人情報まで暴露!!アインシュタイン全著作の無料読み放題サイト http://www.einstein.caltech.edu
- 定価で買ったわたくしは一体!?日本評論社のシリーズ現代の天文学の天文学辞典の無料読み放題サイト http://astro-dic.jp/
- たまには文系の本でもお読み!!スミソニアン協会図書館の蔵書の無料読み放題サイト https://library.si.edu/books-online
あと私からも数理物理系の arXiv を紹介しておきましょう.
- Mathematical Physics Preprint Archive http://www.ma.utexas.edu/mp_arc/
ここは上の https://arxiv.org とかぶっているプレプリントもあります. ファインマン物理学は私のサイトでも紹介したことがあります.
これ以外にも, 現代数学観光ツアーの中など, ネットに (おそらく合法ではなく) 落ちている文献の ダウンロードを紹介していたりしますし, 必要ならいろいろ物色してみてください. 「こんな情報はない?」という要望があれば, 出せる情報は出すつもりです.
ここまで書いて改めて思ったのですが, やはり英語情報が多いですね. MIT では講義映像を公開していたりしますし, 英語で勉強できて, かつ独学を続けられる 尋常ではないレベルの気迫があるなら, 独学もかなりやりやすくなっているのではないでしょうか.
一応書いておくと, 独学でハードルになるのは, やはりカリキュラムの非存在です.
学校での勉強だと好き嫌い関係なくとにかくいろいろやらされます. これは, 興味があってもなくても一通り, その時代の専門家が大事だと思う基礎を眺め渡せるという点で重要です.
面白いところしかしないとなると, 結局いろいろなところが穴だらけになってしまい, あるところで足元をすくわれたり, 基礎がないために必要な情報があってもそれを理解するのに やらなかった分のツケを支払わされることがあるからです.
これも尋常ならざる気迫があれば乗り越えられることですし, そうでなくても乗り越えなければいけないことではあります.
余計な話をしてしまったので本題に戻ります. それは英語の話です.
少なくとも IT 関係の技術系だと, 最新の情報に関してはふつう英語情報が 1 番早いです. 文献の量も多いですし, ソフトのマニュアルやドキュメントも当然英語です.
そういう状況であるにも関わらず, 私の会社でも技術系の人が「英語が読めない」ということはよくあります. 本当に全くお手上げということもないと思うのですが, 理解に苦しむレベルで忌避感を持つ人はいます.
これから 10 年以上先にどうなるかはともかく, 直近, 英語が読み書きできなくて困ることはないと思うのですが, 数学や物理を独学する上では英語が読めて聞けると明らかに得ですね.
最近 4 技能とか言われているように, 書くのと話すのはまた別です. とりあえず情報を受け取れればいいので, そのための読む/聞くが大事です.
この辺も以前検討したことはあって, 例えば次のような本はあります.
- ロジックとリーディングに強くなる 英語で算数 (数のリスニング特訓CD付き) http://www.amazon.co.jp/gp/product/4255004951/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4255004951&linkCode=as2&tag=phasetr-22
- 数学版 これを英語で言えますか?―Let's speak mathematics! https://www.amazon.co.jp/dp/4062573660/
- 語源で増やすサイエンス英単語 https://www.amazon.co.jp/dp/4860643992
これに限らず, もっと理工系のための英語, みたいなコンテンツやサービスがあってほしいですね.
現代数学探険隊でも数学や物理で役立つ英語表現, みたいな節を作っていく予定なのですが, これはもっと本格的に展開したいと前から思うだけは思っています. どなたか一緒にコンテンツ開発しようという人いないですかね? 時間的な制約もあって, さすがに 1 人で作りきれないので.
サイトで「理工系のための歴史」みたいな本ももっとあると嬉しい, みたいな話をしたこともありますし, こういう話も本当はもっとやりたいです.
- 炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす http://www.amazon.co.jp/gp/product/4106037327/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4106037327&linkCode=as2&tag=phasetr-22
あと, この辺に関して 1 つ実体験を紹介しておきます. これもどこかで書いた気がするのですが, フランスは数学が強く, しかもやつらは代数幾何を中心に 大事な文献をフランス語で書くことがあります. 他にもいろいろあってフランス語を勉強しようと思ったことがあり, 実際に多少勉強していました. 大学の第 2 外国語ではドイツ語だったので, 本当に大学を出てからの独学です.
あなたが大学で第 2 外国語を勉強したことがあるなら たぶん納得してくれると思うのですが, きついのは暗記です.
ヨーロッパ系ならある程度英語とも単語が似通っているので そこからの類推が使える場面はあります. ただ, それでも定期的に触れない限り, 記憶には定着しません. フランス語でもそれで非常に苦労しました.
最近は全く勉強していないので, 文法も怪しく勉強のつらさを実感しています.
で, 言いたいのはそんなことではなく, フランス語の勉強に数学を使うことです.
最低限のフランス語と英語, そして数学を一定以上理解していることが条件ですが, 一時期, 数学の論文を読むことでフランス語を勉強していたことがあります. 具体的には Serre の論文を読んでいました.
数学それ自体をある程度わかっていて, その文献で議論されていることがわかっているなら, 「ここにはこう書いてあるべきだ」というのが数学的な内容から 規定されるわけです. それを使ってフランス語を読み, 理解していこうという趣旨です.
実際, これは想定外の効果がありました: 暗記の役にも立ったのです.
明白に覚えているのは si の意味です. 英語の if の意味で使われます. これ, ふつうに勉強しているときには何度やっても覚えられなかったのですが, Serre の本で出てきたときに「ああ, これは if だね」と辞書を引かずに 意味を類推できました.
すごいのはその後で, 数学の中で出会ったあと, この意味を忘れていないのです. もはやふだんフランス語には触れていないのに, 何年経っても忘れていません.
この忘れにくい覚え方・出会い方が大事です. もしあなたが英語に苦手意識があるのなら, 自分が得意なところに引きつけて理解する手法を取ってみてください.
念のため言っておくと, 小説は難しいです. 日本語でも会話文で省略なり何なりよくあるわけで, 口語表現などにも馴染んでおく必要があります.
他にも最近出版系の人に翻訳に関する話を聞いて それはそうか, と思ったのですが, CM に流れているフレーズが文章中に出てくることがあって, そういうのは英語そのままだとほぼ理解不能です.
よくある「聖書を理解していないと英語の新聞が読めない」 みたいな話と同じです. イギリスなりアメリカなりの日常を理解していないと 全く意味が理解できないことが多々あります. 日本の古文が理解しにくい原因でもあります.
話が逸れましたが, 数学を仲介にして英語なりフランス語なりを理解するのは 割といける手法だと思っています.
もちろん一定以上の数学じたいへの理解を前提にした上で.
もし数学がある程度できる上で英語をもっときちんとやりたいと思うなら, ぜひ洋書を読んでみてください. そのとき, 今回紹介した文献やサイトを使ってみてください.
洋書を買おうと思うといろいろとハードルがあるでしょうが, 無料で手に入るなら「買ったけど読めなくて損した」 みたいな事態にはなりません.
個人的には英語よりも「数学で学ぶフランス語」が本当にほしいです. メルマガ講読されている中のどなたか, フランス語の方の専門家, それも数学に対して拒絶反応を示さない人, 紹介してくれませんかね?
ではまたメールします.
2018-04-12 また魔人のような受講者の方があらわれた/相転移プロダクション¶
最近全く返事できていないのですが, 各種通信講座のアンケートに ポツポツ回答が来ています. その中で強烈なのがあったので紹介します.
40 代の専業主婦の方で, 現代数学観光ツアーの第 3 回に対するアンケートで, 「大変興深く面白いです.」というコメントを頂きました.
はっきりと主婦を名乗って参加される方は 多分はじめてで, かなり驚いています.
この回, 多くの人を叩き落とす回らしく, 急に難しくなったという声もよく聞きます. それに対して, 次のような内容評価を頂きました.
- ちょうどいい
- 面白い・楽しい
最近, 現代数学観光ツアーには 「もっと 1 回 1 回を短くして」 だとか 「難しすぎる」だとか, ゴリゴリの数物系という 当初の想定を越えた範囲を越えた層の方からは 厳しいコメントを貰っているので,
「喜んでくれる人がいた. 良かった」 と多少なりとも安堵しているところです.
で, 本題はここからです. 「私は数式が好きなので数式ももっと学びたい気持ちがございます.」 というコメントがあったので, いちおう改めて宣伝をしておこうかと. 個別に送ろうにも, アンケートに連絡先を記入するようになっていないので, 全体メールで送ります.
現代数学観光ツアーが一通り終わってからも 案内があるのですが, もっと数学を勉強してみたい, という方向けに現代数学探険隊という 通信講座を用意しています.
詳しいことは次のページにまとめているので, ぜひこちらを読んでみてください.
- https://phasetr.com/mtex1/
面白そうだ, と思ったら, ぜひ参加してみてください. 無料期間もあります.
参加しなくても, 数学を勉強する上で大事なことを いろいろ書いていて, 単純にページを眺めるだけでも参考になるはずです.
あと, 何人かの方から要望を頂いていたのですが, この通信講座で使っている PDF を 単独でコンテンツ販売するためにいま準備中です.
通信講座としてのサービスがない分, 単純な金額だけなら PDF コンテンツ販売の方が安くなっています. サービス内容自体が根本的に違うので, 金額も当然別体系にします.
この PDF コンテンツはこれを読み進めていく教科書というよりも, 「辞書」という立ち位置なのではないかと思っています.
何にせよ, 近い内, 1 月以内には案内を出す予定なので, もう少し待っていてください.
ではまたメールします.
2018-03-11 量子系の数理と線型代数/相転移プロダクション¶
時間もないのにやってしまった感があるのですが, 埋もれかねない文章なので, メルマガでも公開して供養しておきます.
私の「物理の数学」に対するスタンス表明でもあるので, もしあなたがそういうのが好きなら, 読んでいて楽しい文章だろうと思います. 「いや, その考えは違う」みたいなのまで含めて.
このメールの最後にも書いておくので, 興味があればコメントもらえると嬉しいです.
学生の頃, Amazon で東大出版会の線型代数入門に 書評を書いたことがあって, それに関する話です.
物理の勉強をするのに抽象的な線型代数が とても役に立つのでこの本を読んで 勉強しましょう, という話です.
- https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R1KKQ5EX6N3T7T/ref=cm_cr_arp_d_rvw_ttl?ie=UTF8&ASIN=4130620010
そしてこれにとある数学系の人から 2 年前にコメントがついたので, それに対してコメントをし返したのに さらにコメントがついていたことに今気付いたので, またコメント返した, という話です.
私のメルマガを読んでいる方は 物理にも興味があることも多く, 参考になることも多いと思うので, そのコメントはともかく, 上の書評はぜひ読んでおいてください. ついでに次の togetter のまとめも役に立つはずです.
- https://togetter.com/li/108307
せっかくなので, この書評を書いた理由も書いておきましょうか.
いまはもう消えているようですが, 物理の関係者を名乗る人が 「この本を読んでも物理の役に立たない」という しょうもない書評を書いていたのです.
全く知らない人の書評ですが, その当時, それが物理関係者として あまりに恥ずかしかったので, カウンター的にコメントしたのです.
さらにその後, 学部 4 年のときに書き換えたのが今の書評です. もう数学に行くことは決まっていて いろいろ勉強していました.
最後の汎関数積分とかいうあたりを追記しました. あと, 内容は本質的に変わらないものの, 気に入らなかったので, 全面的に書き換えた記憶があります.
で, 今回返したコメントは次の通り.
私は早稲田の物理を出ていますし, 修士では東大数理 (作用素環専攻, 特に場の量子論と量子統計への応用) を 出ているのでその立場で改めて書いておきます.
まず主張が数学サイドに偏りすぎていて, 物理の視点がほぼありません. それが本当に困ります.
あなたは数学者が書いた物理の本などではなく, 物理または工学の人間が書いた 物理の本を読んだことがあるでしょうか?
直交関数系などもちろん ヒルベルト空間論が背景にある数学は ゴリゴリ出てきますが, 関数解析を知らないと 読めないようには書いていません.
実際知らなくても読めるし, 読めて物理が理解できないと困ります. 物理の学生だった人間としての実感でもあります.
物理といっても東大数理の河東先生が 代数的場の量子論の界隈を指して 「あの人は自分は物理と言っていますが, あの内容から論文のスタイルまで見て どう考えても彼らは数学ですよ」という レベルの人もいますが, 一方で量子系とはいえ実験の人まで いろいろいます.
そして私は実験の人まで含めて考えています. その上で関数解析までやるくらいなら 物理をきっちりやる方がよほど 大事だと考えています.
あなたは何をどこまで意識して 「(数学としての) 解析学が大事」と言っているのでしょうか? いまこの話はあくまで量子力学の 物理の理解に重点があります. その上でゴリゴリの数学が必要か, という話をしています. そして私はいらないと思っています.
しかし早稲田大学の友人は 1 年生の段階で松坂和夫の本くらいの分量と 程度で集合論の超元帰納法までは必修です. 選択科目では物理学と関係が深い解析学や 位相空間論を理論的な数学として学びます. 明らかに使わないなら役に立たないなら教えません.
実験系の方が人数多いという前提で 書きますが, 早稲田の応物・物理のほとんどの学生 (中ではほとんど一体. 実際院では 1 つの専攻になっているし, 実数論・集合・位相は応物の学生までやる), 位相空間論使っていないと思いますよ.
宇宙論で一般相対論, 準リーマン幾何必要な学生でも どこまでゴリゴリの数学が必要か, 使っているかと言われるとけっこう怪しいような.
また彼が出席した学会では 非常に高度な数学が使われていたそうです.
超弦系の学会なら当然すさまじい 数学使うでしょう.
ただ, 絶対多数を占め, 工学まで含む実験系で そんな数学の話が出てくるとは思えません.
学会の話をしようというなら そこまで情報持ってきてください. 私は一部の理論系の話がしたいのではありません. 物理の話をしてほしいです.
最近は機械工学でも 力学系や微分幾何が必須の素養になりつつあるらしい https://www.jsme.or.jp/uploads/sites/6/files/kiriki7.pdf というのも見かけていますし, 一般の理工系にとって必要な数学の素養は 高くなっているようですが,
ガチガチの関数解析の知見や 超関数論がどこまで量子力学の 「物理」を理解するのに必要か, 研究するのに必要かと言われたら, どう考えてもそこまでの深度は求められていないでしょう.
あなたは物理学科の視点で 量子力学の理解について考えているのでしょうか. それがまずわかりません. 私はここで数学の人間の意見が 聞きたいのではありません.
あなたはどんなスタンスを取った上で 関数解析系の数学の重要性を説いているのでしょうか. 数理物理という話なら, 私はまさにそこが専門です. それもゴリゴリの量子力学・場の量子論の数理物理です. むしろこのスタンスで言うなら, 必要な数学が足りないから 自力で作らざるを得ないという視点で取り組んでいます.
もう 1 つ教育面からの話もあります. 私はある程度一般向けの数学や 物理のコンテンツや通信講座を作っていますが, そうした人達にも量子力学は憧れの的です.
そしてそうした人達に 「量子力学を理解するのに 関数解析が必要だから 関数解析をやりましょう」と言うか, と言われたらそうは言わないですね.
ハードルが高すぎるし, 実際にいらないでしょう. 線型代数で十分です. (これは私が求めている 線型代数のレベルもそれはそれで 相当に高いといえば高いのだろうとも 思っています.)
極限制御こみの関数解析の視点は 工学上大事だから理工系一般に対して 関数解析のハートはおさえた方がいいとは 思っていて,
そういう通信講座も作ってはいますが, 量子力学の物理の理解に必要か, と言われると, 2018 年の時点でそれはないです.
Twitter 上で研究者を含めて 物理の人とも交流していますが, その人達があなたが言うほどの 関数解析系の数学をきっちり おさめているとは思えませんし, 少なくともいまの時点で困っているとも思えません.
あと研究に関係するところからも. ミレニアム研究所のナビエ・ストークスの 解の存在と一意性のように, 数学的には大難問であったとしても, 物理や工学ではゴリゴリ使われているわけで, その中でどうやって数学科ベースの数学の学習の 意義を説くつもりなのでしょうか?
量子系の数学でも, 学部 3 年の講義で扱われるような内容が いまだに数理物理の研究最前線だったりします: これはまさに私の研究テーマでもあります.
数学科の数学ベースの議論では 学部 3 年の物理すら満足に議論できません. その上で「物理をやるのに 数学科ベースの解析学が必要」などとは 私は口が裂けても言えません.
そしてそうした人達に 「量子力学を理解するのに 関数解析が必要だから 関数解析をやりましょう」と言うか, と言われたらそうは言わないですね.
この辺, 現代数学探険隊の募集ページで 「ゴリゴリの物理学科の学生ならともかく, 物理がやってみたくて数学にも興味がある, という人ならこういう数学にも興味があるだろう」, みたいな言い方してしまっているものの,
あくまでも物理がやりたくて 数学はそんなにしたくない人向けには やはり上記コメントのように言いますね.
何をどうしたところで, 物理にとってあくまで数学は単なる道具ですし, たいていの理工系の人間にとっては 物理も単なる目的達成のための道具でしょう.
趣味で数学やりたい人ならともかく, 趣味で物理やりたい人であっても 数学はただの道具でしょう.
数学にフォーカスがない人間に対して そこに過剰に負荷を強いるのはよろしくない, というスタンスですね.
何かコメントしたいことがあれば, このメールに返信するなり, このあとにある連絡先のどれかに コメントするなり, 適当な手段でどうぞ.
2018-03-05 3/10 の数学カフェの案内/相転移プロダクション¶
2/25 の感想も教えて, みたいなコメントももらったのですが, それを書く時間が取れそうにありません. それでも何か記録は残しておきたいので, 次回の案内と合わせてコメントしておきます.
今回は次の 3 本立てでいきます.
- 現代数学観光ツアーの感想への回答
- 「manavee 解散で考えたこと」のコメントへの回答
-
次回数学カフェ 3/10 への案内
-
現代数学観光ツアーの感想への回答
急に難しくなると評判の第 3 回へのコメントでした. 例の 73 才の方から.
ルベーク積分は関数の極限を使って, フーリエ級数のような形で積分を定義していると解釈していいのでしょうか?
どう理解されたのかよくわかりませんが, フーリエ級数と比較している点で多分全く違うだろうとは思います.
定義がよくわからなくても, もっと言えばルベーグわからなくても困ることないと思うので, あまり気にしないでください.
バリバリの解析学勢は死ぬほど困るので, 死ぬほど気にしてください.
フーリエ変換のところはわかった気にさせてくれました.
これもどう捉えるといいのか, どうすればいいのかよくわかっていませんが, 「わかった気になる」ということにほとんど価値を置いていないので, こういう感想もらうというのは私の意図通りでなく, 講座作りに失敗しているな, と思ってしまいます.
いまさら言うまでもなく, あまり意図通りに稼働していない講座ではあるのですが.
数式を用いて説明してくれたほうがたとえ話をするよりわかりやすいと思います.
今見直したのですが, たとえ話というのは何を指しているのでしょうか? ふつうたとえ話というと数学や物理外の卑近な話, という感じだと思っていて, あまりそういう話を入れた記憶はないし, 見返した限りどれのことなのかよくわかっていません.
ただ知らない記号もあるので記号の意味を丁寧に説明してくれるとほかの参考書を読むときにたすかります
これは講座の目的の捉え方の違いですね. 「こんな記号でこんな議論を展開する世界がある」 というのを知ってもらうことが目的であって, 細かい記号の意味を説明することを目的に作っていません.
反応を見ながら作っていて, 途中から少し方向性が変わったりもしたので, 歪みは間違いなくありますし, 当初想定のバリバリの数学/物理以外の人が 大量に受講されている, という, 私にはありがたいものの, 受講された方にははた迷惑でしかない 議論の展開でただただ申し訳なくなるところです.
結論としては, 来年, ちゃんとしたミニ講座をもっと作るので, しばらく待っていてください, というところでしょうか.
今年の目標は現代数学探険隊の完結と, 中高数学の講座の運営開始, そして様々なマネタイズ方法の実践と 成果出しで, たぶんこれだけで今年が終わります. この 3 つ, どれも死ぬほど気合入れないと できないので, まずはこれを片付けます.
今年は勝負の年です.
次のネタにいきましょう.
- 「manavee 解散で考えたこと」のコメントへの回答
下記の天才たちの物語を調べて動画で紹介して、貧乏学生を鼓舞されたし
という, 割と謎のコメントをもらいました. 下記の天才達というのは次の面々のようです.
天才アーベルや・グロタンディークの晩年・ポアンカレ予想を解き受賞を辞退した天才・戦時中の岡潔・南部先生・佐藤幹夫など、どん底での意志の凄さに頭がさがります。
これ, 私もいろいろ知ってはいますが, もちろん私が知らないことや資料もあるでしょうし, 参考資料教えてくれればいいのに, やってくれ, というならその手間を惜しむな, いいものを作るのにきちんと協力しろ, という感.
あと, 全般的にまとまりがなく, 何がメインの主張なのか全然わからなかったですね.
もっと言うと, 「どのメールに対するコメントなのかを判定するため、 該当のメールのタイトルを教えてください」 と書いているのに, 「補助金を受けたことによる事務コスト増大」とコメントされていて, いや, それ, 「manavee 解散で考えたこと」でしょ? という感じで意思疎通できなさそうな雰囲気を感じます.
何にせよ, 長文コメントだったので, ちょっとコメント返そうかと思います. 次のあたり.
無料動画で学べることは今後とも無くならないとお思います。 それは現在はYOU TUBERという、東大ほか有名大学の院生などが 動画投稿で稼ぎまくっています。また膨大な東大・京大・海外の名門大学の 講義が無償で見れるからです。
例えば実際に何年も前から MIT の講義なども公開されています. 東大数理もビデオアーカイブスといって講義を公開しています.
これらについて, 以前記事を書いたことがあるので, あなたが興味をお持ちならぜひ読んでみてください.
- 大学によるオンライン無料講義が出たとしても大学含めしばらく「学校」の意味は失われない
- https://phasetr.com/blog/2013/09/08/大学によるオンライン無料講義が出たとしても大/
これもう 5 年も前の記事でした. 今でも基本的な考えは変わっていません.
その記事には書いていないことを書いておきます. 一流の教官の給料が馬鹿みたいに高く, 学費も馬鹿みたいに高い MIT が講義の動画などを公開する理由です.
それは端的に言って, オンラインで配信する講義に 彼らにとって本質的な価値がないからでしょう.
発展が早い分野だとどんどんアップデートされていく 最新の知見が随時更新されつつ提供されていくのは 非常に魅力的で, その点価値は高いです.
しかし単に知識を身につけ, 勉強するだけのことに彼らはほとんど 価値を置いていないのだろうと思っています.
価値を置いていないというより, やって当たり前のことなので, このハードルも越えられないやつが 何をする気なの? という感じ.
そこまでやっている大学が, それでもリアルに人を集めるのは, 人を一箇所に押し込めて, リアルにコラボさせることこそが 大学の機能なのだと考えているはずです.
社会でもテレワークの導入などの効率化が 謳われている中, IT 関係でも世界のトップを走る アメリカの大学がわざわざ人を集めるのは, そうした「効率」を重視していては 賄えない世界があって, それこそ重視しているのだろうと考えています.
人と人のリアルのネットワークと協働が 大きな流れを生み出すのであって, 時間も空間もともにして濃密な関係を築くことこそ 重要なのだろうと.
それでもいろいろやれることはあるはずですし, 実際に私が目指しているのも このリアルのネットワークから外れた世界で 何をどうするか, ではあります.
先程の記事にもあるように, ネットで勉強できることは山程あるのに, 自律的にできない人が多いことの方こそを 問題にしています. 「できない方が悪い」と突っぱねても仕方ないし, そここそが「ビジネスチャンス」でしょうし.
これは本当に頑張らないといけないと思っていて, 今年の大きな目標です.
最後.
- 次回数学カフェ 3/10 への案内
とりあえず応募ページをぺたり.
- https://connpass.com/event/81376/
今回は流体と幾何という話で, 行こうと思っていたのですが, 時間管理的にそれどころではなさそうなので, 今回の参加は見送りました.
来年に向けた下準備もあるので 流体と幾何はちゃんとやりたいのですが, 来年いろいろやる余裕を作るためにも 今年は勝負なので, 切って捨てる勇気を発動させます.
で, 2/25 さんの松本さんの講演ですが, 多分私が 1 番質問をしていたと思います. 思っていたのとはかなり違いましたが, とりあえず幾何は多少なりともお絵描きできて うらやましいという印象が第一です.
解析だと不等式ゴリゴリなので, どうしたものか, というアレです. 代数の人も分野によっては厳しそうな. 暗号だとかの役に立つ系の話はあるにせよ, 身近であっても直接目に見えるわけではない応用が 死ぬほどあるので.
ちなみにこのあたりの数学応用ネタについては 次の無料講座でいろいろ紹介しているので, 興味があればどうぞ.
- https://phasetr.com/mrjhlp1/
数学カフェについては Twitter アカウントあるので, これもチェックされるといいでしょう.
- https://twitter.com/mathcafe_japan
あと自分の感想はともかく, 他の人の感想がいくつかあがっているので, それは紹介しておきます.
- http://lyricalmaestrojp.hatenablog.com/entry/2018/03/04/112454
- http://blog.goo.ne.jp/nakanaka_pierrot/e/438820b517b4fe5e5d7f516d631ca64e
松本さんがスライドを公開し, 講演の感想も書いているので, 興味があればこれも読んでみてください.
- https://twitter.com/ymatz/status/969564546514927616
- http://ymatz.net/journal/20180303/
- http://ymatz.net/docs/20180225-mathcafe-slide.pdf
もう一度参加募集ページも張っておきます.
- https://connpass.com/event/81376/
学生時代, 直接専門に関係なかったので, 幾何はほとんど勉強できておらず, 本当に基本的なことも全く身についておらず, いま急ピッチで自分の頭に 幾何の世界を形作ろうとしているところです.
道は長い.
何か今回やたら長くなった気がします.
ではまたメールします.
2018-02-27 manavee 解散で考えたこと/相転移プロダクション¶
以前わたしのサイトで紹介したことがある manavee (マナビーと読むらしい) という 学習サイト/サービスがたたまれていました.
サイトの manavee.com からのアクセス解析があり, どんなふうに言及されているのか, と思ったらサービスが閉じられていたという.
メルマガの読者の方の中には 教育サービスとまではいかなくても, わたしのように数学や物理の情報発信をしてみたい, 広い意味で教育サービスに興味がある, という方が何人かいらっしゃるようです.
もしあなたがそうしたことに興味があるなら, 発起人の花房孟胤さんのコメントが面白いので, ぜひ読んでみてほしいです.
- http://manavee.com/
どこまで本当か, などはともかく, それ以外にもいくつか関連するコメントもあり, それも勉強になります.
- manaveeとは何だったのか?~予備校なんてぶっ潰そうぜ。~ http://takurououen.com/2017/07/12/manaveee/
- manavee(マナビー)の失敗から学ぶ https://readmaster.net/plan/service-review/manavee
- manavee終了|MANAVIE誕生 http://genuinestudy.seesaa.net/article/441254361.html
- 教育者によるmanavee批判TL https://togetter.com/li/504662
サービス運営という点から, 私が気になったポイントを紹介しておきます.
法人化後は、次のような難点が表面化しました。はじめに、決算書類の作成や会員とのやりとりを始めとする継続的な経理・総務コストに貴重な人的資源を宛てざるを得なくなった点。
第三の反省点は、ある財団から補助金を頂いたことに起因する、無限に続くとも思われた事務コストを発生させたことです。
本件から得られた教訓は、紐付きのお金は大変面倒になりうるということです。社会課題を解決できると見込まれる人材ならば、労働時間の1割ほどを資金稼ぎに費やすだけでも十分な報酬を得られると思います。数千万程度の資金であれば、個人でやりくりする見込みも十分に立てられるため、余計なステークホルダーを介在させないという選択肢も妥当です。
一言で言えば, 事業にともなって必然的に起きる事務作業と, 金銭面の配慮です.
私にしても確定申告があったり, メール配信に関わる事務作業がいろいろあります. コンテンツ配信のためにサーバーにファイルを置く, といったことも事務作業でしょう. こういう時間は馬鹿になりません.
コンテンツを作ってサービス展開し, それらだけ考えていればいいわけではなく, いわば守りの部分, 価値や利益は生まなくても やらなければならないことがあります.
こればかりはやってみないとわからないことです.
あと資金面. manavee じたいは究極的なところでは 資金繰りに問題があったわけではないようですが, サービスを続けようという場合は いつだって資金的な問題が出てきます.
ボランティアというところも大きいですね. 以前から震災のボランティアに関する有名な話として, 次のような話があります.
18:00 ごろになると必ず引き上げてしまう ボランティアの人達がいて, 「他の人達は残ってがんばってやっているのに」, と陰口を叩かれていたが, かたくなにそれを守っていた. しかし, 他の人達がボランティアの支援をやめていく中, 最後まで継続的に支援を続けたのは 18:00 頃になると帰っていく人達だけだった.
ボランティアはしょせんボランティアであって, 余裕がなくなったら自発的に続けられないのであり, 引き上げざるをえません.
そしてもちろん, それが悪いわけでは全くなく, 余裕があってはじめてできることで, 無理のないようにやっているからこそ続けられる, という当然の話です.
これは全てにおいてそうです. 生活が 1 番なわけで, 余裕がないなら生活に集中せざるを得ません.
あなたは単に数学や物理を勉強したいだけだと 思っているかもしれません. しかし仕事や家事で手一杯だったら, 数学どころではありません.
何か新しいことをやるには, 必ずそれに見合った余裕が必要です.
最初の話と絡めるなら, 事務作業がその余裕を奪っていくわけで, それは manavee のサイトにも書いてあったことです.
私の活動に関してもコメントするなら, 一時期は完全に無料, つまりボランティアベースでいろいろやっていました.
Amazon での DVD 販売にしても, 有料での販売というより, ニコニコ動画や Youtube や Twitter ではなく, Amazon というメディアで展開している, というくらいのつもりでした.
ただ, こういうのは強制力がありません. それは受け手側はもちろん, 作り手側にとってもそうです.
いくつかのプロジェクトは 余裕がなくなったとき, 結果的に真っ先に切られていきました.
余裕がないと駄目だ, というのはこのときに本当に痛感しました.
あともう 1 つ, 先日博士を取った知人達と話したときにも 話題になったこととして, 「有料でやることの意義」があります.
それは作り手側から見た コンテンツやサービスの質の担保はもちろんですが, 受け手側の気持ちもあります. それは「お金を払ったのだからちゃんとやろう」 という意識です.
以前, Twitter で Springer 祭りというのがありました. Springer という世界的な専門書を扱う書店が, 書籍の PDF を無料で提供, というのをやっていたのです.
で, これでいくつか本を ダウンロードした人たちがいました. しかしその本を読んだか, といったら読まないのです.
自腹を切ったわけではないから痛くないので, 読もうという気がしないわけですね.
ついでにいうともう 1 つ, ボランティアと余裕と絡めていうと, お金を出したとしても 強制力がないと続けられないということです.
小中高, そして大学の力の 1 つは, 試験をはじめとして, 勉強をやらせる強制力がそれなりにあることです. 生徒/学生どうしのある種の同調圧力も 使いながら勉強するような強制力があるわけですね.
私がやっているような通信講座には 圧力・強制力はつけようがありません.
しかし勉強しやすくする配慮は必要で, それはなるべくコンテンツを小分けにして 渡す, というところです.
一部の講座ではまだ全然徹底できていませんが, 継続性を上げるために, 1 つ 1 つを小さくして, 小さな成功を積んでいけるようにする, というのも大事です.
もちろん私も含めて, 人間の心や意志なんて脆いことこの上ないので, 配慮の上に配慮を重ねなければ 長続きするようなことはできません.
manavee もトータルで見れば 継続性に難あり, という問題を抱えていたわけで, 事業の継続性は決定的に大事です.
続かなければそこに込められた 思いも途切れてしまうので.
あなたが単に数学や物理の勉強をしたい, というだけであっても manavee に書かれていたことは大事です.
この講座にはお年を召した方もいらっしゃいます. そうなると金銭面の問題から大学どころか 高校進学を諦めて中卒で社会に出た方もいらっしゃるかもしれません. もしかしたらあなたもそうかもしれません.
私の母も大学に行きたかったそうですが, 高卒で働き出していますし, 私の父は中卒です. 私自身も博士に行きたかったものの, 金銭面の問題から修士で社会に出ています.
金銭面の心配, 事務作業に代表される「よけいな作業」に わずらわされること, 「事業」の継続性などは誰が何をやるにしても立ち塞がる壁です.
私にしても, ふだんの会社員の仕事がなければ もっといろいろコンテンツ作れるし, サービスも立ち上げられるのに, と日々思っています.
有料サービス展開に向けて本格的に舵を 切りはじめたのはいい加減, こうした事情に本格的にメスを入れようと思ったからです.
あなたもぜひ自分なりに何か参考にしてみてください.
ではまたメールします.
Manavee サイトの記録の転載¶
manavee.comは、2017年3月31日を以って、サービスの運営を終了いたしました。 【利用者の皆様へ】
利用者の皆様には、ご不便をおかけして申し訳ありません。
授業動画は、Youtube上で引き続き掲載しており、利用できるものもございます。
しかし、授業動画を引き続き掲載するかどうかは、それぞれの先生の判断に委ねられておりますので、利用ができなくなる場合もございます。
どうぞご容赦ください。
NPO法人manavee代表理事 花房孟胤
【支援していただいた皆様へ】
本サービスについては、個人寄付、法人寄付をはじめとして、様々な形で応援していただきました。それは、本サービスの継続的な発展が期待されていたからであったと考えております。この度、manavee.comの運営を終了することで、そうした未来への可能性が閉ざされることになります。皆様の期待に応えられず、申し訳ありません。
【参加された先生の方々へ】
本サービスの運営は、先生として参加していただいた大変多くの方々の協力で成立しておりました。第一に、manaveeの活動に参加していただいてありがとうございました。第二に、本事業を通じて掲げていた目標を達成することができずに申し訳ありません。
授業動画の撮影は骨の折れる作業ですが、膨大な活動の積み重ねによって1万を超える授業をインターネットに公開することになりました。
活動の初期には、顔を出して授業を公開するということは一般的でなく、心理的な抵抗の強いことでありました。実際、アップロードした動画は、批判を受けたり、好ましくない自体を引き起こしたこともございました。こうしたリスクを一緒に背負って活動し、また実際に発生した多くの問題に対応していただき、ありがとうございました。
同時に、こうした先生方の膨大な労力の結集を、十分に活かしきれなかったことについて、情けなく思っております。すでにmanaveeという活動を終了する以上、manaveeの活動の枠内ではこの点について満足のいく責任のとり方ができません。重ねて申し訳ありません。
本活動とサービスは、先生方の想像もできないほどの膨大な労力なしには、利用価値のあるものにはなりませんでした。感謝の念に堪えません。
【経緯】
創業・運営・終了した者の責任として、これまでの経緯を整理した上で、反省点を以下に述べます。
<理解の前提>
manaveeは、社会的企業でした。社会的企業とは、利益の最大化を第一の目的とする代わりに、社会課題の解決、緩和を目的とする団体です。
社会課題として、例えば自然破壊など環境に関する課題、介護など医療に関する課題などいくつかに分類されています。そして我々は、教育に関する課題を取り扱う団体でした。より具体的には、「日本の大学受験における地理的・経済的格差」(2012年 - 2013年5月)、「日本の受験における地理的・経済的格差」(2013年6月 - 2014年5月)、「日本の教育における機会格差」(2014年5月以降)を解決する課題と定めて活動してきました。
<社会的企業の失敗>
社会的企業が失敗するのは、第一には課題が消滅すること、第二には、課題に対する解決策が有効でなくなることが挙げられます。第二の場合には、同じ課題に対して別の解決方針に変更することで、社会的企業として意義のある活動を継続することが可能です(ピボット)。manaveeは、第二の場合が当てはまり、課題を効果的に解決することができませんでした。また、ピボットについても失敗しました。
<解決の失敗>
manaveeの失敗について説明するとき、時間的な変化を考える必要があります。
2012年4月から2014年5月までの間は、キャンパス制度の失敗でした。「キャンパス」という大学生サークルを主にした団体を組織すること(キャンパス制度)で、授業動画の制作を試みました。この活動は、2013年の活動をピークにして限界を迎え、諸々の試行錯誤にもかかわらず、一定の規模以上に拡大したり、安定的に継続することができませんでした。
2014年5月、キャンパス制度の継続的な運営はできないと判断し、別の解決策を模索するため、事業部を立ち上げました。先に言うピボットを試みるためです。事業部では、manaveeに所属するメンバーの内的な動機をもとにプロジェクトチームを結成し、事業化を支援する形式をとりました。結果的には、大半のプロジェクトが途中で頓挫し、キャンパス制度とmanavee.comによる授業の制作、配信に代わる仕組みをつくることができませんでした。
2015年10月、団体として事業を立ち上げる能力、体力がないと判断し、事業部制度は失敗しました。manaveeはこの時点で、当初の解決策に次いで、新しい解決策を模索するピボットについても失敗しました。2015年10月から2016年6月まで、代替の解決方針を模索しましたが、manaveeの枠内で活動を継続する合理性がないと判断したため、manaveeという活動全体を失敗したと判断しました。
【反省点】
失敗した地点から本プロジェクトを振り返ることで、反省点を挙げて検討します。
第一の反省点は、活動開始当初に想定した法律関係にあります。具体的には、動画コンテンツの著作権が講義作成者の先生にあるという点です。manaveeは、Youtubeと同プラットフォーム上にて定められた方法でのみ使用するというように権利を限定する形で、先生方との法律関係を結びました。この背景には、当時大学生であった私のナイーブな良心があります。ボランティアで依頼するにもかかわらず、その上動画の著作権までmanaveeに所属するというのは公平でないと考えたため、上記のように自ら権利を制限する旨を明文化した経緯があります。
結果的には、その法律関係が原因となって、その後の発展の妨げとなりました。協業を持ちかけていただいた企業との連携が進まなかったり、動画コンテンツの新たな利用方法を試行錯誤すべき段階でも、先生方の逐次の承諾が原則となり、実務的に対応できなくなりました。さらには、manaveeの運営終了に際しても、いくつもの譲渡の相談があったにもかかわらず断念せざるを得ませんでした。動画コンテンツを有効に使うという点ではむしろ、著作権を一括してマナビー側に帰属させるべきでした。
第二の反省点は、manaveeにNPO法人格を与えたことです。manaveeの法人化の動きが始まったのは2013年です。当時、組織の拡大と知名度の向上にともなって、「ちゃんとした」組織になることが組織内では義務感のように感じられていました。その結果、「一般社団法人かNPO法人か」という二者択一のもと、NPO法人になるための手続を開始しました。判断に際しては、認定NPOになった際に寄付金が経費扱いになるという点がメリットとしてあげられていました。
法人化後は、次のような難点が表面化しました。はじめに、決算書類の作成や会員とのやりとりを始めとする継続的な経理・総務コストに貴重な人的資源を宛てざるを得なくなった点。次に、NPOの理念を後ろ盾にした保守的な意見が通りやすくなり、社内全体が保守化した点。第一の点は、NPO運営のみならず小規模法人の運営では一般的な課題であるため割愛します。
保守化の問題については、予見できずに悔やまれる点です。社会課題の解決というのは、元来、困難を伴うため、柔軟な発想と試行錯誤の繰り返しが必要になります。しかし、NPO法の立法趣旨がそもそも「市民活動の発展」にあるように、NPOにおける意思決定は多数決原理が原則です。実際、NPO法人化の後は、常識的で妥当な結論が支持され、一見して非常識な提案や奇抜な論理が受け入れづらくなる傾向が生まれました。実務的にも、1つ1つの意思決定を総会で後追いしたり、実現可能性の低いリスクの対応について時間を使う(いわゆるゼロリスク症候群)など、NPO法人を取得する果実がほとんどないままにコストと制約だけが増加する結果となりました。
結論としては、リーダーが責任と裁量を引き受けて一貫した意思決定をすることを目指していた我々の団体には、NPO法人は適しておりませんでした。
第三の反省点は、ある財団から補助金を頂いたことに起因する、無限に続くとも思われた事務コストを発生させたことです。
2013年末に同財団に申請したことがきっかけとなり、100万程度の補助金をいただきました。もともと、プロジェクトの採用担当者がmanaveeについて認知があり、アドバイスを受けて実際の利用用途とは異なる事業内容を申請したことが原因となり、監査の段階で問題が表面化しました。
同財団が申請時の書面通りの厳格な成果物を要求する一方、実際のプロジェクトは人員が変更になったり、プロジェクト内容の変更があったため、齟齬が生まれました。さらに、manavee内では継続的にバックオフィス業務に従事する人員がおらず、エビデンス作成にも多大な労力を要しました。
本件から得られた教訓は、紐付きのお金は大変面倒になりうるということです。社会課題を解決できると見込まれる人材ならば、労働時間の1割ほどを資金稼ぎに費やすだけでも十分な報酬を得られると思います。数千万程度の資金であれば、個人でやりくりする見込みも十分に立てられるため、余計なステークホルダーを介在させないという選択肢も妥当です。
100万という金額でも補助金を申請した背景には、マナビーの創業当時からビジネスモデルの脆弱さを指摘されていた危機感がありました。NPO法人格取得後には、創業者個人の持ち出しの状態を寄付と補助金によって解決するという道筋が想定されており、そこに向かってのアクションでした。
第二、第三の反省点には、主観的には共通した問題を見いだせます。すなわち、代表者として自分自身が正しいと考える解よりも、社会的な正しさを優先したことへの後悔です。私自身は、法人格の必要性や目指すべきビジネスモデルについて判断しきれていませんでした。自分で判断できなかったため、その場ではなんとなく正しいと思われた解をとりあえず選択してしまいました。このことが重大な悪影響を呼び込みました。
不透明な試行において道しるべとなるのは、結局のところ意思決定の一貫性であって、リーダーとしては常に自分が確信できる判断を貫くべきでした。社会的な正しさを窺って日和見をすることとは反対の考え方です。その観点から言って、とりあえず真っ当な組織を取り繕うためにNPO法人格の取得に手を出したことや、ビジネスモデルがないことを理由に組織の永続性を疑われた回答として補助金に申請しはじめたことは、間違いだったと言えます。
こうした日和見を許したのは、代表者として私自身の勉強不足と経験不足です。
法人格の問題であれば、民法を手にとって法人についての整理された考え方を学んだ上で判断すべきでした。資金の不安については、社会で自分の能力を換金する経験を積むことで、自分が使える金額感を育てておくべきでした。
社会課題は、その重要性にもかかわらず、現行の公的な制度や経済合理性の観点から見合わないために残されてきた課題であって、万人が納得する常識的なアプローチを積み重ねても、成功は見込めません。この度、manavee.comのサービスの停止だけでなく、manaveeの法人まで解散させる理由は、このようにもはや団体を自由な試行錯誤ができない環境にしてしまったためです。
【ご連絡】
必要がございましたら、以下のメールアドレスにまでご連絡ください。
communication.manavee@gmail.com
【注意】manavee.comについて、譲渡の相談を受けることがたびたびございますが、ソースコードについては特段の価値のあるものでなく譲渡する合理性が見いだせないこと、また動画コンテンツについては権利的な問題でmanaveeの判断で利用を許諾できないことなどを理由に、基本的にお断りすることになります。
2018-02-25 数学カフェに行ってきます/相転移プロダクション¶
明日というか今日 2/25, 数学カフェがあるので行ってきます. それについては最後に紹介します.
最初に何を書くかというと, おそらく同じ方からいくつか一斉に アンケート回答があったので, それをピックアップして答えておきます.
何とすさまじいことに 73 歳の方でした. アンケートで 60 オーバーの方がいることは 把握しているのですが, たぶん 3 人目くらいの 70 代の方です.
まず現代数学観光ツアー第 0 回アンケートから.
関数とは何だろうという本で関数解析とは複素解析で複素数を扱わない段階では関数解析とは言わないことと複素数を扱うのが本当の解析でそれで数学のいろいろな分野がいっぺんに見通しがよくなると読みました. とても楽しみです.
この本でしょうか.
- https://www.amazon.co.jp/dp/B00ZR7XQ0M
そしてこの本の著者, この人でしょうか.
- 関西学院大のページ
- http://sci-tech.ksc.kwansei.ac.jp/ja/modules/people1/index.php?id=2#HideshiYamane
教員紹介分を抜いてきましょう.
これまで研究して来たのは偏微分方程式論と複素解析の境界領域です。(1)複素解析を使って双曲型偏微分方程式の解の特異性について調べる(2)正則関数を係数とする複素領域の線型偏微分方程式の解がどこまで解析接続できるかを調べる(3)複素数の位相をもつ指数関数を用いて調和関数を積分表示する(4)数理物理に現れるパンルヴェ解析を参考にして、非線型偏微分方程式の特異解を構成する――というテーマを主に手がけて来ました。応用数理 (逆問題) に関する研究も多少はしています。 著書は『明解複素解析』『高校生のための逆引き微分積分』『関数とはなんだろう』『実例で学ぶ微積分知恵袋』の4冊があります。
複素数を扱うのが本当の解析というの, この人のただのポジショントークという感じがしますね.
物理や諸工学など, 実に限定しないと意味がない世界, 実係数での偏微分方程式論も正しく数学で, それも「本当の解析学」です.
私もバリバリの複素係数の関数解析ユーザですし, そういうスタンスの著者がいてもちろん 構いませんが, まあ人によるよね, という感じ.
そもそも人によっては $p$-進解析の人もいますし, こっちは「数学の王道」数論で出てくるので, こっちの方が多様な世界が 交錯する数学という感じもします.
- 現代数学や物理を勉強するときにこんなのがあったらいいのにな, というのがあれば教えてください: 記事 URL http://language-and-engineering.hatenablog.jp/entry/20140620/PDFLectureNotesOnUniversity
今後の学習案内として, 参考文献一覧は最後に紹介しています.
で, この手の文献の一覧の難しさを少し. まず真っ先に挙がるのは, 上の文献を読み進める難しさです.
一貫したスタンスで書かれたわけではなく, いろいろな著者がいろいろな理由で 書いた文献なので, 「これらを順番に読んでいけば無理なく 自然に数学を理解していける」 という形になっていないことです.
私は多くの人が独学で数学を勉強するのが大変な理由がここにあると思っています. そしていくつかの通信講座群でこれらの問題を解決するための手法を提案しているつもりです.
この講座は解析学の大きな姿を見せるのが目的で, 順序よく勉強するという方向はまたちょっと違うのですが.
ただ上のいろいろな文献をつまみぐいにも利点があります. それは著者のスタンスが色濃く出ることです. 教科書だと網羅性を意識するので, 端々に著者の個性が滲み出ることがあっても, 初学者がそれを認識するのが大変です.
よく Amazon レビューで数学をよく知る人が その本のいいところを紹介してくれています. しかし, 自分で読むときに実際にそういう 読み方ができるかというとなかなか難しいわけで.
独学の難しさはこうしたギャップを どう乗り越えていくかにあると思っています. モチベーションを上げるための 面白いトピックに触れ続けること, その一方で基礎的なことを 着実に積み上げること,
この 2 点をバランスよくこなすための サポートをするのがこの講座の目的です.
この講座単独だといろいろと微妙なので, 他の本や雑誌, 私の他の講座もいろいろ見てみて, 肌に合うものを探してください.
ここからは現代数学観光ツアー 第 1 回に関するアンケート回答.
- 面積と集合の関係がよくわからなかった. 面積を定義するのに連続無限でなく加算無限を使わなければいけないということを理解すればいいのかと思ったが
可算無限・非可算無限という言葉そのものが 集合論の言葉だ, というところです. 面積についてきちんと考えようと思うと, 必然的に集合論の言葉が必要になるという話です.
- もっとこうしてほしい, といった要望があれば教えてください: 先に集合論を説明してくれたほうが理解しやすかった.
集合論が必要になるモチベーションを先に語る, という構成で書いているので, この構成じたいは変えるつもりはありません.
講座に関して全体的に書き方にもっと工夫は必要で, それは何度も突っ込みを受けています.
これを書き直すというよりも 新しいのをどんどん作るつもりで考えています. 2018-02 時点でメインの通信講座があと半年から 1 年くらいで 終わるので, それが終わったら本腰を入れたいと思っています.
がんばらなければ.
次は中高数学駆け込み寺の第 3 回から.
$\alpha$ と $\beta$ が具体的に何を意味しているのかよくわかりません.
大雑把に言えば $\alpha$ は増加率, $\beta$ は減少率です.
とりあえず Wikipedia を引用しておきます.
- https://ja.wikipedia.org/wiki/ロジスティック方程式
この講座はロジスクティス方程式の細かい話をすることは意図していないというか, そもそも私にその能力がないのであまり深いところには突っ込めません.
この講座, いろいろなところで使われている微分方程式という道具を紹介し, それに必要な数学が何か, そしてそれがどんなところでどう使われているかを見ることが目的なので, 現象の説明に深入りすることが目的ではありません.
それに興味があれば, それぞれ個別に専門書があるので, それを見てほしい, そういう気持ちですし, それをやりたければきちんと数学をやるしかなく, そのための勉強のサポートをしようというところが目的なので.
いま, Twitter でちょっとだけ話題になった 物理数学 2.0 のネタを考えるために 幾何の再勉強中です.
まあどれだけ幾何わかってなかったの, という感じで疑問が死ぬほど出てきて 本当に困っています.
それもあって明日というか今日, 次の数学カフェに参加してきます.
- https://connpass.com/event/79382/
この講師の松本佳彦さん, Twitter で軽くやりとりしたこともあり, 1-2 回お会いしたこともあります. とても穏やかな人です.
いま見たら 5 名ほど空きがあったので, このメルマガでも案内しておけばよかった, と今さらながら思っています.
毎月やっているらしいので, 東京近郊の方は次回参加してみてはどうでしょうか? ちなみに毎回, この勉強回のための予習もやっているようで, そういうのに参加するのもいいと思います.
東京は本当にいい環境ですね. そしてこの環境が使えない人達のために, オンラインの環境を充実させなければならない, と決意を新たにしています.
あとちょっと思ったのですが, 私に会ってみたい, という方いらっしゃいますか?
数年前は早稲田とか慶應とか東大の 学生相手のセミナーとかよくやっていたのですが, 仕事なりコンテンツ作成で忙しくて全くやっていません.
要望があるならやってみてもいいかと思っています.
ちなみに前にやっていた講演やイベント一覧です.
- https://phasetr.com/blog/2015/08/06/講演・イベント/
DVD の元ネタにした京大遠征も もう 5 年前ですね.
ではまたメールします.
2018-02-15 「ラマヌジャンの級数を調べたい」/相転移プロダクション¶
件名のような質問を頂いて, それに対して回答するのに 1 時間くらいメール書いていて, せっかくなので共有しておきます.
その内容は最後に書いておくことにして, その他の連絡をしておきます.
この間, Twitterで次のようなツイートを見かけました.
- https://twitter.com/adastraperardva/status/960858534387712001
引用 物理はそろそろ特殊関数は縮小して、 物理数学2.0として多様体とか 微分幾何や代数の基礎や位相や測度の初歩を教えるべきだと思う
実は最近, 集中して取り組んでいる有料講座の 現代数学探険隊も関数解析の終盤に 差しかかってきて, 講座の当面の終着点に近づきつつあります.
構成を考えながら論理的に隙なく順序よく コンテンツを作るだけでも厳しいのに, 単純に書くのに時間と労力もかかり, 内容的な難しさも上がっているので かなり大変な状況になっています.
中高数学も塩梅がわからなくて 苦労しています.
そのへんの現実逃避も兼ねて, 仮題物理数学 2.0 として, 本当にふつうに物理をやるための数学の 準備的な感じでイントロを作ってみました.
- http://phasetr.com/members/myfiles/file/2018-02-15-225754.tmp.pdf
1 週間くらいまえに作った内容で, いまの時点で既に幾何方面への勉強と 練り込みが全然足りていないですし, 今の時点で既に講座の流れに不満もあります.
ただ, これはこれで参考になる人も いるだろうと思うので, 放流しておきます.
はやく物理もやりたい, と思いつつ, その前段階の数学で死ぬほど 時間を取られているのが現状です.
ちょっと書くつもりが大分長くなりました. 以下, 頂いた質問への回答です.
以下, 返信内容
なかなか難しい質問です. 最初, ちょっと悲しい感じの話をせざるを得ないのですが, 本などは後で紹介するので, 適当に流し読みしてください.
何が難しいかというと, 「調べる」というのが何をどこまで意図しているかによるからです. 下手なものを調べると現代数学の最奥にまで 突撃するので, 私の手にも負えません.
よりにもよってラマヌジャンとなると, フェルマーの最終定理並に「何が問題かはわかっても ちょっと詳しく調べようと思うと途端に破滅的に 難しくて手に負えない」タイプの話もあります.
級数, とにかく何かを無限個足しているだけなので, 上辺を知るだけなら簡単ですが, 解決が尋常ではないほど厳しいことが多いです.
まず単純に, 高校くらいの論理的厳密性で議論するなら, 数列のあとにすぐ級数の理論にいけばいいので, 適当に高校の数学の本を読んでもらえばいいでしょう.
どんな級数を想定しているかわからない (ラマヌジャンはよくわからない異常なことをたくさんしている) ので何とも言えませんが, ラマヌジャンがやったことからすると 高校レベルで調べられる級数には当然限界があります.
- https://ja.wikipedia.org/wiki/ラマヌジャン・ピーターソン予想
厳しいことで有名なラマヌジャンの仕事の 1 つです. これは数学界のノーベル賞と言われる フィールズ賞に関わる話で, おそらく taguchi さんの想像を遥かに越えるレベルで 尋常ではないレベルの数学が必要になります.
次のような話もあります.
- https://cluster.tokushima-u.ac.jp/cluster-list/cluster-list-all/92.html
数学に限らず魅力的なものは 破滅的に難しいことも多いので, 中高高校程度の勉強をいくら一所懸命やったところで, それらを理解するのにはほとんど何の役にも立ちません.
中高の数学それ自身に楽しみを見出せるなら別ですが, ラマヌジャンの仕事を知りたい, 調べてみたいというのなら中高の数学は頭に来るほど無価値です.
雰囲気を知って楽しみたいというならともかく, 調べてみたいというなら, 本腰を入れて数学をやる以外の方法はありません.
何も知らなくても見ていて楽しい プロスポーツなどと決定的に違う, 本当に嫌な話です.
何か素人めに見て楽しむ方法や, 軽く遊べる道があればいいのですが, なかなかそういうのが見つかっていないのが実情です.
級数の理論はいわゆる解析学なのですが, ラマヌジャンとなると整数論の香りづけも必要です. 私の知る限りでは 1 番論理的に寄り道なく その筋の数論と級数という話に辿りつけそうなのは 私が知る範囲では次の本です. (読んだことはありません.)
おそらく論理的には最短経路で 数論と級数の理論に辿りつけるでしょう. ゼータをはじめ, 数論的な級数もいろいろあるので, いくつかは何となく触れるようになるだろうとは思います. これを直接読みこなせるのなら.
純粋に数論と級数論というなら, まず通るべきはここまでに紹介した 2 つの道のどちらかでしょう. 中高の数学をあてもなく満遍なくやっていたところで 数論と級数論への理解が深まるわけではないので, 具体的に何をするかはちょっと考えないといけません.
広く解析学への知見を広める, という意味では私が作った次の二講座をお勧めします.
- https://phasetr.com/mrlp1/
- https://phasetr.com/mtlp1/
前者は中高レベルの数学がどこでどんなところに使われているか, という観点から微分方程式を議論しています.
後者はガチガチの大学数学です. 最初の方で級数の理論を扱っているといえば 扱っています.
いちおう私が作っている通信講座の一覧も張っておきます.
- https://phasetr.com/blog/2014/06/09/トップ固定記事:メルマガ・数学カフェ・その他/
数学に限りませんが, 理工系のネタを探すとき, 日本語文献に限定しない方がいいです. 英語に限ってもいいので海外の本まで視野に入れるべきです. 量とバリエーション, そして一般向けの本ということでいうなら, 質も高いものに出会える可能性があがります. 何のために学校で英語をやっているのか, という話でもあるので.
その他, 日本語でラマヌジャン周辺の数論に関して ある程度一般向けの本まで含めていえば, 黒川信重先生の本もいくつかあります.
- https://www.amazon.co.jp/s/ref=nb_sb_noss?__mk_ja_JP=カタカナ&url=search-alias=stripbooks&field-keywords=黒川信重&rh=n:465392,k:黒川信重
級数はともかく, 数論に関してはいろいろな一般向けの本もあるので, そういうのを読んでみるのもいいかもしれません.
有名なサイモン・シンの『フェルマーの最終定理』も 保型形式という適当な条件下で級数にもなる 数論的対象にまつわる人間ドラマを描いているので, まだ読んでいなければぜひ読んでみてください. これは文句なく面白いです.
- http://www.amazon.co.jp/gp/product/4102159711/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4102159711&linkCode=as2&tag=phasetr-22
ろくな答えが返せず申し訳ないのですが, 現状, 人類がアマチュア的に数学を楽しむ方法が あまり知られておらず, 数論関係の級数を調べる, というふうにネタを限定しまうと特に厳しくなります.
ラマヌジャン関係の数論と級数というところからは大きく離れますが, 最近, 大人向け中高数学の復習をする有料の通信講座の準備中で, そのモニター募集中です.
- https://m.phasetr.com/p/r/DoXk594g
かなり遠回りになるでしょうが, ご興味あればどうぞ. 今年中には書き溜めた分をある程度修正し, 実際に講座をはじめようと思っています.
ではまたメールします.