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2021

2021-12-31

数学・物理 2022年は例を計算し倒す/相転移プロダクション

今回のテーマ

年末年始の休暇に合わせてコンテンツを出すといって, 完全に年末になってしまいました. さらにいつもの土日に出せずにこんなタイミングです. 多少無理やりですが何とか年内に出せてよかったと思うことにします. コンテンツ案内は今回のラストに載せています.

式を含むこともよくあるため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • Wolfram Engine
  • AlbeverioとHoegh-Krohn
  • 公文と計算練習
  • 名誉の文化
  • 一般化への道
  • ENERGEIAで毎日計算
  • コンテンツ案内: 現代数学探険隊 いろいろな例と計算編

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

  • 今回のページ
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感想をください

「読んだよ」だけでもいいのでぜひ感想をください. メルマガを書く励みになります. 最近感想を頂く機会が増えてきたので素直に嬉しいです.

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ではまたメールします.

Wolfram Engine

先日プログラミングでの計算についてメルマガを書いたら, 「自分はこんなのを使っている」とWolfram Engineを教えてもらいました.

以前凝ったプログラムを書かずに簡単な文字計算や, 三次元を含めたグラフを描いてくれるサービスとしてWolframalphaを紹介したことがあります.

これも凄まじいサイトなので一つ紹介しておきます. 例えばトップページの「科学と技術」の「Physics」から遷移できる次のページが面白いです.

簡単なお絵描きをしたいだけならこれほど便利なサービスもそうありません.

この間書いたのは本格的なプログラミングに対する目標として, 数値計算・記号計算系のライブラリの理解を掲げる話はどうか, そして自分自身それをターゲットに勉強する話でした. かなり面倒ではあるものの, Webサービスを作るやらゲームを作る話よりよほど気合が入るテーマだからです.

それはそれとしてこれもきちんと中高生に紹介するべきなので, 備忘録込めて共有しました.

AlbeverioとHoegh-Krohn

Twitterで超準解析の話を時々魔法少女からリアクションをもらいます. 一つ論文を教えてもらったところ, AlbeverioとHoegh-Krohnの名前が出てきました. この人達は何者なのかと呟いたら次のコメントをもらいました.

AlbeverioとHoegh-Krohn、私の中では構成的場の量子論の人なのだが、超準解析的にはどういう人という認識なのだろうか。

Loebが超準解析を使った測度空間(Loeb測度空間)の構成を与え,Andersonがそれを使って確率解析への応用を始めた(Loeb?AndersonのBrown運動).AlbeverioとHoegh-Krohnはこの流れの上にあり,流体力学等の数理物理のモチベーションから超準確率解析の研究をやったひと,といった認識.

ありがとうございます。ごりごりの専門なので当然と言えば当然ですが、この人たちの仕事、前々から非常に気になっています。超準解析は小澤正直さんが量子測定などにも応用しているらしいので、もっときちんと遊びたい分野です。

超準解析も超準測度論に入ったところでいったん勉強停止中です.

ちなみに超準解析は非常に難しいです. 「超準解析をうまく使うと証明が短くなり簡略化される」話が有名です. これも魔法少女に教えてもらった話ですが, 竹内外史本になるように超準解析の基本構成は無視して公理的に進める取り組み方もあります.

しかしこの「うまく」が非常に曲者です. 超準宇宙のうち, 標準元(内的な元)と外的な元があり, 移行原理に関連して三つの集合族が出てきます. これをきちんと意識しつつ論理式を処理しないと簡単に破滅します. 詳しくは超準解析を勉強してもらうしかありませんが, これが本当に面倒です.

もう一つ大変なのが完備性の破壞です. 実数はただ一つの完備なアルキメデス順序体です. 超実数は実数の拡張概念ですが, 実数ではない存在にするために上記の性質がどこか壊れます. 特に壊れるのが完備性なのです. もちろん移行原理が通じる範囲では完備です.

この辺の繊細な使い分けが非常に大変なのが上のコメントで, そもそも完備性が破壞されるために関数解析で鍛えた感覚がいちいち止められてつらいのが第二点です. 実際, 超準ルベーグ積分論の主役は$*$-有限加法性です. このために慣れ親しんだ操作と直観がいちいち狂わされます.

私の大学院の指導教員でもある河東泰之先生は超準解析を使えるようですが, この何ともいえない感覚をどう処理しているのかとても気になっています. コンヌが作用素環にも超積などのアイデアを導入しているそうで, 自由確率論の文脈でも超積の言葉を聞いたことがあります. いま改めて作用素環と超準解析の話が気になっています.

公文と計算練習

来年の計画と密接に関係する話です.

公文公, 正論過ぎだろ.

ていねいに教えても, 力がつかないのはなぜ? 世間では, 「勉強ができるようになるには, ていねいに教えてもらうことが大切で, 先生の教え方が微に入り細をうがったものであれば成績が上がる」と思われているようですが, これは大きな誤解です. 学問は, 教わるだけでは身につかないのです. 公文公は各所で似たことを書いているけども、巧い説明を聞くよりも適度な問題で手を動かす方がずっと数学が身につくんだよな。 数学科が演習科目を伝統的に重視しているのもそのせい。

結局これよ。

創業者の公文公(くもんとおる)の思想が強烈すぎてヤバい。「何を教えるかではなく、何を教えないかが大切である」とか至高の名言感がある。

小学生の頃、「形式的な解き方を把握したらそれで良いではないか、ドリルは不要」と言って宿題をサボり、公文式を馬鹿にしていた。 しかし高校が厳しく、宿題をサボれずとにかく計算問題を解きまくる必要があり、計算機に徹した。 今、その時の「瞬時に得られる操作と計算結果」が支えになっている。 ほんとね、子どものころは何も考えずとにかく手を動かした方がいいよ。 公文式やっとけばよかったよほんとに… まあADHDでは集中してできなかっただろうけどね。

私も自分が教える立場になるまでは否定的だったんだけど、ゼミなんかで考えてる問題を微分積分や線形代数の単なる計算問題にまでようやく落とし込んだところでズッコケる学生さん達をたくさん見るうちに、程度の差こそあれ、アホみたいに計算練習しておくのは大事なんだなぁ、と思うようになった。

P85、森の未知さんが好きそうなことが書いてある。これ、最近プログラミングというかアルゴリズムの勉強をしようとしていてよく思う。何かプログラム書こうとして手が動かないし頭も動かない。よくできるプログラマーは事前調査や設計をしっかりやってから手を動かすみたいなのを見かけるが、あれは多分、その気になれば馬鹿みたいに手が動かせて片付けられる自信もあるからできるのだと思う。逆にとりあえず色々書いて遊んでから考えるとか何とか色々。私が数学何なりやるときも、頭動かす前にまず例を計算してみたりとか、逆に何か良い例がないか自体考えるとか色々やるが、まさにプログラミングでそれができない・していない。何せ素因数分解さえバグなくサクッとプログラム書ける自信がない。多分この辺なのだろうと目下非常に反省している。

計算力というと、京大の泉先生に対する河東先生の評を思い出す。「泉氏の特長はその類稀な計算力・剛腕にある」みたいなことを日本数学会の受賞の評価で書いていて、凄まじい計算を処理し切る剛腕の重要さを知った。

別の話として、幾何系の勉強をしていると痛感するが、基本的な計算でいちいちつまづく。計算をすらすらやり切れるだけのパワーがなく、同時に基本的な知識や定義も身についていないのを毎度痛感する。

いろいろな言い方や切り口はあります. 一つはやはり結城浩さんの数学ガールの言葉, 「例示は理解の試金石」でしょう. 具体例を出せるか, そして計算しきれるかは理解の試金石です. 解析学からすればハードな不等式処理という計算の完遂能力そのものが数学力であり, 数学の理解に直結しています. ホモロジー代数のような分野でもdiagram chasingに代表される広義の計算遂行能力は理解と直結しています.

プログラムを書くときでもプログラムを書き切るのは広義の計算力です. 特に解くべき問題をいろいろな制約の中で目的を到達できる精度で, 時間内に解き切るのは決定的に重要です. この辺の広義計算力涵養が私の来年の課題であり, 今回リリースするコンテンツです.

名誉の文化

面白かったので単純なメモです. 数学・プログラミング関連でも積読が溜まり続けていますが, この本も読書リストに突っ込んであります. 私がギリギリ何とか扱える範囲として, 数学・物理・プログラミング・語学と言っているだけで, 中高生に広く興味を持って遊び倒してほしいと思っている以上, 私も人文・社会学方面で広く遊び倒さないと嘘になってしまいます.

「復讐は何も生まないが、きっちり復讐する人間だという評判は将来の被害から私を守ってくれる。」というセリフは人間関係全てに通ずる金言だと思う。

これがあるために/これが必要な環境では,社会・文化レベルで,やられたらやりかえすタフで粗暴な「名誉の文化」が根付く, っていうのが,社会心理学や文化心理学で研究されています。 名誉の文化に関しては,この記事などどうぞ。 心理学ワールド 77号 特集 なめんなよ!社会・文化 環境が生み出す名誉と暴力 石井 敬子(神戸大学) | 日本心理学会

こちらも紹介。 アメリカ南部には,「なめんなよ」といった,侮辱に暴力的に応じる名誉の文化があることを多面的に論証した名著です。お勧めです。 名誉と暴力: アメリカ南部の文化と心理

ちなみに,名誉の文化は戦争とも関係しています。 一例として,タフな男らしさを重視する名誉の文化では,戦士を賞賛していて,集団間紛争が多いよ,っていう私の研究です。 こちらもどうぞーNawata, K. (2020). GPIR論文 "A glorious warrior in war: Cross-cultural evidence of honor culture, social rewards for warriors, and intergroup conflict"

一般化への道

これは今回リリースするコンテンツとも関係する話です.

コンテンツ、あとで一般化やより良い議論をする時にはきちんと参照をつけたほうがいいというのを実感する。

具体例と計算を大量に載せていますが, それがどこにどうつながるかまだ書き切れていません. この辺の整備も今後の課題です.

逆に一般論パートで具体例をきちんと書くのも大事です. これも今後さらに充実させます.

ENERGEIAで毎日計算

ENERGEIAは以前案内した「オンライン部活」のサービスです.

  • 数学和尚の数学かけこみ寺
  • https://energeia.app/club/36

2021-12にアプリ化したので, iPhone・Androidからさらにアクセスしやすくなりました. 来年からここで平日に自習会(もくもく会みたいなやつ?)を開こうと思っています. もしあなたが興味あれば, ぜひここに参加してください. いろいろなところで案内するのが面倒なので, 改めてここを使ってみる予定です.

コンテンツ案内: 現代数学探険隊 いろいろな例と計算編

ここまでいろいろ書いてきたように, 来年に向けての活動の布石として, 新たにコンテンツをリリースします.

詳しくは上記ページを参考にしてください. 案内ページがいま一つ練り切れていません. 購入にあたって何か疑問・質問があれば気軽に連絡をください. キャンペーン期間は年末・年始の休暇中にしようと思っていたのですが, リリース自体が年内ぎりぎりになってしまったので, 年始の一週間として2021-12-31~2022-01-08までをキャンペーン価格で提供します. それ以降は値上げするので, 興味がある方はいまのうちに買っておいてください.

来年は各方面から計算し倒す一年にしようと思っています. やろうやろうと思って2-3年は経ったテーマなので, 私自身楽しみです.

語学 2022年はアウトプット強化/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • 2022年の予定

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2022年の動き

12月はいろいろあってメルマガもろくに書けず, 勉強会もできずで散々でした. その分, 最低限のタスクを明確にし, それを確実に回すための準備をしないと駄目なことを実感しました.

私にとっての語学は物理・数学・プログラミングとも直結しています. これらについてはこのページの上の方にいろいろ書きました. 興味があればそれを見てもらうことにして, ここでは語学に特化して書きます.

語学では英語の強化が目標です. 特にライティングとスピーキングです. ライティングは既存のコンテンツの英語化の形で進めます. 世の会話教材などは本当に続かないのがわかったので, 本格的に自作します.

スピーキングについては積極的に会話するというより, ライティング教材をしっかり音読する方向です. 勉強会でも「音は物理である」と言っていますし, やはり実際に発音しないとわからないこともあります.

あと, 細かいことは考えられていないのですが, 勉強会をもっと発展させたいとは思っています. これは英語だけだと面白くないので, 今まで通り独・仏・羅あたりは絡めて遊びたいですね. 相対論のコンテンツも数学・物理系補足を整備する予定です.

数学・物理系と違ってこちらは大分手短になってしまいました. 来年はまた地道な単語比較・学習コンテンツも書いていく予定です.

2021-12-18

数学・物理 具体例で遊ぼう/相転移プロダクション

何かいろいろあって一月メルマガを書いていませんでした. 他にもいろいろ止めていたため今週から少しずつ復活させます.

今回のテーマ

式を含むこともよくあるため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • 超関数微分と超準解析
  • 「全ての概念はKan拡張である」ペーパーバック化
  • 「日本で少子化対策はなぜ失敗したのか」
  • 量子力学10講 補足ノート
  • 知らないふりゲーム
  • 熱力学学習への感想
  • アンケートへのコメント
  • 具体例で遊ぼう
  • 今回の宿題

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超関数微分と超準解析

魔法少女とのやり取りです.

超関数微分しろ

超準解析での(ふつうの関数のふつうの)微分、超関数微分をどの程度含んでいるのでしょうか。まだそこまで進みきっていないのですが、超準解析での関数は(一部?)超関数を含む、みたいなのを見かけた記憶があるので。

任意のSchwartz超関数がある超準的なC^∞関数(の積分作用素)で表せるという意味で,Schwartz超関数はぜんぶ含んでいます.普通の微分と超関数微分は「up to 積分」で一致する. あとColombeauの超関数環も超準的なC^∞関数(の同値類)として実現できる.その意味でColombeau超関数も含んでいる.

コロンボーの超関数を使って非線型偏微分方程式, 特にアインシュタイン方程式を考えるとかいう本があり, 非常に気になっています. 本をパラっと読んだだけであまり身についていないのですが, ネットで位相を定義していて, なかなかえげつない空間が出てきたのは覚えています.

超準解析も止めたままなので復活させたいところですが.

「全ての概念はKan拡張である」ペーパーバック化

特に圏論で有名で, 知っている人は知っているalg-d兄貴のサイトのPDFがペーパーバック化しました. 全部まとまって参照も丁寧になったそうで, これこそPDFでほしいですね. 有料でいいので.

「日本で少子化対策はなぜ失敗したのか」

Twitterで見かけて面白い記述があったPDfです. P.7から記述を一つ抜き出しておきます.

  • 日本における従来の調査、分析、政策提言の二つの問題点
    1. 欧米に固有の慣習や価値意識を、日本に当てはまるものとして前提にしたこと。
    2. 日本人に特徴的な慣習、価値意識を考慮しないこと。

いろいろなところに応用できる・すべき考え方なのでしょう. 数学には数学のお作法があり, 物理には物理のお作法があります. さらにプログラミングでも言語ごとのお作法があります. それぞれのお作法をきちんと考えないとやはり適切な形で勉強・実践できません.

紆余曲折あっていまJuliaをぶっちぎりでCommon Lispを勉強しています. やはりマクロをきちんと勉強しないといけないのだろうとか, いろいろな気分があります. ただディスパッチ関連でCommon Lisp・ClojureとJuliaに共通のお作法があるようで, そういう部分は非常に勉強になっています.

WindowsのEmacsとJuliaのelispの相性が悪いようで, vscodeでJuliaを書いた方がJuliaを書く上では遥かに便利です. EmacsとCommon Lisp・Clojureの相性がよく, 当面これらに浮気しているような部分もあります.

上で書いたお作法的にJuliaはvscodeで書く方がよいのだろうといったことなども思うPDFでした. きちんとマッチする道具を使うべきなのでしょう. 単純に広義文章を書くエディタとしてEmacsを手になじませすぎたので, vscodeでプログラムを書いて気持ちよくないです. 慣れればいいだろうと思いつつ, その腰が重くなっています.

量子力学10講 補足ノート

以前少し紹介した谷村省吾さんの本に関して補足ノートが出ました. きちんと読み切れていないのですが, 自分用のメモも兼ねて紹介しておきます.

知らないふりゲーム

よく私は「知らないふりゲーム」と言っていますが、最近勉強している代数や初等整数論では今まで「数」だとか「演算」だとか素朴に考えてきたものを一旦取っ払う必要性があり、ここが結構大学数学を学ぶうえで初学者がしんどいところなんじゃないかと思っています. 例えば群論では、初歩的な定理として「単位元の一意性」がありますが、群の定義を学ぶ段階で「単位元は掛け算でいう1のようなもの」といった理解だけでは、証明で「その"1のようなもの"が2つ以上ある」と仮定するのすらも結構頭がこんがらがるんです(私だけかもですが). 必ずどこかで今まで慣れ親しんできた概念から離れてより抽象化する必要があり、それが「知らないふりゲーム」と言っているところのお気持ちです. 最小限の公理から整数の性質を示していく初等整数論も同様. (d|m, m|n⇒d|nとか直感的には当たり前だが、示すとなるときちんと定義に沿わなければならない)

これとはまた少し違うものの, 次のような工夫も大事です.

  • よくわからないこともとりあえず認めて先に進む.
  • 具体例をたくさん知る・作る.
  • たくさん具体的な計算をする.

後ろ二つは幾何で日々実感しています. 私が幾何で苦しんでいる理由がまさに後ろ二者です.

熱力学学習への感想

以前も紹介したような気がしますが, 大事な内容なので改めて紹介します.

熱力学の難しさの一端は、他で鍛えて来た微分方程式の議論が全く使えないところにもある。極論、計算で議論が組めないと言ってもいいのだろう。あくまで物理、自然科学なので論理というわけでもなく、よくわからないが何故かそう、という経験事実に依拠しなければいけない。続 もちろん、力学でも何でも何故かこの現象はこの方程式に従う、という経験事実とそれに対する諦めはあったとはいえ、いわば数学的な装いと難しさに押されて物理に向き合いづらかったともいえるのだろう。物理の勉強なのか数学の勉強なのかいい意味でわかりづらかった。 その一方、熱力学は数学的なハードルがもはやかなり低くなっていて、直接的に物理に向き合えるし、向きわざるを得なくもなる。しかも使い慣れた数学的道具も使えない。その辺の巨大なギャップが厳しいとは思う。 あと、熱力学の数学的厳しさでよく聞くのが記号的にもわけのわからない偏微分の計算とかいう単純な記号運用上の話だったりするし、教科書書く人間はやる気あるのかとはよく思う。その非本質的な部分で悩む人が多く、過去自分もそうだったといっておきながら再生産する者がいる度し難さは許しがたい。

今年のノーベル賞に関連してパリージの場の理論の本がよいという話が出ていました. 目次を眺めたらイジングや統計力学と関係する話がたくさん盛り込まれているようで, 非常に面白そうな本です. 量子力学と合わせて, 熱力学・統計力学も改めて勉強し直したい分野です.

ちなみに原・田崎のイジング本も査読に参加して本に名前に載せてもらったくらい読み込んだものの, まだまだ血肉になっているとは言い難いです. これもパリージの場の理論の本と関係ある議論ですし, 再挑戦したい本です.

アンケートへのコメント

  • 数学史から入るやり方には関心があり、高瀬正仁氏の本を読んでみようと思います
  • 圧倒的偉人たちの列伝みたいな数学史はそれはそれで面白いですが、そういう過去の蓄積の上で現在があるということが地味に理解できるような本も読んでみたい

「今では一般化・抽象化されきって捉えどころのない概念も, 明確なモチベーションと具体例のもとに生まれていて, 発見当初の議論の方がわかりやすいことも多いのです. そしてその概念にどんな意義があるのか, 何を見えるようにしたのかは歴史を通じてようやくわかるからです.」 →この「具体例」に出会えるかどうかも運なのかなと思います。昨今どうしてもインターネットの構造やそこでの活動、デジタルなデータなどに目が行きがちですが、個人的にはそれだけでなく、もっと自然を観察したり人と話したりしたいという気持ちもあります

このページにも語学メルマガの内容を載せています. これは語学のある側面から数学・物理・プログラミング, 少なくともそれと共通する思考を身につけられないかと思って取り組んでいる内容です. プログラミングの勉強をしていると, 特に人によって何を楽しいと思うかが違うことを実感します. プログラミングでは「何か作るといい」とは言うものの, 私は何かアプリケーションを作るのには興味が持てません. ゲーム作成などもよくあるシューティングゲームなどにはそこまで興味が持てません. しかし数学・物理関連ならいくらでも遊べます. プログラミングはプログラミングは言語の話題なので, そうした視点からも何か遊べないかとのたうち回っています.

具体例で遊ぼう

量子力学のための線型代数とリー環系をいま整備しています. 線型代数, 特に二次正方行列は連立一次方程式から入れるので, 中学数学から無理やり突撃する対象として最近注目しています. 量子情報と関わる議論や堀田量子系の最近の量子力学でも二次正方行列で基本的な手法が身につけられますし, テンソル積としての四次正方行列まで行けばベルの不等式に挑めます.

幾何との絡みでリー群とその具体的な計算をゴリゴリ進めていました. そこで改めてリー環と合わせて勉強しています. 二次正方行列には複素数も埋め込まれていれば, 四元数も埋め込めます. さらに計算中心にリー群・リー環の面白い議論にも進めるので, 改めて勉強しつつ, 二次正方行列で遊び倒す・計算し倒す演習系コンテンツを整備しています. 年末・年始, そして来年の目標作りにもしてもらうべく, リリースの準備を急ピッチで進めています. 私自身の来年への布石でもあります.

最近リー群・リー環を勉強していて, 指数・対数の行列に関わる議論も割と面倒, もしくは面白い話題がたくさんあることを改めて気付いています. 例えば行列レベルで$\exp \circ \log A = A$を証明するのは割と面倒です. 特にテイラー展開で行列の指数・対数関数を定義したとき, この関係式を証明するにはある程度計算力が必要です. 実際にリー群の本を読んでいたら, これを実変数の関係式に帰着させて証明していました. それだと気に食わないので改めて級数展開と組み合わせでがんばって証明しようと思っています. これも計算系コンテンツに盛り込みたいところ. 計算系のコンテンツはもっと充実させたいですね.

計算と言えばプログラミングとのセットが重要です. JuliaまたはPythonでちょろっと計算させています. SymPyで厳密な計算また文字計算ができ, これが非常に役に立っています. 特に三次行列程度でもかなり面倒です. リー環をやっていると, もとが2-3次でも6-8次程度の行列も出てきてしまうので, プログラムを書いて計算させるご利益が増します.

数値計算的なところは機械学習などでいろいろなコンテンツがあります. しかし比較的低次で, リー群・リー環などと数式処理的なプログラミングと絡めたコンテンツはあまり見かけない (少なくともこの分野の素人である私には簡単に見つけられない)ため, がんばって自作しています.

先月程度まで一所懸命やっていたClojureでのsicmutilsは行列計算もあるようなので, マクロなどLisp系の学習も兼ねていっそもっとこれに注力する手もあるなと思っています. やりたいことがあまりにも多いです. 逆にやりたいことが多すぎて迷走しているくらいなので, もっと一点集中すべきな気もします.

今回の宿題

改めて問題演習系コンテンツを作ろうと思っているので, 試しにメルマガでも宿題を出してみます. 位相空間論の問題です. 要望が多ければ次回解答をつけるので, 興味があればぜひアンケートなり何なりで要望を挙げてください.

連続写像$f \colon X \to Y$と$X$のコンパクト集合$K_X$を取ります. 位相空間の一般論によって$f(K_X)$はコンパクトです. 逆に$K_Y \subset Y$がコンパクトなとき, $f^{-1}(K_Y)$はコンパクトでしょうか? 正しければ証明を, 間違っていれば反例を挙げてください.

このくらいの内容であっても, 位相空間論を勉強したてだと全くわからない人もいるでしょう. 一般論や命題の証明を考えるときにも具体例をさっと思いつけるかはとても大事ですし, そもそも一般論を理解する上でも適切な具体例の構成が重要です. その定理の典型的なカバー対象という概念さえあります. この辺もカバーするコンテンツが必要ですね.

語学 ポケモンと言語学/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

ここ最近メルマガも出せていませんでしたが, いろいろあって勉強会もありませんでした.

  • ポケモンと言語学
  • ドイツ語で遊ぼう
  • フランス語で遊ぼう

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  • 今回のページ
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ポケモンと言語学

まだ読み切れていないのですが, 面白そうな文献が紹介されていたので紹介しておきます.

『ポケモンの名付けにおける母音と有声阻害音の効果』という最高の論文を見つけてしまった。

ドイツ語で遊ぼう

以前書いたか忘れたので念のため書いておくと, この単語はドイツ語の頻度辞書の順番で書いています. 代名詞などいまの私にとって突っ込みづらい単語は省いています.

als

Wiktionaryによると古高ドイツ語also, alsō (as, like)に由来します. 英語のasもいろいろな用法があるようにドイツ語でもいろいろ意味・用法があります. when, while, asのようなところから, then, like (as), as if, butのような意味まであります.

wie

副詞としてhow, 接続詞としてasのような意味がある単語です.

基本的にドイツ語の方が古いので, 何故wieがhowになるかという話があります. まずWiktionaryによるとwieは中高ドイツ語wieに由来します. 他には二つの相互に関係がある形の単語への由来もあります. 一つは古高ドイツ語hwio, さらに古い形のhwēo, そしてゲルマン祖語の*hwaiwaです. もう一つは古高ドイツ語hwē, hwie, ゲルマン祖語*hwēです. 後者はゲルマン祖語*hwīの変種で, 英語のwhyやさらに古い具格の*hwaz, *hwat ("who, what")に由来します.

これを見るとわかる通り, wieはhwの単語に由来します. 英語でもwhatを「ホワット」のように最初にhの発音がある場合があります. なぜhがあるかと言えば上のような古い形がhwだからです. スペルが変わったにも関わらず発音に古い形が残っている面白い単語, または単語の系列です.

私達理工系は文献読解が主でスピーキングや発音を軽視しがちですが, 決して発音を馬鹿にしてはいけません. 発音にも理解のためのいろいろな鍵や歴史が潜んでいるからです. 実際wh-cluster reductionという現象があると聞いています.

フランス語で遊ぼう

rendre

基本的な意味の「返す・戻す」以外では直接目的語に置かれた人を形容詞の状態にする使い方で, 英語での第五文型のような使い方です. この用法ではよくモノが主語になります.

  • Cette histoire la rendra heureuse.

代名動詞のse rendreの意味は「---へ向かう・赴く」です.

Wiktionaryによると古フランス語rendre, 俗ラテン語*rendō, ラテン語reddōに由来します. ラテン語reddoはre-+dō ("give", donner)に分解できます. このdonnerはもちろん英語のドナーと同根です. フランス語, そして背後にあるラテン語を少し掘ると英語に出くわします. このチャンポン言語としての英語を知っておくと, それだけでも知識が広がります.

何度も言っているように, もしあなたが英語にしか興味がなくても, こうした基本単語だけでも多言語に触れておくと英語の勉強にもなります. ぜひあなた自身でもたくさん遊び倒してください. そして面白い知識や本などあればぜひ教えてください.

2021-11-13

数学・物理 微分幾何プログラムは一段落?/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むこともよくあるため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • 整数からの実数の構成
  • Function Differential Geometryとsicmutils
  • 量子力学の基礎

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整数からの実数の構成

以前紹介したかもしれませんが再びツイートを見かけたので再紹介します. 前回きちんと読み込んで内容を紹介しようと思っていたものの, 時間が取れませんでした.

前も紹介したけど、数学科の学生に実数の構成を教える際にオススメの流儀の一つがこの方法。 なんと、有理数を経由せずに整数からいきなり実数を構成できる。

[math/0301015] A natural construction for the real numbers

有理数から距離を使って実数を構成するのが現在標準的な方法だが、それと同じく同値関係は用いるので、同値関係に習熟している必要はある。

Function Differential Geometryとsicmutils

ここしばらくsicmutilsを使ったFunctional Differential Geometryの実装確認を進めていて, ようやく一段落しました. 残課題はまだあってしかもSussmanへの問い合わせが必要でさえあるようです. とはいえテストがなかったChapter 10-11にもテストが入りました.

まだプログラムを追いかけただけで, これから本の中身は全く追いかけられていません. それでもまずはテストを読んで実装, 特にClojureのお作法を改めて確認するのが先決です.

これが終わったらいい加減アルゴリズムの勉強に戻ります. この数ヶ月でかなりLisp系の言語の読み書きに大分慣れました. せっかくなのでもう少し詰めたいですね. アルゴリズムもHaskellと並行してClojureでも書いてみようと思っています.

もともとsicmutilsはSICPの古典力学版でもある(らしい)SICM用のライブラリなので, いっそSICM読んでみるのもありなのかもしれません.

量子力学の基礎

現代数学探険隊では構成上, 線型代数の基本的な議論が散在しているため, それをきちんとまとめた章を作ろうとは前から思っています. 最近は量子力学でも有限次元の量子力学, 特に量子情報・量子測定的な議論が非常に重要になっているそうなので, それと絡めて私自身再勉強しつつ整理し直す方向で進めています.

これもやはりプログラミング利用の計算もセットにしたいと思っていて, 検算も兼ねてちょこちょことJuliaでのプログラムも作っています.

まだ量子情報の面白さが何もわかっていません. 一方で量子測定は前から非常に興味があり, かつ面白いです. これは小澤正直さんの文献があり, すぐに「数学」の話に持っていけるからなのだろうと考えています. 量子情報だと情報の話の比重が重過ぎて「早く数学(線型代数)に入れ」と思っているような気がします. もっと言えば情報理論の面白さもわかっていないのでしょう.

とはいえ, 量子力学・物理からしても量子情報は根源的に大事という話になっているそうですし, 歯を喰いしばって勉強を進めています. コンテンツ整備も兼ねてNielsen-Chuangの解答を作るために読み進める体で, Nielsen-Chuangを読んでいます. 演習問題を見ているとこれもきちんと具体的な計算が必要だ, と思うところがよく出てくるので, それらも計算問題として自分のメモに突っ込んでいます.

ちなみに量子情報では抽象的なテンソル積が本質的に重要です. 量子情報としてはディラックのブラケット記法で吸収できてしまう面があるとはいえ, 「テンソルなんて相対論系の添字だけ計算するスタイルでやれればいい」といった態度がもはや通じなくなっているのは時代の変化を感じます.

ついでに言えば古典情報理論はなかなかすさまじく, 有限体$\mathbb{F}_2$上の線型空間も出てきます. 量子情報の比較対象として有限体上の線型空間の議論も必要なので, 数学サイドとしては線型代数の抽象論の導入に使えるネタが増えて便利な世の中になっているように思います.

符号理論は現代数学観光ツアーで一つ節を割いてコンテンツを作っているので, 興味があれば読んでみてください.

有限体上では実数・複素数のような形では内積・ノルムが定義できません. しかし情報理論的に自然な意味を持つ距離としてハミング距離が定義できます. これも符号理論の面白いところです.

符号理論と言えば代数幾何が応用される分野としても有名です. 量子暗号と比較する対象として古典暗号があり, ここでも代数幾何・数論が出てくるため, 純粋な数学・暴力的な量の計算・プログラミングでの実現などいろいろな分野が交錯します. 量子情報と言われるとまだ面白さは見えず, 単に情報理論と言われても同じであるものの, 自分が興味関心を持てる点も見えているので, これを上手く絡めてコンテンツを作れないかはずっと考えています.

語学 英語学習と数学・物理・プログラミング/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

今週は勉強会がありませんでした. プログラミング関係の現実的な要請もあり, ここ最近は英作文・スピーキング・音読練習をがんばっていて, 他の言語の探求がだいぶ疎かになっています. せめてここくらいは何とかしようと思ってやっています.

どうせならやろうと思いつつ全くできていないロシア語・中国語・アラビア語あたりをやった方がいいかとも思っています. どれも広い意味で理工系ネタで遊ぶなら大事な言語だと思っています. アラビア語はアラビア文字自体も勉強しないといけません. やりたいことは山程あるのですが, まずはサボり倒していた英語をもっとやらないといけない感じが出てきたので, しばらく英語をがんばります.

  • ドイツ語で遊ぼう
  • フランス語で遊ぼう
  • 英語学習と数学・物理

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  • 今回のページ
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ドイツ語で遊ぼう

基本的に語源や関連語はWiktionaryとDWDSで調べています.

mit

これは前置詞で意味としては英語のwithにあたり, 英語のmidと同根です. 「生徒たちと(議論する)」のように相手を表す他, 「バスで(行く)」のように「手段」を表す用法もあります.

もちろん英語のmidは「真ん中」のような意味です. 手段の意味は媒介物としての「真ん中」なのでしょうし, 相手の意味の用法は自分と相手で一体という意味なのでしょう.

ちなみにwithはwithは印欧祖語・ゲルマン祖語から来ている言葉で, ドイツ語内部でもwider (against), wieder (again)と関係があります. 中英語でoppositionからassociationに意味が変わり, これがゲルマン語の古い形に由来するmidを置き換えたようです. 確かに古い形を残すドイツ語ではwiderがagainstの意味で, 本当にoppositionの意味が残っています.

調べてもまだピンと来ていないものの, againとagainstの違いがよくわかっておらず, もう少し突っ込んで調べたいと思っています. ちなみにWiktionaryいわく, この-stはamong->amongst, mid->midst, while->whilstの-stと同じ-stのようです.

auch

これは英語のalso, tooにあたる副詞です. これもゲルマン祖語に由来する単語で, オランダ語やルクセンブルク語, スウェーデン語, アイスランド語などにも同根の単語があります.

古い英語でもekeという単語があり, これと同根のようです. chとkの類似は見えます. やはり古い英語を追いかけるとドイツ語と英語の共通点が見えます. ちなみにドイツ語でのalsoはso, thusといった意味があります.

können

これは助動詞で英語でいうcanです. ゲルマン祖語・印欧祖語に由来する言葉で, 印欧祖語の*ǵneh₃-はknowにあたる言葉とのこと.

知ることとできること, 可能性がつながるというのも示唆的です. フランス語で「知る」にあたる単語はsavoirとconnaîtreがあります. 後者はいわゆるコネです. 意味・用法の違いにはついてはいろいろなところに解説があり, 例えばここを見てください. またconnaîtreはcognitionなどの語源であるラテン語cognōscereに由来します. さらにsavoirは「学んで身につけている」という意味での「できる」の意味・用法があり, pouvoirとの使い分けが基本的で重要でこれもいろいろなところに書いてあります. 例えばここを見てください.

さてkönnenに戻りましょう. 印欧祖語でgneとあるところで思い出してほしいのが, キリスト教の宗教関係の言葉であり, ゲームなどでも良く出てくるグノーシスです. これはギリシャ語で「知識, 認識」といった意味があります. ギリシャ語にもはねる面白い言葉で, 印欧祖語はもっと掘りたいとずっと思っていて, そもそもどこからどう攻めればいいかわかっていない領域です.

フランス語で遊ぼう

donner

この単語の基本的な意味は「与える」です. 英語または日本語の「ドナー」を考えればすぐに覚えられるでしょう.

英語のgiveまたは日本語の「与える」から想像されるように, シンプルに「モノを与える」意味もあれば, «Il donne l'impression d'être fatigué.»で「疲れている印象を与える->彼は疲れているようだ」のような表現もあります. 前置詞surと一緒に使うと「---に面している」という意味になります.

  • Ma chambre donne sur la mer.

このsurはsurfaceなどのsurでsuperとつながる意味があります.

英語学習と数学・物理・プログラミング

数学・物理系メルマガでも書いたように, プログラミングに関するやりとりであってごく限定的ではあるものの, やはりもっと流暢に英語を使えるようにならないと時間がかかって仕方ない状況が本当に出てきました.

中学レベルの一般的な英作文・スピーキングの勉強もしていましたが, いったんそれよりも量子力学基礎の勉強も兼ねて, 量子情報・量子測定系の文献を和訳・英訳で例文を作って進めています. 日本語の文章が長いとさっと作文・スピーキングできないので, もとにした日本語・英語自体も短めに書き直しつつ, 読んでいる本の翻訳の体で例文集を作っています.

中学レベルの一般的な短い文, 理工系の完全に型にはまった文の両方が口をついて出るようにするのが当面の目標です. 多少時間をかけてよければ英作文では困りません. しかし即出るかどうかが大事でこれがいまの課題です.

2021-11-06

数学・物理 プログラミングと数学で語学は大事だった/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むこともよくあるため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • アンケートへの回答: ヤコビアンとは何か
  • 位相群の定義
  • 数学における「自明」の意味
  • ベルの不等式とエンタングルメント
  • 定理・定義・理論の類似と近さ概念
  • 関数空間
  • sicmutilsでバグ発見に貢献

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  • 今回のページ
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アンケートへの回答: ヤコビアンとは何か

現代数学観光ツアーへの衝撃のコメントがあったので回答します.

辞書を引いたりしたがヤコビアンが何なのかがいまいちわからない。

もちろん岩波数学入門辞典などもあるとはいえ, ふつうの人が「辞書」と言ってこれらの数学辞書を指すとも思えません. ふつうの辞書は数学用語を調べるためには出来ていないので意味がありません. よく間違いが多いと言われはしますが, まだWikipediaの方が役に立つでしょう.

よく言われる中で一番直観的なのは変数変換での体積の変化比で, 上記Wikipediaにも書いてあります. ただ, これにしても具体的な座標変換で計算してみて実感しないとピンと来ないはずです. 二次元でも十分で, もっと言えば一次元でもいいとはいえ, 何をどう具体的に計算すればその気分が掴めるかは人によります. 何がピンと来る例になってくれるかが人によるとも言えます. もっと言えばある例が適切な例であることを認識するために一定の「レベル」が必要です.

何にせよ, 数学用語を(ふつうの)辞書で調べても意味はないのでやめましょう. あくまで数学の概念なので数学の本または数学辞典で確認すべきです. 数学辞典ならともかく, どの分野のどんな本に定義が書いてあるかわからないこともあるでしょう. 現代数学探険隊は一冊の「本」にいろいろな分野を詰め込んだため, 作っているうちにそうした辞書的な使い方もできると気付いたので, 案内ページにも書いてあります. 安くないので簡単にはお勧めできないのが難点ですが.

こういうのも言わないと通じないらしいというのが今回の衝撃ポイントでした.

位相群の定義

言われてみればという感じで気付いていなかったので, 自分用の備忘録も兼ねてTwitterのやりとりを引用します.

なんかめちゃくちゃ混乱してきた。逆に完全不連結なものも位相群と呼んだら、位相群でない群ってなに?という気がしてきますね。(群であり位相構造の入らないもの)

付加構造の考え方で混乱しているかもしれませんね。

厳密には ・位相空間は「位相の入る集合」ではなく「集合と開集合系の順序対」 ・群は「群演算の入る集合」ではなく「集合と群演算の順序対」 と定義されるのと同様に、 ・位相群は「位相の入る群」ではなく「群と位相の順序対」 と定義されます。 なので群は(群と位相の順序対でないので)位相群ではありませんし、位相群も厳密には群ではないです。ただ ・直線Rとその加法+の組(R,+) ・(R,+)とユークリッド位相τの組((R,+),τ) を全部Rと略記するのと同様に、位相群(G,O)も第1成分である群Gと同一視することで位相群を群とみなします。 こうやって「位相群を群とみなす」のは第1成分を取り出す(第2成分を忘却する)だけなのであまり問題が置きないのですが、逆向き(群を位相群とみなす)はみなし方を固定するごとにしか意味を持たず、それをしないと「群はいつ位相群か?」という問いが意味を持たない感じです。

数学における「自明」の意味

参考になる人もいるでしょうからシェアしておきます.

ベルの不等式とエンタングルメント

いままさに勉強中のところでよくわかっていないところだったのでメモ・シェアです. わかっている人にはいまさらなのでしょう.

このあたり, 私はまだ理解しきれておらず今まさに再勉強中です.

メインツリー

ベルの不等式(の破れ)の理論とエンタングルメント、基本的に別の話なのは、勉強している人には常識で、ちょっと言葉だけ知ってる勢は弁別してない。 一般向けの本で「エンタングルメントの発見!」とか大字が踊ってて、中を見るとベルの不等式の話でした。。。というのはありがち 物理学者でも、結構この辺はてきとうだったりする。ベルの不等式破らないエンタングル状態もあるけど、そういうのは両者の定義が同じだったら、起こり得ないよね。 例えば、アインシュタインはエンタングルメントを!っていうのはきっとEPRの思考実験のことだろうけど、あれに繋がるのはベルの不等式の破れの方だと思う。。。 シュレーディンガーはエンタングルメントという言葉を使ってた!というのはきっと正しいんでしょうけど、言葉が同じだからなに?という感想。 もちろん、(Efの意味での)エンタングルメントがないとベルの不等式は破れない。直感的にも見るからに関係ありそう。なので、両者をどう関係づけようか皆考えているが、悩ましい話題だということ。 例えば、抽出エンタングルメントがゼロだけれども、ベルの不等式を最大限破る状態もあります。

補足

エンタングルしててもベルの不等式破れるとは限らないけど、ベルの不等式破れるにはエンタングルしてないといけない(んだったよね?) はい。それはおっしゃる通りです。ですから、両者に何か関係があるとは皆思うわけですが、部分的な成果はあるけれど、悩ましい問題として残っています。 そもそも、ベルの不等式は量子力学すら仮定していませんから、理論の作りが全然違って、両者の理論はかなり異質です。

定理・定義・理論の類似と近さ概念

Twitterで絡んだような形になってしまって申し訳なかったのですが, 面白かったのでシェアします.

大元のツイート

ルベーグ積分って何をもって理解したと言っていいのかわからん。具体的な計算はリーマン積分を使うはずなので、関数空間とかを決めて測度論的な議論、証明に使えれば最低限の理解と言っていいのかな?

最低限は、とりあえずは用語に怯えずに、積分はリーマンで計算するのと同じ、測度は体積、と思って論文を読み進めることができること。。じゃないですかねー その次は、フビニの定理の主張を理解すること(証明はともかく) その次が、ルベーグの優収束定理とその前後を押さえること。できるかぎり証明含めて。(実解析に限ると、リーマン積分よりそんな主張が強くなるわけではないが、どうせ忘れてる人が多いとおもう。。。)

私の反応とやり取り

数学だと実解析はバリバリにルベーグ前提で議論する分野だと思うので数学人と違う言葉遣いをしていそうな雰囲気を感じる。

そりゃそうでしょ。ここで指摘したのは、リーマン積分でもほぼルベーグの収束定理に近い定理がなりたつし、教養レベルの教科書にも書いてあるということ。

「ほぼ近い」で指す内容が全く噛み合わないミスコミュニケーションが起きている、という感想です。 類似の定理と言われればそれはそう、と思うが、近くはないのでは?という言語感覚がある。

工学などへの応用が念頭にあるので、関数はリーマン積分可能かつルベーグ積分可能な関数に制限し、測度はルベーグ測度で、測度ゼロの点については良きにはからえ、ということで。 類似かどうかは、そういう局面での極限の入れ替えをするにあたって、より強力な技を供給してくれるか、という視点です。

数学での事例・ツリー

緩募 類似の定理・定義・概念だが近くはないモノ。なかなか伝わらなさそうだが例:フォンノイマン環上の正規状態に対して単調収束定理が成り立つ(実際は正規状態の定義、非可換積分論)だが、普通のルベーグ積分と近いか?と言われるとそういう話ではない気分。 もう一つの例:非可換幾何。可換C^環に対してコンパクトハウスドルフ空間上の連続関数環が存在する。非可換なC^環に対しても類似の議論をすることで「非可換な空間」を構成・想定する。類似の議論ではあるが「近い」が何をどう指すのかがそもそもわからない。 ABC予想の多項式類似があったか。類似だがあまり近くはないのではと思うが、数論勢はどう思うのだろうか。

ABC予想に限らず、数論だと数と(特に有限体上の)多項式の類似性をもとに様々な対象がしばしば研究されていますが、似てたり似てなかったりするので(だから面白いわけですが)、近いかと言われると微妙です

この類似と遠近感、多分他の分野にもあってそこが擦り合わないのは常にコミュケーションの障害なのだろう感があります。極端にいえば物理的正当化はともかく古典力学と量子力学は正準交換関係の点で類似といえば類似の構造を持つものの似ているかといえば全然似ていない判定でしょう。 数学でもこれに触発された非可換化・量子化は適当な(それもある程度広範な)分野でよく話題になっていると思いますし、q類似のようにまさに類似という言葉も使いますが、近いかというとそうではなく、類似なのに遠いのが面白ポイントでさえあると思っています。

関数空間

ひどい勘違いをしてはじめ解析関数を含む集合をピックアップしてしまいました. 注意して読んでください. 鍵アカウントとのやりとりなので適当に抜粋します.

実解析的関数に含まれる面白い部分空間は何かあるか? $L^p$はどうなのか?

まずは連続関数環があります。非コンパクト集合上では実解析的でも有界(特に可積分)とは限らないので、必ずしもL^pは含みません。コンパクト集合上(またはそこへの制限)なら連続関数の有界性と有界収束定理によって可積分でL^pを含みます。 「含みます」ではなく「$L^p$に含まれます」でした。

コンパクト集合上だと実解析的なら連続で連続なら$L^p$?

そうです。正確にはコンパクト集合上の連続関数は有界かつルベーグ可測で、これと有界収束定理によって可積分性が出ます。可測かつ有界なことから$L^\infty$なことがわかり、有界(ルベーグ測度有限な)集合上で$1 \leq p<q$なら$L^q \subset L^p$も別途示せて、特に$L^\infty \subset L^p$です。

ちなみに非有界(ルベーグ測度無限大)な集合上で$L^p$と$L^q$に共通部分はあっても包含はありません。共通部分としてはコンパクト台の連続関数などがあります。この事情は幾何でコホモロジーにもはねます。リーマン幾何・調和積分論でコンパクト性(閉多様体)を仮定するのは、積分によるペアリングで可積分性と微分可能性がうまくマッチするからです。非コンパクトだと一般に可積分な微分形式を別に考える必要が出て来ます。(もちろんドラコホやるだけでも究極的には楕円型偏微分方程式の処理で関数解析・ソボレフがバリバリ必要ですが)

あと、同じ事情で解析関数は局所可積分ではあります。局所可積分性は関数をシュワルツ超関数と見なすときに大事な要件で、これはこれでそれなりの発展性があります。 考えてみれば可積分な正則関数はヘルマンダーのディーバーで基本的な対象なので、実ではなく複素になってしまうものの、解析性(微分可能性)と可積分性の食い違いは関数解析とその応用での一つの大きなテーマだと思います。

sicmutilsでバグ発見に貢献

先日からsicmutilsなど数学・物理系プログラミングに本腰を入れはじめました. ドキュメントが足りない(らしい)というのもあって, 質問に非常に親切に答えてもらえていて質問を続けていたらついでにバグも踏んでいたようです.

本のプログラミング部分を全部通せたら, 新ためてFunctional Differential Geometryのテストも読みつつ, GitHubにコードを上げる予定です. 自分のリポジトリに上げるよりも, 少しがんばってsicmutils本体のテストコードにコントリビュートしたいとも思ってはいます.

これをやっていて, やはり数学・物理・プログラミングまわりならライティングが割とできると改めて実感しました. もちろんまだまだ力が足りていません. 語学メルマガもやっているように, 理系のための語学, さらにはせめて数学・物理・プログラミング用の語学コンテンツは整備しなければと思っていたところです. ちょうどいいタイミングだと思い, 本格的にライティング・スピーキングの勉強をはじめました.

最近は量子力学基礎論, または量子情報・量子測定系の勉強もはじめたので, これの洋書や論文・プレプリントを自分で翻訳して, そこから逆に元の文章を復元するといった形の自分用コンテンツを整備しています. 必ずしもゴリゴリの一かたまりの論文を書かなければいけないわけでもないので, DeepLなども使いつつ, 和訳した上でさらに英語に再翻訳し, 意味を損なわずにシンプルに書き直し, 日本語に再翻訳してさらに調整して, といった形で自分でもさっと書けて話せる英文を作っています. 毎週やっている英語の勉強会には本当に翻訳をやっている人も参加してくれているので, そこでも取り上げてブラッシュアップしようかとも思っています. ついでに量子情報・量子力学の勉強会という名の私のさらなる学習機会も作れそうで, 楽しみです.

幾何やその他やりたい物理・数学の勉強に手が回らなくなっているものの, 堀田量子以来量子力学の再勉強がテーマになっているため, いまは量子力学系の勉強と語学に集中するべきなのだろうと思い, その方向に切り替えています. 木村太郎さんのランダム行列の深掘りも気になっていますし, 線型代数のコンテンツの再編集もあります.

語学 キッズ向け科学雑誌の英語が面白い上に役に立つ/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • 第41回 第20文の多言語比較, 英・独文読解 アインシュタインの特殊相対性理論の原論文を英語・多言語で読む会 https://youtu.be/_LyX5KiS63U
  • キッズ向け科学雑誌の英語が面白い上に役に立つ
  • ライティング・スピーキング修行開始
  • ドイツ語で遊ぼう
  • フランス語で遊ぼう

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  • 今回のページ
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キッズ向け科学雑誌の英語が面白い上に役に立つ

勉強会として科学雑誌を読む会を開催してナショジオキッズの英文を読んでいます. 日本語の感覚で考えればわかるように, 「大学受験英語」の感覚からは恐ろしく難しい単語であってもさらっと出てきて驚くこともあれば, 読めば読むほど英語らしい面白い表現がたくさん出てくることもあり, 勉強になる上に楽しいです.

中高生向け, 特に中学生用のコンテンツとしては難しすぎるとは思う一方, 程々の長さなので理系高校生向けのコンテンツとしてはかなりよさそうです. 読むのもさることながら, やはりライティングに使いたい文がたくさんあります. 次のテーマ, ライティング・スピーキング修行では多様な文に触れるために日常系の文章が散りばめられた本で勉強しています. あえて選んでいるからとはいえ, どうしても面白くなくてつらい部分があります. その一方, 勉強会の形で一人の孤独さを解消しつつ読んでいることもあり, 科学雑誌の文章はかなり楽しく取り組めます.

勉強会でいろいろ聞いたり確認したりしつつ進めていることによる部分も強そうで, 勉強会・セミナー方式の利点を改めて実感しています.

ライティング・スピーキング修行開始

数学・物理系メルマガでも書いたように, プログラミングを本格化したため, そのやり取りで英語ライティングが必要な局面が本格的に出てきました. どちらにしろコンテンツは作らないといけない上, さらに鍛えないといけない部分でもあるため修行を再開しました.

ここで作った英作文コンテンツも適当なタイミングで勉強会投入しようとも思っています. 私自身非常に楽しみです.

ドイツ語で遊ぼう

werden

Wiktionaryを見るとゲルマン語の古い形をそのまま残した形のようで, 対応する英語は廃れてしまっているため英語からの感覚だとすぐにはわからない単語です. ただラテン語のvertere (to turn)と同根のようです. ここでverto, そしてDerived termsを見ると, adverto, convert, pervert, versionという形で英単語と関係することがわかります.

私が教わっている言語学者いわく, ドイツ語はがんばって掘っていけばゲルマン語の名残りを残す英単語の何かと必ずぶつかるそうなので, その英単語を探りたいと思って幾星霜. 「ドイツ語語源小辞典」や「スタンダード英語語源辞典」がドイツ語語源探索にいいとずっと言われていますし, 買って地道に調べるべきであるところ, ずっとさぼっています.

それはそれとしてドイツ語のwerdenをもう少し掘りましょう. これは非常に不思議な単語です. 本動詞としてはbecomeにあたる意味を持ちつつ, 未来表現の助動詞や受身の助動詞としても使えます. WiktionaryでもDWDSにFurther readingのリンクがあります. ただこれは完全ドイツ語のサイトなのでなかなか読めません.

最近ようやく無理やり機械翻訳してでも概要を掴むという割り切りを受け入れました. 今後は多言語学習に機械翻訳もうまく取り入れるべきなのだろうと思っています. 私が把握できているのはヨーロッパ, それも西欧系の言語のごく一部です. 多少なりとも多言語・文化をまたいでその最奥を覗きたいと思うなら, 機械翻訳をうまく活用できるパワーが必要で, その知見も貯めないといけないのでしょう. やるべきことは山ほどあります.

フランス語で遊ぼう

続mettre

勉強会のときに改めてラテン語ページを見る機会がありました. そのときミサイルにつながるmissilis, permitにつながるprētermittō, commit, omit promise, submit, transmitなどもDerived termsにあり, 思った以上に世界が見えていないことに気付きました. 楽しいですね.

servir

もちろん英語のserveにあたります. 大きく見れば意味も同じで「仕える・給餌する・役立つ」といった意味があります.

特に人や国, 職務に仕える・奉仕することがもともとの意味で, 他動詞としてservir sa partie (祖国に尽くす), servir Dieu (神に仕える)という表現があります. しかし日常で一番使われるのは「給仕する」, つまり食べ物や飲み物を出す意味だそうです. この意味ではservir un clientのように人が目的語になることもあれば, servir du vin (ワインを注ぐ)のように食べ者や飲み物が目的語になることもあります.

自動詞としては「役立つ」の意味があり, servir àで「誰かの・何かの役に立つ」という意味を持ちます. 前置詞àに不定代名詞や疑問代名詞が続く表現があり, 定型表現として覚えておくと役に立ちます. いわゆるto不定詞のservir de ---もあります.

代名動詞se servir de ---では「---を使う」という意味があります. これはにはse servirで「自分で食べ物・飲み物を取る」意味もあり, «Servez-vous.»とあれば「どうぞご自分でお取りください」と人に促すときに使えます.

名詞形のserviceも動詞に対応した意味があります. これも英語と同じです.

過去分詞はservi, 現在分詞はservantで, -ir動詞なので活用も次のように特殊です.

単数 複数
je sers nous servons
tu sers vous servez
il sert ils servent

2021-10-23

数学・物理 プログラミングと数学/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むこともよくあるため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • 何となく近況報告
  • 計算機科学をもっとやりたい
  • 統計力学がやりたい
  • トレースにまつわる話
  • プログラミングと数学

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

  • 今回のページ
  • メルマガ バックナンバー

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何となく近況報告

今週はワクチン二回目で二日間ノックダウンであまり何もできていません. Functional Differential GeometryをClojureで進める関係で, ちょこちょこClojure関係のドキュメントを読んでいました.

Clojureはいい感じに整理されていてほしかったタイプのCommon Lispの趣があります. Common Lispは歴史があるというかありすぎるので仕方ないようですが. 素数夜曲の写経でだいぶ括弧の嵐に慣れましたし, Lisp系は確かに味があるのもわかりました.

あと何よりも嬉しいのはメインエディタのEmacsと相性がいいことです. 混沌を極めていて結局メインはVSCodeプラグインになったらしいHaskellと違って, Common LispもClojureも一番基本的なエディタはEmacsのようです. REPLでパチパチ小さく実行してテストできるのは本当に楽しいです. Haskell, F#, Juliaあたりも(VSCodeで)REPLありますが, REPLがあるとどれも開発体験がいいです.

もちろんモノによってJupyterもありますし, Jupyterのネイティブアプリ化という進化もあります. そしてお絵描きしたいときは特にJupyterが便利です. 純粋なコードを書く体験的にエディタに及ばない部分がつらいです. 以前使ってみたときはVSCode上でのJupyterもキーバインドの設定が外れてしまうようで, そういうのも厳しいところです.

何にせよ, 語学はともかく, 数学・物理・プログラミングに関してはもう少しまとまって勉強できるようなコンテンツの形を探っています. 言語をどうするかはひたすらに悩むところですが, いま, 単純に計算するという視点ならとりあえずJuliaなのでしょう. 理論に習熟させるという視点では, 年単位で前に紹介したLearn Physics by Programming in Haskellを見て, Haskellまたは同じくらい型が強い言語がいい気はします. F#はunits of measureまであるので, 数値計算まで込めてもいい選択肢とは思っています. 一応Microsoftも次の記事でF#を機械学習の言語として使いたい, みたいな話もあるようです. これがいまも, これからも動き続けるなら線型代数・数値微分積分系, お絵描き系も充実するのでしょうし.

まだお絵描き部分がどうなるかかあっていないのですが, sicmutilsを見ているとLisp系の特徴をうまく使ったシンボリックな計算もできていて, かなり面白そうです. プログラミングとしては原初のプログラミング言語としての一つとしてのLisp系(計算機系でも時々出てくる), 計算機科学に近いところの諸課題に関して実装言語としてよく使われている印象もあるHaskell, いろいろな人がいろいろな高速計算で遊び倒しているJuliaの三本柱を使い回す形で進める予定です.

計算機科学をもっとやりたい

素数夜曲でSchemeとも合わせて計算機科学の話題がいくつか扱われています. 雑にしか勉強できていませんがやはりラムダ計算が面白そうで, この辺ももっときちんとやりたいと思っています. 近々Introduction to Computation Haskell, Logic and Automataという本も出るようです. 以前魔法少女に教えてもらったアンダースタンディングコンピュテーションのHaskell版だろうと思っているのですが, これは実装言語がRubyなのが気に食わなかったため, かなり気になっています.

自分がやるだけなら何とかするのですが, コンテンツとしていろいろな人, 特に想定ターゲットの中高生にやらせようと思うと, Haskellはいわゆる「ふつうの処理」をやるハードルがあるので鬱陶しい問題があります. ただ読み書きしていて楽しい言語ではあり, これはこれでもっと理解を深めたい言語です. 私自身の計算機科学の話題への理解も全くないといっていいレベルなのでこれもちゃんとしなければとずっと思っています.

それはそうと, 素数夜曲でもフォン・ノイマン流の自然数の定義などが出て来ました. 学生時代は数学としてはフォン・ノイマン環, 数理物理としては作用素論・作用素環論の量子論への応用でフォン・ノイマンが直接作った土台の上でいろいろやってきました. いまになってさらに計算機関連の話でも具体的にフォン・ノイマンの影がちらつきはじめ, 別途勉強している超準解析でも数理論理・集合論で当然フォン・ノイマンの影がちらつくので, 大学以降の人生が全部フォン・ノイマンの手の平の上にあるようです.

統計力学がやりたい

堀田量子が出て以来, 物理熱が高まっています. 量子情報も含めた量子力学の基本の再勉強も進めていますが, イジング・(量子)スピン系などの統計力学の基礎も改めて勉強熱が高まっています.

量子力学は世間的にやたらニーズが高いらしい線型代数の実戦訓練の場でもあります. イジング・スピン系・格子模型はいろいろな問題はあれど, 数値計算が盛んな土地柄らしいですし, ここでも数学・物理・プログラミングが交錯します. 先日も紹介しましたが永井さんがJuliaでの物理プログラミング本を出すそうですし, ここも非常に楽しみです.

いま読んでいる超準解析の本もノートを作りつつさっさと一回通しで読み終えて, 田崎さんのイジング本・格子系の本を読みたいです. 両方とも査読に参加したのですがまだ完全に身についていませんし楽しみが尽きませんん.

トレースにまつわる話

ちょっとTwitterでやりとりしたので転載しておきます.

トレースとか、計算しろと言われたら、そりゃ定義知ってるから計算できるけど。一体あれがなんでそんな大事なのか分かってない。

以下私の回答.

理由の一つは、行列ではなく線型写像であることから来る不変性です。暴論を言えば圏論がらみの応用で普遍性があると嬉しい(背後に何かありそう)みたいな話が出てくるように、トレースで書ける量には何かありそう、的な話も展開します。 あと、トレースは計算しやすく、しかもいろいろな方法で計算できる利点があります。例えば無限次元で線型作用素(量子力学)で素直に計算するのと、確率論((量子)統計力学)で計算するのとで二通りの計算方法があり、物理としても二つの分野の計算手法・物理的直観の交換があります。 詳しいことは知らないのですが、幾何の金字塔である指数定理ではディラック作用素のトレースから引き出せる情報が重要で、その計算手法の多彩さと引き出せる情報の精度、解釈に直接反映されているようで、現代的な幾何と物理の交流でも基本的らしいように思います。

この辺の数学と物理, きちんとノートを作りたいのですがなかなか. 指数定理は学生の頃からの憧れなのでいつかは必ず挑む予定ではいます.

プログラミングと数学

現代数学観光ツアーのアンケートコメントが来たのでそれについて. 区分求積法の体で高校の教科書にもあるリーマン積分のイメージ図が定積分のイメージ作りに役立つというコメントを頂きました. 一枚絵でもそこそこ気分は掴めますが, もう一つ, 極限で確かに面積を厳密に定式化できる動的なイメージも大事です. この手の動画を昔は自力で作ることなど夢のまた夢でしたが, いまはその辺に転がっているコードをGoogle Colabで流せば簡単に改造できていろいろな例で確認できるようになりました. 私のGithubのどこかにもipynbを置いておいたので, 興味がある人は確認してみてください.

ただ, メンテしていないのでGithub上のコードはいま動くかは不明です. メンテする気がある分はコンテンツとして販売しているのでよろしければどうぞ.

これもJulia版を作りたいと思って幾星霜です.

あとリーマン可積分でない関数に対するコメントがあったので, 一応ここでも書いておきましょう. 単位区間$[0,1]$上の関数として, 有理数の上で$1$, 無理数の上で$0$を取る関数はリーマン可積分でない関数として有名で, 特にディリクレ関数という名前がついています. 現代数学観光ツアーでも確か紹介していたはずです.

ちなみに「(リーマン)可積分ではない」は多少曖昧さのある言葉ですが, ここでは極限の値が一意に決まらないという意味で使われています. 無限大に発散してしまうことを「可積分ではない」ということもありますし, 特にルベーグ積分は積分以前に可測ではない関数を真面目に考える必要もあります. 虚心坦懐に数学科の数学をやりたいのでもない限りルベーグ積分の事情は気にする必要はありませんが, 入門的なところにも魔界がボコボコあり, 集合論的なお遊びポイントもたくさんあるようなので数学としては多彩な遊び方があります.

最後にもう少しClojureとFunctional Differential Geometryの話. Functional Differential Geometryではお絵描きパートがあるのか確認できていません. 数値積分プログラムはあるので積分計算自体はあるようですが, それを使ったお絵描きがあるかは非常に気になるところです. Scheme本体にそんなものがあるはずがないので, scmutilsには関連するプログラムがあるはずで, Clojure移植版のsicmutilsにお絵描きプログラムがあるかが気になります. scmutilsだと素数夜曲のようにGnuplotに外出しされている可能性もありますが, Javaの資産も含めればいくらでもやりようはあるはずですし, 静止画だけでもよく簡単でもいいのでよさげなお絵描きプログラムつきだと嬉しいですね.

Prologueに出てきたプログラムを実行すると, かなりいい感じにラグランジアンが書けるので, これがシンボリックな計算だけではなく, 数値計算とお絵描きとどこまで連携しているのかがこれからの読書の楽しみです. Clojureでの確認後はJulia移植もしたいところです.

語学 キッズ向け科学雑誌の英語が面白い上に役に立つ/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • 第40回 第20文の多言語比較 アインシュタインの特殊相対性理論の原論文を英語・多言語で読む会 https://youtu.be/vxDz9lE7Hes
  • 相対論の勉強会でのドイツ語
  • 科学雑誌勉強会での英語
  • ドイツ語で遊ぼう
  • フランス語で遊ぼう

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

  • 今回のページ
  • メルマガ バックナンバー

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相対論の勉強会でのドイツ語

今回の勉強会で構文に関して変なことを言ってしまいました. 都合で今週はお休みなので次週(次回)補足するのですが, ここで結論だけ言うと, やはり英語の感覚で適当に処理すると根本的に駄目でした. 当たり前ですがドイツ語はドイツ語の文法に沿ってきちんと考えないと, 勝手に自滅します.

ここ最近語学に力が入れられていないので, いい刺激にはなりました.

科学雑誌勉強会での英語

メルマガで書いたかちょっとすぐにわからないのですが, この勉強会で使っているのはキッズナショジオの文章であるにも関わらず, 何というか, いわゆる「難関大の受験英語」でも出てこないような単語がぽろっと出て来ます.

例えばprosperous. 対応する「繁栄」という日本語は多少難しめの言葉ですが, ちょっと気の利いた小学生なら知っていて, 高校生なら確実に知っている言葉だと思いますし, そう思えば確かにキッズ単語ではあります.

何でこんなことを書くかと言えば, 私の英語はガチガチの学校英語で, 大学受験+数学・物理の専門教育とプログラミングに関わる職業教育的な文脈での英語なので, 日常的な英単語に対する感覚が徹頭徹尾ないのだな, と改めて実感したからです.

ちなみに毎回参加してくれている翻訳の人とも話題になるのですが, そこまで難しくはない英語ではあるものの, 英語らしい表現がたくさんあります. 「英語から日本語に訳すのは簡単でも, 日本語から英語に適切に戻すのが難しい」というタイプの文, または単語・表現選択がたくさんあり, 文章を読み込んだあとに英作文教材としてもそのまま転用できるレベルです. 内容的にも科学系なので私にはとっつきやすく, これはいいコンテンツだと毎回非常に楽しみな勉強会です.

ドイツ語で遊ぼう

haben

今回からドイツ語単語もやることにしました. 初回はhabenを見ます.

見ての通り英語のhaveと同根です. Wiktionaryによると印欧祖語由来でオランダ語のhebben, デンマーク語のhaveと同根です. ゲルマン系の言語には同根の語があり, オランダ語やデンマーク語はゲルマン系なのだろうというのが推察されます. 勉強会でいつも言っているのですが, Wiktionaryで同根の単語を見ていると言語をまたいだときの語の変遷というか, 語の意味を持つのはどの要素なのか, 詳細な語源研究の成果はともかく「単語が似ている, または同根のような気がする」という感覚はどこにどう持てばいいのか, といった肌感覚が身につくようで非常に面白いです. さすがにオランダ語やデンマーク語を覚える気力と時間, 今はありませんが, いろいろな単語をWiktionaryで見てみると類似の事情があるのだろうと思えてきて無限に時間が溶かせます.

同じ「持つ」の意味があるフランス語のavoirとは同根ではないのですが, 面白いはどれも時制に関わる助動詞としてhaveに相当する単語を使う共通点があります. 完了または過去に関わります.

英語だといわゆる完了です. これについてはいいでしょう. ドイツ語の時制は英語の時制と表面的にはよく似ていますが, 意味や指す内容・守備範囲は全然違います. ドイツ語の現在形は英語でいう現在完了・現在進行形も含めた広い概念です. そもそもドイツ語には現在進行形自体が存在しません. フランス語のavoirから派生する時制も英語・ドイツ語と違います.

ちなみにドイツ語でも「頭痛は持つもの」で, "Ich habe Kopfschmerzen."と書きます. フランス語でも"J'ai mal à la tête."でやはり「頭痛は持つもの」です. 何が持てるか, 各言語で比較してみるとまたいろいろ違うのかもしれません. まだそこまで調べ切れておらず, 今後の個人的研究テーマというか表現集として貯めておかないといけないと思っているところです.

フランス語で遊ぼう

mettre

これはモノをどこかに「置く」意味が基本で, 置く場所は前置詞句や副詞で指示します.

「衣類を着る・身につける」の意味は身につける動作を指す言葉です. 英語でも着る動作はput on, 着ている状態はwearです. フランス語でのwearはporterです. ただし複合過去形では「身につけた状態」を意味するようで面倒です.

これ以外に人やモノを「ある状態に置く・仕向ける」, 「お金や時間を費やす」意味もあります.

代名動詞se mettreは「ある状態に身を置く」の意味です. 例えばêtre à tableは「食卓についている状態」で, se mettre à tableは「食卓につく動作」です. さらにse mettre à + inf.で「---しはじめる」と全然違う意味になります.

基本単語はいろいろな単語が合流したり意味の展開があったりと多義的なことが多く, これもその例に漏れないようです.

Wiktionaryによるとラテン語mittōの現在能動不定形のmittereに由来します. ラテン語はsendなどの意味を持ちます. これだけ見ていてもわかりませんが, やはりWiktionary先生のDerived termsを見ると, 例えばadmittō, ēmittōなどがあります. これらを再びWiktionaryで見てみれば, 英語のadmit, emitにあたります. ここでadは「向かう」という意味の前置詞でadvertiseなどのadです. 一方ēmittōのēはex由来でemitの「放出する」といった意味と対応しています. パッと見ではわかりませんが, 英語にもきちんと生きている言葉です.

また, これで調べてはじめて, 私はadmitとemitに関係があることを知りました. たぶんメルマガ読者の方は多言語に興味がある人はあまりいないように思うのですが, こういうのを丁寧にやっていくことで, 多言語学習が英語にも活きること, 言語感覚を育てるのに活きることを何とかして伝えられないかと思っています. プログラミング言語では多言語学習・実践はある程度当たり前である以上, これを自然言語の学習にも転用できないかという試みでもあります.

2021-10-16

数学・物理 素数夜曲の写経と数学・物理のためのプログラミング/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むこともよくあるため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • 高校での位置ベクトルとは何か
  • 多体量子系の数理: Twitterで見かけた数学コミュニケーション
  • 数学史メモ
  • Twitterで見かけた数学コミュニケーション
  • コンテンツのシェア
    • 立川さんの結晶群の講義ノート
    • 幾何・数理物理の講義ノート
    • 小澤正直さんの量子測定理論プレプリント
  • 素数夜曲の写経が (だいたい) 終わった
  • 現代数学観光ツアーのコメントへの回答
  • 基礎から勉強する大変さ・面白くなさ

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  • 今回のページ
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高校での位置ベクトルとは何か

高校の数学とはだいぶ離れた別の話題として, 以下でツイートを引用しているように, 線型空間自体の認知度が恐ろしく低い中, アフィン空間は言葉でさえほぼ知られていないのではないかという気分があります.

アフィン空間という言葉を知っているか, 大雑把でいいので定義を知っているか, 定義を知らなかったが Wikipedia での定義を読んだだけで何を意図しているかわかったか, などいくつかの段階があるでしょう. そもそもゴリゴリの数学科でもない限り線型空間の議論自体通じていない公算が高いとさえ思っていますが, とりあえずアフィン空間の認知がどの程度が知りたいですね. 今回のアンケートで回答してもらえると嬉しいです.

ツイート引用

位置ベクトルはベクトルの分類ではありません。点からベクトルへの写像φがφ(P)=\vec{OP}で定められるとき、φ(P)をPの位置ベクトルと呼びます。点を実数の組で表すことができ、その組を点の座標と呼ぶのと同様に、点をベクトルで表すことができ、そのベクトルを点の位置ベクトルと呼ぶだけです。

ユークリッド平面に原点はアプリオリに存在するのではなくどれかの点を原点に選ぶのだという感覚を持たないと、位置ベクトルの理解は混乱するでしょう。

まずユークリッド平面(空間)の定義というかよくある使われ方自体がかなり厳しい気分があります。ユークリッド空間でアフィン空間を指す場合とベクトル空間を指す場合があって、後者の方が多いくらいの気分があります。

これに関して物理学科出という背景を追加して言うと、アフィン空間という言葉を知っている人自体がかなり少ないのではないか、「アフィン空間も要はベクトル空間みたいなものだろう」からいつの間にかベクトル空間とほぼ変わらない何か的な認識にシフトしているのでは、とか色々な想像があります。

多体量子系の数理: Twitterで見かけた数学コミュニケーション

数学科学生と思しき人が物理のゼミに顔を出したときの応答に対する反応をツイートしていました. たくさんツッコミが来たからかアカウント自体消されてしまっていましたが, 冗談抜きで数学的にきちんと詰め切れない, もしくは詰め切るにしても学部卒程度の知識・修士終了の力は必要なことはよくあります.

詳しくは以下のツイート引用を見てもらいたいのですが, そこで書いていないことで一つ気になっていることとして教養レベルの古典力学での常微分方程式の解の一意性があります. 具体的に歴史的な力学の一里塚である, 万有引力場のもとでの粒子軌道の問題です.

そもそもあまりきちんと考えたことがないのですが, ニュートンポテンシャルは原点での特異性があり, 微分方程式も非線型です. 常微分方程式入門レベルでよく議論される正規形の常微分方程式の議論で, 古典力学での解の存在と一意性がどこまでカバーできるのかよくわかっていません.

ちなみに古典力学の金字塔である万有引力場のもとでの運動は, 教養で触れていてよく知られているから簡単そうに思われているだけで, 実際には非常に鬱陶しいです. 何が鬱陶しいかと言えば方程式中のパラメーターから定義される離心率の値によって楕円・放物線・双曲線軌道と, 全然違う軌道を取ることです. もちろん射影空間で考えればこの三つの曲線は等価ですが, ふつう古典力学までの範囲で射影空間上での常微分方程式論まで行かないでしょう.

私自身, 微分方程式論には完全に疎いので状況を全く把握・制圧できていないのですが, パラメーターによる分岐を持つ現象は力学系の基本的なテーマでもあるはずで, 反応拡散系の偏微分方程式などでは動的にパラメーターが変わる現象などもあるのだろうと思います.

話がだいぶずれてきたので元に戻すと, アカウントを消してしまった自称数学徒の人, 物理以前に数学を知らなさすぎるのではないかというのが私の印象です.

ツイート引用
数学的な厳密さを保ってどの程度の物理ができると思っている?

面倒なので以下 Twitter 的によろしくない文章だけの引用.

物理サイドもそうだが「数学的な厳密さ」にどんな意味を込めるのかが曖昧で、しかも双方でイメージする内容がずれているのも大きな問題なのだろう。

https://twitter.com/AtRuins/status/1447605979583975428 これ、意図するところで本当によくわからなくて極端に言えば「流体では解が不連続になりうるので、微分方程式の議論の前にまずはベゾフ空間論からはじめる」みたいなことを言われても困ると思うのだが、どうしてほしいのだろうか。 他には一次元だとソリトンが出てくるのでまずは無限次元グラスマン多様体から始めようとか言われると、いい加減に処理できる物理こそ困らなくても、数学サイドがたぶん死ぬほど困る。特に関数解析系PDEのために流体をやってみたい勢が。 数学が物理に混ぜてもらう前提なのになぜそんなに居丈高なのかもわからないが。

言い出すときりがなくて、例えば物理では学部一年で超関数のフーリエ解析もバリバリ出てくる。現代数学では普通に扱えるとはいえ、解析系であっても学部三年後半でようやく追いつく話を数学的な厳密性も担保しつつ展開できる人類がそもそもどれだけいるかという話もある。 自分の数学力によほど自信があるのだろうか。量子力学でも現代的には解析学だけでどうにかなるわけでもなく、解析学にしてもPDEだけでどうにかなるわけでもない。 元ツイートの人、物理とかいう以前に数学を知らないのではないだろうか。常微分方程式でさえほんの少し先に魔界が広がっているというのに。

私が知る多体量子系の数理の風景

杓子定規に数学的に言うと、多体(量子)系の数学は本当に面倒で、ハバードくらいのレベルで言っても、正体がよくわかっているラプラシアンの離散化とオンサイトの相互作用の和の行列の振る舞いだけで既によくわからないことだらけで研究マターというレベルで本当に鬱陶しい。

多体系と言っていいかは微妙だが、相互作用する環境が場で形式的には無限多体系であるスピンボソンモデルも、数学者が満足できるレベルで数学的にはちゃんと制御し切れる人類あまりいないのではないか。そもそもそんなことをやりたがる人間がどれだけいるかはともかく。 あとLiebあたりがやっている物質の安定性もかなり面倒でつらい。他に私が学部三年の講義で出会った非相対論的QEDは2000年ごろに発散処理と基底状態の議論がとりあえず最低限できたが、いまだに平衡状態周りの話、存在さえわかっていないのでは? この間のオンラインすうがく徒のつどいで広義中高数学の話として適当に存在を仮定するとひどいことになる話をしたが、数学としては存在の議論をしないことには始まらない部分がたくさんあり、量子・古典以前に物理に関わる数学、大体何もできていないのではなかろうか。

常微分方程式にしても、この間NTTで話題になった若山正人さんの量子ラビ模型も行列係数の調和振動子の問題で、これのスペクトル解析からリーマンのゼータが出てくるくらいに数学的には面倒がボコンと出てくる。 専門外なので詳しいことは全く知らないが、2006年時点で磯崎さんの量子力学系の散乱理論で三体の時点ですでに現代数学最前線という話もあったし、15年経ったからと言ってそんなに状況が好転しているとも思えない。 物理周りの話、数学的にはきちんとやると大抵何でも研究マターに一気に上り詰める感じがある。

数学史メモ

ツイートが消えたときのための自分用備忘録: 参照1は吉田洋一「零の発見」, 参照2はベルの「数学をつくった人びと」, 参照3は矢野健太郎の「数学物語」です.

Twitterで見かけた数学コミュニケーション

これに関して以前作った通信講座にもいろいろ書いたのですが, 「これをやって何の役に立つのか」と言われるとき, 相手の意図をきちんと確認する必要があります. 単に「数学がやりたくなくて, そのためにもっともらしいよく使われる言い訳として言っているだけ」という場合もあるからです. 実際, 以前受験生と思しきアカウントに「ネット検索に関わるグーグルのページランクなど多変数の連立一次方程式が使われている」とリプライしたら, 「私はグーグルのページなんて使わない」という (ピント外れの) 回答が返ってきたことがあります. ネットショッピングでのセキュリティと暗号なり何なり役に立つ事例自体はいくらでも挙げられますが, そういうのを求めている人ではないなと思ってそれ以上は触れませんでしたが, 相手が何を求めているのかは確認しないとお互い徒労に終わります.

他の場合のケースについての面倒くささは以下のやり取りの記録も見てみてください.

鍵アカウントのツイートとやり取り

昨日の知識のネットワーク?だったかの話そのもの。どの段階でも初見概念を勉強したり人に教えるのは難しい. 「xとかyが出てくる」のくだりはともかく、教科書を見るとサインもコサインもタンジェントもlogも意味がちゃんと書いてある。もちろん「書いてあるから意味も分かりますよね?」とは言わないけど、書いてあることを書かれた通りに読む(理解する)ってのは特殊な訓練を経て得られる能力なんだな.

つい今しがた書いたこの事案だと思うのですが、「意味」という言葉で何を意味するのかがまず大きくずれていて、そこのすり合わせが必要なところ、「数学が苦手」サイドが恐らくそれに付き合ってくれない(そういう忍耐に耐えようとしたときにまともに答えてもらえなくて諦めさせてしまった)のがお互いにとってかなり厳しくつらい事案だろうと推測しています。

よく物理で「式の物理的な意味」みたいなことを言いますが、線型代数の話にしても情報系だと符号理論や擬似乱数では有限体上の議論が必要ですし、「有限体の議論がやりたい自分にとって、RやC上の線型代数が何の役に立つの?」みたいな話にもなり得ます。距離にしても符号理論的にはハミング距離が直観的に意味のある距離で、相手の興味関心をきちんと確認しないとそれこそ意味のある話にならないのに、その辺のコミュニケーションが本当におろそかです。数学関係者はそういう応用をそもそも知らないので聞かれても困る面もあってとにかく至る所非自明です。

コンテンツのシェア

単なるシェアです. ツイートまたはページへのリンクをペタペタ張っておきます.

立川さんの結晶群の講義ノート
幾何・数理物理の講義ノート
小澤正直さんの量子測定理論プレプリント

物理としてヒルベルト空間をどう捻り出すかこそがポイントのようなので, それはそれで別途追う必要はあるものの, 頭の整理としては非常に重要です.

素数夜曲の写経が (だいたい) 終わった

一つ継続に関わる部分で, D.15 節のコードのバグ (私の転記ミスの可能性もあり) が修正できていません. ここは D.16 以降で使われていないこともあり, 面倒になったのでとりあえず放置です.

素数夜曲は必ずしも完全な形ではない再実装も込めて, Scheme についてはほぼ全ての実装が書いてあります. 簡単な再実装版は Scheme 標準では任意引数の関数を二引数にしてしまっている部分はいいとして, グラフに関する Gnuplot のコードが載っていない部分がたくさんありました. Scheme やその他の記述が鬱陶しいくらいあるのに Gnuplot は人類の常識で説明がろくにないのには一人ブチ切れていました.

あと, 行列の演算などは二引数限定で, 多数の和を取るコードがかなり冗長になっています. ただ, これはこれで Julia などで現代的な実装を見たときの感動ポイントにもなりうるのと, 実際に一度は直接実装して面倒さを実感してみるという意味ではいいのかなとは思います. 数学でも「面倒だから二度はやりたくないが, 一度はやっておくべき計算・証明」はあり, そういうタイプのコーディングを具体的に実践するいい機会でしょう.

ほぼ写経しただけなので Scheme への理解が深まったとは言えませんが, Lisp 系の言語, もっと言えば括弧の嵐と処理には前よりも遥かに慣れました. 優先度はちょっと考え中ですが, せっかく Scheme に慣れ親しんだので改めて Functional Dirrential Geometry に再挑戦しようかとも思っています. これは MIT Scheme と scmutils のセットが Unix 系前提らしく, Windows ではインストールさえ面倒そうだったので挫折したままでした. いま改めて Common Lisp 版がないか探したら, Clojure 移植はあるようです.

起動が遅い JVM 上なのでどうかとかいろいろ思うところはありますが, 最近の言語なのでシンタックスが Common Lisp よりも綺麗なので, せっかくだからちょっとやってみるかという気分にはなっています. プログラミング言語マニアでもなく, 数学方面に集中したいのでそんなにいろいろな言語をまたぎたくもないのですが, 一つの言語に集約するにもまずは Scheme なり Clojure なり本に書かれている言語で動かして, 実際に出力・挙動を確認してからそれと同じ挙動を取るようにしないと移植コードの正しさも検証できないので, まずは地道に Clojure 版でやろうと思っています. 次のようなライブラリも見つけたので, Clojure は Clojure で少し気になっています.

いろいろ見ていて結局, 速度・グラフ描画・情報量・数学系コードの充実度でやはり素直に Julia を使うのがよさそうなので, Julia もちょこちょこ勉強を進めています. 的確なライブラリを探して試す労力も馬鹿にならないので, プログラミングのプロは本当にすごいなと日々感心します.

現代数学観光ツアーのコメントへの回答

「集合を設定してからその元をベクトルと呼ぶ」→集合を設定するということは元の内包表記と違い、集合に構造を付加するということ?

内包表記がプログラミングの気分で書かれているような気がしますが, そもそもとして (たぶん) プログラミングでのリスト内包表記は, 哲学での外延と内包から数学の集合論に輸入された集合の外延的記法と内包的記法に由来すると思うので, 内包表記という言葉に関しては視点がそもそもいろいろとおかしい感じがします.

それはそれとして本体部分の回答はちょっと面倒です. コンテンツでのもとの書き方がいい加減でミスリーディングな部分があるからです. メルマガ読者全員が元のコンテンツを読んでいるわけではないと思うので, 周辺の記述に関しては次のページにある PDF を読んでください.

話を元に戻すと, この質問では「集合を設定する = 集合に構造を付加する」でこれが問題です. (上に書いたように内包表記の話はたぶん全然違う話.) 集合を設定するのは単に集合を考えるだけで特に構造の視点はありません. むしろ集合に構造を載せてベクトル空間にすると言うべきところです.

  • 高校でのベクトル: 要素が持つ計量的な性質で要素を直接定義している (ような形になっている).
  • 大学でのベクトル: 集合に線型構造を仮定した線型空間という枠組み (構造つきの集合) を作り, その要素をベクトルと呼ぶ.

「集合の設定」と「集合に線型構造を付加する」の間にギャップがあるので, ここが認識できているならその認識は正しいです.

あとはたぶん直接口頭 (オンライン会議的な形態含む) で細かいところを確認しないと回答できないように思います. テンポのいいやり取りの中で「この辺怪しそう」というのを掴んで掘っていかないと適切・的確な回答にならないでしょう. 最近改めて個人指導をはじめて, 勉強会形式で講義的に話すのと, 個人指導で細かく掘るのがかなり違うことの意味・意義と重要性を改めて実感しています.

前回も Mathpedia の個人指導サービスを紹介しましたが, 個人指導は個人指導で大きな意義があるので興味がある人はぜひ使ってみてください. 個人指導はやってくれている人達がいるので, 私はどちらかと言えば価格 (受講者負担) をおさえること, 「ともに戦う仲間がいる」的な意味でコミュニティを作る方向を模索していてはいますが, もし私に個人指導を受けたいという方がいれば, それはそれで相談には乗ります. 実際, 松尾さんと話をしていてまがりなりにも数学・物理・プログラミングにまたがってそこそこ話せる人もなかなかいないそうなので. いずれか二つならゴリゴリのプロのレベルで一定数存在していて, 三つにまたがると途端に数が減るようです.

基礎から勉強する大変さ・面白くなさ

上で素数夜曲を勉強していて今まさに実感しているところです. 数学・物理で考えても基礎の部分はやっていても必ずしも楽しくありません. 例えばホモロジー代数の初歩はもういい加減何度かやっていて面倒なのですが, 改めて一からノートを取らないとあとで困るのがわかっています. 適当に優先度を決めていつかはきちんとノートを作る予定です.

それはともかく, 基礎から勉強する上での工夫が必要です. まず何らかの意味で自分なりに楽しくする方法を考える必要があります. そして楽しくする以外の工夫も必要です. 例えばまずは概要を大きく掴むことも大事です. ついでに必要な能力が鍛えられることをやるのも大事で, その一つとしてプログラミングも併用して馬鹿みたいに大量に計算する方向で進めています.

もちろん諦めて歯を食いしばって勉強するのも大事です. これに関しては人を巻き込むのが大事です. 公開していない勉強会があるのですが, そこでの内容として Julia の基礎やデータ構造・アルゴリズムをじっくり進めています. 忙しい大人を何人か巻き込んで勉強会をしているので, きちんと準備しないと失礼だというところで勉強のモチベーション, そして必ず勉強時間を作る拘束力生成に役立てています.

前から何度か書いているように, 他人を巻き込むと勉強が捗りますし, やるなら話す側の方が身につきます. メルマガ読者の皆さんもぜひ勉強会を主催して教える側でやってみてほしいです. いまはオンライン勉強会が本当にやりやすくなっているので.

語学 多言語学習のご利益/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • 第39回 第19文の読解 アインシュタインの特殊相対性理論の原論文を英語・多言語で読む会 https://youtu.be/eoG-y-dBslI
  • 英語とフランス語
  • 英語とドイツ語
  • フランス語で遊ぼう

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

  • 今回のページ
  • メルマガ バックナンバー

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英語とフランス語

仕事をしていてテナントという言葉が出てきました. 割と日常的なところでもビルのテナントなどとして出てきます. 調べたらやはりフランス語の tenir, そしてラテン語が語源のようです.

最近強制的にフランス語を勉強する機会を作るため, 手持ちのフランス語単語帳をもとに, 基本単語に自分なりの追加解説を突っ込む形でフランス語単語を紹介していますが, これまで以上に英語の中にあるフランス語・ラテン語に気付くようになっています.

少なくとも現状, 究極的には英語のためのフランス語・ラテン語・ドイツ語などの他言語を緩く勉強しています. 応用系の人の数学への態度を見ていると私自身時々感じるように, 言語畑の人から見るとこういうスタイルの勉強は見ていて気に食わない部分はあるのだろうとも思っています. 一方でプログラミング関係の文化・知見からすると, そこまで深くなくてもいいから他の言語・設計思想に触れるのは大事とも言われるので, それを信じて自然言語もつまんでいます.

一応最終的には多言語をまたぐことで自身の基盤言語である日本語, ひいては言語感覚それ自体を研ぎ澄ませるのが目的ではあります. これを目指してメルマガ発行をペースメーカーにして地道に勉強を進めています.

英語とドイツ語

いい感じに調べるのが大変というかどうすればいいのかよくわかっていないのですが, 英語はゲルマン語の系統なので, きちんと調べるとドイツ語単語と英語の単語にもいろいろな語源の関係があると聞いています.

例えばこのページ. ここでは英語の book とブナを表す beech の関係が書かれています.

beech と book は形態上たまたま関係しているわけではなく,確かに語源的な関係がある.この場合,前者から後者が派生されたとされている.かつてブナの灰色で滑らかな樹皮の板にルーン文字が書かれたことから,ブナは文字や本の象徴となったのである.

数学・物理・プログラミングでも, 考えている「言語」の表現力をぎりぎり限界まで引き出して使い倒すのが大事です. これを自然言語でもできるようになりたいわけで, 英語を通じて日本語, そして一般的に言語のセンスを磨けないかと思っています.

ドイツ語の語源のサイトとして Wiktionary と DWDS はあるのですが, Wiktionary で book と beech のような話は書いていないようですし, DWDS は完全にドイツ語なので私のドイツ語の能力では読めないという難点があります. いいドイツ語語源と英語比較文献がないか探しています. 見つかればそれをもとに勉強ノートを作る体でメルマガで勉強ログをつけていこうと思っています.

フランス語で遊ぼう

tenir

たまたま今回はテナントに関連して上でも少し書いた tenir です. 活用は英語の come にあたる venir と同じです. よく ir-動詞と呼ばれるクラスの動詞です.

意味の中心はモノを「持っている」「掴んでいる」ことです. 英語でも基本単語は極端に多義的であるのと同じく, フランス語でも tenir は多義的です. 例えば「人を掴まえている・拘束する」, 「あるモノ・ある状態を保持する・維持する」から, 「管理・経営する」の意味まで持ちます.

目的語 (フランス語では直接補語?) によって的確な訳語を選ぶ必要があります. 例えば tenir sa parole は直訳すれば「発言を維持する」で, 発言したことを変えないことから「約束を守る」の意味です. parole は動詞の parler から来ていて「話すこと」の意味で, これはこれで英単語で parlor (「話すところ」から「客間・喫茶店」など), parliament (「話すところ」から「議会」) のような展開があります. この辺の意味のうつろいは発展は日本語にもよくある話で, こうした議論を丁寧に積んでいくのが言語センスの涵養に役立つと思って, 自分用の勉強メモも兼ねてメルマガコンテンツとして記録を取っています.

他には tenir は自動詞としても使えます. ある姿勢・位置を保つ意味から「しっかりしている・持ちこたえる」といった意味が出てきます. 特に tenir à --- はあるモノ・行為に関する立ち位置を変えずにいるという意味から, 「あるモノ・行為に愛着を持つ, 執着する・こだわる」という意味が出てきます. 英語でも have は日本語の意味を越えていろいろなモノが持てるのと同じく, tenir もいろいろなモノを持てます. こうなるといわゆる have である avoir との違いも気になってきます. ちなみに「いわゆる have」と書いたのは, avoir は英語の have が完了形を表す助動詞としても使えるように, avoir も時制を表す助動詞に使えることを想定して書きました.

2021-10-09

数学・物理 定義をきちんと読もうの会/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • 先週は鬼滅の刃を読んでいたら興奮冷めやらずメルマガを書くどころでなかったでござるよの巻
  • 定義をきちんと読もうの会
  • 代数学の基本定理の代数的証明
  • Juliaで物理系の数値計算をする本
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先週は鬼滅の刃を読んでいたら興奮冷めやらずメルマガを書くどころでなかったでござるよの巻

先週, あまり気分が乗らなかったため, 「こういうときはもう諦めよう」と思い, ずっと読まずにいた鬼滅の刃をやや遅めの時間から読みはじめたら, 止まらずに朝 4 時まで読み続けていました. 生活リズムが破滅したので日曜もめちゃくちゃで, もっと言えば先週一週間生活が破滅していました.

あれだけ面白ければ流行る理由もわかります. 煉獄さんが 400 億の男になるのもむべなるかなと言わざるを得ません. 現状シーンとしては義勇が何も言わず禰豆子を守るために命を張っていたところが一番好きで, 戦闘キャラ特性としては壱ノ型しか使えず, ただそれだけをぶち抜きで鍛え続けた善逸が好きです. NARUTO で言うと完璧ノーセンスのところから体術だけをただただ鍛え続け, イタチ・カカシ父・マダラなどの実力者だけに狙い撃ちで認められているガイが好きで, ああいうのは男の子が好きなやつだと心の底から信じています.

ああいうのを数学でもやらねばならんのです. 煉獄さんが言っていたように, 「己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと 心を燃やせ 歯を喰いしばって 前を向け」, これです. しばらくビビって進めていなかったことがあるので, これを読んでやらねばならぬと覚悟を決めました.

定義をきちんと読もうの会

先週の個人指導で出た話です. 定義で「---に関して閉じている」などとさらっと書かれているところ, 改めて見るとこれは相当数学に慣れていないと読めないというか, 何を言っているかわからないはずだ, というのを確認してみたらやはりできないね, というわかっていたことを改めて確認しました.

定義をきちんと読もうの会みたいな勉強会, 顕在化しているかどうかはともかく, 潜在的なニーズは相当あるのだろうと思います. 個人指導の方でいろいろ検証してみてまた大事そうなことを共有します.

ちなみにベキ集合のベキ集合はイメージできるか? みたいな話が出てきました. こういうのはプログラムでリストのリストみたいな形で, 有限集合に対するベキ集合を作ってみるといいのではないか, みたいなのも思います. 有限集合であってもベキ集合の時点で自力で書くのは大変です. 位相空間論の位相や, 測度空間論の加法族のレベルでさえふつうは大変です. 準基のような概念を考えると部分集合族の部分集合族が出てくるので, ここでつらいね, という話でした.

代数学の基本定理の代数的証明

前回のメルマガに対するコメントで教えてもらいました. 名前のスペルと最後の University of Cracow, Poland からポーランドの人なのでしょう.

イントロダクションでピタゴラスの定理のいろいろな証明に関する文献と同じく, 代数学の基本定理の多彩な証明を載せた文献もあるという話があり, ここだけでも参考になるのではないかと思います. ちなみに素数が無限個存在する定理もたくさんの証明が知られています.

超準解析を突っ込む議論で「純代数?」という感じもありますが, この情熱がすさまじいと感心します. 本当にこの数週間で超準解析を勉強しはじめたので面白いタイミングで来たなとも思っています.

メモも兼ねて簡単に内容を紹介します. 何かしら連続性が必要だという話があり, 実は二種類の連続があって一つは the continuity of total order (これ何のことだろう?), もう一つは (多項式) 関数の連続性です. 後者を使わないのがこの論文での証明です. やはり実閉体の議論は重要で, 一般の連続関数ではなく多項式関数に対する議論さえあれば十分なことをうまく使います.

P.6 にアルティン-シュライアーで「実閉体上では全ての奇数次多項式は少なくとも一つ解を持つ」ことが示されていると言及があります. ふつうここに関数の連続性と中間値の定理 (連結な集合の連続像は連結) を使うので, ここをどう乗り切るかが大事とコメントされています. P.7 の命題1は「順序体上の多項式に対する中間値の定理をみたすなら $\sqrt{-1}$を付加して得られた体は代数的に閉である」が重要です.

雑に眺めた範囲で言えば位相の代わりに順序を使っています. Ordered field の記述は随所に見えます. 順序集合に順序を使って位相を入れる話もあり, ふつうは面倒だから位相を入れる部分をがんばって順序でおさえて処理したという話なので, むしろ位相または位相的な議論のおかげでどれだけ議論がシンプルになるかが確認できたと見るのがいいのでしょう.

Juliaで物理系の数値計算をする本

次のツイートを見かけました.

非常に気になっています. というか買います. 微分方程式などの近似計算だとあっと言う間に難しくなっていくので, 数学・物理・プログラミング系のネタで扱うのはどうなのかとは思っていますが, それはそれとして鍛えないといけないのは間違いないので.

Mathpedia のオンライン家庭教師

Mathpedia が最近何をしているか全く追いついていないのですが, 純粋な数学については私よりもカバー範囲が広いはずなので, 興味がある方は利用してみてはどうでしょうか.

まあ, いい値段がしますが, 実際個人指導をやっていて, まじめにやるならこのくらいの労力はかかります. 講師・教師側からの持続可能性からするとそれはそうですが, これだと受講側の持続可能性に乏しいなと前から思っています. このギャップを埋めるようなのを何か考えないと, と思いつつ幾星霜です.

「重ね合わせの法則が成り立たないなら散乱が起こっていない」とは何か

Twitter でちょっとやりとりしたので転載しておきます.

上でもコメントした「定義を読もうの会」でイメージしている内容の一つがこういう話です. こういうさらっと書かれていて, 分厚い背景知識がないと意味が取れないような話をちゃんと拾うのが大事だろうと.

Tomoki Oda さんとのやりとり

物理の本なんですが重ね合わせの法則が成り立たないなら散乱が起こってるって言うのはどう言う理屈ですか?

散乱はふつう何かしらの相互作用の結果なので線形の理論は重ね合わせが起こるだけで互いに干渉しない(散乱が起きない)が、重ね合わせが成り立たない波は非線形波動だからその波が出会ったときには非自明な現象として散乱が起きている(からそういう現象が起きたら非線形波動を考えろ)という印象です

なるほど。ここで言う散乱って実際に古典的に粒子と粒子がぶつかる、というよりはポテンシャルとポテンシャルが相互作用を起こす現象ということですか?

これをポテンシャルと呼べるのかわかりませんが、(私の気分では)そのまま素直に「非線形波動方程式に従う波がぶつかり合うと散乱が起きる」と読むのだと思っています。あと粒子という言い方がかなり微妙で、非線形波動として有名なKdVで「粒子性を持つ波動現象」からソリトンが出てきます。

なるほど。ちょっと逆説的な言い方であることも否めないですがなんとなく腑に落ちました。

物理を無視すればクラインゴルドンは型的にあくまで波動方程式なので、まずは波動方程式として理解する方がいいのではないかというのと、粒子としてみるなら、相互作用しない粒子は衝突してもすり抜けるだけなので相互作用の視点は重要です。

なるほど、アプローチとしてはそれが正しいのかもしれないんですが

相互作用しない粒子は衝突してもすり抜けるだけなので というのはどう言う原理から導き出されるんですか?浅学なので初めて聴きました

これは衝突の定義と先の用法の曖昧さの問題で、いわゆる粒子が「衝突して」「散乱する」のはデルタ関数的なポテンシャルがあるからで、相互作用しないならもちろんデルタ関数的なポテンシャルもなく、「衝突(粒子が同じ座標に来る)」してもポテンシャルがないので相互作用せず、散乱もしません。

なるほど。うまくまとめてくれてありがとうございます。ちょっとこう言うことをアプリオリに仮定されるのは(もしかすると物理の方にとっては常識なのかもしれませんが)読み進める上で障害になるので解説助かります

集合・位相・実数論あたりを知らずに現代数学にアタックするのが無茶という程度に、学部物理の基礎体力なしに場の量子論のアタックするのは無謀なので、アプリオリな仮定というよりも「この本を読むならこのくらいの基礎知識・体力は仮定する」というところのミスマッチ感があります。

なるほど、失礼しました

物理なり他の専門の人が学部二年くらいであっても数学の本を読むとき、このくらいふとした一文でハマるのだと思ってもらえれば。この辺に関する話をこの間オンラインすうがく徒のつどいで話した所です。

てらモスの兄貴とのやりとり

なんか逆説的だけど、物理だと近接相互作用をする事を「衝突」と言っている気がするよ(´・ω・`)

今リプライしたのですが、「点粒子の衝突」には「同じ座標に来る」ことと「デルタ関数的なポテンシャルがあってそれで相互作用する」の二つの意味があり、同じ座標に来ても自由粒子だと相互作用・散乱の意味での衝突はしない、だというアレで空気を読んで使い分ける感があります。

確かに暗黙にそういう仮定を置いているとするのが妥当っぽいですね(´・ω・`)

自由粒子の統計力学というか気体分子運動論というか,その辺りだとさらりと流される邪悪なやつなのかもしれません。

統計力学だとさらに散乱と平衡への緩和の問題も絡むのにふわっとスルーしがちですね…(´・ω・`)

語学 フランス語・ラテン語で学ぶ英語/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • フランス語で遊ぼう

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フランス語で遊ぼう

devenir

これは古フランス語 devenir, ラテン語 dēvenīre (present active infinitive of dēveniō) に由来し, dē + veniō と分解できます. もちろん前回の venir に由来する言葉です. この de はフランス語の前置詞でもある de で, of や from のような意味があります. 他の単語, もっと言えば日本語と英語でもよくあるように, 英語と意味が一対一に対応するわけではありません.

意味は「---になる」で, 英語で言うと become の意味です. 単純に of + veniō と思うと意味不明ですが, ラテン語で arrive のような意味を持つため, 「何かに辿り着く」から「辿り着いて何かになる」というふうに意味が発展したのでしょう. もちろん語源をもっときちんと掘らないとこの意味の展開が正しいかはわかりませんが, 何にせよ語幹を育てるのは大事です. 他にも Wikitionary のラテン語で Related terms を調べてみるといいでしょう. 明らかに英語で良く見かける単語が並んでいます.

  • adveniō
  • antēveniō
  • circumveniō
  • contrāveniō
  • conveniō
  • ēveniō
  • interveniō
  • inveniō
  • obveniō
  • perveniō
  • praeveniō
  • prōveniō
  • reveniō
  • subveniō
  • superveniō
  • trānsveniō
  • veniō
  • ventitō
  • ventō

明らかに英語にもある接頭辞があります. これらはフランス語を経由してラテン語が英語に入っているのです.

英語だけで見ていると関係性が見えない単語の関係性が見え, 英語・フランス語単語を暗記する上でもとても役に立ちます.

現代フランス語としての意味・用法をもう少し説明します. 属詞 (英語でいう補語) の位置に来るのは原則として形容詞か, 職業・みぶん を表す無冠詞の名詞で, 「(形容詞が表す状態) になる」, 「(ある職業・身分) になる」が基本的な使い方です. 職業名でも形容詞がついて個別化すると不定冠詞がつきます. 「彼の妻になる」 devenir sa femme のように所有形容詞がつくこともあります.

ここで無冠詞の名詞と書きましたが, 冠詞も言語ごとに意味・用法に微妙な違いがあります. フランス語には部分冠詞という英語やドイツ語にはない冠詞概念があれば, 不定冠詞にも複数形があります.

疑問代名詞 que を使った表現もあります. 特に「何になるのか」, つまり事態や状況が「どうなる」のか, 人が「どうしている」のかをたずねられます.

他には非人称構文も持ちます. «il devient (ça devient) de plus en plus + 形容詞 + de + inf»で, 「---するのはますます (形容詞の状態) になっている」という意味です.

2021-09-25

数学・物理 つどい講演の補足: 「微分できない微分方程式の解」/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • プログラミング学習の再始動
  • つどい講演の補足: 「微分できない微分方程式の解」
  • 代数学の基本定理は「解析学」なしで証明できる?
  • メモ: 統計学のモデル選択と物理の近似
  • 「アホの子」向けの教育
  • ジョーンズの追悼記事
  • 谷村省吾さんの量子力学の教科書が出るらしい
  • 久し振りに見た河東講義
  • 鴨さんによる数学的帰納法に対する解説
  • 松原グリーン関数の解説

今回は雑多なネタが多いです. 興味があるところだけ適当に拾い読みしてもらえれば.

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プログラミング学習の再始動

ここ半年くらい中高数学・物理・語学との連携としてプログラミングで遊ぶ方向を模索しています. とにかく計算をしようぜ! という一つの方向性として競プロが面白いと思っているのですが, ちょっと凝った問題を解こうと思うとデータ構造またはアルゴリズムの知識が必要で, もういい加減きちんとやらねばと思ってどうすれば自分が楽しんで勉強できるかも含めてここ数ヶ月苦闘しています.

そしてようやく, いわゆる命令型の言語 (?) での勉強がつらいこと, もっと正確に言えば Haskell で書かれた本だと勉強が続けられることを発見したというか認めました. 私にとっては何をやっているか見やすい言語・書き方のようです. Haskell だと実行が面倒で, エディタの支援まで含めて, fsxで書いたコードを REPL に流し込んでパチパチ実行できる F#がお気に入りなのですが, F#で直接書いてくれている本がないため, がんばって Haskell でやる決意を固めました. Haskell だとたまに (F#にはない) 型クラスを使って書かれた本などもあり, プログラミングに関して雑魚なことこの上ない私には厳しいのですが, この辺が腹を括るポイントです.

話は変わりますが, 語学学習に関連して自然言語で「英語はどうにも肌は合わないがフランス語はすごく肌に合う」, 「『英語が駄目なのに他の言語なんて』と思わず他の言語に触れてみてほしい」という人を見かけます. プログラミング言語なら好みの言語はよくある話なので, 自然言語でもそうなのかと面白かった記憶があります.

あとこれを逆に回すのも大事だと思っています. 理工系だと英語は大事と言われていますが, 自然言語でも複数の自然言語に触れるのは大事なのではないかと. 相対論の勉強会でも科学雑誌を読む会でも少なくともラテン語・ギリシャ語の話はちょこちょこ出していますが, この二言語くらいはもうちょっとやっても罰はあたらないのでしょうか.

そしてこれらの言語, 数学や自然科学関係の文献も残っているはずなのにとかく文学関係の文献講読ネタしかないので, 理系向けにカスタムした何かをやらないといけないとも思っています.

とにかくやりたいことがたくさんあります. 数学でもプログラミングに絡めて数理論理系のネタも, 計算に関係するネタも, 九大の横山俊一さんがやっている計算機数論のようなゴリゴリの数学と絡むネタももっと勉強して遊び倒したいです. 一つずつ潰していくしかありません.

つどい講演の補足: 「微分できない微分方程式の解」

補足用の情報はメルマガ読者にも参考になると思ったので, こちらにも書く形で公開回答を作ることにしました.

「理論物理学者に数学を教える上でのコツ」で質問に関して応えきれていなかった感があるのでいくつか補足します. 「微分できない微分方程式の解」に関して粘性解を上げましたが, いい感じの具体例がすぐに出てきませんでした. それに対して例えば小池茂昭, 粘性解が古典解になる時---Caffarelli の研究の紹介にコメントがあります. 冒頭に幾何光学で出てくるディリクレ条件つきのアイコナール方程式 $|Du| = 1$ in $\Omega$ が出てきて, これには古典解 (滑らかなふつうの解) はないこと, そして境界からの距離関数 $d(x) = \inf {|x-y| : y \in \partial \Omega }$が境界条件をみたす一意的な解で, しかも粘性解であることがコメントされています. 弱解といったキーワードも出ています

これ以外にも (一次元の) 波動方程式 $u_{tt} = v u_{xx}$ の一般解として知られている $f(x - vt) + g(x+vt)$ からもいろいろな変な解を叩き込めます. 実際にはこのPDFにもあるように, ダランベールの公式という形で知られています.

ここで形式的には $f$ や $g$ は微分可能でなくても, もっと言えば関数である必要さえありません. 少なくとも超関数の意味で波動方程式をみたせるからです. これは物理としてもそれなりに意味があります. 「関数」$f$ や $g$ としていわゆるパルス波も取れます. 特に単発パルスの極限としてディラックの $\delta$-関数を取ることもできます.

この手の (物理の) 議論の中で出てくる対象としてグリーン関数やグリーン作用素もあります. 例えば拡散方程式で初期値がディラックの $\delta$-関数になっている解を考えることがあり, 物理ではこの場合の解をグリーン関数と呼びます. これはリーマン幾何の基礎で重要な一里塚でもある調和積分論でも出てくるグリーン作用素と大まかには同じです.

いろいろな形で数学・物理を縦横無尽に駆け回るテーマとも関わるので, 念のため補足を入れました. 私の専門とも遠いところで講演直後にパッと思いついたことを書いただけなので, 実際にはさらに深く広い話があります. 解析でも幾何でも, 物理でも. このサイトの中にもいくつかネタを仕込んであるので, サイト内検索などを使って調べてみてください.

代数学の基本定理は「解析学」なしで証明できる?

Twitter で呟いたら魔法少女に教えてもらいました. 面白いと思う人もいるでしょうからメルマガでも紹介しておきます.

メモ: 統計学のモデル選択と物理の近似

細かいことは和すれたのですが, この間 Twitter を見ていて関連することを呟いていた人がいました. この感覚が適切なのかよくわかっていませんが, 統計学は統計学で数学・プログラミングで遊ぶネタとして採用したいのでメモしてあります.

「アホの子」向けの教育

元がはてなの記事でそこから取ったのでタイトルがアレですが, とりあえずこれで. 備忘録的に記録しておきます.

ジョーンズの追悼記事

去年フィールズ賞受賞者であるジョーンズが亡くなったのですが, それに関する追悼記事が AMS から出たようです. Twitter で流れて来たので流し読みしました.

竹崎先生や河東先生の寄稿もあります. 特に直接知っていて作用素環の歴史も知る竹崎先生の話は本当に面白いです.

I couldn't find the words to express my surprise and stopped my car on the road side to calm myself.

ジョーンズのフィールズ賞に関わる話を聞いたときのエピソードとして記事の中にあった文章です. 竹崎先生の興奮が伝わって面白いです. ぜひ竹崎先生のところだけでも読んでみてください. 私が大学院に入った頃にはもはや常識的な話で「そういうものか」という感じでしたが, 当時の衝撃と影響力の大きさ, 範囲の広さが尋常ではなかったことを改めて認識しました. 場の量子論・量子統計の話, そして作用素論の勉強ばかりで, 本来の専攻である作用素環らしい作用素環をろくに勉強していなかったこと, こういうときに少し勿体なかったなといつも思います. 院生のときは院生のときで面白いと思ったことを全力で勉強していて当時としては確かに余裕もなかったのですが. 今からでも遅くはないですし, この辺もいつかきちんと議論することを目論んでいます.

谷村省吾さんの量子力学の教科書が出るらしい

谷村省吾さんと言えば代数的量子論の本も近々 (?) 出るらしいですがとりあえず.

堀田さんの本, Twitter で寄せられた質問に対して当人が長々と Twitter で解説していますが, そういう応答がないとわからないような内容なわけで, 行間がすさまじすぎて当人の講義資料くらいにしか使えないのではないか感があります. その辺の行間が少ない感じの本になっているといいなと期待しています.

久し振りに見た河東講義

はじめの五つが河東泰之先生による2018年の作用素環と共形場理論の講義です. 在学期間中に河東先生の講義がなく, 河東先生の講義を聞いたのは大学院を出たあとだったのですが, 聞く限りでは河東先生は講義うまいですね. 一つ二時間で五本あるので気楽にお勧めできるボリュームではありませんが, 内容自体は面白いので興味がある人はぜひ見てみてください.

この分野, あまりにも難しすぎて本が読めず, 自分でも触れられるところから鍛えようと思って非相対論的場の量子論・構成的場の量子論の勉強をしていたことを思い出します. 構成的場の量子論よりも遥かに多彩な数学が交差していて代数的場の量子論は非常に面白い分野です.

鴨さんによる数学的帰納法に対する解説

上でも数理論理系の話をもっとやらなければと書いていますが, こういうところからも数理論理的な視点や議論に発展するようですし, 情報系のガチガチのプログラミング言語の基礎といった本を眺めても自然数の扱いは重要なようですし, ずっと気になっているところです.

メイン
メモ

松原グリーン関数の解説

これも Twitter で流れてきました. グリーン関数・グリーン作用素は物理でも数学でもいろいろなところで出てきます. 幾何でもリーマン幾何の基礎理論の一つ, 調和積分論・ホッジの定理で重要な対象です. ここでは物性での場の量子論の視点からグリーン関数が議論されていて参考になります.

特に次の記述は場の量子論・物性らしいコメントで面白いです.

グリーン関数のイメージ.平衡状態に粒子をひとつ加え,その後粒子を一つ取り除いて平衡状態に戻すまでの「擾乱の伝播」を表す.

語学 『ファインマン物理学』のオーディオが公開された/相転移プロダクション

今回の内容

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  • 『ファインマン物理学』のオーディオが公開された
  • 再帰動詞とサンスクリット
  • フランス語で遊ぼう

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『ファインマン物理学』のオーディオが公開された

リスニングはもちろんのこと, スピーキング・ライティングの修行にも使えそうです. 最近プログラミング関係の調査・勉強で語学が疎かになっているので, 仕切り直しと勉強を楽しむためにこれを使ってみようかと思っています.

再帰動詞とサンスクリット

この間聞いたところによると, サンスクリットでは目的語は欲望の対象で, 動詞はその欲望の解消手段と捉えるのだそうです. 再帰動詞は自分自身に欲望が向かうという視点で捉えた呼び方と捉えられ, ヨーロッパの言葉に深く刻み込まれているとか何とか. ちなみにフランス語だと再帰動詞を代名動詞と言います.

再帰と言われると私はやはり数学とプログラミングを思い出します. 再帰的な定義, 再帰的なデータ構造など, 根本的なところでよく出てくる概念で数理論理・計算機科学で非常に重要な概念です. 何だかんだ言って数学・プログラミングは西洋で生まれ発展したので, 西洋の言葉・文化がここにも反映しているのかもしれません. いわゆる関数型言語の入門ではよく強調されるものの, 実際にはそれ程使われないとも良く言われます. 競技プログラミングで遊んでいると割とよく使うように思います.

いまの私の習熟度で脳死で競プロのコードを書くとすぐ再帰になります. ちなみにループの代わりに使います.

いまデータ構造とアルゴリズムをシコシコ勉強していますが, 関数型言語というか型が強い言語, 特に Haskell は基本的なデータ構造はよく再帰的に書けます. これが状況をすっきり表してくれて私には本当にしっくりきます.

パフォーマンスを求めるなら, そもそも C なり何なりで書くべきでしょうからまた話は変わりますが, 少なくともデータ構造とアルゴリズムを勉強するときは Haskell 便利だと思います. 最近 Lisp でのデータ構造とアルゴリズムの本が (はじめて?) 出たそうで買って読んでいるのですが, これはこれで面白いものの Haskell ほどデータ構造が見やすくありません. 理解を深めるためにいろいろな言語で実装を見てみる分にはいいかもしれませんが, 初学で様子を掴むにはやはり Haskell がいいのではないかと思います.

私のお気に入りは F# なので F# 版の書き換えもやろうと思って, ここでいろいろやっていました. しばらくさぼっていたのですが, プログラミングも本格始動しようと思っていまリハビリ中です.

フランス語で遊ぼう

venir

前回の aller (行く) と対になる動詞で「来る」の意味です. 昔の言葉は「行く」と「来る」の区別がなかったようで, 同じ単語で「行く」と「来る」両方の意味があります. 実際ロシア語などは古い形をよく残していてどちらもидти, ехатьを使います.

語源はやはりラテン語で venīre (veniō) です. フランス語内でも advenir など跳ねる言葉があり, 見てわかるように英語にも adventure としてそのままの関連語があります. これはフランス語からわかるように ad + venir と分解できます. 相対論でも出て来て驚いたのですが, event も ex + venir と分解できるフランス語・ラテン語由来の言葉です. ついでに prevent もフランス語の prévenir に由来し, ラテン語 praevenīre (praeveniō) に由来します.

用法の上でも aller と比較するのが有効なようで, 「来る」という中心的な意味から, 英語のように「出身や産地, モノの由来」を表します. 他にも英語と同じく話し手がいる場所, 話し手が行く場所に「来る」ときにも使うため, 日本語としては「行く」と訳すべきときもあります.

aller+inf. が「---しに行く」を意味するように, venir+inf. が「---しに来る」を意味します. さらに aller で近接未来が作れるように, venir は近接過去を作ります. ただ aller と違って venir de + inf. の形で, 「たった今---したところだ」の意味です.

他にもモノを主語にして, 時期や出来事が到達する・生じる, 感情や生理現象が起こる, 考えが浮かぶといった用法もあります.

英語と同じく基本的な動詞として異様な活用をします. 過去分詞は venu, 現在分詞は venant で, 現在形は次のように活用します.

人称 単数 複数
一人称 je viens nous venons
二人称 tu viens vous venez
三人称 il vient ils viennent

2021-09-18

数学・物理 明日はオンラインすうがく徒のつどい/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • 明日はオンラインすうがく徒のつどい
  • 二次元アニメーションのグラフに関して
  • プログラミングの地道な学習
  • 経路積分

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明日はオンラインすうがく徒のつどい

以前アナウンスしたようにオンラインすうがく徒のつどいで講演希望を出して通ったので, 「理論物理学者に数学を教える上でのコツ」というテーマで話をしてきます. 役に立つ話ができるかと戦々恐々です.

二次元アニメーションのグラフに関して

オンラインすうがく徒のつどいで物理と数学の狭間ではまること, みたいな話をしますが, 数値シミュレーションに関連して, それとも関係あるような質問をもらったので共有します.

アニメーション:x, yで空間2次元なのはわかりますが z 軸のラベルをuとしているのがちょっとわからないです。空間2次元・時間1次元のケースだったはずがアニメーションが空間3次元になっているのはなぜなのでしょうか。

これは一次元のときに横軸が変数の$x$で縦軸は関数の値$u$, アニメーションの「コマ」の意味でも時間変化が時間発展で$t$を表しているのと同じで, 単に$z$軸が関数の値$u$になっただけなのですが, 確かにきちんと言われないとわからないのかもしれません.

これの前に空間一次元の熱方程式のシミュレーションもやっていてそちらには質問がなかったので, むしろ一次元だとなぜ何の問題もなく受け入れられたのかが大事なのかもしれません. 三次元グラフはあまり見かけないからというだけなのかもしれませんが.

何にしろわからないポイントは人によって様々というのを改めて実感しました.

プログラミングの地道な学習

今も新しい本が出続け, いろいろな形で陰に陽に使われていますし, 競技プログラミングも含めて遊ぶための裾野さえ広がっているので, データ構造とアルゴリズムの勉強を地道に進めています.

2021年に初の LISP でのアルゴリズム本が出たというので, それを買ってみたり, 以前買った競プロ系の本を読んだりしています. 大事なことはわかっていつつどうしても飽きてしまうので, 勉強会ネタにして人を巻き込んで無理やり勉強する理由を作って進めています.

ふと思ったのですが, 関数型言語によるデータ構造とアルゴリズム本があったのを思い出して読んでみたのですが, 不思議とこれは続きます. ちなみに Haskell を使った本です.

Haskell はデータ構造をデータ型で表現でき, 関係する関数も型から自然に導けてサンプルコードも読みやすく, 読んでいて楽しいです. そもそも Haskell が気に入っているというのはあります.

Haskell これ自身は純粋性からこういろいろと面倒なことがあり, Unix 系でないと困る点もあって, 実際には F# に移植していろいろやっています. 私の F# の腕では直接でなくも移植するのは大変なのですが, VSCode での REPL 連繋のよさもあって F# は本当に快適で気に入っています. LISP は LISP で私のメインエディタである Emacs との相性というか設定の楽さがあって, コーディング体験自体は非常にいいです.

語学の方で多言語を無理やり進めていますが, 言語の方もそれなりに多言語の特徴を見てみたいというのはあり, とりあえず飽きずに勉強を進められるようにすることを優先させています.

経路積分

量子力学レベルでの基本的な部分はノート作りが終わりました. この内容だとやはり Simon の Functional Integration And Quantum Physics が基本文献のようで, いつかはこれにもアタックしなければいけないと思っています. Simon は関数解析系数理物理の聖典, Reed-Simon のきつさの印象が非常に強く, この本もそういう厳しい感じの本でなければいいのだがと戦々恐々しています.

最近新しいことを詳しく勉強しようモードなので, 超準解析・超準確率論と量子力学という方向の経路積分の勉強をはじめました. 超準解析に関して適当に質問するとさっと答えてくれる知人がいるので非常にありがたいです. 超準解析は小澤正直さんが量子測定に応用しているそうなので, そういうところも勉強したいと思っています. 公理的集合論や数理論理もいつか改めてきちんとやりたいところです. 勉強したいことはいろいろあります.

最近モードチェンジしてしまって, リーマン面まとめ企画が頓挫していますが, これもそのうち復活させるのでしばらくお待ちください.

語学 フォーマルな英単語と外来語/相転移プロダクション

今回の内容

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  • 第38回 第19文の多言語比較・読解 アインシュタインの特殊相対性理論の原論文を英語・多言語で読む会 https://www.youtube.com/watch?v=gb_KyWloI3g
  • フォーマルな英単語と外来語
  • フランス語で遊ぼう aller

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フォーマルな英単語と外来語

これは勉強会で小ネタとして紹介した内容でもあります.

Twitter で次のツイートを見かけました.

表は下に転載しておきました. 今週ワクチンの副反応による体調不良で時間がなくて調べ切れておらず, 上で引用したような意見もあるので必ずしも正確ではないようですが, いくつか明らかに informal はゲルマン系, formal がラテン系の語彙になっています.

異文化を受け入れた側にとって固い言葉が外来語というのはよくある話なのかもしれません. ラテン語にしてもその前の古代ギリシャ語の語彙をそのまま使っているケースがあります. 哲学や自然科学系統のラテン語単語はギリシャ語由来の単語がよくあります.

逆にフランス語やイタリア語などのラテン系の言葉での口語・文語がどういう区別になっているのかが気になっています. 日本語・英語についてはある程度まで外来語が formal な用途に使われると言えますが, 大元の外来語の方ではどうなっているのかがいまの私の問題意識です. 先のツイートでもゲルマン語内での informal/formal 問題があるので語感がかなり気になっています.

以前, Twitter で「自分の書く論文でもネイティブから見ると 『我々はこの手法を用いて研究しまちゅ』みたいな文章を書いていないか時々不安になる」みたいなのを見かけたことがあります. あまり気にしても仕方ないとは思いますが, 本当に気になるならフランス語・ラテン語を軽く勉強してみるという手法はあるのかもしれません.

あとこれもTwitterで見かけてメモしたはずがどこにあるかわからない事案で, 「日本語が完全に流暢に話せる外国人の知り合いに, 滞在許可的な公的な話をする役場に行く上で日本人の自分が付き合わされた理由」的なツイートがありました. その外国人が話せるのは完全に日常会話の語彙しかなく, いわゆる formal な言葉が話せず, formal に話すべきところで formal な語彙・表現を知らないデメリットを強く知った, みたいな話がありました. formal な表現を知るべき理由みたいなところでちょっと衝撃を受けました. 確か特にその知人がアジア系の若い女性だったようで不法滞在系の疑義を受けやすく, その状態で「だからそう言ってるじゃん」みたいな口語日本語しか話せないようだと, いわゆる TPO の問題で場に合った表現ができないと非常に印象が悪いわけで, 冗談ではすみません.

そもそもの話として, こうしたフォーマルな表現は日本語でも説明ができません. 日本人ネイティブでも個々の単語に関して判定はできても一般的なルールは説明できません. 英語であっても, 言語学者でもない限りルールは説明できないでしょう. きちんとした英語を話さなければいけない人や, そうしたニーズはあると思うのですが, いいコンテンツがないように思います. とりあえずフランス語・ラテン語を勉強するといいのではないかという暫定的な判断をして, これらを勉強しています.

informal formal
choose select
maybe perhaps
show demonstrate
look for seek
first of all to start with
live reside
whole entire
blow up explode
anyway nevertheless
sorry apologies
I think In my opinion
to sum up in conclusion
in the end finally
but however
point out indicate
go up increase
stand for represent
leave out omit
think about consider
seem appear
rich wealthy
ask enquire
buy purchase
climb ascend
check verify
get receive/obtain
go leave/depart
help assist
keep retain
see observe
stop cease
start commence
tell inform
try endeavour
use utilise/consume
want desire/wish for
good positive
childish immature
free release
buy purchase
give provide
ask enquire
so therefore
check verify
get by survive
say express

フランス語で遊ぼう

aller

これは異様な活用をする単語として有名です. あとで直説法現在と単純未来の活用表を載せておきます. 直説法現在は va と原形 aller 系の語根があり, 単純未来では ira 的な要素が語幹になっています.

Wiktionaryによると補充形 (ほじゅうけい、suppletive form) の動詞で, 補充形とは異形態の一種で他の異形態と音韻的な共通性のないものを指します. これはラテン語 vādō ("I go") が現在形を与え, eō と同義の現在能動不定形 īre が未来形と条件法を与えます. all- の形は中フランス語 aller, 古フランス語 aler (with subjunctive aill- and other forms with all-), 俗ラテン語 *alō から導かれたようです.

英語でも go-went-gone のように過去形で went という異様な要素があり, 基本単語は基本的なだけに, 意味としても形としてもよく使われるいくつか基本的な単語を巻き込んで一語になっていることがあります. 英語の know を調べてみてください.

aller の意味を少し掘ってみましょう. まず意味については中心的な意味は「行く」です. ここから物事や機械が「調子よく進行する・動く」ことや, 毎日の暮らしや健康状態が「順調に進む」ことも意味します. 例えば «Ça va?» (元気?) は有名でしょう.

他には服や家具などが人やモノに「似合う・調和する」ことにも aller が使えます.

英語で be going to がいわゆる未来形を表せるように, 助動詞的な用法があります. 一つは「---しに行く」という表現で, もう一つは近接未来の表現です.

近接未来は直後, または確実に起こることに使う表現で, 単純未来よりも主語の意志や主観が強く出ます. 例えば「お金を返すね」と言いたいときは近接未来で言うべきで, 単純未来で言うと「余裕ができたら返すかも」のような意味で取られてしまうようです. こうしたニュアンスを時制や助動詞で表現できるのがフランス語の面白いところで, 文学・言語表現上のポイントのようです. 近接未来を過去形にするときは半過去になるといった話もあります. フランス語は英語と比べて少なくとも文法上の時制は非常に複雑です. 私もいまだにまったく勉強が進んでいません.

ちなみに古い言語では「行く」と「来る」に区別がなく, 同じ単語になっているようです. 例えばロシア語はいまでもその古い特徴を保っていて, 実際「行く」と「来る」が同じ単語です.

直説法現在
人称 単数形 複数形
一人称 je vais nous allons
二人称 tu vas vous allez
三人称 il va ils vont
直説法単純未来
人称 単数形 複数形
一人称 j'irai nous irons
二人称 tu iras vous irez
三人称 il ira ils iront

2021-09-11

幾何との連繋・経路積分の技術的面白ポイント/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

いま細かい内容は web に飛ばして, 興味があるところだけ読めるようにしているため, 個々の読者の方にはあまり関係ないとは思うのですが, 数物系と語学と二つわけるのが面倒になってきたので, 今後はメルマガで発信する口自体はわけつつ, web 上でのメルマガページは統合するかもしれません.

読みやすさと私の書きやすさ・管理のしやすさを考えつつ, web 上での載せ方はちょっと検討する予定です.

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幾何との連繋

プログラミング講座に参加されている方から「幾何をもっときちんと見てみたい」というコメントを頂いたのですが, 何をどうするといいかというのがいまだにあまりよく見えていません. 正確に言うと, 自分が制御できる範囲は日々拡充させていて, 見せたい切り口もあるのですが, まだ面白く語るに足る力量が備わっていない状態です. 興味がある人はいると思うのでプランというか概要は紹介しておきます.

現代数学探険隊では微分論の最後, 陰関数定理と逆写像定理の議論の中で円周から多様体への議論を詳しく議論しました. 多様体自体は高校数学からも直接攻められる世界ではありますが, 抽象化した瞬間に即死レベルのコンボを叩き込んでくる曲者です.

よくある曲線論・曲面論はいまだにどう導入すると面白くなるのか見えていません. 極小曲面論や変分と絡めた議論すればまた違うと思うのですが, そうなると関連する数学が難しくなってきますし, どうすると面白いでしょうか. 曲線論は常微分方程式と絡めると多彩な世界が描けるとは思うのですが, なかなか気に入る導入が見えていません.

ここまで書いて思い出したのですが, 以前献本してもらった井ノ口『曲面と可積分系』はかなり面白い本です.

中高数学から飛んでいくにはあまりに厳しい本ですが, 一つお勧めではあります.

それはそれとして微分積分の徒手空拳から幾何に行くアプローチ, 何かいいのを見つけたいとは前から思っているものの, 幾何への素養がいまだに育っていないため, 微分位相幾何や微分幾何のかなりハードなところしか思いつけていません.

あともう一つ気になっているのは最近の物理・機械工学・制御などへの幾何の応用です. 例えばロボットで関節などの位置・座標を制御パラメーターとすると, 腕の長さなどの座標の制約があり, 数学的には部分多様体の議論が自然に出てきます. 姿勢の安定性の判定の条件は関数の極値問題ですが, もちろん幾何的な解釈があり, そこからの幾何との関係もいろいろあると聞いています. 他にも猫の宙返りの微分幾何は有名な話で, それもそれほど簡単ではありません.

微分積分を一所懸命がんばった最果てで幾何が出てくる世界はとても気になっていて, もっときちんと勉強しようと思って, 基礎の勉強を進めるばかりで何も手についていません. これも勉強会形式で無理やり人を巻き込むのがいいのだろうとは思っています.

以前メルマガとしても切り分けた語学の話も, 勉強会で人を巻き込むようにするといろいろと捗ることがわかったので, やはり人を巻き込んで何かするのが勉強を進める近道だと最近痛感しています. 語学方面の知見を深めるために眺めたラテン語の本でも, 「ラテン語を勉強する一番簡単な方法は教えることだ」という話が紹介されていて, 「学習歴は関係ない. 教え, そして学び続ける意志とそれを実行にうつす力が大事だ」と書かれていました.

数学・物理だとかえっていい加減なことができなくなるのもわかっているので, 少し目先を変えて数学・科学関係の英語の記事を眺めることで英語・語学と科学を一緒に勉強しよう, みたいな企画を回しています. 変な話ですが, これは素人なりにいろいろ遊んで楽しいという姿勢を前に打ち出す形で楽しめています. 語学と数学・科学を絡めた方向から攻めるのも一手だと思っているので, まずはそちらでいろいろ遊ぶ算段を立てています.

木村太郎さんからのコメント: 素粒子と物性と幾何と解析と

この間メルマガで書いたことに関して, 文献をいくつか教えてもらったので紹介します.

カイラル対称性というのは詳細は省きますが,ディラック演算子の指数定理と深い関係にあります.それを格子上でどう定めるか,という問題は数学的にも面白くて,最近は古田先生なども興味を持たれている様です:

あとは関根さんの後輩たちもこういった論文を書いてます:

という感じで,素粒子論の業界的には,格子ゲージ理論 $\sim$ 数値シミュレーション,という研究が多いと思いますが,個人的には物理・数理的にも面白いトピックだと思います.日本語でも青木慎也, 格子上の場の理論という教科書があります.

双対性といってもいろいろあるのであれなのですが,橋本さんの想定していることの一つに,例えば全く別の文脈で同じ方程式が出る,というのがあると思われます.これを体現したものとしてKoji Hashimoto, Taro Kimura, 2015, Band spectrum is D-brane こういう論文があります.

あと格子QCD・ゲージ理論に関連して関連する文献もいくつか教えて頂きました.

Peierls (1933) Zur Theorie des Diamagnetismus von Leitungselektronenも参考になるようです. 格子ゲージ理論に対して作用素環と指数定理などの関係もいろいろあるようで, そんなところまでと思ってかなり驚いています.

現代数学探険隊 解析学編 PDF 販売のページにも指数定理の話を書いています. なぜ指数定理を盛り込んだかというと, ここにもあるように幾何と解析と (一部の) 物理との架け橋になっているからです.

大定理にもいくつかの種類があります.

  • 結果それ自体が強い.
  • 結果も強いがそれを証明する技術面でブレークスルーがあり, 証明技術に強い応用がある.
  • 結果それ自体がさらなる理論の基礎にもなる.

指数定理はいろいろな定理を統合する定理であり, しかも結果それ自体がさらなる理論の基礎にもなるタイプの定理です. 作用素環の応用の一つである非可換幾何でも, 指数定理の展開が一つのポイントなようで, 夏目-森吉の有名な本にもコメントがあります. 私自身ますます幾何や指数定理への勉強意欲が湧いてきました.

前から数学関係者向け, または学部低学年からなるべく面白く多彩な物理に触れられるようなコンテンツ作りは目標で, その一つに線型代数だけで戦える格子模型がずっと想定にあります. 私自身修論で議論したハバード模型は, 線型代数の徒手空拳でいろいろなことがわかる教育的なモデルでもあると思っています. 修士の頃にも読んだ田崎さんのレビューが一つの方向性です. 最近スピン系まで含めた本も書かれたようなので, それもチェックしないと, と思いつつ読めていません.

数学的に少ない予備知識から物理に迫るラインナップとして, 格子ゲージ理論もいいのではないかという霊感があります. 何だかんだで量子力学に興味がある人は多く, 物理的な予備知識をおさえて量子力学に触れられることに越したことはないので. そんなに簡単ではないと思いますが, 数学としても物理としても, プログラミングとしても数値計算で遊ぶ方向は一つの核と捉えていて, 数値計算の蓄積がある分野としても注目しています.

基本的な線型代数・微分積分からの広い数学への展開として, ランダム行列もかなり使えそうなので, 引き続き時間を作ってランダム行列の本も詳しく読み進めていくつもりです.

経路積分の技術的な面白ポイント

いま物性の基礎の本を適当に眺めているのですが, 経路積分・汎関数積分を主軸に据えた本らしく, そこでも強調されていた話があります. 現状, 物理の経路積分に対してコメントできることはないものの, 雑に読んでいるので本に書いていなかったような気がする分まで含め, 最近確率論と絡めて勉強していると言っている経路積分に関して数学面からいくつかコメントします. 以下面倒なので経路積分を汎関数積分で通します.

汎関数積分のいいところは作用素 (演算子) を関数で評価できるところにあります. 特にハミルトニアンという「作用素」積分で書けるのが強烈です. 積分に関しては近似含めていろいろな評価技巧があるため, それが転用できるのがポイントです.

作用素は何が難しいかというと, 作用素はまさに作用で, その前後の結果しかわからず細かいことが何も見えません. 一方で積分作用素として積分で書けると, 各点ごとの細かい様子が見えるようになります. つまり作用素を作用素として見るとブラックボックスになっている部分が見えるご利益があります.

もう一つ大事なのは自由場のハミルトニアンがガウシアンと直結することです. 特に $e^{-x^2}$ の評価がポイントです. 強い収束性を持つ因子なので収束性の議論もしやすくなり, それがありとあらゆる良い評価法の基礎です. 鞍点法のような古典的な良く知られた評価も使えてとにかく便利です.

微分と積分についても簡単にコメントしましょう. まず数学から見た微分方程式論では一項一項の処理がとにかく大変です. ある項があるかないかで方程式の性質が激変します. 物理ではよく「いま考えている議論ではこの項は落とせる」というのがありますが, 数学でそれをやると方程式の性質が激変して, 使える手法が使えなくなることがあります. もちろんある手法が使えないことと方程式論としての難易度が直結するわけではありませんが, 解の定性的な振る舞いが変わるので数学的な細かい処理に影響が出てくる可能性は常にあります.

微分が面倒なのは差の処理の面倒さに由来します. 微分係数の定義はもちろん $\lim_{h \to 0} \frac{f(x+h) - f(x)}{h}$ ですが, 引き算の処理は面倒なのです. これは積分と比較した方がわかると思うので積分の話をしましょう.

積分は足し算の極限なのでとにかく足します. そしてある程度実数論などを勉強した方にはわかるように, 不等式処理をするときは三角不等式なり何なりで正・非負の数を足し上げる形に帰着させます. 正・非負の数を足したら値が正の方向に積み上がるだけなのでごくごく単純です. 微分の場合は差で正負が入り乱れるため, こういう単純な処理ができません. 変分法が便利なのもこの事情によります. この点でもとにかく積分に帰着させたいのです.

またできる限り全体の様子を使い倒したいのは統計学でも同じです. いわゆる最尤法は原理的に尤度関数の極値の情報しか拾えません. 一方, 昔のベイズ主義がどうかはともかく, 最近流行りのベイズ統計は尤度関数の情報をもっときちんと拾うのがポイントです. 今流行りの内容に関するベイズ統計がかつて難しかった理由の一つは, 関数全体の情報を拾うのが難しかったからで, 高次元積分の数値処理が難しかったからです. 最近はコンピューティングパワーが格段に上がったので計算機で高次元積分をぶん回せるようになり, 積分絡みの計算がやりやすくなった事情もあります.

計算機というかプログラミング関係の話を地道に勉強してコンテンツを作っているのも, やはりこの流れ, または勉強の結果によります. 数学・物理だけやっていたときよりもも別角度から数学の難しさが見えてきて, これはこれで面白い点があるからです. この意味で, 応用などは一切関係なく数学として統計学に触れてみるのも一興です. 数値計算・プログラミングも絡めて勉強できる・する価値のある分野で, 関数列の収束を数値的に追い可視化する手法さえ発達しているので, ふつうに解析学の教材としても使えます. この辺は統計学の勉強会をやって実感できた知見です. 統計学で育っている手法とそこから見える世界は, メルマガ読者のあなたにもぜひ体感してほしい世界です.

やりたいこと・紹介したいことは毎度毎度山程あります.

英語 event とフランス語 événement とラテン語/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

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読みやすさと私の書きやすさ・管理のしやすさを考えつつ, web 上での載せ方はちょっと検討する予定です.

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勉強会のメモ

語学の勉強会もはじめてそろそろ一年です. 毎回面白いと思ったことを話しているので私は楽しいのですが, 一年ずっと参加してくれる人がいるので, どう控え目に言っても万人受けするとは思いませんが, 響く人・求める人はもっといるだろうと思っています.

数学・科学・プログラミングとも絡めようとしていることもあり, 人を選ぶとは思いますが, だからこそ求めている人もいるはずです. 勉強会をはじめてから一年経ったこともあり, 求めている人がきちんと探せるように, そろそろ本格的に情報発信しないといけないフェーズだと思っています.

科学雑誌を読む方も, いろいろな文章をさくさく読むのも, 中高生向けの文章から必ずしも数学・物理に特化しない日常系の語彙に出会う機会にするのも, 訳した日本語から英語を復元する英作文に転用するのも, 科学系の知見を増やすのにも使えそうです. 色々な活用法がありうるので, 遊び倒せるコンテンツとしてどう使うか妄想を膨らませています.

フランス語で遊ぼう

各言語のページに単語のオンライン辞書へのリンクや調査メモ (和訳) があるので, 必要に応じて参照してください.

événement

これは今回の相対性理論の勉強会で出てきた単語で, des événements simultanés として出てきました. 対応する英語は simultaneous events で, 対応するドイツ語は gleichzeitige Ereignisse でした. ドイツ語は明らかに別物で英語が明らかにフランス語に寄っています.

フランス語は明らかにラテン語由来で, 実は ex + veniō と分解される単語だそうです. アリナミン Ex のように ex はもはや日本語化していると思いますが, event が ex から来ているのを知ってちょっと驚きました. ちなみに以前調べていたものの完全に忘れていたので, 時々きちんと復習するのも大事だなと感じています.

ちなみに veniō は come の意味で, フランス語だと venir でイタリア語では venire です. イタリア語で come は Come sta? / Come stai? などに使われていて, 英語でいう how/as にあたる全く別の単語です.

フランス語またはイタリア語は語彙がほぼ直接ラテン語とつながっているので, ラテン語はちょっと, というならとりあえずフランス語やイタリア語を勉強してみてはどうでしょうか. ラテン語は文法というか実際の文が凄まじいことになっているので, 文法までやりたいならそれ程参考になりませんが, 単語に関してはある程度参考になります.

相対性理論の勉強会動画でもいろいろ話しているので, 詳しくはそちらに任せます. いったんクローズ状態にした数学・科学の雑誌や記事を読む会でもいろいろ話しています.

prendre

よくある訳は「取る・掴む」です. 英語と同じく基本単語は異様に幅広い用例・用法を持っていて, この prendre も同じです. 「ものを手に取る」から戦争で街を「取る・占領する」まであります. 「人からモノを取り上げる・奪う」ときにも使えます.

方法や手段を「選び取る・選択する」意味への展開もあり, 「ある方向・道に進む」, 「ある交通手段を選ぶ」, 「メニューを見て選ぶ」, 「食べる・飲む」にまで使えます.

他に恐ろしい用例として自動詞として「(液体が) 固まる」, 「(火が) つく」, 「効果がある」といった意味さえあります.

もっと詳しく見てみたければ次のオンラインの仏仏辞書を見てみるのもいいでしょう.

ラテン語では prendere にあたることも書いてあります. やはり英英, 仏仏, 独独辞書などはとんでもないことまで書いてあるので, 一語を深く突っ込んで勉強するには欠かせません. 語源については Wikitionary も楽しいです.

Wikitionary には prae- ("before") + *hendō ("I take, seize") と分解されると書いてあります. 前者の prae- はいわゆるプレでしょう. 大学受験の頃のプレ模試などで日本語化していると言っていい言葉と思いますが, こういうのもラテン語なわけです. 後半の *hendo は英語にも入っていて, comprehend や apprehend があります. これも以前相対論の勉強会で話したことがあり, com は con でこれがまたラテン語由来で, 英語の中にもたくさんあります.

これも勉強会でいろいろな例を挙げつつ話していて, 今回も少し触れたのですが, フランス語はノルマンコンクエストでイングランドを支配していた歴史的経緯があり, 支配層の言葉, (当時の) 文明的・先進的な言葉として固い言葉・正式な言葉として, 英語の中に散りばめられています.

よく英語でも他の国の言葉でも, もちろん日本語でも「それで通じるが, 幼稚な表現なので避けましょう」と言われる表現や単語があります. 日本語でこれらをよくよく考えると, 割とこう日本語本来の言葉と漢字語, もっと言えば中国的な言葉に行き着きます. 英語でもフランス語由来の言葉は固い言葉・正式な言葉としてよく使われる雰囲気があり, 相対性理論の原論文のドイツ語と英訳を見比べるといろいろ見えてきます. 学術的に使われている単語で, ドイツ語はドイツ語をそのまま使っているところに, 英語だとフランス語と同じ単語が当てられていることがよくあります.

大人の格好いい英語を使いたいという人は, フランス語を勉強してみるといいかもしれません. 逆にこういう要望を持つ人向けに英仏をうまいこと絡めて勉強する方法を紹介・提案すると, これはこれで引きがあるのかもしれません. いろいろ考えて集客的なこともがんばります. 興味がある人いたら連絡を頂ければと思います.

2021-09-04

宣伝: 富谷昭夫さんの場の量子論勉強会/相転移プロダクション

今回のテーマ

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宣伝: 富谷昭夫さんの場の量子論勉強会

最近 Julia 関連でも積極的に活動されているようですが, 富谷昭夫さんが場の量子論の勉強会を開くそうです.

私も物理としての場の量子論の勉強も半端で止まっているので参加しようと思ったものの, 時間が合わなくて断念しました. 興味がある方もいるだろうと思ったのでここでも紹介しておきます.

オンラインすうがく徒のつどい

先日お伝えしたオンラインすうがく徒のつどいの日, 9/19も迫ってきたので本格的に資料作りをはじめています. 参加募集も出ているので念のため宣伝しておきます.

あまりよくわかっていないのですが, 配信スタイルはいろいろあっていいようで, 私の分は YouTube ライブでやってみようと思っています. まだ使ったことがないので当日までに何度かテストしてみないといけないと思っています.

内容としてはアブスト通りですが, 基本的な内容をきっちりやるべきだと思って詳しく作っていたら, あまりたくさんのネタは盛り込めなさそうです. 一応話す内容は YouTube にも上げた内容なので興味があれば YouTube を眺めてみてください.

確率論・経路積分

書いたかどうか忘れたので念のため書いておくと, 読んでいるのは新井先生の汎関数積分の本です.

とにかく異様なくらい丁寧で読みやすいので本当に助かります. 一段落したら超準解析と確率論まわりの話を勉強しようと思っています. 代数と幾何の基礎事項のノート作りも必要なのですが, せっかく堀田量子で量子力学づいてきたのでこの流れでしばらく進める予定です.

新井本を読んで改めて思ったのは, やはり確率論を勉強したいというよりも, 量子系の数理, 作用素論と絡む形での確率論に興味があるのだろうという自分の趣味です. あとは大偏差原理と統計力学まわりもずっと興味はあって, いつかアタックしたい分野です.

プログラミング, アルゴリズム

統計の勉強会で, 「自分一人ではなかなかやらないが, 勉強してみたいこと, 何かしらの意味で勉強しておかなければならないこと」として, いくつかのネタを並行してやっています. そのうち Julia の Statistics ライブラリのソースを読んだりするのも考えています.

アルゴリズムも取り上げようと思っていて, Twitter で適当に呟いていたら Common Lisp でのアルゴリズム本なども教えてもらいました. 私は普段使いのエディタが Emacs なのですが, Emacs と Common Lisp は異様に相性がよく Chromebook でも軽快に動くので, この本も並行して読んでみようと思っています.

おそらく人にお勧めしにくい言語なのでコンテンツとして組み上げるときには困りそうですが, プログラミングコンテンツも自分の勉強を兼ねていろいろ遊んでみています.

既存のプログラミングコンテンツもいまいろいろ感想をもらっているのですが, 割と狙い通りの感想をもらえていて面白いです.

あとプログラミング, 特に競プロをやっていると, 中学・高校のときの単元ごとの大量な演習問題がほしくなってきます. AtCoder が資格本を出しているようですし, それにたくさん載っているかもしれないので調査しようと思いつつ, 時節柄本屋にも行けていないのでまだ調べられていません. この辺もたくさんある課題の一つです. 数学・物理の人向けのコンテンツとして非常に重要だと思うので, いつかはきっちり組み上げたい対象です.

思ったよりもラテン語は無茶苦茶だった/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

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今回の勉強会の記録

今回は小ネタは雑誌を読む勉強会に回したので, 相対論の方は相対論に集中できました. 相対論は一年かけてようやく 18 文目まで行きました. 余計な話もいろいろしているので凄まじく進展が遅いですが, ようやく時間と事象の処理が大事だと明言された部分が来て, 本格的に相対論に入りつつあります.

科学雑誌の方は小ネタを 40 分も話していたのでまた本編である, まとまった文章読みの進みが悪かったのですが, こちらはもっと雑多に, かつ私の時々の勉強内容の共有的な部分もあるので, まあいいかと思って (私にとっては) いい意味で適当に進めています. ラテン語を改めて雑に勉強したのでその話もいくつかしています. エンタメと絡めた話や語源の話もしました. 今回話すのを忘れた文法上の性質もあるので, 次回の「数学・科学の雑誌を読む会」で話す予定です.

学部二年のときにもいわゆる教養の講義でラテン語をやったのですが, そのときの記憶がもうほぼありません. 文法をどこまでどうやったか覚えていないのですが, こんなに覚えていないものかと衝撃を受けています.

それはさておき, いまメインの英・独・仏・伊・西にとってラテン語・ギリシャ語が大事なので, 本当に雑にラテン語・ギリシャ語を勉強した話も少ししました. 文法も大事ですが, 現状私の趣味は単語比較にあるので, むしろ単語を大量に覚えるのを頑張らないといけない状態です. フランス語は実用目的でいろいろやり, そこからラテン語はある程度カバーできるのですが, ギリシャ語・ロシア語・アラビア語・中国語あたりの単語を大量に叩き込まねばならず, 道は遠いです.

アラビア語は文字から覚えなければならず大変です. ギリシャ語も文字はわかるのですが, 古典ギリシャ語はアクセント記号でやたら発音が切り替わるので, それをきちんと覚えるのが本当に面倒です. こういうとき音声教材の補助があると便利だと改めて実感しました.

最近さぼっていますが, 英作文ももっと訓練しないといけません. 目が回るほどやることがあります.

最近本当に思うのは, やりたいことは勉強会を立ち上げて人を巻き込んでやるのが一番ですね. ドイツ語・フランス語の勉強はまさに相対論の勉強会のためにというモチベーションがやはり強く, その他の言語も勉強会で話をするから無理やり時間作ってやっている面があります. 英作文も専用の勉強会を立ち上げようかと思っているところです.

英語以外のいろいろな自然言語をやるのは, 各言語それ自体を勉強しようというよりも, 言語に対する感覚を研ぎ澄ませる方が目的です. 何にせよ言語活動は必要不可欠で, 理工系であろうとも絶対必要だからです. むしろ自然言語の守備範囲を飛び出る理工系にこそ, それをどうには自然言語におさめる部分で強い言語感覚・バランスが必要だと思っています.

作文もまずは必要性からして英作文にフォーカスしますが, 少しずつフランス語など別言語もカバーしたいと思っています.

フランス語で遊ぼう

書き忘れていましたが, 各言語のページに単語のオンライン辞書へのリンクや調査メモ (和訳) があるので, 必要に応じて参照してください.

faire
基本的な意味

これには「---を作る」「---をする」の二つの意味があります. 家でパンやケーキを作るのも, 工業製品を生産するのも, 小説を書くのにも使える単語です. 他にも faire du ski でスキーをする, faire du latin でラテン語を勉強するという用法さえあります.

英語, 特に英作文でもとりあえずこれを使っておけばいい単語・動詞として have や get などがありますが, それと同じです. 何にでも濫用しているとやはり幼稚な印象を与えるそうですが, 何も言えないよりはましという状況では便利です.

英語の make と同じく使役構文を作れること, 非人称構文で天候を表現する特性もあります.

基本動詞によくあるように, 活用は変則的です. 発音も一部おかしく, 一人称複数の現在形 faisons は, フランス語の発音ルールからすると「フェゾン」のように読むべきところ, 「フゾン」と読みます. 異様な英語と違ってフランス語はほぼルール通りの発音なのでかなり珍しいです.

語源

ラテン語の facio が元で, ラテン語自体にまさにこの二つの意味があります. ちなみにイタリア語だと fare で, この三言語では明らかに「同じ」単語です. スペイン語では hacer でスペル上 h と f が入れ替わっていますが, 語源は同じでラテン語・印欧祖語です.

英語の do, make

フランス語の faire は英語の do と make にあたるので, ついでにこれも調べておきましょう.

Wiktionary によると do はゲルマン祖語・印欧祖語に起源を持っていて, 印欧祖語としては to put, place, do, make の意味を持つ *dʰeh₁- が起源とのこと.

Wiktionary によると make はラテン語 mācerō, macer, 古代ギリシャ語 μάσσω (mássō) にも起源があるようですが, ゲルマン系の言語で, ドイツ語 machen と同根です. 他のゲルマン系の言語で同根の単語があります. Wiktionary で同根の単語を眺めていると言語間の単語の遷移・変遷・関係が見えてくるので, 地道に数をこなす意義も見えてきます. Wiktionary は便利なのでぜひ使い倒してください. そして面白い単語や語源があったら教えてください.

フランス語と同じく, 英語でも make でいろいろなモノを作れます. 英作文では make だと意味が弱くなる上, (日本人が書く文章では) make O の O に動名詞が来る場合もよくあり, その場合は O の動名詞をそのまま動詞に使った方が文意も明確になり, しかも短くさえなるから注意するべしという (私の中の, またはテクニカルライティング) 鉄則があります. フランス語でも faire ばかり使っていると幼稚に感じられると書きましたが, おそらく同じ感覚なのでしょう.

ドイツ語の tun, machen

もちろん do と tun, make と machen に対応があります.

実は machen が面白く, 英語の make の印欧祖語語源で od, make 両方あると書いたように, machen にも do, make の意味があり, ドイツ語の文法書を見ていても do, make 両方で例文に machen を使っていて, tun はほとんど見たことがありません. この点, どうも英独仏伊西蘿で見るとむしろ英語がイレギュラーのようです. 他の欧米系言語でどうなのかまでは把握しきれておらず, この10にも満たない言語間の比較にどこまで意味があるかは微妙ですが, いまの私の認識の記録として記録しておきます.

ドイツ語の machen もフランス語のように多彩な用法があります. これも英語と同じように考えればいいでしょう.

2021-08-28

『ランダム行列の数理』が気になってきた方の市民/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

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「読んだよ」だけでもいいのでぜひ感想をください. メルマガを書く励みになります. 最近感想を頂く機会が増えてきたので素直に嬉しいです.

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メルマガへの返信

次のようなコメントが来ました.

無責任に書きますが、知識そのものもさることながら、本を読んでいるときの感覚(堀田量子本に対する感想のようなもの)を放談風に書いてくださると非常にありがたいです。結局ちゃんとやるには自分で読み込まなければならないのですが、そもそも「これ」は超難しいのか、コツさえつかめばやさしいのかという感覚がわからないので。

これはいろいろな意味でただでやれるレベルの内容ではないので, やってほしいと言われても困るのですが, 何かしらこれまでとは違うこと, または違う切り口でのコンテンツ・サービスを展開した方がいいのだろうなとは思っています.

考えていることはいろいろありますが, 「お金かかるならいいや」という人も多いようなので厳しいですね. そこまでの信頼が得られていないのでしょう. 不徳の致すところです.

凸関数に対する議論と簡単な計算とプログラミング

Twitter を見ていてちょっと気になることがあり, 凸関数に関するミニノートを作りました.

この中で非凸性の証明が面倒だったので (Julia で) 数値計算した結果とそのグラフを張ることで証明とした部分があります.

さっとプログラムを書いてお絵描きできると便利なのを改めて感じました. 統計の勉強会でも散々数学的・定性的に議論したことでも, 改めてプログラミングでお絵描きしてみるとまた違う感慨があって面白いというのを何人かで確認しました. Julia の勉強も兼ねてやはりこれもコンテンツ整備したいとは思っています.

プログラミングで数学を 中高数学虎の穴

量子力学の勉強会で「ちょっとレベル感が違う (難しすぎる)」からと言っていた方に, それならこれはどうか, と既存のプログラミングコンテンツを勧めてみたのですが, 楽しんでもらえているようです.

いま経路積分が楽しすぎて完全に停止していますが, リー環の勉強でプログラムを書いて行列計算させるのが非常に便利で, しかも楽しいです. ふつうの行列論・線型代数もさることながら, リー群・リー環のような具体的で役に立つ少しアドバンストなテーマについても, こういうノウハウを貯めています.

メルマガ送信前のたった今, 次のコメントが来たので返信しておきます.

グラフを活用して視覚的な理解を得ていますが、四変数以上の場合などで図示できない数式をどう直観的に把握すればよいだろうかと思いました。その点、プログラムを書いて理解するという学習法は視覚的側面もありつつ図示の限界がないのでよいかもしれないとも感じました。

まず結論から言えばそれはそうです. むしろ現代数学に関わる他の講座では「視覚に騙されることもあるので, 下手な図を描くのは勧められない」とまで言っています. あとでも考える量子力学からすると, そもそも「見る」ことの意味さえ自明ではなく, 視覚的な理解の定義からして問題です.

これは現代的な統計学・機械学習でも問題と言えば問題です. 数十から数百パラメーターがあり, 本当にグラフの書きようがありません. 一方で実用と直結するので広い意味での回避法も発展しているので, それを見て実践してみるのも一手です.

期待するコメントではないのは前提として, 例えば統計学では点の色・形・大きさに意味を持たせることで, 平面上のグラフで 3 どころか 4 以上の次元の情報を盛り込むことはできます. もちろん統計学などで実際に使われてもいます.

他には二次元の射影を大量に作る手法も統計学ではよく出てきます. これも全体像を一目で掴むのははじめから無理ですが, 無理と言って諦められる対象ばかりではないので, 統計学の実践の中で使い倒されてきた手法です. むしろこれこそコンピューターのおかげで簡単に大量に作れるようになった分野でもあり, ちょっとやった程度で簡単に諦めてもらっては困ります.

それ専用の数学的・物理的直観を育てるという (最終) 手段もあります. 私の場合, 主戦場は無限次元の線型空間です. 高次元の極致のような存在です. 目で見える対象ではありませんが, ギチギチにこれらを勉強した人間にしかない, 何かしらの直観を私は持っています.

いま話題のメンタリスト DaiGo も, 彼は彼なりに目に見えない他人の精神を見て制御する術を持ってはいるはずで, 目に見えない対象とのバトルは数学や物理に限ったことでもありません. 最後は勉強量・修行量と慣れであって小手先の話ではありません.

この辺, どうも大人であっても通じない人がいるようなのですが, 何でも同じです. 例えばファッションやデザインなどは私は何もわからないのですが, 明らかに私に見えていないモノが見えている人がいます. 具体的に何と言うこともできませんが, その人達がやること・作るモノは確かに明らかに違う・良いと感じることがよくあります. 逆に言えば数学・物理もその程度の話です. 目に見えることだけでどうにかなるはずがありません.

それでも見えるところは見る, 見えるようにできるところは見えるようにする, そうした努力の一つがプログラミング利用のコンテンツのポイントなので, 用法・容量を守って適切に使ってください. 銀の弾丸など存在しません.

竹崎正道先生の米寿記念研究会

知らない間にはじまって終わっていました.

80 歳のときは実際に東大に行って参加してきたのですが, 今年はさすがにオンラインだったようです.

80 歳記念の勉強会では「娘もなくなってしまったが, 学問上の知人・友人, 息子・孫がこんなにたくさんできて, こんなに嬉しいことはない」みたいなことを言っていたと思います. 竹崎先生のスライドは少なくとも当人とそのコメントを知っているとなかなか感動的です. 竹崎先生関係の話もいくつかサイトに載せています.

  • 書評: 数学まなびはじめ 第 1 集 竹崎正道
  • 竹崎先生の 80 歳記念のワークショップに行ってきて, 広義諸先輩方と久し振りに会ってきてハイパー楽しかった
  • 竹崎先生の論文 Non-Commutative Integration を読んでみた

特に『数学まなびはじめ』の竹崎先生の記事が本当によいので, ぜひ買って読んでください.

超局所層理論

池祐一さんが PDF を公開しています.

超局所層理論はともかく, 層についてはリーマン面などでも重要です. 証明は意図的に省いているところも多いそうですが, かえって概要を掴むのには便利なのではないでしょうか. 私もまだきちんと読めていませんが, そのうち読んでみる予定です.

木村太郎さんの『ランダム行列の数理』

まだまだ私の中で量子力学祭りはフィーバー中です. ついでに経路積分も再勉強しようと思い, 関係する数学もやっています. 以前から気になっていた中村徹著『超準解析と物理学』も読もうと思っています.

量子測定で有名な小澤正直さんは超準解析も使っていて, そちらを勉強するときにも役に立つだろうという見込もあります. 買ってパラパラと眺めはじめています. ここで竹内外史本に格子ゲージ理論の超準解析は面白いのではないかというコメントがありました. それを見て俄然格子ゲージ理論に興味が出てきました.

現状全く知らないのですが, $\phi^4$ とイジングよろしく (有限) 格子上でがんばっていろいろやって, 場の理論の議論をするタイプの分野だと思っています. 有限格子ならゴリゴリの線型代数の話で, 最近機械学習の物理への応用などでも有名な, 橋本幸士さんや富谷さんあたりの話なのだろうとか適当に思っています.

P.10 に次の記述があります.

数理的フレームワークとしての超弦理論の有用性

等価だが別の物理系に問題を移し替えて(幾何学的に)解く 問題:強相関系、多自由度系、ソリトンなど

等価な系に問題をうつすのは量子情報も重視した堀田量子でも重要な視点ですし, 幾何も絡んでくるのは先日から主張しているアハロノフ-ボームにも通じる視点で, 広い意味でずっと気になっている視点でもあります.

上記橋本さんの文献にあるように, 物性の視点から超弦理論や格子ゲージやら何やらを見ているのが木村太郎さんで, 『ランダム行列の数理』がまさにこれか? と思っています. しばらく別件にかかりきりで読むのをさぼっていたのですが, ここ数日読み直しはじめています.

ここにメモを残しながら雑に一周しているところで, 興味があれば適当に眺めてみてください.

現時点での簡単な書評もメモ・シェアしておきましょう.

私の物理はほぼ学部レベル, または数理物理でしか議論されていない物質の安定性などのピーキーなテーマの固め打ちなので, なかなかこの本の物理的射程を捉え切れていないのですが, 物理の学部 1-2 年生が適切な指導者のもとで読むと数学・物理に対する大きな視野が得られてかなり楽しいのではないでしょうか. 少なくとも表に出ている計算はほぼ純粋な線型代数と微分積分の計算で, 難しい数学が出ているわけではありません. 特に行列式の計算が大事で, 線型代数の抽象論どころか具体的な計算をがんばっているいろいろ見えてくるという面白い話がたくさん書いてある印象です.

問題はここで議論している内容を物理・数学ともに射程範囲におさめている人がどこにいるか, どれだけいるかでしょう. 私が数学的な展開ならまだ多少見えますが, 物理にまで踏み込める素養がありません. 物性まわりにしても極端に守備範囲が狭いのでなかなか大変です.

有名な小林-大島の『リー群と表現論』でも, 「この本にはいろいろな分野の数学の記述があるが, それに臆さず読んでほしい. そうした予備知識が必要だと言いたいのではなく, 広く深く多彩な数学との関係があることが表現論の魅力だからだ」と書いてあります. まさにそういうタイプの本なので, 細かいところを気にせず読めるところだけ読んで, 気になるところは個別に突っ込んでみたり, 誰かに聞いてみるのがいいかもしれません.

この本については書くことはたくさんあり, 上記の書評メモページにもいろいろ書いていますし書いていきますが, 特殊関数論にも従来の偏微分方程式の具体的解法以外の光を当てているようです. 新しい物理数学の本としても楽しめるはずなので, ちょっと高いですがぜひ買って読んでみるといいでしょう.

堀田量子に関して適当に放談してほしいというコメントを紹介しましたが, これに関して木村太郎さんと適当に話したりしても楽しいのかもしれません. 本当にやるかどうかはともかく, 実際に話したときに面白い話が引き出せる程度にちゃんと勉強して理解するのが今の目標の一つです.

自然言語の多言語学習とプログラミング/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

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今回も, 諸事情で勉強会は中止したので, 残念ながら動画はありません. 勉強会で言おうと思っていたネタがあるのですが, 忘れる前にメルマガで供養しておきます.

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数学・科学の英語記事を読もうの会の展開

何回か休みがあったものの, 二ヶ月のトライアルが終わりました. 当初は数学・物理に関わる文章を読もうと思っていました, むしろふだん読まないタイプの文章をサクサク読んでいくのが面白いことがわかったので, その視点でさらに教材研究の勉強会を続けます.

他の言語はともかく, 私の英語学習は本質的に大学受験で終わっているので, 数学・物理の専門用語以外の単語力が本当にありません. 次回からの文章はアメリカの小中学生向けという National Geographic kids でさえ知らない単語が出てきます. その意味では小中学生向けの文章さえ私には勉強になります.

そもそも英作文の視点から見ると, シンプルな文章にこそ勉強すべきポイントが凝縮されているので, その辺も地道に進めます.

こちらの雑誌を読む勉強会は今後いったんクローズドにするので, 参加したい方がいたら連絡をください.

単語で遊ぶ

まずは英単語です. 最近改めてラテン語文法を勉強しはじめ, 雑に眺めていると少なくともフランス語はゴリゴリにラテン語の娘であることがはっきり見えてきました. もちろんフランス語学習は英語学習にも役に立つので, まわりまわって英語学習です. ラテン語の本を眺めていて調べようと思ったことがあり, メルマガに書くでもしないとやらないので, メルマガを書く体で調べ勉強します.

hypo, hypothesis

数学の作用素論でも hyponormal operator, hypoelliptic operator という単語があります. おそらくわかる人には見てすぐわかるようにギリシャ語由来です.

hypo は before の意味で, thesis はラテン語だと命題 (proposition) の意味もあり, 命題の前に置く原論から仮説などの意味になるのでしょう.

region: rex, rajah

これもラテン語の本で rex を見てふと思ったことです. 以前, 少なくとも相対論の勉強会でもコメントしたように, マハラジャの maha は mega や摩訶不思議の摩訶と語源が同じで, ラジャ rajah は王の意味です. マハラジャはサンスクリット由来で, まさに印欧語というときの印です. 印欧語の欧の代表であるラテン語の rex もやはり王の意味があります.

ここで region は王の支配地の意味で領域といった意味を持つのではないかと思ったのです. 語源関係の調査法をきちんと理解しきれていないので何ともいいようがないのですが, 何となく調べた限りでは関係はあるようです. 興味があれば次のリンク先を眺めてみてください.

フランス語で遊ぶ: avoir

今回は英語の have に対応する avoir です. イタリア語では avere, ラテン語では habere が対応するようです. ちなみに英語の have とラテン語の habere の語源は同じではありません.

ここによると avoir と habere も語源は違います. フランス語の直説法現在の標準的な活用を知らないと何が変則なのかわからないと思いますが, avoir は次のような変則的な活用を持ちます.

人称 単数 複数
一人称 j'ai nous avons
二人称 tu as vous avez
三人称 il a ils ont
意味

英語でも同じように基本的な単語は異様に多義的で, 多彩な意味・用法を持ちます. 英語の have も日本語の「持つ」からは想像もできない対象を持てます. 例えば I have a headache. など頭痛が持てます. ちなみにフランス語でも頭痛は持てる対象で, J'ai mal à la tête. と書きます. この tête はラテン語の testa に由来する「頭」の意味を持つ単語です. ちなみに mal は英語で栄養失調などを malnutrition と表すように, 悪いことを表す単語です.

助動詞としての avoir
その前に時制や雑多な話

いきなり脱線しますがフランス語は英語よりも多彩な時制があり, その時制表現がフランス文学を豊かにしていると言われているようです. フランス語と文学と言えば, 英語と違って人に対する表現とモノに対する表現が同じように書ける点も文学性を高めると言われているようです.

例えば英語で「日が昇る」と言えば日本語と同じように The sun rises. と書きます. しかしフランス語では「太陽が起きる」を Le soleil se lève. と書きます. この se lever は代名動詞で「起きる」の意味で, 人が起きるときにもこの代名動詞を使います. この擬人表現がフランス語の面白いところだそうです.

ちなみに英語の三人称単数が he/she/it と人・モノを区別している一方で, フランス語は he/she にあたる il/elle だけで人・モノを区別する単語がありません. これは上の擬人表現・モノに対しても人と同じ表現を使うことと整合的だとか.

いくら近かったり関係が深くても, 言語ごとにその言語を彩る特性があります. それはその言語を操る人達の歴史的・文化的特性もあります. 例えば旧ユーゴスラビアのクロアチア語とセルビア語の言語的な違いの筆頭は使う文字で, あとは八割同じと言われています. クロアチアとセルビアは文字通り致命的に仲が悪く, 本質的な言語特徴はよく似ていてもそれを操る人達の文化的・歴史的特徴が決定的に違うのです.

外務省の次のページも参考になるでしょう.

時制

さて, フランス語には複合時制という概念があります. 実は英語には未来表現はあっても未来形という概念はありません. これは未来を表すにはあくまで助動詞 will や be going to を使わざるを得ず, 現在形・過去形とは違って動詞に未来形がないという意味です.

そしてフランス語には助動詞なしの単純時制として, 過去形と未来形が本当にあります. そして複合時制として助動詞をつけた過去・未来表現があります.

英語でも時制の助動詞として have を使います. そしてフランス語でも時制の助動詞として avoir と être (be 動詞) を使います. いわゆる往来発着系の動詞に être を使い, それ以外に avoir を使います. 実はドイツ語も同じように往来発着系の現在完了的な時制に sein (be 動詞)を, それ以外に haben を使います. (ドイツ語・フランス語と比較したとき) 英語だけこの特徴がつぶれて have しか使わなくなっているのです.

ちょっとしたコメント

このように他の言語と比較することで, 逆説的に英語とその特徴を見つめ直す形で英語を勉強しています. もっと言えば日本語にも他言語・他言語からの光を当てて見直しています.

何度も言っているつもりですが, これはプログラミングの勉強と同じです. ある言語でこう書くことを他の言語ではこう書く, またはこんな言語機能があるというのを学び, 自分の得意な言語にフィードバックするのはよくやられています. プログラミングでは毎年一つ新しい言語を勉強するといいと言われることさえあります.

しかし何故か自然言語ではこういう話を聞きません. そんな半端なことばかりして全部中途半端になるより役に立つ英語を勉強したら, みたいな知ったようなことを言う人もいますが, どうせ (私も含めて) 英語さえまともに使えていないのだから, 半端だろうが何だろうが知ったことではないのです.

英語のスペルと発音のずれは有名です. フランス語もよく発音とスペルのずれの面倒を言われますが, 英語と比べるから発音がわかりにくくなるだけで, フランス語のルールがきちんとあって慣れれば英語よりは遥かに厳格で明確です.

これと比べると日本語の発音ルールの方がよほど無茶苦茶です. これもよく例が挙がっています. 例えば「一」について「一つ」と書いたら「ひとつ」であって「いちつ」と読みません. 漢字の読み自体たくさんあり, 振仮名がつくことでまた変幻自在に変わります. おそらく中国人でさえ全部振仮名を振ってくれと思うのではないでしょうか.

いまいろいろあってアラビア語も軽く眺めていて, 文字からして苦労しています. 高々 30 文字程度しかないにも関わらず. しかし日本語を思うと平仮名だけで 50 文字あり, カタカナもあれば漢字もあります. 文字だけ考えるなら, それに比べればアラビア語も大したことはないと思って歯を食いしばって文字を勉強しています.

別にあなたにも同じように多言語学習しろというつもりはありませんが, もともと理工系的にも私は数学・物理・プログラミングの「三言語」を雑に使う種族の人間なので, もうそういうものと思って適当にやっています.

この辺もやはり人を巻き込んで勉強するのが一番捗るのはこの一年の勉強会でよくわかりました. もっと多くの人を巻き込むための準備を着々と進めています.

2021-08-21

量子力学の再学習/相転移プロダクション

今回のテーマ

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すうがく徒のつどいオンラインで発表します

まだスケジュールが公開されていないのですが, 講演希望が通りました.

テーマは『理論物理学者に数学を教える上でのコツ: 「理論物理学者に市民が数学を教えようの会」の経験をふまえて』です. 理論物理学者に市民が数学を教えようの会のページで動画を公開していますが, そこでの内容をピックアップして紹介する予定です. 前回参加していないのであまりよくわかっていませんが, そのうち参加者が公開されると思うので, もしあなたが興味があるならアナウンスを追いかけてください.

堀田量子に関して

いわゆる堀田量子の話です. ここまでいろいろと読み込んできましたが, 暫定的な結論として, 少なくとも初学者向きではなく, そもそも読めるのは誰なのかが気になるレベルです.

Twitter の動きを見ていても, 本に書いてある物理が薄く, 著者に問い合わせないと細かい様子がわかりません. どうも私だけではないようです. 他にいくらでも資料がある数学的付録をつけるくらいなら, Twitter でやりとりしている物理をきちんと本に書いてほしいです.

しかも脚注まで読み込むようにと堀田さん自身が明言しているのですが, あくまで補足的な内容を書くことになっている脚注に, 明確に本質的なコメント・物理が書かれています. 本の体裁といったレベルでも滅茶苦茶で, さすがに勘弁してほしいです.

私は量子情報や量子測定の面からも引き続き勉強を続けますが, もしあなたがこの本を読もうと思っているなら, 十分な覚悟の上で買うようにしてください.

確率論

いろいろな事情があって確率論を再勉強しています.

幾何と違ってある程度の基礎知識・体力があり, 幾何よりはるかに細部も概要も見えていて, 私にとっては非常に勉強しやすいです. 量子力学関係でも経路積分を使って解説されるテーマもあり, 経路積分自体が幾何との関係が強いので, 量子力学の基礎の再勉強と絡めて考えています.

私の観測範囲だと量子測定を数学的にきっちりやろうと思うと作用素論系の話もいろいろ使うので, それも改めてノートを作らないといけないかと思っています. 学生の頃に TeX でノートを作っておけばよかったと今更ながらに思っています. 一時期やろうとして, あまり時間がかかるので面倒でやめたのですが, いまボディーブローのように効いています.

リーマン面

幾何・量子力学と関連して, 改めて木村太郎さんのランダム行列の本も読み進める機運が出てきています. いまそういうタイミングなのだろうと思うので, 無理やりにでも時間を取って読み進める予定です.

読書記録は次のページにまとめているので, もしあなたが興味をお持ちなら参考にしてください.

純粋に数学としてのリーマン面の概要についても, まだ書こうと思ったことを書き切れていません. そちらを待っている方もいらっしゃるでしょう. もう少しお待ちください.

プログラミング

最近, 文系出身の方と問い合わせに関連してやり取りしていて, 「もう少し簡単なところからはじめた方がいいのだろう」という話になり, プログラミングのコンテンツをお勧めしておきました.

中高レベルの数学系プログラミングはどうしても積分やグラフ描きが出てきて, どうしてもライブラリ利用の要素が出てきます. SymPy のような記号計算もやはりライブラリに頼る必要があります.

プログラミングの厳しいところはバージョンアップ問題です. 内容が古くなるとそもそも動かなくなってしまいます. 数学は基本的な内容であるほど, 多少古びてもそこまで致命的な問題にはならないものの, プログラミングではそうはいきません. コンテンツを作ること自体はいいのですが, あまりたくさんコンテンツを作るとメンテナンスが大変になります. 個人でやっているとこれが本当にきついです.

それでも何とかなる部分はあるだろうと思って, アルゴリズム関係で競技プログラミングや ProjectEuler をやっています. 基礎知識がなくてもやりやすかろうと思い, ProjectEuler を優先的に進めていたのですが, 多少なりともきちんとした知識をもとにしないと, 大規模になったときに処理しきれないケースが出てくる問題にでくわしました.

動的計画法程度のごく初歩的な内容なのですが, 私はまだ血肉になっていない内容です. 改めてアルゴリズムの勉強を進めていますが, 一般論メインで最後に問題が少し, といった本で勉強するのがとにかく面倒です. 数学はむしろこのスタンスで勉強していて楽しくさえあるのですが, アルゴリズムだとそうはならないのが面白いというかつらいというか. しかし一般論は一般論できちんとやっておかないと, 何度も面白くない基礎理論を再勉強する羽目になるので, これもやるなら今なのだろうと考え, ここ一月くらいちびちびと進めています. そして一人だと続かないので, 別件でやっていたプログラミング・統計系の勉強会でのネタにすることにしました. 人を巻き込むともうやらざるを得なくなり, きちんと説明するためにある程度の深さの勉強も必要になり, 自分の勉強という点からは本当に効果的です.

最終的には量子力学の再学習の一環として, 簡単な行列計算に関して記号計算, シュレディンガー方程式の数値計算を使うなどの現代化も進めたいと思っているので, これはこれでやはり一連の量子系再学習の問題意識の中にあります.

be動詞の多言語展開/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

今回も, 諸事情で勉強会は中止したので, 残念ながら動画はありません. 勉強会で言おうと思っていたネタがあるのですが, 忘れる前にメルマガで供養しておきます.

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フランス語単語で遊ぶ

はじめに

自分の勉強, もっと言えば暗記事項の定着も兼ねて引き続きフランス語単語をやります. 英語にもほぼ直接的によい影響があります. 前回, croire はイタリア語まで見た方がかえって英語との関係が見やすいことも紹介したので, 必要に応じてもう少し掘ってみましょう.

私にとってはアインシュタインの特殊相対性理論の原論文に出てくる単語から攻めるのがモチベーションが続くので, それも引き続き拡充しています.

être

いわゆる be 動詞のフランス語です. せっかくなのでいくうか紹介しておくと, ドイツ語での be 動詞の原形は sein, イタリア語は essere, スペイン語は ser と estar です. スペイン語では ser が国籍のような恒常的な性質を表し, estar は現在地のような一時的な性質を表すというように使い分けられています.

スペイン語を見るとわかるように, be 動詞を見るだけでも言語ごとの違いが出てきます.

ちなみに exist と何か関係あるかと思ったのですが, あまり関係ないようでした. もし関係があることをご存知の方はぜひ教えてください.

多言語比較の観点

多言語比較から見るといくつかのポイントがあります. be 動詞に限りませんが, どの言語でも基本的な単語は極端に不規則です. ここでは各言語での be 動詞の現在形の活用と, フランス語の基本的な単語の活用をいくつか紹介します.

主語+動詞の活用の形で紹介します. 一人称単数, 二人称単数, 三人称単数, 一人称複数, 二人称複数, 三人称複数の順で書きましょう.

  • (fr) je suis - tu es - il/elle est - nous sommes - vous êtes - ils/elle sont
  • (de) ich bin - du bist - er/sie/es ist - wir sind - ihr seid - sie sind
  • (it) sono - sei - è - siamo - siete - sono
  • (sp) soy - eres - es - somos - sois - son

イタリア語とスペイン語で主語がないのは特徴的です. 三人称は別として, 実はイタリア語ではよく主語を省略します. スペイン語でも同じようです. 上の活用を見ればわかるように, 一般にイタリア語は動詞の活用は全ての人称・数で違います. いわば動詞の活用に主語の情報がエンコードされていて, 主語を書かなくてもわかるのです. 日本語のように文脈でわかると言っているのではなく, 文法上のサポートがあります. ちなみにフランス語はスペルが違っても同じように発音されます. 特に être では tu es と il est の es と est の発音が同じです. 見た目が違うからといって区別がつくわけではありません.

上で書いたように be 動詞一つ見ても言語ごとの特徴が出るのです.

フランス語の基本的な単語の活用

あえて乱暴な書き方をしますが, フランス語での have は avoir, go は aller, come は venir です. 英語でも不規則活用するように, フランス語でも極端な不規則活用をします.

  • avoir: j'ai - tu a - il a - nous avons - vous avez - ils ont
  • aller: je vais - tu vas - il va - nous allons - vous allez - ils vont
  • venir: je viens, tu viens, il vient, nous venons, vous venez, ils viennent

フランス語動詞の規則的な活用を紹介していないので, 知らない方は全くわからないと思いますが, 興味に応じてフランス語の活用を調べてみてください.

être に関して

もともとの意味は「存在する」の意味では, デカルト (René Descartes) の Je pense, donc je suis 「我思う, 故に我あり」が有名でしょう. いまは場所を示す副詞・副詞句か前置詞句を伴うのがふつうです. 前置詞を使う場合, être de ---で出身を, être à ---で帰属・所有を表します.

英語の場合でもあるように, 属詞 (英語でいう補語) を取る用法もあります. 他にも英語と同じく受動態を作る助動詞としても使われますし, もっと面白いのは代名動詞・往来発着を表す自動詞の複合過去を作る助動詞としても使われます.

フランス語の時制は複雑なので本当に雑な言い方ですが, 複合過去はとりあえず英語の現在完了にあたると思ってください. 実はもう一つの複合過去を作る助動詞がまさに avoir (英語の have) なのです.

ちなみにドイツ語で現在完了を作る助動詞がやはり sein (be 動詞) と haben (have) であり, イタリア語でも近過去を作る助動詞は essere (be 動詞) と avere (have) です. 少なくともドイツ語・フランス語・イタリア語と比べれば, 英語の現在完了の助動詞が have だけの方が特殊です.

時制関係でついでに言うと, 英語には未来表現があっても未来形はないと言われます. 何かというと英語で未来を表すとき, will や be going to という助動詞を使います. ドイツ語でも同じです. しかしフランス語には本当に動詞の活用の中に単純未来という未来形があります. 例えば être についてはフラ活を見てみてください.

二つくらいは書こうと思っていたのですが, これだけで大分長くなったので今回はこのくらいにしましょう.

2021-08-14

量子系の物理と数理/相転移プロダクション

今回のテーマ

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メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

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量子力学の勉強

引き続き量子力学を再勉強しています. 私が Twitter で「訳が分からん」と呪詛を吐いているのをご覧になっている方はご存知かもしれませんが, 昔気になっていて放置したままだった問題も調べたり再考していて, 少しずつ頭の整理も進んでいます.

その中で谷村省吾さんの PDF が面白く参考になったので, こちらでも共有しておきます.

堀田量子では量子情報系の文脈から, 「有限次元量子系では全てのエルミート行列に対応する物理量が存在する」と書かれていますが, この PDF では場の量子論で全ての自己共役作用素に対応する物理量があるわけではないことを具体例と共に書いてくれています. こういうの, 一行でさっとコメントがあるだけで全く違うのですが, それがないのが堀田量子に対するいらつきでもあります.

あと, これらの PDF にも少し記載がある話として, DHR-DR のセクター理論は学生時代に眺めるだけ眺めて何もわかりませんでした. 物理も数学も何もわからず, 少なくとも数学は今見てもわからないと思いますが, ここで言いたかった物理的な気分を別の視点から説明してくれていたのも好印象です.

DHR-DR 理論を非常に大雑把に説明しておきましょう. フェルミオンの生成消滅作用素は空間的な領域間で反交換関係をみたしますが, 相対性理論と同時測定からすると反交換関係は異様です. 気分的にいうと, フェルミオン場のハミルトニアンが典型的なように, フェルミオンの生成消滅作用素は必ずペアで出てきて, このペアで見れば空間的な領域間で可換な作用素になります. つまり実際の理論の中で使うときには物理的に意味のある交換関係として出てきます.

細かいところを無視すると, 理論として設定した代数的な関係の中にどれだけ物理があるか, 特に (反) 交換関係の中にある情報から, 適切な物理がどれだけ引き出せるかという視点が出てきます. 特に前回・前々回と議論した, 適当なゲージ群による対称性で統率できないかという視点が出ます. これを議論するのが DHR-DR のセクター理論です.

私が勉強した時点では DHR-DR 自体は質量を持つ粒子しか対象にできておらず, その点で欠点はあれど一つの到達点ではありました. カバー範囲は QED だという話でしたが, BF (Buchholz-Fredenhagen) 理論では質量がない粒子もカバーしているようです. (難しくて全く読めなかった.)

これが谷村さんの (ふつうの?) 物理の視点では気に入らないという話, どう克服するかの一案も書いてあって面白いです. これがまわり回って堀田量子や有限次元線型空間しか出てこない量子情報的な記述の不備にもつながるようで, 学生の頃の問題意識に再び回収されてとても気分がいいです. 改めて量子力学・場の量子論・統計力学あたりを勉強し直したくなってきて, 物理へのモチベーションがあがっています. あとは改めて熱力学も勉強したいです.

あとアハロノフ-ボーム効果も改めて気になっています. 位相 (phase) が持つ情報がどういうメカニズムで観測にかかってくるのかがいまだに全くわかっていません. 堀田量子では「それらは多数回の観測結果の統計的効果として出てくる」, 「ワンショットの実験結果としてかからないので議論しない」と書かれていたはずで, 非常に気になっています.

アハロノフ-ボーム効果は自己共役性証明などの基礎知識涵養のため, 新井先生の『量子現象の数理』を勉強する中で第三章で出会い, 学部三年の講義でよくわからない内に終わった議論をもっと詰めたいと思いつつ, 場の理論・量子統計方面に進んだためやはり放置したままに終わったテーマです. これも以前, 谷村省吾さんが数理科学で「非単連結領域上の量子力学」として数理科学で記事を書いていて, 最近の幾何と物理・量子論のつながりでいろいろあるようでとても気になっています. もう少し基本的な勉強が済んだらいっそ谷村さんに問い合わせようかと思っているほど気になっています.

ここまで来るといろいろやりたいことも増えてきます. 改めて統計力学・量子統計もやりたいですね. 田崎さんの英語の本もあって, 結局査読になったときにほとんど読めませんでした. 修論では田崎さんのレビューを読んでハバードまわりの議論をしたこともあり, 広く言えば守備範囲ですがまだまだ基本的な認識が足りていません. 特にスピン系の基礎教養がないのでみっちり修行したいです. 田崎さんの熱力学と統計力学も改めて勉強したいです. 他のタスクにおされてなかなか進まないので, こういうのは勉強会で無理やり他人を巻き込んでやるのがいいのでしょう.

あと, どなたか幾何学的位相のいい本ご存知ではないでしょうか. アハラノフ-ボーム効果を調べていると, 現代的にはベリー位相などの話題に吸収され, 特に幾何学的位相や幾何学的量子力学といった話題に回収されるようです. ここ数年, 幾何を一所懸命勉強してきたわけですが, それがいい感じに量子系の数理につながってきたようですし, これも勉強の機運が高まってきています. もちろん英語でも構わないので, 何かいい本をご存知の方がいらっしゃたらぜひ教えてください.

量子力学の勉強会でも, もっと基本的なところからやりたいという話も出ているので, コンテンツ整備も兼ねてもっと基本的なところから議論するのも大事かと思っています. ここでいう「基本的」は, 上で書いた, どちらかといえば fundamental な話よりも, (素粒子ではない) elementary の意味です. 文系出身だが物理・数学をもっと勉強したいという方もいらっしゃるようなので. プログラミング利用, プログラミングで計算し倒すといった部分も合わせて改めて企画を考えています. プログラミングに関しては微分積分や簡単な常微分方程式・偏微分方程式を解くコンテンツも整備しているので, そちらで何かする手もあり, いい塩梅を検討しています.

量子力学の再勉強をしていて, 改めて量子系の数理がとにかく気に入っているのを再認識しました. よくも悪くも, いまの私の興味関心は学部で触れる物理を数学的にゴリゴリに詰め切る部分に触れ切っています. 例えば上で議論していない物質の安定性は, 電磁波の物理と原子の安定性にとって fundamental な問題で, まさに学部三年で把握できる問題ですが, 数理物理的にはいまだ最先端で, しかも事実上数理物理の人達しか議論していない問題です. 量子力学の基本的な部分の再勉強はこうした点の理解にも直結しますし, いい機会だからと積極的に再学習に励んでいます. とても楽しい. あなたもぜひ一緒にやっていきましょう. 引き続きいろいろな情報を出していきます.

音読の意義と英語に生きるフランス語/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

今回, 諸事情で勉強会は中止したので, 残念ながら動画はありません. 勉強会で言おうと思っていたネタがあるのですが, 忘れる前にメルマガで供養しておきます.

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音読教材の推薦を頂いたので

音読の教材は、英語の質、内容の面白さはもちろんですが、 - 音資材がある (お手本の音声があったほうが練習しやすい) - 信頼できる日本語訳がある(英語を正しく理解したうえで音読することが大事なので、音読の前に、自分の解釈にミスがないかを既存の訳と照らしてチェックするため) の2点も重視しています。

受験教材や書籍もいろいろ出ていますが、NHKの語学教材も便利です。 特によく活用しているのが、『ニュースで英語術』のサイト https://www2.nhk.or.jp/gogaku/news/index.html シャドーイングのほか、日本語訳をみながら英語に起こす訓練にも使えます。 ニュース英語は、書き言葉にも話し言葉にも応用できて汎用性が高いのが利点です。 (科学雑誌などは、話し言葉には使いにくい表現も多いので)

同じくNHKの『高校生からはじめる「現代英語」』もニュース英語で、 こちらは、冠詞やタイトル付けのルールなどまで掘り下げて解説してくれます。 https://www.nhk.or.jp/radio/ondemand/detail.html?p=4407_01

音読の意義

何故音読を改めてはじめたかと言えば, 音の物理の理解のためでもあります.

例えばきちんと個々の発音を勉強し直して, なぜ get a の発音が「ゲラ」になるか, ようやくきちんと理解できました.

まず t の発音のときは上の歯に舌をつけて, 突き飛ばすように発音します. 一方 l の発音は上の歯に舌をつけたまま発音します. したがって get a を滑らかに発音しようとすると t の突き飛ばすような発音がしきれなくなり, 上の歯に舌をつける動作だけが残って t が l になるのです. いわば get a を「ゲラ」のように発音するのは物理に則った由緒正しい発音です.

これだけならそんなに大した話ではありません. しかし単語が言語と文化をまたぐときにもこの現象が起きる可能性があります. つまり t の音は l に変わる可能性があります.

音に関する事情はいろいろあります. 例えば英語の flower はイタリア語では fiore です. 何故そうなのかまでは把握しきれていませんが, 何にせよイタリア語は f と l の連続を嫌います. フランス語には例えばエリジオンがあり, リエゾンがあり, 母音または無音の h ではじまる語が続くと母音字を省略する現象があります. 音を聞いているとわかるのですが, イタリア語は滑舌よく発音するようでかなり聞き取りやすいのですが, フランス語は滑らかに発音する方が好まれるようで, 母音+母音は滑らかさが減るので好まれないのだと推測しています.

こうした事情は読解や暗記にも効いてくるはずだと思っています. 特に暗記については, 歴史的な事情もあって日本語の中で外来語である中国語, 特に漢字語には固さ・正式さのイメージがあるように, 英語でも固い・難しい単語にはフランス語に由来することがよくあります. 科学技術系というある意味固さの極みのような分野では, ラテン語・ギリシャ語の影響があります. ここに対する耐久力を上げるために使える事情は使い倒したいので, 少なくともフランス語の事情は把握したいと思っていて, このときに効いてくるのではないかと推測しつつ取り組んでいます.

また, 実験という視点も欠かせません. 先程 get a に関して書いたように, 発音の訓練は自分の身体による言語・文化またぎの実験でもあります. フランス語もちょくちょくリスニング・発音をやっています.

フランス語単語で遊ぶ

フランス語は特に会話ベースでもう少しきちんとやりたいものの, いざ会話の勉強となるとなかなか元気が出ません. いくつか試してみましたが, 結局, 一所懸命やっている相対性理論の原論文読みと合わせてやると元気が出るだろうと思い, まず単語暗記として相対性理論の原論文に出てくる単語集を作っています.

今回の単語: croire と mourir

意味は後で書きます. せっかくなのでフランス語をご存知でない方は意味を推測してみてください.

フランス語の基本単語で, 意味も覚えていたのですが, なぜこれらがこの意味なのかとずっと思っていて, 改めて調べました. 以下で答えを書くので, 自分で考えてみたい方はここでいったんストップしてください.


まず croire を考えましょう. これは対応するイタリア語かラテン語を見るとわかります. 具体的には credere です. ここから英語の credit が想像できればよく, 「信じる」という意味です.

クレディセゾンといったクレジットカードの credit が関連する単語としてあります. ちなみに Wikipedia いわく, 英語の社名は Credit Saison です. フランス語では credit でクレディと最後の t を発音していない以上, 気分的にはフランス語なのでしょう. さらに言えばセゾンの saison もフランス語での season なので, 本当にフランス語を想定しているのでしょう.


次に mourir です. これは Wiktionary を見るとわかります. 古フランス語 morir, 俗ラテン語 *moriō, ラテン語 morī とあって, いわゆるメメントモリのモリです.

不勉強なものではじめて知った・前に勉強したが忘れていた事案として, Wikipedia でメメントモリを調べてみたところ, 次のようにありました.

当時、「メメント・モリ」の趣旨は carpe diem(今を楽しめ)ということで

言葉だけ知っていた carpe diem の意味を改めて勉強しました. この carpe diem もきちんと調べないといけないのですが, これは次回の宿題にしましょう.

ちなみにメメントの方は memento を見る限り, memory として英語に息づいているようです.

なぜフランス語は会話を勉強したいのか

いまのご時世でこれから先どうなるのかよくわかっていない部分もあるとはいえ, 私が通っている柔道の道場では年に二回程度海外, それもフランスからお客さんが来ることがあります. オリンピックで柔道を見た方はご存知かもしれませんが, 男女混合の団体でフランスが優勝したように, フランスは実は柔道大国です. 私の先輩が二十年来フランスで柔道指導をしている関係もあって, たまにわざわざ柔道しにフランスから来るのです.

大人だけならまだしも, 8 歳くらいの子供まで柔道しに来ます. フランスの海沿いにお住まいの方もいて, 空港があるパリに来るまでで既に 4-5 時間, そこからさらに飛行機で日本まで来て, かさばる柔道着も荷物に詰め込んで来るという尋常ではない気合の入り方です.

一週間程度の滞在のうち, 柔道の聖地である講道館に行くのは十分わかるにせよ, 私が通っている道場にも二回来ました. 「一回来て楽しかったらもう一回来たくて来た」とまで言っていたようです. もちろんふつうの観光もしたのだとは思いますが, 10 人くらいで来ていたので, 日本円の価値で言えば何十万円というレベルでお金を使って来ていて, その中の主軸に柔道があるというすごい話です. スポーツツーリズムという概念があるのは知っていましたが, 本当にあるのかと驚きました.

そんなこんながあるので, フランス語については簡単な会話ができるようになって, できる範囲でおもてなししたい気分があるのです.

2021-08-07

代数と幾何と物理/相転移プロダクション

今回のテーマ

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代数系による統率

微妙に反響があったので追加で少し書きます. リーマン面にも陰に陽に関係するため, 幾何のページにも参照をつけてあります.

いろいろな代数系とその表現

代数系による統率の視点で言えば表現論が欠かせません. もちろんガロアの曖昧の理論よろしく, 表現論どころか群が生まれた母胎でさえあります.

何か数学的対象に群が作用して影響を与えているとき, 群の作用が綺麗にはまるために対象に制約を与えます. これは前回コメントした通りです. 書こうと思っていたことを一部忘れてしまったのですが, 思いつく限り私が知ることを書いておきましょう.

ヒルベルトの第五問題

詳しくは次の資料を見てください. ここでは大まかな話をします.

ヒルベルトの第五問題が何かというと, 群と位相のマッチングで何が起きるかを調べる問題です. 特に連続群またはリー群をイメージしてください.

連続群は群という代数構造と位相の構造が入って, 群演算に連続性を要求するクラスです. この意味で代数と位相のマッチングを見ています. お互いに特殊な構造なので整合性を保つために何らかの制約が入ると思うのは自然な発想です. しかしそれがどのくらい強いのか, 具体的にどういう影響を与えるのかは全くわかりません.

もちろん実際には非常に強い制約を与えることがわかっています. 特に $C^0$-級構造と整合的な $C^{\omega}$-級微分構造が入ることまでわかっています.

ここでポアンカレ予想とも関連したドナルドソンの仕事, 「四次元ユークリッド空間において異種微分構造が存在する」を思い出してください. 四次元ユークリッド空間は内積空間であり, 特に線型位相空間でリー群 (連続群) でもあります. ユークリッド空間は微分論の母体でもあるので当然解析的な微分構造を持ちますが, 全然関係ない異種微分構造も持っています. 微分構造があることはわかっても, もとの位相と整合的かどうかは予断を許しません. それが起きないことを主張するのがヒルベルトの第五問題とその解答です.

ちなみに買ったままでいまだに読めていないのですが, ポアンカレ予想についてはこれまた結城浩さんが数学ガールで取り上げているので, もしあなたが興味があるなら読んでみるといいでしょう. 他のシリーズを読んだ限りではきちんとした内容のはずです.

関数解析

ヒルベルトの第五問題にはいろいろなバリエーションがあります. もともとは群と位相ですが, 群を他の代数系に取り替えてもいいでしょう.

私が知る限り, 関数解析ではかなり早い時期からこのバージョンを考えていたそうで, 例えばバナッハ環は日本人数学者の南雲道夫が定義して議論しています.

バナッハ環と言っていることからもわかるように, 作用素環は特に境の定理など代数と位相に関する研究が早くからあります. 一つの究極形がゲルファント-ナイマルクの定理です. これは可換な $C^$-環は局所コンパクトハウスドルフ空間上の連続関数環であることを謳う定理で, ノルムと $$-環の代数のマッチングが強いとここまで強く構造が規定されてしまいます. これは現代幾何の基本中の基本, 代数-幾何対応にも強く影響を与えています. もちろん作用素環にも非可換幾何として跳ね返ってきて精力的な研究が続いています.

層による微分多様体の定義

ふつうの微分多様体の定義だと見えづらくなっていますが, 斎藤毅『数学原論』では層で微分多様体の定義を与えています. 特に微分可能な関数からなる単位的可換環がなす層を考えています.

ベクトル束

書けることはいろいろあります. ここでは改めてベクトル束を考えましょう. これは特殊なファイバー束でもあります. 特に各ファイバーに一般線型群が作用するファイバー束です.

特にリーマン多様体の接束を考えれば, 計量との整合性も考えたくなり, ファイバーである各接空間に特殊直交群の作用が考えられます. この作用をどこまで特殊化できるか考えるとホロノミー群の議論が出てきて, 小さい群であればある程強い制約が生まれ, 強い性質・制約を持つリーマン多様体が得られます.

主束

ベクトル束をもう少し一般化したのが主束で, これはまさにリー群による統率を受けるファイバー束です. これも現代幾何の一つの基礎で, 例えば指数定理の舞台でもあります.

被覆空間: 特殊なファイバー束

ここでリーマン面の話に戻ります. 被覆空間は離散的なファイバーを持つ特殊なファイバー束です. この辺の話の流れがあるので, 幾何の入口として被覆空間やリーマン面から入るのも悪くないと思って勉強を進めています.

相対性理論

群の作用と物理にもいろいろありますが, 典型的というか, 明らかに理論の中で強調されて出てくるのは相対性理論でしょう. もちろんローレンツ群またはポアンカレ群の作用のもとで不変な理論をはじめから目指しています.

ちなみに, 非相対論でも時間反転対称性などいろいろな対称性があり, そこには対応する群とその作用があります. そして非相対論・相対論的な量子論にもはねます.

量子力学

もちろん量子力学にもいろいろな対称性があります. 典型的なのは時間発展に関わる $\mathbb{R}$ の作用・ユニタリ群です. スピンと関わるリー群 $SU(2)$ の作用と表現論も基本的です.

群以外にも代数の表現論の視点があります. 特に量子力学それ字体が正準交換関係がなす代数の表現論という視点があります. 物理的にどうかはともかく, 数学的にこの視点を追求しているのが作用素環を使った代数的量子論です.

先日 Twitter の少なくとも私のタイムラインでは, 東大数理の緒方芳子さんが数理物理最高の賞であるポアンカレ賞を受賞したニュースが話題になっていました. 緒方さんは量子統計の視点から作用素環を使って研究している人です. 緒方さん, ちょうど私が修士だった頃に東大数理にポスドクで来ていました. すごい人がいるものだと思ったものです. 我が身のしょうもなさも感じますが, できることをやるだけなのでやっていきます.

木村太郎さんからのコメント

この間書き忘れたようなので木村太郎さんからもらったコメントを共有しておきます. 群と物理に関わる話です.

今週のメルマガで言及している有限群の話ですが, 例えば Dijgraaf-Witten 理論というのがありまして, 位相的場の理論の toy model としてその筋の人たちが色々と議論しています:https://ncatlab.org/nlab/show/Dijkgraaf-Witten+theory

他にも,離散群をゲージ対称性とするような (位相的) 場の理論の議論もいろいろと最近はあって, その主たる応用先が素粒子論というよりはトポロジカル絶縁体・超伝導などのいわゆるトポロジカル物性というのも面白いです.

すっかりモンスターのことを忘れていました。 かなり数学寄りではありますが、Mathieu Moonshine https://ncatlab.org/nlab/show/Mathieu+moonshine というのが少し前 (とはいっても 10 念年前くらい) に江口・大栗・立川の仕事で revival したとかそういう話があります。

有限群と言えばモンスターの話もあるのだろうとコメントしたら, すぐ返ってきました. 素人が思いつくことなどプロはそれはやり尽くしているはずだ, という思いを新たにしました.

幾何的位相・ベリー位相

トポロジカル物性と言えば, 最近堀田量子本を見ていてずっと気になっています. 私の Twitter を見ている方はご存知かもしれません.

私の物理は学部三年でほぼ完全に止まっています. どれだけよく言っても学部四年です. 学部三年の講義で出てきた問題を数学的に詰め切れずに終わった学生生活でした. 実際, 今でもまだ研究中のテーマでもあるので, 私が愚かなだけではないのですが.

非相対論的場の量子論・量子統計の話が前回の相転移まわりで, もう一つは量子力学の一体系の議論, 特にアハラノフ-ボーム効果です. これは新井朝雄先生の『量子現象の数理』, 自己共役性と正準交換関係の表現のところで議論されています.

私の意識としては表現や代数系による理論の統率とも直結しています. いわゆる非同値表現の問題で, 場の量子論では赤外発散と絡めてよく出てきますが, 有限自由度の量子系で現れます. 典型的なのが位相的に欠陥のある領域上での量子力学で, 外村さんらによるアハラノフ-ボーム効果の実験的検証, ゲージ理論の物理的意義とも関わる重要な議論だと思っています.

ここで空間領域の位相 (topology) 的な問題が波動関数の位相 (phase) にはねることが知られています. いまだに全くわかっていないのですが, 調べるとベリー位相が関係あるようです.

波動関数で状態を議論していると位相 (phase) の影響は見えやすいと思いますが, 密度行列に議論をうつすと位相の影響が見えなくなります. これも改めて調べたら量子計算と幾何的位相 (phase) のようなテーマの論文があり, 何かしら議論はあるようですが, 前提が全く共有できていないせいで何をどう論じているのか全くわかっていません. 堀田量子本を読もう・読みたいと思った理由も, この辺の問題にも何かしら回答が与えられているからではないかという期待があったからです. 堀田量子本の勉強会はあくまでこの本をきちんと読むという前提で考えていますが, 私の知りたいことを知るにはまだ道は長いようです.

ちなみに幾何的位相などの文献ではごく簡単な微分幾何の話はよく出てきます. ゴリゴリの関数解析系・量子系の数理の私がなぜ幾何を勉強しようと思っているかといえば, まさにこの辺の話題に興味があるからでもあります. 新井先生の『量子現象の数理』でも, アハラノフ-ボーム効果は平面に制限して関数論を使って議論しています. 私が知る限り田村英男さんのアハラノフ-ボーム効果に関わる散乱理論も, 平面上で関数論を駆使して議論しています. リーマン面がどこまで絡むかはともかく, 関数論はやはり便利な道具なのできちんと追い切りたいモチベーションがここにあります.

もっと言えば空間三次元でのアハラノフ-ボーム効果の数学的研究がどこまであるのか, そもそもあるのかどうかがずっと気になっています. 学生時代, 本道ではなかったとはいえ新井先生の本で勉強したので一時期追いかけていました. 三次元だと関数論が使えなくなっておそらく一気に難しくなるのでしょう. こんな感じで, 学部三年のときの宿題に延々向き合っています.

それはそうと, アハラノフ-ボーム効果に対するよい文献をご存知の方, ぜひ教えてください. 数学・数理物理ではなくふつうの物理の文献でも構いません. これから堀田量子の勉強のためにも大事だと思っています.

音読をはじめました/相転移プロダクション

今回の内容

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音読をはじめました

英作文に関するコンテンツ整備をはじめたと言いましたが, いわゆる四技能とかいうやつのバランスがよくないともずっと思っています. いま勉強会をやっているように, 大人相手に専門的な内容の読解をやる分にはどうにかなるものの, 中高生向けの展開も考えるとさすがにいまのようなアンバランスさもよくないですし, 自分なりに新しいことに挑戦しないといけない気もしてきたので, 最近音読をはじめました.

とりあえず学生どころか受験の頃に使っていた速読英単語の入門編を音読しています. 読む分には何ら問題ないのですが, この程度でもすらすら英作文できるかと言われるとかなり厳しい事実を目の当たりにしています. もっと簡単な文章がいいのだろうという気もしますが, やっていて楽しめるのも大事で, いい落とし所がないか探しています.

それこそ科学雑誌を読む会で教えてもらった, ネイティブの小学生向けくらいの記事がいいのかもしれません. まだきちんと文章を眺めていないので, 明日の朝の時間を使って読んでみようと思っています.

ここで「簡単」概念が非常に難しいのが悩みどころです. 先日英語で童話をいくつか眺めてみたのですが, 一文がやたら長かったり, 英語らしい表現が出てきて逆に英作文を見据えた音読には厳しすぎると思って断念しました. 何より長続きしそうにありません. いっそ数学の本を音読しようかと思ったほどです. 数学の本は表現が限定されすぎるので候補からはあえて抜いてありますが, ネイティブの算数や理科の教科書を読むのはどうかと今真剣に検討しています. 興味があるところから選ばないと続かない一方, 特殊すぎても訓練になりきらないので, 我ながら面倒な趣味をしていて自分にうんざりしています.

ある程度英作文にも転用できる, よい音読教材をご存知の方, ぜひ教えてください.

勉強会の記録

アインシュタインの原論文を多言語で読もうの会

第17文を読みました. 一年近く続けてようやく 17 文という尋常ではないスローペースです.

細かい注意はいろいろありますが, 今回は単純な文章読解としては難しくないものの, 物理的に重要なことを執念深く語っている一文で, そのニュアンスを汲み取れるかが勝負だ, という話をしました.

多少なりとも物理をやっていれば当たり前と言えば当たり前の話なのですが, やはり専門がずれると汲み取りにくいようです. 科学雑誌を読む会でいま読んでいるのは生物系ですが, これも生物系の人なら汲み取れるニュアンスは汲み取り切れていないのでしょう.

数学・物理系のメルマガでしか書いていなかったかもしれませんが, やはり自分で勉強できること, 会話の実地訓練など自分でやるしかないこと, 教わらないと大変なことがあって, 教わるべきことを見抜いてきちんと教えを請うのが大事なのだろうと改めて感じます.

数学・科学の英語記事を読もうの会

今回, こちらでかなりハマり所が出ました. 英語でよくある, 「意味はわかってもよい日本語訳が出てこない問題」にぶち当たりました. それも二文です. 語学系のコンテンツ・勉強会のテーマは英語を通じて日本語の力を鍛え, 思考力・表現力も磨くことにあるので, まさにここが試されてしまいました.

やはり面白かったのは相変わらず単語の深掘りです. あと個人的には事前に見ていたときには特に何も思わなかった単語に対して, 勉強会の最中にふと気付くことがいろいろあった点です.

事前に見ていたとき, 例えば deity という単語を素通りしていたのですが, 勉強会の最中に deity が何故神なのかと思ったのです. そして deus や Zeus なのだろうなと思って, 勉強会の最中に調べました. あとで単語録を見たらきちんと調べてありましたが, 調べたことを完全に忘れていました. divine とも関係があるようですが, 何も覚えていませんでした. それでも Zeus からの類推はすぐできるのかと自分に感心しています.

あと goddess もふと疑問に思いました. 人 (?) に関係する名詞の女性形でウェイトレスと同じ系統の話のはずですが, ドイツ語やフランス語で名詞の性という概念を知った一方, 英語で名詞の性自体は死んでいます. 英語での女性形とはそもそも何なのか, ついたりつかなかったりするのは何故なのかなどいろいろ気になります.

ちなみに日本語でも父・母, 息子・娘など名詞の性はなくても, 性によって名詞がわかれているケースはあります. 逆にこうした区別を持たない言語はあるのか, それを育んだ文化と歴史は何かといったことが気になります. 他の人はともかく, 科学史・数学史以外にも, こういう視点から歴史の話をしてくれると私は面白いのですが, どうするとこういう資料が探せるのか, 知識と能力と経験がありません.

英語の神関係の単語はいくつかありますが, それぞれ語源はどうなっているかなども次回の私の宿題として残っています.

プログラミング

プログラミングもちょこちょこやっています. ただ, これをどこにどう書くかを考えています. 広義言語なのでこちらに書いた方がいいのかと思いつつ, やっているのは大抵何かしらの計算なので, 数学・物理系メルマガに書けばいいのか.

言語としてのプログラミングを語れるならこちらで書くのがいいのでしょうが, 生憎それだけの知見を持ち合わせていません. やるべきことがたくさんあって日々目が回っています.

2021-07-31

物理と幾何と代数/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

申し訳ないのですが, 今回もリーマン面の話はお休みです.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

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「物理の人って群論どれくらい勉強しとくといいんですかね」

Twitter の鍵つきアカウントの人と少し話をしたので記録しておきます. 参考になる人もいるでしょう. どちらかと言えば物理や応用系の人より, 数学の人が物理の人の気分を掴むのに役立つはずです.

物理の人はどのくらい群をやるのか

何をやるかによります。 量子力学だとスピン関係で行列としてのSU(2)やSO(3)と、 そのヒルベルト空間上への無限次元ユニタリ表現で数学的詳細を一切気にしないバージョンなどをやります。 あとはボソン・フェルミオンに関連して置換群の無限次元表現をやります。 表現の意味で準同型は出てきますが、 準同型写像や準同型定理などはふつうの量子力学の本で見たことはありません。

言い方が難しいのですが、 数学から見ると表現論の範疇ではあるものの、 実際にやっているのは固有値・固有ベクトルに関する議論で、 しかも有限次元の線型代数です。 量子力学だとどれも https://mns.kyutech.ac.jp/~okamoto/education/quantum/spin-angl-mom-coupling-summary110713.pdf のノリです。

まじめにやったことがないので詳細は全く知らないのですが、 結晶学をやる人は点群の勉強をするそうで、 これは量子力学用のスピンや置換群とは全然気分が違います。 一方、素粒子系だとリー群・リー環の話が出てきます。

有限群の理論はどのくらい使うのか, そういう文脈があるか

聞いたことはありません。 点群は有限群なので裏で使っている可能性はありますが、 そういう(物理から見れば)飛び道具を使うよりも、 目の前の具体的な群に対して腕力で強引に乗り切る方が尊ばれる文化的な素地があります。 テンソルに対して数学的な定義を知る人さえほぼいない状況と合わせるとイメージしやすいのではないかと思います。 おそらく数学関係の人が想像する以上に物理の人は数学ができない・知らない・興味がなく、 点群関係だと実験の人も関係してきて理論面への興味関心が一段と下がる事情もあります。

頂いた感想: 何故・どこに・どんな重点を置くのか問題

お久しぶりの方からメルマガで感想を頂きました. どんな形であっても数学を勉強しようという人には参考になるはずなので, いくつかコメントを引用します.

学部生等のセミナーや非常勤講師として面倒を見る機会が多く、 その際に多項式が基礎体上定義されるのか/拡大体上定義されるのかや、 根を閉体の中から取るのか/それより小さい拡大体の中から取るのか、等がよく問題になります。

この辺は写像の始域/終域と類似して、 癖がついてないと疎かにしがちかつ間違いやすい、 けれども、どこで自分が何を考えるのかという主体性に関わる重要な部分だよなあと痛感していた

三週間くらい大雑把に可換環を勉強していたのですが, そこで環・代数・体の拡大が何度か出てきました. まさに上でコメントされているような話が何度か出てきて, 本格的な議論になったら相当注意しないと確実にはまる危険な匂いを察知しました.

このあたりの危機予測に関して一つ大事なのは例, 特に反例を一定量知っておくことです. 現状, 私は幾何の十全な議論に必要なだけの代数の修行量がまだ足りておらず, そのうちの大きな部分が適切な例の把握です. そもそも何が把握しておくべき適切な例なのかさえ見えていません.

環ならとりあえず多項式環とそのいろいろなイデアルと商環ですが, 簡単に見た範囲でもまだ全く感覚が掴めていません. 多変数の多項式環は必ずしも難しくないにもかかわらず, 多種多彩な振る舞いをするのが面白い対象です. しかも代数幾何を通じて直接幾何的な性質も見られてかなり楽しいです. イデアルを加群とみなせば加群の理論も同時に守備範囲に入りますし, ふつうの群・環・体のノート作りをさっさと終わらせて, 早く本格的な可換環・加群の勉強に入りたいです.

最後, だいぶ話がずれましたが, 何にせよ面白い例を把握すること, そして何より面白い例を面白いと思える感性を磨くことが大事です. 他の分野よりも勉強したいと思うかどうかはともかく, 面白いモノをきちんと面白いと判定できる感性を育てるのは非常に重要です.

ガロア理論

リーマン面でも出てきたのでこれからノート作りに精を出す予定で, かつ先の物理での代数といった話と関係するので少しまとめておきましょう.

まずリーマン面だと被覆空間・ホモトピーまわりで使います. まさにガロア被覆といった概念が出てきます. 直接的にゴリゴリにガロア理論を使うわけではありませんが, 群による統制・対称性の統率というガロア理論が生み出した群による統率が直接効いてくる重要な局面です. 特にガロア群の作用が被覆空間上の点の置換を引き起こす点は代数方程式に対するガロア理論と同じ構造です.

他には数学内部での実用性があります. ガロア理論自体, 微分方程式論で微分ガロア理論などがありますし, 代数的整数論での応用など直接的な応用もあります. しかしそれ以上に, 上にも書いた群による対象の統率という視点が決定的に大事です.

対象の統率という視点では幾何全体にも非常に強い影響があります. 例えばリーマン多様体でのホロノミー群はその種類でリーマン多様体の計量的な性質が決まります. もちろん対称性の群をできる限り小さくすることで, その多様体の構造を限定して多様体を研究しやすくするという視点も生まれます.

他にも相転移での対称性の破れは, その名の通りもともと持っていた対称性が破壞される現象で, 特に対称性を記述する群が小さくなる現象を表します.

素粒子ではふつう理論にいろいろな対称性を課します. 理論にはいろいろな自由度がある中, 物理的に自然な (高い) 対称性を持つ群の作用があることを仮定して, 理論の存在範囲を絞り込みます.

あまり単純な比較をするのもよくないのですが, 物性が雑多で綺麗な理論を作りにくい理由はここにもあります. 理想的な状況を考えてさえ理論によい対称性を仮定しづらいのです. 例えば結晶格子の構造を見ても, 一般に整数 $\mathbb{Z}^3$ の作用は仮定できません. 高校化学のレベルでさえ立方格子の他に面心立方格子や体心立方格子, 六方最密構造があります. 結晶を構成する原子やイオンの位置は $\mathbb{Z}^3$ の上になく, この可換群が結晶に作用できません.

もちろん理想的には適当な対称性は持っていますが, 数学的に扱いづらく理論を組みにくいのです. 普遍性などを根拠に, シンプルなところだけ見ていてもある程度は物理がわかるだろうと思って展開する議論以外, 現行人類には対処しようがない部分があります.

ガロア理論は一変数多項式環という, かなり触りやすい対象でこうした事情をある程度まで見せてくれるのがいいところです. ぜひ一度腰を据えて勉強してみてください. 多様体への群作用や群の表現論・調和解析と言われても余計な要素がたくさん入ってくるので, おそらくそれ程勉強しやすくはありません.

調和解析ならフーリエ解析から応用も含めた別の入口が作れますが, 解析のかなりややこしい議論も入ってきて, 必要に応じて余計な部分をショートカットしたり, 各人に合わせた具体例を的確に出せる人に師事を仰がない限り, フーリエ解析から群の射程距離を追いかけるのはとても大変です.

量子力学のための線型代数オンラインセミナー

先日から堀田本をもとにした量子力学の有料指導をするという話をしています. Twitter を見ていると数学系の人でも興味はあるという人はいるようですし, 何がはまりどころになりうるのか, 私としてもできる限り把握しておきたいと思っています. そのために本編がはじまる前にちょっとしたオンラインセミナーをしようと思っています.

専用メルマガで案内するので, 興味がある方は登録しておいてください.

以前も言いましたが, 有料の勉強会開始前に最終的な参加者を募るので, とりあえず量子系の物理・数理に興味がある人は登録しておいてください. ちなみに今日は現代の量子力学でも重要な, 操作主義に関する資料を配布します. これは先日 Twitter で木村元さんからいくつかコメントをもらったところでもあり, 現代的な量子力学を理解する上でもかなり大事話だと思っています.

前半の有限自由度系が堀田本の一番の目玉だと思っているのですが, 非数学系の人にとってはこの目玉の部分こそが一番の鬼門で難関でしょう. そこまでほとんど鍛えてこなかったであろう, 線型代数の抽象論が乱舞しているからです. 特に実用的にも重要な多体系の構成では抽象的なテンソル積の処理が必要で, 「添字と適当な対称性があるベクトルの拡張のようなやつ」としか思っていない人の魂を効率よく刈り取る世界です.

以前松尾さんと勉強会をしたときの蓄積もあり, 物理系の人には響きそうな話の展開の仕方の案はあります. 興味がある方は登録して案内をお待ちください.

フランス語と数学/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

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今週の英語

残念ながら今週は都合により勉強会がなかったので, 動画コンテンツなしです. 何を書いたものか迷うのですが, まずは最近強化中の英作文に関する話を少し書こうと思います.

Twitter を眺めていたら次の本が出るというのを見かけました.

音声があったので少し聞いてもみました. 例文もいわゆる理工系例文です. この間も書いたような気がするのですが, 理工系の文・文章ならいいというわけではなく, やはり興味関心が持てる分野でないと勉強が続きそうにありません. 自分用の例文集は自分で作るしかないかと改めて実感しました.

特に他分野の専門的な文だと, 専門用語を覚える負荷もあって英作文に意識が向けられません.

いまのところ面白いのは, やはり短めの文章をどうすっきり訳すか, そして大学受験で出てくるちょっと凝った日本語をどう訳すかの二点です. これなら英単語自体はだいたいわかるので, 英作文に集中できます.

あと大事にしたいのは, 英語を通じて語学力・文章構成能力それ自体を鍛えるという視点です. この視点からすると大学受験でのちょっと凝った日本語をどう日本語で言い換え, 英語に持っていくかを考える方向に頭を使いやすくなるのが利点です.

数学会話なら多少こなせますが, この範囲を拡大させるべく, いま少しずつ時間を取っています.

フランス語

新型コロナ禍の今はもちろんどうにもなりませんが, 私は柔道の道場に通っていて, 時々フランスからお客さんが来ます. 毎度お客さんが来た直後だけフランス語熱が高まり, しばらくするとその熱が冷めるよくあるループがありました.

何だかんだ, 最近はアインシュタインの論文読みで, 少なくとも週一はフランス語に触れています. 最近また朝の空き時間などにフランス語の数学の文献を読む時間を作ることにして, フランス語もシコシコやっています.

何となく Serre の層の論文を読んでいます. やはり数学でないと続かないので, 続ける方が大事と思ってとりあえずこれでやっています. 本当はもっとシンプルに単語もたくさん覚えないといけませんし, 文法, 特に動詞の活用をもっと真剣に覚える必要があります. この辺をどうすると楽しめるか考えるのが今の課題です.

雑誌を読む方の勉強会でもあまり言及しきれていませんが, やはり理工系単語にはラテン語が陰に陽に良く出てきて, フランス語はラテン語由来が英語よりも見やすい事情があります. 数学の文献での重要度もありますし, 私の日常では会話の意味でもフランス語が大事なので, これももう少し何とかしたいところです.

もちろん英語との相乗効果も狙える形にどうまとめるかも課題です.

2021-07-24

勉強会での発見/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

申し訳ないのですが, 今回もリーマン面の話はお休みです.

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勉強会での発見

教えてようやくわかること

先日お伝えした通り, これまで公開で進めていた理論物理学者である松尾衛さんとの勉強会は, 今週から有料のクローズドな勉強会になりました. クローズドにしたので, ここでそんなにベラベラと書けはしないものの, いくつか私自身改めて勉強になったことがあり, それを共有しておきます.

先日, すうがくぶんかの紹介をしたとき, メールで感想をくれた方が 「こんなところで個人指導をしてもらうのもいいのかもしれない」と言っていました.

実はそこで「教わるのもいいが, 教えることでようやくわかることもある」という返信をしました. そしてまさに今回, それを体感しました. 何というか, わかっていたことではあったのですが, 改めて質問されて大事なことを再認識したというか.

写像の記法

一つは写像の記法です. 数学は定義域・終域を生真面目に書きます. それは定義域 (始域)・終域にもいろいろな情報が入っているからです. 物理やその他の分野では面倒だからなのか何なのか, そうした記法や運用を取り入れていません. それを無視するからいろいろな無理や, 数学の理解に齟齬をきたすのだろうという話をしました. これも以前どこかで誰かに話したことがあるものの, 改めて認識しました.

自分用の記録としてもここに残しておきたいと思います. もしあなたが数学をきちんと勉強したいと思っているなら, おそらくあなたの想像を遥かに越えて大事です.

もしあなたが数学を現代数学のスタンスできちんと理解したいと思っているなら, 記号の用法なども大切にしてください. 記号一つ・用語一つにしても適当に書いているわけではありません.

概念間の関係

もう一つは概念間の関係です. 記号に関して一つ質問を受けたのですが, そこから実数論・位相・関数論・作用素環など多方面に話が展開されました.

以前公開の勉強会でも何度か言った話ですが, 次のようなポイントに注意して勉強する必要があります.

  • 自分一人でもできること.
  • 自分でやらなければいけないこと.
  • 一人でもできるが人に聞いた方が遥かに速いこと.

誰かに何を教えてもらうとき, 大事なことは最後の「一人でもできるが人に聞いた方が遥かに速いこと」に注目する必要があります. これも細分するといくつかあります.

  • 自分にはわからない証明や計算のギャップ.
  • 分野の全体像やいろいろな関係を知ること.

ある程度までなら前者は放っておいて進めておいて, 後で戻る手法で対応できます. しかし後者には本当に長い時間と労力がかかります. 人に何かを教わるときにはとても大事な要素です.

実際今回改めてやり取りして, 一つの記号の話の話から数学に対する大局的な展望をいくつかお話することになりました. そうした事情を知るのは, やはりよく知っている人から指導を仰ぐ利点なのだと改めて確認しました.

ちなみにこの個人指導は, 私が以前から作って販売している現代数学探険隊をもとしています. 自分が面白く役に立つようにと作ったので, 面白く役に立ち, 自分が講義しやすいようにできていて, 我ながら惚れ惚れしています.

最近進めている勉強

ここ半年程度幾何づくしです. リーマン面で多少のガロア理論が出てきたので, いい加減代数も勉強し直さなければいけないと思っています.

リーマン面との関係から代数曲線論も勉強したいところがあり, まずは可換環論のノートを雑に作りました. まだ細部が埋まりきっていませんが, 以前よりはだいぶ世界観の把握が進みました.

それ以外にも幾何のための代数として, いわゆる群・環・体の基礎, そして幾何のための線型代数として, リー環, 内部積・リー微分, ホッジ理論 (調和積分の局所理論), 複素微分形式あたりがあります.

外積代数はもう現代数学探険隊の解析学編で書いていることもあり, 線型代数方面はほぼノートを作ってあります. あとはノート自体のブラッシュアップと, 私自身の理解の定着です.

他には層とホモロジー代数, そして簡単な圏くらいまでのノート作りを考えています.

このノート群は幾何をやりたい人の誰にとっても大事なはずで, 早く公開したいところですが, あまりにも完成度が低い (タイポなども未チェック) のでまだ寝かせざるを得ません. もうしばらくお待ちください.

その他, いろいろな理由から確率論の勉強も再開しています. 新井先生が書いた汎関数積分の本での確率積分は読めるものの, ふつうの確率解析や確率過程の本は全然読めないので, 基礎からやり直す必要性を感じていて, いままさに基本的な本からノートを作っています.

量子力学の基礎知識

先日から堀田本をもとに量子力学の勉強会を計画しています. 猛スピードで私自身再勉強を進めていて, いまのところ 8 月中旬からはじめることを想定しています. もう何人かの方からお申し込みを頂いていて, あと数名は受け付けられそうです.

8 月中旬まで時間が空いてしまい, 単純に待たせしまうのも申し訳ないので, 受講希望の方向けの特設ページを作って, そこに堀田さんの本に書かれていない基礎知識なども載せることにしました.

興味のない方にいつまでも案内をお見せしていてもご迷惑でしょうから, 今後はしばらく量子力学系の話は勉強会用メルマガで展開します. もしあなたが「勉強会には必ずしも興味ないが, 量子力学関係の話は知りたい」と思っているなら, ぜひ登録しておいてください.

時間が空いてしまうこともあり, 最終的にまた勉強会受講希望も取るので, 登録したからといって受講を強制したりはしません.

ちなみに今後基礎知識コンテンツとして作ろうと思っている内容を簡単に箇条書きにしておきます.

  • 小澤正直, 量子測定理論入門 (第56回 物性若手夏の学校(2011年度))」に関するコメント
  • 量子系でのテンソル積をいろいろな角度から眺める
    • 多体系の構成, $L^2$ でのテンソル積, TPCP・量子力学の公理系との関係
  • 操作主義の説明, 熱力学との比較.
  • 最終的な結論のまとめ: 堀田本の読み方・意義などを大掴みにする.
  • 観測と測定の違いを改めてまとめる.

今日配信予定の基礎知識メルマガでは, Twitter で量子力学基礎論の専門家で, 量子情報などの研究もされている木村元から頂いたコメントなども紹介しています. 量子情報からの視点や, 観測の理論と測定理論の違いについてもコメントを頂いていて, 非常に面白いです.

動詞sportの意外な意味/相転移プロダクション

今回の内容

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動詞 sport の意外な意味

「数学・科学の英語記事を読もうの会」で次のような文が出てきました.

  • Like other types of Dumbo octopus, it sports two ear-like fins on its head.

あなたはこの sport の意味がわかるでしょうか? 見ればわかる通り動詞です.

一応 (オンラインの) 英和辞典にも関連する意味は書いてありました.

ただたまたま書いてあっただけで, やはりこの手の特殊な用法は英英辞典で調べた方がよいのだろうと思います.

以前も書いたか動画で話をしたと思いますが, 典型的なのは have や make のような基本的な単語です. 私の中でこうした単語の中に sport が降臨した瞬間でした.

一緒に勉強している K さんも「はじめてこの用法を見た」と言っていました. 上記オンライン辞書でも口語とあったので, 口語表現・会話の難しさを感じます.

まだ英作文ノートに転記しきれていないのですが, 雑誌記事には理工系向けによい例文が揃っていて, 読解+英作文コンテンツとしてこれは使えるな, という確信を深めています.

ある程度慣れていれば英語から和訳はできるものの, その和訳から英語を復元するのが難しい文がたくさんあります. さらに和訳を作るのは簡単でも, 生物学的にきちんと意味を取り切る難しさもあります.

私も高校では生物を履修していないので, その意味では正式に持っているのは中学レベルの知識なのですが, それだけでもある程度は読めます. しかし K さんにそれを話してみると, 意外と通じなかったりもしました. こうしたところから, 実践的に科学のいろいろな分野の知見を深めるのもありだな, という感覚もあります.

私も生物はもっとふつうに高校くらいの内容は知らないといけないとは思っていて, 以前多少勉強したものの, 当然その程度で身につくほど甘くありません.

大人向けに, 中高生物の内容を, 大学くらいの視点から深く切り込んでくれるコンテンツがほしいです. 地歴公民方面でもそう.

とりあえず, 数学・物理・プログラミング・英語でそれらを組み上げるのが いまの自分の一番の仕事だと思っていろいろやっています.

2021-07-17

残念なお知らせ/相転移プロダクション

今回のテーマ

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今日は一日中量子状態の定義の資料をまとめていたので, リーマン面はお休みです.

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量子状態の定義

ちょうど先週, メルマガを出した翌日に堀田さんの本が届きました. 勉強会を開こうと言っていた堀田さんの本に関してツイートでメモを取りながら読み進めています.

これでいろいろ書いていたら堀田さんからコメントが来ました. それに関連して, 今日, 堀田さんの本での量子状態に関するまとめを作っていたので, その PDF を共有しておきます.

ぜひ参考にしてください. 回答を返せるかはわかりませんが, 不明点があれば気軽に質問してください. 堀田さんの本の勉強会の案内についても PDF 内に案内があります. こちらにも載せておきましょう.

今週の「理論物理学者に市民が数学を教えようの会」

今週の勉強会の動画です. 一応 YouTube へのリンクも貼っておきます.

さて, 残念なお知らせです. いままで理論物理学者の松尾衛さんと進めていたこの会ですが, 今回で公開は終わりです. 松尾さんからもっとディープな質問やコメントも気軽にできるようにしたいという要望を受け, 次回から有料のクローズドな勉強会に移行することが決まりました. これまでの勉強会の記録や YouTube 上の動画は公開したままなので, 引き続き楽しんでください.

ちなみに今回分の内容のコンテンツは現代数学観光ツアーとして公開しています. 理論物理学者が楽しめるくらいの内容に仕上がっているお墨付きがあるので, 未受講の方はぜひ受講してみてください. もともとメルマガの講座だったのを受講しやすく整理・再構成しています. まだ通信講座としての体を整えられていないのが残念ですが, ご自分でコントロールしつつ楽しんで下さい.

もしあなたが個人指導などをご希望ならお問い合わせなどからご連絡・ご相談ください.

思っていたより楽しめる/相転移プロダクション

今回の内容

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勉強会の所感とライティング

アインシュタインの特殊相対性理論の原論文を英語・多言語で読む会

相対論の方はもう少しで一年で, 面白いと思ってやっているのもあり, とにかく面白いです. 事前にここまで楽しい会になるとは思っていませんでした. もっと多くの人に広めるべく, 何ができるかいろいろ考えています.

数学・科学の英語記事を読もうの会

今月からはじめた英語記事を読む会, あえてネタを慣れない生物系に選んだため, はじめは面白くなるかどうか不安なところもありましたが, 勉強会を進めていたら思いの外面白くなってきました.

今回, 表面的な日本語訳を作るのは難しくなくても, その意味をきちんと取って楽しむには生物学の素養が必要という, まさにこの題材を選んでよかったという文が出てきました. これ以外にも接続詞の使い方のような複数文の関係を見るべき文もあれば, 短い文章でいいからきちんと全体を読む意義が感じられる文もあり, この方向性も大事なことを改めて実感しました.

私は数学・物理特化型で歪ではあるものの, 参加してくれている K さんはもっと英語全般に詳しく, 今回は特に訳文や私の理解に関していくつかおかしいところを指摘してもらえました. やはりきちんと勉強している人は地力が違います. 動画を見てもらえばわかるように, 前置詞などの細かい使い方もきちんと知っていて, 自分の勉強が甘いのを思い知らされます. 今後の強化点が掴めたと思っています.

ライティング

雑誌の勉強会の中で何度か, ライティングにも活きるコンテンツにしたい・作りたいと言っていて, 理系ネタ英作文としても使いたい, みたいな話をしています.

勉強会のあと, 英作文について少し相談したのですが, やはり自分用のコーパスを作るのがベストとのこと. 先々週あたりから改めて英作文の例文集をシコシコ作りはじめました.

方向性はいくつかあります. まずもって大事なのはもちろん理工系の文章のやり取りで大事な文・表現, 次に一般向けとしてビジネス系にも使えるような文・表現, 最後にどうしても発生してしまう適当な範囲での会話での文・表現です.

  • 本当にリアルの日常会話で「これどう言えばいいのだろうか?」と思った文・表現のストック.
  • 日常会話系のコンテンツに収録された文・表現のストック.
  • 大学受験用の英作文コンテンツに収録された, ちょっとひねった・小洒落た日本語の翻訳.

前回も書きましたが, やはりここで大事なのは単純にこれらを収録するだけではなく, いまの私でもさっと書けるレベルの文をストックすること, そのために日本語自体を書き換えること, 大幅に意訳すること, 言いにくいことがあったら最低限の意図が伝わるレベルまで削って文を書くこと, この辺を徹底することです.

四の五の言わず基本的な例文は覚えましょうと良く言われます. 例文でなくても, 例えばロシア語の文法の本で「面倒と思うのもわかるが, とにかく覚えてしまうのも非常に大事. きちんと覚えておかないと結局時間を浪費してしまう」とはっきり書いてあります.

ただ, そんなに簡単にサクサクと覚えていけるわけでもなく, 英語・語学ばかりやっていられるわけでもなく, やりたいわけでもありません. まず何を覚えるか考えて工夫する必要がありますし, 覚えなくてもいいようにする工夫も必要です.

これも前回紹介したように, 特に大学受験用の英作文コンテンツの英文は自分なりに魔解釈して, 簡単にした翻訳もつけています. 一年くらいストックを続ければ私の作文能力自体ももう少しましになるでしょう. それを期待して毎日シコシコ英作文のストックを作っています.

面白い例文があればぜひ教えてください.

2021-07-10

量子力学の勉強会/相転移プロダクション

今回のテーマ

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量子力学の勉強会の案内

先日紹介した堀田さんの量子力学の本がそろそろ出ます. そして堀田さんが次のようなツイートをしていました.

ツリーから引用しておきます.

理論物理学私塾や物理教育インフルエンサーの皆さまに、この教科書に沿った量子力学のオンライン授業を常識的な授業料で行って頂ければ嬉しいです。教科書を買って著作権を守って頂ければ、開講されてもこちらは他に何も要りません。この国で民間の物理学高等教育の場が成熟することを願っております。

私塾などで理論物理学を教えることで、教育する側の生活が成り立つような環境が、この国中に広がることを夢見ております。

極めて例外的だとは思いますが、大学教員の皆さんが無料で、ご自分の大学の学生ではない一般の方に向けて、この教科書に沿った内容の本格的な授業をするのはお避け下さい。私塾などの民間事業の圧迫を避けるように、ご配慮願います。

この教科書は304ページしかありません。先生方の授業の中で、いくらでも膨らませられる余地があるような設計です。受講生のニーズに合わせて、様々な授業設計が可能だと思います。そして私塾や物理教育インフルエンサーの皆様の腕の見せどこでもあります。是非いろいろと考えて頂けないでしょうか。

せっかくこういう話が著者から出ているので, 私も有料の勉強回を主催してみようと思います. まだ本が出てさえいなくて本の中身を確認できてもいないので, 詳細は何も決まっていませんが, もしあなたが興味があるのなら参加希望を出しておいてください.

相場としては次くらいを想定しています.

あくまで物理に集中したいので, 数学的な補足は最小限にする予定です. (計算は別です.) 数学の話をしてほしいという人が多ければそれはそれで考えますが, やるとしても物理とは切り話した別枠にすると思います.

そろそろ物理にも本腰を入れたいと思っていたところなので, とても楽しみです. 早く本が出てほしい.

英作文コンテンツの方針/相転移プロダクション

今回のテーマ: 英作文コンテンツの方針

今週の勉強会は中止になったので, 英作文コンテンツについていろいろまとめていた内容を共有します.

理系向け英作文コンテンツの難しさ

私が知る限り, まず一般的なコンテンツの方向性は次のようにまとめられると思っています.

  • 論文執筆のためのライティング技術.
  • 理工系単語集.
  • 工業英語・テクニカルイングリッシュ.

それぞれに関して不満があります. ちょうどいい落とし所のコンテンツが見当たらないので, 叩き台を作っているところです.

まず Not for me な点をいくつか書きましょう.

Not for me

ごく簡単な英会話にも対応できるコンテンツがほしい.

英作文をする機会は作ろうと思えばいくらでも作れます. 極端に言えば数学・物理・プログラミング系のサイト, stackoverflow に質問を投げればいいのです.

問題はある程度の瞬発力が必要な会話です. しかも訓練するには相手が必要です. 最近よく 4 技能と言われるように, 会話と英作文は別の技能なので一緒にどうにかしようというのは虫のいい話です. しかしもう少し何とかならないかと思っています. ふつうの英会話系の教材に何の興味も持てない私の資質の問題でもあります.

正直, ふだん滅多に英会話の機会はありません. それでもふとした時に英会話 (またはフランス語会話) の機会があります. そう思うたびに少しは (英) 会話もやらないとと思うのですが, 下手をすると年に 1 回あるかないかくらいです. 英作文をがんばっていると勝手に英会話の基礎スキルも上がるような, いい感じのコンテンツがほしいです. 英会話学習にも転用できる英作文のコンテンツがほしいと言えるかもしれません.

一般の理系向けには夾雑物がある

例えば理系向け語源による単語集みたいなのがあります. 単純に眺めている分には面白いのですが, やはり異分野の単語は使う機会がありません. 自分野用に使い倒せる, 私にとって都合のいいモノがほしいです.

テクニカルイングリッシュのノウハウをいい感じに数学・物理ローカライズしたい

テクニカルイングリッシュまたは工業英語と言われる分野があります. 私が通っていた早稲田には専門家がいたようで, ミシガン大と提携した TEP テストという資格試験もありました. 気分的には特許や家電の説明書用の英語だと思ってもらえばいいでしょう. 一言で言えば, ただでさえ内容が難しいのだから, すっと理解してもらえるような簡潔明快な文・文章を書くための技術です.

一つだけ気分が伝わる例文を挙げます. 次の日本語を訳してみてください.

  • レバーを手前に倒してください.

特に意図はありませんが, たまたま見つかったので次のサイトから訳文を取ってきます.

Tilt the lever toward the operator.

これはテクニカルイングリッシュの視点からはいい翻訳ではありません. 次のように訳せと言われます.

Pull the lever.

上記リンク先では「tilt は傾けると言っているだけでどちらにどう傾けるかがあいまいだから, toward the operator という副詞句が必要だ」という解説があります. それならはじめから「手前に倒す」という意味の動詞を使えというのがテクニカルイングリッシュの教えです.

これのいいところは指示が一語で明確になっていること, 文が短くなっていることであり, さらに言えば tilt よりも簡単な単語 pull で表現しきれているのも良い点です. 技術の英語なので単語の簡単さは常に実現できるとは限りませんが.

この簡潔・明快さを基本方針にした英作文コンテンツはないものかと思っています. 多少の時間をかけて簡潔・明快に文が作れるなら, その時間を短くすればある程度英会話にも転用できるのではないか, そう思っているのもあります.

ただしノウハウの全てが数学と物理, そして私に必要な英会話にマッチしているわけではありません. 一見相反するようなノウハウもあります. ここを魔改造するのがいまのタスクです.

会話転用できるレベルの例文と翻訳がほしい

数学や物理は中二病用語生成器であると言われることがあります. 論文レベルの文章や単語は格好いいので, 勉強するモチベーションもあがります. ただ, どうしても話題・表現・語彙は限定的になってしまいます. 特に会話で出てくるアクロバティックな文章・訳・表現はカバーしていません.

この辺, 雑誌, それも中高生向けの雑誌のレベルなら, もう少しバリエーションも増えるだろうと思って, 雑誌を読んでみよう企画を立ち上げてきちんと読み込んでみようと思ったのにつながります.

ではどうするか?

二本の柱

いま作業しているのは次の二点です.

  • ここまでに勉強してきた英作文技術, 特にテクニカルイングリッシュのノウハウの抽出.
  • ちょっと凝った文の翻訳例の生成.

前者について特に言うことはありません. 後者が大事で, しかも私自身にも必要なものだと思っています. コンテンツを作る体だと勉強のやる気も上がるので, まさに勉強ついでのコンテンツ生成という都合のいい話にもなってくれます.

二つ翻訳例を紹介しましょう.

リアルに使えそうな文: プレゼンのまとめとして, この商品のよいところをご説明します.

表題の文の翻訳を考えてみてください. 生真面目に訳すと次のような翻訳になるでしょう.

  • As a summary, I will explain good points of this product.

このくらいなら大したことはないでしょう. しかしまだるっこしいのでもっとシンプルに書きたいのです. 何より, ただでさえ吃音があって人前で話すのに過剰な緊張がかかる自分が, 緊張している場面でこんなに長い文がさっと出ると思えません.

これに対して次のような翻訳を提案します.

  • I show good points.

実際には話の流れもあるでしょうから, これだけでも「ここまでのまとめでもあるよ」というニュアンスも伝わるでしょう. まとめというニュアンスをどうしても入れたければ次のように書けます.

  • I summarize good points.

入れたければ will やら now やら突っ込んでもいいですが, 最小構成としてはこれで十分でしょう. 少なくとも今の私が会話の場面で summarize などという洒落た単語が思いつくとも思えないので, はじめの翻訳では show という中学英語でしのぎました. こういうしのぎ方・頭の使い方を教えてくれる本がほしいのです.

ちょっと凝った和文の翻訳: それはまさに起死回生のホームランだった.

これは大学受験用の英作文教材, 「新ユメサク 夢をかなえる英作文」の最初の例文です. そこでは和文和訳という手法が提案されていて, 起死回生を直接訳すのは大変だから, 「ホームランのおかげで試合に勝てた」みたいに書けばいいと解説され, 次のような翻訳が提案されています.

  • Thanks to that home run, we were able to turn around the game we had been losing and fight back.
  • That was absolutely the home run that allowed us to turn the tables in the game we'd been losing.

大学受験用の英作文としてはこうするといいのでしょう. これがさっと浮かぶなら大したものです. しかし私はこんな文をさっと生成できません. 何度も書いているように瞬発力が必要な会話にも転用したいのです. そこで次のような翻訳を考えました.

  • We had an important homerun.
  • It was an important homerun.
  • The homerun gave us the win.

起死回生というのは自分にとって重要な一打なわけで, 単に important でいいだろうと判断したのです. これならすぐに書けますし, 不格好でも最低限の意図は伝わります.

最後の文, "The homerun gave us the win." については次のように思う人もいるでしょう.

起死回生の一打で逆転できたかもしれないが, このあとさらに相手に点を取られて逆転されてしまったかもしれないのでは?

もちろんその可能性はあります. 大学受験, それも模試でしょっぱい採点者だと原点してくる可能性もあります. しかしいまの私はそんな状況で英作文をするわけでもしたいわけでもありません. 逆にこの指摘は次の大事な点を浮き彫りにします. つまり, 状況によって適切な翻訳も変わるのです.

私が目指すところがどこかと言えば, 簡潔明瞭な英作文であり, 会話にも転用できる作文技術です. この視点からすれば, 上の第三文も使える状況はあるのです. 使えないなら別の訳を考えるだけですし, その場合も上の二つの文は使えます.

実はこの最初の文については「数学・物理の英作文」ノウハウを適用してもいます. それは万能動詞としての have です. 英語の have は日本語の「持つ」とは守備範囲が全然違います. 有名なのは次の文でしょう.

  • I have a headache.

英語だと頭痛は持つモノなのです.

他にも「システムに不具合がある」と言いたいとき, "This system has a problem." のようにも言えます. システムは問題を have できます.

よくわからない場合はとりあえず have を使うというノウハウがあります. 実際数学だと「計算によってこのような式が得られる」というときにも have を使います. もっと have を使おう, そしてそれがかえって英語らしく簡潔な表現を与えてくれるのだ, そういう感じのノウハウをまとめ, 例文をストックしています.

例文は延々とストックを続けていく必要があり, それこそ一生かける必要さえあるでしょう. しかしノウハウとよさげな例文集のピックアップ, そして叩き台なら 1-2 ヶ月もあれば作れると思います. ほしいものを中心にいろいろ考えて進めています.

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2021-07-03

相対性理論にまつわる話/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

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相対性理論にまつわる話

語学の勉強会と反省

何度かアナウンスしている通り, アインシュタインの特殊相対性理論の原論文を英語・多言語で読む会を主催して, もう 10 ヶ月です.

英語を中心として語学的にこってりやっているので, 物理・数学の話はほとんどしていないにも関わらず, いまだに第 1 章の前半も前半です.

それはそれとして, 特殊・一般含めて, 相対性理論の物理もきちんとやらないとまずいだろうと思いはじめました. ちょっと凝った文になると物理がわかっていないと英語の意味も取れません. 実際, 一緒にやっている人が理系とは言え数学出身の人で, 物理としては学部 1-2 年の話でもやはりなかなか気分が掴めず, 訳出もしづらいようです. そこで改めて特殊・一般相対性理論の勉強をはじめました.

物理の前に数学の話

特殊相対性理論は数学として何ということはありません. もちろん理工系教養程度の数学力は仮定した上で. 物理としてはきちんと考えないとはまるので, そこを改めてきちんと詰めるのが今のテーマです.

もう一つ, 一般相対性理論についても一応触れておきましょう. よく擬リーマン多様体の理論・微分幾何が必要でうんぬんという話を見かけます. ただ, シュバルツシルト時空やらブラックホールの基礎やらの入門トークをするだけなら, わざわざ微分幾何というほどの数学は必要ないのでは? という気しかしません. この程度の範囲ならテンソル解析もはっきりいって大した話ではなく, 共変微分だけ謎の微分法として受け入れて覚えて使い倒せば計算は十分に進められます.

そういえば, 擬リーマン幾何ではなくふつうのリーマン多様体・リーマン幾何ですが, 相対性理論でも必要な微分幾何を計算ベースでゴリゴリ作った動画シリーズがあります.

興味があればどうぞ. メインの「光学迷彩の数理」では, 実際にメタマテリアルの物理の論文の数学的イントロから作っているので, ある程度物理モチベーションで微分幾何の計算が勉強できます.

物理スタイルと数学スタイルを両方議論しているので, 物理の人が数学スタイルの微分幾何を勉強するにも便利だと思います. 以前, 理論物理学者の松尾衛さんからも非常に出来がよく, とても参考になると言われていて, 一応, 理論物理学者からもお墨付きをもらった講座であると宣伝しておきます.

それより大事な「数学」の話

私が一般相対性理論の本を読んでいてつらいのは, 微分幾何ではなく単純な微分積分です.

計算がハードなのはもちろんですし, 久し振りのある程度本格的な物理でいろいろな近似を見かけ, これはもう鍛え直さないといけない気分しかありません.

そしてもう一つきついのが, 厳密に計算できる系の積分です. 「これは積分公式があるのでそれで厳密に解ける」というのが時々出てきます. 本を見れば書いてあるでしょうし, コンテンツ制作のネタでもあるため, せっかくなのできちんとやろうかと思っています. 高校・大学受験の積分でも技巧的な積分の技術暗記がありましたが, まさにそのノリです. きちんと追いかけていないのでよく知らないものの, ヨビノリ動画に積分シリーズがあったと思うので, そこでもいろいろ議論していそうな感じはします.

何にせよ微分積分の計算系コンテンツは作らないといけないと思ってさぼったままなので, 一般相対性理論のついでに計算系コンテンツの拡充を測る予定です.

まさに相対性理論の原論文と語学の勉強会で嫌という程実感していることとして, やはり一人でやっていると飽きてきて途中で面倒になって終わるので, やるなら誰か巻き込んでやろうと思っています.

ライティングを強化したい/相転移プロダクション

今回のテーマ

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 先日から引き続き, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

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リーディングとライティング

詳しくは上でもリンクを張った「数学・科学の英語記事を読もうの会」の動画を見てほしいのですが, この勉強会の当初の目的は二つで, 相対性理論の原論文を読むのに死ぬ程時間がかかるので, 全体を読み切れるような勉強会をしたかったこと, 単語を掘るタイプの勉強会・コンテンツ作成がしたかったことがあります.

はじめ単語を掘るというとき, 語源を掘るタイプを想定していました. これは相対性理論の勉強会でも実際にはじめにやっていたことです. 最近改めていろいろ勉強しつつ, 今後のコンテンツ計画もしていると, ライティングの観点から単語を掘るのもいいのではないかと思いはじめています.

これも勉強会でいくつか話したので, やはり興味があれば動画を見てほしいのですが, ここでも少し書いておきましょう.

例えば「練習すればできるようになるよ」と言うとき, 日本人の発想からすると "If you practice hard then you can do it." のように書いてしまうでしょう. しかし英語らしい英語で書くなら多分 "Practice makes perfect." でしょう.

これにはいくつかの特徴があります.

  • 読むのは簡単で, 直訳からいわゆるこなれた日本語に直すのも簡単だが, こなれた日本語から「こなれた英語」に戻すのは異様なくらい大変.
  • 日本語では条件文で書くところを, 主語を practice にして書けてしまう.
  • 日本語の「作る」の語感から想像できないような make の用法がある.
  • 全てとは言わずとも日本語では長い文でも英語では異様にシンプルに書ける. 実際ここでは三語で書けている.

しかもこれらは一般的にも使える特徴です. 他にも, 改めてリーディング教材に使っている記事を見ていると, ライティングの視点から見て面白い英文がいくつかありました. 単語のこういう掘り方も面白いなと思っています. ただ, これをやるならライティング専門でやった方がよさそうなので, 別で切り分けた方がいいだろうとも思っています.

数学・物理だとちょっと突っ込むと本・論文が英語になるので, リーディングは山程やっているものの, 博士に行って論文でも書かないとなかなかゴリっとライティングする機会がなく, 私もライティングはかなり弱いです. しかし, プログラミングとなると英文ライティングがかなり大事で, 私自身はあまり機会はありませんが, GitHub の issue 書きややりとりでライティングが必要です. もっとさっとライティングできたらいいのに, と思う機会は多いので, この際ライティングはライティングは別に切り出してやった方がいいかと思いはじめています. ライティングからはじめて音読でスピーキング練習する手法もあるので, スピーキングにもつながるコンテンツが作れないかとも思っています.

以前, ちょこちょことライティング用の例文集は作っていて, 会員制サイトにもいくつか, 少なくとも 100 文以上は載せていると思います. いまの勉強会をやっている二ヶ月間は勉強会に集中したいので, これが終わったらライティング強化勉強会がしたいです.

やりたいことがたくさんありますが, 実験しつつ一つずつ進めます.

2021-06-27

英語 who とフランス語 que の類似/相転移プロダクション

今回のテーマ

2021-06-26 語学・言語学セミナーの記録

私が参加している語学・言語学コミュニティのセミナーがありました. そこでの話をいくつかシェアしておきます.

今回はラテン語・エスペラント語がメインでした. 一番面白かった・または私にとって大事だったのは, やはり物理との関係です.

最近, 発音含めて音に注目しています. 大分前から「音は国を越える」という話が出ています. 「すべて芸術は絶えず音楽の状態に憧れる」, 「すべての芸術家は音楽に嫉妬する」という話があります. 詳しいわけでもないのでこれに関する話は省略します.

問題はこれの語学版で, 文字・スペルは国・言語・文化をまたぐと大きく変わることがあります. キリル文字なのに文法はペルシャ語と言われるタジク語のような言語もあれば, キリル文字を使うかラテン文字を使うか程度の違いしかなく, 日本語で言えば東京方言と大阪方言程度の違いさえないと言われているクロアチア語とセルビア語のような言語もあります. 後者に関しては旧ユーゴスラビア時代は, セルビア・クロアチア語という一つの言語とされていたほどです.

特にセルビア・クロアチア語に顕著なように, 言語には政治の要素も強く入ります. 国・言語・文化の別の側面だからでもあるのでしょう.

音の話

それはともかく, 音の話です. 声・音声は人体という楽器が奏でる音楽です. そして発声器官である口周辺の構造は, 人種などによってほぼ変わらないはずです.

言語ごとに細かな音・発音の特徴はあるにせよ, 大まかな発音自体はいくらでも真似できます. つまり音は人体の物理によっていて, 人間の身体の構造が大まかに言えば同じだからであって, それは自然言語にも物理がきちんと効いている証拠なのです.

ここを追いかけて, 「理系のためのリベラルアーツ・総合語学」にうまく活かせないか考えるのが, 今のテーマです.

実例

英語での who はドイツ語では wer で, この類似は英語がゲルマン系の言語だからでもあります.

一方ロマンス系の言語であるフランス語は qui, スペイン語は quien で, ラテン語は quis です. ちなみに現代ラテン語でもあるイタリア語は che です. イタリア語だけ大分見た目が違いますが, 発音は「ケ」です. ちなみにフランス語は「キ」, ラテン語は「クイス」, スペイン語は「キエン」で, どれも k の系統の音です.

ここで who (wer) とラテン語は大きく違うように見えます. しかしこれは次のような見方をすると「同じ」言葉だと思えます.

よく what や why は「ホワット」「ホワイ」のように, 先に h の音を発音することがあります. この事情が関係しています.

音韻転換 (メタセシス) と呼ばれる現象があります. 「新しい」は「あたらしい」である一方, 「新たな」は「あらたな」と読みます. これが音韻転換です. 他にも秋葉原は「あきはばら」と読みますが, もともとは「あきばはら」です.

これをもとにすれば what・why は hwat・hwy だった可能性があります. 実際 Wiktionary いわく, 古英語では hwæt だったようです. もちろん who も hwo のような形があったようです.

英語の発音を勉強するとわかりますが, この h は空気が出る音・吐き出す音で, que・quis・quien・che の k も空気が出る音です. 実際に h と k はよく入れ替わります.

これは実例とともに『論理英語 ボキャビル編』にもいくつか書いてあるので, 興味があれば眺めてみてください.

入れ替わりその 2

さて h と k (q・c) の入れ替わりはわかりました. 次に w と u の都合を見てみましょう.

メルマガで紹介したような気もしますが, ラテン語の時代はそもそも v (ヴァ) の音がありません. それ以外にも歴史的に u, v, w はぐちゃぐちゃに入れ替わっています. 語源などを考えるときは同じようなものだと考えます. ちなみに w は「ダブルユー」なわけで音の上でもだいたい u です.

というわけで, who と quis は全然違うように見えますが, hwo と入れ替えた上で, 音とスペルに関していろいろな事情を考えれば同じ起源を持つ言葉だとは言えます.

他の例

長くなってきたので手短にします. 英語の over に対応するドイツ語として auf があります.

日本語では「フ」「ブ」と濁点の有無で極端に文字が似ているので, b・v, f がだいたい同じようなものだと思うのはそれほど抵抗がないはずです.

母音なので微妙なところではありますが, o と au について考えてみましょう. ちょっと強引ではありますがフランス語を引いてきます. フランス語での au は cafè au lait (カフェオレ) のオで有名なようにオと読みます. 英語でも audio のように au でオ (オー) と読むことがあります. こう思えば o と au の転換もそうおかしくはありません.

音, そして音も考えつつスペル・アルファベットの対応も考えれば, 少なくともヨーロッパ系の言語はこれでいろいろ辿って遊べます.

この辺, いま勉強会をやっているところでは, 理系の人にも楽しんでもらえているので, うまく料理すれば理系の人にも楽しんでもらえるはずですし, 「文系のための理系入門」として, いわゆる文系の人にもいい感じに提供できないかとも考えています.

念のため注意

これだけ見るとこじつけではないかと思う人がいるかもしれません. 私も自分自身で文献学・音韻学的な調査をして追いかけきったわけでもありません. それでも言語学者から聞いた話なので, いったん一定の信頼感を持って受け入れています.

コンテンツ作りのためにも, このあたりをきちんと勉強するのも今後の課題です.

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2021-06-19

解析接続と層/相転移プロダクション

今回のテーマ

  • 人文学者向けのプログラミング講座
  • リーマン面: 解析接続
  • 2021-06-19 代数学演習, 群作用に関するやりとり
  • 「Wikipedia を読もうの会」改め「数学・科学の英語記事を読もうの会」
  • ProjectEuler 解答 (GitHub へのリンク)

読みたい内容は上記リンク先から読んでみてください. あと, このメルマガ原稿自体も次の場所に置いてあります.

バックナンバーを公開しました

今回からメルマガ原稿というかバックナンバーを次の場所に置くことにしました.

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数学・科学の英語記事を読もうの会/相転移プロダクション

今回のテーマ

人文学者向けのプログラミング講座

こちらの語学系のメルマガに登録されている方がどんな属性の人達なのか, いまだに全くわかっていないのですが, 人文系の方はいらっしゃるのでしょうか.

プログラミングの裾野は広く応用もいろいろあります. 私自身, 最近よく書くプログラムは, いわゆるシステム系のプログラミングではなく, ちょっとした処理の自動化スクリプト, 長持ちさせるスクリプトではなく書き捨てのスクリプトだったりしていて, 広い意味で (自分の) 業務効率化みたいなプログラムです.

人文系の人達にはかえってこういう方がはまるのか? と思いつつ, 求められているものがよくわかっていません. もしかしたら中高生にもはまるネタがあるかもしれないと思っていて, かなり気になっています.

何か具体的な事情をご存知の方がいたらぜひ情報をください. 人文学者と言わず, こんな感じのプログラミングコンテンツがあると嬉しい, というのでも構いません.

「Wikipedia を読もうの会」改め「数学・科学の英語記事を読もうの会」

金曜日にどういう感じで進めようかちょっと話をして, 方向性を少し変えたというか, 数学・物理に限らないネタを扱うことにしました. とりあえず科学雑誌系の記事を読むことにして, 特にまずは生物系のネタを扱います.

上記ページの最後にも書いたのですが, 今日一日どんな感じにしようかコンテンツ準備しつつ考えたのですが, 昨日の時点で考えていた単語深掘り系は時間がかかりすぎて駄目そう, という感じになってきました.

そもそも一つのテーマに時間がかかり過ぎる, 一つのテーマを読み切る形にしたいのが試験企画のポイントだったのに, そこが死んでしまいそうです.

あと長期間過度な負荷なくずっと回し続けるためには, いい意味で準備に手が抜ける企画も大事で, 単語の深掘りだと永遠に手が抜けなさそうなのもつらいポイントです.

私自身が楽しい部分なのでやらないことはありませんが, いい意味で手を抜けるようにするための工夫をこの 2 ヶ月で考える予定です.

ちなみに日時は金曜 21:00-22:00 に決まりました. まずは次の記事を読みます.

参加自体はまだ受け付けているので, もしあなたもご興味があるなら連絡してください. やりとり用のグループに招待します.

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2021-06-12

2ヶ月の勉強会トライアル募集/相転移プロダクション

今回のテーマ

  • リーマン面の話
  • 2 ヶ月の勉強会トライアル募集

リーマン面の話

いまあるリーマン面のノートの章一覧も貼っておきます.

まだ詰めが甘いのと, 全ての章を書き切れているわけでもなく, 上のページの各章のリンク先は非公開状態 (パスワードをかけている) ので見られませんが, 幾何編公開に向けてこのくらいは準備しています.

2 ヶ月の勉強会トライアル募集

理工系向けの英語に関して, 前から考えていた 2 か月くらいの短期の企画をやってみようと思っています. 具体的な企画内容については次のページを参照してください.

語学系メルマガでも募集するので, 詳細については集まった人次第です.

念のため, どんなノリで語学の勉強会をやっているかも改めて紹介します.

ここにある 30 回分の資料を見てください. 勉強会の動画もあります.

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ドイツ語・ロシア語の読解力が爆上がりした/相転移プロダクション

今週の内容

次の 3 本立てです.

  • 今週の記事: 外部リンク紹介
  • ドイツ語とロシア語の読解力向上
  • 2 ヶ月の勉強会トライアル募集

今週の記事

メルマガに書いたか忘れましたが, 以前から「エンタメの語学」はやりたいとずっと思っていて, それに関わる軽い調査も含んでいます.

改めて書いておくと, 語学学習の成果は基本的にコンテンツアーカイブサイトへの不断の, 各箇所への追記で対応しています. 小さな修正まで含めれば数十ページにわたるので, いちいち書き切れません. 一番大きなかたまりが毎週の「アインシュタインの原論文を多言語で読もうの会」です.

ドイツ語とロシア語の読解力向上

別のところで喜びのあまり連投していたのですが, ようやくドイツ語が読めるようになってきました. 具体的にはアインシュタインの特殊相対性理論の論文中の文です.

論文を見るとわかるように, 一文一文が尋常ではないほど長いのです. 長いというのはそれだけ複雑な構文なわけで, これまで何をどう読めばいいのかずっとわかっていませんでした.

結論だけ端的に言えば文法をきちんと大事にしただけですが, ドイツ語としては動詞句を大事にし, 格つき言語として格を丁寧に読み取るようにしただけです.

この二つ, わかっている人には自明だと思うですが, ここに辿り着くのに 5 年かかったわけです.

はじめから適切な指導を受けていれば一発だったろうに, この辺が独学の厳しさなのだろうと痛感しています. これを起こさないようにするコンテンツ制作が大事という思いを新たにしました.

「格を大事に」のもと, 改めてロシア語を読んでみたら, 単語・文法を覚えていないためにものすごい時間がかかること以外, 文をきちんと把握できたので, 次はロシア語の最低レベルを上げる方に注力します.

この成果は「アインシュタインの原論文を多言語で読もうの会」で出すので, 興味ある方は来週以降もそちらをチェックしてください.

ちなみに今週は参加者の体調不良などがあってお休みでした.

2 ヶ月の勉強会トライアル募集

理工系向けの英語に関して, 前から考えていた 2 か月くらいの短期の企画をやってみようと思っています. 具体的な企画内容については次のページを参照してください.

数学・物理系メルマガでも募集するので, 詳細については集まった人次第です.

念のため, どんなノリで語学の勉強会をやっているかも改めて紹介します.

ここにある 30 回分の資料を見てください. 勉強会の動画もあります.

感想をください

「読んだよ」の一言でもいいので, ぜひ感想をください. 今後もメルマガを書く励みになります.

では今日はこんなところで. またメールします.

2021-06-05

分岐性・固有写像・シートの枚数

見せ方を変えてみます

読者の方からコメントを頂いたので, 今回から見せ方を変えます. 特に式を含む内容は TeX をレンダリングしてくれる外部記事に流すことにしました.

こうした「見づらい」といった内容でもいいので, ぜひメルマガに感想を送ってください. 鬱陶しいかもしれませんが, やはり毎回きちんと言わないと伝わらないとも思うので, これからはくどくても感想くださいと書くようにします.

今回のメインコンテンツ

参考: 前回 (まで) のコンテンツ

リーマン面関係の話を, 幾何特集として改めて次のところにまとめてあります.

感想をください

「きちんと読んだよ」というだけでもいいので, ぜひ感想を送ってください. 執筆の励みになります.

ではまたメールします.

右作用・左作用と英語表現/相転移プロダクション

見せ方・書き方を変えました

数学・物理系の読者の方から, 内容が雑駁すぎて今回のテーマが何なのかわからない, といった感想を頂きました. そこでちょっと書き方を変えてみます.

特に外に出せる部分は外に出して, 興味ある内容だけ読みやすいようにリンクを張る形にしてみます.

今回の自作記事・コンテンツ

面白ネタまとめ

私の情報源が Twitter なので主にそこからの引用をまとめた内容です.

どれも面白いのでぜひ読んでみてください. 時間がないからあえてどれか一つを挙げてと言われたら, 「2021-06-03 Twitter 引用: サイゼリヤの雑学と言語学」を勧めます.

最後に: 感想をください

今回は直接やり取りする機会があって, そこでコメントを頂いたのですが, やはり何でもいいから感想がほしいというのも, 毎回きちんと言うべきだと実感しました.

というわけで「今回も読んだよ」だけでいいので, ぜひ感想をください. アンケートで匿名回答もできます.

ではまたメールします.

2021-05-29

特異点解消の気分をもっと知りたい/相転移プロダクション

狭義の数学があまりできていない

最近語学ばかりであまり数学らしい数学ができていません. 「理系のためのリベラルアーツ・総合語学」の大目標もあり, 私の中では語学も数学枠ではあるのですが.

あと勉強ばかりでプログラミングもコンテンツが作れていません. 最近謎の Common Lisp 熱の高まりがあり, シコシコ勉強しています. 数学・物理まわりのプログラミングの観点からは, 情報量を見ても Julia の方がお得なのですが, そんな損得感情で動けたら苦労はしません. 困ったものです.

語学メルマガで少し書いたように, 理系人からは数学学習として, 文系人からは語学からの理系入門として, Wikipedia の数学・物理の解説ページを 3 ヶ月ワンテーマくらいで, いろいろ読むみたいな勉強会が楽しそうだし, コンテンツを作る上でも作りやすそう, みたいな知見がたまってきています.

今週のリーマン面

さて, 今週のリーマン面です. 少し被覆空間に入ります.

多項式・指数関数・対数関数が大事

改めて復習していてこの 3 つは大事だと痛感します. 多項式, もっと言えば単項式は前回の正規形定理でほぼ尽きます. こんな大事な定理はありません.

指数と対数に関しては, 累乗根関数と同じく, 極座標表示からの多価性問題は基本中の基本ですし, それをどう処理するかがことの発端だからでもあります.

そしてここがまさに被覆空間が直接出てくるところです.

指数関数の持ち上げと対数関数

整備中のノートの「分岐被覆・不分岐被覆の関数論」の節から記述を引いてきます.

リーマン面$X, Y$と非自明な正則写像$p \colon Y \to X$を取りましょう. 特に例として$Y = \mathbb{C}$, $X = \mathbb{C}times$として $p = \exp \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}times$とします.

このとき恒等写像$id \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}$は $\mathbb{C}^\times$上の多価の対数関数を誘導します. 何故かと言えば $b \in \mathbb{C}^\times$に対する集合$\exp^{-1} (b)$がまさに $b$の対数の値からなる集合だからです.

もっと具体的に $b = 1$としましょう. このとき $\exp^{-1} (1) = \twopii \bbZ$であり, 複素数$1$は全ての整数$n$に対して極座標で $1 = e^{\twopii n}$と書けるので, 確かに$\log 1 = \log e^{\twopii n} = \twopii n \in \exp^{-1}(1)$です.

上で書いた正則写像 $p = \exp$ は被覆写像で, $\mathbb{C}^{\times}$に対して$\mathbb{C}$は被覆空間です. これは $\mathbb{C}^{\times}$ を円周 $S^1$ に制限して, $\mathbb{C}$ には 3 次元的に円周の上下に巻き付く螺旋を割り当てれば, 円周に対する被覆空間としての螺旋が出てきます.

ここで被覆空間の持ち上げと解析接続的な意味での持ち上げの対応が出てきます. いろいろなところで言っているので, メルマガで書いたかあまり覚えていませんが, もしあなたが代数的な色彩が強くなる代数トポロジーや, 幾何的な色彩が強い被覆空間に馴染めないなら, この手の関数論・解析学に関わるところから勉強を進めるのもお勧めです.

理論を, コンテンツを作ろうと思うと, 代トポは代トポで整備してからとなりがちなので, 話の持って行き方は工夫しないといけませんが, モース理論も線型代数・微分積分からはじめて, ホモロジーに流せる道があります. もちろんコホモロジーならなおさら入口からダイレクトです.

関数論とホモトピーの場合, 複素平面上の議論が本当に本質的で, 絵にも描きやすいというか, 絵に描けるところだけいじっていてもかなり本質的という利点があります. 幾何がわかっていなさすぎるせいで, ここに切り込み切れずに 1 年くらい経っていますが, 何にせよ工夫のしがいがあるところです.

特異点解消への道

ここでふと特異点解消を思い出したので言及しておきます. はじめに書いておくと, 代数幾何は勉強していないと言い切った方が正確なくらいわかっていないので, おかしなことを言っている可能性の方が高いです. 識者がいらっしゃればぜひご指摘ください.

さて, 何で思い出したかというと, まさに被覆空間の構成, つまり円周の持ち上げとしての螺旋の構成です.

この持ち上げで面白いのは, 実一次元のコンパクト多様体である円周は二次元に埋め込まれていて, それの被覆空間である螺旋は実一次元の非コンパクト多様体で, 三次元に埋め込まれている点です.

前者の円周の二次元への埋め込みはともかく, 後者の螺旋の三次元の埋め込みとそこへの持ち上げがポイントです.

解析接続で問題だったのは, 極座標で複素数が$z = r e^{i n \theta + 2 \pi i n}$を持ち, $2 \pi i n$の分がいろいろな悪さをすること, その悪さを「解消」するために高次元に住む同じ次元の対象 (ここでは螺旋) に切り替えるところです.

この「次元は同じ実一次元で, 埋め込まれている空間の次元が上がっている」のが面白いと思っています. つまり二次元の円周は高次元空間である三次元空間からの射影で, 解析接続の視点からはそこから見たのが自然な姿, 真の姿なのだ, とも言えます.

特異点解消

私が知る限り, 特異点解消にも似たところがあります.

  • 低次元で考えていると尖ったところ (特異点) が出てきてしまう.
  • 高次元からの射影として捉えて特異点を滑らかにしてしまおう.

これは以前, 数論幾何の人から, 「特異点はこうぐわっと回すイメージ」といって, ジェスチャーとともにイメージ図が載っているページを教えてもらったところから来ています. そのページ自体は忘れてしまいましたが, 次のあたりがいまパッと探して出てきた私の想定です.

私の理解では, 高次元で滑らかが代数曲線を平面に射影すると特異性が出てしまっていて, それを平面側から見れば高次元に持ち上げて特異点解消した図です.

関数論では多価性という特異性を, 高次元空間に埋め込まれた複素一次元の連結な多様体であるリーマン面に持ち上げ, それで特異性を解消しているのではないか, そういう気分で眺めています.

この辺を調べていると改めて代数幾何も勉強したくなりますし, 関連する楕円関数などももっと突っ込んで勉強したくなります. 梅村本も買ってはあるものの積読状態です. 早く勉強したい.

それはそれとして, 代数幾何での特異点解消に関しておかしなところがあればぜひ教えてください. 本当に自信がありません.

あとこれまであまり書いてきませんでしたが, 間違いのご指摘含め, 感想はぜひ送ってください.

ではまたメールします.

なぜ多言語を扱うのか/相転移プロダクション 語学メルマガ

ロシア語の勉強をはじめました

最近改めてロシア語を本格的に勉強しはじめました. 東京外語大のサイトの記述がどうにもわかりづらく, 参考文献として載っていた「現代ロシア語文法」を買ってみました.

まだ雑に読み進めているだけですが, やはり P.106 にある次のような記述が身にしみます.

この本に書いてある表はきちんと覚えよう. 暗記を馬鹿にしてはいけない. 最終的には覚えるべきは覚えなければロシア語の上達は覚束ない.

「表を横に置いて調べながらでもいいのでは?」, と思う人もいるかもしれない. しかしそれでは無駄に時間がかかりすぎてしまい, かえって上達を阻害する. まずは覚えるべきを覚えてほしい.

なぜ多言語を扱うのか

このメルマガを取っている人の趣味がよくわかりませんが, 色々やり取りしていて, 改めてこの話題を書いておかないといけないと思い, サイトにも記述を追加しておきました.

興味があれば眺めておいてください. 個人的にはあくまでも数学・物理のためです.

アインシュタインの原論文を多言語で読もうの会に関するやり取り

今週も勉強会をやりました.

同じ語学コミュニティにいる文系出身の人が, 改めて文法を勉強したい, 特に複雑な構文の文を読むための訓練をしたいと言っていたので, まさにそれをやっている勉強会として資料・動画をシェアしました. 次のような感想をもらったので抜粋して紹介します.

先入観

  • その 1:相転移って何だろう? 理系の内容はムズカシソウ.
  • その 2:アインシュタイン難しそう.

実際:

  • 原文が読める.
  • 理系単語が意外と面白い (co-ordinates の複数の説明とか).
  • 英語の構造説明がわかりやすい.
  • こんなにたくさん多言語が出てくると思わなかった.

理系理系と構えすぎた. 勝手に難しいのだろうと慄いていたが楽しかった. アインシュタインが読めるのにも感動.

理系も面白いというのさえわかってしまえば, あとは日頃見る単語かどうかくらいで言語という括りでは同じだった. 逆に日頃見ない単語だからこそ新鮮だったり, 小難しいだろうと決めつけているものが案外読めてしまうんだ, そういう感動を誰かと分かち合いたい.

まだ最序盤で数学・物理の話があまりなく, 途中のかなり部分まで凝った話も出てこない事情はあるものの, 理系方面に苦手意識がある文系の人にも楽しんでもらえる要素があると知り, ちょっとほっとしました.

理系のための語学入門の裏として, 文系のための理系入門として機能させられないかとも思っているので, 見せ方・切り口を工夫すればもう少し何とかなるかもしれない, という具体的な感じが少し掴めました.

これもやり取りで話したのですが, ある程度のボリュームがある論文をごりっと読むのはつらいので, いろいろな数学・物理系の単語や概念に関する Wikipedia の英語記事を題材に, 3 ヶ月ワンテーマの勉強会を開く, みたいなことも並行して企画・実行したいと考えています.

これも最近勉強し直している音・発音の話をしようと思っていましたが, 大分長くなってきたので次回にしましょう.

ではまたメールします.

2021-05-22

ランダム行列の数理が面白そう

コンテンツアーカイブの URL を変えました

いま整理しているアーカイブサイトの URL を https://phasetr.com/archive/ に変えました. 以前のメールにあったリンクも死んでいるのでご注意ください. いまのところ free だったのを archive に変えただけなので, そこだけ直せば問題ないはずです.

何にせよまだページ構成・URL は流動的なのでご注意ください.

今週の新規コンテンツ

買った本

  • 木村太郎, ランダム行列の数理
  • 数学セミナー 2021-06 号

数学セミナーは特集の数学史目当てに買ったものの, 普遍被覆の話が書いてありました. リーマン面の解析接続と直結するテーマです.

後者に関してはいま書評を書くためにちょこちょこ読んでいます.

コメントをちょこちょこ入れてあるので参考にしてください. 本にはネタ自体はいろいろ書いてあるものの, P.50 程度まで読んだ範囲では, 純粋に本を読み進める上ためには, 線型代数・微分積分・関数論の基礎があれば十分そうです.

私のメルマガに登録するくらいの人なら, 十二分に楽しめる本のような気分があります. 値段がやたら張るのが難点ですが. 書評をまとめたらまたアナウンスします.

今週のリーマン面

前段が長くなったので今回は軽めにしましょう. 被覆空間の話は追々進めることにして, 私のノートの順番で進めます.

リーマン面の定義

リーマン面は連結な一次元の複素多様体として定義します. 単なる一次元の複素多様体ではなく, 連結性を課すのがふつうなようです. 実際, 解析接続まわりでは大事な性質ではあります. さらにふつうの多様体論でも連結な多様体が基本です. ついでにいえば, リーマン多様体もふつうは連結性を仮定します. これは距離関数の定義に関わる問題なのでリーマン面とはまた別の理由ですが.

リーマン面の例

もちろん複素平面の領域 (連結な開集合) が一番基本的な例です. 他に関数論, 特に有理型関数の理論からは複素射影空間が重要で, 解析接続からは複素平面の原点を抜いた集合 Ccross や半平面が重要です. 特に Ccross は指数関数の値域としても出てきます.

解析接続の理論で重要な関数

被覆空間の例として指数関数・対数関数がかなり大事です. これはそのうちきちんと書く機会があるでしょう.

もう一つ大事なのは $k$ 次の単項式 $p_k(z) = z^k$ です. これが大事なのは正則関数の局所的な振る舞いと直結するからです. 本によっては正規形定理と呼ばれていて, 全ての正則関数は適切な座標系に対して局所的に $k$ 次の単項式で書けることがわかっています.

ふつうの関数論では単純なテイラー展開からしたがう定理で自明と言えば自明です. しかし実はこれが異様なくらい役に立ちます. 多重度のような概念の基礎でもあり, 正則写像に対する開写像定理や逆写像定理を直接の系に持ちます. 解析接続でもシートの枚数と直結していると言えば, 重要度はわかってもらえるでしょうか.

局所的にはそう書けると言いつつ, 実は連結性とも絡めて正則写像を大域的に制御する強烈な言明です. 証明も含め, 多様体論・多様体間の写像の理論としてもごく基本的な認識を育ててくれる定理なので, まずはこれをきちんと制圧するのが大事です. 解析接続を考える上では根源的な定理と言っていいでしょう.

最後に

関数論・リーマン面はまだまだ慣れていません. 大事だと思ったことを書いていますが, 何か変なことを言っていたらぜひ教えてください.

今回はこんなところで. ではまたメールします.

ロシア語がきつい/相転移プロダクション

コンテンツアーカイブの URL を変えました

いま整理しているアーカイブサイトの URL を https://phasetr.com/archive/ に変えました. 以前のメールにあったリンクも死んでいるのでご注意ください.

いまのところ free だったのを archive に変えただけなので, そこだけ直せば問題ないはずです.

何にせよまだページ構成は流動的なのでご注意ください.

今週のコンテンツ

文法をやらないと調べられないし覚えられない

これは上の英語・多言語の勉強会でロシア語をやっていて痛感したことです. 文中で活用した単語を辞書で調べられない事案が発生しました.

ネットで叩き込むと適当に翻訳だけは出てきます. しかしいわゆる原形というか不定形, または辞書の見出し語がわかりません.

もう駄目だと思って, ロシア語はまず文法を勉強しています.

ローマ字だからということもあるのか, イタリア語やスペイン語だとろくに文法を勉強していなくても, 力づくで何とか読めてしまうものの, ロシア語はどうにもなりませんでした.

何かを暗記したり調べるにも, 最低限の文法・ルールがわかっていないと厳しいことを痛感しています. 一緒に勉強会をやっている K さんともこの間その辺の話をしました.

やはり最近の理工系で勢い自体はあるので中国語は勉強したいのと, サンスクリットに近いヒンディー語あたりも勉強したく, あとは一部の理工系の専門用語の基礎でもあるアラビア語もやりたいと思っています. 最近は重要な文献は翻訳されているらしいとはいえ, 数学・物理からすればロシア語ももちろん勉強したいです.

いままさに勉強会で, 全く勉強していないスペイン語が何となく読めていて, このレベルで各言語が読めるようになるのが目標です.

まずはまともにロシア語の辞書を惹けるようになるのが目標です. ちなみに Emacs で, ではありますが, キリル文字は気楽に・自由に打てるようになりました. Emacs を使っている人限定で誰得かわかりませんが, 一応次のページに載せています.

set-input-method の cyrllic-translit でやっています. これが一番私にとって直観的に打てそうでした. あとは地道にやっていきます.

あとは中国語やりたいので, いまピンインそれ自体と, ピンインから簡体字を打てるようにする部分を調べています. 前に調べたもののうまく使いこなせていないので, 思い出す部分からはじめます.

文字が打てないと検索も大変なので, まずはその辺をどうにかしたいです.

ドイツ語は一通り文法まとめをしましたが, 雑なのであまり出せるレベルでもなく, 勉強が進んでおらず数学・物理と違ってストックもありません.

今回あまり情報を出せていませんが, 地道に勉強とコンテンツ制作は進めている, という報告くらいはしておきます.

ではまたメールします.

2021-05-15

リーマン面の概要を追う 解析接続と物理への応用/相転移プロダクション

機械工学への応用

Twitter 経由で見かけた本を一冊紹介します.

本の紹介を引用します.

代数幾何学と作業機械学の基礎面での結び付きを目指す、新たなロボティクス研究の地平。リー群、リー代数、スクリュー理論、クリフォード代数…。ロボット機構学の水準は、新しい機構学の体系化へと進む。

リー群・リー環・クリフォード代数はともかく, 代数幾何です. 中身を確認できていないので目次を見ているだけですが, 数学での代数幾何と必ずしも噛み合っていないように思います. ただコックス・リトル・オシーの本でもロボットアームの稼働域を代数幾何的に捉える問題が議論されていましたし, 以前どこかで紹介した微分幾何と機械工学の話もあります. 目次からするとむしろ, いわゆる幾何代数の話なのかと思ったりもします. 何にせよ工学でも幾何の重要性が増しているのは間違いないでしょう.

前回の三位一体で「非特異射影曲線の圏」と書いたように, リーマン面の理論は代数幾何とも深い関係があります. 解析学から幾何, そして代数に迫れる分野であることは間違いありません. 代数的な代数幾何もやりたいと思い続けて幾星霜ですし, リーマン面と多変数関数論の基礎の基礎を終えたら取り組みたい分野に改めてリストアップしておきました.

アンケートへの反応

リーマン面をコンパクトにすると物理での使い勝手が良くなるという事が面白そうだと思いました。

こんな反応が来ました. こんな話を書いたつもりはなく, 前回の内容を見返してもそういう話はないように思うので, どういうことか困惑しています.

物理学での使う愉しみも愉しそうなのですが、応用研究ほど役に立ちそうにないことfを愉しむ方法というか、基礎研究を愉しむ動機づけの方法があれば知りたいです。

これは以前「理論物理学者に市民が数学を教えようの会」で聖域 (オタクの聖地) の話としてまとめています. 下記 YouTube のリストで最近の 3 回の中のどこかで話しているので, 探してみてください.

究極的な結論だけ書けば, 議論されているテーマに広義オタクとして興味が持てるかどうかです. こちらの数学・物理メルマガに登録して語学メルマガに登録していない人はたくさんいると思いますが, 興味が持てないならどうにもなりません. きちんとテーマを分けた以上, このメルマガで語学の話をされても迷惑でしょう. これと同じです. 無理に興味を持つ必要もありません. もちろん興味が持つような語り口に触れられるかという話もありますが, その語り口に反応できるかどうかは自分次第です.

リーマン面

いい加減本題に入ります. 改めて書いておきますが, 現代数学探険隊 解析学編, 最低でも現代数学観光ツアー程度の知識は仮定して進めます.

リーマン面は関数論でいわゆる多価関数を議論するために生まれた分野・理論・対象です. 関数論での多価関数はある正則関数を複数の経路に沿って解析接続するときに出てきます. リーマンはこのような領域を扱うために, 複素平面上にいくつかのシートを準備し, 各シートの上で一価関数にすることを考えました. これは位相幾何(トポロジー)の中で整備された概念である被覆空間に辿り着きます.

リーマン面の定義

一言で言えば連結な一次元の複素多様体です. 連結性を課すのが非常に重要です. 少なくとも私が見た範囲の初等的な本ではふつう連結性を課しています.

曲線に沿った解析接続

複数の経路に沿うことを考える以上, そもそも考察下の領域上で自由に任意の二点を結ぶ曲線を引きたくなります. つまり弧状連結性が必要です. 多様体くらいの適当にいい空間なら連結性と一致します. これがリーマン面に対する連結性の仮定につながります.

被覆空間論

トポロジーではホモトピーの理論で重要な空間です. 解析接続の議論の中では基本群に対するガロア理論またはその類似がとても大事です. ホモトピーは代数トポロジーの一分野と言われますし, ガロア理論またはその類似と書いたように, ある程度代数に慣れ親しんでいないと被覆空間論という空間論も理解しきれません. 逆に言えば, ここからガロア理論をはじめとした代数に慣れ親しめるとも言えますし, 幾何的な直観を使いながら抽象的な代数を勉強できるとも言えます.

何からどういう方向でアタックしても構いませんが, ある程度の代数と幾何, そして位相空間論の知見が必要です. 適当な手段でカバーしてください. ガロア理論は結城浩さんの数学ガールで専門の巻がありますし, 買うだけ買っていまだに読めていないのですがポアンカレ予想の巻もあるのでそこで多少は吸収できるでしょう.

もっとゴリっとやりたい人はそれぞれ適当な本を見繕ってください. 特に英語ならいくらでもネットに PDF が落ちています. ホモトピーについては私のノートもあるのですが, まだ公開できる精度にまで練り上がっていません.

リーマン面ではここにさらに関数論の解析学が絡んできます. この時点で代数・幾何・解析を総動員しなければならないことがわかります. ここではリーマン面それ自体の議論よりリーマン面の生まれに関わる解析接続の議論からはじめます. もしあなたがこれらの分野を未習なら, (解析学からの) モチベーションを保ちつつ勉強を進めるヒントにしてください.

物理との関係: 量子電気力学とレーザーの原理

本質的にコンパクト複素多様体が出てくる物理は超弦理論くらいしか知りませんし, 超弦理論も全く知らないのでそちら方面の話は何も書けません. ここでは解析接続がずっと気になっていた理由の一つとして, 私の専門である作用素論・作用素環論的な場の量子論の数理に関わる解析接続の応用を紹介します. 場の量子論・量子力学に関わる知見を多少仮定して進めます. これも必要なら現代数学探険隊を見てください. 多少は書いてあります.

ハミルトニアン $H$ と状態ベクトル $\Psi$, $\Phi$ に対して $f(z) = \langle \Psi, (H - z1)^{-1} \Phi \rangle$ を考えます. 面倒なのでハミルトニアンのスペクトルは実軸正の部分に一致するとすれば, $f$ の定義域は $D = \mathbb{C} \setminus [0, \infty)$ です. 定義によってこの $f$ は $D$ 上に特異点を持ちません. しかし適当な仮定のもとで, 実部が正の下半平面の領域から上半平面に向けて解析接続すると上半平面に特異点を持ちます. これがごく素朴なレーザーの原理と深く関係します.

物理的な設定をもう少し明確にしましょう. 特に非相対論的な水素原子と量子電磁場がカップルした系を考えます. 水素原子だけの系は実軸負の部分に固有値を持ちます. ふつうの量子力学では固有状態は安定な状態と言われています. つまり励起状態であるにも関わらず安定なのです. これは物理的にはあまり嬉しくありません. 励起状態が基底状態に落ちるにはエネルギーを吐き出す必要があります. 吐き出すべき先はもちろん量子電磁場で, 上で考えた系はこれをうまく取り込めているのです.

上半平面に解析接続したときに出てくる特異点の虚部は, 実軸負の部分にあった励起状態が準安定状態化したときの寿命の逆数です. 特異点の実部はもとの固有値を少しずれていて, このずれがラムシフトにあたります. 水素原子の挙動をもっと物理的に満足な形に持っていく努力の中で解析接続が出てきて, 実際に準安定状態の寿命やラムシフトともうまく整合しているのが面白いところです.

これを議論するとき, 準安定状態が出てくるところまで解析接続すればよく, 私が知る限りでは解析接続の最大領域を追いかけたりはしません. 物理的にはあまり意味がないとは思うのですが, それ以上に少し解析接続するだけでも論文レベルで 100 ページの激烈な難易度を誇るので数学的にはそこまでやり切れないことによります. 何にせよ解析接続が物理的に基本的な意味を持つ例ではあります.

ちなみに, 多変数の世界に行くとまた別の理由で多変数の解析接続が必要な局面は出てきます. 学部 4 年のときにアタックしたものの, あまりの難しさに挫折した議論でもあります. 挫折したままなので詳しく議論はできませんが, 少なくとも数理物理としては解析接続それ自体は基本的で重要な問題に連なることは改めて強調したいと思います.

大分長くなったので今日はこのくらいにしましょう. ではまたメールします.

言語と世界認識/相転移プロダクション

この間のアインシュタインの原論文を多言語で読もうの会では, ようやく前文が終わって第 1 章に入りました.

もう軽く半年以上になっていますが, K さんも完全に多言語にはまってくれているようなので嬉しい限りです.

勉強会の小まとめ

この間の勉強会で次のような話をしました.

  • 何が常識かは言語によって違う.
  • 英語 (と日本語) の常識が通じると思ってはいけない.

具体的にはドイツ語や英語で die Newtonschen mechanischen Gleichungen のように「ニュートン (の形容詞形)」の先頭が大文字なのに, フランス語では newtoniennes と小文字だ, という話になり, ここでフランス語にはフランス語の事情があるので他の言語と同じように大文字になるとは限らないという話になりました. 形容詞もフランス語だとふつうは名詞の後ろにつきます.

言語と世界認識

もう少し一般化して, そして強めて言うと言語を学んだ分だけ世界の認識が変わるのです. 私のメルマガに来ているくらいの人なので理系の人の方が多いと思いますし, そういう人達からするとこの言葉にあまりピンと来ないかもしれません. あなたもそうかもしれません.

これについてはこう思ってください. 例えば物理のドップラー効果です. はじめてまともに勉強したのは中学だったか高校だったか忘れましたが, ドップラー効果を勉強したあとに救急車だか消防車だかパトカーだかのサイレンを聞いたとき, 「これがドップラー効果か!」と感動したのを覚えています. これまで何度となく聞いてきた音なのに, 音・現象に対する認識が一気に変わったのです.

最近強調しているように私はいま理系のための総合語学として数学・物理・プログラミング・ふつうの語学の四本柱を軸にしたコンテンツ・サービス展開をしようとしています. 昔私がドップラー効果を知って世界の認識が変わったように, 語学の知見でも世界認識が変わるのです.

実際, 私が習っている言語学者と街中を歩いていたとき, 「関根さん, あそこに書いてあるやつ, もう意味不明な文字列ではなく, まとまったフランス語に見えませんか?」と言われたことがあります. ゆるくであってもフランス語を勉強しはじめて一年くらい経っていて, 確かに今まで意味不明だったアルファベットの並びがこれまでとは違う意味を持つようになったのです.

言語にはいろいろな文化が詰まっています. これまた最近いろいろなところでよく書いているように, 語学としての物理や各プログラミング言語にもそれぞれの文化やコミュニティがあります. この辺をどううまく伝えていくか, 勉強会の中でいろいろ実験・見当しています.

今回はこんなところで. ではまたメールします.

2021-05-08

関数論の概要/相転移プロダクション

今週の追加コンテンツ

ブログからコンテンツアーカイブにうつした分もありますが, 新たに作った・書いたコンテンツとしてこの 2 つです.

現代数学観光ツアーのイントロコンテンツを整理しています. 幾何方面を作ろうとしていて, 実際にその前提でイントロを書き直しています.

メモ: 線型代数

最近だと機械学習関係でよく見かける話題として, 「線型代数がこんなに役に立つならもっとそう教えてくれ」事案があります. 少なくとも理工系では同じく必修の物理でゴリゴリ使っているはずで, 何でそんなに役に立つと思われていないのか自体がいまだにわかりません. 抽象的な線型空間論ばかりやっているわけではなく, 機械学習でも具体的な計算手段としての線型代数が重要なのだと思うのですが, どういう事情なのでしょうか.

一応, これについても改めて何か作ろうとは思っています. 次のようなテーマではあまりきちんと作っていない気がしますし, 世の中にもあまりないような気がしています.

  • 抽象論まで含めた線型代数の概要と応用範囲・対象.
  • 計算とフォーマリズムがあること, フォーマリズムは計算から来ること.
  • 抽象線型空間論はどの程度必要?

制作のヒントにしたいので, 他にも何か要望や意見・見解があれば教えてください. メールで直接言いづらければアンケートでも構いません.

関数論

復習: 留数定理までの流れ

前回, セミナーで作った英語の資料を共有したと思います. 流れだけまとめておきましょう.

  • 複素微分可能性を定義する.
  • コーシー-リーマンの方程式を導く.
  • ベクトル解析のグリーンの定理とセットでコーシーの積分定理を導く.
  • (特異点つきの状況にコーシーの積分定理を少し拡張する.)
  • コーシーの積分表示式を導く.
  • 正則関数の解析性を導く.
    • コーシーの積分表示式の被積分関数の分母を級数展開し, 級数と積分を交換すればいい.
  • 特異性を持つ関数として有理型関数を導入する.
  • 有理型関数に対してローラン級数展開を導く.
    • 特異点を囲む円環を考え, 最後に円環の内部の半径を0に持っていく.
  • これの線積分で$(z-a)^{-1}$だけが残ることから有理型関数に対する留数定理を導く.

収束証明や関連する定理の細かい部分は全て無視してよく, 括弧をつけた積分定理の拡張などもできることは前提にして, 大雑把な証明ごとこの流れを暗記してもいいくらい大事なところです. 実際, 今後はこのくらいのことはできると仮定してリーマン面・関数論の話を進めます.

リーマン面の議論の概要

よくも悪くも多変数・高次元と違う部分があるので, 私のいまの認識の限りで大まかに概要を議論します.

私が知る限り, コンパクトリーマン面と非コンパクトリーマン面でかなり趣が変わります. もちろん解析的な面もありますが, それ以上にコンパクトリーマン面だと代数幾何との対応が強くつく事情によるのでしょう.

少なくとも古典的な代数幾何は射影空間内の議論が基本です. そして実数体・複素数体に対する射影空間はユークリッド位相でコンパクトです. 素朴には代数多様体は複数の多項式の共通零点として定義され, 多項式は連続関数なので代数多様体は閉集合です. コンパクトハウスドルフ空間の閉集合はコンパクトなので, 古典的な代数幾何の基本的な対象は全てコンパクトです.

三位一体と呼ばれるもう少し強い事情があります.

定理 10.1.1 を引用しましょう.

定理 10.1.1. 次の 3 つの圏は同値である. (i) 非特異射影曲線の圏 (Curve). 対象は C 上の非特異完備代数曲線 C. 射は C 上のスキームの射 C → C′. (ii) 閉 Riemann 面の圏 (Riemann). 対象はコンパクト 1 次元複素多様体 R. 射は複素多様体の正則写像 R → R′. (iii) 1 変数代数函数体の圏 (Fuction). 対象は 1 変数有理函数体 C(x) の有限次元拡大体 K. 射は C 代数と しての準同型 K → K′.

この (ii) が特に直接的にコンパクトなリーマン面です. 高次元では完全な同値は成り立たないものの, 作用素環のゲルファント-ナイマルクの定理にはじまる代数-幾何対応があるため, 一定の意義があり, 現代幾何の強いモチベーションにもなる大定理です. ガチガチの圏論ベースの話にまで持っていくかはともかく, リーマン面を勉強するときの重要なテーマであることは間違いありません.

代数幾何の文脈を離れてもコンパクト多様体は幾何のごく基本的かつ重要な対象で, その議論に慣れる意味でもひとつとても大事です.

これまた私が知る限り, 非コンパクトなリーマン面は解析的な趣が強くなり, かえって非数学科出身の人には近付きやすい対象と思います. ポアソン積分や楕円型の偏微分方程式の解析など, 応用上も大事で身近な対象がよく出てきます.

数学を数学として味わいたいときは, まずはコンパクトリーマン面を目指して勉強するのがお勧めです. 学部レベルの数学科の数学を総動員してアタックするべき対象で, いろいろな数学が交差します. もちろん解析学も使えます. 実際, ここでもまずはコンパクトリーマン面に関わる基本的な数学を紹介することからはじめます.

この線については, 以前も紹介したように, 斎藤毅先生の数学原論を眺めてみるといいでしょう.

私もまだ読み切れておらず, そして必ずしも読みやすい本ではないようですが, 目次を見ているだけで楽しい本です. この本は確かコホモロジーだけでホモトピー論が書いていなかったと思いますが, 解析接続がらみでホモトピー論が必要なので, ここではホモトピー論の話もします.

層の理論

リーマン面だけに限らず代数幾何・関数論で根源的な理論です. これも追々紹介しますが, 大雑把に言えば局所的な情報を代数的に制御するための道具です. もう少し言えば関数のパッチワークで局所的な情報から大域的な情報を調べ, 取り出す方法です.

ここで多様体は開集合のパッチワークとして定義されること, ゲルファント-ナイマルクの定理をはじめとした代数-幾何対応を思い出してください. 多様体を開集合のパッチワークとして定式化するのは明確なのですが, 究極的には集合論しか道具がなく非常に扱いづらいです.

一方, 関数の議論に持ち込むと, 微分積分のような解析的な道具はもちろん, 関数環を考えることで代数も持ち込めます. これが層による議論のメリットです. 斎藤毅本でも多様体を関数環つきの位相空間として定義していたはずです.

層は単独の関数に対するパッチワークというより関数環のパッチワークですが, 単独の関数に対するパッチワークも解析接続として重要です. さらに正則関数はその性質から局所的な情報が大域的な情報を強く制約します. このうちの一つが層に対する解析接続の原理です. 名前から想像できるように関数論でも根源的な議論ですし, 解析接続の基礎になっています.

解析接続

私にとって解析接続は学部一年ではじめて関数論に触れて以来, ずっと謎として残っていた議論でした. 雰囲気レベルの話はいろいろなところに書いてありますが, きちんと書いてある本をほとんど見かけません. リーマン面に行ってしまうと逆にコンパクトリーマン面や代数幾何との話が出てきて, 「もう解析接続くらい知っているでしょう?」といった雰囲気の本ばかり目にします.

この辺を改めてきちんと調べて勉強することは私にとっての大きなモチベーションです. 証明込みで一通りは勉強していますが, やはり証明の丁寧な読み込み・個別の詳細にフォーカスをあてるばかりで, 大きな姿を改めて復習する機会がなかなかありませんでした. メルマガ作成・コンテンツ化を口実に, 解析接続の理論を整理し直すことも私個人の大きな目標になっています.

メルマガとしてはかなり長くなってしまいました. 今回はこの辺で終わりましょう. 次回からはもう少し具体的な話にうつります.

学部レベルの数学を大横断すると言ったように, いろいろな数学の予備知識が必要です. なかなかリーマン面それ自体の話にならない部分もありますが, のんびりお付き合いください.

ではまたメールします.

magnetとseulmentの多言語比較/相転移プロダクション

反省

今週, 語学勉強会はできたものの, マシンのトラブルで開始が遅れてしまいました. 最近, 語学の勉強会は週で一番の楽しみなので, 時間が短くなってしまってがっかりしました. 原因はわかって潰したので来週はきちんと時間通りにはじめます.

今週の勉強メモ

ロシア語単語を覚えようとしてどこからどう進めるか苦慮しています. 勉強会をやっていてロマンス語とゲルマン語の単語は少し感覚がついてきたので, キリル文字とスラブ系の単語にもう少し造詣を深めたいと思っています. 明らかなラテン語またはギリシャ語由来, そして学術系単語はいいのですが, ふつうの単語をどう攻めるかが問題です.

アインシュタインの特殊相対性理論の原論文を読む勉強会で, はじめはロシア語・スペイン語を明示的に入れていなかったのを入れるようにし, ロシア語学習も兼ねて最近改めて復習的に眺めていました.

すると磁石の単語は英語・ドイツ語はともかくイタリア語が (en) magnet, (de) der Magnet, (it) il magnete, (ru) магнит となっていて似ている一方, フランス語・スペイン語が別系統で (fr) l'aimant, (es) el imán と似ていました.

この他 (en) only と (fr) seulement に対して, (en) only に対して (de) nur, (fr) seul, (it) solo, (es) solo でした.

seulment は何故これで only の意味なのかずっと疑問だったのですが, イタリア語とスペイン語を見ると日本語化すらしている solo から来ているのかとようやく気付きました. ついでに Wiktionary から語源情報を突っ込んであります.

磁石のフランス語・スペイン語

結論から言うと古ギリシャ語由来で, 英語としては diamond と同根だそうです. 参考にした Wiktionary のリンクも貼ってアップするので, 必要ならサイトからその辺を眺めてみてください.

スペイン語については, 英英辞典にあたる西西辞典, それもオンラインのいい辞典を探しています. 何かいいのをご存知の方がいればぜひ教えてください. オンラインの独独辞典としては dwds.de がいいらしいのですが, フランス語も未調査です. いますぐは読めませんが将来的に効いてくると思いますし, オンラインで使えるコンテンツ情報を求めています.

seulment の話

この辺, ボキャビル編のコンテンツでも書いておいた, いろいろな言語の基本単語をおさえておくと, いろいろな言語でその語感が活きると書いたのを自分で実感します.

いま見たら一回 Wiktionary で調べていたものの, そこでは単純に「英語の solely, イタリア語の solamente, スペイン語の solamente と比較してみてください」と, Wiktionary の引き写しをしただけに留まっていて, そしてこれがなぜ only なのかわかっていませんでした.

今回, 改めて Google 翻訳によるまさに機械的な一括翻訳で, only の訳語に (fr) seul, (it) solo, (es) solo と出てきてようやく気付いた次第です. ソロは日本語化さえしているのにここまではっきり見ないと気付けなかったのは, 個人的には失態です.

Google 翻訳も単語一語だけで付加情報がないので, 時々とんでもない訳になっていることがありますが, これはこれでやはり役に立つ局面があることを感じています.

ロシア語

まがりなりにも学生時代の第二外国語で本を雑に二周くらいしているドイツ語, 雑にでも二年くらい触れ続けているイタリア語, 同じく二年くらい触れ続けて文法の本もこれまた二周くらいしているフランス語に対して, キリル文字さえまだ怪しいロシア語への習熟度を比較するのも馬鹿げた話ではありますが, 単語どころか文字の読みさえつらいのにはやはり厳しいものがあります. ドイツ語・フランス語と同じく二年歯を食いしばるしかなく, それだけで全然違うのもわかってはいるのですが.

適当に長くゆるくやっていく予定です. あと科学・数学ネタ関係のために, これまた雑にであってもアラビア語はやりたいですし, 中国語ももう少し何とかしたいです.

初学の苦しみは本当に筆舌に尽くしがたいものがあります. いろいろな活用や構文と絡めてごく基本的な文法の勉強をセットにしないと何をどう覚えたらいいかも見当がつきません. 一方で単語も相当量覚えないと, 文法の本を読むときに単語の再調査を何度もしなければならず, 恐ろしく非効率になるので, 具体的にどう勉強していくかももう少し練り上げようと思います.

文法または活用がわからないと, 英語で言えば have, has, had が同じ単語であることさえわからないわけで, 実際いまロシア語でこれにぶちあたっています. 同じ名詞の単数形・複数形さえも判定できないので本当にきつい.

数学・物理とはまた趣は変わりますが, 改めてコンテンツ制作に漢して初学者の苦しみを味わい続けるのが大事だと思っているので, そういうつもりで取り組んでいます.

またメールします.

2021-05-01

幾何への準備をしよう/相転移プロダクション

コンテンツアーカイブの整備をはじめました

今週はひたすらにコンテンツアーカイブの整備を進めていました. 毎日の自分の勉強にも使うので語学系中心に進めていますが, 数学系もある程度整備できたのでいまの時点でも改めて共有しておきます.

これまでノートだけ取り続けて公開していなかった分も含めて公開していくので, 数ヶ月単位でしばらくアップが続きます. 量が多すぎてなかなか具体的に「これを公開した」と書きづらい状況が続きます. 当面は現代数学観光ツアーを復習しておいてもらえれば, と思います.

特に次の節は書いたまま公開していなかったところのはずです.

このイントロはいまの状況に合わせて書かれておらず, 少し変な記述が残っていると思いますが本筋には影響しません. これから具体的に進めようと思っている幾何方面へのコメントをつけているので, もしあなたが幾何にも興味があるなら参考になるはずです. 観光ツアー本体は関数解析系の解析学なので, そこに興味がある人はもちろん役に立つ内容です.

未受講または内容をよく覚えていないならぜひ眺めてみてください. PDF もダウンロードできるようにしてあります.

一つ注意

最近登録された方には申し訳ないと思いつつ, これから幾何の話をするとき, 現代数学観光ツアーの内容くらいの話は前提にしたいと思っています. このメルマガ自体も復習の内容を盛り込もうとは思っていますが, 積極的に受講してもらえると助かります.

ここでいう「前提」は次のくらいの意味です.

  • 名前だけは知っている.
  • 詳しい定義や性質は全く覚えていないが例は知っている.

これだけでも全然違います.

もしあなたが詳細について知りたいなら, いったん現代数学探険隊を標準テキストとして推薦しておきます.

これを買わないと駄目ということは全くありません. ただ物理モチベーションの数学の話がこってり書いてあるコンテンツは見かけないので, 事実上これを勧めるしかないというか, ないから作った部分があります.

案内ページだけ読んでも勉強・参考になるように作っています. これも折に触れて眺めてみてください. 数学・物理の大きな姿の一端が見えるはずです.

幾何の話に向けて: 解析学から近付こう

解析学から考えてもいくつか入り方はあります. 当面は私の趣味と実益 (勉強) を兼ねて関数論からの話をします.

細かい話はたくさん本がありますし, まだ私も制圧しきれていない部分があります. 一変数関数論であっても独学しているとなかなか骨が折れるのです.

メルマガでは関数論の概要や関数論に出てくる数学的道具の紹介, もっと言えば言葉に慣れ親しむことにフォーカスして文章を書きます.

何も前提にしないのは厳しいので, 留数定理くらいまでの話を仮定しておきます.

実は以前, 留数定理を一つの結論に設定したセミナーを早稲田で学生相手にやったことがあり, そのときの原稿を次のページに公開しました.

当時いろいろな理由があって英語で原稿を作っていました. 日本語訳も同時に作っていたのですが, これは日本語訳を作らずに放置したままです. 現代数学探険隊でもっときちんとしたバージョンの日本語版を作ってしまったので, もう翻訳する理由がなくなってしまいました. ないよりはましなので一応公開して共有しておきます.

これも適当に眺めておいてもらえると助かります. プライベートもいろいろある中でいきなり大量の要求をしていて, 無茶は承知です.

コンテンツアーカイブにどんどん情報を上げている, という情報共有も兼ねてのことなので, 無理のない範囲で適当に楽しんでいってください.

最後に: 雑感

サイトを構成して思うのは, 階層構造が本当に扱いにくいです.

あまりフラットにするのもどうかと思い, 適当にディレクトリを切ってはいるものの, そもそも数学と物理にまたがるところが守備範囲なので, どこにどう入れるかが判断に悩みます.

それがあるから講座群紹介のところで 「アーカイブ上のコンテンツをある視点からまとめ, 勉強しやすくした通信講座」を入れています.

サイト検索もうまく動いていないので, Google検索に置き換え, その検索前提にしようかとも思っています. 私自身, 分類はもう諦めていて, ファイルや情報を適当に突っ込み, あとは grep や find などの検索ベースでやっています.

プログラミングも明確に守備範囲に入れたので, こういうライフハック的な話も紹介した方がいいような気もしています.

今回, メルマガ本体であまり数学の話ができませんでしたが, 次回からは関数論の話をはじめます. 楽しみにしていてください.

ではまたメールします.

ボキャビルコンテンツ公開/相転移プロダクション

今週のコンテンツ

いつも通り「アインシュタインの原論文を多言語で読もうの会」です.

今回は原論文の前文の最終文の多言語比較です. 途中何回か休みも入っているとはいえ, 1 ページ少しで半年かかっています.

やりたいことやりたいようにやっている私が楽しいのはもちろんとして, 参加してくれて特に英語に関していろいろコメントをくれる K さんも楽しんでくれているようなので, のんびりやっていこうと思っています.

今回, ようやく少し真面目にロシア語に触れました. 数学・物理に関わることをやる上で, やはりもう少しロシア語を読めるようになりたいとは思っています. コンテンツアーカイブにロシア語の単語情報も大量に叩き込んでおいたので, 語学に関してはしばらくロシア単語暗記に励もうと思っています.

ボキャビルコンテンツ案内

まだ通信講座のメールを書くだけ書いてセットしきれていないのですが, 入口とコンテンツへのリンクを載せたメールだけはセットしました. もしあなたが多言語の視点を絡めたボキャビルコンテンツを読んでみたいなら, 次の登録ページからミニ講座に登録しておいてください.

今後ここで書いた知見は前提にしようと思うので, そのつもりでいてください.

ちなみに Kindle でも売っているので, 読んだらレビューを入れてもらえると助かります.

ボキャビル編に関して

このコンテンツにも書いているのですが, 語学に取り組んでいるとボキャビルが大事というか, つらいです.

大学受験のときもそういう話は聞いていたものの, それなりに自学自習していて英単語も最低限は覚えていたため, 語彙力不足で本格的に困ったことはありませんでした. しかし, いままさに語彙力不足で本格的に困っています.

理系のためのリベラルアーツ・総合語学の視点からすると, 言語の世界を統制するルールとしての文法みたいな話もしたいので, もっと文法の勉強をしたいのが本音です.

しかし文法の本を読んでいると次々と単語が出てきます. 文法学習が優先だから, と単語を無視すると出てくる文が全く読めないため, 都度単語を調べないといけなくなって恐ろしく非効率です. やはり先に単語をある程度叩き込まないと勉強にならないことが身に沁みてわかりました. そういう経緯があってのボキャビル編です.

最終目標は中高生用コンテンツですが, 現状は語学に限らず, いろいろな知識を持っている「大人」向けのコンテンツとして作りました. 一部の漫画・ゲーム系のネタも古いのでどうかと思うのですが, そのあたりも今後の課題です.

ちょうど 4/30 の勉強会が多言語単語比較で, まさにこのコンテンツで紹介した話を陰に陽に使っています. 今回分の勉強会の内容が面白いと感じるなら, 絶対に面白い内容に仕上げています. ぜひコンテンツ・ミニ講座を受講してみてください.

ではまたメールします.

2021-04-25

コンテンツアーカイブを作りました/相転移プロダクション

はじめに

メルマガを仕切り直して第一回目です. 100名近くの方が再登録して頂けたようで, ありがたい限りです.

仕切り直しに合わせて心機一転やっていこうと思います. 一年くらい幾何の勉強をちょこちょこ進めてきて, ある程度大まかなところが見えてきた部分があります. 細かい話は本を読んでもらうしかないですし, メルマガで書くことでも書けることでもありません.

概要系のコンテンツとしてまとまったものにできるレベルで, しばらく自分の棚卸も込めて幾何・数学・物理の話をやり直そうと思っています. ぜひ楽しみにしていてください. 私の趣味からして解析の話も当然出てきます.

コンテンツアーカイブを作りました

せっかくメルマガを切り直したので, ずっとしようと思っていてコンテンツ整理をはじめました.

今日は明日以降の自学自習の都合があって語学関係の情報だけまとめていました. 明日からは数学・物理関係の情報も整理しはじめます. これまでノートを取るだけ取って公開していなかった分も公開していきますし, ミニ講座類も整理して, メルマガ受講しないと勉強できなかった分も適宜公開します.

ぜひ楽しみにお待ちください. メインサイトからもお気に入りの記事を移行してきます.

いままでメインサイトはWordPressで作っていて, 管理サイトも表示も鈍重で修正も面倒だったのですが, 静的ジェネレーターを使うようにしたため, 表示もかなり速くなっています.

何を追加したかメルマガでも報告するので, ぜひ楽しみにしていてください. 統計学関係の数値計算込みの微分積分に関わる話も公開していくので, これはかなり広範囲の人に影響がある話と思っています.

勉強会に参加してくれている物理の博士持ちが, 「結果自体はよく知っているしわかりきったことでさえあるが, 実際にグラフを描いて確認するとまた違う感慨がある」と言っていました. 慣れていないとプログラムを書くのも大変です.

黒木さんの資料も役に立つのですが, プログラムにろくにコメントがないのが厳しく, その辺もがんばってコメントを書いたりしています.

数値計算系含め, プログラムも書いていて楽しいので, こういう部分でも強い仲間を増やしていきたいと思っています.

今回はこんなところで. ではまたメールします.

とある勉強会の共有/相転移プロダクション

はじめに

この間連絡した通り, メールマガジンを仕切り直して語学を分離させました. 「アインシュタインの原論文を多言語で読もうの会」をやっているように, 私の意識として数学・物理・プログラミングとは分離していません.

しかし, これからおそらく, 語学だけに興味があるという人も来そうというか, そうなりそうな方向にも展開していこうと思っているため, あえて分離しました.

どのくらいいるのかと思っていたところ, 10名程度もいたので驚きです. 改めてメルマガそれ自体がきちんとしたコンテンツになるように組みます. 今後ともよろしくお願いします.

コンテンツアーカイブを作りました

せっかくメルマガを切り直したので, ずっとしようと思っていてコンテンツ整理をはじめました.

語学に関してもこちらにまとめています. これまで公開していなかった分も公開していますし, 語学に関しても先程ロシア語の単語に関して, ネットで3000語程度のリストを拾ってきて, それを叩き込みました.

ロシア語と中国語は相対性理論の勉強会でも触れていて, 全然何もわかっていないので, ちょこちょこ勉強しようと思っています.

勉強会に参加してきました

メルマガで書いたかどうか忘れたのですが, 語学に関しては言語学者のコミュニティに入っていて, そこで勉強しています. ちょうど土曜に勉強会があって参加してきました.

ヨーロッパ系言語を中心に, 確か12だか15ヶ国語話せるという人で, 実際に毎回多言語・多文化に関する話が出てきます.

もしあなたがある程度深くプログラミングの勉強をしているなら実感さえあると思いますが, 人工言語・自然言語どちらも, その言語に適当な意味で思想や文化があります. 他の言語を学ぶことで得意な言語・仕事で使う言語にもいい影響があるから, 簡単でもいいから毎年一つ, 新しい言語を勉強するといいだろうとも言われます. 極端に言えばこのノリで自然言語に関しても多言語を勉強しようと思ってやっています.

勉強会の結果の共有

あまり公開するとよくないものの, 現状読者が10名しかいません. この多言語という話, ちょっと具体的に見てほしいので内容を共有します.

一週間くらいしたら消すので, なるべく早めに見てください.

相対性理論勉強会と合わせて

何人見ているかわかりませんが, YouTubeやGitHubで公開してきた相対性理論の勉強会でも, あえて多言語に触れています.

Zoomでは名前を出すかもしれないと言ってはあるものの, メルマガで名前を出すとは言っていないので, その参加者はイニシャルで書くことにして, Kさんと呼ぶことにしましょう.

最初はどう思われていたかわかりませんが, 前回, 4/23では「多言語で見るといろいろあるんですね」と仰っていました. いろいろな言語で眺める面白さが伝わってきたように思います.

せっかくなので, 先程の勉強会の内容を含め, ここでもいくつか紹介します.

話は突然アメリカのホテル王, ヒルトンの話から, Hilton に関して Hill は丘, ton は town から来ているとはじまります. あのニュートンの Newton も new + town なのだとか.

この手の構成を持つ言葉として, レニングラードやサンクトペテルブルクの話が出ます. レニングラードは「レーニンの街」, サンクトペテルブルクは「聖ペテロの街」の意味です. 後者はロシア語で Санкт-Петербург で, 後半のブルクはドイツ語の burg 由来です.

話の流れの本体はこちらではなくてレニングラードです. 特に見るのはロシア語の город で, あえてローマ字で書くと gorod で, これが「街」の意味です.

子音を抜き出すと grd です. そしてスラブ語ではgrdは街を意味します. これを見て即座に思い出してほしいのは英語の garden です. 何故かといえば子音を抜き出すとこれも grd です. 実際, これらは同じ語源だそうで, 「垣根で囲まれている」という意味があるとのこと.

ゆるく眺めているとロシア語はスラブ系で, 基本的な語彙がゲルマン系ともロマンス系とも違うのですが, ふとしたところに共通項が出てきます.

子音が重要

相対性理論の勉強会でも何度か話しているのですが, ヨーロッパ系の単語は子音が重要です. 子音が意味を持っているのです. それはまさに上で grd が「垣根で囲まれている」ことを表していることを指します.

もしあなたがゲームの女神転生をご存知なら, ラスボスの唯一神が YHVH と呼ばれるのをご存知かもしれません. 知らない方に向けて書くとふつうこれで「ヤハウェ」と読みます. これはまさに子音だけで表記された例です.

実は, 少なくとも遥か昔, ヘブライ語は子音しか書かなかったそうです. 文字が読み書きできるのは知識層で, そういう人達は子音だけで意味などを判定できるので, 内輪向けの共有ならそれで問題なかったのでしょう. 日本語でも万葉集の万葉仮名があったように. 後代, 平安貴族でさえ解読班が必要になったほど非自明な表記で, そういうのはあとの人は困りますが, 内輪向けの文章ならこれでいいわけです.

つまり, 子音だけで単語を表記・判定していた以上, 少なくとも文字情報としては子音は決定的に大事なわけで, それはヨーロッパの現代の言語にも受け継がれているのです.

子音, もっと言えば文字以上に大事なのは物理的な音です. 特に日本人の語学学習だと見失いがちなようですが, もともと文字などなかったわけで, 文字でどうにかしようという発想自体, 言語にとってどこまで自明かという話もあります.

そして音としての言葉は人体に影響を受けます. 文化や人種などが変わっても人体の構造に大きな違いはなく, そこから来るいろいろな共通項もあります. 人体の構造と音といえばバリバリの物理で, こういうところから理工系の生徒・学生に話せば面白がってくれる部分はあるでしょう.

またこの間, 勉強会でも話したように, 英語の発音の特徴が文法にさえ影響を与えることがあり, 特に格の消失を招いた話もあります.

具体的にどの回だったか忘れてしまいましたが, 次の連載のどこかでその話がありました.

  • 連載「現代英語を英語史の視点から考える」http://www.kenkyusha.co.jp/uploads/history_of_english/series.html

歴史も含め, まわりまわっていろいろな話が英語にも影響しています. 直近は道具として使い倒す必要がある関係上, 英語を中心に回しますが, 最終目標は「理系のためのリベラルアーツ」で, 言語から歴史などにも切り込んでいきたいと思い, いろいろ教わりつつ調べつつ勉強しています.

多言語でボキャビル

相対性理論の勉強会では共有してありますが, この辺の話について, 現時点である程度まとめたコンテンツを作っています.

  • 論理英語 ボキャビル編 https://www.amazon.co.jp/dp/B08XZQZRQR

これですが, 買えというわけでありません. 今月中, どれだけ遅くともゴールデンウィーク中には, 無料のミニ講座として公開します. 興味があればぜひ受講してみてください.

ではまたメールします.

2021-04-19 メルマガ刷新: 解除確認を兼ねて/相転移プロダクション

先程, メルマガを解除したはずなのに何度もメールが送られてくる, というお叱りを受けました. そこで確認を込めてメルマガに登録されている方にご連絡します.

誤送信を避けるため, 改めて配信を希望される方に向けて, 新たなメルマガを創刊することにしました. (ミニ講座は別なので, 不要でしたらこちらは別途解除をお願いします.) 今後も私の配信に興味がある方はぜひこちらにご登録ください.

  • 新メルマガ登録ページ https://m.phasetr.com/p/r/Jont4nss

注意: 最近迷惑メール判定が厳しくなっていて, icloud.com, me.com, mac.com や docomo, ezweb, softbank などの携帯メールアドレス, hotmail.com, hotmail.jp などのマイクロソフト系などメールアドレスには 特にメールが届きにくくなっています.

Gmail は比較的届きやすいようなので, ぜひ Gmail で登録してください. メールが届かない場合, 迷惑メールになっていないか, 確認してください.

マニアックな方面の数学・物理, 語学, 中高数学系とぐちゃぐちゃになっていたため, この機会に合わせてそれらも切り分けます. 上記メルマガではマニアックな方向の数学・物理の話だけを書いていくので, もしあなたがそちらに興味あるなら改めてご登録をお願いします.

念のため, 語学系のメルマガに関しても案内しておきます.

  • 語学系メルマガ https://m.phasetr.com/p/r/CFNOigbg

中高数学に関しては当面ENERGEIAで賄うことにしました. これについては次のページからどうぞ.

  • ENERGEIA登録 https://energeia.app/

これまでお付き合い頂いた方は本当にどうもありがとうございました. 今後も活動は続けるので, またどこかでお会いすることもあるでしょう.

改めて登録される方, 今後ともよろしくお願いします.

2021-04-18 「大人の高校」を作ろう/相転移プロダクション

最近, 関数論や幾何系のノート作りをしこしこ進める以外, ENERGEIAというか中高数学および総合語学・リベラルアーツまわりのことばかり考えている上, 日々の行動記録をENERGEIAで出しているので, こちらに書く内容があまりありません. 最近参加者の予定が合わず, 「理論物理学者に市民が数学を教える会」もできていないので余計に.

  • ENERGEIA https://energeia.app/

で, タイトルの話なのですが, ここ半年くらい理系のリベラルアーツというイメージでいろいろやっていたのですが, 本質的な内容はほとんと変わらないものの, 理工系の人がメインでない場に乗り出したので, この言葉だと微妙だなと思うようになりました.

どうするかと思案していて, とりあえず「大人の高校」という方向性で少し捻ってみようかと思っています. これはこれで最終目標の中高生が排除されてしまうワーディングで気に入らないのですが, 「大人から見て勉強したかった中学・高校の内容」みたいな形にすれば, 少なくとも内容的には中高生に響くはずだろうと.

中高生に響かせるにはまた言葉をきちんと切り直すべきだ, または理系のリベラルアーツをきちんとやればいいだろう, そう思ってとりあえず大人の高校という形で, コンテンツも整理して, サイトを作る予定です.

そのためにどんな感じのサイトにすればいいかを調査中です. コンテンツの構成だとか検索やらタグづけやら考えることはいろいろあります. 最初はクローズドなENERGEIA内で見てもらうためのミニコンテンツ整備が目的なので, はじめはしょぼくても全然問題ないとは思うのですが, 理想な持っておかないとコンテンツ作成方針自体がピント外れになってしまいます.

例えば http://hotozero.com/ だとか. いろいろな言語という意味での多彩さで言えば, プログラミング系のサイトも参考になると思っています.

結局, 日々, 本業の仕事も含めて数学・物理・プログラミング・語学に囲まれて過ごしていて, 適当な意味でこれらを総合的に勉強できるようにしておきたいのですが, 私の好みの感じにまとまっているところがありません. 私の好み自体もきちんと言語化しないといけません.

というわけで引き続きやっていきます. 語学に関しては, アインシュタインの原論文を読む会でどんなのをやると楽しいか見えてきたので, まずはその方向を徹底的にやろうと思っています. こちらも私含めた参加者都合で最近ちょこちょこ休みが入りますが, 毎回参加してくれている人と二人で盛り上がっているので, 見せ方を考えればもっと人を巻き込めると思ぅつています.

今日はこんなところで. またメールします.

2021-04-11 プロジェクト新規立ち上げ・進行中/相転移プロダクション

出張なり何なりでメルマガを書く元気が出ず一月あいてしまいました. 相対性理論の原論文を多言語で読む会など, 私含めた参加者の都合がつく限り勉強会もやっています.

  • https://www.youtube.com/playlist?list=PLSBzltjFoprY1UhOvl-wXADKLQR5hkiOc

久し振りかつこの間紹介したENERGEIAで大体毎日ちょこちょこ書いているので, 何を書けばいいかと思っているのですが, クローズドでやっていた数学+プログラミングの勉強会を ENERGEIAでのオンラインイベントとしてセミオープンで開くことにしました.

  • https://energeia.app/

ここで「数学和尚の数学かけこみ寺」という部活でやっていて, オンラインイベント (勉強会) の案内もしているので, もしあなたが数学+プログラミング系の勉強会に参加したいなら, 登録しておいてください.

今日の勉強会で作ったコンテンツはGitHubに上げておきました. ENERGEIAでは中高数学関係の話をしようと思っているので, 具体的にはProject Eulerの数学というより算数系の問題を解いています.

  • https://github.com/phasetr/AlgorithmsAndDataStructureByFSharp/tree/work/ProjectEuler/00001_Multiples_of_3_and_5

今回PythonとJuliaのコードを書いたので, 次はF#版を書いた上で次の問題に行く予定です. もともと次のコンテンツのブラッシュアップとしてやっていた勉強会だったのと, これも中高数学ネタなのでこれはこれで別の勉強会として仕切り直して続けるのもありと思っています.

  • https://phasetr.com/mthlp1/

今回はこんなところで. ではまたメールします.

2021-03-14 オンラインのプチイベント/相転移プロダクション

ここ二週間, 出張準備などでバタバタしていてメルマガを送るのを忘れていました. また復活させる予定です.

ちょうど先程, オンラインのプチイベントをしました. 私自身, いろいろな話を聞きたいという目的で, 軽くお話を聞いてみる感じで Zoom でやりました. 3人くらいで (普段のメルマガからすれば) ごくライトな話をしていて, 楽しんでもらえたようで何よりです. 今後も週一くらいで定期的にやろうと思っています.

今回はだいたい次のような話をしました.

  • 最近の活動の概要を話してみた
  • どんなことをしたら面白そうか聞いてみた
  • 各人ごとの興味に合わせた応用の話とか
  • 実際に作っているコンテンツがあるのでそれの紹介
  • もっと中高数学をやろう:既存コンテンツもきちんと紹介しよう
  • スマホにも入っているGPS地図と一般相対論
  • プログラミングと絡めた話, AI・人工知能(機械学習)の話
  • 離散数学ネタ:計算幾何に関わる話とか

ちなみに次のサイト (サービス) でイベントを作って告知・展開しています.

  • https://energeia.app/

登録に電話番号が必要で鬱陶しいかもしれません. ここでは中高数学系の活動をメインに展開しようと思っています.

このサービスは「オンラインで部活をしよう」というサービスで広義知人が運営していて, 今までとは違う方面で活動してみようと思って登録して部活しています. 「たかが数学, されど数学」という部活名でやっているので, 興味があれば登録して覗いてみてください.

「たかが数学, されど数学」はいろいろなところで紹介している, 同名のエッセイタイトルから部活名を取りました. 次のリンク先にPDFを置いてあります.

  • http://phasetr.com/members/myfiles/file/Univ.Yamagata.Kawamura.takagasuugaku_saredosuugaku04u.pdf

この内容に沿った方向性で, 毎日ゆるく数学を続けようというコンセプトで展開しようとしています. ここでは毎日「今日はこんなことをやった」という短かめの投稿をしています. もしあなたが中高数学系の勉強をしようと思っていて, 一人では勉強を続けられないという悩みがあるなら, こちらに参加してみてください.

今月はまだ出張があってパンパンなので, かえって, どうゆるくやっていくか考えるにはちょうどいいのかもしれません.

今回はこんなところで. ではまたメールします.

2021-02-21 なさそうでないコンテンツ/相転移プロダクション

なさそうでないコンテンツを作りたい

最近あまりできていないのですが, なさそうでないコンテンツとして「簡単なことを難しく考える」タイプのコンテンツが作りたいと思っています. 実数論やR^nの議論をあえて関数解析の定理で書くとかいうタイプの議論です. 関数解析のモチベーションが云々とか実数論がどうの, みたいな話を具体的にどういう意図があるのか示す事案です.

これは「理論物理学者に市民が数学を教えようの会」でやっている内容でもあります. この間, 関数解析の話に絡めて実数論の話をしたとき, Twitterで少しやりとりした内容です. まずはそちらの会で試して少しずつ調整していこうと思っています.

関数解析の主定理の強さ

上のネタに関連したツリーを引用しておきます.

関数解析の主要定理の強さを知りたい(仰る通り有難みが分からない)

これに関して次のように返信しています.

返信集

実数論・ユークリッド空間論の拡張の側面を持つ定理がいくつかあって、実数論でのありがたみをわかっていないとそもそも何も感じられない可能性があります。無限次元ダイレクトでもいいのですが、弱位相など余計な要素が入ってきてややこしくなるので。 情報系だと何に当たるのかよくわからないのですが、(実数体・複素数体上での)解析学は物理で言う解析力学のようなもので、各定理だけではなくその証明・論法まで含めて実数論はアーキタイプになっていて、何らかの形で実数論のハートを掴めていないと関数解析・ルベーグは何が嬉しいのか体得大変です 実数論は何というか武道などの型に当たる役割もあり、その型に流し込むと自動的に色々なことができたり、こういう言明が成り立っていてほしいという気分が出てきます。たぶん情報系でも似たような分野や概念があると思うのですが、関数解析では実数がそれです。 ルベーグも同じです。ルベーグ積分も定理や証明自体が実数論の議論の直輸入の部分があり一方でルベーグ積分自体が関数解析のあらゆる基礎にもなっています。私の院の指導教員は募集要項的な資料で「ルベーグ積分を修めていないとうちの(関数解析系の)研究室に行くのは無理」とはっきり書いていました あくまで数学科で研究ベースで考える上での話ではありますが、それでも数学科では一つの決定的な現実ではあります。細々とした細部の話でありつつ、よく言われる「お気持ち」の部分そのものが実数に関わる諸々に直結しているので、急がば回れで実数をきちんとやるのは一手です。

横からの質問

これに対して次のような質問が来ました.

横からですみませんが、もしよければおすすめの実数論の本を教えていただけないでしょうか? 当方物理出身で、黒田関数解析はひとしきり眺めてやはりお気持ちはよくわからず、無限次元は危ないということくらいしかわからなかったくらいのレベル感です。

これには次のように返しています.

レビュー見る限り新旧でテイストが変わっているらしいですが、学部一年の時に読んだこれは薄い中に一通り集合・実数・位相が書いてあってとりあえずこれを勧めています。(間違いが多く初学者向きではないのでは、とメルマガ読者に言われたこともあります) http://mmatsuo.com/%e7%90%86%e8%ab%96%e7%89%a9%e7%90%86%e5%ad%a6%e8%80%85%e3%81%ab%e5%b8%82%e6%b0%91%e3%81%8c%e6%95%b0%e5%ad%a6%e3%82%92%e6%95%99%e3%81%88%e3%82%88%e3%81%86%e3%81%ae%e4%bc%9a/ あとは松尾さんとやっていてYouTubeに公開している勉強会の内容でしょうか。作り直したバージョンをいまだ公開していませんが https://phasetr.com/mtlp1/ とか。というか、まずこれを見ろ、という気分で作ったのでこの辺見てください。(いわゆるわかりやすいかどうかは別です) あと https://phasetr.com/mtex1/https://phasetr.com/mtexpdf1/ は有料コンテンツの案内ページですが、このページの内容だけ読んでも参考になるように書いたのでこの辺も眺めておいてください。

既存の現代数学観光ツアーは整理してあって未リリースなのもありますが, いまの視点で改めて「簡単なことを難しく」講座が作りたいですね. 最近, 幾何で調和積分までは一通りやり直して, 解析と幾何について改めて頭にロードしたのでそこまで含めてコンテンツ作りたいです.

おおもとの方程式の解と近似方程式の解の比較

これまたTwitterを見ていて思った話ですが, 最近, 黒木さんの統計学のipynbをもとにした勉強会をやっていて, スターリングの等式の近似の具合を見るプログラムなどがありました. これをやっていて「定性的・定量的にそうなるのはわかるが, やはりプログラムを書いて図で実際に確認するのは楽しい」という話が出ました. 私もそう思います.

学部一年の教養の数学で出てくるネタを実際に計算練習として追いかけるのと同時に, プログラムを書いて遊ぶコンテンツが作りたいと思ぅています. プログラミング系の勉強会でネタにするかどうするかと思っています.

こういうコンテンツ, 探せばどこかにある気もするのですが, 見つけられないのでやはり自作するしかなさそうで, 作りたいモノはたくさんあっても時間が追いついていない状態です.

語学, 特に単語の話

最近執念深くアインシュタインの原論文を読む会を続けています. ここ一週間くらいいろいろ諦めて, ドイツ語の原文を見ることによる無理やりのドイツ語単語暗記に励んでいます.

フランス語やイタリア語は英語との関連が見やすくて割とすぐに頭に入ってくれるのですが, ドイツ語はちょっと凝った単語になると英語と離れてくるので, なかなか頭に入りません.

20回くらいくり返し英語と比べつつドイツ語を読んでいると, ようやく少し頭に入ってきます. その副産物で, いままでさっぱりわからなかったドイツ語の文構造が少し掴めるようになってきました. 原論文を見るとわかりますが, 一文一文が異様に長く非常に読むのが大変です.

それはさておき単語暗記です. 何度も調べるのに余計な時間を使って読解どころではないので, やはり単語をきちんと覚えなければと思ってやっています.

いいオンラインコンテンツ・教材がなく, 英語・フランス語だとできる手法が使いづらく困っています. やりたいのはごく単純で, 語源を掘り込んで単語への印象を強めるというタイプの勉強がしたいのです.

日本語の紙の辞書で語源が書いてあるのはありますが, 紙は時間がかかるのと持ち歩くのが大変なので, やはりオンラインの資料がほしいです.

英語とフランス語だとWiktionaryがあって, これがかなり楽しいです. ドイツ語版もありますが, いまひとつ充実度が足りません.

少し調べたらドイツ語だと http://dwds.de が有名だそうで, 少し眺めてみたら, 完全にドイツ語のサイトで, 語源は書いてあってもドイツ語です. ドイツ語の文法もザルなのにまともにドイツ語単語を覚えていないので, 全く読めないという厳しさがあります. Wiktionary は英語サイトなので読めてありがたいのですが.

ちなみに, 語学に関してはきちんと人に教わっていて, その人から紙の辞書はお勧めされているのですが, オンラインコンテンツがほしいという我侭を言っています. 運動不足の解消も兼ねて, エアロバイクを漕ぎながら, ChromebookでPDFを書きつつメモしつつで勉強しているので, そこに紙の辞書を併用して勉強するのが大変で, それでオンラインコンテンツがほしい.

http://dwds.de の語源の項を読むためにもドイツ語を覚えないといけなくて, ドイツ語暗記が進まない悪循環です. 地道に続けて自作するしかないのでがんばってやっていきます.

単語の勉強が楽しいのは, 数学での (群の) 表現論の趣があるからです. いわゆる印欧祖語とかいうやつですが, 単語にも一応アーキタイプがあって, そこから各言語での単語が出てくるという話があります. 私の修士の研究テーマは作用素環の表現論でもあり, 表現論にはそれ相応の気分というか憧れがあります.

この起源を辿る部分で表現論の趣があり, 広義の数学・物理をやっている気分があって楽しいのです. 各言語にどう降りてくるかを考えるのがまさに準同型を見ているという感じ. 同型ではないのでいろいろ捻じ曲がっていて, 言語ごとに少しずつ違ううつり方をしている部分を眺めて比較するのも楽しいです.

勉強会で数学科出で翻訳をやっている人が参加してくれていて, この辺の多言語ネタも話しています. 面白がってくれているので, うまくやれば, 他にも面白く思ってくれる人がもっといるはずで, その辺の様子見としていろいろやっています.

文法は文法で, 自然を自然法則で読み解くのと似た気分があるので, この辺の視点を重視した語学コンテンツがほしいのですが, 誰も作ってくれないので一所懸命自作しています. いま作っているのは一定程度の単語力と読み書き系英語への耐性を仮定してしまっていて, これだと大元のモチベーションの中高生向けのコンテンツになりません. なかなか調整が難しいです. 実際に中高生と何かしたいとは思うのですが.

今回もいろいろ書いていたら長くなったので, とりあえず今回はこんなところで終わります.

ではまたメールします.

2021-02-14 多様体論は面白くするのが難しい/相転移プロダクション

今週作ったコンテンツ

期待値の線型性にフビニを使うという衝撃のツイートを見かけたので, ごく簡単にコメントした記事です. 確かに言われてみると混乱するのだろうという気分はあります. 勉強ついでに統計のノートはまとまってきているので, 適切なプログラムつきのきちんとしたコンテンツを整備しないとまずいのでしょう.

実際に読んでみて非常によかったので, とりあえず黒木さんのベイズのノートを勧めておきます.

黒木さんの資料はいろいろあってそれぞれ勉強になるのですが, いろいろありすぎてどれからどう読み進めるかが問題なので, それをきちんと整理する必要があります. 勉強会をしつつそれを整理しているところです.

今週の雑感

今週は幾何・リーマン面の勉強よりも, プログラミングについていろいろやっていました. ベイズ関係で Julia のコードをよく見ていたのと, プログラミングの勉強会の次のネタ用に計算機科学系の本を読んでいます. アンダースタンディングコンピュテーションという本です.

お勧めしてもらった本です. Ruby で書いてある本で, この手の本は Haskell で書かれた本が多いとか聞くのですが, プログラミングというか計算機科学に突っ込んだ本をあまり知らないので, 実際に Haskell で書いてある本も知りたいですね. それも読んでみたい.

いまは Jupyter notebook があるので出力結果つきの プログラミングのノートが作りやすくて本当に便利です. Ruby を入れようと思ったら MSYS2 のインストールではまったので, Docker で iruby を使えるようにして, それで動かしています. まだ全然慣れていないものの, 多少なりとも Docker を使えるようにしておいてよかったです. Docker があると Windows でも環境構築がだいぶ楽になるように思います.

ただ, これをプログラミングに慣れていない人にインストールして 使ってもらうのは厳しいとも思います. その辺はやはり Google Colab がある Python がまだまだ圧倒的に強いです. 一通り勉強し終わったら Python 版と Julia 版を作りたいですね.

幾何の話: 多様体論

今週は他に書くことがなかったので, 久しぶりに幾何の勉強のログというか, ここまで勉強してきた上での多様体論の勉強のポイント的なところを適当にまとめます.

何度か書いた気もしますが, とりあえず多様体の話からはじめましょう. 何一つ面白くありませんが, 結論から言うと歯を食いしばってやるしかありません.

以前, 岩波の現代数学の基礎などの付録の小冊子か何かで, 深谷賢治さんが書いていた記憶があるのですが, 多様体論は幾何の舞台整備なので必ずしも面白くありません. 一通り終わってようやく幾何がはじまる趣があります. その意味で一番楽なのは, 数学科でとにかく無理やり一通りやらされて叩き込まれることです.

私自身, 数学科ではないにせよ, 学部一年で集合・実数・位相を叩き込まれつつ, 物理学科の学生として物理は最低限触れてきたからこそ, 何かを勉強するときにもある程度の感覚が育っていて便利なことがよくあります.

大人になってからの独学・再勉強だとこういう強制力が何もはたらかず, やりたいことだけやる, もしくはやりたいことしかやれず, 面白くはなくても大事なところが抜けがちになります.

実際に幾何の人と話したことがある話として単位の分割があります. これは「一回はやらないといけないが二度はやりたくない」ネタです. 微分形式に関わる局所理論は組み合わせ論的な議論は書くのが面倒で, これもそう何度もやりたくありません.

微分形式やホモロジー・コホモロジーは 「具体的な構成はどうでもよく使い倒せばいい」と言われることがあります. ただ, ところどころで具体的な構成を使って計算する場面はあり, そういうときに「やはり基礎から, 構成からきちんとやらないと駄目か」と思わされる面倒さがあります.

よく古典的な曲線論・曲面論をやるといいという話も見かけますが, これらは多様体論を避けた記述があって, 多様体論の勉強に役立つと思えたことがありません. むしろ一般的なリーマン幾何をやってから, その具体例として古典的な曲面論に落とした方が私にはよく気分が掴めました. そもそも曲面論をきちんと多様体論・一般的なリーマン幾何に きちんとつなげてくれている本があるのかどうかさえわかりません. 幾何の人または純粋な数学科の人が曲線論・曲面論と 多様体論の接続をどう勉強しているのか知りたいくらいです.

「理論物理学者に市民が数学を教える会」で実際に話したことなのですが, 物理学者が書いた本だといきなり位相空間や多様体の定義だけ出てきて, 数学的な気分は全然わかりません. あれだと逆に何も書いていなさすぎて本当に無味乾燥で, 逆に何であれで勉強できるのか・わかるのかが不思議です.

そんな感じで何からどう攻めると取り組みやすくなるのか, いまだによくわかっておらず, コンテンツ整備も後回しになっています.

それだけで足りるわけはないのですが, それでもとりあえずはリーマン面から攻めるのがいいのではないかと思っています. 多様体論というか幾何の議論でポイントはいくつかあり, そのうちの一つは局所座標を取って議論を進める部分です. やってみるとわかりますが, 実は記号的に非常にやっかいで, テンソル解析的な議論だけではカバーしきれない部分があります. その点, リーマン面だと複素一次元なので記号の面倒がだいぶ減っていて, 都合のいい座標系を取るという視点ががだいぶ見やすくなります. そこだけでもだいぶ変わります.

ここまででも言ってきたように, リーマン面は学部三年くらいまでの数学の総合格闘技の趣があり, そう簡単ではありません. 次回以降, 多様体の各論についての概要と, リーマン面のための基礎知識みたいなところをまとめていこうと思います.

今回はこのくらいにしましょう. ではまたメールします.

2021-02-07 物理と微分形式/相転移プロダクション

今週のコンテンツ

前回, 勉強会でフランス語と英語の語彙がよく似ているという話になったので, フランス語とイタリア語も割と共通点が多く, フランス語を経由して英語とイタリア語にも共通項が多いという話をするべく, ちょっとイタリア語の話をしています.

この辺の単語まわり, 何というか数学の表現論の趣があります. 印欧祖語やら何やらの母胎があって, そこから各言語に対して準同型があるかのような感じ.

これに絡めて, 改めてドイツ語と中国語の単語を覚え直そうと, 日々ちょこちょこ進めています. やはり文法より先に単語をやらないと勉強が捗りません. 相対論の論文は1000単語程度あって, 物理や数学系の論文を読むにはこの1000語だけでもかなりできるようになりそうなので, まずはここにフォーカスをあててやっていこうと思っています.

挨拶用・日常会話で大事な単語だとすぐ飽きるので, もうこういうところからやるしかないと腹を括りました.

集合・位相の勉強に関して

森の未知さんとやりとりしたのを紹介しておきます. はじめに書いておくと, 何でもそうですが, 才能やら何やらいう前に膨大な量の修行が必要です. 没頭する時間的な余裕が必要とも言えます.

旧帝大未満の偏差値の数学科で集合・位相を教えるなら、まずは集合の無限族の共通部分・和や写像の逆像の計算を徹底的にやらせるのが大事ではないかと最近思う。 あの辺の集合論の基本演算ができないと位相空間論でも詰む。 「集合・位相こそそれまで習った計算中心の数学と一線を画する数学科らしい数学」みたいな先入観のある人も少なくないかもしれないけど、全くそんなことはなくて、基本的な計算演習を疎かにしている人が多すぎるだけだと思う。

最近機械学習方面でなぜか話題の測度論・確率論ではまる理由、大抵ハードな集合演算+実数論周りの極限処理の暴力的な演習量の足りなさだといつも思っています。測度論・確率論の議論、集合論部分がリアルにつらい一方でそこをカットして来る応用の人が多いので本物の地獄になっている気分があります。

そういえば学部レベルでの測度論も地味に集合演算が重たかったのを思い出しました。そう考えるといかにもありそうな話ですね……。

ちなみに私は冗談抜きで確率論・測度論に耐えられません。作用素環でも直積分まわりで測度論・確率論を酷使するのですが、処理しきれず挫折しました。ルベーグ積分の極限処理と測度論・確率論の処理は全然違います。「市民感覚の確率論の本が欲しい」とよくいうのはこの深い挫折に基づいています。

ちなみにくるるさんによる次のような話もありました.

「基本的な計算演習」がここでどのようなものを指すのかはわからないのですが、普通に数学をやってきたくらいの人は、∀∃または∃∀の形の論理式に当たる概念(例えばG_δやF_σ)が出ると最初は完全に詰まるので、そこは練習しないと越えられないと思う。 という話は @kadamasaru さんが何度もされてますが。機械的に論理式を解釈していけばちゃんと証明になっていくじゃん!みたいなのは少なくとも本学のレベルでは通用しない印象。

よく「努力できること自体が才能」という話もありますが, 何の役に立つかもわからないタイプの数学に没頭できるのは確かに才能かもしれません. いいことなのかどうかは別問題です.

統計学の本の記述で確かにそんな問題があったか事案

TwitterでRTで回ってきた話です.

前にブログのネタにしたことあるけど、平均値の線形性 E [a X + b Y ] = a E [X ] + b E [Y ] とかも、ちゃんと証明するにはフビニの定理とか必要なはずなんだけど、雑にしか説明してない本が多い。

ここから少しやりとりして次のような記事が出てきました.

間違っているのでリンク先は読まなくて構いません. これを見て少し考えたのですが, よく統計の本に書いてある期待値の定義を杓子定規に考えると, 確かに期待値の線型性に関する E[X+Y] の認識は破滅するかもしれません. きちんと確率空間上の可測関数とその積分というセットアップで見れば何の問題もなく, 無意識にそれで補完してしまっていて, 気付きさえしませんでした.

前にどこかで書いた気もしますが, 高校の確率のセットアップをきちんとやると実はかなり大変です. 試行回数を増やすことは積空間・積測度を考えることにあたります. たまに大学受験の問題でも確率に関する級数が出てくることがある (少なくともその記憶がある) のですが, その構成には無限積空間・無限積測度が必要です.

大学受験のレベルなら可算積で済む一方, 確率積分などを考えるときは非可算の積がところどころで出てくるので, 微妙な回避処理が必要でかなり大変なところがあります. 学生の頃, 非専門の身で時々その辺の面倒な処理にぶちあたり, 確率論には挫折したままです.

それはそれとして, 最近統計の勉強会でずっと講師役をやっていて, 黒木さんのipynbを読んでいます. 特に先週次のipynbを読み終えました.

これまでの蓄積もあるとは思いますが, 本腰を入れて読んでようやくある程度全体像が掴めるようになりました. この資料はお勧めです. あえて数学的に細かいところには踏み込み切っていない (ギチギチに証明を書き切っていない) ようなので, 細かい計算はともかくまずは全体像を掴みたいという人にむしろお勧めです. 一部の計算は他の資料に詳しく書いてあることもあるようです. 私はいまKL information and descriptive statistics.ipynbを読んでいます. これも数値実験つきでなかなかよさそうな資料です.

ベクトル解析を微分形式で書く

Twitterで時々浮上してくるこの話題, いつも思っていることを何となくツイートしました.

ベクトル解析を微分形式で書くのがいいとかいうやつ、数学はツール・言葉で、みんながそれを使わないと意味がないので数学部分だけ伝えたところで意味がなく、その分野の教科書を全部微分形式で書いて揃えて教科書シリーズを作るくらいの労力をかけないと何の意味もない。勉強しても共通言語にならない. この微分形式で書くというやつ、物理でよくやる近似周りの議論とどれだけ相性がいいのかよくわかっていない。微分形式のルールに則ったお行儀のいい近似のほうが色々捗るみたいな研究も必要なのだと思うが、面白くなくて誰もやらなさそう。

物理で微分形式が役に立つというのをどういう視点で強調してコンテンツを作ればいいのかがいまだによくわからない。数学・幾何だと幾何的な情報を持つ・コホモロジーを記述できると言えるが、物理で使うとき、必ずしもこういう話はせず「方程式が綺麗にまとまる」くらいの話ばかり見かける。 あとは計算が楽になるというやつ。計算が楽になるのは間違いなくご利益だが、それで「こんな風に物理の理解が深まる」という感じで使われているのをあまり見かけない。そして実際ここがよくわからないので、何かコンテンツを作ろうにもどういう切り口にすればいいのかいまだにわからない。 電磁気学を公理的に微分形式で書き進めるという本があるのだが、相対論のために記述がこう色々と面倒になっていて、逆にかなりややこしくなっている気分がある。曲がった時空などへの対応もすぐできるとか書かれていたが、それがどこまでの利点になるのかよくわかっていない。 特に必ずしも相対論的な定式化を意識しないタイプの議論でどこまでどんなご利益があるのか。幾何と関係がある以上、位相的な効果が出てくる電磁気の問題や量子力学の問題では便利なところもあるのだろうが、特に工学的なところでどの程度ご利益になるのかわかっていない。 理論物理方面の話だけ考えていればいいわけでもない。数値計算への応用があるのも知っているが、工学の人がどのくらいスクラッチで数値計算コードを書くのかもよくわからない。数学だけ勉強して物理・工学の本を微分形式で自力で書き直せというのも無茶がある。 あと物理・工学への応用を考えるとき、テンソル解析と微分形式による処理がどのくらい気分が違うのかなどもよくわからない。 あと応用向けに微分形式をやるという話にどれだけの意義があるかわからない事案として数学のPDEの人達の流儀がある。幾何解析だといわゆるテンソル解析になるだろうしふつうのPDEでベクトル解析の代わりに微分形式を使おうという人をみたことがない。こういうのが徹底的に書いてある本、洋書でもある?

ツイートでは「こんなのがある」とだけ書いて面倒で文献紹介をしませんでしたが, 具体的な文献を知っている範囲で一応紹介しておきます.

Hehl-Obukhovの本, 時間の方向を特別扱いしないといけない局面があり, そこの扱いで記号も面倒になっていてあまり読むのはお勧めできません. 面白い試みだとは思っていますが, ふつうの人が読むには趣味的に過ぎます.

我らが久徳先生からのコメントもちょっと載せておきましょう.

安直に微分形式を役に立てようとするなら積分量を定義するところかなあ。テンソル解析だけだと不変性が怪しいので

完全に数学としての幾何の本でもテンソル解析スタイルで進めて不変性もがんばって示す本はよくあるので, この不利・不便さを超えた物理として意義がどの程度あるのかがわかっていません. よけいな数学的苦労を背負い込ませるだけの大義名分がないとなかなか勧めづらいです.

いま別に進めている幾何の方は, 物理のことを何も考えておらず, ふつうに幾何・微分幾何をやるだけで, 微分形式にはご利益があるというより空気のような存在で, 吸えないと即死するみたいなタイプの不穏ささえあります. リーマン面も細部は適当に流しつつ, わかる部分だけTeXでノートを書いて日々少しずつ復習して細部を埋めていくスタイルで勉強を続けています.

何を読んでいたのかのメモさえ残していない昔のノートと, 適当な英語の講義ノートPDFで勉強していて, 日本語の訳語がわからないことが時々あります. いくつかリーマン面の本のストックがあってもいい気はするので, 何か日本語の本を買おうかとも思っています. 証明や議論の構成でも参考になるでしょうから.

集合・位相はもちろん必要で, 多少の多変数まで含めた微分積分, 線型代数, 多少の代数とそれなりに予備知識が必要なのは厳しいところですが, 逆にそれらをモチベーション豊かに勉強できるのがリーマン面のいいところです. そこから広がる世界も深く広く, 超弦関係の物理でなら実際に使うのもひとつお勧めポイントです.

ぜひあなたもリーマン面やりましょう.

プログラミングと数学

プログラミングに関しても, 既にリリースしたコンテンツをもとに勉強会をしていて, それがそろそろ一周終わります.

一通りやってみて改めて思ったのは, プログラムはメンテが必要で本当に面倒くさいということでした. メンテが極限まで減らせるのにしないとやっていられそうにありません.

いろいろあって, その勉強会では前半でIT基礎知識, 後半でコンテンツで数学・プログラミング学習という形でやっています. プログラミングもちょっと突っ込むとIT基礎知識が割といろいろ必要で, それに絡めてやはりアルゴリズムとデータ構造に近い形で数学遊びできるネタで何かやるのがよさそう, というか, そうでないとコンテンツのメンテが面倒でやっていられない, という感触があります. 一通り終わったらデータ構造とアルゴリズムをやる一方で, Project Eulerを進めるタイプの勉強会にしようかと思っていろいろ考えています.

いつも以上にとりとめがないですが, 今回は勉強のログとコンテンツ制作雑感といった感じで, こんなところで終わります.

ではまたメールします.

2021-01-31 勉強のアドバイスをするとアドバイス"した側"の成績が上がる/相転移プロダクション

とりあえずはTwitterからコンテンツ紹介を.

コンテンツ紹介

MITでは,コンピュータサイエンスの授業の準備に, シェルやvim, git, デバッグ等,便利で基本的なツールを「授業では何百時間,キャリアでは何千時間使う」として,1ヶ月学ぶ授業が開講されているようですね https://missing.csail.mit.edu/2020/ 講義動画等が公開されていますが,他大学もやったら面白いのでは

MIT なので当然のように英語です. ここ数ヶ月は微分幾何しかしておらず, そして今月はといえば本当にリーマン面しかしていません. プログラミングのコンテンツ整備・勉強が完全にストップしています. しかし毎週二時間, クローズドでプログラミングの勉強会はやっていますし, 中高生向けのコンテンツ整備もやっていく必要があるため, いつかはもっと本格的に踏み込まなければいけない話です.

MIT の教育ノウハウが叩き込まれていると思うので, 自分用の備忘録としても紹介しておきます.

幾何の話の前に

以前メルマガに書いたか何かしたとも思うのですが, 「勉強のアドバイスをするとアドバイス"した側"の成績が上がる」という話, 最近改めて感じています.

特にクローズドの統計の勉強会で私が黒木さんの統計の資料をもとに話しています.

一度読んでそれなりに把握したことでも, 講師役で話していると頭の使い方が切り替わります. 話している最中に「これはこういうことだったのか」と私自身が謎の納得を深めることがあります.

不思議なものでオンラインの勉強会であったとしても, 実際に時間を共有して反応を気にしながら進めるのは全然違います. メルマガで数学系の解説を書いているのも形式的には「教える」モードなのに, 少なくとも私に関してはどうも違うようです.

人のためなどと四の五の言う前に, 自分自身の勉強のためにこそ人に教えるのがいいという気分さえあります.

もちろん他の人に参加してもらうためにいい感じに興味関心を擦り合わせる必要があり, そこをどう調整するかが私自身の今後の課題なのだと思っています. いま実際にやっている勉強会も実質的に聴衆は一人というのがあります. 忙しいのに毎週時間を作って参加してくれるのでありがたい限りです.

幾何の話

何週間が塩づけにした幾何の話というか, 勉強のログを少し共有します. 幾何の専門の人には自明すぎるほど自明と思いますし, きちんと書いてある本も探せばあるのでしょうが見つけられていません. もしあなたが幾何に興味がある一方, 幾何の理解度が私と同程度だというなら参考になるはずです.

複素多様体論での複素化

複素多様体では実多様体と比べて局所理論がちょっと面倒になっています. もちろん線型代数の話でタイトル通り複素化です.

複素化自体はどの本にも書いてありますが, なぜ必要なのかが書いてありません. そして以前リーマン面を勉強したとき, 何も考えずに当然と受け入れていたことがまさに複素化が必要な理由そのものであることに, 最近改めて気付きました.

面倒なので一変数に限定して書くことにすると, 複素化する理由は $dz$ と $d \overline{z}$ を使いたいからです. つまり (余) 接空間を複素二次元にしたいからです. リーマン面だと $dx$, $dy$ を $dz$ と $d \overline{z}$ に置き換えられる, という感じで複素化と言わずにさらりと出てくる部分がまさに複素化なのでした.

一般論も書いておきましょう. 一般に多様体の次元と接空間・余接空間の次元は同じです. 複素多様体の複素次元が $n$ のとき, 接空間も複素 $n$ 次元です. これをどうにかして複素 $2n$ 次元にしないといけません.

ここで複素 $n$ 次元は実 $2n$ 次元です. この実 $2n$ 次元を複素化すると複素 $2n$ 次元の空間が作れます. 複素 $n$ 次元は複素化しようがないので, いったん実 $2n$ 次元を経由するのが複素化です.

ここ数ヶ月の集中的な微分幾何学習でようやく気付いたという話でした.

数週間空いてしまったので, 項目だけ立てて何を書こうとしていたのか忘れてしまいました. 来週以降, また適当に幾何の話をします. 三次元での曲面論でのいわゆるガウスの驚異の定理なども, まじめにきっちり詰めて証明もノートにつけて, ようやく気分が掴めてきました. この辺の話もきちんとまとめたいと思っています.

ではまたメールします.

2021-01-24 数学は体力だ/相転移プロダクション

今週作ったコンテンツのまとめ

まずはいつものコンテンツのまとめからです.

基本的には公開にしているオンライン勉強会の記録です.

コンテンツ紹介

今回はいくつかTwitterで見かけたコンテンツなどを紹介します.

BorcherdsのYouTubeチャンネル

フィールズ賞受賞者であるBorcherdsのYouTubeチャンネルがあります.

これ以外にもいろいろな研究所や数学者のYouTubeチャンネルがあります. 基本的には英語なので英語がわかる人は聞いてみてはどうでしょうか. Borcherdsに関してはやはり超一流の知見が散りばめられた講義のようで, 知人の数学者もよく聞いていると言っていました.

時々「英語はちょっと」という人がいて, 英語系のコンテンツを勧めるのはどうしようかと思うことも増えてきました. 語学系, 特に英語のコンテンツ・勉強会をはじめた理由はこの辺にもあります. 最低限英語が読めないと数学・物理の勉強は本当にきついです. 実際, 数学で何かわからないことがあると英語で検索することがよくありますし, そして Math Stack Exchange や適当な PDF で問題が解決できることがこれまたよくあります.

YouTubeだとリスニングが必要ですが, 上記webサイトやPDFなら学校英語で完全にカバーできます. そうはいっても今更, という人も多いようなので, 「理工系のための語学」という感じで勉強会をやっています. 数学科卒でいま翻訳をやっているという人が参加してくれています. 楽しい・勉強になると言って実際, 毎週積極的に参加してくれているので, それ相応の内容であってきちんと価値のあるものを提供できるはずという自信がついてきました.

もしあなたが興味があるなら, 上記の記事や勉強会の様子を公開しているYouTubeの動画を見てください. ただし私は吃音があり, YouTube は聞きづらいかもしれないので予めご了承ください.

松尾さんからのコメント

現代数学探険隊を買ってくれた理論物理学者の松尾さんと, 試験的に「理論物理学者に市民が数学を教えようの会」というオンライン勉強会をやっています. それに関して次のページでコメントをまとめてくれています.

これも勉強会の様子はYouTubeに上げているので, 興味があれば見てみてください.

『集合・関係・写像・代数系演算・位相測度』石谷茂/著

単純にタイトルを見ただけの話ですが, 私が作っている現代数学観光ツアーや, いま幾何入門としてまとめているコンテンツと内容がぴったり重なっています. おそらく私は自分の勉強も兼ねてもっとこってりと, そして別の視点で同じような内容を改めてまとめることになるでしょう. もしあなたがいますぐ概要を掴みたいと思っているなら, ぜひ買ってみるといいのではないでしょうか. 2300円と安いのでもしあなたが大人なら冒険してもいい値段です. 中高生だとさすがに高いとは思うのですが.

そもそも私が買って読んでレビューするべきところではあります. もしあなたがこれを読んでみたなら, ぜひレビューをまとめてもらえると助かります. 記事を書いたら教えてください.

体力をつけよう

これも大事なので.

これは自覚しづらいことでもあるけれど、 創造力や集中力の低下は、体力の低下に直結している。 アイディアがどんどん生まれるのは動ける身体がベースにあって、 脳の前頭葉が活発に働くからだ。 「自粛期間で創造力や集中力が落ちた」と感じる人には(僕もそのひとり) 基礎体力づくりをおすすめしたい。

「数学は体力だ」という数学関係者には有名な話がありますが, やはり体力は非常に大事です. 数学と言わず日常生活でももちろん同じです. 特に最近は別の意味でも重要になってきてしまいました.

私はもともと体が弱く, ちょっと不安なのでジム通いはいったん止めてしまいましたが, エアロバイクを買ったので毎日二時間やっています. ゆるく漕ぐだけでその間は適当にコンテンツを作っています. 最近だと語学系のコンテンツを整備しています.

前もメルマガで書いたように, 筋トレはいい感じの人体実験でもあり, 日常に活きる科学といった趣もあって面白いので, 再開したいとは思っています. あまり長引くような器具を買う方がいいのかもしれません.

国立大学法人のウェブのアーカイブ

私も時々引用する河東先生のセミナーのやり方ページ, 先生が定年退職したらどうなるのかといった事を呟いたらコメントをもらいました.

国立大学法人のウェブは、国会図書館がアーカイブを公開する。例えば、件の記事は https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11573930/www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/sem.htm

他にも既にいろいろなアーカイブが残っているようです.

小林治先生の超コンパクトにまとめられた「講義資料・セミナー資料」、退職されてから閲覧できなくなってしまい残念に思っていたが、保存されている! https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9531540/www.math.sci.osaka-u.ac.jp/~kobayashi/

もしあなたが国立大学のサイトから何か大事なモノが消えてしまって悲しい思いをしたことがあるなら, こちらで探してみてはどうでしょうか.

アンケート回答へのコメント

現代数学観光ツアーのアンケートで 「応用に出てくる数学を数学的にきちんとやるとこんなにきついのか」といったコメントがありました.

これ, いい加減きちんと整理したいというのがあります. まず一回一回の配信分がそれだけで独立させるべきボリュームです. 整理自体は終わったのですが, 配信に関して改めてどうするかを考えているところです.

もうひとつは, そもそもが初期の物理・数学系にゴリゴリに特化した読者向けだったことによる内容のハードさです. そろそろ適性なレベルの数学系コンテンツを作り直さないといけません. その前哨戦が松尾さんとの勉強会なので, ぜひ松尾さんの勉強会に関するYouTube勉強会を見てみてください.

今回も書くべきネタがたくさんあって, 幾何の話ができませんでした. ネタがなければ次回書きます. 今回はこんなところで.

ではまたメールします.

2021-01-17 日々の勉強に復習を取り込む方法/相転移プロダクション

毎週アウトプットとして勉強会をやっているので, そのうちで記録を公開している英語の勉強会の記事をシェアしておきます.

こんなに真面目に英語を読むのははじめてなので, 毎回今まで・ふだんどれだけ適当に英語を読んでいるかを痛感します. ここでまじめに読んでいるおかげでふだんの英語の読み込みにも役立っている気分はあります.

統計の勉強会でも黒木さんの ipynb を読んでいます. これも面白いもので, 自分で整理しつつ読んでいるときには気付かなかったことも, 勉強会でまさに話している最中に気付くことがいろいろあります. 勉強会は聞くよりも話す側で参加した方がいいという話を改めて実感しています.

日々の生活に復習を取り込む方法

完全に人によると思うのですが, 最近私がやっている復習までセットにした勉強法を紹介します. それは「とにかくノートを作りつつ毎日少しずつ見直す」です. ここでのノートは TeX で取っていて, いろいろなミスを復習しながら直しています. 単純な数学的なミスはもちろん, あとで見たらギャップがあったところを追記したり, 日本語がおかしいのを直したりもしています.

あとで修正しやいので TeX によるノート作りを勧めます. PDF 化するとスマホやタブレットに入れて持ち運ぶのも便利で, 隙間時間でも勉強できます.

私の場合は基本リモートワークなのもあり, 朝と昼に本当にのんびりできる時間があります. そこでコーヒーを飲みながらのんびり読んでいます.

おそらく完全に個人的な事情なのですが, ふつうに教科書を読むよりも自分が書いたノートを読む方が私は集中できるようなのです. たぶん, 理由は次の通りです.

  • 自分のノートは基本的にどこか間違っている・おかしいと思っている
  • ミスを探すつもりで注意深く読める
  • 間違っている部分をすぐ修正できつつまとまった形で手元に残るので気分がいい. 紙の教科書だといちいちその本を開かなければならず, 電子の教科書でも事情は大きく変わらない
  • 自分がすらすら読めるように書いているので当然ギャップレスですらすら読める

ふつうに教科書を読んでいると飽きてくるのですが, それを適宜まとめた自分のノートだと読み続けられます. 特に現代数学観光ツアーや現代数学探険隊は自分が面白いと思ったことを, 自分が面白いと思えるように書いているので, よけいに飽きません.

集合論の入門の本や入門的な記述など, いまでもいろいろな勉強や調査で読むことがありますが, どうしてもすぐにだれて来ますが, 自分の集合論ノートだと不思議といくらでも読めます.

もしあなたにもこうした心あたりがあるなら, 単に教科書を読むだけではなく, ぜひ自分でノートを作ってみてください. ノートのおかしい箇所を修正しながら復習でき, 理解の定着をはかる上では非常に効率的で効果的です.

TeX は環境のセットアップがめんどうなので, オンラインの overleaf を使ってもいいでしょう.

  • https://ja.overleaf.com/

私はいろいろな都合と趣味によって overleaf は使っていませんが, 前に少し使った感じではかなり便利でした.

TeX のコードについては現代数学ビギナーズマニュアルにも多少の記述はありますが, ある程度まとまった数学コードがあるソースとして, 昔作ってとりあえず公開してある次のリポジトリを見てもらうといいでしょう.

PDF も生成して置いてあるので, 比較しながら見てもらうと TeX の勉強にもなるはずです.

学生時代に書いていたノートへの継ぎ足しで, 正直ソースというか書き方自体はかなりひどく, 書き方は参考にしない方がいいです. どんなソースを書くとどんな出力が得られるか, よくあるコマンドとその説明といった形ではなく, ある程度まとまった文章ベースでの出力確認として役立ててください.

関数論が楽しい

最近は関数論・リーマン面が楽しく, 休日も一日中やっています. 他にやるべきこと, 作るべき・整理すべきコンテンツがあるのに全然手がついていません. 私にとって触りやすいレベル・内容で ホモトピーを含めたトポロジー・層の勉強もついでにできるのが非常にいいです. どうしても代数トポロジー・純代数・幾何の趣が強くなりがちなところでもあり, 解析面からアプローチできるのが本当に便利です.

ちなみに, 関数論から多少ずれますが, 集合・位相から代数トポロジー・微分幾何に触れるコンテンツとして, シンガー・ソープの本はよくまとまっています.

正直あまり読みやすいとは思えませんが, 多様体の基礎まで含めて要領よく書いてあります. 明示的にそうは書いていませんが, 結果的にファイバー束レベルでの接続・平行移動の話まで書いてあります. 読み込むのは大変ですが, 眺める分には楽しいでしょう.

関数論に話を戻すと, 関数論・リーマン面を勉強するといろいろできていいという話を具体的に書いてあるのは, 例えば以前も紹介した次の本です.

これも出たときに買うだけ買っていまだにまともに読んでいないのですが, 目次から伺える内容自体は最高です. 確か圏の部分がかなりイレギュラーな書き方をしているとか何とか見かけた気はしますが, 数学のプロになるわけでもないならそんなに気にしなくてもいいとは思います.

同じ著者の線型代数・微分積分と集合・位相の本の続きという水準のはずなので, その基礎知識がないと厳しいとは思います.

ちなみにリーマン面というか被覆空間論でもガロア被覆という話があり, 実際にデッキ変換群と有理関数体の拡大という形で関係するので, 数学原論でガロア理論があるのもおかしい話ではありません.

あと本にもよる部分ですが, 関数論・リーマン面方面からあっさり多様体に入門してみるのはひとつお勧めのルートです. ふつうに多様体論の本を読むと, どうしても実多様体論に関するこってりした話が続きます. それを使っていろいろやるのは楽しいのですが, 「一度はやっておくべきだがそう何度もやりたくない」系の面白くない話が続く部分があります. リーマン面でさらりと複素多様体に触れると, いわゆるベクトル場がどうこうといった面倒なことが起きにくくなります. ベクトル場を抜きに直接微分形式を定式化する方法があり, それで微分形式を議論している本もあります. 複素一変数なので記号も重たくならない利点があります.

いいことづくめなのでぜひリーマン面をやりましょう. 私はまだ勉強できていませんが, ディーバー方程式など, ゴリゴリの解析学・偏微分方程式を使っていろいろやる手法もあり, 代数・幾何・解析のいろいろな視点から勉強でき, それら自体の勉強にもなるというお得なことしかない分野です.

ちなみに先程のシンガー・ソープは, 多様体論の面倒なところを最小限にして応用まで見せてくれるのもいいところです. 読みやすければもっといいのですが.

もう少し具体的な幾何系の勉強のヒント的な話をする予定だったのですが, リーマン面の話などが長引いてしまったので今回はこのくらいにしましょう. 次はもっときちんと幾何の話をする予定です.

ではまたメールします.

2021-01-10 証明を計算問題にする/相転移プロダクション

今週のコンテンツ

今週の公開コンテンツとしてはこの記事/動画だけです. 裏で猛スピードで幾何系のノート作りをしつつ, 数学・物理のための語学という感じのコンテンツを作っています. 数学方面はしばらくノート整理で動けない (楽しくて他が手につかない) です.

ちなみにクローズドの統計勉強会では黒木さんのコンテンツを勉強しつつ, これらをプログラミングも込めて順番に勉強していけるように整理・整備しています.

雑に勉強していたのを気合入れてやりはじめたので, 少しずつ細部の様子が見えてきました. 自分の勉強の記録にもなるので, 焦らずきっちり整理していこうと思っています.

証明を計算問題にする

つい先程, Twitter で森の未知さん (若手の数学者) とちょっとした会話をしました. 次のツイート周辺の会話です.

ちょっと進んだ数学の分野の馬鹿みたいな計算練習がやりたい。

実際こういう問題を作る必要は教員として感じるんですよね。 例えば写像の逆像の計算問題とか。

いま私が欲しいというか作りたいと思っているのは、色々な定理の証明それ自体をいわゆる論理の部分を問題の小問で分解して、計算をさせるタイプの問題です。証明の流れを概観できる利点もあります。小さなclaimに分けるみたいな気分で。YouTubeに流せるミニコンテンツを作ろうという気分もあります。

最近途切れている YouTue での線型代数や力学のコンテンツはここへの布石でもあります.

とりあえず細かいところは気にせずゴリゴリ計算するだけの動画にしかなっていませんが, これだと 1 コンテンツ・1 動画が長くなりすぎることもわかりました. 見るのも作るのも大変なので自動小分け法としても上のアプローチは大事と思っています.

森の未知さんのコメントにもあるように, 集合や位相を計算ドリルの手法で勉強するというのは大事です. 新しく問題それ自体を作るのはけっこう大変ですが, 証明それ自体を計算問題化するのなら上にいったように小さな claim をつむげばいいので大分楽になります.

どの分野でも適当な計算練習が必要です. 数学は証明というか論理が強く出がちで一般には計算が軽視されている雰囲気を感じます. しかし代数や幾何であっても一定量の計算は絶対に必要です. ホモロジー代数の可換図式の処理なども「計算」です.

すぐにはコンテンツは作れませんが, もしあなたが数学の本を読むのに苦労しているのなら, 証明を計算に分割できるように工夫するとだいぶ読みやすくなると思います. ぜひ工夫してみてください. いつになるかわかりませんが, いつかはやる予定です.

いっそどなたかやってくれないでしょうか?

幾何の勉強について

最近は語学コンテンツ作成と幾何ノートの整理の合間にちょこちょこ統計をやるという感じの生活です. 大分前から超弦理論や一般相対性理論での必要性からか, 幾何を勉強してみたい人が一定数います. どういう感じで作っていくといいかを考えるため, 2年くらい雑な勉強をしながら方向性を探っていました.

もういい加減四の五の言わずに具体的にノートを作りつつがっつり勉強しようと思って作りはじめたら, 当然のように今までより遥かに理解が深まってきたので, 2年をドブに捨ててしまった気分になっています.

それはそれとして大雑把に掴んできた気分はあるので, 具体的な話と絡めながら幾何の勉強をしたい人向けのコメントをしようと思います. 基本路線として, 私は学部が物理, 修士で解析学専攻なので, 数学的背景としては一般理工系の人達と共通部分が多く, もしあなたが幾何の勉強をしてみたいと思っているなら参考になるはずです.

結論から言うとがんばって関数論をやろうという方向でいま考えています. これに向けて話を展開させます.

まず線型代数と微分積分を軸に計算練習しながら幾何に挑むなら, 小林昭七『曲線と曲面の微分幾何』に代表される古典的な微分幾何でのアプローチはあると思います. 最近, 工学でも幾何の需要が高まっているとかいう話もありますし, とりあえず幾何らしい話はできます.

ただ, 数学としての微分幾何との距離が恐ろしく遠いように感じます. リーマン幾何につなぐ構成の本もありますが, あまり接続の仕方がよくないように思います. いわゆる第1基本形式 (リーマン計量) と, それを E,F,G などで書くまさしく古典的なスタイルがあり, 記号として計量の記号は導入してはいますが, 何かこうリーマン幾何や多様体論とのつながりが私にはうまく感じ取れない本ばかりという気分です.

逆にベクトル束の微分幾何・リーマン幾何の一般論をある程度やったあと, 曲面論に落としてくる流れでようやく古典的な曲面論の幾何がようやく掴めたくらいの気分があります. これはそもそも私は幾何系の感覚が薄く弱い上, 本腰を入れて勉強をはじめたのがベクトル束からだから, という異様な勉強順序が理由だと思います. 何にせよ微分積分と線型代数の計算練習に幾何的な直観を載せるにはいいと思うのですが, 多様体論などのいわゆる現代数学としての幾何につなげるのは私には厳しかったというのがあります. あとリーマン幾何などをやっていると, 多様体の位相と曲率などで基本群が突如出てきて, この辺の勉強が雑なままなので結局気分を掴み切れない部分がまだあります.

そこで何を選んだかと言えば関数論です. 多変数だと層のコホモロジーの母胎でさえある分野ですし, その中でネーター環といった可換環論の基礎的な部分も出てきます. 解析学としてもディーバー方程式などのアプローチがあり, 代数・幾何・解析が多方面からモチベーション豊かに勉強できてやはり本当にいいとつくづく感じています. 実際, 次のノート作りのターゲットはここです.

次という以上, いまは違うところをやっています. それが何かというとリーマン面, つまり1変数の関数論です. リーマン面自体が超弦理論などで本当に出てくるというのもあります. しかしそれ以上に重視しているポイントがあります.

まず物理学科では留数定理などの計算の道具として勉強しますし, 関数論ユーザーとして一定の土地勘があります. 実際問題として関数論がカリキュラムに組み込まれた理工系の学科は少ないように思いますが, ふつうの微分積分・ベクトル解析からの発展として勉強しやすい分野とは思います.

他には解析接続のような, よく聞く格好よさげな話の終着点として出てくる分野であることです. 私も複素多様体のような方面の方がかえってきちんと勉強する機会が多かったくらいで, 実はあまり真面目に勉強しきれていません. そしてこの筋を追いかけると, 多変数と違ってホモトピーの基本的な話を総ざらいする必要が出てきます. ホモロジー・コホモロジーはいたるところで出てきますが, ホモトピーが私にとって解析学と絡めて気分が掴みやすい形で出てくるところがいまだにわかりません. その数少ないというか唯一の分野です. 関数論なのでコホモロジーは当然のように出てきます. その意味で解析学からの位相幾何入門としてもかなりすぐれた分野なのではないかと見ていて, その検証のために本腰を入れた勉強をはじめたところです.

他にもジュリア集合やら何やら複素力学系との関係もありますし, これはプログラミング・お絵描きと絡めて遊んでみたいテーマです. 代数曲線論として代数幾何への入門として機能する部分もあります. さらにリーマン面自体いまでも研究されているほど汲めども尽きぬ分野です. 楕円関数論などの議論もあり, 単品でも面白くこれまた代数幾何入門としても機能するテーマがあります. これだけでも一生遊べる分野です. 複素領域での常微分方程式論といったテーマもあります. いい加減きちんとアタックするべきだろうと思い, 手始めにふつうにリーマン面を基礎から勉強しているのが今のフェーズです.

本当は幾何系の話をもっといろいろ書こうと思っていたのですが, リーマン面への導入だけで尋常ではないボリュームになってしまいました. 幾何系の勉強のヒント話は来週も続ける予定です.

ではまたメールします.

2021-01-01 数体の素元星座定理/理工系の総合語学・リベラルアーツ/相転移プロダクション

数体の素元星座定理

細かいことは何もわかっていませんが, とりあえず数学情報を共有します.

【ご報告】 あの定理に出会い、憧れてから十余年。 博士号取得後、あの定理に真剣に向き合い始めてから約四年。 この東北・仙台の地における我々の仕事について、 ようやく一つの形にできたことをここに報告致します。

Green-Taoの定理を有理数体の定理と見た際に一般の数体に拡張可能かという問題に関し、Terence TaoがGauss数体の場合を2006年に証明しました。Taoは一般の数体の場合にも成立すると予想し、少なくとも整数環がUFDかつ単数群が有限群(10個しかない)の場合には証明できるだろうと予想していました。 これに対し、我々はTerence Taoの予想を全ての数体に対して精密な形で解決しました。名付けて「数体の素元星座定理」

フィールズ賞の業績にもなったグリーン-タオの定理の拡張が証明された, という話です. もちろん, まだプレプリントを出しただけなので, 数学者集団の厳しいチェックに通るかどうかという部分はあります.

グリーン-タオの定理はフェルマーの最終定理よろしく, 「中高生でも意味はわかるが証明が破滅的に難しい」タイプの定理です. そしてグリーン-タオの何が面白いのかいまだによくわかっていませんが, 関さんの話なので面白いことは絶対に間違いないと思っています. 新年早々景気のいい話でもあり, とりあえずシェアしておきます.

今年の目標: 「理工系の総合語学・リベラルアーツ」を進める

11-12 月, 毎週の怒涛の出張対応で生活習慣が破壞され, ペースが掴めずにメルマガも出せていませんでした. 今月以降も仕事が忙しくなりそうでどうなるかわかりません. YouTube 動画など日々の形のコンテンツをどこまで出せるか微妙ですが, 裏では方向性を決めてコンテンツを作り続けています.

いくつかオンラインの勉強会をやっていて, それは強制的に半公開になるので少なくともそこでの成果は外に出せると思います.

ようやく統計学に少し慣れてきたので, 統計学・機械学習系の勉強会ではベイズ統計とそのプログラミングを, 黒木さんのツイートや資料を整理するところからはじめていこうと思っています.

中高数学 + Python 勉強会はそのコンテンツ自体のブラッシュアップと, これの Julia 化を目指してやっていく予定です. 上の黒木さんの統計コンテンツの整理で Julia に触れるので, それと並行して進めます.

あとは語学, 特に英語です. アインシュタインの相対性理論の原論文, 学部 2 年でのドイツ語原文へのアタック以来の再挑戦です. あのときは物理以前にドイツ語にやられましたが, 今回は私の語学力もあがっている上, 英語論文をメインに据えたので問題なく読み進められるでしょう. 1 回 1 時間で 1 文進むか進まないかという進捗なので, 他に参加してくれている人達が飽きてしまわないか問題があり, これを飽きさせずに継続させられるか, 私のコンテンツ力が試されています.

語学に関してこれはこれできちんと進めますが, これだとそこそこの量のコンテンツを読み切らないといけない問題があり, もっといい意味でつまみ食いできるコンテンツを作らないといけないこともわかったので, 並行して短期集中で勝手気ままにつまみ食いが許されるコンテンツ案を練っています.

ここまでの反省: ガチガチの数学・物理系コンテンツしかない

上記語学系コンテンツ案はいまコンテンツ自体を仮組しながらブラッシュアップしています. その中でも反省的に盛り込んでいるのは, 私が数学・物理方面でガチガチのコンテンツしか作れないことです.

ときどき「文系プログラマー」みたいな人からの相談を受けていて, 最近の機械学習関係で中高数学の内容+プログラミングでいいのがないかという話があります. ごく単純に機械学習という話なら, この辺は本以外にも Udemy での動画コンテンツなどいろいろなコンテンツが出ているので, わざわざ機械学習素人の私が作る必要はないと思っているところです.

ただ, 私が作った中高数学+プログラミングのコンテンツの案内ページにも書いたように, 私がほしかったタイプのコンテンツがいまだ完全に不足しています.

  • https://phasetr.com/mthlp1/

この方面はこれでまだいろいろ作る予定ですが, もう 1 つ根源的な問題があります.

数学に苦手意識を持つ人達の話を聞いていると, 「数学的思考」みたいなものに対する憧れみたいなものもかなりあるように思います. これをどうしようかと.

「数学的思考」とやらが何なのかもよくわかりませんが, 何かそれっぽいモノは見せたいという気分があります. 新型コロナで完全に止まって久しいものの, 地元の中高生向け理工系学習支援の中にも, 何というか, 「文系向け数学・数学的思考訓練」みたいな要素は取り入れたいと思っていました.

ただふつうに数学・物理でやってしまうと, 私はガチガチのものしか作れないのでどうしようかという問題に帰ってきます. それならそれらしきことを別のモノに載せてやればいいのですが, どうしたものかわからず, プログラミングと組み合わせてみたという気分もあります.

ここで文系自認の人なら, 数学よりもまだ語学の方が親和性があるだろうというのが 1 つ, プログラマーなら英語ドキュメントは読まないといけない機会はあるからそれと絡めればもう少し何とかなるのではないかというのが 1 つ, 一般理工系でも英語に触れる機会は多いのに理工系視点での語学コンテンツはあまりないのでそこを埋めたいのが 1 つ, という感じで「語学で学ぶ数学的思考」という気分のコンテンツを作ってみています.

最終的に理工系中高生に向けたコンテンツ展開を考えていますし, 数学・物理は理工系にとっての言語でもあります. そこで「理工系のための総合語学」という立て付けにして, しばらく数学・物理・プログラミング・英語 (語学) で進めてみようと思っています.

今年の数学: 幾何を充実させる

去年から勉強内容を本格的に幾何にシフトしました. 現代数学探険隊の案内ページでも 「指数定理などの幾何の重要な定理の勉強にここで紹介した解析学の知見は役に立つ」 と書いていましたが, 本当にきちんと役に立つ内容に仕上げられているのがわかって, 改めて安心しました.

とりあえず軸になる本を決めてそれを読み進めてノートを取りつつ, 自分のノートを見直してわかりにくい記述をゴリゴリ埋めていきつつ, 「この定理もほしい」「これは別のところに移動させたい」など構成を練っています.

微分幾何をメインに進めていますが, とにかく線型代数です. 関数解析方面とはまた違う線型代数・微分積分のミックスで, 線型代数がまるでわかっていない・使えていないことを痛感させられ, 厳しい気持ちになっています.

もう少しで微分幾何の基礎の基礎に関わる内容について一通りノートが取り終えられるので, 次はトポロジー関連の話を解析学からアタックする方向を考えています. 具体的には関数論をやります. 1 変数だとホモトピーもかなりよく出てきますし, 多変数なら層のコホロモジーでゴリゴリにコホモロジーができるはず. それ以外にもネーター環など可換環の基本的なところも必要になって, いろいろな所を解析学ベースで勉強できる利点がある分野です. 改めてきちんとノートを取って進める予定です.

多様体論のノートは作りかけで止まっているので, それもじっくり進めようと思っています. ホイットニーの定理やらなめらかな三角形分割やら調和積分やら, 基本的な定理の証明がまとまった本がなく, 本当にいらついています. ド・ラームの本にホイットニーは載っていて, 捩形式の議論もあればカレントによる調和積分もあるものの, 何か読みにくくて放置したままとかいう状況で, 多様体のノート作りをしばらく放棄していました. コンテンツ公開するときにこれでは困るので, まだしばらく幾何系のコンテンツが公開しにくい状況です.

いま整備しているのは微分幾何でもベクトル束を前面にゴリゴリに押し出した記述なので, もっと他のコンテンツを整備しないと, という気分です.

ちなみに YouTube でしばらく線型代数系のコンテンツを集中投下していたのは これで線型代数の整理が必要になったその成果です.

超弦理論や指数定理に興味があるという人がときどきいます. そこではやはり微分幾何が基本的な道具です. 先々まで行けば他にもいろいろありはしますが, 少なくとも私が把握できている素朴なレベルの指数定理では, 最低限, 私と同レベルで線型代数が制御できないとどうにもなりません. ぜひ線型代数をゴリゴリとやってください. 多様体の基礎がない状況でどこまでできるかは微妙なところですが, ベクトル束を勉強するといい感じで必要な線型代数の知見やレベルがわかります.

多様体の基礎から調和積分まで, 過剰な一般化がなくベクトル束もきちんと書いてある本として, 北原・河上の『調和積分論』を勧めておきます.

私はいったんディラック作用素と楕円型方程式の解析からのノートを作ったのですが, この本は多様体の基礎からはじめて, 熱方程式のアプローチで調和積分にアタックしています. 熱方程式からの調和積分ノートを作るときのために参考文献としてストックしてあって, なかなかよさそうです. 誰か読んでくれるならオンライン勉強会をやってもいいくらいです.

あとは解析学から入れる幾何としてモース理論もやろうと思って幾星霜です. 有名なミルナーの本もある程度読んだことがあるのですが, いくつかの命題の証明が当時の文献に丸投げされている箇所があり, 「そんなものが手に入るか」と思って放り投げた記憶があります. 幾何の本はこんなのばかりでどう勉強しろというのかと思っていて, それが現代数学探険隊を作りはじめたモチベーションの 1 つでもあります.

ちなみにモース理論は微分積分, 特に微分をやっていると何故か幾何がわかるといういい話です. もう少し具体的に言うと, 高校で散々やった導関数の増減表からのお絵描きを激烈にハードにやると, それできちんとグラフの概形よろしく多様体の情報が取れることを示す理論です.

一応モース理論も文献を 2 冊紹介しておきます. 幾何の人に教えてもらった本でかなり有名な本のようです.

後者はフレアーホモロジーから触発されたという理論構成で, ソボレフ空間などをゴリゴリ使います. これを読んだときソボレフ系の数学に対してまだまだ不慣れだったので, 私には厳しい本でした. いまならがんばればもう少し読めるとは思いますが.

前者はミルナーの本をもっと丁寧にした本だと思えばいいでしょう. たぶん. CW 複体の基礎だけは仮定されていますが, CW 複体のホモロジーはきちんと書いてあります. 多様体の基礎はどうしても仮定されてしまっていますがそれは仕方ありません. 現代数学探険隊の解析学編, 幾何としては明らかに不足してはいるものの, 陰関数定理・逆写像定理と多様体論の関係について最低限触れた上で, ベクトル場と微分形式もできる限り多様体論との接続がいいように書いておいて本当によかったと思っています. 出せるコンテンツがいまだに全く何もないわけではないと言えるので.

いろいろやりたいことはあります. まずは線型代数含め, 関数論と幾何のための代数の整備みたいなあたりを YouTube に出そうとは思っています.

今年も地味に・地道にやっていきましょう.

ではまたメールします.