https://www.amazon.co.jp/dp/B00L0PDMK4/
もっとゴリっとやりたい人はそれぞれ適当な本を見繕ってください. 特に英語ならいくらでもネットに PDF が落ちています. ホモトピーについては私のノートもあるのですが, まだ公開できる精度にまで練り上がっていません.
リーマン面ではここにさらに関数論の解析学が絡んできます. この時点で代数・幾何・解析を総動員しなければならないことがわかります. ここではリーマン面それ自体の議論よりリーマン面の生まれに関わる解析接続の議論からはじめます. もしあなたがこれらの分野を未習なら, (解析学からの) モチベーションを保ちつつ勉強を進めるヒントにしてください.
本質的にコンパクト複素多様体が出てくる物理は超弦理論くらいしか知りませんし, 超弦理論も全く知らないのでそちら方面の話は何も書けません. ここでは解析接続がずっと気になっていた理由の一つとして, 私の専門である作用素論・作用素環論的な場の量子論の数理に関わる解析接続の応用を紹介します. 場の量子論・量子力学に関わる知見を多少仮定して進めます. これも必要なら現代数学探険隊を見てください. 多少は書いてあります.
ハミルトニアン $H$ と状態ベクトル $\Psi$, $\Phi$ に対して $f(z) = \langle \Psi, (H - z1)^{-1} \Phi \rangle$ を考えます. 面倒なのでハミルトニアンのスペクトルは実軸正の部分に一致するとすれば, $f$ の定義域は $D = \mathbb{C} \setminus [0, \infty)$ です. 定義によってこの $f$ は $D$ 上に特異点を持ちません. しかし適当な仮定のもとで, 実部が正の下半平面の領域から上半平面に向けて解析接続すると上半平面に特異点を持ちます. これがごく素朴なレーザーの原理と深く関係します.
物理的な設定をもう少し明確にしましょう. 特に非相対論的な水素原子と量子電磁場がカップルした系を考えます. 水素原子だけの系は実軸負の部分に固有値を持ちます. ふつうの量子力学では固有状態は安定な状態と言われています. つまり励起状態であるにも関わらず安定なのです. これは物理的にはあまり嬉しくありません. 励起状態が基底状態に落ちるにはエネルギーを吐き出す必要があります. 吐き出すべき先はもちろん量子電磁場で, 上で考えた系はこれをうまく取り込めているのです.
上半平面に解析接続したときに出てくる特異点の虚部は, 実軸負の部分にあった励起状態が準安定状態化したときの寿命の逆数です. 特異点の実部はもとの固有値を少しずれていて, このずれがラムシフトにあたります. 水素原子の挙動をもっと物理的に満足な形に持っていく努力の中で解析接続が出てきて, 実際に準安定状態の寿命やラムシフトともうまく整合しているのが面白いところです.
これを議論するとき, 準安定状態が出てくるところまで解析接続すればよく, 私が知る限りでは解析接続の最大領域を追いかけたりはしません. 物理的にはあまり意味がないとは思うのですが, それ以上に少し解析接続するだけでも論文レベルで 100 ページの激烈な難易度を誇るので数学的にはそこまでやり切れないことによります. 何にせよ解析接続が物理的に基本的な意味を持つ例ではあります.
ちなみに, 多変数の世界に行くとまた別の理由で多変数の解析接続が必要な局面は出てきます. 学部 4 年のときにアタックしたものの, あまりの難しさに挫折した議論でもあります. 挫折したままなので詳しく議論はできませんが, 少なくとも数理物理としては解析接続それ自体は基本的で重要な問題に連なることは改めて強調したいと思います.
大分長くなったので今日はこのくらいにしましょう. ではまたメールします.
この間のアインシュタインの原論文を多言語で読もうの会では, ようやく前文が終わって第 1 章に入りました.
もう軽く半年以上になっていますが, K さんも完全に多言語にはまってくれているようなので嬉しい限りです.
この間の勉強会で次のような話をしました.
具体的にはドイツ語や英語で die Newtonschen mechanischen Gleichungen のように「ニュートン (の形容詞形)」の先頭が大文字なのに, フランス語では newtoniennes と小文字だ, という話になり, ここでフランス語にはフランス語の事情があるので他の言語と同じように大文字になるとは限らないという話になりました. 形容詞もフランス語だとふつうは名詞の後ろにつきます.
もう少し一般化して, そして強めて言うと言語を学んだ分だけ世界の認識が変わるのです. 私のメルマガに来ているくらいの人なので理系の人の方が多いと思いますし, そういう人達からするとこの言葉にあまりピンと来ないかもしれません. あなたもそうかもしれません.
これについてはこう思ってください. 例えば物理のドップラー効果です. はじめてまともに勉強したのは中学だったか高校だったか忘れましたが, ドップラー効果を勉強したあとに救急車だか消防車だかパトカーだかのサイレンを聞いたとき, 「これがドップラー効果か!」と感動したのを覚えています. これまで何度となく聞いてきた音なのに, 音・現象に対する認識が一気に変わったのです.
最近強調しているように私はいま理系のための総合語学として数学・物理・プログラミング・ふつうの語学の四本柱を軸にしたコンテンツ・サービス展開をしようとしています. 昔私がドップラー効果を知って世界の認識が変わったように, 語学の知見でも世界認識が変わるのです.
実際, 私が習っている言語学者と街中を歩いていたとき, 「関根さん, あそこに書いてあるやつ, もう意味不明な文字列ではなく, まとまったフランス語に見えませんか?」と言われたことがあります. ゆるくであってもフランス語を勉強しはじめて一年くらい経っていて, 確かに今まで意味不明だったアルファベットの並びがこれまでとは違う意味を持つようになったのです.
言語にはいろいろな文化が詰まっています. これまた最近いろいろなところでよく書いているように, 語学としての物理や各プログラミング言語にもそれぞれの文化やコミュニティがあります. この辺をどううまく伝えていくか, 勉強会の中でいろいろ実験・見当しています.
今回はこんなところで. ではまたメールします.
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