2021-05-29

特異点解消の気分をもっと知りたい/相転移プロダクション

狭義の数学があまりできていない

最近語学ばかりであまり数学らしい数学ができていません. 「理系のためのリベラルアーツ・総合語学」の大目標もあり, 私の中では語学も数学枠ではあるのですが.

あと勉強ばかりでプログラミングもコンテンツが作れていません. 最近謎の Common Lisp 熱の高まりがあり, シコシコ勉強しています. 数学・物理まわりのプログラミングの観点からは, 情報量を見ても Julia の方がお得なのですが, そんな損得感情で動けたら苦労はしません. 困ったものです.

語学メルマガで少し書いたように, 理系人からは数学学習として, 文系人からは語学からの理系入門として, Wikipedia の数学・物理の解説ページを 3 ヶ月ワンテーマくらいで, いろいろ読むみたいな勉強会が楽しそうだし, コンテンツを作る上でも作りやすそう, みたいな知見がたまってきています.

今週のリーマン面

さて, 今週のリーマン面です. 少し被覆空間に入ります.

多項式・指数関数・対数関数が大事

改めて復習していてこの 3 つは大事だと痛感します. 多項式, もっと言えば単項式は前回の正規形定理でほぼ尽きます. こんな大事な定理はありません.

指数と対数に関しては, 累乗根関数と同じく, 極座標表示からの多価性問題は基本中の基本ですし, それをどう処理するかがことの発端だからでもあります.

そしてここがまさに被覆空間が直接出てくるところです.

指数関数の持ち上げと対数関数

整備中のノートの「分岐被覆・不分岐被覆の関数論」の節から記述を引いてきます.

リーマン面$X, Y$と非自明な正則写像$p \colon Y \to X$を取りましょう. 特に例として$Y = \mathbb{C}$, $X = \mathbb{C}times$として $p = \exp \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}times$とします.

このとき恒等写像$id \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}$は $\mathbb{C}^\times$上の多価の対数関数を誘導します. 何故かと言えば $b \in \mathbb{C}^\times$に対する集合$\exp^{-1} (b)$がまさに $b$の対数の値からなる集合だからです.

もっと具体的に $b = 1$としましょう. このとき $\exp^{-1} (1) = \twopii \bbZ$であり, 複素数$1$は全ての整数$n$に対して極座標で $1 = e^{\twopii n}$と書けるので, 確かに$\log 1 = \log e^{\twopii n} = \twopii n \in \exp^{-1}(1)$です.

上で書いた正則写像 $p = \exp$ は被覆写像で, $\mathbb{C}^{\times}$に対して$\mathbb{C}$は被覆空間です. これは $\mathbb{C}^{\times}$ を円周 $S^1$ に制限して, $\mathbb{C}$ には 3 次元的に円周の上下に巻き付く螺旋を割り当てれば, 円周に対する被覆空間としての螺旋が出てきます.

ここで被覆空間の持ち上げと解析接続的な意味での持ち上げの対応が出てきます. いろいろなところで言っているので, メルマガで書いたかあまり覚えていませんが, もしあなたが代数的な色彩が強くなる代数トポロジーや, 幾何的な色彩が強い被覆空間に馴染めないなら, この手の関数論・解析学に関わるところから勉強を進めるのもお勧めです.

理論を, コンテンツを作ろうと思うと, 代トポは代トポで整備してからとなりがちなので, 話の持って行き方は工夫しないといけませんが, モース理論も線型代数・微分積分からはじめて, ホモロジーに流せる道があります. もちろんコホモロジーならなおさら入口からダイレクトです.

関数論とホモトピーの場合, 複素平面上の議論が本当に本質的で, 絵にも描きやすいというか, 絵に描けるところだけいじっていてもかなり本質的という利点があります. 幾何がわかっていなさすぎるせいで, ここに切り込み切れずに 1 年くらい経っていますが, 何にせよ工夫のしがいがあるところです.

特異点解消への道

ここでふと特異点解消を思い出したので言及しておきます. はじめに書いておくと, 代数幾何は勉強していないと言い切った方が正確なくらいわかっていないので, おかしなことを言っている可能性の方が高いです. 識者がいらっしゃればぜひご指摘ください.

さて, 何で思い出したかというと, まさに被覆空間の構成, つまり円周の持ち上げとしての螺旋の構成です.

この持ち上げで面白いのは, 実一次元のコンパクト多様体である円周は二次元に埋め込まれていて, それの被覆空間である螺旋は実一次元の非コンパクト多様体で, 三次元に埋め込まれている点です.

前者の円周の二次元への埋め込みはともかく, 後者の螺旋の三次元の埋め込みとそこへの持ち上げがポイントです.

解析接続で問題だったのは, 極座標で複素数が$z = r e^{i n \theta + 2 \pi i n}$を持ち, $2 \pi i n$の分がいろいろな悪さをすること, その悪さを「解消」するために高次元に住む同じ次元の対象 (ここでは螺旋) に切り替えるところです.

この「次元は同じ実一次元で, 埋め込まれている空間の次元が上がっている」のが面白いと思っています. つまり二次元の円周は高次元空間である三次元空間からの射影で, 解析接続の視点からはそこから見たのが自然な姿, 真の姿なのだ, とも言えます.

特異点解消

私が知る限り, 特異点解消にも似たところがあります.

これは以前, 数論幾何の人から, 「特異点はこうぐわっと回すイメージ」といって, ジェスチャーとともにイメージ図が載っているページを教えてもらったところから来ています. そのページ自体は忘れてしまいましたが, 次のあたりがいまパッと探して出てきた私の想定です.

私の理解では, 高次元で滑らかが代数曲線を平面に射影すると特異性が出てしまっていて, それを平面側から見れば高次元に持ち上げて特異点解消した図です.

関数論では多価性という特異性を, 高次元空間に埋め込まれた複素一次元の連結な多様体であるリーマン面に持ち上げ, それで特異性を解消しているのではないか, そういう気分で眺めています.

この辺を調べていると改めて代数幾何も勉強したくなりますし, 関連する楕円関数などももっと突っ込んで勉強したくなります. 梅村本も買ってはあるものの積読状態です. 早く勉強したい.

それはそれとして, 代数幾何での特異点解消に関しておかしなところがあればぜひ教えてください. 本当に自信がありません.

あとこれまであまり書いてきませんでしたが, 間違いのご指摘含め, 感想はぜひ送ってください.

ではまたメールします.

なぜ多言語を扱うのか/相転移プロダクション 語学メルマガ

ロシア語の勉強をはじめました

最近改めてロシア語を本格的に勉強しはじめました. 東京外語大のサイトの記述がどうにもわかりづらく, 参考文献として載っていた「現代ロシア語文法」を買ってみました.

まだ雑に読み進めているだけですが, やはり P.106 にある次のような記述が身にしみます.

この本に書いてある表はきちんと覚えよう. 暗記を馬鹿にしてはいけない. 最終的には覚えるべきは覚えなければロシア語の上達は覚束ない.

「表を横に置いて調べながらでもいいのでは?」, と思う人もいるかもしれない. しかしそれでは無駄に時間がかかりすぎてしまい, かえって上達を阻害する. まずは覚えるべきを覚えてほしい.

なぜ多言語を扱うのか

このメルマガを取っている人の趣味がよくわかりませんが, 色々やり取りしていて, 改めてこの話題を書いておかないといけないと思い, サイトにも記述を追加しておきました.

興味があれば眺めておいてください. 個人的にはあくまでも数学・物理のためです.

アインシュタインの原論文を多言語で読もうの会に関するやり取り

今週も勉強会をやりました.

同じ語学コミュニティにいる文系出身の人が, 改めて文法を勉強したい, 特に複雑な構文の文を読むための訓練をしたいと言っていたので, まさにそれをやっている勉強会として資料・動画をシェアしました. 次のような感想をもらったので抜粋して紹介します.

先入観

  • その 1:相転移って何だろう? 理系の内容はムズカシソウ.
  • その 2:アインシュタイン難しそう.

実際:

  • 原文が読める.
  • 理系単語が意外と面白い (co-ordinates の複数の説明とか).
  • 英語の構造説明がわかりやすい.
  • こんなにたくさん多言語が出てくると思わなかった.

理系理系と構えすぎた. 勝手に難しいのだろうと慄いていたが楽しかった. アインシュタインが読めるのにも感動.

理系も面白いというのさえわかってしまえば, あとは日頃見る単語かどうかくらいで言語という括りでは同じだった. 逆に日頃見ない単語だからこそ新鮮だったり, 小難しいだろうと決めつけているものが案外読めてしまうんだ, そういう感動を誰かと分かち合いたい.

まだ最序盤で数学・物理の話があまりなく, 途中のかなり部分まで凝った話も出てこない事情はあるものの, 理系方面に苦手意識がある文系の人にも楽しんでもらえる要素があると知り, ちょっとほっとしました.

理系のための語学入門の裏として, 文系のための理系入門として機能させられないかとも思っているので, 見せ方・切り口を工夫すればもう少し何とかなるかもしれない, という具体的な感じが少し掴めました.

これもやり取りで話したのですが, ある程度のボリュームがある論文をごりっと読むのはつらいので, いろいろな数学・物理系の単語や概念に関する Wikipedia の英語記事を題材に, 3 ヶ月ワンテーマの勉強会を開く, みたいなことも並行して企画・実行したいと考えています.

これも最近勉強し直している音・発音の話をしようと思っていましたが, 大分長くなってきたので次回にしましょう.

ではまたメールします.