2021-09-25

数学・物理 つどい講演の補足: 「微分できない微分方程式の解」/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

今回は雑多なネタが多いです. 興味があるところだけ適当に拾い読みしてもらえれば.

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「読んだよ」だけでもいいのでぜひ感想をください. メルマガを書く励みになります. 最近感想を頂く機会が増えてきたので素直に嬉しいです.

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プログラミング学習の再始動

ここ半年くらい中高数学・物理・語学との連携としてプログラミングで遊ぶ方向を模索しています. とにかく計算をしようぜ! という一つの方向性として競プロが面白いと思っているのですが, ちょっと凝った問題を解こうと思うとデータ構造またはアルゴリズムの知識が必要で, もういい加減きちんとやらねばと思ってどうすれば自分が楽しんで勉強できるかも含めてここ数ヶ月苦闘しています.

そしてようやく, いわゆる命令型の言語 (?) での勉強がつらいこと, もっと正確に言えば Haskell で書かれた本だと勉強が続けられることを発見したというか認めました. 私にとっては何をやっているか見やすい言語・書き方のようです. Haskell だと実行が面倒で, エディタの支援まで含めて, fsx で書いたコードを REPL に流し込んでパチパチ実行できる F# がお気に入りなのですが, F# で直接書いてくれている本がないため, がんばって Haskell でやる決意を固めました. Haskell だとたまに (F# にはない) 型クラスを使って書かれた本などもあり, プログラミングに関して雑魚なことこの上ない私には厳しいのですが, この辺が腹を括るポイントです.

話は変わりますが, 語学学習に関連して自然言語で「英語はどうにも肌は合わないがフランス語はすごく肌に合う」, 「『英語が駄目なのに他の言語なんて』と思わず他の言語に触れてみてほしい」という人を見かけます. プログラミング言語なら好みの言語はよくある話なので, 自然言語でもそうなのかと面白かった記憶があります.

あとこれを逆に回すのも大事だと思っています. 理工系だと英語は大事と言われていますが, 自然言語でも複数の自然言語に触れるのは大事なのではないかと. 相対論の勉強会でも科学雑誌を読む会でも少なくともラテン語・ギリシャ語の話はちょこちょこ出していますが, この二言語くらいはもうちょっとやっても罰はあたらないのでしょうか.

そしてこれらの言語, 数学や自然科学関係の文献も残っているはずなのにとかく文学関係の文献講読ネタしかないので, 理系向けにカスタムした何かをやらないといけないとも思っています.

とにかくやりたいことがたくさんあります. 数学でもプログラミングに絡めて数理論理系のネタも, 計算に関係するネタも, 九大の横山俊一さんがやっている計算機数論のようなゴリゴリの数学と絡むネタももっと勉強して遊び倒したいです. 一つずつ潰していくしかありません.

つどい講演の補足: 「微分できない微分方程式の解」

補足用の情報はメルマガ読者にも参考になると思ったので, こちらにも書く形で公開回答を作ることにしました.

「理論物理学者に数学を教える上でのコツ」で質問に関して応えきれていなかった感があるのでいくつか補足します. 「微分できない微分方程式の解」に関して粘性解を上げましたが, いい感じの具体例がすぐに出てきませんでした. それに対して例えば小池茂昭, 粘性解が古典解になる時---Caffarelli の研究の紹介にコメントがあります. 冒頭に幾何光学で出てくるディリクレ条件つきのアイコナール方程式 $|Du| = 1$ in $\Omega$ が出てきて, これには古典解 (滑らかなふつうの解) はないこと, そして境界からの距離関数 $d(x) = \inf {|x-y| : y \in \partial \Omega }$が境界条件をみたす一意的な解で, しかも粘性解であることがコメントされています. 弱解といったキーワードも出ています

これ以外にも (一次元の) 波動方程式 $u_{tt} = v u_{xx}$ の一般解として知られている $f(x - vt) + g(x+vt)$ からもいろいろな変な解を叩き込めます. 実際にはこのPDFにもあるように, ダランベールの公式という形で知られています.

ここで形式的には $f$ や $g$ は微分可能でなくても, もっと言えば関数である必要さえありません. 少なくとも超関数の意味で波動方程式をみたせるからです. これは物理としてもそれなりに意味があります. 「関数」$f$ や $g$ としていわゆるパルス波も取れます. 特に単発パルスの極限としてディラックの $\delta$-関数を取ることもできます.

この手の (物理の) 議論の中で出てくる対象としてグリーン関数やグリーン作用素もあります. 例えば拡散方程式で初期値がディラックの $\delta$-関数になっている解を考えることがあり, 物理ではこの場合の解をグリーン関数と呼びます. これはリーマン幾何の基礎で重要な一里塚でもある調和積分論でも出てくるグリーン作用素と大まかには同じです.

いろいろな形で数学・物理を縦横無尽に駆け回るテーマとも関わるので, 念のため補足を入れました. 私の専門とも遠いところで講演直後にパッと思いついたことを書いただけなので, 実際にはさらに深く広い話があります. 解析でも幾何でも, 物理でも. このサイトの中にもいくつかネタを仕込んであるので, サイト内検索などを使って調べてみてください.

代数学の基本定理は「解析学」なしで証明できる?

Twitter で呟いたら魔法少女に教えてもらいました. 面白いと思う人もいるでしょうからメルマガでも紹介しておきます.

メモ: 統計学のモデル選択と物理の近似

細かいことは和すれたのですが, この間 Twitter を見ていて関連することを呟いていた人がいました. この感覚が適切なのかよくわかっていませんが, 統計学は統計学で数学・プログラミングで遊ぶネタとして採用したいのでメモしてあります.

「アホの子」向けの教育

元がはてなの記事でそこから取ったのでタイトルがアレですが, とりあえずこれで. 備忘録的に記録しておきます.

ジョーンズの追悼記事

去年フィールズ賞受賞者であるジョーンズが亡くなったのですが, それに関する追悼記事が AMS から出たようです. Twitter で流れて来たので流し読みしました.

竹崎先生や河東先生の寄稿もあります. 特に直接知っていて作用素環の歴史も知る竹崎先生の話は本当に面白いです.

I couldn't find the words to express my surprise and stopped my car on the road side to calm myself.

ジョーンズのフィールズ賞に関わる話を聞いたときのエピソードとして記事の中にあった文章です. 竹崎先生の興奮が伝わって面白いです. ぜひ竹崎先生のところだけでも読んでみてください. 私が大学院に入った頃にはもはや常識的な話で「そういうものか」という感じでしたが, 当時の衝撃と影響力の大きさ, 範囲の広さが尋常ではなかったことを改めて認識しました. 場の量子論・量子統計の話, そして作用素論の勉強ばかりで, 本来の専攻である作用素環らしい作用素環をろくに勉強していなかったこと, こういうときに少し勿体なかったなといつも思います. 院生のときは院生のときで面白いと思ったことを全力で勉強していて当時としては確かに余裕もなかったのですが. 今からでも遅くはないですし, この辺もいつかきちんと議論することを目論んでいます.

谷村省吾さんの量子力学の教科書が出るらしい

谷村省吾さんと言えば代数的量子論の本も近々 (?) 出るらしいですがとりあえず.

堀田さんの本, Twitter で寄せられた質問に対して当人が長々と Twitter で解説していますが, そういう応答がないとわからないような内容なわけで, 行間がすさまじすぎて当人の講義資料くらいにしか使えないのではないか感があります. その辺の行間が少ない感じの本になっているといいなと期待しています.

久し振りに見た河東講義

はじめの五つが河東泰之先生による2018年の作用素環と共形場理論の講義です. 在学期間中に河東先生の講義がなく, 河東先生の講義を聞いたのは大学院を出たあとだったのですが, 聞く限りでは河東先生は講義うまいですね. 一つ二時間で五本あるので気楽にお勧めできるボリュームではありませんが, 内容自体は面白いので興味がある人はぜひ見てみてください.

この分野, あまりにも難しすぎて本が読めず, 自分でも触れられるところから鍛えようと思って非相対論的場の量子論・構成的場の量子論の勉強をしていたことを思い出します. 構成的場の量子論よりも遥かに多彩な数学が交差していて代数的場の量子論は非常に面白い分野です.

鴨さんによる数学的帰納法に対する解説

上でも数理論理系の話をもっとやらなければと書いていますが, こういうところからも数理論理的な視点や議論に発展するようですし, 情報系のガチガチのプログラミング言語の基礎といった本を眺めても自然数の扱いは重要なようですし, ずっと気になっているところです.

メイン

メモ

松原グリーン関数の解説

これも Twitter で流れてきました. グリーン関数・グリーン作用素は物理でも数学でもいろいろなところで出てきます. 幾何でもリーマン幾何の基礎理論の一つ, 調和積分論・ホッジの定理で重要な対象です. ここでは物性での場の量子論の視点からグリーン関数が議論されていて参考になります.

特に次の記述は場の量子論・物性らしいコメントで面白いです.

グリーン関数のイメージ.平衡状態に粒子をひとつ加え,その後粒子を一つ取り除いて平衡状態に戻すまでの「擾乱の伝播」を表す.

語学 『ファインマン物理学』のオーディオが公開された/相転移プロダクション

今回の内容

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『ファインマン物理学』のオーディオが公開された

リスニングはもちろんのこと, スピーキング・ライティングの修行にも使えそうです. 最近プログラミング関係の調査・勉強で語学が疎かになっているので, 仕切り直しと勉強を楽しむためにこれを使ってみようかと思っています.

再帰動詞とサンスクリット

この間聞いたところによると, サンスクリットでは目的語は欲望の対象で, 動詞はその欲望の解消手段と捉えるのだそうです. 再帰動詞は自分自身に欲望が向かうという視点で捉えた呼び方と捉えられ, ヨーロッパの言葉に深く刻み込まれているとか何とか. ちなみにフランス語だと再帰動詞を代名動詞と言います.

再帰と言われると私はやはり数学とプログラミングを思い出します. 再帰的な定義, 再帰的なデータ構造など, 根本的なところでよく出てくる概念で数理論理・計算機科学で非常に重要な概念です. 何だかんだ言って数学・プログラミングは西洋で生まれ発展したので, 西洋の言葉・文化がここにも反映しているのかもしれません. いわゆる関数型言語の入門ではよく強調されるものの, 実際にはそれ程使われないとも良く言われます. 競技プログラミングで遊んでいると割とよく使うように思います.

いまの私の習熟度で脳死で競プロのコードを書くとすぐ再帰になります. ちなみにループの代わりに使います.

いまデータ構造とアルゴリズムをシコシコ勉強していますが, 関数型言語というか型が強い言語, 特に Haskell は基本的なデータ構造はよく再帰的に書けます. これが状況をすっきり表してくれて私には本当にしっくりきます.

パフォーマンスを求めるなら, そもそも C なり何なりで書くべきでしょうからまた話は変わりますが, 少なくともデータ構造とアルゴリズムを勉強するときは Haskell 便利だと思います. 最近 Lisp でのデータ構造とアルゴリズムの本が (はじめて?) 出たそうで買って読んでいるのですが, これはこれで面白いものの Haskell ほどデータ構造が見やすくありません. 理解を深めるためにいろいろな言語で実装を見てみる分にはいいかもしれませんが, 初学で様子を掴むにはやはり Haskell がいいのではないかと思います.

私のお気に入りは F# なので F# 版の書き換えもやろうと思って, ここでいろいろやっていました. しばらくさぼっていたのですが, プログラミングも本格始動しようと思っていまリハビリ中です.

フランス語で遊ぼう

venir

前回の aller (行く) と対になる動詞で「来る」の意味です. 昔の言葉は「行く」と「来る」の区別がなかったようで, 同じ単語で「行く」と「来る」両方の意味があります. 実際ロシア語などは古い形をよく残していてどちらもидти, ехатьを使います.

語源はやはりラテン語で venīre (veniō) です. フランス語内でも advenir など跳ねる言葉があり, 見てわかるように英語にも adventure としてそのままの関連語があります. これはフランス語からわかるように ad + venir と分解できます. 相対論でも出て来て驚いたのですが, event も ex + venir と分解できるフランス語・ラテン語由来の言葉です. ついでに prevent もフランス語の prévenir に由来し, ラテン語 praevenīre (praeveniō) に由来します.

用法の上でも aller と比較するのが有効なようで, 「来る」という中心的な意味から, 英語のように「出身や産地, モノの由来」を表します. 他にも英語と同じく話し手がいる場所, 話し手が行く場所に「来る」ときにも使うため, 日本語としては「行く」と訳すべきときもあります.

aller+inf. が「---しに行く」を意味するように, venir+inf. が「---しに来る」を意味します. さらに aller で近接未来が作れるように, venir は近接過去を作ります. ただ aller と違って venir de + inf. の形で, 「たった今---したところだ」の意味です.

他にもモノを主語にして, 時期や出来事が到達する・生じる, 感情や生理現象が起こる, 考えが浮かぶといった用法もあります.

英語と同じく基本的な動詞として異様な活用をします. 過去分詞は venu, 現在分詞は venant で, 現在形は次のように活用します.

人称 単数 複数
一人称 je viens nous venons
二人称 tu viens vous venez
三人称 il vient ils viennent