2021-12-18

数学・物理 具体例で遊ぼう/相転移プロダクション

何かいろいろあって一月メルマガを書いていませんでした. 他にもいろいろ止めていたため今週から少しずつ復活させます.

今回のテーマ

式を含むこともよくあるため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

感想をください

「読んだよ」だけでもいいのでぜひ感想をください. メルマガを書く励みになります. 最近感想を頂く機会が増えてきたので素直に嬉しいです.

メルマガへの返信でも構いませんし, 次のアンケートフォームへの回答でも構いません.

ではまたメールします.

超関数微分と超準解析

魔法少女とのやり取りです.

超関数微分しろ

超準解析での(ふつうの関数のふつうの)微分、超関数微分をどの程度含んでいるのでしょうか。まだそこまで進みきっていないのですが、超準解析での関数は(一部?)超関数を含む、みたいなのを見かけた記憶があるので。

任意のSchwartz超関数がある超準的なC^∞関数(の積分作用素)で表せるという意味で,Schwartz超関数はぜんぶ含んでいます.普通の微分と超関数微分は「up to 積分」で一致する. あとColombeauの超関数環も超準的なC^∞関数(の同値類)として実現できる.その意味でColombeau超関数も含んでいる.

コロンボーの超関数を使って非線型偏微分方程式, 特にアインシュタイン方程式を考えるとかいう本があり, 非常に気になっています. 本をパラっと読んだだけであまり身についていないのですが, ネットで位相を定義していて, なかなかえげつない空間が出てきたのは覚えています.

超準解析も止めたままなので復活させたいところですが.

「全ての概念はKan拡張である」ペーパーバック化

特に圏論で有名で, 知っている人は知っているalg-d兄貴のサイトのPDFがペーパーバック化しました. 全部まとまって参照も丁寧になったそうで, これこそPDFでほしいですね. 有料でいいので.

「日本で少子化対策はなぜ失敗したのか」

Twitterで見かけて面白い記述があったPDfです. P.7から記述を一つ抜き出しておきます.

いろいろなところに応用できる・すべき考え方なのでしょう. 数学には数学のお作法があり, 物理には物理のお作法があります. さらにプログラミングでも言語ごとのお作法があります. それぞれのお作法をきちんと考えないとやはり適切な形で勉強・実践できません.

紆余曲折あっていまJuliaをぶっちぎりでCommon Lispを勉強しています. やはりマクロをきちんと勉強しないといけないのだろうとか, いろいろな気分があります. ただディスパッチ関連でCommon Lisp・ClojureとJuliaに共通のお作法があるようで, そういう部分は非常に勉強になっています.

WindowsのEmacsとJuliaのelispの相性が悪いようで, vscodeでJuliaを書いた方がJuliaを書く上では遥かに便利です. EmacsとCommon Lisp・Clojureの相性がよく, 当面これらに浮気しているような部分もあります.

上で書いたお作法的にJuliaはvscodeで書く方がよいのだろうといったことなども思うPDFでした. きちんとマッチする道具を使うべきなのでしょう. 単純に広義文章を書くエディタとしてEmacsを手になじませすぎたので, vscodeでプログラムを書いて気持ちよくないです. 慣れればいいだろうと思いつつ, その腰が重くなっています.

量子力学10講 補足ノート

以前少し紹介した谷村省吾さんの本に関して補足ノートが出ました. きちんと読み切れていないのですが, 自分用のメモも兼ねて紹介しておきます.

知らないふりゲーム

よく私は「知らないふりゲーム」と言っていますが、最近勉強している代数や初等整数論では今まで「数」だとか「演算」だとか素朴に考えてきたものを一旦取っ払う必要性があり、ここが結構大学数学を学ぶうえで初学者がしんどいところなんじゃないかと思っています. 例えば群論では、初歩的な定理として「単位元の一意性」がありますが、群の定義を学ぶ段階で「単位元は掛け算でいう1のようなもの」といった理解だけでは、証明で「その"1のようなもの"が2つ以上ある」と仮定するのすらも結構頭がこんがらがるんです(私だけかもですが). 必ずどこかで今まで慣れ親しんできた概念から離れてより抽象化する必要があり、それが「知らないふりゲーム」と言っているところのお気持ちです. 最小限の公理から整数の性質を示していく初等整数論も同様. (d|m, m|n⇒d|nとか直感的には当たり前だが、示すとなるときちんと定義に沿わなければならない)

これとはまた少し違うものの, 次のような工夫も大事です.

後ろ二つは幾何で日々実感しています. 私が幾何で苦しんでいる理由がまさに後ろ二者です.

熱力学学習への感想

以前も紹介したような気がしますが, 大事な内容なので改めて紹介します.

熱力学の難しさの一端は、他で鍛えて来た微分方程式の議論が全く使えないところにもある。極論、計算で議論が組めないと言ってもいいのだろう。あくまで物理、自然科学なので論理というわけでもなく、よくわからないが何故かそう、という経験事実に依拠しなければいけない。続 もちろん、力学でも何でも何故かこの現象はこの方程式に従う、という経験事実とそれに対する諦めはあったとはいえ、いわば数学的な装いと難しさに押されて物理に向き合いづらかったともいえるのだろう。物理の勉強なのか数学の勉強なのかいい意味でわかりづらかった。 その一方、熱力学は数学的なハードルがもはやかなり低くなっていて、直接的に物理に向き合えるし、向きわざるを得なくもなる。しかも使い慣れた数学的道具も使えない。その辺の巨大なギャップが厳しいとは思う。 あと、熱力学の数学的厳しさでよく聞くのが記号的にもわけのわからない偏微分の計算とかいう単純な記号運用上の話だったりするし、教科書書く人間はやる気あるのかとはよく思う。その非本質的な部分で悩む人が多く、過去自分もそうだったといっておきながら再生産する者がいる度し難さは許しがたい。

今年のノーベル賞に関連してパリージの場の理論の本がよいという話が出ていました. 目次を眺めたらイジングや統計力学と関係する話がたくさん盛り込まれているようで, 非常に面白そうな本です. 量子力学と合わせて, 熱力学・統計力学も改めて勉強し直したい分野です.

ちなみに原・田崎のイジング本も査読に参加して本に名前に載せてもらったくらい読み込んだものの, まだまだ血肉になっているとは言い難いです. これもパリージの場の理論の本と関係ある議論ですし, 再挑戦したい本です.

アンケートへのコメント

  • 数学史から入るやり方には関心があり、高瀬正仁氏の本を読んでみようと思います
  • 圧倒的偉人たちの列伝みたいな数学史はそれはそれで面白いですが、そういう過去の蓄積の上で現在があるということが地味に理解できるような本も読んでみたい

「今では一般化・抽象化されきって捉えどころのない概念も, 明確なモチベーションと具体例のもとに生まれていて, 発見当初の議論の方がわかりやすいことも多いのです. そしてその概念にどんな意義があるのか, 何を見えるようにしたのかは歴史を通じてようやくわかるからです.」 →この「具体例」に出会えるかどうかも運なのかなと思います。昨今どうしてもインターネットの構造やそこでの活動、デジタルなデータなどに目が行きがちですが、個人的にはそれだけでなく、もっと自然を観察したり人と話したりしたいという気持ちもあります

このページにも語学メルマガの内容を載せています. これは語学のある側面から数学・物理・プログラミング, 少なくともそれと共通する思考を身につけられないかと思って取り組んでいる内容です. プログラミングの勉強をしていると, 特に人によって何を楽しいと思うかが違うことを実感します. プログラミングでは「何か作るといい」とは言うものの, 私は何かアプリケーションを作るのには興味が持てません. ゲーム作成などもよくあるシューティングゲームなどにはそこまで興味が持てません. しかし数学・物理関連ならいくらでも遊べます. プログラミングはプログラミングは言語の話題なので, そうした視点からも何か遊べないかとのたうち回っています.

具体例で遊ぼう

量子力学のための線型代数とリー環系をいま整備しています. 線型代数, 特に二次正方行列は連立一次方程式から入れるので, 中学数学から無理やり突撃する対象として最近注目しています. 量子情報と関わる議論や堀田量子系の最近の量子力学でも二次正方行列で基本的な手法が身につけられますし, テンソル積としての四次正方行列まで行けばベルの不等式に挑めます.

幾何との絡みでリー群とその具体的な計算をゴリゴリ進めていました. そこで改めてリー環と合わせて勉強しています. 二次正方行列には複素数も埋め込まれていれば, 四元数も埋め込めます. さらに計算中心にリー群・リー環の面白い議論にも進めるので, 改めて勉強しつつ, 二次正方行列で遊び倒す・計算し倒す演習系コンテンツを整備しています. 年末・年始, そして来年の目標作りにもしてもらうべく, リリースの準備を急ピッチで進めています. 私自身の来年への布石でもあります.

最近リー群・リー環を勉強していて, 指数・対数の行列に関わる議論も割と面倒, もしくは面白い話題がたくさんあることを改めて気付いています. 例えば行列レベルで$\exp \circ \log A = A$を証明するのは割と面倒です. 特にテイラー展開で行列の指数・対数関数を定義したとき, この関係式を証明するにはある程度計算力が必要です. 実際にリー群の本を読んでいたら, これを実変数の関係式に帰着させて証明していました. それだと気に食わないので改めて級数展開と組み合わせでがんばって証明しようと思っています. これも計算系コンテンツに盛り込みたいところ. 計算系のコンテンツはもっと充実させたいですね.

計算と言えばプログラミングとのセットが重要です. JuliaまたはPythonでちょろっと計算させています. SymPyで厳密な計算また文字計算ができ, これが非常に役に立っています. 特に三次行列程度でもかなり面倒です. リー環をやっていると, もとが2-3次でも6-8次程度の行列も出てきてしまうので, プログラムを書いて計算させるご利益が増します.

数値計算的なところは機械学習などでいろいろなコンテンツがあります. しかし比較的低次で, リー群・リー環などと数式処理的なプログラミングと絡めたコンテンツはあまり見かけない (少なくともこの分野の素人である私には簡単に見つけられない)ため, がんばって自作しています.

先月程度まで一所懸命やっていたClojureでのsicmutilsは行列計算もあるようなので, マクロなどLisp系の学習も兼ねていっそもっとこれに注力する手もあるなと思っています. やりたいことがあまりにも多いです. 逆にやりたいことが多すぎて迷走しているくらいなので, もっと一点集中すべきな気もします.

今回の宿題

改めて問題演習系コンテンツを作ろうと思っているので, 試しにメルマガでも宿題を出してみます. 位相空間論の問題です. 要望が多ければ次回解答をつけるので, 興味があればぜひアンケートなり何なりで要望を挙げてください.

連続写像$f \colon X \to Y$と$X$のコンパクト集合$K_X$を取ります. 位相空間の一般論によって$f(K_X)$はコンパクトです. 逆に$K_Y \subset Y$がコンパクトなとき, $f^{-1}(K_Y)$はコンパクトでしょうか? 正しければ証明を, 間違っていれば反例を挙げてください.

このくらいの内容であっても, 位相空間論を勉強したてだと全くわからない人もいるでしょう. 一般論や命題の証明を考えるときにも具体例をさっと思いつけるかはとても大事ですし, そもそも一般論を理解する上でも適切な具体例の構成が重要です. その定理の典型的なカバー対象という概念さえあります. この辺もカバーするコンテンツが必要ですね.

語学 ポケモンと言語学/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

ここ最近メルマガも出せていませんでしたが, いろいろあって勉強会もありませんでした.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

感想をください

「読んだよ」だけでもいいのでぜひ感想をください. メルマガを書く励みになります.

メルマガへの返信でも構いませんし, 次のアンケートフォームへの回答でも構いません.

ではまたメールします.

ポケモンと言語学

まだ読み切れていないのですが, 面白そうな文献が紹介されていたので紹介しておきます.

『ポケモンの名付けにおける母音と有声阻害音の効果』という最高の論文を見つけてしまった。

ドイツ語で遊ぼう

以前書いたか忘れたので念のため書いておくと, この単語はドイツ語の頻度辞書の順番で書いています. 代名詞などいまの私にとって突っ込みづらい単語は省いています.

als

Wiktionaryによると古高ドイツ語also, alsō (as, like)に由来します. 英語のasもいろいろな用法があるようにドイツ語でもいろいろ意味・用法があります. when, while, asのようなところから, then, like (as), as if, butのような意味まであります.

wie

副詞としてhow, 接続詞としてasのような意味がある単語です.

基本的にドイツ語の方が古いので, 何故wieがhowになるかという話があります. まずWiktionaryによるとwieは中高ドイツ語wieに由来します. 他には二つの相互に関係がある形の単語への由来もあります. 一つは古高ドイツ語hwio, さらに古い形のhwēo, そしてゲルマン祖語の*hwaiwaです. もう一つは古高ドイツ語hwē, hwie, ゲルマン祖語*hwēです. 後者はゲルマン祖語*hwīの変種で, 英語のwhyやさらに古い具格の*hwaz, *hwat ("who, what")に由来します.

これを見るとわかる通り, wieはhwの単語に由来します. 英語でもwhatを「ホワット」のように最初にhの発音がある場合があります. なぜhがあるかと言えば上のような古い形がhwだからです. スペルが変わったにも関わらず発音に古い形が残っている面白い単語, または単語の系列です.

私達理工系は文献読解が主でスピーキングや発音を軽視しがちですが, 決して発音を馬鹿にしてはいけません. 発音にも理解のためのいろいろな鍵や歴史が潜んでいるからです. 実際wh-cluster reductionという現象があると聞いています.

フランス語で遊ぼう

rendre

基本的な意味の「返す・戻す」以外では直接目的語に置かれた人を形容詞の状態にする使い方で, 英語での第五文型のような使い方です. この用法ではよくモノが主語になります.

代名動詞のse rendreの意味は「---へ向かう・赴く」です.

Wiktionaryによると古フランス語rendre, 俗ラテン語*rendō, ラテン語reddōに由来します. ラテン語reddoはre-+dō ("give", donner)に分解できます. このdonnerはもちろん英語のドナーと同根です. フランス語, そして背後にあるラテン語を少し掘ると英語に出くわします. このチャンポン言語としての英語を知っておくと, それだけでも知識が広がります.

何度も言っているように, もしあなたが英語にしか興味がなくても, こうした基本単語だけでも多言語に触れておくと英語の勉強にもなります. ぜひあなた自身でもたくさん遊び倒してください. そして面白い知識や本などあればぜひ教えてください.