2021-12-31

数学・物理 2022年は例を計算し倒す/相転移プロダクション

今回のテーマ

年末年始の休暇に合わせてコンテンツを出すといって, 完全に年末になってしまいました. さらにいつもの土日に出せずにこんなタイミングです. 多少無理やりですが何とか年内に出せてよかったと思うことにします. コンテンツ案内は今回のラストに載せています.

式を含むこともよくあるため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

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「読んだよ」だけでもいいのでぜひ感想をください. メルマガを書く励みになります. 最近感想を頂く機会が増えてきたので素直に嬉しいです.

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ではまたメールします.

Wolfram Engine

先日プログラミングでの計算についてメルマガを書いたら, 「自分はこんなのを使っている」とWolfram Engineを教えてもらいました.

以前凝ったプログラムを書かずに簡単な文字計算や, 三次元を含めたグラフを描いてくれるサービスとしてWolframalphaを紹介したことがあります.

これも凄まじいサイトなので一つ紹介しておきます. 例えばトップページの「科学と技術」の「Physics」から遷移できる次のページが面白いです.

簡単なお絵描きをしたいだけならこれほど便利なサービスもそうありません.

この間書いたのは本格的なプログラミングに対する目標として, 数値計算・記号計算系のライブラリの理解を掲げる話はどうか, そして自分自身それをターゲットに勉強する話でした. かなり面倒ではあるものの, Webサービスを作るやらゲームを作る話よりよほど気合が入るテーマだからです.

それはそれとしてこれもきちんと中高生に紹介するべきなので, 備忘録込めて共有しました.

AlbeverioとHoegh-Krohn

Twitterで超準解析の話を時々魔法少女からリアクションをもらいます. 一つ論文を教えてもらったところ, AlbeverioとHoegh-Krohnの名前が出てきました. この人達は何者なのかと呟いたら次のコメントをもらいました.

AlbeverioとHoegh-Krohn、私の中では構成的場の量子論の人なのだが、超準解析的にはどういう人という認識なのだろうか。

Loebが超準解析を使った測度空間(Loeb測度空間)の構成を与え,Andersonがそれを使って確率解析への応用を始めた(Loeb?AndersonのBrown運動).AlbeverioとHoegh-Krohnはこの流れの上にあり,流体力学等の数理物理のモチベーションから超準確率解析の研究をやったひと,といった認識.

ありがとうございます。ごりごりの専門なので当然と言えば当然ですが、この人たちの仕事、前々から非常に気になっています。超準解析は小澤正直さんが量子測定などにも応用しているらしいので、もっときちんと遊びたい分野です。

超準解析も超準測度論に入ったところでいったん勉強停止中です.

ちなみに超準解析は非常に難しいです. 「超準解析をうまく使うと証明が短くなり簡略化される」話が有名です. これも魔法少女に教えてもらった話ですが, 竹内外史本になるように超準解析の基本構成は無視して公理的に進める取り組み方もあります.

しかしこの「うまく」が非常に曲者です. 超準宇宙のうち, 標準元(内的な元)と外的な元があり, 移行原理に関連して三つの集合族が出てきます. これをきちんと意識しつつ論理式を処理しないと簡単に破滅します. 詳しくは超準解析を勉強してもらうしかありませんが, これが本当に面倒です.

もう一つ大変なのが完備性の破壞です. 実数はただ一つの完備なアルキメデス順序体です. 超実数は実数の拡張概念ですが, 実数ではない存在にするために上記の性質がどこか壊れます. 特に壊れるのが完備性なのです. もちろん移行原理が通じる範囲では完備です.

この辺の繊細な使い分けが非常に大変なのが上のコメントで, そもそも完備性が破壞されるために関数解析で鍛えた感覚がいちいち止められてつらいのが第二点です. 実際, 超準ルベーグ積分論の主役は$*$-有限加法性です. このために慣れ親しんだ操作と直観がいちいち狂わされます.

私の大学院の指導教員でもある河東泰之先生は超準解析を使えるようですが, この何ともいえない感覚をどう処理しているのかとても気になっています. コンヌが作用素環にも超積などのアイデアを導入しているそうで, 自由確率論の文脈でも超積の言葉を聞いたことがあります. いま改めて作用素環と超準解析の話が気になっています.

公文と計算練習

来年の計画と密接に関係する話です.

公文公, 正論過ぎだろ.

ていねいに教えても, 力がつかないのはなぜ? 世間では, 「勉強ができるようになるには, ていねいに教えてもらうことが大切で, 先生の教え方が微に入り細をうがったものであれば成績が上がる」と思われているようですが, これは大きな誤解です. 学問は, 教わるだけでは身につかないのです. 公文公は各所で似たことを書いているけども、巧い説明を聞くよりも適度な問題で手を動かす方がずっと数学が身につくんだよな。 数学科が演習科目を伝統的に重視しているのもそのせい。

結局これよ。

創業者の公文公(くもんとおる)の思想が強烈すぎてヤバい。「何を教えるかではなく、何を教えないかが大切である」とか至高の名言感がある。

小学生の頃、「形式的な解き方を把握したらそれで良いではないか、ドリルは不要」と言って宿題をサボり、公文式を馬鹿にしていた。 しかし高校が厳しく、宿題をサボれずとにかく計算問題を解きまくる必要があり、計算機に徹した。 今、その時の「瞬時に得られる操作と計算結果」が支えになっている。 ほんとね、子どものころは何も考えずとにかく手を動かした方がいいよ。 公文式やっとけばよかったよほんとに… まあADHDでは集中してできなかっただろうけどね。

私も自分が教える立場になるまでは否定的だったんだけど、ゼミなんかで考えてる問題を微分積分や線形代数の単なる計算問題にまでようやく落とし込んだところでズッコケる学生さん達をたくさん見るうちに、程度の差こそあれ、アホみたいに計算練習しておくのは大事なんだなぁ、と思うようになった。

P85、森の未知さんが好きそうなことが書いてある。これ、最近プログラミングというかアルゴリズムの勉強をしようとしていてよく思う。何かプログラム書こうとして手が動かないし頭も動かない。よくできるプログラマーは事前調査や設計をしっかりやってから手を動かすみたいなのを見かけるが、あれは多分、その気になれば馬鹿みたいに手が動かせて片付けられる自信もあるからできるのだと思う。逆にとりあえず色々書いて遊んでから考えるとか何とか色々。私が数学何なりやるときも、頭動かす前にまず例を計算してみたりとか、逆に何か良い例がないか自体考えるとか色々やるが、まさにプログラミングでそれができない・していない。何せ素因数分解さえバグなくサクッとプログラム書ける自信がない。多分この辺なのだろうと目下非常に反省している。

計算力というと、京大の泉先生に対する河東先生の評を思い出す。「泉氏の特長はその類稀な計算力・剛腕にある」みたいなことを日本数学会の受賞の評価で書いていて、凄まじい計算を処理し切る剛腕の重要さを知った。

別の話として、幾何系の勉強をしていると痛感するが、基本的な計算でいちいちつまづく。計算をすらすらやり切れるだけのパワーがなく、同時に基本的な知識や定義も身についていないのを毎度痛感する。

いろいろな言い方や切り口はあります. 一つはやはり結城浩さんの数学ガールの言葉, 「例示は理解の試金石」でしょう. 具体例を出せるか, そして計算しきれるかは理解の試金石です. 解析学からすればハードな不等式処理という計算の完遂能力そのものが数学力であり, 数学の理解に直結しています. ホモロジー代数のような分野でもdiagram chasingに代表される広義の計算遂行能力は理解と直結しています.

プログラムを書くときでもプログラムを書き切るのは広義の計算力です. 特に解くべき問題をいろいろな制約の中で目的を到達できる精度で, 時間内に解き切るのは決定的に重要です. この辺の広義計算力涵養が私の来年の課題であり, 今回リリースするコンテンツです.

名誉の文化

面白かったので単純なメモです. 数学・プログラミング関連でも積読が溜まり続けていますが, この本も読書リストに突っ込んであります. 私がギリギリ何とか扱える範囲として, 数学・物理・プログラミング・語学と言っているだけで, 中高生に広く興味を持って遊び倒してほしいと思っている以上, 私も人文・社会学方面で広く遊び倒さないと嘘になってしまいます.

「復讐は何も生まないが、きっちり復讐する人間だという評判は将来の被害から私を守ってくれる。」というセリフは人間関係全てに通ずる金言だと思う。

これがあるために/これが必要な環境では,社会・文化レベルで,やられたらやりかえすタフで粗暴な「名誉の文化」が根付く, っていうのが,社会心理学や文化心理学で研究されています。 名誉の文化に関しては,この記事などどうぞ。 心理学ワールド 77号 特集 なめんなよ! 社会・文化 環境が生み出す名誉と暴力 石井 敬子(神戸大学) | 日本心理学会

こちらも紹介。 アメリカ南部には,「なめんなよ」といった,侮辱に暴力的に応じる名誉の文化があることを多面的に論証した名著です。お勧めです。 名誉と暴力: アメリカ南部の文化と心理

ちなみに,名誉の文化は戦争とも関係しています。 一例として,タフな男らしさを重視する名誉の文化では,戦士を賞賛していて,集団間紛争が多いよ,っていう私の研究です。 こちらもどうぞーNawata, K. (2020). GPIR論文 "A glorious warrior in war: Cross-cultural evidence of honor culture, social rewards for warriors, and intergroup conflict"

一般化への道

これは今回リリースするコンテンツとも関係する話です.

コンテンツ、あとで一般化やより良い議論をする時にはきちんと参照をつけたほうがいいというのを実感する。

具体例と計算を大量に載せていますが, それがどこにどうつながるかまだ書き切れていません. この辺の整備も今後の課題です.

逆に一般論パートで具体例をきちんと書くのも大事です. これも今後さらに充実させます.

ENERGEIAで毎日計算

ENERGEIAは以前案内した「オンライン部活」のサービスです.

2021-12にアプリ化したので, iPhone・Androidからさらにアクセスしやすくなりました. 来年からここで平日に自習会(もくもく会みたいなやつ?)を開こうと思っています. もしあなたが興味あれば, ぜひここに参加してください. いろいろなところで案内するのが面倒なので, 改めてここを使ってみる予定です.

コンテンツ案内: 現代数学探険隊 いろいろな例と計算編

ここまでいろいろ書いてきたように, 来年に向けての活動の布石として, 新たにコンテンツをリリースします.

詳しくは上記ページを参考にしてください. 案内ページがいま一つ練り切れていません. 購入にあたって何か疑問・質問があれば気軽に連絡をください. キャンペーン期間は年末・年始の休暇中にしようと思っていたのですが, リリース自体が年内ぎりぎりになってしまったので, 年始の一週間として2021-12-31~2022-01-08までをキャンペーン価格で提供します. それ以降は値上げするので, 興味がある方はいまのうちに買っておいてください.

来年は各方面から計算し倒す一年にしようと思っています. やろうやろうと思って2-3年は経ったテーマなので, 私自身楽しみです.

語学 2022年はアウトプット強化/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

感想をください

「読んだよ」だけでもいいのでぜひ感想をください. メルマガを書く励みになります.

メルマガへの返信でも構いませんし, 次のアンケートフォームへの回答でも構いません.

ではまたメールします.

2022年の動き

12月はいろいろあってメルマガもろくに書けず, 勉強会もできずで散々でした. その分, 最低限のタスクを明確にし, それを確実に回すための準備をしないと駄目なことを実感しました.

私にとっての語学は物理・数学・プログラミングとも直結しています. これらについてはこのページの上の方にいろいろ書きました. 興味があればそれを見てもらうことにして, ここでは語学に特化して書きます.

語学では英語の強化が目標です. 特にライティングとスピーキングです. ライティングは既存のコンテンツの英語化の形で進めます. 世の会話教材などは本当に続かないのがわかったので, 本格的に自作します.

スピーキングについては積極的に会話するというより, ライティング教材をしっかり音読する方向です. 勉強会でも「音は物理である」と言っていますし, やはり実際に発音しないとわからないこともあります.

あと, 細かいことは考えられていないのですが, 勉強会をもっと発展させたいとは思っています. これは英語だけだと面白くないので, 今まで通り独・仏・羅あたりは絡めて遊びたいですね. 相対論のコンテンツも数学・物理系補足を整備する予定です.

数学・物理系と違ってこちらは大分手短になってしまいました. 来年はまた地道な単語比較・学習コンテンツも書いていく予定です.