2022-03-12

数学・物理 コンピューターに教える教師になろう/相転移プロダクション

今回のテーマ

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コンピューターに教える教師になろう

いま作っているミニ講座に関連して次のようなツイートをしました.

収束やら数値計算が云々以前にまともに計算できる人自体激レア人材では。私が学部の頃の固体物理の講義を持っていた工学出身の表面物理の教員、講義でベクトルの内積をベクトルで割る荒技を披露していたくらいまともな計算概念で指す対象も違う。 これ、手計算なら何となくふんわりうまくいってしまうことがあるから是正されなかったのだろうが、それこそ数値計算しだした時にこの計算を実行しようとしたら破滅的なことになるから、数学学習にプログラミングをうまく組み込むの、数学科の数学学習にとっても本質的な気がしてきた。 型が強い言語にコンパイルエラーを吐いてもらいたくなる市民感覚的な話にもつながる。

素数判定の算数・数学・プログラミングのミニコンテンツの案内ページを作ってみた。 https://phasetr.com/lp/mpga01pd/ 今日適当につぶやいていたら、「コンピューターに教える教師になろう」的なコンテンツはもっと作った方がよさそうな気がしてきたのでもっとたくさん作りたい。

いま「今後の学習案内」といった後書き部分を作っている最中ですが, プログラミングコンテンツ部分はできました. もし興味があるならぜひ登録しておいてください.

プレプリント紹介: Shintaro Minagawa, Hayato Arai, Francesco Buscemi, von Neumann's information engine without the spectral theorem

今日読もうと思っていたら寝落ちしてしまってまだ読めていないのですが, 面白そうなのでメモがてらシェアします.

今は、量子論でもエントロピーを使って情報理論が研究されていますが、フォン・ノイマンが初めてエントロピーを量子論に導入したときは、古典論の情報理論さえもありませんでした。 ではどのようにエントロピーを導入したかというのが、『量子力学の数学的基礎』に載っている「半透膜の思考実験」です 彼の議論では、量子論の数学的な構造、すなわちヒルベルト空間の性質(とくにスペクトル分解)と、熱力学を利用しています。 我々の結果は、半透膜の思考実験をヒルベルト空間に頼らず操作的な記述で再構成し、「半透膜が存在すること」と「熱力学第二法則」を認めた時点で、 エントロピーについて、凹性のような情報理論的に重要な性質が、スペクトル分解を使わなくとも第二法則の帰結として導かれる、というものです。 ※正確には凸結合した状態に対してもエントロピーが定義できるという仮定がいります

自分が望む理解度に達していないものの, 学生の頃から熱力学は本当にお気に入りなので, そうしたところと関係がある議論は非常に興味があります.

あとはエントロピー. 概念上もいろいろあるのだとは思いますが, 豊富な数学的内容を持つ対象です. 例えば私の修士の頃のテーマである平衡状態の存在や作用素論・摂動論の枠でも関連する議論を使います. 次の論文で相対エントロピーやその議論でよく出てくる概念が出てきます.

他にも確率論では大偏差原理のレート関数としてエントロピーが出てきますし, 数学的に重要な役割を担う概念でもあります. 大偏差原理も統計力学の数理物理で重要な概念のようで, 勉強したいと思いつつ幾星霜です.

付録を見るとわかるように, 二次正方行列とそのテンソル積に関する議論もあります. 最近はリー群・リー環に特化していて量子情報関係の線型代数は手薄になっているものの, 例と計算編でのNielsen-Chuangの演習問題解答作りでもこうした計算をたくさんやっています. 最新の論文ベースでも大事な例の構成に使われているわけで, 有限次元の線型代数で遊び倒す意義がますます深まっています.

線型代数の勉強の進め方がわからなくて困っている方も多いでしょう. 特に物理や量子力学の興味があるなら, 一つの方向性として量子情報から入るのは非常にお勧めです. かなりの抽象論が展開されているものの, 線型代数のどんな議論がどこでどう使われているか知るには便利でしょう.

小澤正直さんといえば元々数理論理の方ですし, 超準解析の応用などもあって, そうした方面の勉強もしたいですが, 特に超準解析はいまストップ中です. これも以前紹介しましたが, 記述集合論を使って作用素論・作用素環の問題を考えるという話もあります.

コンヌが超準解析系のことをしていたことがあるようで, 超積の作用素環への導入はコンヌによると聞いたこともあります. 集合論・数理論理もこの視点から勉強をしたいと思いつつ, これも幾星霜. 少しずつやっていきましょう.

Maximaを使いはじめてみた

腐りにくい数学系プログラミングコンテンツのため, Maximaの調査をはじめることにしました. もちろん完全な安定は望むべくもありませんが, これはこれで恐ろしく長く使われているアプリケーションですし, 一定の意義があるだろうと. (Androidの)スマホアプリもあるようです.

wxMaximaがJupyterのような感じで, もっと言えばJupyter上でMaximaを使えるようにもなっているようです. シンプルなテキストによるバージョン管理がしたいので, どうするかいろいろ考えています. 例えばEmacsのmaxima-modeならMaximaのREPLにパチパチ流し込めるので, 私としてはこれが嬉しいのですが, (Windowsでのimaximaによる)TeX連携がうまくいっていません.

これのためにエディタの調整・調査で時間を使うのも馬鹿馬鹿しいと思う一方, これはこれで楽しくなってしまう病理もあります. この辺の調査で得られる経験値もあると言えばあるものの, 困ったものだとも思います.

コンピューターに教育する観点からは自分で簡単なライブラリを再発明することにもなりますし, もう一方のアルゴリズム学習・応用の観点からもMaximaのコードを調べたりするのも大事になりそうなので, いろいろな視点から調査を進める予定です.

今週の問題

相変わらずプログラミング系の調査・講座制作がメインになっていて最近はかなり緩めに進めています. 今週は一般化回転群として$\mathrm{SO}(n)$, $\mathrm{U}(n)$, $\mathrm{SU}(n)$, $\mathrm{Sp}(n)$の極大トーラスと中心の議論をしていました. ほぼ自明なトーラスが実際に極大トーラスで, 中心もほぼ自明です. この「ほぼ」自明のところで二重被覆という位相幾何的話題が出てきますし, 群構造との関連がある部分も面白い点です.

もう何度目かわかりませんが, 大事なことなので何度でも強調しましょう. 上記のプレプリント紹介で, 量子情報からの線型代数入門について改めてコメントしました. 線型代数からの位相空間論・位相幾何・多様体・代数入門として, リー群・リー環論を使うのも面白いアプローチです. リー群・リー環をある程度やっておけば, 対称空間・等質空間の幾何につなげることもできれば, 表現論への・からの広い数学への展開もあります. 線型代数はやればやっただけ数学それ自体への理解が深まる分野です.

現状このコーナーは線型代数の宣伝のようになっています. ぜひ積極的に日々の学習に取り入れてみてください.

例と計算編は私自身のためにも日々せっせと計算して更新しています. 購入された方はぜひ参考にしてください.

例と計算編は次のリンク先から購入できるので, 興味がある方はどうぞ.

語学 アインシュタインの相対性理論の原論文, ロシア語版タイトル/相転移プロダクション

今回の内容

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続ベラルーシのベラ

読者の方からコメントで教えてもらいました.

「ベラルーシ」の国名の由来は明らかではないが、ルーシの人々は13世紀から16世紀にかけてモンゴルの支配を受け(「モンゴルのルーシ侵攻」「タタールのくびき」参照)、ベラルーシの国名の由来である白ルーシ(英語版)の名前の由来をモンゴルに関連付ける説がいくつか挙げられている [3]。その際、モンゴル人が中国から学んだ文化である「方角を色で呼ぶ方法(五行思想)」をルーシに持ち込んだため、「赤ルーシ」(南部ルーシすなわち現在のウクライナ西部)、「白ルーシ」(西部ルーシすなわち現在のベラルーシ)、「黒ルーシ」(北部ルーシすなわち現在のモスクワ周辺)という名称が生まれ、そのうちの白ルーシ(ベラルーシ)が国名として残ったと言われている[3][4]。モンゴル系の国家で用いられたテュルク系の言語の影響を受けて生まれた、「自由な、支配から解放された」白ルーシと「隷属した」黒ルーシの呼称を起源とする説も存在する[3]。

最近のウクライナ情勢でもタタールの軛の話が出てきましたが, こんなところにもタタールの軛が出てくるとは, と驚いています.

禁止された文字列・発音

まず,なぜ という綴字がストレートに「アエロ」に対応しないのかについて解説します.一言でいえば,英語では「アエ」という音連鎖が許されないからです(身も蓋もないですが).なぜ特定の音連鎖が許されたり許されなかったりするか,というのはなかなかの難問です.例えば,日本語では「ん」は正規の音素なのに,なぜ語頭では現われてはいけないのかというのと同じ類いの問題です.このような問いに対しては,音韻論では「分布」なのだ,といって逃げるのが普通です・・・.

「よくわからないがとにかくそうなっている」系の話で, 物理なり何なりやっていても出くわすタイプの話です. 文法を筆頭に言語の世界にもいろいろな法則があり, 理工系にこそハマる世界観ではないかと思っていて, 語学を通じた理工系の視点入門に使えないかとずっと言っている部分です.

例えばイタリア語で皿をpiatteと言います. これは英語のplateに対応している単語です. 実はイタリア語でplの並びが許されていないからで, 英語(フランス語?)とイタリア語の単語比較に役立ちます. 似た単語にfiore (flower)があります. 「花の都フィレンツェ」を知っていればfioreとフィレンツェはつながりやすいでしょう.

本文で日本語で語頭に「ん」が来れない話がありました. 子供の頃, くにおくんのドッジボールでアフリカチームに「んじょも」がいたのを今でも覚えています. ちなみに2010年にフィールズ賞を取ったベトナム人のNgoさんも名前の先頭が「N」です. Wikipediaを見ると, ベトナム語はその表記にいろいろな歴史的経緯があるようです.

暗記が大事

ここまで英語・ドイツ語・フランス語・イタリア語・スペイン語・中国語あたりを雑にやってきて, ロシア語・アラビア語で改めて出会った問題があります. 単純な暗記量の問題です.

英語をある程度やってきたおかげで, ドイツ語・フランス語・イタリア語・スペイン語は何となく単語もわかりますし, ドイツ語やフランス語を雑にでもやっておいたおかげで, 活用も何となく共通で何となくわかります. 中国語もある程度漢字がわかるメリットがあります.

ただロシア語とアラビア語はそうもいきません. ロシア語は相対性理論の論文で勉強しているため, 専門用語がバリバリに共通語彙なのは面白いです. そもそもとして文字の暗記から入らないといけないハードルがあります. アラビア語の場合語頭系・語中系・語末系と同じ文字が最大三種類の形を持つので, それも厄介です. もちろんひらがな・カタカナ・漢字・ローマ字を持つ日本語よりは遥かにましだとは思いますが.

単語もさることながら, 文法というか各種活用も本当に暗記が面倒です. 手持ちのロシア語文法書に「暗記しなくても表を見ればいいという人はいるが, やはり暗記してしまった方がよい. 何より時間がかかってしょうがない. 暗記にも時間を取った方が最終的な学習時間が圧倒的に短くて済む」みたいなことが書いてありました. まずは楽しめる作業をしようと思って暗記は後回しにしていますが, 確かにいちいち見慣れない文字が詰まった活用表で調べるのは消耗が激しいため, さっさと暗記した方が最終的には楽なのだろうとも思います. そこまでロシア語をやり込む気もないため余計やる気が出ないのですが, それはそれです.

ちなみに, 数学でも何をどう覚えるかがやはり重要なテーマです. よく「理解こそが大事で暗記はいらない」のような極論を言う人もいますし, 理解が深まると形式的には暗記量が減るのも間違いありません. ただ, 語学のコンテンツを作るときに思い至った話として, 理解度測定に「どれだけ暗記が楽にできるようになったか」という指標の提案があります. 暗記がいらなくなるというより, 忘れたことを思い出すかのように暗記ができるようになります. 暗記作業そのものが楽になるのが理解の深まりと定義してもよいのではないかと思っています. 単純な暗記事項と思っていたらそれにきちんと意味を持たせられるようになれるというか.

例えばフランス語とイタリア語の男性名詞単数形に対する定冠詞はそれぞれle, ilで, これはラテン語のthisにあたる指示詞(?)illeの前半・後半を取った形になっています. なぜそうなったかと言われても困ります(言語学的な知見はあるかもしれないが, そこまで私に言語学の知見がない)が, ラテン語に由来があると言えばそれはそうなのは確かなようです.

ラテン語を知らないといけないではないかという話もある一方, ラテン語を知っていると統一的な視点が得られる(こともある)とは言えます. 知識が理解を呼び, 理解が知識を呼び, さらに探究心を刺激する例ではあると思っています. ラテン語は学術用語の母胎としての側面もあるため, ラテン語に帰着させるのには一定の意義があります.

こういうのをもっと積極的にやりたいと思って, いま語学を雑に幅広く勉強しています. そのうち語学ではなく言語学にも踏み込みたいです.

今週のロシア語: アインシュタインの相対性理論の原論文, ロシア語版タイトル

タイトルは以前紹介した気もするのですが, 再挑戦ということで改めてはじめから.

文構造

まずКは与格支配の前置詞でここでは英語のto・ドイツ語のzuにあたります. ЭЛЕКТРОДИНАМИКЕは女性名詞で原形はэлектродинамикаです. 特にе終わりなので与格か前置詞格で, ここでは前置詞кの支配下なので与格です. ТЕЛ(body)は中性名詞телоの複数形属格で, ДВИЖУЩИХСЯは不完全動詞двѝгаться (move)の現在分詞движущийсяの複数属格です. このтелの属格性はドイツ語と同じなのでドイツ語自体が直接的に参考になるでしょう.

まとめると次のように英訳できます.

単語