2022-03-19

数学・物理 数学を独学で勉強した人にありがちなこと/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むこともよくあるため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

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微分演算子に関わる議論

Twitterで見かけた量子力学の作用素論の話題に対していくつかコメントしたので, こちらにも転載しておきます.

量子力学の演算子の具体例として行列ってありなんだ(そこから…)

有限次元の線型空間は全て同型なので、適当な線型全単射(具体的には、演算子Aの固有関数を|n>として、をm,n成分に持つ行列)によって、固有関数に対応したベクトルを基底とした数ベクトル空間に飛ばして議論できるというのが背景にあります (有限次元なら微分演算子の空間だろうと使えます)

うぉぉ…線型空間の同型ってそこに生きてくるんですか… 微分演算子を含んでいてもその議論ってできるんですか…?

無限次元で微分演算子(作用素)を含んでいても適当な範囲でいろいろな議論があります。離散性を外れたところの議論で典型的なのは例えばスペクトル理論として知られています。新井朝雄先生の著書群にかなりの程度まとまっています。ボリュームはそこそこあります。 話が少しずれますが、量子力学と関係するところで微分作用素の固有値解析や作用素的な性質と物理との関係で出てくる多彩な議論があります。量子力学では作用素の固有値と観測値を関係させるわけですが、微分方程式を記述するタイプの微分作用素にも一定の物理が乗るべきです。 典型的には量子力学・電磁気学での特殊関数論とそこからの固有値・固有関数の議論があります。ここからさらに一般の微分方程式論に波及します。例えば境界条件の設定は物理と直結することになっているので、境界条件が変わると微分方程式に対応する微分作用素の数学的な性質にはねてほしくなります。 量子力学の(少し古い?)数理物理の典型的な課題の一つが作用素の自己共役性(エルミート性)の議論です。よく堀田さんが「その議論に何か意味がありますか?」みたいなことを言いますが、微分方程式が自然をよく近似する範囲では、逆に物理を反映した議論として数学的には重要です。 応用上問題になる(と数学サイドが思っている、または主張する)のは、数値計算または工学的な議論です。応用上、境界をはじめとして一部の情報しか数値計算に使えません。数学的には無限個情報が必要なところに有限個の情報しか使えないとも言えます。 具体的に何かはともかく、例えば初期条件・境界条件に対してセンシティブな系で精度が悪い情報しか取れない状況下でどれだけのことが言えるかは、工学的にも意味がある(可能性がある)議論です。そして「鉄の製造現場を動かす数学イノベーション」のように数学者と企業の共同研究もあります。 ここで議論になっている逆問題は工学でも議論している人がたくさんいます。例えば「数学で命を救う…!? 数学の"超難問"を解いたら「痛くない乳がん検査装置」が実現した…!」。専門でもないので最近の事情は把握できていませんが、伝統的にロシアが強い(強かった)と聞いています。 以前偏微分方程式の逆問題?拡散方程式の数学と物理と工学というトークをしたこともあります。

ガウス型確率変数に対する問題

ガウス分布 N(x) があって x1, x2 ~ N(x)のとき、x1-x2 の値って何分布に従うかご存じの方いらっしゃいますか?どうやって求めたらいいのか。

例と計算編の例によさそうなので収録しようと思っています. どうやって例を見つけて何を計算したらいいかわからない人もいると思うので, それに対するヒントとしてもコメントしておきます. 他人が考えている問題からヒントを得ることもよくあるので, ぜひ参考にしてみてください.

これのリプライにネット上に落ちている参考資料を紹介している人もいます. こういうのを読んでいろいろ計算してみるのも大事です. 今回, 時間がなくて計算しきれなかったのですが, これも例と計算編に突っ込んでおこうと思っています.

講座紹介: 『線形代数と群の表現I, II』に関する講座

【講座のお知らせ】4月から平井武先生の『線形代数と群の表現I, II』(朝倉書店)の講座を開講します。線形代数や群について、豊富な応用例と共に高校程度の予備知識で解説します。演習問題の添削もやります。土曜午前隔週開講、オンラインで講義録画も自由にご覧になれます。

これは「すうがくぶんか」の梅崎直也さんのツイート・講座です. 梅崎さんと直接お話したことなどはありませんが, 非常に優秀な人だとは聞いています. 私が例と計算編で取り組んでいるリー群・リー環系の議論とも深い関係がある分野・本なので興味がある人にはおすすめです.

この本, 学部の頃だかいつだか忘れましたが, 一通り読んだのは間違いありません. そしてかなり面白いです. 二巻に物理と関わる話が載っていて, そこにも面白い記述があります.

例えばヴェイユの述懐として, 「数学者が手を出せなかったところを, ディラックとウィグナーが自らの研究の必要性のために数学者に先んじて無限次元表現論の道を切り開いた.」というような話が書いてあります. これは私の学生時代の専門と直結する話でもあります. 難しすぎて手を出し切れなかったものの, 四次元時空で相対論的場の量子論を考え, それに対する作用素環の自己同型群への作用は作用素論的にはだいたいユニタリ表現論で, まさにディラックとウィグナーが議論した世界です. ここの解析でいまだにわかっていない(はずの)話もあります.

番外編として, 自己準同型群に拡張するとふつうに作用素環上の調和解析として未知の世界が広がっているようで, 京大の泉さんの主要な業績の一つでもあります. 例えば次のPDFの4節を見てください.

表現論の近くは他にも凄まじく広大な世界があります. リー群・リー環と絡めた形で言えば微分幾何にもあって, 等質空間論・対称空間論などの議論もできます. 代数・幾何・解析のどこにもアプローチでき, 物理との関係も深い分野なので勉強して得しかありません. まだ私がしばらく触れない領域の講座なので, もし興味があるなら積極的に参加してみてはどうでしょうか?

ページ紹介: 原岡喜重先生の「数学基本動作集」

原岡喜重先生の「数学基本動作集」。 数学を学び始めた人に役立つQ&Aが載っている。 例えば 「Q.2つの集合A, Bが等しいことを示せといわれました.このときあなたは,何と何を示せばよいでしょうか?」 http://sci.kumamoto-u.ac.jp/~haraoka/action0.html

例と計算編というか, 数学・物理の学習の秘訣的なモノをいろいろ作らないといけないと思っています. 量が少なすぎてさすがにこれだけではどうにもならないでしょうが, こういうのももっと蓄積しないといけません.

量が少ないとはいえ, もしあなたが数学に興味があるなら必ず参考になるページなので, ぜひ眺めてみてください.

数学を独学で勉強した人にありがちなこと

これはp進大好きbotのコメントです.

数学を完全独学で勉強した人たちにありがちな間違いに 「厳密な定義は難しいから簡単な日本語に翻訳しよう」 「簡単な日本語に翻訳したらすごく簡単に理解できた!」 っていうのがありますが、これまでの経験上このパターンで本人に誤りを説明しても理解できた試しがほとんどないんですよね。

これ厳密な定義が分からない本人が簡単な日本語に変換する過程で全く別物になってしまっていて、理解したと思っているものは元の概念ではないんですよね。 なのに「いやこんな簡単な概念を間違えるはずない」みたいな循環論法をしてしまうんです。簡単だという結論がそもそも誤った変換に基づくのに。 この循環論法部分は(概念自体が理解できなくてもある程度誠実に数学を勉強していれば)簡単に理解できるはずなのですが、結局どう説明しても「厳密ではないかもしれないが完璧に理解している!」ってなっちゃう人たちを何年も見てきました。せっかく勉強に時間割いたのにもったいないですよね・・。

数学・物理ならともかく, 専門的な教育を受けていない情報科学や語学ではこれと類似のことをやっているのではないかといつもヒヤヒヤしています. 他山の石ということで.

note紹介: 「わかりやすい説明をすると「結論を理解する労力」が「その結論を導き出した労力」と誤解されるときがある」

"おまけ2:試行錯誤の様子は、わかりにくいからブログにも出てこない" とあるけど、むしろ逆で、だからみんなウェブ検索するときに "-qiita" するようになってしまったような

まず「わかりやすい説明」概念がいまだによくわからず, 記事の内容もそれほどよくわかっているわけではないのですが, 「試行錯誤」に一つ力点があったのでそれについて.

何にせよ理解を深める上でこの試行錯誤はとても大事で, 数学・物理・プログラミングを勉強する上での決定的な要素の一つが, まさに今年の目標である「具体例を遊び倒す」です. これを言いたいがためにこの記事を紹介したとさえ言えます.

特に自分の認識がおかしくないかを判定するのに役立つのが反例の構成です. 以前作ったDVDで反例をテーマにしたのも, 現代数学探険隊の解析学編のページで反例に触れているのも, 例と計算編をひたすらやっているのも, 競プロ学習の一環としてここ三ヶ月毎日問題を解いているのも, 全て具体的な問題を丁寧に扱うことからはじめようという意識に基づいています.

書籍紹介: 池田岳, 『テンソル代数と表現論 線型代数続論』(東京大学出版会)

3月下旬新刊予約受付中 『テンソル代数と表現論 線型代数続論』池田岳(東京大学出版会) ジョルダン標準形の理論、そしてテンソル代数から群の表現論までの道すじを、明確に動機付けながら案内する。豊富な具体例と演習問題により、理論的にも直感的にも理解が深められる。

池田岳さん, 数え上げ幾何学講義などかなり気になる本を書いている人です. 上の方で梅崎さんの表現論関係の講義の紹介をしていますが, 私も学生時代の専門は$C^*$-環・フォン・ノイマン環の表現論ですし, やはり表現論は射程が深く広く楽しいです. テンソル積は量子情報でも基本的な演算ですし, そういう視点からのアプローチもあります. 気になるモノがあればぜひ遊び倒してみてください.

近藤効果の近藤淳氏死去

日本物理学会の名誉会員の近藤淳先生が3月11日に逝去されました。近藤先生は、極低温領域での微量の磁性分子を含む金や銅などの電気抵抗の異常な振る舞いについて、その原因を理論的に解明され、その現象は「近藤効果」と呼ばれています。ご逝去を心よりお悔み申し上げます。

近藤効果, 学生時代に読んだ高橋康さんの「物性研究者のための場の量子論」に出てきたのを思い出しました. 大学院レベルの物性ももっときちんとやりたいと思って幾星霜です. まずは原・田崎のイジング本や, 田崎さんの量子多体系の本を読みたいとは思っています. 学生時代に集中講義に出たりして数理物理系の基本的な知識・全体像は知っているのですが, 具体的な数学的技術が身についていません. イジング本は査読に参加した(本に謝辞も載っている)ものの, やはり細かいところまで詰め切れてこその本なので, もっとやりたいですね.

記事紹介: 「プログラミングの最初の壁は逐次実行」

プログラムに慣れた人にとって、プログラムが上から順に実行されるというのは当たり前で学習が必要なことには思えないと思います。 「見たままやん」 となるのではないかと。

ここで詰まった記憶がないので, そういうこともあるのかとちょっと衝撃を受けています. 何か言えることがあるわけでもありませんが, 自分の備忘録的に残しておきます.

書籍紹介: Numerical Methods for Scientific Computing

Redditを見ていたら流れてきました. 例と計算編のそのものずばりの内容でもあります. しばらくはもっとシンプルなことしかしませんが, 興味がある人はいるだろうと思ったので, 一つの資料のシェアということで.

今週の問題

こういう事例があることだけ知っていて, いまだに具体例を知りません. 調べていてこの言明だけ出てきて例がきちんと書かれていない (正確には例は挙がっていたが証明がなく, まだその証明をつけていない)のでいい加減きちんと調べようと思っているところです.

この一方で面白いのが, 有限次元リー環は行列リー環への忠実な表現を持つというアドの定理です. 確か正標数への一般化もあったような気がします. これも事実だけ知っていてまだ証明を読んだことがありません. リー群とリー環の事情の違いもあれば, リー環のレベルなら行列で片がつく面白さもあり, リー群・リー環, そして線型代数の学習をお勧めする部分でもあります. リー群を議論するなら嫌でも多様体が必要という話でもあります.

上の言明自体, 数学を勉強していく上で一つのキーになると思います. 興味があればぜひ深掘りしてみてください. 私もいつかはきちんと証明を読もうと思っています. 疑似乱数, 特にメルセンヌ・ツイスターは正標数の体上の議論を使っていて, 最近の軸の一つである情報科学・計算機科学との関連も馬鹿にできません. 勉強したいことがいつまで経っても尽きません.

現状このコーナーは線型代数の宣伝のようになっています. ぜひ積極的に日々の学習に取り入れてみてください.

例と計算編は私自身のためにも日々せっせと計算して更新しています. 購入された方はぜひ参考にしてください.

例と計算編は次のリンク先から購入できるので, 興味がある方はどうぞ.

語学 特殊相対性理論ロシア語版第一文/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

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今週のロシア語: アインシュタインの相対性理論の原論文, ロシア語版第一文

文法は並行して勉強している常態で, よくわかっていない積み残し部分があります. どなたかわかる方いたらぜひ教えてください.

とにかく触れ続けて慣れるフェーズだと思って無理やり進めています. 暗記もやらないといけません. 先は長い.

文構造

напримерは副詞の挿入で, 残りがシンプルな文です.

TODO 先頭のВспомним (to recall)が動詞です. 上記の英訳ではtakeが対応しています.

электродинамическое (electrodynamic)は形容詞の対格で, взаимодействие (interaction)は中性名詞の主格または対格なので, взаимодействиеは対格で, электродинамическоеが修飾しているとみなせます. между (between)は具格支配の前置詞で, магнитом (и) проводникомはともに具格だからこれらがセットです. ここでиはandの意味の等位接続詞です. さらにсは具格支配の前置詞でтоком (current)も具格だからこれらもセットです.

まとめると次のように英訳できます.

単語