2022-04-02

数学・物理 勉強会が役に立つ/相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むこともよくあるため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

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「読んだよ」だけでもいいのでぜひ感想をください. メルマガを書く励みになります. 最近感想を頂く機会が増えてきたので素直に嬉しいです.

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ではまたメールします.

通信講座の詳細

先週日曜にさらに少し話をして金銭的なところも詰めました. 概要については前回のメルマガを参照してください.

一度やった程度で身につくわけもないため, くり返し使える・使ってもらう意図で値段設定しています. 特に例と計算編のコンテンツの使い回しでもあるため, その購入者向け金額として三ヶ月で10000円で提供する想定です. これは月3000円相当で, もっと具体的に言えば「毎日ジュース一本我慢してもらう」くらいの費用感です. ジュース一本分の費用, そしてジュースを飲むような細切れの時間もうまく使ってもらうための通信講座だ, という精神性を反映した設定です. もう一つ, あとで説明する1500円版も作ります. ちなみに例と計算編を買っていない人には月5000円相当の費用感にする予定です.

これで大事なのはサポートです. 続けてもらうことが前提なので何かしら続けてもらうための場を用意します. もちろん費用から言ってそんなに手厚いことはできません. そして時々メルマガでも紹介しているように, 最近個人指導サービスがたくさん立ち上がってもいます. 手厚い個人サポートはそちらに任せてこちらはゆるく長く続けることを意図したサポートを実験します. 具体的にはここ数ヶ月, ENERGEIAで毎日やっているいまのもくもく会を有料サービス用に切り分け, 質疑応答の時間にあてます. このあたりがお互いに負担が少ない線ではないでしょうか. 専用の時間としては週二回, それぞれ平日と休日に一時間ずつくらいを想定しています. もちろん参加者の様子を聞きながら調整します. これ以外にも基本的に毎日私はENERGEIAで一時間もくもく会の時間を取っているので, そこに参加してもらっても構いません.

ちなみに金額とともにサポートは二種類考えています.

こう書くと下位版には何もしないように見えるかもしれませんが, もちろん誤植の指摘に対する対応や, 内容の間違いに関する問い合わせには対応します. 単純な「ここがわからないので教えてほしい」といった質問への対応の優先度を下げるだけです.

通信講座はメール配信形式で, パスワードで保護したコンテンツ一覧ページも案内します. こちらは期間が終わってもずっとアクセスできるようにします. 各回ごとに確認問題や前回の復習, 関係する小ネタ紹介や応用例の紹介も入れる予定です. 定着させるためのくり返し学習には復習も重要なので, ここは気合を入れたいところです. ゆるく長く, そしてしつこく何度でも基本を確認できるような仕組みをブラッシュアップしつつ, 実践を積んでさらに練り上げていきたいと思っています.

いまコンテンツの記述整理をしているところで, それが終わったら正式に案内ページを作って募集をはじめる予定です. 何をしているかというと, 数学方式でベクトルの文字をふつうの細字の$x$などを使っていたのですが, 物理をやるなら太字にした方が気分が出る上, やはり便利なので変えることにしました. 来週のメルマガでは案内できる予定なので, ぜひ楽しみにお待ちください.

すうがく徒のつどいの講演決定

まだプログラム・アブストは公開されていないものの, 講演者は決まったようで, 私も応募が通りました.

素数判定のミニ講座に関する話をします. 特に数学とプログラミングの連携と, どう絡めて勉強していくかを議論します. これについて考えていて, また改めて大事な視点に気付いたのでその辺の話も盛り込みます. 講演が終わったら資料のスライドも公開する予定です.

ツイート紹介: アラオグルの定理と量子状態空間

先に書いておくと私のツイートではありません.

下記引用の内容について数学学としては現代数学探険隊の解析学編に載せてあります. 物理についてここまで詳しくないにせよ, 作用素環や赤外発散の視点からいくつか議論しています.

数学に飲まれずに物理にどう数学を使うのか, 気になる人はぜひ上記ツイートのツリー(または以下の引用)を読んでみてください.

引用

Alaoguluの定理(閉じた球は弱*位相でコンパクト)というものがあります。これをもって、量子あるいはGPTの状態の空間はコンパクトだ!と言えるかというと、いろいろと違います。 まず、小さな点から。Alaoguluの定理で球といっていることに注意。球面ではない。球面は、閉じてすらいないので、ここは本質。>つまり、トレースが1以下のものも全部いれておく。 ついて、弱*位相とは何者か。細かいことはさておき、「線形汎関数の空間」に入れる位相です。今の間合いであれば、有界作用素(値が有限の範囲に限られる物理量)の線形汎関数の空間です。これのうち、正でω(I)=1を満たすものたちの集合がコンパクトである、、 というのがAlaoguluの定理の主張になります。しかし、「正でトレースが1の線形汎関数」たちは、どのようなものが入るでしょうか。

量子よりも簡単な古典の場合を考えます。例えば、整数上の確率分布。これは普通の意味で状態と思っていいでしょう。しかし、「整数上の一様分布」はどうでしょうか。 もちろん、そんなものは確率分布としては存在しないのですが、「整数上に値を取る確率変数から実数への関数」としては定義できます。具体的には、有限なところで一様分布を作って、近似していった極限で作ればよい。 ところが、このようにして作ったものは、確率の法則のうち、非常に基本的な「σ加法性」、つまり「排反な事象の和事象の確率が事象ごとの確率の和になる」という性質を満たしません。 このことは、すぐにわかります。先の「一様分布」である一点からなる集合の「確率」を定義すると、ゼロにしかなりませんから。 こういたものも含めて、初めて「コンパクト」になります。もちろん、こういった状態も数学的にはすごく有用です。

例えば、ガウス状態族の最適クローニングの問題。このときは、一度状態の空間を、線形汎関数の意味での状態を含めて拡張しておいて、答えを出します。その上で、この状態に対応する密度演算子が存在することを証明します。 ですが、この線形汎関数としての状態は、「確率の和の法則」を満たしませんから、物理的な状態に入れないことが多いです。小澤先生の書かれた論文などでは、必ずや物理的な状態は密度作用素をもつ状態です。 「状態汎関数の意味での状態」は、かならずや密度をもつ状態で「近似できる」のですが、この「近似」はあまり性質のよいものでないことも、要注意だと思います。弱*位相をセミノルムの族で定義したのを見て「ほとんどノルムじゃん!」と早合点してしまうと、とんでもないです。

例えば、「整数上の一様分布」は、現実に存在する確率分布で「いくらでもよく近似できる。」 ですが、今精度を与えて、「この精度以下で近似する状態を探したい」とします。 すると、これは「どんな組の一連の観測するか」によって答えが変わってしまいます。ある観測の選択をしたときはこの状態が近似をあたえ、別の観測の時はあのまた別の状態が。。。となります。 なんでこんなことになるかというと、実は、先ほどの「一様分布」の構成が少し嘘を書いているからで。。。。本当は極限だけでは構成できなくて、「ある部分空間上で極限で定義しておいて、後はハーンバナッハの定理で拡張」という捻ったことをします。 つまり、「点列として収束する列がとれる」わけではない。 ですから、「観測の選択に、近似状態が依存する」のは、単に収束のスピードの話ではないです。「「一様分布」を含む任意の近傍の中に、少なくとも一つ確率分布がある」だけです。

再宣伝: 江沢洋, 中村孔一, 山本義隆, 演習詳解力学第2版

4月上旬新刊『演習詳解 力学 第2版』江沢 洋/中村 孔一/山本 義隆(ちくま学芸文庫) 一流の執筆陣が妥協を排し世に送った至高の教科書。練り上げられた問題と丁寧な解答は知的刺激に溢れ、力学の醍醐味を存分に味わうことができる。

以前も宣伝した本だと思います. 私自身ちょうどこれから力学の通信講座をはじめますし, 興味のある方はぜひチャレンジしてみてください. 力学はそれ自身いろいろな工学への応用もあれば, 数学の常微分方程式論, 微分幾何・曲線としての展開も広く深くあり非常に面白い分野です.

いろいろな物理系の工学への応用まで考えれば, いまも現役でバリバリ使えます. モノにもよりますが, 自分で実験できるネタもあれば数値実験もあります. とにかくありとあらゆる角度から意味をつけられ楽しめる分野ですし, 数学的な展開もたくさんあります. 歴史的な話でいえば, ポアンカレの有名な話があるように天体力学はトポロジーの基礎でさえあります.

とうとう出版か: Scott Walck, Functional Programming for Physics Geeks

New Early Access Book: Functional Programming for Physics Geeks

素数判定ミニ講座でもコメントしていた論文の著者による本がようやく出るそうです. あなたもぜひ買って読みましょう.

これのAppendixに「A Installing Haskell」があるのですが, この本で使うHaskellの線型代数のライブラリ, hmatrixはバックエンドにBLASとLAPACKを使っています. 以前Windowsでのインストールで死ぬ程苦労して結局Windowsではインストールできずに諦めた経緯もあり, Windowsでの導入にはDockerなり何なりの工夫が必要なはずで, その辺を盛り込んでほしいという要望を早めに出さないと正式に出版されてしまうと思って, ちょっと焦っています. これをネタに何かやりたいと本当に思っているのですが, そこのサポートは本に盛り込んでおいてほしいので.

書評紹介: 「C&Fortran 演習で学ぶ数値計算」書評

これも数値計算本です. 数値計算をどこまで真面目にやるかはともかく, Cは何だかんだでいろいろなところでお目にかかってしまう可能性が高いとは言えます. やりたいことが他に大量にあるのでどう考えてもすぐに取りかかれませんが, 自分用の備忘録も兼ねて紹介しておきます.

記事紹介: オブジェクト指向関係の話

先日ほぼ純粋なプログラミングネタにも多少の反響があったので, 今回もちょっと紹介しておきます. 私もだいぶ前に読んでおけと言われたGoFのデザインパターンなど, オブジェクト指向に関する勉強は多少したのですが, あまりにも難しくていまだに全然わかっていません. 実際難しい上に現実に適用するのも大変という話が最近出てきていると思っていますが, 何だかんだでオブジェクト指向的なモノが世に溢れている中でどう対応するかが(私の)課題です.

上の記事の私の理解を簡単にまとめると次のような感じです.

前述のScott Walck, Functional Programming for Physics Geeksはまさにこの関数型言語のHaskellで書かれています. 何というか「素人」におすすめできるような本または言語ではないと思いつつ, 物理・数学からの導入ならかえっていいのかもしれないという気もしています.

これをネタにした勉強会もよさそうですね.

勉強会が役に立つ

昔からの知り合いとクローズドでやっている統計学の勉強会, いまはJuliaにもっと慣れようの巻でJuliaの統計のライブラリ(集)であるJuliaStatsのコードを読んでいます. これがなかなか楽しいです. 恥ずかしながらライブラリのコードを本格的に読んだことがなかったので, そういう意味でも楽しいです. マクロの実装まで含めたマクロ利用(を意識した)プログラムの読み書きをしたこともなく, 読むだけでもかなり勉強になります.

Juliaとして標準的なプログラミングスタイルで書かれていると思いますし, それが見られるのもよいです. 多重ディスパッチも概念としてしか把握できていなかった部分が多かったものの, 実際のコードでどう使われているか, 実用的なコードとともに眺められているのが大きいです. (改名するらしい)SICMUtilsが採用しているClojureでも多重ディスパッチやマクロプログラミングを酷使する言語ですし, 対Clojure戦・SICMUtils戦の役にも立ちそうでいい感じです.

何度も言っているように, この手の「一人ではやる気は起きないがやってはみたいテーマ」を進めるのに, 勉強会というか他人を巻き込むのは本当にお勧めです. 人, 特に大人に時間を取ってもらって勉強会をやるので, 準備不足で挑むわけにはいかないからです. 嫌でも一定の時間を捻出する機運が生まれます. 何か勉強してみたいことがあるなら, ぜひあなた自分でも勉強会を立ち上げて人を巻き込んでみてください. 自分で立ち上げるのはちょっと, というなら以前から案内しているENERGEIAでの私の部活のもくもく会に参加してみるところからはじめるのも一つの手段としてお勧めしておきます.

私もここで面倒で作ってこなかったプログラミング系のコンテンツを作ってリリースにこぎつけたりしています. そういう普段やらないことを無理やりやる時間を作る手段として使うのもありですし, 私はまさにそういう使い方をしています.

今週の問題

今週は通信講座の準備で線型代数・リー群系のノート作りがほとんどできていません. 何もやらないわけにもいかないので, 今日の午前中に上でも連続ツイートを紹介した定理であるアラオグルの定理に関して, 改めて事実をまとめたノートを作りました.

いくつかは解析学編でも触れているのですが, 断片的になっている部分もあるため, 改めて例と計算編に関数解析の章を追加してまとめました. どれも関数解析を勉強したと自称するなら自力で証明をつけられないといけない問題です. そしてどれも無限次元固有の現象であり, 関数解析の基礎を華やかに彩る言明です.

上で紹介した藤井さんの言明では量子力学基礎系の話題に触れていますが, よくも悪くも無限系の統計力学や場の量子論の数学的側面でも大事な性質です.

現状このコーナーは線型代数の宣伝のようになっています. ぜひ積極的に日々の学習に取り入れてみてください.

例と計算編は私自身のためにも日々せっせと計算して更新しています. 購入された方はぜひ参考にしてください.

例と計算編は次のリンク先から購入できるので, 興味がある方はどうぞ.

語学 特殊相対性理論ロシア語版第三文/相転移プロダクション

今回の内容

数物系のメルマガが式を含むことも多いため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

メルマガのバックナンバーは次のページにまとめてあります. 興味があればどうぞ.

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「読んだよ」だけでもいいのでぜひ感想をください. メルマガを書く励みになります.

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今週のロシア語: アインシュタインの相対性理論の原論文, ロシア語版第三文

今週から翻訳作成修行に並行してロシア語文法学習を再開しました. 簡単に全体像メモと暗記用の表を作っているところで, この暗記作業を進めつつ翻訳パートを整備していく予定です. 暗記は本当につらいのですが, 逃げると逆に後がつらいのではじめに気合を入れてやらねばなりません. 文法学習と単語・活用暗記がないと毎回その調査で面倒なことこの上ないので, やらざるを得ない状況を作るための翻訳学習でもあります.

文構造

まず動詞を確認すると過去分詞のнаблюдаемое (observe), 三人称単数現在形のзависит (depend), 三人称単数現在形のдвижется (move), 原形のбыть (be)があります. したがって主文の他に従属文が二本あり, 接続詞・関係代名詞も二つあります. これにしたがって上にように分けました. 各要素を詳しく見ましょう.

Наблюдаемое явление зависит здесь только от относительного движения проводника и магнита

動詞はзависит (depend)で三人称単数現在形なので, 主語は三人称単数, зави́сеть от + 属格でdepend onなので属格の名詞も必要です. ここではявление (phenomenon)が中性名詞の単数主格・対格なのでこれが主語, Наблюдаемое (observed)はявлениеにかかります. здесь (here), только (only)は副詞なので文構造上は無視できます. относительного (relative)は男性形で属格の形容詞, движения (движение, motion)は中性で単数属格または複数主格・対格なのでこのセットでзави́сеть отのотの支配を受けます. 最後にпроводника и магнита (conductor and magnet)は男性名詞単数形の属格, 男性名詞単数形の属格なので, of conductor and magnetの形でmotionを修飾します.

まとめると次のように英訳できます.

в то время как, два случая, должны быть строго разграничены

動詞はбытьです. (TODO 不定形なのはどういうこと?)

まず冒頭のв то время какは熟語でwhile, whereasの意味です. должны (obligated, distinguished)は形容詞で複数形, строго (strictly)は副詞, разграничены (TODO これ何?)

согласно обычному представлению,

これは前置詞が導く副詞句です.

先頭のсогласно (according to)は与格支配の前置詞, обычному (usual)は男性与格, представлению (notion)は中性名詞の単数形与格です. (TODO 格は噛み合うが性が合わない. どう理解すべき?)

в которых движется либо одно, либо другое из этих тел,

これの動詞はдвижется (move)で不完全動詞の直説法三人称単数現在形です. ここから主語が決まります.

冒頭のвは前置詞格または対格支配の前置詞です. 次のкоторыхはwhichにあたる男性名詞・疑問詞・関係代名詞で, 複数形の属格または前置詞格, 活動体の対格です. (TODO 関係代名詞が受けるのは何? 文章からすればこれはслучая <- случайを受けるべきだが, случаяは単数(属格)では? случаяはдваを修飾し, これが複数だとみなす?)

ли́бо оди́н, ли́бо друго́й=either one or the otherの熟語表現に注意して続きを読みましょう. либо (if)は接続詞, одно (one)は男性名詞の中性単数主格・対格, другое (other, another)は限定詞で中性単数の主格・対格, из (from, out of)は属格支配の前置詞, этихはэтот (this)の複数属格・前置詞格・活動体与格, тел (body)は中性名詞の複数形属格です. したがってлибо одно, либо другоеがセットでeither one or the other, из этих телがセットでout of these bodiesです. либо одно, либо другоеは単数の主格と見るべきで, 動詞からしてもこの見立てが正しいです.

まとめると次のように訳せます.

単語