自己参照
通信講座に関して問い合わせがあって, 返信を書いていたらすごく長くなった上に他の人にも参考になると思ったため, メルマガにも放流します.
最初に書いておきましょう. 毎日22:00-23:00でもくもく会(オンライン勉強会)をやっています. 最後にそれをやっているオンライン部活サービスENERGEIAへのリンクをつけました. そこで具体的なURLなどをアナウンスしているので, 直接相談したい人はそちらからどうぞ.
ゴリゴリ計算する時間が作れない人はつらいだけだから時間ができてからにしてね, と案内ページで書いているように無理な勧誘などはしません.
大雑把に言えば「理工系を出てはいるが, しばらく触れていないため高校数学の知識さえ結構抜けている. それで参加しても大丈夫か?」という話でした.
語学や最近私自身がプログラミング学習でやっている方法を例に, 勉強の取り組み方自体を変えてみてはどうか, それを身につける時間に使ってはどうかと提案しました. 最終的には明日以降, ENERGEIAのもくもく会・勉強会タイムで話をします.
うまいことまとまらずものすごく長くなりました. 大事なので後でメルマガでも流そうと思います.
結論から言えば, 「独りだと続けられないから人を巻き込もう」の方が重要なコンセプトで, こちらに心が反応するかどうかだろうと思います.
そしてもう一点. どう書こうかと思っていろいろ考えていたのですが, 一つ心に留めておいてほしいのは「まずは解答をしっかり読む」です. 定義や定理が頭に入っていなくて困るというのは, 何も見ずに自力で解こうとするからではないでしょうか? 定義や定理が頭に入っていない状態で慣れていない問題を自力で解くのは本当に大変です. 英単語や英文法がわからないのに英作文しようと言っているようなものです. 以下説明を続けます.
さて, まずは最近プログラミングがらみで実際に私も積極的にやっている内容を紹介します. これをそのまま勧めたいからです. あとで語学の事例も書きますが, プログラミングの例がよくわからなければ語学を考えてみてください.
いま私はプログラミング学習でAtCoderやAOJで競技プログラミングをやっています. 特にデータ構造やアルゴリズム学習学習のためで, プログラミング系コンテンツ作成のためでもあります. 最近は少し難しめの問題に挑戦するようになってきたのでさっと簡単に解くとはいきません. まずは10分くらい考えます. 頑張れそうなときはそのまま頑張りますが, 何も思い浮かばければ解説を読み, 解説の通りに実装しようと頑張ります. うまくいかない場合, 他の人の解答を読みます.
コードゴルフほどではないにしろ, 競プロのコードは圧縮された形で書かれていたり, 逆に自分用ライブラリで埋めつくされた解答があります. 短めで読みやすそうな解答をいくつか見繕ってそれを読みます. 特によさそうな解答に対して, 変数名を自分にとってわかりやすくしたり, 必要があれば分解したり, 一つにまとめたりして自分の解答として整理していったん終わりにします. その上で何回か復習します.
ポイントは自分でプログラムを書くよりも, むしろ他の人の解答の理解を重視する点です. これを語学に即して説明しましょう.
このメルマガを読んでいる人は, 多少なりとも英文はある程度読めて聞けるでしょう. しかし書く・話す方は読むのに比べてかなりレベルが下がると思います. 少なくとも私はそうです. 小学生の発言に対応するリーディング・リスニングはできても, 小学生の発言に対応するライティング・スピーキングは絶望的に難しいです. 物理・数学・プログラミングの用事は足せても日常会話がまるでさばけません.
何かと言えば, 受動的な方はある程度何とかなるものの, 能動的に出力しなければならない方が大変です. プログラミングでも同じで「読めても書けない状態」です. 「英作文は英借文」と言われます. いくつか典型的な文はきちんと覚えておいて, それをうまく変形したり組み合わせる必要があります. 個々の単語や文法も必要ですが, その上で単語や文法をどう使って具体的な文章を作るか自体も覚えておく必要があります.
私の語学のメルマガを読んでいる人はわかると思いますが, いま私はアインシュタインの特殊相対性理論のロシア語翻訳を読みつつロシア語を勉強しています. ロシア語は全く書けませんが, 文法を並行して勉強していて読む方は多少なりとも何とかなるようになりました. 英語・ドイツ語と比較しながら読んでいるからでもあります. 単語や活用も早く覚えないといけないのですが, オンライン辞書を使うと覚えていなくても何とかなってしまうため, まずはやる気が出るところからはじめて習慣作りを大事にしてロシア語(語学)に取り組んでいます. なぜ英語以外の語学をやっているかは次のページに書いたので, 興味があれば読んでみてください.
物理や数学も語学やプログラミングと同じです. 書くよりも読む方が楽です. 学部初年次の難なく理解できる証明でも, 空で書けるかと言われたらきついことは多いでしょう. 特に計算がハードだと計算ミスも頻発します. 語学でも三単現のsを忘れたり時制の一致を忘れたり, 冠詞を忘れたり, 読む分には問題なくても常にきちんと英文を書き切れる自信がある人はそういないのではないでしょうか.
というわけでまずは解答や証明を読めるようになりましょう. 形式的に「問題」と呼ばれる対象であっても, 無理に自力で解こうとせず, 解答をじっくり読むことに注力してください. 解答を読んでわからない問題が自力で解けるわけがありません.
数学や物理で言えば, 公式を見直して自力で問題を解くために議論の組み立て方そのものもある程度覚える必要があります. Twitterでも時々話題に上がります. 数学で言えばよく「定義を大事に」と言われますし, 結城浩さんの数学ガールで言えば「例示は理解の試金石」として有名なフレーズもあります. これは学習法でもあれば議論の組み立て方でもあります.
高校では数学力の制限もあって, エネルギー保存なども個別具体的な暗記事項になりがちです. 大学の物理(古典力学)だと全ては運動方程式から出てくるのであって, 全て運動方程式から出すという思考の組み替えが必要です.
以前, 高校物理・数学はいくらやっても大学の数学・物理の役に立たないと書いたことがあります. その理由はこれです. 知識の話ではなく取り組む姿勢や議論の構成そのものが決定的に変わりますし, この思考様式の構築が物理や数学と言えるケースさえあります. 高校の物理・数学と大学の物理・数学のギャップ, 特に集合や位相のような基礎科目でのギャップとして抽象性などが挙げられる場合があります. そこはそこで確かにハードルですが, もっと根本的なハードルはゲームそのものが変わっていて, 取り組み方を変えないといけない点です.
数学で定義を大事にしろというのは, 定義に議論のエッセンスがつまっているからです. 「よい命題は定義になる」という言葉もあるほどです. (誰の発言か忘れましたが, 数理物理的関数解析の聖典, Reed-Simonの確か第一巻に発言が引用されていた記憶があります.) メルマガ読者の方なら「よい命題」概念は多かれ少なかれ通じると思いますが, 命題の良さの尺度として「定義として採用されるか」もあるのです.
例を挙げれば例えば連続性や微分可能性です. この性質があればいろいろなよい命題・定理が成り立ちます. よい命題・定理を支える性質だからこそ重要でわざわざ名前をつけるのです.
いいはじめるときりがないのでこのくらいにしますが, せっかく膨大な時間を割いて今回の通信講座に参加するなら, 具体的な計算力とともにこの思考様式を身につけてほしいと思っています. Twitterで小学生から高校生まで一気通貫で見る機会の多い塾講師の人達の発言を見ていると, 「できない子は手を動かそうとしない」とよく言っています. 今回改めて強調したいのは, 今回身につけてほしい「手を動かす習慣」にあたる行為は「解答をしっかり読みこなす」です. 解答は証明と読み替えても構いません.
「言われなくてもやっている」と言う人もいるでしょうが, 特にもしあなたが社会人で学生時代の専門が物理や数学ではない上でこれらを勉強しようとしているなら, 物理学科・数学科水準で本を読む姿勢を身につけられていると自信を持って言えるでしょうか? 「例示は理解の試金石」を知っている人は, 数学で必要なときに必要な例をさらっと出せるでしょうか. 何度か紹介しているように, 数学ではクリティカルな例や反例を作るだけで論文になります. 例を作るのをこのレベルで重視しているので, 何か言われて即座に例を作れない人に対する理解度判定は極めて厳しくなります. 「知っているべき有名な例」という概念さえあります.
この意識の変容に取り組むのは本当に大変で, 計算力以上に三ヶ月でどうにかなる話ではありません. しかし裏テーマとして常に抱えておくべきなのだろうと改めて実感しています.
最後に相談用の勉強会zoomのリンクを出しているENERGEIAへのリンクを張っておきます.
今回の通信講座用のもくもく会・勉強会は上記部活用のもくもく会とは完全に切り離して運営します. 上記部活のもくもく会は私の体調や都合が悪くない限り土日でも毎日開催していますし, 参加も自由です. 興味があれば気軽に参加してください. 部活のもくもく会はコンテンツ作成などの作業タイムでもあるため, 話かけられても応えられないかもしれません. 予めご了承ください.
Previous: 2022-04-16 Next: 2022-04-23 back to top