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2026

2026-02-14 幾何学の原罪と分類理論の面白さ:相転移プロダクション

今回のテーマ

記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にもまとめています. 今回の内容は次の通りです. 引き続き自分の日記・週報のつもりで書いているため長いです. 興味があるところがあればそこだけ流し見してください. 長文を書けるほど毎週色々遊んで楽しんでいると思ってもらえれば十分です.

  • 近況
  • AI利用:dangerously-skip-permissionsの濫用で失敗
  • 幾何学の原罪と分類理論の面白さ
  • Sato, Dynamical relationship between CAR algebras and determinantal point processes: point processes at finite temperature and stochastically positive KMS systems
  • 今週の雑に眺めた文献

メルマガページへのリンクは次の通りです.

近況

いまプレプリント用の議論・記号整理をしていてあまり新しいことはしていません. ずっとやっていると飽きるため, ChatGPT 先生に文献調査してもらって雑に眺めています. いまの自由ボース気体のあとファン・ホーフェ模型まで溜まっているため, これが終わらないと先に進めたいためさっさと終わらせたいです. いまはこれだけしかしていないためあまり何も書くことがありません. とにかくさっさと終わらせたい気持ちしかありません.

AI利用:dangerously-skip-permissionsの濫用で失敗

翻訳でいちいち止まると面倒なため, 最近 dangerously-skip-permissions をつけて実行していました. 最近は自動で並行処理をするようになっていて, さらにそれを dangerously-skip-permissions すると制限を突破するまで実行されてしまいました. 数日使えなくなってしまって非常に不便です. 多少時間がかかっても全く問題ないため, 翻訳で並行処理を禁止しました.

幾何学の原罪と分類理論の面白さ

X(旧Twitter)でのやり取りです. 分類理論の意義や面白さとして参考になると思ったので.

これまでに知られてない種類の大域解があると思って研究していたとある方程式に既存の大域解しかないことを証明してしまった 論文にはなる結果だと思うが、少し残念だ もっと豊富な解空間があると思っていたのに

研究として一定の意義はあるが、新しい「遊び場」を提供できてないので、数学としての面白みはあまりない ただ、幾何学の研究は割とそういうのが多い 「XXを満たす多様体は、AとBとCのみです、なのでXXは思ったほど広い公園ではないです」みたいな

中島啓さんが幾何学の原罪と読んでいたのを思い出しました。https://member.ipmu.jp/hiraku.nakajima/Articles/SUSY.html

むしろ新しいものが生まれないと言うことを証明することが幾何学で高く評価されるのである

そういう側面はありますね 僕は個人的には目指したい方向ではないですね 新しい遊び場を見出したいと思ってます でも結果的には分類定理に落ち着きがちですね

この辺は分類に利用する不変量の強力さの観点があって、そちらの性質の強さの立証が高く評価されるのだろうと思っています。分類の面白さとして物理でいう超伝導の発見のような新分類の発見とその特徴づけ系の議論があり、新たなものを生み出すのも分類定理と思えば悪い話ではないでしょう。 分類基準の支配領域が分かり、それを破壊する方法が考えられるようになるのは便利で、例えば熱力学でも(平衡熱力学で)熱機関の効率がありますが、それを突破したければ既存の枠を出るしかない、といったタイプの議論が好きな人がいます。量子系でも測定などで同じ系統の議論があったはずです。

そうですね openする人とcloseする人がいて、それで人類の知見が増えていくわけですね

Sato, Dynamical relationship between CAR algebras and determinantal point processes: point processes at finite temperature and stochastically positive KMS systems

あとあと大事そう・面白そうな論文は記録しておかないと何が何だかわからなくなるため記録します. 直交多項式アンサンブル, 行列式点過程などが議論されていて, この論文自体には深く議論されていないものの展開としてはランダム行列との関係もあるようです. 私自身はフェルミオン系は言うほど触れていなくて今まさに模索中ですが, いわゆるスレーター行列式があるため, 行列式を通じてかなり様々な分野と関係・交流があるようです.

これは先日から言及している Klein-Landau 論文の CAR 版のようです. ただ CAR の基礎になっている空間への仮定がかなり強く, いわゆる格子模型に対する議論になっているでしょうか. 最後に連続拡張への課題を語っているためまだ本質的に難しいようです. ボソンだとかなり素直に議論できるのにフェルミオンだと難しい(らしい)というのも不思議な感じがします. 物理でよく書かれる, いわゆる a_x のような形で直接的に点に言及している部分や, 可換部分環に対する適切な連続関数環との同型で離散性が本質的に利用されているようです.

変な言い方ですが, この論文自体は数学色が強く, 電子模型など(数理)物理への直接的な応用はないようです:少なくとも言及はなかったように思います. $q$-超幾何直交多項式への応用への言及もあります. 著者の専攻を詳しく把握していませんが, 確率論メインの方でしょうか. 最後の結語でランダム行列に関する確率過程を構成する作用素環的なアプローチへの重要性を語っていて, 連続空間上での議論が発展すればランダム行列と作用素環の新しい相互作用が生まれるとか何とか.

自分のメモがてらに書いておくと, Klein-Landau ではボソンへの議論として, 確率過程だけではなくそこからの汎関数積分(経路積分)との対応も重要です. フェルミオンの場合の汎関数積分はいわゆるグラスマン数(外積代数)の積分で, これは例えば Joel Feldmann らの本, Renormalization Group and Fermionic Functional Integrals, Aisenstadt Lectures 1999に記述があります. 上記リンク先に本の PDF も置いてあります. この人はフェルミ液体のくり込み群解析などもやっていて, 本の後半はこれに関連する議論です. 以前この本は一通り読んでいて typo などを報告したら typo の PDF にも私の名前を載せてくれています. さすがに一周した程度で中身を完全に掌握できるほど簡単ではないものの, 第一章は本当に有限次元の線型代数をやっています. 特にグラスマン数の積分は行列式やパフィアンと直結していて, それらに対する古典的な不等式をグラスマン数の積分で議論しています. この部分だけ読んでも十二分に役立つ面白い内容です. 積分の表記を取っているため, 少なくとも形式的には解析的に行列式論を議論しています.

今週の雑に眺めた文献

  • [Submitted on 15 Aug 2023] Quantum Spin Systems Amanda Young https://arxiv.org/abs/2308.07848
  • [Submitted on 19 Nov 2024 (v1), last revised 21 Jan 2025 (this version, v2)] Frustrated Spin Systems: History of the Emergence of a Modern Physics Hung T. Diep https://arxiv.org/abs/2411.12826v2
  • [Submitted on 9 Feb 2023] An Introduction to the Theory of Spin Glasses Ada Altieri, Marco Baity-Jesi https://arxiv.org/abs/2302.04842
  • [Submitted on 9 Feb 2023] An Introduction to the Theory of Spin Glasses Ada Altieri, Marco Baity-Jesi https://arxiv.org/abs/2302.04842
  • [Submitted on 5 Jun 2025 (v1), last revised 5 Aug 2025 (this version, v2)] Magnetic Moiré Systems: a review Paula Mellado https://arxiv.org/abs/2506.05620
  • [Submitted on 27 Dec 2024] Physics of 2D magnets and magnetic thin films: Surface structure and surface phase transition, criticality and skyrmions Hung T. Diep https://arxiv.org/abs/2412.19741
  • [Submitted on 12 Apr 2010] Emergence of magnetism in graphene materials and nanostructures Oleg V. Yazyev https://arxiv.org/abs/1004.2034
  • [Submitted on 12 Jul 2016 (v1), last revised 20 Apr 2017 (this version, v3)] Quantum Spin Liquid States Yi Zhou, Kazushi Kanoda, Tai-Kai Ng https://arxiv.org/abs/1607.03228
  • [Submitted on 13 Apr 2010] Lieb-Robinson Bounds in Quantum Many-Body Physics Bruno Nachtergaele, Robert Sims https://arxiv.org/abs/1004.2086
  • [Submitted on 20 May 2022] From Lieb-Robinson Bounds to Automorphic Equivalence Bruno Nachtergaele https://arxiv.org/abs/2205.10460
  • [Submitted on 6 Mar 2006 (v1), last revised 8 Mar 2006 (this version, v2)] Quantum Spin Systems after DLS1978 Bruno Nachtergaele https://arxiv.org/abs/math-ph/0603017
  • [Submitted on 26 Aug 2025 (v1), last revised 12 Dec 2025 (this version, v2)] The projection spectral theorem, quasi-free states and point processes Eugene Lytvynov https://arxiv.org/abs/2508.19147
  • [Submitted on 12 Sep 2025] Introduction to some of the simplest topological phases of matter Frank Schindler https://arxiv.org/abs/2509.19320
  • [Submitted on 14 Oct 2020] C∗-fermi systems and detailed balance Vitonofrio Crismale, Rocco Duvenhage, Francesco Fidaleo https://arxiv.org/abs/2010.07296
  • [Submitted on 7 Aug 2014 (v1), last revised 26 Sep 2014 (this version, v2)] Pure quasifree states of the Dirac field from the fermionic projector Christopher J. Fewster, Benjamin Lang https://arxiv.org/abs/1408.1645
  • [Submitted on 17 Apr 2025] Dynamical relationship between CAR algebras and determinantal point processes: point processes at finite temperature and stochastically positive KMS systems Ryosuke Sato https://arxiv.org/abs/2504.12935
  • [Submitted on 3 Oct 2025] Fermionic optimal transport Rocco Duvenhage, Dylan van Zyl, Paola Zurlo https://arxiv.org/abs/2510.02888
  • [Submitted on 22 Mar 2021 (v1), last revised 18 Jul 2021 (this version, v2)] The Hubbard Model Daniel P. Arovas, Erez Berg, Steven Kivelson, Srinivas Raghu https://arxiv.org/abs/2103.12097
  • [Submitted on 4 Apr 2025] Mathematical physics of dilute Bose gases Jan Philip Solovej https://arxiv.org/abs/2504.03314v1
  • [Submitted on 4 Nov 2024 (v1), last revised 28 Aug 2025 (this version, v3)] On classical aspects of Bose-Einstein condensation Lorenzo Pettinari https://arxiv.org/abs/2411.02626v3
  • [Submitted on 5 Nov 2019 (v1), last revised 11 Nov 2020 (this version, v2)] Algebraic approach to Bose-Einstein Condensation in relativistic Quantum Field Theory. Spontaneous symmetry breaking and the Goldstone Theorem Romeo Brunetti, Klaus Fredenhagen, Nicola Pinamonti https://arxiv.org/abs/1911.01829
  • [Submitted on 4 Apr 2014 (v1), last revised 31 Jul 2014 (this version, v2)] Introduction to superfluidity -- Field-theoretical approach and applications Andreas Schmitt https://arxiv.org/abs/1404.1284
  • [Submitted on 8 Nov 2005 (v1), last revised 9 Nov 2005 (this version, v2)] Introduction to representations of the canonical commutation and anticommutation relations Jan Derezinski https://arxiv.org/abs/math-ph/0511030
  • [Submitted on 28 Jan 2026] Miniatures on Open Quantum Systems Jan Derezinski, Vojkan Jaksic, Claude-Alain Pillet https://arxiv.org/abs/2601.20373
  • [Submitted on 28 Oct 2011] Quantum statistical mechanics in infinitely extended systems (C∗ algebraic approach) Shuichi Tasaki, Shigeru Ajisaka, Felipe Barra https://arxiv.org/abs/1110.6433

2026-02-07 メルマガを書く体裁で適当に物理を復習したい:相転移プロダクション

今回のテーマ

記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にもまとめています. 今回の内容は次の通りです. 引き続き自分の日記・週報のつもりで書いているため長いです. 興味があるところがあればそこだけ流し見してください. 長文を書けるほど毎週色々遊んで楽しんでいると思ってもらえれば十分です.

  • 近況:メルマガを書く体裁で適当に物理を復習したい
  • ハイラーのPDFがかなり良さそう
  • 今週の雑に眺めた文献

メルマガページへのリンクは次の通りです.

近況:メルマガを書く体裁で適当に物理を復習したい

体調が悪くはないものの, 今週はやたら眠く進捗があまりよろしくありません. それでも有限温度の自由ボース気体・ボース-アインシュタイン凝縮の汎関数積分の記述が一通り終わりました. 自由ボース気体のボース-アインシュタイン凝縮それ自体は世間的にもう完璧に理解されているため, 単純に私のノートにミスがあるかどうかです. ファン・ホーフェ模型についても絶対零度は新井先生の本で完全にカバーされているものの, 有限温度では改めて細かい部分まできちんと書く必要があります. ファン・ホーフェ模型は大枠として自由場(正確には平均を持つ準自由状態が基底状態・平衡状態)なため, ほぼ自由場です. あと少しで最低限の議論が整備できます. 思った以上に時間がかかっていますが仕方ありません.

雑に眺めた文献でわかる人にはわかるように, いわゆる数理物理ではなくふつうの物理系の文献を眺めています. 眺めているだけで全く勘所が身についていません. もう少し気合を入れて読むべきではあるものの, どういう方向で進めようか考えています. 最大限よく言っても学部四年程度の物理で止まっているため, 一番いいのは学部四年から修士程度の教科書を読むのが一番ですが, 英語だと面倒で, 日本語(の紙の教科書)だと TeX ノート作りがあまりに面倒という問題があります.

学部三年での量子力学・量子統計は計算を追うのに手一杯で本当に全く何も理解しておらず, 修士一年程度でようやく学部の頃の量子力学・量子統計で何をしていたか少し見えた程度で, 本質的にいまも物理の理解が極めて粗雑です. 電子系をもう少し突っ込んでやらないといけない気配があるため, 当面はその方面をレビューを見つつ ChatGPT 先生と相談しながら整理する感じになるでしょうか.

来週は強磁性系の数理物理の基本的な議論の構成をいくつか紹介する形で自分の理解の整理しようかと思っています.

ハイラーのPDFがかなり良さそう

「今週の雑に眺めた文献」にも載せたAn Introduction to Stochastic PDEsです. 確率偏微分方程式を勉強したいわけではなく, カメロン-マルティン空間・抽象ウィーナー空間をもう少し突っ込んで調べようと思って検索したら出てきた文献です. 2節はポーランド空間が書いてあり, 3節に求めるカメロン-マルティン空間などが書いてありました. 雑に眺めただけではあるものの, ポーランド空間の記述もかなりに参考になりそうで, 確率論で重要な可算性制約と可分性, さらにはどのような位相を取るべきか・取らないべきか, 少なくとも簡単な議論があり, それだけでもかなり価値があるように思います.

連続時間の確率過程のように, 注意して議論しないとあっという間に可算性が破壞される局面はよくあります. ポーランド空間ではその可分性によって加法族の可算生成性が証明でき, それだけでも極めつけに強い性質を持ちます. $1 \leq p < \infty$に対する$L^p$-空間など可分なバナッハ空間はあれど, $p = \infty$のノルム位相での$L^{\infty}$が非可分なように, 気を抜いているとすぐに問題が出ます. 適切に位相を緩めると言っても常に個別具体的な議論を迫られても困ります. 組織的に展開する方法があるかも重要で, そうした部分を手際よく解説してある印象です. 私のような一般市民と比べることさえおかしいですが, さすがフィールズ賞受賞者の腕っぷしは違います.

今週の雑に眺めた文献

  • [Submitted on 23 Jul 2009 (v1), last revised 3 Jul 2023 (this version, v2)] An Introduction to Stochastic PDEs Martin Hairer https://arxiv.org/abs/0907.4178
  • [Submitted on 4 Dec 1998 (v1), last revised 31 Aug 2021 (this version, v3)] Electronic Structure, Correlation Effects and Physical Properties of d- and f-Metals and Their Compounds V.Yu. Irkhin, Yu.P. Irkhin https://arxiv.org/abs/cond-mat/9812072
  • [Submitted on 5 Aug 2000] The Luttinger model: its role in the RG-theory of one dimensional many body Fermi systems Giovanni Gallavotti https://arxiv.org/abs/cond-mat/0008090
  • [Submitted on 17 Feb 2005 (v1), last revised 12 Aug 2005 (this version, v2)] The Falicov-Kimball model Christian Gruber, Daniel Ueltschi https://arxiv.org/abs/math-ph/0502041
  • [Submitted on 26 Nov 2003 (v1), last revised 7 Jan 2004 (this version, v2)] Segregation in the asymmetric Hubbard model Daniel Ueltschi https://arxiv.org/abs/math-ph/0311049

2026-01-31 早く日本語と同じくらい爆速で英語が読めるようになりたい:相転移プロダクション

今回のテーマ

記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にもまとめています. 今回の内容は次の通りです. 引き続き自分の日記・週報のつもりで書いているため長いです. 興味があるところがあればそこだけ流し見してください. 長文を書けるほど毎週色々遊んで楽しんでいると思ってもらえれば十分です.

  • 日本語と同じくらい爆速で英語が読めるようになりたい
  • エルゴード理論
  • 補足:代数幾何での既約性・被約性
  • 今週の雑感:早く自由ボース気体にけりをつけたい
  • 今週の雑に眺めた文献

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日本語と同じくらい爆速で英語が読めるようになりたい

あとの「今週の雑感」にもあるように, ラッティンジャー液体まわりで古めの文献で arxiv のように単純な CLI 翻訳が効かず, 直接英語を読まないといけない状況が出ています. もちろん数学の論文を読む上で困ることはありませんが, 私の語学力では読むスピードは圧倒的に落ちます. ゴリゴリに精読するなら数学や物理の難しさが律速要素になるため, 日本語でも英語でも大して変わらないのですが, いまはまず雑に文献の全体に目を通したい状況なので.

この辺さっさと技術革新が起きてほしいものです. 式・記号の処理がいつまでもどこまでもついて回るのがただただ厄介とは思いますが. 試すとわかりますが, ライブラリのドキュメントサイトなどプログラミング系の文章をブラウザ翻訳すると, 変数名・関数名の扱いが滅茶苦茶になります. ブラウザ翻訳は手早く高速な処理が必要でしょうから, 精度がどうしても犠牲になります. 変数名・関数名はその場限りのものが多く, おそらく機械学習では処理しきれない対象のようで, 訳文中でとんでもないところに配置されます.

エルゴード理論

先週軽く基礎の基礎を勉強した, 数学的なエルゴード理論を自分の復習用に解説します. 「強磁性・BECという比較的直観的な物理と直結している作用素環の中心分解に対応する確率論の記述」が私にとって一番直観的ですが, 作用素環自体が分野名の知名度に比してマイナーなため, ほとんど誰にも通じないでしょう. そこで軽く物理のエルゴード仮説にも触れつつ, 数学としてのエルゴード理論を紹介します.

物理としてのエルゴード仮説は現代的な意味ではそのままの形では成立せず, 統計力学の基礎付けとしての役割はとうの昔に終えています. 一方で数学のエルゴード理論はこれを歴史的背景に持ちながら, 物理とは切り離されて, 純粋に数学として極めて重要かつ巨大で面白い分野として発展しています. 物理的な匂いは意図的にできるだけ剥ぎ取って数学的な直観に絞って説明します.

微分方程式的に粒子の運動, すなわち時間発展を追いかけると思ってください. ある時間発展を無限に続けたとき, その運動は空間のある領域をどのように訪れるかを考えます.

早速脱線ですが, 運動の経路は(高次元の)曲線です. 直観的には測度 $0$ であるはずの曲線が平面や三次元空間を埋め尽くせるかと思うかもしれません. これは空間充填曲線などフラクタルの議論と関係します:空間充填曲線はアルゴリズム的に定義される場合があり, 電気回路の効率的な配線に関する工学的な研究で現れる場合さえあるようです. ただしこれはエルゴード性とは本質的に別の問題で, 軌道の幾何学的形状と, 測度論的な平均挙動は直接には対応しません.

本題に戻ります. 時間無限大まで運動を続けます. 単振動のような可積分系では, 初期値に依らず運動は低次元の不変多様体に閉じ込められます. 一方で速度などを含めた全ての初期値を考えると, 全体としてはより大きな領域を覆うように見える場合もあります.

数学のエルゴード理論が考えるのは個々の軌道やその形状ではありません. 例えば空間 $X$ 上の関数 $f$ に対して時間発展 $T$ に沿った時間平均 $$\frac{1}{N} \sum_{k=0}^{N-1} f(T^k x)$$とその極限の挙動を考えます. この極限が初期点 $x$ にほとんど依存せず, 空間平均 $\int_X f d\mu$ に一致するとき時間平均と空間平均が一致すると言います. この性質を測度論的に言い換えると確率論でのエルゴード性の定義が得られます. つまり保測変換 $T$ に対する不変集合の測度が 0 か 1 しか持たないとする条件です. 空間を正の測度を持つ二つの不変部分に分解できるなら, それぞれで異なる平均挙動が起こり得るからです.

この分解不可能性が非常に重要です. 特に線型代数・表現論との関係が現れます. 時間発展が行列で記述される場合, エルゴード性は既約性の概念と密接に結びつきます.

まず完全にブロック対角な行列を考えます. このとき空間は互いに交わらない不変部分空間に分解され, 運動はそれぞれの部分空間内に閉じています. これは非既約(被約)な状況です.

次にこのブロック対角行列に対して, ブロック間を結ぶ非対角成分を摂動として加えた行列を考えます. この摂動を通じてもともと分離していた部分空間の間に行き来が生じます.

一般にはこのような摂動によって非自明な不変部分空間は破壊され, 行列は既約化します. 運動が全空間にわたって絡み合うようになり, 表現論における既約性と, 力学系での(適切に定義された)エルゴード性の対応を直観的に説明します.

上記の非対角成分の摂動を熱力学的・直観的な説明をすると, 二つの系を壁で完璧に仕切っていたところに小さな穴を開ける状況です. 穴が小さければ小さいほど平衡状態にいたるまで非現実的な凄まじい時間がかかる一方, それでも少なくとも運動が二系にまたがるのは間違いありません. 数学的な理想化として無限の時間経過を考えれば部屋の行き来は可能なはずです. これは物理としての平衡状態への緩和を論じるエルゴード性が非現実的な一方, 数学としては意味を持つ事例とも言えるでしょう.

ここでは議論しきれませんが, 数論的力学系でのエルゴード性と言った議論もあります. もともとは微分方程式が記述する力学系の挙動に関する議論でしたが, 統計力学と確率論の出会いで確率論への様々な展開を持ち, 時間発展の概念を行列の $n$ 乗や関数の $n$ 回作用のような離散拡張も現れ, さらに多彩な発展を得ています. 関数の $n$ 回作用による力学系は半群作用の圏論化にまで拡張され, 不変性は圏論的・代数的拡張とも相性がよいようです. 私が知っているごく狭い範囲でさえ, エルゴード理論はこの程度の信じられない超長距離の射程を持つ理論です.

補足:代数幾何での既約性・被約性

既約性・被約性は様々な状況で現れ, それぞれに別の定義を持ちます. 代数幾何での既約性・被約性も多少関係がある上, 直観的でもあるため念のため軽く触れます.

代数幾何での既約性と被約性は, 図形と, 図形としての代数多様体を記述する(連立)多項式と見やすい対応の例があります. 例えば平面上での二変数の簡単な多項式 $xy = 0$ の解は $x = 0$ または $y = 0$ で, $x$ 軸または $y$ 軸です. これは $(x-a)(y-b) = 0$ のような「因数分解」で $a = b = 0$ の特別の場合と思った方がイメージしやすいでしょう. このように因数分解できる多項式で表される図形(代数多様体)は $x$ 軸と $y$ 軸のように, 図形としてもパキっと別れます. このような状況が被約です. これに対して $x$ 軸と対応する方程式 $x = 0$, $y$ 軸と対応する方程式 $y = 0$ のような因数分解の因子が既約成分です.

今週の雑感:早く自由ボース気体にけりをつけたい

ブッフホルツの論文にもワイル環とレゾルベント環の関係も具体的に書いてあり, 新井先生の「量子統計力学の数理」を単にレゾルベント環に書き換えるだけなため作用素環部分で見たい部分は見えているため, 作用素環的な記述はできています. ただ次のファン・ホーフェ模型の技術的な核として汎関数積分の処理があるため, 自由ボース気体でも汎関数積分の記述を書かないと私にとっての大義名分が立ちません. この分の細かな調整をしていたらいったん良いと思っていた準備の部分で詰めの甘い部分が露見して, 今その細かな部分調整中です. 早く終わらせて次に行きたいのですが, 明らかな問題を放置していたら数学にならないため歯を食いしばって進めています.

あとは雑に文献を眺めていて, 多少古めの論文が arXiv にない問題にぶちあたってもいます. もう基本路線がほぼ解決しているファン・ホーフェ模型の次の線で, いったんラッティンジャー液体をレゾルベント環で何がどう見えるか調べようと思っています. 作用素環でも議論はあるものの, AQFT 勢の共形場的な方向の議論ばかりで物性の線で調べ尽くす方向がどうも薄いようです. ChatGPT 先生いわく作用素環的に決定的な論文の著者(の一人)がブッフホルツで, 「またお前か」状態ですが, これが Nuclear Physics B で, オープンアクセスにもなっていないため読めず一人で激怒しています. ブッフホルツに「お前が最近やっているレゾルベント環の威力を知るため, 特に非相対論的な多体系の議論への応用への威力を知るために色々やっている. 論文を送ってくれ」と言うためにも早めに自由ボース気体を終わらせたいです.

ファン・ホーフェ模型は実質的に「相互作用のために赤外発散もあるが, 本質的には自由ボース気体」という模型であるため, 自由ボース気体にけりをつけないとファン・ホーフェ模型の汎関数積分の議論が組めません. 学生時代, またはここまでに確率論をもっとゴリゴリにやっておけばよかったと後悔しきりです. 物理もラッティンジャー液体・BCSや共形場もよく知らないのがボディブローのように効いていますが, 仕方ありません.

今週の雑に眺めた文献

  • [Submitted on 20 Sep 2016 (v1), last revised 19 Apr 2021 (this version, v4)] Superconducting phase in the BCS model with imaginary magnetic field Yohei Kashima https://arxiv.org/abs/1609.06121
  • [Submitted on 21 Feb 2019] Non-cooperative Equilibria of Fermi Systems With Long Range Interactions J.-B. Bru, W. de Siqueira Pedra https://arxiv.org/abs/1902.08047
  • [Submitted on 17 Nov 2012] Quantum Heisenberg models and random loop representations Daniel Ueltschi https://arxiv.org/abs/1211.4141
  • [Submitted on 16 Jul 2018 (v1), last revised 28 Jul 2019 (this version, v6)] Long-range order, "tower" of states, and symmetry breaking in lattice quantum systems Hal Tasaki https://arxiv.org/abs/1807.05847
  • [Submitted on 25 Dec 2017 (v1), last revised 11 May 2020 (this version, v4)] Maximum Spontaneous Magnetization and Nambu-Goldstone Mode Tohru Koma https://arxiv.org/abs/1712.09018
  • [Submitted on 21 Apr 2004 (v1), last revised 10 Nov 2004 (this version, v2)] Hund's rule and metallic ferromagnetism Juerg Froehlich, Daniel Ueltschi https://arxiv.org/abs/cond-mat/0404483
  • Submitted on 7 Jul 2016 (v1), last revised 6 Aug 2016 (this version, v2)] On ergodic states, spontaneous symmetry breaking and the Bogoliubov quasi-averages Walter F. Wreszinski, Valentin A. Zagrebnov https://arxiv.org/abs/1607.03024
  • [Submitted on 5 Jul 2001 (v1), last revised 9 Jan 2002 (this version, v2)] Segregation in the Falicov-Kimball model James K. Freericks, Elliott H. Lieb, Daniel Ueltschi https://arxiv.org/abs/math-ph/0107003
  • [Submitted on 15 Feb 2007] An Introduction to the Nonperturbative Renormalization Group Bertrand Delamotte (LPTMC) https://arxiv.org/abs/cond-mat/0702365
  • Fermionic integrable models and graded Borchers triples Henning Bostelmann & Daniela Cadamuro Open access Published: 06 November 2024 Volume 114, article number 130, (2024) https://link.springer.com/article/10.1007/s11005-024-01865-1
  • https://arxiv.org/abs/2112.14686
  • G. Acerbi, G. Morchio, F. Strocchi, Nonregular representations of CCR algebras and algebraic fermion bosonization, Reports on Mathematical Physics 33 (1–2), 7–19

2026-01-24 ラッティンジャー液体が楽しそう:相転移プロダクション

今回のテーマ

記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にもまとめています. 今回の内容は次の通りです.

  • 研究メモをどこにどう置くか
  • きちんと読むための手法としてのTeX作り
  • 最近作った資料
  • ファイバー束と相転移での定ファイバー直積分
  • 朝永-ラッティンジャー液体
  • AIまとめ:ボレル測度・ベール測度・ラドン測度
  • 今週の雑に眺めた文献

メルマガページへのリンクは次の通りです.

研究メモをどこにどう置くか

いまは日々思い浮かぶ(比較的簡単な)研究用メモは私の数学・物理ノートである「現代数学探険隊」に記録しています. これの問題は例えば散歩中などのちょっとしたときに思い浮かんだ内容がさっと記録できない点にあります. もちろん記録に残せるように適当な手段(たいていは自分にメール)で記録して, あとで転記しています. これをもっと気楽かつ適切に保管・追記できる手段がないか検討しています.

たまに式を書きたい・書かなければ適切なメモにならない可能性もあり, 最終的には適当に TeX 前提にする必要があるため今の形で何か問題があるわけではないものの, 世間ではどうしているのだろうとふと気になったので.

きちんと読むための手法としてのTeX作り

高度に人によると思うのですが, やはり私は単に読んでいるだけでは全く頭に入りません. 何らかの意味でこねくり回さないと駄目です. その上で何度も詳しく読み直して「ここはおかしい」とやります.

学生時代に一時期 TeX 打ちが激しく面倒で手で書いてノートを作っていました. しかし現代数学探険隊を作って配布するために TeX 化するしか選択肢はなく, その追記修正でもはや現代数学探険隊の PDF は 20000 ページを越えていて, 紙だとしたら前に書いた内容を発掘できる水準ではありません. そうした意味も込めて紙と鉛筆ではなく, 面倒でも TeX 書き一択になっています. 式を書くのがとにかく面倒ですが仕方ありません. 細部は後で詰める前提なため細かなミスがぼろぼろありますが, 一応何度も読む前提, または一箇所にまとめて参照しやすくする目的があるため, 多少のミスは許容しています. 後での検索のためになるべく検索しやすいようにキーワードを盛り込んだり色々な工夫をしていたものの, おそらく現在では NotebookLM に叩き込んでの検索が一番効率が良さそうです.

凄まじく横道に逸れたため話を元に戻します. やはり眺めているだけだと全く身につきません. TeX 打ち含めて何らかの手を動かす身体性が必要なわけではないと思いますが, 手を動かすと嫌でも時間を取るため, その時間が効いているのだろうとも思います. 直観的に理解できる話ばかりでもなく, 大量の計算の果てにしか得られない結果はくり返し使うか, きちんと計算し倒すかのどちらかは必要なはずで, その辺をどう処理するかにかかっているのでしょう.

何の話をしたかったかわからなくなってきましたが, 多少面倒でも TeX 作りはお勧めの趣味です. 暇なときに眺めると自分が知りたいと思うことだけ書かれたノートができていて, ただただ楽しいです. 論文・プレプリントを読んでいるとたまに飽きてくるものの, 自分で整備したコンテンツは読んでいて飽きません. 不思議なものです.

arXiv 翻訳で tex ソースを見ていて・コンパイルしていてわかったのですが, 欧米圏だと plain tex で書いている人がいるようです. 最近だと xelatex なり何なりいろいろあるようで, plain tex がどのくらい一般的なのかなど状況は全くわかりませんが, 初めて触ったときから latex だったため, plain tex が現役バリバリなのにちょっと驚きました. 書式(?)も大分違い, 見たことがない書き方も色々あってびっくりしています. イタリア人の tex にはイタリア語でコメントが入っていて, 論文本体は英語でも母語なのかとちょっと面白いです.

最近作った資料

腐っても研究したいと宣言した以上, ちんたら勉強しているわけにもいきません. 先日書いたように CLI 翻訳での arXiv のプレプリント眺めを進める一方, 主に ChatGPT に簡単に解説させた資料もゴリゴリ整備しています. 最近だと次のような資料を作らせました.

  • ボレル測度・ベール測度・ラドン測度の違い
  • 複素ヒルベルト空間から誘導される実シンプレクティック構造と一般の実シンプレクティック空間
  • セクターの作用素環的整理
  • 代数的場の量子論での核型性
  • C^*-環とフォン・ノイマン環の使い分け
  • 自由ボース気体でのボース-アインシュタイン凝縮
  • ボース-アインシュタイン凝縮と作用素環的構造
  • 無限系C^*-環でのボース-アインシュタイン凝縮相の存在
  • 直積分・汎関数積分・超選択則の整理
  • ボソン場とボース-アインシュタイン凝縮
  • エルゴード性・エルゴード分解・OS-正値性
  • 南部--ゴールドストーンモードに関する整理
  • 朝永-ラッティンジャー流体と一次元フェルミ流体

大体は何となく知っている話を少し深掘りしたり整理するのがメインです. ただ南部・ゴールドストーンはほとんど知らないため何となく雰囲気が掴めるようにしただけで内容の精度はかなり怪しく, 朝永-ラッティンジャー液体に至っては勉強のために概要を解説させただけで, どの程度適切か全く判定できません. 朝永-ラッティンジャー液体に何故注目したかは後述します.

ファイバー束と相転移での定ファイバー直積分

前々から知っていたにも関わらず, 最近ようやくゲージ理論とファイバー束の対応という良く聞く話が腑に落ちました.

新井先生の『量子統計力学の数理』にもあるように, ボース-アインシュタイン凝縮では $\mathrm{U}(1)$-対称性(と凝縮体密度)による大域ゲージの議論があります. 面倒なため以下では凝縮体の密度の分は無視して議論します.

特にマクロなゲージ以外の要素は共通なため, 実際に実現する系はどれか一つではあれど, 全系として $\mathrm{U}(1)$-成分の連続的な重ね合わせを考えるのが自然です. この連続的な重ね合わせは線型代数の直和の連続版として直積分と呼ばれています. 一般に線型代数での直和は様々な線型空間を直和できます. しかしゲージの分の自由度だけの違いを反映させるにはマクロ変数以外全て同じ「状態のヒルベルト空間」を直積分するべきでしょう. こうしてボース-アインシュタイン凝縮を記述する定ファイバー直積分が得られます.

ゲージ理論では局所ゲージを考えるためもっとややこしいです. 直和・直積分ではなく多様体的なねじれた統合法が必要で, ファイバーも(無限次元)線型空間ではなく多様体に一般化します. 多少なりとも物理のゲージ理論を知っていて, ファイバー束程度の幾何を知っていて, 学部三年水準とは言えボース-アインシュタイン凝縮もある程度きちんとわかっている人間, 世界で言えば一定数いるはずではあるものの, 私のメルマガ読者にどれだけいるのか, こんな話をしていていいものかと思いつつ今まさにやっていて気付いた話として書いておきます.

ちなみに作用素環側でも適切な直積分分解が得られ, 特にフォン・ノイマン環の中心による中心分解が現れます. 先日から議論している Klein-Landau 論文または Derezinski-Gerard の教科書では作用素環-確率論対応があり, 確率論側では測度のエルゴード分解が得られます. 「最近作った資料」にエルゴード性の議論があるのはこのためです. これらの論文・本にはそこまで踏み込んだ記述はなく改めて調べて整備しました.

関連して調べたというか ChatGPT 先生の御託宣なのですが, 物理系の文献ではボース-アインシュタイン凝縮(強磁性などの議論も?)を直積分的に議論することはほぼないようで, 「実際に実現されるマクロ変数の値のまわりで大きく揺らぐ」といった形で議論を定式化しているとか何とか.

マクロ変数を固定した系を直積分の成分として仮に成分系と呼びます. 新井先生の本にも書いてあるのですが, ここで注目すべきは成分系は当然 $\mathrm{U}(1)$-ゲージ不変性を持たない一方で, 時間的・空間的な混合性を持ちます. 作用素環の言葉では混合性は大まかにクラスター性と呼ばれます. 一方で直積分して全マクロ変数を重ね合わせた状態はほぼ定義によってゲージ不変性を持つ一方, 時間的・空間的な混合性が破壞されています. 作用素環の言葉ではクラスター性が崩壊します.

大まかに言うとクラスター性の成立は非対角長距離秩序(ODLRO)の消失を表します. (厳密にはどういう範囲でクラスター性が成り立つかを議論する必要があり, 少なくとも ChatGPT 5.2 に聞くと適切に答えてくれます.) 相転移に関連した自発的対称性の破れでは, ふつう自発的対称性が破れているとき, 混合性は破壞されているべきで, 適切な設定のもとで作用素環的なクラスター性も崩壊しているべきです. これの何が問題かというと, 先程ふつう物理で議論するのは実際に実現するマクロ変数が指定された成分系・成分状態で, 直積分された状態ではないと言った部分に直撃します. つまり物理で議論している成分状態を杓子定規に・数学的に解釈すると非対角長距離秩序を持たないのです.

もちろん上に書いたように適切に理解すれば矛盾はありません. ボース-アインシュタイン凝縮の発現によってゲージ成分の重ね合わせが起き, その状態は適切な意味でのクラスター性の崩壊によって自発的対称性の破れが起きています. いわば観測前の状況で $\mathrm{U}(1)$-ゲージに関する自発的対称性の破れが起きていて, 実際に実験的に観測された状態はまた別です.

面倒と言えばさらに面倒なのは, これと例えば強磁性的な長距離相関です. 強磁性体は可観測量であるスピン相関の対角的長距離相関が問題で, 非対角長距離秩序とはまた別枠です. これは Dyson-Lieb-Simon による三次元ハイゼンベルク模型での強磁性などをきちんと調べないといけなくて, 学生時代から今にいたるまで自分できちんと細部まで議論を追い切れていない部分です. いつか必ず挑戦したいところですが.

凄まじく長くなったため今回はこれで終わりますが, この辺を改めて ChatGPT に整理させつつ理解を固め直しているのが「最近作った資料」です.

朝永-ラッティンジャー液体

いまの軸はもともと修士の専門(と言いつつ実際はほぼ作用素論しかできなかった)だった作用素環に加え, 汎関数積分(いわゆる経路積分)の議論を進めています. ボソン系に対するブッフホルツのレゾルベント環を利用した作用素環での具体例の議論を進めていて, ブッフホルツはどうも物性系, ボース-アインシュタイン凝縮に特に注目しているようです. 私も他の参考のために自由ボース気体のボース-アインシュタイン凝縮に関して, 新井先生の本のワイル環による記述をレゾルベント環に書き直す部分と, この汎関数積分的定式化のノートを書いています. さすがに自由ボース気体だと当たり前すぎるからか, ブッフホルツと共著者もきちんと自由ボース気体の話を書いていないため, 論文にはならずともノート作成・公開には意味があると思っています.

レゾルベント環の応用として詳しく調べるために取り組みやすい系を探しています. ボース-アインシュタイン凝縮は一番取り組みやすい例で, 他には場の理論の簡単な模型は相転移の代わりに赤外発散による特異性検出に関連する議論ができ, ブッフホルツもやっていなさそうなためちょうど良い塩梅です.

この中で他にも比較的簡単で非自明な系が何かを探していたら, フェルミオン系のボソン化としての朝永-ラッティンジャー液体の議論が出てきました. レゾルベント環をはじめ, 代数的場の量子論(AQFT)の議論のいくつかの概念の非相対論版の定式化・検証のような趣もありそうで, ちょっとやってみようと思ったのです.

ちなみに文献を表面的に追うだけで, 朝永がまず提示したあと, 関係する模型としてラッティンジャーが提示した関連する模型・議論があり, その穴をリーブとマティスが埋めたとしてボコンとリーブが出てきてびっくりしました. ラッティンジャー液体は名前しか知らず今回はじめて調べたので. AKLT 模型や Temperly-Lieb 代数など可解模型にも尋常ならざる業績があるのは知っていたものの, 私の守備範囲だとどちらかと言えば厳密解を持たないところにも剛腕で切り込む感じが強かったため, 昔から可解模型でも世界トップランカーだったのかと改めて衝撃を受けました. 本当に私が興味を持つほぼ全ての領域でリーブが出てきます.

これも今回改めて調べたためにはじめて知ったのですが, 有名な本「共形場理論と1次元量子系」の領域でした. 個人的な衝撃ポイントは指導教員であった河東先生の守備範囲との微妙なオーバーラップです. 河東先生は紆余曲折あって部分因子環論の切り口から AQFT に辿り着き, 特に作用素環的な共形場で強烈な仕事があります. 特に作用素環的な共形場と頂点作用素代数的な共形場の同値性確立も大きな仕事の一つです. 私はいわばここに作用素環的な構成的場の量子論・厳密統計力学の観点から, 作用素環と確率論の翻訳を中心に突撃しようとしています. こんな形で指導教員と似てくるとは想像もしていませんでした.

ちなみに指導教員の指導教員という筋では竹崎先生の冨田-竹崎理論は学生の頃から今に至るまで毎日お世話になっていて, 学部時代の筋で言えば指導教員の指導教員の指導教員が加藤敏夫で, 加藤-レリッヒの定理に日々お世話になっています. 魔族大隔世的に上の人達の学恩で生きている感.

ちなみにラッティンジャー液体ではくり込み関連の厳密な議論もあって, くり込みも一回きちんと具体例をゴリゴリに取り組むべきだと思っていたのもあり, 最低限やろうと思っていた筋を書き切ったらこれをやろうと思っています. ラッティンジャー液体の作用素論的な議論は既にあるものの, いま読んでいる論文では「自己完結的に留めるため作用素環は利用しない」とはっきり書かれていて, 少なくとも著者の Langmann の文献リストを見る限り Langmann はやっていないようでした. やっているにしても恐らく今私がやっているレゾルベント環での議論ではないと思うので, 書き直しもそれなりに意味があるのではないかと思っています. 書き直しごときが学術的に意味があるかと言われると怪しいものの, 最終的には一般市民なので知ったことかという部分ではあるので.

AIまとめ:ボレル測度・ベール測度・ラドン測度

ちょうどいま汎関数積分で確率論を駆使しています. 最低限は勉強したつもりでいたものの, 確率論・測度論としてはどう考えても基本的な議論を全く知らないのが明白になっています. いちいち勉強しているわけにもいかないため, 必要に応じて証明までつけるなり, 言明だけ記録するなりして対処しています.

ここでもやはり ChatGPT とやり取りや Derezinski-Gerard 本を参照する中で, 明らかとされているか, 「〜の定理によって」とある部分を ChatGPT 自身に追加で質問したり, NotebookLM に突っ込んで関連する定義まで含めて参考資料集としての「現代数学探険隊」を充実させています. 現代数学探険隊, 書き方の問題に加え, iPhone でも読みやすくするために A5 で作っている事情もあって, いまはもう 20000 ページを越え, 相互参照は 12000 程度あります. コンパイルにおおよそ一時間かかります.

話を戻します. 一つの例として ChatGPT に作らせたボレル測度・ベール測度・ラドン測度のまとめ資料をさらに簡潔にしてここに載せます. Klein-Landau または Derezinski-Gerard にベール測度が出てきて, 普段ボレル測度・ラドン測度はよく利用するもののベールは名前しか覚えていなかったためその復習です.

まずこれらが何かというと, 位相空間上に位相との整合性がよい加法族・測度を構成したいという欲求があります. 非数学勢に何故そうしたいかと言われると困りますが, これは数学・解析学としては構造間の整合性問題としてごく自然な欲求です. 位相群・リー群のように群かつ多様体なら群の演算にも連続性・滑らかさを想定したいのと同じです.

まずボレル測度とラドン測度はボレル加法族上で定義される測度で, ベール測度はベール加法族上で定義される測度という違いがあります. ボレル加法族は単純に開集合系から生成される加法族で, ベール加法族はもとの位相空間からの実連続関数の全体が生成する加法族です. ベール加法族は明示的に位相空間との相性がよい関数の積分論を目指して定義されているとも言えます.

加法族の問題がクリアできたため, 次は測度の違いを考えましょう. ボレル測度・ベール測度はそれぞれボレル加法族上の一般の測度, ベール加法族上の一般の測度を指す言葉です. 測度であること以上に何の制約もありません. 一方でラドン測度は単なる測度ではなく, 局所有限性・正則性という位相とも関連する強い条件を課します. 特にリース-マルコフ-角谷の定理によって, 局所コンパクトハウスドルフ空間上の連続関数環上の連続かつ有界な線型汎関数とラドン測度の対応という極めて強く重要な結果があります. この定理でわかるように, 局所コンパクトハウスドルフ空間のような良い空間ではベール性とボレル性に交点が生まれ, それを拾う概念がラドン測度と言っても構いません.

他には可分な距離空間上でベール加法族はボレル加法族であるといった議論もあります. 可分な距離空間と言うと数学科としては学部一年レベルで大した空間ではないと思うかもしれませんが, 可分なヒルベルト空間は無限次元も含み, 特に物理で現れるルベーグの意味で二乗可積分な関数の空間も含むため充分な実用性を持つ定理です. 他には完全正則空間での緊密なベール測度の一意的ラドン拡張のような定理もあります. 少なくとも私の守備範囲では完全正則空間はふだんほとんど使いません. (位相空間としてはもっと強い性質を持つ空間しか使っていないからです.)

このあたり, 今の私ならきちんと読めば間違いなく理解できる領域ですが, さすがにいちいち詰めていられません. もちろん「やればできる」, 「正しそうだから証明を精査しなくても問題ないだろう」のような感覚を持てる程度には鍛えてきたのは強く影響しています. このあたり, AI を数学に利用するための底力なのだろうとは思います.

今週の雑に眺めた文献

  • [Submitted on 2 Sep 2004] Ward identities and Chiral anomaly in the Luttinger liquid Giuseppe Benfatto, Vieri Mastropietro https://arxiv.org/abs/cond-mat/0409049
  • [Submitted on 17 Feb 2005] Rigorous proof of Luttinger liquid behavior in the 1d Hubbard model Vieri Mastropietro https://arxiv.org/abs/cond-mat/0502415
  • [Submitted on 21 Nov 2005 (v1), last revised 25 Jul 2009 (this version, v4)] Massless scalar free Field in 1+1 dimensions I: Weyl algebras Products and Superselection Sectors Fabio Ciolli https://arxiv.org/abs/math-ph/0511064
  • [Submitted on 28 Feb 2009 (v1), last revised 14 Apr 2010 (this version, v3)] A 2D Luttinger model Edwin Langmann https://arxiv.org/abs/0903.0055
  • [Submitted on 15 Mar 2013] Universality of one-dimensional Fermi systems, II. The Luttinger liquid structure Giuseppe Benfatto, Pierluigi Falco, Vieri Mastropietro https://arxiv.org/abs/1303.3684
  • [Submitted on 23 Feb 2015 (v1), last revised 2 Jul 2015 (this version, v2)] Symmetries, Symmetry Breaking, Gauge Symmetries Franco Strocchi https://arxiv.org/abs/1502.06540
  • [Submitted on 6 Mar 2015 (v1), last revised 3 Dec 2015 (this version, v3)] Construction by bosonization of a fermion-phonon model Edwin Langmann, Per Moosavi https://arxiv.org/abs/1503.01835
  • [Submitted on 29 Sep 1995] One-Dimensional Fermi liquids Johannes Voit https://arxiv.org/abs/cond-mat/9510014
  • Thirring, 1968, On the Mathematical Structure of the B.C.S.-Model II
  • Thirring, Wehrl, 1967, On the Mathematical Structure of the B.C.S.-Model

2026-01-18 CLI翻訳は革命では:相転移プロダクション

今回のテーマ

記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にもまとめています. 今回の内容は次の通りです.

  • CLI翻訳でQOL爆上がり
  • AI補助の数学:議論の詰め方
  • AI補助の数学:具体例を作ってもらう
  • AI補助の数学:本を検索してもらう
  • AI雑感:声系の人の現状認識から
  • Buchholzの論文
  • 方針変更:Derezinski-Gerardの本がよい

メルマガページへのリンクは次の通りです.

CLI翻訳でQOL爆上がり

前回報告した CLI による翻訳をさっそく大量に実用しています. 特にレゾルベント環に関する Buchholz のプレプリントを翻訳して読んでいて, 明らかに流し見の速度・精度が上がっています. ある程度まで技術的詳細にも踏み込む必要がある局面も多いため, NotebookLM などの単なる要約ではどうしても不満がずっとあったのですが, 凄まじい改善を見せています.

NotebookLM も複数プレプリント・論文を突っ込んでからの比較検討させつつの検索利用がかなり具合が良く, 勉強が異様に捗ります. Leggett のスピン-ボソン模型のレビューなども arXiv にあげてくれないか (TeX ソースそのままほしい) と思っています. 「この本に書いてあるのは覚えているが何ページの定理何番か」「真面目に読んだことはないが, 網羅系のこの教科書には絶対書いてあるはずだから探させる」というのも非常に便利です. 先日も書いたように, もっと初学の段階なら, ある本・PDFを読んでわからなかったときに他の本でどう書いているか比較検討させるのにも便利でしょう.

まだ Gemini2.5 flash しか使ったことがなく, 使うときも Claude に gemini -p を利用して相談相手に使わせるくらいしかなく, Gemini, ひいては Google 系 AI の実力を把握しきれていません. しかしやはりもとが検索系サービスだから, NotebookLM のように情報源を明確に指定した上でそれを分析させる能力はかなり高いのではないかと思います. 少なくとも ChatGPT よりは遥かに良いです:資料の PDF を渡しているのに存在しない定理番号・内容の定理を紹介してきます. さらについでに言うと, 少なくともちょっと前まで Claude は数百ページの PDF を読み込ませると量が多過ぎると怒られたため, 比較対象でさえありません. Claude は現状プログラミングでは一番良いと思うので, 道具の使い分けが重要です.

AI補助の数学:議論の詰め方

実験も兼ねて, ボース-アインシュタイン凝縮が起きる場合の作用素環的記述と汎関数積分的記述に関して, とりあえず ChatGPT に記述の大枠を書かせて, それを詰める形で進めています. ある程度の段階で異常なことしか言わず, 埒が開かなくなったため, 改めてこちらで大枠を書き直しつつ進めています. 最初に書いた内容は本当に話にならないものの, 適切な定式化に向けたヒントにはなっています.

博士すら出ていない私でも議論できる程度の内容で難しくはないものの, きちんとした文献として書いている人がいないか, 遥か昔で埋もれているかのどちらかのような気配があります. 上で書いたようにまだ細部がずたぼろのため, きちんと詰めたら公開します. 間違いだらけのコンテンツを公開するわけにもいかないので.

物理としては場の量子論・統計力学で頭がおかしくなるほど人口が多い分野でも, 数学として議論している人がほぼいない分野です. 正確には別アプローチなら様々な形で参画している人は増え, 場合によってはそれなりの規模の分野とさえ言えるものの, 作用素環・確率論を並行で処理する人がほぼいません. どういう方向で取るかにもよりますが, 私がいま頑張って計算しているレゾルベント環を利用した場の量子論または統計力学だと, 実質提唱者の Buchholz 一人ではないでしょうか. もちろん共著で論文を書いている人は何人かいるのですが, どうも Buchholz 含めボース-アインシュタイン凝縮回りの議論に集中しているようで, 私の好みの非相対論的場の量子論での赤外発散処理への応用を考えている人はいそうにありません.

話が逸れたので数学と AI 関係に戻しましょう. ちなみに, 少なくとも私の実践として面白いのは, AI (主に ChatGPT) に PDF を読み込ませて指摘させると, 指摘の箇所は正しいものの, その内容がまるでピント外れという場合に大量に出会います. 間違っていたりギャップがあるのはわかるようですが, その修正方針がだいたいおかしいです. どうすると良くなるかはわからなくても間違いの箇所がわかるのはそれはそれで凄い話です.

AI補助の数学:具体例を作ってもらう

自由場のボース-アインシュタイン凝縮の関係で可積分ではなく, フーリエ変換可能だが原点でフーリエ変換が発散する関数が必要になりました. ボース-アインシュタイン凝縮は波数空間での原点での特異性を拾う現象だからです. 頼んでみたらさっと簡単な例が出てきました. 特に三次元では$f(x) = 1_{|x| \geq 1} / |x|$という例があります.

この関数は本当に出来が良く, 可積分ではないものの全ての$p > 1$に対して$p$乗可積分で, 全ての点でフーリエ変換が定義されていて, 原点での対数発散までわかっています.

解析学専攻なのに自分で作れないのかとは思う一方, 前は一生懸命考えたり, 頑張って検索して mathoverflow を漁ったりして苦労していたのを思うと便利になりました. 数学の勉強で「これどういうこと?」というときに具体例がほしくなるのはよくあります. もちろんこれも時々とんでもない異常な答えを返してくる場合はあり, 確認の能力を鍛える必要はあります. それでもネットで探すよりは格段に効率がよいです. そもそも mathoverflow などネットでも探せるようになった少し前の時代でさえ本当にすごいと思ったものですが, それを遥かに越えています.

AI補助の数学:本を検索してもらう

同じく自由ボース気体の数学的な詰めで ChatGPT のいい加減な議論をタコ殴りにしていて, ようやく正しく修正されはじめたところで確率論の定理が出てきました. ロホリン-フォン・ノイマンの分解定理とかいう定理です. 「この定理を詳しく議論しろ. 詳しく議論されている本があれば挙げろ」と言ったところ, 手持ちの本を挙げてきました. 案の定ページ数や定理番号が滅茶苦茶なため, NotebookLM で検索したところ正しい節・正しい定理番号がわかりました.

結局は名前だけは知っていて中身を全く知らなかった正則な条件つき測度の議論だとわかりました. どこでどう使うのかとずっと思っていたら, 学生の頃から知っている作用素論・作用素環的な直積分(線型代数にも出てくる直和が連続的になっただけ)に関わる議論を確率論に引き写したら出てくる概念で, 「お前だったのか」という感慨があります. 汎関数積分(経路積分)の議論のために確率論ももっときちんとやらないといけないのですが, もはやなかなか時間が取れません. 学生の頃にもっとやっておけばよかったと後悔しきりです. そうは言ってもその時々で必要な勉強を最優先できっちりやっていたとは思っていて, ないものねだりではあるのですが.

AI雑感:声系の人の現状認識から

数学・物理とは全く関係ない AI 系のコミュニティに属していて, そこ向けに書いた文章です. 軽く雑感を書いた上でどうも気に食わないため, ChatGPT と二時間くらいやりとりしてまとめました. 途中で主要なメッセージが勝手に消されたり, ブチ切れながらやりとりした結果です. 私の雑感が全て盛り込まれているわけでもなくやや不満ですが, 有識者から見た賛否というより正に私の今の雑感です.

いわゆるクリエイティブ、音声系の人の現状認識が流れてきたのでそのシェアと私の雑感です。異様に長くなったので必要に応じて適当に読み飛ばしてください。

音声系ではいわば「正確系」が AI の領域になりつつあるように見えているようです。一方で、実務寄りの IT 系を見ると、AI は精度をある程度犠牲にする代わりに大量の処理や生成を淡々とこなす、いわゆる面攻撃が得意で、ピンポイントな正確性が求められる部分は現時点で人間の領域に残っているとよく言われます。

一見すると逆のトレンドのようですが、実際には本質は同じだと考えています。もともとコンピューターの強みは高い精度で定義された入力に対して正確かつ淡々と処理を実行し続ける点です。金融や基幹系のように一円のずれも許されない世界ではこの性質が決定的で、従来型の計算機やプログラムが今も中核を担っています。ただし正確な動作の源は入力の精度の高さです。仕様や指示が曖昧ではプログラムが組めず仕事をさせられません。正確な結果を得る以前に動作させる、ただそれだけのためにも高精度な指示・仕様が必要です。これに対して近年の AI は設計思想・役割・立ち位置が違います。AI は指示の精度に応じて処理や生成を進めて一定の結果を返します。指示の精度を上げれば成果物の精度も上がる一方、正確性は保証されません。いわば曖昧な入力から生まれる成果物のブレを許し、仕事の範囲を大きく広げるための仕組みが AI で、コンピューターの役割が拡張されたとみなせます。

さらに重要なのは AI によってコンテンツ制作そのものの初期段階、すなわち叩き台を作る力が追加された点です。単なる効率化ではなく、できる仕事が増えた質的な変化です。プログラミングでも、仕様策定や設計の段階では叩き台が必要です。従来は人間が考えて手を動かして最初の形を作るしかありませんでした。しかし現在では AI によって叩き台を素早く作り、それを人間が精査・修正しながら仕上げる進め方が現実的になっています。特に小規模なプロジェクトでは企画の段階で企画者が一週間以内にプロトタイプのシステムを作るスピード感で動いている事例も聞きます。極端な場合は企画者自身が一人のプログラマーで、プログラマーと AI の「二人」体制で一気に進める方が良い場合もあります。

音声の正確系の仕事でも構造は同じです。従来、音声そのものの叩き台を作るには素人の依頼者が自分で話してみるか、最初からプロの声の人に依頼するしかありませんでした。まさに帯に短し襷に長しの状況です。AI によって音声の叩き台を簡単に作れるようになってこの状況が変わったのでしょう。用途によっては叩き台のままで十分な場合が出てきて、少なくとも「最初の形」を低コストで用意できるようになりました。音声の質が不要になったのではなく、叩き台を作るために専門家を呼ばなくても済む状況が生まれたという変化です。もちろん演技系の音声の仕事では事情が異なります。正解が一つではないにせよ、個々の正解に対してはピンポイントアタックに近い精度が必要で、わずかなズレが致命的です。この領域では叩き台だけでは不十分で、専門家としての声の人が持つ判断力と専門性が不可欠です。

つまり音声でも IT でも起きている現象は本質的に同じです。品質保証や最終判断は人間が引き受け、コンピューターは適切な指示の粒度・精度のもとで淡々と仕事をこなして成果物を作っています。音声ではコンピューターで作れる成果物自体に質的な変化が生まれた上でコスト面にも大変革があった点が人への影響の大きさに現れています。

AI 活用で本当に重要なのは「AI が人の仕事を奪うかどうか」ではなく、どの工程で、どの程度の精度が必要で、そのために誰が何を引き受けるのかの冷静な切り分けです。音声でもプログラミングでも入力に応じて得られる出力が変わるわけで、入出力する対象が色々変わっているだけです。どちらも同じコンピューターにやらせる仕事である一方、従来のガチガチの言った通りにしかやらない代わりに淡々と正確に仕事をする計算機的世界観と、よく言えば柔軟で悪く言うと人間のようにいい加減で指示を無視さえする AI 的世界観があり、後者の世界観が大きくなるのは確定な一方で落とし所がどこになるかは私は全く見えていません。

Buchholzの論文

以下はガチガチの数理物理の話です. 自分の記録代わりです.

これからワイル環の代わりにレゾルベント環を使おうと思っています.

CLI翻訳があまりに便利でBuchholzの関連論文(プレプリント)が爆速で眺められるようになったため, いま軽く眺めつつ少しずつ理解を深めています.

全部きちんと読み切ったわけではないものの, 夕方以降など仕事に差し障りがない時間で翻訳処理を回しています. レゾルベント環に関する Buchholz のプレプリントを雑に眺めています. 雑に眺める上ではやはり日本語が楽でよいです.

方針変更:Derezinski-Gerardの本がよい

自由ボース気体のボース-アインシュタイン凝縮はもう遥か前から作用素環で極めて明快に書けています. 先の Buchholz よろしく, モデルケースとしての役割がある事情もあって, まだこの周辺で色々やる動きはあるものの, 大枠の理解としてはもはや言うことはありません.

ただ, 私の趣味として数学的なよい表現の系列の模索, 計算に便利な汎関数積分(経路積分)も一つの表現という観点から, 今まさに自由ボース気体の汎関数積分的な定式化を進めています. 関連研究はあるようですが, 私の望む形(作用素環的な中心分解をそのまま引きうつす)ではないため, とりあえず自分で書いています. 職業研究者でもなく, かぶっていても文字通りの致命的な問題ではないので.

それで確率的な定式化・汎関数積分(経路積分)に関して Klein-Landau の論文を紹介しましたが, 間違いがあったり, ボース-アインシュタイン凝縮の直積分の確率論移植であまり嬉しくない定式化の部分もあり, どうしたものかと考えていました. その中で Derezinski-Gerard の比較的最近の教科書(初版が 2013 で, 2022 に reissued)がかなり良いです. 690 ページ程度あるものの, 関数解析・作用素論に加えて作用素環・確率論まで論文が読めるようになるレベルでカバーされています. 少なくともいま私に必要な記述, もっと言えば Klein-Landau で洗練させる必要がある部分がまさに整理されていました.

Klein-Landau 論文は Chapter V, さらにはその議論の基礎になっている鏡映と条件つき期待値の等式が間違っています. この間違い自体は「これ成り立つか?」と ChatGPT とやり取りしていて, たぶん一般にはこんなのは成り立たないはずという結論になっていました. この間違っていた部分がβ-マルコフ経路空間として明確に仮定として設定されています. 他にも私がほしい以上, 彼らも当然ほしい議論のはずで, 実用的な定式化・具体例の議論もあります.

Buchholz はもう 80 で, 変な話いつ亡くなるかわかったものではありません. 早めにそれなりの体裁を持つ文章として仕立てて arXiv に上げて, 「こんなことを考えているのだが」と具体的な形に仕上げた上でメールでコンタクトしたいですね.

2026-01-11 ChatGPTは数学の論文を読むのにも役立つ:相転移プロダクション

今回のテーマ

記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にもまとめています.

  • 雑感
  • NotebookLM:検索に使ってみた
  • AI利用:CLI を利用した翻訳
  • 摂動的代数的場の量子論
  • 作用素環的な定式化:$C^{\star}$-環とフォン・ノイマン環の使い分け
  • AI利用:研究状況調査
  • AI利用:変な翻訳事例
  • 理論物理の研究でAI利用が難しそうな理由:近似の処理
  • AI実用論文読解:Klein-Landau論文での荒木-ウッズ表現での生成条件検証
  • 文献メモ

メルマガページへのリンクは次の通りです.

雑感

先日のメルマガで何人かの方からコメントを頂きました. 面白かったため直接返信もしたのですが, いくつか一般的に共有しておくと良さそうなこともあるため, それもシェアします.

今回はかなり長くなりました. 自分の日記がてら今週の数学的活動をかなり詳しくメモしたからです. ChatGPT に作らせた参考文献とその紹介の転記など, あまりにも面倒で書いていない部分もあります.

今週の主な活動はだいたい次の通り.

  • 自由ボース気体のボース-アインシュタイン凝縮の記述の整理
  • 基本的に新井朝雄先生の量子統計力学の数理にある程度書いてあるものの, これはワイル環でのやや中途半端な記述に留まる. これをレゾルベント環を利用した上でさらに精緻な内容にした. 自由ボース気体の議論だから物理的にはほぼ何も新しいことはなく, さすがに数学的にも追加の議論の余地はない. ただ, 世間にきちんと文献があるかどうかと言われるとそうでもないようで, とりあえずノートを書いた. 既存の文献・論文で記述しきれていなさそうな現象もあるため, ノートを整理したら関連ある著者に送りつける蛮行に及ぶ予定. そのための整理の中でどうしても自由ボース気体のボース-アインシュタイン凝縮の数学的に厳密なノートを作る必要に迫られたのでやっただけ.
  • 関連する模型の調査
  • もともとやりたい模型がいくつかある. 例えば自由ボース気体の議論がある程度ファン・ホーフェ模型(高橋康, 『物性研究者のための場の量子論1』では固定湧源模型として記述があったはず)に適用できる. このための基礎づけが先の話. これに加えてウィグナー-ワイスコップ模型・スピン-ボソン模型・ネルソン模型・一粒子のポーラロン模型・パウリ-フィールツ模型も考えたい. まずはウィグナー-ワイスコップ模型とスピン-ボソン模型に挑む必要があるが, この時点で既に数学的には吐くほど難しい. これに関連した数学的・物理的な基本的知見を少しずつ詰める. 関連して名前だけであまりよく触れたことがなかった回転波近似なども ChatGPT 先生に簡単に解説してもらう. ある程度の基礎はあるため, ピンポイントの知識を勉強するために ChatGPT は本当に役に立つ.

興味があるところだけ読んでくれればよいのですが, それでもはじめの二つ, 「NotebookLM:検索に使ってみた」と「AI利用:CLI を利用した翻訳」は比較的一般的に使えるはずで, ぜひ目を通してほしいです.

NotebookLM:検索に使ってみた

フォン・ノイマン環の直積分分解に対する定理の検索に使ってみました. 直積分分解は難しくて学生の頃に挑んで完全敗北していて理解どころか概要すら掴み切れていません. 聖典 Bratteli-Robinson のどこかに書いてあったとしても全く覚えていません. ChatGPT に聞いて定理番号を挙げさせても該当番号の定理は全く違う内容でした. そこで NotebookLM に PDF を突っ込んで検索させました. はじめて NotebookLM の使い方(の一つ)がわかった気になりました. Google のサービスだからか検索力は極めて高いように思います. ChatGPT だと PDF を食わせて調べさせても平気で嘘をつきます.

私の場合は研究者自体が少なく, 教科書的な文献も多くないため特に便利です. 勉強目的でも, ネットにある複数の, 特に英語の教材 PDF を突っ込んで知りたいことをピンポイントで比較させるといった活用法もありえます. 数学・物理でなくても突っ込んだ資料の比較・検索には十分使えるでしょう.

AI利用:CLI を利用した翻訳

口先だけであっても研究にシフトするとなると, のんびり勉強していては目的地に到達できません. 論文ものんびり読んでいるわけにはいかない一方, 改めて基本的な勉強(知識の詰め込み)も並行して進める必要があるため, 現状では少しでも早く目を通せる日本語訳を簡単に作れるのは重要です.

一応 Google 翻訳で PDF を叩き込んで雑に訳させる方法もあります. ここでは arXiv のプレプリントに対して TeX Source で TeX ファイルがダウンロードできる前提で, これを Codex または Claude Code に翻訳させる方法を紹介します. 別に難しいことはなく, Codex や Claude Code 自体に「日本語としての完璧さではなく, 最低限意味が通ればよく, わからなくても原文を読めば十分だから, そこそこの精度でスピーディーに訳を作れるようにする指示書を作って」と言って, その指示書で Codex や Claude Code に TeX を翻訳させるとよいです.

私が作らせた上でいくつか修正した指示書を貼っておきます.

長くなるためここには書きません. 興味があればダウンロードして使ってみてください.

70 ページあるレビュー系のプレプリント, 124 ページある博士論文を翻訳させているためかなり時間がかかっています. Codex だとかなり細かく処理を停止させてきて, 都度「次に進めなさい」と指示するだけの再命令を出さざるを得ず, 余計に時間がかかりました. Claude Code で試したところ, いいのか悪いのか, 124 ページの博士論文の翻訳を止まらずに二時間近く走り続けてくれています.

最近のプレプリントなら arXiv 側で HTML で表示する実験的機能があり, これをブラウザの翻訳機能で読むのが一番手っ取り早いでしょう. ブラウザの翻訳はかなり滅茶苦茶で極めて読みにくいですが, まずは概要だけ把握して細部は英語原文, または自分で再現という方向で読むならこれも一定の効果があります.

摂動的代数的場の量子論

まず前者で, 読む前に NotebookLM に読み込ませて概要を把握してみました. 要約を読むのがとにかく下手なのでどうするといいのかいまだにわかっていません. 結局軽く全体を眺めました. 曲がった時空上の相互作用の理論の定式化で, 圏をバリバリ使っています. 摂動的というからもっと解析的なのかと思ったら全くそんなことはなかったのでびっくりしました. homotopy AQFT のような言葉さえ出てきます. ベクトル束などの定式化も基本的なところにあり, そういう意味では多少なりとも趣味として幾何や代数をやっていて良かったのかもしれません. 考えている対象からして当然なのかもしれませんが, 幾何幾何しすぎていてあまり好みではないです.

後者は少し眺めつつ, 学生の頃から気になっていた作用素環によるQEDの定式化を少し調べました. pAQFTは今でも私の懸案である赤外の処理といった部分を意図的に排除した議論らしく, それだとあまり嬉しくありません. 曲がった時空の議論が主な対象で, 私にとって不要な部分の数学の処理が面倒な割に欲しい議論がないらしいため, 興味がだだ下がりです. 章名からしてChapter6あたりが実際に摂動処理らしく, その辺だけ眺めることにしました.

局所的に議論できるところは拾えるものの, 確か ChatGPT に聞いたら赤外処理の話は原理的に不可能らしく, 本当に憤慨しています.

作用素環的な定式化:$C^{\star}$-環とフォン・ノイマン環の使い分け

単に量子力学を勉強してみたい, というくらいの人もいる中で基本的な量子力学の知識を前提とした上で, 作用素環で数学としてどうぶん回すかを説明するのが面白いと思える人がどのくらいいるのか問題はありますが, 二人くらいは面白がるだろうと思ったので簡単に書きます. この分野の人達は数学・物理を両方異様にできてそんなものは自明扱いされているようで, どこかに書いてあるのを見かけた記憶がなく, 最近私が計算していてようやく理解した話を書いておきます.

$C^$-環は(単位元を持つ)可換の場合にコンパクトハウスドルフ空間上の連続関数環と同型です. この意味で$C^$-環は非可換幾何のうち特に非可換位相幾何と言われます. これをもう少し量子論に即して言えば純量子性を記述すると言えます. 量子ゆらぎを連続関数の持つなまりになぞえられると, $C^*$-環のノルムは連続関数環の構造を自然に保つノルム, つまり純量子の世界を保つノルムで制御されています.

一方でフォン・ノイマン環は連続関数に対する上限ノルムの収束ではなく, 可測関数に対する各点収束を考える世界です. ここで大事なのは可測性のような過激な世界ではなく, ある集合の定義関数のような定数関数・不連続関数を含む点にあります. いわば射影による理想測定のような強い議論ができます. 理論的な扱いとして便利ではありますが, 理想測定のような現実にはありえないことまでできてしまうため, 本来見えるべきではない余計なところまで見えているとも言えます.

このフォン・ノイマン環の位相を考えると, 代数的場の量子論で$C^$-環が重視される理由が見えてきます. 上で書いた純量子性と書いたのもこの対比によります. 他にも自由ボース気体のBECに関連して, フォン・ノイマン環ではいわゆる位相の自由度が見えてしまう一方, $C^$-環ではどうしても位相が見えないことがわかります. これは色々あって必要に迫られて作用素環的な自由ボース気体の定式化を整理して得られた話です. 一部は新井先生の『量子統計力学の数理』に書いてありますが, 自由ボース気体だからもっと色々調べないと駄目だと思って追加計算したノートを作りました.

この辺はおそらく古い本や論文には書いてあるのだと思いますが, もう埋もれて見つけられない状況になっていそうな気がします. 先日X(旧Twitter)で「1970年代, 高次元の微分トポロジーの重要な成果が忘れられている」みたいな話が流れてきたのですが, それと似た話ではないかと考えています. 特にいま大学所属でもなく, 文献調査が全然できないため自力で整理しているところです. 新しい結果とは到底思えませんが, 書いてある文献が見つけられないため, ノートとして英訳して arXiv に上げる予定です. ノートは作用素環的に書いていますが, 汎関数積分(経路積分)でも書けるはずで, この数学的翻訳をいまやっているところです.

自由場は当然できているはずですが文献が見つからないのでノートを書きます. 汎関数積分ではBEC相転移がどう見えるかが問題です. 物理としてはわかりきっていても数学・数理物理としてはまだまだ大問題のはずなので.

AI利用:研究状況調査

上にも書いた摂動的代数的場の量子論と厳密なQEDの話はChatGPTに投げてみた結果です. 長くなるためいちいち引用したりはしませんが, 摂動的代数的場の量子論は代数的場の量子論の局所性を重視する心がかなり強く出ていて, 大域的な全環でようやく捉えられるタイプの現象を意図的に切り落とした議論とのこと. 一方で厳密なQEDで起きる赤外発散などの現象がまさに意図的に切り落とされた部分で, 赤外発散処理はいままさに色々計算していて知りたい部分です. それが落ちているらしいため激烈に萎えています. もちろん間違えている可能性は十二分に考えられますが, 少なくとも私のテーマに関わる数理物理的な最先端の最低限のところに改めて追いつくのが重要で, 何か違いそうという部分に時間を使うなら絶対に必要な部分を調査するべきです. というわけでこの方向の調査は一旦撤退です.

次はスピン-ボソン模型の状況調査をもっと詳しく追いつつ, ポーラロン模型あたりを狙っています.

AI利用:変な翻訳事例

せっかくなのでこういう事例も紹介します.

ChatGPT に雑に調査をさせていたら「翻訳不変」という言葉が出てきました. 詳細は覚えていませんが, 文脈から明らかに translation invariant で「並進不変」です. これから先はどうなるかわかりませんが, 少なくとも数学・物理で当面は最低限の英語は必須でしょう.

AI利用:問題作成と解答作成

コメントを頂いたのですが, 教員側で言えば問題作成に役立つようです. そしてこれは逆に学習側にも転用すると便利です. つまり適当に問題を作ってもらった上で, 解答も試しに作らせてみるのです. プログラムを書かせてAI作成の解答を検証するのもいいでしょうし, 間違えていそうなら壁打ちしつつ修正するのもいいでしょう.

研究者としてプロになろうというなら自力で解き切る力を鍛えた方がいいかもしれませんが, 私のメルマガをわざわざ読む人の大半はそのタイプではないでしょう. 教科書をじっくり読んで自分なりの理解を深めたい人の方が多いはずです. そもそも AI が完全に正しい議論をする保証もないため, はじめからどこかしらに間違いがあると思って熟読する方がかえって勉強になる場合さえありえます.

最近だと有名な久保統計の演習書の解答を作っている人がいます. これも AI 補助で作ってみて, 間違いがないか詳しく検討する形で輪読すると面白いのではないかとも思います. 物理でも数学でも既存の演習書があります. これに対して数値計算プログラムを書かせてみて理解を深めるといった方向も面白いはずです. 私が学生の頃は「数値計算なんて」と思っていましたが, 一時期実際に数値計算系の仕事もしたことがあります. プログラミング自体にも慣れていた状況で取り組んだのもあり, やってみたらとても面白かったです. 数値計算して遊ぶのが楽しいと思える人は本当にいいおもちゃです.

文章添削という話もあります. 文章と言えば論文を含めて語学力を鍛えるのは少なくともしばらくは極めて重要と考えています. いまどうなっているのかわからないものの, 一時期は AI とも英語でやりとりした方が回答力が上がるという話も見かけました. 他にもおかしな回答をしてきたときの自分自身での調査を含め, いまこそ国語・数学・英語の基本的な力量が求められているように思います. 実際に数学・数理物理系のやりとりをしていても, 明らかにおかしな日本語訳を採用している場合があります. 英語を知っていればそこから推測できる場合があり, 「---が何を指しているのか全くわからない. 英語で言い直せ」と書いたこともあります.

ちなみに実例としては前回も登場した Buchholz の別の論文で ideal(イデアル) を理想と書いてきたことがあります. 文脈的に明らかにイデアルしかありえないため突っ込まずに済ませましたが, 数学・英語の基礎知識がないとまだ厳しいです. 他には汎関数積分・確率論で hypercontractivity, supercontractivity, ultracontractivity と呼ばれる概念があり, ふつうの日本語だと hyper, super, ultra は全て一様に「超」です. これをどう訳し分けているか ChatGPT に調べさせたりもしました. このレベルの研究の文章になると英語そのままの場合も多く, 調査結果もそのようになっていた覚えがあります.

理論物理の研究でAI利用が難しそうな理由:近似の処理

ハルシネーションのような自明な問題は考えても仕方ないので省きます. 当然難しい部分は色々あるはずで, 物理(の研究)それ自体にはコミットしていないためよくわかりません. それでも難しそうな部分を考えてみるのは意味があると強弁して, いま考えていることを垂れ流します.

物理の核は様々な近似にあると考えています. 摂動論のような定型的な計算ならよく補助してくれるのかもしれませんが, どこでどのような近似を使うかに強く物理があります. 数理物理としてはある模型を厳密に議論しますし, 物理でもある程度までこのような手法はあります. 問題なのはその模型にきちんと物理が宿っているかどうかです. いわゆるイジング模型のような意味のある模型そのものをどう作るか, その何を調べると面白い性質が出てくると期待するのか, このあたりが極めて難しいのだと思います. 趣味で勉強しているときならまだしも, 研究ベースの興味としては, 私はまさにこの物理の面倒な部分を全部無視しています.

数学でも定型的な不等式処理ならかなりよく捌いてくれます. そして未知の本質的に新しい不等式を発見しろと漠然と指示しても無理です. かなり強く状況を限定して「こんなことが成り立つか例を考えてみろ」と言ったら何かしてくれる可能性はありますが. 様々な極めて非自明な等式もあるため本当にしょうもない話ではありますが, 物理は研究以前に単なる計算のいたるところに非自明な物理を載せる必要があり, 研究利用は本当に難しそうな気がします.

AI実用論文読解:Klein-Landau論文での荒木-ウッズ表現での生成条件検証

論文読解・具体例の構成に AI が役立ったと言われても, そもそも AI 利用自体に及び腰の人もいるでしょう. そこで私が実際に試した例を挙げて, どのくらいの内容に利用できたか事例を積もうと思います. 本来は細かい話まで書くべきですが, 転記が面倒なのでかなり雑に書いています.

重要なのは一発ではどうにもならない一方, とりあえず証明を書かせてみて「それは駄目だろうが」と突っ込み続けて頑張ると何とかなる場合があります. 少なくともヒントになる場合はあります.

もうほぼ50年前の論文で, 無料で PDF でダウンロードできます. 何をしている論文か大まかにいうと, 「The S-matrix is everything.」に代表されるある種の過激派がいたようです. 正確には「場の理論や局所的な力学を前提にせず, 観測可能量であるS行列を第一原理として理論を構成すべきだ」という立場です. 適当な期待値, 特に相関関数が計算できればどのような汚い手を使っても構わないという立場です. ある意味では数理物理がこれをど真面目にやっています. 期待値さえ与えられるならどんな数学を使って裏の理論を作っても構わないという意味で, 「どんな汚ない手を使っても」を実現します. この論文では相関関数を軸に, それを記述する等価な作用素環の理論と確率過程(汎関数積分・経路積分)の理論の対応を議論しています.

さらにマニアックな説明になってしまいかねないのですが, 私の指導教員である河東先生の仕事もかなりここと関連があります. 二次元の共形場理論を記述する数学はたくさんあります. 一時期はフィールズ賞が連発されていたほど深く広く数学に食い込んでいます. 河東先生の場合はもちろん作用素環からの立場でいろいろやっています. その中で頂点作用素代数による共形場理論の記述と, 作用素環による共形場理論の記述で, 互いに極めて一般的にやっているため完全に一致する可能性はほぼありません. しかし同じ対象を扱っているなら共通部分はあるはずで, 共形場理論を介して作用素環のある理論と頂点作用素代数のある理論が翻訳できるはずです. 河東先生はこの問題に対して大きく決定的な寄与をしています. 先の論文はまさにこれの作用素環・確率論対応を議論しています.

この中で作用素環的な定式化は論文内で確率正値的KMS系と呼ばれています. これの生成条件と呼ばれる条件が本質的で極めて厄介です. 一般論としては仮定でいいものの, 私が必要な実例ではきちんと証明する必要があります.

自由ボース気体で検証する必要があるため, それに関連して明らかな可換環の候補は自分で見つけ, 生成条件を検証しようと思ったのです. 実際に ChatGPT に相談しつつ出てきて整理した証明がありました. はじめはそれでいいと思ったのですが, 数日経って見返したら全くの無意味な文章の羅列で, 自分の目はこんなにも節穴かと衝撃を受け落胆しました. 問題があることだけ指摘してとりあえず修正させ, それもまだ間違っていたが大分よくなりました.

他でも使えそうな補題としてワイル環の強正則表現(一般的な言い方ではない)を出してきたため, 改めてノートに追加し, 他にも一般的な準自由状態の定義とワイル環で良く言及される準自由状態の乖離があるため, それに対する補題も(自分で)追加しました.

一方で最終的に整理した議論を確認させたら, 特に作用素の可換性に対して「これは追加の仮定が必要」という虚言を繰り出してきました. 「そんなわけがあるか」と無視していったん証明完了としています.

Klein-Landau論文は2013, または2022に追補されたDerezinski, Gerard, Mathematics of Quantization and Quantum Fieldsにも書いてあるようです. 論文で間違っていた節の内容はむしろ仮定が強化される形で掲載されています. おそらくこの論文に関する記述の部分だけでもこの本は読む価値があります. 特に定理21.65はKlein-Landau論文よりも強化されていて, 私がほしかった定理でもあり, とてもよさそうです. 私が目下具体的に書こうとしているファン・ホーフェ模型・スピン-ボソン模型で使えるかは一応確認しないとわかりませんが, 彼らはスピン-ボソン模型を一般化した模型を議論している人達で, 使えないような形の定式化で満足するはずがありません.

文献メモ

作用素論的くり込み群

リスト作成はChatGPT先生によります. 作用素論的なくり込み群RGをがっつりやるなら, (1) 1998 Adv. Math. → (2) 2003 CMP → (6) Sigal Les Houchesが, まずは全体像を掴みたいなら, (4) Fröhlich 2009レビュー → (2) 2003 CMPがよいとのこと. ちなみこのFröhlichは学習院の田崎さんが集中講義で「数理物理の神々の内の一人」と言った化け物で, 異様なくらい多方面で活躍している人です. いま79歳らしいのですが, 少なくとも2024にプレプリントは出ていて, 何でそんなに元気なのか恐ろしい人です. リーブも93歳でまだ論文を書いていて魔人にも程があります. まだ全て調べていませんが 古めの論文は無料でダウンロードできます. 新しめの論文も多分 arxiv にプレプリントがあります. あまりに不等式処理がハードで学生時代に挫折した手法で, 解析学の腕っぷし自体は衰えている関係上, 現時点での私を越える解析学的技量を持つ人しか読めないでしょう. 今は AI の補助が私の腕力の衰えを補助してくれる可能性があり, その意味では私程度の力があって全力を振り絞れば読める可能性はあります. 私はまず概要をおさえに行きます.

文献(4)を軽く眺めたところ, やはりいきなりこのハードアナリシスには突撃不能で行くべきではない感が強まりました. まずはウィグナー-ワイスコップ模型とスピン-ボソン模型で鍛えます.

  1. Bach–Fröhlich–Sigal, Renormalization Group Analysis of Spectral Problems in Quantum Field Theory (1998)
  2. 作用素論的RG(isospectral RG)の古典的基礎を、かなり自足的に展開する長論文です。 何を「RG写像」として定義し、どのバナッハ空間で収縮性を示し、どのようにスペクトル情報(固有値・共鳴など)を引き出すか、という骨格がここにあります。
  3. Bach–Chen–Fröhlich–Sigal, Smooth Feshbach map and operator-theoretic renormalization group methods (2003)
  4. smooth Feshbach–Schur mapを導入し、RGをより扱いやすく整備した中核論文です。 この系列を読めるようになると、Fröhlich らの「有効ハミルトニアンがスケールで流れる」議論を関数解析的に追いやすくなります。
  5. Griesemer–Hasler, On the Smooth Feshbach–Schur Map
  6. (補助的に)smooth Feshbach map そのものの代数・解析的性質の整理:
  7. Fröhlich, On Spectral Renormalization Group (2009)(レビュー)
  8. レビュー/講義ノートとして非常に読みやすい(全体像を掴む). 「スペクトルRGとは何か」を短めに俯瞰できるレビューです。導入として有用です。
  9. arXiv版
  10. Sigal, Renormalization Group and Problem of Radiation(Les Houches 講義ノート)
  11. 非相対論的QEDのスペクトル解析・放射の問題を軸に、スペクトルRGを解説する講義ノート(のちに Les Houches 講義録に収録)です。 「何をしたいのか」「どこが難所で、RGが何を解決するか」という直観が得やすいです。
  12. Bach, Continuous Renormalization Group Analysis of Spectral Problems(2013, arXiv)
  13. 追加の“方法論整理”/発展(流れの形式、連続RGなど). 離散スケールのRG写像だけでなく、より“流れ(flow)”として捉える視点の整理です。
  14. Chen, Infrared renormalization in non-relativistic QED and scaling limit…(2008)
  15. 適用例(特に赤外問題)として、isospectral RG がどう効くかをかなり具体的に追える論文です。

ユークリッド場・統計力学, ウィルソン流

有限レンジ分解, 安定多様体の議論が教科書的にまとめてあるらしい. ユークリッド場・統計力学の臨界現象まわり.

  • [Bauerschmidt–Brydges–Slade, Introduction to a renormalisation group method(2019)] (https://personal.math.ubc.ca/~slade/bauerschmidt_brydges_slade_book.pdf)

2026-01-04 博士号を目指そう:相転移プロダクション

今回のテーマ

式を含むこともよくあるため, 記事本体はアーカイブサイトへのリンク先にまとめています.

  • 新年のご挨拶
  • いわゆるAI利用
  • 研究へのAI利用
  • 去年の年末に作ったコンテンツ

メルマガページへのリンクは次の通りです.

新年のご挨拶

明けましておめでとうございます. しばらく書いていなかったため, そもそもメルマガがきちんと届く状況になっているかわかりませんが, メルマガを含めた生存確認として送ります.

自覚症状としての体調は全く問題なく, 仕事も退院後比較的すぐ再開できている程度です. しかし血の回復がいま一つです. 特に免疫抑制剤がいまだ止められないため, コロナのとき以上に不要不急の外出が禁止されています.

入院中はそれまでの継続で幾何・代数方面の数学で遊んでいました. しかし色々調べると, 一応ある程度の年齢を越えると急性リンパ性白血病の五年生存率は三割程度のようです. すぐに死ぬ気はせず死ぬ気もないものの, それで本当に死なないかどうかは別問題です. 博士号は足の裏の米粒と言いますし, いつ死ぬかわからないのもあって, できる範囲で博士号取得を目指そうと思い, 去年の五月頃から勉強よりも研究方向にシフトしています. 軽く調べたところ, 私が興味があるところはまだほとんど全く誰もやっていないようで, 復習しつつそこを丁寧に潰すのが今の目標です. こういうときはマイナー分野を専門にしたのがよく効きます.

マイナーでいまだほとんどやっている人はおらず, 研究したいとは言いつつ, 多少なりとも様々な研究は進んでいるわけで, 勉強しなければならない内容もあります. いまとなっては研究にフォーカスしていて, 改めて勉強を強制的に進める機運に欠けています. そこでメルマガの内容としては arXiv のプレプリントを読んだり, 関連する物理の文献を眺めた結果を共有する形で, メルマガ読者の方々と一緒に基礎体力作りをしようかと思っています.

曲がりなりにも研究者方面である程度のパワーを持つ必要があるため, 英語の読み書きだけではなく会話方面の力もつけなければいけません. 純粋な数学・物理ばかりではなく語学の再強化も極めて重要な課題です.

いわゆるAI利用

去年はいわゆるAI関係で凄まじい大発展があったという印象です. 本職がプログラマーで, 会社での費用としてはそれほど大きな値段ではなく, 会社でも色々試してよいと言われているため, 会社費用で色々使い倒しています.

昔は既にある一定の規模のシステムの保守運用がメインでした. いまの仕事は比較的小さな規模のシステム・サービスの試作を高速で作るのがメインで, こういうところではAI利用の開発は非常に役に立っています. うまくいくかわからないため, まずはさっと作ってリリースして反応を取りたいというサービスの新規開発をしていて, この目的ではむしろ無くてはならない存在です.

AIとプログラムでよいのは, プログラムが間違っていたら動かない点です. 嘘をつかれるとすぐに破綻するため, ハルシネーションもあまり問題ありません. 小規模でシステムを作り切る観点からはコードの規模もたかか知れているため, 大規模メンテ系でよく言われる欠点も現状では気になりません. むしろテストも書かせているため堅牢性が上げやすいくらいです.

さらによいのは高速で作っては破壞できる点です. 以前設計なども勉強していましたが, 実装に時間がかかるため設計の良し悪しを判定できるのはだいぶ経ってからでした. しかしプロトタイプ製作の高速化によって設計の破綻がすぐ見えるようになり, 実践的な勉強も爆速で進むようになりました. これも非常によい点です.

数学・物理にも良い点があります. まだ試し切れていませんが, 学習用に数値計算系の基本的なコードを書かせるのにも役立つのではないでしょうか. 特に勉強用で割り切るなら理論的・実験的にあるべき姿はわかっているため, コードの挙動がおかしければやはりプログラムのミスと判断しやすいです.

数値計算系のコードを書いた経験がある人ならわかると思いますが, 一部の符号ミスで挙動がおかしくなっているものの, どこにどんなミスがあるかわからずバグ取りで時間を溶かした経験がある人も多いでしょう. こうしたミスにも比較的気づきやすくなるのではないでしょうか. 時間がなくて検証できていませんが, どなたかぜひ検証して結果を教えてください. メルマガでも検証したいです.

プログラム利用では代数的な厳密計算方面もあります. Python のライブラリで言えば SymPy です. ちなみにさっと触れる意味では Wolfram alpha も役立ちます. これも是非 AI を使いつつ試してみて感想を教えてください. 私も使う機会があれば報告します.

大分前に数値計算系のコンテンツを作りましたが, これもお役御免になる可能性があります. 仕事でやっているのもあって, プログラムの保守が本当に面倒なのは日々実感しているため, 御役御免になるならむしろ嬉しいくらいです. 少なくとも勉強用の簡単なコードならとりあえず AI に生成させればよい, こうなると非常に便利です. バージョンアップで動かなくなったら, それも AI に修正させるか, はじめから書き直させればよいので. Docker なり Nix なり, 適当な形で古いバージョンでも動かせるようにしておいて, 新バージョンは新バージョンで新たに書き直してもよいでしょう.

研究へのAI利用

分野にもよると思いますが, これも使い方次第では非常に役立つと思います. 少なくとも私はいま作っていて, 出版を目指すかはともかく arXiv には載せようと思っているノートは AI と壁打ちしながら作っています. Claude と ChatGPT を試したところ ChatGPT は大きめの教科書を食わせても処理してくれて便利なため, ChatGPT を利用しています.

本質的に新しい内容を求める方向では恐らくまだあまり役に立たないのかもしれませんが, 私がいま勉強・復習がてら進めているのは, ある程度までは知られているが, きちんと詰められた文献が見つからない(本当に存在しない可能性もある)議論・計算です. 他にも参考にしている論文を読んでいてわからないところをとりあえず「これは何故成り立つのか」などと聞くと, 割と正確に行間を詰めてくれます. もちろんたまにとんでもない間違いを平気で垂れ流してくるため, 細かなところまでチェックできる剛腕は必要です.

私の現状という点で言えば, この論文の行間埋めがとにかく役立ちます. 他には得られた数学的結果が物理としてどう解釈できるか, といった点も ChatGPT に解説させています. 何となくは知っているが深く突っ込んだ理解は全くないところに対して, ピンポイントで解説してくれます. これも非常に役立ちます. このピンポイントの解説は YouTube などにあるコンテンツのお株を奪う部分でもあります. ある程度基礎体力がある人にはとにかく勉強しやすい状況ではないでしょうか. 使える人はぜひ使ってみると良いです. 私は AI の精度検証の観点からも会社で ChatGPT Plus プランを契約してもらっています.

ちなみに, まだ本質的に難しい部分に進んでいるわけではないため, 研究というか少なくとも私にとって未知の内容・議論・計算に関しても ChatGPT をフル活用しています. 計算の方針が立たないときにとりあえず便利な計算助手・議論相手として ChatGPT に投げる場合がよくあります. これもとんでもない間違いがよくありますが, 自力で議論・計算を進める上でのヒントになる場合も非常に多く, この点でも ChatGPT は非常に役に立っています.

他にも NotebookLM も使いようによっては良いと言われているため, いくつか文献を突っ込んで使ってみていますが, これはまだ何がどう良いのか分かっていません. NotebookLM に対する知見がある方はぜひ教えてください. これもまた知見をメルマガで共有したいです.

去年の年末に作ったコンテンツ

そういえば, 去年の年末に物理学アドベントカレンダーで次のようなコンテンツを作りました.

これはまさにいま私が研究している内容のイントロダクションです. いま都合によって自由ボース気体のボース-アインシュタイン凝縮という黴の生えたような計算をしています. 新井朝雄先生の『量子統計力学の数理』でワイル環・荒木-ウッズ表現の記述がありますが, これが私にとってはやや不完全で, さらに Buchholz-Grundling のレゾルベント環の論文で書き換えるとどうなるかと思っています.

レゾルベント環も多少研究は進んでいるようですが, ChatGPT に簡単に文献調査も依頼したところ, 私がほしい情報・論文はないようでした. そこで自力で再計算しているのが現状です. 物理として明らかすぎるほど明らかなことでも, 改めて数学的に厳密に確認できて物理的な直観が少し生えてきました. こういう部分にも ChatGPT をフル活用しています.

数学・物理への応用と言うと最近は学習物理学があり, そこからの派生で生成科学という分野ができつつあるようです. イジング模型・量子スピン系・ハバード模型など数値計算が盛んな分野も趣味の真正面です. これらでも何か面白いことができればいいなとは考えています.

何にせよ, 一応今年は自分の学習ログも兼ねてメルマガを復活させようと思っています. 一緒に数学と物理とプログラミングで遊び倒しましょう. またメールします.