コンテンツにスキップ

物理

古典力学

解析力学で$q$と$\dot{q}$は独立か?

我らが久徳先生とやりとりした記録を残しておく.

やりとり

補足

次のように書いた.

物理としても数学としても綺麗なのはとにかくいろいろな曲線(ある $f$ に対する $q_1=f(t)$ と $q_2=f(2t)$ は軌道が同じでも速度違うとかそんな感じでqと\dot{q}を分離する)とそれに対する変分原理で見ることだと思うのですが、どうなのかと思っています。

これに関していくつか補足しておく.

標準的な数学的処理

まず数学的にどう処理するかというと, ラグランジュ形式の力学では接束, ハミルトン形式の力学では余接束上で考える. 配位空間としての多様体に住んでいるのが $q$, 接空間に住んでいるのが $\dot{q}$ で, 全然違う空間に住んでいるので数学的には完全に独立だ.

最終的に粒子の軌道を考えるとき, 数学的な意味で曲線を決め, この各点での接ベクトルとして速度が決まることにすれば, いわゆる力学での速度としての $\dot{q}$ として実際の速度が与えられる構造になっている.

変分原理での見方

大したことではないものの, 文章で書くと割と面倒で, 式もいくつか必要だ. このサイトの仕組みと MathJax によるレンダリングの重さ問題もあり, あまり式を書きたくないので雑に書く.

まずツイートで書いたのは曲線の像としての軌道は同じでもその関数・導関数は同じとは限らないとしか言っていない. 変分原理はふつう両端点での時刻を固定する. 上の例は単純に移動速度を二倍にしているから, 開始時刻が同じだとすると終点につく時間がずれてしまう. 実際には変分原理はここまで含めてきちんと定式化できているのでそれをコメントしておく.

変分原理では端点の時刻と端点での空間位置・速度の境界条件を固定する. 変分原理での変数は適当な滑らかさの曲線で, 曲線には凄まじいバリエーションがあるのでこの拘束下でもきちんと議論できる. 例えばある曲線 $c$ に対して, 位置・速度ともに境界を固定しても, 像の中を猛スピードで行ったり来たりする「曲線」を選べば最初と最後の辻褄は合わせられる. 逆に言えばこれが変分原理が保証している自由度だ.

こう思うと何がいいかと言えば, 多様体というよけいな概念が少なくとも見かけ上は消える. これまた逆に言えばこれを数学的にきちんと考えたのが多様体論であり, 接束または余接束とも言える. 実際, 現代幾何の基礎である多様体論の母体の一つは解析力学とそこでの微分方程式論と言われているので, 適当に言っているわけではない.

解析力学は一般論・抽象論を組み上げる必要があって難しいという話

はじめに

Twitter で hisen_kei さんと ゆきみさんが解析力学のセミナーをするとかいう話があったので, 思ったことを書いておく. 物理が非専門の人が読むのにいい本を全く知らないので, ハイパー困るのだが, とりあえず私が読んだ本は山本-中村だ.

解析力学2 (朝倉物理学大系) 解析力学1 (朝倉物理学大系)

物理として学ぶ段階ですでに一般性が必要になってつらいので, 特に非専門家が勉強するときには, まず自分の知っているところ・使うところに特化して勉強し, そこを突破口にして学ぶのがいい. 力学系の議論は機械工学でも使うようだが, 数学的にそこに特化した本としては次のような本がある. 読んだことはないので, 質については保証できないが, (数学として) 何が問題かというところは把握できると思う.

常微分方程式と解析力学 (共立講座 21世紀の数学) 力学と微分方程式 (現代数学への入門) 微分方程式と力学系の理論入門―非線形現象の解析にむけて

解析力学の特徴紹介

ここではむしろ, 本を紹介するよりも, 解析力学の特徴を紹介することで学習の一助としたい. ちなみに『力学と微分方程式』の書評に次のような記述があって面白かった.

力学系の本は本書の他にもいくつか出版されていますが, これほど読みやすく, 分かりやすいものはないでしょう. 初学者がつまずきそうな点には, しっかりフォローが入っています. 練習問題の解答もついていますし, 入門書として適当だと思います.

ただし, 本書は数学者が書いていることもあって数学的で, 物理学的な色はあまり濃くありません. ですから, 物理大好き☆物理命☆みたいな人にはあまり向かないかもしれません. (この点は他の本もある程度共通していますが…).

しかし, 逆に言うと, 「ほとんど物理を勉強したことがないけども力学系の知識は必要. 困ったなぁ…」. と密かに悩んでいる経済学や生物学などを専攻する人には, 間違いなく最高の本です. 経済理論や生物学の本などにも, 巻末の付録に力学系の申し訳程度の解説が付いていたりしますが, 今後の動向を考えると, やはり本書のようなものを読んでおいたほうが良いでしょう. 教養・アイデアの種として, 物理学の知識も得られますし.

数学と物理のギャップ

数学の本は物理的な感覚が使いづらくハードルが高いという印象があった. だが, 逆に物理をあまり知らなくても読める (自分の専門に引きつけて解釈をつける) と思えば, かえっていい場合もあるのかと. 数学的にやばすぎると別のハードルが上がりまくるので, きちんと選ぶ必要はあるが.

タイトルで解析力学で一般性が大事だと言っているが, それを説明していこう. 例えば 3 次元の Laplacian を自然な直交座標系と極座標系で書いてみると次のようになる. \begin{align} \triangle_{\mathrm{o}} &= \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2}, \ \triangle_{\mathrm{p}} &= \frac{\partial^2}{\partial r^2} + \frac{2}{r} \frac{\partial^2}{\partial \theta^2} + \frac{\cos \theta}{r^2 \sin \theta} \frac{\partial}{\partial \theta} + \frac{1}{r^2 \sin^2 \theta} \frac{\partial^2}{\partial \phi^2}. \end{align} 何も知らずに見たとき, この 2 つが同じ演算子 (作用素) だと思うのはまず無理だろう. こうした見た目に左右されずに本質的な部分を見抜く必要がある. そのためには本質的な部分が何か, もっというなら本質とは何かということをきちんと意識する必要がある. 大事な部分を抜き出し一般化し, 議論をクリアにするために必要があれば抽象化までかける. 抽象化して議論自体はクリアになっても, 今度はクリア過ぎて何がなんだかさっぱり分からなくなる. そこを埋めるために適切な具体例をいくつも知っている必要がある. 物理に使うにはこの具体と一般・抽象を両方きちんと知っておかねばならないため, 負担がどんどん大きくなる.

もう少し具体的に

このあたりをもう少し具体的にしてみよう. 物理で大事な概念として保存量というのがある. 具体的に運動量を考える. Lagrangian を 1 つ取ろう:$L = - p^2/2m$ でも想像してくれればいい. これに対して空間並進群 $\mathrm{R}^3$ の作用を考えると, この作用に対して Lagrangian は不変になるとする. このとき空間並進群に対する保存量が定義され, それが運動量になる.

一般化

次にこれが一般化される. 任意の Lagrangian $L$ を取り, 任意の群 $G$ を取る. $L$ が $G$ の作用で不変なとき, 一般に $G$ に対応する保存量が定義できる, となる. ここで考えられる限り最大に一般な Lagrangian と群を取る必要がある. なぜなら, 新たな理論を構築したりする場合, どんな Lagrangian, どんな群が出てくるか分からない. そうした場合にも使えなければいけないからだ. 非相対論のときにしか使えないとかいうのでは話にならない. 群も非相対論の状況では Poincare 群や Lorenz 群は視野に入らないが, こういう群作用がある場合にだって使えなければ意味がない. まだ見ぬ場合も含めていつでも使えるようにするため, できる限りの一般性を担保する必要がある.

場の解析力学

また結果は普通の力学だけでなく, 適当な場の理論にも使えると嬉しい. 実際電磁場の Lagrangian なども考えられる. 場に対しても使っていきたい. 特に場の量子論を場合を考えると電荷に由来する $U (1)$ ゲージ不変性も出てくる. 既知の保存量であっても, それに対応する対称性は何か, という議論だってしたくなる.

逆にいうと, 解析力学にはここまでの射程距離があるのだが, この射程距離を持つにはそれだけの頑張りが必要になる. それが解析力学がつらい理由だ. 当然一気に, 頭から本格的な本を読もうとするとつらい. そこで冒頭に戻る:自分が使うところから徐々にやっていき, 突破口を作っておいて必要がある範囲をまずおさえる. その後必要があるごとに勉強していく感じでやるのがいいだろう. 物理学科なら, カリキュラム的な都合もあるし, 学科の特性もあるのである程度はじめからきちんとやらなければいけないが, それは専門なので当然だ.

何に限らず (大学で) 学ぶ内容が簡単ということは全くないのでどこかしらで頑張る必要はある. ただ, 特に非専門家が勉強するときに困る部分というのは専門でやる場合と違う可能性があるので, そこはどうしたらいいか分からず惱むところ. 困るな, というところで歯切れ悪く記事を終える.

ラベル

数学, 物理, 解析力学, 多様体論, 力学系, 幾何学

量子力学

続 量子力学の無限井戸問題の取り扱い問題

堀田さんの発端ツイート

次の過去記事で言及した話題に関する話だろう. せっかくなので記録しておく. 堀田さんの量子力学の本, このあたりの話もしているのだろうし, 来年出るという話なので楽しみにしている.

TODO (要移行) 参考: 過去記事

ツイート引用

この辺, 一応言うだけ言っておくと, 物理の人間が「ハミルトニアンは自己共役たれ」と言ったから, というのが数学サイドの言い分だろうとは思う. これもさらに言えば, 自己共役たれと言ったのは厳密にはフォン・ノイマンであって数学者だ, 物理学者のせいにするなという話でもあるのだろう.

話は少し変わってしまうが, 私のスタンスは完全に数学のサイドのそれだという立場は明らかにした上で, 物理なんなりがこういう「二枚舌」を平然と使ってくる中で「数学者の書く本は気持ちが書かれていなくわかりにくい」とか言われても「お前ら正気か」というのはよく思う. そもそもとしておかしな記述が長く残っていてそれを語り継ぐ種族にとっての気持ちやらわかりやすさやらは何なのか, まずきちんとさせてから数学に文句を言ってほしい.

本題の引用に戻ろう.

ここがよくわからないというか, そういうのがどの本・論文にいつどう書いてあったのかという気分がある. そもそもとしてこう考えたい物理の気分もよくわかっていない. 気持ち, どこに書いてあるのだろうか. 実験のセットアップ問題から来ている気分はあるがむしろそれこそ何もわからない.

超関数の空間あたりで考えるときちんと動くのか, みたいなことは気になる.

ここでの完全性, どの空間で議論しているのかがまずわからない. そもそもとして私は完全性はヒルベルト空間上でしか議論したことがないので, 数学的な感覚が掴めていない. フーリエ解析も正直さほどよくわかっているわけでもない. 何がしたいのかよくわかっていないので, 内積はありつつ完全性だけはうまく動く空間, どこだろうか. どこでどういう収束を考えるといいかもよくわからない.

証明という言葉に対する気分が根本的に違うというのは感じる. いつものことではある. 悪い意味での「お気持ち」問題ではあり, 意思疎通を困難にする部分ではある. お互い敬して遠ざけるべきという気分もある.

Leipzig さんとの大事そうな質疑応答の記録

何にせよここのやりとりで状態の方が大事というのは察した.

これ, 何の固有状態を考えているのかがまずよくわからない. 何にせよ空間の設定がよくわかっていない. 来年出るという堀田さんの本, 非常に楽しみにしている.

Yuki Nagai さんとのやりとり

輪をかけてよくわからないがとりあえず収集.

やりとりその 1
やりとりその 2
ShunSakana さんとのやりとり

これもよくわからない.

微分できない微分方程式の解概念じたいは数学としてはどうとでもなるというかどうにかするから, そこは問題ではないのでは感. むしろそこは物理で気にところなのかというのが衝撃でさえある.

切り出されたやりとり
途中からの派生
途中からの派生
途中からの派生

現代物理での保存則と対称性, 量子情報・測定理論: 堀田さんのツイートまとめ

はじめに

私はどうももはや数学によりすぎていて, 対称性と保存則に関しても数学色を強めすぎている. 物理学者のコメントを収集しておく目的でまとめる.

ツイートまとめ

トンネル効果, いまだに何なのかまったくわかっていない.

雑感

純粋状態, まず定義からしてよくわかっていないし, その実用に関してはなおさらわからない. 保存則と対称性の話がどう絡んでくるのかも見えていない. この辺の話, やはりきちんと勉強したい.

自己共役拡大の物理と教育: 「理論物理学者に数学を教えようの会」でも取り上げたい

発端

次のツイートによるようだ.

あとこれ.

まず上でも引用されている, 田崎さんと全さんのやり取りをまとめた記事を記事名つきで引用しておこう.

上記ツイートに全さんが反応した.

ついでにこれ.

言及されている論文

次の論文だ.

For the example of the infinitely deep well potential, we point out some paradoxes which are solved by a careful analysis of what is a truly self-adjoint operator. We then describe the self-adjoint extensions and their spectra for the momentum and the Hamiltonian operators in different physical situations. Some consequences are worked out, which could lead to experimental checks.

私のコメント

全さんにリプライを飛ばしたツイートを引用していこう. 自分のツイートだし面倒なので引用はコピペでさぼりつつ編集する.

どこまで扱うかはともかく、境界条件の設定は「物理」なわけで、境界条件に応じて非可算無限個の自己共役作用素がある(新井・江沢の量子力学の構造に1次元区間での例がある)、この現象があるからこそ数学で物理を書けるというのはコメントすべき感があります。

数学では病的と言われ、物理の人間は興味がなく、数理物理だと(重要性は)自明扱いなのか自己共役拡大の議論でほとんど言及されないっぽいこの話題、かなり好きな問題です。私の知る限りですが、具体的なモデルでの解析は極端に難しく一般論もほぼないようなものなので、物理では気分以上無理でしょう.

これまた私の観測範囲だと、全空間で議論する例が多く、ほとんど本質的に自己共役なクラスで済ませるので、数理物理でも自己共役拡大が多彩な研究事例はほとんどないのではないかと思います。アハロノフ-ボームだとトーラスを抜く関係上境界条件問題が出てその周りで議論があるらしいのは知っています.

谷村さんが非単連結領域上の量子力学といってアハロノフ-ボームをやっている(いた:前に数理科学で見かけた)のもありますが、これは微分幾何との関連みたいな話がメインで自己共役拡大の話はあまり触れられていなさそうな気分があります。

これ, 数理科学での実際の記事タイトルは何だっただろうか. 忘れてしまった.

自己共役拡大が問題になる例、初等的には境界条件が出る有界な量子系かアハロノフ-ボームのようなトポロジカル無効果が出るところかで、前者は井戸のような面白さを主張するのが難しそうな初等的な例、後者は(数学的に)難しくて手に負えないので、あまりいいネタがないように思います。

私の物理はほぼ学部3年で止まっているのでまったくわからないのですが、井戸の問題、あれは学部3年で扱う以上に物理的に何か面白いことあるのでしょうか?

大して面白くもない問題で語っても「数学の話をしたいなら数学科でしてください」事案になってしまうのでさすがに厳しいと思います。本質的に自己共役なところでしかやったことがないので私もまともな具体例を全然知りません。強いていうなら量子統計の熱力学的極限を取る前の有界系くらいです。

Hirokawa, 2000, Canonical Quantization on a Doubly Connected Space and the Aharonov-Bohm Phase 私が知っているのは廣川先生のこの論文です(院の頃読もうと思って難しく読めなかった)。物理の学部レベルが既にバリバリの研究水準という数学・数理物理あるあるです。ご存知とは思いますが、アハロノフ-ボームの話は新井先生の量子現象の数理でも少し言及があります。

「理論物理学者に数学を教えようの会」をやることになったので、この辺の話も盛り込もう

今ふと思い出したが、非平衡統計で有限系の両端に温度が違う系をつなげた場合に実現する非平衡定常状態にミクロのハミルトニアンがどう影響を及ぼすかみたいな問題設定で自己共役拡大な話関係したりするか?非平衡で上のような設定が実際に論じられているのは知っているが無限スピン鎖だったような。

理論物理学者に数学を教えようの会

今度「理論物理学者に数学を教えようの会」をやることになったので適当なタイミングで触れようと思うのですが、何か物理的にいいネタあるでしょうか?さっきの論文くらいですか?

本を買いたいもののお金がない厳しい社会に生きているのでお金に余裕が出たら買って眺めます。

Solvable models in quantum mechanics, 理論物理学者に数学を教えようの会でも取り上げたい. これの紹介記事, 早く書いてまとめて勉強会をスタートさせたい.

物質の安定性

(2012年頃に書いた古い文章です.)

ネタが切れたときは数学に頼るということで, 今回は物質の安定性の数学についてです. ネタ元は arXiv にあがっている Solobej による「Book review: Stability of Matter in Quantum Mechanics, by Elliott H. Lieb and Robert Seiringer」と題された http://arxiv.org/abs/1111.0170 この論文です. 正確には本のレビューですけれども. 参考文献を入れて 7 ページしかないのでご興味がある方は実際に読んでください.

「物質の安定性」とか「量子力学」と題名にあって物理だろうになぜ数学というのか, ということですが, 実際に本の中では数学をしているからです. 適当なことを言うと怒られるのですが, 大雑把に言って物理に出てくる問題を数学的にきちんと論じる学問を数理物理といいます. Lieb と Seiringer, Solovey はその数理物理の世界トップクラスの専門家です. 特に微分方程式, 実解析的手法に強い人たちです. 上掲書では物質の安定性について, これらの手法を使った研究成果をまとめた本です.

物理としての物質の安定性を論じる意味をご説明します. 普段, 物質は安定に存在しています. (理想化された状態では) 身の回りのものが突然壊れるといったことはありません. 当たり前すぎるほど当たり前なのですが, きちんと考えるとこれは恐るべき現象です.

ご存知の方も多いでしょうが, 古典電磁気学と古典力学の範囲では物質は安定に存在できません. 荷電粒子が加速運動すると電磁波を放出するので, 電磁波にエネルギーを持っていかれてしまいます. 特に原子の周りを運動している電子を考えると, 電子の軌道半径がどんどん小さくなっていくため, 原子が安定に存在できないことが導かれます. これは理論物理の危機なのですが, これを救ったのが量子力学です.

上記レビューにも書いてあることですが, 大抵の量子力学の教科書ではこれを不確定性原理で説明します. ただ, 実際にきちんと示そうとすると不確定性原理 (の数学的表現) だけでは足りないので, Sobolev の不等式などを使って詳しく解析する必要があると分かります.

ついでに言えば, 普通の数学ではあまり扱わない (であろう) ことも使う必要があります. 少なくとも私は微分方程式の講演を聴いていて $L^2$ の反対称テンソルやその解析を見たことがありません. しかし, フェルミオンの解析をするために反対称テンソルの $L^2$ での解析結果がどうしても必要です. とくにボソンとフェルミオンとで熱力学的安定性に関わる部分で本質的に違う評価が出てくるので, 物理としては本質的な違いです.

ちなみに, 私の知る限り日本にはこの方面の専門家はいません. 世界でもそうはいないはずですが.

学部 3-4 年程度の物理 (特に量子統計, 熱力学) と学部 4 年程度の解析学の知見と不等式の制御技術があれば何とか読めるのではないでしょうか. ご興味のある方は是非.

量子力学の数学

2012年頃に別のところで書いていた古い記録です. 加筆修正せずそのまま再録します.

量子力学の数学 1

いま, 量子力学の数学について Web 上で何かやろうと画策中です. 原稿の準備や頭の整理と言う面もあるので, 一旦ここで講義風の概略を流そうかと思っています. MathJax で数学記号を使えるようにしようと思っているのですが, そこも今調査中です.

私の学生のころの専門は場の量子論・量子統計力学の数学でした. あまり研究者がいない分野でもあり, そこの宣伝にもなるかと思っています. 場の量子論・量子統計をいきなり, というのは色々な意味でハードルが高いので, まずは量子力学からのんびりやろうかと思っています.

使う数学としては線型代数と微分積分だけです. その代わり数学科のレベルで使います.

数学を理解すると言う意味では物理の予備知識は何もいりませんが, かといって何もないと何が面白くて意味のあることなのかまったく分からないとは思います.

興味のある中高生を誘うくらいのつもりで, 何一つ遠慮なくフルスロットルでやる予定です. 文章の調子が悪くなるような気がしているので, 「だ・である」の文体を試してみます.

やってみないとわからないので, トライアルとして色々やってみます. 相当ハードな準備が要るので, のんびりお待ちください.

量子力学の数学-摂動論

以前量子力学の数学についてご紹介していく計画についてお話しました. 少しずつ準備しています. 今回は小ネタを出してみましょう.

物理の近似計算法として摂動論は基本です. 大雑把に言えば (物理で) 摂動と言うのは, 小さなパラメータについての級数展開を考えて, パラメータが小さければ低次の項だけいくつか取ってくれば十分いい近似になってくれるだろうという淡い期待に裏打ちされています.

淡い期待と書いたとおり, これは簡単に打ち砕けます. 数学的に変な例がおかしなことを起こすと言うありがちな話ではなく, 物理的に真っ当な例が既に扱いきれません.

モデルを二つ考えましょう:1 つは調和振動子, もう 1 つは水素原子のシュレディンガーです.

\begin{align} H_{\mathrm{osc}} = - \triangle + \alpha x^2, quad H_{\mathrm{hydrogen}}= - \triangle + \alpha \frac{1}{r}. \end{align}

面倒なので余計な係数は全て落としました. $\triangle$ はもちろんラプラシアンで, $\alpha$ が摂動パラメータです.

この例でスペクトル (固有値) を考えます. 両方ともスペクトルは既に完全に分かっていることに注意してください. $\alpha=0$ なら当然両者のスペクトルは同じです. $\alpha \neq 0$ のとき, $H_{\mathrm{osc}}$ のスペクトルは離散的です:いわゆる ${n+1/2}$ です. 一方, 水素原子は原点より下に離散的なスペクトルがあって, 原点より上ではべったり連続的です.

スペクトルは測定値, つまり直接物理と結びつく量であることを思い出しましょう. また, 摂動で計算したい量としても, スペクトルは大事な量の 1 つです. このスペクトルが摂動項があるかないかで劇的に変わるのです.

これくらい簡単な例でもうまくいくか分からないので, 一般にはどうなっているかまったく予断を許しません. ここをどうにかきっちりしようというのを数学としてはスペクトル理論といいます.

スペクトル理論は今も発展している理論です. むしろ物理の方が進みすぎていてまったく追いつけていないと言ってもいいくらいの状況です.

物理的 (実験的) には既に当たり前のことでも数学的にきちんとやろうとすると恐ろしく難しいことは良くあります. そのあたりをご紹介していく予定です.

title

摂動論

desc

摂動論の数学部分について解説した. 数学としてはスペクトル理論という広大な分野が広がっている. 調和振動子とクーロンポテンシャルの場合とでの比較をして物理としても決定的な結果になる.

keywords

quantum mechanics,pertubation theory for linear operators,spectral theory,harmonic oscillator,coulomb potential

量子力学の数学 2:内積空間

main

北大数学の新井朝雄先生の 量子力学の数学的構造 を元に, 量子力学の数学を紹介していく. 前に書いたとおり, 文章をすっきりさせるため「だ・である」の文体を使う. あくまでも本を読むための手引きと言う形なので, 証明の詳細については前掲書を見てもらいたい. ここではポイントだけ指摘する. 非常に良い本なので是非買ってのんびり読んでほしい.

1 章, ヒルベルト空間と線型作用素から順にやっていく. 特に始めのうちは言葉の定義ばかりで退屈だが, やらないとそれはそれで困るのでしばらく辛抱してほしい.

ヒルベルト空間の定義の前にまず内積空間から定義しよう.

定義 1.1 $\mathbb{F}$ を実数体 $\mathbb{R}$ または複素数体 $\mathbb{C}$ とし, $\mathcal{H}$ を $\mathbb{F}$ 上のベクトル空間とする. $\mathcal{H}$ 上に正値対称な双線型形式が存在するとき, $\mathcal{H}$ を内積空間という.

内積空間の例: 実変数の複素数値連続関数が作るベクトル空間 $C (\mathbb{R})$ など. ここで内積は \begin{align} \langle f, g \rangle = \int_{\mathbb{R}} \overline{f (x)} g (x) dx \end{align} として定義する. まだきちんと定義していないが, この空間は「無限次元」になる. 本には他の例もいくつか載っている. 全て大事な例なのできちんと本で確認してほしい.

内積からノルムを定義する. \begin{align} \left\Vert \Psi \right\Vert := \sqrt{\langle \Psi, \Psi \rangle}. \end{align}

内積空間である種の「幾何学」が議論できるのでそれを簡単に見てみよう.

ノルム 1 のベクトルを単位ベクトルと呼ぶ. もちろんノルムは上で定義した量. 零ではないベクトル $\Psi$ に対して \begin{align} \tilde{\Psi} := \frac{\Psi}{\left\Vert \Psi \right\Vert} \end{align} を $\Psi$ の規格化と呼ぶ.

2 つのベクトルが $\langle \Psi, \Phi \rangle = 0$ になるとき, この 2 つのベクトルは直交しているといい, $\Psi \perp \Phi$ と書くことがある.

今回は次の基本的な結果を紹介して終わりにする.

定理 1.2 (ピタゴラスの定理) 直交する 2 つのベクトルに対して次が成り立つ. \begin{align} \Vert \Psi + \Phi \Vert ^2 = \Vert \Psi \Vert ^2 + \Vert \Phi \Vert ^2 \end{align} が成り立つ.

定理 1.3 (コーシー・シュワルツの不等式) 全ての 2 つのベクトルに対して \begin{align} \langle \Psi, \Phi \rangle \leq \Vert \Psi \Vert \cdot \Vert \Phi \Vert \end{align} が成り立つ.

系 (三角不等式) 全ての 2 つのベクトルに対して \begin{align} \Vert \Psi + \Phi \Vert \leq \Vert \Psi \Vert + \Vert \Phi \Vert \end{align} が成り立つ.

ピタゴラスの定理はいわゆる「三平方の定理」だ. これは内積空間の構造があればそこから導けるということで究極的な一般化になっている.

コーシー・シュワルツも高校で 2-3 次元のときにやる話だがここまで一般化できる. 今後この定理を使わないで済むことなどまずない. 今すぐ重要性を理解するのは難しいだろうが, 証明まできちんと追い続ければ嫌でも分かる.

三角不等式も「事実」としては小学生でも分かる話だ: 要は「寄り道した方が歩く距離は長い」ということ. ただ, あまり当たり前と思ってもらっても困る.

次回は三角不等式を抽出した空間として距離空間を紹介するところから始めよう.

title

内積空間

desc

内積空間の基本的な概念と定理を紹介した.

keywords

inner product space,Hilbert space \bibliography{myref}

量子力学の数学 3:位相線型空間

main

元にしている書物は 量子力学の数学的構造 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

前回, 三角不等式を紹介した. 三角不等式があれば色々できるので, そこだけ切り出してきた空間, 距離空間を簡単に紹介しよう. \begin{align} d (\Psi, \Phi) := \Vert \Psi - \Phi \Vert \end{align} として 2 変数関数 $d$ を定義する. これは距離関数 (metric) と呼ばれる. 距離関数が満たすべき 4 つの性質については「量子力学の数学的構造」 p23 を見てほしい. 内積空間 $\mathcal{H}$ はこの距離で距離空間になる.

ここではやらないが, 距離空間のレベルで色々言えることがある. 詳しくは位相空間論の本を見てほしい. 位相空間論は一楽重雄著「 集合と位相そのまま使える答えの書き方 」 が初学者には読みやすいと思う. 書名をみるとしょうもない本のように見えるかもしれないが, 抽象度を無理に上げずに非常に丁寧に証明や例が書かれているのでお勧めだ.

距離空間論のレベルの知識自体は良く出てくるが, 「量子力学の数学的構造」の中で大体出てくるので知らなくても問題ない. むしろ内積空間・ノルム空間で距離空間, ひいては位相空間に慣れるくらいの気持ちでいてほしい.

本題の内積空間に戻ろう. ユークリッド空間 (大雑把には高校数学) で直交座標系を取ると便利なことが良くある. 内積空間では直交するベクトル達が決定的な役割を果たす. 今後悪夢でうなされる程出てくるので, 注意してほしい.

内積空間 $\mathcal{H}$ の部分集合 $\mathcal{D}$ を取る. $\mathcal{D}$ のベクトルが全てお互いに直交しているとき, $\mathcal{D}$ を直交系という. 全てのベクトルが単位ベクトルのとき $\mathcal{D}$ を正規直交系という.

後で完全系の話をするときに「正規直交基底」との関連を書く予定だ. そこは少し待ってほしい.

本では p24 と章末演習問題 7-14 で正規直交系の大事な例がたくさん出てくる. フーリエ級数, エルミート多項式, ラゲール多項式など電磁気や量子力学で出てくる「直交関数系」だ. 何故直交という名前がついているか. もちろんこの内積空間の直交性から名前を付けているのだ. その辺の話を統括する理論が内積空間の理論である. 電磁気や量子力学で色々な関数が出てきて混乱している頭を一段抽象化して頭をすっきりさせてほしい.

次回はベッセルの不等式から始めよう.

title

位相線型空間

desc

位相線型空間に関する話題をいくつか紹介した.

keywords

metric,inner product space

量子力学の数学 4:ベッセルの不等式

MAIN

元にしている書物は 量子力学の数学的構造 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回はベッセル不等式関係の話をしよう. 量子力学の数学的構造, p25-26 だ. $N$ を自然数とし, ${\Psi_n}n^N$ を内積空間 $\mathcal{H}$ の正規直交系とする. さらに ${\alpha_n} \in \mathbb{F}$ とする. この時次式が成り立つ: \begin{align} \left\Vert \sum^N \alpha_n \Psi_n \right\Vert^2 = \sum_{n=1}^{N} | \alpha_{n} |^2. \end{align} これは高校生でも分かる. $\Psi_n$ を標準基底 $e_n = (0,0,\dots,1,\dots,0)$ と思ってやればいい.

さらに言葉を 1 つ定義しておこう. 正規直交系 ${\Psi_n}_{n=1}^N$ に対して $\langle \Psi_n, \Psi \rangle$ を $\Psi$ のフーリエ係数という. これはもちろん普通のフーリエ級数についてのフーリエ係数の抽象化だ. ここで満を持してベッセルの不等式が登場する.

定理 1.4 (ベッセルの不等式) 任意の正規直交系 ${\Psi_n}{n=1}^N$ を取る. 全ての $\Psi \in \mathcal{H}$ に対して \begin{align} \sum^N |\langle \Psi_n, \Psi \rangle |^2 \leq \Vert \Psi \Vert^2. \end{align}

これは自明と言い切っていい. だからと言ってつまらないということは全く無いので注意してほしい. 一旦, 有限次元 ($n=3$としておこう) で標準基底を取る. そこで 1 と 2 だけの和を取る. そうすると左辺の和 (成分の和) はノルム (ベクトルの長さ) よりも当然小さくなる. これの一般化だ. そう思えば当たり前だとは思えるだろう. ただ上の評価は次の大事な結果を導いてくれる.

系 1.5 ${\Psi_n}{n=1}^{\infty}$ を正規直交系とする. このとき全ての $\Psi \in \mathcal{H}$ に対して \begin{align} \sum^{\infty} |\langle \Psi_n, \Psi \rangle|^2 \leq \Vert \Psi \Vert ^2. \end{align} 特に左辺の級数は収束し, 次式が成り立つ: \begin{align} \lim_{n \to \infty} \langle \Psi_n, \Psi \rangle = 0. \end{align}

左辺の無限級数の収束がきちんと言えるのはなかなか強烈だ. これは特に正規性がないといけないので注意する. 規格化していないとそもそも級数が上からおさえられる保証がない. 興味のある方は反例を作ってみてほしい. 収束性自体も大事だが, 最後の内積の収束が決定的だ. あとで弱収束を議論するが, そこで「弱収束はするが強収束はしない列」の例として再登場する. (まだ定義していないが) 無限次元空間では色々な収束概念が出てきて, それを的確に制御する必要が出てくる. 念のため言っておくが, 収束の位相は単に数学的な話ではなく物理としても大事になる.

例えば場の量子論での散乱理論を考える. 1950 年代からの一時期, 整合性のある一般論が作れなくて困っていたことがある. 私もあまりきちんと勉強していないが, 波動作用素 (同じく新井先生の「量子現象の数理」の散乱理論を見てほしい) の収束が問題になっていたようだ. 物理学者はいわばノルム位相での収束を考えていたが, Lehmann-Symanzik-Zimmermann が弱収束 (行列要素の収束) を考えなければいけないと指摘して決着がついたと聞いている. ちなみにこの LSZ の話は場の量子論の教科書には必ず載っている程の有名な結果だ.

ところで何故散乱が大事かについて簡単に触れておこう. 大雑把に言えば, 散乱では調べたい対象に粒子をぶつけてその粒子がどう動きを変えたかを調べる. X 線解析や非破壊検査を想像してほしい. ここで場の量子論の状況を考えよう. 相手は正にミクロの対象なので, 身の回りの機械のように直接動かして調べたりはできない. だから何かモノを当てて, それがどういう影響を受けたかを見ることでしか実験的に調べられない. つまり最終的には何らかの形で散乱理論を使った計算結果を実験と比べることになると思ってほしい.

ここで散乱理論が理論の体をなしていないとどうなるか. 実験と理論が全く比較できないことになる. 当然, とても困る. だから散乱理論は何が何でもきちんと作り上げる必要がある. 実際, この辺の苦闘から場の量子論の数学的研究が始まっている. 量子力学の方はもう少し早く数学者, 特にヒルベルト, ワイル, フォン・ノイマンあたりが先導したようだが, 場の理論の方はむしろ物理側が先導したようだ.

詳しく知りたい方は arXiv で Haag や Buchholz \url{http://de.wikipedia.org/wiki/Detlev_Buchholz_(Physiker)} のレビューなどを参考にして欲しい.

次回は位相 (topology) の話に入る. 位相と言っても phase ではないので注意.

title

ベッセルの不等式

desc

ベッセルの不等式を議論した. 有限次元での正規直交系の議論からしても自明な話だが, 完全正規直交系の特徴づけにも使える大事な概念なのできちんと身につけるべきだ.

keywords

Bessel's inequality,Hilbert space

量子力学の数学 5:内積空間の位相

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

有限次元の線型代数 (位相線型空間論) から類推して, 位相関連の概念が定義できる. まずは点列の収束を定義しよう. 内積空間の元は特にベクトルと呼ぶのが普通だが, 今後は点とも言うことにする. こちらも良く使う言葉なので慣れてほしい.

ついでに言うと, 普通, 位相空間論ではまず開集合から入るだろう. しかし解析学で, 特に関数空間を決めるときには閉集合や点列の収束から位相を定義することが多い. もちろん理由はあって, 解析学では収束を中心に議論するからここから始めた方が便利なのだ. 次に閉集合を決めるのは, 極限を取った時にその極限がどこにいるかをはっきりさせるためだ. これは量子力学的には冗談ではすまない. いわゆる$\delta$関数, 超関数の問題があるからだ. 既に恐ろしい現象に直面していることに注意されたい. 場の量子論だとさらに過激である.

ではヒルベルト空間での強収束を定義しよう.

定義 1.6 $\mathcal{H}$ の点列 ${ \Psi_n }{n=1}^{\infty}$ に対して点 $\Psi \in \mathcal{H}$ があって [ \lim \Vert \Psi_n - \Psi \Vert = 0 ] となるとき, $\Psi_n$ は $\Psi$ に強収束するという. $\blacksquare$

$\Vert \Psi_n - \Psi \Vert$ 自体は実数であることに注意する. 訳の分からないヒルベルト空間とかいう所で収束をどう定義するのかという話があるが, それはある意味, こうやって実数に叩き落とす形で定義する. 実際には一般の位相空間で実数などに落とさないネットの収束などがあるし, それはそれで作用素環で使ったりもするがあまり一般的にやっても初学者には地獄でしかないので, この辺で抑えておきたい.

あと点列 $\Psi_n$ は $\Psi$ の近似列と言ったりもする. 合わせて $\Vert \Psi_n - \Psi \Vert$ は誤差と呼ぶ. この辺はそのままだ.

次の命題は基本的だが, それでも一部注意がいる.

命題 1.7 ${ \Psi_n }{n=1}^{\infty}, \, { \Phi_n }^{\infty}$ を $\mathcal{H}$ の強収束列とし, それぞれ $\Psi, \, \Phi$ に収束するとする. この時次が成り立つ. [\lim_{n \to \infty} \Vert \Psi_n \Vert = \Vert \Psi \Vert, ] [ \lim_{n \to \infty} \langle \Psi_n, \Phi_n \rangle = \langle \Psi, \Phi \rangle. \blacksquare]

証明は三角とコーシー・シュワルツで終わる. ここで両方とも強収束性が必要なことに注意してほしい. 弱収束だと上手くいかない. 弱収束してかつノルムの収束が成り立つなら強収束することくらいは言えるから, そのときは上の 2 式も成り立つ. あと, 上記の 2 式はノルム・内積の強連続性と呼ばれる.

そういえば, 前回, あとで弱収束が出てくると書いてしまった. 後で調べたところ, 出てくることは出て来るが 2 巻なので大分先である. 書いてしまったし, ここで定義してしまおう.

定義 (p313) 全ての $\Phi \in \mathcal{H}$ に対して下の式が成り立つとき, 点列 ${ \Psi_n }$ が $\Psi$ に弱収束するという: [ \lim_{n \to \infty} \langle \Psi_n - \Psi, \Phi \rangle = 0. \blacksquare ]

強収束はノルムにひっかけた上で収束を考えるが, 弱収束は内積にひっかけて収束を考える. 何が違うのかという話だが, 色々と決定的に違う. 実際に色々やってみないと決して分からないが, とりあえず, 学部の頃の講義での教官の解説を引用しておこう. 大分前の話なので詳細は捏造している.

「強収束できる列は非常に優秀な学生です. 1 人で何でもできてしまいます. これはこれで素晴らしいのですが, そうかと言ってこういう優秀な学生ばかりとは限りません. そこで弱収束を考えましょう. これ, 普段はちゃらんぽらんなやつですが, 良い友達のおかげで更生できて立派になれる人物です. それが内積と $\Phi$ が必要な理由です. よく友人のせいで悪い方向に引っ張られてしまう人がいますが, 実際の友人関係もこうありたいものですね」.

弱収束列は強収束するとは限らない. これには先導となる友人がいれば何とか目的地に行けるが, 1 人だとあてどもなく彷徨うしか無くいつまでたってもどこにも行けないようなイメージを持ってほしい. 「どこかにふらっと行ってしまう」と言うとどこかに収束していそうな気がするので, あまり良い表現ではないように思う.

念のため言っておくが, 当然弱収束すらしない列は山ほどある. むしろそちらの方が遥かに多い. 弱収束で全て捉えられるわけではない.

かなり先の話題だが, 場の量子論では弱収束すらしない例が自然に出てくる. (もちろん何らかの意味でどこかに収束してくれないと困るのだが, それはヒルベルト空間内での弱収束ではない). (ついでに正確に言えば, 0 に弱収束するような困った例が出てくる). (赤外) 発散という物理的な理由つきなので本当に洒落にならない. いわゆる発散の困難の数学的表れとして, 本当に「まともな」点に収束してくれなくなる. 作用素環や汎関数積分 (確率論, いわゆる経路積分) を使う対処法があることにはあるが, まだ物理上の要望に応えられるほど強い結果が出せていないのが現状だ.

次はコーシー列から始めよう.

title

内積空間の位相

desc

位相を定義した. 物理での phase としての位相ではなく数学としての topology の位相だ. ヒルベルト空間では少なくとも強・弱の 2 種類の収束が定義できる.

keywords

Hilbert space,strong convergence,weak convergence

量子力学の数学 6:コーシー列

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

コーシー列を定義しよう.

定義 1.8 点列 ${ \Psi_n }_{n=1}^{\infty} \in \mathcal{H}$ を考える. 任意の $\varepsilon >0$ に対してある番号 $n_0$ が存在し, 全ての $m,n >n_0$ に対して $\Vert \Psi_n - \Psi_m \Vert < \varepsilon$ が成り立つとき, この点列はコーシー列であるという.

定義 点列 ${ \Psi_n }{n=1}^{\infty} \in \mathcal{H}$ が $\sup \Vert \Psi_n \Vert < \infty$ を満たすとき, この点列は有界であるという.

コーシー列はこれまたあとで悪夢にうなされるほど出てくる. まずは基本的な命題を出しておく.

命題 1.9 (i) コーシー列は有界である. (ii) 収束列はコーシー列である.

(i) ももちろん大事だが, それよりも (ii) が決定的だ. コーシー列の定義は, いわゆる $\varepsilon - \delta$ 論法による収束の定義を微妙に変えた形だが, この程度の関連性はあるわけだ. 問題は (ii) の逆が一般には成り立たないこと. 例 1.11 で詳しく説明されているので「量子力学の数学的構造」 p29 を読んで欲しい.

連続関数の空間に $L^2$ ノルムを入れると, この空間ではコーシー列が収束列になるとは限らないことが分かる. ちなみに, 連続関数の空間にいわゆる sup ノルムを入れるとコーシー列が収束列になる. ノルムの入れ方が決定的な役割を果たすことに注意してほしい. さらに言えば, sup ノルムを入れた時, 連続関数の空間は内積空間ではなくノルム空間にしかならない. これも大事な注意だ.

全く関係ないこともないが, もう 1 つ与太話をしておこう. sup ノルムを入れた連続関数の空間に内積を入れることはできないが, 代わりにこの空間には普通の積が入る. この積に関して連続関数の空間は $C^*$-環になる. こちらは量子統計・場の量子論の数学で大事な数学的対象になっている.

話を戻そう. コーシー列が収束するかしないかは内積空間の構造によっている. そこで次の定義をしておこう.

定義 1.10 内積空間 $\mathcal{H}$ で全てのコーシー列が収束するなら $\mathcal{H}$ は完備であるという. 完備な内積空間をヒルベルト空間という.

ここでようやくヒルベルト空間の定義に到達した. やってみないと全く分からないことだが, とりあえず書いておこう. 完備性がないと何が難しいか. まず技術的に言って, コーシー列は比較的作りやすいのだが, 収束列を作るのはとても難しい. コーシー列なら自動的に収束すると言えれば楽で便利だ. またこれは近似が上手くできるか, という部分にもそれなりに関係する. 要するに数値計算などの応用上の問題にも関係しているのだ.

私自身はやったことがないし全く知らないと言い切っていいくらいだが, とりあえず聞いた限りのことを書いておく. コーシー列の定義で, コーシー列が収束列なら $n$ が大きければ $\Psi_n$ が極限に十分近いだろう. そこで適当に大きな $n$ に対して $\Psi_n$ を近似解とする. 十分 $n_0$ が大きいとして, $\Psi_n$ を極限 $\Psi$ の代わりに使うとしよう. こうすると [ \Vert \Psi_n - \Psi \Vert \sim \Vert \Psi_n - \Psi_m \Vert < \varepsilon ] となる. $\varepsilon$ は初めに決めておく誤差だ. こういう形で実際にはコーシー列を使って数値計算の正当性を保証しているらしい.

数値計算について詳しいことは各人で調べてほしい. 私は正しさを保証できない.

最後になったが, 完備な空間の例が「量子力学の数学的構造」 p30-32 にいくつか書いてある. 全て大事な例なのできちんと覚えておいてほしい.

次は正射影定理の節に入る.

title

コーシー列

desc

解析学で何かしようと思うとコーシー列はどうしても必要になる. 収束列自体を作るのがひどく難しいからだ.

keywords

Cauchy sequence,Hilbert space

量子力学の数学 7:閉部分空間

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

まずは部分空間を定義しよう. 閉集合と開集合, さらには閉部分空間を定義するのが今回のミッションだ.

定義 線型空間 $\mathcal{V}$ の空でない部分集合 $\mathcal{W}$ が $\mathcal{V}$ の和とスカラー倍について閉じているとき, $\mathcal{W}$ は $\mathcal{V}$ の線型部分空間または部分空間という.

「集合」というときと「空間」というときの違いをきっちり把握して欲しい. 線型空間に限らず, 「空間」とつけるときはその集合の元を束ねる構造があると思っている. もちろん今は線型性が鍵だ.

ここでヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ を考えよう. この部分集合 $\mathcal{D}$ とその収束列 ${ \Psi_n }_{n=1}^{\infty}$ を取り, 極限を $\Psi$ とする. ここで $\mathcal{D}$ は $\mathcal{H}$ 自身でもいい. $\Psi$ が $\mathcal{D}$ の元かどうか, 一般的には全く分からない. もちろん $\mathcal{D} = \mathcal{H}$ なら $\Psi \in \mathcal{D}$ は当然だ. $\mathcal{D} \neq \mathcal{H}$ でも $\Psi \in \mathcal{H}$ はもちろん言える. 頭に来るような例はいくらでもある. でも $\Psi \in \mathcal{D}$ だとすればとても嬉しい. 極限がどこにいるか予め分かっているととても便利だから.

例えば微分方程式論を考えよう. 微分方程式というくらいだから, 解は適当な意味で微分可能であってほしい. そこでそうした空間としてソボレフ空間 $H^1$ などを考える. $H^1$ 内の関数は大雑把に言って 1 回微分できる. $H^1$ の収束列がまた $H^1$ の中に入っていると, 極限の微分可能性が自動的に保証されるから, 解の微分可能性を別に考え直す必要がなくて便利だ. こういう話を想定しておいてほしい.

そこで閉集合を次のように決めておこう.

定義 $\mathcal{D}$ の全ての収束列の極限がまた $\mathcal{D}$ の元になっているとき, $\mathcal{D}$ は閉集合であるという. $\mathcal{D}$ が部分空間になっているとき, 閉部分空間であるという.

ヒルベルト空間の全ての閉部分空間は, $\mathcal{H}$ の内積でヒルベルト空間になる. 「$\mathcal{H}$ の内積で」というのは意外と曲者だろう. 別に難しいことは言っていなくて, 大抵の方の想像通りだとは思うが. ここで言いたいのは, 違う内積を持ってきたら, 閉集合かどうかは変わってしまうことがあるということだ. 色々な内積 (やノルム) を持って来ないことには実感もしづらいだろうが, それはそれでまた大変なので, 頑張って勉強してほしい, ということでお茶を濁しておく. ちなみに上の $H^1$ はこのあたりと微妙に関係がある. $H^1$ 自体も内積も定義していないが, ソボレフ空間で調べればすぐ出てくるので今はそちらに任せたい.

また, 開集合は次のように定義する.

定義 $\mathcal{D}$ が開集合であるとは, $\mathcal{D}$ の補集合が閉集合になっていることを言う.

「補集合が閉集合」と否定で開集合を定義しているが, 肯定的な表現で定義することもできる. それは位相空間論の書物をあたって欲しい.

あとついでに言うと, あまり開部分空間というのは考えない. 収束を議論しないといけないので, 極限が入っているとは限らない空間は扱いづらいからだ. ただ, 微分可能性を考えるときの底空間 $\Omega \subset \mathbb{R}^d$ などは当然開集合を取る. 関数空間の方を考えるときに開部分空間が余り出てこないと言うことなので混乱しないようにしてほしい.

最後に閉包を定義しよう.

定義 $\mathcal{D}$ の収束列の極限全てを集めてできる集合を $\mathcal{D}$ の閉包と言い, $\bar{\mathcal{D}}$ と書く. 他にも $\mathrm{clo} \, \mathcal{D}$ など書き方はいくつかある.

ずっと言っているように, 極限を取らないとやっていられない以上, 極限が全部入っている空間をどうしても作っておきたいのだ. そのための定義である.

定義ばかりで退屈だったろうが, 次回はもう少し性質に踏み込もう.

title

閉部分空間

desc

部分空間を定義した. 線型代数と同じなので特に注意することはないが, 部分集合と部分空間の区別がついていない方はこの機会にきちんと定義を確認してほしい. 位相に関して議論を始めている.

keywords

subspace,topology,Hilbert space

量子力学の数学 8:閉包と直交補空間

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回は閉包の性質について考えよう. 慣れてしまえば当たり前だし, 定義からの直接に帰結という意味でも当たり前だが, だからこそきっちりおさえておかないとあとで困る. 進んでいくと本当にさらりと流していくので気を付けてほしい.

まずは自明な関係式 [ \mathcal{D} \subset \bar{\mathcal{D}} ] はいいだろうか. 説明は本の p33 に書いてあるのでそれを見てほしい. 証明は 1 行で終わる. あと [ \mathcal{D}_1 \subset \mathcal{D}_2 \rightarrow \bar{\mathcal{D}_1} \subset \bar{\mathcal{D}_2} ] も明らか.

次も当たり前だが大事な命題なのできちんと証明を付けてほしい.

命題 1.11 $\mathcal{H}$ の任意の部分集合 $\mathcal{D}$ に対して, その閉包は閉集合になる.

少しずつ本題の正射影定理に近づいてきている. ここで直交補空間を定義しよう. 直交の定義を思い出してほしい. 普通の線型代数と同じで内積 0 で定義していた.

定義 ヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ の部分「集合」 $\mathcal{D}$ を取る. $\mathcal{D}$ の全てのベクトルと直交する $\mathcal{H}$ の元全体を $\mathcal{D}$ の直交補空間といい, $\mathcal{D}^{\perp}$ と書く.

ここで $\mathcal{D}^{\perp}$ は閉部分「空間」であることに注意してほしい. $\mathcal{D}$ 自体が部分空間でなくても成り立つ.

またこれも定義からすぐに分かるが, 次の関係が成り立つ: [ \mathcal{D}_1 \subset \mathcal{D}_2 \rightarrow \mathcal{D}_2^{\perp} \subset \mathcal{D}_1^{\perp}. ]

最後に次の補題を見ておこう.

補題 1.12 $\mathcal{H}$ の任意の部分集合 $\mathcal{D}$ に対して $\bar{\mathcal{D}}^{\perp} = \mathcal{D}^{\perp}$ が成り立つ.

少しテクニカルな補題なので, なかなか重要性が掴みづらいかもしれない. 証明をやっているとこの手の話題はよく出てくる. やはり手を動かして証明を追っていき, たくさん使ってみないと分からないと思う.

次はメインの正射影定理に入る.

title

閉包と直交補空間

desc

閉包は純粋に位相的な概念だが, 直交補空間は内積を使っているとはいえ, どちらかといえば代数的な性質だ. この 2 つをリンクさせることで少しずつ内積がある位相線型空間としてのヒルベルト空間論ができあがっていく.

keywords

closure,orthodonal complement

量子力学の数学 9:正射影定理

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

まずは定義から入る.

定義 $\mathcal{H}$ の部分集合 $\mathcal{D}$ とベクトル $\Psi \in \mathcal{H}$ の距離を次式で定義する: [ d (\Psi, \mathcal{D}) := \inf { \Vert \Psi - \Phi \Vert | \Phi \in \mathcal{D} }. ]

イメージについては P33 の図 1.2 を見てほしい. 部分集合とベクトルの距離だが, その集合と一番近い点を選んでそことの距離を計るという定義になっている. 極端な状況を考えることでこの定義の意味は分かるだろう.

まずは集合と言わず $\mathcal{D}$ が 1 点だったとしよう. この時は単純な距離だ. 今度は $\mathcal{D}$ が 2 点だったとする. このときはこの 2 点のうちの近い方との距離を取る. 色々な見方があるだろうがエルデシュ数のようなものを考えてみてほしい. 例えばこんな感じだ: ある研究グループがあったとしよう. そのメンバー全員からの「エルデシュ数」を考える. つまりそのグループの誰かと共著論文を書いたことがあれば「距離 1 」だ. そのグループの誰かと共著論文を書いたことがある人と共著論文を書いたことがあれば (ややこしい) 「距離 2 」だ. これで一番小さい数を取って来るというのが上記定義である. この説明の方が分かりづらいかもしれないが, それはそれとする. ネットワークの理論で犯罪者グループとの「距離」のようなことを考えてもいい.

定理 1.13 $\mathcal{M}$ をヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ の閉部分空間とする. この時任意の $\Psi \in \mathcal{H}$ に対して次の性質を満たす $\Psi_{\mathcal{M}} \in \mathcal{H}$ がただ 1 つ存在する. [ \Psi - \Psi_{\mathcal{M}} \in \mathcal{M}^{\perp}.] この $\Psi_{\mathcal{M}}$ をベクトル $\Psi$ の $\mathcal{H}$ への正射影という.

証明は難しくはないが本質的な点がいくつもある. 証明のキモは $\Psi_{\mathcal{M}}$ の近似列を $\mathcal{M}$ の中で作るところだろう. 収束列そのものを作るのは大変なのでコーシー列で我慢する. ここでヒルベルト空間の完備性を使って収束列化させている. こういう所はさらっと流してはいけない.

また $\mathcal{M}$ の閉性をここで使っている. 収束列がまたきちんと $\mathcal{M}$ に入っているためにはどうしても閉性がいる. 最後, 一意性を言うときに直交補空間を使う.

ここから系として次の正射影定理が出る.

定理 1.14 (正射影定理) $\mathcal{M}$ をヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ の閉部分空間とする. このとき任意の $\Psi \in \mathcal{H}$ に対して $\Psi_1 \in \mathcal{M}$ と $\Psi_2 \in \mathcal{M}^{\perp}$ があり [ \Psi = \Psi_1 + \Psi_2] と一意に分解できる. さらに [ \Psi_1 = \Psi_{\mathcal{M}}, \quad \Psi_2 = \Psi_{\mathcal{M}^{\perp}}. ]

この分解を $\Psi$ の $\mathcal{M}$ に関する直交分解という. これは次回のグラム-シュミットの直交化で大事になる. 高校以来やっていることを抽象化しただけなのでその意味では大したことは言っていないのだが, 証明は結構大変だ. あと無限次元を射程に入れているので, なめていると真綿で首を絞めるように効いてくるので十分注意してほしい.

title

正射影定理

desc

正射影定理を議論した. ある種の最短距離を考えていることに対応する. 難しくはないが, 証明にはいくつか本質的に気にかけておくべき部分がある. それだけ注意してほしい.

keywords

orthodonal projection,Hilbert space

量子力学の数学 10:グラム-シュミットの直交化

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回は正規直交系に関する話だ. 特にグラム-シュミットの直交化に的を絞る. ${\Phi_n}{n=1}^{N}$ を一次独立なベクトルの集合としよう. ここから正規直交系${\Psi_n}^N$ を作る. ここで両者で $N$ が一致しているのは一次独立性を付けているからだ. 実は一次独立性を取っても問題はないのだが, 記述が面倒になる. それはあとでまた補足する. 説明としては p39 の図で尽きている. 正射影だけを順番に切り出していくのだ. これは有限次元のときと何も変わらない. 良く分からない人は自分で 2-3 次元の場合を図に書きつつ計算をして欲しい.

まずは$\Phi_1$を規格化して$\Psi_1$とする: $\Psi_1 = \Phi_1 / \Vert \Phi_1 \Vert$. 次にこれと直交する方向への $\Phi_2$ の正射影を考え, それを規格化する. 次は $[\mathrm{span} ({ \Psi_1, \Psi_2 })]^{\perp}$ への$\Phi_3$ の正射影を規格化する. ここで部分集合 $\mathcal{D}$ に対して [ \mathrm{span} \, \mathcal{D} := { \sum_{n=1}^N \alpha_n \Phi_n : \alpha_i \in \mathbb{F}, \, \Phi_i \in \mathcal{D}, \, i=1,\dots,N }] としている. $\Psi_n$ を具体的に書くとこうなる. [ \Psi_n = \frac{\Phi_n - \sum_{k=1}^{n-1} \langle \Psi_k , \Phi_n \rangle \Psi_k} { \Vert \Phi_n - \sum_{k=1}^{n-1} \langle \Psi_k , \Phi_n \rangle \Psi_k \Vert}. ]

字面を見ると面倒だが, 先程言った通り 2-3 次元でやっていることを一般化しただけだ. 納得いくまで何度も書いて欲しい. この手続きをグラム-シュミットの直交化という. また生成される部分空間が同じでしかも $N$ 次元になることにも注意する. つまり [ \mathrm{span}({\Psi_n}{n=1}^N) = \mathrm{span}({\Phi_n}^N). ]

ここではじめの話に戻ろう. 上の式は元の ${\Phi_n }$ に一次独立性がなくても成り立つが, 空間の次元が $N$ ではなくなる. これも 2-3 次元で考えるとすぐ分かる. $\mathcal{D} = {\Phi_1, \Phi_2 }$ とし, $\Phi_1 = (1, 0), \, \Phi_2 = (2, 0)$ で直交化してみよう. 内積はもちろん普通の内積だ. すると直交化後は $\Psi_1 = (1,0)$ となって 1 次元分しか残らない. 元々 1 次元分しかない所で次元が増えるわけがないので当たり前だが, 一般化した所で訳も分からずフワフワしたままやっているとこういう部分がすっぽりと抜けてしまいがちになる. 気をつけよう.

むしろこの辺の処理が面倒なので, はじめから一次独立な部分だけ切り出しているのだと思ってほしい. それで十分だからだ.

次は完全正規直交系について考えよう.

title

グラム-シュミットの直交化

desc

グラム-シュミットの直交化を議論した. 有限次元の線型代数のときと同じなので, 2-3 次元で絵を描きながらやってほしい.

keywords

Gram-Schmidt orthogonalization,Hilbert space

量子力学の数学 11:ヒルベルト空間での級数の収束

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回はヒルベルト空間での無限級数の収束を考える.

ヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ が有限次元で $\mathrm{dim} \, \mathcal{H}=n$ なら, 正規直交基底を取って [ \Psi = \sum_{j=1}^{n} \langle \Psi_j, \Psi \rangle \Psi_j ] と書ける. この式は正規直交基底による展開式だ. これを無限次元化したい. 上の式を素直に $n \to \infty$ とするのが一番自然だろう: [ \Psi = \sum_{j=1}^{\infty} \langle \Psi_j, \Psi \rangle \Psi_j . ]

問題なのは上の式は形式的に無限級数になってしまっていることだ. 抽象的なヒルベルト空間での無限和, これが何者か想像がつくだろうか. 収束はどう定義すればいいだろうか. 素直に $\varepsilon \mathrm{-} \delta$ でやればいいと思うだろうか. もちろん何らかの形でここに落とす他ないが, 無限次元空間での収束の議論はとても面倒だ. あまりさらっと流してもらっては困る.

前も言ったが, とりあえず良く知っている実数に何らかの形で落とすことを目標にしよう. こうして次の定義に至る.

定義: ヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ の点列 ${ \Phi_n }{n=1}^{\infty}$ (正規直交系でなくてもいい) がある $\Phi$ に対して [ \left \Vert \sum^{N} \Phi_n - \Phi \right \Vert \to 0 \quad ( N \to \infty )] となるとき, 無限級数 $\sum_{n=1}^{\infty} \Phi_n$ は $\Phi$ に収束するといい, [ \sum_{n=1}^{\infty} \Phi_n = \Phi ] と書く.

要はノルムをひっかけて, よく知っている実数に叩き落とす形で定義するのだ. 今後も色々なところで陰に陽に実数の完備性 (連続性) などの性質を使っていくし, それを元にした議論をしていく. いちいち実数論を勉強し直す必要はないが, 訳が分からなくなった時はよく知っているところに戻って今何をしているのか確認してほしい.

次は完全正規直交系とその諸性質を考えよう.

title

ヒルベルト空間での級数の収束

desc

ヒルベルト空間での無限級数を定義した. 無限次元だとどの位相で収束を考えるかが常に問題になる. 今回は特にノルムによる強収束で考えている.

keywords

Hilbert space,convergence of series

量子力学の数学 12:完全正規直交系

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回は完全正規直交系とその諸性質を考える. まずは定義から.

定義 1.17 ${\Psi_n}{n=1}^{\infty}$ をヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ の正規直交系とする. 全ての $\Psi \in \mathcal{H}$ に対して [\Psi = \sum^{\infty} \langle \Psi_n , \Psi \rangle \Psi_n] が成り立つとき, 正規直交系 ${\Psi_n}_{n=1}^{\infty}$ は完全であるという. とくに完全正規直交系 (CONS) という.

便宜上, $\mathrm{dim} \, \mathcal{H} = n$ で有限次元のとき, 正規直交基底を完全正規直交系と呼ぶことにしよう.

ここで正規直交基底と完全正規直交系の違いについて考えたい. 正規直交基底というと, あくまでも線型代数の代数としての概念だ. 特に「基底」という言葉が代数的色彩の強い言葉になっている. 直交性が定義出来ている以上, 内積があるのでそこから位相が定義できるが, それでも必ずしも位相的な議論をするわけではないのだ.

例えば対角化の議論をするとき, 直交行列やエルミート行列を定義しようとする時点で既に内積を本質的に使っている. だからと言って位相的な議論はしないだろう. 要するに極限を取ったり激しい不等式評価をしたりはしない.

一方で完全正規直交系というと, 今回のように極限など位相的な議論を全開でやっていくという姿勢が前に出る. 同じような概念なのにわざわざ言葉を変えるのにはこういう意味もある: 違うことをやっている, という意識づけのために使う言葉から切り替えるのだ. あと念のために言っておくと「似て非なる」という言葉がある通り, 似ているとしか言えないということは同じではないということだ. そこにも注意してほしい.

あと, 物理だと時々「正規直交基底」というべき (言った方がいい?) ところを「完全系」といったりする. (正規直交はよく落とす印象がある). 例えば, 学部一年の力学でこういう言葉を聞いたことがある. 上では「便宜上」と付けたが, 数学的にも間違った言葉遣いではない. だが大げさな感じはする. 数学の人はかなりきちんと使い分ける. 特に無限次元を扱っている場合は自然と言葉が切り替わる印象だ. こういう所で物理学徒か数学徒か判別してみるのも面白いだろう.

次は CONS の特徴付けをしよう.

定理 1.18 ${\Psi_n}_{n=1}^{\infty}$ をヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ の正規直交系とする. この時次の 4 条件は同値になる.

(i) ${\Psi_n}_{n=1}^{\infty}$ は完全である.

(ii) 全ての $\Psi , \Phi \in \mathcal{H}$ に対して [ \langle \Psi, \Phi \rangle = \sum_{n=1}^{\infty} \langle \Psi, \Psi_n \rangle \langle \Psi_n , \Phi \rangle] となる. ここで右辺の級数は絶対収束している.

(iii) (パーセヴァルの等式) 全ての $\Psi \in \mathcal{H}$ に対して [ \Vert \Psi \Vert^2 = \sum_{n=1}{\infty} | \langle \Psi_n , \Psi \rangle |^2 ] が成り立つ.

(iv) 全ての $n$ に対して $\langle \Psi, \Psi_n \rangle = 0$ となる $\Psi$ は 0 に限る. $\blacksquare$

当然全て大事な条件だ. (ii) は物理でもよく使うだろう. 「完全系による展開」だ. 念のため言っておくが, 右辺は複素数としての収束だ. ヒルベルト空間内での収束ではない. 複素数それ自体が 1 次元複素ヒルベルト空間なので言い方がおかしいと言えばおかしいが, 分かってもらえると信じて先の表現を使っておく. さらに言えば, 体は複素数に限っていない (少なくとも実数と複素数は常に想定している) が, 当面のメインは複素数なので複素数と書いている.

(iii) は前やったパーセヴァルの不等式の等式版だ. 一般に「正規直交」なだけだと不等号にしかならない. 前に 3 次元空間内で 2 本のベクトルからなる正規直交系では足りないからだという話をしたが, そこから言えば, 十分たくさんベクトルがあればぴったり等号が成り立つということになる. つまり等号成立条件として完全性が特徴付けられる. 余談だが, 不等式を見たら等号成立条件は常に考えるようにして欲しい. ゼミでは必ず教官に突っ込まれるだろう. 注意されたい.

最後, (iv) だが, これは少し感覚的に掴みづらいというかあまり使ったことがない特徴付けに見えるかもしれない. だがこれも自然な一般化になっている. 何次元でもいいがとりあえず 3 次元として標準基底を取る. このとき $\langle \Psi, \Psi_n \rangle = 0$ は全ての成分が 0 になることを表している. 全ての成分が 0 のベクトルは 0 ベクトルしかないだろう. これだけだ. しかしこの条件は次回の位相的な議論で大事になる. このあたりの位相とも絡んでくるあたりは十分注意してほしい.

title

完全正規直交系

desc

完全正規直交系 (CONS) を定義した. 正規直交基底のとの違いを説明し, CONS の特徴づけもした. たとえば, パーセヴァルの不等式の等号成立条件としても特徴付けられる.

keywords

complete orthonormal system,CONS,Parseval's inequality

量子力学の数学 13:完全正規直交系と位相

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回は位相的な議論をしよう. 基本的な概念を定義する.

定義 部分集合 $\mathcal{D}$ の閉包が $\mathcal{H}$ と一致するとき, $\mathcal{D}$ は稠密であるという.

気分的には「$\mathcal{D}$ の元はたくさんある」という感じをまず持ってほしい. ただ, たくさんあったとしてもそれが一部分にだけ固まっていると全体を覆い尽くすことはできない. だから「$\mathcal{D}$ の元は $\mathcal{H}$ の中に満遍なく広がっている」という感じも必要だ. これが稠密に対して持つべき感覚である. 「密」とついているくらいなので「ぎっちり詰まっている」という感じを抱くかもしれないが, 必ずしも適当ではない. 本当にぎっちり詰まっている場合もあるにはあるが, その感覚がどこまで通じるかは全く自明ではないし, 「スカスカ」に見えても稠密なことがよくある. さらにはその直観が効かない空間も掃いて捨てるほどあるというか大体通じないので, その意味でも初学者はあまり直観を信用しない方がいい.

本では $\ell^2$ 内の例が挙がっているが, 他の例を挙げておこう. $L^2 (\mathbb{R}^d)$ を考える. まずコンパクトな台を持つ連続関数の空間 $C_{c}(\mathbb{R}^d)$ が一番基本的な例だろう. コンパクトな台を持つ無限回微分可能な関数の空間 $C_{c}^{\infty}(\mathbb{R}^d)$ も $L^2$ で稠密だ. $C_{c}^{\infty} \subset C_{c}$ だが, 両方 $L^2$ で稠密になる. こういうこともよくあるので注意してほしい. また急減少関数の空間 $\mathcal{S}(\mathbb{R}^d)$ も $L^2$ で稠密だ. 解析学にとって一番基本的な所なのでこのあたりは証明まで身につけてほしい.

あともっと基本的な例も挙げておこう. 実数 $\mathbb{R}$ の中で, 普通の距離から決まる位相に対して有理数 $\mathbb{Q}$ が稠密になる. これは実数の連続性 (完備性) とも関わる議論になる.

次の命題はよく使う大事な性質だ.

命題 1.19

(i) 部分空間 $\mathcal{D}$ が稠密であるための必要十分条件は $\mathcal{D}^{\perp} = {0}$ である.

(ii) 部分空間 $\mathcal{D}$ が稠密だとする. $\Psi_1, \, \Psi_2 \in \mathcal{H}$ が全ての $\mathcal{H}$ の元に対して $\langle \Psi, \Psi_1 \rangle = \langle \Psi, \Psi_2 \rangle$ ならば $\Psi_1=\Psi_2$ である.

(i) の気持ちは, $\mathcal{D}$ の元は満遍なく散らばっていて十分たくさんあるので, 全部の元と直交するベクトルは 0 以外あり得ないということだ. 完全正規直交系の場合, もっと強く有限次元で正規直交基底の場合の説明がここでオーバーラップする.

(ii) は $\Psi_1 - \Psi_2$ が直交補空間に入るので (i) に帰着する事で分かる.

また, これから次の命題が出る.

命題 1.20 ヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ の正規直交系 $\mathcal{D} = {\Psi_n}_{n=1}^{\infty}$ が完全であるための必要十分条件は $\mathrm{span} \, \mathcal{D}$ が稠密になることである.

これで完全性の位相的な特徴付けができた. どちらかと言えば代数的な, 前回の議論でも「十分たくさんベクトルがある」という説明をした. 位相的にも十分たくさんないと完全にはなれないことが分かったのだ.

このあと本ではフーリエ級数の話が書いてある. これはきちんと読んで欲しい. p46 の最後に「収束の位相を変えることでより広いクラスの関数に対してフーリエ級数展開できるようになった」とさらりと書いてあるが, これは決定的に大事な観点なのでここだけは特別に強調しておきたい. 量子力学的に身近な例では, 正に超関数がいい例だ. $L^2$ 収束性 (弱収束含む) では $\delta$-関数近似列の収束がまるで議論できない. そこで位相を弱めて何とか収束させようというのが超関数論である. 超関数の空間はこの位相と上手く合うような大きい空間として持ってきたと思ってほしい. 時々話題にしているが, 場の量子論だと表現論 (という数学がある) と絡めてさらに過激な問題になる. 今の段階では議論できたものではないが, 現在の研究の最先端なので意識はしておいてほしい.

title

完全正規直交系と位相

desc

今回は位相的な議論をした. 稠密性は今後も何度となく出てくる大事な概念になる. 位相的な話と代数的な話が交錯してくるので少しずつ難しくなってくるし, 有限次元の線型代数では触れない部分にも足を伸ばしつつあることに注意したい.

keywords

dense,closure,the set of continuous functions,orthodonal complement,orthonormal system,complete,Fourier series

量子力学の数学 14:CONS の存在

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回は可分性と CONS の存在について考えよう. どんなヒルベルト空間にも CONS があるだろうか. ちなみに, 一般の線型空間のレベルで基底の存在と選択公理が同値になるので http://data.lullar.com/ ベクトル空間, 適当に考えていると顎を砕かれんばかりのクロスカウンターで轟沈する. 量子力学, 場の量子論, 量子統計力学への応用上, 十分に実用的な基準があるのでそれを紹介する. まずは概念武装から.

定義 ヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ の部分集合 $\mathcal{D}$ が高々可算だとする. $\mathrm{span} \, \mathcal{D}$ が稠密なとき, $\mathcal{H}$ は可分であると言う.

何故可分という名前なのかはよく知らない. 上では物理への応用上という言い方にしたが, 大半の解析学はこれで用を足せる. もちろん, $L^{\infty}$ が可分でなかったり, 場の量子論・量子統計力学で出てくる $C^*$-環 で可分でないものがあるので本当に可分な所だけ考えていればいいという訳ではない. むしろ, 現状, 可分でない対象はほとんど制御が効かなくて調べようがないのだと思ってほしい. 例えば, 作用素環をやるとき, 大概基礎となるヒルベルト空間には可分性を仮定する. その上の作用素環の可分性まで期待しない. 作用素環だと入れる位相によって同じ集合でも可分になったりならなかったりもする.

横道にそれているのでそろそろ元に戻る.

定理 1.22 可分なヒルベルト空間は CONS を持つ.

主定理はこれだ.

定理 1.23 任意の開集合 $\Omega \subset \mathbb{R}^d$ に対して $L^2 (\Omega)$ は可分である. 特に CONS を持つ.

本の証明ではワイエルシュトラスの多項式近似定理を使っている. これがまた味わい深い定理なのでぜひとも証明まで勉強してほしい. 例えば確率論を使った証明は「マルチンゲールによる確率論」 http://www.amazon.co.jp/dp/4563008850 に書いてある. 熱核を使った証明は「ルベーグ積分入門」 http://www.amazon.co.jp/dp/4785313048/ にある. またストーン・ワイエルシュトラスの定理という抽象版がある. 具体的には局所コンパクトハウスドルフ空間上の連続関数の空間での稠密な部分集合の特徴付けだ. これも色々な本に載っているが「ヒルベルト空間と線型作用素」 http://www.amazon.co.jp/dp/479520103X/ がいいだろう. 付録に書いてあるのだが, この付録が異常なくらいに充実している. これ自体とてもいい本で, 前半部は「量子力学の数学的構造 I 」とほぼ重なる. 関数解析を全面に出していてスペクトル定理の証明を採用していて, 関数解析の妙味が味わえる.

関数環を使った証明は「 Functional Analysis 」 http://www.amazon.co.jp/dp/3540586547/ にある. この本は世界的に有名だ. Hille-Yosida の吉田耕作先生の本だ. 私は学部 2 年の頃憧れて無駄に買ってみたが, 難しくて挫折したままほとんど読んでいない. 作用素環を使った証明は例えば「 Fundamentals of the Theory of Operator Algebras 」 http://www.amazon.co.jp/dp/0821808192/ に書いてある.

色々書いたが, 結局のところ, これだけ色々な方法でたくさん証明を付けたくなるほどの定理なのだ. 私が知っているだけでこのくらいあるのだから, 実際にはまだ他の証明法もあるだろう. ワイエルシュトラスの偉大さを感じる瞬間でもある.

title

CONS の存在

desc

CONS の存在について考えた. 可分な空間ではきちんと存在が言える. 物理で出てくるヒルベルト空間は普通可分なので安心できる結果だ. 本での証明に使っているワイエルシュトラスの多項式近似定理は大事な定理なので少し突っ込んだ解説をした.

keywords

complete orthonormal system,separable,Weierstrass,polynomial approximation theorem

量子力学の数学 15:有界作用素

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回から線型作用素の節に入る. 本では「線形演算子」となっているが, ここでは線型作用素と呼ぶことにする. 基本的に無限次元のヒルベルト空間を射程圏内にしているので, とりあえずは無限次元の行列という所から認識を組み立ててほしい.

行列のようには見えないかもしれないが線型作用素の例として大事なのは微分作用素である. 詳しくは本を見てほしい. あと積分作用素も線型作用素になる. これも本に書いてあるが, 掛け算作用素もとても大事だ. いわゆる座標 $x_i$ による掛け算を作用素と思おう, というのが基本. また, 偏微分作用素 $-i \partial_j$ をフーリエ変換すると波数による掛け算作用素 $k_j$ になる. 作用素のフーリエ変換とは何か全く説明していないが, 物理の人が「ああ, あれか」と思うであろうあれのことだ. あとできちんと出てくるので正確な扱いは II 巻を読んで欲しい.

基本的な所は本に書いてあるのでそれは読者に任せるとして, p52 の定義域に関する注意だけ補足しておこう. 線型作用素の定義域は基礎となるヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ 全体になるとは限らない. 簡単な例は $L^2 (\mathbb{R}^d)$ で偏微分作用素 $\partial_j$ を考えればすぐ作れる. $L^2$ の元は積分できればいいので連続性すらないのが普通だ. まして微分ができることなど全く期待できない, というのが数学サイドからの言い分である. ちなみに定義域を適当に絞り込めばヒルベルト空間全体にできることはある. 例えば上記偏微分作用素なら, ソボレフ空間 $H^1 (\mathbb{R}^d)$ をとればこれ全体を定義域にできる. このくらい簡単な作用素なら定義域全体を綺麗に書き表せるが, 当然一般にはこんなにきれいに書けない.

もう少し物理方面から定義域問題を考えよう. これはハミルトニアンを持ち出すのが一番いい. 念のため書いておくが, 量子力学の物理についてある程度学んだことがある人を対象とした説明になる. 量子力学の原理として, 確率解釈のためにまずは対象を 2 乗可積分な関数だけにした. ただ, この関数全てが大事なわけではない. 普通まずハミルトニアンを適切に設定して, それがつくるダイナミクスに対する基底状態や平衡状態を考える. ここでハミルトニアン (の固有値) はエネルギーとしての意味を持つ. エネルギー無限大に対応する状態は物理的に言って考える必要がない. これを数学的に表現したのが定義域になる. 考える意味のある状態とは何か, それを切り出したのが定義域だ. 熱力学的極限など無限体積の系だと直接的にはあまり出てこないが, 有限系を考えるときは境界条件の設定も大事になる. 境界条件に応じて定義域も変わりうる. 当然, 境界条件も物理的な条件だ. こうしてここでも定義域の問題が出てくる. ハミルトニアンの「エルミート性」 (正確には自己共役性) という数学上の問題も出てくる.

title

有界作用素

desc

今回から作用素の話に入る. とりあえず行列と思っておけば問題ない. 線型作用素の例としては微分作用素や積分作用素がある. 悪名高き定義域問題にも注意した.

keywords

linear operators,differential operators,Hamiltonian,domain problem,selfadjointness problem

量子力学の数学 16:有界作用素 2

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

ところで, なかなか物理の議論に入らないことに業を煮やしている方がいるかもしれない. しばらくどころでは済まない程長い数学的な準備をした上でようやく「物理に必要な数学の準備」が整う, くらいの感じなので物理にはまだ遥か遠い距離がある. 私の経験から言えば, 学部 1 年で集合・位相の基礎を学んでおいて 3 年くらいからルベーグ積分・関数解析の準備をし, 学部 4 年でこの本その他で作用素論・作用素環論の準備をし, 修士 1 年の前期でもう少し詳しい部分を議論した末にようやく物理に入れる程度だ. その「物理」も正直かなり情けないレベルである.

具体的に修士で研究していた物理の問題は学部 3-4 レベル程度で, しかも理論物理としてはかなり良く分かっている問題を数学的にきちんと論じることしかできないという体たらくである. これを「物理」と呼んでいいものか今でもまだ分からない. 最先端の物理のはるか手前の問題ですら数学的には手に負えないことばかりなのでどうしようもないといえばそれまでだが, 情けないとは思っている. どれだけ数学を一所懸命やったところでどこまで「物理」につながるか分からない, それでも数学的にきちんとやることに「物理として意味がある」と信じる者のみが進む修羅の道である. そのつもりで気長に構えていて欲しい.

今回は有界作用素の話をしよう. まずは定義から.

定義 $A$ をヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ から ヒルベルト空間 $\mathcal{K}$ への線型作用素とする. このとき定数 $C >0$ が存在して [ \Vert A \Psi \Vert \leq C \Vert \Psi \Vert, \quad \forall \Psi \in \mathrm{dom} \, A ] が成立するとき $A$ は有界であるという. 有界でない線型作用素を非有界作用素という.

有界作用素よりも非有界作用素の方がなじみ深いだろう. 一般にハミルトニアンはほぼ例外なく非有界だ. スペクトル (大雑把には固有値のこと. あとで正確に定義する) で大体分かる. いくらでも大きなエネルギーが取れる感じである. 相対論の領域まで考えるなら紫外発散が起きるようなら基本非有界だと思ってほしい.

念のため有界なハミルトニアンを挙げておこう. 統計力学でイジングなど格子模型があるが, 有界な格子に対するハミルトニアンは例外なく有界作用素になる. トレースが取れる理由もここにある. 非有界格子模型になると一般にトレースは取れない. つまり常識的な意味での平衡状態は存在しない. この数学的な間隙を突くのが作用素環における冨田-竹崎理論である. 今ここで議論出来るようなレベルではないが, 冨田-竹崎は非相対論的な量子統計だけでなく, 相対論的場の量子論でも基本的な役割を果たす. 言葉の詳細は何 1 つ説明しないが, 適切な仮定の上で相対論的場の量子論における真空状態が全ての局所フォン・ノイマン環に対する cyclic and separating vector になる. cyclic and separating vector があればここから冨田-竹崎理論が有無を言わさず発動する. 量子統計としても平衡状態の定義そのものに深く関わっている以上, 基本的な意義がある. 興味のある方は Bratteli-Robinson http://folk.uio.no/bratteli/ にあたって欲しい. 学部 4 年の解析系の数学徒と真っ正面から解析学で殴り合えるレベルの数学力があれば読める. 作用素環の基礎から冨田-竹崎への最短コースを歩みたいならこの本がベストだ. 実際この分野のバイブルである.

今回は与太話が多くなったのでここで終わろう. 次は有界作用素のノルムや物理的に大事な例に触れる予定だ.

title

有界作用素 2

desc

「物理」をするのに必要な数学は膨大で気が遠くなるので気迫が必要だ. それはそれとして, 今回は有界作用素を定義した. 物理で大事なのはむしろ非有界作用素だが, 有界作用素が全く無意味ということもない.

keywords

bounded operators,unbounded operators,Hamiltonian,equilibrium state,Tomita-Takesaki theory

量子力学の数学 17:作用素ノルム, コンパクト作用素

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

まずは有界作用素にノルムを定義しておこう.

定義 $A$ をヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への有界線型作用素とする. このとき [\Vert A \Vert := \sup_{\Psi \neq 0, \Psi \in \mathrm{dom} \, A} \frac{\Vert A \Psi\Vert}{\Vert \Psi \Vert}] を $A$ のノルムという.

このノルムで有界線型作用素全体が作る空間 $\mathbb{B} (\mathcal{H}, \mathcal{K})$ はバナッハ空間になる. 興味のある向きは自ら証明されたい. このノルムからヒルベルト空間にはできない. だが, 少なくともヒルベルト空間にできる部分空間は存在する. (ただしノルムの取り方を変える必要がある). 作用素の空間自身もヒルベルト空間にできるのは応用上も大事だ. 色々な点から見て本の例 1.31, 1.32 は両方とも大事なのだが, ここでは違うノルムを入れることでヒルベルト空間になる部分空間という所から見てみよう.

ヒルベルト-シュミットクラスの例として積分核から作る作用素が取り上げられている. まずはヒルベルト-シュミット内積を定義しておこう.

定義 $\langle A, B \rangle := \mathrm{Tr} \, [A^* B]$ として作用素の空間に 2 変数の写像を定義する. 特に $\langle A, A \rangle$ が有限の値になる作用素をヒルベルト-シュミット作用素という. ここで $\mathrm{Tr}$ はトレース作用素である.

上記 2 変数写像は内積になる. さらにヒルベルト-シュミット作用素全体が作る空間はヒルベルト空間になる. これは量子統計で大事だ. 詳しくは「量子統計力学の数理」 http://www.amazon.co.jp/dp/4320018656 を参考にして欲しい. また, もっと身近で重要性が分かりやすそうな例として, トレースそのものが有現な値を取る作用素がある. これをトレースクラスの作用素という. これらはいわゆる「密度行列」だ. こういえば量子統計での重要性はすぐ分かってもらえるだろう. また, 有限階の作用素はこれらの空間内で各ノルムに対して稠密な集合になっている.

ただここで一点問題がある. これら, 特にトレースクラスの作用素は「コンパクト作用素」でなければならない. ここで詳しい定義はしないが, 非常に制限の厳しい作用素なので, ほぼ例外なく物理で出てくる作用素はこのクラスにはいらない. はっきり言えば物理的に意味のある作用素だと, 大体トレースが発散する. 正確には $\mathrm{Tr} \, e^{ - \beta H}$ が発散する. こうなると平衡状態が定義できない. ここで出てくるのが前回紹介した冨田-竹崎理論になる.

こういうと物理的に言ってどこが大事なのか分からなくなるかもしれない. 確かに制限が強すぎるので直接使うのはなかなか厳しい. (超対称性理論の数学だともう少し色々使えるらしいが詳しくない). ただ, 物理的にも意味のあるところへのつなぎとして慣れるためには十分使える. 簡単だから色々なことがクリアに見える. 詳細はやはり「量子統計力学の数理」を読んで欲しい.

数学としては非可換幾何との絡みは強調してもいいかもしれない. ヒルベルト-シュミットクラスに代表されるシャッテン-$p$ クラス $\mathcal{C}^p$ は非可換 $\ell^p$ 空間と呼ばれる. 時々素粒子方面で非可換幾何というのが出てくることがあるようだが, その基礎となる数学とそれなりに関係がある. シャッテン-$p$ に興味がある方は「ヒルベルト空間と線型作用素」 http://www.amazon.co.jp/dp/479520103X の 4 章を読んで欲しい. トレースクラスやヒルベルト-シュミットクラスについても詳しく論じられている.

非可換幾何自体は Connes のホームページに本が置いてある http://www.alainconnes.org/en/downloads.php. 非可換幾何の提唱者でこれに関してフィールズ賞をもらった当人が書いている. 無料で落とせるので興味がある向きはアタックしてほしい. ただ, 解析だけでなく葉層構造など幾何の話もある程度分かっていないと初めから何一つ理解できない. 実際私はほとんど分からない. この本は色々な話題を紹介しているだけであまり詳しい議論・証明は書いていないようだ. それぞれを適宜正確に追えるレベルのパワーがないと読めないだろうから注意されたい.

title

作用素ノルム, コンパクト作用素

desc

有界作用素のノルムを定義した. 特に有界線型作用素全体が作る空間はバナッハ空間になる. ヒルベルト空間になる部分空間もあるが, その場合はノルムの入れ方が変わることには注意してほしい.

keywords

bounded operators,Hilbert-Schmidt class,trace class,noncommutative geometry

量子力学の数学 18:有界作用素に関する話題

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

前回有界作用素について論じたが, この重要性が今ひとつ伝えられていない気がしたのでそこを補足する. 今回は説明なしで言葉を色々使うが, こんな大事なキーワードがあるのだな, と思って適当に読みとばしてほしい. 修士レベルではあるが確実に (極めてマイナーな分野の) 研究レベルに足を突っ込んでいるので, 数学・物理の両面から分かる人間は世界中を探してもそうはいない. 分からないと思って悲観することはないので安心してほしい.

まずある程度は有界作用素に叩き落として議論出来ることを説明しよう. 量子力学的にはエルミート行列 (無限次元版は自己共役作用素) は大体実数だと思える. 固有値 (スペクトル) は全部実数だ. これを指数の方に乗せる: つまり $e^{itH}$ を考える. そうするとこれはユニタリ行列になる. スペクトルは円周上に分布する.

正確な議論には I 巻の主な目的, スペクトル理論などが必要だが, とりあえずはテイラー展開で行列の指数関数を定義していると思ってほしい. 行列レベルならこれで本当に問題ない. 収束が気になる方はノルム位相で収束していることを注意しておく.

ここでポイントはハミルトニアンなど物理的に大事な作用素は大概非有界だが, 指数の肩に乗せることで有界作用素にできる. スペクトル分解 (要は対角化: 「線型代数入門」 http://www.amazon.co.jp/dp/4130620010 の 5 章には有限次元版が書いてある) から考えれば, ハミルトニアンから作られるスペクトル測度 (射影作用素になる) を考えてもいい. こうすると数学的には非有界作用素が持つ情報の多くは有界作用素に吸い出せる.

前にも少し書いたが, 非有界作用素は定義域など考えないといけないことが多く数学的にひどく鬱陶しい. その数学的な面倒を少しでも減らそうとして有界作用素, 特に有界作用素の集合を考えることで非有界作用素の煩雑さを避けようとする動きが 1960 代頃に出てきていた. その流れは作用素環による荒木-Haag-Kastler の代数的場の量子論の定式化として今でも研究が続いている.

もちろん非有界作用素で考えるべきを有界作用素 (の集合) に叩き落としているので, それだけでは困ることはある. 例えば「量子現象の数理」 http://www.amazon.co.jp/dp/425413682X/ の 3 章で論じられている表現論関係の問題だ. 「 Stone-von Neumann の一意化定理のおかげで量子力学では波動力学と行列力学は同値になるからどちらを使ってもいい」とよく言われる. これは非有界作用素を指数関数に乗せて有界な所に落としたうえで定式化された定理だ. こういう所でも実際に裏では有界作用素の理論が本質的に使われている.

本ではそのあと, アハラノフ-ボーム効果の解析で量子力学レベルでも問題が起きる場合があることが議論されている. アハラノフ-ボーム効果という現象が変なのであって, その他で上手く行くならとりあえずいいではないか, と思う向きがあるかもしれない. だがそうは問屋がおろさない. アハラノフ-ボームは, ベクトルポテンシャルが物理的に影響を持つことを実験的に確認した決定的な結果である. 古典電磁気学では電磁場こそが物理的実態であり, ポテンシャルは数学的な補助にすぎないと思われていた. しかし, ゲージ場の量子論 (素粒子の基礎理論でもある) ではこのポテンシャルがとても大事な役割を果たしている. (与太話だがゲージ理論は数学にも非常に強い影響を与えている). ベクトルポテンシャルの重要性はもはや疑いないのだが, それを量子力学のレベルで実験的に検証した決定的な現象がアハラノフ-ボームなのだ. そこで問題が起きているということは物理的にも極めて重要な結果である.

私が知る限りではアハラノフ-ボームの数学的な解析はまだまだ発展途上にある. 本に書いてあるが 2 次元だと複素解析や量子群とも絡んで非常に綺麗な理論ができるようだ. 研究もたくさんあるので興味のある向きはチャレンジしてほしい. きちんと文献を調べ尽くしたわけではないが, 物理的な 3 次元での議論は 2 次元に比べてあまり見られなかった. 2 次元だと複素解析, 有理型関数論でかなり上手く書けるが, 3 次元ではそれが使えないのも一因だと見ている. 3 次元だとそれこそアハラノフ-ボームを実験的に検証した日立基研の外村さんの結果を再現するという大目標があるので, 力がある方はぜひ取り組んでほしい. 非単連結空間上の量子力学ということで, 作用素論, スペクトル理論, 幾何学にまたがる研究対象として数学的な重要性もあるらしい.

ここまでは量子力学を中心とした話題だったが, 場の量子論的には表現論からの別の展開がある. 上にも書いた Stone-von Neumann の一意化定理は場の理論では使えない. 使えない物理的な理由まできちんとあって, それは悪名高き「発散の困難」である. このとき, 作用素論で非有界作用素を引きずるよりも有界作用素, 正確には有界線型作用素環の議論に持ちこんで発散の困難を数学的に回避する手法がある. これは非有界作用素を直接扱うより記述が遥かにすっきりすること, 少なくともそういう例があることが分かっていて, 個人的には注目し, 研究している.

有界作用素というより, 大事なのは有界線型作用素が作る集合 (環) なのだが, 有界線型作用素も大事だと思ってきちんと取り組んでほしい.

title

有界作用素に関する話題

desc

有界作用素の重要性がうまく伝わっていない気がしたので補足の記事を書いた. 非有界作用素を指数関数化したりレゾルベントを取ることで有界化できる. 個々からさらに適当な有界線型作用素全体を考える手法が確立していて, 代数的場の量子論につながる. もちろんこれにも問題はあって, たとえばアハラノフ-ボーム現象などの面白い現象もある.

keywords

bounded operators,exponential,resolvent,algebraic quantum field theory

量子力学の数学 19:線型有界作用素の連続性

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

線型作用素関連の続きをやろう. 例 1.33 の掛け算作用素はとても重要だ. 議論の仕方も大事なので証明まできちんと追い掛けてほしい. 例 1.34 では例 1.33 の具体例を挙げている. これもきちんとフォローしてほしい. 量子力学で実際に出てくる例だからだ.

ここでまた有界作用素の議論に戻る. これも基本として押さえてほしい.

命題 1.29 $A$ が有界線型だとする. $\Psi_n , \, \Psi \in \mathrm{dom} \, A$ で $\Psi_n \to \Psi$ のとき, [ \lim_{n\to\infty} A \Psi_n = A \Psi] となる.

これは有界作用素の連続性と呼ばれる. はっきり書くとこうなるからだ: [ \lim_{n\to\infty} A \Psi_n = A \lim_{n\to\infty} \Psi_n. ] 一般に連続関数は次式で定義されることを思い出してほしい. [ \lim_{n\to\infty} f (x_n) = f ( \lim_{n\to\infty} x_n). ] 正に同じ式を満たしている.

定理 1.30 $\mathcal{H}, \, \mathcal{K}$ が有限次元のヒルベルト空間だとする. このときすべての線型作用素は有界になる.

これは非有界作用素が無限次元ヒルベルト空間のときにしか意味がないことを表している. ここから量子力学ではどう考えても無限次元空間を考えなければいけないことが分かる. 例えば例 1.34 で論じられている掛け算作用素だ. これは粒子の位置に対応する作用素である. 考えている領域が非有界 (かなり多くの場合で全空間を取る近似は十分な精度で適切だ) の場合, $x_j$ はどこまでも遠くに行けるので非有界作用素になる. これを表現できる空間は無限次元でしかあり得ないということだ. 他にも, 例えば $x, \, p$ が正準交換関係 $[x, p]=i$ を満たすとする. このとき $x$ か $p$ のどちらかは必ず非有界にならなければいけないことが証明される. (これは II 巻で示される). 有界領域を考えていてもこうなることに注意してほしい. 作用素 $x$ は粒子の動ける範囲だから有界作用素になるが, 運動量 $p$ の方が非有界になる. これは箱に押し込めて境界条件を適当に取れば, $p$ のスペクトル (固有値) が具体的に計算できる. これが正に非有界になる. 物理的にはいくらでも短い波長の波が立つことに対応する.

title

線型有界作用素の連続性

desc

有界線型作用素の連続性を議論した. 線型作用素だと有界性と連続性は同値になる. また非有界作用素は無限次元空間上でしか意味を持たないことに注意する.

keywords

bounded operator,unbounded operator,continuity of operators

量子力学の数学 20:最近の場の量子論の数理事情

先日とあるところで最近の場の理論の数学について簡単な紹介をしたので, その文章をこちらにも転記しておく. 細かい用語の説明は一切しない. 前半は経路積分がどれだけ数学的にきちんと定式化されているか, という話に答えたところから始まっている. そのあとに相対論的場の量子論の数学の現状を, 知っている範囲で説明している.

場の理論の経路積分は非相対論ならば厳密にできる部分はあるが, 物理の実用には全く役に立たないレベルだ. 何とかしようとはしているが, まだ 10 年からそれ以上の時間がかかると見ている. 経路積分について, 新井先生の「量子数理物理学における汎関数積分法」 http://www.amazon.co.jp/dp/4320019326 が付録も充実しているので基礎はこれで学べるが, それだと今の数学的に言える部分の最先端にはかなり遠い. 「 Feynman-Kac-Type Theorems and Gibbs Measures on Path Space: With Applications to Rigorous Quantum Field Theory 」 http://www.amazon.co.jp/dp/3110201488 が一番最近出た本で, 最近の展開もかなり書いてある.

後者で扱われているモデルは主に非相対論的粒子とスカラーボソン場の相互作用系の Nelson モデル (電子-フォノン系も一応含む) と非相対論的 QED (Pauli-Fierz モデル) の 2 つだ. 一部 N 体電子系まで持ちあげられる結果もあるにはあるが, 実際にはあまり精力的に研究されていない. むしろ粒子の方を相対論化する方向に進んでいる印象を受ける. 物性というか私の趣味からすれば, 強磁性などの相転移絡みの話をしたいが, そうなると電子場を考える必要がある. ただ, ほとんど全く手がつけられていない. よく言えばフロンティアではある. 以上は大体 Nelson モデル関係の話だ. QED の方は赤外発散処理と繰り込みも大きなテーマだが, むしろ物質の安定性関連の結果の方が多そうな印象がある. こちらはあまり触れていない (難しくて私の手に負えない) のでよく知らない.

また, 電子系単独なら「 Fermionic Functional Integrals and the Renormalization Group 」 http://www.math.ubc.ca/~feldman/aisen.html に詳しい解析がまとまっているが, 2 次元のフェルミ流体とかその周辺くらいが限界点のようだ. 題名通り繰り込み処理が主題になっていて, これもやはり相転移のような多体系の特性があまり解析されていない印象がある.

もっと言えば, 経路積分に限らず, 多体量子系を数学的に扱い切れる人間自体が世界的に見てもほとんどいない. この分野に参入すればその時点で世界のトップ 10 くらいには入れる. まず一定以上物理と数学をやれる人間自体が少ないが, 実際にこの分野を研究している人間はもっと少ないからだ. この分野に入ることはお勧めしてはいない. ただでさえ数学か物理をやるだけでも大変なのに, 一定以上両方をやらなければいけないとなるとどちらも中途半端になってきっと何者にもなれない. それでもこの分野に入りたい, そして物理を数学的にきちんとやることには重要な意義があると心から信じる修羅だけが進む道である.

また上では非相対論的な部分に触れた. 相対論的な方がどうか, という話だが, これはさらに絶望的にろくな結果がない. 経路積分かどうかではなく, 相対論場の理論そのものが数学的に手に負えていない. 具体的には時空 2-3 次元の $\phi^4$ はいいが, 4 次元だと相互作用理論が存在しない. 私の知る限り, 正確には「散乱が無くなってしまう兆候」が見られる程度で, 本当にきちんとした証明はまだ得られていないようである. また相対論的 QED では摂動級数が発散する「ようだ」, というのが 60 年近く前から言われている (Dyson の指摘), いまだに証明がない. 関連した話もまとまった文献として, Jaffe のスライド http://www.arthurjaffe.com/Assets/pdf/ETH-Juerg.pdf を挙げておこう. 要は相対論的場の理論そのものがほとんど手に負えていない.

相対論的場の量子論については和書で「場の量子論と統計力学」 http://www.amazon.co.jp/dp/453578163X がある. 学生時代読もうと思ってあっさりと挫折した思い出深い書物になっている. 知っている限りのことをまとめておこう. この本では $\phi^4$ を扱っている. 理論の存在証明の基本的な戦略は次の通りだ. 空間を格子化しておいてさらに有界にする. これでイジングに落ちる. (イジングに落とすだけなら空間の格子化だけで十分だが). 面倒な所で相転移・臨界現象の議論が援用できるので上手く使いつつ無限体積・連続極限を取る.

ここで極限処理がひたすらに問題になる. 赤外発散・紫外発散を殺して殺して殺し切る強靭な腕力が要求される. 繰り込みがらみで物理として大問題なので決して逃げるわけにはいかない収束処理だが, とにかく手に負えない. 最近の素粒子系の話とは違って, おそらく純粋な数学徒は参加する理由がない. かと言って物理学徒も最早ほとんど興味ない. 「数学的に厳密な議論の物理への寄与は任意に与えられた正数εより小さい」というジョークがあるくらいだ.

他に知っている面倒な所を出しておこう. それは理論の対称性を示す議論だ. 先程言った通り, 始めに空間を格子化して連続極限として完全な理論を構築する. このとき, 初めに空間を格子化しているから, 極限理論が回転対称性を持つ保証がない. これもきちんと示す必要がある. 「そんなのは当たり前」というなら, 初めから数学的に厳密なとか戯言を言わずに理論物理やっていろという話だ. そんな出来損ないのヘッポコに存在価値はない. ちなみに回転対称性の証明についてはここの講義録 http://web.econ.keio.ac.jp/staff/hattori/nms97.pdf に多少言及がある. $\phi^4$ なら証明があるのは知っているが, どこまで一般化出来るかは完全に未解決だと認識している. $\phi^4$ 程度のおもちゃですら満足に扱えない無力さには我ながら失笑を覚えざるを得ない.

あと知っているのは, 理論の同値性絡みの問題. 経路積分を使うなら, 収束を楽にするため虚時間化する. 実時間に復帰させられるかは決して自明な問題ではない. 証明を読むと嫌という程思い知る.

title

最近の場の量子論の数理

desc

普段と打って変わって, 最近の場の量子論に関わる話を紹介した. 2012 年時点ではまだほぼ最前線の話題だろう.

keywords

quantum field theory,path integral,Nelson model,Pauli-Fierz model,many-body system,infrared divergence

量子力学の数学 21:電子系の数理特論

ここで私が知る限りの電子系の数理用の武装を紹介しよう. まずは私が良く知らないためにすぐ話が終わる多体シュレディンガーから始めたい. 色々切り口があるがまずは物質の安定性から入る. 本では Lieb-Seiringer の Stability of Matter http://www.amazon.co.jp/dp/0521191181/ がある. 上掲書いわく, 通常の理論物理ではほとんど論じられない話題のようだ. 量子力学の母体として原子の安定性問題があるのは有名な話だ. これはよく不確定性原理だけで説明されるが, 実際にはこれだけからは示せない.

まだきちんと読んでいないのだが確か Sobolev の不等式周辺が必要だったはずだ. 原則としてこれは水素原子の安定性問題になる. もう 1 つ問題はあって正に多体系の安定性である. ここで決定的な問題がある. 多体ボソン系の基底エネルギーの評価だ. 恐ろしいことに多体ボソン系の基底エネルギーは, 粒子数を $N$ としたとき $N^{7/5}$ に比例する. $N$ よりオーダーが高いのが本質的な部分である. 何が問題かというと $N$ が無限の極限で 1 粒子あたりの基底エネルギーが下に発散する. 物性理論, 特に相転移関連では粒子数無限大の近似を良く使う. この時基底エネルギー (の粒子数平均) が発散していることは, 安定な状態が存在しないことにつながってしまう.

ここで問題なのは, 当然現実の世界では物質は安定に存在している. だから何としてもこの理論的困難は克服しなければならない. ここで電子系の基底エネルギーを計算すると下から $N^{1}$ のオーダーで抑えられる. このおかげで物理系は安定に存在することが (とりあえず) 分かる. Dyson-Lenard 論文または上掲書をきちんと読んでいないので良くないのだが, 確か系にフェルミオンがありさえすれば良かったような覚えがある. ちなみに先程 (とりあえず) と付けたのは, 基底エネルギー (の平均) が抑えられるだけでは基底状態の存在が言える保証がないからだ. 「また数学徒みたいなことをいって」と言われるかもしれないが, 物理的にも洒落にならないことをこれから書こう.

まず単純な電子系で考える. 電子系にはクーロン力 (斥力) が働く. これのせいで電子系が反発しあい全部無限遠に飛んでいってしまうせいで基底状態が存在しない可能性がある. ちなみにアーンショーの定理があったりするので, 荷電粒子系の安定性は自明ではないのはいいだろうか. 電子-フォノン相互作用系を考えよう. このときフォノンのせいで電子間には引力が出る可能性がある. このときクーロンタイプの点電荷近似をしていると, 電子が 1 点に集まってきてしまうことがあり, それで基底状態が存在しない場合がありうる

私は証明をきちんと追っていないが, 実際に数学的にきちんと示せていると聞いている. 点電荷近似が悪い, ハードコアを使えという話もあるが, ハードコア近似の現実性が私にはよく分からない. もっとリアリスティックなポテンシャルを使う方法もあるだろうが, こんな所まで解析しきれる数学的腕っ節と物理を両方兼ね備えていて, しかもここの研究に乗り出そうという人間が現状で世界でも数人しかいないはずなので, 結局未踏の地になっていると認識している.

ちなみに電子-フォノン系だとフォノンの赤外発散が出てくる可能性があるので, これを 切り伏せた上で議論しなければいけない. 大雑把にはこの間言った Nelson モデルの解析になるが, 電子 1-2 体での解析があるのは知っているけれども, 多体でどこまで結果があるのかは知らない. 電子場-フォノン系だと私の知る限り完全に未踏の地である. このとき, フェルミ面近傍での電子-ホール生成・消滅, スピン波の赤外発散なども出てくるはずなのでさらに激しい処理が必要になる. 修羅の道という他ない.

考えてみれば, 電子-フォノン-フォトン系の解析は見たことがない. Abrikosov の本にも書いてあるくらい基本的な系のはずだが. こんな基本的な所で基底状態の存在すらまともに議論できていない程度に数理物理は非力である.

あと有限温度 (一応極低温を仮定) の場合の平衡状態にすると, さらに BEC が出てくるはずなのでもうどうしたらいいのか分からない. レーザーなどの絡みもあって, 平衡 (基底状態) への回帰問題もあるが, こちらも事実上電子系に厳しい制限がついたところでしか結果がない.

言い忘れていたが, 多分物質の安定性問題はもっと根が深い. 詳しく知らないのだが, クォークの閉じ込め関連は物質の安定性絡みの問題と認識している (違うなら教えてほしい). 物質の安定性はほぼ数理物理の人間だけしかやっていないらしいのだが, 色々困っている.

少しは相転移の議論を紹介しておこう. スピン系はあまり触ったことがないのでハバードの話だ. 先程も言ったが, ハバード-フォノンも電子-フォノン系なので電子間に引力が発生し得る. 適当な文献にあたってほしい. 物理の本になら大体何にでも書いてあるだろう. 引力ハバードは Lieb-Mattis の有名な結果があり, 基底状態がスピンシングレットになる. 当然, 斥力ハバードは適切な条件下で強磁性が出る. 大雑把にいって電子-フォノン系では電子間力の符号で全スピンの振る舞いが決定的に変わる.

http://t.co/obu86YRZ は Freericks-Lieb による結果だ. これは絶対零度なので高エネルギーがフォノンは無視できるとして, フォノンを有限自由度にして量子力学的に扱って引力的な結果を出した論文である. これの場の理論版も示せる. こちらはより強くフォノンの赤外発散があっても基底状態が, 引力ハバードではスピンシングレット, 斥力ハバードでは強磁性が出ることが分かっている. この系で有限温度だと磁性については何も出てこないが, それでも極低温ならフォノンの BEC は出るはずだ. ちなみにこの辺の証明は作用素論, 作用素環を使った解析しかないようなので, 経路積分でどう見えるかをこれから調べていきたいと思っている.

さらに, 物性をやっているので電子系を無限多体系にしたい. これは電子系単独で既に危険な領域に入っている. 繰り込み関連で http://t.co/8lQCU8IM があるのは知っている. これはグラフェンの解析だ. まだ全然読めていないが, 2 次元で繰り込みをやっている. 著者に聞いてみたら, 強磁性が出るときにも使えそうだという感触はあるとのことであった. 興味がある向きは死ぬ気で解析されたい. http://t.co/XU9U1lFv は一応無限体積ハバードで強磁性を示した論文だ. いまだにきちんと読めていないので間違っているかもしれないが, 簡単に内容を紹介する.

単純なハバードではなく軌道が 2 つある系を考えている. 上にある系の電子をスピンごと固定する. その上でスピン相互作用で下の電子のスピンを強制的に揃えさせて強磁性を発現させるというタイプの証明であったと思う. つまり微妙にやらせくさい. ハバードで強磁性が出るのが凶悪なのはスピン系と違って, スピンが揃うという効果をハミルトニアンに入れていないのに基底状態でスピンが揃うからだ. そこを曲げてやっている感じなので色々不満がある.

念のために言っておくと著者の 1 人 Froehlich は数理物理の神々のクラスにいる人間である. このクラスでもそれくらいの結果しか出せていない程度に何も言えていない. Froehlich に無限体積ハバードの強磁性の質問をして教えてもらった論文がある. それは前半は確かにハバードなのだが最後の磁性関連のところでモデルがハイゼンベルグになっていた. どういうことだ, と思ったが, それでもさっぱり分からなくてさめざめと泣いた.

無限体積で有限温度だと, フェルミ面近傍の生成・消滅, スピン波, フォノンの赤外発散を全て斬り伏せた上で強磁性 +BEC の相転移とかなりファンキーな現象が (数学的には) 期待されるので, 殺人的な系である.

私の知る限りにおいてだが, 相転移はこの間の南部さんのノーベル賞関連の業績から本格的な研究が始まったと認識している. 素粒子で相転移が大事になったが素粒子模型で議論するのは難しすぎる. ギリギリ解析できて意味もある模型はどれか, という所からスピン系が選ばれたそうだ. 最近もヒッグスだか何かで話題になったようだが, 自発的対称性の破れも磁性で一番先に詳しく調べられたと聞いている. あとこれもこの間言った $\phi^4$ の解析で難しい部分が相転移と臨界現象の議論に落とせることもあってさらに重要性が増したようだ.

面白いかどうかという意味では, ある程度物理をやった人には自明に面白い系だと思うが, 自分で新たに現象を発見したいというタイプの人には面白くない解析だとは思っている. それこそ幼稚園児でも分かる磁石の解析をしているわけで, ある意味で分かりきったことだから. 「磁石の存在証明を研究しています」とかその辺の人に行ったら頭がおかしい人だと思われかねない, 色々と困った分野なのであった.

あと 1 つ追記しよう. 前, 田崎さんが相転移だとかは (比較的簡単で綺麗で分かりやすい) スピン系でやるのがいいとか何とか言っているのを聞いた覚えがある. 磁石だからある程度直観的でもあるから. だがスピン系だと本質的に相互作用系なので, それがひどく面倒だ. 一方で BEC だとフリーボソンでも出るので簡単なのは簡単だ. 学部 3 年でもできる. 意味が分かるかは別として. ちなみに自発的対称性の破れまできちんと示せる. 興味のある向きは新井先生の「量子統計力学の数理」 http://www.amazon.co.jp/dp/4320018656/ を読んで欲しい. 自発的対称性の破れまできちんと書いてある.

物理としてこのくらいのことを知っていればとりあえず数理物理の研究に入れる. 興味のある方は参考にしてほしい.

title

電子系の数理

desc

普段と打って変わって電子系の数理についてのかなりアドバンストな話題をいくつか紹介した. 物理の研究としては多少古い部分もあるが, 数理物理の研究としてはいまだ最前線レベルだろう.

keywords

mathematics for the systems of electrons,stability of matter,Sobolev inequalities,electron-phonon interacting system,Bose-Einstein condensation

量子力学の数学 22:作用素の拡大

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

作用素の拡大と有界作用素の拡大定理を論じる. まずは非有界作用素でも使える概念を定義しておく.

定義 $\mathcal{H}, \mathcal{K}$ をヒルベルト空間とする. $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への作用素 $A,B$ が $\mathrm{dom} \, A \subset \mathrm{dom} \, B$ かつ全ての $\Psi \in \mathrm{dom} \, A$ に対して $A \Psi = B \Psi$ が成り立つとき, $B$ は $A$ の拡大あるいは $A$ は $B$ の制限 (縮小) といい, 記号的に $A \subset B$ と書く.

例 1.35 には例として微分作用素が挙がっている. 定義域が違えば別の作用素として扱うことには注意してほしい. あとでまた色々厄介な例が出てくる.

もうひとつ大事な言葉を定義しておく.

定義 $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への作用素 $A$ の定義域が稠密なとき, $A$ は稠密に定義されているという.

定理 1.31 (拡大定理) $A$ が稠密に定義された有界作用素だとする. このとき $\mathcal{H}$ 全体を定義域とする有界作用素 $\tilde{A}$ で $A$ の拡大で作用素ノルムが同じ 作用素がただ一つ存在する.

ここで大事なのは有界性と定義域の稠密性だ. 非有界作用素でも定義域が稠密な作用素はたくさんある. むしろ物理的に大事な自己共役作用素 (いわゆるエルミート作用素) は定義として定義域の稠密性を要求している. 物理で出てくるのは非有界な作用素ばかりだが, これらは普通定義域を全体に拡張できない. 物理的な理由は前に説明した通りだ. そこで上の定理では有界性がポイントとして効いてくる. 実際に証明でも有界作用素の連続性をフルに使っている.

また, 今後は特に断わらない限り有界作用素の定義域はヒルベルト空間全体とする.

title

作用素の拡大

desc

作用素の拡大を定義した. 非有界作用素の場合は面倒だが, 有界作用素の場合は比較的簡単だ. 特に稠密に定義された有界作用素の場合, 定義域は全体に取れる.

keywords

extension of operators,domain problem

量子力学の数学 23:有界線型作用素が作る空間

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

有界作用素を研究するとき, 有界作用素全体が作る空間を考えるアプローチがある. 今までも作用素環を何度か紹介してきたが, 大体この方向だ. 念の為改めて定義しておこう.

定義 $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への有界作用素の全体を $\mathbb{B} (\mathcal{H}, \mathcal{K})$ と書く.

これはベクトル空間になる. $\mathcal{K}=\mathcal{H}$ のときは環にもなる. 良く使われる位相の定義は 7 つあるが, そのうちノルム位相を定義しておこう. もちろん作用素ノルムでの収束で定義する. 普通の位相空間論だと開集合から位相を定義するが, ここでは収束列から定義している.

定理 1.32 $\mathbb{B}(\mathcal{H}, \mathcal{K})$ はノルム位相で完備である.

時々使う大事な定理, C. Neumann の定理を紹介して終わりにしよう.

定理 1.34 $A \in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ で $\Vert A \Vert < 1$ とする. このとき $1 + A$ は全単射で \begin{align} (1 + A)^{-1} = \sum_{n=0}^{\infty}(-1)^n A^n \end{align} が成り立つ.

上記の級数はノイマン級数という. これは複素数で成立する級数展開の作用素版だ. これからも時々, 実数や複素数で成り立つ定理の作用素版が出てくる. ちなみに作用素環で有名な竹崎先生は著書の中で「作用素環は現代の数論である」といっている. 正否や数学者社会での実情はともかく, これは次のような意味だ. 興味がある向きは「作用素環の構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4000053981 を読んでほしい. 量子力学によって作用素は数の代わりとして使われる局面が出てきた. たとえばエルミート (自己共役) 作用素が実数の役割を果たしているといった意味だ. 他にも実際に作用素環を使って数論をやる人も出てきている. このあたりの事情を見て竹崎先生の発言が出ている. 興味がある向きは Connes の論文 http://www.alainconnes.org/en/downloads.php などを読んでほしい.

title

有界線型作用素が作る空間

desc

量子力学の研究にとっても有界作用素は大事だが, 特に個々の有界作用素ではなく適当な作用素全体を考えるアプローチもある. それについて説明した. 特に C. Neumann の定理について紹介した.

keywords

the set of bounded operators,C Neumann's theorem,operator algebra

量子力学の数学 24:有界作用素が作る線型空間に入れる位相

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回は有界作用素の位相を考える. 作用素は全て $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への有界作用素とする. まずはノルム位相での収束を復習しよう.

定義 $A_n$ が $A$ にノルム位相で収束するとは $\Vert A_n - A \Vert \to 0 (n \to \infty)$ が成り立つことを言う.

これは一様収束, 一様位相での収束, 作用素ノルムでの収束などともいう.

定義 $A_n$ が $A$ に強収束するとは, 全ての $\Psi \in \mathcal{H}$ に対して $\Vert A_n \Psi - A \Psi \Vert \to 0 (n \to \infty)$ が成り立つことを言う.

これは強収束という. 前, ヒルベルト空間の強, 弱位相について説明したときと同じように考えてほしい. つまりノルム収束は自分一人でも目的地に辿り着けるしっかりした人だが, 強収束だとベクトルの助けがないといけないのだ.

定義 $A_n$ が $A$ に弱収束するとは, 全ての $\Psi, \Phi \in \mathcal{H}$ に対して $\langle \Phi, (A_n A) \Psi \rangle \to 0 (n \to \infty)$ が成り立つことを言う.

今度は強収束よりさらにひどく, 一度に 2 人のベクトルの力を借りなければ目的地に辿り着かせられない暴れ者である.

すぐ分かるが, ノルム収束するなら強収束し, 強収束するなら弱収束する. 考えているヒルベルト空間が有限次元ならこれらの収束は同値だ. 章末問題にもなっている. 無限次元の場合は当然区別する必要がある. 興味がある向きは演習問題を解いてほしい.

作用素環で他に強位相, 超強位相, 超強位相, 超弱位相が出てくるが, ここでやるのはやめておこう. 超弱位相はいわゆるトレースで定義する位相になる. フォンノイマン環論ではとても大事な位相になる. また前にも書いた覚えがあるが, 弱位相は相対論的場の量子論の LSZ で出てくる極めて大事な位相であることを改めて注意したい.

title

有界作用素環のなす空間に入る位相

desc

有界作用素環に入る位相として, ノルム位相, 強位相, 弱位相を紹介した. 作用素環にはこれ以外にも 4 つの位相を入れることがある. これらの位相を入れる場合は特に von Neumann 環と呼ばれる.

keywords

topology for the set of bounded operators,norm topology,strong topology,weak topology,von Neuman algebra

量子力学の数学 25:バナッハ空間とその例

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

本にはバナッハ空間の定義が載っている. ここで定義の詳細は省略する. 完備なノルム空間とだけいっておこう. ヒルベルト空間は定義から自明にバナッハ空間になる. 連続関数環が例として挙がっている. これはとても大事なのできちんと心に刻みつけておいてほしい. これは可換な $C^*$-環にもなる.

作用素環の話になるが, 可換な $C^$-環は連続関数環しかなく, 非可換な $C^$-環は全て適当なヒルベルト空間上の有界線型作用素環になる. これを Gelfand-Naimark の定理という. Gelfand-Naimark-Segal の定理ともいう. 特に非可換な方は GNS 構成定理という決定的な結果から導かれる. GNS はもちろん Gelfand, Naimark, Segal の頭文字を取っている.

数学は現時点で追い切れる人だけ追って頂くことにして, ここではこの物理的な意味をを考えよう. どちらでもいいが, 量子論をやっているので量子力学に対応する非可換の方から考える. 非可換な $C^$-環は考えている物理量の全体を表わしている. 位置作用素 $x_j$ や運動量作用素 $p_j$ から作られていて, ハミルトニアンも含んでいると思ってほしい. もちろん数学的には微妙な言い方だし細かい所というわけでもないが, とりあえずこう思っておく. $C^$-環という数学的対象に物理的な意味をのせていることが大事だ.

一方, 可換な方は大雑把には古典的な対象を割り当てたい. 非可換なときに物理量なのだから可換なときでも物理量だと思いたい. そして正にそう思っていい. 量子力学では $[x, p]=i \hbar$ という交換関係がある. ここで $\hbar \to 0$ とした極限で古典論が得られるというボーアの量子-古典対応があるが, これを適用すればいい. 先程, 非可換環は位置作用素, 運動量作用素で作るといった. 今度は関数として位置, 運動量の関数で物理量の環を作っているのだ. そして原則としてこれらの関数は連続, さらに強く微分可能だ. 運動方程式という微分方程式を満たしてもらわないと困るから. ここで先の連続関数環とリンクする.

数学の展開としては非可換幾何という大きな流れが出てくる. 興味のある向きは Connes の業績を追って欲しい.

title

バナッハ空間とその例

desc

バナッハ空間とその例として連続関数環を紹介した. 物理にも関係した, 関連する大事な概念として作用素環も紹介した.

keywords

Banach space,ring of continuous functions,operator algebra,noncommutative geometry

量子力学の数学 26:リースの表現定理

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回はリースの表現定理だ. まずは汎関数を定義しよう.

定義 ヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ の部分集合 $\mathcal{D}$ から $\mathbb{K}$ への写像 $F$ を $\mathcal{H}$ 上の汎関数という. $\mathcal{D}$ が部分空間で $F$ が線型のとき $F$ を線型汎関数という.

汎関数は $\mathcal{D}$ を定義域とする $\mathcal{H}$ から $\mathbb{K}$ への線型作用素だ. 線型作用素といわずにわざわざ汎関数と呼び直すのは, もちろん別名をつけたくなるほど大事だからだ. 関数といってもいいのだが, わざわざ「汎」とつけるのは線型空間上の関数であることを強調したいからだ.

特に $\mathbb{B}(\mathcal{H}, \mathbb{K})$ の元を有界線型汎関数という. もちろん連続だ. また簡易記法として $\mathcal{H}^*$ とも書き, 特に双対空間と呼ぶ. $\mathcal{H}'$ や $\mathcal{H}^{#}$ と書くこともある. シャープを使うのは作用素環の文献で多い. 他の 2 つは別の用途に使うからだ. プライムは可換子環に, スターは環の共役を表すのに使う.

ヒルベルト空間上の有界線型汎関数の例は簡単に作れる. $\mathcal{H}$ の任意のベクトル $\Phi$ に対し写像 $F_{\Phi}: \mathcal{H} \to \mathbb{K}$ を \begin{align} F_{\Phi} (\Psi) := \langle \Phi, \Psi \rangle \end{align} で定義すればいい.

問題はこの形以外の有界線型汎関数があるかどうかだ. 一般の線型空間ではそもそも内積がない. バナッハ空間だと関連する話題として回帰性があるがそれはそれで違う話になってしまう. ヒルベルト空間で考えたとき, これに対する肯定的な解答が次のリースの表現定理になる.

定理 1.37 任意の $F \in \mathcal{H}^*$ に対し, ベクトル $\Phi_F \in \mathcal{H}$ が一意的に存在し, $F (\Psi) = \langle \Phi_F, \Psi \rangle, \, \Psi \in \mathcal{H}$ と 書ける. さらに $\Vert F \Vert = \Vert \Phi_F \Vert$ も成り立つ.

証明は難しくないが, 結果は決定的に重要なので絶対に理解しておかなければいけない. 何故大事かを簡単に説明しよう.

線型汎関数を引っかけて複素数の収束にしたのが弱収束だが, この弱収束との関係性もポイントだ. ベクトルの弱収束すら言えない場合があっても, 汎関数 (作用素) としての弱収束が言える場合がある. $\delta$ 関数などがそうだ. 有界線型汎関数として収束することがいえれば, そこからリースの表現定理でベクトルが作り出せる. 収束は位相を弱くした方がいいやすくなる. それを使ってベクトルを作る方法だ.

title

リースの表現定理

desc

リースの表現定理はヒルベルト空間の特徴を表す大事な定理だ. 有界な線型汎関数はすべて内積から生まれると言っている.

keywords

Riesz' representation theorem

量子力学の数学 27:ユニタリ作用素

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回はユニタリ作用素を議論しよう. 基本的に複素係数の有限次元複素内積空間でのユニタリ行列と同じ定義だが, 復習を兼ねて定義をきちんと書く.

定義 ユニタリ作用素は 内積を保存する全射有界作用素である.

ここで内積を保存するとは次式で定義する. $U$ をユニタリ作用素とする.

[ \langle U \Psi , U \Phi \rangle = \langle \Psi, \Phi \rangle. ]

内積保存性からユニタリ作用素は単射であることも分かる. 特に等長性を持つ.

[ \Vert U \Psi \Vert = \Vert \Psi \Vert, \Psi \in \mathcal{H}. ]

ユニタリ作用素は等長性を持つが, 等長性を持つ作用素 (等長作用素という) は必ずしもユニタリではない. 右シフト作用素という有名な反例がある. 詳しくは章末問題 21 を解いてほしい.

ユニタリ作用素の存在に関して次の結果は基本的だ.

定理 1.39 $\mathcal{H}, \mathcal{K}$ を可分なヒルベルト空間, ${\Psi_n}{n=1}^N, {_Phi_n}^N$ をそれぞれの CONS とする. ここで $N$ は有限または可算無限. このとき全ての $n$ に対して $U \Psi_n = \Phi_n$ を満たすユニタリ変換 $U : \mathcal{H} \to \mathcal{K}$ がただ 1 つ存在する.

良く使う論法なので覚えておいてほしいのだが, CONS の上で有界作用素が定義できていればそれは定義域を全体にのばせる. 詳しくは証明を読んでほしい.

title

ユニタリ作用素

desc

ユニタリ作用素を定義した. 有限次元のときと本質的には変わらないが, 無限次元だと単射性から全射性を導けないので, その分定義に余計な項目を付け足さないといけないのに注意してほしい. 可分な空間の場合の存在定理は証明を含めて大事なので, きちんと身につけたい.

keywords

unitary operator,separable Hilbert space

量子力学の数学 28:ヒルベルト空間の同型

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回はヒルベルト空間の同型を考えよう. 教養の線型代数でもやるし数学ではもはや空気のように自然に通底する考え方で, ある見方で見たときに適当な対象を同じものだと思うことだ. 今回議論するのはヒルベルト空間なので, ヒルベルト空間特有の概念に注目する必要がある. それがユニタリ変換だ. まずはこれの性質をもう少し調べておこう. その前に記号を準備する.

定義 (線型) 作用素 $A$ と集合 $\mathcal{D} \subset \mathrm{dom} \, (A)$ に対して $A$ による $\mathcal{D}$ の像全体を $A \mathcal{D}$ と書く.

定理 1.40 $\mathcal{H}, \mathcal{K}$ をヒルベルト空間, $U : \mathcal{H} \to \mathcal{K}$ をユニタリ変換 (作用素) とする.

(i) $U^{-1}: \mathcal{K} \to \mathcal{H}$ はユニタリ変換である.

(ii) $\mathcal{D}$ が稠密な部分空間ならば, $U \mathcal{D}$ は $\mathcal{K}$ で稠密である.

(iii) $\mathcal{H}$ の任意の CONS ${\Psi_n}$ に対して, ${U \Psi_n }$ は $\mathcal{K}$ の CONS である.

有限次元と違って, 単射性から全射性は導けない. だからそもそも逆があること自体がユニタリ作用素の強い性質になっている. 稠密性も保存することも十分に注意してほしい. 内積からノルムを定義しているが, このノルムから位相を定義していることに注意してほしい. この内積を保存する作用素だからうまいこと位相的性質も保存されるのだ. 内積が保存されるので CONS であることも保存される.

本題のヒルベルト空間の同型性を定義しよう.

定義 ヒルベルト空間 $\mathcal{H}, \mathcal{K}$ が同型であるとは, この間にユニタリ変換が存在する事をいう.

特にユニタリ同型ともいう. 物理的なことを言う前に可分な空間に対する決定的な定理を紹介する.

定理 1.41 $\mathcal{H}$ が可分なヒルベルト空間, ${\Psi_n}_{n=1}^{N}$ を $\mathcal{H}$ の CONS とする. このとき次のいずれかが成立する.

(i) $N$ が有限ならば $\mathcal{H}$ と $\mathbb{C}^N$ と同型である.

(ii) $N=\infty$ ならば $\mathcal{H}$ と $\ell^2$ は同型である.

可分な所に限れば, ヒルベルト空間は本質的には $\ell^2$ しか存在しないということだ. だったら $\ell^2$ だけ考えていればいいと思った人は「物理の」人間ではない. 数学的にも似たような話になるが, 同型だったら何を使ってもいいのだ, と積極的な解釈をしてほしい. 例えば $\ell^2$ と $L^2$ は同型であることが分かっている. $L^2$ に移ると何が使えるか. 微分方程式が使えるのだ. $\ell^2$ では行列を引きずっていかなければいけない. だが微分方程式ならこれまでの物理で学んできた知見や近似のセンスがある程度使い回せる. 普通の量子力学の本でシュレディンガー方程式という名の微分方程式を主に引きずり回すのもこういう理由だ.

念の為に言っておくが, $\ell^2$ の方も使うときは使う. 一番有名なのは調和振動子の解析だろう. これは普通 $\ell^2$ で議論する. 調和振動子だけだろうとなめてはいけない. 調和振動子は場の量子論で一番基本的な対象で, 正にここから場の理論がはじまる. 使いどころを見極めて適切に使い分けてほしい.

例 1.39 では別の同型を構成している. こちらも参考にしてほしい.

title

非有界作用素

desc

次回からは非有界作用素の話がメインになる. 定義域問題など数学的に面倒な話が出てくるが, 物理ではよくあることだ.

keywords

unbounded operator, mathematical physics

量子力学の数学 29

今回から 2 章に入る. 非有界作用素の話がメインになってきて激しく面倒になってくるが, これが物理に使う数学の面倒さだ. 時々非有界作用素は病的といわれることもあるようだ. 1 つ良くいわれるのは, 定義域問題の面倒さだ.

ついでなのでこれまでとは別の観点から考えてみよう. 定義域が変わると作用素特性が劇的に変わる. 2 次元ラプラシアンを考える. 例えば有界な正方形上と全平面で考えるのではスペクトル (固有値) が全く違う. スペクトルは物理では観測値に対応するので, 物理的に全く違うことになる. また有界な正方形上でも境界条件によって変わる. どんな境界条件を考えるかは, 例えば実験のセッティングとも直接的な関係があるから, こちらも物理として洒落にならない. 定義域の違いは物理の違いともいえる. 変な定義域を指定しまうと物理として欲しい情報が得られない可能性がある.

というわけで, 物理として定義域問題が冗談では済まないことを改めて確認しておく. 次回から共役作用素や閉作用素の話に入る. 議論がやたらめったら込み入ってくるが, きちんと証明を追い切らないと後で何もできなくなる. 気合を入れてほしい.

量子力学の数学 30:共役作用素

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回は共役作用素を定義する. いわゆるエルミート共役のことだ. 有界作用素なら大したことはないが, 非有界作用素を念頭において定義するので, 定義だけでも大分長い.

$\mathcal{H}, \mathcal{K}$ を複素ヒルベルト空間, $A$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線型作用素とする. 各 $\Psi \in \mathcal{K}$ に対して [ \mathrm{dom} (F_{\Psi}) = \mathrm{dom} \, A, \quad F_{\Psi} (\Phi) = \langle \Psi, A \Phi \rangle, \quad \Phi \in \mathrm{dom} \, A ] で線型汎関数が定義される. これが有界であると仮定しよう (自明ではない).$\mathrm{dom} \, A$ は稠密だから, 汎関数の定義域を全体に拡張できる. するとリースの表現定理から $\Theta_{\Psi} \in \mathcal{H}$ がただ 1 つ存在して $F_{\Psi} (\Phi) = \langle \Theta_{\Psi}, \Phi \rangle$ となる. そこで $\mathcal{K}$ の部分集合 $D_A^$ を [ D_A^ := { \Psi \in \mathcal{K} | F_{\Phi} \in \mathcal{H}^ \ ] と定義する. これは部分空間であり, $\Theta_{\Psi}$ を $D_A^$ から $\mathcal{H}$ への写像として見れば, これは $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への線型作用素だ. この線形作用素を $A^*$ と書き, $A$ の共役作用素と呼ぶ. 共役作用素は定義域が稠密な作用素に対してだけ定義されることに注意してほしい. 途中で拡張定理を使っているからだ.

$A^$ の定義域が稠密なら, これの共役も定義でき, $A^*$ と書く. 応用上大体の作用素は共役も定義域が稠密になるが, 何でもかんでもそうなると思ったら大間違いだ. 例えば, 場の量子論で出てくる消滅作用素の作用素値超関数核は共役を持つが, その定義域は 0 だけだ. 詳しくいうとホワイトノイズ解析とも絡んで色々あるらしいが, 詳しくは「フォック空間と量子場下」の p374-375 を参考にしてほしい.

title

共役作用素

desc

共役作用素を定義した. いわゆるエルミート共役のことだが, 無限次元だときちんと定義するために定義域の稠密性が必要になり, 定義だけでも色々大変なことがある.

keywords

conjugate operator,hermitian conjugate

量子力学の数学 31:有界作用素の共役の特徴づけ

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

前回は非有界作用素も含めた場合の共役作用素の定義をした. 今回は有界作用素の共役の特徴付けをしよう.

命題 2.1 $A \in \mathbb{B} (\mathcal{H}, \mathcal{K})$ とする. このとき次が成り立つ.

(i) $A^* \in \mathbb{B} (\mathcal{K}, \mathcal{H})$.

(ii) $A^{**} = A$.

(iii) $\Vert A^* \Vert = \Vert A \Vert$.

基本的に有限次元のときのエルミート行列と同じだ. 共役を取ると元の作用素と定義域と値域が反転する. 共役の共役は元に戻る. ノルムは等しい. ノルムは有限次元だとあまりやらないだろうが, これも基本的だ. 念の為に言っておくと, 非有界作用素にノルムは定義できない. そんな大鉈を持ってくることもないのだが, スペクトル写像定理やスペクトル半径など, いくつか別ラインからも分かる.

前回非有界な場合共役な作用素の定義域が必ずしも稠密とは限らないことを例を挙げて説明した. ここでもその例が例 2.1 として $\ell^2$ で構成されている. 正直, 綺麗さっぱり忘れていた. もう 1 つ, 共役の定義域が稠密になる例が例 2.2 で出ている. これはかけ算作用素だが, 要は座標によるかけ算作用素 $x_j$ は共役の定義域が稠密になる. 実際には共役と自分自身が一致する自己共役というクラスに入るので, 当たり前といえば当たり前なのだが.

共役を使ったユニタリの特徴づけもしておこう.

命題 2.3 有界作用素 $U \in \mathbb{B} (\mathcal{H})$ がユニタリである必要十分条件は [ U^ U = 1, \quad UU^ = 1 ] が成り立つことである.

原則として有界作用素のときと同じだが, 上の式で両方共必要なのは無限次元固有の現象である. 有限次元なら準同型定理があるから, どちらかが分かっていれば十分だ. 上では定義域と値域を同じにしたが, 別にした場合は有限次元でも反例がある. 次元を考えれば自明だ. 本には反例が書いてあるので参考にしてほしい.

title

有界作用素の共役の特徴づけ

desc

有界作用素の共役を特徴づけた. 基本的に有限次元のエルミート行列と同じだ. ユニタリの特徴付けもした.

keywords

bounded operator,conjugate,hermitian,unitary

量子力学の数学 32:非有界作用素の和と積

\subsubsection{main 早速, 非有界作用素の面倒な部分を見てみよう. 今回くらいから, 本では値域を別のヒルベルト空間 $\mathcal{K}$ を取る部分でも同じ $\mathcal{H}$ のままにする. 単純に書くのが面倒だからだ. 完全な言明は本をあたってほしい.

命題 2.2 (i) $A, B$ を稠密に定義された $\mathcal{H}$ 上の作用素とし, $\mathrm{dom} \, (A+B)$ も稠密だとする. このとき [ (A+B)^ \supset A^ + B^. ] どちらかが有界なら [ (A+B)^ = A^ + B^. ]

(ii) $A,B$ が $\mathcal{H}$ 上稠密に定義されていて, $\mathrm{dom} \, BA$ が稠密だとする. このとき [ (BA)^ \subset A^ B^. ] どちらかが有界なら [ (BA)^ = A^ B^. ]

まず, 稠密に定義された作用素の和や積がまた稠密に定義されているとは限らないことに注意してほしい. 数学の問題ではなく物理の問題として表われる. きちんと勉強していないので間違っているかもしれないが, 固体物理で出てくるレナード-ジョーンズポテンシャルとラプラシアンの和は確かそのまま稠密ではなかったように思う. 「そのまま」と書いたのはもちろん力づくで何とかできることもあるからだ. 量子現象の数理の 2 章で出てくるが, (準双線型) 形式による和というのが定義できる. これはまた少しひねくれた和だが, かといって微分方程式でソボレフ空間を定義するときに使ったりもしているので, 滅茶苦茶におかしいということでもない.

\subsubsection{title 非有界作用素の摂動

\subsubsection{desc 非有界作用素の面倒な部分として和や積の定義域問題を議論した. ユニタリ作用素の共役による特徴づけも議論した.

keywords

unitary,unboudned operator,domain problem

量子力学の数学 33:閉作用素

一般に非有界作用素というと何でも入ってきてしまうが, そうかといって全てを相手にすることもない. いくら物理が変なところの数学を相手にしなればいけないからといって, 本当に全部病的なものばかりではないからだ. 大事なクラスとして閉作用素を定義しよう.

定義 $A$ を線型作用素とする. 条件 [ \Psi_n \in \mathrm{dom} \, A, \quad \Psi_n \to \Psi \in \mathcal{H}, \quad A \Psi_n \to \Phi \in \mathcal{H} ] をみたす点列 ${\Psi_n} \in \mathrm{dom} \, (A)$ に対して [ \Psi \in \mathrm{dom} (A), \quad \Phi = A \Psi ] が成り立つ作用素を閉作用素という.

有界作用素は閉作用素になる. 有界作用素は自明に大事だが, そこから比較的近い, 扱いやすい作用素だ. 定義で定義域の稠密性を要求していないことに注意してほしい. 次は基本的な事実である.

命題 2.4 $A$ が稠密に定義された線型作用素ならば共役 $A^*$ は閉作用素である.

共役は定義域が稠密かは分からないが, 閉にはなるということだ. 元の作用素の閉性とは関係ないところがなかなか鬱陶しい.

また, 前回もやったが稠密に定義された作用素の和がまた稠密である保証はない. ただ稠密になってくれるときもある. もう少し一般に, ある作用素 (たとえばラプラシアン) に対してその作用素を「摂動」した作用素として和の作用素を扱うことがある. 物理でいう摂動論はただの近似計算法だが, あれも基本的な発想としては「小さい」作用素を足しただけならもとの作用素と大きく変わることはないだろう, という推測をもとにしているから, 間違いなく同じような発想はしている. 全く別物なので注意はしてほしいが.

定理 2.5 $A$ が閉作用素, $B$ が有界とすると, $A+B$ は閉作用素になる.

ここまで, 何故上の定義で「閉」作用素というのかさっぱり分からないだろう. 理由としてまず次の定義をする.

定義 作用素 $A$ のグラフとは, 次の直和の部分集合のことである. \begin{align} G (A) := {(\Psi, A\Psi) : \Psi \in \mathrm{dom} \, A }. \end{align}

滅茶苦茶に見慣れないかもしれないが, 高校以来の関数のグラフと全く同じだ. この上で次の命題がある.

命題 2.6 線型作用素が閉になる必要十分条件はグラフが閉集合になることである.

何故閉作用素というか. それはグラフが閉集合になるからだ.

title

閉作用素の定義と諸性質

desc

閉作用素を定義した. 非有界作用素の大事なクラスだ. なぜ「閉」という名前がついているのかも説明した.

keywords

closed operator

量子力学の数学 34:可閉作用素

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

まず定義からはじめよう.

定義 $A$ が可閉作用素であるとは, $A \subset B$ となる線型作用素 $B$ が存在することをいう. $B$ を閉拡大という.

定義から閉作用素は可閉である. 言葉からいってもそうでなくては困る. 細かい話の前に特徴付けをしておこう.

命題 2.7 次の 2 条件は同値である

(i) 線型作用素 $A$ は可閉である.

(ii) ${\Psi_n} \subset \mathrm{dom}\,A$ が $\Psi_n \to 0, A\Psi_n \to \Phi$ となるなら $\Phi=0$. $\blacksquare$

(ii) だが, これは閉作用素の定義で $\Psi_n - \Psi$ をあらためて $\Psi_n$ としただけだ. 事実上, 閉作用素の定義と変わらない. だったら何故似たような概念・定義をするかといえば, あった方が便利だからだ. 特に応用上, いったん作用素を定義するとき定義域を小さめに取っておくことがある. それで目的の作用素はあらためて性質を調べて閉拡大で定義する.

定理の証明中, $\bar{A}$ という閉作用素が定義されている. これを $A$ の閉包と呼ぶ. 閉包は一意に決まるが閉拡大が一意とは限らない. 本のあとの方, p146 で微分作用素の例として, 対称作用素が非可算無限個の自己共役拡大を持つという例が出てくる. 自己共役 (いわゆるエルミート) 作用素は閉作用素なので, これも閉拡大の話になる. 詳しくは p146 を読んでほしいが, この閉拡大の多様性は境界条件の多様性に対応する. 境界条件は物理としても大事で, 境界条件次第で物理も変わるから, 物理を的確に反映した数学的現象であるともいえる.

また, 有界作用素による摂動についても 1 つ結果を紹介しておく. 非有界作用素の摂動については普通, 物理 (ハミルトニアン) ごとに個別に対応する.

定理 2.9 $A$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への可閉作用素とし, $B \in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ とする. このとき $A+B$ は可閉で次が成り立つ: \begin{align} \overline{(A+B)} = \bar{A} + B.\blacksquare \end{align}

閉作用素の可閉性を共役を使って特徴づけよう.

命題 2.13 線型作用素 $A$ が稠密に定義されているとする. このとき次が成立する.

(i) $A$ が可閉である必要十分条件は $\mathrm{dom}\,A^$ が稠密であることである. このとき $\bar{A}=A^{*}$ が成り立つ.

(ii) $A$ が可閉ならば $(\bar{A})^ = A^$. $\blacksquare$

例 2.4 に可閉作用素の例として微分作用素が挙がっている. 証明もチェックしてほしい.

title

可閉作用素

desc

可閉作用素を定義した. 閉作用素を直接定義するのが難しい場合にクッションとして使う. 可閉性は共役を使っても特徴付けられることも説明した.

keywords

closable operator,conjugate operator

量子力学の数学 35:閉グラフ定理

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

自明なことだが, ヒルベルト空間全体を定義域とする有界作用素は閉作用素だ. 逆にいつ閉作用素は有界になるだろうか. 物理として大事なのは基本的に非有界作用素だが, 数学的には興味のあることなので一応調べておこう. 定理自体は次の通りだ.

定理 2.14 $A: \mathcal{H} \to \mathcal{K}$ が閉作用素で $\mathrm{dom} \, A = \mathcal{H}$ とする. このとき $A$ は有界になる.

定理 2.15 (閉グラフ定理) $X, Y$ をバナッハ空間, $A: X \to Y$, $\mathrm{dom}\,A = X$ とする. このとき $A$ は有界になる.

定理の対偶から「非有界作用素の定義域は空間全体にはなりえない」ことが分かる. 証明はやや長いが, 位相空間, 距離空間の基本的な事実や Baire-Hausdorff の定理など大事な定理, 論法が出てくるのできちんと追うことを勧める.

title

閉グラフ定理

desc

閉作用素がいつ有界になるかを判定する定理として, 閉グラフ定理を紹介した. 基本的で大事な定理なので証明まできちんと学んでほしい.

keywords

closed graph theorem

量子力学の数学 36:固有値・固有ベクトル

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回からしばらくレゾルベントとスペクトルの話をする. スペクトルは大体固有値のことで, 一応皆知っていることになっている. レゾルベントは複素数の中で見たスペクトルの補集合だ. 線型代数だとあまり出て来ないが, 無限次元ではとても大事な役割を担っている.

まずあらためて固有値を定義しておこう. $\mathcal{H}$ をヒルベルト空間, $A$ をこの上の線型作用素とする. $\mathrm{dom}\,A$ の 0 でないベクトルと複素数 $\lambda$ があって $A \Psi = \lambda \Psi$ となるとき, $\lambda$ を $A$ の固有値, $\Psi$ を $\lambda$ に属する $A$ の固有ベクトルという. $A$ の固有値の集合を $\sigma_p (A)$ と書く.

有限次元の線型代数では先に特性方程式 $\det (A - \lambda) = 0$ の解を取ってきてそれを固有値と呼んでいたが, 無限次元では固有値と固有ベクトルを同時に定義する. 理由は簡単で, 必ずしも作用素に対して行列式が定義できるとは限らないからだ. 作用素がトレースクラスでなければならない. あとで定義するが, 一般に作用素のスペクトルを $\sigma (A)$ で書く. 固有値の $\sigma_p$ の $p$ は点スペクトル (point spectrum) の $p$ から来ている.

スカラー倍を表す $cI$ を簡単に $c$ とも書く. ここで, もちろん $c \in \mathbb{C}$ で $I$ は恒等作用素だ. $I$ は $1$ とも書く. スカラーだと思い切って書いたのが $1$ という記法だ. イデアルなどに $I$ を残しておきたい場合もあるので, そういうときにも時々使う.

固有ベクトルは $\ker (A - \lambda)$ の元であるともいえる. $\ker (A - \lambda)$ を $\lambda$ に関する固有空間ともいう. 固有空間の次元を固有値の多重度という. 多重度が 1 のとき固有値は単純であるといい, 2 以上のとき縮退しているという.

特に $L^2$ で考えているとき固有ベクトルは固有関数ともいう. 例 2.5 を見てほしい. この例では定義域が大事な役割を果たしていることに注意する. 定義域次第で「同じ」作用素であっても固有値があったりなかったりする. つまりスペクトルの性質が変わる.

例 2.6 では無限次元ヒルベルト空間のときに固有値を全く持たない作用素があることをいっている. 例として挙がっているのは座標によるかけ算作用素だ. 注意に書いてあるが, 定義域を超関数の空間に変えれば固有値を持つようになる. 再び定義域が大事になっていることに注意されたい.

これらから分かるように, 無限次元では固有値だけでは把握しきれない現象が出てくる. 実際, 散乱などはスペクトルを別の角度から分類する必要が出てくる. 今は扱えないが, 量子現象の数理 http://www.amazon.co.jp/gp/product/425413682X/ では 1 章が割かれている. これだけでは研究には全く足りないだろうが, 第一歩にはいいだろう. 脱線したが, 次回からはスペクトルの前にレゾルベントの定義から入る.

title

固有値・固有ベクトル

desc

固有値・固有ベクトルを定義した. 特に点スペクトルと呼ばれる. 有限次元では固有値というが, 無限次元ではスペクトルという概念に一般化する必要が出てくることに注意したい.

keywords

point spectrum,eigenvalue,eigenvector

量子力学の数学 37:レゾルベント

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

本当はスペクトルを定義したいのだが, 前回もやった通り直接定義するのは難しい. そこでまずこの補集合のレゾルベントから定義する.

定義 線型作用素 $A$ と複素数 $\lambda$ を取る. $\lambda$ が $A$ のレゾルベント集合に入るとは, 次の 2 条件を満たすときをいう.

(i) 作用素 $A - \lambda$ は単射で, $(A - \lambda)^{-1}$ は有界になる.

(ii) $\mathrm{dom} \, (A - \lambda)^{-1}$ は稠密である.

このとき \begin{align} R_{\lambda}(A) = (A - \lambda)^{-1} \end{align} を $A$ のレゾルベントといい, $A$ のレゾルベント集合を $\rho (A)$ と書く.

一般の場合にあわせて書いているから面倒に見えるかもしれないが, 閉作用素の場合は次のような簡単な特徴づけがある.

命題 2.19 $A$ を閉作用素とする. このとき複素数 $\lambda$ がレゾルベントの元になる必要十分条件は $A - \lambda$ が全単射になることである.

応用上は大体閉作用素しか使わないので, これを定義と思ってもいい. ただ, 場の理論で消滅作用素の超関数核が可閉でないからいつでも全てこれでいいと思われるとそれは困る. あと全単射だからといって $A - \lambda$ が有界だとは限らないので注意してほしい. 定義域の稠密性をいっているので, レゾルベントの方はもちろん有界だ.

title

レゾルベント

desc

今回はレゾルベントを定義した. 一般の場合は多少面倒だが, 閉作用素の場合はすっきりした定義になる. スペクトルの前にレゾルベントを定義するのは, スペクトルの定義がそれだけ面倒だからだ.

keywords

resolvent,spectrum

量子力学の数学 38:スペクトルの基本的性質

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

前回レゾルベントを定義したので今回はスペクトルを調べよう. まずは定義からだ.

定義 線型作用素 $A$ に対してスペクトルはレゾルベントの補集合として定義する: \begin{align} \sigma (A) := \mathbb{C} \setminus \rho (A). \end{align}

固有値に対しては $A - \lambda$ は単射ではないから, 当然レゾルベントの元ではなく, スペクトルに入る. 何度か説明しているが, 物理的にはスペクトルは観測値の集合に対応する.

定義 線型作用素 $A$ の連続スペクトルは次のように定義する. $\lambda \in \sigma_{\mathrm{c}} (A)$ は $A-\lambda$ が単射, $\mathrm{ran}(A-\lambda)$ が稠密, $(A-\lambda)^{-1}$ となる.

定義 線型作用素 $A$ の剰余スペクトルは次のように定義する. $\lambda \in \sigma_{\mathrm{r}} (A)$ は $A-\lambda$ が単射, $\mathrm{ran}(A-\lambda)$ が稠密ではない.

例 2.7 ではかけ算作用素のスペクトルを調べている. 全て連続スペクトルの元になっている. あとで出てくるが, 剰余スペクトルがないのは自己共役作用素の特性だ. 例 2.8 は剰余スペクトルが空でない作用素の例になっている. 私自身はあまり剰余スペクトルにさわったことがないが, 一応気には留めておいてほしい. 章末問題の 25 は解かずとも見ておいてほしい. 点スペクトルが連続体濃度ある作用素の例を与えている. 場の理論でも消滅作用素は全複素数を点スペクトルの元としている恐ろしい例がある.

また別件だが, スペクトルには別の分類もある. 散乱理論で絶対連続スペクトル, 特異スペクトルが出てくる. これは「量子現象の数理」を参考にしてほしい. 場の理論の散乱だと, 赤外発散に関係して別の要素も出てくる. Dybalski の Spectral Theory of Automorphism Groups and Particle Structures in Quantum Field Theory http://arxiv.org/abs/0901.3127 が参考になるだろう.

title

作用素のスペクトル

desc

線型作用素のスペクトルを定義した. 連続スペクトルなど細分類も定義した. 散乱理論での別の分類も紹介した.

keywords

spectrum,scattering theory

量子力学の数学 39:レゾルベントの基本的な性質

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

再びレゾルベントの話に戻る. 当然スペクトルにつながる話だ. まず複素平面上の $\varepsilon$ 近傍を定義しよう:

\begin{align} U_{\varepsilon} (a) := {\lambda \in \mathbb{C} : | \lambda - a | < \varepsilon }, \quad a \in \mathbb{C}. \end{align}

定理 2.20 $A$ をヒルベルト空間上の閉作用素とし, $\rho (A) \neq \emptyset$ とする. このとき任意の $\lambda_0 \in \rho (A)$ に対して \begin{align} U_{\Vert R_{\lambda_0} (A) \Vert^{-1}} (\lambda_0) \subset \rho (A) \end{align} となる. さらに \begin{align} R_{\lambda} (A) = \sum_{n=0}^{\infty} R_{\lambda_0} (A)^{n+1} (\lambda - \lambda_0)^n, \quad \lambda \in U_{\Vert R_{\lambda_0} (A) \Vert^{-1}} (\lambda_0) \end{align} も成り立つ. 特にレゾルベントは開集合になる.

上式で収束はノルム収束になる. 級数展開できるのはなかなか強烈だが, $(1-x)^{-1}$ の作用素版になっている. 自明ではないが, 気分はこれで掴んでほしい. 前にも書いたとおり, 量子力学では作用素が数の代わりになっている. それに合わせていくつか関連する結果がある. これはそのうちの 1 つだ.

あらためて書きはしないが, 本ではレゾルベント公式を紹介している. 私自身はあまり使ったことがないが, あることだけは注意してほしい. ちなみに The Resolvent Algebra: A New Approach to Canonical Quantum Systems http://arxiv.org/abs/0705.1988 という論文がある. まだあまり応用はないようだが, 著者らはこれを使って超対称性などを議論している論文も出していたはずだ. 作用素環を使った代数的場の量子論への応用を目指した論文だが, 普通は有界化するときには指数に乗せるところをレゾルベントに代えてみたところが新しい. あまりきちんと読んでいないが, 使えそうな感触はある. 量子統計で有名な Araki-Wood algebra を resolvent algebra で書いてみてどうなるかを調べるのは 1 つ大事な問題だと思っているので, 興味のある方は取り組んでほしい. 自由場のときの BEC もこれで再現してみたいと考えている.

title

レゾルベントの基本的な性質

desc

レゾルベントの基本的な性質を調べた. 開集合になるのがポイント. 複素数の場合の一般化にもなっていることに注意してほしい. Resolvent algebra のアプローチにも触れた.

keywords

resolvent,analogy between operators and numbers,resolvent algebra

量子力学の数学 40:スペクトルの基本的性質

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回はスペクトルの性質を調べよう.

定理 2.21 $A$ をヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ 上の可閉作用素とする. このとき次が成立する.

(i) $\sigma (A)$ は $\mathbb{C}$ の閉集合である.

(ii) $A$ が有界ならばスペクトルは空ではなく, 次が成り立つ.

\begin{align} \sigma (A) = \subset { \lambda \in \mathbb{C} : |\lambda| \leq \Vert A \Vert }. \end{align}

(i) はレゾルベントが開なので自明だ. 問題は (ii). 有界ならば必ずスペクトルがあることを言っている. これは証明が華麗なので是非読んでおいてほしい. 関数論の Liouville の定理を使う証明が書いてある. 非有界作用素の場合には成り立たないので注意すること. 演習問題 1, 2 を読んでほしい. 「同じ」微分作用素だが, 定義域によってスペクトルの性質が全く違う. 具体的には一方が複素数全体, 一方が空になる戦慄すべき例である.

有界作用素の場合にはスペクトル半径という量も定義できる. 演習問題 8 に書いてあるので興味のある向きは挑戦してほしい. ノルムと関係がある量なのでそれなりに大事だ. 物理では非有界がメインではあるのだが.

ユニタリのスペクトルの特徴を見ておこう.

定理 2.22 $U$ をユニタリ作用素とする. このとき \begin{align} \sigma (U) = { \lambda \in \mathbb{C} : | \lambda | = 1}. \end{align}

円周上にスペクトルが分布するのがポイントだ. ユニタリは絶対値が 1 の複素数に対応していることに注意してほしい.

最後に有限次元の場合をまとめておこう. もちろん目新しい内容ではない.

定理 2.23 $\mathcal{H}$ が有限次元ヒルベルト空間ならば, 線型作用素のスペクトルは固有値だけしかない.

title

スペクトルの基本的性質

desc

スペクトルの基本的性質をいくつか紹介した. スペクトルが空になる例が物理でも出て来そうなタイプの微分作用素で存在するので戦慄する.

keywords

spectrum,unitary operator

量子力学の数学 41:スペクトルのユニタリ不変性

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

以前ユニタリ変換で移り合うヒルベルト空間を同値と定義した. それを作用素について調べようというのが今回の目的だ. もちろん「同じ」性質を持つのだが, 何が同じなのかというのが問題だ. 作用素の性質を決める概念はいくつかあるが, 当然, ここではスペクトルに注目する.

まずは $A$ をヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ の線型作用素, $U$ をユニタリ作用素とする. 本では別の空間を取っているが, 面倒なのでここでは同じ $\mathcal{H}$ を使う. ユニタリ変換した作用素として \begin{align} A_U := U A U^{-1} \end{align} を取る. これを $U$ による $A$ のユニタリ変換という. 次の命題はスペクトルのユニタリ不変性をいっている.

命題 2.24 任意の線型作用素 $A$ に対し次が成り立つ. \begin{align} \sigma (A_U) = \sigma (A), \quad \sigma_{\sharp} (A_U) = \sigma_{\sharp} (A). \end{align} ここで $\sharp$ は p,c,r のどれかであり, $\sharp = \mathrm{p}$ のとき, 対応する固有値の縮退度は等しい.

他に可閉性も保たれる. 一般にユニタリ変換で保たれる不変な性質や不変な量はユニタリ不変特性, ユニタリ不変量とよばれる. 作用素の普遍的な性質はユニタリ不変特性やユニタリ不変量で表す.

ここでは省略するが, 本ではこのあとかけ算作用素のスペクトルについて詳しく議論してある. あとあと出てくる大事な結果がいくつもあるので, きちんと確認してほしい. 何度か書いているが, 座標作用素が正にかけ算作用素だ. この性質を調べていることにもなっているので, 適当に済ましてはいけない.

title

スペクトルのユニタリ不変性

desc

ユニタリ不変性やユニタリ不変量としてのスペクトルを議論した. ヒルベルト空間のユニタリ同値とあわせて, 作用素のユニタリ同値も大事な話だ.

keywords

unitary operator,unitary equivalence

量子力学の数学 42:エルミート・対称・自己共役

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回から対称作用素, 自己共役作用素の話に入る. これらの区別は決定的なので十分に定義を吟味してほしい. まずは無限次元におけるエルミート作用素を定義しよう. 以下, $\mathcal{H}$ をヒルベルト空間, $A$ を線型作用素とする. また, 文献によってはここでの定義とは少し違う定義をしていることもある. 特に, 自己共役は同じだろうが対称, エルミートの定義がときどき違うのでそれは注意してほしい. エルミートと対称を区別しないで同義に使っていることもある.

定義 全ての $\Psi, \Phi \in \dom \,(A)$ に対して \begin{align} \langle \Psi, A \Phi \rangle = \langle A \Psi, \Phi \rangle \end{align} が成り立つとき, $A$ はエルミートであるという.

この時点でいっておくが, ポイントは定義域の稠密性を要求していないところだ. 行列の場合のエルミートをそのまま移植してきた概念といえる. 次は対称作用素だ.

定義 エルミート作用素 $A$ の定義域が稠密であるとき, これを対称作用素という.

対称なら定義域が稠密なので, 共役がある. この共役が $A$ の拡大になっていることが定義から分かる. 普通というか, 有限次元ではエルミートといったら $A=A^*$ を指すだろう. これが自己共役だ.

定義 $A = A^*$ が成り立つとき, $A$ を自己共役という.

$A^*$ があるので, 定義域の稠密性は要求していることに注意してほしい. もちろん明示的に書いておいてもいい. あと本質的に自己共役というのも大事だ. 定義しておこう.

定義 閉包が自己共役のとき, その作用素を本質的に自己共役という.

これは実用上どうしても必要だ. 定義域問題があるので自己共役作用素を直接定義するのはとても難しい. とりあえず適当に小さめの定義域で対称作用素としては定義できることはよくあるので, 一旦定義域を狭めて定義しておく. こういう実用上の要請にあわせた定義である. 実際に調べはじめないとよく分からないだろうけれども.

title

エルミート・対称・自己共役

desc

エルミート・対称・自己共役作用素を定義した. もちろん自己共役が一番大事な概念だ.

keywords

hermitian operator,symmetric operator,selfadjoint operator

量子力学の数学 43:対称作用素の諸性質

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回はエルミート・対称作用素の性質をいくつか紹介する.

命題 2.30 $A$ を $\mathcal{H}$ 上の線型作用素とする. $A$ がエルミートである必要十分条件は, 任意の $\Psi \in \mathrm{dom} \,A$ に対して $\langle \Psi, A \Psi \rangle \in \mathbb{R}$ が成立することである.

定義から必要性はすぐ分かる. 問題は逆がいえることだ. 偏極恒等式というのを使う. 時々使うので名前だけは覚えておいてほしい. 具体的には本を確認すること.

命題 2.31 $A$ を対称作用素とする. このとき $A$ は可閉で閉包も対称である.

これも定義からすぐに従う. $A^*$ の定義域が稠密になるからだ. 定義域問題はあるが, 対称作用素は閉対称であると仮定してもそれ程問題はない. 少なくともいつでも拡大はある. 問題は閉対称拡大が 1 つであるとは限らないことだ. これはそれこそ非可算無限個の自己共役拡大を持つ作用素があることからも分かる. この例はあとで出てくる.

次に「下に有界」を定義しておこう.

定義 $A$ がエルミートだとする. 実定数 $\gamma$ が存在して, 全ての $\Psi \in \mathrm{dom} \,A$ に対して \begin{align} \langle \Psi, A \Psi \rangle \geq \gamma \Vert \Psi \Vert^2 \end{align} が成り立つとき, $A$ を下に有界と呼ぶ. 特に $\gamma \geq 0$ となるとき, 非負の作用素という. $\gamma > 0$ のときは正の作用素という.

下への有界性は (非相対論的) ハミルトニアンを考えるときに決定的だ. 下への有界性はエネルギーに下限があることを意味する. エネルギーに下限がないと際限なくエネルギーが落ち込んでいくので, 系の不安定性を意味する. その意味で物理と直接的に関係がある条件になる.

title

対称作用素の諸性質

desc

今回はエルミート・対称作用素の諸性質を論じた. 無限次元の面倒な所にいくつか注意してほしい.

keywords

hermitian operators,symmetric operators,selfadjoint operators

量子力学の数学 44:エルミート作用素の諸性質

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回の話は量子力学の数学をやる上で決定的な話になる. まずは定理を紹介する.

定理 2.32 (Hellinger-Toeplitz) $A$ をヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ のエルミート作用素とし, $\mathrm{dom} \,A = \mathcal{H}$ とする. このとき $A$ は有界である.

物理として一番大事なのは自己共役作用素だ. 自己共役作用素は定義から当然エルミート作用素になるが, 非有界な自己共役作用素の定義域は空間全体には決してならないことを言っている. いつでも全体といえれば楽だが, そうはいかないということだ. いちいちきちんと定義域を調べないといけない. また, 定義域をはっきりさせないと観測値に対応するスペクトルが決定的に変わってしまうため, 物理として困るというのは再三言っている.

また証明自体も全く同じだが, 固有値・固有ベクトルについては有限次元の場合と全く同じ性質を持つ.

命題 2.33 $A$ を $\mathcal{H}$ 上のエルミート作用素とする. このとき次が成り立つ.

(i) $A$ の固有値は全て実数である.

(ii) $A$ の異なる固有値に属する固有ベクトルは直交する.

この命題で注意するべきは「固有値があるとしたら」「固有値が実数になる」としか言っていないことだ. スペクトル全体が実数になるとは言っておらず, ましてや固有値が必ずあるとも言っていない. 実際, スペクトル全体が実数に含まれる作用素として自己共役作用素が特徴づけられる. 閉対称作用素には次のような特徴づけがある. 「量子現象の数理」 http://www.amazon.co.jp/dp/425413682X p117 に書いてあるので興味のある向きは読んでみてほしい.

命題 閉対称作用素のスペクトルは次のいずれかになる:上半平面全体, 下半平面全体, 複素数全体, 実数の部分集合. スペクトルが実数の部分集合になるとき, 実は自己共役である. 逆も成り立つ.

title

エルミート作用素の諸性質

desc

エルミート作用素の諸性質を論じた. Hellinger-Toeplitz の定理は量子力学への応用上, 数学的に面倒な事態を引き起こす元凶になっていることが分かる. 固有値・固有ベクトルにも注意してほしい.

keywords

hermitian operators,Hellinger-Toeplitz theorem,spectrum

量子力学の数学 45:自己共役作用素の性質

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

改めて自己共役作用素を考えよう. ごく簡単に定義を復習すると, 要は $A = A^*$ となる線型作用素だ. 定義域が問題になることは何度もいっている. 共役作用素は閉だから自己共役作用素も閉だ.

本では「有界線型作用素 $B$ に対して $B^*B$ が自己共役」というところから自己共役作用素の存在を言っているが, そもそも線型作用素の存在をきちんといっていなかった. そこまで含めていうとこうもいえる. ヒルベルト空間の単位ベクトル $\Psi$ に対して $|\Psi \rangle \langle \Psi|$ という作用素を次で定義する: \begin{align} \Psi \langle \Psi, \Phi \rangle =: | \Psi \rangle \langle \Psi | \Phi \end{align} いわゆる Dirac のブラケットだ. これは射影作用素になる. 特に線型作用素で有界だ. ヒルベルト空間の元から線型作用素を構成したので, ついでに線型作用素の存在証明もできている. 線型性もきちんと示すか定義を拡張させないといけないが, それは省略する.

本にもあるし, 大事なので今後も何度も繰り返すが, 対称作用素が有界なら自己共役だ. ただし非有界な場合, (閉) 対称作用素は自己共役とは限らない. 微分作用素で自己共役にならない例が本に書いてある. きちんと確認してほしい. かけ算作用素で自己共役な例も書いてある.

以前も非有界作用素は定義域が問題で, それにあわせて適当な拡大概念が大事になるといった. 改めてこれも書いておこう. 対称作用素 $A, B$ に対し $A \subset B$ が成り立つとき $B$ は $A$ の対称拡大という. 自己共役の場合は自己共役拡大という. 自己共役作用素の特徴は非自明な対称拡大を持たないことだ.

命題 2.34 $A$ を自己共役, $B$ を対称作用素とする. $A \subset B$ ならば $A=B$ である.

ここで注意すべきは「自己共役ならば」というところだ. ものすごく大雑把にいえば, 本質的に自己共役ならこれはそのまま持ち上がるが, 対称作用素では成り立たない. 例えば閉対称作用素には非可算無限個の自己共役拡大がある. 対称拡大よりも自己共役拡大の方が制限が厳しいので「数」は少ないはずだが, それでも非可算無限あるということだ. あとで例が出てくるが, これは微分方程式の境界条件に対応する. 境界条件は物理の設定と直接関係があるので, 物理的に色々ありうるしあっていいということだ.

title

自己共役作用素の性質

desc

復習しつつ自己共役作用素の性質をいくつか紹介した. 拡大に関する話が面倒だが本質的である.

keywords

selfadjoint operators,symmetric operators,extension of operators

量子力学の数学 46:自己共役性のユニタリ不変性

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

自己共役作用素の話を続ける. 物理として, ヒルベルト空間の数学として大事な概念であるためには, やはりユニタリ不変性は必要だ. 色々な言い方があるが, 例えばスペクトルのユニタリ不変性から考えてみよう. スペクトルがユニタリ不変な概念であることは既にやった. 自己共役作用素が大事なのはスペクトルが実であること, 物理量の測定値に対応し実験とも関係する量だからだ. ここから自己共役性もユニタリ不変でないと色々不便そうだということが見て取れる. 実際にきちんとそうなってくれる.

まずはもう少し一般に命題を出しておこう.

補題 2.35 $U$ をヒルベルト空間上のユニタリ作用素, $A$ を閉作用素とする. このとき次が成立する.

(i) $UA$ は閉作用素である.

(ii) $\mathrm{dom} \,A$ が稠密なとき, 次の作用素の等式が成り立つ. \begin{align} (A^ U^)^* = UA. \end{align}

(i) はまあいいだろう. (ii) について. 前に書いたか忘れたので一応説明しておくが, 作用素の等式というのは定義域まで含めてきちんと一致している, ということまで言っている. 見かけだけ同じということではない. 見かけだけ, というのは $-i \partial / \partial x$ のような微分作用素を考えてほしい. $x$ で微分する微分作用素であっても定義域が違えばまるで違う作用素だと説明してきた. 本でも何度も出てきている. それを言っている.

結論として, きちんと上の要望は満たされる.

定理 2.36 $U$ をヒルベルト空間上のユニタリ作用素, $A$ を自己共役作用素とする. このとき $UAU^*$ も自己共役である.

title

自己共役性のユニタリ不変性

desc

ヒルベルト空間上で大事な概念は基本的にはユニタリ不変性を持たねばならない. 自己共役性はきちんとこの性質を持っていることを論じた.

keywords

Hilbert spaces,unitary invariance,selfadjoint operators

量子力学の数学 47:自己共役作用素のスペクトル

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回は自己共役作用素のスペクトルの性質を調べる. 次の補題は線型代数でも似た定理がある. 準同型定理ともいくらか似ている.

補題 2.37 $A$ を閉作用素とする. このとき次が成り立つ.

(i) $A$ の核 $\mathrm{ker} \, A$ は $\mathcal{H}$ の閉部分空間である.

(ii) $\mathrm{dom} \, A$ が稠密のとき \begin{align} \mathcal{H} = \mathrm{ker} \, A \bigoplus \overline{\mathrm{ran} \, A^*}. \end{align}

(i) は閉作用素の定義からすぐ分かる. (ii) は有限次元だと $\mathrm{ran} A^$ に閉包がいらない. 自己共役の場合は当然 $A = A^$ だ. 無限次元でやっているので閉包を取らないときちんと全体を覆えないことが分かる. 有限次元で正方行列を考えよう. すると全射性と単射性が一致する. これは準同型定理からも従うが直接には上の式の有限次元版になる.

またこれは直交分解と言われる. 基本的な事実なのできちんと頭に入れておいてほしい.

今回の主結果は次の定理だ.

定理 2.40 $A$ を自己共役作用素とする. このとき次が成り立つ.

(i) $\sigma (A)$ は $\mathbb{R}$ の閉部分集合である.

(ii) 実定数 $\gamma$ があって $A \geq \gamma$ ならば $\sigma (A) \subset [\gamma, \infty)$.

(iii) $A$ は剰余スペクトルを持たない.

(iv) $\lambda \in \sigma (A)$ となる必要十分条件は次を満たす点列が存在することである. \begin{align} \Psi_n \in \mathrm{dom} \, A, \quad \Vert \Psi_n \Vert = 1, \quad, \lim_{n \to \infty} \Vert (A - \lambda) \Psi_n\Vert = 0. \end{align}

(i) は閉対称作用素が自己共役になる必要十分条件なので, 絶対に覚えておかないといけない. (ii) はハミルトニアンの下界性, つまり系の安定性にもつながる話なので, 物理的にも意味がある. (iii) は未だに意味が分からないが, 強烈な性質ではある. (iv) は少なくとも自己共役なら, スペクトルは固有値のある種の一般化になっていることを示唆する言明になっている.

title

自己共役作用素のスペクトル

desc

自己共役作用素のスペクトルについて調べた. 前半は有限次元でもある定理の一般化, 後半では決定的な性質をいくつか紹介した.

keywords

selfadjoint operators,spectrum

量子力学の数学 48:作用素の芯

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

芯は本質的自己共役性とセットで威力が出る. まずはこれらを定義しよう.

定義 対称作用素 $A$ の閉包が自己共役なとき, $A$ は本質的に自己共役であるという.

定義 閉作用素 $A$ に対し, 部分空間 $\mathcal{D} \in \mathrm{dom} \, A$ があって, $A|_{\mathcal{D}}$ が可閉でその閉包が $A$ に等しいとき, $\mathcal{D}$ を $A$ の芯という.

$\mathcal{D} \subset \mathrm{dom} \, A$ を稠密な部分空間とし, $A$ を対称作用素とする. $A|_{\mathcal{D}}$ が本質的に自己共役なことと, $\mathcal{D}$ が $A$ の芯であることは同値になる. 芯が便利なのは, 便利な集合が芯になってくれるからだ. 例えばラプラシアンに対して, $C_c^{\infty}$ が芯になってくれる. (本当はきちんと定義域を書かないといけないが, 全空間や適当に滑らかな境界を持つ領域なら問題ない). ラプラシアンなら自己共役になる定義域自体が $H^1$ と綺麗に書けるが, もう少しこれで考える. ヒルベルト空間, 特に $L^2$ で考えれば対称作用素としての定義域もはじめから $C_c^{\infty}$ よりも大きく取れる. それでも, 無限回微分できて, しかもコンパクト台なら大概の形式計算がうまくいく. 一旦ここで議論しておいて, 極限を取りにいければ便利なわけで, 実際にそれができるというのが芯の言っていることだ. 他にも摂動関連で Kato-Relich の定理など, 芯について言及している定理は多い.

本質的に自己共役というのもそれなりに制限が強い概念で, 自己共役拡大が複数ある場合には当然使えない. 以前も言及したが, 2.3.8 節は非可算無限個の自己共役拡大について論じている. 微分作用素で例を作っているので, 必ず確認してほしい.

title

作用素の芯

desc

作用素の芯について議論した. 本質的自己共役性と深い関係があり, 実用上も大事だ. 研究の現場では嫌という程出てくる.

keywords

core for linear operators,essentially selfadjointness

量子力学の数学 49:射影作用素

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

まず射影作用素を定義しよう. 単に射影ともいう.

定義 ヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ の閉部分空間 $\mathcal{M}$ を取る. 正射影定理から全ての $\Psi \in \mathcal{H}$ に対して $\mathcal{M}$ への正射影 $\Psi_{\mathcal{M}}$ がある. この $\Psi \mapsto \Psi_{\mathcal{M}}$ を $P_{\mathcal{M}}$ と書き, $\mathcal{M}$ への射影と呼ぶ.

基本的に有限次元の場合の射影と何も変わらない. 「閉」部分空間とする部分が有限次元の場合と違うところだ. 無限次元部分空間まで考えるので, こう言わないといけなくなる. 当然, 射影という呼び方を正当化する性質も持っている. 実は定義の上では閉部分空間への言及を外せる.

定義 $\mathcal{H}$ 上の有界線型作用素 $P$ で $P^2 = P$ かつ $P^* = P$ が成り立つ作用素を射影という.

これは $C^*$ 環など抽象論を考えるときに大事になる. いちいち空間に言及しないといけないのでは面倒だから. 他にも大事なことはあるが次の命題を紹介してからにしよう.

命題 2.46 $P$ を射影とする. このとき次が成り立つ.

(i) $\Psi \in \mathrm{ran} \, P$ ならば $P\Psi = \Psi$.

(ii) $\Psi \in (\mathrm{ran} \, P )^{\perp}$ ならば $P\Psi = 0$.

(iii) $\mathrm{ran} \, P$ は閉部分空間である.

(iv) $P = P_{\mathrm{ran} \, P}$.

命題 2.47 $\mathcal{M}, \mathcal{N}$ を閉部分空間とする.

(i) $\mathcal{M} \perp \mathcal{N}$ と $P_{\mathcal{M}} P_{\mathcal{N}} = 0$ は同値になる.

(ii) $\mathcal{M} \subset \mathcal{N}$ と $P_{\mathcal{M}} P_{\mathcal{N}} = P_{\mathcal{N}} P_{\mathcal{M}} = P_{\mathcal{M}}$ は同値である.

(iii) 上式と $P_{\mathcal{M}} \leq P_{\mathcal{N}}$ は同値である.

命題 2.46 の (i) (ii) は幾何学的にはほぼ自明だ. (iii) は閉という部分がやや非自明かもしれない. (証明は簡単だが). (iv) は大事で, 閉部分空間と射影はどちらを考えてもいいことが分かる. 先に閉部分空間から射影を作ったとしよう. このとき当然閉部分空間の情報が射影にエンコードされている. 逆に射影から考えよう. このとき, $\mathrm{ran} \, P$ という形で勝手に閉部分空間が出てくる. つまり射影と閉部分空間が対応している.

もっと強いことが言っているのが命題 2.47 だ. こちらは閉部分空間の間の関係が射影の代数にエンコードされていることを言っている. 分からない方は 3 次元で絵に描きながら納得してほしい. 閉部分空間という限定された形だが, 空間の情報がその上の作用素の空間にすっぽり入っていることを主張している. この手の話は現代幾何の基本であり, 出発点でもある. ホモロジーやホモトピーがそうだ. 「空間を調べたければその上の関数環を調べよ」ということで, 現代幾何学の基礎をなしている. 作用素環の基本定理, Gelfand-Naimark もこの方向の決定打となる定理だ. 非可換幾何について何度か言及しているが, その源泉もここにある.

射影で考えれば当たり前のことしか言っていないのだが, 他の色々な数学への萌芽がここにある. 当たり前と思って馬鹿にしてはいけない.

title

射影作用素

desc

射影作用素を定義した. 当たり前のことばかりに見えるかもしれないが, 非可換幾何を始めとした幾何学ことはじめにもなりうる内容で, 実は非常に深い.

keywords

projection

量子力学の数学 50:スペクトル定理

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

今回からヒルベルト空間論の魂の一つ, スペクトル定理に向けた話に入る. まずは誰もが知っている有限次元の線型代数から入ろう. 斎藤正彦「線型代数入門」 http://www.amazon.co.jp/dp/4130620010/ では対角化と同値であることが書かれている. 対角化は基底を選んだ上で行列の表示について述べた定理だが, スペクトル定理は基底を選ばずに射影のままで引き摺る定理だ. 無限次元では固有値だけでは済まずに連続スペクトルが出てくる. ここに対応しようと思うと自然に積分が出てくる. 作用素のなす空間上での積分論を構築する必要があるとも言える. 当然このあたりが面倒な所になる.

ちなみに作用素のなす空間での積分だとか無茶苦茶に思えるかもしれないが, 場の量子論でヒルベルト空間に値を取る積分や作用素環に値を取る積分なども出てくる. この程度でへこたれていてはいけない.

まず有限次元でエルミート行列 $H$ を取って, これのスペクトル定理を書こう. 有限次元なので問答無用で固有値・固有ベクトルが存在する. 固有値を $\lambda_j$ とする. スペクトル定理の設定用に, 固有値 $\lambda_j$ に対応する固有空間に対する射影を $P_j$ とする. 固有値に縮退があれば固有空間の次元は 1 ではない. このとき当然 $P_j$ 達は可換になるし, さらに足すと単位行列 1 になる: \begin{align} P_j P_k = 0, \quad j \neq k, \quad \sum P_j = 1. \end{align} このときスペクトル定理は次の通り. \begin{align} H = \sum \lambda_j P_j. \end{align}

対角化の利点の 1 つは行列の $n$ 乗が簡単に計算できることだった. 理由は正規直交基底を使って計算できることにあった. それが今は射影に代わっているだけだ. $n$ 乗どころかもっと広く行列の関数が定義できる. 詳しくはあとでやるが, 次のような実に簡明な表現を持つ. ちなみに上記「線型代数入門」にも書いてある. \begin{align} f (H) = \sum f (\lambda_j) P_j. \end{align}

長くなってきたので今回はこのあたりにしよう. 次はスペクトル族を有限次元で定義し, 射影による「積分」を定義する.

title

スペクトル定理

desc

有限次元でもスペクトル定理はあるが, 対角化と同値でありこちらの方が有名だ. まずはそのあたりをおさらいした.

keywords

spectral theorem, spectral family

量子力学の数学 51:スペクトル族

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

応用上よく出てくるのはスペクトル測度の方だが, ステップとして一応スペクトル族もやっておこう. 前回と同じく有限次元で考える. $H$ をエルミート行列として, 固有値を $\lambda_j$ とする. 任意の $\lambda \in \mathbb{R}$ に対して次の作用素を定義する. \begin{align} E_H (\lambda) := \sum_{\lambda_j \leq \lambda} P_j. \end{align} ここで $P_j$ は $\lambda_j$ の固有空間への射影だ. 和は $\lambda_j \leq \lambda$ となる $j$ について取る. なければ 0 とする.

エルミート行列の一般論から次の式が成立する. \begin{align} E_H (\lambda) E_H (\mu) = E_H (\mu) E_H (\lambda) = E_H (\mathrm{min}{\lambda, \mu}), \quad \lambda, \mu \in \mathbb{R}, \end{align} \begin{align} \text{s-}\lim_{\lambda \to \infty} E_H (\lambda) = 1, \quad \text{s-}\lim_{\lambda \to - \infty}E_H (\lambda) = 0, \end{align} \begin{align} \text{s-}\lim_{\varepsilon \to +0} E_H (\lambda + \varepsilon) = E_H (\lambda). \end{align} あとで一般論の中でも定義するが, これがスペクトル族の定義になる. 有限次元で持っているこの性質を元に無限次元でも定義をしている. 無限次元で実際にあるのかはきちんと証明が必要だ.

あとスペクトル積分を定義しておこう. 一旦 $f$ を連続関数とする. スティルチェス積分のように次の和が行列空間上で定義できる. \begin{align} S_n (f) = \sum_{k=1}^n f (x_k) [E_H (x_k) - E_H (x_{k-1})]. \end{align} ここで $x_k$ は区間 $[a,b], a<b$ の分割として取っている. 適当な分割を取れば, 各区間には $\lambda_k$ が一つしかないようにできる. つまり \begin{align} S_n (f) = \sum_{j=1}^k f (\lambda_j) P_j \end{align} と書ける. 分割についての極限が存在するので \begin{align} \lim S_n (f) = f (H) = \int_a^b f (\lambda) dE_H (\lambda) \end{align} となる. 特に \begin{align} H = \int_a^b \lambda dE_H (\lambda). \end{align} 最後の式がそのままスペクトル分解として一般化される. この式は Dirac の本などで無限次元で一般化された固有値展開として, 離散的な固有値と連続的な「固有値」を分けて書いた式を一本にまとめる方法としても理解できる.

title

スペクトル族

desc

有限次元の場合にスペクトル族を議論した. そのまま無限次元に持っていける概念なので, 当たり前に見えるかもしれないが十分注意して議論を追ってほしい.

keywords

spectral family

量子力学の数学 52:スペクトル族2

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

一部, 前回も書いたが正確にスペクトル族を定義しよう. $\mathcal{H}$ をヒルベルト空間とする.

定義 2.50 ${E_(\lambda)}$ を $\mathcal{H}$ 上の射影作用素の族とする. これが \begin{align} E (\lambda) E (\mu) = E (\mu) E (\lambda) = E (\mathrm{min}{\lambda, \mu}), \quad \lambda, \mu \in \mathbb{R}, \end{align} \begin{align} \text{s-}\lim_{\lambda \to \infty} E (\lambda) = 1, \quad \text{s-}\lim_{\lambda \to - \infty}E (\lambda) = 0, \end{align} \begin{align} E (\lambda+0) := \text{s-}\lim_{\varepsilon \to +0} E (\lambda + \varepsilon) = E (\lambda), \end{align} を満たすときスペクトル族あるいは単位の分解と呼ぶ. 最後の性質は右連続性という.

あとでスペクトル測度も出てくる. こちらの方が良く使うが, スティルチェス積分との絡みでこちらからやった方がもう少し馴染みやすい気はする. ほぼダイレクトにスペクトル測度から入る流儀もある. 例えば, 日合・柳の「ヒルベルト空間と線型作用素」 http://www.amazon.co.jp/dp/479520103X/ を参考にしてほしい.

$E (\lambda)$ が右連続なので, 複素数値関数 $\lambda \to \langle \Psi, E (\lambda) \Phi \rangle, \Psi, \Phi \in \mathcal{H}$ は右連続になる. つまり適当な関数 (例えば連続な関数) $f$ に対してスティスチェス積分が定義できる. この積分でスペクトル積分を定義する.

次回はスペクトル族に付随する自己共役作用素について考える. 大事なのはこの逆, 自己共役作用素に付随するスペクトル測度だ.

title

スペクトル族 2

desc

スペクトル族を定義した. 実際に良く出てくるのはスペクトル測度の方だが, こちらの方が馴染みやすいだろう.

keywords

spectral family,spectral theorem,spectral measure

量子力学の数学 53:スペクトル族に同伴する自己共役作用素

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

ヒルベルト空間 $\mathcal{H}$ 上にスペクトル族が与えられると, $\mathbb{R}$ 上の連続関数に対して $\mathcal{H}$ 上の閉作用素が同伴する. ここではまだスペクトル族が必ず存在するとは言っていないことに注意してほしい. これの逆 (の一部), 自己共役作用素にスペクトル族が同伴すると言えばいいのだが, それは後に回す. これも後でやるが連続関数である必要もなく, 適当に可積分な関数で十分だ.

定理 2.52 任意の $f \in C (\mathbb{R})$ に対して $\mathcal{H}$ の稠密に定義された次を満たす線型作用素 $A$ がただ一つ存在する. \begin{align} \mathrm{dom} \, A = { \Psi \in \mathcal{H} : \int_{\mathbb{R}} |f (\lambda)|^2 d \langle \Psi, E (\lambda) \Psi \rangle < \infty}, \langle \Phi, A \Psi \rangle = \int_{\mathbb{R}} f (\lambda) d \langle \Phi, E (\lambda) \Psi \rangle, \quad \Phi \in \mathcal{H}, \Psi \in \mathrm{dom}\, A. \end{align}

さらに次が成立する.

(i) 任意の $\Psi \in \mathrm{dom} \, A$ に対し \begin{align} \Vert A \Psi \Vert^2 = \int_{\mathbb{R}} |f (\lambda)|^2 d \langle \Psi, E (\lambda) \Psi \rangle. \end{align}

(iv) $A$ は閉である.

(v) $f$ が実数値なら $A$ は自己共役である.

(vi) $f$ が有界なら $A$ も有界で \begin{align} \Vert A \Vert \leq \Vert f \Vert_{\infty}. \end{align}

(vii) $|f (\lambda)| = 1$ なら $A$ はユニタリになる.

特に注目するところだけ抜き出しておいたが, 省略した部分ももちろん大事だ. 本を参照してほしい. まず大事なのは $f$ に有界性はいらないことだ. その代わりあてるベクトル $\Psi$ の方に条件をつける. スペクトル族で「高エネルギー部分」を切り落とせば必ず作れることは後で嫌でも分かる. 例えば解析ベクトルの議論などで出てくるだろう. 勝手に定義域が稠密になってくれるのは連続性の賜物である. 可測なだけだともう少し条件はつくが物理的にはほとんど制約にならないだろう. また積分さえ上手く定義できればいいので, そこから連続性は外せることは想像がつくと思う. もちろん極限処理がいるのでそれ相応に面倒だが.

(v), (vi), (vii) は応用上大事だ. 良く自己共役作用素の関数を作るのだが (例えば $e{-tA}$), これらの自己共役性はあてた関数を見るだけで分かる. 有界性が分かるのも便利なことがある. 少なくとも非相対論的量子力学ではハミルトニアンは大抵下に有界になる. このとき上で見た $e^{-tA}$ は有界になる. これは虚時間化した量子力学, 経路積分で使う. 有界だと半群になることが簡単に分かり, 色々な議論がスムーズにいく. 興味がある方は「量子現象の数理」 http://www.amazon.co.jp/dp/425413682X/ や「量子数理物理学における汎関数積分法」 http://www.amazon.co.jp/dp/4320019326/ を読んでほしい.

title

スペクトル族に同伴する自己共役作用素

desc

スペクトル族に同伴する自己共役作用素に関する定理を紹介した. スペクトル定理に向けたファーストステップだ.

keywords

spectral family,spectral theorem

量子力学の数学 54:作用素の積分表示

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

前回スペクトル定理を紹介した. 定理 2.52 で存在が示された作用素 $A$ は象徴的に次のように書く. \begin{align} A = \int_{\mathbb{R}} f (\lambda) dE (\lambda). \end{align} これはあくまで象徴的な書き方で, 意味はあくまで内積を引っ掛けた形で決めている. これが便利なのは証明に積分論が援用できることだ. 単に作用素を引きずっていると捉え所がないが, 積分に叩き落とすと評価がしやすくなる. もちろん本質的には変わらない評価をする場合がメインだが. 2 巻からは実際に証明中でその例が出る. これ自体がきわめて強烈な定理だが, 使い込んではじめて味が出る部分もある.

作用素を具体的に積分で書き下す方向についてはもっと強い結果もある. それはいわゆる経路積分だ. こちらもメインは先程と同じく作用素論が積分論に叩き落とせることがポイントになる. 特に強いのは, 積分核による表示が使えると各点評価が使えることだ. 例えば反磁性不等式というのがある. 量子力学版も場の理論版もある. これは作用素論ベースの評価もあるが, 経路積分を使った評価もある. この場合, 経路積分ベースだと積分核を使ってほぼ自明に叩き出せる. もちろん経路積分表示を証明するのが骨なのだが, それに見当った御利益になる.

次回は有界作用素に対するスペクトル定理に入ろう.

title

作用素の積分表示

desc

スペクトル定理は作用素を積分表示することで解析の手助けをする定理ともなることを説明した. この方向を突き進むと経路積分の地平が表れる.

keywords

spectral theorem,functional integral,path integral,diamagnetic inequality

量子力学の数学 55:作用素の平方根と絶対値

main

元にしている書物は「量子力学の数学的構造」 http://www.amazon.co.jp/dp/4254136773 だ. 例や証明は直接こちらをあたってほしい. ここではなるべく本に書いていない話, 関連する話, アドバンストな話にフォーカスして議論するつもりだ.

この書物に沿ったスペクトル定理の証明中, 「作用素の極形式」が出てくるのでその準備をする. 量子力学的に言って, 一般の作用素は大体複素数のようなものだ. 複素数で極形式 $z = r e^{i \theta}$ がある. これの作用素版を考えるときに例えば作用素の絶対値が必要になる. 絶対値の定義自体に平方根を使っているのでそこまで必要になる. いくら大体複素数と言っても作用素はあくまで作用素なので, 数と同じ定義や議論がそのまま使えるわけではない.

またもっと一般に作用素の関数を定義できるし, 実用上必要なのだがそれはスペクトル定理本体を使うことになる. 前から何度か言っているが, 大事な作用素の関数としては例えば一径数ユニタリ群 $U_t = e^{itH}$ がある.

非有界作用素に対しても定義できるし, 実際する必要もあるがまずは有界作用素の場合を考える.

補題 2.56 $A \in \mathbb{B} (\mathcal{H})$ を非負の自己共役作用素とする. このとき $A = B^2$ を満たす非負の自己共役作用素 $B \in \mathbb{B} (\mathcal{H})$ が唯一つ存在する.

証明のアイデアは単純だ. まず色々と面倒なので $C = A / \Vert A \Vert$ としてノルムが 1 以下の作用素 $C$ を定義してこれについて考える. それで複素関数 $f (z) = \sqrt{1-z}$ の原点回りの Taylor 展開 $f (z) = \sum c_n z^n$ を考える. この $z$ に $1 - C$ を代入して収束することを示し, その極限で $B$ を定義する. もちろん正確には $B / \sqrt{\Vert A \Vert}$ だが.

ここで上の補題での $B$ を $A$ の平方根と呼び $\sqrt{A}$ や $A^{1/2}$ と書く.

何にせよ, 存在して唯一つなことは間違いないのでこれを認めよう. その上で「任意の」有界作用素 $A$ に対してその平方根 $|A|$ を次のように定義する: \begin{align} \sqrt{A^A} =: |A| \end{align} $A^A$ をかましているのがポイントだ. これは複素数で言えば $\bar{z}z = |z|^2$ にあたる. この辺りは数の特徴を抽出してうまいこと定義に繋げている.

例 2.19 にはかけ算作用素での例が出ている. 素直な一般化になっていることが分かるので, きちんと読んでおいてほしい.

title

作用素の平方根と絶対値

desc

作用素の平方根と絶対値を定義した. 一般の作用素は複素数のようなものなのでそれを元に定義する. 存在証明の議論などは少しひねりがいるが, 気持の上では一本道である.

keywords

root of operatorts,absolute value fo operators

MISC

久保記念シンポジウムに参加し, 沙川さんの初観測に成功した

本文

10/5 に久保記念シンポジウムに行ってきた. 前日にピカチュウさんに教えてもらったので, 急遽参加を決めた. 何せ若きスーパースターとして活躍していると評判の沙川さんのトークが聞けるのだ. 市民として滅多にない機会なので超楽しみということで参加した.

沙川さんトーク, 面白かった. 小林さん (と呼んでいいのかどうかアレだが) も話がうまくて面白かった. 実験の人の話を滅茶苦茶久し振りに聞いたが, そんなことできるのか, と思って単純に楽しかった. 自分の研究に役立つ方向では, 勝本さんの話, spin-boson モデルの話が出てきたのが大変に興味深い. 廣川先生が spin-boson の役割みたいなことを言っていたのを聞いたことがあるが, 実験の人が実際に spin-boson を使って実験の説明をしているのを聞いて, spin-boson 結構使えるのか, というのが少し感覚として分かった. spin-boson, 実際に最近結構数学的にもきちんと研究できるようになってきていて これとかこれとかあったりする. 適当に検索して見つけただけなので, この論文が非常に良い結果とかいうわけではない. 私が知る範囲では, 数学的には廣川先生が一番熱心に研究していると思う. 興味がある向きは廣川先生の仕事から色々調べていくといい.

実験トークはよく分からないので, 沙川さんトークだけ記録しておく. 上田先生ともやっている, 情報熱力学周りの話だった. 当人は「あまりガチガチなことをするとまずいからと思ってゆるふわな内容にしてしまったが申し訳ない」みたいなことを言っていたが, 感覚の全くないところだったので, 逆に私にはゆるふわでちょうどよかった. 何をやっているのか雰囲気は把握した. 確かに面白い. エントロピー生成に関して, 2 つの不等号を繋げて全体として非負, という話をしていて, 同時に等号が成立するような実験系などあるのか気になったので質問してみたが, やはりまだよく分かっていない, ということだった. 系のエントロピー生成とメモリ側のエントロピー生成で等号成立条件が全く違うので, ということらしい. 隣にいた宮下先生から「それは物理としては期待できないでしょう」みたいなコメントを頂いた. しかし, 何かできたら面白そう. 実験的に実現できるかはともかく, とにかく理論的に何か言えたら面白いとは思う. 物理に関してはほぼ素人なので, ピント外れの考えかもしれないが, こう色々と想像をかきたててくれる. トーク後, 田崎さんに「大分話すのうまくなったけれども基本的な設定の部分についての説明が全然ないし云々」という突っ込みを受けていた.

ここ最近, Summer School 数理物理など楽しいイベントがたくさんで非常に楽しい. それはそうと, 沙川さんに「どちらの方でしょうか」と聞かれたときに「Twitterの相転移Pです」と言ったらそれで通じたことは記録しておきたい.

ラベル

物理, 統計力学, 熱力学, 数理物理, 場の量子論

2014-02-01 学習院での江沢洋先生の量子力学の歴史に関する講演会

2/1 14:00- 学習院で江沢洋先生の量子力学の歴史に関する講演会があるというので参加したい

本文

江沢先生の講演会があるという.

【江沢洋先生講演会のお知らせ】 「 Bohr の原子模型:革命から百年」 2 月 1 日 14 時 (学習院大学南 7 号館 101 室) もう明後日ですね. 会場は山手線の目白駅からすぐのところです. 江沢先生のお話を聞いてみようかなという方は是非どうぞ. http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/events/Ezawa20140201.html

概要も引用しておこう.

概要

今年は Niels Bohr が原子模型に対して革命的な考えを提出してから 100 年になる. 革命的というのは, それまでの物理学の常識ではとうてい受け入れ難いものだったからである. 今日では高等学校でも抵抗なく教えられるこの模型は, 当時は多くの物理学の権威たちが拒否したのだ. 実は彼の考えは, 量子力学を予見するものであった. そこから, ほぼ 10 年かかって量子力学は生み出され, 革命は形をなした. こうした歴史をお話したい. (江沢洋)

是非行きたい.

ラベル

物理, イベント

学習院での江沢洋先生の講演会「 Bohr の原子模型:革命から百年」に出席してきたので

本文

学習院での江沢先生の講演会に出てきた. なかなか面白かった. 江沢先生だけでなく, 早野先生の初観測に成功したのも収穫だった. 早野先生と私, 2 人だけ和服だったので勝手に親近感を覚えてきた方の市民だった.

田崎さんによる江沢先生の紹介で次のコメントが爆笑だった.

英語もドイツ語もフランス語も読み書きでき, 科学のあらゆる分野に精通している. 習わなかったのは時間を守ることだけ. 前回仁科の講演会で喋りきれなかった部分まで含めて今回喋ってもらおうと思って企画した.

メモ

話としては 1913 年の Bohr の論文を振り返ろうという話だった. Bohr の論文は今から見ると非常に革命的だったが, それは当時ではどうだったのかという話が展開された. 以下感想を書くが, 私が講演内容を勘違いしている点などもあるかもしれない. 間違ったことが残り続けるのは死ぬ程恥ずかしいので, 何かあればご指摘頂ければ幸いだ.

よく 1905 年, 奇跡の年の Einstein の光量子・光電効果論文が革命的といわれる. 当時としては Einstein も駆け出しで誰もまともに話を聞くわけがない, というあたりからスタートした. (実際にはその前に 1900 の Planck の話もしている.) よくある「教科書のように綺麗に話が進んだわけではない」という系統のアレだ.

1913 年に当時物理が盛んだったイギリスはケンブリッジ, Thomson のところに渡ったそうだ. デンマークは当時物理的には田舎だったそうだが, 現在のデンマークはどうなのだろう. Thomson は忙しくて相手にしてくれなかったのでマンチェスターの Rutherford のところで実験をやったらしい. 原子の太陽系モデルの提唱者だから, それでその辺の原子構造への関心が生まれたとか何とかいうことだった. この実験的な研究で色々な原子内の電子数を測定する仕事をしたらしい. 原子内電子数の測定というの, 周期表の時点で既にかなりよく分かっているのだと思っていたので結構びっくりした. 実測ということになるとまだまだだったということだろうか. たった今頭をかすめた質問なのだが, 聞いておけばよかったと後悔している. 江沢先生に会う機会, そうそうあるものではないし.

メモが雑で泣いているが, 同僚の Hansen から Balmer 公式 (1884 明治 17 年) を導出するという問題を出されたらしい. Ritz の結合原理 (1908) 年をどう出すかという話で色々あったとのこと. 当時未発見の Lyman 系列も予言していたりと刺激的な予想だったのだと思う.

Bohr は Ritz の結合原理と光量子と結び付けた. これ自体は Planck もやったそうだ. あまり考えたことがなかったが, エネルギー保存の式というのを聞いて「ああそうか」と.

追記

田崎さんから次の指摘を受けた.

@phasetr 「これ自体は Planck もやったそうだ.」は違うと思います. P がやったのは, (調和振動子の) 準位間の遷移でのエネルギー差と光子の振動数を結びつける部分で, それを水素原子のスペクトルと結びつけたわけではないとぼくは理解しました.

何と書き直せばいいのか分からず, 一方で田崎さんのコメントで十分だろうと考えて上の記述は単純に削除とした.

追記終わり.

続コメント

水素原子の話に移っていく. 今回の Bohr の話では水素原子でないと成り立たない話がたくさんあったようで, 「自然は教育的である」ということがたびたび強調されていた. 原子内電子のエネルギーの式 ($n^{-2}$ に比例) は正に水素原子の束縛状態のエネルギーだし, 確かにそうか, という感じはある. あとでふと思いついたので講演後に「水素原子でうまくいって He や Na の話があったはずだが, それにあまり触れなかったのは何故か. 実際にあまり研究されなかったのか. 研究されていてうまく行っていなくて Bohr の話だけがうまくいっていたということか. 上手くいかなかったとしたらそれは何故か」などと質問した. 理由はフェルミオンの統計性が本質的に効いているからだ, それはきちんと話した方が良かったかもしれない, とのご指摘を頂いた. He や Na の話に行かず水素原子でだけ色々うまくいっていたというのが非常に面白い.

前期量子論というか半古典論というか, あの辺は本当に頭がおかしくて凄い. 一方で, 悪戦苦闘の様が後世まできちんと殘っていてそれ自体が現在の教育にまで本当に顔を出しているというのは本当に面白い. 教官陣も皆面白くかつその悪戦苦闘の様を伝えることにも教育的効果はあると思っているのだろう. 確かに面白いが, その辺の話をしているといわゆる論理的一貫性とでもいいような要素は少なくなるし, 時間的にも講義で触るのは厳しくなる. その辺をどうカバーするのか, きちんと考え直した方がいいような気もする. 観測というか量子情報関係, 最近の, 少なくとも物理学科の量子力学ではどのくらい触れられるようになっているのだろう. そういうところも無性に気になったがあまりどうしようもない感ある. とりあえず自分は数学の方で色々頑張ろう.

田崎さんが角運動量に量子条件がかかるところで定数のファクターに $2\pi$ がかかるのは何故か, という質問をしていた. 詳細を省いているので, ブログを見ている人にはこれだけだと何のことやら的なアレだろうが, とにかくこう色々あった. 実験データの誤差とかある中で何故ファクターを $2 \pi$ に置いたのか, 調べてもあまり出てこなかったようで, 結構謎らしい.

Bohr の革命的な点として定常状態や量子遷移があげられていた. 確かに革命的というか頭おかしい. 具体的には下記のような点だ.

定常状態. - 初期条件に応じて運動は様々: Newton 力学を否定. - 電荷が加速度運動すれば輻射を出す: Maxwell を否定.

量子遷移: - 輻射の振動=波源の力学的振動数, Maxwell の否定. - 因果律の否定: 電子は予め行き先を知って輻射の振動数を選ぶ? どの準位に行くのかのか理由がない. - Rutherford (1913), 寺田寅彦 (1924) に指摘した問題.

改めて見るとやはり大分頭おかしい.

早野先生が写真を上げていたが, Ehrenfest が爆笑コメントを出している. 早野ツイートをリンクしておこう.

  • https://twitter.com/hayano/status/429478315359883264
  • https://twitter.com/hayano/status/429490935919951872
  • https://twitter.com/hayano/status/429491436128440320

1913 P. Ehrenfest: 「これが理論なら私は物理をやめる. これは怪物だ (1916) 」

P. Ehrenfest (1918): Bohr 理論の熱烈な支持者になる.

Ehrenfest, 断熱定理などで色々試行錯誤した結果, 結局 Bohr 理論の支持に回ったという話だった. ただ, 断熱定理が成り立つのは前期量子論・半古典論の枠組みの中だけであって, 完成された量子力学ではまるで成り立たないのも示唆的という話を田崎さんあたりがしていた.

Langmuir の実験値に関する話も面白かった. メモしていなくてしかも忘れてしまったのでアレだが, ある物性の測定値があったそうだ. Bohr の計算結果と合わなくて (2 倍程度のずれがあった) Langmuir が測定し直したところ, Bohr の値に近い値が得られ, Langmuir が Bohr を賞賛したという話. ただしその後, 裏話として実際には Langmuir が先に得ていた値の方が正確な値に近くて, 色々な歴史的経緯というか勘違いというか, そういう要素も色々働いていたということだった. 江沢先生から「ここから得る教訓として, 理論家は実験家を信用してはいけない」という話をされていて会場の笑いを誘った.

Sommerfeld の量子条件の拡張で, Bohr は終始円軌道でやっていたようだが, Sommerfeld は楕円軌道に拡張した, という話をしていた. そういえば Coulomb に従っているなら楕円軌道であるべきなのに何故か量子力学の本では円軌道しか見ない. Sommerfeld は軌道が閉じない相対論的な電子論でも使えるように議論していたらしく, なかなか凄いことをしていたらしい. ここで「 Bohr が円軌道だけ考えて正しい $E_n$ を出した理由: 自然は教育的」という今回何度も出てきたフレーズが出た.

色々飛ばすが, 革命後の量子力学ということでいくつかまとめが出た. 冷静に眺めると (古典論からは) 大分頭おかしい.

de Broglie の物質波も大分アレという話になった. そういえば de Broglie の物質波, 結局どういう話なのか正確に理解していないことを今回改めて思い知らされた. 勉強しないといけないのだがさぼりまくって今にいたる.

また, Schrodinger のセミナーで Debye による次のようなコメントがあったという. 「位相はあるが振幅がない. 」 「波動の話をしているのに波動方程式がない. 」 「こんな議論は Child play である. 」 これに応えて Schrodinger 方程式を出したとかいう話もでた.

井戸型ポテンシャルだと Bohr の理論は全然使えないので, 水素原子で議論していたのはいわば幸運でここでも「自然は教育的」という言葉が飛び出た. これも実際に質問したのだが, 井戸型ポテンシャルがいつ頃から出てきたかという話で, 1926 年とかそのくらいから既に出ていたらしい. 普通の物理の本だと何の前触れもなくぽんと出てきてトンネル効果と絡めて出てくるか, こんな頭おかしいのが何でどうして物理学に出てきたのかよく分からなかったので, 追加で江沢先生に聞いてみた. 不勉強なもので知らなかったのだが, Gamow が 1926 年頃に $\alpha$ 崩壊の理論を提出していて (有名らしい), そこでいわゆる井戸型的なポテンシャルを議論していたので結構古くから議論はあったらしい. 井戸型のところを原子核と捉えて考えるというコメントを頂いた.

あと質疑応答も活発で色々面白かったが, Bohr が量子論に行ったきっかけとしての Bohr-van Leuuwen の定理への言及があった. Bohr-van Leuuwen の定理は知っていたが, Bohr が古典論の限界を認識したポイントの 1 つとして認識したことはなかった.

追記

ピカチュウパイセンから次のようなコメントを頂いた. - https://twitter.com/aki_room/status/430126562323615744 - https://twitter.com/aki_room/status/430126924262699008 - https://twitter.com/aki_room/status/430127138268651521

@phasetr 講演会の最後は 1925 年の行列力学と, 1924 年のドブロイ波・ 1926 年のシュレーディンガー方程式でしめられていたけど, 水素原子のレンツベクトルに関するレンツの仕事は 1924 年らしく, どういう風にやったのかちょっと気になった.

@phasetr フランクヘルツから行列力学までの 10 年間くらいはかなりアツい 10 年だったのではないかと思う. その後の進展も面白いけど, 1925-26 で一段落なのではないかと思っている.

@phasetr なお, レンツベクトルに関するレンツの仕事は 1924 年らしく, というのは, この pdf http://maildbs.c.u-tokyo.ac.jp/~kuniba/atsuo/LRLvector.pdf を参照.

追記終わり

あと, 折角だと思ったので田崎さんと江沢先生に献 DVD してきた. 田崎さんはともかく, 自分野の超大御所である江沢先生に DVD 渡してくるというの, 無謀力溢れる. ピカチュウパイセンからも次のようなコメントを頂いた.

相転移 P が田崎さんに DVD 渡しているのを見た時には「よくやるなぁ」くらいの感想だったが, 江沢先生にも渡しているのを見て「おぉ……よぉやるなぁ……」くらいの感想になった.

@aki_room その後, 田崎さんが江沢先生に相転移 P を紹介していたけど, 流石に「この人は相転移 P と言いまして…」という紹介でなかったのでなんかちょっと安心 (?) した

楽しかった (完).

追記

田崎さんからもコメントがあった.

"@aki_room 相転移 P が田崎さんに DVD 渡しているのを見た時には「よくやるなぁ」くらいの感想だったが, 江沢先生にも渡しているのを見て「おぉ……よぉやるなぁ……」くらいの感想になった. "

おれも.

市民は無謀力が違う.

追記終わり

追記

田崎さんのツイートから江沢先生のスライド公開の案内が出ていた.

【江沢洋先生講演会】 Bohr の原子模型:革命から百年 2 月 1 日の講演会の案内ページを簡単な記録のページに書き換えました. 江沢先生にお願いして, 講演スライドも公開! http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/events/Ezawa20140201.html

早速スライドもダウンロードしておいた.

ラベル

物理, 量子力学

江沢洋先生の戦慄すべきエピソード: 江沢先生の先生に出会った方の話, そして関連する Connes だか Barry Simon の凶悪なエピソード

本文

先日の学習院での江沢先生の講演時に話題になった「江沢先生の先生の話」のブログ記事的なアレだ.

江沢先生の先生に遭遇 : Hard To Make A Stand - 磁性研究者の研究日誌 - http://j.mp/1knPmw6

少しと言っても大部分になってしまったが引用しておこう.

引用

今日研究室に向かう途中, 電車の中で cond-mat に出ていた論文を読んでいたら, 隣の席に座っていたおじいさんから「量子力学の勉強ですか?」と声をかけられました. なんか感じが良さそうなおじいさんだったので, 僕が磁性の研究をしている事や, 今大学院生である事, そのおじいさんが昔高校の化学の先生だった事等, ぼちぼちと雑談しました.

するとそのおじいさんが, 「僕の教え子に, 今学習院大学で物理の名誉教授をやってる江沢洋というものがいましてね」と, 昔話をしてくれました. この江沢洋という人は物理の量子力学や電磁気学の教科書で有名な先生で, 僕も学部時代はその人の本を買って勉強した事がある人でした.

そのおじいさんが大学を卒業して高校に赴任した時, 最初に持った学年に江沢洋さんがいたそうです. 授業中でもやたらと高度な内容の質問をぶつけてきて, 先生を困らせたそうです. といっても意地悪な質問ではなく, 純粋に核心をついた質問をする生徒だったそうです.

あるとき自由研究か何かで, 当時高校生の江沢さんが「原子の構造について」というレポートを書いて持ってきた事があるそうです. その完成度があまりに高かったので, 当時の江沢青年に 5 コマ分だけ授業時間を与えて, その内容についての授業をやらせたそうです. 秀才だったけど, 休み時間とかはよく騒いでいた明るい学生だったそうです.

コメント

確か Connes だった気がするが, Connes は講義中に凶悪な質問をするので有名だったらしい. 引っ掛けのような質問をして 「そうですね. そうでないとこんな反例がありますから.」 みたいなことを言っていたとか何とか誰かに聞いた.

竹崎先生だったか富山先生だったか. それとも何かの本とかウェブページだった気もする. 凶悪なのは Barry Simon だったか?

よく覚えていないが凶悪な人間もいたものだ, と思ったことをふと想起したので.

追記
ラベル

数学, 数学者, 物理, 物理学者

2014 年 セミナー宣伝: 【数理物理物性基礎論セミナー】中山優(IPMU)「共形ブートストラップで理解する相転移と臨界現象」2014年7月19日14:00 学習院大学南7号館101

本文

超気になる. 概要から一部抜き出そう.

私たちの相転移と臨界現象の理解は新しい局面を迎えようとしています。

私が学生の頃勉強した熱力学の教科書に「3次元の磁性体の問題には、 1970年代以降「繰り込み群」という考え方からのアプローチが試みられ、 ある程度の描像は得られたが、 真の解決はいまだ夢想さえできない。」と記述があります。 本セミナーでは、まず、(3次元の)臨界現象に潜んでいる非自明な時空の対称性「共形対称性」を考え直すことから始めます。 なぜ繰り込み群の固定点である臨界現象にはスケール対称性だけでなく共形対称性が潜んでいるのか? その対称性の起源と考えられる「局所繰り込み群」とは何か? と言う疑問から、共形対称性がどのようにして臨界現象の普遍性を支配しているかを説明していきます。

超行きたいが予定があっていけない. 何という屈辱だ.

ラベル

数学, 物理, 数理物理, 相転移, 臨界現象, セミナー

ピカチュウパイセンによる物性理論向け日本語文献のリンク集 in Togetter

はじめに

ピカチュウパイセンによって Togetter にまとめられていた.

http://togetter.com/li/525304 物性理論向け日本語文献のリンク - Togetter とりあえず, 仮まとめだん.

流れを追っていないのだが. この辺が発端だろうか.

ほほう. これを超えるものを用意せよと…. http://twitter.com/fujisawamasashi/status/350208239369060353

references -解説記事- https://sites.google.com/site/fujisawamasashi/home/study/references 最近, 更新をサボっているけど….

物理でいうと私も物性理論の人間だが, ここにあるネタ, 原さんと田崎さんの話にややかすっているくらいで, ほとんど何も知らないことを改めて思い知らされる. 物理も数学も半端で本当に何にもならない.

Togetter のメモ

ネット上の情報は時々何の前触れもなく消えるので, Togetter を転載しておく.

超伝導

超伝導の普遍性と多様性 (理論)/ 斯波 弘行 http://t.co/nooThCYiFR #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:19:55

いろいろあるね. 相関の強い電子系における超伝導 http://t.co/1AAPpInoX2 cometscome_phys 2013-06-27 21:00:22

強相関電子系の異方的超伝導 : BCS 理論からエキゾティック超伝導へ http://t.co/2bqW16rz45 cometscome_phys 2013-06-27 21:01:33

スピン三重項超伝導体の d ベクトル http://t.co/uePoTW3rky #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:03:58

スピン 3 重項 p 波超流動研究の新たな展開 : アンドレーエフ束縛状態とその多面性 http://t.co/mfqBYCmvWm #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:05:52

超伝導転移及び Andreev 反射と Josephson 効果~「超伝導 Night Club 」会員の手引き ~/ 浅野 泰寛 http://t.co/rmHkeJAlii #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:57:49

解説:空間反転対称性のない系での超伝導/ 林伸彦 http://t.co/xidXR3Zj9X #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:32:05

準古典近似を理解する上でのおすすめ:PrOs4Sb12 に対する多バンド超伝導の理論/ 麦倉雅敏 http://t.co/xYj6xAMHLP #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:28:04 Content from Twitter Green 関数

松原から実エネルギーへの解析接続なら:最大エントロピー法講座/ 武藤 哲也 http://t.co/gOeaITjMU8 #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:55:21

歴史的なことも含めた話:統計力学における Green 関数/ 阿部 龍蔵 http://t.co/UOa7TfBUu0 #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:10:49 Content from Twitter 強相関

強相関電子系の物理/ 川上 則雄 http://t.co/ZZTtbwzliO #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:09:42

多電子系の遍歴・局在・秩序化/ 倉本 義夫 http://t.co/L2e2R2rlke #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:02:48

遍歴と局在のはざ間でせめぎ合う電荷・スピン・軌道自由度 (第 52 回物性若手夏の学校 (2007 年度),講義ノート)/ 求幸年 http://t.co/zOEasOyWOY aki_room 2013-06-27 21:43:43 Content from Twitter "0 次元系"

近藤効果の系譜 : 重い電子系と量子ドット/ 上田和夫 http://t.co/UqkSIbeAPK aki_room 2013-06-27 21:17:10

ダイアグラム展開に基づく連続時間量子モンテカルロ法/ 楠瀬 博明ら http://t.co/GBB1pL5wyj #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:53:05

動的平均場理論の基礎と応用/ 楠瀬博明 - 愛媛大学理学部物理学科 量子物性理論研究室 http://t.co/IoIWN0hNKN aki_room 2013-06-27 21:19:44 Content from Twitter 1 次元系

1 次元量子系 : 共形場の理論と朝永・ Luttinger 液体/ 川上 則雄 http://t.co/03nuKeMAna #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:22:55

わかりやすいベーテ仮説:1 次元量子系の厳密解とベーテ仮説の数理物理/ 出口 哲生 http://t.co/cC0ZzmQJuS #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:04:31

量子スピン系の理論 (講義ノート)/ 田崎晴明 http://t.co/eRy2O0iBvY aki_room 2013-06-27 21:23:30

低次元強相関電子系におけるクロスオーバーと相転移 : 電子系繰り込み群ミニマム (第 47 回物性若手夏の学校 (2002 年度),講義ノート)/ 岸根順一郎 http://t.co/vHoARoFING aki_room 2013-06-27 21:31:02 Content from Twitter

@aki_room Renormalization-group approach to interacting fermions http://t.co/k8GPXZvyuw なお, 英語でもいいなら電子系のくりこみはこれをれこめんどなう. aki_room 2013-06-27 21:34:27

S=1/2 Heisenberg 梯子模型の密度行列繰り込み群による研究/ 成島毅 http://t.co/mB3XoQzlEA aki_room 2013-06-27 21:22:31

「密度行列繰り込み群」の変分原理/ 西野 友年ら http://t.co/Pij53VFmO9 #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:24:34 Content from Twitter 物性と高エネルギーの境界

密度行列繰り込み群の最近の話題 : テンソルネットワークに潜むエンタングルメント構造/ 松枝宏明 http://t.co/iuMqCU6OfA aki_room 2013-06-27 21:08:05

トポロジカルな弦理論とその応用/ 大栗博司 http://t.co/sI9fBGD8ba aki_room 2013-06-27 21:06:40 Content from Twitter トポロジカル・ベリー位相 量子ホール効果

量子ホール効果 : 進展と展望/ 青木秀夫 http://t.co/CYHcS0bFiJ aki_room 2013-06-27 21:06:22

量子ホール効果 : その意義と幾何学的および代数的構造/ 初貝 安弘 http://t.co/7ouoCJ3Czy #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:40:21

グラフェンの特異な物性とカイラル対称性/ 初貝 安弘 http://t.co/b7PNbfrAVT #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:37:18

スピンホール効果とスピントロニクス/ 村上修一 http://t.co/CQx2KI8xZG aki_room 2013-06-27 21:06:02 Content from Twitter トポロジカル絶縁体

トポロジカル絶縁体の物理/ 村上修一 http://t.co/iWfgWQwbz8 aki_room 2013-06-27 21:05:04

Z_2 トポロジカル絶縁体の 3 階建て理論/ 井村 健一郎 http://t.co/GKdZJf7NQJ #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:14:08

トポロジカル絶縁体の理論に関するノート/ 御領 潤 http://t.co/FqnH4a55EG #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:15:56

Lecture note "Topological insulators" - Kentaro Nomura (ページの一番下) http://t.co/KBvWGKSBCQ aki_room 2013-06-27 21:27:26 Content from Twitter ベリー位相

固体電子論におけるベリー位相/ 永長直人 http://t.co/CTpY0Dd44s aki_room 2013-06-27 21:03:39

ベリー位相を再考する/ 藤川和男 http://t.co/BubfCv9PNn aki_room 2013-06-27 21:05:39 Content from Twitter 熱統計力学・非平衡物理

<特集>線形応答理論から 50 年-非線形・非平衡の物理学 http://t.co/e66YradQAh aki_room 2013-06-27 21:09:31

ブラウン運動と非平衡統計力学/ 田崎晴明 http://t.co/wnPpxuDoBv #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 22:25:45

動的縮約の構造/ 蔵本由紀 http://t.co/T0XPl9RZow #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 22:29:14

液体のダイナミックスと非平衡物理学/ 吉森明 http://t.co/Q89EsD3LOx #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 22:24:09

パターン形成の数理/ 小林亮 http://t.co/72aLwpIM0J #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 22:34:16

振動しネットワークのダイナミクスとゆらぎ/ 郡宏 https://t.co/9F61nwjlxY #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 22:33:16

詳細つりあいを満たさないモンテカルロ法 (最近の研究から)/ 諏訪秀麿・藤堂眞治 http://t.co/OxgAaVdNhz aki_room 2013-06-27 21:15:46 Content from Twitter 輸送現象

非平衡輸送現象 : 輸送現象における計数統計を学ぶための基礎 (講義ノート)/ 齊藤圭司 http://t.co/8jgPRbpcZ2 aki_room 2013-06-27 22:07:19

1 次元非対称単純排他過程の厳密解 (講義ノート)/ 笹本智弘 http://t.co/lbNzBmNHDZ aki_room 2013-06-27 21:39:42

ランダム行列理論とメゾスコピック系/ 今村卓史 http://t.co/Efnm9KOKSp aki_room 2013-06-27 22:07:40

微小な系の電気伝導 : 多体効果と非平衡電流に関する理論/ 小栗 章 http://t.co/ZHi8i38VhW #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:13:25

グラファイトシートの電子物性 : ナノグラフェン/ 若林 克法ら http://t.co/f8E45OP1ZX #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:16:37

グラフェンの電子物性とナノスケール効果/ 若林 克法 http://t.co/RnQ07pqnib #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:39:13 Content from Twitter ガラスから量子統計・量子情報

ガラス転移理論の新展開 : 動的不均一性とモード結合理論/ 宮崎州正 http://t.co/pIuEAYuMV0 aki_room 2013-06-27 21:12:54

スピングラス模型の臨界点と双対変換 : 厳密解を求めて/ 大関真之 http://t.co/CN2INeWcob aki_room 2013-06-27 21:11:41

量子アニーリング/ 大関真之・西森秀稔 http://t.co/gKmNjhhs89 aki_room 2013-06-27 21:11:02

量子計算超入門/ 藤井啓祐 http://t.co/si77mYik3O aki_room 2013-06-27 22:00:59

量子統計力学の基礎付けについて/ 杉田歩 http://t.co/vwgBBKX4Eb #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 22:31:24 Content from Twitter 研究に困ったら?

和達三樹 最終講義 - Todai OCW http://t.co/LV6GWs0Xv1 aki_room 2013-06-27 21:51:53 Content from Twitter 分類に困ったら? あとで分類します…きっと. (aki_room)

フェルミ原子光格子系の基礎知識/ 奥村 雅彦 http://t.co/YKl6ce0Elw #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:54:41

フェルミ原子ガス超流動における BCS-BEC クロスオーバー/ 大橋 洋士 http://t.co/RwH4hDjR0K #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 23:15:29

内部自由度を持ったボース・アインシュタイン凝縮体 : スピノル BEC におけるトポロジカル励起/ 川口 由紀 http://t.co/r7Ob5eyCfZ #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:56:52

第一原理計算 : バンド理論の基礎/ 小口 多美夫 http://t.co/sjIAjmE3VP #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 23:18:12

水の電気分解はどこまで分かったか? : 第一原理計算で見えてくる物理/ 大谷 実 http://t.co/6KSCKnOg5B #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 23:12:30

相対論的バンド理論による電子状態と磁性/ 山上 浩志 http://t.co/6ngF9kJSyB #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 23:09:40

「悪魔」との取り引き : エントロピーをめぐって (最近のトピックス)/ 田崎晴明 http://t.co/PVB16STaZg aki_room 2013-06-27 23:07:08

「ゆらぐ界面」をめぐる実験と理論 (最近のトピックス)/ 田崎晴明 http://t.co/c5N9DRxZiu aki_room 2013-06-27 23:06:18

非平衡定常系のボルツマン因子 (最近の研究から)/ 小松 輝久 , 中川 尚子 http://t.co/cIkl8eYGLy aki_room 2013-06-27 23:11:59

南部理論と物性物理学 (<特別企画>南部陽一郎,小林誠,益川敏英 3 博士ノーベル物理学賞受賞記念)/ 青木秀夫 http://t.co/sxGHvchg2D aki_room 2013-06-27 23:10:54

量子スピン鎖における磁化プラトー/ 押川 正毅 , 戸塚 圭介 , 山中 雅則 http://t.co/CwQMPpz34y aki_room 2013-06-27 23:09:57

スピンはそろう : 強磁性の起源をめぐる理論/ 田崎晴明 http://t.co/EeRfy3iHRN aki_room 2013-06-27 23:09:00

動的分子場理論/ 佐宗 哲郎 http://t.co/9NCgboUPFG #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 23:20:50

非 Gauss 過程の揺らぎのエネルギー論/ 金澤輝代士 http://t.co/8iqcWp9R8e #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:54:40

非平衡物理学/ 吉森明 http://t.co/8skq5Ldd7c #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:47:53

ボーズ・アインシュタイン凝縮の生成, 観測およびその理解/W. Ketterle, D. S. Durfee, and D. M. Stamper-Kurn http://t.co/ibCY2Vya8u #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:12:24

量子測定の原理とその問題点/ 清水明 http://t.co/lHFDn9xPO8 #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:05:16

熱力学とランダムネス :付録/ 佐々真一 http://t.co/9i8BFAz40n #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:04:40

カオスの物理/ 矢木雅敏 http://t.co/oAN1N1o85P #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:04:13

高分子の相転移とダイナミクス / 川勝年洋 http://t.co/9BZOP7nbHb #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:03:26

ソフトマター統計物理の基礎概念/ 堂寺知成 http://t.co/rF72jwVjBe #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:02:34

近可積分系の諸問題をめぐって –安定性の視点から - / 伊藤秀一 http://t.co/5dZzNADzk7 #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:01:57

場の理論と統計力学- くりこみ群の見方 -/ 原隆 http://t.co/xO5hNiffTq #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:00:48

AdS/CFT 対応の超伝導理論への挑戦/ 前田 健吾 http://t.co/UZPUDw40Mz #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-28 16:49:53

磁場下の超伝導/ 池田 隆介 http://t.co/hAzmJ1B2c6 #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-28 16:46:44

平衡超伝導電流に働くローレンツ力とそのホール係数/ 北 孝文 http://t.co/f2DhABrKXh #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 23:55:55

モンテカルロ法の前線/ 福島孝治 http://t.co/PM0W6jG0Ry #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 23:42:34

非線形性とくりこみ/ 大野克嗣 http://t.co/EV52U9gBsk aki_room 2013-06-28 23:01:04

実演レプリカ法/ 樺島祥介 http://t.co/aKnFeS2NFp #物性理論ミニマム

ラベル

物理, 物性

細谷曉夫先生の「戦後に生まれ, 物理を志して」

本文

東工大の細谷曉夫先生の回顧録のようなものを見つけた. これだ. 「戦後に生まれ, 物理を志して」というタイトルになっている.

細谷先生, 勝手に量子情報の人かと思っていたのだが何か分野を転々として, 色々とはちゃめちゃにやっていた人だった. 何といっていいか分からないが, ほーへー, という感じで面白かった. 内山龍雄先生が豪傑という話は良く聞くが 「龍雄先生の冒険」という自費出版の書物があるという. 是非読みたい. 細谷先生にメールしたところ, 近い内に PDF をアップされるとのこと. 正座待機して待っている.

個人的には数学者関係のエピソードが面白いので, それを引いておこう.

引用

また, 佐藤幹夫先生が京都の数理解軒研究所で月末の土曜日に開いていた可積分系のセミナーに, 阪大の伊達悦郎さん達の紹介で参加した. 一年も立たないうちに, 数学者達の具体例を一般化するパワーに圧倒され落後した. 佐藤先生のエネルギーと食欲だけはよく覚えている.

この頃になると, 数学者との付き合い方が少し分かつて来た. 被らは概ね脇が国く, いい加減なことを言わないように心がけている. 言い換えると波長域が狭いので, こちらの方から波長を合わせる必要がある. しかし, いったん壷にはまると数学の集中力と概念を一般化する方に辻舌を巻く. 黒川信重さんは例外で波長域も広く, 質問には間髪入れず答えてくれて, しかも立ったままペンを走らせてレジュメを紙に書いて下さる. 冗談を 3 分おきに言える能力とともにビックリすることが多かった.

追記

f_hiroki さんからコメント頂いたので.

あとここを見ると, 『龍雄先生の冒険』は再販検討中らしいので, めっちゃ正座待機している.

ラベル

物理

久徳先生と f_hiroki さんに一般相対論についていろいろ教えてもらったので

文献案内

久徳先生と f_hiroki さんにいろいろ教えてもらったのでメモ.

@life_wont_wait 手元に Dirac と Pauli の本はあるのですが, もう少し突っ込んだ + 現代的な内容の一般相対論の本がないかと探しています. 佐藤-小玉あたりが適切でしょうか

@phasetr 質問が漠然としていてよくわかりませんが, どのくらいの期間でどういう方面の勉強 (あるいは研究) をする想定でしょうか? 佐藤小玉は絶版なので入手に苦労するかもしれません. 現代的といってすぐ想像されるのは Wald ですが, それでも 30 年前の本ではあります. 電話帳もアリです

@life_wont_wait 数学科, 幾何の人相手一般相対論のセミナーをしようという話になっていて, そのための復習用です. その本を皆で読むというより, まずはポイント絞って紹介する感じで, そのための私の復習用です. 私個人で数ヶ月かけてのんびりやる感じで

@phasetr @life_wont_wait Schutz とか幾何学的だと思いましたが, どうでしょう?

@hiroki_f @phasetr Schutz の一般相対性理論は読んだことないんですよね. とっつきやすいとは聞きます

@phasetr 本格的なものでいいなら, ポイントを絞るのにまず Wald や Schutz (未読・和訳あり) など幅広く扱っているものを眺めてみるのはどうでしょう. 他に Gravitation は和訳があってとても幅広いです. 先日は Birrell-Davies も悪くないという話がありました

@life_wont_wait @phasetr Ashtekar 形式 とかどうですかね? 詳しい仕事はしらないのですが.

@hiroki_f @phasetr 拘束条件が扱いやすくなるので量子論を展開する時には便利だというのは聞きます. いわゆるループ量子重力の方向だと思います. なので相転移 P の興味には合うかも. 古典論の範疇ですごく役に立つという話は聞いたことがないので僕はほとんど勉強していません

@life_wont_wait @hiroki_f ありがとうございます. 昨日ググっていたらシュッツが落ちていたので, 今ちょうど眺めていたところでした. 一旦上げて頂いたのを一通り眺めてみます

@phasetr @life_wont_wait p6 から p8 にかけて相対論の教科書の紹介があります. http://www.is.oit.ac.jp/~shinkai/Viewgraphs/090729_summerschool.pdf

最後の PDF を見て, Landau も持っているのを思い出した. 買うだけ買ってまともに読んだことなかったので, いろいろな復習のついでにこれも読もう.

相対論での時間発展

あとこれも.

相対論での時間発展という概念がいまだに全くわからない. あくまでも一旦フレーム (?) を固定した上で考えるのだろうか

@phasetr 特別な時空の上で考えるか, 何らかの観測者に沿った方向に見るか, 陽に時間を入れるか, 場合によって色々使える手はあると思います. どういう意味で使うのかはっきりさせるのが大事なんでしょう

@life_wont_wait そういう観点をはじめからいれてやるんですね. 時間と言うか発展させるパラメータはいつも外から入れるので, 単純にその辺の考え方そのものに慣れていない方の市民

ラベル

数学, 物理, 一般相対論, 幾何学

身近にたくさんある魔界こと古典力学

本文

f_hiroki さんからの拘束系の力学.

symplectic 形式で扱える物理現象って限られたものじゃないかと思っている. nonholnomic の場合, 全ての状態変数に対して共役な変数をとるのは不可能.

https://twitter.com/hiroki_f/status/461377654781116416 拘束系の力学とかそういう話だろうか

@phasetr 猫の宙返りとか http://yang.amp.i.kyoto-u.ac.jp/~iwai/

@SO880 これは面白そう. ありがとうございます

@phasetr はい.

@hiroki_f 学部で解析力学やったとき, 教官が「ハミルトニアンが存在するとは限らない」とかさらっと言っていて 無論当時はハミルトニアン自体よくわかっていないので「そういうこともあるのか」と思っていましたが, 古典力学の魔界っぷりは院くらいからようやく見え始めました

猫の宙返りとか面白そう. 古典力学, さらりと身近に魔界があるので実にやばい. Arnold とかで復習したい.

ラベル

物理, 数学, 古典力学

【相対論は間違いだ】系のページの記述について久徳先生に教えてもらったので

本文

ちょっと探し物をしていたらアレなページを見つけてしまったので. 久徳先生が教えてくれたので記録しておく.

@識者各位 http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page012.htm の【<一般相対性理論が間違っていることの証明>】はどこがおかしいのか. 一般相対論ろくに勉強していないのでよく分からない

@phasetr 状況 B に対する考察が単なる自分の直感の発露で, 状況 A と違うと主張する根拠もなく Einstein への反論になっていない (あと慣性変動という言葉の意味はよくわからない)

@life_wont_wait @phasetr 横からすいません, B が直感の発露っていうのがいまいち良くわからなかったのですが, どの辺が「直感の発露」による決めつけ何でしょうか?

@gaijin4675 @phasetr 「この場合, 慣性変動の発揮はあるでしょうか? ありませんね」という文章が慣性変動を定義しておらず意味を成さないこともそうですが「状況自体は似ていても物理的内容がまるで違っています」が根拠のない思い込みというのが Einstein による指摘です

@life_wont_wait @phasetr つまり結局慣性変動という言葉の意味が定義されていない限り議論自体がナンセンスという事でしょうかね?

@gaijin4675 @phasetr まあそこまでは言いません. 後半の「物理的内容がまるで違っています」が, エレベーターの中の局所的な事象を考える際にはただの思い込み, というのが肝です. もちろんエレベーターの外を見たら区別できますが, それは相対性理論でも当然区別できる違いです

@life_wont_wait @phasetr この人は中の人間に働く力で区別をつけようとしてるのではないかと読み取ったのですが, そうではなく現象で区別をつけるべきだという事ですかね, 何度も申し訳ない.

@gaijin4675 @phasetr いえよいですよ. エレベーターの外を見たら区別はつきます. 「中の人に働く力で区別をつけよう」とすると, 直感に反していても実は区別がつけられない, というのが相対性理論の主張なので, どうやって区別するかを言うなり実験で示さないと反論になりません

@life_wont_wait @phasetr あ, なるほど. そこで状態 B についての説明が曖昧であることが問題になるわけですか.

@gaijin4675 @phasetr 曖昧というのは多分そうで, この web の人, 何に反論したいのか自分でよくわからないままに「直感的に違うから区別できるはずだ」と言っているように見えますね. 事実エレベーターの外側を見れば全然違う現象であることは間違いないですし

不勉強だとこの程度のことですらなかなか見抜けない. 教訓としよう.

ラベル

物理, 相対論

ニュートン力学での力の定義とは

はじめに

大学生とハートフルなやりとりをしてきたのでその記録をしておく. この辺からはじまる.

引用

ニュートン力学において, 力の定義とは…? #相対論前日祭

@zomi1202 運動量の時間変化じゃね

@dream_taro やっぱそっちから定義した方が合理的だよなあ.

@zomi1202 そうすると運動方程式はどういう意味になるのでしょうか

@phasetr 系を閉じたときに力の和が 0 になるという要請でしょうか…?

@zomi1202 @phasetr すみません, もうちょっと考えます.

@phasetr ずっと考えてますが, 定義と捉えるのかなと思いました.

@zomi1202 運動方程式は物体の運動の様子をとらえる (運動の軌跡を求める, 積分する) のが本来の役割のはずですが, 力の定義式としてしまった場合, 前者についてどう認識すればいいのかという話です

@zomi1202 すみません. きちんと書かないといけなかった:「運動量の時間変化=力」は運動方程式と式としては同じです. 見かけだけでいうなら運動方程式を力の定義式だとしているわけですが, そうなると運動方程式から「力から軌跡を求める」という意味がなくなりかねません

@phasetr (その"意味"の感覚が僕に無いのかもしれないのですが) 運動の軌跡が先に決まってて力が定義されて, 各要素 (重力だとか電磁力とか) は後付でいいのかなとか思ってたのですが, 山元さんにも指摘されてかなりムリがあるなあと今は思ってます.

@zomi1202 言ってしまったらつまらないのでどうしようかと迷っているのですが, 実際には軌跡を既知としてその軌跡を描くための力が何か, という, まさに「力の定義式」として使われることはあります

@zomi1202 それはニュートンの仕事で, 惑星が楕円軌道を描いて太陽の周りを公転することが実験的に分かっている状況で, この軌道を描くにはどんな力が働いていればいいかというのを求めるのに運動方程式を逆向き (力の定義式) として使っています

@zomi1202 なので, 実際に「運動の時間変化=力」は 2 つの使い方がされているわけですが, 力学を考える上で一番大事な式の位置づけがあいまいで, 同じく大事な概念である力もあいまい (求めるものなのか既知とするのか状況によって変わる) なのが困るわけです

@zomi1202 そこまで認識したうえで「運動量の時間変化=力」を力の定義式とするのが「合理的」といったのか, というような質問です. 応用上はどうでもいいと言ってもいいですが, 力学をやる上で一番の基礎なので, そこが適当だと物理にはなりません

@phasetr いえ, その辺は全く考えずに, 単に数学的なモデルとして簡単に定義しやすいな, という意味で使いました. 位置づけの重要さがよく分かりましたので, もう 1 回考えてみます. 高校時代からぼやっとしてて分からなかったところなので, ありがたいです.

@zomi1202 ここを突っ込んで考える余裕を与えられているのが物理学科の特権です. 実数論やる暇があるのが数学科というのと同じです. それぞれの学科にそれぞれの特権がありますが, これはまさにそういうところなので思う存分考え抜いてください

@phasetr ありがとうございます. 絶賛堪能してます.

他のツイート

y_bonten さんのこのツイートなども参考になる.

「質量×加速度=(その物体にかかる) 力」を力の定義式と見たとき, 正確には「合力」の定義しかなされていない. このことをどう解決するか, とか.

これはとても大事な指摘で, 解析力学の目的の 1 つ にもなっている. 解析力学は, 力学で一番大事であるにも関わらず曖昧な位置付けになっている運動方程式の論理的地位を明確にする試みとも言える. この辺については山本義隆・中村孔一の『解析力学』が詳しくて面白い. ただし, 簡単に読める本ではない.

そういえば, 解析力学のゼミ的なアレ, いつ始まるのだろう. ゆきみさんとの物質の安定性ゼミ的なアレも都合つけないといけないし, つどいの原稿作りもしないといけないし, DVD 制作も積んだままだった.

ラベル

物理, 力学, 解析力学

Freeman Dyson の Stability of matter に関するトーク動画

動画へのリンク

WEB of STORIES というサイトで Freeman Dyson による数理物理トーク を見つけた. 後で見たい.

Dyson の紹介

ちなみに Freeman Dyson は QED で有名な Feynman-Schwinger-Tomonaga-Dyson の Dyson だ. 私が始めて Dyson の名前を意識したのは正に Stability of matter に関する話, Dyson-Lenard 論文なのだが, しばらくこれが上の Dyson と同じだと思っていなかった. 正確には, Dyson は物理学者であって, 数理物理の人だと思っていなかった.

Dyson は数理物理でも決定的な結果がいくつかある. 私が具体的に知っているのは自分の領域に近い物質の安定性に関する上記の先駆的な結果と Dyson-Lieb-Simon の反強磁性ハイゼンベルグモデルの相転移の存在証明しかないのだが, 数論などにも重要な結果があるようだ. 興味がある向きは日英双方の Wikipedia をご覧頂きたい.

そこまで勉強が進む前に修士が終わってしまったので全然勉強できていないのだが, スピン系はきちんと勉強したいと思って, 古典系ではあるが 田崎さんと原さんのイジング本 の査読に参加している. 上記の Dyson-Lieb-Simon だが, 集中講義のときの田崎さんが「数理物理の三人の神々」と呼んでいた. 実際そのレベルの化け物だ. 私は論文を読めていないが, 集中講義の記憶によれば「 reflection positivity を使った物理的には訳の分からない変態的な証明」ということらしい. 最近まどか☆マギカのために世間でも相転移が話題になっているが, Dyson-Lieb-Simon クラスで よってたかって全力を振り絞り, 何でもいいからとにかく物理的にシャープな結果を叩きだそうとして やっとの思いで証明できた結果がハイゼンベルグモデルの反強磁性程度なので, 人類レベルでの相転移の (数学的) 理解というのもなかなか切ないものがある.

ふと Simon や Lieb, Froehlich の業績リストを思い出したが, 何でこの人達こんなに多産なの, ということを想起した.

この辺, 専門なので色々書きたいことや勉強したいことがある. 今回はこのくらいにしておこう. Togetter でも少しまとめた覚えがあるので, 興味がある向きはそちらも参考にされたい.

いくつかの参考リンク

ラベル

数学,物理,数理物理,量子力学,統計力学

宇宙論のモデルの解の存在: 諸科学・工学への数学の応用

はじめに

詳しく聞かなかったのが失敗なのだが, 宇宙論をやっていた友人が次のようなことを言っていた.

この間, 先輩に読んでる論文について質問したら, 「その論文で出てるモデル, 解がないことが示されてるから読んでも意味ないよ」って言われて, 頑張って読んで損した.

解が存在しない, というのがどういう意味で言っているのか, 解の非存在についてどういう議論をしているのかを聞きそびれたのだが, 何にしろ, 物理でも方程式というかモデルを立てたあと, そのモデルの価値について解の存在という観点から議論をすることがあるというのを聞いてちょっと驚いた.

これについて, 例えば下記のような本を書いていて, 東大での産業数学に関する取り組みで中心的な役割を果たしている山本先生などの話を思い出す. 儀我先生も同じような話をしていた.

儀我先生の話

その話というのは, 自然科学や工学の人達と数学が共同研究するときに解の存在の議論をする意味についてだ. 解の振る舞いを調べることが仕事という状況で, そもそも解が存在しないようなモデルは考えても意味がない. もっというなら解がないようなモデルはモデルの立て方自体が悪いと思える. 一旦モデルを立てたら, そのあとは基本的には数学の仕事になる. モデルの正当性について, 解の存在という観点からの研究も大事なのだ, という話をしていた.

私もその通りだと思うのだが, この考えはなかなか受け入れられないようだ. ただ, 儀我先生の話だったが Allen-Cahn 方程式で有名な Cahn (だったと思う) は工学者なのだが, 例外的にこうしたことについて非常に理解が深く, 数学の利用法として解の存在証明は決定的に大事だと擁護してくれていたという話を聞いた.

宇宙論の友人の話をふと思い出してこのようなこともついでに思い出した. Twitter でも TL に宇宙論とかその近辺の人がいるから今度聞いてみよう. あと, この辺の数学の話は関西すうがく徒のつどいでも話したい.

ラベル

数学, 物理, 工学, 微分方程式

Feynman 物理学が全てオンラインになったという衝撃

本文

やばい.

なんと!Caltech がファインマン物理学を全てオンラインに http://feynmanlectures.caltech.edu/ それもスキャンしただけでなく, 本文は HTML, 式は MathJax, 図は SVG だそうです

(英語版を) 買うだけ買ってろくに読んでいない方の市民だが, これは凄い. 私も面白いこともっとたくさんしたい.

ラベル

物理

フランクリンの「生まれたての赤ん坊が何の役に立つか、あなた答えられますか?」と科学・技術の倫理

はじめに

Twitter で時々見かける, 研究者による次のツイートを見た.

これに連なるツイート群は後半にまとめておくことにして, 次のような引用 RT をしたら少しやりとりが続いたので記録する.

やりとり

やり取りのあとのツイート

こうは書いたが, 高校の頃の私でさえ考えたことなので, 科学・技術の倫理では相当の議論の蓄積があるはずだから, いい加減何か勉強した方がいいのだろう. 何かよい本をご存知の方がいればぜひ教えてほしい.

研究者にシンパシーがある人達のツイートまとめ

物理学科の学生や物理学者にさえ「数学科の数学が何の役に立つ」とさえ言われるので, 私もこうは言いたいがどの程度受け入れてもらえるのだろうか?

こう発言できるその素朴さがとにかく本当にただただ羨ましく, まぶしい.

そういう扱いしか受けていないことに対してもっと積極的に行動を起こしてほしい.

どうしようもなく心を動かすから戦争利用もちゃんとできるという部分, 芸術界隈はどう処理しているのだろうか?

気分が落ち込んできたのでこのくらいにしておこう.

堀田昌寛さんのツイート

2016-09-10 「物理学における存在とは?」: 堀田さんのブログの記事, Unruh 効果が面白かったので

堀田さんのブログは本当に面白い.

「存在とは何か?」という問題は、本来実に根が深い。 例えば、相対論的量子場の真空状態|0〉を考えよう。 普通の慣性系での量子化では、真空は粒子数が零の状態だ。 またエネルギー密度の期待値もどこでも零だ。 そして図1のように慣性運動している測定機Aで測っても、粒子は観測されない。 空っぽの「無」の状態そのもののように思える。 しかしFulling-Davies-Unruh効果、通称「ウンルー効果」という面白い現象が知られている。 図1のBのように真空中を一様加速度運動をしている測定機は、あたかもその加速度に比例する温度の熱浴の中にいるように振る舞うのだ。

Unruh効果は元RIMSの小嶋先生の文章によく出てくるので名前だけは知っている.

小嶋先生, 本当に何を言っているのかわからないので, Unruh Unruh言うのはそんなに面白いことがあるのかとずっと思っていたがようやく面白そうなことがあるのだと認識した.

小嶋先生が要求してくるレベルの高さは本当に果てしなく, 私の言動も多くの人に小嶋先生のように見られているのかもしれないと思い, かなり反省した.

Reeh-Schliederの定理の物理的な意義: 堀田さんのツイートまとめ

次のツイートからなるツリーをTeX 化・PDF化した.

ふつうの物理の人がReeh-Schliederの定理に対するコメントをしていて, そんなに知られている定理なのかと驚いた. これは代数的場の量子論の基本定理で, その筋では有名というか基本中の基本の定理でもある. 学部四年年から修士一 年の頃, 必死で勉強した定理でその頃は数学的な証明だけ何とか追いかけられたものの, 物理に踏み込めるほどの力がなかった.

何年越しかさえ忘れてしまったが, Reeh-Schliederの物理に触れられる機会だったので忘れないように記録しておいた. いつか代数的場の量子論ももっときちんとやりたい.

それはそうと黒木さんの連続ツイートもいろいろまとめている. 需要がありそうならそれも公開したい. 連続ツイートだとどうしても式が見づらい.

二重スリット実験からはじまる堀田昌寛さんの量子情報ツイートまとめ

堀田昌寛さんのツイートまとめ.

量子情報, ちゃんとやりたいと思っていながら全くできていない. よく混乱しがちなところをクリアにしてくれる分野だと思っていて, 本当に面白そうなのにとても悲しい.

ほったさんによる量子力学の素敵なトピック集

本文

ほったさんのツイート.

量子力学の教官の方と学生さんに改めて知っておいて欲しいこと. RT で広めて頂けると助かります. http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/28/194922 http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/26/061840 http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/11/155744 http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/05/094917

それぞれ次のようなタイトルになっている.

  • トンネル領域で粒子を見つけたら, その足らなかったエネルギーはどこから来たのか?
  • 測定時間とエネルギーの測定誤差の間に不確定性関係はない.
  • 摂動論と, "時間とエネルギーの不確定性関係"という名の幻.
  • 波動関数の収縮はパラドクスではない.

トンネル領域の話, 非常に面白いのでぜひ読んでほしい. それぞれ面白いから, 興味のある記事だけでもぜひ読まれたい.

ラベル

物理, 量子力学

記事紹介: 「測定時間とエネルギーの測定誤差の間に不確定性関係はない」

本文

ほったさんのツイートから.

ブログ更新しました. 「測定時間とエネルギーの測定誤差の間に不確定性関係はない」. - Quantum Universe http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/26/061840

適当にやってきてしまったところなので, 非常に参考になる. 実にありがたい.

ラベル

物理, 量子力学

堀田さんのブログ紹介: 弱値, 弱測定に関する記事たち

本文

実に面白そう. そのうち, きちんと腰を据えて読みたい.

ラベル

物理, 量子力学基礎論

物理の人の数学への向き合い方

やりとりメモ

追記

定理や命題の主張は理解できるけど証明が全く分からない

これに関していくつかのポイントがある. 大きくわけて次の 2 つの場合がある.

  • 純数学的な議論: 例えば代数の準同型定理など.
  • 物理的な議論を強く含む場合: 例えばベクトル解析の諸定理.

後者の場合は次のような「物理的な証明」がある.

  • (暗黙のうちに) 簡単な場合に限定した (厳密な) 証明.
  • そのままでは正しくないが, 少しの修正で正しくなる「証明」.
  • 大雑把に考えてさえ正しくないが, 物理での応用上の気分はよく掴める「証明」.

一番目はベクトル解析でよく出てくる. 二番目はデルタ関数の近似関数列として熱核の代わりに原点近傍でだけ $n$ を取る関数列を取るとき, 三番目はそもそもとしてデルタ関数を「原点でだけ無限大の値を取る, 全積分が 1 の関数」として「定義」してしまうことあたりを想定している. 必ずしも証明の話ではないが気分は伝わるだろう.

次のような番外編もある.

  • 厳密には正しくなく凄まじい修正さえ必要だが, 数学的な気分が説明できる「証明」.

なぜこれを入れたかというと, Witten をはじめとした超弦理論まわりの人々が数学の人と話すとき, 数学者向けに調整した「説明」がおそらくこのタイプだからだ.

もっと言えば数学者の言う「アイデア」もこの手のタイプの「説明」だろう. これについては研究レベルにまで進んだ人と, 私のように修士程度で, 研究ごっこまでしかしなかった (できなかった) 人間とでまた少しスタンスの違いが出てくる. 大した話ではなく, 単純にアイデアレベルの数学的な雑な気分を本当にゴリゴリに厳密にした経験があるかどうか. この経験がある数学関係者はいい意味の緩さを持っているし, 何なら人によっては本当に「物理学者の雑な議論を精緻化するのが自分の仕事」という人さえいるだろう.

最後, 物理関係者の話から数学関係者の話になってしまった.

いろぶつ熱力学本査読に関する感想からはじまる物理の話

第一段

はじめに

いくつかのツイートをまとめました. 以下引用です.

いろぶつ熱力学の査読

いろぶつ先生の熱力学の本の査読をやっているのだが, 何というか改めて物理の人の頭の中を見ているという感じで, 物理の人は空気が読めて頭の回転がいいのだろうという気がしてくる. 具体と一般, 特殊と理想がぐちゃぐちゃになっていて, 数学系市民にはその切り替えについていけない.

こういうのを見ると, 数学は頭の回転と物覚えの悪い馬鹿にも比較的親切な分野というのを改めて感じる.

物理や工学, 高度のエアリード能力が求められる分野で, それが数学系の人間が挑むときのハードルになっているのを改めて実感している. 私が普段触れているタイプの数学も, 数理論理だとかもっと厳密なタイプの議論をしている人には「貴様らのエアリード能力の高さに感心する」といわれているのだろう.

ふと思ったのだが, 物理の人, 全微分の定義を何だと思っているのだろうか. これ, 院試の時に筆記で壊滅的だったらしく, 教員陣が衝撃を受けたらしく, 面接で全員に全微分の定義を質問していた, というの後で聞いた. 私は今でもきちんと言えない.

熱力学に戻ると, 一般論を展開している最中, 突然「理想気体で計算してみよう」という段落が出てきて, いつの間にか一般論に戻っている. 数学の本だったらいちいちくどく, 例1.2.4, 命題2.4.5 みたいに分離するところだ.

実は少し前のバージョンでは「この箱の中の記述は理想気体の場合に限る」 BOX ってのを作ってその中でだけ理想気体の例をやるようにしてたんですが, 自分で読んでいてうるさく感じたのでその BOX を取り外しました. つけたままの方がよかったかなぁ.

確かに熱力学最初に学んだときは理想気体のみの結果と熱力学一般の結果が混然となった印象があるので, やっぱりつけたほうがいいのかもしれないですね… (というより, うるさい ver を見てみたいです)

次のバージョンで復活させてみるかも, です (学生に印刷して配ったバージョンでは着いてた).

熱力学の難しさ

熱力学の難しさの一端は, 他で鍛えて来た微分方程式の議論が全く使えないところにもある. 極論, 計算で議論が組めないと言ってもいいのだろう. あくまで物理, 自然科学なので論理というわけでもなく, よくわからないが何故かそう, という経験事実に依拠しなければいけない.

もちろん, 力学でも何でも何故かこの現象はこの方程式に従う, という経験事実とそれに対する諦めはあったとはいえ, いわば数学的な装いと難しさに押されて物理に向き合いづらかったともいえるのだろう. 物理の勉強なのか数学の勉強なのかいい意味でわかりづらかった.

その一方, 熱力学は数学的なハードルがもはやかなり低くなっていて, 直接的に物理に向き合えるし, 向きわざるを得なくもなる. しかも使い慣れた数学的道具も使えない. その辺の巨大なギャップが厳しいとは思う.

あと, 熱力学の数学的厳しさでよく聞くのが記号的にもわけのわからない偏微分の計算とかいう単純な記号運用上の話だったりするし, 教科書書く人間はやる気あるのかとはよく思う. その非本質的な部分で悩む人が多く, 過去自分もそうだったといっておきながら再生産する者がいる度し難さは許しがたい.

数学から見た物理の本の厳しさ

数学系の人から聞くこの手の話, 具体的にはどのようなところでエアリードになってるか知りたい. 書いてる物理の人本人は論理を繋げて書いてるつもりだと思うので.

私の今回の話に関して究極的に言えば, 一般論は一般論として定義・定理・証明で, 具体例は例1.2.4のように例の議論として明確に分けていて, 物理はそうなっていないというのがあります. 実際, いま読んでいて, 理想気体での具体的な計算と銘打たれた節の後半で一般論が出てきていて驚いています.

なるほど. 物理では, ある具体例(理想気体等) を考えて, そこからどのくらい一般化されるか考察して, 一般化された話に至る, という形式が多いですね. もともと物があって具体例ばかりのところから法則を見出すので, 一般論が先になりにくいのかもしれません.

この指摘に関しては文章としての体裁の問題でもあります. 具体例を議論することを前提としたタイトルがついた節の中で前振りなしに一般論を展開するとはどういうことだ, と. 数学の定義・定理・証明・例は著者側で明確に区別していて読者が考える必要がなく, そのコミュニケーションギャップもあります.

なるほど. 本は見てないのでわかりませんが, 色んな観点からわかりにくいと思われる指摘は著者にとってありがたいでしょうね

また別の話をすると, 前書きで「エントロピーは統計力学でようやくわかった」というよくある話が書いてあるのですが, 統計力学でのエントロピーはよく乱雑さといわれますが, (この本でも実際そう書いてあるように) 熱力学でのエントロピーは断熱操作での状態間変化を制御する量であって, 統計力学で熱力学のような形の状態遷移を積極的には考えない (少なくとも私は見たことがない) のに, 統計力学で熱力学のエントロピーを理解することはそもそも可能なのかとか, そういうところにも査読コメントをつけています.

雰囲気的に, 本の書き方が悪い部分がありそうですね. 本当は体積無限大の極限で熱力学を再現するように統計力学を作って, 作られた統計力学から熱力学のエントロピーをそう解釈できる, という話なのだと思います (異なる流派あり

おおもとの話の, 物理の本でよく見かけるエアリード能力要求事案をいろぶつ熱力学の事案で書いているつもりなので, 特定の本というより, 少なくとも私が読んできた日本の物理の教科書の話という感じです.

数学者に「物理のここにギャップがある」企画を見てみたいなとよく思います. 物理の人はギャップないと思ってることがよくあって, 面白いことに気がつきそうなので.

物理学者への苦情まとめ VS 数学者への苦情まとめみたいなのも, いろいろ細切れなのはあるでしょうが, 大きくまとめたのは見かけないので何かやったら面白そうですね. 見かけたら地道にまとめていこうと思います.

物理学者への苦情まとめ VS 数学者への苦情まとめその 1

自明ではあるが, 物理の人が書いた文章でエアリードスキルを要求される事案を見つけたのでメモしていこう.

量子力学に従う粒子, すなわち量子のとる状態は複素線形空間$H$の上で表現される.

内積空間であることを要請していない. 前の部分で内積に触れてはある.

このように単位ベクトル$\ket{\psi_i}$で表せる状態を純粋状態という. この状態は$\ket{\psi_i} \bra{\psi_i}$ のように正方行列で表してもよく

あとでどちらを状態と呼ぶのか紛らわしい. このあと作用素環的な設定を前提にしたような記述があり, 厳密にはそれだとまた少し違うので諦めてどれか一つを採用してほしい.

これとは関係なく思い出した. 解析力学の講義のとき電磁気がらみの話でゲージ関係の話が出て教員が「任意の関数」と書き「それはどのクラスだ」事案. ちゃんと考えると微分可能性だけではなくエネルギーの有限性に絡む可積分性要求もあり, (非物理の数学関係者からすると) それほど自明ではない.

ちなみに量子力学で出てくるとき, 単純な場合は$\Ltwoloc$になったりするし, (二次元で) アハロノフ-ボームを考えるときは「平坦性」を課したりもするので, ここでもそう自明ではない.

「量子力学の数学」にもっていくと自己共役性に絡めてかなり非自明な議論が必要になり, 適当な設定では破滅するので物理の要請に沿い, 数学の技術的な仮定がどこまで外せるかという話まで絡んでくるので, 物理の人が思うほど数学として自明なことは少ない. ある意味でこの逆もある.

たとえば, 関数解析的な手法による偏微分方程式論では「自明な」空間はソボレフ空間だが, おそらく物理の人がさっとわかるほど楽な定義や性質を持たない. 流体で出てくるベゾフも定義がかなりごつい.

物理で理論を作る流れ

物理で理論を作る流れ.

  1. 解明したい振舞をする系 A がある
  2. 凄く単純な模型 X を作る
  3. X の変な振舞 (適用限界) を確認
  4. A を説明
  5. 似た B も説明できる一般化を行う
  6. 内包してる物理がわかった!

教科書だと 1 を具体例として後半に書くので動機不明の事がある

研究者からさえ数学の教科書に向けられる苦情の大きな部分はそれではないでしょうか. 特に高次元の線型代数は工学系の学生が「実空間は 三次元なのになぜ四次元以上をやるのか」と言っていたり, 抽象線型空間なんて使わないといっていたら量子力学で死を味わったとか.

私も腐っても学部は物理で修士から数学なので, その辺, 人間のやることであって物理も数学も大して変わらない地獄がある感覚があり, 数学で苦しんだだろうになぜ物理学者は, という感じもあります.

物理と数学の議論の流れは違う?

天体の運動を考えると, 動きの観測, ケプラーの法則 (太陽系での具体例), 万有引力の法則 (ほかの物体にも適用可能な一般論) に至るので, 一般論として万有引力の法則があって具体例で天体の動き, とはならない. なぜなら万有引力の法則が正しいかは具体例から定まるから. 論理の向きが数学と逆なのかな

それは教科書の書き方か研究かがごちゃごちゃになっているようにも思います. 力学だと教科書としてはいわば公理的に運動方程式からはじまって, 運動の一般論と具体例は割ときれいに分かれています. 続

電磁気だと帰納的に積み上げて Maxwell で終わるか, (簡単に Maxwell を導いた後で) Maxwell から初めていわば公理的にやっていきつつ具体例も触る教科書の展開はふつうなので物理と数学の論理の違いたいな話はまた違うでしょう. いわゆる物理の要請が数学では公理として現実と切り離す違いはあるにせよ.

数学でも「はじめから群があったのではなく, いろいろな例を見たうえで群という一般論を作ったのだ」ともいわれますし, 高木貞治の「数学は帰納の学問である」という言葉もあります. 最近の数学と, 大昔の物理とも強く結びついていて, 物理学者兼数学者ばかりの頃の数学の違いもあるでしょう.

なるほど. 興味深いですね. 熱力学が力学のように体系化されるのかされうるのか. 特に熱力学 (と統計力学) は常に有効模型, 有効理論なので (そもそも熱平衡はいつ起きるのか), 電磁気や力学みたいに基本法則を信じきれない部分もあるので定理みたいにならないんですかね. それとも上手く書けば書けるのか

話が少しずれますが, 場の理論の黎明期はそれに近いです. 特に散乱で量子力学で育てた感覚をもとに, 模型ごとのアドホックな議論を進めていて実験と直接結びつく散乱理論がぐちゃぐちゃだったから, もうあきらめて「これは信頼していいだろう」という線を公理化して数学したのが場の理論の数理の始まり.

LSZ の還元公式は公理的場の理論の成果だと, その筋の人は良く言います. 物理の言葉だと行列要素の収束ですが, 数学的には作用素のノルム位相の収束を考えるのではなく, 位相を弱めて弱収束を考えるというまさに関数解析的な議論の変化によるところです.

あと公理的場の量子論の, 少なくとも当初の問題意識・設定は「これだけは信頼できると思ったところだけから, 疑義を挟まない (近似を使わない) 議論でどこまで言えるかを検証する. 物理的におかしいことが出てきたら公理 (要請) が悪い」です.

私はこの文化圏で育ったので, 理想気体でおかしい結果が出たら理想気体の公理が悪い (モデル化が悪い) とまず真っ先に思うので, さっきみたいな話が出てきます.

いわば公理の無矛盾性判定の基準を物理的におかしい結果が出るか否かに置いています. 公理の無矛盾性とか言っていますが, 単に仮説検証です. 著しく数学の装いが強く, 数学的な問題解決 (解の存在と一意性など) のために問題意識も物理とずれがちになり, 物理にたどり着きづらい厳しさが常にあります.

ちなみにこの分野での解の存在は赤外・紫外発散による問題があったので, その発生当初の歴史的文脈では非自明かつ物理としてクリティカルな面があり, 非一意性は相転移・対称性の破れによる物理的に起こるべき非一意性問題もあるのですが, いまの普通の物理の人は気にしないよねマターはあります.

あとまた少し趣が変わる話ですが, 熱力学またはそれを生み出した経験的事実と他の分野の整合性にかかわる議論として量子多体系における物質の安定性という議論があります. Lieb-Yngvason の Lieb が主導している分野でもあります. 量子力学が生まれたきっかけの一つは水素原子の安定性です.

古典的な荷電粒子だとエネルギーがどこまでも落ち込む一方, 量子力学だと水素原子のハミルトニアンの基底エネルギーが下限を決めてくれるという話です. これを第一種の安定性といいます. もちろん量子多体系のハミルトニアンに対しても第一種の安定性の議論があります.

これは量子多体系の基底エネルギーが粒子数 N に対して漸近的に線型か, という問題です. 平均エネルギー (単純に基底エネルギーを N で割った量) が定義できるかという問題でもありますし, 熱力学的なマクロなエネルギーが N に比例するか, エネルギーの相加性があるか, という問題でもあります.

単純に考えて非自明なのは粒子間相互作用項が$N^2$のオーダー個あることで, これがうまくキャンセルして N に落ちるかがまず問題です. 実際はもっと面倒で, 系がボソンだけだと基底エネルギーのオーダーが$N^{7/5}$になる定理があり, ボソンだけの系は第二種の意味では不安定です.

電子が安定性に重要という有名な話の厳密化です. ミクロな系の安定性は量子力学誕生の頃からの懸案で熱・統計力学と深くかかわり, 物理ど真ん中の大事な話ではあると思うのですが, やっているのは Lieb 周辺の (物理よりの) 数理物理の人ばかりで, 多分普通の物理の人は触れない分野です.

平衡系の熱力学は圧倒的で多彩な経験則をどうやってクリアカットな少数の原理にまとめ上げるかが面白く, そして歴史的には熱力学と矛盾しないようにどう物理を作るかという指針の役割を果たしてきた分野, 物理 of 物理なので数学的な整備を目指すのは物理の人の肌には合わないだろうとは思います.

物質の安定性で書き忘れましたが, 粒子が相対論的な系への拡張もあります. これが大事なのは少なくとも原子番号が大きくなると本当に相対論的効果が出てくること, そして原子番号が大きい時に第一種の不安定性さえ出てくることです.

私が知っている範囲では原子核にまで踏み込んだ議論はないものの, そこまでいかずとも放射性元素の問題はありますし, 電子の動きに注目してベータ崩壊はあります. 相対論的電子で原子番号が大きい時の不安定性はベータ崩壊の存在示唆と思えなくもありません.

物理学者のいう「物理的」「数学的」とは何か? 「いろぶつ先生こと前野昌弘さんの熱力学」の査読雑感その2

いい復習と思い, いろぶつ先生の熱力学の教科書の査読をしている. その途中で思ったよしなしごとをそことなく書きつける. ちなみに前回の記録は次のページ.

メインツリー
流れの中で出てきたツイート
永井さん (物理の研究者) からのリアクション
「物理的」
「数学的」

熱力学での状態概念の扱い「いろぶつ先生こと前野昌弘さんの熱力学」の査読雑感その3

とりあえず GitHub にリポジトリを作った.

  • https://github.com/phasetr/ThermoDynamicsForMathematician

地道に書いていこう.

いろぶつ先生が『よくわからない量子力学』を書くという噂を聞きつけたので

本文

追記 田崎さんからのご指摘を受け, 引用元を明示した.

いろぶつ先生が『よくわからない量子力学』を書いてくれると聞いたので. 一応田崎さんの元のツイートからの流れも転載しておこう.

ラベル

数学, 物理, 数学教育, 相転移プロダクション

相対論的量子力学の謎: ディラックの海は必要か

Twitterで見かけたので自分の備忘録としてまとめておく.

私の感覚からすると, そもそも波動関数が何なのか, もっと言えば物理で何を指しているのかよくわかっていないし, 量子場を何だと思っているのかもよくわかっていない.

数学として波動関数は無限次元の$L^2$の元, 量子場はフォック空間を代表とする, 場の量子論に対するヒルベルト空間上の適当な作用素という認識で, 混同しようがないが, 物理だとどう教育しているのかよくわかっていない.

物理, この手の教育のブラッシュアップがほとんど全くされていない印象がある. 熱力学もたいがいひどい. 他の分野ではどうなのだろう. 統計学が地獄なのはわかっている. 統計学は自分でコンテンツを作る体できちんと勉強したい.

久徳先生とのやりとり

ぜんぶ久徳のせいだ

本文

青春は久徳だ.

青春は久徳だ

@phasetr 死になさい

@life_wont_wait !!!青春!!!

@phasetr 早く死ねって

@life_wont_wait 殺しに来て頂く方向で

@phasetr 一般相対性理論 (佐藤・小玉) で殴る

@life_wont_wait 電話帳の方が威力高いのでは

@phasetr 世界一難しいという噂すらある相対論の教科書に向かってなんてことを

@life_wont_wait 世界一の攻撃力

@phasetr まあもちろん世界中の教科書を読んだわけはないのであくまで噂です

佐藤・小玉の『一般相対性理論』はこれだ.

下記が有名な電話帳.

ラベル

物理, 一般相対論

西川貴教兄貴のおかげで pressure は high/low だというのは叩きこまれている

本文

久徳先生による極めて示唆に富むツイートがあったので.

西川貴教兄貴のおかげで pressure は high/low だというのは叩きこまれてるからな

英語に限らず何かを記憶に残すのにキャッチーな何か, 非常に役に立つ. 今後の活動でも覚えやすく記憶に残るキャッチコピー, きちんと意識しなければ.

ラベル

物理, 相転移プロダクション

量子力学からの物質の安定性と流体力学からの星の安定性

はじめに

物質の安定性に関して久徳先生とちょっとした小話をしてきた.

コメント

なんで部屋の暖房が死にかかっているのかわからないが少なくとも俺が凍死に向けて確かな一歩を踏み出していることはわかる (帰宅)

@life_wont_wait 最強の戦力, 脂肪肝

@phasetr 死になさい

@life_wont_wait 赤外発散と相転移に関する人類の理解に革命を起こすまで死ねない

@phasetr 君の意見は聞いていない. 死になさい

@life_wont_wait 最期は重力崩壊と共に

@phasetr それが臨界現象だよ

@life_wont_wait 死してもなお統計力学の発展に寄与する方の市民

@phasetr ではここで 1post で統計力学の重要性や面白さをご解説願います

@life_wont_wait 大自由度の系が持つ普遍性と何でそういう話になるのか理由がさっぱり分からない不可解さ

@phasetr ウワーッ 自由度だーッ (死)

@life_wont_wait stability of matter from atom to star

@phasetr 流体の安定性ならなんとか…

@life_wont_wait http://www.amazon.com/The-Stability-Matter-Selecta-Elliott/dp/354022212X 読みましょう

@phasetr これ星も粒子の多体系で扱ってるんですか?

@life_wont_wait 白色矮星やら中性子星やらを量子多体系で扱っている論文があるのは知っています. 場は扱おうにも (数学的に) 難し過ぎて多分手が出せるような状態ではないでしょう. 特に有限温度は

@phasetr 中性子星は大抵ゼロ温度でいけますが, どちらにせよ星を量子多体系なり場なりで扱うとなると動機は数学的な興味に移ってくる気はしますね. 安定性の絡みではやはり必要な課題があるものなんでしょうか

@life_wont_wait 多体系の安定性自体, もはや数理物理の人しか研究していないはずです. その一環で数学的, 物理的に本当にどこまで理論が適用できるのかの限界調査とか, フェルミの縮退圧関係がどこまでど真面目に効いてくるかとか. あとそもそも古典系は安定性ないはずなので

@phasetr 話が微妙に噛み合っていないような気もしますが, 流体モデルでも星の安定性=質量や角運動量を固定した星が安定に存在できるか, というのは古来より研究の続いているトピックなので「古典系は安定性ない」というときの安定性は何か違うものを指しているのかもしれません

@life_wont_wait こちらで「物質の安定性」といったときの安定性は「古典的に (原子核の周りを) 荷電粒子が円 (加速度) 運動していると電磁場を放出してエネルギーを出していって原子が潰れる」的なアレで, 無限多体系の基底エネルギーの粒子平均が有限かと言う所から見た問題です

@phasetr ああなるほど, その意味だと電磁気に限らず古典系は延々落ちていくだけで安定性ないんでしょうね. 星っていうことは重力が外場で入っている量子多体系なのかと思いますが深入りしたくなさが強いですわ

@life_wont_wait 今思い出しましたが, 普通, 熱力学で扱う系はエネルギーが示量的で, 安定性と示量性に関係があるのでその辺の量子力学的チェックでもあります. ちなみに流体からの安定性はどういうモチベーションでどういう話をするのでしょうか

@phasetr どういう天体が理論的に存在可能かというのはひとつ重要です. 例えば現実の中性子星の回転速度は定常解の理論的上限よりずっと低く, 速く回ると不安定になって自発的に遅くなるというのが標準的な説です. 何かが不安定化するときは動的な現象 (超新星爆発とか) が起こるのも重要です

@life_wont_wait 宇宙やばいし星やばい

@phasetr 熱力学という意味では流体でも http://adsabs.harvard.edu/abs/1981ApJ...249..254S http://adsabs.harvard.edu/abs/1988ApJ...325..722F など大局的な性質で安定性を判定しようという話がありますが, 今見たら多体系としても http://adsabs.harvard.edu/abs/1982ApJ...257..847S がありました

@phasetr 「宇宙の基本は星と宇宙論」という話があります

@phasetr 最近はブラックホールの方にも応用されているようです. 少ししか知りませんが http://arxiv.org/abs/1309.0177 http://arxiv.org/abs/1310.5117

宇宙関係での流体力学からの安定性の議論があるのは知らなかった. 死ぬ程難しそう.

ラベル

数学, 物理, 数理物理, 量子力学, 統計力学, 物質の安定性, 流体力学, 宇宙論, 星, ブラックホール, 天体

Twitter まとめ: 重力波天文学と数理物理と生活科学の境で

はじめに

今回もまた久徳先生とハートフルなやり取りをしてきたのでそれを記録しておきたい. 途中から分かれた話もあるので, 適当なところで切り分けよう.

引用

オフ会のできるおじさんとオフ会のできない俺, どうして差がついたのか…慢心, 環境の違い

@life_wont_wait 体重的には近そうな印象

@phasetr ノーコンテスト

@life_wont_wait 体重が言い訳にならない理由ができた方のポスドク

@phasetr アメリカ生活ダイエットという苦行に挑む方の市民なので

@life_wont_wait これを論文にすることでまた業績が増え, かつ女性研究者が多そうな生活科学へのパスもできる方のポスドク

@phasetr くらえ! 学際性トンファー!

@life_wont_wait 真面目な話として, 物理と (重力波) 天文学 (と生活科学) VS 物理と数学の学際性, どちらの方が高いのかというのが気になりました

@phasetr まず物理 + 生活科学は物理 + 数学より学際性が高い, それはもう自明のものとして認めていこう

@life_wont_wait 要証明

@phasetr ここは共同研究していこう

@life_wont_wait 早く申請書を書いて予算を獲得しないと

@phasetr 緻密な研究計画が必要だ, まずは大まかに見通しを立てよう

@life_wont_wait 久徳先生がアクセスできる有料論文へのアクセス権を含む研究者ネットワークを駆使し関係がありそうな女性研究者を見つけてくる所からスタート

@phasetr 魚卵でいいだろ

@life_wont_wait ぎょらんさんをまきこむのはそれはそれで私は楽しいのでどんどんやりたい所ですが, それはそれとして生活科学関係への展開はしないのですか

@phasetr 研究者となると知り合いが思い当たらないですねえ. 仕方ないので積極的に魚卵を威嚇していきましょう @saeohrevapap

@life_wont_wait こう色々と論文検索して探しておいて下さい. 私はそういうのにアクセスする権限やらお金やらないので

@phasetr そういうのは非常に重要な要素ですよね. せめて arXiv があってよかった

ぎょらんさんを巻き込んでしまったのは申し訳ない限り.

その 2

あとここから別系統の話がはじまる.

@life_wont_wait さすがイケメンエリートは格と体重が違った

@phasetr 体重の話やめろ殺すぞ

@life_wont_wait アメリカでの荒んだ食生活で骨と皮だけになって帰ってくる方の久徳先生 http://geitsuboo.blog.fc2.com/blog-entry-5143.html

@phasetr これは本人の意志でも止めたくなるなあ

@life_wont_wait 本人の意思で脂肪肝を選択する方のポスドク

@phasetr おい意図的なもんじゃねえよやめろ

@life_wont_wait 重力波天文学を研究するための適正体重があるのかと思っていました

@phasetr そこは天文学なので一桁くらいは気にしません

@life_wont_wait 有限な世界は難しい

@phasetr 素数だ!!!!!

@life_wont_wait この宇宙, 最大の素数が存在するのでは

@phasetr 我々の宇宙では全ての素数の積に 1 を足すことすらできない可能性…?

@life_wont_wait 足しても素数にならないだけなのでそれは問題ないのでは

@phasetr そうすると全ての素数をかけて 1 を足すと何で割り切ることができるのだろう

@life_wont_wait 割り算または素数自体が存在しない世界を想定することで解消

@phasetr 素数が存在しない宇宙のイデア

@life_wont_wait この宇宙でかけ算は非可換

@phasetr 黒木先生によろしくお伝えください

@life_wont_wait 数学は戦い

@phasetr 終わりなき数学を生きる

その 3

mythic さんと久徳先生のやりとりには笑った.

@phasetr おい意図的なもんじゃねえよやめろ

@life_wont_wait 何故相転移Pを殺さないのですか

@mythtic 彼には社会と戦って死ぬ義務がありますゆえ

ラベル

数学, 物理, 数理物理, 重力波天文学, 生活科学, 天文学, 共同研究, 申請書, 学際研究, 男女交際, ダイエット, 数論, 非可換代数

重力波研究の基礎の基礎の話?

本文

久徳先生と普遍市民 Im_Weltkriege 師の次の対話をご覧頂きたい.

ツイート引用

重力波研究の基礎の基礎はなんだろうか. ホワイトボード一面に書いたら自分では知らないことが出てくる気がする

@life_wont_wait 算数

@Im_Weltkriege それはちょっと高度な話題かもしれませんね

@life_wont_wait 算数的実在からの波動こと重力波

@Im_Weltkriege 職人が丹精込めて量子化した算数

@life_wont_wait 宇宙職人の朝は早い (7 日目除く)

@Im_Weltkriege 神は 7 日目を休日とするゲージを選択された

@life_wont_wait 選択神話

@Im_Weltkriege ところで神は可換なのでしょうか?

@life_wont_wait 神は零環に宿る

コメント

これを面白く思えるような人は是非物理または数学に来てほしい. 神学や宗教学を学ぶのも手かもしれないが, 数学の方がこう色々とお手軽かつ救いを得られる感ある.

ラベル

物理, 数学, 神学

Twitter メモ: #こんな指導教官は嫌だ

本文

今回も Twitter で久徳先生とハートフルなやりとりをしてきた. これはその記録だ.

ここから始まる.

#こんな指導教官は嫌だ 久徳浩太郎

やりとりその 1

これに対して久徳先生がこう返す.

他にも久徳先生との心温まるやり取りをいくつか Togetter にまとめている. 興味がある向きはご覧頂きたい.

やりとりその 2

せっかくなので他の人とのやり取りも引用しておこう.

これを RT した人間もふぁぼった人間も生かしておくわけにはいかん

@life_wont_wait 将来的に日本で教鞭をとることってあるんですか

@Cure_Trinity それはあり得ると思っているよ

@life_wont_wait 人生やり直す時にはいろいろ教わりたいですね

@Cure_Trinity そのときは授業料は割り引いておくよ

やりとりその 3

これを RT した人間もふぁぼった人間も生かしておくわけにはいかん

@life_wont_wait ツイートした本人は

@SO880 赦されない

@life_wont_wait 慈悲を

@SO880 天国か地獄でもらってくれ (銃声)

@life_wont_wait 先生…

@SO880 今日の講義はここまでです

ラベル

数学, 物理, 数理物理

オープンサイエンスの活動をしよう

本文

ほったさんのツイートがあったので.

紙媒体の一般向け科学雑誌を凌駕するウェブマガジンを作りたい. (大学関係者と一般の方との共同によって, いつか近い将来に). そんなウェブマガジンが 3, 4 誌に増えたら, そこからポリマスプロジェクトのような, 一般市民を巻き込んだオープンサイエンスのアクティビティが日本でも生まれると予想.

研究と同じで人柱になる人間が必要だ. 多数の屍を乗り越える必要がある. とりあえず私も本サイトの方でいろいろやって屍を積み上げておく.

あと「大学関係者」というのも相当古くさいのでは. 科学の実践の方の専門家がが大学や企業の研究者しかいないのも不健全だろう. もっと世間に屍の山を作ろう.

ラベル

数学, 物理, 相転移プロダクション

Lieb-Yngvason による The entropy concept for non-equilibrium states が arXiv に出たので読んでみた

はじめに

Lieb-Yngvason のプレプリントが出たのだが, 普通の理論物理の人が「ちょっと衝撃的?」と言っていたので眺めてみた. The entropy concept for non-equilibrium states だ. Lieb-Yngvason がまた何か面白いことをしたようだ.

余計な話もいくつか書くが, 論文紹介というよりも私がこれを読んで思ったことの読書メモみたいな感じで読んで頂ければ, と思う. それなりに専門的に勉強した人間が何を考えながらどう読む (反応する) のか, というのを見てみたい向きには面白いのではないかと期待して.

アブストラクト

まずアブストラクトを見る. 引用部の訳は意訳の上に適当なので, きちんと原論文にあたってほしい.

P1.

以前の Lieb-Yngvason が論じてきた枠組みで非平衡のエントロピーが特徴付けられた. 今回, 同じ枠組みで, 物理的に望むべき性質を持つ一意的なエントロピーの存在が言えないことが示された. ただし, 一意性がないだけでそれらしき関数が 2 つ定義できる.

平衡系の熱力学の論文は, 例えば The Physics and Mathematics of the Second Law of Thermodynamics だ. 一意性がないだけで, とりあえずエントロピーは定義できるらしい. とりあえず本文に入っていこう.

P1.

エントロピーは時間とともに増えていくとされている. エントロピーは平衡状態では何の問題もなく定義できているが, 宇宙の中にある物質の状態の多くは平衡状態にはない. 非平衡状態に対するエントロピーが何なのか分からければ, その増大というのもきちんと定量化できない. 非平衡状態のエントロピーの定義もあるが, 色々な問題がある.

当たり前の現状認識から入る. 別件だが, Jaksic-Pillet あたりが非平衡定常状態に対して, エントロピー生成を証明したという話があった覚えがあるが, あれは具体的にどういう設定下で何をしたのかよく知らない. あれと今回の結果, どういう関係にあるのだろう.

P2.

状態の比較時, 化学的な組成は同じ状態を考える. 今回の議論では状態の断熱比較性 (以下比較性という) が大事. 一般には非平衡状態のエントロピーは一意に決まらないが, $S_{\pm}$ という 2 つの両極端なエントロピー関数がある. 比較性が成り立つときにはこの 2 つは一致する. 当然非平衡状態での比較性が成立することは極めて非自明であって, しかも一般には期待できない.

$S_{\pm}$ が恐ろしく非自明で凄まじい. あと, 化学的な組成が同じ状態に対する比較性を考えるというの, ここではさらりとしか書いていないがかなり重要だろう. 化学反応が起きる場合, さらに修羅のような状況になるのは簡単に想像がつくし, そのときは $S_{\pm}$ のような量が consistent に定義できるのかすら怪しいという印象. あくまでただの印象だが. そもそもエントロピーを定義する意味があるか, という問題もあるけれども.

2 章

とりあえず 2 章に進む. これは以前の論文の復習なのでとりあえずさらりと. 興味がある向きで自分できちんと上記平衡系の論文を読もう.

全然関係ないが, 非平衡状態での多体系のエネルギーは相加性を見たすのだろうか. 基底状態に関する相加性については, やはり Lieb が主導している物質の安定性の数理物理でのメイントピックだし, 恐ろしく非自明. 物質の安定性, 関西ぶつりがく徒のつどいとかで話したいがまず勉強が必要な人生だった. 数学の人に話すには量子力学と熱力学の上に物理に興味があるかという部分まで要求することになるので無理っぽい. 基底状態に関する限り, 物質の安定性は (量子) 統計力学というより量子多体系の話なので, 統計力学に頼るという話ではない. ただ, ミクロなモデルには頼るので今回の話とは別途切り分けるべき話ではある.

また, 相転移を考えなければいけないために起きる, 熱力学の数学的な処理の面倒さと, 面倒さそれ自身が持つ物理的な意味と重要性 (要は相転移) についても書いた方がいい気がしている.

3 章

3 章に進む.

P9.

平衡状態と違い, エントロピーで全てが決まるわけではないので非平衡状態のエントロピーを考えても平衡状態ほどの意味はない. ただし, 平衡状態のエントロピーが持つよい性質を保ちながら, 非平衡状態に対してどのくらいよいエントロピーが定義できるかを考えるのには意味がある.

非平衡状態の空間は, 全ての非平衡状態を含む必要はないことを強調しておく. これは, 爆弾の爆発のような状況を考えるときにそもそも状態の関数としてエントロピーを考える意味があるか, といった物理的な設定を反映させている.

非平衡状態は時間依存, または環境と完全に切り離せないことにも注意する.

状態空間に reproducible という条件をつけるようだが, 後で出てくるのだろうか.

3.1 節に進む.

P10.

拡大状態空間でも順序の物理的意味は平衡状態と同じとする.

これは物理的に妥当なのかよく分からない. 純粋に数学として議論を進める上では関係ないが, 最後きちんと物理にするためには決定的に重要なところ. とりあえず先に進む.

N1 で A6 (Stability) を仮定しているが, 非平衡でも成り立つと思っていいのだろうか. 他はとりあえず仮定しておいていいとは思うのだが. 平衡状態に近いところ (非平衡状態の空間をそのくらいに小さめに取る) なら仮定してもよさそうな気はするが, 遠平衡状態 (と私が仮に名付ける) ではどうなのか.

どうでもいいことだが, 数論幾何で遠 Abel 幾何というのがある. 名前しか知らないが Grothendieck が提唱したということだけ知っている.

ふと思ったのでメモしておくと, 公理的場の量子論や代数的場の量子論での「公理」はここで言う「仮定」の意味だ. 「ある仮定のもとで何がどこまで言えるのか」を確かめようという取り組みが公理的場の量子論と言える.

何故こんなことをするかというと, 少なくとも 1950 年代は特に場の理論の散乱がうまく扱えず, 何をどうしたらいいのか全く分かっていなかったという背景がある. しかも場当たり的な仮定をつけて, その場ではうまくいくが, 別の場合には全く使えないというひどい状況だった. まずは「この程度は成り立つと思っていいだろう」というラインを決めておいて, そこから導かれる結果を吟味し, どんな仮定ならば適切かを判断する材料にしようという試みなのだ.

なので, とりあえず仮定しておいて何が出るかを調べよう, という姿勢なら (数学的には) 条件をつけておいても構わない.

P10.

N2:全ての (考察下の) 非平衡状態 $X$ に対し, 2 つの平衡状態 $X'$, $X''$ があって, $X' \prec X \prec X''$ が成り立つ.

N2 の意味の説明:訳は省略.

初見では適当に読み飛ばしてしまったが, これはかなり強い意味を持っていた. 物理としては自然な仮定かとは思う. 詳しくは P10 の N2 直下の文参照.

P10.

非平衡状態の空間上で定義される関数で, 平衡状態の空間上, 平衡状態のエントロピーと一致する関数を探そう, というのが基本的な問題となる.

(14), (15) で定義される関数 $S_{\pm}$ がこう色々と大事. 物理的な意味もある.

P11 の命題 1 に基本的な性質がまとまっている. あまりきちんと落っていないが, 証明もそれほど難しくなく追えるレベル.

P12 の定理 4 では非平衡エントロピーの一意性に関する同値条件がまとまっている.

3.2 節では温度 $T_0$ の熱浴を仮定して最大仕事と, 最大仕事からのエントロピーの定義について考えている.

3.3 節に進む.

P15.

定理 4 と非平衡状態空間上の比較原理, つまりエントロピーの一意性は, 全ての非平衡状態はある平衡状態と断熱的同値性と同値になる. 平衡状態に近いところであってもまず期待できない性質であることを見ていく.

4 章

P16, 4 章でまとめに入る.

あまり証明をまじめに追っていないが, 数学的には問題ないだろう. 問題は物理への適用だ. 設定した公理 (仮定) がどこまで物理的に真っ当かという議論もある. 統計力学の設定で「追試」するというのも面白そう.

ラベル

数学, 物理, 数理物理, 熱力学, 物質の安定性, 場の量子論

コーシーの積分定理の定式化から考える物理に必要な数学のレベル

本文

以前他のところでも書いたが, 原さん, 田崎さんによるイジングの相転移本, 今, 東大物理の有志とともにの査読ゼミをしている. 勝手きままに好き放題駄目出しをしまくっているのだが, 一部復習を兼ねた数学の付録 F で物理として甘い数学の記述を見つけた.

ゼミでも指摘したのだが, 物理の人が読み飛ばしそうで, かつ数学の人は気にはするが物理としての意識はしないだろう部分がある. そうした意味で気になる記述はそこだけではないが, 現状の草稿を読んでいる方に役に立つと思ったので, 複素解析を例に気になる部分を具体的に指摘しておきたい.

追記

ここ に置いてある PDF に, 早稲田で早稲田や東工大の学部 2 年相手に話した複素解析ショートコースの記録がある. 3 時間くらいで関数論のメインストリートを駆け抜けた. 興味がある方は読んでみてほしい.

本題

本の草稿から Cauchy の積分定理と積分公式の記述を抜き出してみよう.

(コーシーの積分定理と積分公式) 単連結な領域 $D$ で正則な一変数複素関数 $f (z)$ と $D$ 内の任意のなめらかな閉曲線 $\gamma$ に対して \begin{align} \int_{\gamma} f (z) dz = 0 \end{align} が成り立つ. また, $a \in D$ と $D$ 内にあって $a$ を反時計回りに一周する閉曲線 $\gamma$ に ついて \begin{align} f (a) = \frac{1}{2 \pi i} \int_{\gamma} \frac{f (z)}{z - a} dz \end{align} が成り立つ.

この記述は物理的に問題があるのだが, それがどこか分かるだろうか. 今回は数学的にもっと一般化できる部分で起きた問題とたまたま一致しているが, 実際には物理での応用時に問題が起きるという話なので, 数理物理としてはきちんと対処しておくべきところだ.

ちなみに Cauchy の積分定理の別バージョンだとか数学上の注意については下記の本の IX 章 $7 を参考にしてほしい.

数学的問題

何が問題かというと閉曲線の取り方にある. 引用した部分では「なめらかな閉曲線」とあるが, 例えば上記『解析入門』にあるように「区分的 (またはなめらか) 」としなければいけない. ときどき, この文脈では「なめらか」と書いて を意味することはあるので, そこはどちらでもいいのだが, 問題は「区分的」と入っているかどうかだ. これは物理での応用時に次の問題を引き起こす.

Cauchy の積分定理から留数定理を証明することになるので, 留数定理にも上記の曲線に対する条件が引き継がれる. 実際に留数定理で計算をするとき, 良く次の図のような積分路を取るだろう.

図で丸をつけておいたところは積分路が尖っているので, 当然微分ができない. 「区分的になめらか」としておけば問題ないのだが, 曲線に微分不可能な点を許した形で定理を書いていないので, この場合に使えるかは分からない. 一般に, 条件を一つ落としたとき定理が成立するかどうかは自明ではないし, 本当に反例がある場合があるため慎重に判断する必要がある.

応用上の問題

ここで問題なのは物理の人はこの類の条件を適当に読み飛ばすだろうし, 数学の人は気にするにしても純粋に数学的な面からの問題としか見ないだろう, ということだ. この定理に限らず, 命題の設定や結果に物理的な意味がある場合にそれを正しく見抜くこと, 感じることが大事なのだが, 現状の草稿ではそうした指摘が弱い部分が多い.

もちろん出てくる定理全てに明確な物理的な意味があるわけでもないが, 物理的に非常に重要な命題にすらその旨注意がないことがあり, 物理の人は「単なる数学か」と素通りしてしまい, 一方数学の人は物理的な意義が見えないという悲劇が起きる. このあたりは, 何というか, きちんとした教育を受けた「純粋な数理物理」の人間にしか感じ取れない気がする.

コメント

念のため書いておくと私は数理物理という言葉の使い方について物理, 物理寄りの数理物理, 「数理物理」, 数学くらいの段階があると思っていて, 数学者が数理物理というのは「物理が元ネタになっている数学」のくらいの意味だと思っている. 「物理寄りの数理物理」は極めて物理的なモチベーションの高い数学的に厳密な研究を指し, 田崎さんや原さんがここに属する. これが微妙なのだが, 「数理物理」は物理的な意義が多少薄いが全くないということもなく, 一方数学としてもあまり独立した興味が無いような話だが, 「数理物理」という何か良く分からない区分にすると意味を持ってくる結果, くらいの何とも言えない意味で使っている. ちなみに例えば超弦理論で数理物理といったとき, 特に物理の人がやっている場合は「数学的に厳密な」という条件が落ちることが良くあるが, 私はこれを「物理」と呼んでいる. 人によって意味がばらばらなので注意されたい. 田崎さんと原さんでもまた違うだろう. ここでは私の使い方を説明した.

ついでに紹介

日本評論社の数理物理シリーズの編者コメントには次のような話が書いてある.

ロシアの R. L. Dobrushin は, 統計力学を確率論的に深めた多くの著しい業績をもつが, 「仕事は何か」と問われて「応用数学を純粋数学にすること」と答えたとか. これにならって, 数理物理学とは物理に用いられた数学を純粋数学にすることだ, といってもよさそうだ.

また上のような説明は数理物理の文献なら必ず明記してあるかというとそうでもない. 大事なところにはもちろん適切に注が入るが, 当然分かるだろうという部分にはいちいち注は入らない. こうした注意が明文化されている文献をあまり見かけないので注意しておくことにした. 改訂されるまで (見ていれば, だが) 査読者の方々は注意されたい.

最後に

色々言い出すときりがないが, 数学的に一般化できるところまで一般化しきればいいというものではなく, 物理にとって大事な条件下で必要な範囲の定理を示せれば, 物理としては十分だ. 自分が何をしたいのか, 物理がしたいのか数学をしたいのかという問題があるが, この本は「数理物理」の本なので, 読むときには上記のようなことに注意するともっと楽しめるということをお伝えしておきたい.

ラベル

数学,物理,数理物理,複素解析

高圧物理学の聖杯, 金属水素

はじめに

どこだか忘れてしまったが, Twitter で金属水素なるものがあることを知る. とりあえずWikipedia の該当記事を貼っておこう.

引用

金属水素 (Metallic hydrogen) は, [水素(http://ja.wikipedia.org/wiki/水素){target=_blank}が圧縮され, 相転移を経た状態であり, フェルミ縮退の一例である. 固体状態では, 水素原子核, つまり陽子結晶格子の間隔は, ボーア半径よりもかなり小さく, 電子ド・ブロイ波長と同程度と予測されている. 電子は束縛されず, 金属における伝導電子のように振る舞う. 液体状態では, 陽子は格子に並ばず, 陽子と電子の液相系となっている.

水素は, 周期表上でアルカリ金属の列の最上段にあるが, 通常の状態では金属ではない. しかし 1935 年, ユージン・ウィグナー と Hillard Bell Huntington は, 25Gpa 程度の超高圧で, 水素原子は電子を保持できなくなり, 金属的な性質を示すことを予測した{1}. それ以降, 金属水素は, 「高圧物理学の聖杯」と呼ばれるようになった {2}.

高圧物理学の聖杯とか格好良すぎるだろう. 何だこれは. 「聖杯」と言いたいためだけにでも研究する価値がある.

ラベル

物理, 相転移

量子力学教育の現代化に関する適当な考察

Twitter で物理系の大学教員が量子力学教育の現代化というお題でいろいろ言っていた. 旧来の水素原子に関する偏微分方程式の解析などよりも, 量子情報や量子測定理論など現代的な量子論の理解にもとづいて教育を組み直すべきではないか, 無限次元の面倒な議論よりも有限次元のヒルベルト空間論で本質は十二分に説明できるはず, そうした話が展開されていた. それについて適当にツイートしたので, せっかくなので適当にまとめておく.

放言

  • 量子力学、関数解析の隠語という方向で考えたい。
  • 物理はよくわからないので、量子系の数理・幾何の基礎数理という感じで市民感覚の線型代数コンテンツを作りたい。
  • 量子力学の教科書から水素原子取り除いたら解ける具体例どうすんの、、、?井戸型ポテンシャルだけやるの、、、?

    • 調和振動子はあるのでは。
  • いま有限体に対する応用線型代数として符号理論を再勉強しつつコンテンツのために整理している。
    • 物理への応用線型代数という趣で作った現代数学観光ツアーだけでも既に300ページを超えるボリュームがある。
  • 水素原子に関わる数学が好きだから水素原子の議論を決死擁護するというスタンスを取るまである。
  • 200ページくらいで量子情報がさらりと眺められるPDFとかほしい。

私の趣味という意味での数理物理的観点

  • 水素原子、励起状態の固有値、量子電磁場の「摂動」を入れると励起状態は全て準安定状態的なアレになっていろいろ処理が必要で、基底状態は固有値であってほしいと思いつつ赤外発散処理が必要でそれがまた修羅という世界観で生きている方の市民。

もう少し真面目な教育的話題

  • 水素原子の問題のいいところ、そこまでに習ってきた数学をきちんと使うところというか、そういう風にカリキュラムを組んでいるところだろうから、物理学科のカリキュラム自体根底から組み直す必要があるだろう。何で量子力学の話だけしているのかがよくわからない。
  • 物理学科、何となく教科書という何といい、教育改革が死ぬほど遅れている印象があり、死ぬほど保守的なのだろうという気分とこれが物理帝国主義かという気分がある。
    • そうですかね、、、?

    • とりあえず比較対象は数学で、観測範囲では学部レベルが少なくとも数学よりはかなり固定的な印象があります。
    • まぁ昭和の教科書普通に最近のと同じように読めちゃうのでそうなんでしょうねぇ、、

  • 物理の人間がどう思うかは知らないが、数学科の人間が読みやすい物理のコンテンツを作りたいという気分はあるものの、現代的に適切な物理の内容をよく知らないという致命的な問題がある。
  • 現代的な量子力学、とりあえず偏微分方程式を解けば何か出せるというタイプの話ではなく、かなりの抽象論になるような気がするし、理論系ではない学生を全員処刑してしまうタイプの講義になりそうな気もする。実験系の人はどういう気分なのだろう。
    • 偏微分方程式解く系の数学、数学の使い方が難しい事案で、現代的な量子力学は教養数学の一番難しいところだけを丁寧に集めたタイプの地獄になるような印象がある。多分流体やら何やらで添え字だけ見ればいいタイプでは済まない、数学のテンソル積が必要になって血の雨が降りそう。
  • 添え字の計算ではない、テンソル積空間などのテンソルを理解できる非数学科の人、どのくらいいるのだろうか。そもそも線型空間やら、行列と線型写像の区別がきちんとつくやら、なかなかハードな気分がある。
    • (量子情報理論、(数ベクトル空間の話に落とし込んでお茶を濁す手もあるとはいえ、)まともに説明しようとするとすぐにテンソル積が出てくるので地味に大変なんですよね)

    • 数ベクトルに落とすと、今度はテンソル積が逆に具体計算として特に高階のテンソルがすさまじく面倒なことになり別の強い負荷がかかるという認識で、何をどうやろうとも難しいことは難しいという事案だと思っています。
    • そうなんですよね… >特に高階のテンソルがすさまじく面倒 学部の講義でちょっとだけ量子情報理論の話をしたときには、2量子ビット系までしか扱わなかったのでまだ何とかなった(と信じている)のですが

  • 平均的な物理学科の平均的な学生、どれだけ現代物理に耐えられるのか問題が浮上してきている気がする。
  • 学部の時、量子力学は微分方程式をとりあえず解くだけで全てが終わり、特にいろいろな特殊関数の計算に追われて物理をやるどころではなく、学部4年で数学科進学用の関数解析系の勉強ついでに量子力学の公理みたいなのを改めてやることでようやく少し何をしているか把握したという部分があり、偏微分方程式の計算を必死で頑張るタイプの量子力学、学部3年程度で誰が耐えきれるのかという気分はある。特に特殊関数を駆使した計算、使う人と使わない人が極端に分かれるだろうし教育的にどうなのかはいまだに全く分からない。
  • 山の事故で亡くなってしまったが、最後早稲田に行った生物物理の木下さん、関数論で挫折して理論を諦めたと言っていたし、趣がだいぶ違うとはいえある程度優秀なはずの実験屋さんでさえそのくらいとなると現代的な量子力学、線型代数の抽象論で大半の物理の人間にわからない代物になりそうな。

最後に

私が作った現代数学探険隊はまさに水素原子の量子力学に必要な解析学を 1 から整備したコンテンツだ. その辺について, infinity_topoi さんのブログの記事に対するコメントとしていくつかまとめた. 興味があればぜひ読んでほしい.

何にせよ線型代数に関わるコンテンツはいろいろ必要で, 今後も解析または微分幾何視点でいろいろ作っていく.

コメントの移行

HashiraQさんから

量子力学について特に業績もなく本当に教科書が出るのか出ないのかも不明なツイ廃物理教員方面のホラ話、そんなに真に受けなくても、と思わんでもないっす。

だいたい何をもって「現代的」??水素原子も実空間系のスペクトルも取っ払って量子情報系に特化した教科書なんかいくらでもあるでしょ。日本語でももう長らく清水本、北野本とあって特に何のニュースもないいのでわ。

いずれにせよ現状では絵に描いた餅。いろんな教科書が出て選べるのはいいことなので、まずはお手並み拝見、教科書が出た時点で議論すべきことだと思いますね。

それより相転移P著の数学っぽい量子力学の教科書が読みたい。

自分

新井先生とLieb方面の相の子のような趣味をしているので、その辺の本の劣化版が私が書く本にあたります。劣化版をあえて書くなら、日本語でカバーされている本が(多分)ないという意味ではLieb方面の水素原子からのStability of matterを市民でも読めるように議論を丁寧に書く部分に全力を振るだろうと思います。

追記

新井先生の本に関しては恐ろしく丁寧で言うことはないものの, Lieb の本に関してはそこそこ行間があるため, そこを補うコンテンツはあっていいと思う. 特に stability of matter は前から興味があるので, コンテンツを作る体で勉強するのは本当にある. やりたいことが本当に多い.

非平衡相転移について少し調べてみようと思ったのだが全く分からなかった

はじめに

先日思い立って非平衡相転移について少し調べてみようと思い, 適当にググって PDF を読んだ. 京都の小貫さんによる『非平衡相転移現象: 熱流による非線形効果』という記事だ. いいものなのかどうかは全く判断できないが, とにかく読んでみた.

メモ

相転移現象は実に多岐にわたっており, 殆どの研究者にはそれぞれになじみのある相転移現象があるであろう. 相転移を平衡現象として捕らえるのは理解の第一歩であり, その先に多くの非平衡効果がある. 二次転移点近くのダイナミクス研究はその流れの初めの一歩である.

私でいうと強磁性が馴染み深いというか, ほぼそれしか知らない. それですら物理としては怪しいところばかりで悲しい.

一見して平衡に見えるがそうではなく, ガラス状態や構造相転移の中間状態のように準安定性が本質の物質状態もある. また高分子・液晶・ゲルなどのソフトマターは, その柔構造・多層構造のため, 多彩な非線形非平衡効果を示す. 濡れ現象や界面運動に着目した斬新な本もある.

学部の頃の固体物理か何かだと思ったが, ガラスがかなり難しい対象だと聞いてびっくりした覚えがある. あと濡れ転移だとか界面の話は東大数理の舟木先生が数学として研究していたような気がする. 読んだことないが, 多分これ.

これら潜熱の関与する現象はありきたりだが, 物理として理解するのは実は至難である. それには熱流下での液体・気体界面における一次相転移を正しく理解しないといけない. ここに相転移物理学と流体力学の融合された基本問題がある.

やたら格好いい. 1-2 ページにかけて van del Waals や Korteweg の仕事が紹介されているが, Korteweg は Korteweg-de Vries (ソリトン) で有名な Korteweg とのこと.

通常の自由エネルギーを用いる理論では一様な温度を想定するが, 温度が非一様な場合の相転移はどの様に記述できるかは自明でない.

非平衡は全然知らないので, そもそも非平衡での自由エネルギーとは何者か, 考える意味があるのか, 平衡状態で果たすような重要性は変わらずあるのか, というところが気になる. すぐ下でエントロピーも出てくるが, この辺, 非平衡でどこまで意味を持つのだろう.

潜熱流は熱伝導に比べ圧倒的に熱移送効率がよいのがわかる. ガスに僅かに液体を封入するだけで効率よく作動するヒートパイプの原理が納得されるであろう.

ヒートパイプなるものを初めて知る夏.

大分飛ぶが次のような記述があった.

身近で体験する現象ですら非線形非平衡効果に満ちており実はよく理解できなていない 3,6). 熱力学で論じられる現象 (例えば断熱変化・カルノー過程) は公理的な記述がされるが 実際の物理過程は複雑で誰も理解していない側面もある.

こういうの凄い好き. 現象自体は良く知られているが, きちんと考えると理屈が全く分からないとか最高に楽しい.

非平衡相転移については何も分からなかったが, 非平衡の熱力学・統計力学はやばい, ということだけ了解した.

ラベル

物理, 熱力学, 統計力学

【速報】早稲田の生物物理の木下一彦先生が亡くなったらしい: 一分子生理学で著名

ニュース

少なくとも個人的には衝撃のニュースが飛び込んできたので. 早大・木下一彦教授、滑落死か 南アルプスで遺体発見.

こういう速報, どこまで信じていいのかわからないが, 特にこんな誤報だったら喜んで訂正するので, とりあえず書いておく.

またあまりよくないことではあるが, ネットのニュース, 特に日本の報道関係はすぐリンク切れというか 表示されなくなってしまうのでとりあえず全文引用しておく.

長野県警伊那署は6日、南アルプス小仙丈ケ岳の登山道から約50メートル下の斜面(標高約2600メートル付近)で、早稲田大学理工学術院教授の木下一彦さん(69)=横浜市都筑区茅ケ崎南4丁目=の遺体を発見したと発表した。死因は頭部外傷。署は、木下さんが凍った地面で足を滑らせたとみている。

署によると、木下さんは10月31日に単独で入山。家族に詳しい行程を伝えていなかったという。4日夜、山梨県警南アルプス署に木下さんの妻から「登山に出かけた夫が帰ってこない」と届け出があり、5日から同署員と長野県警ヘリが捜索していた。

木下さんは、分子一つひとつの機能を知る「一分子生理学」という分野の発展に大きく貢献。1990年代半ばに、生命がエネルギー源として利用するATP(アデノシン三リン酸)を作る酵素の分子が回転する様子を、光学顕微鏡で観察することに成功した。

個人的な思い出

個人的な思い出としてはやはり学生時代の記憶だ. あまり直接的なやり取りはなかったが, 早稲田の応物・物理の学生部会の活動の一環で新入生の歓迎的なイベントについていったときの一幕が印象的だった. 特に赴任したばかりの先生はそこで研究紹介したりするのだが, そこで「量子系の先生方には怒られてしまうかもしれませんが, 私にとって電子というのは玉っころみたいなものでして」という言葉が出てきた. 物理学科でこういう言葉が聞けるところに意義がある. 何でもない一言なのだろうとは思うが今でも覚えている一節だ.

ちなみに赴任したばかりの先生がする研究紹介, 新入生にとってはどの先生も「新しい」のであって赴任したばかりの先生に 回るというのもよくわからない風習ではある.

業績とかはあまりよく知らない. Nobel 賞のうわさがどうの, というのもあったらしいが, もちろんそういうのもよく知らない. 詳しい人がどこかでまとめるだろうし, 早稲田の応物・物理からも適当に情報が出るとは思うので, 私が知っている (不確かな) 話を少し.

早稲田の生物物理で石渡信一という先生がいる. この先生も生物物理の重鎮と聞いている (業績 (の重み) がよくわからないので) が, この石渡先生と学生時代からの付き合いらしい. 早稲田に引き抜いたのも石渡先生だとか何とか聞いている.

浅井先生という背の小さい不思議な先生がいたのだが, その後任で来たという記憶があるが, それは高野先生だった気もする.

ロゲルギストとの関係

あとロゲルギストと『理科系の作文技術』で有名な木下是雄先生のご子息だ.

ちょっと調べて見つけたのだが, 2015-07-03 に名大で『講演題目:夢を見させてくださいな。』という講演していたらしい.

とてもつらい.

張り忘れていたので.

番外編: 登山と数学者

阿部龍蔵先生の訃報を知る方の市民

本文

佐々さんのツイートで阿部龍蔵先生の訃報を知った.

少し前だが, 阿部龍蔵先生の訃報 http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20131103ddlk13060157000c.html 実は, 直接の面識はないのだが, 僕が駒場で 18 年間使っていた机は阿部先生のを引き継いだものだった (らしい) ので, 特別な気分になっている.

毎日新聞から

毎日新聞の方も引用しておこう.

訃報: 阿部龍蔵さん 83 歳=元放送大副学長, 東京大名誉教授, 物性理論物理学専攻 / 東京 毎日新聞 2013 年 11 月 03 日 地方版

阿部龍蔵さん 83 歳 (あべ・りゅうぞう=元放送大副学長, 東京大名誉教授, 物性理論物理学専攻) 1 日, 肺炎のため死去. 通夜は 7 日午後 6 時, 葬儀は 8 日午前 10 時, 品川区西五反田 5 の 32 の 20 の桐ケ谷斎場. 喪主は妻康子 (こうこ) さん.

歴史上の人物感ある.

ラベル

物理, 物理学者

大栗さんの『重力とは何か』がオーディオブックになる

本文

大栗さん自身のツイートにより, 『重力とは何か』がオーディオブックになるという情報を得た. これだ.

拙著『重力とは何か』が FeBe からオーディオブックになりました. ⇒ http://www.febe.jp/product/144944 最初の部分は, こちらの Youtube で試し聞きできます. http://www.youtube.com/watch?v=wS-5QVg1_DE&feature=player_embedded

読もうと思っていてずっと読んでいないというか買っていない.

大栗さんの理研での講演についての記事を前に書いたことがある. 「大栗さんの講演「科学者の矜持」が Youtube に上がっていたので見た」でコメントしている. 動画へのリンクと単なる感想だけでなく, 知り得る限りでのある程度専門的なこともコメントしておいた. 興味がある向きはご覧頂きたい.

ラベル

物理, 重力, 素粒子, 宇宙論

大栗さんの講演「科学者の矜持」が Youtube に上がっていたので見た

本文

Youtube に科学者の矜持というタイトルで理研の講演が公開されていた. 下に未整理の適当なメモを書いておいたが, 正直全く分からない話だった. ただ, 折角見たのに何も書かないでおくのも惜しいので, 感想を残しておきたい.

桂利行先生との会話の記憶

以前, 桂先生か誰かと話していたとき, 数学者が「大栗さんと村山さんは数学めちゃくちゃできる」と言っていた. 超弦の周辺はそういう物理学者がごろごろいるらしいので戦慄する. 私の分野も大雑把にはそういう分野だし, 私自身物理から数学に行ったとはいえ, そういう類の (多分) 物理出身の人が書いた数学の本 (Reed-Simon とか) が良く分からなくて泣きながら勉強していたことを思い出すと, 数学者に数学できると言わせる物理学者, 実に恐ろしい.

Reed-Simon の思い出

ちなみに Reed-Simon あたりは有名だがかなり難しいので, 少なくとも物理出身者には勧めにくい. 以前, 東大数理の河東先生のセミナー用の推薦書にこれが挙がっていたが, 河東研に進む人はこのくらい読みこなせるのか, さすが数学科は違う, と感心した. ちなみに, Reed-Simon の本で半ページくらいで終わっている証明が, 新井先生の量子現象の数理には 3 ページくらいの長きに渡って証明が書いてあったので, つらいわけだ, と思った記憶がある. 新井先生の本が丁寧すぎる (のでよくない) という見解もあるかもしれない.

動画の話

まず 26 分くらいで「超弦理論の余計な 6 次元は素粒子模型の構造の起源. 6 次元空間は複雑で距離さえ測れない. 数学者でも無理」という発言があった. これで何を言っているのかが気になる.

「数学者でも無理」ということは物理的な測定法という話ではないと思うのだが, そうなると何の話をしているのだろう. 6 次元というのは複素 3 次元の Calabi-Yau 多様体の話をしているのだと思っているのだが, これは Kahler (a にはウムラウトがつく) なので一応は計量がある. 現象を説明するのに適切な計量の存在または選択みたいな問題かと思ったが, その辺は良く分からない. 聞いてみたら存在だけがわかっている事案だった。

全く関係ないが, Calabi-Yau が Kahler だったか確認しようとググろうとしたら「Calabi-Yau 多面体」がサジェストされて深い悲しみに包まれた.

さらに別件だが, Calabi-Yau 多様体はここに関係する数学的業績で正に Yau がフィールズ賞を取ったレベルに凄まじい数学的対象だ. Einstein-Kahler 計量の問題はいまだに複素幾何の大きな問題と聞いている.

場の量子論の数学的理解

あと, 最後の部分で「超弦理論は場の量子論も大事で, この場の量子論の数学的理解も大事」みたいな発言があったが, この辺が私の専門なので, ついでに宣伝しておきたい. 以前 Witten あたりは「超弦理論は 22 世紀の数学のはずが, 何の間違いか 20 世紀に出てきてしまった. 20 世紀は量子力学を数学にする時代だったので 21 世紀は場の量子論を数学にする時代だ. (構成的) 場の量子論の連中はもっと頑張れ」みたいなことを言ったと聞いているが, そういうならもっとこちらに人を連れてきてほしい.

以下講演の適当なメモ

たまねぎの芯:観測のためにエネルギーを高くするとブラックホールができてしまう. ブラックホールが観測したい領域を隠してしまう. これを「これより小さいサイズの世界はない」と見なす.

重力と量子力学を統合する理論が究極の理論:超弦理論.

超弦理論は 1960 年代, バークレイの加速器が多くの素粒子を発見。 1968 年にベネツィアーノが公式を提唱. 1970 年に南部理論が提唱, しかし余計な素粒子があった. この素粒子が重力を伝える.

欠陥:基本法則レベルでパリティ対称性が破れているが, 弦理論でこれを破るのは難しそうだった.

超弦理論の余計な 6 次元は素粒子模型の構造の起源. 6 次元空間は複雑で距離さえ測れない. 「数学者でも無理」.

1992-1993 にトポロジカルな弦理論を開発.

ホーキングの問題. ブラックホールの情報問題. Hawking 輻射:ブラックホールが量子的ゆらぎのために発熱する. 輻射は Planck 分布:元の情報はなくなってしまう. これでは因果律に反してしまう. この主張に穴はないか? 超弦理論はこの挑戦を受けてたった. 本の情報はブラックホールの量子状態の中に書き込んで保存できる.

重力のホログラフィー. 双対性:同じものが 2 つの異なる状態を持つ. ホログラフィー原理:3 次元空間の重力理論は空間の果ての重力なしの理論に等価. ホログラフィー原理でブラックホールの蒸発過程を説明できる.

場の量子論の数学的理解が大事.

Twitter で大栗さんに質問して回答を頂いた

Twitter に大栗さんがいるので, ちょっと聞いてみたら教えて頂いたのでこちらにも転記しておく。

疑問

疑問自体は次の通りだ.

まず 26 分くらいで「超弦理論の余計な 6 次元は素粒子模型の構造の起源. 6 次元空間は複雑で距離さえ測れない. 数学者でも無理」という発言があった. これで何を言っているのかが気になる.

「数学者でも無理」ということは物理的な測定法という話ではないと思うのだが, そうなると何の話をしているのだろう. 6 次元というのは複素 3 次元の Calabi-Yau 多様体の話をしているのだと思っているのだが, これは Kahler (a にはウムラウトがつく) なので一応は計量がある. 現象を説明するのに適切な計量の存在または選択みたいな問題かと思ったが, その辺は良く分からない.

大栗さんからは次のようなお返事を頂いた.

@phasetr コンパクトなカラビ-ヤウ多様対については, 計量テンソルが存在することは証明されているが, その具体的な形がわかっていないということを噛み砕いて述べたものです.

Calabi-Yau 多様体は Wikipedia をご覧頂きたい. どうでもいいといえばどうでもいいが, 「しかし, 他にも同値ではない多くの同様な定義がある」という記述にびっくりした. 同値な定義ならもちろん色々あるのは普通だが, 非同値なのを挙げるというのも凄い. 「コンパクトなケーラー多様体が単連結であれば, 上記の弱い定義と強い定義は一致する」ということなので, それでもいいと思う気持は分からないでもないが.

説明の追記

それはそれとして, いくつか説明を追記しておく. Calabi-Yau の定義は省略するが, まずコンパクトと計量テンソルを説明する.

コンパクト性

コンパクトというのは「有界閉集合」のことだ. 有界というのは「無限には大きくない」または「必ず有限な大きさの球体に含まれる」という意味だ. Calabi-Yau が超弦理論で出てくる文脈では「小さい」と言っていいのかもしれないが, コンパクトだからといって「小さい」と言っていいわけではない. 「無限には大きくない」と言っておけば (今の文脈で) 間違いはない. ちなみにここ「有界閉集合」といったのは Riemann 幾何の基本定理, Hopf-Rinow の定理を前提にしている. 本当は多様体の連結性を仮定しなければいけないはずだが, 細かくなりすぎるのでやめておこう.

計量テンソル

計量テンソルというのは多様体の曲がり具合を表す. 講演でも話があったし, 一般相対論なりなんなりで「時空が曲がっている」という話があるが, この曲がり具合を指定するのが計量テンソルになる.

ここで大栗さんから「存在は証明されている」というコメントがついているが, その存在証明をしたのが Calabi-Yau の名前にある Yau だ. この業績で Fields 賞を受賞している. その元の問題である Calabi 予想については [[http://en.wikipedia.org/wiki/Calabi_conjecture ][ここ]] を参考にしてほしい. 大栗さんのコメントは, 懸案だった大事な計量の存在自体は示されたが (一般に) 具体的にどんな形かが分かっていないということだろう. 具体的な Calabi-Yau 多様体に対しては分かっているものはあるはずだが, 物理で出てくる全ての Calabi-Yau に対して分かっているというわけではないのだろう.

追記

$n$ 次方程式で例えるとこうなる:「代数学の基本定理から $n$ 次方程式に $n$ 個の解があることは分かっているが, 具体的に解の値が何かというのはこの定理だけでは分からない」. こういう感じで適切な曲がり具合が何かあることは分かっているが, 具体的な曲がり具合が分かっていない.

ちなみに Yau の証明そのままかは知らないのだが, 予想の証明自体は下記の本に書いてあると思う. 詳しくないので間違っているかもしれないが, それはご容赦願いたい.

また, この辺の問題は Einstein-Kahler (Kahler の a にはウムラウトがつく) 計量の問題として今でもまだ色々な議論があるようだ. 中島啓さんの次の本にある程度まとまっている (と思う).

そういえば, 中島啓さんも Twitter にいる. 最近は上記の本で議論されているような問題からは離れて代数的な表現論関連の話を研究されているようだが, 詳しくは知らない. 興味がある向きは詳しい人は Twitter 上にも色々いるので, そういった方々を掴まえて聞いて頂きたい.

ラベル

数学,物理,超弦理論,複素幾何,偏微分方程式

「理論物理学者に数学を教えようの会」の内容や開催にいたる経緯

はじめに

表題の通りの勉強会というかオンラインセミナーをやろうという話が出ている. とりあえず試しにやってみようという部分もあり, 詳細はともかくやることは決まった感がある. 内部での共有・方向性確認が第 1 の目的だが, 公開することに意義がある内容もあるので, その内容説明・共有やここに至った背景などをいくつか説明したい.

きっかけ

先日松尾衛さんから infinity_topoi さんの Mathpedia 経由で私の YouTube を知り, それを微分幾何系の動画を見てみたらいたく気に入ってもらえたそうだ. 勢いで現代数学探険隊の PDF も買って頂けたそうで, それもセットでいたく気に入って頂けたそうで, メールでご連絡を頂いた. そこで少しやりとりして 3 人で何かやれたら面白そうという話になった.

いくつか案はあるのだが, 気楽にはじめられて相互に意味がある話として「理論物理学者に物理を教えてもらう」ような誰でも考える自明な話よりも「理論物理学者に数学を教えよう」の方が異様で面白いだろうという私の提案によってとりあえずこれをやってみようという話になった.

内容案

方針

基本的には数学をゴリゴリにやるよりも数学を勉強しやすくするための概要を紹介・案内する内容を考えている. 理由はいくつかある.

  • ゴリゴリと計算なり議論なり何なりしていく YouTube 講義シリーズは別働隊として作っている.
  • 物理的なモチベーションも重視した (解析系の) 数学コンテンツは現代数学探険隊の PDF として用意してある.
  • 物理数学的な面に注目して概要を議論した現代数学観光ツアーはかなり無茶な構成になっているのでネタを作りつつ整備して組み直したい.

ちなみに現代数学観光ツアーは A5 で 600 ページあるのでこれだけでも相当持つ. もちろんこれだけでは微妙な点もあるので物理と数学の意識のギャップや, その他あまり触れてきていないテーマなども紹介する.

当面予定している内容

現代数学観光ツアーでも多少触れているが, 1 ついい入口になると思うので次のような内容ではじめたい.

  • 摂動論の謎
    • 物理の摂動論と数学の摂動論の趣とその違い
    • 行列レベルで既に難しい: ハバード模型と行列の摂動
    • 自由粒子・調和振動子・水素原子と摂動
    • 励起状態の処理: 古典電磁場と量子電磁場
    • 基底状態の処理: 赤外発散
  • ヒルベルト空間論に向かう道
    • $\mathbb{R}^n$ と $\ell^2 (\mathbb{N})$
    • いろいろな内積と直交関数系
    • 直交関数系と弱収束
    • いろいろな収束と物理
    • LSZ の還元公式と作用素の収束
    • 作用素環上での収束
  • 超関数論
    • 高校数学と直結した地獄
    • 極限を取るとすぐに修羅の世界が出てくる
    • 極限で出てくる特異点の物理
    • 赤外発散: 場の理論での「デルタ関数処理」
    • 赤外発散処理といろいろな収束
    • 紫外切断の除去と物理の階層性
    • 有限温度と絶対零度の特異性
  • レゾルベント・グリーン関数とスペクトル
    • 以前田崎さんがこの辺で「ぼくの教科書でのスペクトルの定義は近似点スペクトルを使う。これは標準の定義より物理の人に馴染むと思う」とあったが, この辺が気になる.
    • 物理の人にとって気分的に把握しやすいのはむしろレゾルベントではないか.
    • レゾルベントの積分核をグリーン関数と呼ぶ.
    • ある作用素に対してレゾルベントが取れない値の全体がスペクトル.

進め方

あとで書く背景の実現という点からするといろいろ思うことはあるが, YouTube で動画を配信する前提があるので当面は松尾さんとの 1:1 オンラインセミナーをし, それをさらに録画配信することを想定している. ある程度素性が知れている (適当な意味で私がその人の人柄を知っている) 人に限定しないと場がめちゃくちゃになるこおを改めて実感した. 松尾さん以外にいるのかどうか知らないが, もし参加希望者がいるとしてもオンラインセミナーにリアルタイムで出席する人は限定したい.

背景

Slack でいろいろやりとりをした. クローズドでやっているので全部公開するわけにもいかないが, 私の発言に関してはいくつか抜き出しても問題ないだろう. それをいくつか紹介する.

私の中の 3 つの趣味

時々いうのですが, 私は趣味が三通りあって, 物理としての物理, 数学としての数学, 数学にも物理にもならないタイプの数理物理です. 物理は物理としてやれるし, 数学も数学としてやれるのですが, 修士までとはいえ研究対象として興味を持ったのは何かよくわからない数理物理というやつで 難しい数学を使うというより数学の使い方が難しいか, もしくは既存の数学にないので自分で必要な数学を作るという感じの話が好きです. 数学の使い方が難しいというのは収束評価・不等式評価を頑張るとかそういう感じの腕力が大事なやつです. 人の数だけ数理物理があるようで, 物理が元ネタなだけのいわゆる純粋数学というのもよくあります. いいとか悪いとかいう話ではなく. 日本評論社の数理物理シリーズの巻頭言で, Dobrushin の「応用数学を順数学にすること」に対して, 「数理物理学とは物理に用いられた数学を純粋数学にすることだ, といってもよさそうだ」という荒木先生と江沢先生のコメントがあります. この二人はもともと物理で, 荒木先生は RIMS にいたとかいう事情もあってもはや数学の人ですし, その手の趣味嗜好の人はもう少しいます.

数理物理的な趣味と「教える会」でやろうと思う方向性

私は早稲田の物理出身で, 早稲田紀光はその出自から学部 1 年で集合・位相必修だったとか, 地理的にご近所の大学の田崎さんの熱力学で Lieb 方面にいったので, あの辺が心のふるさとです.

無料で教えることと有料で教えることに関して

プロがそれをやってしまうと「あの高名な人が無料でやってくれるのにお前ご時の実力・指導力で金取るの? 」になりかねないので結構厳しい気分があります. どちらかというと教えるのは価値のあることで, それはきちんとお金をもらえることだ, というお金とのうまい付き合い方みたいなのをきちんとやるべきという気分. いわゆる塾講師などは需要があるわけですが, そういう需要が作れないかという部分が私の問題意識です. 月 20 万でも何とか生活できるはずで, その線にどう載せるかが数年来の問題意識で, 実際何ともなっていないところです. すうがくぶんかなどは需要の掘り起こしなどもやっていると思うのですが, いかんせんリアルで東京の制約があるので, オンラインで頑張るという方向がこれまでの活動です.

これに対して次のような指摘があった.

  • 需要をもっときちんと掘り起こし, マーケットを立ち上げる必要がある.
  • 理由?
    • 数学が何をやっているかを整理した情報がない.
    • 学ぶためのカリキュラムとテキストの不在.
  • これらがない限りどういったものがあって, 何が自分にとって面白そうか, そして実際にチャレンジしてみて自力では無理そうだから人に頼もう, というところまでたどり着きもしないはず.

これについてはいろいろなコンテンツを準備してはいるが, もっと広告を打つなりして広める必要性は感じている.

コンテンツだけではなく, これらのページにも物理・数学の展望を書いているので興味があればぜひ眺めてほしい. これ以外にもメルマガ登録特典として参考文献集+内容紹介リストも配布している. 他にも YouTube でいろいろな動画シリーズを作っている.

リアルも大事

いまコロナで止まっていますが, 去年から地元レベルのリアルでの実験をしたいと思って実際に地元の区の政治家・行政に働きかけたりもしています.

いまは新型コロナで厳しくなっているが, リアルで密な関係を育むことはとても大事だと思っている. いますぐに動けないからこそいろいろ準備をしている. 例えば中高生向け数学・物理・プログラミングコンテンツや, プログラミング学習でどうしても必要になる英語学習コンテンツを整備している.

あと, さっきの PDF は, ネットはネットで大事ですが, 全国各地, 津々浦々のリアルにそういう相談ができる人がいるべきだと思っていて, そのリアルを育てるための企画という側面があります.

ちょっと話がずれますが, AKB の「会いに行けるアイドル」で「会いに行ける研究者」概念は結構重要で, オンラインではなくリアルで集まるというのに素朴な価値はいまだにあると思っています. 旅行かどうかみたいなのはまた別の話で.

私が観測しているネットビジネス系のオンラインサロンも, むしろオフ会での価値を非常に重視しています. ネットの権化のような人たちなのですが, 一歩踏み込んで深いことをしようと思うとリアルがいるという. よく合宿をやっています.

さっきの PDF でもリアル (地元) を大事にしたのはこの側面があります.

(職業に関する) 知っているか知らないか問題

https://twitter.com/rikei_hayanon/status/1305630231772852224専門書という概念をよく知らなかったので探す発想さえないのが問題です.

コンテンツの提供形態

メルマガ読者で動画だと自分のペースでやれない, テキストがいい派もいるので, いろいろな勉強の仕方に合わせたコンテンツ提供が大事で, ワンソースマルチユースできる形で作って配布もそうするのがいいのだろうという気分はあります.

コンテンツ販売よりも, コンテンツ自体は無料にしておいて, それを使って勉強会をする方を有料でやる, みたいな形がいいとは思っています. 課金スタイル・金額はいろいろ調整必要と思いますが, 一人でやりたい人は勝手にやって, 一人でつらい人はみんなでやろうという勉強会スタイル.

ネットで情報発信するうえでその道できちんとやれている人の話を聞くのがいいだろうと思い, 世間でいろいろ言われているネットビジネス系の人たちのコンテンツ買ったりセミナーいったりしていろいろ勉強してきたのですが, 一番参考にしている人たちが最近割と「コンテンツ無料, コミュニティ参加で体験・共有に価値を置くスタイルでコミュニティ参加に毎月 2000 円」みたいなことをやっているので, 時代がそういう方向に動いているという気はします.

いわゆるオンラインサロンですが, ああいうのの数学版・物理版・プログラミング版みたいなのはもっといろいろあっていいでしょうと思っています.

詳しくないことはオンラインで相談して, 詳しい人の意見を募る形にすればいいので.

これ, 数学・物理・プログラミング以外だとどんな人に何をどう相談したらいいかわかりませんし, そういうのは大学内部でさえまるでできていないと思うので, アカデミックな知見を持つ人が緩く集う場所を作ろうというのは 1 つあります. Twitter はある意味そんな感じですが.

そこの仕組みを作りたいので, 価値のあるコンテンツは売りましょうスタイルを実験しているという気分です. まだいろいろやる必要があり, 実際にそんなに売れているわけでもないので.

まさにそこも本当にずっと言われていて, 何を軸にして集まるか, 共通言語が何かと言えば提供しているコンテンツで, その理解の深さがそのまま絆になるという話をずっと聞いています.

前, 何かの案内ページに書いたのですが, すでにコンテンツ・書籍を持っている出版社が「本はただで提供する代わりに毎月 2000 円で勉強会に出られるサービス」みたいなのがあれば, サブスク的に継続的な収益の見込みが立つので経営も安定するしニーズもあるしでだいぶいいはずなのですが, そういうのが出ないですね. 一度読んでも忘れるので, 同じ本・内容の勉強会であっても何度も出席する価値が出ます.

勉強会スタイルもいろいろあって, 例えば人それぞれの悩みを持ち寄って, それを話してもらい, 集団コンサルみたいにすることで自分でコンテンツを作らなくてもいいというスタイルが 1 つあります. コンテンツ提供スタイルでは「受講者の状況に合わせて臨機応変にコンテンツを作る」という名のもと, 本のように全部作ったうえで提供するのではなく, 通信講座的に少しずつ提供していくスタイルがあります. これ, プログラミング系では Manning の MEAP というのがあったりもします.

私も今実際に英語のコンテンツについてその内容をもっとよくしたいので教えてくれ形式の勉強会をしていますが, これも勉強しつつ作りつつで進めています.

実際に私が受けた集団コンサルスタイルは, ビジネス系のコミュニティで, 各人各様の問題があるので, それを各人発表していま抱えている課題を主催者がコメントしていくというスタイルです. 数学・物理でいうなら本の輪読みたいな感じだと思っておけば. 各人がこの本を読みたいと言って読んできて, 詰まった部分をよく知っている人が「これはこうで」というようなのをビジネスでやる感じ.

大学の教育方針に対する問題

学部どころか大学院でさえもはや博士に行って研究者になる人だけの専売特許ではないのに, それが前提の教育スタイルがいまだに続いているのが問題という話だとおもっています.

他のコンテンツ案

まずはふつうにこの辺の話を対談的に話す動画作って, いろいろな意図を紹介していくだけでもそれなりに意義はあるのではないかと思います. 思っていることをきちんと形にするのは大事なので.

あとは勉強会などでも同じなのですが, 「こういうことを考えて実行しているのが一人ではない」というのも結構大事です.

あと, 今パッと思いつきですが, 「現役物理学者から物理を教わろう」ではなく「現役物理学者に数学を教えよう」シリーズみたいなのがあっても面白いとは思います.

どちらかというと学生向けですが, 現代数学観光ツアーで, 物理・量子力学のための関数解析みたいな話をしているので, その辺を改めて整理するついでに何かやるというのは割と手間なくできます. 現代数学観光ツアーと題したコンテンツ, 600 ページくらいあるので.

計算系コンテンツを作る理由

理屈が何一つわからなくてもとにかく計算ができるようになれ, というのは私も学部で叩きこまれました. 結果がおかしい場合は物理的に結果が変なのでそこでリジェクトという荒業が使えます.

理屈の理解がガバガバでも物理の数学をやっていけるからくりを紹介・公開するのもいいかもしれないという話も出た.

ガバガバなのも理由があって, きちんと詰めると一気に数学の勉強を超えて研究になるから気にしたくない人は気にするな, 気にしたい人は諦めて数学をしろ, というのもちゃんと悦明した方がいいと思っています.

「こまけぇことはいいから計算しようぜ」というとき, 数学サイドの数学, 物理サイドの物理からも「いや, それは無視しちゃダメな細かいところでしょ」事案があるので, そういうのはきちんとやりたいと思って力学の計算コンテンツを作ったりしています.

物理学者に数学を教えようシリーズは明らかに異様で, かつ私の方はいろいろコンテンツあるので割とすぐに実現できます. 変なことをやっているのがいるなアピールはできるでしょう.

あまりいないタイプの人材っぽい話

物理学科の 3 年, 数学科の 3 年くらいの話ですでに両方, 最低限何となくでも埋められる, 少なくとも独学できるという人材自体がレアっぽいので. 大学には多少いても社会にはいないタイプという感じもあります. これに最低限プログラム書けるとなるとさらにレアキャラ度が増すようです. 物理とプログラミング, 数学とプログラミング, 物理と数学ならいても, 3 つそれなりにこなせる人間というのがほとんどいないという.

幾何の勉強がつらい

幾何系, とにかくロストテクノロジーというか古い本にしか書いていないのが多くて勉強しづらくてうんざりします.

これがあるから「微分幾何とその計算」と題したシリーズでいろいろ作っている.

ミルナーのモース理論もちょっとした命題が軒並古い論文参照で勘弁してくれと思って途中で放り投げました.

トポロジー回りは本当に魔界ですね. 関数解析とはまた違う趣があります. 関数解析だとまずノルムを入れて収束制御したいところから始まるので.

集合・位相が持つハードル

It's greek to me 的に集合・位相による言語の壁が厚い印象があります. 本質的に同かはともかく, 精神的なハードルの高さが尋常ではないという意味で. 「これ, 俺の知ってる数学じゃない」という.

私は集合・位相の壁を学部一年の必修の講義で叩きこまれて楽しんで乗り越えたので, そこが決定的な違いだと思っています. あと, 早稲田の物理の学部一年で物理学研究ゼミナールという説明しづらい講義があるのですが, そこで拡散方程式を解く中でヒルベルト空間やら何やらに触れて, 今から見ればこのセットが勉強・研究の流れを決定づけたので.

学部の教育, 訳が分からないときに必ずしも面白くもない話を一通り叩き込んでくれるので, あとで勉強するときさらっと確認するだけでも相当楽になるのですが, 非専門だとその面白くない話を独学で埋める地獄があってつらい事案がよくあります.

ノルムだと代数・位相の連携によってかなり事情がよくなる気分があるので, 代数が入らない距離で商と位相の相性が悪いのは重要な指摘と思います.

理論物理学者に市民が数学を教えようの会 第 1 回を終えて

理論物理学者に市民が数学を教えようの会 第 1 回

先日別の記事でアナウンスしたように, 「理論物理学者に市民が数学を教えようの会」を立ち上げ, 2020-09-28 に初回を 1.5h 程度やった. (大したことではないが, 数学者が教えるというのでは面白みが全くない企画なので「誰が教えるか」を明示する企画名に微修正した.) これに関して次のような記録・報告をしてもらったので共有しておく.

内容としてはいつも言っていること, または必ずしも無料・オープンとは限らないいろいろなコンテンツで言ってきたことを改めてまとめたにすぎないが, それなりに喜んでもらえたようで何よりだ.

ここで話したこと・今後やっていくことに関して常々言っている傍証として以前のいくつかの連続ツイートを張りつけておく. 「物理学者はまじめに自学科の物理・数学教育をやる気があるのか」と言っているときに意識している話をこの「理論物理学者に市民が数学を教えようの会」でコンテンツとして具体的に整理していく予定なので, もしあなたがこの内容に興味があるなら継続的にチェックしてほしい. 週 1 回メルマガ形式で YouTube にあげたコンテンツに関するアナウンスをしているので, 自発的にチェックするのが面倒ならぜひメルマガに登録してほしい.

物理学科の数学教育に関する連続ツイート集

数学の本のわかりづらさ
具体例がほしい問題
数学と物理と具体例と数理物理: 統計力学を例に
数学の「具体例」の抽象性

純粋状態と熱力学第 2 法則に関する論文 2 本: 田崎さんのと池田さん, 作道さん, 上田先生の共著の論文

本文

田崎さんの日記で表題に関する文献が紹介されていた. 非常に面白そうなのでシェアしておこう. 何より自分が読みたい. この 2 本だ. 田崎さんのは The second law of thermodynamics for pure quantum states で, 池田さんや作道さん達のが Emergent Second Law in Pure Quantum States. 池田さんや作道さんは一応知り合いなので聞けばいいという説もある.

まだ中身を全く見ていないが, 忘れないうちに読みたい. 田崎さんの日記からこれだけ引用して今回は終わる. 早く読みたい.

タイトルのとおりだが, 「量子力学の純粋状態から出発し, 量子力学の時間発展だけを用い, 熱力学の第二法則を導く」という大胆不敵な論文である. (普通のエネルギースケールでは) もっともミクロな量子力学を, 中間の統計力学の形式をすっ飛ばして, もっともマクロな熱力学と直結させようとしているといえば, 大胆さが伝わるだろうか?

続報: 勉強のための参考文献情報つき

以前, 田崎さんと池田, 作道さんらの純粋状態と熱力学第 2 法則に関する論文に関する田崎さんの日記を紹介した. そのあと Twitter でも教えてもらったのだが, この日の日記で田崎さんのが改訂されたことがアナウンスされた. というわけで早速読んでみた.

物理としては正直, いまだにさっぱり分かっていない. 数学としては非常に簡単なので, 多分学部 2 年 でも読めるだろう. ここで学部 2 年というのはこの 4 月時点での, という意味で書いている. 1 年生と書くとこの春からの新入生と思われてしまう可能性があるので, 2 年生とした.

数学としてはおそらくこれ以上ないほど簡単になってしまっているので特にいうことはなく, 物理としては全くピントが合っていないのでこちらも何も言えることはないが, 1 つタイポを見つけたので, それは田崎さんに報告した. タイポが見つけられる方の市民であった.

この辺, 興味があり折角なので, メールしたときに勉強用の参考文献を教えてもらった. 出しても問題ないと思うのでここでも紹介しておきたい. 田崎さんの The approach to thermal equilibrium and "thermodynamic normality" --- An observation based on the works by Goldstein, Lebowitz, Mastrodonato, Tumulka, and Zanghi in 2009, and by von Neumann in 1929 と Goldstein, Lebowitz, Tumulka, Zanghi らの On the Approach to Thermal Equilibrium of Macroscopic Quantum Systems, Canonical Typicality だ.

微妙に畑違いなので Goldstein は知らなかったのだが, 同じく微妙に畑違いといえども Lebowitz おじさんは知っている. 「おじさん」と書いたが, もう 70 とか行っていた気はする. とりあえず物理寄り数理物理の Ising 界隈では人類最強クラスの人間なので, この辺に興味がある人は名前くらいは覚えておこう.

ちなみに「物理寄り数理物理」と書いたのは, 数学の人が Ising というとき, 可積分系だとかその辺の数学的に格好いい話を想起するかと思うのだが, そういう格好いい綺麗な話ではなく, 死ぬ程泥臭い不等式証明とかそういう話, くらいの意味で使った.

ラベル

数学, 物理, 数理物理, 熱力学, 量子力学

統計力学は相転移を記述できるか: 佐々さんの日記から

本文

いつの間にか佐々さんが京都に移っていた, というくらいその辺の事情に疎い市民の私である. Twitter 上で回ってきて見かけて面白かった記述があったのでメモ代わりに記事を書いておく. 元記事はこれだ.

引用

昼食後の長い話の中で, でた話題はちょっと書ききれないくらい. 僕が知らない話もあった. 「「1937 年の会議で, 「統計力学が相転移を記述するかどうかを公に議論した. 挙手で決めれば, 半々くらいだった. チェアーのくらーまーすは, 熱力学極限の重要性をその時点で指摘していた」とそこに参加したうーれんべっくが言っていた.」.」とこーえんが言った. 他に, 非平衡熱力学をめぐる話, 流体方程式をめぐる話, 非平衡統計の話. . 基本的には, 「最近の研究に期待はするけれど, 警鐘をならしたい」というので一貫していた.

1937年時点での疑義

1937 年の時点でまだ統計力学が相転移を記述できるかが話題になっていたとのこと. (古典) 統計力学自体は 19 世紀最後の 4 半世紀にはあったわけだが, 統計力学と相転移の議論がこんなに最近 (!) まで議論の対象になるほどだったことに単純に驚いた. 南部さんの素粒子での相転移の議論が 60 年代にあったことを考えると, 30 年の時の経過を思う.

つどいでも少し関連する話をするつもりだが, 統計力学 (特にスピン系) でははじめ有界系で諸量を定義して, そのあと熱力学的極限とも呼ばれる無限体積極限を取る. 「連続関数の極限が連続であるとは限らない」という数学的事情を使って, 相転移をつかまえにいく. また相転移の熱力学的な定義は熱力学関数の特異性 (不連続性や微分不可能性) であったことを注意しておこう.

ラベル

数学, 物理, 数理物理, 熱力学, 統計力学, 素粒子

佐々さんの「第 59 回物性若手夏の学校の講義ノート草稿の公開」

本文

佐々さんツイートから.

第 59 回物性若手夏の学校の講義ノート草稿の公開: http://www.ton.scphys.kyoto-u.ac.jp/~sasa/public.pdf 時間と興味があれば, さっと読んで, 分かりにくいところや間違っているところをコメントください. (物語が下手くそなので直せ, といわれても難しいので, その場合は「改良版」をぜひ...).

これ読み始めると自分の仕事ができなくなりそうだ. なので最初しか見てないですが, いい感じです (しかし, 今の若者なら, 三つの熱力学本のいずれかを輪講してるんじゃないかな?). @sasa3341

あ, 「僕」は統計力学の教科書読んでくれてるんだ. 光栄. しかも, ちゃんと「田崎さん」と呼ぶということも浸透している. (けっきょく読んでいる). @sasa3341

@sasa3341 大変しょうもない指摘で恐縮なのですが, 何箇所か「カノニカル」の「ニ」が漢字の「二」になっています. http://twitpic.com/e3g65v

@Akimasa_K ありがとうございます! そんな変なことが起こり得るのですね. 全く気がついていませんでした. 全体をチェックします.

@sasa3341 些末なタイポの指摘で恐縮ですが, (25) 式下の $\epsilon=0.066$ は 0.66 ですね.

@tknbn え... これ, 実は, プログラムを書いて計算したのだけど, もう一回起動しても 0.066 になっていますが. . $2*1/ (273.15+20)-1/ (273.15+40)]/[1/ (273.15+20) +1/ (273.15+40)]$ ですよね?

@sasa3341 @tknbn 「20 $^\circ$ C と 40 $^\circ$ C」と書いたほうがよいのでは?

@sasa3341 あああ, , , すみません. アホなことをつぶやいてしまいました. . お恥ずかしい. . 忘れてください. .

@STakesue @sasa3341 はい. そこで勘違いをしてしましました. 逆温度でかつ絶対温度なのにそのままセルシウス温度を代入するという大バカなミスを. . すみません. . 忘れてください. .

@STakesue @tknbn ありがとうございます. そういうことか... 検索で調べたら, 20 度って結構あるのですが. 考えます.

読んだ読んだ. これは, 素晴らしい. まさに今しか書けない素材. これにリアルタイムで接した若者たちはプチ奇跡に立ち会えたとも言えよう! しかし, まあ登場人物の賢すぎることイーガンの SF のごとし. $\Sigma$ が出た後の展開は異常だけど, まあ, 世の中, 賢い人はいます. @sasa3341

@Hal_Tasaki ありがとうございます. 最後は正直ばてばてで, もう気力がなくて, スーパーサイヤ人化してしまいました.

「僕」と「 S 先生」の存在という意味でも『数学ガール』を正しく踏襲しているし, ラストもお約束だけれど, それはそれで大変によいです (好きです). (しかし, これを出しただけで, 当初の謎が解決したと思われても困るよなあ. 次章に期待だ). @sasa3341

まあ, ファインマンクラスの人が早熟なら, あれくらいやってしまうかもしれませんよ. 実は本家の『数学ガール』も必ず一気にブーストするところがありますよね. (ね, ミルカさん?) @sasa3341

@sasa3341 こんなに話口調でいいんですか? と思ったら論文じゃなかった…. はじめてみたタイプなので新しい感じがあって好きです

しかし, 万が一でも, ぼくも今年の夏の学校で話すことになっていたら, この予稿を見た瞬間に, うれしくて・悔しくて・愉しくて, 自分の予稿を没にして全部この手のフォーマットで書き直したりしたに違いない. そうならなくってよかった. @sasa3341

読み終わってからお風呂に入って反芻していたら興奮して来た! やはり不可逆性の問題は素敵だ (無限小でも, それに貢献できるとしたら, 本当にうれしい). 来年度の駒場の講義は (やるなら) 時間の矢で行こうかな. (心の) 若手を刺激する素晴らしい予稿です.

@sasa3341 大したことないことで恐縮ですが, p.5 の右側中央あたり 「熱力学的性質性質」と重複しています

@sasa3341 読みました. 物理は難しくてわからなかったのですが, ドキドキしながら読み, 学ぶ姿に学ばされました. ありがとうございます. 数学ガールの登場人物へのオマージュも感謝です

@gordon2040 ありがとうございます! 訂正します.

@hyuki うわ, ありがとうございます. 当然のことですが, 物語は数学ガールのパクリです. (知っている人には自明に分かることと思いますが, 解説冒頭に引用文献つけて補足します). 数学ガールがなければ, こういう物語による「大学院講義」の説明はなかったと思います!

@sasa3341 そのように言っていただけるなんて光栄です!

結局まだ PDF 読めていない. 途中だけ 2 段組にする方法, きちんと調べて自分の数学の本にも使おう.

ラベル

物理, 統計力学, 非平衡統計力学

立川裕二さん筋のツイート

2016-02-11 立川裕二さんのツイートをまとめた Togetter 「場の量子論の数学的定式化」とそこからの堀田さんとのやりとりまとめ

Togetterもまあ気になる. 特にこれ.

追っていないから全くわからないが, 多少気になる.

それはそれとして, 私と堀田さんのやりとりメモ.

研究でもやりたいことがたくさんあるのだ.

2016-05-11 IPMUの立川裕二さんによる「研究と勉強ってどう違うのでしょう」

いくつか引用.

また、理解したかどうか、というのは、心の奥底で深い理解が出来たか、ということではなくて、与えられた問題に対して、手もしくは計算機を動かして、答えが求められるか、ということです。まあ、深い理解が出来れば、計算も出来るでしょうから、計算ができないということは、深く理解していないということでしょうが。

とてもつらい.

また、理論物理をやっていると、使われている論理がいい加減だったり、もしくは、数学の専門書で使われている記法と異なるので、気になる人もいるかと思いますが、そこは(数学者にならないのであれば)我慢して進んで下さい。理論物理屋になって、同僚と会話するには、やはり適度にいい加減で、数学の本でなく理論物理の本で使われている記法を使わないと、話は通じません。物理と数学と勉強しているのは、中国語と英語と勉強しているようなものです。折角両方勉強しているのに、中国にいったときに、英語でばかり話をするのは、困ったひとです。

そんなに記法違うのか.

この場合はちょっと嘘を教わったのを明かされるまで数年ありましたが、似たようなことが繰り返します。半年前に習ったことが、実はちょっと嘘だった、本当はこうなのだ、と言われるようになり、場の量子論の教科書などになると、教科書のはじめの 1/3 ぐらいで学んだことが、つぎの 1/3 で実は嘘で本当はこうだ、と書いてあり、つぎの 1/3 で実はそれもさらに嘘で、本当はこうなのだ、と書いてあることはざらにあります。 なぜこんな事態になったのかはよくわかりませんが、事実なので仕方ありません。兎に角、書いてある議論をあまり鵜呑みにしない、あまり無理に変な議論を納得しようとしない。しかし、そこに書いてあることは計算できるようになる、という鍛錬が必要です。まあ、教科書だって人が書いているのですから、全般的に信頼してはなりません。

数学, 割とこういうことないので, とても勉強しやすい.

また、世間では学際とか、見識が広いことがもてはやされていていることもありますし、皆さん興味の広い人も多いですから、あれもこれも勉強したい、というのはあると思います。大学院に入るぐらいまではそれで全然構わないと思います。しかし、大学院に入ってなにか研究をしたい、という段になると、まずは、何か自分のやりたい研究分野で、最先端の論文が読めるぐらいにならないと始まりません。二つの分野を同時に勉強しようとすると、最先端に辿り着くまでの時間は倍かかります。一つの分野の中でも、さらに特定のことだけ徹底的に勉強することにすれば、先端まで来る時間は短くて済むわけです。

数理物理の厳しいところだ.

さて、この段階で何を具体的に研究したいか、テーマが決まっていなくても、幸い理論物理の論文は案外適当なので、論理にギャップがあることがしばしばありますので、それを埋めようとすることが出来ます。また、既存の論文の設定をすこし弄って、ちょっと違う状況にしてみて、考えるということもできます。これらは、別に大したことではありませんが、上の定義に照らせば研究と言えると思います。

数学だと例・反例を作るという本当に研究マターの仕事もできる.

私もがんばらねば.

2016-05-25 立川裕二さんの講演スライド: 「場の量子論の枠組みは如何あるべきか」

話が相当ずれると思うが, 古典論でも運動方程式が書けて Lagrangian が書けない状況があるらしいのだが, どういう具体例があるのか, それをずっと知りたいと思っている.

2016-06-06 Togetter: IPMUの立川裕二さんのツイートをまとめた『場の量子論の数学的定式化』

IPMUの立川裕二さんのツイートをまとめた場の量子論の数学的定式化というTogetterがあった. Longoや河東先生の論文 From vertex operator algebras to conformal nets and backが引かれていて, これに関するコメントがいろいろ書かれている.

この河東先生の論文も読んでみたいしAQFTももっときちんと勉強したい. やりたいことたくさんある.

2016-07-21 立川さんツイート: 「ある巨大基数の存在に関する (数学基礎論屋的?) 直観から、組み紐群の性質が予言され、実際に証明されたとか」いう話

謎の強烈な仕事だ. 立川さんも謎の情報をいろいろ仕入れてつぶやいてくれるのでとても楽しい.

立川さんの研究室紹介 YouTube がうさんくさくてとても素敵

本文

立川さん, 本当に怪しくていい.

ラベル

数学, 物理, 数理物理, 物理学者

研究者はもっと研究対象に対する個人的な感慨を公にしていってほしい

本文

立川さんのいい話.

人によってまたいろいろ変わるところだが, こういう個人的な感慨はどんどん公にしてほしい.

ラベル

物理, 数学, 数理物理

立川さんツイートメモとツイートから考えたもろもろ: 人間の直観なんて大したことはない

本文

面白かったのでメモ. 次のあたりの立川さんのツイート.

場の理論の勉強をはじめて, いろいろな概念 (仮想粒子等) の物理的意味を悩んでいる学生さんの tweet を見るが, そんな哲学的なことを悩むのは 30 年早いと言いたい. アインシュタインやボーアは偉大だから, 哲学的な考察から物理を引き出せたが, 普通はそうはいかない. (続)

自分は第二のアインシュタインだ, ボーアだ, と思うならそれも構わないが, 人間原理的に考えて, そんな確率はゼロでしょう. だったら, まず, 計算を出来るようになるのが先決でしょう. 年を取って, テクニカルな部分で業界に寄与できなくなったと思ったら, 意味でも考えればいいのだ. と僕は思います.

二十世紀はじめの物理の大革命がそれら哲学的嗜好のある偉人によってなされたせいで, 今にいたるまで相対論, 量子論の教科書のはじめが哲学色が強すぎるのは害悪だと僕は思う. 古典力学はわかりやすいが量子力学はわかりにくいなんてナンセンス! 現時点のデータで未来が全部決まっていると思うなんて

量子力学とおなじぐらい日常生活の常識に反するでしょう. 古典力学だって全然わかりにくい. 古典力学の教科書も哲学色が濃いものが多かったなら, トンデモさんも相対論と量子論だけを狙うのでなくて, 「ニュートン力学は間違っていた! 」とかいう本も沢山出ていた筈.

量子力学と相対論の教科書を, 古典力学の教科書みたいに単に事実を書くものに変えて, 一般向け解説でも, わかりにくいとか不思議だとか書かずに, あたりまえだと書くようにすれば, トンデモさんは撲滅できると僕は思います

@hottaqu プロの研究者や教育者が仮想粒子を量子揺らぎだと教えていればそれも問題だと思いますが. 仮想粒子は理論を摂動論で扱うから出てくるだけで, 全ハミルトニアンの固有状態でみれば単に $e^{itE}$ がかかるだけ, 計算上の手段に過ぎない仮想粒子を揺らぎだというのはナンセンスだ

少し話はずれるが, 古典論 (とりあえず相対論は除いておく) にも 結構面倒な部分はたくさんある. アメリカのマンハッタンへの飛行機突入とそのあとの 物体の落下に関する異常者の言動があるが, アレも非日常的なスケールの物理に対する 直観の効かなさに原因があるというのはよく言われている.

人類レベルで直観が磨き抜かれた専門家ですら 「きちんと調べないとわからない」と言って研究テーマにしていたわけで, 高層ビルレベルで既に人間の感覚は通じなくなる.

ラベル

物理, 古典論, 力学, 量子論

立川さんによる Strings 会議の講演者と講演内容の変遷を追うページ

立川さんによるページがご自身により宣伝されていたのでとりあえず私も便乗してみた.

過去の Strings 会議の講演者と講演内容の変遷と一望できるページをつくりました. http://member.ipmu.jp/yuji.tachikawa/stringsmirrors/statistics.html

どう見ると面白いのだろう. そういうのが少しあるだけでも門外漢には嬉しいのだが, と思ったところで, 自分もそういうのを作っていくべきなのだな, と思う方の市民であった.

谷村省吾さんが代数的量子論の本を出すとか聞いたので

本文

谷村さんが代数的量子論の本を出すとか聞いたので.

Perfect_Insider さんのツイートも引いておこう.

作用素環というか表現論というか, そういうのを基本にしたときのメリット, 無限自由度にしたときの話しか知らないので, 量子論一般でのメリットとかそういう部分は知りたい.

ラベル

物理学, 量子力学, 場の量子論, 統計力学

田崎さんによる物理・数学での発表スライド作成指南

本文

田崎さんによる発表スライド作成指南があったので.

【発表スライドについての最低限のルール】 学会や学内での発表会でのプレゼンテーションのスライドを作る際に守るべき最低限のルールをまとめた. 物理を念頭に置いているが, おそらく, ほとんど全てのジャンルに通用すると思う. http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/presentation/slide.html

関係各位はチェックしておこう.

ラベル

数学, 物理

Twitter まとめ: オーダー (桁) の物理 理科年表を君に

Twitter のやりとり

Twitter でオーダーに関する話を少ししたのでそれをまとめておきたい. この辺からはじまる.

物理の本, 「 (適当なパラメータのオーダに見当をつけて) この項は ドミナントでないので無視すると…」みたいなのわりとばんばんでてくるけど ああいうのを見極めてバシッと切り落とせる眼力がほしい

@hisen_kei 一つにはパラメータの取りうる範囲みたいなの, 具体的な数値としてきちんと把握する所からやるしかないのでは感. あと物理定数は, 少なくとも数値のオーダーは覚えておかないと

@phasetr ある項がこのパラメータとおなじオーダなので, というところからして「あー確かにそうだよなー」と感心するレベルだった 自分がやってる分野の物理定数とか特徴的な時空間のスケールの感覚を身につけるのは ほんと大切だと思います…まだ学部生なので今後に期待です

@hisen_kei 友人は学部四年になる直前の研究室配属時に, 物理定数をまるで覚えていなかったことをかなり強く指摘されたと聞きました. オーダーくらいも分からなくて今までどう物理やってたのと

@phasetr うっ耳が痛い… 卒論ではじめて, こういう物理の考え方を使うのちゃんと腰を据えて取り組んだという (学際的な学科の弊害)

川畑さんの Planck 定数話

どこか探し出せなかったのだが, 田崎さんの日々の雑感で川畑先生が講演中に Planck 定数の名前を忘れて冷や汗を書いたが, そのときにも Planck 定数の値だけはきっちり覚えていた, というエピソードがあった. 物理に限らないが, 理工学では関係する現象に関する色々な数値はきちんと覚えていないと話にならないという感覚は多分共通と思う.

MM2P あたりの話を聞いていても, 自分がやっている物質に関する情報, 特に実験で実際に触る数値はよく覚えている. 色々な物質の吸収スペクトルとか何とかのことだが.

電気抵抗率の Wikipedia

話は少しずれるが, 電気抵抗率について値を見ておきたい. とりあえず Wikipedia を参考にしよう. 当然物質ごとに違うし, 超伝導を考えれば分かるように温度でも大きく変わるが, 上記ページ内では上から下までで大体 25 桁違う. 大統一理論関係の定数のオーダー比較をすると, Planck 定数と万有引力定数のオーダーは大体 50 桁違うので上には上がいるが, 同じ物理量でも物質によって 25 桁の差があるというのはかなり大きな方ではないかと思う. うるさいことを言えば, 質量なども素粒子から天体まで入れれば相当の幅があるが, 電気抵抗率という身近な値で 25 桁が出てくるのはなかなか凄いことだろう.

理科年表を買おう

オーダーを見ているだけでも楽しい (と思える人はいる) ので, 暇なときには理科年表でも見ているくらいの癖をつけるといいかもしれない. 全く関係無いが, 高校 3 年のとき, ふと思いたって理科年表を買って毎日携帯していたことを想起した.

あの頃, 理科年表 (を持ち歩くの) が猛烈に格好いいと思ったのでそうしたのだが, 今思っても最高にクールな判断だった. 理科年表, 読んで楽しくインテリアとしても最高にクールなので一家に一冊常備したい. 携帯版と机上版とあるので両方お勧めしていきたい. 気になるあの子のデータがいつでも手元にあるという感動を君に.

ラベル

物理, 理科年表

原子結合の変化が可視化できたらしいがやはり数学がいいという結論になった

本文

「原子結合の変化」可視化に成功とのこと. 画像がリンク先にあるので見に行ってもらいたいのだが, 確かに何か面白そう.

科学者たちはこれまで, 分子の構造を推測することしかできなかった. それが原子間力顕微鏡 (AFM) を使うことで, 有機化合物を構成する炭素原子 26 個と水素原子 14 個をつなぐ原子結合のひとつひとつがはっきりと見えるようになった. 結合の長さは, 数ミリメートルの 1/1,000 万だ.

コメント

原子 1 個 1 個の制御もできるようになっているはずだし, 分子の構造くらい見えるようになっていてもおかしくない, と思わないでもないのだが, 原子の制御をきちんとできるのは固体か, と思えば分子の構造を見るというのはまた違う話か, とも思う. しかしこれグラフェンだし, 今まで何が難しかったのだろう.

何だかんだで物理学科だったわりにはこういう話さっぱりだ. 特に実験の方の話, あまりよく分からない. 超クールな実験の話は聞いていて格好いいと思ったりはするが, なかなか触れる機会もない. 何かこう, お金をかけて一所懸命すごいのを作って, みたいな話よりも, 斬新なアイデアでスパっと現象を切り出すみたいなのが格好いいと思うのだが, そういう話, 最近はあるのだろうか, とかいうことも思う.

あとこの実験, 「想定外の物質が 3 種類」でどうのという話があるようだが, その辺は何が面白いという話なのだろう. 根本的にこの論文は何が面白い論文なのかよく分からない. 「論文は 5 月 30 日付けで, 『 Science 』誌のサイトに公開されている」ということだがどこにあるのか分からない. あと論文自体は無料で読めるのだろうか.

実験業界の話, さっぱり分からなくて悲しみに包まれた. 実験, こう無駄に機材とか色々いるし, やはり理論というか数学はいいな, という結論にも達した. 物理などの理論だと結局自然と合わないといけないし, その辺どうにもならないが, 数学なら基本それ自体で正しいかどうかけりがつくし, とても気分がいい. 何かを確かめるのにも自然科学的な意味での実験はしなくてもいいし, 手際が悪い方の市民にはありがたい, というところで数学礼賛をして終わる.

ラベル

数学, 物理, 化学, 有機化学

Nambu-Goldstone ボソンに関する Watanabe-Murayama 論文の著者らによる日本語解説が出た

本文

以前 Nambu-Goldstone ボソンに関する Watanabe-Murayama 論文が話題になったが, その日本語解説が今月号の物理学会誌に載ったとのこと. 文章自体はここから落とせるようなので, 興味がある向きは確保されたい. 相転移と自発的対称性の破れに関して簡単な解説もあるので, そのあたりに興味がある向きは眺めておくといいかもしれない.

あと最後になるが, 正直なところこの話, 私はさっぱり分からないのでつらい.

ラベル

物理, 相転移, 自発的対称性の破れ

ケットベクトルとは何か--量子系の状態概念の数理

Twitterでのコメントをまとめておく. 本題は後半の方.

状態概念

物理と数学と工学と: 壮絶なコミュニケーションギャップ

2015-01-24 arXivの謎論文紹介: Quantum voting and violation of Arrow's Impossibility Theorem

  • 物理, 量子力学, 政治

意味がわからないが読んでみたい. これがquant-phに上がっているというのも魔界っぽくてすごい.

2015-01-30 田崎さんが繰り込みに関して連続ツイートしていたので備忘録としてまとめた

  • 物理, 繰り込み, 場の量子論, 統計力学, 普遍性

田崎さんが繰り込みに関して連続ツイートしていたので備忘録としてまとめる.

田崎さんのPDF, 学生の頃にダウンロードして一度は読んだが, 内容を全く覚えていなくてつらい.

2015-02-02 今や流体力学を Navier-Stokes まで計算機で速習できるオンラインコースウェアがあるという

  • 数学, 物理, 流体力学, プログラミング, 数値計算, 数値実験, python

流体に限らず目で見えるタイプの現象については, 方程式の妥当性だとかそういうのをある程度数値実験で検証するとか そういうのがあるとすごい楽しそう.

すぐに何かできるわけではないが備忘録として記録しておきたい.

追記

上のリンクが死んでいたので, おそらく本質的に同じであろうGithubのリポジトリのリンクを張っておく.

2015-02-12 真空中の光の群速度は一定ではないという研究が出たらしいので

  • 物理, 相対論, 群速度

あとで論文も読んでみたいが無料で読めるようになっているだろうか. こういうとき本当に市井の身がつらい.

追記: プレプリントのリンクを教えてもらった.

2015-02-24 バークレーでの村山斉さんの量子力学の講義録が充実しているそうなので

何かあったら参考にしたい. あと次のツイートもまとめておこう.

取り組みとして参考にしたい.

2015-02-28 Witten京都賞受賞時の座談会の記録が公開されたそうなので

  • 数学, 物理, 数理物理, Witten, 京都賞, 大栗博司, インタビュー

PDFはあとで読もう.

2015-03-29 警察官とのやり取りの記録が面白かったので

  • 推理, 物理学者

何か面白かったので記録. こういうのを見ると普遍市民Im_Weltkriege師はすごいなと改めて思う.

2015-04-21 清水さんが thermal pure quantum formulation での統計力学の本を出すらしいので

thermal pure quantum formulationの統計力学は気になる. 読みたい.

2015-04-29 原-田崎の『相転移と臨界現象の数理』が2015/6にようやく発売になるらしいので

ようやく出るのか, という感じだ. Togetterでも査読の宣伝をしたが, 市民なので, 実際に東大で東大の助教さんやポスドク, 院生の方ともちょっとしたセミナー形式で査読をしたりして, そうした形でも査読に貢献した.

査読に名前(本名)を載せてくれるらしいので, 学術にも貢献するニコマスPとして活動をさらに広げ, 積極的に数学や物理をプロデュースしていきたい.

2015-05-10 記事紹介: 液体・液体相転移

いくつか引用しよう.

単一成分の液体が複数の液体相を有し、その液体相間を一次転移する現象を液体・液体転移と言う。これまで、炭素や水で見られるように単一成分からなる物質であっても、複数の結晶相を持つ結晶多形を示すことはよく知られていたが、無秩序相である気体や液体には1つの相しか存在しないと考えられてきた。

今回の研究では、時分割小角・広角X線散乱法を用いて、転移の過渡的過程における構造変化を一分子スケールからメゾスコピックスケールに渡る範囲で追跡した。その結果、液体・液体転移の進行に伴って、数個程度の分子で構成されるクラスターの数密度が急激に増加し、その変化が理論的に予測された秩序変数の時間発展方程式で記述できることが分かった。

また、このクラスターの協同的形成により駆動される秩序変数の空間揺らぎも観察され、田中肇教授らの研究グループが以前に行った位相差顕微鏡観察の結果とよく一致することが明らかになった。

これらの結果から、このクラスターが液体・液体転移を支配する隠れた構造ユニット(局所安定構造と命名)であり、分子性液体における液体・液体転移の存在が明確な形で示された。

相転移の物理, もっときちんとやらないといけないのだがさぼりまくっている.

コメント

この先生のセミナーは4月か5月ごろに聞きましたが、内容自体はそんなに難しくなかったですよ。今までは、動径分布関数だけを使って解析していたので、液体の構造が十分見えなかったのだけれども、それに、たしかに水素結合の角度分布という情報を加えることで、より細かい区別ができて、上の相の違いがわかるようになって、さらにその相転移に構造変化のステップも見られたということでした。要旨だけをのべればこんな内容でしたね。

相転移の物理はどうしても物理を中心に学ぶと混沌してきて終わりが見えないんですよね。かといって数学的に完備しているかというとそこもいまいちよくわからない。

2015-05-24 Togetter紹介: 変分法でオイラー・ラグランジュ方程式を出すときに端点の条件は必要か?

このTogetterに関連した中村さんのブログポストはこれ. いま時間が取れないが, とりあえず記録だけして後でじっくり読みたい.

2015-05-27 メモ: 名大谷村省吾さんのPDF『ハミルトン力学の幾何学的定式化と幾何学的量子化・変形量子化』

PDFのタイトルは『ハミルトン力学の幾何学的定式化と幾何学的量子化・変形量子化』だった. 正準量子化はともかく, 幾何的量子化・変形量子化は名前しか知らないので適当な時に眺めたい. メモを残しておこう.

2015-06-29 ツイート紹介, メモ: 日本物理学会誌「現代物理のキーワード」が無料で公開されているそうなので

詳しく中身を見ていないがとりあえずメモ.

2015-07-17 ノーベル物理学賞受賞者の南部陽一郎さんが亡くなったそうなので南部さん情報をまとめてみた

【速報 ノーベル物理学賞受賞の南部陽一郎さん死去】 物質を構成する「素粒子」の理論的な研究に取り組み、7年前の平成20年、ノーベル物理学賞を受賞したアメリカ・シカゴ大学名誉教授の南部陽一郎さんが今月5日、急性心筋梗塞のため亡くなりました。94歳でした。

— NHK科学文化部 (@nhk_kabun) 2015, 7月 17

さすがに衝撃を受けた. 自分用の備忘録も込めて南部さんの業績や仕事を簡単にまとめておこう.

世間的にはノーベル賞を取ったことが一躍有名になった人だろう. 私にとっては相転移関係, 自発的対称性の破れがやはり印象深い.

ノーベル賞受賞時, 日本人が 3 人受賞という話になったが, アメリカに帰化しているので厳密には「日本人」ではない. 1960 年代に量子色力学と自発的対称性の破れの分野において先駆的な研究をしていたり, 弦理論 (string theory) の創始者の 1 人でもある. 現在の素粒子物理学の基礎に猛烈に貢献していていろいろな領域に大きく貢献していて凄まじい.

もちろん自発的対称性の破れに関係して小林・益川とともに2008年にノーベル物理学賞を受賞している.

1945年, 終戦後に東京帝大で朝永グループに参加している. 朝永は Klein-Nishina で有名な仁科芳雄の下にいて, 仁科芳雄はボーアを中心とするコペンハーゲン学派にいた.

1950年, 朝永振一郎の推薦で早川幸男, 山口嘉夫, 西島和彦, 中野董夫とともに大阪市立大学理工学部に理論物理学のグループを立ち上げた. 早川幸男というとTwitterにもいる早川尚男さんのお父上だ. 西島和彦というと相対論的量子力学の本が勝手に印象深い: 読んでいないのだが. 大阪市立大ではベーテ=サルピーター(=南部)方程式の導出, K中間子の対発生の研究などの成果を挙げている. ベーテ=サルピーター方程式というと, 雑誌の『数理科学』か何かで英略のBSE(Bethe–Salpeter equation)が牛のBSEのときに「このBSEはもちろんいま話題の牛のBSEではない」という注があったというどうでもいいことを良く覚えている. あまり歴史的経緯などを知らなかったのだが, Wikipediaによると次のような経緯のようだ.

The equation was actually first published in 1950 at the end of a paper by Yoichiro Nambu, but without derivation.

南部さんやばい.

1952年, 再び朝永の推薦を受けて木下東一郎とともにプリンストン高等研究所に赴任する. 木下東一郎というと相対論的量子電気力学の摂動計算というイメージがあるが, 他にどんなことをしているのだろう. 1954年にゴールドバーガーの誘いを受けてシカゴ大学の核物理研究所に着任したそうだが, 同研究所には小柴昌俊らもいたとのこと. 羨ましい.

シカゴ大ではグリーン関数の表示法を研究したそうだが, 表示法の研究というのは何をしたのだろう.

もちろん(当時)どんな意味・意義があったのかも知りたいし, いま全く知らないのだが.

そして1970年にアメリカ合衆国に帰化.

1960年代にはクォークが持つ自由度としてのカラーチャージの導入, 自発的対称性の破れなど素粒子の強い相互作用において先駆的な研究をしている. 自発的対称性の破れに関しては素粒子模型での研究がやはり難しくて, 何か調べやすいモデルを探していたらIsing, Heisenbergなどのスピン系が調べやすく直観も効きやすいため強磁性の研究の隆盛が起きたと聞いている. 私はこの強磁性相転移の流れを組んで数理物理している.

1970年にハドロンの性質を記述する模型として弦理論(ひも理論)を提案. 弦理論はハドロンの理論としては問題点があった. 一方でゲージ理論としての量子色力学が確立していった時期でもあり, 多くの研究者は弦理論から離れていった. 弦理論はジョン・シュワルツ達が重力を含む統一理論として研究が続けられて, 今の超弦理論の流れに繋がっている.

この辺は大栗さんの『大栗先生の超弦理論入門』にも書いてあった気がする. あとで読み直そう.

他にもまた最近話題になったヒッグス機構も南部さんのアイデアが始まりとか, クォークに連なる「西島-ゲルマンの公式」も南部さんが西島さんに与えたヒントが基礎とか何とかいう話だし, もうだいたい意味がわからない. 「素粒子理論の10年後の姿を見たいなら南部の論文を読め」とか言われていたそうだが, 改めて凄まじさを感じる.

いろいろ見ていたら面白そうな話があった. 次のURLから引用する.

そこで、一般の人にも南部さんの「すごさ」がわかるのは、インタビューに答えて、何気なくもらした言葉かも知れません。南部はアメリカ在住五〇年ですか ら、当然英語は完壁なので、「何語で考えるのですか」という質問に対し、「だいたい数式で考えます」と答えています。また、「私は計算は、だいたい頭の申 でやります」とも答えています。計算といっても勘定書の計算ではなく、理論物理の計算です。ギリシャ文字の数式を移項したり微分したりの計算ですが、紙何 枚にわたる数式が、頭の中に完全に正確に見えていなければ出来ない計算です。紙に書いて計算するより、その方がはるかに速いし、先が見えるからでしょう。 将棋の名人も同じでしょうが、常人のとても真似できない精神集中の結果と思います。 精神集中というと、沈思黙考、自己沈潜の人を想像しますが、仕事から見える南部の人柄は違います。大物理学者を、自己の思考にだけ集中して一挙に真理に 達する湯川秀樹タイプと、最高の武器を手に入れ、つねに最先端での計算を絶やさない朝永振一郎タイプに分けると、南部は基本的には朝永タイプです。しか し、自分の思考を確信し、大胆なことを考える点は、湯川さんの影響でしょう。

あと次のページもあった. 全文引用したい勢いで面白かったのでぜひ読んでほしい.

私も研究したいし, こんな研究を見せてくれる友達もたくさんほしい. 数学も物理もただただ楽しい.

追記

大栗さんによる南部さんの記事が出ている. あと特別栄誉教授になっていた阪大からもニュースが出ている.

2015-07-31 記事紹介: 雷雲の中で反物質が見つかったとかいうニュース

何ですと, という感じで 観測から6年後にようやく「反物質(アンチマター)」が雷雲の中で発見 というニュースが.

いくつか引用したい.

そんな反物質が、なんと雷雲の中で検知されたことが明らかになりました。

ニューハンプシャー大学で大気物理学者として働くジョセフ・ドワイヤー博士が、雷雲の中で予期せず反物質を検知していたことを明かしています。

よく知らないのだが大気物理の人がどれだけ反物質関係の物理に強いのか, その辺からまず気になる.

そして懐疑的なコメント.

そして観測から6年後の2015年になってようやく反物質が存在していたかもしれないことが明らかになったわけですが、CERNの粒子物理学者であるジャスパー・カークビー博士は、ドワイヤー博士の検知したデータには「確かに信号がある」としながらも、「ドワイヤー博士の解釈を裏付けるための説得力が足りていない」とコメントしています。より具体的に言うと、ドワイヤー博士の研究チームが推測した陽電子雲のサイズ推測があいまいすぎる、とのことです。

面白いのは面白いのでどんどんやってほしい.

2015-08-07 イベント宣伝協力: 2015-12-06 市民講座「物理と宇宙」12月6日@京大の案内

どうでもいいことだが, 佐々さんはいわゆる「ら抜き」言葉をよく使うなと前から思っている.

東京だったらぜひ行きたかったので無念.

2015-08-10 論文メモ: Hal Tasaki, 2015, Typicality of thermal equilibrium and thermalization in isolated macroscopic quantum systems

読みたい. 読んだらメルマガにアウトプットとして流そう.

2015-09-11 超高温超伝導と1960年代末にアシュクロフトとギンツブルクの議論

高温超伝導の理論, どのくらい確立しているのだろう. それがとても気になる. 低温であっても超伝導の勉強をまともにやっていないのでそれをきちんとやりたい.

やりたいことがたくさんある.

2015-09-12 大栗博司さん筋の情報: 役に立たない研究の効能

大栗博司さんが【役に立たない研究の効能】と題して文章を書いているので. いくつか印象的な部分を引用したい.

これは70年も昔の記事ですから、もっと最近の引用をしましょう。カリフォルニア工科大学の学長であるジャン=ルー・シャモーは、今年春に次のようなスピーチをしています。

「科学の研究が何をもたらすかを予め予測することはできないが、真のイノベーションは人々が自由な心と集中力を持って夢を見ることのできる環境から生まれることは確かである」

「一見役に立たないような知識の追求や好奇心を応援することは、わが国の利益になることであり、守り育てていかなければいけない」

数学や理論物理学などの研究を目的とする高等研究所の初代所長のフレクスナーが役に立たない研究の弁護をするのは当然と言えるかも知れませんが、土木工学を専攻とするシャモー学長がこれを奨励するのには説得力があります。しかも、これが米国の利益になるというのです。役に立たない研究の重要性を理解してもらう素地は十分にあるのだと思います。

いま東大にいる儀我先生の言葉を思い出した. Allen-Cahn方程式だかCahn–Hilliard方程式だか忘れたが, このCahnの方が非常に有名な工学者で,

Cahnが数学的に厳密な偏微分方程式の解析がとても大事だと言っている. 自分達数学者が言っていても説得力はないだろうが, 工学畑の人でもこういう人はいるし, しかも著名な研究者がこう言ってくれている. 私達もその期待に答える義務があるだろう.

みたいなことを言っていた.

私が所属するカリフォルニア工科大学は私立大学なので、財団や篤志家に基礎研究の意義を説明する機会がよくあります。その際に、

「このような研究が精神的な豊かさをもたらすことはわかるが、それが人々の生活をどのように改善することになるのかも知りたい」

ということをよく聞かれます。後者のような理由のほうが、幅広い支援を得やすいという親切なアドバイスなのだと思います。このようなときには、「興味の赴くままに研究しているのだ」と突き放すのではなく、質問の意図を真摯に受け止めて、基礎科学の普遍的価値について丁寧に説明するようにしています。

その辺の愚鈍な凡夫が言っているならともかく, 大栗さんレベルでこう言っている. 私も非常に反省した.

私はプロでもないしやりたいようにやるが, それでもこの辺, 意識はしたい.

2015-09-08 超弦理論が特許に繋がった話: Dブレーンが量子細線のジャンクションを通じて米国での特許へ

さすがにこれは驚く. 量子細線とかもちゃんとやってみたい.

量子細線というとちょっと違うが, 無限に長い 1 次元系の両端に違う温度の熱浴をつけて非平衡定常状態を実現させるとかそういう話を田崎先生がやっていて, 数理科学にそういう記事を書いていらっしゃった気がする.

遠い記憶になりつつあるのが悲しい.

2015-09-17 大栗さんのブログメモ: ストーニーブルック大学, サイモンズ物理学幾何学センターのワークショップでの講演動画

該当記事へのリンクはこれ. 講演の動画は次のリンクから見られる.

講演内容については次の通り.

講演を2つ依頼されたので、ひとつは、「エンタングルメント・エントロピーの不等式」と、「ホログラフィー原理で対応する重力理論のエネルギー条件」の関係について、昨年の12月に書いた論文の話を、もうひとつは、先月中山優さんと書いた重力理論の局所作用素に対応する共形場の理論の作用素を構成するという論文の話をしました。

大栗さん, やっていること手広い感ある.

2015-09-18 田崎さんの『熱力学: 現代的な視点』の本でCarnotの定理の証明の改良がなされたとのことなので

あとでしっかり読み込もう.

2015-10-11 2015年Nobel物理学賞梶田さんに対するNEWS小山さんの質問に対する私の感想と他の人の反応紹介

ニュースの小山さんがNobel物理学賞の梶田さんにした質問というのが話題になっている. 最後に私の感想をまとめるが, まずは他の人の反応をいくつか紹介したい. 例えば次の記事とか.

いろいろな反応があると思う. いくつか引用したい. まずはニュースから.

7日放送の番組「news every.」(日本テレビ系)で、NEWS・小山慶一郎の質問にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章教授が答えに詰まる場面があった。

この日の番組では、梶田教授が東京大学から中継で生出演し、スタジオからの質問に答えていった。

梶田教授は、子どものころ好きだったという鉄腕アトムの「お茶の水博士」について質問されたが、「申し訳ないんですけど、わたし、覚えてないんですよね」と飄々と答えるなど、リラックスした様子で質問に答えいた。

そんな中、小山が「今後ご自身の研究をどのように活かしていかれたいと思われていますか?」と質問した。

ところがこの質問には梶田教授が、目を大きく開いてきょとんとした表情に変わった。

梶田教授は質問の内容がわからないようで困惑しながら「え? どういう意味ですか?」と聞き返した。小山が再度質問を繰り返しても、教授は「活かしていくというと…ちょっと、申し訳ない。意味がわからないんですけども」と、恐縮した様子で答えていた。

小山は慌て始め、「どのように、こう、役立てていくということになるんでしょうかね?」と質問を言い換え、藤井貴彦アナウンサーが「基礎研究ですと難しいと思うのですが…」とフォローする。すると梶田教授は「役立たない…」と言い始め、スタジオの面々は「いやいやいや」の大合唱となった。

梶田教授はつづけて「…ぐらいに思っていたほうがよろしいんじゃないでしょうか」と和やかな表情で述べ、次の質問を受け付けていた。

小山さんへの否定的な意見として次のような記事がある.

明治大学という立派な大学を“模範卒業生”として修了しているわけですから、いくら物理学とは縁遠い文学部出身とはいえ、基礎物理学の分野での発見が直ちに工学的分野への応用にはつながらないことくらい、理解できると思うんですけど…

もし知らなかったとしても、「こういう質問をしたらどういう答えが返ってくるのか」といった想定問答をきちんと準備しておけば、こんな恥ずかしい事態にならなかったのでは?

梶田教授だってなんだか微妙な気分になったことでしょうし、お茶の間の皆さんから「やっぱジャニーズキャスターは無知だな…」って思われるのが、なんとも悔しいというか…

櫻井くんならこんなアホなことにはならなかったでしょうし、もっとちゃんと真面目に仕事して下さい!

梶田さんというか科学コミュニティへの否定的な意見はこれ.

「研究が何の役に立つのか」ってのは一般大衆からすればFAQなわけで、梶田先生も事前に回答を用意しておくべきだった。てか、事業仕分けで予算削減された教訓は活かされていないのか。 - iGCN のコメント / はてなブックマーク

一部には質問をした小山さんを責めるコメントも見られたけど、ニュースショー番組の司会者として、一般視聴者が知りたがっていることを質問するのは至極当然のことと思う。

先端科学技術の研究はそれ自体が一般大衆には分かりにくい未知の領域であり、さらにそれが基礎科学の研究テーマともなればわれわれ一般大衆は内容について想像のしようもない。

そうなると最もナイーブな質問として「それって何の役に立つの?」というのは、誰しもが訊ねたくなってしまうFAQ(Frequently Asked Question)と言えるのではないか。

NHKではなく民法の、一般視聴者向けのニュースショーに出演するのであれば、それは想定質問の一つとして事前に答えを用意しておくべきだったと思うのだ。

本当にFAQなのか, 何故FAQなのか, FAQになってしまったのかという経緯がまず気になっている. そもそも【役に立つ】の定義からしてかなり曖昧だ.

ちなみにこの記事, 蓮舫さんの「二位じゃダメなんでしょうか」を典型的な悪意ある誤解で解釈している. 全てきちんと見たわけではないが, スパコンの仕分けにはきちんと音声を聞いて経緯を追ったことがある. 少なくともスパコンの仕分けに対しての上の発言は, きちんと文脈を追うと

  • 2 位じゃダメなんでしょうか?
  • そんなことはないですよね?
  • その辺の理由はきちんと準備していますよね?
  • それを聞かせてもらえればスパコンの予算削減は食い止められますよ!

という救いの手だった.

それはともかく引用を続ける.

一流の科学者は研究だけに専念していればいいと言う意見もあるかもしれない。それはごもっともな意見だけど、ならば周りの広報担当者などが適切なアドバイスをしておくべきだったと思うのだ。

東京大学宇宙線研究所, そもそも広報担当者が存在するのだろうか. そんな人を雇う資金の余裕があるのだろうか. それがない状況ではただの難癖だろう.

科学コミュニケーションについては、日本科学未来館と言う施設がお台場にあり*1、そこには多数の科学コミュニケーターが勤務されている。

彼らの地道な活動が日本国民の科学知識の底上げに繋がっている。ここで科学に興味を持ったこども達の中から、未来のノーベル賞学者が生まれるかもしれない。

いつも思うが他人任せ過ぎるだろう. 別に自然科学に限らず, 各家庭なり何なりで 各人ができる範囲でいろいろやるしかないとずっと思っている. これは学生時代に江沢先生の『理科が危ない』を読んでからずっと思っていることだ.

ここまで長かったが私の感想をまとめておく.

モーズリーの話については改めて後でまとめて調べてメルマガにしよう.

あと上のコメントに対して次のような反応もあった.

やはり最後は人とお金の話になる. マネタイズは真剣に取り組みたい.

2015-10-27 文献紹介: 中西㐮『余次元は物理として意味があるだろうか』

中西㐮さんの余次元は物理として意味があるだろうかというPDFを発見した. 超弦理論に批判的な文章をどこかで見たことがある.

読んで動画にしよう.

2015-11-02 変分と最小作用の原理: いろぶつ先生のページ紹介

変分の勉強きちんとしたい. 新規に立ち上げる(予定)の数学・物理コミュニティの宣伝も兼ねた動画教材でその辺の紹介はしていく予定だ. そういう強制力をつけて勉強していく.

2015-11-12 ツイート・講演紹介: 米倉和也「ラグランジアンの無い(かも知れない)場の理論について」

素頓狂な感想だが, こんなところでWightman公理系という単語を見るとは思わなかった.

Lagrangian, いまだによくわかっていないし, 解析力学もいまだによくわからない.

2015-12-17 イベント紹介: 2016-03-07~03-08 第4回統計物理学懇談会のお知らせ, 学習院

今の時点でわかっている講演者も突っ込んでおこう.

講演者  宇田川 将文(学習院大物理)  江澤 雅彦(東大物理工学)  桑原知剛(東大物理)  沙川 貴大(東大物理工学)  田島裕康(理研)  中村 壮伸(東北大 AIMR)  西田 祐介(東工大物理)  畠山 哲央(東大総合文化)  平野 哲文(上智大理工)  森前 智行(群馬大理工)

平日なので行きたくても行けない. つらい.

沙川さんの研究室のページにリンクがあったので 飛んでみたが, 写真, めっちゃフォトショ入っている印象がある.

あと沙川さん, 総合文化だか何かから物工に移ったのか. 沙川さんというと, 「相転移P」と自己紹介して通じることがわかっている. 以前Twitterにいた頃に少しお話したことがある程度なのだが 覚えられていて割と衝撃を受けた記憶がある.

2015-12-21 記事紹介: 佐藤文隆さんとPenroseの対談『われわれはフィジカルな世界をもっともっと知る必要がある』

せっかくなので読んでみた. ペンローズというと, 鴨浩靖さんがいつも『皇帝の新しい心』で(鴨さんの専門である) 計算論についてめちゃくちゃ言っていて, 読者のそこから来る誤解を何度となくとく羽目になって本当に迷惑しているという話をこれまた何度も目にしていて, 非常に印象が悪い.

いくつか気になるところを引用する.

他の例をあげてみると, 例えば, 鉄道もそうですね. 運行システムも駅の構造も, 日本の場合, じつに整然と作られている. 他の国では, プラットフォームと列車の乗車口の高さが違っていたりします.

どこだったか忘れたが, 東京都内でも激しくプラットフォームと列車の乗車口の高さが違っているところとかあった気がするし, プラットフォームと乗車口の幅が広くて落ちてしまいそうなところも時々ある.

物理学をやる場合, アーティスティックな価値に対するある種の感性が必要だというのは, 絶対的に確かです. 物理学, 数学を含めて, あらゆる科学に当てはまるのですが, それらに取り組む際には, 事物/ 事象のアーティスティックな価値に対して鋭敏な感受性をもっていなければなりません. 特に数学はそうですね. アーティスティックな感性がないと, 自分がやっていることが何かわからないという ことになってしまう. 純粋数学の場合には, これは一種の駆動力でもあります. 純粋数学は, いわば純粋数学がもたらす喜び, 主題の美的な質のために, やっているわけですから. しかし, 物理学の場合は少し違う. 物理学の場合は, 世界がどのように機能しているかを見出そうとしているわけですから, 必ずしもアーティスティックな価値が重要になるとは断言できない. まあ, 数学もその点では同じかもしれませんけれど.

「アーティスティックな価値」とか「ある種の感性」とか, 「未定義語」が多くて割と困る. 私は純粋な数学の人間でもなければ純粋な物理の人間でもないので仲間外れ感あって切ない.

佐藤-- 純粋数学の美というのは, 専門家でない人にとっても感得しうるものでしょうか? それとも,それを感知するには特別の訓練が必要なのでしょうか? ペンローズ-- 私としては, 専門の訓練を受けていないと, 理解するのはなかなか難しいだろうと思いますね. 数学においては特にそうです. 数学は一種の奥義と言っていいものですから, あるアスベクトを十全に理解し味わうには, 絶対にエキスバートである必要があります.

いつもつらいところではある. 何とかしたいとは思っているが.

佐藤 -- 純粋数学というのは極端なまでに専門化されている. しかし, 幾何学的な記号や幾何学的な美, 単純さといったものは, 一般の人々にも感得しうるものだ,と. ぺンローズ -- そうです. その点で, いつも大変皮肉だと思うことがあって, よく, 一般の人たちにこれこれの考えを説明してくれと頼まれるのですが, その際, できるだけ図をたくさん使ってくれ, 幾何学的な形で説明してくれと言われます. ところが, 数学を専攻する学生たちは, 幾何学的な捉え方が非常に苦手だという場合が往々にしてあるんですね. 計算をやっているほうがずっと楽らしい. 数学の専門家ですら, 幾何学を十全に理解し味わうのはたいそう難しいという場合が多いのです.

「幾何学的な単純さ」というのがよくわからないし, わかった気になれるだけの話がどれだけ意味があるのかもよくわかっていないが, 「わかった気になれた」錯覚がモチベーションを上げてくれるというのもわかる.

後半のペンローズの話, そもそもうまく図に描けない話もたくさんあるから自然と図から離れていって, そのうち本当によくわからなくなるのだとは思っている.

幾何, やはりもう少しきちんとやらねば駄目か.

重要なのは観念であって, それを表現する手段, 形ではないということですね. 数学ではもちろんそれは真です. よく, 数学は一つの言語であるというふうに言われますが, 私自身はそうは思わない. 確かにいくつかの記号は使うし, 特定のかたちでの操作も行なう. でも, それは本質的なことではない. 厳密にそれをどう書くかということは, まったく重要なことではない. 重要なのは, 基底にある概念です. 要するにあなたは, あらゆるものの基盤に存在するものを抽出されたわけだ. この中国古典の言葉と数学は近いところがあるように思えます.

中略

「松葉杖」という言葉が適切かもしれません. 松葉杖が必要なあいだは, 杖にすがって歩かなくてはならないが, いったん不要になったら. . . . . . . そういうことですね.

松葉杖という例えは面白い.

私はまた, ディラックから量子力学を学びました.

何て羨ましいんだ.

読んで面白かったのはこの辺り. 人によって面白いところは当然違うから興味がある人はぜひ読んでみてほしい.

やはりもう少し幾何はきちんと勉強しないと駄目かと改めて思っている.

2016-01-06 ツイート・文献紹介: 物理に寄り添って幾何が学べるいい本ないだろうか

hiroki_fさん, 物理と幾何まわりで面白そうなことをよく呟いているので参考にしている. 物理と幾何, もっときちんとやりたいのだが, 何で学ぶといいのかいまだにわかっていない. 物理にフォーカスした形でhirokif さんが言っているようなことを きっちり学べるいい本ないだろうか.

2016-01-11 時空の物理学と無限集合・連続体の数学に関する異常な質問があったようなので

何かご要望を頂いたので.

まず質問を見やすく編集して引用.

時空の物理学なんかで例えば因果集合アプローチでは時空は離散的で時空の事象の集合も有限であり得るような数理モデルさえ提案されていて寧ろ連続体の方が時空の近似になってきてます。こんな状況にあって無限集合や連続体の存在を扱う公理的集合論の妥当性は揺らいできているとは言えないでしょうか?

まず一言. この言説, 根本的に無価値であり, 物理と数学を半端にかじった愚者の妄言だ.

もちろん質問者は質問者で真摯に学んだ上でこう言っていて, 周囲に聞いたり議論できる人もおらず, 藁にもすがる思いの質問かもしれない. 私自身直接観測したことはない(そもそも物理学会行ったことない)が, 物理学会で有名なトンデモ講演奢をちょっと見に行こうと思ってひやかしで参加したら, 実はとても真摯な人で「私の言っていることは正しいでしょうか. 何かぜひコメントをお願いします」といういわば「素人」で, ひやかしで行った自分がいたたまれなくなった, という話を見かけたことがある.

そういうこともあるので一概にその行動や心意気を否定していいわけでもないが, それでも無価値は無価値と断じる.

その上でコメント.

寧ろ連続体の方が時空の近似になってきてます

とりあえずそれ, 素粒子レベル, 量子重力レベルの時空物理の話であって, 物理全体どころか時空物理の枠内で見てもそんな話ないのでは. 一分野の中でもローカルな話だけ捉えてこいつ何言ってんの, という感じしかしない. 物理全体の潮流というならむしろそういうの教えてほしい.

時空物理の中でもローカルな話題を牽強付会に持ってくる, 極めて視野の狭い無価値な言説だろう. 時空物理, 一般相対性理論を基礎にした古典論レベルの話もあるはずで, その中では当然連続時空が前提のはずだ. 量子重力レベルで時空の離散化, 有限化が確立したとしても, 物理の階層性, 普遍性の問題もあり, そんな綺麗に話が切れるわけがない.

あと, 時空物理の主流になっていたとしても, 杓子定規に言うなら有限な時空上では相転移が存在しないので, その辺どうけりをつけるつもりなのか問い詰めたい. Ising, Heisenberg, Hubbardなど離散化したモデルは物性でも使うし, Hubbardでは有限格子上での相転移を扱いすらするが, Ising, Heisenbergでの強磁性とHubbardでの強磁性の定義が違うし, その定義問題からして物理としては深刻な検討が必要だ.

全く関係ないが, 離散可積分系の話が 最近盛り上がっているとか何とかPaulが言っていた記憶がある.

あとkururu_goedelさんのコメントも.

言えないでしょ。そもそも物理学にそんな動きがなかったとしても、物理学から正当化されてしまうような、そんな生易しいことはやってませんよ集合論は。

数学で物理から正当化できることなどあったらそれこそ一大事だ. 物理から正当化できる数学の存在の証明とかスーパー難しいだろう. Banach-Tarski のような物理的に実現不可能という意味で異常な数学的手段を使って 直観からは全く理解できない結果を出すとかいう例もある. よく選択公理のせいにされるが, (現在の技術水準からして) 物理的に不可能ということと 数学の定理としての正しさとか全くの無関係だし.

まあ私はそうは思わないのだけれども。時空(?)が有限だとしても、無限で近似できるなら十分に利用価値があると思うので。

質問者の言う「連続体」と, 「連続体の物理」とかいう意味での連続体が微妙に混同されているような感じがする. 集合論詳しくないのでそれらを適当な意味で一致させていいのかが本当にわからない. あと有限と無限と離散と連続 (体) がぐちゃぐちゃに混じりあっている感じもする. どこにどうフォーカスあてていけばいいか全くわからないが, とりあえず有限と無限にフォーカスあてておく.

物理だと時間・空間ともに有限なところを無限で近似することは定石だ. 一般相対性理論で宇宙には大きさがある, みたいな話があるが, そんなことを取り出すまでもない.

学部の電磁気で「無限に長い棒」とか無茶なの平気で出てくる. 他にも量子力学や素粒子の散乱をやるとき, 粒子の衝突時刻を 0 として, 衝突させる粒子が無限遠から発射された時刻を時刻 $- \infty$, 無限遠に飛んでいく時刻を時刻 $\infty$ として近似した理論を作っている. またこの時点で空間の無限遠も導入している. 当然だが, 有限の距離と有限の時間で実験した結果と この無限の過去・未来と無限の距離を導入した理論を比較して研究している.

元の質問が意味不明すぎてどう答えればいいのかもわからず, 回答らしきものも内容と流れがめちゃくちゃだが, 面倒になってきたしとりあえずよしとする.

追記

やはりやたべさんからツッコミを頂いた.

「そうにゃんか〜」という感じでさっぱりわからないが, とりあえずメモだ.

追記 その 2

哲学方面から怒られているようだが, 確かにその方面の思慮が欠けているというか, そもそも何も知らない. お叱りはお叱りとして, もとのくるるさんの発言も引用していったん終わりにしよう.

集合論自体はひどく離散的な理論だと思っているからです。

これが何か面白かった. 意味はよくわからないが.

それはそれとして, 知らないところにまで踏み込んで適当なこと書くの, 本当によくないなと超反省している.

2016-01-13 幾何と物理に関するhiroki_fさんとの問答記録

幾何と幾何の物理への応用というあたり, 挫折しっぱなしなのでどこかの時点できちんと時間取りたい.

2016-01-15 重力波が検出されたとの噂? 2016-01-12での阪大教授橋本幸士さんのツイート紹介

真偽のほどは定かではないが, さすがにちょっとびっくりしたので. とりあえずメモだけしておこう.

2016-01-19 Togetter紹介:「垂直抗力は重力の反作用ではない」話

「垂直抗力は重力の反作用ではない」話 というtogetterがあったのでとりあえずメモ. その他上記ページであげられているページ.

あとでもっとしっかり読もう.

大事なのはこれ.

あとで動画作りたい.** 2016-01-29 イベント企画: 「中二病で学ぶ量子力学」

時間が取れるかはともかく, こういう無茶をぶっ込んでいけるのが専門家の長所だ. こういうのができない自分が情けない.

2016-02-03 相対論が絡んだときにいきなり虚数が出てきて気持ち悪い件をもっときちんと消化したい

相対論と電磁気がわからなすぎて適当につぶやいたらコメントもらえたので.

その1. ピカチュウさんから.

その2. hiroki_fさんからのコメント.

頼んだわけでもないのにその筋の人がいろいろコメントくれるとか凄過ぎる. 何ていい時代なんだ.

2016-02-05 記事紹介: 『ケルビンの「19世紀物理学の二つの暗雲」に関する誤解』

とても気になる.

またあとできちんと読み込もう. メルマガにも書くのだ.

2016-02-21 東大理学系研究科 佐野雅己教授, 玉井敬一さんによる「乱流発生の法則を発見:130年以上の未解決問題にブレークスルー」という話に関する記事とか批判とか私の感想とか

全くわからないがとりあえず気になったので眺める. まずは理学系研究科のサイトから引用しつつ.

『乱流発生の法則を発見:130年以上の未解決問題にブレークスルー — 東京大学 大学院理学系研究科・理学部』への感想

発表概要でまず「ちょっと待て」感のある記述を見つける.

流体の方程式が非線形性(注2)のため数学的に解けないこと

理学系研究科の広報でこれはどういうことだ, と「数学警察」的に気になって仕方ない. めっちゃ ill-defined 感溢れる「数学的に解けない」というこの文言, 工学系研究科とかならまだしも, よりによって東大の理学系研究科から出るのかと眩暈がした. 実際, これどういう意味で使ったのかを本当に教えてほしい.

出鼻を挫かれまくったが先に進もう.

実験ではそれよりもはるかに小さな速度(レイノルズ数で1000以下)で乱流になることが以前から知られていました。

流体力学に対する感覚が全くないので, レイノルズ数が 1000 以下というのがどんな感じなのかが全く掴めていない.

このことは他の形状の流れでも同様で、層流が乱流になるためには、一定以上の大きな振幅の外乱を加える必要があります。

振幅というのが何なのか, そこからしてわかっていないので, これ以上読んでも概要全くわからないな? 感に満ち満ちてきた.

でもとりあえず全部読もう.

現代のスーパーコンピューターをもってしても、乱流への遷移を調べるためには、大規模な計算を長時間行う必要があり、乱流遷移はシミュレーションが実験を凌駕できない現象の一つとなっています。

シミュレーションが実験を凌駕できる現象, どんなのがあるのだろう. 宇宙関係とか割と綺麗そう (「ノイズ」が少なそう) なので, うまくはまりそうな感じはある. むしろ実験が本当につらい分野だ.

これまでで最大級のチャネル実験装置を製作し

最大というのの比較対象がよくわからない. もう原論文読んだ方が早いのではないか感も出てきた.

上流で外乱を一様に与えて観測を行うとともに、統計的な法則を明らかにするための新たな解析方法を考案しました。

統計的な法則というのが何なのかよくわからない. 何か確率的な話なのこれ.

図1は、チャネル流の一部を可視化した図を示しており、一様な層流中に乱流スポットが見えます。

図をどう見ればいいのか全くわからない.

乱流スポットが空間を占める割合(乱流割合)を測定し、その空間依存性を調べること、さらには、測定場所を固定して乱流スポットが通過する時間間隔などを測定することで、相転移と類似した複数の現象を見いだしました。

これがさっきの統計的な法則というやつか?

注も読む.

注1 中略 しかし、その後、流体の運動を正しく記述しているはずの流体方程式(ナビエストークス方程式)は、外部から微小な摂動を加えても層流は層流のままで乱流にならず、乱流を発生させるためには、一定以上の大きさの外乱が必要なことが明らかとなりました。

この「しかし」が何にどうかかっているのかがわからない. 注入したインクのレイノルズ数が大きくても Navier-Stokes では「外部からの微小な摂動」という扱いにしかならなくて, Navier-Stokes がおかしいという話?

この辺の基本的っぽいところからして 流体を全く理解していないことがわかってしまいつらい.

任意の場合について解を得ることができ、一般的な解法が存在するが、方程式が非線形の場合には一般的な解法は存在しない。

これ, 最初の「数学的に解けない」というやつへの回答っぽい. 解法の定義自体がよくわからないが, 厳密解が出るか出ないかという話なのだろう. 厳密解の有無を「数学的に解ける」というのどうなのだろう. 「解析的に解く」という物理ジャーゴンがあるのは知っているし, そちらの方がいいのでは感もある.

注3 チャネル流 2枚の平行な平板の間の流体の流れのこと。本実験では、長さ6メートル、幅90センチメートル、ギャップ幅5ミリメートルというこれまでで最大級のチャネル流装置を作成した。

これもさっきの疑問に対する回答だった. でかいのどこなのだろう. 長さ 6 メートル, 幅 90 センチメートルというのが大きいのだろうか.

今までこの大きさでの研究がなかった理由とかも気になって仕方ない.

20世紀の後半から、非平衡状態の間の相転移が興味を持たれてきた。

非平衡相転移, 数学的にどういう定義なのだろう.

注6 レイノルズ数 流れを特徴付ける速度をU、長さをL,動粘性率をνとすると、レイノルズ数は、Re=UL/νで与えられる。流体の慣性力と粘性力の比を表す無次元のパラメーターである。

何というかこう, レイノルズ数に関する感覚が全くない.

注9 有向浸透現象(Directed Percolation) 有向浸透現象(Directed Percolation)とは、疫病の伝播や森林火災、砂山のなだれ、細胞内でのカルシウムの伝播など一見確率的な伝播現象を表す数理モデルが示す振る舞いを指します。

いきなり敬体に戻った.

岡山理科大学教授, あらきけいすけさんによる批判記事『130年の放置プレイ?タイトル盛り過ぎでしょう、佐野先生』への感想

Perfect_Insiderさん紹介の記事, 130年の放置プレイ?タイトル盛り過ぎでしょう、佐野先生について.

プレスリリースがかなりミスリーディングで「はでに盛った」解説の書き方になっているのだが*1、立場上センセーションを追いかけざるを得ない大学広報の意向を汲んでいるのではないかと邪推している。

タイトルだけ見るなら「130年以上の未解決問題」であり, 130 年放置プレイとか言っていないので, この批判記事の記事タイトル自体に悪意を感じる.

ただこのプレスリリースの中身を理解するには流体の研究を始めた大学院生程度の知識は必要だし

これはそうだろう.

そうであればこそ大学院に入りそうなくらいの学生向けのカウンター情報は必要だろう。

というわけで読み進める.

流体の運動の研究をややこしくしているのは何も「非線形性」だけではなくて、流体の流れる場所の境界の形状や温度などの「境界条件」によってもコロコロ変わるからだ。流体の絡んでくる自然現象は多様であり、それだけに「境界条件」も「方程式の解」も多様である。

ふだん $\mathbb{R^n}$ でしか考えないので, 境界条件に関する感覚が著しく乏しいのがつらい.

今回の研究で「法則規則性」は見つかって理論物理学者は喜びそうだが、工学的には「予測」「制御」への応用は難しいと思う。

一足飛びの工学的応用, 誰も期待していないのでは感があって, これはさすがにただの難癖では.

乱流の発生は130年間未解決だったか?というと、そうではない。例えば気象現象の基礎となる熱対流による乱流を例に取ると、線形安定性の解析は1960年代の Chandrasekhar の教科書3や、カオス研究の紹介ではおやくそくの題材の Lorenz アトラクタを出す Lorenz モデル4、倍周期分岐 (period-doubling bifurcation) による乱流への遷移5など、1980年代くらいのカオス研究や数値シミュレーション研究の勃興期くらいから、かなりの基礎的なことが実験的にもシミュレーション的にも分かっている(佐野先生も液晶を使って対流のパターンとかの実験をやってらしたはず)6。

「かなり基礎的なことが実験的にもシミュレーション的にもわかっている」というの, 少なくとも理論的にはわかっていないのだろうし, とうぜん根本解決はできていないのだろうから, 未解決というのに間違いはないのでは.

その一方で、壁に挟まれた領域の流れやパイプの中の流れの不安定化の問題は亜臨界分岐 (subcritical bifurcation) であり、理論的にかなりハードであることが知られていた。

今は実験 (とシミュレーション) の話をしているのではなかったか. 話がごちゃごちゃ飛び過ぎていて何が言いたいのかわからない.

まずはじめに「揺さぶり」を記述する方程式が線形だけれども非エルミートになるし(量子力学の固有値問題がなんとうらやましいことか)、さらには分岐の後の解は(乱流まで含めて)数値計算で求めるしかない。

エルミートにするなら 複素数値関数で考えないといけないはずだが, 「壁に挟まれた領域の流れやパイプの中の流れの不安定化」は 2 次元の系というか, 複素数の世界で記述できると思っていいのだろうか.

この辺は大学院レベルの流体力学の基本的なことだから 説明ないのだろうと思っているが, 何にせよ私はよくわからない.

あと量子力学の固有値問題を引き合いに出している理由は全くわからなかった. ちょっとずれるが, 量子力学というか量子統計というか場の理論といえばいいか微妙だが, 学部 3 年でもやる共鳴の話をやるとき, 「準安定状態」の議論をするために非自己共役作用素のスペクトル解析に叩き落としたりする.

相互作用を入れたあとに入れる前の固有値が実数から虚数になるので, その動きを追いかけるために解析接続的なことをするのだが, そこでスペクトルを回転させる処理を入れて調べる. そこで自己共役作用素が非自己共役作用素に変換される.

今回の研究の「研究者向けの目玉」は流れが速くなるにつれて乱流の振るまいがどのように変化するかを丁寧に整理していることなのだ。「乱流の変化」を整理したら「乱流の発生」の振る舞いに臨界現象との類似が見つかったということ。

いままではある意味で「何が問題なのかわからない」という出来の悪い学生のような状態であったところに、「directed percolation で記述できるダイナミクスは何か」という研究目標ができたのだ。もちろんこれが理解のすべてではないと思う。

ポイントポイントではまあそれなりに感じはわかるが, 全体的に何を言いたいのかいまひとつ判然としない批判記事だったという感じがある.

2016-02-24 書籍紹介: 大井 喜久夫, 大井 みさほ, 鈴木 康平, いたや さとし『自転車のなぜ 物理のキホン!』

めちゃくちゃ難しそうだがどう扱っているのかはとても気になる.

とりあえずはメモ. それにしても高い. 値段, もう少し何とかならないか. この価格では子供に買い与えるの大変だろう.

2016-03-13 早川尚男「流れる砂と流れない砂」 : 京大基礎物理研究所の早川尚男さんの品川セミナー動画

面白い. 勉強してKindleとかに出してみたい小ネタもできた. 頑張ってコンテンツ作るのだ.

2016-03-16 ワニの胆汁が毒?

裏を取れるのは取った方がもちろんいいし, 気にした方がいいのはいいが, それ以上に鰐とか日本で普段見かける対象ではないので, ちょっと面白かったということでメモ.

2016-03-17 SimonsとYangのゲージ場・ファイバー束を見出したときの回想動画

見たい. とりあえずメモ.

2016-03-24 ツイート紹介・記事紹介: 冨田博之, 『ケルビンの「19世紀物理学の二つの暗雲」に関する誤解』, 京都大学

「お寺で宇宙学」というのがまず謎だが面白そうだから何はともあれメモ.

2016-04-04 谷本溶さんによる理論物理学者の衝撃発言と理論物理の本の衝撃的な記述

先輩でもある谷本溶さんの悲しみに満ちたツイート.

前も書いたし物理ではないが, 学部二年の実験のとき, 工学系の教官にレポートの常微分方程式の解き方を見られて 「(はじめに解を$x = A \sin \ometa t$とするなどと書かずにやるのは)数学的にいい加減な書き方だね」とか言われて衝撃を受けたことはいまでも覚えている.

その程度でいい加減という扱いになることが衝撃的だし, そして工学の人間にその程度で数学的にいい加減とか言われるの, 心外以上の何者でもない.

その当時, 私も物理学科だったのでそんなに強く言えたものでもないが, 学部一年のときに必修で実数論, 集合・位相やったし, 二年の常微分方程式の講義も (応用物理学科にいる) 本当に数学として偏微分方程式を研究している教官による厳密な常微分方程式の講義を受けていたし, それで工学の人間にそんなこと言われないといけないの, やるなら解の存在とか一意性からだろう, とかいろいろなことを思った記憶がある.

ふだん「物理で数学的に厳密じゃないのがいやだ」とか言っている学生に 「数学やりたければ数学科に行け」と言っているような性質だが, あれは受け入れられなかった.

そんなことを思い出すツイートだった.

2016-04-06 朝永振一郎教授の「思い出ばなし」

このページだ. あとできちんと全部読みたいが, 割とつらい話ばかりっぽい. 冒頭からしてすごい.

学長をやめて、このごろはいくらかひまである。しかし、どうせまたいろいろ用事を持ち込まれるにちがいないから、そうなる前に昔の思い出などを綴っておこう。 古めかしい煉瓦建築の入口を入ると、灰色に汚れたしっくい壁の暗い廊下に、ほこりくさい空気がよどんでいる。この陰気で沈滞したようなふんいきが京都大学の物理科に入ったときの第一印象であった。 今から思い出してみても、学生時代に楽しかったこと、生きがいを感じたことなど、一つもなかった。一つには健康がすぐれなかったせいもあって、何かわけのわからぬ微熱が続いたり、不眠になやまされたり、冬は必らず二度も三度も風邪をひき、胃弱、ノイローゼ、神経痛、そんなぱっとしない状態がいつまでもつづいた。一方講義はちんぷ平凡に思われ、物理学というものに何となくあこがれのようなものを感じていただけに、それは大変な幻滅であった。

とりあえずあとこれ.

数学演習というのは、毎週十題ぐらいの宿題が出て、次の週に黒板の所で解いてみせるものだが、大いそぎで黒板に出て、やさしい問題に手をつけてしまわないと、乗物にのってまごまごしている間に席をとられてしまうように、あとは手ごわい問題ばかりが残ってしまうものである。しかしすばやく席をとろうなどとすると、胸はどきどきするし、それは何とも浅ましいことのように思われた。そこでいっそのこと、一番むつかしい問題を一つか二つだけやっておくという手を使うことにした。そうしておけば、そんな問題にあまり手をつける者はないので、そうあわてないですむことになる。やってみると、いくらむつかしくても、一題か二題だけに集中して一週間の時間をかければ、何とか解けることがわかった。何日も何日も考えつづけて、むつかしい問題が解けたときのよろこびは、たとい答のすでに出ている練習問題であっても、それは純粋に学問的な創造のよろこびに近い。 岡先生にしても秋月先生にしても、今ではレッキとした大数学者だが、当時はまだ大学を出たての若僧で、われわれにとっては、兄貴のように親しみやすかった。それに、すでに智的好奇心も探究意慾もかれてしまったような老先生の中で、この二人はいかにも若々しく、情熱を研究にささげているらしい空気が学生に伝わってくるように思われた。若い先生というものは、学生にわからせるというよりも、自身の興味に溺れて、話が脱線することもよくあるものだが、そういうとき、わからぬままにかえって好奇心をそそられ数学の新しい動向の片鱗がみえたような気がして、今まで習った古くさいものとくらべて、それは何とも魅力あるもののように感じられるのであった。

京大の数学演習, 修羅の道と聞いている. いま東大工学部にいる, 統計力学の若きスーパースター沙川さんですら, 問題演習の解答を黒板に書いたときに担当の人に散々言われただか何かで, 「自分には数学絶対無理だ」とか思わせたと聞いている. 京大やばい.

あと気になるのはやはりここ.

若い先生というものは、学生にわからせるというよりも、自身の興味に溺れて、話が脱線することもよくあるものだが、そういうとき、わからぬままにかえって好奇心をそそられ数学の新しい動向の片鱗がみえたような気がして、今まで習った古くさいものとくらべて、それは何とも魅力あるもののように感じられるのであった。

これをやりたい. 頑張ろう.

2016-05-16 Maxwellの悪魔に関する学習院の田崎晴明さんの解説

よくわからないがとりあえずメモしておく. 全然わからないのだがこの(実験)結果, 平衡系と解釈できるのだろうか. 沙川さんすごいな, と陳腐な感想だけ残しておく.

2016-06-02 動画紹介: The Magnus effect. No Spin v Spin

よくわからないが動画の威力を強く感じる. 動画とかマンガ, もっとたくさん使いたい.

2016-06-11 アマチュア向け場の量子論の本にはじまる「本書は読者の予備知識は仮定しない云々」という話

元のツイート(の1つ?)が非公開になっていて読めなかったがとりあえず.

発端っぽいツイートの一つ.

才能のない還暦過ぎの感想です。 RyderのQuantum Field Theoryを読み進めたのですが、だんだん式を追うのが難しくなり、p224の散乱振幅の計算でダウンしてしまいました。 そこで試しに購入したのがこの本です。わかりやすくしようと工夫があります。手続きをダイアグラム風に示したり、手書きの図を添えたり、言葉と式を交えて基礎的なレベルから場の量子論の基本概念を説明しようとしています。専門的な本はそれこそ数多く存在するので、こういった非専門家のための本の存在意義はあると思います。しかし、Landauの「場の古典論」のような読みながら興奮することがありません。(才能のない者のぼやきですが) 式のジャングルで遭難し、木々の観察も森の構造も理解できない足腰の弱い者には、「場の量子論」のための数学といった入門書が望まれます。そのうえで式の意味、概念の必然性、歴史的な理論の発展史などが初心者向けに書かれるとうれしいのですが。

「興奮」と非専門家向けの記述がどれほど両立するのかよくわからないが, 恐ろしく挑戦的な要求だ. とりあえず要望はあるらしいし, 自分も地道に世に問うていこう.

2016-06-20 記事紹介: 京大, 重力物理学の国際拠点 米欧大学と相互交流

新聞はすぐリンクが死ぬので, あとでも読めるよう読めるところは(全文)引用しておく.

京大、重力物理学の国際拠点 米欧大学と相互交流

京都大学基礎物理学研究所は、重力に関連する理論物理を幅広く研究する「重力物理学研究センター」を4月に発足する。宇宙の誕生直後に発生した重力波や、重力を含めた様々な力を統合する超弦理論(超ひも理論)などを研究する。海外の研究機関と連携し、国際的な研究拠点とする。

新センターは、同所の「重力波物理学研究センター」を改組して立ち上げる。専任教員2人を含む7~8人で発足。米…

2016-06-27 メモ: 田崎さんの『「ゆらぐ界面」をめぐる実験と理論』: 竹内さんの結果と笹本さん・Spohn が出てくる

竹内さんはもちろんのこと, 文中で出てくるSpohn, 笹本さん, 田崎さんという面子がすごい.

Spohn というと修士のとき, たまたま修論が終わったタイミングで舟木先生のゲストで東大に来ていて, 岡山大の廣川先生から「せっかく日本に来ているから議論しに行ってきた. あなたもせっかくなのだから Spohn に修論を聞いてもらうといい. 来るかもしれないと紹介しておいたから.」という話になったので, Spohnに修論を聞いてもらうという凄まじい機会を得た.

Hubbardとフォノンの相互作用系で引力の発言について話をしたとき, ``Nice observation!''と言ってもらえたのを覚えている.

研究したい.

2016-07-13 記事紹介: 【誰でも分かる】「量子力学」ってなんなの?詳しい人に聞いてきた【入門編】

まだ読めていないが話題だったのでとりあえずメモ.

2016-09-08 日本生物物理学会の学会誌「生物物理」のバックナンバーページがあったので

よくわからないがとりあえずメモしておく.

2016-09-09 郷信弘『過去半世紀から未来を見る』生物物理 52(2), 066-067(2012)

何かつらい.

桂法称『量子多体系入門 --格子模型を中心に--』平成28年度 (2016, A) 京都大学 集中講義 サポートページ

『パズドラとHubbard模型 [教室談話会]』が前からずっと気になっている. あとHubbardというかフェルミオン系での相関不等式は議論ないのだろうか. 連続系でのFrohlichおじさんの論文はあるが, 学生のときに読んで全然読めなかった記憶しかない.

宣伝協力も兼ねてとりあえずはメモ.

2015-01-06 論文・教科書紹介: Zeng, Chen, Wen, Quantum Information Meets Quantum Matter -- From Quantum Entanglement to Topological Phase in Many-Body Systems

ドラフトバージョンとのことだがとりあえずメモ. 量子情報もちゃんとやってみたいと思いつつ, 全然勉強できていなくて悲しい.

2015-01-05 西森さんと大関さんの量子アニーリングの解説があるようなので

アニーリングは名前しか知らないのでとりあえず軽く眺めた. これについて詳しくはメルマガにでもまとめよう. 物理ももう少し勉強したい.

2015-01-04 aki_room さんによる 12-01 東大での田崎さん集中講義で出てきた文献の紹介ツイートまとめ

12-01 東大での田崎さんの集中講義のあと, ピカチュウパイセンが次のようなことを言って 関連文献を紹介していたので, メモとして私も残していきたい.

以下, 文献紹介ツイート.

2015-01-03 青色 LED Nobel 物理学賞関係メモ

超いまさらだがブログ記事用ストックにあったので 自分用メモとしても記録しておきたい.

物理, Nobel 物理学賞, 青色 LED

2014-12-27 ツイートメモ: 解析力学のフリーの本 (Web サイト): Structure and Interpretation of Classical Mechanics

どんな感じかわからないがメモしておこう.

2014-12-25 統計力学, 確率分布, エントロピー, 情報理論に関する佐々さん・田崎さん・菊池さんのやりとりまとめ

統計力学に関する佐々さんと田崎さんと菊池さんのやり取りをとりあえずまとめた.

あとこれ.

この辺, 全然理解していない. つらい.

2014-12-22 光の三原色は物理というより色覚とかそういうところの問題だったことをようやく知る方の市民

こう呟いたら即刻お返事を頂いた.

これはかもさん.

これはイケメンエリートのたりちぱさん.

青色 LED のニュースを見ていてそういえば, と思って適当に呟いたら すぐにコメントが返ってくるので素晴らしくも恐ろしい. かもさんに教えて頂いたリンクから抜くと次のページあたりだろうか.

あと軽くさらりと端的に書いてあるページをいくつか探してみた.

単純な物理で説明つきそうにない気がしたし, 確かにそれはそうだったが, それならそれでもう少し頑張って考えろ自分, という感じはする. つらい.

2014-12-04 佐々さんのツイートから: 京大理で行われる 12/10-12/12 までの沙川さんの集中講義と談話会の案内

東大の若き統計物理のヒーロー, 沙川貴大さんの集中講義情報.

沙川さんは大分前に Twitter にいたことがあって, そのときに少しやりとりしたことがある. そのあとで田崎さんから「沙川さんに相転移P というのは何者かと 聞かれた」とかいう話を聞いた.

あと, 2013 年の久保亮五賞のときに講演を聞きに行って, 講演後にも質問したとき「どなたですか」と聞かれたので 「相転移Pです」と言ったら通じた記憶もある.

市民でも意外と意思疎通できる感があり, 感銘を受けた遠い記憶.

2014-11-29 タイムマシンを研究している物理学者を探す親の話

とてもとても悲しいことがあったのだ.

自分はタイムマシンを作れないと答えなければならない心境, 察するに余りある.

2014-10-29 11/17, 12/1, 12/8 と田崎さんが東大本郷で相転移まわりの集中講義をするので宣伝協力

田崎さんの東大での集中講義, 私も無駄に宣伝しておこう. 私も無理矢理都合つけて参加する予定だ. 講義内容も (日本語部分だけ) 引用しておく. あまりたくさんいくと問題になるっぽいが, まあいいだろう.

大自由度系の物理と数理 田崎晴明

2014 年 11 月 17 日、12 月 1 日、8 日(すべて月曜日)13:00 ~ おわるまで(休憩は随時)

東京大学理学部 1220 教室(本郷キャンパス)

数多くの自由度の相互作用によって生じる非自明な現象の理論的・数理的な解析について講義する。主に、古典スピン系のイジング模型、量子スピン系の反強磁性ハイゼンベルク模型(とその変種)、固体電子系のハバード模型を題材にして、対称性の自発的破れ、基底状態での量子ゆらぎ、強磁性の発現などの現象を扱う。ここで挙げたのはいずれも(広い意味での)磁性のモデルだが、それ以上に、相互作用する大自由度系の本質を描き出す優れたモデルなのである。時間的余裕があれば深く関連するボソン系の問題(ボース粒子のハバード模型、ボース・アインシュタイン凝縮など)も扱う。

日本語で話し英語で板書をする予定。

記号と記法のまとめ(2014年10月27日改訂) 事前に簡単に目を通しておいてください)

ちなみに 8 年前, 現京大の佐々さん主催で駒場で類似の集中講義があったのだが, 私はそれにも参加した. 復習的なアレも兼ねて参加したい. その集中講義を元に Hubbard で修論書いたので印象深い.

2014-10-17 Feynman に続き Landau-Lifshitz がフリーで読めるという衝撃

Feynman に続き Landau-Lifshitz もフリーになっているとか凄い時代だ.

空気抵抗の考察と物理での理想化問題: 久徳先生のask.fmから

URLは次の通り.

面白かったので記録として引用. 全部引用とかいいのかな? と思わないでもないが, ask.fm消失時に悲しみに耐えるための処置とする.

もとの質問はこれ.

高校物理では、空気抵抗を無視する、など理想化して問題を解かされますが、現実に沿った設定の問題を考えるのは誰がどういうときしてるのでしょうか?

久徳先生による回答は以下の通り.

空気抵抗くらいであれば高校物理でも気の利いたカリキュラムならやるし、また大学の力学では割と扱われることの多い題材に思えます。 それはそれとして、ちょっと文量を使ってもいいかなあと思ったので徒然に。 (他の学問でもそうなんでしょうが)少なくとも現状の物理で問題を扱うときに、恐らく全ての場合で何らかの理想化は入っているはずです。 あるいは、どこでどういう理想化をするかの選択こそが物理のセンスなのだと思っています。 空気抵抗を入れるならどうやって入れるかというところも、どういう理想化をするか(モデルを入れるか)が問われる場面です。 例として出ていたのでそのまま使うと、身の回りで空気抵抗を無視できるかどうかというのは結構シビアに問題依存ですが、なぜ空気抵抗を考えたいのか/考えたくないのかというのはその話とは別の問題という場面が特に勉強の段階では起こります。 真空中での物質の運動を知ることを通して力学現象の基本的な性質を理解したいから抵抗はいらないのか、それとも抵抗や散逸という現象自体を理解したいから抵抗を入れるのか、など考えている段階によって当然考えるべきことは変わってきます。 その意味で、空気抵抗を無視するという理想化は、それ自体が物理を理解するために本質的に重要なステップでありえると思っています。 そういう勉強の話でなく、応用のために我々の身の回りでの物質の運動を知りたい場合なら、抵抗を入れること自体という前に抵抗が効くのか効かないのかの定量的な判断をすることが重要になるので、まず抵抗の大きさを見積もるなどしてみて、その上で空気抵抗を入れる必要があれば入れることになるでしょう。 具体的な実験の際や(大雑把だけど)工学など何かを設計する際には、空気抵抗の影響は当然考える必要がある場面も多々あるでしょうが、その場合はもっと色々な効果についてこれは入れる、これは入れないなどの判断をしているのだと思います。 もっとも理論計算でも入れる物理の選択という意味では概ね同じですが。

研究という意味でふだんこういう定量的な検討をまずやらないので反省した.

沙川貴大, 上田正仁『Maxwellのデーモンと情報熱力学』

もうツイートした人がアカウントを消してしまい, いわゆる正規の形でのTwitter引用はできないのでふつうの引用スタイルで.

おもろい | Maxwell のデーモンと情報熱力学 http://cat.phys.s.u-tokyo.ac.jp/publication/Suri_Kagaku_Final_Version.pdf

沙川さんと上田先生(何となく先生づけしてしまう)のPDF. この辺もやってみたいと思いつつ全く何もできていない. とりあえずメモ.

沙川さんというと久保亮五記念賞の講演会でいろいろ質問して, 講演後も気になったことがあったので追加質問したときに, 「お名前伺ってもいいですか?」「いわゆる相転移Pです」「ああ」みたいなやりとりをしたことを思い出す.

沙川さんは以前Twitterをやっていて, ちょっとだけやりとりしたことがあったのだ.

最近全く研究できていなくてよくない. 研究したい. 頑張ろう.

谷村省吾『量子論における超選択則の力学的起源とカラーの閉じ込め』

谷村省吾さんの『量子論における超選択則の力学的起源とカラーの閉じ込め』という文章だった. 測定関係も面白そうと思っているものの, 全く何も勉強できていない.

小嶋先生のmicro-macro dualityもちゃんと勉強したいと思いつつ, まるで何もできていない. 悲しい.

『江沢先生の先生に遭遇』: 記事紹介

俺達の江沢先生. 私には新井先生との共著, 『量子力学の数学的構造』と『場の量子論と統計力学』が印象深い.

特に前者は学部 3-4 年のときに一所懸命読んだ. 後者はいまだに読めない・読み切れない.

算数が『初等魔法学』なら物理は何だろう?

見せ方が大事なことを学んだ. これは教訓としたい.

2016ノーベル物理学賞「トポロジカル相転移」の公式解説: 専門家から見てもかなり面白いらしいので

自分の専門もかなり近いところだし, 何とか時間を作って読みたい.

谷村省吾さんのスライド「きちんと理解するのは意外に難しい潮汐力」

確かに面白いのだが, これ, 序盤で次のように出てくる.

地球物理・惑星物理の専門家にとっては完全に解決されている問題なのだが、門外漢たちが何度も誤解を蒸し返しているのである。

この話が中心になるのかと思っていたら, 物理の人間からの考察がメインで, 「いや, 完全に解決された視点で話した方が速くて正確なのでは」という気持ちになった.

こういうコンテンツももっと出した方がいいのだろうな, という気はしている.

「物理学を買えた二人の男」

科学史系のコンテンツを充実させたいと思っているのでとりあえずメモ.

Keith Moffatt, Rattleback Reversals

解析的に解くというジャーゴンがふと気になった. 何はともあれ記録.

熱エンジンの効率を最大限に上げると出力がほぼゼロになることを証明, Shiraishi, Saito, Tasaki, Universal trade-off relation between power and efficiency for heat engines

いろいろとアレだが文章引用.

古くから推測されていた熱エンジンと効率向上と出力の大きさとの間にはトレードオフの関係があることが慶應義塾大学理工学部の齊藤圭司准教授と、東京大学大学院総合文化研究科白石直人氏、学習院大学理学部の田崎晴明教授らの研究グループによって証明された。

火力発電所の発電機のように、高温の物体から熱を受け取り、それを電気のような「使えるエネルギー」に変える装置を一般的に「熱エンジン」と呼ぶ。高温の物体から受け取った熱エネルギーのうち、どれだけ利用できたかの比率を「効率」という。この効率には、原理的に超えられない「カルノー効率」という上限があることが分かっている。一方、発電機では、効率だけでなく「何Wの電力が発電できるか」という「仕事率」が問題になる。

カルノー効率が達成されると、効率は上がるが、トレードオフの関係で、同時に仕事率がゼロになることが漠然と予想されていた。しかし、従来の熱力学には動作時間という概念が組み込まれていないため、仕事率を解析できず決定的な答えを得られていなかった。

確かによく言われる準静的過程で説明される話を真に受けて, そしてそれしか最大効率達成法がないのだとすれば気分的には十二分にありうる話だ. 量子論的にはどうなのだろうとかいろいろ気になることはある. 楽しそう

論文(プレプリント)これっぽい. 読んでみよう.

やっぱりちゃんとプレスリリースあった.

2016年のノーベル物理学賞のどこがすごいのか? - 田崎晴明|WEBRONZA - 朝日新聞社: 記事紹介

ログインなしでは途中までしか読めなかった.

もう試してすらいないが, 報道各社のログイン, やたらたくさん情報を入力させるので本当に登録が面倒で, それなら記事なんて読めなくて構わないと思わせるのに十分だった.

こういうので情報取るのはいいとして, その情報を有効活用しているのだろうか?

新聞社とかIT死ぬほど弱いイメージしかないが実際のところはどうなのだろう?

物理の話を書こうと思ったのに一瞬で心が折られたことを記録する.

Kazumasa A. Takeuchi $1/f^{\alpha}$ power spectrum in the Kardar-Parisi-Zhang universality class

KPZ, 名前しか知らないといって前にも調べた気がして, そしてまたすっかり忘れている. とりあえず Wikipedia をぺたり.

最近全然研究していない. 悲しい.

あと何かここで論文が読めるらしい.

いつまで読めるのだろう.

元素の存在に関する原理的な限界と物質の安定性

Wikipediaからちょっと引用しておこう.

ウンセプトトリウム(unsepttrium)は、原子番号173にあたる未発見の超重元素に付けられた一時的な仮名(元素の系統名)。理論上存在しうる最後の元素とされている(174番元素以降になると、1s軌道の電子の束縛エネルギーが電子-陽電子の対生成に必要なエネルギーを超えるため。)。

理論上、原子核を点として扱うディラック方程式では陽子数137を超えると虚数解となって式が成り立たなくなる。

これstability of matter事案なのだろうとは思う. Stability of matter, 学部の頃からずっと興味あっていまだにきちんとやりきれていない. 無料講座開講にかこつけてきちんと勉強し直すという最強のライフハックも検討している.

講義中の証明通りにやらないと零点にさせられたことで湯川秀樹は数学への道を断たれたという凄惨な話

あまりにもむごいとしか言い様がない. 後に湯川秀樹がノーベル賞を取ったとかいうのは何ら関係がない.

教わった通りにしなければ駄目という人達, こんな惨い仕打ちをしようというのか.

ただただ許せない.

madnodaさんの次のツイート群を目にした.

私も『旅人』を読んでみなければならないようだ.

コメント

量子力学のハイゼンベルグも数学者に幻滅して、物理に転向したようなことを「部分と全体」に書いてます。πの超越性の証明のリンデマンに会いに行った時のエピソードと関連して語られています。

空が青く見える理由: 物理学と生理学と

太陽光のスペクトルデータも視覚の感度分布もよく知らない(調べていない)ので真偽がよくわからないのだが, とりあえず記録しておきたい.

このデータで遊びたい: 高エネルギー物理の就職事情

いじりたくなるデータというのがなくて統計学の勉強で困っていたがこれは面白そう. とりあえずメモしておく.

渡辺澄夫『物理学者でない人にとっての平衡統計力学とは』

後で読もう. とても気になる.

書籍紹介: 山本義隆 『幾何光学の正準理論』

本文

何これほしい.

ラベル

幾何光学, 光学, 解析力学, 物理

本の紹介: 高田健次郎・池田清美『原子核構造論』

本文

原子核は通常の統計力学の無限粒子数の近似は使えず, もろに有限多体系で独特の魔界を形成していると聞いている. 前から興味自体はあったものの結局何も勉強したことない.

ラベル

物理, 量子力学, 原子核, 統計力学, 場の量子論

動画紹介: 東京大学素粒子論研究室の学生さんが作った、論文のプロモーション・ビデオがおもしろい

本文

この間せっかく Premiere Elements 買ったし, 私も今度こういうの作ろう.

ラベル

数学, 相転移プロダクション

arXivにある量子情報理論の本情報: Wilde, 2018, From Classical to Quantum Shannon Theory

Paul筋の情報: Erdosの論文集ページ

本文

Paul からの有益な情報だった.

ラベル

本文

とりあえずメモ.

ラベル

物理, 量子情報

クーラン・ヒルベルト, やはりちょっと読んでみたい

本文

立川さんコメントだった.

こないだの学部二年生物理数学 II のテストの大問 1 の 4 が解けなかったので, 答えが知りたいという声をいくつか聞きました. というわけで略解をつくりました: http://www-hep.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~yujitach/tmp/ans.pdf 解けた人はごく少数でした. 何でも持ち込み可インターネット可なのに, 解けないのは何故.

この記述が気になる. 読んでみたい.

一般にどうやって示すかを知りたい人は例えばクーラン・ヒルベルトの原書一巻, 日本語版二巻の 6 章 4 節を参照して下さい.

ラベル

数学, 物理, 微分方程式

「学会のプログラムの発表タイトルを眺めるだけでも, 最先端で院生や研究者がどのような研究をしているかの感じがつかめます.」

本文

言われてみればそうか, という感がある.

物理に興味ある高校生, 物理学科の大学生の方は, 物理学会のプログラムの発表タイトルを眺めるだけも, 最先端で院生や研究者がどのような研究をしているかの感じがつかめます. http://w4.gakkai-web.net/jps_search/2014sp/index.html

私も参考にしよう.

ラベル

数学, 物理

X 線レーザー研究施設擬人化: 播磨 SACLA

本文

立川さんがまた謎な事案を発掘していたので.

理研の X 線レーザー研究施設が公式萌え (?) アニメを作っていたようです. 不思議な世界です. http://xfel.riken.jp/pr/sacla/?cat=3

俺達の SACLA さんだ. それはそれとして, 立川さんはどこからこういう情報を仕入れてくるのだろう.

ラベル

物理, 理研

Steven Hawking, Information Preservation and Weather Forecasting for Black Holes

本文

Hawking が「ブラックホールは存在しない」といいはじめたとか何とか.

ホーキングが「ブラックホールは存在しない」と言い始めたそうです. あるいはブラックホールに事象の地平も特異点もない, と. Nature News | Stephen Hawking: 'There are no black holes' http://bit.ly/KUuVKP

気になる人は arXiv にある論文を読んでみよう. アブストを引用しておく.

It has been suggested that the resolution of the information paradox for evaporating black holes is that the holes are surrounded by firewalls, bolts of outgoing radiation that would destroy any infalling observer. Such firewalls would break the CPT invariance of quantum gravity and seem to be ruled out on other grounds. A different resolution of the paradox is proposed, namely that gravitational collapse produces apparent horizons but no event horizons behind which information is lost. This proposal is supported by ADS-CFT and is the only resolution of the paradox compatible with CPT. The collapse to form a black hole will in general be chaotic and the dual CFT on the boundary of ADS will be turbulent. Thus, like weather forecasting on Earth, information will effectively be lost, although there would be no loss of unitarity.

Skype ミーティングから起こした文章のようで, 式はない. 式がないから簡単とか気が狂ったようなことをいうつもりはないが, 4P しかないし, 興味がある向きは読んでみるといいだろう. 私もそのうち読んでみたい.

ラベル

物理, 一般相対性理論, 量子力学

山本義隆『世界の見方の転換』が 3/20 に出るらしい

本文

山本義隆がまた本を出すらしい.

山本義隆『世界の見方の転換』. 3 巻で計 1400 頁超. みすず書房から 3 月 20 日刊行予定. http://www.msz.co.jp/book/new/

ほしい. あと積読状態の熱力学の本も片付けたいし, 他の本も読みたい. やりたいこと山程あるし, 人生, 本当に退屈しない. 皆もっと数学するといい.

ラベル

物理

Kalien-Lehmann の Kalien は「シェリエン」と読むらしい

本文

立川さんのツイートから衝撃の事実を知った.

場の量子論の教科書を勉強すると, KaLlen – Lehmann 表示というのが出てきて, 発音が良く分からなかったのだけれど, 今でている研究会に Kallen さんのお孫さんが来ていて, 直接聞くと シェリエン と読むそうです. というわけで最近勉強を始めた皆さんも宜しく.

@yujitach 当家の人が言うのだから間違いないですね. 私は長らくチェレンとばかり発音してきた.

えええっ!!@yujitach 場の量子論の教科書を勉強すると, KaLlen – Lehmann 表示というのが出てきて, 発音が良く分からなかったのだけれど, 今でている研究会に Kalien さんのお孫さんが来ていて, 直接聞くと シェリエン と読むそうです.

@yujitach 古いけど, Kalien の QED は一本スジの通った名著でした.

@kz_itakura スウェーデン語では http://el.minoh.osaka-u.ac.jp/flc/swe/lands/03.html によると, K は a 等 front vowel が続くと発音記号では ɕ http://en.wikipedia.org/wiki/Voiceless_alveolo-palatal_sibilant になるようです. 僕の耳にはシェに聞こえます. e はィエになると言ってました.

私もずっと「チェレン」だと思っていた.

ラベル

物理, 場の量子論

いろぶつ先生が書いた本の「よく分からない」バージョンを作ることを今年の目標にしよう

本文

こんなことを呟いたら垣谷御大が反応したので.

いろぶつ先生が書いた本の「よく分からない」バージョンを作ることを今年の目標にしよう

これに対してこうきた.

書いてなくてもいいんじゃないか. 僕ならまずは「よくわからない群論」から始めたいが.

きちんとやったことないので「よく分からない点群」とかやりたい.

ラベル

相転移プロダクション

2 次元連続スピン系の連続相転移に関する解説など

本文

「2 次元連続スピン系の連続相転移」に関するプレゼンテーションファイルなどが公開されていたのでとりあえずメモ. これこれ.

https://twitter.com/tnksh/status/417610817039650816 【Shu Tanaka's Blog: 2 次元フラストレート連続スピン系における連続相転移に関する解説を作成しました http://shutanaka.blogspot.com/2013/12/blog-post_30.html?spref=tw

https://twitter.com/tnksh/status/417595165101293568 【以前論文を書いた「 2 次元連続スピン系の連続相転移」に関するプレゼンテーションファイルを slideshare に掲載しました. http://www.slideshare.net/shu-t/prb-87214401slideshare

あとで読もう.

ラベル

物理, 相転移

東大, 原子 1 個に記録された磁気情報を長期間保持するためのメカニズムを解明. 原子磁石の情報保持時間を従来比 10 億倍に向上

本文

いまは原子 1 個をいじるのもさほど難しくなくなったらしい.

原子一個を普通に扱う時代なんだねえ… https://twitter.com/sjn_news/status/401719791079002112

東大, 原子 1 個に記録された磁気情報を長期間保持するためのメカニズムを解明. 原子磁石の情報保持時間を従来比 10 億倍に向上 (発表資料) http://bit.ly/1bCzyCC http://pic.twitter.com/uHrwD3goEU

この辺, 多体系ではないはずだし数学的にも色々突っ込んで調べられる範囲ではなかろうか. 岡山大の廣川先生とかこういうの好きそう. 自分でもいじってみたい.

量子力学, 何だかんだで物性物理的にきちんとした数学的結果はほとんどないような印象がある. 数学的にはそれだけ結構な難易度があると言ってもいい. 数学の人もこの辺, 何かもっとやってくれないだろうかと思っている.

ラベル

物理, 数理物理, 量子力学, 磁性

メトロノームの同期動画が見ていて楽しかったので共有する

本文

立川さんが次のような動画を紹介していた.

なかなか素敵な物理実験です. ずれているメトロノーム 32 個が同期します. http://www.youtube.com/watch?v=JWToUATLGzs

単純に見ていて楽しい. 実験系構成能力, 鍛えたい.

ラベル

物理, 物理教育, 実験

市民論文メモ: 大栗・中村論文 Holographic Refrigerator

ツイート

佐々さんのツイートで大栗さんの非平衡論文への言及があった.

引用

中村さんと大栗さんのほろぐらふぃっく非平衡論文 (ほろぐらふぃーで解析できる) 特別な模型の性質ではなくて, 一般的な性質として議論する枠組みを作るのが僕たちの課題. 先週, 集中討議したが, 時間があいてしまって休憩中.

コメント

先日大栗さんの超弦理論の本の感想を書いたが, ブレーンの熱力学・統計力学みたいな話があったので少し気になっていた. 軽く眺めたがもちろんさっぱり分からない.

とりあえず超弦からの宇宙の非平衡状態に関するリファレンスの 1 つとして覚えておきたい.

ラベル

物理, 熱力学, 統計力学, 非平衡, 超弦理論