解析力学で $q$ と $\dot{q}$ は独立か?

我らが久徳先生とやりとりした記録を残しておく.

やりとり

補足

次のように書いた.

物理としても数学としても綺麗なのはとにかくいろいろな曲線(ある $f$ に対する $q_1=f(t)$ と $q_2=f(2t)$ は軌道が同じでも速度違うとかそんな感じでqと\dot{q}を分離する)とそれに対する変分原理で見ることだと思うのですが、どうなのかと思っています。

これに関していくつか補足しておく.

標準的な数学的処理

まず数学的にどう処理するかというと, ラグランジュ形式の力学では接束, ハミルトン形式の力学では余接束上で考える. 配位空間としての多様体に住んでいるのが $q$, 接空間に住んでいるのが $\dot{q}$ で, 全然違う空間に住んでいるので数学的には完全に独立だ.

最終的に粒子の軌道を考えるとき, 数学的な意味で曲線を決め, この各点での接ベクトルとして速度が決まることにすれば, いわゆる力学での速度としての $\dot{q}$ として実際の速度が与えられる構造になっている.

変分原理での見方

大したことではないものの, 文章で書くと割と面倒で, 式もいくつか必要だ. このサイトの仕組みと MathJax によるレンダリングの重さ問題もあり, あまり式を書きたくないので雑に書く.

まずツイートで書いたのは曲線の像としての軌道は同じでもその関数・導関数は同じとは限らないとしか言っていない. 変分原理はふつう両端点での時刻を固定する. 上の例は単純に移動速度を二倍にしているから, 開始時刻が同じだとすると終点につく時間がずれてしまう. 実際には変分原理はここまで含めてきちんと定式化できているのでそれをコメントしておく.

変分原理では端点の時刻と端点での空間位置・速度の境界条件を固定する. 変分原理での変数は適当な滑らかさの曲線で, 曲線には凄まじいバリエーションがあるのでこの拘束下でもきちんと議論できる. 例えばある曲線 $c$ に対して, 位置・速度ともに境界を固定しても, 像の中を猛スピードで行ったり来たりする「曲線」を選べば最初と最後の辻褄は合わせられる. 逆に言えばこれが変分原理が保証している自由度だ.

こう思うと何がいいかと言えば, 多様体というよけいな概念が少なくとも見かけ上は消える. これまた逆に言えばこれを数学的にきちんと考えたのが多様体論であり, 接束または余接束とも言える. 実際, 現代幾何の基礎である多様体論の母体の一つは解析力学とそこでの微分方程式論と言われているので, 適当に言っているわけではない.